折々に思う事

旅する心

このページには、私が自分の日常生活の中で気づいた事を綴ってみました。いわば自己開示ですので、読んで頂けたらうれしいです。

6月8日、五月の葉っぱ

毎年五月になると思い出します。小学校一年生の四月末から五月にかけて、私は麻疹で二週間学校を休んでいました。病院で頂いた水薬を飲んでいましたが、毎日午後になると熱が上がってなかなか良くならず、この苦くて甘い苺の香りのするピンク色の薬が早く終わらないかなあなどと思っていたのです。学校を休む直前の国語の時間に、五月の葉っぱという詩を習いました。我が家の窓の外にあるヤツデは、大きな濃い緑色の葉に交じって早緑の小さな葉が何枚か見えました。まるで親と子の手の様でした。それで、この習ったばかりの詩の事を思い、早く学校に行きたいと思っていました。その内少し具合が良くなってきたある日の夕暮れ時の事です。うとうとしていた私の様子を見に来た母に私が、こんなに医学が進歩しているのにどうして麻疹になるのだろう。軽く済むようにはならないのかな、と言いました。母は少し驚いたようでしたが、そうね、と言って部屋を出て台所の方へ行きました。父の文机を見上げると、電気スタンドの、少し暗い方の明かりがついていました。出て行く時母が点けて行ったのです。私が眠るのに明るすぎないようにと思ってそちらを点けたのでしょう。暗くなって来た頃に、暗い灯りと言うのは、自分が病んでいて、人がいつものように忙しくきびきびと、あるいは子供が楽しそうに過ごしていて夕食を待つ時間なのに自分だけが寝ているのだという事実を突きつけられたような、そのような状態の今の自分のありのままの姿を克明に鏡に映し出したかのような、マイナスの感情が唐突に膨らんで来たのです。このスタンドの暗い方の明かりは、夕焼け色のねんねこ半纏を着た子守の女の子が赤ちゃんをおんぶしている、こけしのような人形の横にありました。少し前まで空には赤蜻蛉が飛んでいたのかも知れない、私はそう思ったのです。この子守の女の子も早く家の中に入れると良い。もしかしたら親元を離れて働いていて寂しいのだろうか、などと思いながらいつの間にか眠ってしまいました。お粥が出来たからと、祖母に起こされて明るい居間に行った後の、いつもと同じように家族と過ごした自分、この薄暗い部屋の中でいつもとは違う事をあれこれ感じていた自分、どちらも同じでありながらどこか違う次元に居たような不思議な、奇妙なひと時でした。同じ家の中の部屋を移動しただけとはとても思えないようなあの時の感覚を、毎年五月になるとあの時に戻ったかのようにして、もう一度ゆっくり思い出しながら再度体験する、という事を、もう何度もして来たのだと、少し驚いています。あれは自分を知る一つの手がかりになりそうだからなのでしょう。

6月4日、メディアと

日本だけでなく、他の国々でも、インターネットを利用する事が当たり前になっているようですね。感染症の流行や戦争の影響で、人の流入や物の値上がりなどそれ以前とかなり変わったのではないでしょうか。このような状況の中で、どこの国や地域でも選挙が行われています。選挙の情報に、インターネットを利用している若い人が多くなって来たという報道がなされています。インターネットは手軽で便利ですが、発信元やその意図がよく分からないものも多いと感じます。事実ではない事を、ある目的の為に、つまり特定の政党や候補者を有利にする為に発信している場合、その情報を知った人が誘導されることによって、選挙後の国政が変わる事にもなると思います。恐ろしい事だと思いました。外国でも、テレビやラジオ、新聞などのオールドメディアは信用できないという若い人達がいるのに驚き、それは多分日本も同じなのではないかと思いました。勿論、所謂オールドメディアと言われるものに何の問題もないという事ではありませんけれど。選挙については不確かな事を報じる事が特定の候補者にとって著しく不利益になるので、テレビやラジオ、新聞はその事を十分考えての報道をしているのだろうと思います。それは、現状を早く変えたいと思っている人にとってははっきりしない、という不満を燻ぶらせ、懐疑的になる元となっているのかも知れません。ですが、急いで何か大きな組織を変えると、無理が生じがちです。皆の為、と言う言葉がよく使われますが、皆と言うのは、子細に見て行くと実は一人ひとりかなり違う要望を持っているのも事実です。手っ取り早く出来る事は、壊れるのも早いように私には思えるのです。日々、一つひとつよく見て考えておく事が、回り道のように見えて、実は一番早いのではないでしょうか。

5月31日、エゾカンゾウと共に

春に咲くというエゾカンゾウはニッコウキスゲと非常によく似たユリの仲間で、黄色い花だそうです。三浦綾子さんの小説、天北原野の主人公の女性は実在の人物ではありませんが、ふとその女性が今年もこのエゾカンゾウの花の沢山咲いている様子を眺めているような気がして来ました。母が亡くなり、人間はどこから来て何処へ行くのだろうか、という事が気になり、ある日入った書店で出会った本の内の一冊が、天北原野でした。心理描写の複雑な、氷点と続氷点の計四冊も、その時一気に読みました。それらの本に、人間はどこから来て何処に行くのかという答えが書いてあったわけではなかったのに読み続けた理由は、今でもよく分かりません。けれど私は生まれる前に居た所に安らいだ気持ちで帰って行くのではないだろうかと思いました。そして、それからも勉強を続け、日々を忙しく過ごしてきました。それは、その後も他の家族の入院など続いたからでもあります。はっきりいつとは言えませんが、更年期の頃、多分私は大きな交差点で立ち止まり、振り返ったのだろうと思います。人間は人生の折り返し地点を過ぎると、親の介護や子供が就職や結婚などで家を出て行く、など家庭の中の変化に直面します。その変化して行く現実を納得して受け止めるのはなかなか難しい事なのだと思います。気持ちがついて行けないのでしょうね。気が付けばあっという間だった子供の頃から今まで、と思いますと、いつか自分の内側に入ってその心の記憶の始まりに近い頃から、他者との関わりや人との出会いと別れ、そして自分という人間の性格がどのようにして培われて来たのかを反芻し、深く知りたい、私はそのように思うようになって来ました。いずれ旅立って行く自分の、身支度にも似た、し残したこと、例えば人との関わり方などを考え、目には見えないものを残したいなどと思っての言動になって来たような気がします。心残りを少なくしたいという事なのだと思っています。命にかかわる病気が疑われた事もありましたので、猶更で、それは無意識の内になされて行ったのだろうと思います。近年、終活などと言われていますけれど、心のありようが私には最も気になり、大切にしたい事のようです。生かされて来た事、それにかかわってくれた人達への感謝を感じる事が増えて来たと思いますが、そうは思えない事も多い自分という人間であることもまた現実なのです。ありのままの混とんとした自分を、まずは受け入れたいものだと思います。今日は天北原野の主人公であるお貴乃さんと一緒に、少し早いかも知れませんが、エゾカンゾウの花や日本海をゆっくり眺めているような気持ちで過ごしたいと思います。

5月27日、終わり初物

終わり初物とは、収穫の最盛期を過ぎ、終わりになろうとする頃に取れた野菜や果物の事を言い、その野菜や果物が珍しい時期になっているのでそのように言いますね。出盛り期の前の初物を食べると七十五日寿命が延びる、などと言われる事に似ています。病気の母親の好物を、まだ多く出回る前に店頭で見つけた人は、少々高くても買い求めるかも知れません。雪中の筍に出会ったような気持ちになるのでしょうか。今はそのようなたとえはあまり使われなくなったように思います。今日、油揚げを煮ていた時にこの、終わり初物という言葉が突然頭に浮かびました。実りを頂いて来た事への感謝と、もうすぐ来るその食材との別れを惜しむ気持ちが、人生を振り返り、反芻する事と同じ、ぴったり重なったと思ったからでしょう。無意識は意識と循環しているようです。混とんとしているように思っている心へそっと手を入れたら、美しい深海魚に触れたような気がする、こんな事があるのですね。過ぎて来た歳月を慈しみ、それよりずっと短いであろう行く先を、出来るだけ丁寧に大切にして行くよう心掛けたいと思いました。真っ白い布に一針ひと針刺繡をして行くように。綺麗な花、美しい緑、そして自分の無意識とこのようにしみじみと向き合う事は、前のめりに歩いていたような、日々忙しく過ごしていた若い頃にはありませんでした。年齢を重ねて行くとは、今日今が一番若いという事、未知との遭遇の中でどう考えどう行動して行くか、難しい選択でもあります。今の私よりずっと若くして旅立って逝った友人も何人かいる事を思いますと、一緒にこのような気持ちを味わって欲しかったという思いが胸にこみ上げて来ます。

5月23日、値上がりの構造

米不足という事とは違うのでしょうか。備蓄米が小売店にごく少量しか入荷しないままだとずっと報道されて来ました。ですから価格は下がらず、上がっていました。どこかに悪意があってこのような状態が続いているという事ではないのかも知れません。けれど、何かブラックボックスが存在しているのではないかと疑ってしまいます。以前米不足になった時にそのような事があったからです。コロナ禍でのマスク不足は本当に不足していた分だけではない、闇マスクという物もおそらくあったのだろうと思っています。人の命にかかわるものであっても儲けの対象にする人がいるとすれば残念ながらそれをも含めたものが人間という存在なのでしょうか。米の価格がいつの間にか以前の二倍になったからと言って、農家が豊かになり楽になったというわけでもないと思うのです。戦争の影響で燃料費など皆値上がりしていますし、たとえ自然災害で大きな被害があっても、せいぜい低利の融資が受けられる、という程度なのですから、後継者不足も無理からぬことだと思います。第一次産業にとって、気候変動の影響は計り知れないものがあると思います。海外からの観光客が増えるのは悪い事ではありませんが、それで自給率が四割を切っているのでは、基礎のない脆弱な家を飾り立てているに過ぎないと思うのです。でも、私も米の生産者ではないのですから、こういう事を言う資格があるかどうか分かりません。格差とはいったい何なのか、考えなければならないと思います。乗り物を運転する時には舵を切る前に前後左右を確認する事と、同じその乗り物に乗っている、運転している自分の近くに座っていない人、つまり自分とは考えや事情の違う人の事も良く見なければならないと思います。国内だけ良ければうまく行くのではないので、猶更です。そのように考えると、国の舵取りというのは非常に厳しい、難しいものですね。それをどこの国でも国民はじっと見ています。

5月19日、緑に浸って

今年の桜は長く美しい姿を見せてくれました。花冷えのお陰という事なのかも知れません。八重桜も終わり、季節はもうすぐ初夏から梅雨に移行して行きます。ライラックや卯の花の濃厚な香り、宵の口の蛙の合唱もこの季節ならではです。ある朝固定電話が鳴りました。相手の番号を見ると8から始まる見覚えのない番号でしたので、多分海外からだと思いました。けれども後で調べて驚きました。そのような国番号はなく、衛星電話だったことが分かったのです。おそらく詐欺なのだろうと思います。また、時々セールスの人がやって来ます。それは昔からあった事なのですが、想像もつかない犯罪が起きているというニュースを聞く日々で、知らない人を簡単に信じることは出来ませんからセールスについては初めから疑ってしまいます。都合の良い話が向こうからやって来る事はないのが世の中なのでしょう。せっかく清々しい朝の庭を見ていたのに水を差されたような気持ちになりました。気を取り直して緑の中に浸っていられる季節を感じながら今日を大切にしたいと思っています。

5月15日、光は前を行く

二月は寒さの底だと感じる日が続きます。その頃には普段こげ茶色のように見える桜の幹が、薄いグレーがかって、光沢があるように見えます。そろそろ新芽が目に付くようになってくるのだろうと毎年思います。桜が咲くのはまだ先の事だというこの時期に、まず光が、春が近づいて来た事を教えてくれます。このような時、光は季節の変化のさきがけのような存在だと感じます。初夏には梅雨、梅雨時には夏、立秋の頃には秋、紅葉の頃には冬がもう顔を覗かせているように時折感じるようになるのは、まず光からなのです。私は光の後を追うように、時折振り返って私をいざなってくれる光の背中を見ながら季節の微妙な変化の中を歩いて来たような気がします。光は不思議な、柔軟であり、また強い力を持っている欠くべからず存在だと思いながら今年も初夏の中に居るのです。

5月11日、気付かない支え合い

想像も出来なかったような事件が次々起きていますね。子供達はこのような世の中を正に体感しながら育って行きます。その影響は大きいものだと思います。私は学生時代、朝五時過ぎに家を出て駅まで歩き、上りの一番電車に乗って通学していました。その当時は土曜日も休みではなく、季節も天候も関係なく三時間以上かけての通学でしたけれど、自分の親くらいの年齢だと思われる駅員さんが、この時間に改札口に立っていらっしゃる日には必ず、おはようございます。お勤めご苦労様です、そう言って下さいました。その言葉にそっと背中を押されるようにして改札口を通っていたあの頃の朝を、時々思い出します。どこかで誰かが見守ってくれているという温かいものを感じる事は人の慰めや励ましになります。そのような方に出会えた事を今も感謝しています。気付かないだけで、本当は多くの人の目に見えない善意に支えられて人間は生きているのではないでしょうか。とげとげしくカサカサしているように思う今の世の中ですが、決してそれだけではない事も事実だと思うのです。嫌な事件が報道されたからこそ、人間の温かい所や優しい所がある事に焦点を当てて見て行きたいと思いました。自他に温かく優しい眼差しで暮らして行きたいですね。

5月6日、チューリップの花びらと出会う

花瓶の水を取り替える時に、遅咲きの黄色に赤い斑の入ったチューリップの花びらが一枚、はらっと散りました。突然の事でした。風のやや強い朝の流しの隅にあった石鹸箱のそばに、ひっそりと落ち着いた花びらは、静かな眠りについたように見えました。このままここに置いておくと風に飛ばされるかも知れないと思いましたが、ただ自然にあるがままに予め決められていた場所におさまったようなその姿に、私はそのままにしておく事にしました。翌朝になってもその一枚の花びらは殆ど同じ場所にありました。とても綺麗で存在感のある花で、まだ咲いたばかりでした。折角プランターの中で咲いていたのですからそのままにしておいたほうが良かったのかも知れないとも思いました。花とのコミュニケーションが出来た、と思えて、命の重さ尊さを体感したようです。チューリップの花の命も人間の命も決して軽くはない、大切な存在であるという事を、この花びらが私に伝えてくれたのだと思いました。無言でありながら語りかけてくれた不思議な出会いに感謝しています。

5月3日、有限の時の中に居て

小雨の降る日は趣があります。濃いピンクの牡丹が散り、ライラックピンクの芍薬が咲いています。鉢植えのライラックも長く咲いていてくれる事と思います。朝は蕾だったのに午後には咲き始めて驚く事のあるライラックの生きて行こうとする力は、初夏に如何にも相応しいと感じます。大雨や強風では花が早く終わってしまいますが、小雨なら花粉や黄砂などの汚れが洗い流され、緑が伸び伸びと呼吸しているように見え、私もほっとします。夜には蛙の合唱が聞こえて来るようになりました。季節が日々進んで行く事を感じます。一日毎に梅雨に、そして夏に近づいているのですね。このようにして毎年季節はめぐり、微妙な季節の変化につい鈍くなっている自分に気付きます。誰にも平等である有限の時間がまるでいつまでも続くような錯覚に囚われやすい季節です。

4月29日、透明で輝いている

鉢植えのライラックが、今年は沢山花を咲かせ始めました。大きな鉢ですが、寒中には肥料を与え、一年おき位に下の方の根をかなり切り落とし、土も変えて、私にしては手をかけているものですから、これほど多くの花を咲かせてくれてとても嬉しく、夕方室内に入る時には、振り返っては眺めています。今日この瞬間のこの花と私とはその瞬間だけのほんの束の間の出会いであり、明日はもう、この日暮れ時と寸分違わぬ私でも、ライラックでもないのです。花が咲き始め、日が経てば春の香りを保ったまま終わって行く、この房のように咲く紫のライラックが人間であるかのよう、私にはとても不思議な存在に感じられ、毎年魅了されます。牡丹は花びらが重なって咲いている花ですから白い牡丹は白く見えます。落ち着いた色に見えますが、幾日かをかけて散った花びらの一枚いちまいは透き通るように輝いている白に見えます。他の色の牡丹には感じない事です。春から初夏にかけては色とりどりの花が次々と咲き、緑も美しくなって行きます。つい、一つひとつの花をよく見て楽しむ事をせず何となく眺めている、五感で感じる事をしないで感じるというより考えて納得しているようです。身構えるとか、もう知っている事だからと、上の空で見ている事があるような気がします。折角美しい姿を見せてくれているのですから、自然体で庭の花や木と触れ合いたいですね。どのような花とも出会いがあり、別れがある事を改めて思います。そして、先日テレビの画面に映し出されたローマ教皇のご葬儀の執り行われたバチカンの空は青く、幾つかの白い雲が浮かんでいました。別れを惜しんでか、あるいは帰って行くところから懐かしい存在が迎えに来ているのか、まるで息遣いが聞こえて来るような、輪郭のはっきりとした、油絵のような空と雲でした。その頃、日の暮れ方の我が家の辺りの空には、西の方角にすみれ色の雲が、下の方向に幾重にも連なっており、昔の田舎を思わせるようで、幻想的に見えました。昼のイタリアと夕暮れ時の日本、何か通じるものを感じる、どちらも余韻の残る空でした。

4月25日、力即ち

力即ち善という言葉の意味を、江戸時代の女性がある男性に説く話を以前本で読んだ事があります。度々思い出し、その都度またお話ししたくなります。彼女は、納得が行かないのに時の権力者に見いだされたからと言ってその人の傍に行って仕えるのは気が進まないという人に言いました。どんなに良い事をしようと思っても自分にその力がなければ出来ない。けれど権力者に見いだされたのならば多くの人の為になる事をするようにその人に進言してそれを実現させる事が出来るのです。それは自分に都合の良いような政策の実現の為に権力者を操るのではないようにしなければならない事を忘れずに、という事も勿論含まれています。これが力即ち善の真の理であると思います、と。言われた人は自分の視野の狭さ、考えの浅さに気付き、その後はこの言葉を忘れず権力者に仕えた、その本にはそう書かれていました。今のような時代に身を置いているからなのか、沸いてくる湯の中から泡が上がってくるようによく思い出す言葉です。また、別の本で、やはり江戸時代のある寺のご住職が赤ん坊を預かります。貧しいので村を離れて働く為であるけれど一年後には必ず迎えに来るからと言った夫婦からその子を預かり一人で面倒を見ていたのですが、この夫婦は戻って来ず、裕福で子供のいない人柄の良いある夫婦に請われてその子を育ててもらう事にしました。その子はすくすく成長し結婚する事になった頃、この子を預けて行った夫婦が子供を返して欲しいと尋ねて来ました。ご住職からこの歳月の間にあった事を聞いても約束だからと譲りません。あの子を預けて行ってから約束通り戻らなかったのは思うような暮らしが出来なかったからだろうけれど音信不通だった。あの時、自分からこの子との縁を切ったのだ。今になって返してくれと言われてはもうすぐ幸せな結婚をしようとしている子供の為にならないとご住職は言いました。陰ながら子の幸せを見守りその幸せが続くよう祈ってやりなさい。いつかきっと会える日も来るだろうから、というその言葉に、愛する事の意味を教え伝えたのだと私は思いました。愛という言葉を簡単に口にする人もいるかも知れませんが、私はとても深く、愛するという事は難しい事でもあると思います。揺らがず持続する事は口で言うほど簡単ではないからです。自分の一番大切な物より他者を愛するという事は見返りを求めず、突き詰めれば命と引き換えにしても良いという事、覚悟が必要です。謂わば無償の愛なのですから。自分の子供に対してもそれが出来るかと問われればすぐには答えかねるのではないでしょうか。折しも、ローマ教皇の訃報が伝えられ、きっと生きとし生けるものを愛しながら旅立って逝かれたのだろうと思いました。戦争の続く世界に思いを残して。どのような宗教であっても、その頂点に立つ人は皆、人間が穏やかな心を持ち、無事に幸せに生きて行く事を願っているのだろうと思うのです。大きなご葬儀では、弔問外交という言葉を聞く事が多いように思います。その場で顔を合わせた人達が平和への原点に立ち返り助け合う事のきっかけになればまだ良いのでしょうが、利害や思惑が交錯する腹の探り合いに、誰かを見送る場を利用するのは釈然としません。人の心の奥にある欲が、黒い澱が時折上がって来て浮かんでは沈み浮かんでは沈むことを繰り返すような所が垣間みえてしまうと、送られる人の胸の内は如何ばかりかと私はやり切れない気持ちになるのです。

4月21日、ボートに乗って行く時

以前お話しした、父と娘というあの動画を時々思い出します。父と娘がそれぞれ自転車に乗って川に行き、父はボートに乗って去って行く。父は帰らず、娘はその後自転車に乗って走っている線画、つまりその後の人生を、結婚、子育てをし、やがて年を重ねて行く。そして彼女はあの川に来て自転車を降り、砂に埋もれかけていたボートに乗って横たわる、という非常に短いもので、このボートに横たわった彼女はこの世から旅立って行くのだろうと思いました。この動画の中で流れていた、美しく青きドナウ、という曲が物悲しく、余韻が残る曲だと感じます。彼女が小さい時に自転車を降りた彼女の父は、ボートに乗るために川に降りて行く前に万感の思いを込めて彼女を抱きしめました。あの場面は特に印象に残るものでした。今、世界のあちこちで戦争が続いています。どこの国でも、戦場に行く父親は子供を抱きしめて、そして無事に帰ることが出来ないかも知れない戦場へと向かって行ったのだろうと思え、繰り返し繰り返しこの動画が心に蘇って来ます。平和は本当に尊く、決して当たり前のものではない事を深く感じています。

4月17日、骨格の出来上がった節目の年

二回目の大阪万博ですね。そのこともあり、あの、昭和四十五年という年はどのような年だったのだろうかと思い返していました。あの年の三月三十一日が日本で初めてのハイジャック、よど号ハイジャック事件が起きた日でした。その頃、母と出かけた時、ラーメン一杯の値段は八十円で、デパートはそれより十円安かったのです。最上階にあるデパートの食堂まで来る間にデパート内で買い物をしているだろうから、町の食堂より安いのだろうと母が話してくれた事は以前にもお話ししましたね。大阪万博の太陽の塔、人類の進歩と調和、という言葉を聞いたのがそう遠い昔のような気がしません。でも調和という言葉はあの時だけのものだったような気がしてなりません。地球温暖化、それに伴う災害も、戦争も深刻な状態になり、地球もその地球に住む私達人間も、まるで鍋の中で煮詰まって来た料理のように感じるからです。また、この年に、私の住んでいる地域では区画整理も終わっていて、新しい家が建っていました。地域の枠組みと言いますか、骨格がほぼ出来上がった一つの区切りの年だったように思います。昭和四十年代前半は日々近くの景色が変わって行くと言っても過言ではないような急激な変わりようだったのです。母の従妹と一緒に初めて羽田空港に行ったのも昭和四十五年の夏でした。昭和三十年代の東京湾の埋め立てからひた走って来たように感じる、地域の大きな変化を知っている人も少なくなりました。海があった、登校時に田んぼに囲まれ、蓮華やシロツメクサの花が咲いていた道を通った、などという事も、見たことがないという人達がもう五十代後半です。チューブから押し出されるのが近くなって来た歯磨きのような今の自分を実感しています。誰にとっても世の中の転換点のような年に居た自分、とか、自分にとって何かの区切りの年、というものが記憶に残っているのではないでしょうか。桜の花を見ながら遊歩道を歩いて、移転した嘗ての母校のすぐそばを通ったものですから、亡くなられた小学校時代の先生方の事を思い出してあの頃の自分に戻ったような気がし、とても懐かしくなりました。切り干し大根を買いに行った私は、いつもより素直な顔をして歩いていたのだろうと思いました。そういえば切り干し大根も産地によって味が違います。煮物に向いているものもあれば煮物にはあまり向かないでぼそぼそとしているものは、酢の物などにするとおいしく頂けます。色々な方とかかわる時の自分は果たしてどちらの大根のような人間なのでしょうか。

4月12日、人の上にも人の下にも人はいない

三月中頃から白いカラーが咲き、芍薬の蕾も目に付くようになって来ました。藤もいつ咲き始めてもおかしくないような庭の有様に今年も驚いています。温暖化の加速という事を自分の目で見ているのだと感じます。気になっている言葉があります。それは、天は人の上に人を作らず人の下に作らず、という言葉で、一見当たり前のように思うのですが、この通りに出来るだろうかと考えてしまいます。人を大切にしていないニュースを聞く事が多いからです。保身を考えて結局黙ってみて見ない振りをする事がいじめを助長する事になります。けれど実際の集団の中では口火を切る勇気が出ない場合も多いですね。不利益を被るだろうと考えると、猫の首に鈴を付ける役割はしたくないという事でしょうか。トップに立った人は、強引なやり方をしてそこまで上り詰めた場合は自身の権力を長く保持するための仕組みを作ろうとしたとしても盤石にはならないと思います。無理な事をすればいつか綻びが生じるからです。勿論、強引なやり方でも最初の内は、以前より良いなどと称賛されるかも知れませんし、その内胡麻をする人が出て来るでしょう。けれど、時が経てば刷新しようとする人達が現れるでしょう。ですから、もし強引な、他者を傷つけるようなやり方でトップになった人はその瞬間から自分に対しての他者を査定し、いつ追い落とされるかという事を考えて心穏やかに過ごすことが難しくなるかも知れません。もはや信じられるのは自分だけという猜疑心の塊になっている人の目は多分冷たく見えるでしょうね。それではただ自分が権力を握りたかっただけの人なのかと、他の人から思われる事になります。我影に怯えるようになったら生きづらいと思います。権力者が現実よりずっと大きいように思って行動するとしたらいつも操られているような事にもなりかねません。誰にかと言えば怯えながらおもねっている自分の心に、です。自分にノーと言ってくれる人が近くにいてくれる事は幸せな事だと思います。そこで等身大の自分と向き合う事が可能になりますから。裸の王様の物語は、私達後の時代の人間への警鐘であり、素晴らしいプレゼントとも言えるのではないでしょうか。あの人よりはまし、と思ってその他者に対し、そう振る舞う事は最も安易に自分と向き合わないようにする方法ではないかと思うのです。このように思う私も決して問題が一つもない人間などではありません。時には歪んだ物差しで他者を見てしまう事もあるのです。また、組織の中で勇気を出してものを言う事は決してたやすい事ではないと、私も知っています。しかし、皆が押し黙ってやり過ごそうとすれば、必ず誰かが見捨てられたかのように犠牲になる事になります。その誰かが自分の家族だったら黙って見ていられるでしょうか。人の振り見て我が振り直せという言葉の重みを感じています。

4月7日、他山の石に

テレビ局の問題は波紋が広がっており、驚き半分、問題がありそうだと思っていたと言う気持ちが半分でニュースを聞いていました。1999年の1月下旬、父の葬儀の日の夕方の事です。民放テレビ局、おそらく番組制作会社の人達なのだろうと思うのですが、箱根駅伝の時選手の方達が着ているような厚いウインドブレーカーのようなものを着た二人の若い男性が突然訪ねて来て、子供が学校に遅刻する事が多いので、自宅から学校までを直線で通っての通学ならば間に合うかも知れない、という趣旨の番組の撮影をするので場所を貸して欲しいと言いました。その場所は我が家の敷地内で墓地がありました。先ほど父の葬儀が終わり、納骨したばかりの場所ですからその旨説明してお断りしました。この人達はそれを聞いて何の挨拶もせずに帰り、翌日、ご近所の、我が家の親戚の叔母さんに案内を頼んだそうで、再度来てまた同じ事を言われました。この叔母さんは私の親世代の方で親戚でもありますが、昨日来た家の場所を知っているのに断りづらくさせようと思ってこのような知恵を出したのかと思うと昨日葬儀が済んだばかりの私は無遠慮に泥水を浴びせられたようなとても嫌な気持ちになりました。このような内容の番組を作る事は視聴者からの、子供の遅刻が多いので、という内容の物を取り上げての事だそうなのです。その子供さんの親を私はよく知っています。それも私の家の親戚に同行を頼んだ理由なのだと思います。この番組の内容はまだ発表していないので内緒にして下さい、と言われ、そういう事の前に言うべきことがあるだろうと私は思い、これは何を言っても通じないなと思いました。もし場所を貸した場合に、その場所に、撮影に使われた場所だと気づいた誰かが、家の者が気づかないうちに入ってくるような事があれば困りますので、もう一度はっきり断りました。非常に不作法でした。親戚の叔母さんは、頼まれてつい何の気なしに案内して来たけれどいい年をして申し訳なかったとおっしゃって下さいました。テレビに映るのだから協力して当たり前だという傲慢さをあの時私は感じたのでした。ですから、テレビはあの時と少しも変っていないように感じました。その後、コロナ流行の少し前の年に、私が用事があって浜金谷のフェリー乗り場に行った時、小雨の中で、大きな荷物を持った数人の男性がそこにいました。この人達は、関係者でない人の迷惑にならないよう気を付けて振る舞っており、とても静かでした。打ち合わせをしているらしい人の中に、私もテレビで見たことのあるアナウンサーの方が居て、ああこれは何かの番組の為にここにいるのだろうと初めて気づきました。あの時とこの時の違いは何なのだろう、私はそう思いました。テレビ局が違うからなのかそれとも時代が変わったからなのか、今でも分かりません。ただ、テレビは視聴率が最も大事なのでしょう。そこにたどり着くまでのプロセスをどのように考えて行動しているのかが、関係者以外の考えや気持ちと異なればいずれ視聴者は離れて行くのではないかと思います。別に恨んでも憎んでもいるわけではありませんが、苦いものを口いっぱいに詰め込まれたようなあの時の出来事が蘇ってきます。テレビに限らず、マスコミ関係者の方々はどうか今後あのような事がないように、他山の石にして欲しい、自分の家族に胸を張って見せられるような仕事をして欲しいと私は思っています。

4月2日、積もった雪の解ける事を願って

寒暖の差が激しく、花粉の飛散量の非常に多い事を感じています。降りしきる中で除雪をしてもなお数メートルも雪が積もっているのはどれほど大変な事でしょう。我が家では灯油ボイラーが壊れ、替える事にしましたがやはり思いがけない出費です。けれど、近くの家電店の方が大変丁寧に対応して下さり、世の中は昨今の事件のような油断のならない人ばかりではない事をしみじみ感じ、感謝していますが、同時に戦争で雪の降る日があっても電力はおろか、安心して眠る事さえ出来ない状況下で日を送る人達がいる事を思いますと、暖かい家の中で水や電力の心配をせずに暮らせる事が申し訳なく思われて胸が痛みます。ところで、想像もつかない困難な事に出会いやすい時代になったように感じます。ロシアとウクライナの戦争、一刻も早く終わって欲しいと思います。けれど、どのような過程を経ていつ終わり、その後はどのようにして行くのか、今は予断を許さない状況だと思うのです。アメリカでは大統領に当選し就任してしまえば、大きな権限が与えられるようですね。大統領に良識があると信頼出来るならばそれも良いのかも知れませんが。アメリカは民主主義の国と教えられ、概ねそうであろうと思って来ましたが、大統領に対して大変寛容に思え、驚いています。嘗て、ウォーターゲート事件が起きた時、この、民主党本部を盗聴したニクソン大統領を弾劾するか否かの委員会での採決の時、共和党の議員達が断腸の思いでイエスと言って賛成したという、ワシントンポストとニューヨークタイムズの記事を思い出します。文化祭に訳して展示したからなのです。結局ニクソン大統領は自身で辞職しましたが。ああこれがアメリカの民主主義なのだと思ったあの時と、今のアメリカの社会とは随分違うのだと思わざるをえません。人間は思うようにならない事が続いたり増えたりすると、誰かを自分より下に置きたくなるものなのでしょうか。差別は憎しみの連鎖を生むばかりだと思えてなりません。誰にも一秒たりとも時を昔に戻す事は出来ません。世界は今この瞬間も未来と言う前に向かってのみ進んでいるのですから古き良き自国に戻す、という事は出来ないでしょう。まつりごとはビジネスではありません。どうか真に平和を取り戻し、ウクライナの人達の命ばかりでなく人権も守られ、決して尊厳が傷つけられないように、踏みにじられないようにと、この、同じ時代に同じ地球の遠く離れた日本に住む私は、ただただ祈るばかりです。

3月30日、椿の夕暮れ

夕暮れ時に一重咲きの白い椿は端然と咲いており、日中と少しも変りない姿にみえます。同じ一重咲きでも赤い椿はあでやかではあっても疲れた鳥がひっそりと羽を休めるような姿に見えます。どちらも毎年自分の季節に咲き、そろそろ桜の季節がやって来る事を告げてくれます。春本番になる直前の主役の交代がここでも穏やかに行われている事を感じます。絶えず入れ替わるという事を繰り返すその四季の変化はまるでゆっくり次の季節にバトンを渡す仕草を目の当たりにするかのようです。入れ替わって行く瞬間がとても優しいものに感じられ、余韻の残る光景であり、美しいメロディのようにも感じます。植物の見え方も人様々、その人の年齢や置かれている環境、心の状態などにもよるのでしょうね。花が花として生きているように、人も人たれ、と言われているような気がしてきました。それはどのように、と考えると難しい事のようにも思われます。

3月25日、残せなかったもの、残っているもの

死んだ男の残したものは、という歌を聞きました。榛葉樹人さんという方が歌っている動画でした。死んだ、というのは戦争でという事で、途中の、残さなかったではなく、死んだ兵士は平和一つ残せなかった、という歌詞が、戦争や紛争の起きている国の多い今という時代に生きているからこそ非常に深く胸に響きました。過去を今省みて、どのような未来の世の中にして行くのも自分達次第である、という事でもあると改めて思いました。谷川俊太郎さんの詩にピアノの旋律が重く、その後もそれがふっと頭をよぎり、考えさせられます。ところで、三月二十日は地下鉄サリン事件の起きた日です。三十年という歳月はあっという間だったようにも思えます。下がって下さい、というあの声、誰もいない夜の駅を、防護服を着用し、電車内の除染をしている自衛隊の二人の隊員の方を乗せた電車が走って行くあの映像、今も私には昨日の事のように生々しく残っています。私の心に記録されたかのように、です。まさか日本の地下鉄で兵器になるものが撒かれるなどとは想像した事もありませんでした。学生時代に毎日乗車していた日比谷線、いつも朝の上り電車はとても混んでいました。秋葉原駅で下り電車を待っていた私はただぼんやりと見ていたのですが毎朝上り電車が次々に停車しては都心へと走り去って行くのを当たり前の事と思っていたのです。亡くなられた方はお気の毒ですし、突然の事でご家族はどんなに辛い大変な思いをなさった事でしょう。六千数百人の、治療を受けた方々はその後時間が経てば経つほど、例えば体調が悪くなった時に、あの時の後遺症ではないかという不安を感じるのではないかと思います。そしてあの時の光景が蘇って来るという事もあるでしょう。大変な外傷体験ですから。多くの人に深い傷を残したままの深刻な事件であると思います。あの事件の映像が浮かんで来ますと、両手の指先が冷たくなって今もこみ上げてくるものがあります。不安や恐ろしさで足元から冷気が這い登って来るという感覚とは違います。痛ましく、見ているのが辛くなる映像に、なぜあんなことが出来たのだろうといくら考えてみても私には到底理解が出来ません。閉塞感や悩み、お金が手に入りやすくなったバブルの弾ける少し前の頃に、お金以外のよりどころを求めた人達の中には疑似宗教を信じる事で心の安寧を求めた、と言えるのかも知れません。けれど、自分で悩み、深く考え気づいて行く事が自分の人生を生きる事で、他者に自分の生き方を問い、たちどころに答えてもらうなどという事は出来ないのです。強い依存は自分で考える事をやめてしまう、つまり自分の今後の生き方を他者の言葉に委ねてしまう事になります。悩み苦しむのはとても辛い事ですが、それが、人間が自分を生きる権利、とも言えるのではないでしょうか。罰を与えられたら罪は償った事になるのか、私には容易に答えの出せない非常に難しい事に思えるのです。

3月20日、命とトラジャコーヒー

インドネシアのスラウェシ島に住むトラジャ族の人達についての動画を見て、その内容に驚きました。この人達は家族が亡くなると、荼毘にふす事をせず、風葬だそうです。それは、葬儀をその人の死後数か月から数年後にする。そしてそれまでの間、防腐処理をしたご遺体と、生きているかのように一緒に過ごすとのことです。着替えや生前の好物もまるでその人が生きていた時のようにし、葬儀後は大きな入り組んだ洞窟に安置する。けれどやはり葬るというのではないと感じました。死後があるという事なのでしょう。赤ちゃんは大きな木のもとに安置され、それはこの木の樹液を母乳の代わりにして育っていって欲しい、段々天に近づいて行く、どうもそのような考え方のようです。ですから、亡くなった家族は次第にミイラになって行く、という、日本人にとっては変わった風習、死生観を持っている人達だと思うのですが、どちらが良いなどという事は言えません。どのような歴史や宗教観なのか、気候や風土はどうなのか、というような事を考えてみないと分からないからです。いずれにしても、死をとても大切にしている人達なのだと感じます。だからどう生きるのか、という事につながっているような気がします。そして、赤ちゃんが樹液を母乳のようにして成長して行く事を願うのは、赤ちゃんが幸せになる事を願う親の気持ちです。どこの国や地域でも、いつの時代でも子の幸せを願う気持ちは同じなのだと思います。そう思いますと、生まれてからずっと自分が生活している今のこの国、この社会しか体験したことのない私が、最初は奇異に感じたこの人達の死に対する考え方や儀式も、亡くなった家族を大切に思っての祈りのように感じ、赤ちゃんへの思いに胸が熱くなり、切なくなりました。悲しみも願いや祈りも同じなのだという気持ち、これは私の理解が不足しているかも知れませんが、やはり共感に近いものであるのだろうと思います。トラジャコーヒーはきっと奥深い味と香りのコーヒーなのでしょうね。

3月15日、昆布出汁の朝

東日本大震災から十四年が経ちましたが、未だに二千二百五十人の行方不明者、という重い現実に言葉がありません。私にはご遺族という言葉は使えませんので、この行方不明になっている方々はご家族にとって行方が分からず、今ここにいないというお気持ちと、いつも供にいるというお気持ちの両方があるのではないだろうかと思えて、私はこのご家族を、やはりご遺族ではなくご家族とお呼びしたいと思います。私にとっても忘れる事など出来ないあの震災、ご家族の方々への思いをいつまでも持ち続けて行きたいと、今年もあの日を振り返りつつ思いました。日によっての寒暖の差が大きいですね。東北地方は奥羽山脈を越えて、その東と西に海がありますが、大雪の降った日本海側と非常に乾燥している太平洋側、これほどの違いも嘗てはなかったのではないでしょうか。温暖化の恐ろしさを感じています。相変わらず成り済ましメールがよく来ます。所得税の申告が三月だからなのか、税金を滞納しているので支払うようにという、国税庁を騙ったメールも増えています。削除に大して手間は掛かりませんが、不快な事なのでストレスと言えない事もありません。真夜中から明け方にかけての時間帯が多く、日本語の表現が何となくおかしいものや日本では使われていない漢字が混ざっている事もあります。インターネットの普及で便利になった事もありますが、平面である紙の上にいるようだった世の中に、立体の部分が出来て、うっかり一歩踏み出すと、急に暗く深い穴に落ちてしまうようなものだと感じます。驚くような良くないニュースを聞く毎日、人間の心の薄く浅い部分に動かされているかのようですが、心の奥深くに潜む負の欲求のようなものが肥大化して簡単に試す事がインターネットによって可能になり、良い心が容易に麻痺して行くのを内なる鬼があざ笑っているという気がします。東京に雪の降った日、こちらは霙でした。気持ちの晴れないその翌朝、鰹節の出汁だと低い雲が垂れ込めたような気持ちになってしまいそうなので、昆布出汁のお味噌汁を作ってみました。明るく軽やかでピクニックの朝のような味にそっと背中を押されるようにして始まった私の一日、気付けば色々な人や物の温かい手によって支えられ生かされている。そう思いますと混とんとした世の中に立ち位置も碌に分からぬままに、支えあって生きている自分を含めた人間というものに、今までとはまた違った所に焦点を当てて見て行きたくなりました。支えられている事への感謝の気持ちを胸に刻んで。

3月10日、一つではない視点

三月十日の東京の下町への大規模な空襲は直接には知りませんが、三月は東日本大震災、地下鉄サリン事件と、とても思い出にまでなってはいない、生々しい出来事の起きた日が続く、私にとって非常に重い月です。母がある時こう言いました。それは家族で時代劇を見ていた時の事で、私は中学生でした。ある藩の国家老が、殿様に大きい子供が居て跡継ぎになる事がほぼ決まっていたのに自分の身内の生んだ、まだ幼い殿様の子供を跡継ぎにしようと企み、反対している人達を失脚させている事が露顕し、家老の家来達、つまりその藩の家臣の一部の人達は命令通りに刀を抜き、戦って、昔風に言えば成敗される、という内容のドラマでした。悪い人達が一掃されて良かった、胸がすうっとした、そんな風に思う人が多いと思われるのですが、母は、家来達は、封建時代の事なのだから、上の立場の人の言う通りにしたのに、亡くなった。この人達にも親や妻子がいる筈、遺族はどのように弔い、その後爪弾きにされるのだろうか。それでは気の毒だ、と。私はものや出来事をどう見るか、多様な視点があるのだと気づきました。以前にもお話ししましたが、ある年の三月十日の朝、用事があって京葉線に乗り、都内に行きました。辰巳の辺りで車窓から貯木場らしきものが見えました。昭和二十年三月十日の朝、この辺りは焼けて大勢の人が亡くなっていたのだろうな、と思うと大変重い気持ちになりました。用事を済ませた後、靖国通りを歩いて御茶ノ水駅に近い郵便局に行ったのですが、この通りには大きな鶴のオブジェがいくつもあり、やはり、昭和二十年のこの日のこの辺りの事を考えながら歩いていました。次第に足が重くなり、胸が塞がって来ました。戦場ではない所に爆弾が投下される事はいつでもどこでも、戦争が長引いた場合にはあった、あるいはありうる事なのだと思います。今も世界のあちこちで戦争や紛争が起きています。平和は大切だと皆よく分かっているのに、と考えこんでしまいました。それで、あの時代劇を見ていた時の母の視点の事を、思い出したのだと思います。母の若かった頃は戦争中、灰色のクレヨンで塗りたくられたような日ばかりではなかったでしょうが、重いものを胸に抱えての毎日だったのでは、と思います。それだけでなく、徐々に統制経済で、やがてとても足りない配給へと暮らしが狭まって行った時代で、その時にはそれがいつまで続くのか、誰にも分らなかったのですから。私は家に残っていた米穀通帳というものを見たことがあります。それは今と比べると薄く、質の悪い紙でした。米の配給には必要不可欠のもの、引っ越す時には持って行かなければならないものだったと聞いています。戦争は人間を獣のように変え、終戦の後も被害が大きければ大きい程、相手を憎み、その憎しみの連鎖は生々しい口伝えによって少なくとも孫の代くらいまでは続くのではないかと思います。いつの間にか、互いが平和でささやかな幸せを願って生きている人間だという事を忘れたかのようになるのです。戦争を憎む事と、相手国の自分と同じごく普通の一人ひとりの人間を憎む事とは違う事を皆知ってはいても、すぐにそのように納得する事が出来ず、禍根を残すのが戦争です。深い傷が癒えるのには長い時間が必要だから憎しみの連鎖は容易に止まらないのですね。母は思考の人だったと思っていましたが、感情的になる事が殆どなかったからと言って、自分の事であるかのように他者への感情が動く事も十分あった人だったのだと今は思っています。今日は三好達治の詩、乳母車、をとても懐かしく思い出しました。

3月6日、空は

毎朝お天気の良し悪しによって空の様子は違います。幾筋もの薄いグレーの雲の切れ間から見える太陽の光は輝いて、まるで空全体が意思を持った人間が生きているよう、この朝の空はいつまでも留めておきたいと思うほどの美しさでした。世界のどこに住んでいる人も何となく空を見上げる事があるだろうと思います。その時その人が置かれている状況によって、どのように感じるかは随分違うのでしょうね。戦争や、温暖化と関係の深い災害、次々と増えて来てまるで自分の肩に乗せられた石がどんどん重くなり、岩のように重いものになっているという気がします。世界がどこに行こうとしているのかが私にはあまりにも理解出来ないのでこんな事を思ったのかも知れません。

3月1日、糠床と引き際

糠床は毎日かき混ぜます。その時、手に怪我でもしている時以外は素手でかき混ぜます。 薄い一枚のビニール手袋であっても、皮膚と糠床が直接触れないと、微妙な糠床の状態が分からないからなのです。乳酸発酵を続けている糠床の声が聞き取りにくくなると美味しい漬物が出来ないどころか、糠床が傷むのに気付くのが遅れてしまう事にもなりかねなません。毎日よくかき混ぜている糠床は嫌な臭いはしません。この、微妙な相手の状態を理解する事は、他者の心の中にある本音に気付く事に似ているように思えます。どんなに優秀で努力を重ねて働いてきた人でも、限りなくそれを続ける事は出来ません。自分という人間の考え方や価値観のみが、いつも、そしていつまでも正しい、絶対的な尺度ではないという事は、案外気づきにくい事かも知れませんね。尊大とか傲慢というつもりはないのだと思いますが、糠床が微妙な本音を、いつの間にか言いにくい状態にしているとしたら、それは問題だという事になりかねません。一生懸命その組織やそこで働く人達のために努力してきたという実績は褒められ尊敬される事だと思いますけれど、反対意見を言いにくい雰囲気を作り出してしまっているという事が往々にしてあると思うのです。引き際、という事だと思いました。これは、惜しまれるうちに、が良いと言いますが実はとても難しい事ではないでしょうか。引き際でその人のすべてが判断され評価されるのは、決して若くない私にはちょっと酷だなという気もします。それは、人間がいずれこの世を去って行く時に果たしてどのように人生を省み、残して行く人達に何をどう伝えて逝くのか、というこの一点に、絞られて行く、そのように思うからなのだと思います。満足の行くように、という事は針の穴に糸を通すような大変な、そしてやり直しのきかない事なのでしょうね。どれほど心血を注いで育てたとしても、子供は成長し、大人になります。子供も会社もその時には決して私してはならないものだと思います。それはとても寂しい事かも知れませんけれど。巣立って行くものを手放し、見守って行く事は、子離れも会社や組織というものに対しても同じなのではないでしょうか。自分だったらと思いますと、去る決断は痛みや悲しみを伴う事だという事が分かるので、何とも言葉が見つかりません。引導を渡すなどという事は私には出来そうもありません。そういう所が弱い人間なのですね、きっと。これは本人が決断するもの、やがて誰にでも来る様々な人やその場との別れは、皆難しく、辛さをも感じるものだから、他者のそのような思いも十分組むことが出来るのだと思います。だから人に最後の花道を、と思うのかも知れない。良い出会いと同じように良い別れも大切に、そんなことを思いました。

2月25日、久しぶりに見たまち

用事があって久しぶりに近くのまちに出かけました。一時間程居ただけだったのですが、歩いてみるとシャッターの降りたままの建物が目立ちます。元は店だった所がそうなっているようです。個人商店でも歴史のある店、老舗と言っても良い店が随分閉店してしまったのだと、商店街の変化に驚きました。間口の広い履物屋さんのおじいちゃま、笑顔が優しくて人をそらさない和菓子屋さんのおばあちゃま、どんな題名の本でも、立ちどころに出版社と発行月を聞いた人に答えて下さった書店のご主人、過去に出会った沢山の人の笑顔が次々と目に浮かんで来ます。時代の変化の大きさと速さはとても厳しいものでした。錆始めたシャッターが、帰りの電車に乗った私の目に残り、インターネットでの買い物がどんどん便利になる事に光が当たっている今という時代、それは一枚の薄い紙のようであり、地域に根ざした店と消費者の関係とは随分違ったありように感じられます。人の関心が非常に速く移り変わって行く今、多くの人の目は近くの物を見ているのか、とても遠い先を見ているのか、私にはよく分かりません。地に足の着いた暮らしは狭い範囲で人間が活動していて経済的に今より豊かではなくても、全体像の見える骨太の物だったような気がしてならないのは、私が年を取ったという事なのかも知れません。いずれにしても私は、変貌して行くまちの姿を目の当たりにして、失われていった様々なものへの懐かしさと、一秒たりとも子供だった頃に戻る事の出来ない悲しみの両方を感じたのでした。今、一体どのような暮らしが身の丈に合った普通の人の暮らしなのでしょうか。

2月21日、庭は変化する

暮れから日本水仙が咲き始め、一月にはほぼ満開になりました。今朝庭に出るとロウバイの蕾が開き、白梅の蕾もだいぶ膨らんで来たのに気付きました。こうして季節は少しずつ移り替わって行くのですね。関東南部も厳しい冷え込みや強風の日があり、大雪の降った地域のニュースに驚いているうちに春が冬に近づいて来ている。もう冬のすぐ横にいて、冬の様子を見ながら進んでいる、そういう風に感じます。春は冬と自然に穏やかに入れ替わって行こうという気持ちなのだろうと私は思うのです。戦争の終わらない人間社会に欠けているものは他者の身になるという思いやり、優しさであり、際限のない自身の欲がある事が不協和音の元では、と思います。今の季節を思いやりながらやって来てすっとバトンを受け取る次の季節、互いに温かい気持ちでごく当たり前にバトンの受け渡しの出来る自然に、人間はもっと気付く事が必要なのではないかと思ったのです。私も自戒しなくてはと思う事が多い人間なのですけれど。

2月18日、降り続いた雪

随分長い寒気の流入でしたけれどこれで終わりではないようですね。記録的な大雪のニュースに驚くばかりです。昭和三十八年の冬は大雪で大変だったと、富山県に住んでいた大伯母から聞いた事を思い出します。普段当たり前のように出来る事が難しくなる。例えばごみ収集なども、だったそうです。関東南部では雪が積もる事は珍しく、まして冬が終わるまで積もった雪が解けないなどという事はありませんから想像もつかない事が沢山あるのだと思います。いつもと同じ速度で歩くのも難しくなるでしょう。同じ国の中でも、雪一つとっても、その身にならないと感じる事が出来ない事のなんと多い事かとしみじみ思いました。

2月14日、素材の持ち味を生かして

この冬は何日か前に漸く白菜を漬けました。もう冬というには遅すぎる時期になってからでした。暮れに気温の高い日が多く、浅漬けを作り難かったので迷っていたからなのです。浅漬けには木枯らしが吹くような日が続く事が不可欠のようです。それで、暮れにはすぐ漬かる柚子大根を作ってみました。自分で作ると安上がりですね。冬至の日には南瓜を煮るなどして日々の暮らしにメリハリをつけています。それは、自分の知らない遠い昔の人の暮らしに興味を持って考え、想像する糸口になり、人間の命、そして歴史がずっと続いてきた事をしみじみ感じる事にもなります。柚子大根を漬けながら、今あるものを損なわずに、手を加え過ぎずに作られてきた料理は長く続くのではないか、ふとそんな事を思いました。それは手間がかからず短時間で、比較的材料費もかからないという事だけではないように思うのです。大げさな言い方かもしれませんが、素材の良さを生かすという事は素材への愛情とも言えるのではないでしょうか。そして素材の持つ性質がよく見えているという事でもあると思います。それは子育てにも通じるように思います。その子の持っているものに気付き、子供の幸せを願うからではありますが、つい子供をコントロールし過ぎるという事になりがちです。親がコントロールし過ぎないで育てるという事は、素材の持ち味を生かして料理を作る事に似ています。親子も日々色々な事がありますが、そのように出来たら良いですね。

2月9日、泣く事が出来なかったこととの再会

泣くことが出来ないという経験をした方もいらっしゃると思います。それは、突然信じがたい、そして認めたくないような辛い出来事に遭遇した。そして今後もそれを現実の事として受け止め、生きて行かなければならないという事ですので、経験したくはない事なのかも知れません。災害や事件、事故の経験もそのようなものだと思います。以前にもお話した事がありますが、私にもそのような事がありました。それは、小学校二年生になる四月一日の事でした。当時、転勤する先生を送るこの日の式を辞校式と呼んでいました。新学期に着任なさる先生を迎えるのはその後の始業式の日でした。私の記憶に鮮明に残っているその日は土砂降りで、一年生の時の担任だった先生が花束を持ち、南側の正門から去って行かれたのです。学校という所で始めて出会い、関わって下さった先生で、優しい、何でも失敗なく出来る方で、一人ひとりの子供を非常に深く理解して下さった方でしたので、この親くらいの年齢の女性の先生が大好きでした。ですから、自分の身体の一部が引きちぎられるような痛み、と感じるような衝撃でした。その後、着任なさった別の女性の先生がクラス担任になり、二年生の生活が始まったのでした。その事に不満はなく、それから卒業まで支障なく小学校生活を送ったのですが、私は二年生になる時のこの辛い出来事で、泣くことが出来ませんでした。一見学校生活に適応して行ったように見えますが、心の中に大きな傷になって残っていたのだと思います。転勤して行かれた先生の事を考えないようにしたと言うより、新しいクラスに慣れる事に一生懸命だったのでしょう。まるで、どんどん動いて行く現実に歩幅を合わせて必死に遅れまいとついて行くように。先日、この一年生の時の担任の先生のお住まいだった地区に用事があって行ったのですけれども、どこも昔とは変わって田畑はとても少なくなり、新しい道、新しい家が増えましたので、きっとその辺りも様変わりしたのだろうなあと、珍しいものでも見るようにあちこち眺めながら歩いておりました。先生のご自宅の詳しい位置は知らず、子供の足では遠かったので伺ったこともありませんでした。けれど、とても懐かしく、一気に時間があの頃に戻ったような不思議な感覚に捉われました。まるで、鮮明な記憶が私の心と足を掴んで離さないようにしている、そう感じたのです。懐かしさは悲しみの追体験でもあり、楽しかった思い出だけでなく、ほろ苦さをも感じました。それでも、先生に久しぶりに再会したような新たな喜びも感じたのは思いがけない事でした。先生はご存命ではないだろうと思いますが、それがはっきりしない事が急にドライアイスに触れたように感じずに済んだ、そんな風にも思うのです。まことに不可思議な人間の心の動きだとしみじみ思った余韻の残る一日でした。

2月4日、主題はサクリファイス

主題と言ったら良いのでしょうか。ある朝、聖歌を聞いていて思いました。私はどの宗教についても良くは分かりませんが、この綺麗な歌声に合わせるようにイメージが浮かんで来ました。それは、太陽が昇る東の空、夕日が沈む西の空でした。朝日が昇る空にはまだ幾つかの星が見えていて、次第に赤くなってくる。その内、真っ赤な色がやや薄くなり、オレンジ色になって、下の方から金色に輝く太陽が昇ってくる。空が白んできて最初の真っ赤に見えた空の下の辺りの色は壮絶と言っても良いような印象に残る赤でした。夕暮れの空に日が沈んで行く時は、オレンジ色の空が美しいのですけれど、徐々に太陽は下にその位置を変え、それにつれて暗くなる。その太陽は最後に空を真っ赤に染める。日の出も日の入りも逆の事なのに同じ色に感じられます。まるで透明な赤い血が一滴、金色の日にキラリと輝いたような、とても密やかでそして壮大なものを見た。そのようなイメージが浮かぶべくして浮かんで来た、という不思議な体験を感じた清々しい朝でした。人間が生まれる時と旅立って逝く時はこのようにしてその自分の人生を関りがあった人達に見せ、余韻を残して行くのだろう。血を流すような人生の始まりと終わりというものを見たように感じた時私は、この聖歌の主題は、犠牲だ、という気がしました。オレンジ色は胎内回帰の色、と感じた不思議な懐かしさも、多分このような事と関係があるのでしょう。神様の子の命で人間の罪を購うと言われて来たのはこのような事なのかも知れないと思いました。私が犠牲と感じたあの歌声とそれに伴うイメージは、犠牲とは見返りを求めない尊い行為だから、そして相手を信じているから、澄んだ赤色が浮かんだのでしょう。澄んだ心で生きて行く事は難しい事だとも思います。ひれ伏したくなるような荘厳な曲の歌詞は日本語ではなかったので分かりませんが、自分を省みようと思う時、これからも私の心に蘇って来ると思います。

1月31日、ひょうたん島のトラヒゲさん

昭和三十九年からNHKで放送された、ひょっこりひょうたん島、という人形劇を懐かしく思い出します。たまたま夕方見始めたその日が何月何日だったのか覚えてはいません。その物語の舞台は島なのですが、その住人の中で、ここへ漂流してやって来た人達が主な登場人物でした。私は、その一人であるトラヒゲという海賊に親しみを感じました。彼はがめつい性格で素直ではない人に描かれていますが、実はすねた寂しがりやなのかも知れません。ドンガバチョという人はテレビ画面から零れ落ちて来て、この島の大統領になるのですが、名誉欲があり、しかし正義感が強く何事もあきらめない、すぐ演説をする、そのように描かれていました。最近、色々な人が集まることになって暮らすこの島で力を合わせて様々な事を乗り越え、平和を求めて生きて行く様子を描いていたのではないかと思うようになりました。単なる人形劇ではなかったと思ったのです。私がトラヒゲに親しみを感じたのは、私にもある、普段は見せない人間の傷つき、孤独、寂しさ、劣等感、哀しみなどを持っている人物が自分にも通じるところがあるように、一番分かりやすく描かれていたからかも知れません。性格の違う人達が同じ島に住み、関わって生きて行く事は助け合いや話し合う事が必要です。トラヒゲは自分とは全く違うように見えるドンガバチョと仲が悪かったのですが、やがて仲良くなって行きました。ドンガバチョはトラヒゲのシャドーだったのでは、と思いました。トラヒゲが生きて来なかった生き方をしているドンガバチョなのです。否定したいような人は自分にとっては決して選ぶことのなかった生き方をして来た、自分に欠けている部分を持ち合わせた愛すべき影なのかも知れない、そういう見方もできると思います。殺伐とした、そしてうそ寒いような今という時代に、こんな事をのんきに考えついた事は、自分が水面に顔を上げて息継ぎをすることに似ているのだろうという気もします。

1月27日、朝の空と

今年も七草粥を作りました。柚子大根の香りと歯ざわりに、一瞬、戦争の続く世界や物の値上がりの激しい自分達を取り巻く環境を忘れそうになります。子供達の新学期も始まり、いよいよ受験の季節です。今朝の空はグレーと白の幾筋もの雲の間に細い青空も垣間見え、太陽が屈折するように輝きまるでオパールのような不思議な美しさでした。壮大なスクリーンを見ているかのようでした。その後久しぶりに尺八の演奏を聴きました。奥州薩字という曲でした。壮大というよりは奥深く突き詰めて行く。そして感じるものは余分なものをすべて取り除いた一つ なのか、無限に広がって行くのか、私にはどうもよく分からないのです。でも、とても魅力的な、厳しさがあり、張りのある曲のように思われて、暫く余韻が残りそうです。笛の種類は様々ですが、もの悲しい、うら寂しい、そのようなイメージとは全く違う味わい深いものだと改めて思いました。日本的な音色や旋律と感じたからなのでしょうか。一度は演奏会に行ってみたいものです。

1月23日、紐に感じたもの

目覚めた瞬間、子供の頃家にあった紐の映像が目に浮かびました。ベルベットのような手触りの、淡いベージュの地に花の模様という部分が半分、もう半分はベージュがかったピンクの地に花模様というものが繋がった一本の、少し太い丈夫そうな紐です。着物を着る時に使う腰紐だったと覚えているのですが、白く太めの他の腰紐と比べますと、群を抜いて美しい姿でいかにも新しいと感じる、手触りの良さそうな物だったのです。ですから、幾度か手に取ってみた事があります。けれど、目覚めた時に目に浮かんだこの紐の姿は怖いほどの負の重みを持った存在感のあるものでした。まるで蛇のような。おとなしそうなのに凄まじい、執念、人間の心の陰そのものを見たような、手を触れる事をためらうほどのものと、向き合ってしまったのです。この怖さは子供をいつまでも暗にコントロールしようとする母親にも似ているようです。暗にコントロールすると言うのは、される側にとっては柔らかくとか緩やかにという、逃れにくいかなり強烈なものであると思います。腰紐は我が家では主に女性が使っていたのですから、私は母という存在の心の奥深くに潜む感情をこの紐が垣間見せてくれたのだと思っています。この場合の女性である母というのは自分の母親という限定的な存在ではないのだと思います。この紐の鮮明な姿は、台所で米を研ぎ始めても浮かんでは消え浮かんでは消えしていました。複雑な気持ちになったひと時でした。それでも、子供の頃の母や家族の事をとても生々しく身近に感じて懐かしく、米のとぎ汁を凝視したりなどして、もたもたと米を研いだ朝でした。母なるものについては未だに輪郭がぼんやりと見えて来た、といったところなのです。それにしても、いきなり無意識に手を引っ張られて歩き出したような不思議な朝でした。意識と無意識は時々はっきりと分かる程大きな対流と言いますか、交流をしているようです。帽子の中から鳩や万国旗が次々と出て来る手品ででもあるかのように目を見張って自分の内側や他者の事を思う事が年齢と共に増えて来たようです。もう少しの間この朝の事を手掛かりに、私の無意識に、鋭く優しくいざなって欲しいと思っています。

1月19日、出会い、交錯

寒に入ってから冷え込みが厳しくなりました。朝、花瓶の水を替える時、淡いピンクのチューリップの花びらと真っ赤に紅葉した南天の葉が一枚、白い流しにはらっと散りました。春に先駆けて咲いた花と初冬に色付いた葉が偶然一緒に散るのを見て、これから人生の春を迎える人、夏になる人、実りの秋になろうとする人、冬に足を踏み入れる人、色々なのだろうなあと思いました。各々の人生は交錯し、並んで歩いたりすれ違ったりするのですね。気忙しい朝の、この、当たり前だとも思える事が私には思いがけない気付きでありました。こうして私の今日が始まりました。その時、ささやかな自他の幸せを大切にと、この先の人のためにも祈るという温かい願いが普遍的無意識の中に必ずあるのだろうと感じました。それは絶望してはいないからだという気もするのです。荒涼とした所でも、じめじめしたおどろおどろしい所でもなく、温かい穏やかな部分が幾らかは含まれている所なのかも知れないと感じたのは私には意外な事でした。

1月15日、馥郁とした香り

大晦日には年の瀬を、三が日にはお正月を感じさせる何かが、毎年ありました。風情とでもいうのでしょうか。ところがこの年末年始にはそう感じさせるものが何もありませんでした。これには驚いています。何故なのでしょうか。それでも、幾品かのお節料理を作り、お雑煮を作り、いつもの年と同じ事をして、去年の元日の唐突なあの地震の事を考えていました。出来るだけ穏やかに恙なく過ごしたいですね。朝、思いついて久しぶりに番茶を焙じてみました。使っていないフライパンにアルミ箔を敷いて弱火でじっくり焙じたお茶は少し茶色くなり、良い香りが長時間台所に漂っていました。今年は、これがお正月らしい事だったのかも知れず、気持ちを幾らか切り替えるきっかけになるような気がします。強火を武火、弱火を文火というのだそうです。料理にはこの加減が大切で、どちらも必要なものですが、社会の中では、是非文火のみでお互いに優しく関わって行きたい、そう思いました。このほうじ茶で茶粥を作るとサラッとしたお粥になるそうです。よく干した身欠き鰊を米のとぎ汁で戻して煮る時にも使えます。今日はささやかな楽しみを一つ見つけました。

1月11日、身の置き所

便利だなあと感じる事が増えました。ずっと昔の人はおそらく水道も電気もガスも、不思議なものとして感じると思います。まして、家電製品やパソコン、スマートフォンなど、想像もつかない事だと思います。けれどもインターネットを悪用する人、その悪用の仕方も多様です。便利になる事が幸せになる事だとは一概に言えない。しかし便利さは手放したくない。そんな風に思うのは私だけではないだろうと思います。仮想現実というものが当たり前に日常生活に入って来ている中でこれをどう捉え、どのように利用すれば良いのか、私にははっきりとは分からないのです。なくても困らなかったものが増えたと思う私たち世代と、物心ついた時にすでにインターネットが日常生活の一部であった人達の、何が当たり前に出来る事と思うかは全く違うと思います。世の中は速い速度で変化していると感じる今、こうして日々生活していると、先の予測が出来ません。体は存在して社会の中で暮らしていても、心の奥はどうだろうと考えた時、とても曖昧でどんよりしているように思えます。この場合、心というものを、身と言い表しますと、身の置き所がないという言葉にたどり着きました。安心、拠り所、そのようなものが容易に見つからないと思ったのです。何か生きて行く上での心のよりどころ、よすがが欲しくて漠然とした不安を感じている。そうすると何かを信じたいとか信仰したいという気持ちになるのかも知れません。あれもこれも気を付けなければならない事が、便利になった世の中には一杯ですね。何を求めてどこに行こうとすれば良いのか、という事は単に安全に気を付けて必要な部分を利用できれば良い、というのとは少し違うように感じます。もっと根本が問題だという気がして、どのような未来を作りたくてどこへ科学や技術を変えて行くのか。科学や技術の進歩を競うのではない、人間がこの地球で長く共存して行くために必要な事は何をどのようにすることなのかを考える事が重要だと思います。心の置き所がない世の中にはしたくないと私は思っています。身の置き所があるという事は、安心して魂の憩える場所がある、そのような社会であるように思うのです。言ってみれば、陰があるという事だと私は考えています。

1月7日、過去と未来に

1989年、ベルリンの壁が崩壊して、世界が変わると思いました。解放、責任を伴いはしても自由、そういう方向へ行くのだろう、私はそう思ったのです。でも、今は国際法など歪曲し、臆面もなく自国の都合の良いように振る舞う国が増えて来たように思います。とりわけ大国と言われる国にそう感じます。まるで時間が逆戻りして行くようで、漠然とした不安を根底に持ちながら生活しており、人間はどこまでこの方向へ世界を変えて行こうとするのだろうか、何が歯止めになるのだろうかと真剣に思う日々は今年も続くのだろうと思います。海の中で回り続ける石臼のために、どこまで海の水は塩辛くなるのか、という事に似ていますね。過去を省み、未来へ思いを馳せれば、争いは繰り返さなくなる、という理屈の様にはなかなか行かない事をもどかしく感じるのは私ばかりではないのでは、と思っています。過去は現在に何をし、現在は未来に何ができるのかは、主体である人間の英知と想像力、そして思いやりという他者への愛情にかかっていると思います。小さな一人の人間である私にも、勿論その問いは突き付けられている事をひしひしと感じる、戦場となっている国の今を伝えるテレビ映像です。

1月3日、火点し頃の

江戸時代、現在の東京日本橋室町の辺りにあった十軒店人形市はとても賑わっていたという話を、何年か前にラジオで聞いた事があります。その雛人形は岩槻で作られていたのだろうか、そんな事を思って私はじっと聞き入りました。それは、同じ十軒店という所が江戸の別の場所にもあった事を知っていましたので、そこの事かと思い、興味を持ったからなのです。でも、その池之端の事ではなく、日本橋室町の事でした。それにしても、江戸時代と言えば昔とも言えますが、幕末から明治へ激動の時代の中で生きた人達は、私達の近い先祖とも思えて、現代に近いとも感じます。そして、この雛人形市のあった辺りはその当時を彷彿とさせるものは全くない、つまり跡形もない事が惜しまれます。江戸時代には現在の電気というものはなく、明かりも電灯ではなく、街灯もないのが当たり前だったのですから暗くなってから外に出る人は今よりずっと少なかったのでしょう。舗装されていない道路には走る自動車の姿もないのが、今では不思議な光景に感じます。白っぽくはないオレンジ色の明かりは部屋の隅々までを明るくすることはありません。けれども何となく温かそうだと感じます。何もかもを白日の下に照らし出すことをしない人間の温かさがそこにあるのではないかと思うのです。陰は優しく、人が生きて行く上で欠くべからざるものという気がします。アスファルトではなく土を踏んで歩く人の持つ提灯は、足元の辺りだけを照らすおぼつかない明るさ、このような当時の不便さの中に、オブラートに包んだような、グラデーションやぼかしのような、他者を自然に思いやる深い包容力、優しさが生きていたであろうと感じられるのです。このイメージは、いつまでも私の心に余韻の残るもので、それは光景というより情景なのです。近年、古き良き昭和という言葉がしばしば使われていますが、昭和は関東大震災の甚大な被害の影響が色濃く、戦争への道を進んで行った時代でもあります。ですから、私はこの言葉を聞く度にノスタルジーは正であり明るいものではあっても、一方多くの命が奪われるに至った負の部分をも色濃く持っており、片方だけを見て語る事は出来ないのが昭和という時代だと考えています。とても複雑なのはこの現実であり、そこから沸き起こってくる私の感情でもあるのです。火点し頃の、人間が外套を脱いで家の中に入り寛ぐ時間帯である夜へのゆっくりとした切り替わり、それは逢魔が時でもあります。どうか誰もが安心して室内に入り、温かい心持で過ごすことが出来ますように。ふと、降る雪や明治は遠くなりにけり、という中村草田男の句を思い出しました。

12月31日、行く年に

雨戸を開けると、呼吸をするのが苦しいと感じるほどの冷たい空気がすっと家の中に入って来るようになりました。庭の菊の葉も少しずつ赤紫色に変化しています。ある年の晩秋に、函館本線の列車が鉄橋を渡った時の、河原のあの美しい草紅葉にあまりにもよく似ているくっきりとした美しさでしたので、思わず見とれてしまいました。いよいよモミジの葉も残り少なくなって、紅葉の今年最後の姿は散る寸前でもとても美しく、散った後の枯れた葉や、幹と枝のみになった姿もきっと自分を持ち、輝いているように見えるだろうと思います。あっという間に一年が過ぎて行きます。災害や事件、事故、驚くような事に翻弄されました。深く心に残る痛ましい事がこれ以上起きないよう祈るばかりです。そして戦争も、です。我が家では猫が縁側で昼寝をしている事が多くなりました。どんな夢を見ているのでしょう。晴れた日の日中は元気に庭を飛び回っていて、まるで兎がぴょんぴょん跳ねているような俊敏な動きが、真似も出来ない人間の私には羨ましい限りです。小気味よく日々を生きているからこその動作とも感じます。歯切れがよくない、どちらとも言いかねる、言葉を濁したような返事、このような事が必要な場面に遭遇するのは、ぼかす事が人との円滑な付き合いを継続するためのコミュニケーションという場合もあり、また相手への思いやりであるという事もあります。人とどう付き合うかは、まず自分の心の奥へ目を向ける事からだと思うのですが、これはなかなか難しい事でもあります。自分を卑下する、自分が正しくて他者が間違っている、などどちらかに偏っている自分、というものはそう簡単に受け入れられない場合もありがちですから。欠点は見方によれば長所という事も多いのではないでしょうか。自他の長所に気付く事が多いと考え方の幅も広がり、良いコミュニケーションも出来て心豊かに暮らせるのだという理屈にたどり着きました。けれども、長所も短所も持っているからこそ、その人らしさがより感じられるのだとも思います。お互いの持ち味を大切に認め合う事で日々の暮らしに充足感と言いますか、それなりの手応えがあるのかも知れませんね。このような拙い文章も毎日浮かんで来るわけではない私は、長編小説を書く作家の方々に驚嘆するばかりです。今年も読んで下さってありがとうございました。来年が良い年になりますようお祈り申し上げます。

12月26日、バラエティーに富んだファミリー

最近は両親の弟妹と一緒に暮らすという事が少なくなったように思います。確かに年齢や職業、ある程度価値観の違う人達が一緒に暮らすとやり難いと感じる事が核家族の場合より多いと思いますし、難しいと感じる事もあり、各々が不満に思う事もあるでしょう。ですが、子供が成長して行く時に、親の教える事はともすればたてまえになりがちで、すべきだとかしなければいけないと教えるのは将来の子供の幸せを願ってではあっても、世の中や人間の表という事になりはしないでしょうか。本当は奥が深い、裏があるなどという事は年齢と共に徐々に知って行く事なのだと思います。そのような時に、親の、年齢の離れた弟妹がいると、ゆっくりガラス窓を開け網戸を開けて外の空気を直に吸い込む事が出来るような、自然に社会や大人の現実の姿を、寄り添って貰いながら垣間見る事が出来る、そういう気がするのです。風変わりだと言われているような、親達がちょっと眉を顰めるような叔父や叔母に、視野が広がり、今までとは違う視点でものを見る事を教えられると言いますか、その生きる姿に気づかされる事があるのではないかと思います。小説などにはそういう人物がしばしば登場しますね。どのような家庭が良いなどと簡単に言う事は勿論出来ませんが、このような叔父さん叔母さんはそのファミリーを一つの立体の輪とすれば、あまり日の当たらないこの輪の部分に居り、そのファミリーの中で、ある役割を果たしているように思います。子供が成長して行く時に悩みながら戸惑いながら大人になって行く過程での、共に歩いてくれる年上の友人という役割です。お陰様、陰ながら、まさにそんな存在であると思えるのです。

12月22日、二種類の

朝目が覚めてふと思いました。夜は仕事をしている人の他は多くの人が眠っています。夜というのはどのようなものかと聞かれたら、ぐっすり眠って疲れをとるとか、今日あった嫌な出来事を解決することが難しくてもせめて忘れたい、つまり意識の奥深くへ追いやり抑圧する、そのような時間ではないでしょうか。もっとも、外が暗く静かな環境という場所に暮らしているとは限りませんが住んでいるうちに慣れてくるという場合が多いと思います。今日の心身の疲れを取り、癒し再生するプロセスのようなものという気がします。夜は目の詰んだ上質の絹織物のような心地良いもの、と思う一方、お湯を沸かしている時に温度が高くなってくると泡が出て来て、段々鍋の中のお湯全体が大きく動き出す沸騰状態と似たような事が人間の心の中にもあるように思うのです。心地良いと思っている時でも人の心の中の深い部分、つまり無意識の部分ではお湯が沸いて来る時の状態のようなものが動いているのだろうと感じ、二層になっていて、その境目は極めて複雑な、ぼかしたようなグラデーションになっている、そう思ったのでした。それで夢を見るのだろうな、というちょっと乱暴な事をも思いました。私は朝起きた時や夜中に目が覚めた時に、このような意識の奥の方にあった疑問が頭に浮かび、そのイメージのような映像が浮かんで来る事があります。無意識との循環が鋭くなっているのか、それともボォーっとしていて意識水準が低下している状態なのか、唐突であり、理由は全く分かりません。それだから困るという事もないので何か深く知りたい事が自分の内にも外にも沢山あるのだろうと思っています。子供の頃から、何故、どうしてと思うと母に聞いたり本で調べたりしないと気が済まない子供でしたから。それでも、考えすぎずに熟睡したいと思う時もありますよ。

12月17日、相談された時

新しい事を始めるかどうか迷っている時、人に相談する事があります。パソコンを始める時がそうでした。特別なくても良いと思っていましたが興味を持ったので、ある女性にその事を話してみたのです。その時彼女は、パソコンはウイルスに気を付けなければならず、突然電源を抜いてしまうと、パソコンの中の、作って入れた資料などが瞬時に失われてしまう事がある、そのように言いました。ところが別の人に聞くと、例えばホームページやブログを発信しようとした時に、クリックしたらパソコンを利用している世界中の人とあっという間につながることが出来る、そう言いました。どちらの人も真剣に答えてくれたのです。それで私はパソコンを使ってみようと思いました。できるだけ安全であるようにという事は、危険なものに近づかないほうが良いという事です。注意点だけを話してくれた人はある意味過剰な母性で、という事になるでしょうし、勧めてくれた人はプラスの点を強調して私の背中を押してくれたわけです。どちらも善意、そしてこの二人の女性の性格が違うという事と、私がどんな人間かという事の見え方も違うのでしょうね。勧めたいのか止めたいのか、相談された人の考えも反映されるのですから、子育てにも大切なポイントです。もう一つ、似たようなことがありました。それは、まだゴーヤが珍しかった頃の事です。私は、それは苦いという事だけ聞いて知っていました。ある人は子供がとても苦いと言うので、ゴーヤは甘辛い佃煮にするのだけれどかなり甘くしなければならないのだ、と言いました。私は小さい時に飲んだシロップのような風邪薬を思い出し、甘くて苦いものは美味しくないと思ったのです。ですが、別の日に別の人が、ゴーヤは苦くて敬遠している人もいるけれど、あの苦さは癖になる。塩もみとか湯通しなどの下処理をすれば美味しい料理が作れるのだ、と言ったのです。これはパソコンの時と同じで、未知のものに対する好奇心を持って一歩前に出ようかどうしようか迷っている私の背中を押してくれた言葉でした。このように比べてみると自他がよく見えて来ますね。ただ、逆に言えば、悪意を持って他者をコントロールして何かを買わせるとか、自分の言うように行動しなさい、などと言って暗にコントロールする事が可能になるとも言えるのですから、相手の話を注意深く聞く事が大切ですね。情報のどの側面を強調して伝えるかによって他者を操れるという事もあるのですから。今のような世の中では、そのような事も考え、用心しなければならないのかも知れないと思います。

12月12日、柿の葉脈と

今年も柿がよく色づき、里はいよいよ冬、です。秋には柿の葉の紅葉が進んで行くのが楽しみでもありました。葉脈を少しずつ繊細に染め分けて行く様子は、上質の絹糸が染め上がって行くのを見ているかのようです。光沢が美しく、いかにも手触りが良さそうに感じられ、まるで一枚の葉の人生の実りの時の生き生き生きている姿を見せてくれていたのだと感じます。でも、もうすぐ落葉、この一枚の柿の葉は、私に生きるという事を無言で教えてくれたような気がしいます。できるだけ温かく心豊かに生きて欲しい、そう話しかけてくれたのだと思うのです。最後まで共に居て見守りたいと思います。本当は私の方がこの葉に見守られて来たのかも知れません。年を重ねる毎に、出会った人達、出会った様々なものに教えられて私の毎日がある、これがお陰様で、という事、そう気付き、また今日も未知の日へと一歩歩みを進めて行きます。

12月6日、菊と私

庭の小菊がびっしりと蕾を付けています。赤紫色やオレンジ色の菊は次々と咲き始め、暖かい日が多かったとはいえ漸く師走らしさを感じます。昔、雨月物語を読んだ事があり、その中の、菊香の契り、という話を思い出しました。菊は凛としているように見えますが、この、背筋を伸ばして生きている菊には自尊心があるばかりでなく、喜怒哀楽の感情もあるのではないだろうか。俯いてため息をつくような日もあるのかも知れない、などと思いました。前夜の小雨が雫となって花びらに残っている様は、朝の太陽に輝いてとても美しいものです。けれどそれは菊の涙なのかも知れません。私はこの菊の生きて来た日々に、その身に起きた出来事を知らないからそのように感じるのでしょう。美しい花を咲かせ、よい香りを漂わせている菊にもその奥に複雑な感情があり、生きる喜びだけでなく悲しみをも知っているから、人間が足を止めて思わず見入ってしまうのではあるまいか、これが互いに惹かれるとか共感するとかいう事のように深く思ったのです。今この瞬間、この場所で共に生きていて出会った私と庭の菊、不思議なめぐり合わせというものなのかも知れません。出会いはすべて大切にしたいと思います。人間は後悔する事も多いですが、もう一度そこに戻ってやり直す事は絶対に誰にも出来ません。振り返ってみますと、私にもそのような後悔は何度もあり、それは苦いとか痛いという感覚に近いように思うのです。思い出すのではなく、経験した様々な出来事がいつも私の心の中にあって、普段は私と共に歩いている、私に寄り添う影の様であるのですが、丁度その出来事の起きた季節になると私の横に並んで生々しく顔を見せる瞬間がある、という風なのです。ですから、痛みを感じても非常に生々しく、懐かしくもあるという不思議な気持ちになります。白昼夢ではないのですけれど。窓の外には今年も痛々しいほど美しく紅葉した楓が風に揺れています。思い残す事もあるのでは、私はそんな気がしましたので、散っても単なる枯れた葉として扱う事は出来ないだろうと思います。咲いている一本の黄色いカンナが、過ぎて行った日々を忘れないでと私に語りかけているように感じられます。初冬の朝の冷え込みはカンナにとって随分辛いでしょう。今年最後の夏の花の姿はいつまでも私の瞼に、心に残る事と思います。

12月1日、インターネットの情報の奥

車は便利です。田舎での高齢者にとっては猶更です。運転を誤ると事故につながるのだとは分かっていますが。車を運転する人の多い今の世の中は速く通り過ぎる匿名の人が多く行き交っているとも言えます。例えば、誘拐に用いられたら、自家用車のなかった時代よりも足取りが追い難い場合も多いと思います。しかし、多くの人が車を持ち運転している時代を、危険が潜んでいるかもしれないから昔のような世の中に戻すために個人が車を運転してはいけないなどと言って不便な頃に戻すことは出来ないでしょう。そのような事はおそらくインターネットの利用についても言えるのではないでしょうか。インターネット上には実に様々な情報が掲載され、誰でも見る事が出来ます。その情報が正確なものなのか否かは発信元とその意図によります。それをよく見極めないと信用して良いのか信用出来ないものなのかの判断を間違う事になります。周りの人が信用しているのなら自分も信用して大丈夫だなどという根拠はどこにもありません。未来の世の中は様々な事を学び、生きて行く子供達のものであり、託すとも言えるものだと思います。その未来の社会への方向を、虚偽、あるいは疑わしいインターネット上の情報に基づいて私達が動かされる事は、人の心理を巧みに悪用した劇場型の犯罪の観客を演じさせられ、片棒を担ぐようなものだと思いますから、情報には十分気を付け、精査し、その上で行動は慎重にしなければならないと思う事が増えている混とんとした世の中です。どのような学問も悪用することは許されない事だと思います。悪用は兵器を進歩させる研究ばかりではなく、例えば巧みに他者を操ろうとするような事も、昔よりも情報が多い分世の中に満ちている事をひしひしと感じます。私達は今、所謂何でもありという羅生門のような二十一世紀に生きている事になるのでしょうか。自由には必ず責任が伴うという事をないがしろにしての無責任な言動は、早晩言論の自由が狭められて行く道を開くことになるという事、インターネットで自分の都合の良いように他者を操ろうとする人がいる事、物事を判断する時にこの二点を、見たり聞いたりする側がその都度注意深くしっかりと見極める事がとても大切であると感じています。将来の社会とそこに生きて行く人達に出来うる限り歪んでいない社会を残したいですね。

11月26日、向き合う事に躊躇する

最近ある人が具合が悪く、入院しているという話を聞きました。知らなかったものですからお見舞いをどのようにしたら良いのか迷っています。その方は私より年上で昔から存じ上げている方です。とてもお元気で羨ましいと周りの人達の多くが思っていました。せめてご家族にお目に掛かろうかと思うのですが、気が重いのです。人は皆年齢を重ねて行きますし、いずれは身体の具合が悪くなるのは分かっている事なのです。人が病んでいると聞くと、人生は有限だという事をその度に突き付けられたように感じるから気が重くなるのだと思います。もし自分がとても長く生きたら、よく知っている年上の他者は一人もいなくなるでしょう。それは何度も痛みを感じる事になるのですから避けたい気持ちになるのだと思います。敬老の日に、高齢化率が上がり元気な高齢者も多いと毎年報道されますが、若くはない私は、子供が少なくなっているこの社会の中で何だか肩身が狭いようにも感じる報道です。抱いていた夢や希望は努力をしてかなえられる事も勿論ありますが、限りなくという事はありません。生き続けて来たという事は人と関わって喜怒哀楽を味わい、多くの人を見送って来た事にほかなりません。その一つひとつの棘のような痛みを感じるという事は、ちょっと可笑しな言い方ですが、自分は生きているという事なのです。自分を省みて、アンビバレントな感情に揺れ動きながら何となく時間というもののの中を生きて来た側面もあるのだろうかという疑問が浮上してきて私はとても複雑な気持ちになりました。ぼんやりと考えながら作った料理に胡椒を入れすぎてしまいました。私は香辛料の足りない料理のような人間なのでしょうか。

11月22日、リンゴの季節

リンゴの季節になりました。スーパーにも色とりどりのリンゴが並んでいます。今年も、緑色で、一部にぼかしたように赤がほんのりと美しいぐんま名月に引き寄せられて買い求めました。笑顔の優しい穏やかだった彼女の旅立って逝かれた十一月がまた巡って来た事を受け止めるのは何年経っても重く辛い事です。暫くリンゴと対話したいと思います。今頃どうしているのだろうかと、星と飛行機の共演のような夜空を見つめていますと、瞬く星に音があるようにも感じられて寒さを忘れていました。いつまでもそこにそうして居たいような気持ちになった晩でした。過去を過去と認めて向き合う事は麻酔なしで手術を受けるようなもの、私はいまだに苦手です。

11月16日、静かで穏やかな朝に

昨日も、朝ラジオ講座を聴きながらミルクティーを飲んでいました。静かな朝です。ドイツ語とスペイン語をここ何年か聞いています。日常生活の中で使う機会がありませんからなかなか身につかないのですが、好きなので続けています。朝のこの時間以外には再度聞く事が出来ないと言うつもりで、耳を澄ませて真剣に勉強するこの時間は至福の時だと、感謝しています。私にとってこのようにして自分がいる穏やかな時間、この瞬間にも戦争で命が奪われて行く人達がいる事を思いますと、突然飲んでいるミルクティーに幾つもの棘が入っているような気がして飲むのが辛くなりました。飲み込み難いもの、と言う風に感じたのです。何も出来ない焦燥感、自分だけがこのように過ごしている事の罪悪感、そのようなものが胸いっぱいに広がって行きます。嘗て、戦争に抗議し、パリで焼身自殺をしたフランシーヌが、世の中は何も変わっていないのね。進んだのは科学で、戦争の為の兵器の研究が突出している。それにあなたはどう向き合っているのか。そう言われたような気もしました。でも、だからと言って棘と言う連想は止めようと思います。棘と言うのは自分に刺さるだけでなく、相手に不快感を持った時に、その相手をめがけて私の意思で刺すものであるからなのでそのように思ったのです。お互い出来るだけ丸い気持ちで人とのコミュニケーションをするようにしたいものです。人間の心の奥は気付いていないマイナスの感情も潜んでいる分からない事の多いものだと思いますから、完璧な人間はいないのではないでしょうか。ある人の考え方や感じ方が素晴らしくて非の打ち所がないものである、等とは、ある部分に焦点を当てているから言える事なのではないかと思います。その人らしい所が人それぞれにあるように、見方によってはマイナスの所もある筈、という気がします。朝晩の気温が漸くひんやりと感じられ、空は澄み、秋が私の隣に並んで共に歩いているようになって来た今年の晩秋に、私はどれだけ自分の深層を見つめ、冷静に、柔軟に、そして広く、現実の中を生きて行く事が出来るようになるだろうかと、不安もあるけれど、その事がささやかな楽しみでもある、などと思いました。

11月12日、傍らに人ありて

このところ強盗のニュースを聞かない日はありません。収入の多い仕事をインターネットで探すとそのようなものが仕事として見つかるようです。そしていつどこの家から金銭を持ち出すかを割り振るらしいですね。当日初めて顔を合わせた人達はお互いを知らないので、途中でやめようというと危険であるかのように思えて止められないという心理を巧みに利用しているのだと思います。日本中どこが安全だという所がない状態と感じます。ただでさえ災害が多いというのに、この困った問題はインターネットを悪用することによって引き起こされています。便利の裏側という気がします。先行きが不透明で若者は仕事が安定せず、うつ状態になる人も、先進国の中で日本が非常に多いという報道がありますから、日々の生活に必要なお金が、働いても思うように手に入らなくて希望が見いだせない、そういう状況だという事は私にも分かります。けれどそれが強盗をしてもよいという事にならないのも事実です。多くの人が苦労をしながら懸命に生きています。やはり、自分がされて嫌なことはしてはいけないと思うのです。どのように取り繕った言葉にしてみたところで、強盗は犯罪であり、仕事ではありません。捕まるまで続けざるを得ないと考えて続ける事は自分を含めた誰の為にもなりません。踏みとどまり通報する勇気を持ってほしいと願います。孤独で苦労している人の多い世の中であるようにも思いますが、人間は一人では生きられないのですから、目に見えないところで、人のお陰で暮らしているのだと思います。例えば、お金を支払って食材を買うことが出来るのは、作る人や運ぶ人、そして売る人がいるから私達の暮らしのある部分が成り立っていると言えると思います。戦火の拡大と不可分なものの値上がりも甚大だと感じますが、戦場ばかりでなく、年齢に関係なく多くの人が毎日戦争のために無差別に命を奪われている今という時代が、私には不可解でなりません。国内外を問わず、気候をも含めて先の見通しなどつかない混とんとした、刹那的な世の中、今まで経験した事のない速度で引っ張られているように感じています。未知なものは不気味でもあります。現実はオンラインゲームのように、してしまったことは決してリセット出来ないのですから、傍若無人な振る舞いをしないで、傍らには悪意など持っていない人達が必ずいるという現実を信じ、行動して欲しいとただただ願うばかりです。今生は一度きり、互いに命は一つしかもっていないということの重みを大切にしたいですね。

11月7日、樺色の

樺色とはどんな色でしょう。赤みのある橙色なのだそうです。私は黄土色がかった茶系の色だと思っていました。ですから、樺色の花は思っていたよりも明るく目立つ、美しいものなのでしょうね。実は、源氏物語の中で、紫の上の事をそのように例えた登場人物がいた事をふと思い出し、急にこの樺桜という花がどんな色なのだろうかと気になったのです。紫の上は光源氏に正室のように扱われた女性ですが、高貴な女性を正式な二度目の妻に迎え、紫の上は複雑な気持ちになっただろうと思います。幼い時に光源氏が引き取り養育した女性で、母に似た藤壺の女御の血縁の人でもあったと思います。物語の中の光源氏は生涯母を求め続けたようにも思えますし、花の美しさを知ってはいてもそれぞれの花の香りを深く味わう事が十分に出来ない人だったようにも思えます。でも、これは非常に浅い一面的な捉え方なのだと思います。うろ覚えの所があるのは、長い源氏物語をすべて読んだわけではなく、内容そのものを深く理解し、味わう事がなかったからなのです。あまり興味が持てませんでしたが、今になって考えますと、色々な登場人物の人生を垣間見せてくれた紫式部の胸の奥深くにあったものや、登場人物の表現の仕方には優しさや余すところなく登場人物の性格や胸の内を想像させる鋭いものもあって、この長い物語を世に残した感性、頭の良さなどをしみじみと思います。時代が違っても変わらない人間の奥深くに潜むものと現実の暮らしをつい対比して、今の時代の自分達の心の奥を覗いている自分に気付きます。その表面には澄んだ水の深い瓶のようなものがあり、その器の中の水に自分を映す事は鏡を覗き込むようなもの、水鏡の中の自分は一体どのような表情をしているのでしょうか。樺桜と言う紫の上のイメージは、私には重ねの色の、つまり内側の着ているものの襟が朱に近いオレンジ色で、僅かに見えていて、それは立体的でなく、和紙の千代紙で重ねの色を表したような、平面的なイメージです。お年寄りに育てられ、おおらかではあっても、伝わってきた古いものを大切にし、折り目正しい童女のような。光源氏にその時々の気持ちを十分に理解しては貰えなかったであろうこの登場人物は、彼より先に亡くなります。その時から、光源氏はあれこれ思い悩んだ事でしょう。辛く苦しい胸の内のあれこれを思って現実の中を生きて行く彼は漸く人間らしく生き始めたと思えるのですが、それぞれの登場人物が、子供の時から自分の人生を一生懸命生きている様子を描いていた、と言う風にも感じられる、私にはまだ分からない所の多い、深い物語だと思っています。

10月31日、空白

暫くパソコンを使う事が出来ませんでした。今まで使っていたパソコンの状態がおかしくなり、あれこれ調べて試したのですが結局Windows11搭載の物を購入しなければならなくなったからなのです。パソコンは決して安いものではありませんが、来年十月Windows10のサポートが終了すればセキュリティの保証がなくなるわけで、それまでに今後どうするか考えなくては、と思ってはいたのですから買い替える時が早く来ただけとも言えるのです。でも、新しいものを使えるようになるまでには時間がかかります。私は昨日から恐る恐る使い始めたばかり、といったところです。パソコンやスマートフォンがないと不便だと感じる時代になったと痛感しています。半面、この便利さは地に足の着いた暮らしなのだろうかという疑問をも感じます。ものの見方考え方はどの側面に焦点を当てるのかによってかなり違うものだと改めて思っています。トータルで見る事は思ったより難しいものなのかも知れません。パソコンがないと不便でしたけれど、なりすましたメールの削除という、短時間の割にはストレスになることをしなくて良かったのも事実です。ですから、例えばテレビやラジオを使わない日を作ってみたらそこから何かに気付けるという事もあるかも知れませんね。そのうち試してみたいものです。

10月20日、地球の断層

心を込めて何かをしない事は自他を大切にしない事であり、時間を無駄にする事だという話を聞きました。漫然として用事をしている事は案外多いように思います。それでも作業そのものは無事に進んで終了するのですが、心を込めてしないと雑にしてしまうし時間を無駄にしているという事だと思います。私もそのようにして何かをしている事があります。心とか魂と言うものを大切にする事につながるから、などと考える事を、知らず知らずおろそかにしていたと思います。人生の時間は有限なのですから、これからはもう少し丁寧にして行きたいと思いました。地球は温暖化の影響で信じられないほどの大雨、高温、また竜巻などがしばしば起きるようになっています。人災と言える戦争や紛争も起きています。同じ時代に違う場所で、比較的穏やかで豊かに暮らしている人と飢餓に苦しんでいる人、戦争で今日一日生き延びられるかさえ分からない人、環境が大きく違う人々がこの一つの地球に同じ時間を生きている事が不公平にも見えてきます。歩み寄る努力をもう少しする事が出来たら少しは良い方向に向かうのではあるまいか、と思うのですがそれはなかなか難しいというのが現実なのだと思います。地球のあちこちに断層があるようだと感じましたが、それは人間の心の内にあるのだろうとも思うのです。ただ、いかにも消極的な考えだとも思うのですが、断層は地球が分解するような深いものではないでしょうから、何とか一縷の望みを持っていたいというのが私の心の内なのです。

10月15日、秋に移行する

十月の初めのある日の事です。その日は晴れていました。この夏はカンナの花が去年までと違って少なかったのですが、庭に目をやると、十数本のカンナが一斉に黄色い花を咲かせていました。黄金色の花は夏よりむしろ色が濃く見え、すぐそばに咲く淡いピンク色の秋桜達ととてもよく調和しているように感じたのです。けれど、カンナとコスモスの咲いている境目のような場所が、夏と秋の境目でもあるのだなあ、とも思えて、ゆっくりではあっても、一瞬たりとも留まらず動いて行く季節の変化を目の当たりにしたと意識した珍しい朝でした。まるであの暑かった強烈な夏が私に、さようならと告げているようでした。ふと、夏の優しさを垣間見たような気がしました。一期一会である人と自分との出会いと別れを重ねて行く事が人生なのですね。急に去って行こうとしている夏を引き留めたいような気持になりました。でも、もう決して留まっている事は出来ない存在の夏をまだ幾らか感じながら、私は万感の思いを込めて暫く庭に立っておりました。過ぎて行く人にも物にも、ただただ感謝の気持だけを持って。夜は涼しげな鈴虫に変わって、コオロギが秋の庭に趣を添えてくれます。

10月10日、迷路の秋

我が家の庭には黄色やオレンジ色のカンナ、ライラックピンクのメキシカンセージ、白やピンクの秋桜などが今もまだ咲いています。今年の夏から秋への移行は随分遅いようです。九月二十五日には雨が降り、日中の気温が二十度までしか上がらず、一気に秋が進んだかのように感じられ、翌日には淡いピンクの秋桜の色が幾らか濃くなったように見えました。植物は季節の微妙な変化を感じ取っているのですね。凶暴で無機質と感じられる地震や大雨の甚大な被害が増え、ニュース映像に衝撃を受けているのは私だけではないと思います。何ともし難く、そして気持ちが萎縮しているようにも感じます。天災と、戦争と言う人災のどちらも少しもなくならず、だんだんひどくなってきているように思う昨今です。自然豊かな広い所でのびのびと深呼吸をしておおらかになりたい、そのように思うので、少し気持ちを変えてみたいと思っています。今日は六十年前、東京オリンピックの開会式が行われた日、感慨深い一日になりそうです。

10月5日、一番美しい瞬間の直後

萩祭りの翌日の野草園の美しさについてお話しした事がありましたけれど、紅葉などすべてのものが一番美しい時を少し過ぎたら後は時間と共に終わって行きます。次のシーズンまではもうその美しい自然とは会う事が出来ません。一番美しかった日から一日過ぎても多分美しさはそう変わらないでしよう。でも、皆で美しさを愛でた日の翌日に、幾らか片付けが残っているほんの少しの、宴の後のホッとしたような花や木々の寛いだ姿、ちょっと終わりに向けて動き出したようなその風情、このような状態が私は一番美しい時だと感じるのです。一番美しい時はほんの一瞬です。それは人間も動植物も同じではないでしょうか。美しい時、元気な時、希望に満ちている時は飛ぶように過ぎて行ったように思いがちで、後で一秒たりとも過去に戻る事は決して出来ないのが、ある意味誰にでも平等な現実です。有限の今生だという事が分かっていながら、やはり厳しいと思い知らされる時がありますね。終わりに向かってほんの少し時間が進んだ、つまり満開の翌日は時計で言いますと針が一秒進んだ程、距離にすれば一ミリ位なのだという事をはっきりと感じ、例えようもないほどその美しさと、やがてやって来る終焉の哀しさに魅了されます。手を差し伸べようとしても、ガラスのオルゴール人形が優しい微笑をたたえ、しかし差し出した手は、残る者の気持とは違ってあくまでもガラスである、と言うような状態にも似ているのです。うつろう季節を私は引き止めるすべもなく、かける言葉も見つからないまま、ただ黙って立ち尽くしている、と言うような状態になります。去って行く季節の中の存在は悲しみと、けれどそれを決して口には出さない覚悟をしているように私には見えるからなのです。このような感覚、感情を持った性格の自分なので、思い残す事が多い人生になるのだろうと思います。思索する秋と言うよりは縁のぼかされた車窓に映る今までの自分の姿をぼんやりと列車に乗って見ている自分、とでも言ったら良いのでしょうか。

10月1日、月の光

九月十七日は中秋の名月、以前は晴れると良いと思っていましたが、今年は五年前の丁度その頃の台風の被害を思い出して何事もなく過ぎて欲しいと思っていました。とても美しい月でした。以前はこんな事はこの場所では一度もなかったなどとという事が自然災害ではもはや通用しなくなっています。太陽は暖かく明るいですが、夏の酷暑に太陽のエネルギーの強さを感じる事も多い昨今です。暖かさや明るさは豊かな恵みには不可欠で、人間にとっては有難いものでもあるのも確かです。でも私は時々、隅々まで照らし出す太陽の明るさが疲れている人にとっては強すぎる元気いっぱいのように感じられて、月の光も良いと思う事があるのです。月の青白い光が冷たいと感じる人もいますが、私にはどこか優しげに感じられます。照らされている部分以外は闇夜でなくても暗く、すべてを白日の下にさらす事をしない優しさと言う風に感じられ、傷ついた人や疲れている人を労わるように、心を休める場所となってくれるように思うのです。優しく母性的とでも言ったら良いのでしょうか。ですから、同じ場所でも晴れた日の昼と夜では随分雰囲気が違いますね。同じ人もその時によって、場面によって、あるいは視点を変えると違って見えて来るという事に似ているように思います。人間は一面だけではなく、広くそして深い奥行きを持っているから人を理解する事が難しいと感じる事もあるけれども、だからこそ私は自他への興味関心は尽きないのだと思います。人が、自分の事だからこそ分からない事が多いと感じるのは認め難い傾向に気付きたくないという防衛が大きくかかわっているようです。いつの間にか鈴虫よりコオロギの声が際立つようになりました。秋が一歩ずつ進んでいるのか、それとも、秋の中に足を踏み入れた人間がまた一歩歩みを進めたと言う事なのでしょうか。久しぶりに、ずっしりとした手応えの、ホロヴィッツの月光を聴いてみたくなりました。

9月26日、夢の空は茜色

不思議な夢を見ました。小学生の頃、開発が進んで人口が増えた所に、車で野菜を売りに来ていた人がいました。この八百屋さんは家族で新鮮な野菜を持って来てよく売れていました。その内スーパーの中の野菜売り場に入って商いをするようになったのですが、今はもうそのスーパーはありません。あの人達がどうしたのか私は知らないというだけでなく、普段その事は忘れていたのです。ところが、先日見た夢では、私が夕暮れ時に近くのコンビニに行くと、病気の赤ちゃんの治療の為に、そこに持って来た、値段を決めていない品物に対して一万円以上のお金を支払うと言うか、寄付のつもりで出して貰えないか、そういう内容の事を、沢山の食品らしきものを持って来て並べていた人達が言い、その中の赤ちゃんを抱いている若い女性が、あの八百屋さんの奥さんにそっくりで、多分一緒に来ていた人達も、あの八百屋さんだった、そのような夢でした。私はあまりお金を持っていなかったので、ピッタリと二つに折ってあった千円札を折ったままでその女性に渡して、少額だけれど役立てて欲しいと言いました。まるで何年も折り畳んだままだったような千円札を開かずに渡したという事にも意味があると思えます。多分開けたくなかったのだと思います。では本当に開けたくなかったものは何なのか、何故なのか、それがこの夢を考えて行く一つの手がかりになるだろうと思っています。本当は、貴方達は誰なのか、八百屋さん一家に何故こんなによく似ているのかと聞きたい気持ちで一杯だったのです。それだけの夢でしたが、あまりリアルだったものですから、目覚めてから暫くの間ぼんやりとしていました。ただ、あの八百屋さんは車で野菜を売りに来ていて、いつか店を持ちたいと思っていたのかも知れないけれど、もしかしたらそういう夢に向かって一生懸命働いていた時が一番幸せだったのではないだろうか、そんな気がして、あの奥さんの顔が目に浮かんで来ました。それは笑っているのか泣いているのか分からない表情でした。ですから、喜びと悲しみは紙一重だな、と感じた朝でした。うまく説明できず、理屈に合わないようにも思うのですが。その時その時を迷いなく、後悔する事のないように思いきり生きた、と言い切れる人生はあるのでしょうか。それはとても難しい事のように思います。いつでもどこでも様々な人間の思いが、入れ物から零れ落ち、過去になって行く場所に点々と取り残されて行き、列車に乗っている人のように前に進んで行く時間と人間の人生、そのように感じました。トンネルの中で立ち止まっていたようにも思えるこの夢、それが今の自分にとって深い意味のある事のように思えるのです。夢の中で、コンビニの窓から見た茜色に染まってとても美しかった晩秋の夕暮れの空は余韻の残るものでした。妙な言い方ですが、音に例えれば尽きる事のない潮騒のようでした。

9月21日、雑記帳に

母なるもの、とは優しさだけではなく飲み込むというとてつもなく大きな、とても抗えない力を発揮するものとも思えます。抗えない力にコントロールされるとか、うまく、つまり暗にコントロールされる、などと言う事を、自分と母親との関係を考えた時に感じる人もいると思います。子供の成長後も、影響を受けたくないのに磁石に引き付けられるような母子の関わり、そのような事も珍しくはないでしょう。親から愛されたい、認められたい、だから親に愛されなかった子供は生涯求め続け、他者との関係にもそれを投影する、となりがちです。大人になってからの親子関係は人間と他の動物はかなり違うのですね。ふと、母性には、感覚や、右と左くらい違うあらゆる感情が含まれているのかも知れないから動き出すと山が動く位周りに与える影響が大きいのだろう、などと思いました。複雑ですね。判断する時には学んだ事を基に考えるよりも、自分の感情や感覚を信じた方が良いと思う時があります。もっとも、感覚や感情と言うものは、思考とバラバラに存在するのではありません。人間がものを考える時の事を厳密に分ける事は出来ません。思考感情感覚が混然一体になっているのだろうと思っています。ところで、他者との関係がうまくいかなくなった時に、どのようにしたら修復出来るのかという事もなかなか難しいけれど、ノウハウではないように思います。他者との関係がうまく行かないというその事自体を何とかしようと考える事が多いと思いますが、それよりもっと深い、自分の成長する過程の環境の影響が大きい性格傾向を考えてみる方がうまく行かない人との人間関係が結果として自然にうまく行くようになるのではないだろうか。このような事をあれこれ考えてしまいました。その朝、台所に立ち、ラジオで古典講読を聞きながら、いつの間にか遠い昔の見も知らない世界に入ってその世界を味わっていた私は、深山幽谷の朝霧の中にでも居るような、澄んだ涼しさを感じ、至福のひと時を過ごした余韻の残る朝でした。こういう事は滅多にありません。今日は雑記帳に記すようにあれこれ思った事をお話しさせて頂きました。

9月17日、余力のあるうちに

気温が35℃を超えると、暑さの度合いが違うと感じます。最近はこのような夏が珍しくなくなって、小さな子供達はこれが日本の夏、と思って育って行くのでしょう。エアコンを使わない事が危険な地球の酷暑から、否応なく温暖化の加速とその深刻さを感じる毎日です。高温になると分かっていても用事があれば外出しなければならず、日傘やペットボトルの飲料を用意して外に出るようにしていました。それでも、お昼前後に37℃近くまで気温が上がった日に外出しなければならずに出かけた日の夜、帰宅後に涼しくして過ごしたにもかかわらず、何となく暑さの余韻が自分の中に残っているように感じられ、実際よりは少し遅れて疲れを実感したように思います。疲れは残っており、リラックス出来る状態になると、まるでその事が最優先だったように体感するのでしょう。副交感神経が優位になるとそのようになるのですね。人間に備わっている、生きる為に選択する優先順位を自然に選び取る能力、とでも言ったら良いのでしょう。秋になりましたが、まだ余力があると思っても身体は疲れているのでしょうから無理をなさらないように皆様くれぐれもお身体大切になさって下さいませ。薄日が差している空に白い薄い雲が所々にかかり、そのオパールのような輝きに、日々季節が少しずつ変わって行く事を感じます。

9月13日、線を引く

インターネット上に誰かの事、あるいは起きた出来事についての自分の意見を書くというのは難しい事だと思います。人への誹謗中傷になってはならないだけでなく、人名や地名は簡単には出せません。また、どのような事であってもまだ全容が分かっていない事について良し悪しを言う事は出来ません。ですから、そう難しい事でなくても、人は千差万別なので、私の考えは勿論、理論に合わせてであっても、語尾を断定的には書けないと思っています。それはあいまいな言い方とも言えるでしょうが私はやむを得ないと思うのです。確かに予知できる危険を伝える為などと言う緊急性の高いものではないのですから様々な配慮が必要なのは当然な事だと思います。それはインターネットをこのように使う時のルールとかマナーのようなもので、どの程度の事までは可なのかという線引きは各々考えておく必要がある事でしょう。間違っていたと分かって削除したとしても拡散後であれば広がってしまったものを止める事は難しいですから。投稿されたものが元でいざこざが起きる事は避けたいものです。便利さが他者を傷つける道具になってしまったとも思える事件が増えているようで心が痛みます。ですが、物事の反面しか考えずに便利だと思える手段をつい使いたくなってしまう所があるのが人間というものなのかも知れません。考えさせられる事の多い毎日です。情報の真偽、その取得、また発信が、過去が二次元だったとすれば、今は三次元の世界に急に放り込まれたようなものだと感じられます。時には瞬時に判断しなければならない事の多い変化の早いこの時代の動きの中で流されず、出来る限り後悔しないようにして行きたいですね。

9月9日、唖然とした夏

今までにない長い台風に驚き、疲れた夏だったように思います。低気圧になっても断続的に大雨を降らせて漸く遠ざかってくれました。４日間位夕方になると遠雷、という状態が続いたあげくの大雨でした。小さな秋が次第に増えて中秋、やがて美しく辺りを染める錦秋へと、今年も時と共に動いて行くのでしょう。昨夜は鈴虫の音に誘われたのかご近所の猫が庭に寝そべっていました。夕涼みのようです。久しぶりに見たのどかな光景でした。今朝になっても鈴虫の声が聞こえ、朝晩気温の下がるようになった秋の心地良さを満喫しているかのようでした。また、今年は蜻蛉をよく見かけ、その度に羽が、日本舞踊や歌舞伎で使われる絹の傘のようで美しいなあと思っています。値上がりしていないものがない昨今ですが、スーパーで五百グラム百九十八円の茗荷を見つけたので買い求め、酢の物にして秋を頂きました。茗荷は殆ど茎の部分ばかりでしたがこういう売り方は助かります。良いアイデアだと嬉しくなりました。様々な考え方や暮らしのヒントが身のまわりにはあるものですね。

9月4日、不平等の中での

迷走台風に振り回されて秋に向かおうとしている、その今までになかった迷走ぶりには戸惑うばかりでした。ところで、テロと言うのは決して良い事ではありませんね。でもなかなかなくなりそうにありません。テロ組織に入る人がいて、その組織が自分たちにとって社会を危険なものにするかも知れないという事を分かっていながらそれをまわりの人達が告発しないのは、危険な火種となるというより、種火にしておきたいと思うからではないでしょうか。それは、自分達がその国で差別されているとか迫害されていると思う状況が現実にあるから、そのような組織がなくなってしまったら一層差別され追い込まれてしまって非常に暮らし難くなると思っているからだと思います。そのような場合、テロ組織を力で潰してもまた似たような組織が出来るという事を繰り返すと思うのです。種火を、支え、もっと言えば時には希望にして暮らして行かなければならないという社会を変えなければ決してなくならないでしょう。時間のかかる事ではありますが、話し合って社会を新たにして行くという事だけが解決の方向へ行く道だと私には思えるのです。夜、途中から偶然見たのですが、ユダヤ系アメリカ人の若い学生たちがヨルダン川西岸地区を訪れ、自分の目でそのまちとパレスチナの人達の生活を見て、話を聞くと、学校で教えられた事とは大きなギャップがある事に気付き、最初は混乱し、そこから考えて行く、というテレビ番組に、後々まで残る教育というものの影響について改めて考えさせられ、この突き付けられた事実に正面から向き合いたい、そのような気持ちになりました。

8月30日、別れのない出会い

あちこちで行われる花火はとても美しく、華やかで豪華、そして緻密とも繊細とも、また大胆とも感じられるものです。どんなに綺麗な花火でも、それは一瞬のものです。束の間だからこそ余韻が心に深く残るのでしょう。でも、束の間と言うのは花火ばかりではないように思うのです。人間の一生も、何十年か後になって振り返った時にはやはりあっという間だったように感じられ、確かに残っている感情や感覚を含めた記憶が、やがては本当に自分に現実に起きた出来事だったのだろうかなどと思う事があるのか、が気になりますけれど、多分そのようには思わないでしょう。人生の中で出会った家族や友人、生まれ育ったまち、動物や植物、あらゆる存在との出会いによって自分の世界は広がり、視野の広がりというのは無限ではないだろうかと、子供の時や若い時は思っていたのかも知れません。ですが、出会った人や動植物の命には限りがあるので、いずれ別れる事になります。束の間の今生、その中である期間だけの関わり、と言いますと、とても淡いもののようですが、そのようなことはなく、皆かけがえのない、奇跡的な出会いであったのだと思います。親しい人や、家族のように暮らした動物との別れは辛いものですが、心にしっかりとかけがえのない日々の記憶がある限り、別れと言うものはないのかも知れない、などと思っています。今までのようなコミュニケーションは出来ないかも知れませんけれど。こんなに暑い毎日でも、もうすぐこの夏ともお別れです。今年の夏と言う季節と自分との出会いは一期一会なのだと感じます。八月はお盆月だからでしょうか。今この瞬間と言うものとの出会いと別れが数限りなく胸に刻まれ、私と言う人間を作って来たのだなどと考えていました。惜別と言う言葉が、夏だというのに冷気のように私の足元から心に這い上って来たような、飲み込み難いほろ苦さを持ちつつ、明日を迎える事になりそうです。

8月25日、雨上がりのあの夏の日

あれは昭和四十三年の夏休みだったと思います。その日は雨が止んだ後もとても蒸し暑い日でした。足跡がつくようなぬかるんだ地面から湯気が立ち上っているかのような、まとわりつくように暑く、どんよりと曇った中を、私は大叔母と二人でバス停に向かって歩いていました。隣町でNHKのど自慢の生放送があるので、その会場へ行こうとして、だったのです。着いてみると、中学生以上でなければ中に入る事は出来ないと言われ、その駅の近くの親戚の家に行き、その家の人達と一緒にラーメンを食べながらテレビでのど自慢を見ました。その時、時々画面に文字でニュース速報らしきものが出ました。それで、私は飛騨川にバスが二台転落した事を知りました。大きな事故で、川に転落したバスに乗っていた乗客の大半が流され、殆どの方は見つからなかったのです。十数台のこの観光バスは、名古屋で募集した、家族でのツアー客が乗っていて、家族全員が犠牲になったお宅もありましたし、後にその時助かった子供さんが命を絶ったという事も報じられました。その子供さんにとってこの事故は、非常に大きく、あまりにも深い心的外傷だったのでしょう。重く辛い心を抱えている計り知れない程の心の痛みは、親族の世話や慰め励ましがあってもなおどうする事も出来ない部分があったのだろうと思います。心からご冥福をお祈り致します。毎年夏の台風シーズンになると、あの蒸し暑かった雨上がりの事を思い出します。土砂の崩落、川の増水、現在の天気予報は随分前から詳しく分かるようになりましたし、携帯電話もあります。道路を通行止めにする事も、それぞれの地域の細部までの様子が分かれば迅速に出来ます。当時とは随分変わったのだろうとは思いますが、どのような事故も、過去の尊い犠牲を繰り返さないように予報や予測の精度が現在のように進歩して来た事を改めて感じています。咲き残っている紫陽花が可哀想なくらい暑い今年の夏ですが、蝉の声は何十年も前、私が子供だった頃と少しも変わらず、きっと昔の人も自分が子供だった夏休みのあの日にふと引き戻されるように感じる事があるかも知れません。その日その人は少年少女の頃のキラキラした目で一日を過ごしたのではないでしょうか。私も今日は子供時代の気持で一日過ごしてみたいと思っています。

8月20日、願い、祈り

台風は雨も風もそう強くはなく、この辺りは被害がなくて済み、ホッとしています。雛祭りの後の雛流し、七夕の笹も流し、そしてお盆に精霊棚に供えた物もまこもに包んで流す、という事を昔からして来たように思います。でも今はゴミを捨てる、という事になりますのでそのような事はしなくなりました。お雛様は形代としてその人の代わりに災厄を受け、持って行ってくれるので川に流したのですね。流すというのは災厄を持って行ってもらう事なのでしょう。暑さの中でお盆も終わり、ずっと以前に亡くなった人達の魂が、穏やかで安らいだ気持で、心地よく過ごせますように、と言う祈りや願いをのせて、西方へ流れて行く送り火の煙をしみじみと眺めておりました。少し前まで、この辺りでは近所の親戚が数人集まってお迎え火送り火を焚いていました。おがらを燃やし、各々が一把の線香にその火を移し、菓子折りの缶のようなものに土を詰めて置いた所にその線香を挿した状態にして置くのです。その線香が燃え尽きるまでよもやま話をしていたのですが、それは火が消えるまでその場所にいて見守る事が必要だというだけはでなく、互いの円滑なコミュニケーション、そして迎えた先祖、帰って行く先祖に、自分達の姿や暮らしを暫し見て貰おうと言う気持ちもこもったものであったのだと思います。すべてしきたり通りにする事は、時代の変化によって出来なくなりましたし、それはそれで良いと思うのですが、そのしきたりという形が出来たのは、思いやる温かい気持ちや感謝の気持ちが込められていたのだと思うのです。願いや祈りは人間の心の奥深い場所に今も昔も、どこに暮らしていても多分生きているもので、それは受け継がれて行くものなのではないでしょうか。今日も暑さの中に微かな季節の移ろいを探してみたいと思います。

8月15日、伝える前に

高温、地震への警戒、次々と発生する台風、息つく暇もないほど慌ただしい八月です。私が子供の頃、戦争を経験した人達は自分の周りに非常に多かったですし、小学校に入学した時の先生方にはまだ戦後生まれの方はいらっしゃいませんでした。親戚の方が、区画整理で墓地を移動するのは怖い、と言った方に、戦場では、今隣にいる戦友が一瞬の後に肉片になるなどと言う事が日常だった。その事への怒りや悲しみで落ち込んだり動けなくなったりする暇はなく、その目まぐるしい現実の中を生きる事の連続で時間が過ぎて行ったのだから、病んで亡くなり、葬られている人の眠る場所を変える為に手厚く扱う事が怖いとは少しも思えない、といつもと変わらない口調での言葉が今も私の心に残っています。戦場ではない場所での空襲、非常に食べ物に苦労した事、戦後に教育が大きく変わり、教科書に墨を塗った事、戦争で親を失った多くの子供達、今そのような実際にあった出来事を知らない子供や若い人達も多いのではないかと思います。私は戦争をあらゆる場所で、それぞれの立場で体験した人達の口伝えを直接聞いて育ちましたが、段々戦争を体験した人は減り、いずれいなくなって行きます。ある狭い範囲ではあっても、一人ひとりの人の体験談は細部まで生々しい事実を語ってくれたという事で、時系列で記録された数値とは重みや手応えが全く違うと思います。話してくれた人、直接話を聞いた私達世代、伝えて行かなければという思いと同時に、時間の流れの中でいずれは今生を離れる人間という、動いている時間の中で歴史が絶えず作られて行くただなかに存在している有限の命の自分達が何をどのようにすれば良いかと言う大変難しい問題を突き付けられているようにも思え、まずは歴史の事実と、人と人が共存して行くという理を知る姿勢が、犠牲の多かった戦争を受け止め、真に生きて行く事になりはしないだろうかと、考えさせられました。今日と言う日を、決して次の戦争の戦前にしてはなりませんね。明日は台風が接近するようですから、今日はまさに嵐の前の静けさを感じる日になりそうです。　

8月10日、疎外

障害のある方が入所している施設、津久井やまゆり園で、刃物で刺され、十九人が亡くなり、二十六人が重軽傷を負ったのが八年前の七月二十六日でした。中の様子をよく知っている元職員が起こした事件であり、障害が重い人はいない方が良いという言い分に愕然としました。私が学生時代に社会福祉の授業の時に、先生が、障害のある子供の福祉の父ともいわれる糸賀一雄先生の、障害のある子供達の事を、この子らに世の光を、ではなく、この子らを世の光に、と言う言葉を教えて下さいました。この言葉とこの殺傷事件とはあまりにも違う、と毎年思いだしてしまうのです。何かにつけ一定の範囲に入らないと思われる人たちに対して白い目で見ると言いますか排除しようという考えの人が今少なからずいるという事がとても気がかりです。孤独だと感じている人も、地域のつながりが希薄な場所では多いのではないかと感じる報道もあります。孤独と排除、自分が普通と言われる範囲に入っていようと、他者に合わせるようにしている、このような事と、この事件は私には関係があるようにも思われるのです。人間は一人では生きられず、他者と共に生きて行く存在です。責任が伴うのが自由であり、自分に自由があるのですから他者にも当然自由があります。互いに配慮し、その自由を認め合える範囲での自由が大人の自由という暗黙の了解が幾分忘れられているのでしょうか。疎外する事はやがて自分が今よりもいっそう孤になる事だと思います。他者を疎外する事は自分を疎害する事につながると思います。また、心を病んだ時、病院に行くとお医者様に話して薬が処方される場合が多いですが、心の実態はその全貌がなかなか見えません。けれど脳との密接な関わりがあるという事が分かっています。ただ、心の画像を見る事は出来ません。脳内伝達物質との関連が分かって、病に昔よりよく効く薬が出来たのは素晴らしい事であると思いますけれど、心を病んでいる人、悩みで行き詰っている人には、気持ちを分かってくれる他者が共にいる、そしてよく話を聴いていてくれると感じる事が、安心感やこの先に前を向いて進んで行こうという気持ちになり、支えになると思うのです。薬と、傾聴、共感は車の両輪のようなものだと思います。人はやはり人と関わり、互いにその存在を認め合って生きて行くものではないでしょうか。また現実に今と言う時代に起きた幾つもの事件の報道を見聞きしますと、二十一世紀の人間像が私にとってはいつの間にか今まで自分の知っている人間とは全く違う、見も知らぬ他人のように感じられて、霧の中を手探りで歩いているような気がする時があるのも事実です。一瞬たりとも立ち止まる事のない時間の中を大した自覚もなく、日々生きているようにも思え、今の自分を表すとしたら、疑問符、あの記号だと思いました。けれども、人間の持つ秘めた可能性に希望を持ち続けたいとも思っているのです。

8月5日、夏空から感じる秋

見上げれば真っ青な夏の空、時々そよそよと風が吹いて、暑いけれども爽やかです。アブラ蝉やミンミン蝉の声が賑やかですのに、七月の末頃から蜩の声の方が耳に残ります。次第に近づいて来る秋が、もう盛夏の後ろにピッタリとついて季節が変わるのを待っている気配を、今年は特に感じます。どんなに暑い日でもなぜこのように感じるのでしょうか。花火もあちこちで予定されていますが、花火は過ぎて行く夏を送るもの、という気がします。スーパーに買い物に行く時、踏切で電車の通過を待っていて思うのは、銀色の電車の車体に描かれている二本の横線です。日が過ぎ、季節は巡るけれどほとんど変わらない生活をしている自分が、ウクライナの国旗の色の電車のこの線をただ黙って見ているのだという現実、まるでその現実と言う箱の中に一ミリも動かず佇んでいる自分なのだと思いますと、忸怩たる思いと言うのはこういう気持ちを言うのだろうなあと感じます。今日は渦巻きの蚊取り線香を使って優しい気持ちになりたい、ふとこんな事を思いました。オリンピックが行われているのに、一方では戦火は止まず、人の命が毎日失われて行く、これをどのように考えれば良いのでしょうか。人間の欲の深さに際限がなく、あの人よりはましという、他者を自分より低く見たいという気持ちは決してなくなる事はないのだろうな、と思いながらもどこかに持ち続けていたい人間という存在への一縷の望みが私の心の奥にはあるのだ、パンドラの箱の隅に希望と言うものが入っていたように、と、暑さの中で思いました。

7月30日、必然の扉を開ける

ごく普通に育つという事は、比較的円満な家庭、仲の良いと言いますか意思疎通の出来る両親の元で育った人、という事になるのではないでしょうか。家族が、非常に仲が悪いとか、誰か一人の人が実権を握っていてその価値観によって家庭内で物事が決定されて行く事にほかの家族は逆らう事が出来ない、など、何か心に不安や不満を抱えているとしたならば、子供はその規範の中でそれに合わせるようにして育てられて行きます。これではのびのびと自分の考えや気持ちを言う事が出来ません。勿論そう極端ではなくても、不自然さに戸惑い、納得出来ないままに自由にものを言うとコミュニケーションが成り立たなくなる、心が傷付き他者不信になるという事が起こりがちな環境は、子供の心の成長には問題です。嘗ては非常に円満な家庭で育った人がカウンセラーとして向いている条件の基本だと思っていました。今もそれが間違っているとは思いませんが、自分がどのような環境で育ち、その影響が自分の物の考え方や感じ方にどう影響を与えているのかを理解する事が出来れば、カウンセリングは出来ないというものではない、と初めて伺った時には驚き、厚い壁に穴が開けられ、外の光が差し込んで来たように思いました。自分は偏った所のない人間だとは思えない所があり、心理臨床と自分を考えますとどうしても心に溶けない何かを抱えたまま学び続けていた状態でした。非常に電灯の明るい会場でしたので自分が場違いな所にいるのではないかと感じ、心理臨床について学ぶ事への希望と同時に押しつぶされそうな不安をも抱えていたのです。以前にもお話ししましたが、入院している母の付き添いをしながら学んでいたので、病院から会場へ来てまた病院に帰って行くという、気持ちの切り替えがかなり困難な状況でした。ですからその三十年以上前のその日の事は今も深く心に残っています。人間は、自分と素直に自然に向き合うという事には、抵抗があり、すぐに洞察が進むものではありません。また、自分が他者の話を傾聴している時にどのような話のどういう部分に自分の育った環境と重なるように感じて投影してしまわないか、などと考える事は一度理解出来ればもうそれですべて良いという簡単な事ではありません。けれど、自分に不足している所があると、それは決定的な欠点になるのではなく、そこに気付いた事を手掛かりに自分の深層を見つめ、自分に足りない部分をどのようにして行けば良いかを考え、行動して行く大切なきっかけになります。それが自分の成長につながるのですから、自己洞察、成長のチャンスは多くあり、生きて意識のある間は続くという事になりはしないだろかという気がして、マイナスだと思っていた事もプラスに考えて行く事が出来るのだとしみじみ思いました。今日はまるで夕暮れ時の雑踏の中を歩き続けて来た自分がふと立ち止まった瞬間だという気がしました。歩いては立ち止まり、振り返ってはまた歩き出すという事が生きている手応えであり、生きて行くという事なのだと思います。私はあの日、必然の扉を開けたのだと思います。そのお陰で紆余曲折を経てこうしてお話しする事が出来る今に、入れ物である身体と共に魂もがつながっているのです。

7月25日、歩みの向き

夢や希望を持って、どこか輝いていた子供から若い頃へ、と年齢を重ねてからと言うのは随分変わってくるものですね。何かを学んで身に付けよう、あの職業に就きたい、などと言うのは前を向いて外界の中で自分がどう生きて行きたいかという目標を持って日々努力をする事ですが、年齢を重ねて行くと当然残りの時間の方が短くなり、身体も徐々に老化して行き、気が付けば自分の過去から現在に至るまでの心の奥を知ろうとして、子供の頃とは異なる方向に向かって進んでいるような気がして、とても不思議な事のように思います。自分の心の奥深くを知る事は終わりのない旅のようなものです。抵抗と言うものが全くないという事はありませんので、限られたところまで、という事になるでしょう。でも、子供が世の中を知り、他者を知り、そして最後に自分を知りたいという欲求のような気がします。自己の深層とは暗い深淵なのかも知れないと思いつつ、私の好奇心に満ちた自分の無意識への旅はまだ当分続くのでしょう。謎を解き明かしたい、そんな気持ちなのです。

7月21日、極彩色から淡い色へ

誰でも子供時代を経て大人になりますが、家庭を持って自分の子供が産まれ、その子が思春期になると子供が無口になったり、今までとは変わってしまったように思えて、子供を理解するのが困難になるという親は多いと思います。ケースバイケースではあるでしょうが、そういう時に親は自分が歩いて来た道をつい忘れてしまっている事があるのではないでしょうか。徐々に、未知である大人になって行く時には、好奇心や不安など色々な思いがあって、だからこそ互いに友人が大切、という事になりますね。とても感じやすく傷つきやすいので、目の細かい笊のようなもので裏ごしする、と言う状態の子供。でも親は大人になっての経験から、いつの間にか目の粗い笊でものを漉しているような考え方で思春期の子供の気持や行動を見るようになっているのではないでしょうか。もう一度あの頃を思い出して欲しいと思うのです。実は最近知人が亡くなったという事を聞きました。とても穏やかで勤勉、家の周りも綺麗にして暮らしていらした方でした。奥様はしばらく前に亡くなってお一人での生活でしたけれど、お元気で、車も運転し、ご高齢でもしっかりした方でした。また、親切な方でもありました。用事があって訪ねていらした方が亡くなっているのを発見したのだそうです。今はこのような事も増えているようですが、存じ上げている方でしたので、水がじわじわとしみ込んでくるような重く複雑な気持ちになりました。静かにまじめにコツコツと働き、ご家族と暮らし、誠実な一生を送って来られたのでしょう。子供の頃、思春期、青年、そのような時期を経て、まるで濃い色の太い線画が、次第にパステルカラーの薄い線に変わり、スーッと消えて行くように、この方は旅立って逝かれたのでしょう。ご冥福をお祈りしたいと思います。自分の事ですが、年齢を重ねると、外界の刺激に敏感になって好奇心旺盛になるよりも、自分を省みてその心の奥深く分け入り、無意識を知る事によって子供の頃からの自分を理解して受け入れて行きたい、と言う風に、いつからか、物を見る向きが変わって来たように感じます。また、病む事や人の死というものの見え方や受け止め方も変わって来たように思います。

7月17日、対人感受性

先日パソコンのソフトの事で分からない事があり、その会社に電話をしました。待ち時間が短く、親切丁寧に分かりやすく教えて頂いて問題の解決のめどもついてホッとしました。このような時対応して下さる方は大変だと思います。技術的なサポートではない場合でも、電話をかけて来た人が何に困っているのかを適切に電話を受けた人に伝える事が難しい場合や、電話がつながるまでの待ち時間が長くてイライラしているという事もあり得るからです。ですから、電話をかけて来た人に何をどのように説明して問題の解決になるよう応対するかは、短い時間に相手を理解する事が出来るとスムーズに行くと思います。それは対人感受性が高い事が不可欠ですから、顔の見えない相手からの電話が次から次へと掛かって来るのに対応する仕事は神経を使う事と思います。私は電話を切る時にお礼を言い、季節の変わり目なのでお身体を大切になさって下さい、というような言葉も言ったところ、大変喜んで下さいました。多分これから先に会う事のない方でしょうし、もし道ですれ違っても分かりません。けれど、時代が変わっても、私たちは人間です。ソフトやアプリを使うのも人間で、機械ではありません。人と人との、相手を思いやるちょっとした言葉はコミュニケーションに大切なものであると思います。温かい言葉を互いに掛け合う事が人と人との繋がりには大切だという事を改めて思い、時代が変わっても人間は変わらない存在だという部分があって、人との関わりの難しさと楽しさは一枚の紙の裏表だと思えて、人間というものはやはり捨てたものではないと感じた一日でした。これからもこの、自分の気持をちょっとした言葉に表し、言葉をかけるという事をして行きたいと思います。今日は、ちょっと手前味噌は辛いという言葉に似たお話になってしまったかも知れません。

7月13日、怒りは悲しみ

私にはこのようなところがあります。ある日、地下鉄の電車に乗っていた時に、都内のある駅でその電車の運転が打ち切りになりました。人が電車と接触したという車内アナウンスがあり、前の乗客は後ろの何両目以降から降りて下さい、と言われ、皆それに従いました。窓の外側には手際よくブルーシートが貼られ、ホーム側以外見えないようにしてありました。私が驚いたのは、降りるために車内を移動している人のほとんど全員が、身を乗り出すようにしてブルーシートの貼られた窓の方を見ていた事でした。勿論何も見えなかったのですが、おそらくどなたかが亡くなられたのだろうと思われる直後の現場を見たいものなのだろうかと思って、とても嫌な気持ちになりました。何とか助かって欲しいものだと思いながら、別の路線の電車に乗り換えたのですけれども、非常に悲しい気持ちを抱えてその日を過ごしました。重く冷たい塊が心の中に居座ってしまった、そのような感覚でした。また別の日、以前にもお話しした事ですけれども、千葉駅で私の乗る路線で、電車と車が接触するという事故があり、出発が大幅に遅れて電車は立錐の余地もないほど混雑していました。数分先の駅から介助の必要な人が乗車するので席を譲って欲しいという車内アナウンスがあり、その駅に着くと、私の乗っていた車両に高齢のご夫婦が、駅員さんに支えられながら乗車しました。その時にもご協力お願いします、と駅員さんが言ったのですけれど、ドアからかなり離れた、対角線上に座っていた私が入り口の方向へ目をやると、殆どの乗客が目を瞑りました。信じられなくて愕然としたので私は席を譲りました。あの時も痛みのような悲しみを感じたのです。今日はこの電車は貨物で、狸を運んでいる、そのような思いがして、うそ寒い気持ちとは、こういう薄っぺらな紙を心もとない気持ちになりながらやむを得ず持っていると実感する事なのだと感じました。けれども、このどちらの場合も、私がひどく体調が悪い、とても辛い気持ちを抱えて落ち込んでおり、人の事に気が回らないほど心が閉ざされた状態であったら、他の乗客と大差ない態度、無関心、などという気持ちで行動していたかも知れないのです。人の事で怒りを感じた時、私はこのように考える事が多くなって来たようです。他者の寛容さに受け入れられ、時には許されて生きて来たというその出来事や場面は、多分私の人生の中で数えきれないほどあったのだと思います。それで、あの愕然とした時の怒りの奥にある本当の感情は、人の命や人への労わりについてあのような場面に遭遇した私のしみじみと感じた底知れない哀しみのような感情であったのだと思うのです。人間が生きて行く事は希望や悲しみなど様々な感情一杯の歯車が休むことなく絶えず回っているような事なのかもしれない、などと、今深く感じています。

7月8日、記憶を呼び覚ますもの

記憶に残るものというのはどのようなものでしょうか。喜怒哀楽の感情を伴う場面が多いように思います。美味しかったお弁当の味、色合いなども心に残るものだと思うのです。そして、五感で感じ、快不快を強く感じた事とでも言ったら良いでしょうか。見た目よりもむしろ匂いの印象が強く記憶に残っている出来事というものもあります。楽しかった時の花の香り、嬉しかった時に食べた物などは良いのですが、心に残る不快な出来事がある時、その時の飲み物の匂いはずっと後になってその飲み物が出された時に、不快な出来事から歳月が経っているので出来事自体は忘れていたとしても、嫌な気持ちになる、などという事があると思います。視覚だけでなく、又言われた言葉そのものというより、その時の周りの音や漂っていた匂いが、いたたまれなかった不快な場面であったから感じられたその時のその場面の中で、あたかも、物音一つ聴こえない静けさの中で時計の秒針が時を刻む音がいつまでも聞こえていたような感覚で、その匂いやまわりの音が記憶に残る、このような事は案外あって、記憶の奥に仕舞われて行きます。けれどこれは忘れたいという事であって、忘れたわけではありませんから思いだすきっかけがあれば思い出されるのですね。人間は、自分で思っているより多くの事をいつまでも覚えているもので、ただ年齢と共に思い出す力は、きっかけやヒントとなるものがないと徐々に衰えて行くと言われていますから、思い出したい事を思い出す為のキーワードの一つとなるのは、その時見たものという事になるのではないかと思います。では自分自身はどうなのでしょうか。

7月4日、文鎮も限度

書道では半紙を抑えるために文鎮を使いますね。例えば誰かがこれを皆で始めようとか、このように変えてみては、という事を提案した場合、皆はどうするでしょう。面倒だ、時間がない、などと思う人もいると思います。ではどうすれば良いか、それは提案者が熱心に説明するだけではなく、自分が時間もお金もかけて率先してやってみる、という姿を見せないと人はなかなか動いてはくれません。しかも、人の何倍も、です。やがて皆で新しい事に取り組んだり、以前のやり方を変えて行く事になった場合、何か面倒な事が起きると、最初に提案して始めた人に解決を任せたい、煩雑な事はこの人にやってもらえたら、などと言う方向に、とはならないでしょうか。どのような事でも、新しい事を、今の仕事に加えて始める事は忙しさが増して大変です。誰にも、一日は二十四時間しかありません。もう一人自分がいるなどという事があるわけではないのです。ですから、この人ならやってくれる、この人の事だから大丈夫、出来るだろう、そう思って、次々、最初に提案して日々努力している人についお願いしてしまいがちという場合も多いように思います。でも、それは押し付けている事になりはしないでしょうか。人間はいくらかは負荷がある方が良いと言われますが、度を超すと、一枚の半紙に文鎮を幾つも重ねて乗せているようになると思います。乗せられた方はたまりません。健康を損なう事にもつながります。そのような事を見聞きした時、私は、人間はずるいものだなと思うのです。お互いに文鎮はまず自分に乗せて重さを感じたら如何でしょうか、と言いたくなります。

6月29日、存在して

何かを知ろうとする時には先生が必要であり、それは正解を知っている人が先生というのではなく、より深い未知に身を開いて行ける人としてなのだ。このような事が新聞に載っていました。社会学者の方の言葉です。それは、自然体で柔軟、開かれているという事でもあるという事なのだと思います。縦横の人間関係、諦めず探求する、自他に対して誠実である、等も含まれているのかも知れない、などと思いを巡らしていました。どれ一つとっても簡単な事ではありません。先生という存在についてそう深く考えた事はありませんでした。小中学生の頃、自分で先生を選ぶ事は出来ませんし、その後もある分野について深く学びたいと考えた時にその分野に詳しい方に学ぼうと選択してきたように思います。そのように取り立てて深く考えて来なかった私にも、幾人かの先生の事は深く心に残っていますから、やはりそれはその先生がどのように生きていらっしゃるかと言う事、人間性と深くかかわっているという事なのでしょう。私は後ろ姿にも人生というものの手ごたえを感じる、自分が幾つになってもとても追いつかないような多くの先生方のお陰で、点の連続である自分の人生がおぼつかないながらも実線になり、意識と無意識、他者と自分とのかかわりなど考えて今こうして暮らしているのです。友人のお宅の小さなお子さんが、初対面の私のそばにタオルを持って近寄って来てくれた時に大事そうに持っていたタオルと、ちょっとはにかんだような表情、ライナスの毛布だと思って何かとても懐かしいような、未知の多い彼が羨ましいような気持ちになった時の事も今思い出しています。彼と過ごした時間が、自分の原点と向き合い、寄り添って、来た道を深くゆっくりともう一度歩き始めたような、つまり今とか今日というものを、このような感覚をも意識して二重に生きているような不思議な気持ちになっています。六月は沖縄慰霊の日のある月です。そして学生時代に家族心理学を教えて下さった先生の御命日のある月でもあります。大きい教室でエリクソンの発達段階について学んだ日々がつい昨日の事のような気がします。暫く、命とか生きるという事について静かに考えたいと思います。

6月24日、片陰を譲ってくれた人

新聞の俳壇に、片陰を優しい方が譲った、という意味の俳句が載っていました。さりげなく、ごく当たり前の事、と思っている方のそのしぐさが目に浮かびます。私は人に育てられ、きっと片陰を譲るような事を大勢の方から沢山して頂いて生きて来たのだろうと思います。それでは自分は何をして来たのだろうかと考えますと、例えば大人になってからの長い歳月、人に片陰を譲るような事をしては来なかったのでは、と深く考え込んでしまいました。一番大切な、目には見えないものであっても人と分け合う、そのような事はして来なかっただろうと思います。そう感じた事は私にとって重いもの、手応えのあるとても深いものでした。その中には様々な出来事の場面への後悔や悲しみなどマイナスの感情が色濃く含まれるのではなかろうかと感じた朝でした。ふと空を見上げますと、スーッと刷毛で描いたような絹雲が青空にのびのびと広がっていました。ゆっくり動く雲は羊の顔のような形であったり、それが駆け出そうとしている白馬のような姿に変わって行ったりと、見ていて飽きません。でも朝の炊事の途中で空ばかり眺めているわけにも行きません。空は毎日自己主張しないカンバスのようです。現れた雲と優しいまなざしでのコミュニケーションを続けて欲しい、滅多にない異様な色の空は荒天への不安を感じさせるから、そうではなく、穏やかな空であって欲しいと思います。子供のような心で振り返った、来た道。でも振り返った自分は、随分濁った現実の中をも歩いて来た年齢を重ねた自分であるわけです。私の後ろ姿は、果たして背筋が伸びているのかどうか気になります。このような重苦しい朝だったので、私にとっては大変な荒天でした。せめて現実の今日の空は真っ青に晴れて欲しいものです。

6月21日、麦秋に思う

黄金色の畑の麦が風にそよぐ梅雨入り前の季節、麦秋のこの独特な景色をもう一度間近に見てみたいなどと思う今日この頃です。世界のあちこちで戦争が続いていて終わる気配はありません。この先の気の重くなるように湿度が高く雨や曇りの日の多い梅雨に私の気持は一足早く入ってしまったようです。今年の夏をもう体感する事が出来ずに、今日明日にも戦争で亡くなって行く子供達もいるのだという誰にも分かっている現実は受け止め難い重いものです。二十一世紀が、科学以外の時計の針を逆に動かしてしまっているような先の見えない混沌としたものになるとは思ってもいませんでした。便利になり、幸せになる、というように漠然と思っていたような気がします。幸せは魔法のようなものではなく、一人ひとりが一つひとつ考えて選択しそれを構築して行くものなのだと私には分かっていなかったのだろうと思います。思いだされる、まだ小学校に入学していなかった頃の麦秋の美しい景色への懐かしさと同時に、あれから人間の心は他者と共存して行く為に何が必要なのかを理解し進歩しているのか怪しいものだと思え、迷路に入ってしまったような気持ちになりました。マイナスに物事を捉えてばかりでは希望が持てず、前に進めませんが、省みて自分の物の受け止め方や他者との関係に不足している点は何かを考え、時には疑ってみるというやり方でもゆっくり前に進む事は出来ると思います。どのような性格でどのようにして生きて行くのかは人によって違う事であり、それがその人その人の持ち味ですね。

6月17日、等身大の

親離れ子離れという言葉はごく普通に使われています。子供が育って行く段階に応じて、小さな子供の世話をするようにあれこれ指示したり、何かにつけ手を貸すという事をせず、子供が成長するにしたがって子供が自分で考え判断し、行動して行くのを見守るようにして行く事が出来るのが子離れで、親に相談し、親の意見をその都度取入れてほぼそれに従って生きているというのでは、まだ親離れ出来ていない、などと言いますね。このように口で言うのは簡単ですが、日常生活の細部ではなかなか難しい事だと思います。例えば私は、母親を一人の人間としてどれだけ見て来てそれを理解しているのかと考えてみると、やはり、子供だった自分と母との距離は近く、親という存在としてしか自分の目には映っていなかっただろうと思います。虫眼鏡も近づけすぎると狭い部分しか見えなくなります。遠すぎるとよく見えません。親子関係にもそのような事は言えると思います。私は、よく分かっていると思っていた母であり、私を一番理解してくれていた母の事を、一人の等身大の人間として見られるようになったのは、母が亡くなって三十年近い歳月が経ってからです。ある朝、ふと女性からは分析を受け難そうだ、と感じた事が発端でした。その理由が、一人の人間としての母への理解が不足しているからだろうと思いました。その時私は物を片付けていました。心の奥の母との事も綺麗に整理してみたくなったのは単なる偶然ではないと思います。どのような時代にどのような環境でどういう親に育てられたのかを含めて、冷静に一人の人間として、自分に最も近かった母親の事を振り返って見て考え、理解するという事はなかなか大変な作業です。親は大き過ぎる事もなく、又小さ過ぎる事もない一人の、普通の人間、あらゆる装飾を取り外した姿の親とその時初めて出会ったという、まるで地球の上に立ち、静寂の中で深呼吸し神羅万象を味わっているかのようで、素朴で澄んだ真空のような場所を感じ、そしてそれは地球の胎動にも宇宙の神秘にも匹敵するような事であり、それが冷静に、真に母親を知るという事なのだと思え、私の心は大きく揺さぶられました。これも自立して出来る事であり、それはつかず離れず人間同士としてかかわるという事だと思います。このような事がなかなか出来ないのは自分の中に、心理的に近い関係の人を冷静に見て考え、理解する事への相当な抵抗があるからでしょうね。たったこれだけの事をお話しするのにかなりのエネルギーが必要だったという事からもそのように感じます。

6月13日、塩と無意識

ある事がどうしても出来ない時、何とか出来るようになりたいと思う事がありますが、無理ではないと思う事なのにどうしても出来ない、そのような経験があります。その時、これを成功したいというよりも、成功しなければならないと思って取り組んでいる間は成功しなかったのです。ハードルを越えたいという気持ち、つまり自分の感情というものが、越える為の源になるのだと思うのです。こうしなければならないとか、こうすべきだというのは思考です。心の表層で強く意識しても、心の奥である意識していない所、無意識では望んでいなかったり躊躇していたりするとハードルは越えられないという事になりがちです。人間を強く動かすのは自分がその事を望んでいるという感情、その為に自分を突き動かす感覚といったものが重要ですから、あまり望んではいない事だけれども、職場ではその事をしなければならないので努力する、そのような事が多いと心は疲れます。自分の心に向き合うのは抵抗があってなかなか難しいと思う事もありますが、生きづらさを感じた時、出来る範囲で少しずつ向き合って見ると、自分が見えて来るのではないでしょうか。お汁粉の中には少量の塩を入れます。塩味が分からない程度の分量入れる事で、お汁粉の甘さがより感じられる深い味わいのものになるのですから、このような人間になりたいものだと、度々思うのですが、これはとても難しくていつも持ち越し、という事になっています。ぜひともそのような人になりたいとまでは、心の奥では思ってはいないのかも知れません。自分がそのような器ではない事を知っているからなのでしょうか。

6月9日、佃煮にする

毎日いろいろな出来事が報道されます。どういう理由かは分かりませんが悪い事がトップニュースになります。ブルータスお前もか、という言葉を時々思い出します。何時の時代にもどこの国にも、お前もかと言われるようなブルータスは、つまり裏切り者とでもいうような人は必ずいたのだろうと思います。人間は得をすると思われる側に付こうとする人が多いのかも知れません。それは目先の得の場合が多いと思います。蝙蝠のようにあちらに付いたりこちらに付いたりしていると信用を失います。ブルータスのような人、と例えられるような人は佃煮にするほどいると思います。でも、選択する時にどちらに付こうか迷うという事は誰にでもある事であり、その時損得を基準にしがちであると思います。人間の心の中には黒っぽく濁った水があってそれが時々自己主張するように思うのです。そのような所を持っていない人は少ないのかも知れませんね。ですから私にも当然あるのだと思います。なるべくブルータスにならないよう気を付けたいと思います。勿論人に流されてという選択は避けたいものだと考えています。

6月6日、難しくて味わい深い

人を理解して付き合うには、自然体で、相手の良い所を見ようとする言語非言語のコミュニケーションを心掛ける事で、自分と人とは違うのだという事を理解し、認める事なのだろうと思うようになりました。自分にそっくりな考え方や感じ方をする人ばかりだったら自分の欠点を映し出した鏡を見ているような気持ちになって来るかも知れない、いつからそのように思うようになったのか分かりませんが、そんな気持ちにもなって来ました。人と関わっていると、その人の今まで気付かなかった所が見えて来るという発見もあり、未知との遭遇だなとも感じます。怖いけれどちょっと楽しくもあります。そして、この事では自分の感じ方や考え方が正しいように思うけれど人間は千差万別で、別の事では私の気付いていない悪い所を黙って受け入れて付き合ってくれているのが大半の他者なのだと考えると、やはりこの、どうしようもなく面倒で厄介と思う時もあるご縁のあった人間同士、やりきれないような、愛おしいような、私が決して嫌いにはなれない、それが人間というものなのかも知れません。袖すり合うも他生の縁と言いますから。クライエントの方の辛い状況は、今日今私が聴いて共感している瞬間の重みと言うものをその時々で大切にする事で、その時間以外の時もその方を大切に、何か共に居る事になるのでは、と思い、他者の悩みの重さにただ圧倒されていつまでも押しつぶされそうになり難くなって来たのかも知れません。子供を心配している親の心の奥には子供と自分の絆に誰も立ち入って欲しくない強い思いがある場合がある事を感じる時もありますが、聴いている私はそれを即座には言いません。気づいてくれる時が来るでしょうから。生きて来た歳月が長くなるとその経験が、心理臨床を学んだ事と同じように人間の心を鍛え、優しくして行くのではないかと思う昨今です。それは折に触れて、自分の心の深層と向き合うようになった事が大きいと思っています。でも、口ではこのように言う私も、本当は腹が立つ事も愕然とする事もあります。年齢を重ねても至らない人間の私は未だ学びの道半ばです。

6月2日、思い出のかけらから

今年も家の周りの生垣が大分伸びて来たので私が剪定したのですが、長袖の上着を着てゴム手袋をしての作業だったのに、かぶれてしまいました。多分虫だと思います。腕や顔の周りが中心で、最初はそっとしておいたらその内に治るだろうと思っていました。日中起きている間は痒みがあっても自分の意思で何とか我慢していられるのですが、夜眠っている間の事は自分では我慢する事が出来るのか自信がありません。深い眠りの時は良いのですが、浅い眠りの、例えば朝目が覚める直前などに痒いので掻いてしまった事があり、病院に行きました。無意識は簡単に制御出来ませんね。その病院の近くまで行きますと、景色は全く違うものになっている筈なのですが、私は何となく懐かしい気持ちになります。現在は何軒かのクリニックがある場所ですが、私が小さい頃に汚れた手で目をこすってしまったらしくて目が赤くなった私を親が病院に連れて行ってくれました。その病院はこの辺りにあり、今ある何軒かのクリニックのお医者様は私が診て頂いたお医者様のお孫さん達なのです。何十年も前のある日、私の下瞼の内側に丸いガラス棒のような物で、とても真剣なお顔で薬をつけて下さったお医者様は、瞬きをしてご覧、とおっしゃいました。私が瞬きをしますと、ベタッとした薬でしたので幾らかものが滲んで見えました。その時先生がとても優しい笑顔を見せて下さった事が今も懐かしく思いだされます。会社は利益が上がるようになっても働いている人達には分配が増えていない今の日本の状態を、強欲インフレというのだそうで、戦争の影響の為ばかりではないものの値上がりのメカニズムに、とても複雑な気持ちになりました。物の値上がりは止まらないという先の見えない世の中で、虫にかぶれて病院に行かなければならなくなったけれど、生まれ育った地に住んでいると、時々綺麗な思い出のかけらが草むらからキラッと光って私に話しかけてくれる、このようなコミュニケーションも悪くないと思いました。

5月28日、コロナ禍だからの

改良品種のクリーム色のハマナスや2年目のデンドロビュームが咲いています。まだコロナに油断は出来ませんが、あれこれ思い返しています。コロナ禍というのは突然想像もつかない危険な事が起きた、というのがピッタリの出来事でした。学校まで休校となるなどという事は私が経験した事がなかったので、先が見えず不安でした。それでも新聞やテレビなどの情報を基に考え、行動して日常生活を出来るだけ今まで通りにして行かなければなりません。インターネットの情報の信憑性には疑問があり、殆ど見る事をしませんでした。マスクを買うのに苦労したという事もありましたね。私は、嘗て闇米があったようにおそらく闇マスクもあっただろうと思っています。世の中にはいつも決して見せられない美しくない裏があるようですから。人間の欲には際限がなく、それは時には恐ろしいほどのものだと感じます。そんな時スーパーに行くと混んでいる事が多く、中高年の男性も食材の売り場のレジに、いつもより大勢並んでいました。暫くの間そんな風だったと思います。ある日、スーパーに入った途端に、中の空気がピリピリしていると感じました。私が食材を探していますと、商品を並べている店員さんがいました。こんな時でもお店が開いていて助かります。でも万一事態が変わった時には命が一番大切なのですからお仕事よりあなたの人生を優先して下さい。物が足りなくても何とかなりますから。私は彼女にそう言いました。ありがとうございます。このところお客様からお叱りを頂戴する事が多くて。そこまで言った時彼女の目が変わったように感じました。幾らかホッとしたような、肩の荷を下ろしたような表情になったと思い、私もホッとしました。気恥ずかしくても話しかけずにはいられないそういう空気だったのですが、やはり話しかけて良かったと思いました。大変な時だからこそ少しでも互いの気持を推し量って心の距離が近い状態で歩んで行く事が人間の支えになって行くのではないかと、私はあの時思ったのです。また、感染症の拡大を食い止める為には皆の協力が必要で、そうしなければ感染症は広がって行くという事も忘れず伝えて行かなければならないと思います。未知の感染症はこりごりだと思っていますけれど、その渦中で教えられる事があった事は驚きでもありました。

5月24日、重い花筏は

アニメなどで、主人公が何かに迷った時にどちらの考え通りに行動しようかと迷う場面がありますね。例えばお金が落ちているのに気付き、拾って自分のものにしようか交番に届けようか、などと言う場合です。どちらを選ぶか心の中で天使と悪魔が喧嘩をし、片方を選ぶまでの様子が描かれているのを見た事が度々ありますが、そのような葛藤は人生の中で誰にでもある事だと思います。天使という、常識や法律に基づく選択だけをして行動出来れば良いのかも知れませんが、そのようにしていると、自分の心の奥に咀嚼出来ないものが残ってしまい、もっと世間など気にせずに自分の思うままの言動をして来れば良かったという後悔の気持がだんだん大きくなって来るのではないでしょうか。天使という言い方をしましたが、天使のように見える人の心の中にもマイナスの感情があり、とても悪い人のように見える人の心の中にも優しさや思いやり、多くの人が選択するような事を選ぶ事もあると思うのです。あまりにも良い人に見える人の心の奥には葛藤や揺れ動く複雑な思いが潜んでいると言えると思います。人との関わり方を考える時には、自分の心の奥を見つめて行く事になります。人の心は一枚の布のようなものではなく、中身があり、裏地のある、クッションの入ったクッションカバーのようなものである事を思う事があると感じるのは、新聞で事件のニュースを読んだ時です。今年の花筏も様々な人の思いや世の中の不条理を載せて行ったのかも知れません。

5月20日、自由からの

自由に生きたら楽しいだろうと子供の時思いました。それは、大人は自由にのびのびと生きているように見えたからです。働いて収入を得る事ですべて自分の思うような道を選んで生きて行けるのだろうと思っていたのです。今は、大人の自由には必ず責任が伴うという事が十分分かっていますから、子供は親に庇護されていての自由があるのだし、未来への夢や希望があって羨ましい、などと思います。言論の自由とか基本的人権の尊重は当たり前にあるものだと思っている人もいるのかも知れません。責任の伴わない自由は他者を傷つけたり他者に迷惑をかける事になる場合が多いのではないでしょうか。言論も基本的人権も他者を傷つけるような責任を考えないでの言動をする人が増えた場合、その自由は社会の為に制限される方向に向かうという事が考えられます。個人の自由を望むのならば、必ず責任をとれる範囲で、という事を念頭に置かないと、過去の時代に戻してしまうのではと、時々危惧するような事件の起きる昨今です。学生時代に読んだエーリッヒフロムの著書、自由からの逃走、をふと思い出しました。学んで行く事に終わりはなく、心の成熟に向かっての努力は難しいけれどとても大切な事だという私の気持はこの先も変わらないだろうと思います。

5月14日、志、思いはゆずり葉に

今年も蜜柑の花の濃厚な香りが漂う季節になりました。白い花と、次第に色濃くなって行く若葉、初夏は辺り一面緑に染めて行くような勢いですね。最近、様々な事件が起きたと報道される度に、驚く事が多いのです。一日で百万円の仕事、また、殺した人のご遺体を処分して欲しいと言われて報酬を受け取る、などという事はかつて聞いた事がありませんでした。非常に高額の報酬は犯罪にかかわる事でもない限りあり得ないでしょう。確かにお金は生きて行く為にないと困るものです。どれくらい必要と思うかは人によって違います。ですがよく考えてみますと、この世から旅立って逝く時にはいくら自分の物だと言っても、自分の意思で、元のままの姿をずっと保ち続ける事の出来るものを持って行く事は出来ませんね。生きているうちに努力して貯めた財産も持って行く事は出来ないのです。自分が人に分かち与えた目に見えないものや事は残ります。分かつ事は自分が持っているその何かが減る事ではなく、他者の心に残り、心を動かし、未来に向かってその他者が行動して行く源にもなるのだと思います。どのような事を話し、どのように行動し、どのように生きて行く自分の姿を他者に見せたのかという事が、私には一番大事な事のように思われます。集めるより分かつ事だなどと思うようになったのは、長く生きて来たからだろうと思います。例えば、松下幸之助さんの考えは古い、と言う人がいますが、それはその人が今の時代に居ての意見であり、松下さんはもっとずっと前の時代の人なのですから、後出しジャンケンのような意見に感じられます。古い井戸は、いつか誰かが水を安定的に得るためにずっと前に掘ったもので、どこを掘るかという事や、掘って綺麗な水を得るまでの苦労は並大抵のものではなかったと思います。でもそのお陰で大勢の人達が水に不自由せず、安心してその井戸の水を日常生活に使う事が出来たのです。今の時代は水道があります。けれど、井戸の水も何かの時には非常に役立ってくれるのですから、いらないものではないのです。定期的に手入れをし、綺麗にしておくという事が水を使える状態にしておく事であり、苦労して井戸を掘ってくれた人の思いを受け継いで行く事になるのではないかと思います。お陰様、とは陰ながら今も見守り支えてくれている人への感謝の心です。皆、多くの人の持ち続けた志と温かい思いのこもったその気持ちのお陰で、その事に支えられて様々な事を日々人として学び、生きて行く事が出来るのではないでしょうか。きっといつの時代でもどこの国でもそうだったのだろうと思います。時代の変化によって不具合が起きた事は柔軟に変えて行けば良いでしょう。ですから、井戸の事で言いますと、最初に、現在の井戸を掘ってくれた人のした事はやはり必要不可欠な事を一生懸命してくれたという事でその事実が少しも変わる事はないのです。伝えて行く事の大切さを改めて思うと、そこにゆずり葉の木を植えたいなあと思います。水を汲みに来た人の夏の暑さや冬の寒さを、きっと大きく成長したゆずり葉が軽減してくれると思います。心とか思いと言うものとの向き合い方、そして自分はどう生きて行くのかという事を真摯に考えようとした時に、分かつ事の意味や意義の深さを思うのではないでしょうか。分かつのは目に見えない、大きく重い、深いものを、であり、それは人間にとって決して蔑ろには出来ない大切なものなのだと私には思えるのです。そのように考えますと、たとえ犯罪にかかわる事ではあっても多額の報酬を得られるならば、という考えや気持ちは入って来る余地がないだろうと思います。大切にしたいですね。物も人も、自然も。その中に入っている勿論自分をもです。どんな人も一人では生きられませんから、人と手を携えて、見えない誰かとの助け合いの中で生きている事を折に触れて感じられるようでありたいと思っています。

5月10日、因幡の蒲の穂

人の話を聴く時、不慣れですとつい身構えてしまいます。こうしなければならない、と心の中で、学んだ事を反芻するなどと言う事をしてしまいがちです。私も思い当たる事があります。でも、自然体で話を聴くという事が大切ですし、いつの間にかそのように聴くようになっていました。傾聴によって悩みの源や、その人のものの考え方、感じ方がどのようにして今のようになって来たのか、それは生育環境が大きな影響を与えている場合が多いのですが、そのような事を話す側が体感した時の感情を含めて、振り返る事が大切でそれが自己を理解する事へとつながって行きます。部屋に入って来た時、お互いに相手を見て、その相手との非言語の交流が始まります。言葉だけでなく、むしろ態度や声の調子から話しやすそうかどうかなどが判断材料となります。悩みを他者に打ち明けるのは勇気がいる事です。共感するというのは厳密には難しい事だと思います。他者の心の襞は複雑ですから。薄い柔軟な不織布を、水が自由に出入りできるように人と関わり、傾聴する、そのように出来たら良いといつも思います。身構えず自然体で聴くと、人間と人間が相手を大切に思いながら真摯に向き合っていると感じられ、哲学に通じるものがあるようにも感じます。自分とは一体何なのか、簡単に答えられる事のない問いだと思っています。限られた時間を生きる自分と、悩みの解決を望む人との出会い、などと言っても、時間の概念も私には難しく、時間と自分と言う存在とは一体何で、どこに向かっているのか、手探りで暗闇に立って居るようにさえ思えます。心に深傷を負っている、あるいは感受性が非常に鋭くなり不安を抱えながらの毎日、と言う前思春期から思春期の、自分も過ぎて来た日々を今生きている懐かしい友人のような人達、もっと言えば過去の自分の片割れのような懐かしい存在の人達はとても傷つきやすいのです。どこか稲葉の白兎の全身で感じている痛みのようなものを心に持っているのです。その痛みに、蒲の穂のように接する事の出来る聴き方接し方が出来るように、と思っています。自分が無意識をも含めて出来るだけ等身大の自分を知る事は生涯続く事と思います。ところで、傾聴されると、自分自身、つまり自分の心の深い無意識の部分に目をやる事が容易になります。自分が社会の中で人と関わって生きやすいように考えて行動するという自分の考えで選択している部分も、無意識の中の感情や感覚、どちらもあって、そこに自分が気づく事が、自分を知り、生きづらさを軽減して行く源になるのでは、と思っています。人間の心は、幾重にも重なった花びらのようなものの奥にあるとても大切な自分の芯であると思うのです。大切にして行きたいですね。

5月5日、悲しみのエアポケット

紫の花菖蒲とレモンイエローの牡丹が真っすぐにスッと立って居る姿は、端午の節句に似合って清々しいと毎年感じます。昨日、何年か前に片方の目の白内障の手術を受けた時の事を思い出していました。手術前に何度も麻酔薬の入った薬の点眼をして頂いている間、台風が関西方面に近づいている影響で、窓には絶えず風が当たる音がしていました。遠くに海とアクアラインが見え、白く輝くような積乱雲は高く、そして次々と現れていましたが、私はこの雲の峰の中から円錐形の帽子を被った小さな妖精達が私のいる病室の窓に近づいて来るように感じたのです。まるでずっと昔会った事のあるような懐かしい人達が心配して訪ねて来てくれたような気がしました。手術前の私に寄り添い、私を労わり励ますために来てくれたように思いますと、普段は嫌なものだと思っている積乱雲が、私を守るバリアー、あるいは毛布のように、妖精達が持って来てくれた物という気がして来ました。そのような存在に私は安心して手術を受ける前の気持ちを整える事が出来たのです。そして、手術室に行くエレベーターの中で看護師さんと話しながらふと、イラクからやって来たモハマド君の顔が目に浮かんで来ました。大きな綺麗な目をした少年は紆余曲折を経て目の手術の為に来日したのです。この少年の陰に何人の日本に来る事が出来なかった、生きられなかったモハマド君がいたのだろうかと思いますと、私が手厚くして頂き、手術を安心して受けられる事に胸が熱くなり、そして胸が痛みました。手術は三十分とかからず苦痛ではありませんでした。途中で私は忘れられない光景を見たのです。せり上がりの舞台で高い所に上がってきたように感じられ、目の前には大きな湖のようなものが見えました。その湖は深い緑色で、水はぎらぎらと銀色に、まるでさざ波が立って居るように見えます。湖の真ん中に立って居るのは、枝ぶりの良い松の盆栽のようでもあり、傘の開き切っていない松茸の傘の部分のようでもあります。この大きな木には太陽の光が放射状に、眩しいほどにさしています。照らす光は白銀とでも言うような色で、何もかも今まで見た事のない、この世のものとは思われない不思議な美しさでした。それが何分位だったのか私には分かりません。そしてその後、いつもの日常の世界の見える状態になり、手術は終わって、順調に回復したのです。これは以前にもお話ししましたね。新型コロナ前の事でしたけれど、今は戦争がいつ終わるのか分からない世界となっています。あの時と変わらず、日本では今も病人が病院に入院し、手術を受ける事が出来ますが、病院にミサイルが着弾する、赤ちゃんも戦争で亡くなる、食べ物や水、燃料が非常に不足している、それが日常となって久しい国もあるのですから、手厚い看護が当たり前のような今のこの国で、進んだ医療を受ける事が出来る自分と、理不尽な日常の中にいる人達、そして多くの国で起きている様々な事に起因していると思われる国民の暮らしや気持ちの分断が大きな問題になりつつあります。たった一つの地球だというのに、幾つもの冷たい亀裂が入ってしまっている二十一世紀に何故なったのか、大きな矛盾が目の前に壁のように立ちはだかっているとひしひしと感じ、私はとても複雑な気持ちになって来ました。まるで、悲しみの一杯詰まったエアポケットの中に入っているような気持ちになって考え込んでいた一日でした。

4月29日、祈りと集合無意識

藤、芍薬など花盛りとなり楓やもみじの早緑が思春期の少年少女のように少しずつ濃い緑に変わって行くのを感じます。緑の雫の滴るような慈雨に蛙は元気一杯になったのか、毎晩賑やかに歌っています。夜中に目が覚めて、ふと集合無意識というものが気になりました。それを知るのに、どのような手掛かりがあるのだろうかと考えているうちに、もしかしたらその中には祈りというものがあって、それはとても重要なものなのではないか、と思ったのです。自分が生まれてから今までの過去の喜怒哀楽、今、明日、そしてこれから先の未来への、穏やかにのびのびと生きて人と心地良くかかわって行きたい。このような事を願い、祈る。それは自分の過去を労り、家族や身近な人に限らず、人の明日から先の未来の安寧を願う事をも含んでいるように思えるのです。朝起きて太陽と向き合う時にこのような事を祈っていたのではあるまいか。それは自然体でつまりありのままの自分が、受容と共感にも似た、温かく真っ直ぐな気持ちで真摯に太陽に向き合う、太陽とのコミュニケーションで、そのようにして生きる事が人間が生きるという事なのではないか。そのように思ったのです。生きる事は知的好奇心を持って学び、自他を慈しみ愛するという事の長いような短いような道を自分の足で歩いて行く事なのだろう。それでは私もそのように生き、私の祈りもそのようにして未来の人達の心の奥になにがしかのものが温かく伝わって行って欲しいものだと、深く感じています。神様が存在すると考える人も存在しないと考える人も、集合無意識とも普遍的無意識とも言われる 時代や場所にあまり関係なく、人間の無意識の奥深くに何があるのか、考えてみて欲しいと思ったのは、人は人間の命のつながりや思いを知らず知らず中継ぎとなって未来へと伝えて行くという事をしているのではないかと感じるからなのです。こんな事を考えているうちに夜が明けていました。私は昨日から今日になって行く重厚で凝縮されたはざまを体感したのだと思ったのでした。

4月26日、便利の不便さ

先日停電になりました。と言っても部屋によっては明かりが点きます。家の外の問題という事をご近所の電器店の方にみて頂いてわかりました。この事だけでなく、テレビや電話など何かに不具合が起きた時、フリーダイヤルで電話を受け、手配してくれる事が殆どです。でも、祝日の場合は電話が出来ないとか、メールやチャットでという所もあります。電話がつながって説明するという所にこぎ着けるまで、かなり長い時間がかかります。コールセンターへ何でも集約していて問題の解決までの時間が長くなります。また、どのような場合でも個人情報という言葉を聞きます。本当に悪用しようという目的で計画的に他人の個人情報を盗ろうとする人には個人情報が洩れていて、そうではない場合に疑われる事の多い事に矛盾を感じます。そもそも、修理するのが不便な世の中です。人の雇用が減り、ものを大切に扱わずに新しいものを買った方が良いと考えるようになりがちだと思います。ものを大切に扱わない事は人を大切に扱わない事につながりはしないでしょうか。信頼や絆は時間をかけて構築されて行くものです。それに、インターネットを使わない高齢者世帯の方には非常に暮らし難いのではないでしょうか。スマートフォンとかインターネットとか言っても無料ではありません。便利になったら暮らしやすくなると思っていた何十年も前の私の考えは間違っていたのだと思っています。折しも、サプリメントでの健康被害が報じられ、すべてのサプリメントに問題があるわけではないですが、簡単や安易というものに安心安全の裏打ちがあるか否かは乏しい知識や経験ではあっても結局それを基に自分で考え、判断する事が大切なのだと思い知らされたような気がします。

4月22日、内房線の旅

先日、久しぶりに内房線の下り電車に乗りました。淡いグレーのようでもあり、サンドベージュのようにも見える海と、ぼんやり霞んでいた空の竹岡の辺りから、安房の澄んだ海の、寄せては返す波の白が目にしみるようです。そして引き潮の海は澄んだ薄緑色で、あばら骨のような不思議な模様でした。山も木々の緑も初夏の輝きというよりは夏木立に近い黒みがかった濃い緑色で、ここ君津とは微妙に違う事に驚きました。夏の色や匂いの一杯詰まったリュックを背負い、帽子を被った少年が房総半島の南から北に向かって歩いて来るように感じた一日でした。四月だというのに、ツツジ、牡丹など色とりどりの花が咲いており、平成の一桁頃までのゴールデンウイークが終わった後のような有様に人間は次第に慣れて行くのでしょうか。見慣れた日本の四季の景色も、時代によって大きく変わって行くのですね。時間の過ぎて行く速度が速く、四季が私を引っ張るように急ぎ足で進んで行くと感じるのは、それだけ長い歳月を積み重ねて来た自分の年齢ゆえなのでしょう。けれど、今まで体験して来た事はどれほど多くても、一つひとつが幻影や幻想などではなく、手応えのある現実にほかなりません。この日は、帰宅し夕焼けをぼんやりと眺めながら、まるでガスコンロの上で煮えて行く粟粥がもうすぐ出来上がるのをじっと見ているようだ、と人生の時刻を感じた日になったのでした。

4月19日、桜のお見舞い

桜はあっという間に満開になり、大分葉が目立つようになって来ました。春と言っても人それぞれです。元気で進学した学校に通う子供や、会社での新年度の仕事に気持ちも新たに、という日々を送っている方も多いでしょう。でも、体調が思わしくなく入院している方もいらっしゃいます。同じ病室に入院していても、具合は人によって違います。明るい表情で、季節の桜餅や草餅などを持って見舞う、という場合もあれば、点滴の一滴一滴が命につながるようにと御病人の回復を祈る思いで見舞う場合もあります。春から初夏へ移って行く季節ですので、自然のエネルギーが病んでいる方の回復につながりますようにと、重いご病気の方のご回復をご家族と共にお祈りしたいと思います。

4月14日、人形と遊ぶ

子供は成長して行く時に、その時期によって変わって来る何らかの遊びをします。遊んでいる時に玩具を用いる事も多く、時代の流行のようなものや昔からあまり変わらないものなど種類は様々です。私も自分の子供の頃に、といっても物心ついてからではありますが、ままごと道具や人形でよく遊びました。人と遊ぶ事もあれば一人で遊ぶ事もありました。読んで貰っていた絵本は、ひらがなが読めるようになってからは自分でその世界に入って行くのが楽しくて、気に入った絵本は何度も読み返していました。幼稚園時代には少し読んだジャングル大帝という漫画が心に残っています。今思いますと、動物達と共存する事や地球の自然、人間の引き起こす戦争、といった事について取り上げていた物が多かったように思います。未来への警鐘だったのですね。小学校三年生頃からは漫画の本も読むようになりました。でも高学年になると、漫画の本がつまらなく思え、学校にある本も随分読んでしまって本を選ぶ事に迷い、物足りない気持ちになったのでした。中学生になってから文庫本に出会って、それからは本が大切な友人になり、今に至っています。これは私の事ですが、女の子の多くは人形遊びをする時期があると思います。いかにも楽しそうに、自分が人形の母親のように話しかけ関わっているように見えます。でも、気持ちを分かってもらえず傷ついている時、人形は話を聴いてくれる友であり、傷ついた自分である、その場合は関わる事で、自分が自分を慰め労わって共にいるように過ごすという事もあると思いませんか。自分が良い母親、こうして欲しいと思っている母親役になっての人形とのコミュニケーション、よくある事だと思うのです。子供はこうして自分と向き合い、考え、自分の気持を外に出すなどして、心の痛手からも、自分に出来る精一杯の方法で辛い思いをした心の回復の為に努力して幸せに生きて行こうとしている場合があるのだと私は感じました。遊戯療法に通じるものだと思います。子供のその生きる力を応援したいというのが今の私の気持です。ふと思い出した、子供はただ可愛がってやりさえすれば良いのね、という次郎物語の中の次郎の母の言葉が、含みの多いもののようにも、素直に子供を愛するという事のようにも思われて、私は今日、傷ついた気持ちでいる寂しい子供が目の前にいるお母さんの気持ちになっているようです。

4月10日、手応えのある朝

朝、ラジオの番組で神奈川県の歴史のある建物の事が話題になりました。その建物が建てられた頃にその付近で暮らしていた人達はもう亡くなっているような歴史のある建物は神奈川県に限らず都内などにも数多くあるのではないかと思いました。高いビルなど想像もつかなかった時代、道路が舗装されていなかった時代にも、勿論それぞれのまちに人は住んでおり、おそらく家族もいたのでしょう。生まれてその場所で育ち家庭を持ち老いて行った数えきれない人々の次の世代、そのまた次の世代、他の地域から移り住んだ若い人達、その人達の人生を、成長し、変化して行く大都会は生き物のように取り込み、人間とまちが互いに作って来たのが歴史というものですね。その時間の流れは常に一方方向であり、人はやがて自分の人生をその時間の中で終え、去って行くのだ。そのように思いますと、ある一つの歴史ある横浜の建物がつぶさに見て来た大勢の人達の人生をその壁に生々しく刻んでいるかのような錯覚にとらわれました。その中には私の亡き母もいると思います。かけがえのない一人ひとりの命の輝きを記録し、記憶してでもいるかのような建築物の意思は、もしかしたら取り壊されることになろうともそのまちのその場所に残って存在し続けるのではあるまいか、私にはそんな風に感じられるのです。辛く苦しい人生を都会の片隅でひっそりと終えた人、病んで苦労した人、戦争や災害に翻弄され家族を失った人など、心に深傷を負った人達の思いがもし残っているのならば、温かく安心出来る場所にそっと休ませてあげたい。私には、思いを残しながらそれでも精いっぱい生きて行ったおびただしい数の、今は会う事の出来ない人達を思ったこの朝、人間の命の重みと、いずれは旅立って逝く幾十年かの人生である人間という存在への愛おしさと切なさを非常に深く感じました。それは私も同じ人間だから、幾ばくかでも心を寄り添わせる事が出来たから、なのでしょうね。

4月5日、筍の皮を剝いたら

最近、バスタオル一枚で居られる人間関係と言う言葉を何度も耳にしました。それは配偶者の親や兄弟姉妹がいると出来ないという内容のもので、つまり自由に振舞えず、自分の家の中なのに窮屈だという意味です。また、一人暮らしなら夏の入浴後にそのようにしてくつろいで居られるという事も含まれているようです。私は耳を疑いました。自分の家だけでなく友人や親戚などからもそのような話は聞いた事も見た事も一度もないからです。勿論今も昔も人それぞれでしょうが、それにしても、これは時代が変わったという事なのでしょうか。先生のオルガンで桜のつぼみも膨らんでもうすぐ学校嬉しいな、と言う歌詞の歌を、皆で一生懸命歌った幼稚園の卒園式がそう遠い昔ではないように思えるのですが。大勢の人に今でも心を育てられ、知識を増やしたり疑問に感じた事、目に留まった事を考えて、これからも意識と無意識を循環させるようにして行きたいと思っています。私は自分と言う人間を見つめ、知るために生まれて来たのでしょうか。今日は筍ご飯を炊きました。筍は水煮の物ですしまだ木の芽がないので食べる時に粉山椒を振りかけてみました。春の歯ざわりと初夏の香り、思いがけない贅沢な一品になりました。私にとって、筍の皮をむくように自分の心の奥へゆっくりと歩いて行きたい季節になったのかも知れません。剥いても剥いても皮ばかりだったら困りますね。

4月2日、科学、技術は

バーチャルでの戦争のシミュレーションは武器や人員の配置を考えて実行する作戦とその結果の予測が正確に出来るから可である、AIが論文を書けるように、などと新しい技術の利用がどんどん進んでいるように感じます。そのような事の為に科学が存在するとは私には思えません。人間の能力も心もどんどん劣化しているように思えます。そういう事に行きつく為に知的好奇心があるとは到底思えないのです。ただテレビに夢中になっているように新しいものに魅了され、そしてその新しいものは日替わりのように増えて行くとしたら、痛みを感じないままにゲームの中のように他者の命を見てしまう事になるという心配や不安が大きくなり、人の痛みを感じない事は他者とかかわりながら生きて行く自分を粗末にする事にもなると思うのです。そのような危惧がある近未来にしないようにブレーキになる事が出来るのは一人ひとりの人間の健康で温かい心ではないか、などと思い、そう簡単に明るい気持ちにはなれない深刻な現実の中に居ると感じざるをえません。この、狭いトンネルにつき進んで行く特急列車を連想してしまうような危機的な事とどう向き合って行けば良いのか戸惑うばかりです。

3月28日、きつね色のトースト

毎年梅の季節にはどなたかのご葬儀、という事が多いです。もう少しで梅が咲くという時に亡くなる御病人が多いですね。荼毘に付す場所に向かう道には沢山の白梅の木があり、沈んだ気持ちでいる私には咲いている梅が恨めしく見えます。白梅ばかりの道、ああ片化粧だといつも思います。今年はこの時期この道を通る事がなかったので私にとっては良い冬だったように思います。夏には丈の高い葵が色とりどりの花を付け、通る車に乗っている人達を覗き込むように茎を傾けており、ご家族や亡くなった方を労わっているかのようで、花の優しさをしみじみと感じます。受けた衝撃が辛く、悲しいものだからそのように感じるのでしょう。普段見えない人間の心はとても奥の深いものだと思います。蜘蛛の糸と羅生門という二編の小説は光と影に例えれば、光のささない人間の心のある部分を描いているように思います。芥川龍之介の蜘蛛の糸のカンダタは地獄にいて、お釈迦様の垂らしくれた蜘蛛の糸を伝って上ろうとするのですが、大勢の人が続いて上って来るのに気付き、自分のものだから降りろと言うと、クモの糸は切れて皆一緒に地獄に落ちるという内容でした。蜘蛛を助けるという、カンダタが一度だけした善い事を知っているお釈迦様が垂らしてくれた蜘蛛の糸だったのですが。同じ芥川龍之介の羅生門は、生きるために悪い事と分かっていてもそれをするのかという事が描かれています。引き取り手のない死者の髪の毛を抜いている老婆を咎めた下人に、彼女は髪を抜いて鬘にしようと思ったのだ、そうしなければ自分が飢えてしまうからだと言います。下人は自分も生きるためだと言い、老婆の着物を剥ぐという内容でした。彼がその後どこでどのように生きて行ったのかは分かりません。この二つの物語は暗く、それでも人間というものについて考えさせる、いつの時代でも変わらないものを投げかけているように思うのです。ここは羅生門に通じる所なのか、カンダタのように私達はうごめいて蜘蛛の糸を千載一遇の機会のように待ち望んでいるのか、昔の他人事であり、小説なのだ、とは思えないような迫力で迫って来るものを感じる小説です。葬儀の衝撃と悲しみを思い返す内に、私は人間の一人である自分の心の奥に潜む濁った物に直面せざるをえなくなったような目まぐるしい朝のひと時を過ごしたのでした。トーストはきつね色に焼け、一口食べるととても美味しいと感じましたが、何でも水分が多すぎるとカビが生え、少なすぎると干からびる。では貴方はどうか、どのような人間なのか。どのような時代であっても子供達には明るい未来があり、希望を託せる、と言いながら、自分では決して見る事の出来ない自分の後ろ姿は、子供達に胸を張って見せられるか、等様々な問いを、この焼いた一枚のパンから突き付けられたように感じました。

3月25日、真実と事実

ガスレンジが壊れ、買い替えたばかりの台所で、蓋の取っ手を取り替えて使っていた薬缶と急須、ポットまで壊れてしまいました。まるでガスレンジと連れ立って去って行ったかのよう、予定外の出費です。自分がその場にいて体感した事はまぎれもなく事実です。でも、人から聞いた場合は、幾らか相手の見方や考え方という色の付いたものである可能性があります。事実と真実は同じなのか、という事は随分前から気になっていました。事実を可能な限り検証し間違っていなかったならば、真実なのでしょうか。むしろ、薄い雲母のかけらのような事実を広く多く集めたような事実は確かに事実だと思いますがその奥深くに、もっと後になってから気付く真実と言うものがあるような気がするのです。事実をないがしろにしなかったからこそ見えて来る、目には見えないものを感じ取る事が真実に最も近づけたという事のように思えるのです。台所で使うものが次々壊れるのを見て、ふとこんな事を思いました。では、我が家の台所用品が壊れた事実の奥にはどんな真実があるのでしょうか。

3月21日、雪の裏側

とても残酷な事件が起きた日、快晴だったら猶更辛いかも知れない、雨だったら陰惨だという印象が強くなる、では雪だったらどうかと考えてしまいました。以前そのような文章を読んだ事があります。雪はすべてのものを覆い隠します。それは優しさと言えるかも知れないけれど、不都合な真実を隠す事は後の世の為にならない、雪は冷たさと優しさを併せ持っている裏の付いた布のようだと思いました。労わる事と、相手が考えて行動する力を低く見て庇う事とは違います。庇うばかりでは自発性を育てる事にはならず損なう事になると思います。人との関係に悩んだ時には、まずその時の問題にどう対処するかという事を考えて解決しようとしがちですが、自分の内側、無意識に素直に向き合って見ると、今まで気づかなかった自分の傾向に気付き、その思いがけない部分に驚き、そしてその理由に気が付き始める、と言う事が多いものではないでしょうか。素直に自分の内面に向き合う事は少々難しいけれども自分とは違う他者を認めながらの人間関係の構築に役立つように思うのです。急がば回れ、と言ったところでしょうか。私も、信念は大切に持ち続けたいですけれど、そうではなく頑固なだけである所を精査し見極めて取捨選択して行きたいと思っています。

3月17日、生きている桃

テレビのスイッチを入れたら、桃の映像が映し出されました。桃の木に、赤に近い濃いピンク色の大きな桃が幾つも実を付けているのです。それは夜の写真でしたから、桃の色が鮮明で、木の緑色よりも非常に目立つのです。まるで浮いているようで立体感のある不思議なものでした。そして物を言わない事で自己主張している存在に出会ったような気がしました。そう言えば、秋の夜の庭で月の光に照らされた青紫の竜胆の花も物静かですが、艶やかにスッと真っすぐに立って居るように見えます。黙っているから大きな存在感がある、おとなしくしとやかな人の芯は強い。人の心の中を垣間見たような桃の映像は印象に残りました。楽しそうにしている人の心の奥の悲しみ、怒りに満ちている人の心に芽生えた小さな希望、人生の区切りの時に振り返って見せる、苦笑いに含まれた哀しみ、などが人の表情から、見る人に伝わるように演じるドラマの中の俳優、舞踊や音楽、果ては絵画、表現する人の洗練された命がけの努力の結晶に触れる事は心にずっしりと重く温かい手応えを感じ、その余韻はいつまでも消えることなく心の奥に残ります。

3月11日、人間の力

12年前の元日の午後鳥島近海が震源の地震があり、震度４で大きな横揺れだった事を思い出しました。震源が深くて津波はありませんでした。今回の能登半島の地震で、石巻の海で東日本大震災の晩に津波で流されたガスボンベが暗い波間でくすぶるように爆発していたニュースの画面が目に浮かんで来ました。どうする事も出来ない事が、いつまでも、どこでも不意に落とし穴のように現れる度に人間の無力さと、諦めず懸命に手を携えて生きる力を感じます。それは天災でも戦争でも、です。歳月も時間もどんどん経って行く中で振り返り、嚙みしめるようにあれを思いこれを思いし、これを感慨深いと言うのだろうかなどと思っています。桜の咲いている春には、朝一桁の気温になるような地域もあります。花冷えですね。秋には、一針ひと針人の手で縫われた緻密な刺繍の美しい打掛を羽織ったように紅葉した木々の山々に目を奪われ、山が一歩自分に近づいて来たように感じる、そんな地域もあり、降り積もっている湿った雪が解け始める頃には道を外れたら側溝に落ちて流されるのではないだろうかと思うような地域もあります。この、狭いようで広い日本のどこにも起こりうる災害を、映像を通して体感したように生々しく感じる事が多くなりました。私の住んでいる地域にもいつ何が起きても不思議ではないと思わなければならないのだと改めて感じています。東日本大震災の起きた日である今日、盛夏に、もう秋の影が見え隠れする事を感じさせる百日紅の色に似たライラック色のタオルを使い始めました。美し過ぎるものは儚く、続かない、束の間である事を私に感じさせる花です。それは、見方によれば人間の一生と同じですね。タオルのふんわりとした優しい肌触りが、あの日に次々と入って来た被害の映像を思いださせ、胸に針を刺されたような朝でした。多分複雑な気持ちで過ごす一日になるだろうと思います。

3月8日、隙間風

隙間風が吹く事は、古い家屋ではそう珍しい事ではありません。けれど、今の新しい家では滅多に経験する事もないと思います。隙間風からは寒いとか冷たいという事を連想して、嫌なものと感じるかも知れませんが、人の怒りや時には愚痴を言えず、ため息をついた時、隙間を通る風がそれを家の外へ持っていってくれるようにも思われます。隙間のない家に人間のマイナスの感情がこもっていると、それがだんだん凝縮されてきて強いものになり、家族の中をめぐるという事にもなるかも知れません。自分のペースで呼吸出来て出来るだけのびのびと暮らせるのが本来の家庭だとしたら、その家族の感情のバランスや家庭全体のバランスの調節をしてくれているのが、この隙間風のような何かではないでしょうか。大勢の家族、複雑な家族構成の中でも、核家族で少人数であっても、自他を大切にして行く手がかりになるように思います。古いものには古いものの良さが、新しく考え出されたものにはその良さがあるのですから非言語のコミュニケーションをも含めて自他を大切に、尊重し合って行きたいですね。

3月3日、無意識は古い本か

無意識、と言う言葉は、まさに無意識に使っているのではないでしょうか。思いがけない事を言ったり、思いがけない行動をして、自分でも驚く事があるのは、無意識とのかかわりが大きいですね。こうすべき、こうしなければならない、そのように考えての発言や行動が社会の中で人とうまく合わせて付き合って行くためにある程度は必要だと多くの人が考えていると思います。では自分の無意識とはどのようなものなのでしょうか。自分の事だからこそ気付く事もあるけれど、自分の事だからこそ気付けない盲点と言うものもあると思います。意識が無意識を押さえる事が多すぎると自分らしく振舞えず、このようにしなければならないという意識と、そうしたくないという感情やもっと奥深くの感覚が反対の状態になります。この本音が無意識なのですから、自分らしく生きられない理由の一つが、意識と無意識の不協和音という事ですね。私は以前、無意識をイメージすると貧しいイメージだと思っていました。荒れてゴロゴロした石の多い道、まるで荒野のよう、あるいは泥濘の続く道、濁った水が流れている、などと言う風に、です。ところが、最近そうではないという気がして来ました。どんなに不信感が強くても、辛いことが多く、心が傷ついていても心の奥の無意識は、汚れや濁りを洗い流し、泉のように綺麗だと思え、暖かい、そして安全な、草も生えている洞穴のようなものではないだろうか、このように感じるのです。そう、ドレミの歌の、子供の多いトラップ家の食堂のように、寛いでいられるような場所で、そこをじっくり見て行くと、子供の宝物のような、幾つもの自分を知る手がかりがあると思うようになりました。何故無意識が豊かな所と思えるようになったのか分かりません。泉が枯れる事なく、汚れを洗い流す人間の希望のようで、意識へとつながるのが無意識であり、自分らしく生きて行く為の言動が出来るよう応援し、ゆっくりと背中を押してくれている、それが無意識の一番上の部分のように思えます。自分のどんな傾向が何故作られて来たのかは、どのように育てられて来たのかという事と大きな関係があります。自分の育つ時のどのエピソードに、どのように焦点を当てるのか、それはマイナスになのか、あるいはプラスになのかによっても違ってきますから、古い本を何度も読み返すように折に触れて自分を振り返って見るのも私には楽しみですし、難解な部分は苦しみにもなるという、良薬のような不思議なものなのです。読んだ時の年齢によって変わる味わい深い古本のような自分の根っこと心の発達というものが自分にとって良薬になって欲しいものだと思います。

2月29日、魚のような空

三寒四温という言葉がありますが、日々の気温差が大きい事に戸惑ってしまいます。蕗の薹も顔を出したので蕗味噌を作りました。苦みと蕗の香りに春を感じます。日の出前にザーッと雨が降った日、東の空に濃いグレーと水色、淡いオレンジ色が横に三本並んでいました。まるで魚の背と腹のような不思議な色合いがとても美しく、印象に残っています。菜の花や河津桜の季節になってきたようです。遠くの山々だけがまだ冬の色、もうひと眠りしたいのでしょうか。ゆっくり季節の移り変わりを味わえたら良いのにと思いますが、ストレスはそれなりに私にもあります。誰にもある事なのでしょうが、やはり現実の問題の解決と人間の感情の納得に時間差がある事もあり、咀嚼して自分の人生を生きる事は幾つになっても難しいと感じる昨今です。

2月24日、本当の自分と今の自分、葛藤は

先日、五十年近く自分が誰であるかを言わなかった指名手配中の男性が病み、病院で本名を明かしたというニュースに驚きましたけれど、その人は亡くなり、どうやらその言い残した通りであったそうですね。事実と言うものは時に思いがけない重いものを残すものだと思いました。最初は逮捕されないようにと思っていたのでしょうが、このように長い歳月、本名を名乗らず別の人間として働き、暮らして来た間にいつも同じ気持ちであったかどうか、変化して行くという事もありうる事だろうと思います。この男性は亡くなったばかりです。事件には被害者の方々や御家族がいらっしゃいます。被害者やご家族にとっては唐突に事件直後に引き戻されたよう、しかし確実に歳月は経っているというのは何とも言えない思いになるのかも知れないと考えてしまいました。事実が判明した事は様々な所に少なからず影響を残す事と思います。当事者でも関係者でもない人間があれこれ言うのは憚られると思うのですが、あまりに驚いたものですから、とても不可解に思えて、つい考えてしまいました。実は私は思いきりが良い所もあるのですが、小さな事に一喜一憂し、おろおろしてしまうという所もあります。ですから、本当の自分を心の奥に持ちながら別の人間として働き、人ともある程度関り何十年も暮らすというのは自分には到底出来ないと思います。どんなにそうしようと思い決めたとしても、途中で家族や友人に会いたくなるでしょうし、架空の他者として生きるという事は心が押しつぶされそうな葛藤に悩まされるでしょう。まるで、着ぐるみを着て生活しているうちに着ぐるみがどんどん厚くなって本当の自分が細って来るように私には感じられます。誰にも本当の自分を明かさなかったから怪しまれなかったとしたら、とても孤独な部分を持ち続けた事になると思います。友人達が家庭を持って人生の基盤を築いて行く年齢、親が年を重ねたであろう頃、そんな時に過ぎて来た歳月や自分の明日を思うと眠っている間に様々な夢を見るかも知れなません。無意識は制御出来ないのですから。自分が良いと思ってしていた事が原因で、身を隠すようにして生きなければならなくなり、世の中はどんどん変わって行く、自分は取り残されて行くかのよう、先の見えない日々、働いて、他者と関わりながら生活している毎日は確かに今という時を生きている自分でありながら本当の自分と言うものとは微妙に違って決して重ならない奇妙な感覚が続き、その事を忘れる事なく人と関わって行かなければならないというのはとても重いものに押しつぶされそうですから、警察に出頭しようと考える事はなかったのでしょうか。このような人生もあったという現実が、夢を見ているように感じられ、一人ひとりの人間の心の中やその動き、変化と言うものは、私には計り知れない不思議なものと思えます。それにしても、人の多い所であり、比較的人があまり言わない部分には触れないで浅く関わる人達の中での暮らしであったのでしょう。優しいとも言える場所だという気がします。インターネット上の他者批判は時と場合によっては逃げ場がない批判の仕方のように思える私は、現実のこの場所をこんな風に思いました。

2月19日、米の志

久しぶりにササニシキの系統のお米を見つけ、買って炊いてみました。普段食べているものも美味しいのですが、もちもち感の少ないように感じられるササニシキの系統のお米の方が冷めても噛みしめてもお米そのものの味がするように感じられて、昔のお米はこういう味だったと懐かしくなりました。あっさりとした味で、例えば自分と他者とのほど良い関係に似ているなどと思ったのです。冷ご飯、と言うと、何か余計もののように扱われている今の時代ですけれど、私は冷たくなったご飯だからこその美味しさも覚えています。このお米は、昭和の人と言うよりも古武士のような、まるで志を持った人間のように思えて来ました。

2月15日、冷凍庫の底冷え

立春の翌日に関東南部に雪が積もるというのは珍しい事です。この辺りは、降りだしは雨だったように思いますが段々サラサラと氷のような重い音になり、霙に変わって行きました。雪にならなかったので積もる事はありませんでしたけれど、翌日もその翌日も底冷えのする日となりました。丁度冷凍庫の中に入れられているようで、庭で紅葉した苺の葉の赤がひときわ映えると感じた滅多にない二日間でした。以前読んだ小説の中に、口には出さないけれどあまり折り合いの良くない嫁と姑が、昔の事なので同居しており、天候の影響で飢饉とも言える時に、機織りをしている妊娠中の嫁の手元に姑が炒った豆や木の実を紙に包んでそっと置く、と言う場面がありました。その時、嫁は姑の底冷えのする親切、と感じたという表現があった事を思い出しました。よくよく亀裂が深くなって行くきっかけの一つになるという事だと思います。些細な事と言う言葉がありますが、お互いに悪意がなくとも些細な事が積み重なると胸に応えるものですから。今年は、特別良い事がなくても良いのでせめて悪い事が起きない年になりますようにと願いたくなります。災害や戦争、感染症、付随した物の異常な値上がり、ため息が出そうになります。

2月11日、自由、不自由

今はインターネットを使った情報が非常に多く発信されており、子供でも様々な媒体を利用してその情報を知る事が出来ます。そこには誤った情報や悪意のある情報も含まれているので精査し利用者が判断する必要があるという事も重要です。様々な場面で、自分がどのような自分として振る舞って他者と関わって行くのかを多くの場で使い分けるとしたら、それはとても疲れる事ではないかと思うのです。気づかないうちに疲れは心の奥に沈殿して行く、そういう風に感じます。躓いてそれを乗り越えて行く、それが成長なのでしょうが、自分の心の奥深くと向き合って、成長過程を知り、受け入れるには時間がかかります。でも、それはとても大切な事だと思います。対症療法は必要です。けれども、好むと好まざるとにかかわらず、目まぐるしい変化と多様なものと出会う今だからこそ、体質改善のようにじっくり自分の心の深層と向き合う事が自分を知り、自分を生きる事になると思えるのです。今という時代は、人はどんな役割を生きているのか、本当は自由なのか不自由なのか、私には容易に答えの出ない難しい問題です。インターネットは便利で私も必要に応じて使います。それは見聞きする事が出来て、コミュニケーションする事の出来る、利用する私の世界を広げたのか、内向きの小さな速い動きの渦の中に入れられて狭められたのか、世の中に遅れないようにというのは、暗にコントロールされて流されて行く事なのか、様々な場についてじっくり考えてみたいと思います。そのような事から、視野は容易に広がるものではないと改めて感じました。新しいウイルスが出現し、人間が感染した時、ウイルスを知ろうとしてデータを集め、分析し、それから治療薬やワクチンが作られるのと同じように、経済学も政治や外交も、過去の文献からだけでは予測がつかないのが現在や未来の事態という事なのだと思います。何が変わらない体幹なのか、どこがどのように何故変わったのか、それは根っこを掘り下げて見て行かないと後追いだけでは流されそうな気がして、自分の日々の一歩のおぼつかなさを思いました。寒くてももう光には春の兆しが感じられるというのにこの日は枯れ薄の風に揺れる音が身に染みて、夕方まで耳に残る一日となりました。

2月7日、母なるものと

英国のダイアナ妃は1997年に交通事故で亡くなりました。当時は離婚後で再婚予定であると報道されていました。ご葬儀の時の二人のお子さんの姿はとても痛々しいものでした。ダイアナ妃の亡くなったお父様にそっくりな弟さんが喪主だったと思いますが、今ウイリアム皇太子はこの方に似ていて、お母様が亡くなって過ぎた歳月を感じます。一言ではとても言えない様々な思いをして育って来たのでしょうね。ダイアナ妃はご両親が離婚し、それぞれが再婚しているという環境で育った方だそうです。私はダイアナ妃が対人地雷除去やエイズ患者との触れ合い、難病患者を見舞うなどと言う事を離婚後も続けて来た人である事を報道で知っていました。1992年、ダイアナ妃とマザーテレサは対面し、亡くなるまで交流が続いていたそうです。当時このニュースに、ダイアナ妃は初めて母なるもの、母性と出会ったのではなかろうかと思いました。この人は母なるものに出会うために生きて来たのかも知れない、もしかしたらもうあまり長くは生きないのではないか、そのように思ったのです。それでも、あのようにして亡くなられるとは思ってもいない事でした。家庭の中で育って行く時に親と言いますか主に母親との関係で十分に愛された、承認欲求が満たされた、という事がないと本人が感じていると、人間は母なるものとの出会いを渇望して生きて行く事になるのだと思います。母なるものはただ優しいだけではありませんが、いずれにしても体感しないと分からないものなのですから、ダイアナ妃とマザーテレサの出会いの様子の映像に、私には感動と、出会うべくして出会ったのだという重く深い余韻が今もその時のまま心の引き出しに収まっています。

2月3日、若者が

強風で寒い朝でも烏がひと声冷たい空気を裂くように鋭く鳴いて真っ青な空に飛び立って行く様は清々しく、気持ちが引き締まるように感じます。そう、どこか小気味よいと感じました。私は、時々母の言葉を思い出します。以前にもお話しした事ですが、1989年に起きた天安門事件のニュースをラジオで聴いていた母が、世の中や時代の流れを変えようとする時にどうして若者の血が流されなければならないのだろうか、昔からそうだった、と言ったのです。母は徴兵猶予が撤廃され出陣した、学徒兵とならなければならなかった人達と同世代です。自分は生き残ったという申し訳なさは幾十年経っても鋭い痛みを持つ傷となって心の奥深くに残っていたのでしょう。戦争は始めてしまったら野火のように広がり、なかなか終戦に至らないというのはいつの時代でもどこであっても同じだと思います。同世代は同じ時代に育っており、説明しなくても分かり合えるその時代の生活や雰囲気と言うものがあります。母の言葉は海霧のように私の心の中に今も広がっています。母はこうも言いました。年をとると昔を懐かしがるけれど、その時の話は貴重だ。そして、若かった時代はろ過され、良い時代だったと言う事が多い。戦争や災害もあって大変苦労したのも事実であるのに、と。胸に刻んでおこうと思います。

1月30日、蝋梅の花

1974年、私は高校生でした。夏休みも間もなく終わるという八月三十日、三菱重工爆破事件は起きました。その翌年にも企業爆破事件は起きました。続いていたのです。病院に入院している重篤な病状の男性が、自分がその事件で指名手配されている人間であると話した、と言うニュースに驚きました。国内にいておそらく偽名で暮らして来たのでしょう。1993年、私が出席したカウンセリング学会の大会会場は明治学院大学でした。過去にその大学に在籍していたというこの男性は大学に合格し、上京してこのキャンパスに足を踏み入れた時、このような人生を選択する道を歩む事になろうとは夢にも思わなかったのではないかと思います。私はあの大会の日の明治学院大学を思い出していました。私が小学四年生位の時には、学園紛争で大学は今とは全く違う状態でした。東大からのテレビの中継で、アナウンサーが茫然としたように、安田講堂が燃えています、と言ったのをよく覚えています。加藤学長代行と言う名前もよく耳にしました。それにしても、私が知っている時代です。新聞に掲載された重篤な病状の男性の、学生時代らしき写真とおそらく今の姿とは随分違うのだろうと思います。この人はどのような気持ちで長い歳月生きて来たのでしょうか。具合が悪くなって病院で、もし夢を見るとしたらそれはどのような夢なのだろうかと、ふと思いました。五十年近い歳月はその時には長いと思うかもしれませんが、私でしたら振り返ればあっという間とも感じます。家族や友人と離れて全く別の人間のように暮らす、そのような選択をするという事がどのようなものをもたらすのか、私には分かりません。年齢が比較的近く、その時代の中に自分も身を置いていたと思うと、良いとか悪いとかという事とは違う、何とも言えない複雑な気持ちになりました。有限の時間の中を生きるという事、人生と言うものは一体何なのか、自分の存在とは、今ここに生きている自分とは何者なのか、答えはなかなか見つかりそうにありません。そう、まるで生の蕗の薹を口に一杯詰め込まれたような苦みを感じます。我が家の庭で馥郁と香る蝋梅、蝋細工のようなこの花が、今日はろう長けた女性のように見えます。

1月29日、硬いスカート

一月になって幾日もしないある日、明け方夢を見ました。夢は無意識が表れるものですから100％内容が理解できたわけではない事はお話しするかどうか迷います。ですが、お話ししようと思います。以下は夢の内容です。私が広い更衣室のような所にいます。友人もそこにいて上着を着ようとしているようです。彼女は私と離れた所にいて私に背を向けています。私は黒いフレアースカートを着替えるかどうか迷っています。色が生成りで、黒いスカートより薄く動きやすそうなスカートには、銀の糸で小さな模様が所々に織り込まれているストールが付いています。ところが、友人に、スカートを着替えようと思っていると言うと彼女は、貴方とは感動する事や常識の枠と言うものがほとんど同じだから安心して楽しく付き合ってくる事が出来たし、これからもそうなのだ、と言うのです。私にはどういうわけか今はいている黒いフレアースカートがハンガーにかけてあるように見えるので、じっと見ていると、長くてあまり綺麗な黒ではなく幾らか薄い色で、まるで薄い金属で出来ているかのように硬いのです。自分が、こんなに硬くて綺麗ではない色のスカートをはいていたのかと、私は愕然としました。でも着替える事を躊躇して、あと五分位で家に着くのだから、などと思って外に出ると外は土砂降りで寒く、霧もかかっています。傘もなく歩き出した私は不思議な事に全く雨に濡れません。気持ちはスカートの事でスッキリせず、やっぱりこの黒いスカートは嫌だなあと思うと立ち止まりたくなる、と言う夢でした。目が覚めて、この硬く長い、あまり綺麗な黒でないスカートは、私が人や所謂世間と関わる中で見せている、こうすべきだとか、こうしてはならない、などと言う事を考え、時には知らず知らず取り入れながら生きている仮面のようなもの、それで適応しているという部分であるペルソナだろうと気付きました。そして、自分が思っているよりも、世間と言うものにとらわれている自分に愕然としました。あまり柔軟ではない性格に育ったと思っていますが、今まで随分色々な点に気が付いて、生まれ育った環境やこれまでを振り返って少しずつ脱皮して来たように思っていたものですから、心の奥深くの傾向はそう簡単には転換出来ない事を改めて思いました。夢の中で見たものは夢を理解し自分を知る手がかりになるキーワードです。この夢の細部を考えて行きたいと思っています。不思議な年の初めです。

1月25日、バトンの絵本

能登の中学生は集団で避難する子供さん達と残る子供さん達がいると聞きました。こんな時だからどのように判断するのかという事は、熟慮し、人によって異なる決断をしたのでしょう。思春期の人達にとって友達は支え合う大切な存在です。どちらを選択しても、安心して暮らせるようにと願わずにはいられません。頑張ると言う事はいつ何をするのにも大切な事です。でも、無理をしないで欲しいとも思います。自分の感情と向き合ってそれを出す事も必要ですから。心の奥からの声もどうか大切にし、友達と関わって欲しい、そう思います。阪神と能登の震災は似ている所がありますね。実は、阪神の地震の後、その被害の大きさに衝撃を受け、話し合った友人の幾人もが去年までに旅立って逝きました。ですから、この時期にまた新たな震災の報道を聞くのはとても辛い事でした。重なって来る震災と、あの時に居た友人がもういないという事実に触れ、過ぎて行った歳月を思う事で、私の気持ちは鉛のように重くやりきれないものになって行きました。ベールのように薄いグレーの霧がかかった雨の中を、長靴を履いて歩いていて、泥濘に足を取られているから、その泥濘からの次の一歩は容易ではない、あれを思いこれを思っての毎日、そのような時に、ふと絵本に目が留まり買い求めました。友人のお孫さんに送りました。これからの時代を生きて行く、未来への希望のように思える、今はまだ小さな彼に、心を込めてなにがしかのバトンを託したくなったのだろうと思います。自分の心の動きなのですけれど、とても不思議に思えました。

1月21日、哲学の動機

哲学の動機は驚きではなくして深い悲哀でなければならない、これは哲学者西田幾多郎の言葉です。彼は妻子を亡くし、とても辛い思いを何度もして生きて来たと聞きました。我が心深き底あり喜びも憂いの波も届かじと思う、という一首に込められた非常に深い思いは辛さであり、そして悲しみ、痛み、後悔、不安、など様々な感情があり、とても複雑なものと感じます。そして、私達が自分の心と向き合い、知ろうとすれば知る事が出来る自分の無意識の深さを思ったであろう西田幾多郎の言葉のもっと奥の、普遍的無意識の中身は私には計り知れない混とんとした人間の心の奥の奥、とでもいうようなもののように思えるのです。太古の昔から今に至るまでの人間の無意識に伝わって来たと言いますか、共通のものという普遍的無意識は、一体どのような色をしているのでしょうか。辛い出来事が起きているその渦中にいて、あるいはその直後に振り返って考えたり、文章に書くという事はなかなか出来ないと思います。深く考え、ありのままの気持ちや考えを整理して行くのには時間とエネルギーが必要ですね。様々な出来事に遭遇し、その悲しみが哲学の動機、と言った西田幾多郎に圧倒され、それだけ辛い事が多く深かったのだと感じて、現実には不可能なのですが、もし今出来る事なら、私は彼の気持ちに寄り添いたいと思ったのでした。

1月17日、能登半島地震と中学生

能登半島の地震の被害はまだ全貌が明らかになっていない、それほど甚大な被害だという事だと思います。新聞で、中学生の避難が検討されており、避難を望む人達も多いという記事を読みました。避難であり、余震の心配のない場所で一定の期間学校の友人達と学ぶという事でしょう。けれど、私は戦争が激しくなって、小学一年生から先生に引率されて都会の子供達が空襲の心配のない田舎に疎開したという事が重なって来ました。勿論、今は戦争中ではありませんけれどやはり親元を離れるとか家族がやむを得ず別れて暮らすのは容易な事ではないでしょう。灯火管制下で、母親が子供の着るものに名前や血液型を書いた布を縫い付けていたであろう姿が目に浮かんで来ました。親戚のいる子供達は縁故疎開をしたと聞いています。何とか親子とも無事で戦後にまた家族皆が一緒に暮らせるようになった子供達を待っていたのは、学校で、今まで使っていた教科書の多くの部分に墨を塗る事だったのです。子供達は、教育や大人への信頼を失い、心に深傷を負った子も多くおり、その子達は今若くて八十代半ば近い年齢です。あれこれ考えていて思った事は、過酷な状況の中に置かれている子供達が何とか無事に頑張って日々暮らし、学んで行って欲しいと言う事を願っている、祈るような気持ちでいる、という事です。当事者でなければ分からない気持ちや、その気持ちの変化と言うものもあると思います。でも、若いという事はやはり希望を持って前を向いて生きて行けるのだと信じ、私も決して忘れることなく、見守って行きたいと思います。どうか自分らしく、自分の人生を生きて行って下さいね。

1月13日、楽器に思う

ラジオで聴いた楽器の演奏からあれこれ考えました。薩摩琵琶は、余韻がこの世の様々な場面の近い他者、遠い他者との人間のしがらみを感じさせるかのようなイメージだと、強く演奏から感じます。また、 虚無僧の尺八は、まっすぐに前に届き、グラデーションのように広がって行く。小高い所にたどり着き、夕焼けの一番美しい時間に空を見上げ、人生の来し方行く末を思うようなその音色は無常をしみじみ感じさせる味わい深いものであり、それ以外の何ものでもない、和の音そのものと感じました。フルートは異界からの訪問者が扉を開けて室内に入ろうとして様子をうかがっているような、この訪問者が持つものと室内との明るさの違いが際立っている事が印象に残ります。フルートの後ろには光が溢れている、そのように感じたのです。ですから室内の方が暗いのです。日本の楽器と海外の楽器は似通っているもののようでありながら、表現されたものは、作られ、演奏されて来た国や地域の歴史や文化を如実にあらわすもので、生み出された曲がどのような気質を持っていようとも人間がそれぞれに興味を持ち、心が揺さぶられるのは素晴らしいと感じました。背負っているものは違っていてもなにがしかの重いものを背負って坂道を行くが如く生きる人間同士です。助け合い、譲り合い、相手の気持ちに寄り添って生きて行きたいものですね。

1月8日、半島

能登半島の地震はまだとても信じられないような気がしています。翌日には羽田で飛行機が炎上するという事故が続き、ただただ驚いています。それにしても、私の住んでいる房総半島とは違って、能登半島の海に近い所は海側から見ますと急峻、切り立った崖が多いようです。房総半島には遠浅の海という所が多いので、砂浜を見慣れていますから、ニュース映像に、遊覧船の事故の時見た知床半島と似ていると感じました。このような地形では一番被害が大きいと思われる半島の奥の場所への救援がどうしても遅れる事になると思います。能登半島から北の日本海側、と言う言葉を、天気予報で度々聞く季節に入り、雪の日が多くなる事が心配です。私の大伯母も富山市の海の近くに住んでいましたのでとても身近な事と思って受け止めています。穏やかでゆっくりとした優しい富山の言葉が耳に残っています。倒壊した家屋の下にはまだ大勢の人がいるのではないか、何とか助かって欲しい、水や電気の復旧、避難所に居る高齢者や体調を崩した人の心身は、などと思うばかりで、携帯電話のポイントで僅かばかり寄付をする事くらいしか出来ません。皆さん不安や焦燥感があるでしょうし、時間が経つにつれて、他の人の消息が分かって来るでしょうが、にわかには受け入れがたいような大きな被害と向き合って行かなければならないのです。そのお気持ちを思うと言葉もありません。元日に入院していたという事はまだあまり回復していなかった病人、という事になるでしょう。帰省のシーズンのぼつぼつ日も暮れようという時間にまさかこんな事が起きるとはどなたも思っていなかったと思うのです。携帯やスマートフォンが使えるエリアが広がったそうですが、充電はどうするのかという最大の問題がありますね。情報がないというのは不安なものですが、いざとなったら今この瞬間の自分の感覚が頼りです。私は台風十五号が深夜通過した時、それを痛感しました。携帯ラジオはそんな時に頼りになります。命にかかわる事ですが災害の経験に乏しく平和であるという日常に慣れていると状況判断がどうしても遅くなったり難しくなったりする、それがあの時の自分だったと思います。今回の地震ではあっという間の大きな揺れ、津波だったのですから誰ものんびりとなどしていたわけではありません。ですから私の体験した台風とは比べようもないのだとも思います。想像もつかない大きな災害が年々増えて、まるでロシアンルーレットの世界だと感じる事の多い昨今です。どうかご無事で、そして日常に一日も早く戻れますようにとただただ祈るばかりです。

1月3日、乾いた年越し

2023年の大晦日、午後にスーパーに行きました。年の瀬の雰囲気が少しは味わえるのでは、と思って行ったのです。店内に並んでいた正月の食材は残り少なくなっており、揚げ物中心のオードブルや寿司が次々と並べられていて店内は賑わっていました。けれど、店の外に出て、広い駐車場を抜けると静かです。商店街などのない、住宅の立ち並んでいる地域なのですから静かでも不思議ではないのかも知れませんが、以前は家々から黒豆や昆布巻の煮える匂いがし、子供の声は弾んでいるよう、大人の声からも気忙しさが伝わって来たものでした。それはそう遠い昔の事ではなかったので、コロナ禍や戦争による閉塞感、あらゆる物の値上がり、生活スタイル、家族構成の変化などの影響の広がり、浸透が大きな影響を与えているのかも知れませんね。そして、賑わっていたスーパーの店内には何かが欠けているように感じました。人と人との繋がりのない、蝶番のない扉のようで、潤いがないのです。私は、カミュの乾いた文体を思い出していました。そして一夜明けて2024年が始まりました。西の空に淡く残る月を斜めに横切るように、北から南西に飛行機が通り過ぎて行きました。それは銀色に光り、真っすぐに若鮎のようにのびやかに飛行して行きました。希望を持って扉を開け、何の疑いもなく、今日も外への一歩を今踏み出そうとしている若者の一日の始まりのような清々しいものを私も胸一杯吸い込んだ朝でした。ところが、幾らか日が傾いて来た時刻に、能登で大きな地震が起きました。元日なのだと言う気分は一瞬にして吹き飛んでしまいました。地震後の津波警報を伝え、一刻も速い非難を促す強い調子のNHKの女性アナウンサーの声には緊迫感と皆助けたいという思いがこもっていました。一刻を争う状態だという事を誰もが思う、ハッと我に返る事の出来る伝え方であったと思います。冷静でなければ出来ない事です。天災がいつどこで起きても少しもおかしくない日本列島に自分も暮らしている事を忘れず、今年も自他共に大切にして行きたいと思います。

12月30日、蟹

年末には新聞に入って来る広告が増えますね。連日、真っ赤に茹でられた立派な蟹が目を引きます。私も幼い頃は東京湾のワタリガニを随分食べていました。今、海にあるのは工場です。勿論、蟹が店内に並ぶまでのそれぞれの方の仕事や購入する事は少しも悪いとは思っていません。スーパーに買い物に行って見ますと、やはり蟹が沢山並んでいました。でも、私は新聞に載っていた写真を思い出していました。ガザで避難している子供連れの女性の不安そうな、そして疲れているような目、もう一枚は包帯が痛々しい赤ちゃんがひどく破損している病院の中に横たわっている写真です。この子達はベッドも使えない状態の、薬も医療者も足りないであろう病院に目を閉じて横たわっているのです。一か所を除いて、ガザの病院の救急外来は機能しておらず、血の海だとWHOが発表しましたね。蟹は安いものではありませんから、私は買うつもりはありませんでしたが、この二枚の写真の人達のいる場所では年越しの御馳走はおろか明日の命の保証もないのだという事が胸に突き刺さって来ました。でも、何も助ける事の出来ない非力と思われる人達の心にこの写真の伝える現実が刻まれ、忘れない事が、平和を求める人間の意志と切なる願いの根源となるのではあるまいかと思えるのです。自分が、今一番助けを必要としている所に、そこにいる人達に、すぐには何も出来ない事のもどかしさとこの無残な争いへの怒りは人間が欲深く、戦争を繰り返す、その事に対しての私の悲しみでもあると思います。そして私もその人間の中の一人なのです。戦争を終わらせ、命が脅かされず安心して他者への信頼を持って暮らせる日が一日も早く来るよう祈らずにはいられません。今年も拙い文章を読んで下さってありがとうございました。皆様にとって来年がどうぞ良い年になりますように。

12月26日、アコーディオンの哀しみ

戦争はなかなか終わりそうにありません。世の中に不満があり、それがとても強くなって来た時に、今の国のメカニズムを大きく変えようとしてクーデターを起こすという場合があります。それは相当な軍事力があって用意周到に、と言う風にすれば成功するかもしれません。分かりやすい事を言って、少しは国民の暮らしが楽になり、不平等感が薄らいだとします。けれどその後はどのような内政外交が行われる事になるのでしょうか。力で物事を覆す事をすると、その後は様々な政策を国民の意見に従って変えて行こうとすれば良いのでしょうが、言論の弾圧という事にもなりかねないのは歴史が示していると思います。例えば、非常に立派な人が国民を思い、外交も内政も良い状態にしたとしても、その人が未来永劫その国のトップではありえません。その後を継いだ個人や組織がどのような政治をして行くのかは分からないのです。やはりいつも国民の目があり、自由に発言が出来る必要があると思うのです。ですからそのような仕組みをいつも持ち続けている事が大切、政権が変わったからと言ってもう政治を見ていなくても良いとは決して言えないと思います。何時も、いつまでも、世の中は動いていて、歴史は皆で常に作り続けている、自由はあって当たり前ではないという事は肝に銘じておかなければならない、そんな事を考えました。簡単に力で変えた政治は簡単に別の誰かにまた同じ事をされるでしょう。互いに命を大切にしながら寄り添うようにして生きて行きたいですね。ウクライナでもガザでも、こうしている間にも命が奪われて行きます。私は、雨も雪も天の涙のような気がして深いため息をついてしまいました。ラジオから流れて来るアコーディオンの音色に、パリの裏町の、フランス革命前夜の疲弊した人達の、乾いてでもいるかのような哀しみを感じた朝でした。

12月22日、冬の匂い

色とりどりの小菊が咲いています。菊の香りから、昔読んだ雨月物語を思い出しました。どの話も恐ろしいというよりも、人間の悲しさを感じさせるものだったと覚えていますので、夜思い出してぞっとするほど怖いと感じた事はありませんでした。蜜柑や柚子も大分色付いて来ましたので、里芋を煮て柚子の皮を刻んだものを振りかけてみました。浅漬けやなます、柚子味噌にも柚子は使いますが、その香りに、冷たさと、暖房の室内の家族の気持ちのホッコリとしている様のどちらをも感じて小鉢の中で香りが静かにこもって品よく納まっているように見える不思議な、紅葉した銀杏の葉のような深い色のこの柚子をしばらくじっと見ていました。どうして香りが広がって行くと感じられないのか分かりませんが、かぐや姫を連想してしまいます。蜜柑とは全く違うと思えるのです。また、冬野菜も、似ているものなのに随分違っているようにも感じられるものがあります。大根は軟らかい香りで、温かいおでんの鍋の中に厚切りでおさまっています。エプロンをかけたなで肩のお母さんと言った風情の野菜のように感じます。けれど、蕪は、ツーンとした強い香りでピリッと辛い所が、年が改まった事を感じさせます。テキパキ動く若々しい女性、という印象なのです。そうすると、聖護院大根は大根で、日野菜蕪は蕪なのですね。日野は、安土城の留守を預かっていて、信長が本能寺で討たれた事を聞き、安土城に火をかけ信長の家族とともにいったん城を出た蒲生堅秀はこの日野城の城主だった、安土城の南蛮風の天守とは一体どんなものだったのか、今見る事が出来なくて残念だ、などと次から次へと連想してしまいました。後年会津で亡くなった蒲生氏郷は堅秀の息子、三条殿は娘という事になります。ここまで思いますと、限りあれば吹かねど花は散るものを心短き春の山風、と言う蒲生氏郷の、有り余る思いを残して早くに旅立った思いが私の胸に迫って来た夕暮れ時となりました。

12月16日、始まりと終焉の色

オレンジ色は日の出の空と夕焼け空を連想する色です。濃い曙色、と感じます。懐かしい、灯の点った宵の口の和やかなホッコリした雰囲気の和室、郷愁と言いますか、洞穴にまで通じるような安心感があると思うのは、どこか胎内回帰にも似た安心で安全、守られている場所だと思う、けれどもう安心できるような守られている場所へは戻れない大人の自分を知っているからでしょうか。ですから、オレンジ色はとても不思議な、余韻の残る味わい深い色なのです。だからこそ安易に選ぶ事が出来ないのです。洋服の色としては。私にとって、心の引き出しにそっとしまっておきたい色なのです。人間の、この世での始まりと、終焉の色、という気がします。このような事がふと気になったのは、第二次大戦後の一時期に大きな影響を与えたキーパーソンであった米国のキッシンジャー元国務長官の訃報に接したからです。百歳だったそうです。中国との国交正常化に動き、忍者外交などと言われましたね。もう一人、サウジアラビアのヤマニ石油相、世界のエネルギー市場に大きな影響を及ぼしたこの人も、2021年に亡くなりました。1972年が米中の国交正常化、1973年がオイルショック、どちらも大きな出来事でしたので、深く記憶に残っていますけれども、時間はこうして止まることなく流れるように、飛ぶように過ぎて行くのですね。

12月6日、楓に初霜

新聞に訃報の載っていない日は殆どありません。どの方も仕事で人によく知られている方です。でも、どの方も子供の時があり、育ってきた家族との日々があって、学び、仕事をして来た人生だったのでしょう。長かったのか短かったのか、新聞に載っているという事はその方がこの世にはいないという事です。何十時間か前まではそのご本人は生きていて、ご遺族はご家族だったという現実が否応なく変わってしまった事を受け止める事はとても辛く難しい事です。情報でありながら単なる情報ではないような、私も大勢の方を見送って来たという重い現実を改めて思い、立ち止まって自分が歩いて来た道を振り返っています。人間は多くの人と出会い、別れて行くものです。暫く合わなかった友人とはまたいつか再会出来るでしょうが亡くなられた方とは、夢にも思わなかったあの日あの時が今生での最後になってしまったという事がありますね。最も、私ももう若くはありませんから、友人と、何年先にまた会いましょうという約束は出来ないのです。ですが、本当は明日生きているかどうかは年齢と関係なく、誰にも分からないのです。私は、人間には魂と言うものがあって、この世から旅立ったら別の世界に移行して行くという気がするのですが、それはある時重病だと思って検査を受けていた時にあれこれ感じた事からそのように思うようになりました。本当の事は誰にも分かりませんし、分からないから良いのかも知れません。ただ、こんな事を考えるのは多分人間だけでしょう。二十歳位の時には前を見ていますし、希望があり、不満もあります。未知の未来があったのです。あの頃、私は自分の生きて来た日々をゆっくり振り返る事などありませんでした。でも、今ゆっくりと振り返る事は、残り少なくなって来た時間の中で、自分の心の奥深くと向き合い、素直な気持ちで、見えたものを受け止めて締めくくりたいという思いがあるのでしょう。今年は、楓が黄色からオレンジに、そして真っ赤に変化して行く様が、単なる紅葉とは思えず、見ごたえのある一枚いちまいの葉の一生を見せてもらったかのような手応えを感じました。十二月二日には霜が降り、そろそろ紅葉の終わろうとしている楓もうっすらと白く染まりました。私は、痛々しくもあるけれども、最後まで美しく今年を生きた楓を見届けたい、そう思いました。人、そして落葉樹の葉の生涯を、私は今までどれだけ正確に大切に見届け、受け止める事が出来たのでしょうか。今日も新聞に訃報が載っているのかも知れません。それを知る事は木枯らしが胸の中を吹き抜けて行くような言いようのない寒さと氷のような冷たさ、そして限りない寂しさを感じ、空虚感とも向き合わなければならなくなるという事なのです。我が家では一時期、母と祖母の二人が別々の病院に入院していました。二人共重病で完治の見込みはありませんでした。ですから、看病が終わる事は命が終わる事を意味しており、私は決してそのような事を望んではいませんでした。母の入院していた病院に泊まって付き添っていた私は、ある時精神的に疲れて、家の近くのかかりつけの病院に一晩入院し、点滴を受けました。翌日退院し、祖母の入院している病院に行って父が留守だった自宅に一旦戻り、それから又母に付き添う為に自宅を出る時に、裏口のドアを閉めたあの時の、緊張した、気持ちを新たにして、という決心と、これからの日々を思うと氷の中に閉じ込められたような言いようのない閉塞感、鋸で切られた幾つもの傷の痛みを抱えて生きているような思いは、今でもはっきりと覚えている感覚です。心理の勉強をする事だけが自分の心を保って生きて行く命綱でした。気分転換する事が出来る何か楽な事をしたいとは思いませんでした。車がスピードを出し過ぎているからタイヤから火花が出そうだというような事を何故選んだのか、今でもよくは分かりません。1980年、92年、95年、99年と、家族が次々と入退院を繰り返し、旅立って逝ったあの頃、必死で病人と向き合っていた私は、やるしかない、という現実の中に飛び込むようにして、随分痛い思いをしながら生きていたのだと思い、生きる事は生々しい様々な出来事の記憶とも共に歩いて行く事であるのだと改めて感じた次第です。

11月30日、初めて見た八角形のイメージ

バッハのシャコンヌを聞きました。ヴァイオリンの音色がいきなり私の胸に飛び込んで来て、色とりどりのタイルが綺麗に張り付けられたような硬い八角形の物が、私の心の中にスーッと入って来てゆっくりと回転しながら、美しい部分、その裏側の薄汚れた汚い部分など様々な部分を私に見せています。世の中や万物、それは太古の昔からといったような地球に刻まれたありとあらゆる物、そして今も存在しているものすべてにあるような規則性と言いますか、万物に共通している理をも見ているように感じられる不思議なものでした。何かとても惹かれるものであり、一目瞭然とはこのような事なのかと感じたのです。その不思議な八角形の物はその後、随分長い時間だったような気がする一方、束の間だったかのようにも思える、音楽の終わる頃には、私の心の中からスーッと出て、遠ざかって行きました。ヴァイオリンに載せて、何か雄大でもの悲しい、衝撃的な人間や世の中の裏と表、そしてもっと言えばこの世の成り立ちのからくりすべてを見せる為、教える為にいきなり私の心に侵入して来たように感じられるものでした。私にとってバッハのシャコンヌのこのイメージは聴覚から浮かんで来た、もう一度聞いてみたいような、もう聞かなくても良いような、沸き起こって来る、相反する感情に戸惑い、魅了される曲でした。この曲のモチーフは一体何なのでしょうか。

11月26日、黙っていた白い花びら

朝、花瓶の水を取り替えてから暫くして、外に出ようとした時に花瓶の中にあった白い秋桜の花びらが一枚玄関に落ちているのに気が付きました。八月の終わり頃から咲き始めていた白い秋桜でした。秋たけなわの今、そろそろ自分は去る時なのだと感じたのかも知れません。半日経っても一枚のこの花びらは少しも変わらず、押し花のように同じ場所に横たわっていました。私は、こうして少しずつ季節が変わって行くのを普段はあまり気付かずに見過ごして暮らしているような気がして、大切な初秋の友人だったこの一枚の白い秋桜の花びらを暫くそおっとして置こうと思います。ところで、母は文楽が好きでしたが、私は歌舞伎に比べて簡素な設えの舞台と感じる能や狂言を好みますし紋付き袴姿での舞が好きなのです。茹でて蕎麦つゆのない蕎麦、ソースやマヨネーズなど何もない千切りの生のキャベツ、こういうものも素材の味がするので、時折食べます。そのようにして食べる事に抵抗がありません。素と言うのは、人や食材等のそのままの、根幹のような姿です。例えば人間ですと、その人の本質のような物だと思います。私は余分なもので飾っても言い繕っても誤魔化せない本質を知ろうとする人間なのでしょう。真の部分は芯の部分でその人を知るのに欠くべからざる部分、そこを知って、人や、出来れば多くの物とも関わりたい、物に対しては幾らかは知的好奇心とも言えるこのような所を持っている自分なのですね。一枚の、自然体で散ったままの姿でいる白い秋桜の花びらから、こんな事も考えてしまいました。

11月21日、リンゴの台の木

今から五十年ほど前、ゴールデンデリシャスと言う黄色いリンゴや王林と言う緑色のリンゴがスーパーで販売されているのを見て、私は興味津々、買って帰りました。どちらも甘く、ゴールデンデリシャスは洋梨のような独特の香りでした。リンゴと言えば赤いものが完熟と思っていたのですから驚きました。昭和四十年以前のリンゴは甘くて果肉が硬めの国光と、酸味が特徴の紅玉の二種類だったように思います。どちらも今のリンゴより小さく、中には形がいびつの物も混じっていて、大きなリンゴ箱を積んだ車で売りに来る方からそれを買う事が多かったのです。我が家ではこのリンゴ箱は猫の夜眠る場所になりました。母が中に薄い布団を敷いたので猫達は心地よさそうに寛いでいました。あの頃の国光と紅玉、とりわけ国光は見る事がなくなりました。この二種は、今の多くの種類のリンゴの台の木になっているのではないかと思います。私は酸味の強い紅玉が好きでした。紅玉は果肉がやや柔らかいのであまり日持ちがしないのでしょうが、昔は今より冬寒かったし、家族の人数が多かったので傷む事はありませんでした。今では冷蔵庫に入れ、調理に用いる事が多いようです。私は子供の頃のように生で食べています。この国光と紅玉がリンゴの先祖のように思えるのです。リンゴも人間も、最初の存在があって今と言う時代まで続いているのです。紆余曲折があって進化して来た人間は、地球環境の中で生きるのにより適してきたのでしょう。けれど、リンゴのように後の世の子孫にどれだけ役立って来たのだろうかなどとつい考えてしまうのは、自然災害を誘発する開発と暮らし方、戦争、兵器の研究開発という事を思うからなのです。紅玉や国光がたまらなく懐かしく思われるのは、不便で長生き出来なかった大昔の人間が、どこか素朴な心を持って生きたように思え、そこへ私の心が懐かしく回帰する、このような事なのでしょう。今年も、この時期に亡くなった女性の笑顔が重なる美しいリンゴ、ぐんま名月が出回る季節になりました。

11月16日、目を瞑る

大学一年の時の事です。ある授業で、シュルツと言う人の自律訓練法というものはどのようにするのか、少しやってみましょう、という事がありました。それはリラクゼーションの技法であり、手や足が重い、温かいと感じるとリラックスしている状態になるという事を体験したのです。詳しい事は省きますが、これは目を瞑って行うものです。今までも、目を瞑って何かをするとか考えるという事を、学校などで皆と一緒にした事は何度もあり、スムーズに出来たのですが、自律訓練法の時には、怖くて目が瞑れなかったのです。それがとても不思議でした。怖くて目が瞑れなければ目を瞑らず聞いているだけで良いと言われた事にも驚きました。学校は、皆でこれをやってみようと言う場合は必ず全員で、と言うのが高校までの学校という所でした。私はそのような時に特別出来なくて困った事もなかったですし、疑問を感じてもいなかったのです。必要な事を学習しているとは言っても、暗にコントロールされていたとも言えると思います。大学は与えられるというより自分で考え、選択して学んで行く所なのだと痛感した出来事でした。それにしても、何故目を瞑れない怖さを感じたのかという事はずっと気になり、私はこの学校を卒業するまでにどうしても自分の心の奥に分け入って、目を瞑れなかった怖さの源を知りたいと思いました。それがカウンセリングを受けるという事へつながって行った、私にとって大きな出来事でした。カウンセリングを自分がするという事は、その前に自分がどのような自分なのか知る事が不可欠です。今までこの自律訓練法の時の事を友人にも話す事がなかったのですが、話す事の億劫さが次第に薄れて来ました。話しても構わないという心の状態になったのです。自分という人間の無意識の出来るだけ奥まで知って受け入れたいという気持ちが、以前より分量が増えて来たのではないかと思っています。

11月12日、描かれたものは語る

テレビで、四十八年程前の番組を再び見て何とも懐かしい思いがしたのですが、その番組はかつて木場の川並鳶であった人やその周辺の人達、家族の昭和の日常を取材したものでした。全く違う場所で全く違う暮らしをして来た私を、一気に十代の頃に戻してくれました。言葉にはならないある一時代の町の雰囲気や人の暮らしには、その頃を生きて来た人間にとってはすぐに溶け込み、懐かしさを感じさせ、共感出来るものがあるのでしょう。その番組の中で、かつての木場の自分達の仕事の様子を幾枚もの絵に描いたものを見せてくれた方がいらして、その絵がとてもイキイキとしていて、角乗りをしている人や材木、水までもが絵の中で動き出したかのように見えました。その時、私は、動画も良いですが、経験した人の描いた絵や文章は、口伝えが出来ないほどの歳月を経ても、災害や戦争を正確に、生々しく後の人達に伝えて行く時の非常に大事なものとなるに違いない、そのように思ったのです。私にとって貴重な気づきでした。そのような事を考えているうちに、小学生の頃のある夏休みの午後の事を思い出しました。その日、私は鶏頭の花を切って色水を作って見たくなったので、今までは綺麗に咲いている花を摘む事をしなかったのに、初めて鶏頭の花で色水を作ったのです。とても美しい赤紫色になったのですけれど、私は少しも楽しいとは思えませんでした。鶏頭の花は色水から取り出して結局は捨てられるのです。胸が痛くなって、私の心の中は可哀想な事をしてしまったという後悔の気持ちで一杯になりました。ほとほと懲りてしまったのです。あの気持ちは一体何だったのか、五十年近く前のテレビ番組からどうしてこのような事を思い出したのかよくは分かりませんが、何か意味や関連があるのだと思います。

11月8日、激痛が

先日、新型コロナウイルス五回目の予防接種に行きました。その前夜、軒下にタオルを干すために裏口から外に出た時でした。素足にサンダル履きだった左足の指先に、尖ったガラスで切ったような痛みを感じ、割れたガラスなどないのにと不思議に思って一瞬考えたのです。その時、もう一度もっと牙で嚙みつかれたような痛みを感じ、手でそれを取って捨てました。それはムカデでした。毒があるといけないと思って患部近くを押さえて流水で洗い流しましたが、三時間くらい激痛で身動きが出来なくなりました。虫に刺されたり、怪我をしたりした事は今までにもあります。小学生の時に釘の刺さった板を踏んだ事もあったけれども、私はわりと我慢強く、これほど痛いと感じた事はありませんでした。まだ気温が高く、虫も多いですから皆様どうぞお気をつけ下さい。幸い、皮膚科での予防接種でしたので、お医者様に虫刺されも診て頂いて予防接種は無事に済みました。五回目の接種ですが、やはり、疲れているような、身体が重く感じる、軽い副反応がありました。ぼんやり過ごしていた時に、販売されたお弁当の食中毒のニュースを聞きました。昭和の終わり頃、法事で頂いたものの中にあったお料理代わりの砂糖を、暫くしてから開けた時の一袋の中に奇妙なものが入っているのに気付き、具合が悪くて休んでいた母に聞くと、多分工場の中にあった砂糖に付くダニの卵が袋の中で孵ったのだと思う。砂糖を煮沸出来ないのだから捨てなさい、と言われ、ビニール袋に入れて捨てました。くださった方も、販売した店も分かりますが、その方達のせいではありません。工場がもう少し衛生面に厳しくしていてくれたら起きなかった事だと思いますし、その時、多分日本中で販売された一キログラムの砂糖が入ったビニール袋の幾つかの中に、ダニが入っていた物があるのだろうと思いました。強烈な異物混入の記憶だったものですから、未だにその会社の砂糖は買いません。ですから、食品や食材の異物や問題が報じられるととても複雑な気持ちになります。悪意でした事ではないだろうと思います。けれど、それを買い求め、口にしてしまった人の感覚や気持ちもよく分かるのです。飲み込めないもの、出会いたくなかったもの、かかわりたくないもの、などは、物ばかりでなく人についても言えると思います。知らないから何事もなく日々の生活をしていられる、知らぬが仏、という事も勿論沢山あると思っています。スマートフォンでの他者とのやり取りが、家庭に持ち込まれますと、人の心がいきなり見えてしまうような事になり、もはや知らぬが仏はいない世の中になって来たと思えるのです。人の心は見えれば良いというものでもないと思いますが如何でしょうか。

11月4日、洗濯してくれた

十数年ぶりに洗濯機を買いました。壊れてしまったからなのです。今まで使っていた洗濯機はフォルムが丸く、何となくふっくらとした母性的な存在でしたが、今度の洗濯機は四角く、父性的に感じます。彼は今朝、思索しながら、とでもいうように静かに洗濯をしてくれました。洗濯してくれる人が、かつて京塚昌子さんが演じていた肝っ玉母さんと言うドラマの中のお母さんから、哲学する執事のような人に変わった我が家なのです。いずれにしても、黙々と実によく働いてくれ、納まるべき所に納まるべき人がいるという状態になって何の支障もなく毎朝の家事がはかどります。私の小さい頃、祖母は盥で洗濯をしていました。手洗いですから時間が掛かるのですが、祖母はとても洗濯が上手で柔軟剤などなくても取り込んだ洗濯物はいつも綺麗にふんわりとしていたものです。烏の赤ちゃんなぜなくの、と言う歌を、洗濯をしながら私によく歌ってくれました。長い間よく働いてくれた洗濯機を送り出す時にこの祖母の後ろ姿が重なりました。洗濯機は機械が洗濯してくれるので、その間人間は他の事をする事が出来るのですが、今私達はそれが当たり前だと思っているのではないでしょうか。昔の人達の苦労の積み重ねから新しい機械が研究開発され、今はその便利な機械を家庭で使えるようになったという事に感謝したいと思います。ところで、長安一片の月万戸衣を打つの声、で始まる、李白の、子夜呉歌と言う漢詩をふと思い出しました。秋に砧を打つというのは兵役に就いていた夫に送る冬着の用意の為だったのでしょうから洗濯と直接関係はないのですけれど。

10月30日、退路を断って生きる痛み

戦争はいつの時代でもどこの国でも人が亡くなり、家や町が破壊されます。そして殺さなければ殺されるという中にいると、同じ人間であり、家族とのささやかな、幸せな生活を願っているであろう戦争の相手の国の人達を憎んでしまいがちです。戦後も憎しみの連鎖は容易には断ち切れません。深い溝が埋められるのにはとても長い時間がかかると思うのです。それでも人間は戦争を繰り返しています。ここ日本の国の中でも、近い時代では戊辰戦争がありました。江戸から明治という時代になるという時代の大きな変化が起きる過渡期でしたね。白虎隊の少年達がその中で命を絶って行った事は多くの方がご存知だと思います。その後、生き残った会津藩の人達の幾人もが、今に名を残す仕事をして明治という時代を生きて行きました。志を持ち、亡くなった多くの人の事を胸に、相当な覚悟をし、退路を断って生きて行ったのだと思います。見事とも言える足跡には大きな痛みと犠牲が伴ったのであろうと察せられます。これからの時代には、戦争をせず、少年少女達が、自分がどのように生きて行くかを十分考えて選択の幅が広い、自由に選択できる、と言う世の中であり、自他の命を大切にして手を携えて行ける世の中であって欲しいですし、そのような世の中である為には私達一人ひとりの自覚が何よりも大切だと思っています。それが、長い歳月、多くの戦争で犠牲になった人達へ幾らかでも報いる事になるのではないでしょうか。嘗て雨上がりの飯森山で、戊辰戦争で亡くなられた郡上藩士の方々の為の岐阜県知事からの黒御影の碑に、散ったばかりの一重桜の花びらが幾枚も張り付いていた光景に遭遇しました。郡上藩は幕府側、朝廷つまり薩長側どちらが勝利しても困らないよう朝廷側に恭順の意を示し、しかし一部の藩士をひそかに会津に送っていたのです。藩存続のための苦肉の策だったのでしょう。けれど、戊辰戦争後に会津から帰った藩士達を牢に入れ、やがて赦され外に出られるようになった人達の一部は会津藩の人達が移り住むことになった下北半島へ移って行ったと聞きました。長い間仕えて来た藩に裏切られたような気持ちになったからなのだろうと思います。武士も町人もなくなった現代のお盆の郡上踊りに、この人達の魂は故郷に安心して帰って来ているのかも知れない、毎年郡上踊りと聞く度に私はそう思うのです。そしてあの桜と碑は、散って行く桜のように短い生涯であった人達を故郷からの碑が惜しんでいるのだろうか、それとも亡き人達が故郷を懐かしんでいつまでも碑と共に居たかったのだろうか、そのような事を思って立ち去りかね、暫く飯森山に佇んでいたあの日の事が、つい昨日の事のように思われてなりません。

10月25日、聞くとイメージが

ライラック色の百日紅が秋になっても美しい花を見せてくれます。鉢植えですからあまり大きな花は咲きませんが、如何にも秋の佇まい、落ち着いた花の色は盛夏よりも次第に深まって行く秋によく似合う、どこか寂し気で、もの言いたげに感じられます。一方、淡いピンクの秋桜、赤い千日紅、黄色いカンナを花瓶に挿すと、夏と秋が混然一体としているようにも見えるのです。ところで、お線香にもいろいろな種類があります。値段も幅がありますから、高価な物は滅多に使う事がありません。でも、久しぶりにいつもよりちょっと高いお線香を買いました。二箱共白檀の系統の香りです。一方は柔らかくて少し甘く華やかで余韻が残る香りです。でも、最後に感じる香りは、苦みや、ハーブのような辛みと清々しさがどこまでも真っすぐに漂って行くよう、これが秋の紅葉のイメージのお線香でした。心の奥深くへすうっと真っすぐに入って来るように感じます。もう一方は華やかで、奥行きよりは広がりを感じる濃厚な香りで、八重桜がしだれているといった風情の香り、こちらはお寺の満開の桜のイメージにピッタリで、最後に足元に漂うように残ります。亡き人達とのコミュニケーションは湿り気を帯びた苔の緑のような渋いもので何時までも残る、と感じました。お香の事はよく分かりませんが、お香を聞くと自分の感覚の世界が広がって行くのかも知れませんね。

10月21日、秋桜、負荷

九月の初めから秋桜が咲き始め、今は満開です。我が家の猫にとっては秋桜の林のように見える庭となりました。毎日匂いを嗅いだり秋桜をじっと見たりして束の間のこの季節を楽しんでいるようです。何にでも興味津々なのでしょう。それにしても、実りの秋だというのに物の値段は高くなるばかりで、水の循環のようにはなり難いものなのでしょうか。戦争の影響が世界中の人間の暮らしをどんどん削って足元が危うくなって来たと感じます。前途多難な温暖化した地球と私達生き物ですね。臨床心理学は、臨床から理論が、そしてその理論に基づいて臨床が、と言う風に行われていますが、社会の変化によって人間の暮らしが変わり、心も戸惑う程大きく速く変化している世の中で、じわじわと心が侵蝕されているようにゆっくり疲弊して行く、と言うのは、やはり臨床の現場で、生きづらいと感じる症状や原因が、少しずつ変わって来て、これからも変わって行くのではないかと思います。自分の無意識の奥深くを完全に知る事は出来ませんが、その無意識の変化や分量と言うのは一体どうなって行くのか、成人して経験が増える事だけが分量の増減の理由ではないような気がします。そして、幼い頃の親との関わりがやはり人間の人格形成に大きな影響を与える事だと、もう一度自分の背骨を振り返るように思っています。臨床心理学が無限の大きさと奥行きを持っていると改めて感じ、臨床の知と言う言葉を思い、圧倒されそうな不思議な気持ちになりました。

10月17日、川は流れている

以前お話しした事にまた気持ちが戻って行きます。突然のハマスの攻撃からイスラエルとパレスチナの武力での争いが始まりました。火種はずっと燻ぶっている、エルサレムには三つの宗教の聖地があるというのに、あるいはそれがかえって問題、という事もあるのだろうか、と考えてしまいます。以前見たテレビ番組で、イスラエルの諜報機関の人が、ヒトラーに最後まで忠実であったという、アドルフアイヒマンを逮捕するために、居住していたアルゼンチンの彼の自宅近くでアイヒマンの様子を見て驚いたという言葉に私は衝撃を受けました。さぞ恐ろしい人だろうと思っていたのに、平凡なごく普通の父親だったからという理由でしたので驚いたのです。アイヒマンは逮捕されイスラエルで裁判の後に死刑になりましたが、子供の頃父親から虐待を受けていたそうです。このアイヒマン逮捕にかかわったという諜報機関の人は、故郷ポーランドの村に行きます。嘗て母や妹たちと暮らしていた家は廃屋の状態で残っておりその近くの線路の辺りで遊んでいる数人の子供達の様子を見た彼は、小さなアイヒマンはどこにでもいます、とさらっと言ったのです。虐めている子と虐められている子がいたようでしたから。あの時、彼は家族と幸せに暮らしていた過去を思っていたのでしょう。そして私は、人を虐める子供にどう関わって行けば良いか、もし自分の中に同じような、人に対して意地悪な気持ちが沸き起こって来たら、どのようにして行けば良いのだろうという、未来を考えていたのですから、あの時私と彼が向き合って話をして、それぞれが反対の方向へ歩き出した大切な瞬間だったと今も思っています。内なる小さなアイヒマンとどう向き合うのかという事は私の一生の課題です。非常に印象深い番組でした。そして、もう一つは、ヨルダン川西岸の現状についての番組でした。イスラエルに編入され、イスラエルからの入植者の多いこの地域にはむろんパレスチナの人達も住んでおり、やはり争いの絶えない所、そういう知識を持っていた私はとても暗い気持ちで見ていたのです。番組の最後に、ヨルダン川がゆっくりと映し出されました。特別に整備された場所ではなく、幅の広い川でもありませんし、人気のないその川の両岸には有刺鉄線がずっと続いています。それがこの地の厳しい現状なのだと感じて川の水に目をやった私は希望を見つけました。この川は緩やかに、本当に少しずつ流れていたからです。川の水はいつまでも同じところに留まってはいないのだから、この水も流れているように、この地の人達もいつかきっと和解し平和がもたらされ、平和を喜びあえる日が来るに違いない。信じよう、そんな気持ちになったのです。それは自分達自身の努力と、努力ではどうにもならない事の両方がある困難な長い道のりなのだと思います。けれども、命を奪い合わず、もうこれ以上多くの血が流されないよう良い方向へ向かって行って欲しいと、今回の事でかつて見た番組に戻って行った私の心は、ただただそう祈るばかりです。

10月13日、子供の心、個性

最近子供が玩具屋やスーパーなどに親と行った時に物を欲しがらない場合は発達障害の心配がある、という事を示唆する文章を時折見かけます。それは間違っているという訳ではないと思いますが、必ずしもそうではない事もあると思います。子供の成長発達は親にとって非常に関心のある事であり、心配だな、と思うととても気になってしまう事でもあります。子供を愛していて幸せに生きて行って欲しいからです。実は私も物を欲しがらない子供でした。おやつも多少の玩具もあり、それ以上欲しいとは思わず、あるもので満足し、工夫と言いますか、想像して遊ぶのが好きだったからだと思います。ですから、興味を持たず欲しがらない事をそのように心配する今と言う時代に驚きました。また、多くの親は子供が明るく元気よく友達や先生と関わり、外向的である事を望んでいるように感じます。ゆっくり考えてから、物を言ったり行動する子がものおじしているとは限りません。いちいち反対するようですが、私は、友達は自然に出来るというタイプでしたし、本を読みたければ本を読み、友人達と校庭の遊具で遊びたければそのようにすると言う子供だったのです。小学校一年生のある時など、一学年上の二つのクラスの先生と子供達が休み時間に遊んでいるのをじっと眺めていました。それは、この二つのクラスの先生の笑顔や子供達との遊び方、子供達の表情、様子、このようなものの違いが感じられ、比べて見ていると新しい発見があるのが楽しかったからなのです。これは何日か続き、その後またいつもの日常に戻って行きました。その時、クラスメイトは無理に遊びに誘わず、担任の先生は、仲間に入れないで窓から外を見ているのだろうから言葉をかけて誘導しよう、などとはせず、自由にさせてくれたのです。一人ひとりの子供がよく見えていた先生だったと思っています。私がいくらか変わった子供であったのかも知れませんけれど、皆それぞれ個性がある存在なのだとも思います。また、学芸会の時に浦島太郎の劇で、私は乙姫様になりたいとは全く思わず、縞鯛になりたかったので、魚役になりました。レモンイエローと黄緑の縞に色を塗った画用紙の縞鯛はとても綺麗に出来上がったので、それを頭に被って非常に満足したのでした。このように、人はたとえ子供であっても、一人ひとり違うので、深くその子の心を理解するのは難しい事なのですが、大人はそのような子供の心を大雑把に鈍感にではなく、是非理解するようにして行きたいですね。それが育てるという事だと思います。

10月9日、残骸の痛々しさ

札幌や北見で猛暑日などと言うニュースを聞くと耳を疑った八月でした。梅雨明け後、八月に入ってからは最高気温が毎日30度を超えるようになり、扇風機を使ったり、風鈴や簾、団扇、蚊取り線香、そして花火などがいかにも夏、と言うものだった事が随分遠い過去になってしまったと感じます。それは自分がそれだけ長く生きて来たという事でもありますがあまりにも気候が変わり、思い出と言いますか自分の記憶が残骸のように砕かれて行くようで、地球そのものが何かとても痛々しく思えてなりません。気候が過酷で唐突に天候が変わる事が日常茶飯事になると、ストレスもあって、人間の気質が穏やかではなくなるのではないか、それは起きる事件にも影響を与える。以前こういう新聞記事を読んだ事があります。気候や天候の大きな変化や、日によっての差が人間の気質や事件にどの程度影響を与えているのか、また、それは有意な差であるのかという事は、あまりにも大きな事であり、要因は複雑であろうと思いながらも何となく頷きたくなる気持ちになります。あまり暑いとボォーッとして思考力が落ちます。夕暮れ時になっても30度以上あり、舗装道路からは湯気が立ちそう、室内は冷房がなければ熱中症になりそうという八月でしたから、この気温を幾らか貯蔵しておいて冬に使えたら良いだろうに、などとつい考えてしまいました。

10月5日、蝸牛と贈り物

重病人に付き添っていますと気持ちも疲れて来ます。春たけなわの世の中の景色や行楽地を訪れ、楽しそうにしている家族連れのニュース映像などは別の世界の出来事のように感じられますね。一日中病院にいると段々小さな渦の中心に向かって自分がうずくまったまま固められて身動き出来なくなる、そのような気持ちになるのはとても辛い事です。それは自分自身が追い込まれて行く事なのですが、もう一つ別の所から見ると、自分で自分を蝸牛の殻の中で身を固く縮めて息苦しくしているとも言えると思います。自分で自分を縛ってしまうようなものです。そういう時にはマイナスに物事を捉え、考えるようになりがちです。私も家族が次々と病んで入退院を繰り返していた時期があります。その頃のある日、私は庭の花にホースで水やりをしている時、そのホースを動かした瞬間虹が見えたのです。ほんの一瞬の事でした。八方塞がりのような日々に、神様がこんなに美しいものを見せてくれた、これは天から私を見ているというメッセージなのだと感じたのです。思いがけない贈り物でした。そして、冷たく暗く固まっていた自分の気持ちが少しずつほぐれて来たような気がするのです。蝸牛の殻は丁度良い大きさなのでしょう。ただ、自分の気持ちが前向きになれない時には、殻が小さくなり、窮屈な所に閉じ込められたように感じるのではないでしょうか。何度も脱皮を繰り返すように、自分の人間性を成長させて行く、それがその人の人生を生きるという事なのだろうと思います。

10月1日、時間と体感、地球と自分

地球の自然は長い間に少しずつ変化して来たのでしょう。時間も、計る事が出来ない昔からあった筈ですから、地球というものも時間の始まりもすべて分かっている訳ではなく、将来と言うものはいつまで続くのか、限りがあるかどうかも分からないという、とても長くスケールが大きい事のように思います。一方、人は生まれて育ち大人になっていずれは老いて病み、亡くなるという存在であり、一人の人間の一生は速いとも短いとも感じます。地球の変化も、一人の人間の生きている何十年かの時代で、目まぐるしく変わって行く現代、と思いますと、地球と時間の緩やかな変化は、一人の人間の生きている期間とそこで起きている事や見ているものと対照的に思えます。地球と時間をどのような視点でとらえるかという事を、今と言う時代に生きている私の数十年の人生の中で、現在進行形で、と考えた時に、とても難しいと感じます。地球と時間の中に一定の期間存在し、その時代に起きている事を体感する自分、まるで幾つもの柔軟で透明、そしてしっかりしたシャボン玉のような中に一人ひとりが入って存在しているのが人間、あるいは二重のダイヤル式の金庫の中から一定の外の空気に触れる事が出来て生きているのが人間、このように感じられます。今この瞬間の貴重さと、狭い場所で短い時間での体験でしかないという二つの矛盾したように感じる環境の中で生きているのだなどと思いました。どうでも良いような事です。けれど、夜中に目が覚めた時、方眼用紙のイメージが急に浮かんで来てこのような事を考えてしまいました。そして、極めて限られている人としか出会えない人生で、出会った人、と言うのは奇跡的で大きな意味のある出会いなのだからこの貴重な人達と触れ合った心のつながりを大切にしたいと改めて思いました。

9月27日、父と娘、回帰する

岸辺の二人、という題のとても短い動画を見ました。場所はヨーロッパのようです。父親と娘が別々の自転車に乗って川沿いの道を行き、自転車を降りる。父親は川に降りて行き、手漕ぎボートに乗って岸を離れ、去って行く。父親が帰って来ると思って娘は待っていた。やがて彼女は成長し結婚して子供を産み育て、老いて行く。そしてあの川に行くとボートが砂に埋まりかけている。このような動画でした。背後にはドナウ川のさざ波と言うあの有名な曲が流れている、と言うものなのですが、そこには多くの物がギュッと詰まっていると感じました。いつどこの事なのか私には分かりません。父親が去って行ったのは戦争の為なのか、何か特別の事情があるのだと思います。去って行った父が帰って来るのを待っていた娘はやがて結婚、子育てと言う日々を、長いとも言える時間を生きて行く間にも、きっとあの日ボートに乗って去って行った父親の事が心の中にあったのでしょう。帰って来ると信じて、期待や寂しさを胸に、心の原点のような、原体験としていつも彼女の心の中にあったのだと思います。人生の中で味わった、心が大きく動くようなあらゆる出来事は、決して悲しい事ばかりではなかったと思いますが、やはり彼女の心はあの日へと回帰して行く、老いてあの場所に行った彼女は砂に埋もれかけていたボートの中に横たわります。おそらく亡くなっているのであろう父のもとに彼女も静かに旅立って逝く、という事なのだろうと思うのです。寂しさや悲しみを心の奥に持って、しかし絶望やその中で見いだされる希望、生きて妻となり母となっての暮らしは手ごたえのある人間の暮らしです。けれど、彼女の心の奥にはあの日の父との別れが一番大きく生々しく、残っていたのではないでしょうか。原体験は支えてくれる温かいものでありながら、父との突然の別れという冷たいものでもあった。回帰する事は、瘡蓋も出来ていない傷口を脱水機に入れてかき回すような事でもある。アンビバレントな事であり、それを大切に心に持ちながら彼女は生きて来たのでしょうね。それは誰の心の中にもある何かと共通のもの、という気がします。社交ダンスと対になってイメージが浮かんで来るドナウ川のさざ波、あれは華やかで煌びやかなものだとばかり思っていたのですが、この映像と共に聞くと、重く、哀しく、寂しさもあり、灰色に濁っていて澱んでいる人間の心の奥を垣間見たような気もするのです。そして、悲しく、懐かしく、この上なく美しく切なく心に響きます。また、立ち止まって自分の真後ろをそおっと振り返って見ている人間の素直な気持ちにも感じられました。儚く優しく、脆いようでいて強靭な、普段は心の中に折り畳んで大切に仕舞って生きているもの、人間を語る時にもしかしたら一番大切な何かなのかも知れません。感動した方が多いようですが、私も不意打ちのように突き付けられた、垣間見た心象風景にも似たものに共感し、言いようのない深い思いを噛みしめています。心を揺さぶられた余韻は長く続き、やがて定着して行くのだろうと思います。失う事は不安や悲しみ、あるいは絶望というものだけなのか、生々しく生きている原体験は、少なくとも失われはしません。では、大きなものを得た事は単に喜びなのか、失われて行く事の始まりになりはしないだろうか、このような気がして、やじろべえのように私の心はいつまでも揺れ動いています。

9月23日、引き出しの中

引き出しの中に包装紙の切れ端が入っていました。大分古いもので、以前自分で入れた物なのです。乱暴に取り出したから切れ端が残っていたのでしょう。その包装紙の切れ端を取り出して、ふと思いました。心の奥に紙の切れ端のように残っている嫌な出来事は、多分よく見ないで引き出しを閉めるように蓋をしてしまう事が案外多いのではないか、と。私がこの時思い出したのは、小学校高学年の春休みのある日の事です。その日、母と隣町に出かけ、昼食に鍋焼きうどんを食べました。初めて入った店でした。日陰では幾らか寒く感じる日でしたので、そのうどんは美味しかったのですけれど、大きく切って煮てあった葱を口に入れた瞬間、とても硬くて異物が入っていると感じました。それは一本のマッチ棒で、私はゾッとしました。母が穏やかに店の人にその事を話し、店ではお代は頂けない、と謝ってくれました。その後も私の健康には異常がなかったのですが、何となく釈然としない気持ちが残った事が思い出され、私の引き出しの中の過去の嫌な感覚と感情という古い包装紙の切れ端の一つと、今日は再会したのでした。そう、私はあの時母が冷静であった事が、私の健康が損なわれるかも知れなかったのだからもっと感情を出して怒りや心配している気持ちを出して欲しかった。言い換えればいつも間違った事をしない母の人間としての綻びのようなものを見せて欲しかったのだと今頃気付いたのです。今日の、あの頃の自己の深層との出会いは大変感慨深い、そしてほろ苦さと懐かしさの入り混じった、自分の核の近くに親しく触れた新鮮な喜びをも感じた一日でした。また一つ手がかりを見つけた私の深層の自己探求はこれからも終わることなく続きます。

9月19日、鮮明な記憶

昭和四十九年八月三十日の午後だったと思います。高校生だった私は、もうすぐ夏休みも終わるのだなあとぼんやり考えていて、祖母と一緒にテレビを見始めた時に、三菱重工爆破事件が起きた事を知りました。昼食の出前をした人などの不特定多数の人が巻き込まれるという事件で、複数の方が亡くなり、多数の怪我人が出ました。毎年この日になると思い出します。昭和四十三年八月十八日、木更津市でNHKのど自慢の生放送の日で断続的に降っていた雨の上がった蒸し暑い日に飛騨川バス転落事故が起きたというニュース、このような子供の頃の事件や事故の報道をよく覚えています。ユーチューブの動画の中にスーッと出入りしているような、正確な報道された事実と、その時の驚きや辛さなどの感情も伴って記憶され続けているのは、重いと感じる時もありますし、辛いと思う時もあります。必要で役立つ事をすべて覚えていると良いのでしょうが、別にそういう理由とは関係なく、刻むように記憶されているという事のようです。覚えているという事は私にとって意味のある事なのだと思っています。たとえ見ず知らずの人であっても自分と同じ時代に生きているとか生きていた人なのですから、私はこれからも、このように事故や事件で亡くなられた方々の事を、忘れないで魂が安らかにと祈って行くのだろうと思います。

9月15日、糠床で踊るナス

感染症の広がりを食い止める為には、自分だけ感染のリスクが下がれば、という考えで行動したのでは次第に感染が広がり、いずれは自分も危険な状態になるという事が過去にあったという事実を考えますと、危ぶまれる事が起こりやすい世の中に変化して来たと思った時には自分を守る事も大切ですが、その他の事でも、人と協力して行く気持ちを持って生きて行く事が、感染症の広がりを食い止めようとする時と同じ位大切なのではないかと思います。そんなことを考えながら、糠床をかき混ぜたのです。最近、糠床に何か潤いがないと感じていました。水分が少ないという事なのでしょうが、ジメジメとした梅雨とその後の猛暑、例年と比べて激しい雷雨も何度かあり、寒気の影響など戸惑うばかりでしたので、自分の気持ちも一因なのではないかと思っていました。それが、収穫したばかりのナスを付けた翌日、糠床の水分が増えた事もあり、ふたを開けた時の匂いがとても良くて、かき混ぜると良い感触、潤いの程が心地良いのに驚きました。たった一つのナスが糠床をガラッと変えたのですから。最近の自分の心のあり方やその表し方がいくらか雑で、いい加減だったことと関係があるような気がして来ました。気持ちの中にザラッとしたものがあったと思います。無意識が意識を動かし、行動にも影響を与えるという事に改めて気付かされました。ナスのお陰です。まっすぐではなかったこのナスが、今朝は音符の形に見えました。私がハッと気づいた事を喜んでくれたのでしょうか。

9月11日、近くて遠い天井の上

遠慮がちに法師蝉の声が聞こえ、秋が煙のようにゆっくり、夏とは暗黙の了解で入って来ているのを感じます。ある友人が何年も前に、秋は寂しいと言った事を私は思い出しました。彼女は子供が結婚したら二世帯住宅にしたいと思っていたけれども、結婚した子供は遠方で暮らす事になり、心の中にぽっかり穴が開いたようになっていると言いました。でも私は、もし二世帯住宅にしてそこに子供夫婦と共に暮らしていて、御主人の帰りが遅い時彼女は一階で一人で夕食を摂る、その頃二階の子供夫婦も夕食を摂っているようで、楽しそうな笑い声が聞こえて来る、こんな光景は多分珍しくない事になるだろうと思いました。二世帯住宅は普通の同居とは違いますから、彼女が一人で食事をしているすぐ上の天井を恨めし気に見てため息をついている、その内に子供夫婦に愚痴を言うようになると、同じ家での暮らしがギクシャクして来るのではないでしょうか。その後別居という事になると、親たちが高齢になってもう一度同居したいと思った時には、子供達の家庭にももう生活のやり方が出来ているので、どちらかと言うと親の方が相当譲歩しないと難しいように思います。気遣いが煩わしい、考え方も違う、そのようにしての他者との暮らしもあるのです。遠方にいるから頻繁に子供達家族に会えない寂しさの方が、同じ寂しいにしても、母親である彼女が自分をなだめる事が容易なのでは、と思いました。気持ちは理屈で割り切れるものではないから、聞いて欲しいのに話せる機会はそんなにない。今日は話す事が出来て幾らか気持ちが軽くなった、彼女はその時そう言いました。

9月7日、電話は誤魔化せない

最近固定電話に出る事が少なくなりました。セールスの電話が多いので相手の電話番号が表示されるようにしてあり、殆どがそのような電話だからなのですが、知らない人からの電話に出てみると面白い事に気付く事があります。物を売りたい人は、大抵うまく相手をコントロールして一刻も早く売りたいという話し方をする事が多いと感じます。また、優しげな勧誘であっても、聞いている人間の心に響かないのです。決して礼を欠く言い方ではないのですが、お風呂が沸いたと思ってかき混ぜてみたら下の方は水のように冷たかった、そのように感じた時ととてもよく似ています。うわべだけの優しげな声で人を騙す事は出来ないと思います。顔が見えない電話の向こう側の人からは声の調子が伝わってきます。とても気持ちが沈んでいたら低く平板であり、高い調子で休む間もなく話す人には不安があるように感じられます。楽しそうにポジティブに話しているようであっても、それがかえって作られたものに感じられる時もあります。真四角な針金のような枠、そういう価値観を持つ厳格な人は、居住まいを正して耳を傾けて下さい、と言うような声音なのです。不満が多い時は何かにぶつけてでもいるかのような、人を寄せ付けずはじき返すような声の調子、このような事をあれこれ感じました。また、ちょっとした言い回しや言葉尻などで本音が出る事が多いように思います。些細な所で辻褄が合わないのも聞いている側には分かります。いずれにしても、電話で他者の声を聞いて勉強になりました。けれど基本的に、知らない人からの電話に出ないようにしているのは怪しげなセールスが多いからですのでやはり騙されないようにしたいものですね。

9月4日、惜別の

あと二日で九月になる日の朝でした。空は青く、遠くに一筆書きで描かれたような薄く白い雲が綺麗で、ラジオから流れて来るパイプオルガンの音色が真っすぐに空に吸い込まれて行くようでした。そして空からも意思を持った言葉がかえって来たようなコミュニケーションが感じられたので、このオルガンの旋律にうっとりしてしまいました。何もかもが澄んでいるとしみじみ感じたのです。酷暑とはいっても30日頃からは朝晩気温や湿度が幾らか低いと感じられ、次第に秋になるというよりも、去って行こうとしている夏の、シルクオーガンジーのワンピースの裾だけが残っている玄関の土間に、私が立って見ているような不思議な気持ちになりました。陽気でエネルギッシュだった夏の惜別の想いが伝わって来る朝を、立ち止まっていつまでも感じていたいと思いました。五感が十分働いてゆっくりと開かれて行く心に素直に、やや鋭く向き合おうとしている私は、自然体と言うものはこういう状態なのかも知れない、そんな事を思いました。夜はコオロギや鈴虫の合唱が賑やかです。思索する秋の始まりになるでしょうか。

8月31日、感覚、感情

何年か前に世界らん展を見に行きました。会場が東京ドームでしたので、中に入る前に安全の為の手荷物検査がありました。それは当然の事だと思いました。ところが、空港の手荷物検査とは違って、機械を使うのではなく、一人ひとりのバッグの中に手を入れて確認するというやり方でした。理解出来る事ではあっても、そのようにして調べられた事は感覚としてとても嫌でした。嫌だという感覚は、思考では納得させる事が出来なかったのです。また、久しぶりに精霊流しと言う曲を聞いて、歌の中の、ギター、と言う歌詞のメロディと言いますか、歌い方と言いますか、そういうものが心に残りました。景色を眺めながら散策していて、丈の低い草の沢山生えている場所で、落とし穴に落ちてしまった。土の上に草が生えている何の変哲もない所だと思っていたのに、まるで片足を引っ張られ、ゆっくりと立ったままの姿勢で、コンクリートの、丸く、底が見えないような深い所へ真っすぐ落ちて行く途中の不安と心細さを感じ、それは突然の悲しみと言うものがあるからだと感じたのです。その空間には冷たい風が吹いていて、悲しみは凍りついたように心に残り、心の奥深くに仕舞われて行くのだろうと感じました。感情と言うより私の感覚、つまりこの場合は触覚に伝わったような出来事でした。感覚は、思考や感情よりもっと奥にある、人間にとってとても大切なものですね。

8月26日、IPはトリックスターでは

トリックスターと言う言葉を聞いた事があるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。神話とか物語の中で自然界の秩序を破るという事をする存在なのですが、それは単に悪い事をするという事ではなく、古いものを壊し、新しい秩序を作る基になる場合もあるのです。人や家庭を今までのままのやり方ではない有様に変えて行く為に役立つ、発達段階の一つの必要なプロセスになる、このようなものとも言えると思います。人が成長して行く事は生きづらさを感じた時、自分の無意識に目を向ける事であり、丁度脱皮する事に似ています。家庭のあり方や家族の関わりもまた、この変化が必要な時に、例えば子供が万引きをするなどと言う事をした時、それは家族に氷山の上から今のままでは辛いという事を訴えている場合が多いのです。この時子供は、アイデンティファイドペイシェントと言いますので、見えているのはこの子自身の問題のようでも、表れて来た事から考えて行くのはこの子の家族全員なのです。それは、個人の心ばかりでなく、家庭を構成している人達の在り様、心を見つめ考えて行く、死と再生という事なのだと思うのです。ですから、アイデンティファイドペイシェントはトリックスターだとも言えるのではないでしょうか。皆が気付き、成長して行く、変わって行くきっかけを与えている、問題提起をした、という事だと思います。個人も家族も限られた時間の中で生き、歩き続けて行くものなので、家族の誰かがこのような形で提起した問題は、家族にとって取り組んで変えて行くという希望にもなって行くのではないかと思っています。

8月22日、災害と芥川の雛

台風が大きくて速度が遅かった為に広い範囲で大きな被害が出ました。道路は寸断され、舗装も剥がれている所や、橋が落ちた川、濁流や土砂崩れの爪痕、家の中に泥が入り込んで片付けている人達、どのニュース映像を見てもあまりの事に、胸が痛みます。積み重ねて来たものが唐突に乱暴に壊されたのですから。明日は我が身かも知れないという危惧も持たざるを得ない昨今です。私は、ふと以前読んだ芥川龍之介の、雛という短編小説を思い出しました。主人公はまだ嫁入りする年齢前の少女で、江戸から明治に変わり、世の中が大きく様変わりして行く中で裕福だった彼女の家が没落し、立派な雛人形を売る事になったのでした。その前に、もう一度雛人形を飾って眺めたいと、彼女も病んでいた母も思ったのですが、もう買い手も決まった物を飾れないと父が言い、仕方なく彼女も諦めたのです。そして、その雛人形を売る前の晩、父は雛人形を土蔵の中に並べて見ていたのです。それから時は流れ、彼女も年齢を重ね、苦しい生活をしていたある日、古道具屋の店先にあの立派な雛人形が並べられ、売られていました。思わず立ち止まって見ていた彼女に店の主は、極上ものだよ。買いなさるかい。そう言いました。彼女は首を横に振りました。そして人混みの中を歩いて現実の日常に戻って行く、確かこのような内容でした。どういう訳か私の目にも、土蔵にそっと明かりを灯した父親が雛人形を並べている映像がくっきりと浮かび上がって来ました。神々しいほどの美しく豪華なお雛様はこの家の栄枯盛衰を見て来たのでしょう。夢か幻のような、例えようもなく美しい場面と、激動の時代の決して綺麗とは言えない人間の心の裏側を、私は比べていたようです。世の中の流れに抗っても波にのまれるが如く流されて行く、そのように生きて行かなければならない人間と言うものが描かれていて、私には、雛を売る前の晩の父の複雑な悲しみ、そして歳月が過ぎて彼女が思いがけず再会したお雛様、とても心に残る物語でした。お雛様との再会で、彼女が、過去への懐かしさ、悲しみなど色々と味わうように感じたのではないかと思います。お雛様は彼女を励まそうと思ったようにも、元の持ち主を見つけた喜びで彼女を引き留めたようにも思えました。災害で積み重ねてきたものを壊された幾つもの映像が、四角い大理石の割れたかけらのように、丁度コラージュやパッチワークのように感じられた時、この余韻の残る雛と言う小説の場面が唐突に目に浮かんで来たのです。その時々に多くの選択をしながら人は生きて行きます。たとえ些細だと思う事でも何かを選ぶという事はその他の物は選ばず、捨てるという事です。一歩進んだように思える選択に基づいて何かをした時、それは何か別の可能性を失ったとも言えるのではないでしょうか。得ながら失って年齢を重ねて行く、ある時何気なく振り返って、喪失の悲しみを感じる事もあります。時間は一秒たりとも巻き戻す事は出来ないのですから。そのような時に、ふっと現れた芥川龍之介の小説の中のお雛様、私はそういう位置づけで思い出したのだと思います。誰の心の中にも、この小説の主人公にとって様々な思いの詰まった友人のような、と言うより心の奥深くにいつも共に居たであろうこのお雛様のような何かや、誰かがいるのではないでしょうか。それは人間を深く支えているものだから、人は生きて行けるように思えるのです。災害から、心持ちをも元に戻すのは大変な事です。それぞれの人達を支えるように、励ますように、この人間の心の中の何かが働いてくれると信じたいと思います。

8月19日、ある夢

コロナウイルスの感染が広がるより前の事です。夢というのは、ある所で知り合った短い間の私の友人の事です。ある晩不思議な夢を見ました。私はとても大きくて立派なホールに入って行く。吹き抜けのそのホールの階段が二階へと続いていてこのらせん階段を上った所が演奏会の会場らしい。上ろうかどうしようか迷っていると知らない男性が後ろから話しかける。見ていないのに人柄の良い人だと思う。この人は、もう一度結婚したいなあ、今度生まれて来ても家内と。そう言ったのです。目が覚めたら午前二時でした。私は、この人が事故で亡くなったという友人のご主人だと感じました。私と彼女が友達になったのは、この人が奥さんに言いたかった事を私に伝えて欲しくて出会わせてくれたのだろうと思いました。夢に出てくるのには相当のエネルギーが必要なのだろう、とも思ったのです。お会いした事のない、あまりよくは知らない人の事が自分の無意識に存在していたようには思えなかったのでこんな風に思いました。朝になってから彼女に電話をしてその夢の話をしました。彼女は驚いたようでしたが、ちょっと嬉しそうでした。その後、病んで何年も生きられなかった彼女との今生でのお付き合いは短かったと言うべきなのでしょうか。今でもあの時の感覚の余韻が残っています。

8月16日、菊と投影

切り花は気温が低い方が長持ちします。花屋さんは菊が持つと言いますが、花は日持ちしても葉が傷みますから他の花と大差ありません。冬は暖房を使い、夏は冷房を使って室温が高いので切りたての花をと思って、庭にあれこれ花の種を蒔いたり植えたりしています。切ったばかりの花は長持ちします。冬も水仙の花が次々咲くので花を買う事が少ないのです。数日前に買った菊の花の葉が枯れ始めたので他の花を切って取り替えたのですが、その時、黄菊の花びらが二枚散りました。外の流しに、散った菊の花びらが庭をぐるっと回る様に掃いた熊手に途中で取り残されたような形になって。菊が豪華でも、一枚いち枚の花びらは溝のような形状で意外に細く、管物という呼び方の菊のある事を思い出しました。流しの上の菊の花びらはついうっかり置き忘れられた花の一部のようでした。所在なさそうに寂しげに見えました。ポツンと取り残された花弁が急に大きく見え、心理的に近づいたような気がしました。涙のような形にも見える黄菊の一枚の花びら、それは虫眼鏡で何かを見ている時に太陽が当たって屈折したように、私の心の中の、何か屈託を投影したような見え方だったのだと思います。動植物とも、じっと見ていると非言語の交流が出来るように感じ、こちら次第で黙っている人ばかりでなく、ものとも会話や交流が出来るように思いました。奇妙で不思議な朝でした。

8月12日、毛細血管、最大公約数

大勢の人が集まって物事を決める時、原案が提示されてそれをもとに話し合うという事はよくある事だと思います。どのような範囲の関係者が集まるのかによって話し合いは変わって来るのでしょうか。例えば近くの一定範囲に住む人達が集まって、と言う場合の方が自分達にとってより生活にかかわる大事な事だから、意見が多く出され、積極的で活発な話し合いになるとは一概に言えないと思うのです。日常の付き合いのある人ばかりとなりますと、誰かの意見に対しての反対意見は言いづらいと思う事もありそうですね。また、原案に対してもそれは同じ事かも知れません。静かに異議のないまま短時間で終わるのは楽なのか、それは、後で問題が起きた時に皆が困るとなるとどうでしょうか。だからあの時疑問を感じたのに、と後で言っても、ではその時何故黙っていたのか、という事になります。まして陰で言っても何もなりません。でもそういう事はよくある事のように思います。近くの人達と物事を決めるのは、毛細血管、つまり末端のつながりのある人同士で話し合って、という事で、国政とか都道府県などと言う動脈や静脈のように手ごたえや実感の薄い大きな問題で見知らぬ大勢の人と関わっての話し合いの方が、意見を言いやすい場合があるのかも知れないですね。それは、結婚披露宴に出席し、中華料理を頂く場合の、丸いテーブルに大皿の料理が出され、誰かが自分の食べたい料理を小皿に取らないと、誰も何も取らず、ぐるぐるとテーブルだけが回っているというのとよく似ています。周りを見て人に合わせるという事は日本では子供の頃から教えられてきたように思うのです。場合によってそのような協調は大切だと思いますが、それは普通という中に自分を入れ、そこからはみ出さないようにする事に重点を置いて、少しでも普通からはみ出していると思われる人を白い目で見て関わらないようにするという事につながりかねません。自分と全く同じ人はいませんから価値観や言動が違うのが当たり前なのでは、と思います。勿論犯罪や意図的に他者を傷つけるなどと言う事は別にしてですが。最大公約数のように考えても良いのではないか、これが自他ともに尊重する事になるのだと思います。これは日本特有の事なのでしょうか。

8月9日、ルドベキア

今年も庭にルドベキアが咲いています。この花はヒマワリを小さくしたような花です。ウクライナは戦争状態という非日常が日常化され、その中で今日一日生き延びる事が出来るだろうかと思いながらの毎日なのだという事を思いますと、この花を切り花に出来ません。今回の戦争の前でしたけれど、広い畑に、油を取るためのヒマワリの花が咲き、ミサイルによって撃墜されたマレーシア航空機に乗っていたオランダの子供達の笑顔の家族写真が散らばっていた、あの報道された映像が今も目に浮かびます。戦争が始まってからのこれほどまでの破壊の後に一体どのようにすれば戦争を終わらせることが出来るのか、一刻も早くとは思いますが私には分かりません。火種を残さないように一日も早く終わりにして欲しいものです。ですが、ウクライナとロシアが互いに信頼出来るようになるのには戦争が終わっても、非常に長い時間が掛かる事と思います。内房線の各駅停車の銀色の車体に、水色と黄色の横の太い線が入っているのを、踏切で見る度に、ウクライナの色だと思って、私は混沌とした気持ちになるのです。

8月5日、塩と出会う

猛暑というものもここ何年か当たり前のようになっていますから、受け入れてその中で生活して行かざるをえませんね。実は先日親類から塩を頂きました。普段スーパーで売られている比較的安い塩と比べてみますと、随分違います。よく見かける塩はきめが細かく重いのですが、頂いた塩はきめが粗く、結晶が大きいのです。軽そうなのに重く、手に取って見ると、牡丹雪のようで、味もはっきりとした塩の味です。ぼやけたような曖昧な味、何かが混じった複雑な味ではなく、しっかりとした塩辛さだけがまっすぐにスッと立っているような潔い、昔の塩の味なのです。大切に使わせて頂いています。そういえば、手作りの味噌も調味料とは思えない味でした。塩と麹と大豆が原料なのは市販の物と同じだと思っていたのですが、口の中に入れた途端に色とりどりの様々な種類の音符がはじけるように感じられて驚いた事がありましたので、調味料も漬物も手作りの物の方が美味しいのです。でも、何もかも時間をかけ、材料を用意して手作りする事は出来ません。このような事に時間とお金をかける事はとても贅沢な事なのかも知れないですね。いつの間にか、梅仕事の季節という言葉もあまり聞かれなくなりました。目の粗い裏漉器の目から下に零れ落ちて行くように昔ながらの物が少しずつなくなって行く世の中だと思う私自身が、今の時代と合わない部分が年齢と共に増えている事であり、今という時代は、心を込めて丁寧に手作りされ、伝えられて来たものを、その目の粗い裏濾器から下に落として捨ててしまっているようにも思える、などと考えた、美味しい本物の塩との出会いでした。自己主張せず役に立っているお汁粉の中の塩のような人になれたら良いのですが至難の業です。

7月31日、家族一人ひとりが大切

今年も梅雨が明けた後にミンミン蝉の声を聞き始め、あっという間に夏になり、気が付けば突然秋がすぐ後ろに見え隠れしているように感じられます。ライラック色の百日紅の花が大きな鉢の中で咲き始めていますので、夏らしくないこの色の持つ雰囲気が、クローズアップされたような秋を感じ、私の目の前にいきなり猛暑の秋が飛び込んで来たようにも思えるのです。早朝は25℃以下になる事が多く、そよそよと風が吹き、昨夕咲いていた白い夕顔の花殻もまだ閉じたばかりで、蜩の声も聞こえます。暑いけれどここにもやはり秋がいて、もの悲しささえ感じます。以前お話しした、内密出産をした子供の親達への釈然としない気持ちがあるにもかかわらず、もし今私の目の前に出産した母親と赤ちゃんがいたら労わってあげたいと思った時、私は玄関内の土間を土間帚で掃いていたのです。レモン色の、新しい品種の遅咲きの牡丹の花びらが散って土間に落ちたからでした。掃きだすは吐き出すと関連があり、新しく鮮烈な色で、遅咲きだったという事一つひとつが、無意識の部分にあるものと深く関係があるのだと思っています。また、以前に我が家にやって来た親子の猫の、仔猫がご近所に貰われて行った晩に、私は親と離れた寂しさで鳴き止まない、外に出ようと室内の物を傷つけてしまう、そのような事をしてひどく叱られてはいないだろうか、などと言う事が気になってあまり眠れませんでした。このような事は皆、自分でも驚く事でした。私はとても優しい人間というわけではありません。自分の心の奥に芽生えたもの、今まで気付かなかったけれど潜んでいたもの、などは誰にもあるのだろうと思います。そのように人間の心は計り知れないものだと感じています。例えば、家族にとって、元気なのに働く気がなく、ご近所から何らかの苦情を頻繁に言われる人がいて、その人は家族にも決して良い顔をせず、不満ばかり言って当たり散らしていたとします。ところがその人がある日突然不慮の事故で亡くなってしまった場合、家族はどのように思うでしょうか。これでようやくスッキリしたとは容易に思えないのではないでしょうか。この家庭は、どうしようもないと思っていた家族の一人が、家庭が球体だとしたら、その球体の日の当たらない側の部分であった、だから球体として存在し得た、と言えるのではないかと思うのです。光と影、この影は陰でしょうか。日々動きながら存在している球体の円滑な動きを支えているのは家族一人ひとりであって、皆世の中の他の誰とも替え難いのです。いらない人はいない、もしいらない人間だと家族から思われていたとしたらやはり理解されたい、認められたいと思っていて、やり場のない気持ちを抱えているのです。いつも思うのは、子供は親の影響を受けて育ち、その親も自分の生育環境の影響を多分に受け、子育てをしている、という事です。親になったら親としての自覚、覚悟を持つ事は大切です。本音でぶつかり合う事も時には必要ですし、また時にはやせ我慢をした自分の後ろ姿も見せてあげて欲しいと思う事が多い昨今です。足を骨折して杖を突いている人、腕の怪我をして包帯を巻いており治療中の人、など、心を身体に例えればこのようにして痛みを抱え、自身で治療しながら社会の中で、そして家族の中で助け合いながら生きているのが人間というものではないでしょうか。

7月27日、子育ては内なる子供育てのチャンス

人間は他の動物よりも子育ての年数が長いですね。子育てをしている時に、今まで気づかなかった事に気付く事があります。自分が子供の時親がしてくれた事、言ってくれた事を、親という立場になって考えてみると今まではさほどの事に思えなかった親の苦労や親への感謝の気持ちが湧いて来るという事があります。それとは逆に、親が子供の頃の自分に何故あんなひどい事を言ったりしたりしたのか、今自分は子供に対してとてもあのような事を言ったりしたり出来ないのに、などと言う気持ちになる場合もあります。また何故何も言ってくれなかったのか、何もしてくれなかったのかと思う事もあると思います。この後者の場合、子供との関わりの中で様々な事が自分の子供の時の親の対応を思い出させる、という事になり、ストレスになります。親と自分との子供の頃からの関係は自分が大人になってからの人間関係に大きな影響を与えるのですが、自分では気づかずに無意識のうちに、と言う場合も多いのではないでしょうか。子供の頃の不満や悲しみ、怒りを感じた時には、自分の心の中の子供の自分と向き合ってもう一度、今度は自分で大切に育てて行くチャンスになるのです。困難であり、大変困った事、心が葛藤状態になって辛く、押しつぶされそうだと思うかもしれませんが、これはここで一旦自分の心の奥と向き合って考え、前向きに生きて行けるようになるチャンスがやって来た、と言う風にほんの少しでも良いですから気持ちを切り替えて欲しいと思います。その方が楽になりますから。自分がこのようにすべきだという考え方に縛られていると思う事があります。ですが今現在自分の心を自由に働かせる事が出来ないのは、自分で自分を縛っているからだと気付くと、自由に動けるようになる一歩を踏み出した事になります。

7月23日、地球をレリーフに

46億年の歴史を持つ地球を、例えば人間が生活するようになってから毎年その暮らしの様子をレリーフにしたらどのようなレリーフになるのだろうと思いました。政治経済、気候や地形は場所によって違いますし、言語も食べ物も違います。国そのものも変化しています。少しずつ微妙に変化しているのだろうと思いますが、今現在自分が生きている歳月の中での少しずつの世の中の変化にはさほど敏感ではないと思うのです。少しずつという事の緩やかだから順応出来るという点と、緩やかにだから気付かずに流されて行く恐ろしさの両方を感じます。そのような目で年々変化している地球のレリーフを見たら、一体どのように見えるのでしょうか。レリーフには裏側もあるわけですから猶更気になります。

7月19日、それはイメージから始まった

学生時代の終わり頃カウンセリングを受け、イメージと出会いました。ある時、目を瞑って浮かんでくるイメージをそのまま話して行くという事をしていますと、その場面は動き出して行き、話しているうちにその日のカウンセリングは終わりました。イメージと言うのは、その場面に今自分がいるという体験をするものでしたので、五感で感じるのです。イメージの方が、目を開けた場所に今自分がいるという現実よりももっと生々しく感じられる、そのようなものでした。では差し支えない程度にその内容をお話ししたいと思います。そのイメージは、ピンク色のチェックの薄い洋服を着た小さな女の子が、雨の降る寒い夕暮れ時に私の家の軒下に立っているというものでした。私は電灯も水道もない古く小さい家に住んでおり、寒いので重ね着をしてやっと生活しているようなのです。ですからこの子を家に招き入れても何もしてはあげられないと思う、自分の置かれている貧しさと言う現実の前に身動き出来ないけれど放っては置けないと言う葛藤状態を抱えてしまいました。居ても立っても居られない気持ちのまま、薄暗い台所の窓のそばに立っていました。随分長い間そうしているうちに、私は、ボロボロの傘を持って外に出て行こうと決めました。もしこの傘が役に立たなかったら、私は困ったような顔をして軒下に立っているあの子の隣に並んで立ち、寒いね、と言って手を繋いで一緒に立って居よう、そう思って外に出て行きました。すると、それまで一度も私の方を見なかったその子が、始めて私を見ました。私はこの子に寒いね、と話しかけてごく自然にこの子と手を繋ぎました。その内に、私よりずっと冷たかったこの子の手が、少しずつ温かくなって来ました。その時私は心が通い合うようになり始めたと感じたのです。少しずつ打ち解けてくれたあの子は誰だったのか、私の内なる子供、と言う部分だったのだと思います。現実の自分は私にとって貧しく、最も困っていて心細い子供と言う存在を抱え、考えあぐねていた、つまり深層に葛藤があり、心の奥深くにそのような事に基づく不安も持っていたという事は後で理解し、受け入れられた事です。小学校低学年の頃、初めて子供会で行った海水浴で、波が引いて行く時砂だけを持って行き、自分が取り残されると感じたような子供であり、その後もその事が深く心に残っていたような子供だったのです。そのような事から、傾聴されて信頼出来るようになると、イメージがあのようにして浮かび、動いて行く事を体験した事は私にとってとても大きな、貴重な出来事でした。外に出てあの子と手を繋いで伝わり合ったもの、それが人の気持ちに寄り添って相手の心を大切に聴いて行くカウンセリングをいずれはやって行きたいという思いの一番基礎になるものだったように思っています。傾聴される事によって動いて行く心というものがとても不思議なものに感じられました。自分がカウンセリングを受けることによって気付く、自分の心の中にあって普段はなかなか気付く事が難しい無意識、そこに目を向ける事には相当な抵抗がある事が多いのです。でも、そこに気付くと、どのようにして自分が今のようなものの考え方や見方を自他に対してするようになったかという事が少しずつ分かるようになります。しかし、それはこのように口で言うように簡単な事ではありません。自分と向き合ってありのままの自分を受け入れるという事なのですから。傾聴する時には、その人が成長して行く事が出来ると信じて、という事が必要なのです。その困難な、自分を知る道を歩んで、石にかじりついてもカウンセリングが出来るようになって人の役に立ちたいと思っていたのですが、実は悩んでいるクライエントの方と向き合ってお話を伺った後に思うのは、いつも、私はこの方から教えられた、出会ってくれたのだという気持ちになるのですから、歩いて行かなければ分からない事の多いのが生きて行くという事なのかも知れません。

7月15日、一見このような人

とてもしっかりしていてテキパキとしている、はっきりとものが言え、リーダーとしても活躍しているので人から頼りにされ、明るくカラッとしている女性、こう言うと何だか羨ましくなります。はっきりと自分の意見を言わず、人に合わせて行動する事が多いおとなしそうな人とは対極にあるように感じます。ですが、精神的に大きな打撃を受けるような事があった時、おとなしそうで人に合わせている人の方が、バネか何かのように回復が速い場合も多いのです。ハッキリとかテキパキと思われている人の中には、受けた打撃でポキッと折れたようになり、なかなか回復できない場合が意外にも多いと思います。男性的だと思われている女性の心の奥には実は非常に優しいなどの女らしさがあり、おとなしく優しいと思われている人の心の奥には、スパッと切る様に物事を判断して行動するという男性的なものがあるのだと気付きます。珍しい事とは思わないという方もいらっしゃると思いますが、私には心理学者ユングやフロイトの後ろ姿が、カーテンの向こう側に見え隠れしているように感じます。人間に無意識があり、そこから自覚する事が出来る意識へどのように影響を与え、意識と無意識の関係、循環等について臨床から研究し、理論が導き出された臨床心理学という、この領域の奥深さを改めて思っています。人間はまだ私には分からない所の多い、底知れない所を持った存在ですから基礎と応用の勉強は一生涯続きます。

7月10日、ビター、スイート

私はこの頃ドラマのある場面をよく思い出します。それは韓国のドラマで、母親が陰に陽に虐められ、陥れられて亡くなったと聞いていた男の子が成長し、権力を持つようになってから暴走気味になり、母親を死に追いやったと思われる女性を殺害した、というドラマの場面です。この人はある晩、敵と思う女性を殺した後、水で一生懸命手を洗います。そして、自分のそばにやってきた忠実な家来に、親の敵を討ったら気持ちが晴れると思っていたけれど少しも気が晴れず、洗っても洗っても自分の手の血を拭えない、こんなことをして両親は悲しんでいるだろう、何もならない、と空しさを感じ、親が恋しい気持ちを話しながら涙を流す、という内容でした。最近の驚くような事件の報道の度に、被害者やそのご家族の無念さや悲しみを思いますが、同時にこのドラマのこのシーンを思い出します。傍若無人に人を傷つける人は他者を支配したい気持ちが潜んでいてそれがうまく行かないからという事が多いと思います。それは承認欲求が満たされていない、親や家族に愛されたという手応えがなかった人なのではないでしょうか。ですから、例えば他者を服従させた時にも誇らしいとか相手に勝ったとかいう感情よりも、寂しさや例えようもない不安を感じている、自分の存在というものの過去も未来も分からない、つながらない、そのように感じていると思うのです。誰の為にもならない事をして互いに傷ついている状態が続くという事になりかねません。温かい気持ちに触れてもそのような経験がなくて人に対しての不信感が根っこにあると、そう簡単には他者を信頼する事が出来ないでしょう。それぞれの人の心の中に構築されたものはあると思います。けれど、誰にとっても人生は手探りでと言う部分もありますから、時間をかけてでも自他への肯定感がもてるようになって欲しいと思うのですが、自分の事は自分で容易に分かるものではありませんね。フリーズされた心を持って生きる辛さ、その為に傷つけられた他者のどちらの事もとても気になるニュースに、世の中を便利で快適に暮らせるようにして来たからと言って、人間の心は遺伝ばかりではなく環境の影響を大きく受けて育つ事が変わるわけではない事をもう一度考えたいと思います。それでも、子供をどのように育てたかは、その人が親にどのように育てられたか、という事につながり、誰が悪い、とは簡単には言えなくなります。人と関わりながら自分らしく自分の人生を生きるという事は、難しいようにも思います。スイートチョコレートというよりビターチョコレートのような濃厚でほろ苦いもののような気がします。

7月6日、サマンサの家庭

最近年齢や結婚年数を問わず、既婚女性から夫との関係性という言葉をよく聞きます。現状や状態ではなく、です。私には、太い管の中に何本もの細い管があり、双方向に色とりどりの様々な液体が流れていて流動的だというイメージが浮かんで来ます。現状や状態というと、平面で固定的な画用紙に描かれた絵のように感じるのです。夫婦関係はいつまでも常に男性と女性としての、相手の気持ちを考えての努力を、現代の妻は望んでいるという事なのでしょうか。関係性と聞くと、奥様は魔女のような、欧米では随分前から当たり前のような夫婦関係が浮かんで来ます。愛情表現は当たり前、何かの催しには夫婦で出席する、昔の日本ではあまりない事だったと思います。自分ではない、夫や妻と助け合っているから家庭生活が成り立っているのですから、忙しくて色々困難な事もあるでしょうが、相手の気持ちを察して感謝の気持ちをその都度でなくても良いから表す事は大切だと思うのです。愛情や信頼はそのようにして構築されて行くのだと思います。察するというのは勿論相手の言動を悪く受け取りすぎないように、で、そうしないと疑心暗鬼になってしまいますね。今は多くの主婦が働いています。日本も様々な事が絶えず変化しているという事なのかも知れないと感じています。男性にとっては厳しい時代になったという事でしょうか。

7月2日、元の濁りの

新型コロナウイルスのワクチンは世界のどこの国の人達にも平等に行き渡ったとは言えないと思います。アフリカの国々の大半で不足しているだろうと考えがちです。ところが、アフリカの大半の国では、世界の他の地域に比べて死者が多くはないのだそうです。アフリカの大半の国の環境、例えば水一つとっても綺麗な水の供給が十分だとは言えない筈なのに、です。常在菌というものは私達人間の中にも存在しており、腸内や口の中などに存在しています。人間と共生していると言うのか、普段格別人間に問題が引き起こされる事はないのですが、抵抗力や免疫力が落ちている場合には、口の中の常在菌が病気を引き起こす事のないよう、食物の経口摂取が出来ない状態の病人の口腔ケアが非常に大事だというのも理の当然です。アフリカの多くの国々では、腸内が寄生虫に感染をしている人が多く、そういう人の方が新型コロナウイルスに感染しても重症化しにくいそうです。もしそうであれば、寄生虫は人間にとって害をなすものだとばかりは言えません。さほど危険なものでない寄生虫ならば共に生きてかかわりあっている事が互いの役に立っているという事になるのではないかと思います。人間も他の動植物と共にこの地球上で関わり合って生きている、そこに組み込まれているようなものなのだと思いますと、この寄生虫と新しい感染症の関係が当たり前とも神秘的とも感じられます。清潔な環境で子供も病人も生きられる事はもちろん大切な事ですが、いつの間にか、多くの人間は清潔、除菌、という事をやり過ぎたのではないかと思いました。汚いと思うものをすべて排除したら、人間はとても弱いものになって、それがために一定数の人が淘汰される時が来てしまいかねないという大切な事を、寄生虫と新型コロナウイルスの関係が教えてくれたように思います。人間だけが真空パックになって生きる事は出来ないのですから。意味は決して同じではありませんけれども、白川藩主で老中であった松平定信の寛政の改革では、制限される事が多く、厳しいものであった事に、庶民は窮屈で息を抜く事が出来ないので、賄賂政治と言われた田沼意次の時代の方がまだましだった、という意味の白河の清き流れに住みかねて元の濁りの田沼ぞ恋しき、と詠んだものをふと思い出しました。何でも程というものがあるという事でしょうか。程と言うのは多分バランスなのですね。

6月27日、方丈記

ご近所の方が亡くなられてご葬儀に参列しました。私の親世代のおじいちゃまです。小さな時からよく存じ上げていた方がまたお一人旅立たれて寂しくなります。葬儀場まで徒歩ニ十分程なのですが、ご葬儀だと思いますと、いつもと同じ景色を見ながら歩いているのに色々と目に留まるものがあります。あるお宅に咲いている夕日のように鮮やかで美しい山ツツジ、増改築をしている家、壊している家、空き地だった所には新しい家が建つようです。ふと、高校生の頃から好きだった方丈記を思い出しました。切り口が鈍く光っている分厚い三角形のガラスが、向かい風の吹く夕焼けの中を歩いている私の胸にまた一つ突き刺さって来たように感じています。生きて行く事は、よく知っている人が一人、また一人と旅立って逝くのを見送る事でもあります。人を見送った痛みは、次第に薄れて行くというよりも、心の奥深くに沈殿し、決して消えてなくなる事はないと私は思います。ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず、と言うあの方丈記の文頭を噛みしめています。

6月23日、慰霊の日

梅雨らしい日が続いています。湿度が高い暑さや梅雨寒は身体に負担がかかるものですね。毎年梅雨時になると、沖縄国際大学でのカウンセリング学会に出席する為に平成六年五月末に沖縄を訪れた時の事を思い出します。どんよりと曇った日、那覇空港に着きました。会場の大学のキャンパスに足を踏み入れると、白百合が咲いていました。身じろぎもせずにスッと立って居る一本のこの花に、私は息をのみ、暫く身動き出来なくなりました。まるで意志を持った百合の花と向き合ったかのようでしたから。大会終了後、一部が再建された首里城と、糸満市にあるひめゆり平和祈念資料館に行きました。予め申し込んでいた人達がバスで行ったのです。途中の道には花が咲き、沢山の木が植えられていました。そこだけ見ますと、平和そのものです。バスはしとしと降る雨の中を、片側一車線の国道を走り続け、ひめゆり平和祈念資料館に到着し、バスを降りて中に入りました。見上げると大きなモノクロの、何人もの人の写真が入ってすぐの場所にありました。一人ひとりの方それぞれが違う顔の筈なのに、同じ目に出会ったように感じました。殆どの方がその写真が写された女学生の年齢のまま亡くなられたからそう見えたのでしょう。綺麗な目でした。それは、忘れないで欲しいという事と、繰り返さないで欲しいという事を静かに、強く訴えかけている目でした。本島南部には、今も廃屋が残り、場所によっては少し土を掘ると人のお骨が見つかるのだと、その時伺いました。私はあの時、梅雨空の糸満に近づくにつれて、霧の中に入って行くようで、重く澱んだ空気の中、バスの動きも時間の流れも次第に遅くなって行くように感じられ、時間が終戦直前に戻って行くような錯覚にとらわれました。道の両側にある、萱の葉を太くしたようなサトウキビの畑を見ていますと、サトウキビの葉が、フィルムででもあるかのように思えて、戦争中の光景をつぶさに記録して来たのではないか、と、あり得ない事を思いました。そこは時間が止まったまま、そういう空気の中でバスを降り、しばらくぼんやりしていました。沖縄は中国に近く、戦後はアメリカ軍基地もあります。今日は慰霊の日です。今沖縄の人達は何を思っているのでしょうか。国境に近い島である沖縄は、戦争をしてはいないけれども、今も世界情勢の影響を大きく受けている事に何ら変わりはないと思います。綺麗な海、青空、という時期ではなく、湿度が高く、しとしと雨が降っていた時に訪れる事が出来て良かったと思っています。海も空も非常に美しい季節であったら、私はあの時ほど聴く耳を持って沖縄の景色や人と向き合う事が出来ただろうかと思うからです。重苦しく、ぼかされて輪郭のはっきりしない、様々な現実が、傾聴しようとしていた私に、色々な事柄について語り掛け、教えてくれたような気がするのです。そして、何もかもが美しい季節であったら私にとっても辛く悲しく、受け入れがたい歴史の事実と景色のギャップにさぞかし戸惑っただろうとも思います。もうすぐ慰霊の日が来ますね、と言った私に、急に肉親を見るような眼差しになって私を見たホテルのレストランの若い女性従業員の方の事も決して忘れる事はないと思います。沖縄の歴史を遠い昔の他人事のように思っての観光客の言動に傷付けられて来たからこその眼差しであった事にあの時気付き、恥ずかしくて顔が上げられない思いであった自分の気持ちも忘れまいと思っています。聴講生だとお聞きしたTさんと言う女性の琉球舞踊はたおやかで、緻密な動きのようにも感じられ、哀しいほどの美しさに圧倒されました。踊るとか舞うというのは心そのものを表すものなのですね。

6月17日、脱皮は床下から

白アリ防除の消毒を五年毎にしているのですが、ある時床下に入った業者の方から床下に蛇の抜け殻があったと聞きました。蛇は成長途中に何回も脱皮するそうです。脱皮直後は食欲があまりなくなるとも聞いて、人間の事を思いました。思春期の心身の変化、子供とも大人ともいう事の難しい時期を子供は日々経験しながら生きているのですね。仲の良い友人達とお付き合いをし、支え合いながらこの初めて経験する日々を歩いて行きます。それは、心の奥行が出来るという、本人にとっては不思議な体験をして行く事で、まず心の奥から動いて行くとも言えるのではないかと思います。思春期に限りませんが、子供に何か問題や症状が現われたらそれはどのような意味を持つのか、その家庭内の家族の在り方やかかわり方への今のままでは辛いという子供の気持ちの表れや、変化を望むものと言えるのではないでしょうか。この場合子供は氷山の一番上に乗り、そのような思いを訴えている存在であり、今後の為に前向きな解決方法とは何なのかを親達は考えて子供の問題や症状と向き合う事が大切であると思います。子供はアイデンティファイドペイシェント、つまり患者とされた人ですが、家庭の人達皆でその家族関係の在り方をこれからどのようにして行ったら良いのか考えてみる事が必要だという事になります。個人と言うより家族にとっての、心理的には再生のきっかけという事になるのだと思います。誰が原因で子供に問題が生じたのか、というよりも、これからに向けてプラスに捉えて前向きに向き合って行く事が大事なのではないかと思うのです。ところで、小鳥が卵を温めていて、ひなが孵る前になると中からコツコツと突いて、その後殻を割るのだそうですね。まず気室を破り肺呼吸が始まる、それから殻を破るという順番なのだと聞きました。ですから、はしうちと言うのは、気室を破る事から始まるのですけれど、よく聞く、啐琢という言葉は雛が親に送る、卵の中から外に出るという合図なのです。子供も、身体の変化だけではなく、心の奥からの、少しずつ今までとは変わって行く合図を、まず自分自身が察知し次第に外に対して表して行くようになるところが似ていると思います。人間の成長の速度や途中経過は人によって違いますが、生きて成長して行く節目はどのような動物にもあるのでは、と感じました。床下に残された蛇の抜け殻を見なかったのですが、もしじっと見たら抜け殻は何を話してくれたでしょう。

6月12日、トルコの旅

テレビのスイッチを入れたら外国らしき町が映りました。アラジンやアリババが出て来そうなメロディが聞こえて来て、引き込まれてしまいました。テレビの旅番組は、最近珍しくありませんね。でも、この番組では、羊の放牧をしている人達のゲルのようなテントでの暮らしや、カッパドキアの、ぶどうの果汁を煮詰めて蜂蜜のようにし、甘味料として保存するという暮らし、エーゲ海近くの海の幸の豊富な地域の暮らしなどがゆっくりと紹介されていました。薪を燃やしたり炭火で魚を焼いたり、とても丁寧なプロセスで、時間をかけて食べ物を調理する人達の様子から、それが当たり前の日常なのだろうと思いました。無駄のない手の動き、それは熟練の職人のようでもあり、手間をかけることを楽しんでいるように見えるのは、美味しく作り、出来上がった物を家族に喜んで食べてもらいたいという気持ちからなのではないかと思います。料理は科学、理にかなった作り方があり、そのように作ると美味しいと言われますが、私はそれプラス食べる人の事を思う気持ちがやはりあると思います。今まで見た事もなかったぶどうの葉がなんとも懐かしく感じられたのは何故でしょうか。地域ごとの暮らしの相違点と、長い歴史の中で培われたそれぞれの町が手に取るように伝わって来ます。昔からずっと続いて来て、今も、そして未来へと深く刻まれて続けている輪郭のように感じられるものが、一人ひとりにある、そのように思ったのはこの番組が初めてです。人生の交差点を幾つも過ぎて、人の心は一体どこへ辿り着くのでしょう。着実で、素朴、平凡な人間の暮らしや祈りは、生きて行く事の奥深い味わいを、私に葡萄の葉を通じて教えてくれたような気がするのです。不思議な日でした。

6月8日、物の価値

最近、物の価値が気になります。あらゆる物の値段が非常に高くなったからです。そんな時思い出すのは、小学校六年生の時に母とデパートに行き、おもちゃ売り場でぬいぐるみのワゴンを見た時の事です。そのワゴンには比較的安いぬいぐるみが山積みで、子供連れの母親が一斉にそのワゴンの前に集まって来て、手に取って選び始めました。私も母にクリーム色のクマのぬいぐるみを買ってもらったのですが、ぬいぐるみを選んでいたお母さん達は、顔や縫製などを見て、買わないと決めたらしきものをワゴンにそっと戻すのではなく、放り投げるようにして戻していました。ほとんどの人がそうしているのを見て私は嫌な気持ちになりました。ぬいぐるみは人形で人や動物ではありませんが、可哀想になったからです。花も机も人形も生きている、一生懸命作ってもらったものは出来上がった時に血が通ってその一生が始まる、私の母はいつもそのように言っていたものです。だから気に入らない事があったからと言って物に当ってはいけない、とも教えられ、私も何となくそう思っていたのです。気が付けばいつの間にか使い捨ての商品が増えています。故障したら修理するのではなく、新しい物を買った方がはるかに安くて済むからですね。それがあながち悪いとは言えませんが、物によっては丁寧に扱い、修理して出来るだけ長く使う事も必要なのではないでしょうか。物を大切にする事は、相手の身になって他者を大切にする事につながるような気がするのです。自他の使い捨ては、決してしてはいけないという事への小さな一歩だと思っています。母が、庭の雛菊の前にお皿に乗せた小さなお結びを置き、私に、お花も食べたから食べようね、と言って、作ったばかりのお結びの入った入れ物を渡してくれたのは昼食時でした。福神漬けと塩結びは淡いピンクのお弁当箱に入っており、綺麗に並んでいました。普段は割合厳しい母でしたが、あの時は非常に優しく、後にこの話をしたら母は、私がその頃食が細かったのでそんな風にしてみたのだそうです。その後雛菊は私の友達になりました。母は花の手入れをしながら時折話しかけていましたから、大切にしていたのでしょうね。白い桔梗がとても好きな人でした。擬人化も悪くない、今日は温かい思い出の中に入って行って、そんな風に感じました。母も覚えていたあの出来事、あれはいつの事だったのでしょうか。

6月4日、科学は幸せの為に

ウクライナからロシアに連れ去られた子供達は二万人とも言われています。侵攻してきた国が子供達を保護し、自国に連れて行くという事は理屈に合いません。まして親がいるのに勝手に連れ去ったケースも多いというニュースを初めて聞いた時には耳を疑いました。何故そのような事をするのでしょうか。ウクライナの親の元に帰って来た子供達の言葉からは、ロシア人になって愛国心を持って生きる事に疑問を抱かない人間にする事が目的だと思われます。強烈な光や大音量の音楽の部屋に入れられていると、その人を操りやすくなるからです。自分で考える事が難しくなった人を、思った通りの人間に再教育して行く、つまり疑問を抱く事が出来ないようにして操る、おそらくそのような事をしているのでしょう。親元に帰って来た子供達の心は、大変な負荷のかかる非日常が常態化されていた所での毎日によって傷付けられている筈です。心的外傷の回復には時間と、元通りの親との当たり前の日常が何より大切でしょう。しかし、フラッシュバックがいつまであるのかなど、回復には個人差があります。大人であっても傷つきやすい人、繊細な心の人であれば遭遇させられた事への衝撃が大きいほど回復に時間が掛かります。今回の事ではまだ帰れないでいる子供達の方が遥かに多いのですから、このような事をした側の人達は人間をどう思っているのか、敵だと思った側の人達を人間だと思っているのか甚だ疑問に思います。科学は、他者はどうでも自分さえよければ良いので、自分やその仲間達だけが満足出来る、抜きん出ている状態を作る為のものではありません。強引にそのような状態を作り出す事は他者を傷つけ、自分はその状態であっても傷つかないという事は自分達が優位に立つための手段の一つとして科学をフルに活用する事を悪い事だとは思わない、疑問を持たず心も痛まないという事だと思います。どのような兵器を作るのか、それはまだどこの国も持っていない物であれば猶更良い、優位に立てて自国に有利なように他国との関係を続けて行く事が出来るから、という事の一つとして、人はどのようにすればコントロールしやすい状態になるのかという研究に基づいて実践を試みる事を行うのは悪用している事になりはしないでしょうか。科学の進歩は本来皆が幸せになる為のものだったと思いますと、これ以上科学が進むと人間だけがよければ良い、しかも一部の人間だけ、という事になる、そういう方向に向かって使われれば、一部の人間以外が振り落とされて行く世の中になるように思えて、心がざわつきます。優れている、という言葉の中に、互いを思いやる温かい心も持っているという事が含まれて使われてはいない場合が多いと感じます。温かい心に裏打ちされない優れたものは、本当は少しも優れてはいないのだと思います。そのような優れている、は、隠れ蓑にはならず早晩馬脚を現すだろうと思います。

5月30日、余人をもって代えがたい社会

先日もお話ししましたが、裏を見せ表を見せて散る紅葉、という句を聞いて良寛さんの、子供達と手鞠で遊ぶだけではない人生が垣間見えたような気がします。世の中や、生きるという事を深く思って生きた方だったのだろうと思います。小豆を茹でている鍋が次第に煮え立って来るように、あれこれ思い浮かんで来ました。ところで、その場を離れた人の悪口を言う、しかも一人離れる度に、と言うことがあったら、残り少なくなってくると人はその場を離れ難くなります。もし離れたら今度は自分の悪口を言われるのではないかと思うからです。自分への評価が低いと思うと承認欲求が満たされない状態になり、わざと自分を阻害していると思い込むようになる場合もありますから、自分の所属している集団以外に対して不信感を持つ事になるのはありがちな事と言えるかもしれません。問題はその度合いでしょう。閉鎖的になって社会の一定の人々に不信感を持ち、自分達は被害者だと言う意識を持つと、攻撃的になる場合もあります。そのような集団に入ると、外に知られたくない事がある時に秘密を共有して行く為には互いが共犯者になるよう仕向けられたり、どうしてもその集団から抜けたいという人に暴力を振るうなどして見せしめのようにする、という事が起こりやすくなる場合もあります。そうなったらその集団は自由のない不健全なもので、反社会的な事をしかねない危険をはらんでいると言えると思います。その意味で、連合赤軍の、あさま山荘事件後に次々と明らかになった集団内での殺人事件と、次第に武装化して行った一連のオウム事件には共通点があるように思います。自分達の正しいと思っている事を実行するプロセスで心理的距離の遠い人間を犠牲にしても良いという考え方は、自分達と、自分達の集団に属していない他者を、優と劣として見ているのだと思えるのです。この先どのように生きて行くのか、心の奥を見つめて色々考える事は誰にもある事だと思いますが、その答えはそう簡単に見いだせるものではないと思います。そのような時に、明快に答えてくれる人に出会うとその人に依存するようになる事も不思議ではありません。でも、苦しみ悩む心の奥の問題は良い聴き手である人に聴いて貰いながら時間をかけて最終的には、自分で答えを出して行く方が納得出来るのではないでしょうか。一度お湯に浸かってしまうと、多少温いと思ってもそこから出るよりは安心だとか、出た後の不安を考えると慣れてしまったぬるま湯の方が良い、そう思いがちです。誰もが同じ人間です。皆が一人ひとり余人をもって代えがたい、かけがえのない存在だと思うと他者に危害を加える事が出来ない筈、と思います。どのような社会の風潮であったのか、社会の何が事件に関わった人達の心にどのように影響を与えたのか、再発を防ぐ為には解明する必要がある事で、その事と被害者やその家族の心の回復を考え支える事をせずして起きてしまった事件は終わらないのではないでしょうか。

5月25日、宵の口の空

私の母校の高校の創立五十年の記念行事があると連絡を頂きました。コロナ禍で遅らせたのです。同窓会に出席すると懐かしい友人と再会できて会話も弾みます。でも、出席していないし消息が分からない同級生の事が気になりますし、亡くなった人もいて複雑な気持ちになります。皆亡くなった友人の事にはあまり触れない、そのように思います。でも私はせめてこの人達との高校時代の懐かしい思い出話をして、短い時間でも一緒にいたいといつも思います。人の気持ちは皆同じではなく、同じ話をしていても目に浮かぶもの、胸に去来するものは人によって皆違うのですね。ジャガイモと玉ねぎを収穫してとても疲れた日の宵の口の空に、幾つものグレーの濃淡の美しい細い雲が複雑に寄り集まり、何か相談でもしているかのようでした。厳かで決して近づく事の出来ない遙か彼方の、一枚の絵に留めておきたいような宵の口の空、あまり綺麗でしたので暫く見ていました。見果てぬ夢があってそれを説明するとしたら、この空のように奥深い複雑な美しさなのかも知れないと思いました。

5月22日、広島でサミット

広島サミット直前からスーパーではもみじ饅頭など広島の物が沢山売られていて驚きました。広島と言うと、心に残っている事があります。広島で被爆した男性が、外国に行き、原爆投下後の広島やご自身の事を話し、原爆や戦争で体験した事を伝えているというテレビ番組を随分前に見た事があります。この男性の話に熱心に耳を傾け、真剣に聞き入っていたのはハイスクールの少年少女達で質問も多い、そのような光景でした。でも、ドイツの学校ではこの男性が話し始めようとした時、一人の少年がこう言いました。貴方はここに来てこのような話をするのは辛いでしょうね、と。その少年の眼差しはいたわりに満ちていました。私は胸を衝かれた思いがしました。戦後、首都の分断という中で焦土の中から現在の国にして来た人達に通じたのだと思いました。同じ人間の思いや悲しみ痛みは国境を越えて共感する事が出来るのだから戦争は決してしてはならないという、平和を希求する一人ひとりの自覚と言いますか、その為の努力を始める事が出来て、それが続けられて行くのだと思います。各国首脳は広島の平和記念公園を訪れた事を生かして欲しいですし、それが犠牲になられた方々に出来る唯一の事で、次の犠牲者を出さない事になると思うのです。訪れた事を形ばかりアピールする場所ではありません。手を携えて平和を大切に生きて行くきっかけになって欲しいですね。四月に蒔いた我が家の雪化粧南瓜の種は、芽が出て本葉二枚までに育っています。もう二枚本葉が出たら畑に植える事が出来ます。この南瓜のように、不戦の心が芽生え、少しずつ着実に育って行く事を信じたいと思います。広島大学での学会の日、食事をしようと入った店で出されたコップの水を見て、被爆して苦しみ、亡くなった方達にせめて一口水を飲ませてあげたかったと思ったあの時の事が蘇って来ます。飲み込み難い水でした。そして私は、平和な今という時代に生きている事にあんなにも深く感謝して水を飲んだ事は、それまでに一度もありませんでした。

5月19日、ガラスが割れた

先日早朝に地震がありました。下から突き上げるような大きな揺れの後横揺れがしばらく続いたのですが、緊急地震速報は間に合わず、震源が比較的近いからと思い緊張しました。能登半島でも地震があったばかりですし、その後も九州や北海道、四国でも地震と聞いて何となく不安を感じます。太平洋側に近い場所が震源でしたのに、東京湾側の木更津市の揺れが大きかった事に驚きました。テレビを見ると、木更津駅から港の方向付近の様子が映し出されていました。子供の頃はたまに木更津に親と行くのが楽しみでしたが、次第に人口が増え、近くにスーパーも何店舗か出来て行く事が減りました。木更津は今アクアラインが出来て横浜方面との行き来も便利になりましたので、山や田畑だったところに随分家が増えたようです。ですが、嘗てデパートや商店が立ち並んでいて賑わっていた駅の周りはがらんとしてしまいました。丁度空洞化してしまったようなのです。私の思い出の中の木更津とはあまりにも変わってしまったこの木更津の地震直後の様子に胸を衝かれました。ビルの窓ガラスが割れて道路に落ちているのを、警察の方が片付けていました。割れたのはガラスなのか、それとも私の子供の頃の思い出なのか分からなくなりました。けれど、心の中の大切なものは誰も壊す事は出来ないのだと気を取り直して明るくなってきた窓のカーテンを開けました。それにしても、胸の痛い朝でした。

5月16日、花それぞれが

楽しみにしていた桜の花も終わり、柔らかい緑の葉が風に揺れています。我が家では牡丹が咲き、あっという間に散ってしまいました。ピンクの濃淡、紫など次々花を見せてくれました。固かった蕾は翌朝になると今にも開きそうになって夕方近くには咲いている、こういう推移を見ていますと、速い、と驚き、時間の存在を感じざるをえません。ライラックも少しずつ淡い紫の花が開き、庭は春の香りで一杯でした。菜の花に似た紫色のライラックの香りは強く、そして広い範囲に拡散され、漂っています。牡丹の香りはどこか品が良く、余韻が残るようであまり広がらず、自己主張していない、と感じます。でも、花は豪華で人の目を引きつける魅力があります。花も人間も個性があるものですね。観賞用の麦の種を蒔いたのは去年でした。冬を越え、芽が出た麦は成長し、もう少し立つと黄金色になると思います。ふと、毒麦という言葉を思い出しました。観賞用の麦と言う、種の袋に書かれていた言葉に時代の流れを感じます。隔世の感がある、という事は昔の人も使っていた言葉ですから、エジプトのピラミッドを作った人達に、今の自分の気持ちをちょっと話して見たくなりました。何と言われるでしょうか。芍薬も咲き終わりましたし、カラーは三月末から咲き出しています。以前は初夏頃に咲き始めていたのに驚く事ばかりです。世界のどこにも、皆に、穏やかに時間が流れるようにと祈りたい気持ちです。蜜柑の花も散って梅雨が近づいています。

5月13日、自然に魅せられる

このところ、毎晩蛙の合唱が聞こえます。そんなに多くの蛙がいる場所があるとは思えないのですが、毎年初夏だと気付くのが、牡丹の花と早緑の山の木々、そしてこの蛙の合唱です。夜の庭は静かです。蛙の合唱をじっと聞いていますと、川のほとりにでもいるような気がして来ました。夜空を見上げるといつもの空でしたが、テレビで見たオーロラを思い出しました。緑や赤い色の入り混じったオーロラは生き物のよう、シルクオーガンジーを重ねたドレスの裾のようにも見えます。重厚とか厳粛と思えるけれども、ふわりとした柔らかいカーテンが自由自在に動いているようにも見え、どのように見えるのかはその人次第なのでしょう。自然であり、メカニズムが分かっているというのにやはり神秘的、まるで顔が見えないけれど妖精のような人間以外の存在のようにも見えます。オーロラに魅せられて何度も見たいという人もいるのだそうです。意志を持たず時間にとらわれないであろうオーロラからのメッセージがあるようにも思えるのは不思議な事です。絶えず変化し、束の間のオーロラの終わりの瞬間と人間の誕生から終焉まで、色々と考えさせられ、幾らか感傷的になった一日でした。もっとも、人間が今生を去る事が終わりなのかどうかは、私には分かりませんけれども。

5月9日、大島紬

テレビで、糸を繰り、織られて行く大島紬の映像を見ました。模様の美しさは勿論素晴らしいものです。そして、染めるのは大変難しいと思うのですが、その工程はとても時間のかかるもので、熟練した人達が丁寧に正確に行って行く一つの間違いもない作業によって反物は出来上がり、着物になって行くのです。泥大島の、まるで生きているような艶やかな黒は、躍動感があるようなのにしっとりとして落ち着いた佇まいを感じさせます。江戸時代の浮世絵に描かれた美しい人のようです。中高年の女性がお召しになると、華やぎを与え、生きて来たその方の歴史が垣間見え、丁度唇に紅を指したように、控えめで落ち着いた雰囲気のその女性に若々しい躍動感を与えたかのよう、また、若く活発な女性がお召しになると、落ち着いて品の良いお嬢さんに見えるのです。洋装に似合う活発さを少し抑えて、普段より幾らかおとなしく見えるのかも知れません。なんとも不思議な魅力を感じさせる、余韻の残る織物です。まるで、静とも動とも見えるあの馬、気品がある様でもあり、普段使い出来るようでもある、相馬焼の花瓶とどこか似ている魅力なのです。手触りや風合いも気になります。我が家では祖父母の代までは普段でも和服を着る事が多かったように思いますが、両親は外出時でもほとんど洋服でした。祖父が亡くなった時、祖母が棺に入れたのが、祖父の大島紬でした。祖母の小さな手が優しく着物に触れたように私には見えました。四十三年前の事です。

5月8日、端午の節句

自衛隊のヘリコプターが何故墜落したのかはまだ分かりません。これから原因の調査が行われるのでしょうが、一日も早く搭乗していた方全員が見つかって欲しいものです。好天でもこのような事故が起きる事があるのですね。南西諸島付近が事故現場と聞いて、戦争で亡くなった方々も多く眠っている所だという事を思いました。五月五日は端午の節句、生まれてきた男の子に鯉のぼりや内飾りを買って飾り、子供の無事な成長を願った親の誰が若くして戦死するなどと思ったでしょうか。喪失の悲しみは歳月を経ても、細くとも深い傷となって、心に刻まれている事と思います。戦争を時系列での数字の羅列ではなく、記憶に基づいた実態を伝えて行く事が戦争を繰り返さない為に大切な事の一つであると思います。今年も、種類豊富な柏餅が沢山店頭に並んでいました。

5月4日、ベルリンの息づかい

今年の黄砂は君津まで届きました。黄土高原の砂嵐は温暖化の影響の一つなのですね。先日、テレビを見ました。ベルリンを走るタクシーの数は多く、利用客も、運転手の生活、そして性格も様々です。緑が多くゆったりした佇まいと感じられる地区もあれば、広い通りにビルと舗装道路ばかりが目立つ、オフィスの多い実用本位のような印象を受ける地区もあります。タクシーを乗り換えてあちこちに移動する事は、全く異なる運転手一人ひとりの人生を垣間見る事とも言えると思います。ベルリンは、戦争、分断、という苦難の歴史を持ち、今この瞬間も歴史は作り続けられている、心惹かれる地です。青い空には幾つもの白い雲が浮かび、厚く絵の具を塗った水彩画のようです。また、瑠璃色の透明な宝石を砕いて、水を張った大きな洗面器に浮かべた物に光が当たるのを水の下から眺めたようにも見える怪しい魅力に、テレビの画面から目が離せなくなりました。中世から、この街とそこに暮らす人々をずっと見て来たような澄んだ目、それが私が見た不思議な色の空なのです。内政外交複雑な問題を抱え、懸命に過去から学び、現在から未来へと伝えて行こうとしている前向きなベルリンという地の息づかいが生々しく聞こえて来るような番組でした。

4月28日、取り残されるのは

スーダンでは国軍と、元は別の組織であった軍事力を持ち、協力して来た組織との争いが起きていますね。このような事が起こったのは、民政化への移行の時期について折り合いがつかなかったからだと聞きました。移行が遅ければ遅いほど良いというのには多分何か理由があるのでしょう。ロシアのワグネルという、戦場へ兵士を送る会社と、金の採掘が大きな収入源となっているスーダンで、国軍に協力して来た側との結びつきが、この争いに大きく影響しているそうです。大半の国民は突然の両者の戦いに巻き込まれ困惑しているでしょうし、急に危険になった日常からどう身を守ったら良いかを考えていると思います。他国の人達の避難を見て複雑な気持ちだと思うのです。無事に国外に出て欲しいけれど、残された自分達はこれからどうすれば良いのか、この国がどうなるのか、不透明なのですから、取り残されたような、見捨てられたような気持ちになるのでは、と思います。気持ちの孤立ほど辛いものはありません。暗澹たる気持ちのままでとりあえず家族の安全を考え、行動しなければならない負担は大変なものでしょう。私は、善とか悪とかいうのではありませんけれど、アフガニスタンが無政府状態になって行く中で、離陸しようとしているアメリカ軍機の車輪にすがる人達があの場所に取り残されて行くニュース映像が思い出され、同じ原因や状況ではないけれど残されて行く人達の不安そうな目が重なって来ました。戦争は天災ではありませんが、人間は何度も繰り返し、悲しく絶望的な目で翻弄される多くの人が一番命の危険にさらされている現実に、どこの国の指導者も是非目を向けて欲しいものです。以前見た、映像の二十世紀と言う番組の中で、ヨーロッパで難民となって避難する人達は、年齢も性別も関係なく皆虚ろな目で疲れ果てたように歩いていました。近くに落ちた爆弾で空いた暗く深い穴、あちこちで上がる黒煙、それが果てしなく深い人間の心の闇のようだと思ったあの映像と、今回のスーダンでの事が重なって来てとても複雑な気持ちです。

4月23日、自分の深層からの声

内密出産についてのニュースを聞きました。妊娠した理由も様々で、子供を産むかどうかを考え、それでも親にも言えない理由があって内密出産を選択せざるをえない十代の女性も、一定数居る現実があります。どのような家庭で育ったのかは分かりませんが、共通点と相違点があると思います。自分が十代の頃から今まで、身近にそのような人がいなかったのでどのように考えればよいのか難しく感じましたが、母親の胎内の子は待ったなしで確実に成長して行くのですね。また、子供には母親だけでなく父親もいる筈なのに、父親はどうしているのかという疑問が残って釈然としません。生まれて来た子供の将来を考えると、戸籍はどのようにとか、あるご夫婦の実子として届け出できるのか、どこで育てられるのかもはっきり分からない、と言う現実を親は考えたのだろうかと思いました。ところが、もしそのようにして出産した女性が今私の目の前にいたらどうするだろうと思った時、全く別の、心の奥の感覚のようなものが突き動かされたようなのです。無事に赤ちゃんが生まれて良かった、葛藤があって辛かったでしょう。これからあなたも赤ちゃんも幸せを感じられるように生きて欲しい、心の奥深くの親子の絆は切れる事がないのだから、いつか会って、その時は心の通い合う時が持てるように祈っています。今は赤ちゃんの幸せを一緒に祈りましょうね。こんな言葉をかけてあげたい、私はこう思ったのです。この人も赤ちゃんも抱きしめてあげたいと思うと胸が一杯になりました。不思議な事です。思考と感覚や感情が一致しなかったのですから、この問題では、今のところ自分で自分が分からないままです。ただ、人口が減少しているのだから高齢者ではなく、赤ちゃんや子供達に手厚くすれば良い、と言い切るのはどうかと思います。高齢の方達の努力によって今の世の中があるのですから。私は、世の中の裏や、人間の心の奥というものをも知っていたであろう良寛さんの、あの、裏を見せ表を見せて散る紅葉、と言う句を思い出しました。いつの間にか、良寛さんと一緒に手鞠をついて遊んでいるおかっぱ頭の、着物を着た日本人形のような女の子に誘われて出雲崎に行き、日本海を見つめているような気持ちになって来ました。荒れている海にも、人間を寄せ付けない冷たさしかないというものでもあるまいという気がして、今日の私には、表面は荒れていても日本海の限りなく優しいもう一つの面が微笑んでくれたように思え、漸く、内密出産の全体の共通点は今後の対応のために必要なデータであって大事、同時に個別のケースそれぞれの今後の人生を十分考え配慮がなされる対応が望まれる、それが大切なのだと思いました。温かい配慮のもとに生まれてきた赤ちゃんは、やはり多くの人に愛されての人生のスタート、という事になるのでは、と思ったのでした。

4月20日、温泉は土砂降り

もう少し年を取ったら一緒に温泉にでも行きたいわね、十数年前に亡くなった女性が私にそう言ったのは電話で話した時の事で、彼女は四十代でした。先日、この女性をよく知っている友人にちょっとその事を話したのです。友人は、今はコロナ禍でもあるので、多分その内に、という意味だったのだと思いますが、一緒に温泉に行こうと言ってくれました。私を気遣ってくれたからでもあろうと思うのです。でも、私は何も言えなくなりました。私は亡くなった女性のお宅に伺って、娘さんを看取り、ご葬儀を終えてひと月足らずのご両親に、お墓はどこですかと聞く事は出来ませんでした。暫く、時候見舞などお便りを差し上げてのお付き合いは続いていました。私が自分の近況を一行でも書く事が、今生での明日がない亡くなった娘さんの事を思うと言いようのない気持ちになるに違いない、容易には出来ない瘡蓋を剥がす事になるのでは、そう思いながら、せめて気遣っている気持ちをお伝えする事が、ご両親の事を思っていらしたであろう今はもう会う事の出来なくなった亡くなった方に出来るたった一つの事だと思ってこのお便りのやり取りを続けていたのです。それで、時間が経つほど、お墓の所在を聞きにくくなり、その内ご両親ともお亡くなりになりました。ですから、もう聞く事が出来ません。私は、この女性のお墓にお参りする事が出来ない状態のままで、友人と温泉に行きたくないのです。一緒に連れて行ってあげる事が出来ない人を置いて行く事はどうしても出来ません。私はこの亡くなった彼女と温泉に行きたかったのではなく、会う事が出来なくても、彼女がどこかで元気で幸せに生きていて欲しかったのです。友人は真面目でとても心の優しい人だけに、行きたくないと言えなくなって非常に困っています。折角私を気遣う気持ちで言ってくれた事なのに申し訳ないように思いますから。頑なな事だと思います。でも、それが私なのですから、これは譲れません。何人かの友人が亡くなっているのですが、人によっては長く会っておらず、ご家庭の状況が分からない人もいます。同窓会の役員の方に無理に聞く事は、個人情報ですので出来ません。何人もの、お墓参りすら出来ない人達の魂が安らかでいてくれるように朝晩手を合わせています。立ち入った事は言わない、差し出た事はしないという私のやり方に通じるこの取り返しのつかない後悔が私には一体幾つあるのだろうかと思うほどあります。ただ黙って微動だにせず立ち尽くしていた私の心の中は大抵の場合誰にも分からなかったと思います。温泉から連想されるのは今の私には土砂降りという言葉です。振り返る事は過去に戻ってその時の気持ちになる事ではなく、今も持っている痛みを再確認する事にほかならないのだという事を、改めて感じさせられた出来事でした。亡くなった方々の事は、多分私が生きている限り何年経とうとも忘れる事はないと思います。

4月17日、良心で回る

回転寿司の店で醤油差しに口をつける動画が問題になりました。店であり、自分専用の入れ物でもないのは分かっていた筈ですから、ふざけ半分でという事なのでしょう。このような動画の投稿は大分前から増えているようですね。変わった事をして目立ちたいのかも知れませんが、それで承認欲求が満たされるものでもないと思います。やって良い事と悪い事があるのは理屈では分かっているのでしょう。回転寿司は人間に良心がある事を信じて回っているのだと思います。私は高度経済成長時代に生まれ育ちましたので、家族や学校の先生、周りの大人達は殆どが戦争を知っている世代でした。食べ物を粗末にしてはいけない、遊び道具にしてはいけない、よく言われた事です。例えば、蜜柑でお手玉をした子は学校でも叱られました。命を頂くという事、人のお陰で作られ、その食材を調理して食べているのだという事は自然に心に定着して行ったのです。今も戦争や干ばつなどで食べ物が足りないために亡くなる人達がいる事も折に触れて聞かされたものでした。勿体ないという言葉が当たり前に使われていたのは経験や世界の実情からだったのだと思います。時代が違う、と言われるからお嫁さんには自分の経験を言わない、通じない、と言う人も案外多いのですが、私は、伝えられた事、教えられた事の幾らかは心に残っていて、ずっと後になってから思い出す事があると思います。そしてそれは、その家の中でずっと先の時代になっても少しは口伝えで細々とではあっても伝えられて行くのではないでしょうか。大切だと思う事は伝えなければそこで途切れてしまうのですから。私達は見方によれば文化を伝え、時代の出来事を伝えて行く中継ぎという役割を担っていると思います。たとえ伝えてくれた相手にあまり良い感情を持っていなくても、それとこれとは別だと思います。そのようにして人間が生きて来た事、その息づかいまでもが伝わって、命は受け継がれて行くように思うのです。この頃、良い感情を持てなかった人とのかかわりがあったから育てられた部分があると感じ、顔も見たくない人は思い当たらないのです。こんなにも広い世界で出会い、関わるという事は奇跡的な事、だから人とも動物やものともゆっくりと丁寧に関わって行きたいと思っています。そうは言っても、時代の影響はどのような事にもあるのでしょうね。社会は子供にも決して裏ごししない荒っぽい現実の在り様を見せている、情報過多と言うのは必ずしも必要な正しい情報が多いという事ではありません、こういう注意書きを付けた方が良い気がします。こんな時思い出すのが、以前にもお話しした、私が学生時代の、総武快速線の夏のお昼過ぎの出来事です。下り電車の車中での事でした。海にでも出かける途中だったのか、子供を連れた若いお母さんが電車の中でお弁当を食べていて、まだ幼稚園に入ったくらいの男の子が、もういい、と言って、幕の内弁当を母親に差し出しました。母親は自分のお弁当を食べていて、子供に、捨てなさいと言いました。私はドキッとしました。聞いてはいけない事を聞いてしまったような気持ちになって、物に不自由していないからと言ってこれは納得が行かないと思いました。私の子供の頃は、食べきれないだろうと思うものに子供が箸をつけたら親は、子供が大半を残すのが分かっているので、子供の残したものを食べたものです。戦争や自然災害への不安からだけでなく、どのような時代になってもあの時の事は私にとって忘れられない出来事の一つになるだろうと思っています。

4月13日、前思春期から

小学校高学年の頃、自分のルーツを知りたいと思いました。聞いていた事だったのに、聞いた事を丹念に精査しようとしました。そして、何度か繰り返して聞きました。どこかに間違いはないだろうか、辻褄が合わない所がないだろうか、そんな事を考えていました。本当にこの両親が自分の親なのか、この家が自分の家なのか、一夜明けると今まで聞かされてきた話が事実ではなかったという事になるのではないだろうかと。あれは前思春期という時期に入っていたからなのだろうと今は思います。今までの家族への不満や反発もあったのだと思いますが、自分の家庭のあり方や人間関係を外側から客観的に見る事が出来るようになったとも言えます。何も特別な不満がないのに、誰もいない家で留守番をしたいと思っている。それなのにいつも誰かしら大人が居るので、学校から帰宅後、子供だけで過ごす友人を羨ましいと思いました。壁や引き出しの奥に、もう一つ空間を作ってその部屋で一人で自由に何かを考えていたい、それは子供から大人になる途中の思春期へと入って行く前の自分の心の変化の始まりだったのだと思います。自分以外は知らず、入る事の出来ないこの場所の存在が必要だったのは、心の奥行が変わりつつある過渡期だったからなのです。中学生くらいになると、たまに学校で仲の良い友人と意見が合わないなどの、今思えば些細な事があった日は気が重くて夕食を取りたくないと思う日もありました。まして高校や大学への受験が近づいて来ると小さな事であっても落ち込むなど傷つきやすくなるという事もありました。しかし、家族が多かった我が家ではそのような時に誰かが気づき、どうしたのかと聞かれる事が嫌でいつもと同じように振舞っていました。女性はゆっくり時間を取って十分に勉強する事が非常に難しかった時代に育った祖母は、勉強する事が出来るだけで十分有り難いのだと常々言っていました。ですから学校の不満を口にしにくい雰囲気でした。私が、家制度が残っているように感じて有吉佐和子や太宰治の小説をよく読んでいたのはその頃です。思い返すと懐かしい、前思春期から思春期への、不織布のトンネルの中を歩いていたのです。不織布ですからさほど息苦しくはなかったのが救いです。今日は、今も過ぎて来た道の一つひとつの落とし物は、私の心の中に落とした時のままの姿で存在しており、生きて脈打っていると改めて感じたのでした。自分の成長過程のルーツを振り返る飛び石のようなキーワードは誰にもあるものなのでしょう。

4月9日、決して開けてはいけないよ

決して開けてはいけないよ、と言われた子供は、そう言われたからその扉を開けてしまい、そこから物語は始まる、と言うのはよくある事ですね。駄菓子はあまり身体に良くない、小さい頃、大人たちはそう言っていました。スーパーがなかった時代でした。買い物に子供を連れて行った時など、どこの親でもほとんど皆そう言っていたのですが、私は、あまり駄菓子は良くないものだから欲しがってはいけないなどと言われた事がなく、おやつは親が作ったり買ったりして出してくれるので、店に売られている色とりどりのお菓子を欲しいとは思いませんでした。玩具も、今手元にある幾らかの物で空想が膨らんで楽しく遊んでいたのでやはり欲しがらない子供でした。絵本も、同じ物語を暗記するほど読んでもらうのが大好きでした。この、一風変わった所を持っているのが子供の時の私の特徴の一つなのだと思います。今も昔風の駄菓子が売られている事があります。けれどそれは、体に悪くないような物を使って見かけを昔風にしてあるものです。親も安心して与えられるだろうと思います。何が使われているのかちょっと分からない、たとえて言えば、裏ごししていないような雑味のある駄菓子に親が良い顔をしなかった、だからこそ子供は好奇心一杯の目になってワクワクしながら駄菓子を食べたかったのだと思います。この時、この駄菓子は決して開けてはいけない扉なのですね。思春期の子供にとって、親に隠れて何かをするという事自体が秘密の世界に入って行くように思えて、だからそこに入ってみたいのでしょう。今、イベントなどの時だけ走る汽車は綺麗なブルートレインを牽引して、区画され、家々が立ち並ぶまちで、大勢の人達が集まる中、汽笛を鳴らして走って行きます。力強い、汚れたもの、原野を走る生活に不可欠なもの、ではない姿のように感じますと、汽車が随分華奢なものに見えて来ました。あれはもう、決して開けてはいけない扉や箱ではなくなってしまったようで、ちょっと寂しい気がします。今という時代は、決して開けてはいけないという境目が難しいものが、無数にインターネット上にあるのだと思います。開け方や選別の方法は難しいと思います。物語の中の開けてはいけない箱や扉は、適切に開ける事で子供の成長の助けになり、必要なものだったのかも知れません。今はどうなのでしょう。あまり毒々しい物は、大人だって開けない方が良い、でも、インターネットのサイト上でそういうものを容易に見つける事が出来る、もっと言えば数多く存在しているのです。まるで目に見えにくい星のようですね。それでも、子供が決して開けてはいけない物は大人の私にとっては多分興味の対象ではないのですから、やはり良い意味でのハラハラドキドキ、ワクワクがあった子供時代はかけがえのないものであったのだと思います。今もこれからも、どの子にとってもそうあって欲しいものです。

4月5日、こぼれるように雪柳

年々桜のシーズンはいつからいつまでなのだろう、と考えてしまいます。子供の頃を思い出すと、四月の上旬には満開になっていてぼつぼつ散り始める、というものでしたが、南関東の桜は随分早く咲き始めるようになりました。ですから、入学式に葉に気が付くなどと言う事が当たり前のようになっていて驚きます。他の花も平成の初め頃から少しずつ速く咲き出すようになりました。木蓮、牡丹、藤、ツツジ、皆四月の早い時期から花が見られます。内房線の線路沿いの緑地に植えられている雪柳も三月半ばに満開になるようになりました。美しいけれど空恐ろしい気がします。庭の雪柳を切ろうとすると、ハラハラと花が散って行きます。まるで、朝の空気を掻き分けながら季節を遡り、静かに積もって行く粉雪を見ているように感じ、見とれてしまいました。なんとも言えない風情で、幾らか冷たい朝の空気が、冬から春への、開け閉め出来るカーテンのようで、自在に行き来出来る冬と春とは続いている季節なのだとしみじみと感じさせるものでした。咲いては散って行く花々と移り変わる季節に、ふと、もののあわれという言葉を思いました。

3月31日、仮想現実のような

1970年、日本で初めてのハイジャック事件、よど号事件が起きたのは三月三十一日でした。三月や六月は記憶に残る事件の多い月という気がします。ところで、イスラム国、というものを覚えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。あのようにして、国であるという事を宣言するなどと言う事はかつてない事でした。他国に侵攻し、その国のその地域の逆らった人を殺傷する、インターネットで参加者を募集する、まるでインターネット上のゲームのようなやり方で、このように人の命を奪うという取り返しのつかない事をし始めた人達がいる事に愕然としました。人を殺す事は決して良い事ではないけれど、差別され続けている事での実害が大きい、というような原因で、国内で紛争状態が続いている場合などは、実際の生活をどのように変えたいかという具体的な目的やその為の志があり、ゲーム感覚ではないものだったと思います。ゲーム感覚と言いますと、極めて軽い事をするようですが、現実はゲームと違って何一つリセット出来ないのです。それは今考えると一時的な事でしたが、犠牲者お一人おひとりのその後の人生が奪われた事を後から覆す事の出来ないという重い現実が変わる事は決してありません。あれは何だったのか、次々と起きる事件や災害に次第に遠い出来事になりつつあるのは恐ろしい事と感じます。今、刺激の強い事件に遭遇し、劇場に入れられたかのような私達普通の人間には戸惑いながらの日々なのです。いつ自分の身に何が起こるか、防げる事は限られているように思っている人もいるだろうと思います。まるで時間が速く流れて行くような世の中を手探りで、時間の前倒しのように日々を過ごさざるを得ない事に慣らされて行くと、行き着く果てには何があるのかと思います。時間が経ったからこそ考えられる事もある筈、そして今この瞬間も歴史が作られて行く中に身を置いて、待ったなしで考える必要があるように思えるのです。

3月27日、あの事件と私

平成七年三月二十日に起きた地下鉄サリン事件から今年で二十八年になりました。あっという間だったのか長い時間だったのか、私にはよく分かりません。私は学生時代、秋葉原から北千住を経て埼玉県へと通学していました。ですから、地下鉄日比谷線を週六日利用していたのです。事件は卒業してからずっと後の事です。最初地下鉄の事故との報道を外出先で聞き、珍しい事だと思いました。ところが帰宅後のニュース映像に愕然としました。地下鉄の駅から階段を上がった地上に多くの救急車やパトカー、おびただしい数の人、しかも幾つもの駅で同じような状態、それがその朝の都心だったのです。しかも戦争や紛争状態ではない日本で、化学兵器であるサリンが地下鉄の中に撒かれるなどと言う事があるとは夢にも思っていませんでした。夜、誰も乗客がいない地下鉄の駅を走る電車をニュースの中で見た時の事が忘れられません。自衛隊の隊員の方が二人、除染作業をしたのだと思いますが、防護服を着用して乗っている、それ以外にはがらんとして静まり返っているホームと電車、普段の地下鉄とはあまりにも違う、それは私がこの現実を決して否定する事の出来ない社会に今生きている事を受け入れざるを得ないと思った瞬間でした。昨日までの日比谷線を返して欲しい、私はテレビのニュースを見ながらそう言いたくなりました。毎日秋葉原駅で、中目黒から北千住方向への下り電車を待っていますと、中目黒行きの銀色の電車が立錐の余地もないほどの混みようで、次々とホームに停車して人の乗り降りの後、次の小伝馬町駅方向へ走り去って行きます。十分に一本の下り電車に比べて本数はかなり多いと感じていました。秋葉原駅は山手線や京浜東北線、中央線の各駅停車の電車との乗り換え駅ですから乗降客は非常に多く、朝の通勤通学の時間帯は駅出口である昭和通り口は慣れない人が戸惑うほどの人の波です。ですが、毎朝利用する人が多いので戸惑うことなく、前の人について、整然と歩いていたように思います。沿線の景色は南千住で見る事が出来るようになります。下り線は南千住で地上に出ると幾つもの会社の冷凍倉庫が沢山並んでいるのが見えました。それが見慣れた日比谷線で通学していた頃の光景でした。あの、何でもないいつもと同じ朝だった筈のあの日、犯人達がサリンを作り、持ち込み、傘でつついて降りて行った瞬間から誰もが思ってもいなかった地獄のような日に一変してしまったのです。亡くなられた方、後遺症に苦しんでいる方、ご家族の方にとってこの事件は終わる事はないでしょう。戦場ではない所で使われた兵器の後遺症が、今の社会でどれだけ理解されているかは疑問だと思いますから。加えて、今もPTSDが案じられてなりません。また、私は用事があって、日比谷線の上り電車に秋葉原から乗った事がありますが、小伝馬町駅は幅が比較的狭く感じの良い駅だと思いました。ですから、何も知らなかった方が、乗客が気分が悪くなった元であろう破れたサリンの袋を、この駅で電車からホームに出したと聞いた時、ああ、と思いました。気化したサリンがあのホームに充満するまで多分とても短い時間だったのでしょう。でも、その事を責める事は出来ません。知らなかったのですから。その方がもし今も苦しんでいたらと思いますとやり切れない気持ちになります。当時の、上九一色村のオウム真理教の施設を捜索する時警察の方が、カナリアの鳥かごを持っていた事、サリン製造工場であった施設が存在していた事、親が入信し子供もこのサティアンと呼ばれる施設に、ヘッドギアというものをつけられて多くいた事、覚えています。私はテレビで見ていたのですが、坂本弁護士さんのお子さんがあの子供達の中に居はしないかと思って見ていたのです。まさか家族全員を殺害し、別々の場所に遺棄していたなどとは思っていませんでしたから。その後、幹部一人が青山で刺殺されました。手を下した人は逮捕されましたが私には釈然としないものが残ります。この幹部はテレビ番組の中でアメリカの専門家に質問された時、サリン製造に必要な物質の名前ハステロイを口にし、何故今その名前を言ったのかと詰問された事があり、口が滑ると困るから刺殺されたのではないかと今も思っています。冷静に克明に、それが再発を防ぐために不可欠だとは思いますが、私にはどうしてもこみあげてくるような痛みと憤りを静めてあの事件を考える事は出来ません。この教団の武装化を止める事が出来たと思われる一つのポイントは、宗教法人として認める条件がもっと厳格であったら良かっただろうという事です。そうすればあの時より迅速に捜査を行う事が出来たと思います。多くの人の人生を変えてしまった事件です。バブルのはじける前からあの頃まで、お金が容易に手に入るようになった人達が多くいたかも知れません。でも、お金だけで幸せが実現出来るというものでもないと思います。大手の、専門書など扱う書店でも、心理学や教育学の専門書は非常に少なくなり、よくは分からない心の世界のようなジャンルの新しい本が次から次へと並ぶようになっていたあの、昭和から平成一桁の頃、よりどころを求め、不安を解消したかった人達の多くが宗教のようなものに見えたオウム真理教に近づいて行った、そのように思えるのです。戦争や感染症、度重なる自然災害に漠然とした不安や不満を抱えている人が多いと思われる今、私は、オウム事件は決して古い過去の事ではないと思います。またいつ途方もない事が起こるかも知れない現代の世の中に身を置いている事をひしひしと感じます。オウムの中には、人も羨む学歴や経歴の人達も多かったと思いますが、挫折というものをどう考えどのようなものと実感として受け止めていたのかという事は的外れかも知れませんが、いささか気になるところではあります。どんなものに裏打ちされた心の持ち主だったのでしょう。何が私に出来るでしょうか。答えは容易には見つからなくても考え続けたいと思っています。最後になりましたが、関連の事件をも含めて、亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また、被害を受けた方々に心からお見舞い申し上げます。

3月25日、欲深い事と畏敬の念

春らしくなって来たと感じますが、日によっての気温差の大きい時期ですね。お加減の悪い方はどうかお気をつけ下さい。雪が積もっていて戦争の終わる兆しが見えて来ないウクライナや、地震で亡くなられた方、家を失った方の人数が日ごとに増えているトルコ、シリアでは朝晩の冷え込みで体調を崩す方も多いと思います。そのような事を思いますと、庭が霜で真っ白の朝でも、寒いという言葉を口に出すのが憚られ、飲み込んでしまう二月でした。便利になってインターネットを利用する人が増え、詐欺目的のメールも増えました。個人情報が売買されているのが現実なのですね。場所や時刻を問わず人の命が奪われたニュースを聞かない日もありません。人間は欲が深く、その欲には際限がないものなのだとしみじみ思います。そして私もそのような所のある人間なのです。考えてみますと、畏敬の念というものは他者から強要されるべきものではありませんが、人間が、裏打ちされているものとしてとても大切な、人間としてのその人を支えているもののような気がしてなりません。歯止めのない事は必ずしも自由を謳歌するとは言えない、よりどころのない底なしの不安を感じる事は恐ろしい事のようにさえ思えるのです。心を含めてのバランスを取る事をいつも自分一人で判断し、どのように生きて行くのかを決定し、生きて行く事は、極めて小さい人間である私には非常に難しいと思っています。特定の信仰の是非などと言う問題では勿論ありません。近くの問題を遠くに離し、遠くの問題を手元に引き寄せて、今日は考えたような気がしています。どのような時でも冷静で優しく温かくいられるという自信はありませんが、出来るだけ深く考え、自他どちらに対しても同じように優しくありたいものだと、自分を映す鏡を穴のあくほど見つめる事の増えて来た今日この頃です。説得力のあるスッキリした答えはなかなか見つかりそうにありません。

3月20日、受け継がれて行く

ある年の梅雨の午後の事です。霧雨の中を私は傘をさして歩いていました。特別用事はなかったので散歩していたのだと思います。明日はジメジメせず晴れたら良いのに、そう思った時、ふと思い出しました。まだ幼稚園にも行っていなかったある日の夕方、家の中に入る時になにげなく振り返ったのです。寒い日で、西の空にとても綺麗な夕焼けが見えました。その時、明日もきっと良いお天気になるだろう、でも今夜は星が綺麗だから寒くなるのだろうと思いました。母が、星が沢山見え、瞬いている晩は冷え込んで翌朝寒いのだと言っていた事を思い出したからでした。そして、散歩中に、その時の光景がとても懐かしく思えました。昔も子供がこの家に暮らしていて、夕暮れ時に室内に入ろうとして振り返り、綺麗な夕焼けだ、そう思っていたのだろうなと思ったのです。血縁であるか否かにかかわらず、昔も確かに人間が住んでいて、色々な事を思い、学んだり働いたりして他者と関わり一生を終えて行った、そのような事の連続の中に自分もいるのだ、と、アニメーションの一つの場面の作中人物の動きに何枚もの絵が描かれ、そしてその絵の描かれた紙を速くパラパラと動かす事と、人間の命のつながりが同じように思え、重なるように目に浮かんできたのです。とても印象に残る雨の日の散歩でした。喜怒哀楽、様々な人生、旅立って逝った多くの先人達、一人ひとりとのつながりを実感すると、なんだか人間という存在がとても愛おしくなり温かい気持ちになって来ました。連帯感、とでも言ったら良いのでしょうか。雨と、それを受け止めてくれる傘までもが私に微笑んでくれたように感じた不思議なあの日の感覚は今も確かに残っています。多分あの日は私の意識と無意識の循環が良い日だったのだと思います。

3月16日、三角形にはならない

ある朝、テレビのスイッチを入れた時にロウソクが映りました。大きなロウソクです。飛騨古川の、三寺参りの為のロウソクです。浄土真宗の信者の多い所なのだそうです。新日本気候の音楽のテンポが懐かしく、映像を比べると、四十年以上前のこのまちと、今のこのまちは変わっている部分と変わってはいない部分があるのがよく分かります。和ロウソク作りは、ずっと昔から親から子へ受け継がれてきたものです。四十年以上前、お父さんと一緒にロウソク作りをしていた息子さんが、年を重ねた今、とても優しい目をしたお父さんとなって、息子さんと一緒に和ロウソクを作っていました。私はふと赤いロウソクと人魚の話を思い出しました。和ろうそくの火は高く燃え上がるように思っていたのですが、この番組の中のロウソクはとても静かに明るく灯っていて安定感がありました。優しく、力強く燃える、ほど良い明るさのこのロウソクは、母性的でもあり、父性的でもあるように見えました。長い間受け継がれて来たのは技術と、人間の暮らしやその根源とも言える様々な人間の思いもまた、ロウソクの灯を次のロウソクに移すようにして伝えられ、確かに受け継がれて来たのだと感じました。ほど良い明るさというものは、決して人の心の傷を白日の下に照らし出したりはしないのでしょう。谷崎潤一郎の陰影礼賛と言う言葉を思い出します。このような飛騨古川の和ロウソクが今も作られている一方、無差別殺人に興味があり、それを実行したい思いを持つ人もまた存在しているという現実が、人はそれぞれ違うのだから色々な人がいるものだ、とはなかなか思う事が出来ず、とてもアンバランスと感じる、危うさをはらんだ現代の社会の断面を見たように感じられるのです。育った環境などについても少年の事件でもありますし、詳しい事はまだ何も分かってはいないのですが、やはり嘗てはなかった事なので社会の在り様との関連はあるのだと思います。実は、私のスマートフォンが故障し、十日以上スマートフォンなしでの生活が続きました。まるで、台所があっても中に入って料理が作れないような、あるいは開かない窓の部屋に入れられたような、そんな気持ちの毎日でした。こういうものを必要に応じて使う事が、いつの間にか当たり前になっている事を痛感しました。インターネットの中の情報の精査は必要ですし、ゲームの中での殺すとか死ぬとかいう事はリセット出来る事だからなので安易に使われているのが私には胸が痛く、気がかりです。現実の生活の中で他者と関わる時に、仮想現実との切り替えが出来ないと困った事になります。情報量が多いという事は、正しい情報ばかりではないものも多いですし、今までが二次元の世界であったとすると、一つ違う次元のものが川のようにどんどん流れ込んで来ているように感じられます。好奇心を持っている子供や多感な思春期の少年少女が、どのようにこの情報過多の今を生きて大人に成長して行く事が望ましいのか、どうすれば良い人生の土台になるのか、速い動きの中で、考える大人は事象の後追いのように思われてなりません。未知のウイルスとワクチンの関係に似ているような気がします。飛騨の和ロウソクと、無差別に人を殺めたいという気持ちを持っている人、そしてスマートフォンの故障で考えさせられた自分、三つの点を見ている私の目には、バラバラな事ではない様でもあり、決して容易に結べる点でもないとも感じられます。歪んだ三角とも言い難い三つの事が気になった日でした。ところで、今年のスギ花粉は強烈で目がぼぉっとして辛い思いをしております。花粉症の方どうぞお大事になさって下さい。

3月11日、震災から

東日本大震災の直前、私は遊歩道を歩いていました。日差しはあっても白っぽい雲に覆われていて、冷たい風に川面にはさざ波が立ち、ダイヤモンドのような煌めきがそれはそれは美しかったのを覚えています。これも自然のなせる業、この自然をこれ以上変えず地球温暖化を何とか食い止める為には、便利さの追求を一定の範囲で止めるという事になります。だから、負を次世代に多く残さないようにする為に足並みをそろえる事は簡単ではないだろうと思うと、とてつもなく重いものを背負わされて肩に食い込んでくるようだ、私はそう思って暫く川の流れを見つめていました。その時、自分の口を借りて誰かがその言葉を言ったような気がしました。その水の煌めきの事を、この世のものとも思えないほど綺麗、と。言った途端にギョッとしました。自分の感覚や感情から思考へつながって自覚して発した言葉ではなかったからです。でも、私が合点が行かないままその場を離れて歩き出して直に地震が起きたものですから暫くはこの経緯を忘れていたのです。あれは地震の起きる事を知らなかった最後の穏やかな瞬間などではなく、おどろおどろしい世界に一歩足を踏み入れる寸前であり、その次元の一変した地震後の世界の幕が切って落とされる予告のようなものであったような気がしてなりません。今でも、津波の映像を長時間まともに見る事は出来ません。後で体調が悪くなる事があるからです。私でさえこのように感じているのですから、被害の大きかった地域の方達はどのような心の痛手を抱えて日々お暮しなのかと、胸が痛くなります。ご家族を亡くされた方、今もご家族の行方が分からない方、原発事故で帰れない故郷を思う方、成長し巣立っていった子供さん達、御病気の方、ご高齢の方、皆様に心身共に出来るだけお元気になって頂きたいと、この地からお祈り致しております。何とか心も支えたい思いの方はきっと大勢いらっしゃると思います。

3月7日、低温と耳

今年の寒中はことのほか寒さが厳しかったですね。この辺りで最低気温がマイナス5℃を下回ったのは珍しいのではないかと思います。低気圧のような勢力の寒冷渦が北極上空から切り離されて日本列島にやって来たのでしょうか。線状降水帯が構成され、雪が降り続く、低気圧は急速に発達し、クモの巣状になって強風が吹き、吹雪や地吹雪になる、という事なのかも知れませんね。最低気温がマイナス5℃を下回った日の明け方、耳鳴りがして、おさまった後に、飛行機に乗った時やトンネルに入った時のようになって、低音の聞こえがいつもより悪くなりました。台風が近づいて気圧が下がって来た時にも同じような状態になった事があります。まさか低温でも耳に影響が出るとは思ってもいませんでした。翌日耳鼻咽喉科の病院に行きました。冷たい空気で鼻と喉が辛くなるのは花粉症になってからずっとですし、こういう事に直面すると、鼻と耳、喉のつながりを実感します。年のせいで色々不具合が起こって来るのだろうと思うのですが。赤い目をした白兎、学校で世話をした事があるのですが、あの兎の長い耳は一体どのようになっているのか興味があります。野生動物は殆ど人間に世話されることなく自然の中で生き、次の世代に命を繋いで行く、とても強く逞しく生きているのですね。自然を損なわないで、と言われているようです。

3月5日、そなわっているものは

古事記は八世紀初めに書かれたとされる神話を含む歴史書だという事は良く知られていますが、同性の親子の対立がここにも記述されているのは興味深い事です。古今東西、いつの時代でもそれはあった事なのではないでしょうか。父性、親を超えたい気持ちなど、辿って行けば人間という存在の共通点が垣間見えて来るようです。立春を過ぎてからは毎年僅かかも知れませんが花粉が飛んでいるのを感じます。猫は恋の季節のようで外は賑やか、お天気が悪くても関係ないようです。一番寒い季節でなくても、と思いますけれど、四月か五月に仔猫が生まれると子育てにはよい季節になるという事が最優先になるのでしょうか。メス猫は足元をしっかり固めるような手堅い暮らしぶりで、オス猫は思いがけない危ない事をする事がありますから、ハラハラする事が多いのです。性格は人間と同じで、皆違う筈です。でも、どんなにおとなしくてもオス猫はオス猫だと感じる事が多く、いくらお転婆でもメス猫はメス猫、危ない事の限界が違うのです。将来母親になるからそのようにそなわっているのでは、と思います。異性の子供は親にとって未知の部分がいつまでもあり、同性の子供は時には将来を含めて理解しやすいのだと思います。勿論どちらが可愛くてどちらが可愛くないという事ではありませんが、猫を見ながら、他の動物はどうなのか気になりました。一月半ばになると、バレンタインデー向けのチョコレートが毎年店に沢山並んで綺麗ですが、現実の暮らしや他者との関わり方は喜怒哀楽それぞれあって、そう甘くはないというのが実感です。だからこそ夢や希望が生きて行く原動力になるのでしょうね。それにしても、猫の避妊、去勢や高齢の猫が病んで徐々に弱って行くのを助けられない時、どのようにするのかは飼い主が決める事になり、家族の一員として共に暮らして来たからこそ、どうしたら良いのか難しいところです。延命治療についての選択も同じ事です。猫も長生きするようになったので十九才で病んで弱って行く猫を看取った時、どうしたいの、と本当は聞いてみたかったあの日を思い出します。

2月28日、時間の節目にいる

我が家の北側の方向には山があります。その山を削って社宅が何棟も作られ、1968年秋にその社宅に人が住み始めました。その時、最初に、一クラスに一度に十五人の転校生が入って来て、小学校の特別教室は普通の教室として使われるようになりましたから、学芸会は出来なくなりました。それからは絶えず転校してくる人や転校して行く人がいる、と言う落ち着かない小中学校生活でした。特別不満があったわけではありませんが、新しい学校が建設され、学校の学区が分けられて新しい学校に移る事になりました。前思春期にこのような事が始まった事は今思えば随分心に負担のかかる事だったのです。そして、山を削って高層社宅が作られるという事に伴ってかなりの高さの赤い給水塔が立てられました。最近、不要になったのだろうと思いますが、この給水塔を取り除く工事が進められています。人口がどんどん増え、町が変わって行った時代からもう一つ変わって行く象徴のような給水塔の撤去を日々見ていますと、感慨深いものがあります。目に見えない過去から現在、未来へと移り変わって行くその時間は手に取り、留めてみる事は出来ませんが、確実に人も物もまちも変わって行くであろう節目の今という時に、自分が立ち会っている重さを思う今この瞬間の私です。

2月23日、日本酒の

まだまだ朝晩は寒いですが、日中には気温が10℃を超える日があります。少しずつ春に近づいて行くのでしょう。弥生時代に発酵させて飲んでいたという酒は米が原料だったと聞くと、人間は余程酒を好んだものなのですね。他の国でも原料は違っても同じように酒を飲んでいたという事は、人類にとって必要で欠くべからざるものなのだと思います。料理には日本酒を使う事がありますが、日本酒は芳醇な香りがします。私は飲まないのでよくは分かりませんが、日本酒は米が原料なので多分その香りがするのでしょう。華やかなようでいてどこか内にこもるような匂い、と感じます。ずっと昔から、地震や津波、台風や大雪などが何度もあったこの国で、ただただ働き、心の中に苦しみも悲しみも折り畳んで時々お酒を飲んで寡黙なまま旅立って逝った先人達の思いがこもって伝わって来るような気がするのです。きっと人生そのもののような、噛みしめると美味しさを感じる物やほろ苦い物をつまみながら飲んだのではないかと思います。切ない思い、と言ったら良いのか、そのような思いが伝わってきます。ですから、私は口を開けるのが辛くて、あまり使いたくないなどと思ってしまいます。そうしますと残っている日本酒が料理に使う事でずっと昔生きていた人達の事を忘れないで欲しいのに何故封印するのか、と言っているようにも思えて、使わない事が後ろめたくなって時々使っています。どこの国の酒にも楽しむだけではない物が込められているのかも知れません。今の時代も志を持ち、職場で苦労しながら一生懸命、誰にも言わないと決めた事を心にしまって生きている、そのような事が人間の数だけあるように思えてならないのです。

2月18日、白梅の庭で

節分を過ぎると日本水仙や蝋梅の花が終わり、寒椿が際立って美しく見えます。漸く自分の季節がやって来たので景色を眺めながらのびのびと暮らせる、とでも言うように咲いています。そろそろ杉の花粉の季節ですね。我が家では白梅も咲き始めました。奈良時代頃までは花と言えば桜ではなく、梅だったそうですが、その頃の人達も梅の花を眺め、香りを楽しんでいたと思うと時間の連続性だけでなく、長かったのかあっという間だったのかと、時間というものが不思議な捉えどころのないもののように思われます。時間の存在そのものが謎です。紋別に行った時にお会いした商店の方の、お客さんが来てくれるのは嬉しいけれど、流氷が離れる時期にならないと春は来ないのですよ、という言葉を思い出しました。春の兆し、春たけなわ、それがいつ頃なのかは、地域によって違う事を体感するのは新鮮な驚きとも言えますね。外国に行ったら猶更驚く事が多いでしょう。風俗や習慣、歴史も言葉も、気候や食べ物も自分の国や地域とは異なる、となると、異なるという事ばかりが気になって理解する事が難しいように思います。でも、どこに暮らしていても、仲良く関わり合って幸せに笑顔で、という気持ちに変わりはないという事を体感する事が出来る旅というものは楽しく、素晴らしいものですね。今はインターネットによって今この瞬間に起きている事を知る事が出来ます。それだから人の気持ちを推し量る事が容易で、ストレートに他者を理解出来るというものではない事を日々のニュースで感じさせられますし、情報から何を考え、感じ取って行けるか、咀嚼する力は、私自身も不足していると思う事があり、考えさせられる事もしばしばです。

2月13日、公式通りでない世の中に

戦後というものはない、次の戦争の戦前、歴史の中ではいつもそうだった、という新聞の一節を思い出します。ソ連崩壊の後、どのような世の中になるのか想像がつきませんでしたが、自由とか人権とかいうものが責任を持ちながら大切にされるようになると良いと思いました。ところが、二十一世紀になったというのに、強引に世の中を時代に逆行させようとしているかのような世界になって戦争が続いています。多くの人がそれを望まないのに容易に止める事が出来ず、へその緒の付いた赤ん坊の命まで失われ続けているのです。この無秩序とも思える人間社会はこれからどのようになって行くのか、私には想像がつきません。恐ろしい事だと思いますけれど、永遠に変わらない世の中などと言うものがない事もまた周知の事実です。寒い朝、霜柱をザクッザクッと踏んで歩く足音はスニーカーの靴音なのかも知れませんが、私には軍靴の音が近づいて来るように感じられるのです。経済的な問題や、停滞が続く未知の感染症の蔓延に不安を感じる、そういう時に、外敵を作って人の目をそちらに向けようとする事がまるで公式のように存在していますね。その例がスペイン風邪の後の第一次世界大戦の勃発だったのですから、不安要因があるという事を胸に抱えながらの毎日です。

2月9日、ニ十分の鍋と氷点

テレビの番組で、十五分あるいはニ十分で何種類の料理が出来るかとか、献立を立て、効率よく作る方法など紹介しているものを時折見る事があります。でも、それは前日にあらかじめ野菜を刻んで下茹でしておくなどと言う事が出来ていないと短時間で料理は出来上がりません。例えば、鍋が沸騰したら弱火にして十五分間煮る、それでは十五分煮たものを見てみましょう、などと言う場面もあります。十五分間に特別何もしないのでしょうけれど、時々鍋のふたを開けて竹串で刺して煮え具合を見るとか、水を足すなどと言う事が必要になる場合もあると思うのです。ですから、私には一番見てみたかった十五分間や二十分間の鍋の様子を見る料理の先生の手元と、時折開けた鍋の中が見られなくてがっかりする事が多いのです。それは何も鍋の中に限った事ではありません。怪我をしていなければ、糠床も素手でかき混ぜないと感触が今一つ分かりません。夏に、微かに果物のような甘い匂いがする糠床だと感じた時には水を出してしまって塩や鷹の爪などを足してよくかき混ぜておかないと糠床が痛んでしまいます。見た目だけでなく、匂いや感触でおかしいと感じた時には迅速に適切な対応をする事が必要です。また、学ぶ事の内容によっては、座学でメモを取るだけでは分からない事が多くあるので実習で経験する事が同じくらい大切ですね。研鑽を積む事に終わりはないのです。カウンセリングの場合も、しっかりと学んだ事ではあっても、歳月の積み重ねが、生半可の経験値から二十分後の鍋を見るようになってはいないかと自分を省みる事が大切なのだ、と気持ちの引き締まる思いのコロナ禍の日々です。私は初心を今も忘れてはいないだろうか、いい加減に他者の話を聴くのなら相手の為にならないので続ける事は出来ない、そのように思っています。ふと、重なって来たのが、病んで入退院を繰り返していた母が亡くなって、人間はどこから来てどこに行くのかという疑問で頭の中が一杯になっていた頃の自分です。ある日書店で三浦綾子さんの氷点計四冊を買って一気に読んだのです。まるで本が、今この本を読む時だと私に近づいて来たような出会いでした。その小説の心理描写は非常に複雑なものでしたし、そこには、人間はどこから来てどこに行くのかなどと言う問いには一行も答えられてはいなかったのにも関わらず、それから私は三浦さんの本を読める限り読みました。どこか不器用に感じられる人間というものの奥深く、登場人物それぞれの背骨に寄り添い辿ってその心の奥深くを、生き方を、描いた作品の数々は、今までに読んだどのような小説とも違う魅力があり、自分を含めた人間というものを深く考えさせられました。あの時の私と、ニ十分の間の鍋の中を決してぞんざいに扱わないようにと改めて思った私には通じるところがあるように思うのです。

2月4日、譲り合い入れ替わる

冬至になると日の入りが幾分遅くなったように感じ、新年が近い事を実感します。大寒は寒さの底、立春までは一番寒さを感じる、と言うだけではないように思います。勿論立春も暦の上の事ですし、新暦だとずれているように感じます。でも、それだけでなく、大寒頃の桜並木は幹が淡いグレーにピンク色が混ざっているようで、光沢もあり、新芽が微かに見えないでしょうか。僅かな光の変化を木々が感じ取って敏感に反応していると言いますか、着実に花の季節に向けての準備をしているように思えるのです。それは、立秋になって法師蝉や蜩の声に秋を感じ、一番暑い時期なのに、もうガラスの風鈴や白く袖のないワンピース、かき氷といったものの季節ではなくなったように感じる事とも似ています。立秋には、陰に隠れていた秋の色や音が少しずつ大きくなって来たように感じられ、大寒には立春が近い事を感じさせる春めく光が感じられる、四季がはっきりしている日本というよりも、私はこの、微妙に入り混じり、入れ替わって行く、まるで互いに気を使い合いながら季節が動いて行くグラデーションの変化の様は、あうんの呼吸とでもいうようで、四季を持つ国や地域の真骨頂だと思っています。

1月30日、仮縫いされたもの

偏西風の蛇行は地球の気候に大きな変化をもたらすという事を今更ながら感じます。年末からヨーロッパでは偏西風が、この時期にしては南に下がるような流れになっている為に温かい空気が入って来て、スイスで20度近くまで気温が上がる、他の国々も気温が上がったり、スペインでは雨の多い地域で晴れる日が多くなって海で泳いでいる人もいるという反面、中東では暴風雨で道路が冠水、カリフォルニアではハリケーンに備えなくてはならない事態となっている、アメリカ東部では大雪低温の年越しでした。日本も雪と寒さの大きな影響を受けたクリスマスシーズンでしたね。地球は宇宙の中の一つの星なので気候変動の解析は様々な側面からの研究が必要になるのでしょう。でも、変化が速く、ついて行けません。受け入れる前の心の準備とか、考えて咀嚼する事など出来ないままに押し流されているような有様です。圧倒され、何とか対応して生活を、という事に大変なエネルギーを使っているように感じます。気候や置かれている状況に何が出来るのか不安を抱えて始まった2023年ですが、年々こういう思いが強くなっています。そんな事を思っていますと気になるのが、体調に問題を感じ、色々検査を受けた何年か前の事です。余命と唐突に向き合ったような気がしたあの時、私に不意に近寄って来た帽子を被った男性に親しみを感じましたし、とても気さくな人柄に思えて私は警戒心を抱く事はありませんでした。彼は私の肩を叩き私の顔をひょいと覗き込むようにして、やあ、こんにちは、と言ったのです。それは突然私に近づいて来た、死を告げると言いますか、もたらす者だったのです。死に近づいて行くのではなく、あちらから私に唐突に近づいて来た、そのような気がしました。彼の目はとても印象に残る目でした。人懐こそうで優しそう、輝いている目は決して譲歩しないつもりらしい、いくらか悲しそうなのは自分が声をかけた人に良くない事を伝えるからなのか、などと、次から次へと、この浮かんできたイメージの人物に、感じるというより感覚で理解したような、不思議な、短い時間でした。感情というものの入っていない、ありのままのこの人物のその時の様子や気持ちを私の目がレンズのように捉え、そのありのままを、今も記録したページを開くようにして見てここにお話ししているのです。紳士が手紙を配達に来た、という瞬間でしたね。病院で検査を幾つも受け、命にかかわる病気ではない事が分かって今もこうして生きているのですが、あのイメージは本当に不思議でした。そして今まで生きて来る事が出来た事、多くの人に育てられ、生かされた事に感謝の気持ちを表して旅立ちたいものだ、そう思える事も不思議でした。私はそんなに素直な人間ではないのですから。まして、道を行く母親と小さな女の子に出会った時、この人達は私がいなくなった後も多分生きて行くのだろうが、どうか元気で幸せでいて欲しい、今日私に出会ってくれてありがとう、そんな気持ちになるなどとは想像した事もありませんでした。あの時の気持ちはどのプロセスでも、私は喜んでいた、嬉しいという気持ちが根底にあったような気がします。生まれて来て育てられ、年を重ねて病み、この世界から旅立って行く一生というものを、大雑把に仮縫いしたような姿に仕立て、私に垣間見せてくれたのです。それは、何かの理論を紙に書いて矢印など使って説明しても分からない事、三次元で体感させてもらったから自分がどう対応するか、どう反応するのかが分かって、今もその確かな余韻が残っている、まるで一時的に別の世界に行って来たような、貴重な体験でした。生まれ、生き、そしてまたどこかへ移行して行くように思えるのは、イメージの中とは言え、このような人物と、命がどうなるかと考えざるを得ない時に向き合ったからなのだと思います。この体験は体感なのですから説明するのは非常に難しくて多分不十分な、読みにくい物である事をお詫び申し上げます。この時の自分の心のプロセスは、今はまだ深く理解する手がかりが見つかりませんが、いつか知りたい、自分のあの不思議な、私の知っている自分ではないような自分、内なる自己の扉を叩いて、今年は対話してみたいですね。

1月25日、杏色は春を待つ色

マイナス3℃の朝、明け方まで吹いていた風と底冷えのするこの寒さに、水仙の蕾は凍りつきそうでした。俯いているような表情が、まるで親に叱られて家に入りづらい子供のように見えたので、すぐに切って花瓶に挿しました。以前見た、耳の痛くなるような冷たい空気の紋別の青空を思い出します。青いサングラス越しに見たような空の青さでした。雪の降るまちよりも凍てついた道東の空気と流氷は忘れられない世界です。司馬遼太郎さんの街道を行く、の中そのものでした。私は、2日ほど前にホームセンターでストックを買いました。プランターに植えて数日は寒さに慣れるよう、夕方から朝の気温が低い時間帯は玄関の土間に入れ、徐々に外に出す時間を長くする事にしました。淡い杏色のオレンジ系の花とクリーム色の花の二色が咲き始めて、夜は一足早く春が来たような香りが土間に漂います。杏系やクリーム色のストックの花にはブロンズ色の花瓶が合うように感じます。少し古くなった壁の昔の作りの家に茜色や錆朱のカバーの座布団が良く似合い、白や紫のストックは冬ですが緑色のガラスの花瓶と似合うと思います。そしてそれは紫系の座布団カバー、真っ白な新しい壁の、モダンな家に似合いそうです。私は、茜染めと紫紺染めの、パッと目に飛び込んでくるような美しいクッションカバーが目に浮かんで来ました。赤という色は一見派手というイメージがありますが、どのような赤なのかでその印象は微妙に変わりますね。ショッキングピンクなどと違う錆朱は茶系の赤なのでしっとり落ち着いた雰囲気でシックなブロンズの花瓶の中の淡いオレンジとクリームの控え目に咲くストックを引き立てます。まるで、古い家にあるこれらを静かに調和させ引き立てている要のよう、割烹着をかけた母親のような、静かで温かいまなざしの座布団カバー、そのように感じます。濃い紫は意外に派手な目立つ色だというのも、実際に自分の目で見て初めて気付いた事です。若い活発な美しいお母さんの微笑みのように明るく、躍動的にさえ感じられる紫紺染めの座布団カバー、それが良く似合う新しい家に住むのはこれからこの家庭をどのような色に染めあげて行くのか、未知の部分の多い、小さな子供のいる家族なのかも知れない、こんな事を思いました。まだ雪の幾らか残る北上川を見ながら盛岡の草柴堂という染物屋さんに吸い込まれるように入って行ったのはもう随分前の事です。コロナ禍では媒介も考えなくてはならず、今は出来ない事です。コロナの治療ができる病院が増えれば、病院でのクラスターの発生も増えるのではないか、病人や高齢者の安全を考えながら経済をどのように回復させたら良いのか、とても難しい事だと思います。ウイルスが安全になったわけでも、ワクチンや治療薬が万全の物になったわけでもないのですから。折しも、インターネットを様々な犯罪に利用しているらしい、という事から一人の方の命が奪われたというニュースに、言いようのない気持ちを抱えてしまう事になりました。ストックの苗を買い、南房総はストックやキンセン花などが沢山咲く畑で二月には花摘みが出来る事を思い、こんなにも美しく一足早い春を感じさせる花も、恐ろしいニュースの報じられる今の世の中の現実に私達と共に曝されているように思えて、痛々しさを感じずにはいられません。

1月20日、自転車に乗って

今年も、七草なずな唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先に、曾祖母がそう言いながら七草を叩き、七草粥を作ったのだ、と思いながら私も作りました。庶民でも江戸の武家文化の影響から、松の内に包丁で物を切る事は避けたのでしょう。ですから、子供の頃この辺りのお雑煮の具である大根と里芋を、大みそかにあらかじめ切っておく事が不思議でしたけれど、これも切る事を避けるためだったのだと思います。母は、よほどそのようなお菓子を好むお宅に伺う時以外は、お正月には竿物のお菓子をお年始に伺う時にお持ちするのは避けた方が良い、と言っていました。竿物菓子は切り分けるからなのですね。よく思い出すのは今から五十数年前の事です。その頃菩提寺のご住職様は毎月檀家を回ってお経をあげて下さっていました。いつも自転車に乗ってお見えになるのですが、以前にもお話ししましたように薄い灰色の鼻緒の下駄でした。室内にお入りになる時に、足袋を白足袋に履き替えられるのです。その無駄のない所作、そして夏には白いお召し物とその上に重ねた墨染の衣とがご住職様の動きによって揺れた時の不思議な美しさがとても印象に残っています。何となく偉い方に見えたものです。色々とお話を伺いたかったのにご挨拶しか出来なくて残念に思っています。子供はあちらに行っていなさい、と言われるので大人の話の近くにいる事はありませんでしたから。今お寺はこのご住職様のお孫さんの代です。私はあの方にお話を伺いたかったので、今は特別何かをお聞きしたいと思ってはいません。当時、お正月は四日に来て下さっていました。やはりお経をあげて下さり、その後十八畳の居間でお茶など召しあがって祖父と暫く話した後にお帰りになるのですが、その頃はもう日も暮れ、大分暗くなっていたように思います。茅葺屋根の家の外には曽祖父の名前の表札がそのまま残っていて、縁側を照らす丸い大きな外灯の下で、ご住職様はいつもニコニコとして自転車に乗ってお帰りになりました。私は、お正月や季節の変わり目、春の宵などになりますと、今もあのご住職様は自転車に乗って檀家を回っていらっしゃるような気がするのです。のどかな時代の大切な懐かしい思い出です。

1月15日、構造と子供の心

静岡県の保育園で一歳児への虐待があり、保育士が逮捕されたという報道に驚きましたが、もう随分前の事だと感じられる方もいらっしゃるだろうと思います。驚くような事件が次々と起こるからです。コロナ禍で仕事が増えたストレスというのは確かにあると思います。ですが一歳児に対してこのような事が行われていたというのはやはり信じがたいという気持ちにもなります。この子供達と、見ていた他の子供達は恐怖を感じ、心の傷は今も残っている筈、私もやり切れない思いです。まだ全貌が分かっているわけではないのであまり憶測で物を言う事は出来ませんが、全国の他の園でも似通った事が起きている可能性があるのではないかと思います。他者の事は世間は段々忘れて行くかも知れませんけれど、当事者である子供にとってはそうは行かないのです。コロナ禍や戦争の影響は大きく、大人達は今までよりいっそう神経を使って働き、生活しており、物の値段が上がり、雇用の先行きは不透明で不安定、社会がこのようですと、大人がギリギリの所で生きていて心にもそうゆとりがないという事になりやすいですね。しわ寄せは子供に行きがちで、迅速できめ細やかな対応が必要なのは多分誰もが分かっている事でしょう。しかし、昔から財政にゆとりがないと、まずすぐに利益の上がらない教育や福祉の改善が後回しにされて来たように思います。この構造を何とかしたい、そう思ってもではまず一人ひとりがどこからどうすれば良いのか、私には複雑そうでもあり、単純にも思えて、やはり変えて行く事の困難さを感じます。でも、一人ひとりが人を大切に、自分がされて嫌な事をせず、身近な所から心を込めての人との関わりをして行く事が大事なのではないかと思います。周りの人達へ注意深く、という事も見守る事になると思いますし、時には子供達への良くない関わりを変える事や抑止にもつながるように思える、こんな事しか言えませんけれど、大きなことというよりは、どこでも起こりうることが今回起きたという認識を持ち、まず身近な所からもう一度ゆっくり見て、関わり方を考えながら行動して行きたいものです。子供を預ける側は、園の子供のへの対応を考えると要望や不満は言いにくいという側面がある事も事実だと思います。それでも、子供のもの言いたげな目、いつもと違って伏し目がち、寂しそう、こんな時には抱きしめてあげて下さい。話し出すきっかけになるでしょうから。

1月10日、生きる事の先には

自分がある物体を見ていると、その物体そのものと自分の目で見ている物体の両方がある事になる、と聞くと随分難しい事のように思えて、片手間に考えられる事ではないなと思った事があります。科学なのかも知れませんが、哲学的だと感じて心に残っています。ところで、死について話す事はタブーと思っている人が多いようです。何故でしょうか。怖いから、未知だから、そのような理由なのでしょうか。テレビを見ていると、宣伝の大半は若く元気でいられるというようなサプリメント、保険、葬儀についてのプランなどで、見ているこちらが圧倒されます。若い人向けのものではないですね。生活の質を保って生きる事を願う事は自然な事だと思いますし、生きていたいという事は何かやりたい事があるからだと思います。希望、執着、数えてみるときりがない、そう思います。あの人よりはましだ、と言う事で、あの人の置かれた状況とその中で懸命に生きているあの人を見習うとか助け合うというのでなく、承認欲求が満たされていないなどの今の自分が優越感を持つ、その為のあの人よりはまし、という気持ちをひそかに持つ、などと言う事も人間にはあるのではないでしょうか。人間の心というものの大きさと深さは一体どれくらいなのでしょうね。また、束の間だからこそ惹かれる物の一つが花火です。線香花火の火の玉がポトリと落ちるまでじっと見ている事は見届けた終わりの寂しさと夏の終わりの始まりです。奇妙な虚脱感、そう思った事はないでしょうか。人間は、いつか旅立って行くという事は動かしがたい事です。私は死についてどのように考えているのかを友人と話し合ってみたいと思う時があります。それはどのような葬儀を望むかなどという事ではなく、死をどう考えているのか、という心の問題として、という事なのですが、ほとんど話す機会がありません。まだ先の事だしお互い元気でいましょう、そういう返事は、向き合いたくない事だからでしょう。死生観のようなものがあり、具体化して来るものがその中にあると思うのが年齢を重ねる事だと思うのです。別に今絶望のどん底にいて死にたいと思っているから話し合いたいのではありませんが、人にそれはなかなか通じない事のように思います。生きている自分が年を取って行く事は、変化の速い世の中から取り残されて行くと感じる場合もあるでしょう。それは悲しみや怒りの元になりうる事です。過ぎて来た経験した出来事や時代そのものが懐かしく感じられる、それはほろ苦いものにも美味しさを感じる年齢になって初めて気付く事だと思います。固いけれど噛みしめると味わい深い物を美味しいと感じる事も同じなのでは、と思います。私には行く先にあるものはまだ分からない事ばかりのようです。ある人が認知症になり、自宅を離れて暮らしているうちに、子供が先に亡くなり、その認知症の人は子供の死を聞いた後、その子の事を全く話さなくなったと聞きました。私はこの人が子供の死と直面し悲しむ事があまりにも辛いので、記憶の奥へ押しやるようにしてしまったのだと思いました。それはその情報を忘れる事であり、子供の事を忘れる事ではないのです。子供は元気なままでこの人の心の中で生きているのでしょう。私は胸が一杯になり彼女の事を抱きしめてあげたいような気持になりました。人間は、認知症がどんなに進んでも、もし意識がなくても生きている限り最後まで人間なのです。温かい心を持って存在している、だから関わる時には自分も出来るだけ心を込めて温かく、相手の方の尊厳を大切に、私はこの話を聴いてそう思ったのでした。勿論介護や看病の大変さは経験した人でなければ分からないという事も事実でしょう。でも、看病した辛さもさることながら、看病するいとまもなく亡くなられるという場合も家族にとっては辛いものですね。

1月5日、大根の歯触りに

年末には、例年通りスーパーに正月用品が並びました。北陸で製造された練り製品も多く、大雪の中、製造され運ばれて来たのだと思うと、日常生活が例年通り遅れるのは当たり前の事ではなく、大勢の人達のお陰だとしみじみ思います。クリスマス前からの大雪は、北極の負の振動というものの影響なのですね。北極付近の気圧が中緯度の気圧より高くなって起きる、それは北極が冷たい息を吐きだし、それが日本にもやって来たという事で、寒に入ってからが気になります。暴風雪では停電が心配ですし、雪が積もっていて気温が急に上がると雪崩も気になります。ある小説の中で、離島に住む登場人物が、台風や雪の季節が過ぎないと空も海もつれない、そう言っていた事を思い出しました。今では陸でも同じ事が起きやすくなっているのですね。今ロシアは、始めた戦争をまだ終わらせる方向が見えないようですが、私は外国文学はロシアの重い読み応えのあるものをよく読みました。社会主義になる前の、大多数のごく普通の国民が苦しい生活をしており、不平等と感じる事も多かったであろう頃に書かれた文学作品の方が、珠玉の名作とされ、今も残り読み継がれているのは何故なのでしょうか。罪と罰という作品がありますが、罪とどう向き合うか償うかは被害の回復が完全になされるかどうかという事と共に、非常に難しい事であると思います。それは私がずっと昔、罪と罰を読んだ時から答えの出ない事なのです。中学生になってから、有吉佐和子や太宰治の文庫本をよく読みました。思春期だから、太宰治の驚くような、ある意味破滅に至るような作品に惹かれるのよね、文学少女だったのでしょうね、そう言われて何とも言えない嫌な気持ちになった事があります。価値観は育った時代や家庭の影響をうけますから、その年頃はそういうものだと簡単に言ってはいけないと感じました。私は、この二人の作家と家制度というものが気になって惹かれたのだと思うのです。家制度は戦後なくなった筈ですが、目に見えない家制度の名残りが色濃く感じられ、中高校生の頃の私は反発を感じていたのです。何故今になっても、という気持ちでしたから、この二人の作家の作品に触れてみたくなったのだと思います。夢見る夢子さんではありませんでしたし、ノンフィクションの本や科学のようなジャンルも含めて好きでした。ですからそれは、カウンセリングの中でクライエントが自分の価値観や気持ちを話してくれた時、簡単に分かったつもりになってはいけないという事でもあります。よく聴いてみないと、あのこともこのことも全部が、私が理解できたと思った事の間違った積み重ねになってしまいかねないからです。それでは雑で、傾聴とは言えません。あれこれ振り返っている時、大根を頂きました。掘ったばかりの凍った大根は、厚く切って長時間煮ても残っているシャリシャリとした歯触りが小気味よく美味しく感じられ、久しぶりに、重い社会の在り様に八方塞がりだとばかり思っていたところから、私の意識が離れる事が出来たような気がしました。雲の切れ間は自分次第という事なのでしょうか。凍った大根に私の気持ちは溶かされたようです。

1月1日、寒月を聴く

お正月気分とは程遠いお正月を迎えました。戦争、北朝鮮によるミサイル発射、コロナ禍、どれも年末年始など関係がありません。それでも、音楽を少し聞きました。新春というと箏や三味線の曲、能、狂言のように思っていましたが、今年は尺八だけでの演奏を聞く機会がありました。私は尺八はもの悲しい、うら寂しい、そういう気がして子供の頃あまり好きではありませんでした。でも、今年寒月という曲を聞いて引きこまれてしまいました。寒い季節、花を咲かせる一輪の梅という、今ある冷たさと、温かさへ導いて行く花が対照的であり、季節のさきがけの梅一輪の凛とした美しさがゆっくりと、凍っているような寒気の壁に小さく鋭い穴を開けたように感じられました。清々しい希望は梅であり、しかし寒さや冷たさの中で生き、育って行くという事でもあるという構図、そしてそれがやがて春になって行くのは季節の綱引きのようでもありました。ですから曲の奥行があり、景色の中を私の目が前後左右に動いて、広く見ているようで、とても不思議な魅力のある曲でした。江戸時代に出家した人は現世の人間関係の縁を断ってただ一人修行に励むのだと聞きました。犀の角の如く唯一人行くべし、犀角経というお経の教えはそのような部分があるのだと聞いた事を幾らか覚えています。この寒月という曲にはそれを感じさせるものがあるような気がします。初めて垣間見た尺八の世界は、昔の城下町の、今も作られているその土地ならではの味噌を口に入れた瞬間のようで、昔の人の暮らしや喜怒哀楽が凝縮されている、味噌は口の中で生きて動き、私に語り掛けてくれている、その味噌とよく似た、尺八の演奏から見え、聴こえて広がって行く曲の世界に暫く入り込んだままで過ごした元日の朝でした。見渡せば花も紅葉もなかりけり裏の苫屋の秋の夕暮れ、という歌の、晩秋の粗末な住まいの様子に、侘び寂びの極致だと感じたあの雰囲気が、やはりこの曲にも感じられ、煎じ詰めれば生きている事の自由と孤独を思って、それがしみじみと愛おしく感じられました。この無秩序になっている二十一世紀の地球に生きている私にさえ。

12月31日、オレンジの糸

干し柿の季節です。ラニーニャ現象の影響でこの冬は里雪型になりそうだそうですね。日本国内で雪が降り積もっている映像に寒いだけではなく、さぞ大変だろうと思います。ですから遥か遠くの北の地ウクライナでライフラインが切断されているというのはいかばかりだろうと重い気持ちになります。スーパーなどに干し柿が並ぶようになって年の瀬を感じ、中でもあんぽ柿は震災、原発事故で避難していらっしゃる方が遠く離れた場所でどのような思いで日々暮らしていらっしゃるだろうかと、毎年思います。高齢者にとって、住み慣れた地から全く違う環境の場所へ移り、新しい生活に慣れて行く事は困難な事であると思います。店に並ぶあんぽ柿は故郷からの温かい手紙なのでしょうか。尽きる事のない悲しみを抱えた心の上に一枚コートを着るようにして暮らしている方も多いと思います。その様々な感情が蘇ってくるかも知れませんが、やはり故郷の季節の産物には限りない愛着、懐かしさがあるのでは、と思います。ずっと昔から様々な場所で生きて来た人間の思いは、出来なかった事、やり残した事など含めて、糸を紡いで行くようにごく自然に次の世代、その次の世代へと受け継がれて来て、これからも続いて行くのだと思います。オレンジ色のあんぽ柿を細い糸にして過去から現在へ、現在から未来へと、生きて来た人間の思いをつなげて行きたいですね。私も祖父に好きだったあんぽ柿を食べて欲しくて一袋買いました。今年も今日一日限り、もうすぐ今この瞬間も去年という過去になるのが当たり前というより、私には不思議な事と感じられます。今年もこのページを読んで下さってありがとうございました。皆様来年もどうぞ心身を大切になさって下さい。

12月28日、寄り添う黄葉

朝カーテンを開けて、さぎり消ゆる湊江の舟に白し朝の霜、という歌詞の歌、冬景色を思わず口ずさんでしまいました。庭は霜で真っ白、太い幹から枝を横に伸ばしている黄葉した藤の葉が、朝日の中ではらはらと散って行きます。桐一葉日当たりながら落ちにけりという高浜虚子の句を思い出しましたが、同じ落葉樹でも桐の葉と藤の葉の散る様子は葉も木の姿も違うのだから比べようもないのでしょう。坪内逍遥が片桐且元の言葉と言う、桐ひと葉落ちて天下の秋を知る、ここへと思いは続きます。すぐ先に来る豊臣家の凋落、滅亡をはっきりと感じとった且元の心中は如何ばかりであったろうと思います。苦しい事や辛い事を抱えている人を思い、その苦しみを分け持って涙を流すようにはらはらと散って行く庭の藤の葉、だから美しいと感じて見とれてしまったのかも知れません。温かいのは人間だけではないのですね。負の感情を分かち合い見つめてくれている存在はあちこちにいる、と強く感じた朝でした。

12月26日、大根を探しに

一年を振り返る時期になるといつも思います。今年私はどんな忘れ物を幾つして来たのだろうかと。流れ行く大根の葉の早さかな、という高浜虚子の句を思い出して、漬物にする大根を清冽で速い流れの水で洗っている光景が目に浮かびます。その時、今年後悔している事が幾つあったのか、それはいつなのかなどと考えます。どこにどの程度、傷つけて、折れてしまった大根を残して来たのか、それは大きな事や、些細な事色々です。取り返しのつかない事もありますが、年末になると、向きを変えてこのように歩いてみるのです。コロナ禍で戦争の影響もあり、ものの値上がりが激しいとなると、目に見えない世間の流れに流されているだけではなかっただろうか、などと、今年は苦い思いの強い一年でした。

12月21日、欧陽詢の風

ある朝、ふと思い出しました。高校生の時、書道の時間に、唐の王義之の書いた蘭亭序について習い、楷書のお手本にして文字を書いた事を。私は初唐の三大家の一人である欧陽詢の書いた文字が一番好きでした。虞世南の書いたものも嫌いではありませんでしたが、整っていてまねやすい文字のようでいて、迸るものを感じて引かれたのが欧陽詢の書風でした。継承だけではない新しい方向へ延びる芽のようなものを感じたから好んで手本にしたのです。でも、本当は欧陽詢がどのような人だったのか今も知りません。何故突然思い出したのかは分かりませんが、人間は自分で思っているよりも色々な事をつぶさに覚えているものだと驚きました。それから、次々に浮かんできた思い出の中の大切な節のようなものと向き合う事になりました。いつかお話しした、小さい頃好きだった水色のブラウスを、洗濯するからと言って別の物に着替えさせられるのが嫌で、着替えてから見た台所の脚付きのまな板が立てかけられている場所に向かい合わせになっている低い小さな椅子に座って周りを眺めた時の、突然見も知らない所に連れて来られたと感じるようなとてつもなく心細い不思議な気持ち、あの感覚を思い出したのです。あれは、好きだったブラウスを着ていると、少し大きめで季節にピッタリの材質で着心地が良かっただけではないと気付きました。あのブラウスを着る事で、自分が他者との言語非言語のコミュニケーションがスムーズになる、よりどころのないような不安な気持ちで、手探りで人と向き合わなくても良い、ブラウスが私の気持ちを安心させ安定させる、思考がちゃんと働きごく普通に振舞いやすくしてくれていた、そのような気がして来たのです。もう一人の自分、自分に寄り添い、リードしてくれていた翻訳家か通訳のような存在、そして自分の心の一番奥に寄り添っていてくれたようでもあり、他者と関わる時の、一番上にはおるコートのようでもあったのです。人の出入りの多い家で、人見知りではなく、人と話すのは好きだったのにもかかわらず、随分入念に他者とのコミュニケーションに備えていたようです。とても不思議なメカニズムだと思います。もう一つ、以前に見た夢にも似た場面があったのです。夢の中で私は誰かの軽井沢の別荘にいて、外出しようとしており、季節は晩夏らしく、真っ白な中くらいの太く安定したヒールの靴を履こうとしている。その靴はとても軽く、自分の足に白い色を塗ったかのように履き心地が良く、足裏をしっかりガードしてくれるような、安心して履いて歩けそうな靴である。履いた途端に靴が、貴方はいつも自分が靴を履いて好きな所へ行く、そう思っているかも知れないけれど、今日は私が貴方をいざなってあげる、彼女はそう言いました。この夢はとてもリアルで普段の私とは反対の行動をする私が真夜中に散策しながら安心して考え、振舞っているという、かなり深層への旅をしたような夢でしたが、内容についてこれ以上はお話ししません。自分でもまだはっきり分からない部分があるからでもあります。この夢の中のもの言う靴と、小さい時好きだった水色のブラウスには共通点がある事に気付きました。ところで、私は夕暮れ時の、田畑の多い内房線の当時の線路を走っている列車から突然放り出されたらどれほど怖く、不安だろうと思う事がありました。そのような場所の多い沿線の風景をよく覚えているのです。人の姿もなく、家々は点在しているから怖ろしく、不安に感じたのでしょう。家庭内で時折いざこざがありますと、子供は嫌なものです。険悪な雰囲気になった室内から、自分の一番内側を出し、後手に扉を閉めたような感覚をかすかに覚えています。どれほど恐ろしく不安に感じるのか想像もつかないほどの場所でさえ、こんな雰囲気の家の中にいるよりも自分の心の奥を傷つけないで済むと無意識に思って、あの、人のいない夕暮れ時の線路沿いの場所へと自分の心の一番奥を避難させたように思えて、非常に驚きました。まるで切断されていた回線が突然つながったかのようなこの状態に、私は暫く呆然としていました。それほど重大で緊迫したいざこざではなく、勿論頻繁ではなかったのですが、そのような事は大きく深く心に残っています。自分を守る為に懸命に考え動いた自分、それは四歳前後の事だった筈です。家庭内が険悪になると、関係ないような顔をし、一見ケロッとして遊ぶ子もいますが、それはその子が自分の中にこもって外界と遮断し、見聞きしないようにしているのです。私はそんな時にはハラハラしながら緻密に考えて振舞っていたのだと思います。子供が家庭内のいざこざに胸を痛めているのは、今も昔も同じですね。この日は、私が記憶の未消化の節へといざなわれ、向き合ったような、とても不思議な日でした。自己の深層への旅、そして自己洞察は生きて意識のある限り、尽きないのだと思います。欧陽詢の、斬新で大胆な風が吹いた一日でした。

12月16日、伝えるは繋がる

東京で洋家具店を営んでいた家に生まれた曾祖母が子供の頃、それは明治の初めです。髪結い床や銭湯には人が多く集まったそうです。その中には警察官もいて、当時の巡査だった人の中には江戸時代の奉行所の同心だった人達が少なくなかった、その人達は明治維新と言わず幕府の瓦解という言葉を使っていて、今に見ておれ、そう言っていたと聞きました。随分昔の事です。でも、その頃の東京にこの人達は紛れもなく生きていたのです。その思いは余韻のように今につながっているような気がします。別に戦って嘗ての時代に戻そうという事ではないけれども、いつの時代も色々な人達が喜びや悲しみ、希望を持って生きていたというその生の声に触れる事が出来たように私には感じられるのです。懐かしいような、慈しみ合いたいような、人間はいつでもどこでもある部分は同じだと思えて、人間の心の奥深くの根源に遡ってみたい気持ちになります。真夏に八王子に行った時、あまり暑いので驚きましたが、遠くに山々が見え、武田家の家臣だった人達が八王子で農業に従事し、いざという時は甲州口の守りに、という家康の考えで、ここで生きてきた、田畑を耕し、子孫に学問や剣術を教えて来たのです。武士の埃を、家康もこの人達も何より大切に守り、伝えて来たのでしょう。今もこの人達の子孫も住んでいるであろうこの町の駅に降り立った時、八王子千人同心の町であるという歴史の事実が私の胸に迫って来ました。私は、いくら暑くても寒くても背筋を伸ばして歩かなくては、としみじみ思ったのでした。それが自分の気持ちであり、先人への敬意と礼儀であると思ったからです。いつかもお話しした、もう何年も前の事です。今を未来に繋いで行くのは、小さな一人である私も同じです。まず今日という日を、世の中に翻弄されるばかりでなく心して生きたいものですね。

12月6日、紅葉

南関東は暖かいので、晩秋から初冬にかけてが、紅葉の美しい季節です。東北などの紅葉の映像を見ますと、この辺りとは違って色が深く、赤や黄、オレンジと、何とも言えない美しさですね。真っ赤に紅葉した木の葉が散る寸前、夕焼けの中で照り輝くように自己主張しているようでした。命の限りと言いますか、命が燃えているようです。自分のありのままの姿を見せてくれた、それは自分に厳しく他者に優しいとも感じられ、間もなく散る事を知っているとはいえ、生き抜く事の生々しさも伝わって来て、日が暮れてからも見つめていたいと思う反面、見ていられないほどの痛々しささえ感じさせるものでした。喧噪の中で遠くを見つめ、自由で孤独な心の部分を持ち、思索する思春期の少年少女のような真っ赤に紅葉した葉は自分をまっすぐに見つめる澄んだ目を持っているかのようです。物事を見つめ、その本質を理解し明らかにする、という意味の諦念という言葉も当てはまるような不思議な、私と紅葉した葉との時間だったように思います。一期一会の出会い、非言語の交流は、目に焼き付いて忘れかねるものです。歳を重ねるにつれて、間もなく散る紅葉した木の葉との出会いに心が揺さぶられ、一番美しい瞬間は短く、間もなく散る事が儚い、残念だと思えてなりません。それはその木にとって毎年の事なのですから、長い目で見ると、私の感じ方は紅葉の一面しかとらえていないという事になるのでしょう。ですが、やはりそのように感じるのです。暖かいこの辺りも、今年も紅葉の季節になりました。コロナ禍で遠くに行く事は出来ませんけれどこの世のものとは思えないほど美しいがゆえに魅了される色付いた落葉樹と向き合ってその声を聴き、たとえ短い時間ではあっても、ただただ共に居たいと思っています。私ももう夕暮れの中にいるのです。紅葉したもみじは、木が燃えるように真っ赤に見えますが、一枚一枚の葉が水に包まれているかのように感じられるのは、それぞれが、命が最も輝き、そして散る時が微妙に違う事を知っていて、他の葉に火が燃え移らないように覚悟して、自分の命の瀬戸際まで人間を魅了するような美しさでじっと一人で立っているように見えるからなのでしょう。その覚悟は私にも持てるでしょうか。庭の楓は、緑、黄色、オレンジ、赤が一本の木に入り混じって日々紅葉がそれぞれの葉の速度で変化し、生きています。それは、命の限り生きてやがて散って行く葉っぱのフレディです。パレットに出して並べたどんな色の絵の具よりも、自然体で命の尽きるまで様々な人生の色を見せてくれる楓の紅葉の方が、私には美しく思われてなりません。今年も、紅葉の他者への慈愛に満ちた眼差しに胸が一杯になりました。

12月1日、今年のリンゴも良いリンゴ

学生時代、間口の広いサンドウィッチ屋さんがありました。大学に行く途中のこの店の前を歩いている時、研究室の助手さんだった女性が定期券を落としました。私が拾って渡し、彼女がありがとうと言って受け取った、別に特別変わった事ではありません。その時、毎朝乗るご自宅の最寄り駅が漢字三文字だった事は記憶に残りましたが、それは覚えておこうと思ったわけではなく自然に目に入ったからそのまま記憶されていただけの事だったのです。それから二十六年後、彼女が亡くなった事を知り、弔問に伺う時にこの駅名が役に立つ事になろうとは夢にも思いませんでした。私の卒業後もお付き合いは続いていましたが、訃報は私には突然でした。真面目にコツコツと仕事をして、グチや悪口を言わない人で、明るく優しい思慮深い人でした。言わなかった事が多かったのかも知れず、ストレスもあっただろうと思います。自分で考え、どのようにして行くかは自分で決め、前向きだった、今はそう思います。奥の深い、人間の心の奥には自分でも気づかない部分がありますが、自分への気付きが増えて行くと人間が大きくなって奥行きも以前よりある人になって行くように思います。私がそのように感じるだけかも知れませんけれど。私は彼女の優しい微笑みを思い出しますと、無言であった部分が思われます。無言は最も重く、雄弁です。今年もあれこれ、尊敬するお姉さんだったような彼女のその時々の心を思って、御命日を過ごしました。いつか再会したい人の一人です。群馬の方だった彼女を思い出すリンゴ、ぐんま名月は話しかける私に黙って頷いてくれたように感じられました。今年のリンゴも良いリンゴです。

11月26日、有縁無縁

朝、仏壇にお線香をあげていると色々な人の顔が浮かんで来ます。不思議と、嫌な事があって苦手だった人、多くの人から敬遠されても仕方がなかったのでは、と私が思った人は、きっと思うように行かない事が多い人生だったのだろうから、魂というものがあるならば亡くなってから癒されていると良いのに、と思うのです。今頃になって親しみを感じます。でもそれで、本当に心の底からいつまでも憎むような特別な悪人というものが存在するのではなく、誰でも場合によっては悪い人と言われるようになる可能性があるのでは、と思うようになりました。育った環境の影響も、知らず知らずそれ以降の他者との関係の中に持ち込まれる事があります。小さい時に、仏壇に供えた水やお茶は下げてから流しに捨てるのではなく、無縁様に差し上げます、と心の中で言ってから庭にあけるように言われた、と以前にもお話ししました。仏教では有縁無縁の仏様と言いますが、この頃、人間には大勢の先祖がいて完全に辿る事は出来ないのですから皆ご縁のある人達だと感じています。自分と反対の性格の人にさえ懐かしさを感じるようになると、様々な面を持つ人間という存在に、自然体で向き合って行けそうに思えるのですが、実際にはどうでしょうか。誰でも自分の事だからこそ分からないという事があるのですからなかなか難しい事のようにも思います。毎年、ご縁のあった方々の御命日の多い十一月、十二月は一層あれこれ考えてしまいます。そして歳月と共にその人数も増えているのです。追憶の中の光景は風景も人も皆美しく、優しいものなのですね。ただ、過去の中に入ってずっとその方向へ歩き続けて行く事は出来ません。人間は現在から未来に向かって生かされている存在で、それが生きているという事です。生きている事、そしてその時間と空間、また、死ぬという事を医学的にだけではなく心を含めて考えて明確に説明する事は、非常に難しいと思います。レントゲンを撮ったような歴然とした証拠になるようなものを見せる事は出来ないのです。例えば、誰をも納得させるような人間の心の中を見せる事はほぼ不可能で、手がかりになるようなものは、研究や臨床の積み重ねから、今現在分かっていると言えるのではないでしょうか。ですから、どのように一人ひとりが考えるかという事になると思うのです。私は、今は移り変わりが速く、先が見えない世の中を手探りで生きているようで難しいと感じていますが、もしかしたら昔の人達もそんな風に思っていたのかも知れません。深く考えていると混迷は深まるばかりです。見上げると、のびのびと自由に何も思い煩うことなく、何の作為もなくただそこに自然にある、と感じられるような青空とそこに浮かぶ、刷毛でさあっと描いたような白く薄い雲、見事としか言いようがありません。まるで一枚の絵にしたいような生々しい本物の空が、胸に染み入るような昨日の午後でした。

11月21日、人間も頑張れ

ポーランドの、ウクライナとの国境近くの村にミサイルが撃ち込まれ、二人の方が亡くなったと報道されました。いつかこのような事が起きるのではないかという不安は、きっとウクライナとの国境近くに住む人達にあったのだろうと思います。それがロシアからのミサイルなのかウクライナの迎撃ミサイルなのか私には分かりません。でも、この被害を大きく捉えると戦火の拡大という事になりかねず、小さく捉えれば多くの命が失われたのではない、と考える事になるのではないでしょうか。一人の命を軽んじる事は自分とは違う考えの多くの人の命を軽んじる事につながります。適切な、等身大の事として重く受け止める事が必要なのではないかと思います。それは戦争を一刻も早く終わらせる事です。戦争をしていなければミサイルが着弾することなどありませんから。こんな事を考えながら猫を動物病院に予防接種に連れて行きました。ねこはできない、にんげんががんばれ、そのような張り紙がありました。それは感染症対策の事でした。でも、私は戦争をしている人間への、猫からの叱咤激励のように感じました。何とか暮らせれば猫は争わない、人間も見習って頑張れ、と家の猫も思っているのかも知れません。今という時代に生きている人間に、動物が警鐘を鳴らしているかのようですね。

11月16日、白い秋桜が一本

小菊の咲き始めた庭に、秋桜が一本だけまだ花をつけています。すっとまっすぐに立っているこの白い一本の秋桜と、毎朝向き合います。まるで、ガラス越しに私を見ている人と目が合ったようなこの秋桜が、何か意味ありげに感じられてならないからです。寒かった二月に始まったロシアの、ウクライナでの戦争はまだすぐには終わりそうもありませんね。電力やガス、水などの供給網を破壊したら攻撃が正当化されるというものではない事を知りながら他国を強引に自分の国に都合の良いようにしたいが為に、冬に向かっている中、このような攻撃をするなどという事が実際に行われている事に暗澹とした気持ちになります。どうする事も出来ないと思うと、焦燥感や様々な負の感情が沸き起こって来ます。赦しあわなければいけないよ、銃を持っていた人も誰かにそうさせられたのだろうから、と言っていた旧ユーゴスラビア内戦後の、クロアチアのまちドゥブロブニクのおばあさん、アゼルバイジャンとの紛争の後、ナゴルノカラバフの山々を見ながら隣人が敵となってしまった事を嘆いていたアルメニアのおばあさん、深く心に残っているこの方達の顔が目に浮かんで来ます。庭の秋桜、戦争をしている人間、私はこの一本の白い秋桜に真摯に向き合って、あれこれ問うてみたくなりました。それは、人間ではない存在だからこそ、この秋桜が、本音の対話をしたい相手、という事なのだと思います。

11月10日、家族だから

家族だからこそ本音を言える事が多いと思います。でも、心理的に近い家族というものだからこそ言いにくいという場合もあると思います。つい、言葉や口調が強いものになる事もあります。例えば、相手が病人であったら、あるいはおとなしくてあまり自己主張出来ない子供であったら、どうでしょうか。家族からだけはそのように言って欲しくないという思いがある場合もありますね。互いにある程度は甘える事が出来ますが、ご家庭によって千差万別です。心理的に近くても遠くても人間関係はちょっと気づかいをする事が必要、という場合があると感じます。

11月5日、おもて

お能で使われるお面の事をおもてと言いますが、あれを見ているととても不思議なものだと感じます。そんなに厚みのあるものではないのに、人間の心の中の複雑さと、奥深くにたどり着くまでの微妙で繊細な気持ちが幾重にも入り混じって重なっている様子が現われているように思えます。一番外側は、他者に見せている自分なのでしょう。そして、おもては見方や、演目、自分の心の状態などによって表情が違って見えるのです。般若というと怖いものと思いがちですが、その表情の奥に哀しみや恐れが感じられる時もありますし、優しそうな表情と思えるおもての心の奥に、冷たさや怖さが見え隠れしているように感じる時もありますから、つかみどころがないもののようにさえ思えます。比較的簡素な設えの舞台で演じられているお能は、主題が何か、とかそれを演じる人の骨格が、華やかな音楽や衣装でさほど飾られていないだけに、よく見えるので、素のまま、という一番奥が見えるようで好きなのです。そしてお能にはおもてが大きな役割を果たしているのだと思います。最近はラジオで聴く事ばかりであまり映像で見る機会がなくて残念です。

10月30日、秋桜の風

先日、新型コロナウイルスの四回目の予防接種に行って来ました。オミクロン株にも一定の効果があるという今回のワクチンの副反応は、だるさや接種した腕の痛みと痒みがありましたが、数日でどの症状も治まり、今までのワクチンよりソフトな副反応、と感じました。子供の頃の予防接種というと、学校で、熱など特別の事がなければ全員で、という時代で、インフルエンザと日本脳炎の予防接種は高校を卒業するまで続きました。しかし、小学六年生の時、クラスごとに会議室に行っての種痘のワクチン接種の時、椅子を動かして、金物で出来た椅子の脚の音が静かな会議室の中に響いたあの時が一番思い出されます。それは整然としているようでいて、不協和音と感じられる音として耳に残っているからなのです。椅子の脚を動かした時の音が、注射針や、病院の検査や治療に使われている機械の音を連想させ、集中治療室が思い出されます。そこは母が最期を迎えた場所でもありました。未だに辛い音を聞いた所だと、ハッとします。このところ、季節が急に進んだからか、訃報に接する事が多くなっています。朝、庭に出て花瓶に挿すために秋桜を切ろうとした時、静かに風が吹いて来ました。風に、ピンクや白の秋桜の花が柔らかく、いかにも優しそうに揺れました。その時私は、昔祖母が、亡くなった三毛猫を葬って花や水を供えようとしていた時の事を思い出しました。私もこの猫をとても可愛がっていましたので、悲しくていつまでも泣いていました。祖母は、いつまでも泣いていると猫は心が残って行くべきところに行く事が出来ない、涙が猫の身体にかかってはいけないよ、と言いました。きっと人が亡くなった時も同じようなのでしょう。ですが、私は人が亡くなった時に、泣いている人を慰める言葉がなかなか出て来ません。泣きたいだけ泣かせてあげたいと思うからです。ですから、ご遺族という言葉がどうしても言えないのです。三日位前までは、ご家族だったのですから。仏教では御香料などを包んだ時、御霊前と書きますが、以前は亡くなられて一年過ぎてからは御仏前と書く、という方が多かったのです。今は四十九日が過ぎると大抵の方が御仏前と書くようになって来ました。私はご家族のお気持ちを思うとそうしづらくて、御供、と書くようにしています。ご家族にとってはまだ喪中なので、急に仏様とは言いづらいのです。ですから出来るだけ労わる気持ちで寄り添いたいと思っています。言葉は意味が通じさえすればそれで良いというのでは、随分荒っぽい人間関係になりそうで私はそう出来ません。風の中の秋桜は、人の死が、噴水が噴き出すように心に蘇って来て圧倒され、身動き出来なくなっている私の肩に、背に、そっと触れてくれたように感じられました。金木犀の香りが漂い、どんぐりの実も落ち始め、秋は私を追い越すように深まって行きます。もうすぐ玉ねぎの苗を植える季節ですが、去年までは同じ頃苗を植えていた隣のおばさんが今年はもういらっしゃらないので、多分植える時は寂しさを感じると思います。白い紙の束にマッチがポトリと落ちて静かに燃え広がり、一番下まで燃えてしまって周りだけが残っている、そのような感覚、と言いますか、それが心の状態を説明するのにピッタリなイメージなのです。喪失の痛みは容易にひかず、完全な回復は難しいものですね。でも私自身の場合はそれで良いと思っています。

10月24日、本の世界

先日もお話ししましたが、私は子供の頃から本が好きでした。幼稚園で文字を習うまでの読み聞かせが、自分で読む事が出来るようになるとつまらなくなりました。自分のペースで、本の世界の中に入って行きたくなったので人に読んでもらう事を止めました。小学生になると、学校には図書館棟や低学年向けの本のある図書室、学級文庫などがあって読む本に事欠かなくなったのです。友達と遊具で遊ぶのも楽しく、本ばかり読んでいたわけではなかったのですが、それでも次々新しい本を手にするとその物語の世界に入って行く事が出来ますから、本を読む事が何よりの楽しみでした。文字を読んだり文章の意味を理解するのは難しい事ではなく、集中して読む、そしてまた次の本を選んで読み始めました。学級文庫の中に、六甲に遠足に行った話や、終バスの乗客と乗務員達の会話が書かれた本などよく覚えています。母には学校の出来事や友人と遊んだ事など、沢山話した覚えがあるのですが、どのような本を読んでどう思った、などという事は一言も話した覚えがないのです。この事だけ言わなかったのが不思議と言えば不思議です。多分、自分の中にもう一つできた部屋には人に入って欲しくなかったのではないでしょうか。想像する事は、本の中に入れば容易でそれが楽しみだったのだと思います。本を読むと世界が広がるというのは視野だけではなく、もう一つ心の奥行も出来る事になるのかも知れません。今も本は大好きで、最近は時々インターネットで購入しています。童話も、大人の、今の年齢で読むとまた違った側面から見えてくるものがあります。逆に変わっていない自分に気が付く事もあって楽しいものです。先日、どうぞのいすという絵本を読みました。自己の確立、自己主張が出来る、それが大人になる事と思いがちですが、日本では人との関係がうまく出来るのが大人になる事だという暗黙の了解がある様で、子供が育って行く時の本の種類や読み方は国によって違うものなのかどうか気になる所です。

10月19日、取り残されたとも思うのでは

ある時、高齢男性が訪問介護に訪れた女性ヘルパーの方と二人でいる、という場合に起こりがちな事について、役割分担をしてロールプレイをした事がありました。この男性がヘルパーの女性の身体を触る、という設定でした。私はくじ引きで役割を決める時、この高齢男性の役にだけはなりたくないと思いました。男性ではないのでこういう気持ちがよく分からないからです。ところが、私はそのような場合大抵、一番なりたくない役のくじを引いてしまうのです。その時もそうでした。そこに登場するのはこの二人のほかに男性の妻、ヘルパーの女性から相談を受ける主任ヘルパーの合計五人でした。私は女性ヘルパーの方の身体を触ったかどうか、触ったとしたら何故なのかを聞かれ、話し始めました。若い女性だという事もあるけれどヘルパーの方が、ここに来る途中の公園の桜が咲き始めていると言い、その言葉に対して妻が公園の周りの花や木などが少しずつ春らしくなってきた様子を話し、二人で、あの横丁の何々が、などと弾んだ声での会話が続いていたのを聞いているうちに、自分は今一人でそこまで行く事が出来ない、もう長くそういう状態であるし、いつ、以前のように自由に一人で行動できるようになるのか分からない、そのように思えて来て、一人だけ取り残されたような気持ちになった事も、ヘルパーさんを触った理由の一つ、根っこにはそういう気持ちもあった、そう言ったのです。取り残され不安が根底にある、人の気持ちは深く見て行けば見て行くほど複雑なグラデーションがあるのだと思っていたものですから。こういう事を言った人は初めてだ、そのような視点もあるのね、と、その講座の講師の方に言われました。間違っていたかも知れませんが、困った役割を演じたからこんな風に思ったのだと思います。高校生の時にも、倫理社会の時間に、誰が何を発表するのかという時に一番難しそうで嫌だと内心思っていたハイデッガーが当たって大変でしたけれど、後になってみるとそれは必要で役に立つ事でした。あの中で私にとって一番大切な人がハイデッガーであったのだと思います。困難な事が割り当てられる意味は後になってみなくては分からないのですね。今は介護の必要な方が増えており、配偶者も介護の仕事をしていらっしゃる方も精神的にとても重く辛い事もあると思います。そして介護してもらう立場の人も、たとえ認知症であっても全く何も分からないというわけではありません。高齢化の進んでいる現代、どのように生きて行けば良いのか私も考えあぐねております。

10月14日、虫愛ずる

紫の桔梗が咲き始めました。朝水やりしていると、葉陰からコオロギが出て来ました。暑い日や風の強い日などもあって日々の気温の変化の激しい季節に、桔梗の葉陰はコオロギにとって安全で過ごしやすい場所なのでしょう。明日からの水やりはなるべくそっと、控えめにしようと思います。コロナ禍や戦争で物の値上がり、日常生活の制限がある生活は、鎧兜をつけて動いてでもいるような重さや、関節の曲げ伸ばしにギクシャクするような、心地良さとは程遠い毎日です。このような世の中での教育というのは難しいと感じます。生きて行くのに必要な知識は学校で、でしょうが、先生の日々の在り様を子供達は曇りのない目でつぶさに見ているのだと思います。流されないように生きようと思うけれど、気が付けば翻弄されていて自分は無力だと思う事もある世の中で、ただ人に合わせて漠然と、漫然と生きて行くように、などとは決して教えないでしょう。それでは、というと、先生が何を指針として、どのような志を持って生きているのか、子供は本当によく見ていますね。私の後ろ姿は、若い他者に一体どのように見えているのでしょうか。

10月9日、海の顔は

晴れている日の海は、季節を問わず美しいですね。大きな岩に豪快な波しぶき、遠浅の浜辺、どこも凪いでいると平和で穏やか、一日中見ていたいと思う時もあります。ある年、小樽で標語を見ました。北方領土の還る日平和の日、とそこには書かれてあり、普段北方領土問題があると知りながらあまり身近に感じていなかった私は、この標語と出会った事で、国後択捉歯舞色丹が一気に私に近づいて来た、と言ったら良いのか、それよりも島々が私をグッと近くに手繰り寄せた、そんな気がして来ました。段々、これらの島々で生まれ育った人がご高齢になって行きます。親の故郷を直接には知らないという人が増えて行くのですね。昭和二十年八月二十二日に、現在のサハリンから留萌や増毛に向かっていた三隻の引き揚げ船が、当時の、おそらくはソビエトの潜水艦から攻撃を受け沈んだという事があり、千七百人以上の方が亡くなったそうです。その時、潜水艦の乗組員にとってはここは硝煙の海という認識だったのでしょうか。終戦直後の混乱の中、捜索や引き上げは今のようにはとても出来なかったのも、北方領土の事も、戦争ゆえです。一度冬に留萌の海を見た事があります。その時は立っているのが困難なほどの向かい風で吹雪でしたが、私はこの出来事を過去に読んだ事があったものですからどうしてもこの方々の魂が安らかに、と祈りたくて岬に暫く立っていました。また、近年中国と、尖閣諸島の問題で付近の海は緊迫した状況が続いている事も報道されています。とても広く、美しい群青色ですのに、謀略の海と化してしまったと、ひしひしと感じます。国境近くの人の住んでいない島や海は災害などの時に互いの国で使う事は出来ないのでしょうか。緩衝地帯のように出来たら良いのにといつも思います。国内の事では、東日本大震災での福島の原発事故から歳月がどんどん過ぎて行きます。私の住んでいる所から東京湾は遠くなってしまいましたが、それでも、晴れた日に東京湾の見える場所に行きますと、何事もなかったかのように静かな波が規則的に寄せては返す事を繰り返しています。この先の太平洋に出て北に行けば、やがて福島の海に行き着くのです。君津でも嘗ては湾内で海苔やあさりの養殖をしていました。私が幼稚園にもまだ通っていなかった頃、大人たちは、仕事に行く時には、海に行くとは言わず浜に行くと言っていたものです。静かな東京湾の波、でも私にはこの先の福島の海を思っているような、慟哭の波音に聞こえるのです。海に映した人間の顔や歴史の出来事は多様な、何か恐ろしくさえある現実の積み重ねを淡々と伝えているように感じられ、否定も肯定もしてはいないで、それを人間にゆだねているように思えてなりません。

10月4日、回想静かの海

今年は中秋の名月を眺める事が出来ました。月を眺めていたら、1969年、アメリカのアポロ11号が月の、静かの海と名付けられた場所に着陸した時の事を思い出しました。その時月に初めて降り立ったのがアームストロング船長でした。彼はきっとアポロ11号の船長に選ばれるのにふさわしい優秀な人だったのだろうと思います。けれど、彼はワーカホリックであったと言われています。ご存知の方も多いと思いますが、仕事中毒という意味です。それが原因かどうかは分かりませんが、後に離婚しその後再婚、2012年に病気で亡くなったそうです。八十代で亡くなったので短命であったとは言えないと思います。ですが、優秀で、クローズアップされた人でしたので、仕事だけでなく家庭生活も絵に描いたように幸せだったのでは、と思っていた私は驚きました。人は幾重にも貼られた薄い紙に支えられて立っているようなところがあり、脚光を浴びて一番前の見える部分が美しくある、と思えるとその分、一番後ろの、貼られていた一枚の薄い紙が剥がれて行ったかのように感じられてしまったのです。ミルフィーユと似ているけれど、自分の努力と真心で貼り合わせて来たのでしょう。今年の十五夜の月は、とても複雑な色に見えました。何となくうすら寒いようなひんやりとした隙間風を感じたのは、私自身薄い紙を極めて不安定に貼り合わせたような人間だからなのかも知れません。自分がどこに立っているのか、座標軸のどの辺りなのか、上下左右どのくらいの距離を保って日々生きているのか、実は、自分では正確に知る事が非常に難しいのだろうと思います。今、社会の中で生きている私という人間は漠然とした不安を抱え、時には揺らいでいる存在とも言えるような気がします。大勢の人によって空に飛ばされた風船は色とりどりで美しいものです。人が手を離した瞬間に高く上がり、風に流されて行く事で終わりではなく、その瞬間からやや心もとない風船の旅が始まるのですね。あのかつてのオリンピックのその光景が連想され、ただ美しいと思っていた子供の頃と、根っこは同じでも、今の私は随分変わったのだろうと思った夜でした。十三夜の月は一体どのように見えるのでしょうか。

9月29日、同調は無難か

大地は私達のものではなく、私達が大地によって生かされている、こういう言葉を聞いた事があります。地球の自然を人間が私してはならない、そのような、近代への警鐘とも嘆きとも取れる言葉を随分前の時代に気付いていた人達がいたのですね。新型コロナウイルスの変異株が次々現われ、その事に感覚がマヒして来たような人が増えていると思える昨今、理非の座標軸も極めて曖昧、何事も不確実に思えて周りの人に合わせておけば無難と考える人が多い、という事でしょうか。ですが、それはよく考えずに流される事にもなりかねないと思うのです。不安だと人間が知らず知らずコントロールされやすくなるのは安心を求めるからで、赤信号皆で渡れば怖くない、というかつて流行った言葉を思い出しました。

9月25日、共に居たテレビ

我が家のテレビが突然壊れました。台風の影響で何か不具合が、とも思ったのですがそうではないと分かりました。二十数年元気でよく働いてくれましたから、もうこの辺で休みたいのでしょう。随分お世話になりました。祖母が亡くなった時もこのテレビは我が家にいて、その後の出来事などすべて見て来たわけですね。映像の二十世紀、早池峰山に住むおばあちゃまの事、奥会津葬送の風景などの番組が、特に心に残っています。そのようなドキュメントだけでなく、ニュースや天気予報、音楽や映画など、テレビは様々な分野を知る事や楽しむ事に役立ちましたし、何よりも、動く画像のインパクトの強さはいつまでも心の奥深くに余韻が残る事が多く、インターネットの利用が出来る人の多い今という時代であっても、他の追随を許さないように思います。悲しい時、辛い時、選んだチャンネルの映像は、私に寄り添っていてくれたのだと思います。慰めたり励ましたり、心が和むように接してくれた存在ですので、まるで人間のようです。人間や動物以外で、多くの面を持ち、程よい距離を保って相手に合わせてくれたという事は、否定も肯定もしない温かい態度で接してくれた存在であったと言えると思います。この、映像をもう映し出す事の出来なくなった黒い箱の中は私を支えてくれた物が沢山入ったブラックボックスのような気がします。あれこれ考えてみますと、少なくとも私にとってのテレビは、言葉のキャッチボール、つまりコミュニケーションが出来ないもの、とばかりは言えないという気がして来ました。暫くはこの長い友人であったテレビに感謝しながら、ラジオやスマートフォンで、なるべく耳から入ってくる音というものを楽しみたいと思っています。それから数日後、新しいテレビがやって来ました。入れ替わって去って行くテレビにお礼を言うと、この気心の知れた友人は黙って去って行きました。新しいテレビは、親しい友人になってくれるでしょうか。

9月22日、初めて読んだ物語

私は本が好きな子供でしたから、家族に読んでもらった絵本や、自分で読んだ色々な本の内容を今でも割合覚えています。金のがちょう、ちびくろサンボなどは本の中の絵もよく覚えています。グリム童話のヘンゼルとグレーテルは、小学校に入学した時に誰かが買ってくれたのですが、好きな本の一冊です。学校の図書館で一年生の読書の時間に読んだ落窪物語は、何故かとても心に残っています。これが、一番初めに読んだ物語、手ごたえのある実話のように思えるのです。継子虐めをされたお姫様が幸せになるまでを描いた日本の古典ですが、図書館のその本は子供向けに分かりやすい文体で書かれていました。辛い環境からやがて幸せに、というあらすじに惹かれたわけではないのです。納戸で世界狭く暮らし、継母から言いつけられた裁縫をするなど、無理難題を押し付けられ、乳母のようなお付きの侍女と共に懸命に考え、知恵を出し一つひとつクリアして行く様子を興味深く読んだ記憶があります。暖かい日なのだろうか、それとも寒い日なのか、納戸の外の庭はどのような木や花があるのか、半ばいない人のように扱われ、どんな気持ちで食事をしていたのか、気になる事ばかりで、本の中に入って行き、作中の登場人物に寄り添って暮らしてみたい、などとも思ったものです。勿論有名な古典だとは少しも知りませんでした。そして、日常の出来事や疑問は母に話す私が、この本の事は誰にも話しませんでした。話してはいけないなどと思ったわけではないというのに、なのです。知りたいですね。ある程度知る事が出来れば、小学一年生の自分がどのような子供だったのかを具体的に知る手掛かりになりますから。いくら覚えていても、簡単そうな事ほど奥深く、この捩れた紐を解いて行くのは案外難しいのだろうと思っています。

9月16日、野良猫と私

我が家には猫が居つきます。貰った猫が亡くなった後にふっと知らない猫がやって来てここで暮らす事にする、とでも言うように住み着くのです。今いる猫もそうでした。そうなると予防接種や避妊手術をして結局は家の猫になりました。かつてやって来た野良猫達も、それぞれ事情があったのでしょう。でも、すぐ懐いた猫は多分引っ越しなどで捨てられた、元は飼い猫だったのだと思います。随分前の事です。用心深い野良猫が家の猫になりました。人間に懐くまで随分時間が掛かりました。それでも、段々慣れて可愛がっていたのですが、ある時、人間で言えば反抗期の子供のように怒って引っ搔いた事がありました。何故だったのかは分かりませんでしたから、その時引っ掻かれた私は驚きました。そして思ったのです。こんなに仲良くなったのだし可愛がっているのにこんな事をするのはこの猫がどこでどんな親から生まれ、どんな人にどのように関わられたか分からないからなのではないだろうか、と。そして後でハッとしました。遺伝で反抗する猫などいないのに、生まれ育ちが分からないから信用出来ないと思う事は間違っている、人は血のつながりだけでなく、日々の関わりの積み重ねが大切で共にいる事で分かり合える筈、そう思っていた筈なのに、私は少しも分かっていなかったのだと、考えてしまいました。どのような親の子供かというだけでその子を見てしまう事は、事あるごとにその角度からばかりその子を疑って見る、そうなりはしないでしょうか。ですから、子育ては親自身が等身大の自分に気付き、自分が、子供によって育てられる事になりますね、多分。

9月11日、ノルウェーの海に

ノルウェーは氷河に削られたフィヨルドが美しい国だと聞いています。テレビで見た、この入り江に沈む夕日の美しさに驚き、画面に釘付けになりました。おそらくかなり遅い時間なのでしょう。海は透明で、次第に蛍光オレンジのような色に染まって行きます。太陽はやはりオレンジの、透明感のある卵の、濃い黄身のように立体的で、縁はしっかりあるけれど柔軟で自然体の人のように見えます。沈んで行く時、空も、空を映す海もオレンジが段々濃くなって行くのですが、太陽が完全に沈んでしまったら暗くなるのかどうか分からないような気がして来ました。太陽はあのままでこの海の中にひっそりと存在していて、朝になったらその水の中から垂直にスーッと当たり前のように上って来る、そういう気がしたのです。美しい湖などは水鏡のように、などと言いますけれど、この海は静かな湖面とは違い、波が絶える事がないのですから、いくら静かでも生きている、静的ではなく動的と感じます。今までに見た事のない、自分が生まれ育った場所とは全く異なる夕焼けから日没への光景に、世界は広い、と改めて思いました。まるで、人間と自然とが暗黙の了解のもとに必要な部分だけは関り、後は相手への配慮をしながら助け合って共存している所のように感じられます。陸続きの国境を持つ国の厳しさや気候もあって、個として自己を守って主張もする事の出来る大人へと成長して行く、でもそこには厳しい中で生きて行くには自分以外の人や物とも手を携える事が必要な時には相手に配慮する、そのような事を当たり前のように淡々としているのではないだろうかと思わせるものが、あるのです。相手というのはこの地球上に共存する皆、そのようにも感じました。とても深く強い印象の残るノルウェーの夕暮れでした。

9月6日、覚えた言葉

私が小学一年生の時、母の従兄弟が大学病院に入院し、手術を受けた事があります。幸い完治し、無事に退院する事が出来ました。手術後日が経ってから熱が出て、同室の二人の患者さんが、それぞれお医者様を呼んで来て下さったのだけれど、例えば第一外科と第二外科のように違う所に所属している若い先生お二人が病室で鉢合わせしてしまい、このお医者様達に、先生を呼んで来た患者さん達はひどく叱られたのだと、付き添っていた母の従兄弟の家族から聞きました。面子をつぶされた、恥をかかされたと言われたそうです。私は子供でしたから何故だろうと思ったものです。患者さん達に悪意はなかったのですしそれほど怒る必要があるのだろうか、大学病院って分からない、そういう気持ちになりました。ですから、その翌年だったと思うのですが、ある大学病院の医師がカステラにチフス菌を入れてそれを食べた人が感染したというニュースをよく覚えています。何故そのような事をしたのかは私には分かりませんが、大学病院という所で働く人達は平等に扱われているのか、もしそうでないとしたら問題が起きる温床となる事が色々とあるのではないか、私はそのような事を思いました。アカハラ、異性であればセクハラ、そういう事のある機関は今もあると思います。無給医局員という言葉を、この事件で私は初めて知りました。後に、田宮二郎さんの迫真の演技が印象に残る白い巨塔、あれはもう過去の事なのだろうかなどと思うのは杞憂に過ぎないのでしょうか。そう、やはり私が小学一年か二年の時、吉展ちゃんというお子さんが営利目的で誘拐された事件の犯人が、逮捕されたという事がありました。前代未聞の凶悪な事件、そのような報道もありました。勿論誘拐も人を殺す事も悪い事に違いありません。ですが、その後五十年以上経った今の犯罪は何と例えたら良いのかと思うほど、想像もつかないような事件が頻繁に起きている事に驚き、いつの間にかそういう世の中に人間が慣らされている気がしてなりません。犯罪は社会を映す鏡、と感じます。振り返ってみると、その人に対して特別の恨みもないのに、ある公共の場に居合わせた事で、時には何人もの人達が殺害された事件は、六月に幾つも起きています。何故でしょうか。思い出すとか振り返るという事は、必ずしも、懐かしく、決して色褪せない温かく心に残っているものばかりではないようです。

9月1日、暗闇と闇

ある時、友人がこんな事を言いました。夜中に人通りのない、真っ暗な道を一人で歩いていたら怖いと思うのは他に誰もいないからではなく、誰かが現われると思うからで、その人がひったくりなどであるかも知れない、つまり自分が被害者になるかも知れないからなのだ、と。言われてみればその通りで、もし、真空パックの中のように、自分が目的地に着くまで決して誰にも出会わず一人きりだと分かっているとしたら、たとえ闇夜で街灯がなくても、真夜中であっても安心して歩けるのではないでしょうか。それは、暗闇そのものが怖いわけではないという事になります。人間の心の中には自分だからこそ見えない部分があり、まして奥底の事は計り知れないのでごく普通に暮らしていられるのかも知れません。自分の心の中の、ある暗い部分を闇と呼ぶとしたら、誰もいない暗い夜道とどちらが怖いのでしょう。他者の心の闇と呼ぶような部分が、屈折して不特定の人達に向けられる事も、ありますね。闇の部分を持ち合わせて、人と助け合って人間は生きているのだと思います。自分一人だけしかいない世界で人間は生きられませんし、機械を使っての仕事であっても、仕事を評価するのは人間です。自然の闇と人間の心の中にある闇、どちらがより深いのでしょうか。多分どちらも必要なのでは、と思います。夜の繁華街は田舎の真昼のように明るく、あれでは眠くならない、ある時都内での同窓会でそう思い、明暗のグラデーションは必要だと感じました。また、他者の心を傷付けない配慮も、程よい加減が必要、そのように考えると、人間と自然の折り合いというのはよくよく考えてからの行動が、人間の側に必要で、そうしないと異常気象の加速が心配になりますね。自分の心の奥の闇と、不特定の誰かに向けられ、行動された他者の心の奥の長く深い苦しみ、自然の中にある闇、私にはどれが一番怖く感じられるのか分かりません。

8月27日、意識と無意識についての克明な記憶

東日本大震災の直後の報道を見聞きしたあの地震が起きた日、驚きよりも、感情や感覚では受け入れる事がなかなか出来ませんでした。ラジオにも次々情報が入り、仙台市の荒浜地区で百人から二百人のご遺体が、と聞いた時に初めて涙がこぼれ、私の、震災によって突然起きた意識と無意識の切断が終わり、今までのように循環する事が、物の詰まったホースの真ん中だけはかろうじて水が通れるようになった程度に始まりました。その後、原発事故で、臨界という言葉が頭をよぎり、福島県はその意味では近いので私はここで死ぬのだな、と覚悟しました。やがて時間が経過し、人の避難した福島県の浜通りに、報道のカメラが入りました。誰も人のいないまちの歩道橋のそばに、桜が咲いていました。多分いつもの年と同じように。ですが、生活の途中で人が慌ただしく家を離れて行ったまちは、真空パックにされた町が隣の部屋の中に入っていて、ガラス越しに廊下から見ているようで、それは随分遠いものだと感じました。時間が経過したから桜が咲いたという理屈は分かるけれど、凍り付いた桜を見ているような不思議な気持ちになり、この桜が私の意識と無意識のはざまで咲いていると感じ，その奇妙な感覚の直後に、私の、震災に対して、全面的に意識と無意識を循環させて向き合うという事が始まったのです。やっといくばくか咀嚼できるようになり、現実と向き合って歩いて行く事を始める気持ちになったのだと思います。大きな精神的痛手だったのですね。今でも津波の映像は辛いもので、あまり見る事が出来ません。瘡蓋がまだ出来ていない傷を脱水機に入れてかき回したようになる事柄は、人生の中では結構多いように思います。人に対して、自分がそのようにいつまでも心に残るような痛手を与える事は避けたいと思う昨今です。若かった時はどんな私だったのか、多分、今の思案があの時あれば、のあの時であって、漫然と生きていたようにも思えるのです。

8月20日、鏡に映せる範囲

豊臣秀吉は非凡な人だったのだろうと思います。信長の死後天下を統べてから千利休との関係が次第に悪化して行ったのは何故だろうと思いました。色々と研究し、書かれた本があるようですが、私は自分の出自を気にしていた秀吉のコンプレックスと関係があるような気がします。何も言わない利休の本音が気になり、自分を見下しているのではないかという疑念が生じ、そういう目で見ると何もかもが疑わしくなったのかも知れません。見えない重圧、本当のあなたを知っている、たいして中身がない、などと、人の上に立つようになればなるほど、自分の本当の姿を映す鏡を利休が持って、自分に迫って来るように感じたのではないでしょうか。それは、秀吉が本当の自分を自分でよく知っていた、あるいは実際の自分より小さい、と思っていたとも言えるのかも知れません。人は自分の無意識の底まで見る事は出来ません。私はそれで良いのではないかと思います。でも、ある程度までは、気付かなかった自分が分かるようになります。自己洞察は、感情や感覚と思考、深層と表層を、スムーズに循環させる事が出来るかどうかと関係の深い事です。では、自己理解が深まり、それをある程度話せるようになると、その人の見えない部分が減るのでしょうか。私は、より深く自分の心が見えるようになると、自分の影の部分も大きくなって、また、見えない部分も増えて行くように感じるのです。ひと回り大きくなった人間の奥がより深くなる、そのような気がしてなりません。終わりのない旅を続けるのには、全身全霊をかけて、つまり全人格をかけて向き合う、場合によっては命がけ、という事になる、それはAIでない人間がクライエントと向き合う時と非常によく似ています。私は技術や理論の大切さと共に、かつて教えて頂いた、魂の出会いという言葉を噛みしめる毎日です。また、鬼のようだと言われている人は、鬼にならなければ生きられなかったその人の悲しみや苦しみがあったのだというお言葉をも思います。それを理解出来ないと、この人と向き合いこの人を知る事、理解する事、心に寄り添う事は出来ません。心が放浪しているようなよりどころの無さを不安と感じている人が、皮肉にもこんなに便利になった今の日本で数多くいる、限りない孤独が、何かをきっかけにして少しでも和らぎますようにと心から願いたい思いの、コロナ禍とウクライナでの戦争のただなかにいる私です。

8月15日、深層は気付いている

三十年程前に、ある男性が亡くなりました。よく存じ上げている方でした。戦争中に出征し、終戦の後東南アジアから無事に戻られたのですが、暫くマラリアの治療を受けたそうです。色々ご苦労なさったのでしょう。優しいおじいちゃまで、よくお孫さんをおんぶしてニコニコしていらした事を思い出します。昭和の後期に、亡くなった戦友を埋葬して来た所にお参りに行きたいというお気持ちの、無事に帰還した数人の方達と御一緒にその地を訪れる、とお聞きし、せめてお花の一枝でもと私も僅かですがお渡しし、そのようにお願いしました。それを喜んで下さり、お参りし、帰国なさってお土産を頂いたのですがその時、ご一緒だったある方の撮られたお写真を見せて下さいました。それは異様なものでした。沢山の人の顔らしきものが浮き出るように写っているのです。眼鏡もはっきり、墓石の代わりの大きな岩に写っていました。ここに埋葬され、日本に帰る事の出来なかった方達のお顔だったのだと思います。私は別に心霊写真を信じるわけではありませんが、あの方達が写真に細工をするとはとても思えませんでしたからそのように感じたのです。写真はお寺でご供養して頂くとの事でした。それからその方は何年かの後に旅立たれました。あの人はお参りに行ったからその後長く生きられなかったのでは、という噂を聞きました。でも私はそう思いません。ご自分がもう長く今生に留まっていられない事を心の奥底の感覚だけは知っていたから、心残りを一つ減らしたくてお参りに行かれたのだと思うのです。人間は過去には、たとえ一秒前にさえ戻る事は出来ません。お盆月になったせいでしょうか。出会っては別れて来た家族や大勢の方達お一人おひとりのイキイキとして生きていらっしゃった頃のお姿が目に浮かび、胸が一杯になります。よくお葉書を下さった友人の女性はユニセフの絵葉書を使っていらした事が思い出され、毎朝戦争や紛争の一日も早い終結を願っています。皆様の魂がどうか安らかでありますようにと祈りながら、幾つものガラスの破片が胸に突き刺さっているに似た、人を見送って来た痛みも胸に持ちつつ今日を生きています。

8月10日、最上川

世界のあちこちで大雨が降り続いたり、熱波で水不足になったりと、極端でバランスの取れていない夏ですね。日本でも猛暑、大雨と、ついて行けないように日々変わって行きます。そして大雨の被害も広がって行きます。天気予報で、今までに経験した事がないような、という言葉を頻繁に聞きます。四日には、君津でも夜明け前からの不気味な雷鳴で一日が始まりました。午後には時折電灯が消え、雨脚が強くなりました。東北や北陸で線状降水帯が確認され、その地からの映像には信じられないほどの爪痕が生々しく、丹精して育てた作物や稲はどうなるのかと思い、愕然としました。人の命が失われない事が一番大事である事は当然ですが、それにしても甚大な被害に言葉がありません。最上川が氾濫、というニュースに、最上川逆白波のたつまでにふぶくゆうべとなりにけるかも、という斎藤茂吉の短歌を、ふと思い出しました。時代も季節も何もかも違いますが、最上川は斎藤茂吉の生まれる前から生きています。そしてこれからも地球温暖化によってもたらされるものに翻弄されながら生きて行くのでしょうか。私は一度米沢市内を流れる最上川に架かる橋を渡った事があります。最上氏は滅んでも最上川は滔々と流れている、歴史のあれもこれも皆見て来たのだろうな、と思いながら綺麗で静かな川の流れを、橋の上に立って暫く見つめていました。最上家から嫁いだ伊達政宗の母保春院という人の波乱の人生、正宗の詠んだ漢詩、慶長遺欧使節、上杉鷹山、次々と頭の中に浮かんで来ました。その地点での川幅は思ったほど広くなかったのはまだ下流ではないからなのですね。あの時、福島駅でサクランボが配られていました。平成六年六月の福島大学での家族心理学会の大会の後、米沢に、そして山形から仙山線に乗って仙台に出て帰って来たのです。立石寺の辺りでは、木々が鬱蒼と茂って清々しく感じられ、夏にここで是非蝉の声を聞いてみたいと思いました。別にゆっくりあちこちを見て回る事はしませんでしたけれど、紅花染めはとても美しいものでした。この染め物の色は一色ではなく、一人の人間の成長過程や、どの側面に焦点を当てるかによって違って見える事とよく似ていると感じたものです。ただ列車に乗って変わる風景を車窓から眺めたかったのですが、今はウイルスの事もあるのでそのような贅沢な事は出来ません。良い思い出です。何もかもが、もう少し落ち着いた穏やかな夏に戻ってくれますようにと祈りたい思いです。いくら暑くても、八月になると蜩が鳴き、空は時折秋の顔を見せてくれるようになりますね。季節が変わって行く事を今年もしみじみと感じています。

8月5日、美辞麗句で装っても

同じ事を以前にもお話ししましたが、戦争の灰色の雲に覆われたままの今、私の気持ちは強烈な印象の出来事の記憶に戻って行きます。小学校低学年の夏休みのある日の事です。私が風通しの良い部屋で宿題をしている時に、隣の部屋では洗濯を終えた祖母がテレビのモーニングショーを見ていました。昭和四十年代前半の夏には終戦特集の番組が多かったように思います。祖母が見ていた番組も多分そうだったのでしょう。ある女性が、夫の乗る潜水艦がまだ浮上して航行しているのを、近くの丘から見送った、それは夫がその事を前もってそれとなく言ったからで、それが最後となった、そのような内容の話でした。隣の部屋で勉強していた私は、声だけのこの女性の話に次第に引き込まれて行きました。戦後世の中は大きく変わり、当時は若かったであろうこの方も、さぞかし苦労をなさったと思いますし、人の心の裏表も嫌というほど見て来たのではないでしょうか。それは子供心にも何となく分かりました。けれど、この女性は、あの、夫を見送った時の事が心に強く残っているので、今でも、夫がただいまと言って帰ってくるような気がする、と、少女のような声の調子で言ったのです。その時私は、戦争の本質を見たように感じたのだと思います。それはどのように装っても戦争はむごい以外の何物でもないと心に強く感じた瞬間でした。戦争と出会ったのです。恨みつらみを言わず、泣きもせずだからこそ、この人の心の中はいかばかりだろうという事が伝わって来たのです。その日、実は朝食に、頂いた沢庵を食べたら自然の物で付けたのではない綺麗な黄色のもので、分量が多かったのか、とても苦かったのです。ですから、戦争は苦いもの、という風に覚えているのです。勿論、その日はもう宿題は手に付きませんでした。毎年夏になるとこの事を思い出します。あの女性はおそらくもう亡くなられたのでしょうが、私は多分これからもずっと忘れないと思います。あの方が私に戦争というものを教えてくれたのですから。あれから五十年以上経っても、人間はまだ戦争を繰り返していますね。戦死した写真の夫は若く、仏壇の前でその写真に向き合って手を合わせている妻は高齢になっている、別々であった歳月に起きた事を今生で語り合う事はもう出来ません。亡くなった人はその時から年を取らない、という非情な現実を、戦争でご家族を亡くされた方々についての報道で、私はいつも感じるのです。

7月31日、垣間見たもの

学生時代、三時間以上かけて大学に通っていましたから電車の中で専門書の類ばかりでなくノンフィクションや小説などの文庫本を随分読みました。今はスマートフォンを見ている人が殆どですね。毎朝五時台の電車に乗っていましたのでウトウトする事もあるのですが、不思議と乗り換える駅の手前で目が覚めるのです。当時は春から初夏にかけて電車の速度を落とす順法闘争というものに悩まされました。ただでさえ、津田沼から東京方向の各駅停車の混雑は並大抵のものではありませんでした。そんな毎日でしたが、時々内房線や総武線の電車内で知らない方と話す事がありました。見ず知らずの方々でしたが、ほとんどが比較的年齢の高い男性サラリーマンと思しき方で、昔この路線に乗った思い出や、戦争時の千葉県内の国鉄の駅の辺りの様子などを、ポツリポツリと話して下さるので、私の知っている事は私も話し、知らない事には相槌を打って聴いていました。大雨で電車が途中で運転打ち切りになった時には、特急電車で通っていて、普段は苦にならないけれど内房線の終点近くから都内への通勤は大変なのだ、と話して下さった方もいらっしゃいました。世間話の相手に何故学生だった私を選んだのか分かりませんし、あの時は聞き役になる事が多かったけれども、若かった頃の話は、もうその頃に戻る事が出来ない、でも懐かしくもある、悲しみや胸の痛みも混ざった自分の過去のある時の記憶を、扉を開けて私に話して下さったという、当時思っていたよりも重い事だったのだと、今は思っています。垣間見た人の人生の一コマ、私も共有したようなその時間、今もよく覚えています。出会う、関わる、というのは、一見何でもないありふれた事ばかりと思っている日常の内に幾つもあるのですね。貴重な経験は、長い通学時間であったからこその事です。多くの人に育てられて来たと、改めて思い、お一人おひとりに感謝したい気持ちになりました。

7月27日、ヒマワリ咲く

六月中に梅雨が明けたのはこれで二度目、台風シーズンはいつからいつまでなのか、カラッと晴れた空を見上げながらため息が出ます。台風の進路も猛暑の原因もやはり偏西風の蛇行が原因なのでしょうか。温暖化の影響の大きさをひしひしと感じます。洗濯物が乾きやすいという利点だけ考えていた方が良いかも知れませんね。よく伸びる生垣の剪定や草取りも午前中の比較的気温の低い時間帯にしか出来ませんが、四月に植えたナスやキュウリもぼつぼつ収穫出来るようになり、早朝には南瓜の花を見る事も出来ます。今日は頂いた夏大根を糠味噌に漬ける事にしました。この辺りは風が強い事が多く、草花には酷です。でも、人間はそれでいくらか助かっているのかも知れません。節電を心掛けつつ熱中症にも注意する、日本の夏も随分変わりました。扇風機で十分だった子供の頃の、緑色のあの羽根が無性に懐かしく感じられます。猛暑、梅雨の戻り、目まぐるしく変わる中で、六月二十九日の夕方、この夏初めてミンミン蝉の声を聞きました。唐突にやってきた夏に、蝉も驚いているのかのようです。この奇妙な夏を無事に生き延びて欲しいものです。今年、ウクライナでもヒマワリは咲いているのでしょうか。ご近所のヒマワリは、万感の思いを込めて命の限り咲いているように見えます。向日葵までもが平和を求め、訴えているように感じられ、立ち去りかねた夕暮れでした。

7月22日、水と沈黙

スーパーに、九州の天然水と炭酸水が並んでいました。随分種類が多くて驚きました。食品やお菓子なども沢山ありました。以前は物珍しいと思って見たものですが、ここは九州の方が多いので九州フェアを見る機会が度々あります。我が家では福岡県の堅パンが好きです。この、九州の澄んだ水を見ていて、思いました。遠藤周作の小説沈黙を、です。この小説は、隠れキリシタンの弾圧、踏み絵、様々な事柄が詰まった歴史の一カ所に鋭い穴をあけ、光と影の、複雑で、苦難と共に生き続けて来た信仰をレリーフのように浮かび上がらせたと感じた作品です。信者の絶やさなかった灯は、今一体どのような色で慎ましく輝いているのでしょうか。もっともそれだけではなく、信仰とか人間として生きるという事について考えさせられ、そしてそれは私にとっては終わりのない、答えの容易に出せない、大変深い作品です。踏むがよい、というあの言葉は、稲妻のように闇を照らす。読んだ瞬間、私にはその稲妻が空から地上の私の足元をさっと照らすのが見えました。驚きと共に、遠藤さんの信仰や人間の心、心理学や哲学への深い理解を感じて、いつまでも余韻が残っている不思議な作品です。また、理解ばかりでなく、疑問を投げかけ、考える事を求めているようにも思えるのです。遠藤さんの心の中が気になります。キリスト教は父性的といわれますが、この作品を読むと、私には母なるものという事がとても気になります。無言と感じられる時にも共にいる神という事は母性的とも受け取る事が出来そうだと私が思うのは、間違っているのでしょうか。また、明治になってからの、ギリシャ正教の布教、というのは禁止されていたのではないので、沈黙とは違いますが、岩手県には今もその信仰を大切にしている人達がいるという事は知りませんでした。静かに生き続けて行く信仰、守られて行くもの、この日本の中でこのようにして色々な所で様々な人達があれこれ思い、考え、過去から未来へ今も一生懸命生きている事、それは当たり前の事かも知れませんが、ふと宝石箱の中を垣間見たような、とても大切な事に気付いた気がしています。殉教、という事も踏み絵と同じように深く考えさせられ、人の思想信条信仰は、どのように弾圧しても決して絶やす事は出来ず、他者の心の奥を強制的に変えようとしてはならないと、改めて私の心にしっかり留めて置く事にしました。多分魂の生死にかかわるような重大な事なのでしょうから、他者が決して触れてはならない事、と思うのです。踏み絵によって棄教、というのはその後も含めて大変な葛藤に苦しむ事となる、そしてそれで人の心の中にある信仰を支配できたと思うのは間違っているのではないかと、私は思います。支配しようと策を巡らせた時、それは支配しようとする側の敗北のように思えるのです。まだまだ言葉に出来ないものを感じており、この文章の不十分さ不完全さを思っています。最後に、ここでお話しした宗教は、宗教というよりカルト集団やマルチ商法とも取れる事をしている所についてではありません。

7月15日、残っている外傷体験

安倍元総理が亡くなられた事で、私が疲れ、動揺したのは、親や友人など、人が亡くなった時の事が心に残っているからなのです。看取った家族、亡くなってからその事を知った友人の死、など多くの人と出会い、今生での別れを経験して来ました。それは安倍元総理の死の、直接の映像でなく、このようにして亡くなったという時系列の報道を聞き、縦揺れの地震の最中にいるような感覚と人との関わりやその後のその方の死の前後の私の感情が全部湧き上がるようによみがえって来たからなのだと思います。心的外傷はいつまでも心の中にそのまま残っていたのです。ガラスの破片が幾つもいくつも自分の胸に突き刺さったまま歩いているよう、そのようにして私は生きて来たのですね。亡くなった人達が自分の心の中に生きている、そう思うのは思考という表層の部分、深層は嘆く事が不十分、そのまま日常に戻ってしまったのだなと思っています。十年、二十年、いえ三十年経っても、私の心は、直接は知らない人の死によって大きく揺さぶられる状態を抱えているのだという事であり、このような事を言葉にするのも、実はとてもエネルギーが必要な事なのです。まるで、暴風雪の海が眼前に広がっていて身動き出来ないような、大変辛い気付きでした。マグカップの中の濃いコーヒーに入れたミルクがいつまでも混ざらず、グルグルと回っている、そういう映像のような頭の中、という日でした。ですが、それだけ心に残る、関り、育ててくれた方達への感謝の気持ちも尽きないのですから、暫くは、開けてしまった引き出しと向き合い、それから無理せずこのまま心の中にそっとしまっておこうと思います。自分の魂の近くに。安倍さんの襲われた映像を見た方、演説を聴くために現場にいた方の受けた衝撃は非常に大きいと思いますから、その方々の心的外傷後が大変気がかりです。

7月10日、閉塞と不信感

七月八日は安倍元総理が撃たれ、亡くなるという大変な一日となりました。どのような理由かまだよくは分かりませんが、人を殺す事は決して許されない事です。この国でこのような事が起きた事がまだ信じられない、半信半疑という気持ちです。思考、つまり表層では否定出来ない現実と分かっていても、深層、つまり感情や感覚では腑に落ちない、だから茫然としている、八日はそういう一日になりました。イスラエルのラビン首相がパレスチナとの和平合意に動き出し、漸くそれが始まった事に反対する青年に暗殺されたのは平成七年だったと思います。あの時のニュースを私は思い出し、大変な事が起きた、イスラエルとパレスチナの関係は逆戻りする、と思ったのでした。暗殺という事は恐ろしい事、それでは人を信じる事が出来ず、思想信条信仰などについては口をつぐんでいなければならないという事になりかねません。地下鉄サリン事件、新型コロナウイルスの流行、ロシアのウクライナへの侵略、私には想像もつかない事でした。今の地球や日本にこれからいつ、一体何が起きるのか私には見当がつかない、生きて呼吸できる範囲が狭まって来たように感じます。安倍元総理の事件には多くの人が衝撃を受けたと思います。ですがこの事件が起きた今という時代は、やはり私が思っている世の中とは随分変わってしまい、その変化した世の中に自分が生きているという事実を認めざるをえません。これからも、どこかで誰かが素知らぬ顔をしながら人の命を左右しようと考え、計画しているという事もあるのかも知れないと思うとゾッとします。生活の不満がなかなか解消されそうもない、行き詰まりを感じる人間関係、それは心の閉そく状態、という事で、他者への信頼感の低下が起きる事になるかも知れませんし、世の中が不穏と感じられるようになると個人への制限が増えて来る事にもなりかねず、知らず知らず視野が狭くなって来はしないでしょうか。ですから、責任が伴う事のない自由を主張し、行動する事の将来への危険がいかに大きいかを自覚する事が大切だと思います。危機感はよく考えて行動する事によって減少する場合もあると思いますが、未知の出来事に対しては、他者の考えや行動を参照、とする事もあり、それは自分がコントロールされやすくなる事とも言える気がして、漠然とした不安を感じます。承認欲求が満たされていないと感じる人の数やその度合いが増えているのかどうかはよくは分かりませんけれど。ともかく、これからの毎日も未知との遭遇なのだと心に留め、生きて行こうと思いますが、見た事もない、古く歩きづらい石畳の道をトボトボと歩いて行く自分の後ろ姿が見えたような気がして一瞬ドキッとしてしまいました。

7月5日、歴史と布置

布置という言葉をよく思います。ある人と知り合った為に不都合な事が起きた、ある問題の解決が長い間困難で苦労した、などという事があります。その時には八方塞がりだと思うのですが、ずっと後になってみると意味のある事であった、だから今がある、脱皮するという事に似ていて学ぶ事があり、視野が広がるきっかけになった、などと言う、意味のある事として人生のある地点で出会った、そのような意味だと考えますと、自分にも思い当たる事があります。それは、偶然ではなく、将来自分が生かされるための必然であったのですが、後になって振り返ってみて初めて気付く事のようですね。そのような事を考えていると、織田信長が天下統一をほぼ成し遂げ、明智光秀に討たれ、信長の家臣で抜きんでた所のある秀吉が後を継ぐこととなり、秀吉の死後やがて辛抱強く思慮深い徳川家康がその後二百数十年続く事になる江戸幕府の礎を築いたという、この順番、それぞれの人物が配された、つまり布置というものなのではないだろうかと思いました。明智光秀は真面目で優秀、信長夫人の従兄弟で由緒正しい出自という事をご存知の方は多いでしょうが、それだけではない光秀の一面と、信長を討った事とが私には結びつかず、疑問に思うのです。その一面というのは、光秀は戦国の世に生きた人なのに側室を持たなかったという事です。おそらく、知られていない何かがあるのでしょうが、本当の事は光秀という人の時系列での心の中のグラデーションを知りようもないのですから、謎は謎のままです。時代が変わった現代でも、誰もが、家庭や職場でその人らしく生きている事も、布置なのでは、と思います。一人ひとりの人生の出来事だけでなく、自分の生きて属している集団の中で、自分を含めた皆が、それぞれ布置されている、そうだとすれば一体誰がどのようにして、なども思ってしまいます。勿論、誰か特定の人の命令などではなく、強引に置かれているのではないのですが。生かされているという言葉の重さ、人と共にという言葉を反芻しながら考えている日々です。そのせいか、放送大学の哲学の講義をラジオで聴くのが、難解ですが楽しみになりました。存在、時間、何も答えらしきものは見つかっていません。私にいずれ見つける事が出来るかどうかも分かりません。そもそも哲学する人間が現われる前、哲学は存在しなかったのでしょうか。智に働けば角が立つ、情に掉させば流される、という夏目漱石の小説草枕のこの冒頭、自他の思考感情どちらを考えても、生きて行く事、生きている事はなかなか難しいものです。生きていれば生きているほど大きな、根源的な分からない事が増えて行きます。そういえば、関ケ原の戦いを経験した武士達が、家康の了承を得て、オランダの東南アジアでの勢力拡大の為に、傭兵として国外に行き、おそらく帰る事の出来なかった人もいるだろうという事実さえ、私は最近まで知りませんでした。

6月30日、甘い香り

秋は金木犀の花の香りの季節、香りがゆっくりと漂い、人を包み、夜霧の向こうの闇に吸い込まれるように遠ざかって行く。ビッグベンの近くにはコートの襟を立てた人が行き交う季節なのかも知れない。春に咲く沈丁花は香りが真っ直ぐに拡散して行く。甘く、どこか鮮烈と感じさせる、出会いと別れの季節らしい香りだ。希望が行く手に見えるような明るさがある所が金木犀とは違う。金木犀の、扉を閉めて部屋の中で物思いに耽るような、心の底に幾らか沈殿している寂しさと寒さは、沈丁花の咲く早春の寒さとは全く違う。寒さを感じるのは気温からではなく、心の奥にあるものによってなのだ。淡い色が溢れていていかにも梅の春らしい沈丁花の季節は、やがて来る暖かい春をあれこれ想像しながら待っているのだからわくわくするような楽しさがある。梅雨時に咲く純白の山梔子は金木犀とも沈丁花とも違う。一番香りが甘く感じられるのはこの花かも知れないのに、あまり自己主張していないように感じる。何故だろう。不思議な花だ。 などと花の香りを比べた、鍋から煮物の湯気の立つ暑い夕方でした。甘い香りと言っても、こもる香りや拡散する香りがあり、香りは様々、幅広い 、改めてそう感じました。思いがけず、一人で雨夜の品定めでもしたような気持ちになりました。

6月25日、フランシーヌが見ている

ウクライナでは今日も戦争が続いています。一体どのような形でいつになったら平和が戻って来るのでしょうか。戦争が終わっても日常を取り戻す事は難しく、でも大切な事です。また思い出すのが1969年3月30日にパリで焼身自殺したフランシーヌという女性の事です。ベトナム戦争、ビアフラの飢餓などに心を痛めて、というこの人のこの自殺を、それで戦争を終わらせる事にはならない、どうしようもない事、どうする事も出来ないのは仕方のない事、そう思って目を瞑って来た事が、その後も戦争がなくなる事のない世界にしているように思えて、私は1969年に自分は子供だったけれど、この亡くなったフランシーヌという女性に後ろめたさを感じている、それはずっと自分の心のどこかにあって時々見え隠れしていた事なのです。ですが、日々の生活の忙しさの中で、なるべく見ないようにして来た暗い思いでした。具体的に一人ひとりのごく普通の人間に何が出来たか、それは分かりませんが、少なくとも心にいつまでも留めていただろうか、忘れたり、仕方がない事だったとして黙殺して来たのではないのか、毎日のウクライナの戦況を二ユースで聞く度に、自分達の姿勢が省みられ、心がチクチクと針で刺されているように感じられるのです。勿論戦争の原因は様々ですが、ウクライナで心も大きく傷ついた人達の目を見ますと、フランシーヌの、悲しそうで刺すような、真実を誤魔化さないで今も見ているような目が同時に浮かんでくるように感じるのです。多分生き方に後ろめたい思いがあるのでしょう。フランシーヌに、貴方の死は無駄にならず、世の中を見つめる私達の視点は少しずつ良い方向に変わって来ています、とは、今の私には到底言えない状況なのですから。

6月20日、様々

夕方、日が暮れると家々の電灯が点き、専業主婦でなくとも夕食の支度などに忙しくなります。どこの家でも、その後家族が揃って団欒のひと時、というわけではないと思います。子供の受験勉強や親の仕事が忙しくて全員揃っての夕食、という日は少ないのかも知れませんね。でも、家庭内の人間関係に悩みがある時など、自分の家だけが底冷えのするような寒さで、人が揃うか否かにかかわらず、孤になって個の食事という雰囲気が漂っているように感じるという事があります。実は明るく電灯が灯っているよその家の中で暮らす人間の気持ちというものも様々なのだと思います。人と人は個で立ち入れない部分があるからこそ、喧噪の中でも自由に考える事が出来る孤独があるのですし、それはずっと隔絶されて一人だけ置き去りにされたような孤独とは違います。必要に応じて手を繋ぐ事が出来るけれど、相手を束縛しない程度に見守って暮らしている、そうして今日のストレスが解消され、明日からまた仕事に向き合う事が出来る、そのようなご家庭が多いのかも知れません。子供は、時には大人も、辛い時には家族に、棘だらけの自分を素手で受け止めて欲しい、そう思う事があっても不思議ではないと思います。社会が複雑か否かにかかわらず、多分、昔も今も、そしてこれからもそうなのではないでしょうか。

6月15日、船の痛手

知床で沈没した遊覧船が、先日約一か月ぶりに引き上げられました。まだ行方不明の方々がいらっしゃいます。この船は確かに物ですが、もし船に心があるとすればどんな気持ちなのだろうと考えてしまいました。作られてから長い間、遊覧船として働いて来たのでしょう。知床でも、沢山の人を乗せて何度も何度も港と知床半島の海を往復し、喜ぶ子供や高齢の方達、家族連れや友人と旅行中の人達などと出会う、人間の喜ぶ顔を見るのが嬉しかったのかも知れませんね。それなのに、最後に乗せた人達が冷たい海から誰一人無事に帰る事が出来なかったのです。何とか助けてあげたくてもどうする事も出来なかった船はどんなに悲しく、無念だった事でしょう。船体の下はともかく、大破してはいないと報じられましたが、どれほど傷ついた事か、私には引き上げられた船が虚脱状態の人のように見えました。防ごうと思えば防げる事故だったでしょうに、亡くなられた方達やご家族が本当にお気の毒です。まだ行方の分からない方々のご家族はやり場のないお気持ちだと思います。せめて何とかご家族のもとに帰る事が出来るよう祈るばかりです。このような事故がもう起きる事がないようにするために、法の整備や遊覧船を運行する会社への立ち入り検査が厳格に行われる事が大切ですが、一番な大切な事は、人の命の重さを肝に銘じる事ではないかと思います。今回も尊い犠牲によっての向上、という事になるのかと思いますと、容易に言葉になりません。

6月10日、葛藤状態

平成に、札幌に行ったことがあります。深く美しい紅葉が終わる頃でした。もう少しすると、新千歳空港から乗った電車が地上に出た所に白樺に似た木があり、少し雪が積もっている、冬の始まりの美しい季節になるという時でした。初めて見た時、まるでトナカイの脚に見紛うようだ、と感じたものです。さて、晩秋の札幌では、宿泊しているホテルのバイキング形式の朝食には北海道の海の幸や肉、野菜、果物など沢山の料理が彩りよく並んでいました。窓の近くに座ると、外はかなり寒そうで、通勤の為に駅に急いでいる人達が途切れる事なく歩いていました。その、人の多い歩道の落ち葉をかなり高齢と思われる男性が掃いていました。掃除をすれば綺麗になりますし、お元気だからそのようにして働いていらっしゃるのでしょう。それは誰にとっても良い事なのだと思います。けれど、このような光景を見ているうちに私は食事を楽しむ事が出来なくなりました。理屈ではないのです。早く食事を済ませて掃除を代わりたいと思いました。中に入って熱いコーヒーを飲んで欲しい、そういう気持ちになるとは自分でも思ってもいない事でした。田舎でご近所も大家族ばかり、見知らぬ人がいないという環境で育ちましたので、何となく、高齢者を労わる事が当たり前になっていたのでしょう。労わる事は見下している事ではないけれど、思考と感情や感覚が葛藤という状態になってしまったのです。それで、何日分かの朝食券の払い戻しをして、部屋で手軽な安い物で朝食を済ませる事にしました。その何日かの間、私は朝外に出ると、その方におはようございますと言っただけでしたから、誰も私の不思議な葛藤を知りません。自分というものは、いざという時にならないと案外自分にも分からない部分がある存在、私の心の中にはいったいどれほどの数の部屋があるのでしょうか。

6月5日、パソコンのお姑さん

この事は考えると含みのある事なので、今日もまたお話ししようと思って記しました。五年以上前の事なのですが、パソコンが突然壊れました。私が初めて覚えて使ったのはVistaでした。もう直す事が出来ないと言われ、痛い出費でしたが新しいパソコンを買いました。何とか使い始めたこのパソコンはWindows10だったものですから、以前使っていたものとは随分違うのです。使い方が分からなくなる度にインターネット検索、という有様で、使い勝手が悪いと思い、途方に暮れる事がありました。以前のパソコンが辞書や資料、大学ノートが一緒になったようなものだとすれば、新しいバージョンのパソコンは三次元の広がりがあるような多機能のもの、と私には感じられて、いらない事をしないで欲しい、選択の自由がないのに、と愚痴をこぼす事もありました。その時、気付いたのです。お嫁さんが夫の両親と同居して日の浅い頃、会社に勤めていて夕方帰って来るとお姑さんが夕食の支度をして待っている、優しい人だけれどお互いに遠慮があり気を使っている、とします。今では同居は少ないでしょうが。お嫁さんは実家と同じ献立でも料理に使う素材の取り合わせや味付けが自分の母親と違うとか食卓で話題に上っている夫の親戚の名前やその人の子供の頃のエピソードなど知らないので話の中に入れない、食事が終わって台所で食器の片づけをしていると皆でテレビを見て笑っている、それらは誰かがお嫁さんを仲間はずれにしようとしてやっている事ではありません。気を使いすぎるのもかえってお互いに疲れて長続きしませんから、ごく普通の日常の一コマなのです。でも、お嫁さんは台所で自分の居場所がないような気がして息苦しくなり、ドアを開けて外に出てみると、星が瞬いていて、訳もなく実家の親が恋しくなる、このような経験をなさった方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのような話を知り合いから聞いた事は何度もあります。カウンセリングをしているのではないので、ついなんとか慰めたり励ましたりしたくなってあれこれ言った事がありました。けれど、そんな時はただ一生懸命聴く事に徹すれば良かったのです。彼女はただ黙って聴いて欲しかったのでしょう。傾聴の大切さという事です。もしかしたら自分の経験したことのない、とても辛い経験をして来た人の話の聴き方や、共感するという事にも不十分な点があったのでは、など深く思いました人の感情のグラデーションは千差万別です。傾聴や共感はカウンセリングのイロハなのですが改めて考えさせられました。それは、Vistaが実家の母親で、Windows10が悪意などないお姑さんのようだと思った所から身に染みて感じ、気付いた事なのです。パソコンを買い替えざるをえなくなった事が自己を省みる一つのポイントになろうとは夢にも思いませんでした。まるで、VistaとWindows10が連携し、私を見守り、育ててくれているおかあさんのように思えて来ます。

5月31日、記憶されるという事

マリウポリ、ドゥブロブニク、ナゴルノカラバフ、皆戦争で覚えた地名です。地名や人名はこういう事でなく知りたいですね。チェコスロバキアのドゥプチェク第一書記が、1968年、当時のソビエトに連行されたという事がありました。プラハの春という、ソビエトによるチェコスロバキアの民主化要求への弾圧でしたが、チェコとスロバキアが別々の国となってからの1992年にこのドゥプチェク氏がスロバキア連邦議会議長に選出されたというニュースに私は驚き、長い間行方不明だった友人に再開したような喜びを感じました。窓が開けられて光が差し込んで来たかのよう、とでも言ったら良いのか、長年の重石が取れたような明るい気持ちになったのです。見ず知らずの人なのですが人が無事に生きている事は嬉しい事です。新聞で読んだ人名は、このようにして覚えている事があり、気がかりな事は自分に直接関係がないと思える事でもいつまでも気になって心の中にメモされているのです。それは小学生位の時からですので、断片的でコラージュのような記憶を引っ張り出してつなぎ合わせる事や、付随する出来事の記憶が思い出されてつながる事が比較的多い、という事になります。ですから、人間は一体どのくらいの分量の、いつからの見聞きした事を記憶しているのだろう、と不思議に思う事もしばしばです。どのような事を記憶しているのかは人によって違うのでしょうが、やはりその人にとって日常の中で鮮明に心に残る大切な出来事、おそらく喜怒哀楽を伴っている事が心に残りやすいのではないかと思います。それで、生まれてもうすぐ二年という時の、七五三の日に、両親と神社にお参りに行く時に、家から道路に出る坂で一歩踏み出して転んだ時の事が私の心に強く残っているのでしょう。あれは、多分覚えている出来事の中での一番初めの挫折の記憶なのだと思います。それで私は石橋を叩いて渡るような性格が助長されたのだろうと思うのです。やり直しはきかない、そう思った事は、今もスローモーションのように覚えている転んだ感覚と共に残っていますから。起き上がった私を、父がすっと抱き上げたものですから、結局そのまま神社に行ったのです。歩きたい、と言う間もなくあっという間の事だったので、今も自分で歩き続けなかった事がくちおしいと感じている、随分前の事なのにこのように覚えているのは、その出来事が意味のある一つのポイントだったからだと思えるのです。偶然だと思った事が後で考えると必然だったのでは、という事もありますし、自分が選択したと思える事も、その選択に至る環境や、自分が選択の幅を広く考える事が出来るかどうかなど、様々な要因があるように思います。何をどこまで理解出来るようになるのかと考えますと、自分の心の奥深くほど分からない部分の多いものはないように感じます。もしかしたら自分の心がどこまでも分かるというものでもないというのは良い事なのかも知れませんね。

5月27日、今必要とされている所で

ソマリアでは、政府と対立する過激な考えに基づいて行動する組織が今もあるそうです。そこに入る若者は多く、十代の人達もいるのですが、その理由は貧しいからなのだというのです。そこに行って、投降したり逮捕されたりしたこの若者達の考えを聴き、彼らの学ぶ事や職業訓練などの手助けをしている日本人の男性の日常の活動の様子を伝えるテレビ番組を見ました。今一番必要とされている所の一つで、一番必要な事をしているのですね。ですがそこは非常に命の危険がある場所なのです。構築して来た事がこの先どのようになるのかも分かりません。それでもそこに行って活動をする人が確かに必要です。私が若かったら自分もこれに近い事をしたいと思ったかも知れません。しかし、今自分の家族や友人が行って活動したいと言ったら私は、簡単に賛成は出来ないだろうと思います。命の危険があるので心配だからです。今一番必要とされている場所で必要とされている事をするという事は、最も難しい事の一つと言えるのかも知れません。そのように思うのは、自他について分からない事の多い私の心が揺れ動いているからで、その理由は先が読めないからだと思います。でも生きているという事はそのように、考えながら省みながら自分の心の奥に入って行く、そして人といかに共存して行くかを、おぼつかない歩みでもゆっくりと続けて行く事ではないかと思っています。

5月23日、翌日の萩

戦争が続いている不安、痛みなど感じる毎日です。ウクライナで非人道的な物が使われたと報じられていますが、そもそも戦争は非人道的なもの、太平洋戦争中東京や横浜など日本各地にも、焼夷弾が雨霰と降って来た、つまり投下されました。戦争の為の武器がなかったら良いだろうにと思います。それは人間が研究開発したものに他ならないという非常に重い現実を私達は背負っているのですね。ところで、平成になる前に仙台に行った事があります。暫し風流というものに浸って息継ぎをしたいと思います。お許しください。九月のある日でしたが、時間の都合で萩祭り当日の野草園には行く事が出来なくなりました。その翌日、どうしても帰る前に行って見たくなり、朝の内に野草園に行きました。ですが、綺麗なミヤギノハギがこぼれる様に咲いていただけではなかったのです。昨日の萩祭りの余韻が残っているようで、華やぎや賑わい、夜も風情がある光景だったであろう事が感じられ、まるで、静かではあるけれど昨日の続きの中にいる、と感じました。一番美しかった野草園の萩、それをちょっとだけ過ぎた翌朝は宴の後の、完全に片付いてはいないようでいて盛りを過ぎ始めた庭です。やがてやって来る秋の終わりの寂しさも見え隠れしている、そういう不思議な萩の庭でした。今そこに立っている事で、過去や現在だけでなく未来もが映像や音で、想像ですが感じられた、それは時間の連続を体感したという事で、このような経験をする事は滅多になく、深く心に残る旅でした。やがてそこは、見渡せば花も紅葉もなかりけり裏の苫屋の秋の夕暮れ、という私の好きな短歌に通じる光景のようになると思うと、みちのくの秋は私にとって日本の原風景だから心惹かれ、郷愁を感じるのだと気付きました。ですから、心が温かくなるような旅でした。

5月18日、家族心理学会

それは平成五年の家族心理学会の大会の日の事です。日本女子大が会場で、確か家族における愛と親密というテーマだったと思います。昼食をとるためにセルフサービスの店に入った私は、うどんを食べ始めました。その内、ぼつぼつ席が埋まり始めていた店内に親子連れが入って来ました。母親は注文したものを持ち、席について食べ始めましたが子供はゆっくり考えているように見えました。それから暫くして食べたいものを母親に言うと、母親は自分で注文して来なさいと言いました。まだ幼稚園の年長にもなっていない子でしたが、そのように躾けている人だと、最初は思いました。ところが、母親は食べながら色々子供に言うのです。お父さんは仕事をしているからお給料を貰ってくる、私はそのお金で家の事やあなたの事をしている、だけどあなたは働いていないじゃない、そう言った時、店内が一瞬静かになりました。母親は食べ終わっていたのですぐに席を立ち、子供は時々上目遣いに母親を見て小さな声で泣きながらその後をついて二人は店を出て行きました。短い時間でした。私は何とか声をかけたいと思ったのですが、よほど言い方に気をつけないと、母親を非難しているようになります。人目がありますし、目的はこの人を言い負かす事ではありません。私の関わり方によっては家に帰ってこの子がどのように親に当たられるのかと思うと、何も言えなかったのです。それに、どこに市役所や児童相談所などがあるのか全く分からない初めて降りた駅でもありました。どのように声をかけるかという事だけではなく、その後どう話すか、突然の事で何も頭に浮かんで来ませんでした。この子の様子から、おそらくこの日だけではあるまいと思われ、大変気になりました。私は家族心理学会の大会に出席するために来たというのに考えあぐねてただボーッとして黙って見ていただけ、何のために居合わせたのか、そう思うとこの大会の間中ずっとやり切れない気持ちでした。出来る事があった筈、何とか話しかければ良かった、その後悔はあの子の目と共に今も私の心の中に残っています。親が家事や育児などにイライラし、ストレスが溜まってついこのような関わり方になる事は、ある程度はありがちな事で、母親を労わったりじっくり話を聴いて理解しその存在を認める事が、子供への関わり方がやがて変わって行く事につながるので、今はそのように心がけています。でも、あの時のあの子は心細そうでした。いつもお母さんの顔色を見ながら後ろ姿を懸命に追って、振り返って欲しいと思っている、疑問を持ったり希望を失いそうになったりしながらも、やはり母親の愛情を求めていたのだと思います。お母さんは痩せていて、表情や身のこなしに一分の隙もない、といった方でしたから、気持ちのゆとりが全くない状態だったのかも知れません。気になる親子連れに出会った時声をかけると、母親の表情が和む事が多いのですが、やはり迷う時もあります。でも、あの時のあの子の目を思い出すので放って置けない、極力全体の様子を見ながら話しかける、いつのまにかそうしています。あれからどうしているのか、あの子はどんな大人になったのだろう、今は幸せなお父さんになっているのだろうか、そう願いたいけれど。本当に御免なさい、という気持ちが今もあります。これは、私にとって心残りの出来事なのです。

5月15日、藤の花を瓶に挿す

平成の二桁位の頃から四月から紅藤や早咲きの牡丹が咲くようになって来ました。その頃芍薬の蕾も日に日に育っていますし、ツツジも咲いています。年々早くなっている花に漠然とした不安を感じます。温暖化の進む地球が招いた事を目の当たりにしてあまり花を愛でる気持ちにはなれません。花に申し訳ないですね。せめて、と思って紅藤が咲いている時に切って仏壇に供えましたが、藤を切り花にするのはそう難しくありませんでした。簪のように下に垂れ下がっている様子は華やかで、香りも良く、風情があります。瓶にさす藤の花ぶさ一ふさはかさねし書の上に垂れたり、という正岡子規の短歌は確か小学六年生の時に習いました。病臥している子規と、文机の上に置かれた藤の花の活けてある花瓶、机の上に置かれている何冊かの書物の上にその藤の紫と白の花房が垂れている様子が、読んだ瞬間にパッと目に浮かびました。子規は下から見上げているのだろう、と思いました。和室と文机、今では見た事のない子供も多いかも知れません。若くして亡くなった子規がどのような思いでこの藤の花を見ていたのだろうか、藤の花を重い物として感じたのか、それとも風に揺れる事もあるので軽いものと感じたのか、それは自分の病や命と思い合わせての感じ方だったのだろうな、と思った事を今も覚えています。教科書のこのページが、毎年藤の花を見ると浮かんで来ます。ですが、今年の春は考えさせられる事の多いひときわ重い春です。

5月11日、子供の心に残るもの

連日ウクライナの状況が報じられています。先日ウクライナ東部から非常に離れたある駅までたどり着いた高齢の女性が、列車に乗って国外に避難しようとする時、ロシアは私達を一体何から、誰から解放すると言うの、と呟いた言葉が、おそらくウクライナの多くの人達の気持ちなのだろうと思います。彼女を乗せた列車は次第に遠ざかって行きました。その時から、私の心にこの言葉が残っています。怒りや悲しみよりもあっという間に変わってしまった日常に疲れ果て、先の事をゆっくり考える事はおろか安心して眠る事すら出来ない日々だったのですね。何時どのような形で平和が戻って来るのでしょうか。戦争が終わっても、凄まじく破壊された街の復興は大変な事です。亡くなった人達はもう戻っては来ない、そのような中で人間は赦すという事が容易く出来るものではないように思います。憎しみの連鎖が始まるとなかなか相手への不信感は消えません。もっとも、今はそれよりも何とか早く戦争を終わらせるという事が最優先ですが。人の移動が速く大量に出来て物流も盛ん、という現代なのだから、戦争がこのように起きてしまうとは思ってもいなかった、というのは甘い考えだったのでしょうか。ロシアでは第二次大戦のドイツに対する戦勝を祝ったようですが、今自国は何をしているのか、少年達をかつてのヒトラーユーゲントのように組織している、と取れる様子に唖然としました。教育され身に付いた事は、素晴らしい場合は良いけれど恐ろしくゆがんだものであれば、白いスポンジのような子供の心に生涯影響を残し、その世代の人達をいつまでも苦しめると思います。今まで信じて来た教えが根底から揺らぎ、何を信じたら良いのか分からなくなるというのはその期間を失うに等しいのです。ですから偏った情報を与えて信じ込ませる弊害は大きく、自由に学び、知る事が出来る事が不可欠だと思います。戦後間もなくの日本も、同じような教育現場での変化が子供達に少なからず影響を与えたと思える事があります。今まで使っていた教科書の、例えば愛国心について具体的に教えるような文章に子供たちが指導の下に墨で黒く塗って読めないようにするという事があり、母の従兄弟は学校が信じられないと感じたそうです。どこの国でも、多分いつの時代でも、小さな子供達の目は澄んでいます。愛され、学んでのびのびと幸せに生きて行って欲しいもの、と私は心から思っているのですが、あれを思いこれを思ってとても辛い気持ちです。

5月6日、社会を映すのか

あさま山荘事件から今年で五十年、五十年というのは長いのでしょうか、短いのでしょうか。私は中学生でした。人質となっている人を助け出すために、あの建物の入り口の辺りを鉄球で壊し始めた映像をテレビで見たのは、確か二月二十八日のもう夕方でした。それから五十年後の自分など想像もつかない当時でしたね。ですから感慨深いようにも思えます。あの事件から連合赤軍の殺人事件へと捜査が進められて行き、凄惨な事件が判明する糸口となったかのような象徴的な映像でした。あの、鉄球で壊され、風穴が開けられた所を私達は見たのだという現実、それは今この瞬間も動いている世の中の一端を知った事になるわけで、木枯らしが吹いているようにも思える社会を、僅かながら体感した、ザラッとした大人の社会のある部分に触れたという事だったのです。新聞を正確に読む事が出来るようになるためには、漢字が読めたり単語の意味が分かるだけではない、複雑な大人の社会やそのメカニズムが理解出来るようになる事が必要で、言葉の裏や行間が読めるようになるのが不可欠なのでしょう。あさま山荘事件から歳月は流れ、平成七年に地下鉄サリン事件が起き、社会を震撼させました。あの事件に関わった中枢の人達も若く優秀な人達でした。私はこの部分が共通点であると思うのです。勿論どちらの事件も、若い人や学生が皆そのような事にかかわっているわけではありませんが、考える力と時間が何故そのような事件へと彼らを向かわせ、内向きの小さな渦のような閉鎖的な集団を形成し、抜け出せなくなっていったのかは、コントロールが巧みであったというだけでは説明出来ないように感じられます。性急な時代の変化の中での過渡期に起きたのかどうかは、二つの事件の時代背景が違いますから、私には何とも言えません。ですが、これからも事件は社会を映す鏡、という側面があるのではないかと思います。ですからこの先も、驚くような事件が起きる事は十分にありうるのでしょう。もっと言えば、社会病理なのかも知れない、私にはそのように思えるのです。どちらも事件なのですから被害者がいらっしゃいます。亡くなられた方のご冥福をお祈りし、今も治療の必要な方々の一日も早いご快癒をお祈り申しあげます。ご家族を亡くされた方々にとって、事件は今も大きな痛みであろうと思いながら振り返った出来事です。

5月1日、東千田町で

平成四年五月、広島市中区の東千田町に私は立っていました。片側二車線の道路を横断しようと思い、信号が変わるのを待っていたのです。すると、斜め向かい側のクリーム色のような建物が見えました。赤十字原爆病院の古い建物で、そこには一筋の黒いしみが残っていました。原爆投下後の黒い雨の跡だったのです。本で読んだり話に聞いた事はありますが、実際に自分の目で見たそれは想像とは比べ物にならない程強い印象を受ける重いものでした。多くの亡くなった方や傷ついた方々の、痛みや苦しみ、原爆投下の一瞬の後の一変した街などが目に、胸に迫って来るようでした。原爆が投下される事を知らず勤労動員で広島の町にいた少年達の事が映像と共に語られた、いしぶみというテレビ番組が私の脳裏に浮かびました。かつて杉村春子さんのナレーションで、母と見たものです。一人の少年の事を語り終えると、つまりその少年がどのようにして亡くなったかという事が語られると、その人の名を刻んだ、まるで位牌のような薄いいしぶみがパタッと前に倒れるのです。その黒い雨の跡は、広島大学でのカウンセリング学会の大会中、ずっと私の心の中にあり、いしぶみが次々倒れる映像が目に浮かんでは消え浮かんでは消えしていました。丁度牡丹や芍薬の咲く季節で、宿泊したホテルの近くの花屋には色とりどりの芍薬が沢山並んでいました。私にはローズピンクの芍薬が愁いを帯びているように感じられました。すぐそばに忍び寄っている死のかげが見え隠れしているような切ない美しさとバラを思わせるような芳香に惹かれ、様々な色の芍薬の中で際立っているように感じられ、いつまでも店先を離れる事が出来ませんでした。あの花の事は生涯忘れないだろうと思います。平和公園に行って献花し、近くの店できつねうどんを注文したら、飲みやすいように細かく砕いた氷が沢山入っている水が出されました。被爆し、水を求めた人達が川に入って行った、水を飲みたいという人に、亡くなるといけないので飲ませないでいたけれど亡くなってしまった、それなら飲ませてあげれば良かった、そのような話を思い出し、私はこの人達に、私の前に置かれたこのコップの水をせめて一口飲ませてあげたいと思いました。涙がぽろぽろこぼれて、運ばれてきたうどんの丼の中に入りました。私は泣きながら食べたうどんの味を覚えていません。捨てられては勿体ないと思って飲んだ水は喉につかえるようでした。私にとって、もしかしたら一生の内で最も貴重な一杯の水だったのかも知れません。

4月27日、牡丹が散る時

庭に咲いていた赤に近いピンクの牡丹を花瓶に挿して三日目、その花を見ていた時に花びらが散りました。散る瞬間を見る事は滅多にありません。花びらが一枚スッと下に落ちました。それから数秒して数枚の花びらが畳の上に散りました。下に落ちた瞬間、どこに落ちたかによって、例えば紙や畳などの材質によって落ちた音がバサッと聞こえる事もあるのですが、散る瞬間、あるいは下に落ちるまでの短い時間には音がしないというわけでもないのですね。音がないようでいて、逆に音を感じるのは静かすぎるからなのか、自分の目に映った花びらの色と姿が印象に残るからなのか、はっきりと言い切る事が出来ません。フラメンコダンサーが突然くず折れたような強烈な印象です。明るく快活でメリハリのあるフラメンコを踊るダンサーにも、人には告げない人生の悲しみがあるのでしょう。牡丹は満足していたのか、それとも名残惜しいのか、あるいは何も考える事なく自然に散ったのか、分かりません。今この瞬間のこの花と今日の私は一期一会、このほんのわずかな瞬間が積み重ねられて時間が過ぎ、歳月が過ぎて行く不思議な当たり前を味わったような気がします。私はどのような存在の何者なのか、時間はいつからあって一体どのようなものなのか、答えは簡単には出ない、難問です。ただ、時間は何時も人間を過去から現在へ、そしてその現在から未来へと連れて行きます。一瞬たりとも止まってはいません。動のような、静のような牡丹の花の一生に魅了され、異次元に迷い込んだかのようです。それは、暫し思考や感情、感覚がいつもとは違う場所に行った、という事のようで、不思議なひと時でした。散った牡丹の花びらは、せめて今日一日白いハンカチをかけてそっと休ませておく事にしました。良い香りの美しい花と、散り際を見せてくれた事への私のせめてもの感謝の気持ちです。別の牡丹はまだ咲くでしょうが、この花とはお別れ、寂しくなります。一輪一輪の花も人間と同じように、余人をもって代えがたい存在なのだと思っています。散る直前の牡丹は命が輝き、壮絶な美しさだったものですから、いつまでも私の目にも記憶にも残ると思います。

4月20日、沖縄国際大学でのカウンセリング学会の大会

平成六年、カウンセリング学会の沖縄国際大学での大会に出席した時の事です。何社もの出版社から出ている専門書が割り引かれた値段で買えるのも魅力なので、私は唯一切り詰める事の出来る食費を切り詰めていました。宿泊したホテルは新しく豪華で、決して私には安いとは言えない所でした。最後の日だけそこで夕食を頂きました。エレベーターでお会いしたある先生が、貴方はこのホテルのレストランではあまり召し上がらないのですね、とおっしゃいましたが、私は返事に困りました。お金がないからです、とは言い難かったからです。大会が終わった翌日、糸満のひめゆり平和祈念資料館に行くコースに申し込んでいたので、バスで行きました。雨がしとしと降っている国道の両側にはサトウキビ畑が広がっていました。戦争末期には島が戦場になったのですから、ここにサトウキビ畑はなく、夜に水を汲みに行くのさえ命がけだったのだと思います。亡くなった方を葬る事すら出来なかっただろうと思いました。でも、私はまるでサトウキビの葉がフィルムのように当時を記録しているかのように思われてきました。平和祈念資料館は、入って上を見るとモノクロの大きな写真が沢山あります。これは図らずも遺影となってしまったのですね。ひめゆり部隊の方達のお写真です。私は、皆綺麗な澄んだ目をしているこの方達にじっと見つめられているような気がして来ました。私達の事を知っていますか、戦争を繰り返さないように日頃貴方はどんな事をしていますか、と問われたように思ったのです。暫く、雷に打たれたように身動き出来なくなりました。館内で、質問した人に説明している方はひめゆり部隊で生き残った方です。どのような複雑な思いで、痛みを感じながらこの場にいらっしゃる事かと思いました。ありきたりな言葉はかけられなくて私は結局黙っていました。その日、ホテルに戻って、清水の舞台から飛び降りたつもりでホテルのレストランで食事をしました。若いウエイトレスさんはとても感じの良い方で、観光ですか、と私に話しかけてくれました。私は何か言いたくなって、もうすぐ慰霊の日が来ますね、と言ったのです。その瞬間にこの人の目が変わりました。まるで、肉親を見るような目で私を見たのです。そして色々沖縄の見どころなど話してくれました。短時間ではありましたが、私はとても密度の濃いコミュニケーションだったと思っています。彼女は戦争の時の事をよく知っている、そして今まで本土からの観光客の心ない言動にいかほど傷ついて来た事か、そのように思って、恥ずかしくて顔が上げられなくなりました。あの時の事はこれからも決して忘れないだろうと思います。そういえば、那覇空港に着陸するために飛行機が高度を下げ始めた時、私は誰かにドンと背中を突かれたような気がしたのです。これが戦場となった沖縄だ、よく見ておきなさい、そう言われた気がしました。帰りの飛行機が離陸しやがて水平飛行という状態になった時、やっと私はのびのび呼吸が出来るようになったと感じました。沖縄に鎮魂の思いを持って訪れたと思っていた私は、贖罪の気持ちも持っていたからずっと肩身が狭かったのだとその時気付きました。私は極めて不出来な人間ですが、この時自分をちょっと好きになりました。以前にもお話しした事なのですけれど、ウクライナが戦場となっている今、もう一度戦争というものの理不尽さを心に刻むつもりで繰り返してお話しさせて頂きました。いうまでもなく、日本は島国で、ロシアや近隣諸国と国境を接している現実の重さと難しさをひしひしと感じている今日この頃です。同じ人間なのですから何とか共存して行きたいですね。

4月16日、赤ちゃんの声

新型コロナウイルスワクチン三回目の接種に行って来ました。病院の待合室で泣いている赤ちゃんをお母さんがあやしていました。静かです。こういう日常が当たり前だという事が平和なのですね。この赤ちゃんがすくすく育って幸せに生きられるよう心から願わずにはいられません。私達は石鹸で手を洗う事ができ、マスクを買う事もできます。もう泣く事が出来なくなった赤ちゃんがウクライナに一体何人いるのだろうか、今日もその人数が増えて行くのだろうと思うと、三回目の予防接種を受ける事が後ろめたいように思えて申し訳なく、複雑な気持ちになりました。それにしても、ウクライナのまちをあれほど破壊して不毛の地にしようというのでしょうか。避難者が集まる駅にミサイルが着弾し大勢の方が亡くなったという報道の中で、そのミサイルの残骸に、子供達へ、とロシア語で記されていたという部分を読んだ私は慄然とし、言うべき言葉が見つかりません。

4月10日、錯綜する

戦争が起きたからなのか、かつて見たこの番組をよく思い出します。イスラエルの秘密警察のような組織に属していた人へのインタビューで、彼は第二次大戦後、アルゼンチンを訪問した自国の大統領と共に、専用機でその国へ赴きます。内偵し、突き止めてあった、ヒトラーに最後まで最も忠実であったと言われているアドルフアイヒマンを拘束し、帰国時に本国に連行するという任務を遂行した、そのような内容でした。アイヒマンはイスラエルでの裁判で死刑になったそうです。ヒトラーに最後まで忠実であった事と、幼少時に実父から虐待を受けていた事には、関係があるように思われます。ですが、何となく眠れないのでテレビを見た、夜11時過ぎの事であり、途中から見たものですから、残念ながら彼の名前は今も分かりません。彼はユダヤ人で、強制収容所に入れられましたが無事に生き延び、イスラエルでそのような任務を遂行する立場の人となりました。アイヒマンの事をさぞ恐ろしい人間だろうと思っていた彼が、南米での内偵時に見た現実のアイヒマンはごく普通の子煩悩な父親であった事に衝撃を受けた、そう話していた事が忘れられません。番組の最後に、取材者と共に、今では廃屋となっているかつての我が家の残る故郷の村に行きます。単線の線路付近を話しながら歩いていると、遊んでいるらしき数人の子供達に出会います。よく見ると、どうも一人の子が虐められているように見え、その時彼は、小さなアイヒマンはどこにでもいます、とサラッと言ったのです。私はドキッとしてすっかり目が覚めてしまいました。小さなアイヒマンと思えるところのある人間は多分いつでもどこにでもいるのだと思います。ではどのようにかかわり、育てて行けば良いのか、とても難しい宿題を背負わされたような気がしました。あの時、私は未来への課題を思いましたけれど、彼はきっと廃屋を見て、おそらく収容所に入れられ、未だに行方の分からない母や妹と暮らした頃への懐かしさ、そしてもうその頃には戻れないという悲しみ、などが心に溢れんばかりだったのだと思うのです。それは、この日この場所で、この話から、未来を思う私と、過去を思う彼とが出会い、反対の方向へ歩き出した瞬間だったのだろうと、今も思っています。その晩私は一睡もできませんでした。ごく普通に生きている人の巨大な色濃い影は一体どのようにして生まれ、育って来たのか、プーチン大統領に圧倒されそうになればなるほど、対角線上にいる私達が善人なのではなく、今の社会の毒々しさを表しているように思えてならないのです。NHKフランス語講座の、オペラ、ペレアスとメリザンドの最終回の場面の言葉が深く心に残っています。メリザンドという女性が赤ちゃんを残して亡くなるその場面での、人の魂は寡黙なものだ。一人で立ち去るのを好む、という言葉なのですが、それは本当にそうなのか、どのように生きればそういう終焉を迎える事になるのだろうか、などと、今まで見聞きして来た事の断片が頭に浮かんでは消え浮かんでは消えして行きます。その断片を繋ぎ合わせての咀嚼がなかなか出ず、半分水の中に浸かって流されながらぼんやりしている心、何か今の自分がそんな風に思えて来ました。考えたい事は山積みですが、少し疲れているのかも知れません。

4月8日、思いがけない心

ウクライナでロシア軍が多数の民間人を虐殺、というニュースに唖然とし、時代がどんどん逆戻りしているように感じます。時計の針の動きとは違う、普段とは逆向きにグルグルと回転しながら押し流されて行く自分のイメージが浮かび、ゾッとしました。同じ人間として恥ずかしい、このような言葉がニュースを聞いていた自分の口から出て、涙がこぼれました。それは決して自分と同じ人間だと思うのが嫌だからではありません。同じという事の意味がとても重い手ごたえであり、凹凸のある底に触って痛みを感じた、とでもいうような感覚なのです。それにしても、まさかこの言葉が最初に自分の口をついて出るとは思ってもいませんでした。自分の心の奥深くは本人にも容易に知る事の出来ない部分が随分あるものだと改めて感じました。自分がされて嫌な事をしない、自分の家族の前で出来ない事はしない、これだけ心に留めて置いたら戦争は起きないのかも知れません。戦争、特に戦場では人間は獣になる事がままある、そして憎しみの連鎖が始まり、なかなか戦争を客観視出来ない、口伝えの生々しさが十分生きている間は、という事なのではないでしょうか。そのような戦いを人間は何故繰り返すのか、私も決してとても善良な人間とは言えませんけれど、人間とは一体どのような存在なのだろうかという答えの出ない事を自分に問う、心が押しつぶされそうな日々が続きます。結論はいつか出るのでしょうか。新型コロナウイルス、戦争、何か今までとは違うステージに入ってしまったような錯覚にとらわれます。自分の中に構築されて来たもの、自分の持っていた筈の心が、侵蝕されて行く、蝕まれて行くとでもいうように思えてきます。適応出来るように成長して行く、というのとは明らかに違うと感じています。

4月4日、水色と悲しみ

四歳くらいの頃、襟の縁が水色のブラウスをとても気に入っていたのですが、洗濯をするから着替えるようにと言われます。そうすると私は必ず抵抗しました。でも優しく、その内叱られるなどして、着替えました。着替えたブラウスの襟の縁取りが紺色ですと、これも好きだったので、意外とすんなりさっきまで着ていたブラウスの事を忘れてまた遊び始めました。ところが、別の日に、このブラウスを洗濯するから着替えようね、と言われるとまた私は抵抗しました。そう沢山の衣類があったわけではありませんでしたけれど、この二枚のブラウス以外のものに着替える場合もあったのです。着替えた後に悲しくなってしょんぼりしていた事などよく覚えています。この二枚のブラウスだけがとても好きで、一度着たら手放したくないと執着する子でした。石のようなもので出来ていた台所の流し台のそばで忙しく立ち働く母や祖母に背を向け、低い椅子に座ってままごとをしたり鉛筆で絵を描いたりして遊んでいると、着替えたばかりのブラウスの着心地がどうもしっくりせず、違和感ばかりが大きくなってきます。すぐそばにある脚付きのまな板に目をやると、台所の光景がいつもとは違うものに見えて来て、よそよそしく感じるのです。それは突然連れて来られた、いるべき場所、安心できる場所ではない所にいる孤独を感じているとでもいうようなものでした。多分かなり短い時間そのように思っていたのでしょうが、不思議とよく覚えています。食べ物の味や匂いなどにはわりと敏感で好みがありますが、どうしてもそれにこだわるわけではありません。まして人の作ってくれたものには気持ちがこもっているので不満は言いません。でも、食べ物も着るものも、好みにピッタリだと感じたものには執着するようです。この記憶についてはもっとじっくり向き合ってみたいと思っています。それで、ふと思いました。この、三次元から突然二次元に連れて行かれたよう、ごつごつとした、灰色に塗りたくられた画用紙の世界に投げ込まれたような気持ちは、今のウクライナの人達の、非日常が突然日常になってしまったような状況といくらか似ているかも知れない、と。でも、ウクライナの今は私の子供の頃の思い出と安易に比べる事が出来ない厳しく恐ろしいものだという事も十分分かっています。突然何もかもが変わってしまうと、今までの自分の経験が役に立たないと感じ、なかなかついて行けない、不安が大きくなりますね。好むと好まざるとにかかわらず未知の世界に生きている今、とても複雑な悲しみや苦しみ、憤り、嘆き、あらゆる感情や様々な思いが心の中にあるだろうと思います。どうか生きていて頂きたいと願うばかりです。平和な日々への一歩はいつ踏み出せるのでしょうか。

3月29日、色の濃い影

今一番危険な場所にいる人達に一番必要な物を迅速に届ける事が出来ない、郵便局で、ウクライナへの人道支援に僅かですが寄付をした帰り道、そのように感じ、歯がゆいと思いました。でもそのようにしか出来ないのです。まちが戦場となり、非戦闘員が命を落とす、生まれたばかりのへその緒のついた赤ちゃんも産院で亡くなる、爆撃で路上に横たわる赤ちゃんにすがって泣く母親、私はこの映像を一生忘れないでしょう。プーチン大統領が戦争を始めたのだから悪い、そういう人が多いですけれど、もしこのプーチンという人がいなかったら確かにこの戦争は起きなかったかも知れません。でも、このような残忍な戦争が絶対に起きないとは言い切れないのではないでしょうか。ある一定の条件が整えば、同じような事を始めてしまう人間は他にもいるような気がしてなりません。自分が良くないと思っている事は、自然に学習する、教えられて決してしないようにして来た事だと思うのです。言い方を変えれば誰にでも決してしてはならない事をしてしまう可能性がある、最もそれがどの程度の事なのか、という点に差はあるでしょうが。そのように考えると、決してしてはならない事をしている人は社会に何とか適応して生きている自分が、してこなかった事をしているわけです。それはまるで自分の影のような存在で、理解できないと、目をそむけたくなるような人だと思うのです。でも、人間には影があります。ですから嫌いだと憎んで影を亡き者にしてしまう事は出来ないのでは、と思います。それでも、今回のような途方もなく大きい影に遭遇するとたじろいでしまいます。私はこんなにも色濃い影を持っているのだろうかと考えますと、一体どのように影を理解し、和解して生きて行けばよいのか、とても難しい事で、迷宮の扉を開けて中に足を踏み入れてしまったような気がしています。影が他者を大きく傷つける、という事までしなければ許容できる場合もあるでしょう。それは、影への嫉妬や羨望があるからなのだろうと思うのです。魔が差すという言い方がありますが、これは普段抑圧して来た願望なのでしょう。魔はウイルスではないので感染するわけではありませんよね。人間は気付かなくても、好むと好まざるとにかかわらず、誰にでも心の闇という部分があり、何をどう考え、自分の心をどの程度理解し、折り合いをつけ、和解して、他者と共存して行くのかが一生の課題だと思えるのです。さて、どのようにして良いかは分かりませんがこの影の色と大きさがもう少し尋常なものに変わってくれないものか、毎日同じような事を考えています。今こんな時に悠長な事を、とお叱りを受けるかもしれませんが、このような事を考え続ける事は決して無駄ではないと思っています。今度は自分が、あるいは自国が取って代わってその価値観だけでイニシアチブを取りたいという人や国が、必ずあるのでしょうから。虎視眈々、実はあまり好きな言葉ではありません。

3月26日、十六度の部屋

電力供給量がひっ迫、節電に協力しなくては、という寒い日、お彼岸には珍しくこの辺りでも霙になりました。我が家には猫がいますので暖房はエアコンです。室温を16℃に設定しました。外から室内に入ると、これで十分暖かくてホッとします。勿論、ご病気でそのように設定する事が出来ない方や仕事によっては室温を下げられない、という方もいらっしゃると思います。節電というと台風15号通過後の停電、東日本大震災の時の事などが、昨日の事のように思われます。あの地震後、テレビで伝えられる被害の映像に言葉もなく、自分が温かい部屋の中で生活している事がとても申し訳なく思えて身の置き所もない思いになりました。出来るだけ節電をしたものの、自分の家でいつもと同じ布団に寝られる事にも罪悪感が付きまとい、余震は、衝撃を受けた心に瘡蓋を作る暇すら与えないとしみじみ感じました。16℃の一つの部屋という世界は、私に分かち合う事の意味や意義をもう一度教えてくれたと思っています。

3月23日、大丈夫ですか、運命共同体

新型コロナウイルスの変異株が次々と見つかる中、三回目のワクチン接種の予約をしましたが、いつまでこの状態が続くのか分かりません。これからは年に二回ワクチン接種という事になるのだろうか、その内ワクチンが改良されるかも知れない、副反応はどう変わるのか、などと、考えても分かる筈のない事を考えながら食事の支度をすると何かが足りない味がします。どこか上の空で作ったからなのでしょう。ウクライナの人達はマスクがなくて大丈夫だろうか、人道的な戦争などと言うものはないのだろうから、毎日死と隣り合わせ、憎しみの連鎖が始まるのではないか、口伝えは長い歳月生々しく生きており、戦争は良くないという当たり前の事に気付き、客観的に話せるようになるのには、戦争が終わってからとてつもなく長い歳月がかかる、こんな事も朝晩時間があると考えます。いくら考えても答えらしきものは見つかりません。袋小路に入ったような状態になりました。そのような事を思っていたある日、人から物が送られてきました。それは食品だったのですけれど、配達の方に、お名前大丈夫ですか、と言われ一瞬頭が混乱しました。多分、受け取るのだから署名して下さいという事だと理解するのには、頭の回転を良くするよう日頃気をつけておかなければならない、と思いました。以前にもお話ししましたが、千二百円になりますが大丈夫ですか、などと言われることもしばしばです。貴方はこの計算が分かりましたか、とか、あなたの財布に千二百円入っていて支払う事が出来ますか、と聞かれているように私には感じられます。ある時などコンビニで、画面に支払う金額が表示され、画面のOKという所にタッチするという説明に店員さんが、オケ押して下さいと言ったものですから理解するのに二秒くらい掛かりました。まだこのような方式になったばかりの頃の事です。一瞬おかみさん時間ですよというテレビドラマのお風呂屋さんが頭に浮かび、ここは何屋なのか、私は松の湯に働きに来たのか、などと思って、後で笑ってしまいました。これでは高齢の方には不十分な説明の仕方、という事になると思います。何をどれだけ分かっているのかは人によって違いますから、インターネット等が当たり前と思っている世代と、あまり使う事のない世代では、機械を使う時の手順の説明の用語がどのくらい分かっているかなどの前提が違うと思います。説明されている言葉そのものが分からない場合があるという事が、なかなか理解できない場合もあるのだろうと思います。つまり、私も随分長く生きて来たという事でしょう。そのような場面でお客様から叱られている店員さんを見る事があります。怒りの感情の奥に、自分は理解が容易でない事なのに若い人達が難なく操作出来る事に、取り残されたような寂しさや悲しみがあると気付くと良いかかわりが出来るのだろうけれど、と私は思います。その代わり若い人の多くが知らない事、まだ気づいていない事を知っている高齢者が多いのは経験の差ではないでしょうか。勿論、年齢だけでインターネットを理解し使えるかを判断する事は出来ませんけれど。日常のあれこれに思いを巡らせ、結局は、日本では今戦争が起きてはいないけれどそれは決して棚ぼたではない、そして地球はたった一つ、運命共同体なのだという事を自覚して生きて行きたいものだ、と改めて思いました。非常事態となれば、玄関開けたら二分でご飯、などというわけには行かなくなりますものね。青い地球は一体誰のものなのでしょうか。

3月18日、誤飲

ある日の夕方の事です。午後、キッチンハイターをほんの少し入れた水に、マグカップを珍しく一つだけ漬けたのです。夕方になってそれを忘れ、そのマグカップの水を二口くらい飲んでしまいました。何だか味がおかしいと気付いて、すぐハイターの入っている水だと気が付きました。慌てて牛乳をコップ一杯、水も二杯飲みました。味など分からず不安になりましたが、幸い何事もなく夜になりました。小さい子供の誤飲時に親は慌てないで適切に対処しなければなりませんが、自分の事でこんなに慌てたのは久しぶりでした。副作用をよく考えずに薬を飲むように、情報を精査せず無防備に接してそれに従って行動してはいないか、情報量の多い昨今、気をつけなければならない、キッチンハイター入りの水を飲んで、私はこんな事を思いました。

3月11日、離岸流

今日は東日本大震災の起きた日です。未だに行方の分からない方が多くいらっしゃる事を思いますと、それがすべてであって、時間が止まっているように思えるのですが、歳月はどんどん過ぎて行きます。信じられないほどの心に受けた衝撃や悲しみは歳月とともに変化しても決して消える事はありません。何も出来ない私はせめて心を寄り添わせたいとは思うのですが。亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りしたいと思います。新型コロナウイルス、ウクライナで戦争、このような事はあの時想像も出来ませんでした。考えてみれば過去のオリンピックも諍いと無縁だったわけではなく、ミュンヘンオリンピック中にイスラエルの選手団が人質にされ、殺されたという事もありました。オリンピックでの選手の素晴らしい試合に感動しても、とても残念なのですが実際に国と国との間で起きている諍いがそれをきっかけに収まった事はないように思うのです。いつもまつりごとという利害のそろばんが裏に付いた布の表側がオリンピック、そこだけは美しいという事なのでしょうか。ウイルスに右往左往していたら、戦争が始まってしまいました。私には到底ついて行けません。戦争が始まってからのプーチン大統領の表情が何年も前の映像とは随分違うように感じます。シャープな顔立ちで、鋭く無駄がないけれど深いまなざし、剃刀のような印象だったのですが、最近は猜疑心に満ちた目、という風に感じます。人格の変容という言葉をニュースで聞きますと、そのような事が起きているのかも知れない気がします。脅迫的、視野が狭く、誰も信じられない、そう言う人もいますけれど、仮に病んでいてそのような状態だとすると、その人が殆ど独裁状態の核大国の恐ろしさに愕然とします。一人の人間によって人類の命運が決まるかも知れないなどという事は、物語の中でだけだと思っていました。国内で何とか止める方向に動かないと、他国から戦争を終わらせる為に出来る事には限りがあるでしょう。過去の強い国に戻したいのかも知れませんが、今この瞬間も歴史は作られており、決して人の命を奪う事によって過去に戻す事は出来ません。人間も時代も過去には戻れない、戻りたい人しかいないのではないからそうなります。強大な軍事力を用いれば用いるほど孤立し他国のみならず他者も度が過ぎると感じた時に、離岸流のように離れて行くと思うのです。自分が他者や他国を遠ざけている事にほかなりません。今プーチン大統領は最も孤独な人なのかも知れませんし、怖いのではないでしょうか。幸せは手を携えて得られるものであり、人を支配する事によって得られるものではないのですからそんな事をして上り詰めても空しいだけだと私には思えてなりません。今こうしている間にも人の命が戦場と化したまちで奪われているであろう事を思いますと居ても立っても居られないような気持ちになります。たとえ病んでいるとしても判断力が全くないのでなかったら、厚い雲の切れ間から日が差すようにバランスを考えた行動をしていた頃を思い出して立ち戻って欲しい、そうなって欲しいし信じたい気持ちもあります。なぜならプーチン大統領も私も同じ人間なのですから。ただ、戦後の自国の利益や立ち位置がいかに有利になるかを考えてのウクライナ以外の国の発言に、これが人間というものなのかと思い知らされているように感じて、決して心穏やかではいられない毎日です。

3月9日、相剋の棘なのか

いつも不思議に思う事があります。一人ひとりの人間が集まって世の中は成り立っている筈なのに、時代の流れというものはその人達のかなりの人数が考えたり賛同しているとは思えないような様相を呈してきて、気が付くと流れに逆行する事は非常に困難になっている、そのように思う事が多いですね。ではその時代の流れは一体いつどのようにして生まれて来るのか、誰が作っているのか、それは私にとって大きな謎です。今ウクライナに暮らす人達は、状況が分かり難い中でどんなに不安な毎日を過ごしているだろうかと思うと、いたたまれない気持ちになります。とても理不尽な人間の現実に、欲の底知れない恐ろしさを感じ、この真偽のほどの分からない情報が飛び交う日々、銃弾が飛び交う毎日に言う言葉さえ見つかりません。一日も早く平和が戻りますようにとただただ祈るばかりです。何時まで繰り返されるのか、人の命ほど大切なものはないというのに、それを物であるかのように自由に動かす権利は決して誰にもないでしょうに。クリミアでマレーシア航空機がミサイルに撃ち落され、ひまわり畑にオランダの子供達の笑顔の家族写真が散らばっていたあの現実、途方もなく大きな黒い手によって命が奪われたかのように思えますが、それは他ならぬ人間の手なのだという事が生々しく蘇って来ます。今私は戦争をしていない国に生まれ、生きている、たまたまそういう巡り合わせだという事なのでしょうか。それにしても、ある番組で、クロアチアのドゥブロブニクの町のおばあさんの、許しあわなければいけないよ、銃を持っていて人に向けた人達も誰かにそうさせられたのだろうから、というこの言葉を思い出します。彼女の皺に刻まれているのは、悲しみや怒りがあったという事だけではなく、それを超えた人にしか分からない何かも確かにあるのだと感じました。ウクライナとロシアのごく普通の人達が、互いの心に刺さった棘を抜く事が出来るようになるのはいつなのでしょうか。その前にまず平和な日常を取り戻さないと、とは思いますけれど。私が小学生の時、ベトナム戦争、ビアフラの飢餓が日々報じられ、確か1969年3月30日の朝パリでフランシーヌという女性が戦争に抗議して焼身自殺したという事から生まれた歌に衝撃を受けました。フエ、ダナンなどの地名、テト休戦、中学生になると、新聞やNHK特派員報告という番組で聞いたベトナムの旧正月の休戦についてのニュースを今も覚えています。フランシーヌの焼身自殺から五十年以上経った今でも、世界の本質はそう変わっていないように感じます。それは人間が大きく変わってはいないという事なのだと思うのですが、如何でしょうか。

3月1日、お大事に、ゆっくり休んで早く良くなって

私の母は亡くなるまでの間に度々入院し、最後の入院は何年もの長いものになりました。平成初期のある年の暮れに非常に具合が悪くなり、救急車でかかりつけの病院に入院した時の事です。私が付き添って病院に泊まっていたのですが、最初の夜に看護師さんが点滴を一定の時間続けて、替えた方が良いという場合に、別の点滴に変える、という事を頻繁に繰り替えして夜が明ける、そういう事がありました。休んで下さい、と言われても、いつ起こされてお気の毒ですが、と言われるかも知れないという母の状態でしたので、流石に眠くなる事はなく、緊張した一夜でした。私一人が付き添っていた個室で、今でも忘れる事は出来ません。少しずつ良くなって来たとはいえ、まだ起き上がるのも難しく、食事が摂れない状態は年が明けても暫く続きました。私には薄氷を踏む様な日々でした。ただ、母は意識があり、しっかりと受け答えの出来る状態で、前向き、決して暗くはならない人でした。そんなある日、見舞ってくれた親類が、病院なのでお正月気分どころではないでしょうと言って私に手作りのお節料理を一人分入れたタッパーを持って来てくれました。優しい人ですし私への温かい心遣いでした。でもその時の私には、その親切はとても辛いものでした。この人の善意に素直に感謝する気持ちにはどうしてもなれず、必死の毎日を送っていた私には、まるで弱っている人間を袈裟懸けに切る様な事、心ない事をする、と感じて胸に突き刺さりました。勿論相手に悪意などないのですからそんな事は言えません。ありがとうございます、と、笑顔で言った自分が情けなくなった事が、今でも昨日の事のように思えるのです。人の善意と噓をついた私、何ともやり切れない思いで一杯です。結局そのおせち料理を私は病院のゴミ箱に捨てました。後味の悪い、決して良い事をしたとは思えない事で、今でも、ではどうすれば良かったのかは分かりません。泣きたい気持ちでしたね。その人は別の日に見舞ってくれた時に、花を持って来てくれました。その時期にその花は値の張るものでしたけれど、大輪の黄菊白菊だったので、病室に置く事が私には出来ず、この時もゴミ箱に捨ててしまったのです。決して悪意がないだけに、苦情など言う事が出来なくて困るのです。ありがとう、という自分の顔が強張っているのが分かりました。病人には決して見せられないとも思いました。この人が足繁く見舞ってくれる度に、私はドキッとして身構えていました。その後母の病状は一定の状態で悪いながらも安定し、私は都内の心理の講座に通うようになったのです。祖母もまた病んでいて別の病院に入院していたという、今思えばかなり精神的に大変な時期でした。最初の会場は食糧会館でした。電灯が眩しいほど明るく感じられ、自分の置かれている状況との落差を感じて、会場を出る時には気が重くなって胸が塞がって来るのですが、それでも勉強している間だけは他の事を考えずにいられて、私は自由でした。そして、この付き添いでの一番大変な時期の後から、人を見舞う時には看病している家族の方の気持ちも敏感になっていてアンテナが緻密に張り巡らされているよう、弱っている自分の気持ちを叱咤激励しながら努めて明るく、病人に優しく接しているのだという事が痛いほど分かるようになったのです。見舞客は病室を出て日常の喧騒の中に戻って行きますが、病室にいる病人にとっては、不安や焦燥感をともすれば感じるものですし、言われた何気ない一言がいつまでも心に残り、心が温かくなる事もあれば、逆の場合も十分ありうるのです。病人も看病をしているご家族も、普段より傷つきやすい状態なのだという事を十分踏まえて見舞う事が大切だと思います。見舞うのは自己満足の為でなく、病人とその家族の方の為なのですから。私は、お見舞いに伺った時には、ゆっくり養生して早く良くなって下さい。待っていますから、と心を込めてそのような言葉をかける事が多くなりました。今、コロナウイルスに感染して隔離、治療を受けていらっしゃる方々に、この言葉を贈りたいと思います。このような性分ですので、言えなかった事、言わなかった事、身動き出来なかった事の多い人生です。それらは何も言わず、何もしなかった事になるのでしょう。気付いてもあれこれ迷って言えないのは気が付かないと思われがちですけれど、慮るとどうしてもそうなってしまい、それで後悔も多いという事になりますね。立ち入った事、出過ぎた事は言わない、しない、それは口と足がボンドで動けないように貼り付けられているよう、果たしてこれで良かったのか、後で考えるとよく分からない場合が多いのも事実です。このような事は、心に折り畳んでこれからも生きて行く事になるのだろうと思います。言わないから恙がなくやって来られたという人もいますが、私には心残りが多いと思えるのです。あんな事を言わなければ良かった、などと後悔している友人が時々羨ましくなります。

2月25日、問いと答えと

問いと答えと貴方にとって今必要なのはどちらですか。NHKの朗読の中のこの言葉に引っ掛かりました。自分にとってどちらが必要なのか、答えのなかなか出せないものを考え、抱えて日々生きているような気がします。言葉を信じますか、という問いには相手による、と答えると思います。信頼の度合いという事だと思います。一番美しいものは、という答えは多分人間の魂、と思っているらしい自分に少し驚いています。一番美しくて一番美しくないようにも思えるのです。あるラジオ番組でした。カウンセリングには無条件の積極的関心、受容、共感の姿勢での傾聴、と最初に習いました。これはカウンセリングマインドと言われますが、カウンセリングで信頼関係が出来て、向かい合うとそこには勿論非言語の交流もあるわけですから、その先はマインドという言葉ではなく、ソウル、つまり魂の出会いとおっしゃった学生時代の先生のお言葉の奥深さを年々感じるようになって来ました。

2月20日、水切りストッキング

スーパーのレジの近くに、水切りストッキングというものが売られていました。黒いストッキングのようなものが袋に入っているのです。初めて聞く名前です。雨の日にはいて濡れてもすぐ水が切れるのだろうか、それとも洗濯してすぐに乾くという事なのかと不思議に思いました。けれど、レジが混んでいたものですから、待っている間に、これは流しのゴミ取り用のネットで、目の細かい物だと気付きました。そう、今は流しと言わずシンクと言った方が通じるようですね。ネーミングはインパクトがあって分かりやすい事が大切なのだろうと思います。湯だこ、と発泡スチロールのトレーに書いてあった蛸を見た事があります。蛸はどこかで茹でて売っているのですが、私にはまるで蛸が鉢巻をして湯舟の中でお湯が温いとか熱いとか注文を付けていて随分と気難しそう、頭の硬い自己主張の強い蛸なのではなかろうか、と思えて来ました。茹で蛸とか蒸し蛸と書いてある店が多いように思うのですが。また、スキンレス鱈というパックに出会った時も違和感を覚えました。スキンレスと書いたのに何故鱈という日本語を続けて書くのか、鱈と書くのならかわなし、とでも書けば良さそうなものを。こんな風に思うと、この鱈や蛸が何だか不憫に思えて来ました。だから結局買いませんでした。鮮度が良く、安ければ買えば良い筈なのに、私はいつもこのような事を考えてしまいます。それが私の商品の選択の基準の一つになっているようです。食べ物は美味しそうという事が大事、可愛い可憐な名前にしてしまうと、食べる自分がとても残酷に思えては来ないでしょうか。また、適当に相槌を打つのもあまり得意ではありません。遠い、言葉も分からない国の、出来事や価値判断の基準に甲乙つける事は、何の知識も持ち合わせていない場合、私は相槌を打つ事がその国の人達に悪いようで気が咎め、出来ません。そのように説明しますと、人は大抵妙な顔をします。ですから、昔頑固で偏屈だと言われた事があります。でもそういう性分なのでしょう。それを改めようとすると自分が自分でなくなるような気がして出来ません。別に正直だからとか、真面目であるとか、そういうわけではないと思っています。人と助け合い仲良くはしますが、程よい距離が互いを尊重する事のように思え、人は人、自分は自分、と思っている、そういう性分なのでしょう。

2月14日、G線上のアリア

小学校五年生の時、音楽の時間にレコード鑑賞という日がありました。その時初めてバッハのG線上のアリアを聞いてその旋律の美しさに驚き、クラシック音楽に興味を持つようになりました。先日、久しぶりにG線上のアリアを聞いたのですが、あんなに美しく素晴らしいと感じたのが嘘のよう、この世のものとは思えない美しい旋律が妙に痛々しく感じられ、寒い冬の夕焼けの美しい時間帯に立っているようでした。瀬戸際にいるよう、断崖絶壁に追い詰められたかのように思えました。不安と緊迫感を背後に感じ、切ないまでの悲しさが奏でられているように感じたのです。まるで夕暮れ時から夜になって行くのを止められない事が非情であるように思えていたたまれない、というのは多分理屈で考えても今の自分には分からないのだろうからそっとしておくしかないと思い、この曲は当分聞かない、という事にしました。そしてしばらく経って気が付きました。この曲をレクイエムと感じているからだという事に。年齢とか自分の心の状態によって同じ曲がこんなに違って聞こえる事があるのですね。音楽は、繊細なグラデーションの毛糸で宝石箱が編まれて行くような、複雑でとても繊細なものなのかも知れません。

2月9日、人魚姫

私は子供の頃、白雪姫、シンデレラ、ヘンゼルとグレーテルなどの本を読んだり、読み聞かせをしてもらいました。本の世界には扉を開けてすぐに入って行く事が出来ました。そこには好奇心が満たされる楽しさがあったからなのです。白雪姫のガラスの棺、シンデレラのガラスの靴などがどんなに美しいのか見てみたい、などと思ったものでした。透明なものが綺麗、と思っていたようです。小学生の時に人魚姫を読みました。水の泡になる事の方を選択したのが可哀想でした。でもこの人の涙がきっとこの三人の中で一番美しいのだろうと思い、魅了されました。もし自分がその場にいたらば、せめて最後に心を込めて彼女の髪を梳かしてあげたかったですね。マッチ売りの少女が売れないマッチを擦って白昼夢を見た時に、優しかったおばあさんがその中にいて、もう一本もう一本とマッチを擦って行ったのでしたね。私も貧乏でマッチを買ってあげる事が出来なかったらせめて隣に立って、寒いね、と言って彼女の手を握っていてあげたかった。亡くなったこの少女はきっととても幸せそうな安らかな顔をしていたのでしょう。彼女を温かい毛布で包んであげたい、そうも思いましたが、お話ですから実際には出来ない、それが悲しくて泣きました。どうしてこういう子になったのかは本人にも分かりません。あれから随分歳月の経った今も同じように感じます。人間の傾向は遺伝と学習によって決まって行くのでしょうが、根っこは大きく変わらないという事なのかも知れません。そうだとすると、透明なものに惹かれる事は純粋さを追い求める傾向があるのかも知れず、ある一つの意見が良いと思ったらすべてその意見の延長線上の考えに従って引っ張られてしまう、このようにもなり兼ねません。冷静に吟味や精査をする事も忘れずに、人の意見にただ流されないよう心掛ける必要がありそうですね。

2月3日、伝えなければ分からない

ある時テレビで20世紀の記録の、ある番組を見ました。途中からでしたが、それは昭和39年の東京オリンピックまでの戦後の東京の事でした。高速道路がどのように出来たのか、新幹線の開通について、道路の混雑を緩和する、など様々な変化の様子で、戦後暮らしてきた場所から立ち退かなければならなかった人達、血液や臓器の売買など、私が少しも知らなかった、ほんの少し前までこの国で行われて来た事の数々に驚き、その重さに言葉がありません。東京がひどい水不足になり、もうほとんど水が残っていない小河内ダムの底にはかつての暮らしの後が現われ、そこが故郷であった人達は一体どのような思いでこの映像を見たのだろうかと思いました。東京オリンピックはただ眩しく輝かしいだけのものではなかった事を知って、事実は出来るだけ細大漏らさず伝えて行かなくてはならない、伝える事が過去に生きていた人達の思いを受け止め、大切につないで行く事になる、そのように思いました。様々な事から目をそらさずに日々をと思っています。胸が一杯になった夕方でした。

1月25日、唐突に余命と向き合う

数年前の春先、洋服を着た瞬間違和感がありました。リンパ節が腫れたのです。私はその時あと五年生きられないのではないかと思いました。人間はどこから来ていつどこに去って行くのか、もしかしたら生まれる前にいた所に帰って行くのではないだろうかというくらいの事しか考えた事がなく、しかも漠然と考えただけだったので、自分の行く道を知ったと言いますか結末が見えたように思ったのです。否定したいとか、怒りや悲しみ、恐れなどと言う感情は沸き起こって来ませんでした。そうだったのか、と疑問が解けたような気持ちになり、まるで埃だらけだった早苗がしとしと降る雨に濡れて汚れが洗い流されたような清々しい、感動したとでもいうような気持ちになったのです。ですから、それはとても不思議なひと時でした。私は家の片づけをしようなどとは思わず、残された時間、今生きているこの瞬間の連続というものを実感し、味わって過ごしたいと思いました。外に出て草むしりをし、花の種を蒔いたり花や野菜の苗を買って来て植えました。花が咲いた時、野菜が実を付けた時、私はもういないかも知れないけれど、今まで生かされて来た事、もう少しだけ生きられそうな事に感謝の気持ちを表したくなったのです。後で花や野菜を見て思い出して欲しいという気持ちがあったかどうかは定かではありません。むしろそうしたかっただけだったように思います。あまり上手ではないのに一懸命育てました。ある人にちょっとその事を話したら、励まそう慰めようとしてくれたようで、まだあれこれ検査を受けている最中に、最悪の場合でも、と、私を引っ張るような事を言うのです。私はまるで、駅で会った私に、目的地を聞いただけで、新幹線のホームに私を連れて行き、新幹線に私を乗せて自分はホームで見送っているような人だ、という気がして来ました。あの時私はただ黙って聴いて欲しかったのだと思います。人の気持ちを汲むとかその変化の速度に合わせて寄り添うとかいう事はやはり難しいのだと今更ながら思ったものです。検査の時提出する用紙を渡して下さった看護師さんが、一人で帰れるかと聞いて下さった時は身にしみて嬉しく、この先どのような事があっても決して忘れまいと思いました。色々検査を受け、細胞診も済んで、結果は悪性のものではなく手術の必要もないものでした。でも、私はあの時余命を知った時の人間の気持ちを味わったと思っています。それは人によって、置かれた状況によって、随分違うものなのでしょう。ですが、ただ悲嘆やマイナスの感情だけとは言えない複雑な思いが胸に去来する事を知りました。一瞬という、束の間というものの積み重ねがいかに大事かという事も。後に残る誰にでも、いつもよりずっと温かい優しい気持ちになれるのもまた不思議でした。まるで私と出会い関わってくれてありがとう、幸せに生きて行って下さいとでもいうような気持ちで人を見る、それは私にとって残されているのが限りある時間だからこそ、愛おしい者を慈しむような気持ちになれたのでしょう。私は、多分死が唐突に近寄って来た、と思う出来事に遭遇しなければ決して味わう事のなかった感情だったと思うのです。年齢と共に死に近づいて行くという感覚ではなく、ある日死が私に近寄って来て肩をたたき、こんにちは、と顔を覗き込んだように感じられたというのがピッタリだったのです。かつてご縁があり、お付き合いをしてきた多くの方々ももしかしたらこのようなお気持ちになられ、旅立って逝かれたのでしょうか。そのような温かいお気持ちに見守られ、今私は生かされているのですね。この体験を忘れないで大切にしたいと思います。

1月19日、お道を

朝に紅顔ありて夕べに白骨となる、これは人の生死は計り知れない、人生はいつ何があるから分からないという意味ですけれど、それがことわりではあっても辛い言葉です。ご近所の方の御葬儀で、魂が安らかに生きられる所に行けますようにとお祈りしました。ふと思いました。四国巡礼の方に、御接待してくれる方が、多分、次の札所への道を間違えずに、貴方の人生の道が見つかりますようにとかける言葉だと思いますが、お道を、という言葉がなんとも温かく、謙虚な言い方だなあと。以前司馬遼太郎さんの街道を行くという本を読んだ時に知った言葉です。感謝の気持ちでおばさんをお送りしました。限りあれば吹かねど花は散るものを心短き春の山風、蒲生氏郷辞世の歌です。

1月15日、訃報の痛み

今年は松の内を過ぎて、お一人ではない訃報に衝撃を受けています。ご葬儀というのは気の重いものです。新聞にも、寒い時期のせいか殆ど毎日何人もの方の訃報が掲載されています。新聞の訃報は見知らぬ人の事ですと一つの情報なのですが、存じあげている方ですと単なる情報ではありません。訃報を見落とした事があり、それは何年経っても消える事はありません。多分一生の悔いになるだろうと思っています。年賀欠礼のお葉書で年が暮れ、ご葬儀の日程を知る事で始まる一月、今年がどんな年になるのか、見当もつきません。嫌な思い出のある人とはそれだけ関わりがあったという事で、今生でのそのご縁が終わる事は胸にぽっかり穴が開いたような気がしますね。どのような関わりの方でも皆影響を受けているのですから、私を育てて下さった方だと思っています。今月ご葬儀のお一人はご近所の方で私の親世代のおばあちゃま、私はずっとおばさんと呼んでいた方です。十一月の上旬までお元気でした。最近お見かけしないとは思っていましたけれど、寒いのであまり外に出ないのだろうと思っていたのです。何年もお姑さんの介護をなさった方でした。気のせいかそのお宅が妙にひっそりしているような気がして、人ひとりの存在の大きさをしみじみと感じる毎日です。去る者は日々に疎しとか日にち薬などと言いますが、私はあまりそのようにはなれないのです。生きているという事は、亡くなられた方を見送る事、木枯らしの中でこぼこ道を歩きながら、時々気付かずに萱の葉をつかむ、傷が残っていて痛いのに、もう一方の手でまた別の萱の葉を掴んで痛い所が増えて行く、そのような側面があるのですね。人が亡くなり、その死を悼む事は悲しいとか寂しいとかいうより、私には自分の痛みのように感じられるのです。心の底から今の自分の気持ちを変えたいと思っているのでなければ、どんなに辛くてもデスエデュケーションはまだ出来ない、その時期ではないという事なのではないでしょうか。カウンセリングで、クライエントを助けたいと思ってその方の気持ちを前に進ませようと引っ張る事は相手の歩調に合わない事、傷つけかねない事です。助けてあげるという気持ちがそもそも間違っていると思っています。話している事を聴く事が主になるのは、クライエントに、気付き、成長する力がある事を信じているからです。私は成長するのか、自分の事ほど分かり難くなるのは客観視が困難だからでしょう

1月7日、雪の記憶、奥会津葬送の風景

昨日はお昼頃かなり冷え込んで、外を見たら雪が降り始めていました。暖房を使わずにパソコンでファイルを作っていたら手が悴んで動かしにくくなりました。珍しい事です。小さな雪が弱い風に乗ってさらさらと降っているかと思えば、大粒の雪が音もなく積もって、時々また小さな粒でぽつぽつと雨のような音を立てて土手の笹の葉を白くして行きます。幾種類もある雪の大きさや音に取り合わせの妙味を感じます。味わい深い雪に我が家の庭も一面真っ白になり、明るい夕方となりました。幻想的な雪は人間の本能や狂気に働きかけるように思えるのは何故でしょうか。近松門左衛門の新口村も、義父となる筈の人の下駄の鼻緒をすげ替える場面は雪でした。知りながら言わない人達の心情を、降る雪がしみじみと温かく哀しく表しているようだと感じたのは随分前の事です。ただ現代の重い雪は着雪で停電になりかねない現実があります。雪国の方はどのような冬を過ごしていらっしゃるのでしょうか。お怪我なく雪下ろしが出来ますようにとただ祈るばかりです。平成五年か六年頃、NHKの奥会津葬送の風景という番組を見たのですが、その場面が目に浮かんで来ます。あの日は聖護院大根とがんもどきを煮て、厚く剥いた筋の多い聖護院大根の甘みの強い皮にラー油を入れてきんぴらにした後、夕方その番組を見たので多分再放送だったのでしょう。よく覚えています。雪が深い時期にご近所の方が集まっての御葬儀は出来ないのですね。冬の間、高齢の方達はまちの息子さんや娘さんの所に行って暮らすそうです。墓地だったように思うのですが、長い棒か竹に布を結んで立てておくことでそのお宅にご不幸があった事が分かる、目印になるのです。このような表現は地元の方に失礼かも知れませんが、さぞかし冬以外はのどかで美しく静かな住みよい村なのだろうと感じただけに、厳しい自然が恨めしくさえ思えました。ずっと昔から厳しい自然と語らい、歩調を合わせて共に生きて来た、心の故郷のような所なのだと思います。都会の喧騒の中で忙しい、分刻みのように働く日常を送っている方にとっては静かな田舎は寂しい所だと感じるでしょうが、皆自分が住めばどこも都、まして故郷は格別でしょうね。一人ひとりがかけがいのない大切な人、でも別の見方をすれば、一生は邯鄲の夢、つまり粟粥が煮える間のように短いもの、そうとも言える人間の一生は最後に振り返ってみて初めて気付く事も多い、不思議な道のりのような気がします。振り返った時に、一体それは長いのでしょうか、短いのでしょうか。私自身は多分短いと感じるだろうと思います。色々感じ、考えさせられた奥会津葬送の風景は、懐かしさと愛おしさがかえって哀しく、私の心に今も残る映像です。

1月4日、潜む狂気

NHKでアインシュタインの誘惑という番組を何度か見ました。猿を使った母子の愛着に関する実験など、どれも最後まで見るのが辛い残酷な実験の記録で、それがどのように評価されたか等を伝えるものです。今では考えられない実験の数々を発案し行って来たのは他ならぬ人間です。人間は人より先に科学で解明し、人がまだ出来ない事やものを、自分達あるいは自国が先に完成させたいという誘惑に勝てないものなのでしょうか。良心がブレーキになる事に期待は出来ないものなのか、やりきれない思いです。優位に立つ為なら、と悪用する事になると思うのです。科学者ばかりでなく、人間には狂気が潜んでいる事を自覚し、過去を省みて自戒して行かなければならないと思いますが、21世紀になってもその道は険しいようですね。

12月31日、音楽と絵画

ストレス解消に絵画や音楽は良いのかも知れません。でも私はなかなかそうは行かないのです。ムンクの叫びにこもっている思いの辛さや孤独は並大抵のものではない、向き合って聴く事が出来たらためらわずに聴くものを。こんな事を絵から感じるのは決して楽ではありませんし、クラシックが好きなのですが、誰がいつ作曲したのかなどはあまり考えずに聞き、その曲から感じるもの、曲が訴えているものに圧倒されるということがあり、疲れてしまうからです。ヴァイオリンを聞く曲ですと、真冬に冷凍庫の前に連れて行かれたように感じ、真に迫って来る音色に、まるでヴァイオリンが真剣に自分の人生を語っているようだと感じて辛くなる事もしばしば、それならば聴かなければ良いのでしょうが、ヴァイオリンが一生懸命語りかけているのだから神経を集中して正面から聴いて受け止めなければ、と思って最後まで聴いてしまう、だから疲れが取れるどころかヘトヘトになる、こうことがよくあります。人に言ったら笑われるでしょう。どのような明るい曲でも、フレーズの終わりごとに哀しみが垣間見え、人生の複雑さを訴えているように感じるというのは今始まった事ではなく、随分昔からの事のように思います。先日バッハのマタイ受難曲を初めて聴いた時にも同じような事が起こりました。三時間半近くパソコンの前に座って殆ど身じろぎもせず聴いていました。最初から、厳かで重く悲しみに満ちている、まるで私の立っている大地ごと静かに、地中の深い、光の差さない闇の中に引き込まれて行くようだと感じられる導入部に圧倒され、身動き出来なくなりました。自分が圧縮され、残ったのは自分の心、その心と向き合い始めるという状態になったのだと感じました。感動とか喜怒哀楽とかそんな言葉ではたとえる事が出来ない重厚な曲でした。自分を省みて足りない所や分からない事、消化されず実行出来ていない事等の数々が次々と浮かんでは消え浮かんでは消えて行くのです。実際に見る事は出来ませんが、きっと私の心の奥底は見るのが恐ろしいような複雑な色をしているのではあるまいか、そんな気持ちになって、なんという不思議な事かと思いました。自分を重く深く鏡に映したらこのような姿なのだろうと、感じ、悔いるというのはこういう事なのでしょう。現実に罰せられるような事ではないけれど、自分の中にある罪のようなものの手ごたえを感じます。自分が無数の棘を道にばら撒いて生きて来たような気がするのは何故でしょうか。以前ある本の中で、亡くなられたご家族と一緒に病院から帰宅した時にラジオのスイッチを入れたらこの曲が演奏されていたという部分があったので、ずっと聞きたいと思っていた曲でした。夜になったのも気づかず食事をする気にもなれませんでした。胸が一杯になって、たとえようもなく大きく深く私の心の中に入って来たこの曲の感想を、知っている限りの言葉ではとても言い表す事が出来なくてもどかしさを感じます。気が付けば、落ち葉を踏んで歩く冬という季節を生きているような年齢になっています。随分色々な事を学んできました。でも、基本的な事以外で覚えているのは言葉や理論でなく、教えて下さった先生方の生きて行くお姿から感じた無言の教えだったように思います。無言は重く、最も雄弁です。今でもハッと気づかされる事が多々あるのです。私はどれだけ理解し、咀嚼して生きているのか、必要だと思った事を後の世代に伝えているのか、など深く思って、自分が迷子になった子供のようだという錯覚に陥る事もある今日この頃です。意識のある限りは内的成長が出来ると言えるのでしょうが、私はそのように生きられるかどうかとても心もとないことです。コロナ禍の年ももうすぐ終わろうとしています。

12月25日、年を越すとは

随分前の事です。我が家では家を人に貸していたのですが、色々な事がありました。家賃や公共料金が滞ったまま引っ越してしまった方がいました。修繕費も含めて予定外のかなりの出費で、ほとほと困りました。年末のせいか色々と思い出しました。こちらも困りましたがあちらもきっと切羽詰まっての事だったのでしょう。今頃どうしているだろうか、コロナ禍の年をとにかく無事に越して生きていて欲しい、そう思っています。冬の風呂釜の故障時には大変な事と思いましたが、日曜日だったのに迅速に対応して頂いたという事もありました。ともかく住んでいる方が一酸化炭素中毒になるような事態にはならなかったのでホッとしました。お金は必要です。ですが、他のどんな事情にも目を瞑ってお金を支払ってくれさえすれば良いとだけ思って人と関わっていたら、きっと咀嚼出来ない物を無理やり飲み込んで消化不良を起こすような心の状態になってしまうだろうと思うのです。まるで赤ずきんちゃんの中のオオカミのようです。心の中に冷たい石を抱えて生きて行くのは辛いだろうし、振り返って後悔するでしょうからやはり出来ないと思います。私はつくづくお金儲けが下手な人間なのだと気付かされました。御病気で、子供さんの家の近くに入院なさる事になって引っ越された方もお元気でいらっしゃると良いけれど、などと皆さんのお顔を思い出しています。私の記憶の中のこの方達は笑顔でお元気な時のままです。暮れになりますと年賀欠礼のお葉書を頂きますので、これはその年のつらい事のダメ押しのように毎年感じています。先日も、学生時代に卒論の資料を頂きに伺い、色々と教えて下さった警視庁にお勤めだった女性の方の訃報に接しました。ずっと時候見舞などのお便りのやり取りが続いていた方でした。私が卒論を書く事が出来たのはあの方のお陰でもあるのですから今でも感謝しております。せめてお花のひと枝でも、とお便りを出して来た郵便局からの帰り道、またお一人旅立たれた事がしみじみ寂しく思われて、振り返ってみると、どうして歳月は飛ぶように過ぎて行くのか、私はいつ玉手箱を開けてしまったのだろうと深くそう思った次第です。

12月6日、冬の桜

私は埼玉の大学に往復六時間以上かけて通学していました。昭和五十年代前半のある日、大学の人間科学部の研究室の外の掲示板に、ある印刷物が貼られていました。普段はざっとしか見ないのですがその時だけはざっと見て二階から階段を降りかけて、友人に先に行ってもらってもう一度階段を上ってその掲示板の場所に戻りました。そこに貼られていたのは心理の勉強の出来る研究所の案内でした。ただもう一度見た、というそれだけの事だったのですが、その後卒業してからというもの、家族が病んで次々入退院を繰り返すようになって行きました。たまに有名書店に行きますと、心理学の専門書の置き場がどんどん狭くなり、心に関連するような、どうもよく分からない本が増えて行くようになって、私は何かが間違っているような、世の中がどのような方向に行こうとしているのだろうかと、漠然とした不安を感じました。バブルがはじける前にお金がある程度容易に手に入るようになってもそれだけでは人の心には足りないものがあるのだろうとも思いました。そして母が入院するようになると、私は病院で付き添う事になりました。母は優しくもあり厳しく冷静でもあってとても大切に思っていました。けれど、その入院への付き添いから始まった我が家の次々病んで行く家族と母の病状の変化に、不安と焦燥感が募って行く日々でした。ある日、近所の方から、あなたも大変ね。でも家族だからどこに行く訳にも行かないし仕方ないわよね。大事にしてあげてね。と言葉をかけられた時、一言ひとことが胸に突き刺さってくるように感じたのです。これ以上どうしろというのか、そのように思うと足元の石が一つ後ろにボロっと落ちたように感じました。あと一歩後退すれば自分が崖から落ちるという瀬戸際に立っていると実感しました。それは大変恐ろしいものでした。声をかけて下さった方の温かい言葉がその時の私には少しも温かく感じられず、不足している事だらけだと指摘されたように思え、ただ愕然としていました。その時、あの研究室の外に貼られていた一枚のプリントのあの場所に行って勉強したいと思いました。バブル前後からそのような講座は雨後の筍のように増えていましたが、私は信用する基準を持ち合わせていませんでした。あのプリントが怪しいものであったら研究室の外の掲示板に貼られていた筈はないとずっと思っていましたので、そこで色々と勉強させて頂く事になりました。病人に付き添い、夕方前に電車に乗って都内へ通い、また病院に戻って来るのです。夜に、明るい蛍光灯が点いた会場を出る時に、この中の何人が病院から来てまた病人に付き添う為に病院に戻って行くのだろうか、そのような人はいないのではないだろうか、そう思うと平常心になる事はなかなか難しい事でした。でも、誰かにこの話をしたらきっと付き添いが出来ない心の状態になるだろうと思うと誰にも言えず、自分の表層に封印したのですから、それは二重の苦しみでした。往きは快速電車で東京に出て乗り換え、帰りはお茶の水に出て各駅停車に乗り換えるなどして帰るようにしていました。早く行ってゆっくり帰りたかったのです。帰りには車窓に明かりがちらほらとしか見えなくなると、降りる駅が近くなるという事なので何となく気が重くなった私は一体どんな顔をして病院に戻ったのか、多分あまり良い看病人ではなかったと思います。でもそれが精一杯でした。それでも、学ぶ事で壊死しかかっていた心に再び血が通い始めたと思いました。私はあの時、明日の暮らしに困らなければ人間の心はそれだけで生きられるというものではない事を知りました。その後母が亡くなり我が家にも色々な事が起こりましたが何とか持ちこたえてくる事が出来たのは勉強を続けて来たからだったと思っています。学生時代、あの手作り感のある一枚のプリントをもう一度よく見るために戻った事は、偶然ではなく必然だったのかも知れません。あのプリントと出会った事で私の人生の方向が困難な中でも徐々に定まって行ったと言っても過言ではないと思います。ある時、鬼のような人、という言葉があるけれど鬼にならなければ生きられなかったその人の苦しみや悲しみがある、先生がそうおっしゃいました。今私はカウンセリングをしておりますけれど、カウンセラーとしてクライエントの心に寄り添う時だけでなく、人間として他者と共に生きて行くうえでそうありたいと、深く心に残っているとても大切な言葉です。今年の紅葉の季節も終わろうとしています。ある講座の会場の近くには桜が植えられていました。桜は束の間の花を愛でる人が多いですが、紅葉の時季には真っ赤な葉が雨に湿った黒い土の上に幾枚も散って、まるで小紋の反物を広げたようにそれはそれは美しいものでした。東京の紅葉は早くありませんので、桜木の道は晩秋から初冬にかけてが一番美しいと私は今も思っています。

11月30日、人の心に触れる時

今でも、胸に氷の塊を押し付けられてそれがどうしても溶けないような後味の悪い、事実でなければ良いけれど、と思う事があります。それはもう何年も前の事です。ある日テレビのスイッチを入れますと、ニュース番組らしきものの映像が映し出されました。それはある所でのカウンセリングをしている様子なので私は自分の目を疑いました。もしこれがドラマの一場面のように作られたものであるならば良いかも知れませんが、どうも最近の事のように報じられていました。カウンセリング中のクライエントの洞察が深まってかなりの変化が見て取れる時で、そのクライエントの顔や声はご本人と分からないようにしてありましたが、この方の言葉もすべて放映されていました。なぜこんな事をするのか、クライエントの了解を取ったと言われてもそれで通る事ではありません。このような事をしている所があるのが信じ難く、今ではもうこのような事をしようとする所がない事を願うばかりです。心の奥深くを見つめ、話す事はとてもエネルギーのいる大変な事です。信頼関係が不可欠だという事はカウンセラーなら皆知っている筈、このような事をしてクライエントの心に傷として残らないか私はとても心配だったのです。まさか集客力を上げたいからだったわけではないでしょうが。誰だか名前さえ出さなければ守秘義務は守っているなどと考える事は到底出来ません。カウンセリングがもう終わった場合でも、直後のクライエントは病み上がりのような状態なのですから、今でも言語道断だと思っています。私が学んだ所では、カウンセリングの事例を学ぶ事もありましたが、それは随分前の物で誰だか分らないように記されていて、教室でプリントを頂くと、そこに番号が書かれており、誰が何番の用紙を受け取ったか分かるようになっていました。そして講座が終わって教室を出る前にその用紙を返すので、もし足りない時には誰がまだ持っているか分かるのです。もし不用意に持ち帰って電車の網棚にでも置き忘れたりする事があるといけないからだとお聞きしました。人の心に触れたという事はカウンセリングが終了しても終わりではない、クライエントは現実の社会の中でこれからも生きて行くのだから、としみじみ思います。事例の取り扱いは慎重でなければならず、カウンセリングが終われば終わりという事ではないのです。ただ、このような配慮がなされているか否かは外から見ただけでは分からないのです。ここはカウンセリングを行っていましたが、何も知らない人達にはカウンセリングを受けたいと思って探す時、どこを選んだら良いか、来なければ良かった、と思う事がないようにと願いますが、ホームページを読んだだけではどこが良いのか分からない場合が多いように思います。切羽詰まって訪れたクライエントが来なければ良かったと深く後悔する事は、クライエントの心の深い傷になりかねないという事を私自身も忘れてはならないと思っています。お話を伺ったクライエントから私が教えられていると思う事もしばしばあるのです。カウンセリングは、やはり安心で安全な場で行われる事が最低限の条件であると思っています。

11月23日、大学の事件、川の流れ

昨年の事です。ある日、テレビのニュースで大学の所在地、学部、その他が子細に述べられ、そこの教員が事件を起こしたと報じられました。それは私の母校だったのでまさかと思いましたが、その後内容が分かり、ニュースの度に所在地、学部等その人がどこに所属していたのかを聞かされる事になりました。私は日本中のテレビとラジオの音を消したい思いになり、やりきれない、いたたまれない気持ちをどのようにしたら良いかと考えあぐねていました。人が多く集まる所では様々な思いが交錯するでしょうし、最も親しい人間関係であれば、他者がいつも自分と全く同じ考えや気持ちであるとは限らず、人が違えば違う事が当然あると思います。でも、それが積み重なると諍いの原因になる事も多くなるでしょう。憎む所にはマイナスのエネルギーが雪だるまのように大きくなって行きやすいと思います。様々な汲むべき事情があるのかも知れません。それでも私は学部が出来て二年目の入学で、のびのびと学べた、自分を育ててくれた里のように思っていますので、まさかと思う事が起きたのは大きな衝撃でした。在学中のある早春の日、教育学の先生の研究室で、先生、別の研究室の助手の方、私の三人でお弁当を食べた事がありました。先生は奥様がお作りになったとても綺麗なお弁当を持っていらっしゃって、その中の小さな可愛いお干菓子を私達に、どうぞ召し上がって下さい、とおっしゃって分けて下さり、私達も果物など差し上げて、窓の外を流れる元荒川を眺めながら食事をしました。先生は、朝雨戸を開けるとノラ猫が来ている、バラの温室があるので温かいのだろう、家内のお母さんはピアノを弾くのが好きで、この家が一番良いとおっしゃって一緒に暮らしているのですよ、ととても嬉しそうにおっしゃいました。なんとも言えない温かい雰囲気のひと時でした。今、あの時一緒にお弁当を食べたお二人は亡くなり、もう私一人しか生きていません。亡くなられた先生方が何人もいらっしゃいます。そのようなことすべてを傷つけられたように感じてとても辛い気持ちでした。と同時に、心理学だのカウンセリングだのと普段言いながら自分の事となると私も勝手で極めて小さな人間だという事がよく分かりました。この事件では子供さんがこの先育っていくうえでその心を誰がどのように支えて行くのかが心配で胸が痛みます。確か私が中学生だった頃、ある大学で殺人事件、とセンセーショナルに報じられた事がありました。その事実を学校が隠蔽しようとしたともいわれましたが、私には詳しい事はよく分かりません。勿論被害者はお気の毒です。そして、加害者という人は年の一桁だった子供達を道連れにして家族で亡くなってしまったのです。驚天動地の出来事であり、とても辛い事件でしたので覚えています。当時のその大学の学生や卒業生、事件が報道されるまで何もご存知なかった他の先生方はあの頃どのような思いで日々過ごされていたのか、私にもいくらか分かるような気がします。また、子供さん達は家族で死ぬという事態に立ち至るまでの間、両親の諍いなどあったでしょう。寒々とした中で不安を感じて暮らしていたのでは、と思うのです。寂しい思いをした挙句怖い思いをして亡くなったのでしょう。痛かったでしょうね。生きていればもう五十代なのではないかと思うと生きられなかった命に言葉もありません。何故道連れにしたのか、事件の発端の責任は子供にはないのです。この二つの事件は全く異なるものではありますが、どちらも子供がいるわけですから、事件そのものだけでは済まない影響の大きさ、という点では似ているように思えるのです。切羽詰まって事件を起こそうとする時に、子供は歯止めにならないでしょうか。家庭内で事件が起きた場合、子供は自分を二つに引き裂く事は出来ないのです。子供の顔を思い出して何とか思いとどまって欲しい、もうこのような事件は起きて欲しくないと私は思います。高校生の時に、淵をじっと見ていると、淵もこちらをじっと見ている、確かこういう恐ろしいような事を、倫理社会の時間に教わった気がします。犯罪もまたこれに似たものなのでしょうか。このような事をお話するのはためらわれました。それはどちらの事件にも多分関係者のお身内の方がいらっしゃり、その方々にとって事件は終わらないでしょうから。出来るだけ人様を傷つけないようにお話したつもりではありますが、もし不用意な言葉や至らない所がございましたらお詫び申し上げます。学校の前を今も流れているあの元荒川の水もたえず変わり、もう私が見ていた頃の水ではないのですね。

11月16日、今年のぐんま名月

今年もこの季節になりました。十一月、十二月は何人もの方のご命日がありますので毎年何とも言えない気持ちになるのです。二十年経っても三十年経っても昨日の事のように思えます。どなたも四十代から六十代前半でお亡くなりになりました。お話しますのはその中のお一人の方の事です。ぐんま名月というリンゴがスーパーに並んでいるのを見ると、私の命日が近いのを覚えているかしら、と彼女に笑顔で話しかけられているように思うのです。今年もこのリンゴを買いました。彼女は群馬県の方で、年齢が近く、大学の研究室にいらしたのです。卒業後も主に手紙や電話でのお付き合いが続いていましたが、ある日、とても丁寧に宛名が書かれたお菓子を頂き、普段のこの方の筆跡とは違って見えました。包みを開けますと、御礼と書かれていたので訝しく思いました。その時私はナイフで指を切ってしまい、かなりの深傷でしたので礼状を出すのが随分遅くなりました。その後暫く経って、彼女が亡くなられたと知りました。入院する時に送ってくれた物だったことが分かって愕然としました。私はお礼を言って頂くような事は何もしていないのです。悔やんでも悔やんでも悔やみきれないあの時の思いは今も私の心の中に深く残っています。このような思いは何十年経っても決して色褪せる事はありません。亡くなられてからひと月以上過ぎて、面識のないご両親をお訪ねしました。少し気持ちの動揺を何とかしてからでないと、娘さんを看取り、ご葬儀をしなければならなかったご両親に、私はなんと言葉をかけたら良いか分からなかったからです。今はご両親を少しでもお慰めする事が亡くなった彼女に対して出来る唯一の事だと思って師走のある日、お訪ねしました。突然伺ったのですがとても喜んで下さいました。けれど、祭壇にはいつものあの笑顔の写真があって、それは微笑みながら私をじっと見ているように思えて足が釘付けになり、暫く動く事が出来ませんでした。その後どのような会話をしたのかは気が動転していてよく覚えてはいません。帰りに駅で電車を待っていた時の事です。せいぜい二分か三分の事でしたが、斜め前方から日が差して来て、まるで初秋の太陽のように感じられるほど額が熱くなりました。師走の上州のお昼過ぎの出来事でしたので、私は彼女が、私が来た事が分かり、喜んでくれているのだと感じました。それは、人間は姿が見えなくなっても死なないのだと感じた瞬間だったのです。ですが、だからと言って長い間のお付き合いの日々と、亡くなられてから私が知ったという事のどちらかだけ覚えているという事は出来ません。それは一枚の紙を裏と表に剥がすような事だからです。不可分なものを分ける事は私には到底出来ません。多分そうしたくないのでしょう。彼女が亡くなって、その後ご両親が亡くなるまでの短い期間、時候見舞等のお便りのやり取りをしていましたが、私は生きていて彼女はもういないという事を思うのでは、と考えますと、お便りを差し上げる事が瘡蓋をはがすような事にならないだろうかと随分悩みました。彼女はご両親の事を案じているかも知れないと思い、迷いながらもこのような細々としたお付き合いが続きました。その後、ご両親が亡くなられて彼女の弟さんからお電話を頂きました。ハッとするほどお姉さんによく似たお声の方で、少しお話したのですが、最後にお互いに暫し言葉がなくなって、お礼を申し上げ、あちらもそのようにおっしゃって下さって電話を切りました。このような余韻の残る終わり方になりましたのも彼女のお人柄のお陰だと思っております。自分の事より人の事や仕事を優先し、人の悪口や愚痴を言わない、優しく温かいまなざしの方でした。どうしてあんなに早く旅立ってしまったのでしょうか。もう少し年を取ったら一緒に温泉にでも行きたいわね、彼女は今から二十六年程前にそう言いました。今年も、ご命日にはぐんま名月とゆっくり話をしようと思っています。

11月12日、トラウマ

これから、少し自己開示させて頂きたいと思います。私は家の中でたまに家族が気まずくなると、室内の空気がサッと強張るのを感じてハラハラするような子供でした。食事時ですと、もう食べ物の味が分からなくなって、大人であれば喉を通らないと言ったような有様、それは三歳くらいから時々ありました。かといって頻繁にではなかったのですが、嫌な出来事の方が強く心に残るようです。大人になってからのある時、急に体調が悪くなって病院のICUで手当てを受けた事があります。大した事がなくてホッとしたのですが、父が、ではちょっと用足しに行ってくると言って部屋を出ようとしました。その時見舞ってくれた親戚の女性が、父に詰問するような口調で詰め寄りました。そんな所へ何も今行かなくても、という気持ちだったのですね。薄情だと言って、ICUのベッドを挟んで非常に険悪な雰囲気になり、息苦しくなった私に看護師さんが注射を打ちながら、今まで落ち着いていたのにどうしたのかしら、と大変優しく接して下さいました。鬱陶しいから二人とも早く帰ってくれないかな、お医者様と看護師さんだけの方がゆっくり眠れそうだ、私はそう思いました。その時、分かったのです。私は自分の近くで誰かと誰かが一触即発という状態になる事が大変なストレスになるという事が。あれは一種のトラウマであったと今は思います。同じように育った子供が皆そうなるわけではありませんから、私は多分神経質な所のある子供だったのだと思います。それにしても、よりによってICUで手当てを受けている時にこんな事に気付くとは思いませんでした。

11月8日、元栓が見つからない

ストレスの多い社会だと思います。高度、複雑、そういっても過言ではない今の社会なのではないでしょうか。見ず知らずの人を巻き込む事件が増えたように感じています。大きな被害が出た時には胸が痛みます。何故なのかはケースによって異なる原因があるのでしょうが、昔より増えたのは、社会病理とも言えるのでは、と思うのです。コロナ禍、社会構造の変化など色々あるのかも知れません。便利になったのに人間が生きづらさを感じる事が増えたのでは今までの変化の在り方を省みてゆっくり歩を進めて行かないともっと生きづらくなる、そんな事を考えました。ではまずどこから手をつければ良いのかと思っているうちにまた事件が起きる、今はそういう世の中だと思っています。でも、どのように育ったかの影響は大きくても、全く良い所を持っていない人はいないと思えてなりません。人によってはやりきれないほど厄介なのが人間関係かも知れませんがそれでも決して捨てたものではない、愛おしい仲間なのだとどうしても思えるのです。水道管が破裂して水が溢れている最中に、どこが破損したのか、元栓がどこだか分からないと水は溢れるばかり、根本が分からないというのは丁度このようなものではないかと感じています。

11月4日、楽になる

許せない、と思う事があるでしょうか。重大な、これだけは譲れないという事は誰にもあると思います。ただ、後で考えると重大でない事でも許せないと思う場合は、案外多いかも知れません。相手に悪意がないと分かる時にでも許せないと思った時、自分は別の部分で人に許してもらってその事を咎められないで受け入れられていると思うと、段々冷静になって来ることがあります。許すという事が上から目線のように感じられる事があったり、では腹を立てている等身大の自分はどのような人間なのか、と、劣等感ではなく、考えてしまう事もあるのではないでしょうか。許すという事は自分を楽にする事でもあります。マイナスの感情は自分をがんじがらめに縛ってしまう事になって、苦しいものです。許せると気持ちが軽くなり、心が温かくなってきます。相手とのコミュニケーションも元のようにスムーズになりますね。さて、そのために自分を知る事は決して容易ではなく、無意識は限りなく奥深いものです。一人でどこまでも無理に知ろうとするのは危険です。ですが、大抵の場合、その時にはブレーキが掛かります。このブレーキの役割が防衛で、冬外出する時にはコートを着てから外に出るのと同じなのです。等身大の自分が見えて来てそれを受け入れられるようになる事は脱皮する事に似ています。漠然とした不安を抱えている今だから自他に優しくありたいですね。

10月30日、井戸の水を飲む時には

日中国交正常化というのはかつて大きなニュースで、田中角栄総理の訪中のニュース映像を私も歴史的な出来事だと思って見ました。何年か前に知ったのですが、国交正常化に尽力した日本人のある人に周恩来氏が、中国人は井戸の水を飲む時にその井戸を掘った人の事を決して忘れない、と言ったそうです。国と国、というものは、色々政治的に難しい事も多いと思いますが、他の事に置き換えてもあてはまる言葉のように思うのです。先人達の長い研究があって治療薬が出来て、今は、昔完治しなかった病気が治るようになったという事も随分多いですね。何世代にも渡ってなされてきた研究というものもあるでしょう。それは薬に限らない事で、気付けば沢山あります。ですから、今当たり前のように様々なものを享受するのでなく、感謝して大切に、と改めて思いました。命がけ、一生をかけて没頭してきた研究の成果という場合もあります。私はふとこの言葉を思い出しました。一粒の麦地に落ちて死なずばただ一つにてあらん、もし死なば多くの果を結ぶべし。これは事実をもとに書かれた小説、塩狩峠の中で読んだものです。聖書の中の言葉だそうですが、どの宗教を信仰していてもいなくてもハッとさせられる言葉なのでは、と思います。他者の為に自分を犠牲にした人が列車の事故を防いだ事があった事から書かれた小説でした。私は勿論犠牲になる事を勧めるわけではありませんし、自分もその場にいたら飛び降りて列車を止めようとする人をためらわずに止めただろうと思います。命はたった一つ、人生は一度きり、そう思って、改めてコロナ禍の今、昔の人達の歩みが今の私達の日常につながっているのだという事を思い、この時代に共存しているのだから手を携えて何とか一緒に乗り越えて行きたいものだと思っています。視点を変えれば感謝したい事に数多く出会えます。それはとても手ごたえのあるキャッチボールのように感じられます。苦労して掘られた井戸の水は枯れることなく、その傍にはゆずり葉の木が植えられているように私には思えるのです。渡されたものは次の世代に確かに伝えて行きたいですね。

10月26日、共感、幼稚園に行く

気温が低くなり、秋らしくなって来ました。季節のスイーツ、ケーキなのですが、色々な果物を使って工夫を凝らした新製品が並んでいます。食べるのは勿体ないように思え、胸がチクッと痛みます。紛争、内戦の中で生きて行かなければならない人達も大勢います。うつろな目をして表情のないような人達は絶望しているのかも知れない、子供達は毎日の食事もさぞかし十分ではないだろう、そのように思うからなのです。贅沢なお菓子が悪いとは思いませんけれどやはり見るたびに複雑な気持ちになります。私が小さい頃は生クリームと苺のケーキが冬に大量に出回るようになった事に驚いたものです。秋の生まれなので母が黄色いクリームの乗ったモンブランを買ってくれたのも懐かしい思い出です。人間は、物が何でもあるようになったから何も悩みや問題がなくなるというわけではありませんね。ある時、怒りに満ちた目でじっと見られた事があったのですが、その子の目の奥には悲しみという感情があるのだと感じました。多分長い歳月で溜まって行ったのでしょう。どのような悲しみがこの子の中にあるのでしょうか。私はとても痛々しいと感じました。大人も子供も色々な思いを抱えて生きているのは同じなのですね。ところで、人は普段なかなか共感してもらうという経験をする事がないのではないでしょうか。同感と共感は違いますものね。私がふっと思い出すのは、幼稚園の時のことです。ある日、どうしてかは分かりませんが、幼稚園に行きたくないと思ったのです。幼稚園の先生や友達との間で別に嫌な事があったというわけではなかったのですが、何となくグズグズしていました。その時、母は幼稚園に行く仕度をした私が家の外に出た途端にピシャッと戸を閉めたのです。問答無用という感じでした。一緒に暮らしていた母の従兄弟が出勤するために丁度外に出て来ました。私はこの、年の離れたきょうだいのように思っていた叔父と手をつないで幼稚園に行きました。連れて行ってくれたというより一緒に登園したようなものでした。叔父は一言、お母さん怖いねえ、そう言っただけで、登園しなくても良いように母に言うでもなく、私に同情したり、説教しようとかなだめようなどとはしませんでした。でも、あれがマイナスの感情で心が動揺している時に、私が初めて共感してもらった体験だったと思います。叔父は今も元気で、こんな事は忘れたかもしれませんし、私も取り立てて話そうとも思わず、でも長い歳月覚えていたのです。共感してもらう事で心が少し楽に、自由になって軽く温かくなった、という心地良さは自分を縛りすぎなくても良いという事で、縛っているのは自分自身なのだと今は思うのです。

10月22日、コロナ禍だから気付く

ウイルスが心配でも買い物に行かなくてはならず、足を延ばしてリニューアルしたスーパーに行って来ました。スーパーでは自動で支払う機械、駅でも券売機が多くあります。お札を入れると機械はひったくるようにさっと中に入れ、小銭のおつりは放り投げるように出てくる、いつもそんな風に感じます。中に人が入っているのかと思うほどで、先が見えず漠然とした不安を感じている今は、このような機械の反応がむしろ微笑ましく感じられます。お米がビニール袋に入っていなかった時代、時々小さな石が入っていて母がお米を磨ぐ前に丹念に取り除いていた姿を覚えていますから、小さなビニール袋に一人分のお米が入って店に並んでいるのがとても不思議で、毎回半信半疑で見ているのです。主食が変わったとでもいうような気がして、物を含めた様々な価値観が大きく動いているのを感じます。でも、変わらないものと変わって行くものがあるという事だけは変わりませんね。ところで、感染症の影響で人との絆を再確認出来たという方が多いようです。ですが、何となく波風が立つような事を時々言う方もいます。よその家庭に波風を立てるような、と言っても大きな波風にはならない程度の、なのです。そのような配慮はあるのだと思います。家庭で承認欲求が満たされていなくてどこか取り残されているように感じているのかも知れません。小さな波風はすぐにおさまるので、まるで水すましのようです。このような方も別に悪い人というわけではありません。案外気の良い人、という事が多く、雑談をしていて優しい笑顔が印象に残る事もしばしばです。生まれつき鬼のような人はいないのだな、と思うとホッとして自分の心が温まって行くような気がします。

10月18日、マニュアルはあるのか

分からない事が起きると早く解決してその状況を変えたいと思うけれど、悩みの一つひとつについてのマニュアルのような答えはないと思います。人は皆違う人間だからで、親子関係にしても似たタイプの悩みだからと言って、本に書いてある同じ言葉や方法をそっくりそのまま真似れば良いわけではありませんものね。アニュアルの書かれている本が多いのは需要が多いからだという事も勿論事実、参考にする事が別に悪いとは思いませんが、あまりとらわれすぎると、かえって袋小路に入ってしまいかねないと思います。本を読み、その本の中に出て来る症状と似ているから心がその病気なのではないか、と思う事もあると思いますが、これもその本を読んだだけで判断出来ないでしょう。医師は専門家ですからやはり心配なら病院を訪れた方が良いのではないかと思います。心も身体と同じように長い間使っていると疲れるものです。傾聴という事も必要だと感じるのですが、普段大人は親しい人からも滅多に傾聴はして貰っていないのではありませんか。自他の心を大切にお互いにかかわって行きたい、このような大変な日常だから、そう思っています。良くないと思う事を止められずに悩む時、心の奥の方、つまり深層の感情や感覚は、本当は止めたくないのだ、という事が多いですね。人とどうかかわるかは、まず自分を知る事で、自分の根っこは変わらなくてもそれ以外の部分は絶えず変化しているという事を考えると、なかなか難しい一生の課題のようにも思うのです。

10月14日、母性

ある時石に躓いて転びました。子供の頃から一体何度転んだのだろうと思うほど、足元を見ないでゴール地点を見ているから転ぶ、という事が多かったように思います。大人は転んだ時痛いかどうかよりも、人が見ていなかっただろうかとさっと辺りを見回す事があるのではないかと思います。人に見られたら恥ずかしいので、少々痛くても痛くないような顔をして早くその場を離れようとしますね。もし母親がその場にいて、転んだのが自分の子供だったら駆け寄って怪我をしなかったか聞くでしょう。小さい子供だったら助け起こす母親もいると思います。優しさ、心配する、というのは母性です。父親にもあります。女性にだけ、というわけではありません。それは育まれてきたものでもあります。子供は愛され見守られて、安心し親を信頼して育って行きますが、子供の年齢や発達によって少しずつ自分で判断し、行動する事が出来るようになったら、過剰ではない相応の関わり方が必要になって来て、案外難しいものです。あまりに強く、四六時中見ている事は子供には見張られていると感じられ、信用していないからだと思う事もありますね。このようにすれば間違いない、という方向に子供が進んで行くように、というのは子の幸せを願う親の愛情です。普段見たり感じたりしているこの側面が母性、と考えられがちです。けれど、こうしなさいという力がいつまでも、いつも強力ですと、コントロールしているようになってしまいます。子供は自分とは別の人間であるという事も事実なのですから、子供の自発性をそがないような関わり方が必要になって来ます。抱え込んでいては成長や自立の妨げになる場合もあります。母性には子供の自立を妨げて、飲み込む力がある、産み、育てるという肯定的な側面だけではない、これが母性だと言うと、驚いて受け入れがたい方もいらっしゃるかも知れません。私は学生時代にこのもう一つの側面を初めて知った時、何となく分かるような気がしました。それは、小学校低学年の時の、我が家の猫がその理由なのです。気性がしっかりしていたこの猫がある日、出産しました。五匹の中の一匹は小さくて母乳がなかなか飲めませんでした。でも人間だけでは一日中ついていて助ける事は出来ません。動物病院はほとんどない時代でした。親猫はその猫を庇わないのです。そしてこの子猫は死んでしまいました。親猫は子猫を放さず、舐めたり鳴いて呼んだりしていたのですが、しばらく時間が経って母や祖母がお墓を作ってあげようね、と行って見た時に、猫達がいる箱の中にその子猫だけがいなくなっていたのです。私は不思議でした。後で母と祖母が私に聞こえないよう台所で、あの母猫は自分が産んだ子供を自分の身体の中に戻したのだろうと話していて、非常に驚きました。つまり、どこかに連れて行ってしまったのではなく、食べてしまったという事で、年齢が一桁だった私には信じがたい事だったのです。その後ほかの子猫達はすくすく育って貰われて行きました。私はあの子猫の行方の話はもうしませんでした。親猫はずっと家で生まれ育った猫で、その後も可愛いと思って可愛がり、仲良く暮らしました。人間と猫を同じに考えてはいけないというお叱りを頂戴するかも知れませんが、私には人間の母性のもう一つの側面とどこか通じる所があるように今でも思えるのです。

10月9日、今日明日

あなたの今日は昨日を生きられなかった人の明日、という言葉を朝ラジオで聞きました。確かにそうなのですね。大切にしなければいけないな、と思います。昨日を生きられなかった人の魂が天に存在しているのなら幸せで会って欲しい、私の知っている人も沢山いるのだろうから、とも思いました。今朝は新聞の行間や記事の奥や裏もゆっくり読みたい、ちょっと早い金木犀の香りが、思索する季節へ誘ってくれたようです。

10月5日、自分とは

大きな台風は大きな心配の元ですね。夢を見ました。沢山鍵が付いた鍵の束を持っている。帰宅して玄関の鍵を開けようとすると、その鍵の束の中の玄関の鍵が大変な勢いでちぎれ飛ぶ。すぐそばの草の中の、白いレースのハンカチの上に落ちたのです。目に沁みるような白いハンカチの上に落ちた鍵は拾おうとすればすぐに拾えるだろうと思う、という夢でした。ちぎれ飛んだ鍵は、壊れはしませんでした。何を表しているのか全部分かるとは簡単には言えませんが、自分の内側に目を向けてみたいと思ったからでしょう。かなりのエネルギーで鍵がちぎれ飛んだのは何故か、白いハンカチの意味は何、すぐ拾えそうなところに落ちたのは何故、等々意味がある夢です。ただ、一つひとつの品物の意味を調べて何の象徴かという説明をつなぎ合わせたら分かるというものでもないのです。今どのような状態でその夢を見たのかという事も、深く、そして四方から考えて行く事をしてみようと思っています。急がなくても理解出来れば、と言うわけです。このような時は、いつもより時間をかけて野菜を漬けた糠床をかき混ぜている事に気付きました。別にぼんやり考えているからではなく、自分の意識と無意識の循環を良くしているつもりなのかも知れません。

10月2日、アメジストセージは見ている

今年も赤紫に近い色のアメジストセージが咲いています。この花の咲く頃は毎年台風の心配をしなくてはならないのです。ところで、何か一つのキーワードによってそれと関係のある過去の出来事の世界にすうっと足を踏み入れる事があります。例えばそれが二十五年も三十年も前という事もあります。過去の人は親も友人も、旅立った時の年齢のままの姿で、それ以上年を取った姿は浮かんで来ようもないのだと改めてその後の自分が生きて来た歳月を思います。長かったのかあっという間だったのか判断が尽きません。セピア色の写真を引き出しから出して皺を伸ばして懐かしく見るような場合もありますが足を踏み入れた途端に今まさに撮られているユーチューブの動画の中に入ったように生々しく感じて行く場合もあります。私も自分の心の中にいつもより少し深く入ってみようかと思っています。最も、自己をどこまで見て行けるかと言えば、無意識に防衛が働きますから限度というものがありますが。コロナ禍で今の日常は、今までで言えば非日常、非常事態ですので、いつもはなかなかしない事をしてみようと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。庭のアメジストセージにいざなわれたかのようです。

9月29日、浅い夢深い夢

夜眠っている時に見た夢には、訳が分からないと思うような夢もありますが、現実の中で言えなかった事が言えてすっきりする、逆に、ストレスを感じている状況そのままが再現されたような夢で、目覚めた時にやりきれない気持ちになる、という場合もあります。でも、訳が分からないように感じた夢に、実は自分の深い心の中に気づかずにあるものが大きく影響している場合がままあるのです。それは、自分の意識できる心の浅い部分では到底考えられない、受け入れられないような自分の心の奥にあるものなのだと思うのです。普段の自分が大嫌いだと思うような架空の登場人物は、自分が決してそのようには生きて来なかった自分の影だと思って納得する事があります。心理学者で精神科医でもあったユングは影についても述べており、昔私も勉強した事があります。意識と無意識の循環が良くなると自分の気付きも増え、無意識の一部を捉えやすくする触覚が働く、という風になります。沸かしている湯舟の中のお湯はかき混ぜると、熱くなっている上の部分とまだぬるい下の方が混ざり合って行きます。うまく対流が起こるようにすると、良い加減のお湯になりますね。自分を知る事はとても難しく、絶えず変化している部分も多い心と、根底にあるものの両方、それにもっと気づけない混とんとした何かもあるかも知れないので、たとえ悩みがなくても困難な事と感じる事もしばしばです。でも私は自分の心の深淵を覗いてみたい、今の私とはいったいどのような存在なのか、と思って心理学を学び始めたのも事実なのです。皆様も、どうか今夜は良い夢を見る事が出来ますように。

9月26日、母に通じる佐藤愛子さん

ブルータスお前もか、というシーザーの言葉は有名ですが、裏切られたと気付いた時のこの言葉は、いつの時代にもどこの国にも当てはまる事がなんと多い事かと、時々思います。ブルータスは掃いて捨てるほどいるし、自分がブルータスにならないとは言い切れません。それに比べて、コーデリアを捜すのは難しいだろうなあと思います。何か皮肉のような事があれこれ頭に浮かんで来て、意地悪な所がある、と思わず笑ってしまいました。その日、 作家の佐藤愛子さんが、これからは新しい作品の執筆をなさらないと、新聞に出ていたのを見つけました。そこには今回で最後になる本が紹介されていて、書店に行って買って来ました。佐藤さんは私の母と同い年、大正生まれの方ですから、お元気で活躍なさっている事が励みになっていました。母は68歳で亡くなったものですから、佐藤さんにはいつまでもお元気で書き続けて欲しいといつも思っていました。筋が通っていて歯に衣着せぬ文章に母はいかにも同感、という風に笑顔で読んでいたものです。佐藤さんと母は随分性格は違うと思うのですが、女性はなかなか自分の考えや気持ちをはっきり言えず、言うと不利益を被った時代だったのですね。でも自分という芯は持ち合わせていてぶれない母でした。はっきりと考えや気持ちが書かれていている、同時代に教育を受けた方が書いた、という事はどこか胸がすくような気持ちになったのでしょう。私は高校生の頃からよく佐藤さんの本を読んでいたのです。いつかお会いしてみたい、ずっとそう思っていましたが、お住まいを探す事は難しいでしょうし、もし分かったとしても、その辺りをうろうろするのは迷惑な事で、非常識と思うと、いつか、はいつかのままで夢みたいになってしまうのか、などとも思っていました。母に通じる所のある方の存在を、本が出版されるたびに確認出来て、それは安心感につながるものだったのだと思います。大きな存在であり、一面識もない方、これはご縁がなかったのではなく、細く長く続いて来てこれからも多分続いて行くのだろうと、しみじみ思います。これからもお元気で世の中を見つめ、出来るだけよい心持ちで長くお元気でいらしていただきたいものです。目に見えない交流はあるものだと、コロナ禍の今ですが、とても温かいものを感じているのです。この場合、それは余人をもって代えがたい交流なのだと思います。

9月21日、人の一言

ある日スーパーの近くで知り合いの人に会いました。わりとよく会う事のある人で挨拶を交わしたのですが、その時、私が疲れているように見える、だるそう、何か作業でもして疲れているのか、と聞かれました。私は特別普段と違う体調ではなかったので驚き、変わった事はないし体調もいつも通りだという事を彼女に伝えたのですが、何となく気になりました。お互いにマスクをしていて目しか見えない状態だったので相手の表情が普段より分かり難いのにもかかわらずそう言われたものですから。後で他の人にそれとなく聞いてみたら、いつも通り、特別変わって見えないけれど何故聞くのかと言われました。家族や余程親しい人ならさほど気にならなかったかも知れません。でも、もし三人くらいの人に具合が悪いように見えると言われたら、私は病気になったような気持ちになるでしょう。そういう性格だと改めて気付きました。では何故知人には私の体調が今一つのように見えたのでしょうか。ワクチン接種を終えて二週間経っている事を知っている人なので、その事が心のどこかにあって心配してくれたのかも知れないのですが、副反応もすぐに良くなった事を知っていて体調がいつもと違うように見える、と感じたのは私の顔色や様子ではなく、その人の心の内側にあるのでは、という気がします。お互いに腹蔵なく話せる事は大切で良い事と思いますけれど、今、生まれて初めてのこの予防接種を受けて漸く少しだけホッとしている精神状態の相手にマイナスの事を言うのはちょっと、と思ってしまったのも事実です。多分すぐに気にならなくなるだろうという程度の事ではありますが。悪意のある言葉ではなかったと感じているのにこんな風に思ってしまって御免なさい、という気持ちです。あれこれ考えるのは時にはクヨクヨする事ですが、自分の心の内側に目を向け、その時の思考や感情のメカニズムを知る事にもなるのですから、良いとも悪いとも言えない事でもあると思います。他者とのコミュニケーションについては、交流分析を勉強すると随分役に立つ事が多いです。

9月16日、初秋の寒さに

二学期が始まったので小学生の集団登校の列を見かけるようになりました。マスクをして歩く子供たちの姿、一昨年までなら奇異に感じたかもしれません。あっという間に世の中が塗り替えられたような昨今です。非日常の状態が続く毎日、そんな中での夏休みは子供たちにとってどのようなものだったのでしょう。長い休みが終わって友達と一緒投稿するのがとても嬉しそうに見えます。それにしても、夏休み明けには宿題のあれこれを持っての登校なので荷物が多く、大きさや形状の違う物もあって、汗だくという年が多かったのです。でも今年は寒いくらいです。大人は、長袖姿の人がほとんどという、9月の初めになって驚いています。夏から秋口にかけては帽子を被って行くよう毎日母に言われるのが嫌でした。帽子で風通しが悪くなるので頭が暑い、などと思いながら仕方なく言う事を聞いたものです。あの白い帽子を被っていた頃と今と、あまり帽子のサイズは変わらないものなのですね。その頃が懐かしくなるほど気温や天気が徐々に緩やかに変化して行くのが普通、という座標軸が今は大きく変わりました。地球温暖化が加速されたという事だけでなく、自分がそれだけの歳月を生きて来た事でもあるという事をもしみじみ思います。邯鄲の夢の話が、ヒョイッと私に近づいて来たよう、感情や感覚を伴った気付きが多くなる事が年を取る事だと思いながら、20度に満たない日の朝は猫じっと見つめられて暖房のスイッチを入れています。

9月11日、治験、副反応

私の二回目のワクチン接種は8月21日でした。私は若くないので副反応は出ないかも知れないと思っていました。ところが強い腕の痛みでなかなか寝むれず、接種翌日にはいくらか寒気がして節々が痛くなりましたのでそっと横になっていました。午後、37.5℃近く熱が出たので軽い食事と水分補給をして解熱剤も飲んだのですが、熱が出ると腕の痛みがかなり治まって来ました。その日二度食後に解熱剤を飲み、翌日には平熱に戻っていました。その翌々日の朝、とても気分よく目覚めましたので、薄紙を剝ぐように回復するのだなあと実感しました。土曜日の午後の接種で、私はかなり慎重なのですが、水曜日には腕の痛みはまだあるものの、いつも通りに動いて大丈夫、と感じました。今回特に感じたのは、治験に協力してくれた沢山の方々のお陰でワクチンを接種してもらえるようになったのだという事です。しみじみありがたいと思っています。どんな治療薬もワクチンもそのようにして出来たのだと気付くと、当たり前に思って享受してはいけないとのだと感じます。前の時代の人の命と思いを受け継いで次の世代に伝えて行かなければ何も伝わらない、新型コロナウイルスのワクチンの接種や効果の一番始めのページ、一番下のページに私達の経過や結果が記されて行く事が将来の未知の感染症治療の幾ばくかの手がかりになって欲しいものです。それから、責任を伴わない自由は決してないという事もやはり強く思います。物理的距離をとる事が心理的に近くあって共存して行く事だと気付いて欲しいとも、ずっと思っているのです。

9月6日、秋の足音、気配

八月二十九日は久しぶりに風のある日でした。強風は困りますが、心地よく風が吹いていると随分動きやすくなります。ほとんど無風に近い日が続いていたので湿度も下がったように感じられた一日でした。風が秋を運んで来てくれたのかも知れません。翌日は久しぶりに熱帯夜から解放されましたから、秋が戸口まで来ているような朝になりました。さしずめ蜩の声は秋の足音、でしょうか。気が付けば日も大分短くなっています。店には梨やブドウなど秋の果物が並んでいて、主役です、と言っているかのよう、もう少ししたら茸や栗なども入荷が増えて来るでしょう。空の色も雲も皆秋、ただ台風だけは困るので、現われて手欲しくないですね。秋刀魚の季節でもあり、もの思う季節でもありますけれど、やはり年間通してウイルスの変異株が一番気になるところ、頭の痛い問題です。大人も子供も、年齢を問わず安心して秋空を眺めて楽しく歩けるような日が一日も早く来るよう祈るばかりです。感染しないよう気を付けたいと思いますし、感染した方が元気になって一日も早く元の生活に戻れますように、とも思います。

9月1日、パレットは色とりどり

近くのスーパーで改装前のバーゲンをしていた時に、行って来ました。店を閉めないで改装するという事ですから、日々商品の陳列場所を移動する店員さん達は大変だと思います。お陰様でスムーズに買い物が出来ます。衣料品売り場で、とても綺麗な、深みのある赤いTシャツを見つけました。迷ったのですけれど思い切って購入しました。このような色の服を買うのは生まれて初めて、今まで着て見たいと思った事のない色です。いくらか濃いピンクが混ざっているようですが、何とも品の良い色だと思いました。年齢と共に明るい色にも興味が出て来たのだと思います。派手とか地味とか言いますが、人はいちいち他者の着ているものを気にしたり、いつまでも覚えている事はあまりありません。大雨の被害を思うと不謹慎なようですが、これから、自分がどういう色のどんな服を着るのか、パレットに絵の具を出して、これから描く絵をあれこれ考え、思いを巡らせているような気持ちになって、久しぶりに心の重石が少し軽くなったような気がしています。

8月27日、オリンピック、パラリンピック

東京オリンピックは8月8日に閉会しました。コロナ禍での開催でしたが日本選手は素晴らしい結果を出し、感動した方も多いのでは、と思います。海外の選手にとってもこの状況での来日は大変だったでしょうがやはりオリンピックならではの様々な輝きを心に残してくれたように思います。それでも実感が薄いのは無観客で開催しなければならない状況での開催だったからだと思います。感染拡大の中でのパラリンピック開催、心配です。オリンピックも影響したのか、コロナウイルスへの感染者の増え方は今までとは違い、急拡大しています。君津は大都会などではありませんのに最近では毎日数人から十数人から二十数人の人が感染していますし、今まで感染者の少なかった地域でも皆増えています。これから一体どうなるのか、買い物に行くのも不安になります。夏休み、お盆、人の移動する季節です。ですが、終戦の日があり、普段あまり戦争について考える事のない人でも、生き延びられなかった人達に思いを馳せる事の出来る時期でもあるのですから、コロナ禍の今を皆で生きて行くためにはどう行動すれば良いか、来し方行く末を立ち止まって考えるきっかけにする事が出来たら、とも思います。我慢という言い方を聞く事が多いですが、自分の芯をしっかり作る辛抱、と思おうと、ずっと考えて来ました。今のところ、私達はワクチン接種と辛抱しか方策がないようです。まさか家で亡くなる人が増える世の中になるとは思いもよらない事でした。物理的距離を取る事で、心理的には心を寄り添わせて何とか乗り越えて行きたいですね。

8月20日、地球のため息、一つのおにぎり

あちこちで大雨が続き、被害も出ています。天の底が抜けたような降り方で唖然とする毎日です。海外でも、熱波や大雨の被害が起きているのは、やはり地球温暖化の影響なのでしょう。日本に次々に雨雲が流れ込んでくるのは東シナ海や南シナ海からで、大気の川というのだそうですね。まるで地球のため息のようです。海水温が高く、上昇気流が雲を作る、そのような事なのかも、と思いました。その勢いが強いからなのか偏西風が今年も蛇行している、太平洋高気圧の張り出しが弱い、以前の夏とは違う気圧配置になっている天気図を見ますと、ため息が出ます。自然に関する事は以前習った事が当てはまらなくなっているので、まるで気まぐれのような出来事が起こり、それで災害が起きる世の中に、という事なのでしょう。ところで、戦後間もなくの上野駅周辺に、どうしても用事があって上京した人から聞いた話が、夏になると思い出されてなりません。戦争や空襲で両親を失い、集団疎開していた地方から帰って来た子供達は戦災孤児という立場になってしまい、誰にも頼る事なく、世の中が落ち着くまでの歳月を自分達で生きて行かなければならなくなった、そういう子供も多かったそうです。東京の変わりように、リュックの中から出したおにぎりを手に持ったまま茫然としていた人の手を払い、落としたおにぎりをその子が素早く拾って逃げた、自分より小さい子にも分け与えていたようだ、という話です。戦後の荒廃した世の中を子供だけで生きて行くのは非常に困難です。でも、敗戦国の政府がすぐに手を差し伸べる事は出来なかったのでしょう。激変した世の中、人の心の変化、そのような様々な事に翻弄され、すさんだ気持ちになっても無理からぬ事だったと思います。一つのおにぎり、一個のコッペパン、今は簡単に食べられます。お盆の精霊棚の供え物はささやかですが、戦後を生き延びる事の出来なかった方達にもどうか届きますようにと、今年も願って供えましたが、一つのおにぎりの向こうに見えた時代に凝縮されたもの、事を思うとやりきれない思いで、この時もため息が出ました。

8月18日、ワクチン接種

7月31日に新型コロナウイルスの一回目の予防接種を受けました。接種後数分経つと接種部位が蜂に刺されて腫れて行く時のような張りと、いくらか腕が重くなるような痛みを感じるようになりましたが、幸いショック症状も出ず、痛みが強くなるとか部位が広がるとかいう事もありませんでした。でも、やはり不安が簡単に消えたわけではなく、数日は気を付けて生活していました。暑い日が続いているので、暑さのために不快に感じる事も、もしかしたらワクチンと関係があるのでは、などと思って精神的に疲れました。それだけではなく、接種の予約日が近づくと毎日気になっていましたからヘトヘトです。病院での接種でしたが安心できる対応で案ずるより産むがやすしだったと思いました。ですが二回目の副反応は、と気になっているのも事実なのです。ところで、壊れた冷蔵庫は11日後に無事に新しい物を使えるようになったのでホッとしています。コロナウイルスの影響で海外の工場からの部品がなかなか入って来ないと聞き、思わぬ影響がある事を知りました。他国に難民として暮らしていて、大雨や洪水で避難している海外の人達も多いのですから、日本でもコロナウイルスの感染が拡大しているけれども、こうしてなんとか生活していられる事が後ろめたく申し訳なく思えます。当たり前というものはなく、享受出来るものへの感謝という事をしみじみ感じるコロナ禍の日々です。ワクチン接種後のデータはやがて積み重ねられて行くのでしょうが 、今年の私達がその一番下のページに書き込まれて行くのですね。

8月15日、茶トラのきな粉ちゃん

7月25日お昼前に茶トラのきな粉ちゃんが旅立ちました。猫は虹の橋を渡って天国へ行くのだそうです。後ろ足の片方がくの字に曲がっていて、反対側の前足も持ち上げて歩く事がありましたから、何かの事故でしょうか。今はもう足が痛くはないでしょうし、どこも苦しくないでしょう。お母さんに会えたかしら、と思っています。家にご飯を食べに来るようになって7年くらいになる猫で、友情のような絆がありました。何かの縁だったのだと思うので家の猫達の近くに葬り、お線香と花、水を供えました。前日までキャットフードや水を口にし、人間に触られる事を嫌がっていましたから寝る場所を用意するくらいしかできませんでした。足に大怪我をして治らなかったのですから人間不信になるのも無理はありません。主に家とお隣を行き来して毎日過ごしていました。5月から6月にかけて、4週間いなくなった事がありました。疲れたのでは、と思いますが、最後にあちこち行って見たかったのかも知れません。朝は呼びかけると頭を上げてにゃおんと返事をしてくれたので、少しは私の事を認めてくれていたのかも知れません。お母さんはきな粉ちゃんの事忘れないよ、来てくれてありがとう。たいしたこともしてあげられなくてごめんね、そう言葉をかけて子守唄を歌いました。家の二匹の猫達もいつもと様子が違います。わかるのだと思います。きな粉ちゃんを虐めた事はありませんでした。心に穴が空いたような気持ちは当分どうにもならないと思います。もうご飯食べに来ないのです。寂しくなります。多分8才～10才位だと思いますが、もしすぐに病院に連れて行っていたらきな粉ちゃんの一生は違うものになっていたでしょう。怪我をした時に自分ですぐには動けなかったのでは、と思います。知りながら放置したのだとしたらひどい事だと思います。動物の命にも優しくありたいものです。

8月10日、六十代は前半と後半

新型コロナウイルスのワクチン接種は、高齢の方達には大分進んできたようです。その為か、高齢者の感染は少なくなっていると報道されています。それでこれからは重症化のリスクを考えて五十代の人達への接種が進むようにというのですが、私は釈然としないのです。それは、六十代以上の感染者が少ないと言えるのかどうかよく分からないからです。65歳以上の人と、60歳から64歳の人を一緒に数える事は出来ないと思います。六十代前半の人達は、今年の春の段階で、優先順位がそれ以上の年齢の人達とは違うからで、接種券が郵送されてきたのが6月中旬では早い方、それから予約すると、7月に予約が取れなかった人は多いのです。ですから報道を聞いていると、60歳から65歳までの人の扱いが抜けているよう、まるで宙に浮いているようではないかと、とても不思議な気がします。それは私も該当するので、データが分からず笊で水をすくっている感のある報道では不十分だと感じています。

8月5日、多剤耐性菌

多剤耐性菌というのは複数の薬剤に対して耐性を獲得した細菌やウイルスなどの事で、同じ薬剤を長期間使うと現れ、薬の効果が低下したり失われたりすることがある。これは依然聞いた事をもとにして調べてみて、このような説明がなされていたものです。例えば抗生剤が効かなくなるなどと言う場合もあります。このことを思い出したのは、新型コロナウイルスの変異株が次々と現れているからなのです。感染力が強くなったり、もしかしたら毒性が強くなるという事もあるのか、ワクチン接種が行き渡ればそれで今までのような人との距離を取らず、マスクもいらなくなる暮らしが戻るのか、そう簡単には行かないのではないか、などと言う不安を感じます。ワクチン接種が出来ない体調の方もいて接種率100％というわけには行きません。ワクチンが効かなくなるという事が起きた場合、ワクチンは改良しなければならなくなるかも知れませんし、ワクチンとウイルスのイタチごっこにはならないでしょうか。よく効くワクチンとよく効く薬とは違いますが、より効き目の強いワクチンは人間の身体に安心して接種出来るものなのか、素人の私には疑問ばかりなのです。いずれにしても、大変手強いものが出現したのですね。でももしかしたらこのウイルスには原始的な思いもよらない弱点があるのではないか、という気もするのです。難しい事なのでしょうが、回虫の駆除薬が有効かも知れないと言われているのでそのような点を糸口にして、なんとかなって欲しいという希望を持っています。ですが、一度出現した感染症を根絶する事は非常に困難な事だとも思います。このウイルスの起源は私には分かりませんが、細菌兵器を作って使えばあっという間にヒトについて世界中に広がり、使った所に戻って来て収拾がつかなくなるのだから作ってはいけないという戒めのように感じられますし、地球から人間への警告のようにも思えるのです。

7月29日、冷蔵庫、オリンピック

冷蔵庫が壊れました。以前もやはり夏でした。暑いのに毎日よく働いてくれました。でも困ります。ガスコンロも買い替えなくては、という状態になっているものですから。すぐに近所の電気屋さんに見て頂き、両方とも買い替える事にしました。冷蔵庫さん20年間ありがとうございました、とも思っています。何でも長持ちして電力消費量が少ない、取り付けが丁寧でアフターサービスも安心ですから、個人の店が高いと一概には言えません。ご近所の電気屋さんに感謝です。ですが、コロナ禍での痛い出費ではあります。ところで、このようなオリンピックになるとは想像もしていませんでした。1964年の東京オリンピックの最終聖火ランナーは19歳の坂井義則さんでした。第18回近代オリンピアードの開会を宣言します、という昭和天皇の開会宣言、青空とファンファーレ、今よりずっと小さかった白黒テレビの中に自分が入ってしまったような臨場感、心が揺さぶられたあのワクワクした気持ちに、今は到底なれません。選手の方達には大変申し訳ありませんが、ガラス越しに見ていると言いますか、真空パックの物を遠くからそっと見ているという風に感じます。以前のあのオリンピックは、それぞれの人の夢と希望がオリンピックと重なっていたのかも知れませんね。ふと、三丁目の夕日という言葉を思い出しました。私は幼稚園を休んでテレビを見ませんでした。かえすがえすも残念です。

7月24日、夏直前の

一日だけでなく、日本のあちこちで大雨が降りました。ドイツや中国でも被害が出ていますね。地球温暖化の影響だとは思っていても、まるで翻弄されているように感じます。これ以上どこにも大きな被害が出ない事を祈るばかりです。土石流が起きた熱海での捜索の困難さは、捜索している警察や消防、自衛隊の方達の靴に就いた泥で、それは言葉を失うほどです。新聞の写真に目が釘付けになりました。今も時折雨がふるのですからおそらく泥流の中を慎重に捜索しているのでしょう。行方の分からない方が一時も早くご家族の所へ帰る事が出来ますように、出来れば御無事で、そう祈るばかりで、何も出来ない自分がもどかしく、ニュースの度に重い気持ちになります。オリンピックはほとんどの会場で無観客にするそうですが大会関係者の人数はかなり多いという事もあって、今後の感染の広がりは予断を許さない状況だと思います。こういう時でも夏はやって来ます。七夕の日の宵の口に、今年初めてミンミン蝉の声を聞きました。梅雨が明けて間もなく夏がやってくる事を蝉は知っていたのでしょう。

7月20日、泣きっ面に蜂

先日、藤の木の剪定をしていて蜂に刺されました。洗って消毒したのですが、腫れて痒みがあったので皮膚科に行きました。塗布薬を頂いたら翌朝には腫れが引いて、数日で治りましたが、これからは気をつけなくては、と思いました。暑くても雨が降ってもダラッとしないで十分気を付けようと思うきっかけになりました。その日、帰宅したらワクチンが不足という事になりそうというニュース、思ってもいなかったので、予約は取れたけれどワクチンは二回摂取するのですからこの先どうなるのか分かりません。何故このような事態になったのでしょう。厚生労働省、ワクチン担当大臣、総務省も関係があるこのワクチン接種は、状況が変わると困るのはやっと接種が軌道に乗って来た自治体でしょうね。毛細血管まで通りが良くならないと一人ひとりの国民には様々なサービスは届かないのですから。政府も一生懸命ワクチン接種を進めようとしているのだと思うのですが、朝令暮改のよう、船頭多くして船山に登る、という風にも思えます。梅雨末期の大雨は大きな被害が出て、まだ爪痕というにも速いような伊豆山の現場の映像に、山津波と東日本大震災の津波が重なります。日本列島は自然災害が多い所、地球温暖化だけが原因ではなく、そのような場所にあるからという事も言えるのかも知れません。ともかく、私は蜂が先で泣きっ面が後、になりました。

7月13日、沈黙は雄弁

沈黙は最も雄弁な意思表示という場合があると思います。今年の秋に、香港の青果店の店頭に並ぶリンゴ達はきっと美しく誇り高く、道行く人の足を止める事でしょうね。誰も、人の心の中を制御し縛る事はできません。ところで、新型コロナウイルスのワクチン接種券が6月19日に届き、不安もありますが予約しました。今まで通り気を付けて、それまで元気でいたいものです。でも、万一よほど状況が悪くなった時には、意識のある間に私は後で良いから若い人を先に治療して欲しいと言えたら、と思いました。心づもりというのでしょうか。いつの間にか自分がそのような年齢になった事をひしひしと感じると同時に、言えるだろうか、とも思っています。言いたいけれど。この場合沈黙では役に立てないですね。あれこれ思いを巡らして見るせいか、庭の山梔子が心持ち俯いて咲いているように見えます。今年の世間の風は荒く冷たいと思っているのでしょうか。

7月7日、災害から心に灯ったもの、伝えるという事

震災や風水害も未知の感染症も、口伝えが出来なくなった時、時系列で経緯や数字が列挙された記録だけになったら伝える事は難しいとずっと思っていました。でも、千葉県南部が特に被害の大きかった台風15号から一年以上たった時の事です。ラジオの番組で紹介されたお便りで、都内のある女性が、自分はボランティアも出来ないし被災地の食材などを購入する事もなかなか出来ないので心苦しく思っている、けれど、電気や水道を使うたびに、自分の住んでいる地域が長い期間停電や断水になったらどんなに大変だろうと思い、気を付けて使うようにしている、被害にあった人達が一日も早く元の生活を取り戻す事が出来ますようにと、毎日心の中で祈っている、そのような内容のものでした。この方のこの投書は私には寒い時に温かいお茶が喉を通って行くようにとても嬉しいものでした。息長く人の身になるという事はそう簡単ではありません。こういう気持ちで、見たり聞いたりした災害などの状況を心に留めておき、次の世代に出来事と共に自分の感じた事考えた事や、どのようにその事実と向き合ってどう行動したかを伝えて行く事は出来ると思います。大切なのは、そのようにして自分で切断せずに灯は手渡す、伝えて行く事なのですね。

7月1日、強い違和感

オリンピックが近づいてきます。開催して感染は大丈夫なのかという不安、その後どうなるのかという事も釈然としないのですが、まだワクチン接種がいつになるのか全く分からないという国が多く、感染が収束したわけではない中では、必要な物を融通し合って助け合って行く事の方が大切だと私は思います。一部の国でしかワクチン接種が進んでいないとう現実を重く受け止めるべきだと、どうしても思えるのですが。世界の四割の人が石鹸で手を洗う事が出来ない事をそのままにしてオリンピックを開催する事が尋常ではないと思う私は間違っているのでしょうか。日本列島が試験管の中のようにならないよう祈る事しか出来ません。

6月27日、思い出の色

オリンピックは観客を入れて開催するようですね。不安です。予防接種の券がいつ届くのかは自治体によってかなり違います。予約もスムーズには行かないというのは効率が悪いですが、早くして欲しいとばかりも言えない気持ちでいます。ワクチン接種への不安も消えないからなのです。ですが、もし接種しなくても良いからと、このままにしていたら変異株の感染が広がった時に危険だという事も分かっているので、受けようとは思っています。最近、高齢とは思えない方が何人かで集まって楽しそうに話している姿を見かけますが、驚いた事にマスクをしていない人が増えています。高齢の方でもまだ二回目の接種が済んでいないという方が多いと聞いていますので、二回目の接種から二週間は今まで通りの生活で、と私は思っているのですが。ところで、思い出に残る色や音は誰にでもあると思います。それは記憶のどこかに深く刻み込まれているのか、滅多に思い出さないけれど何となく懐かしい出来事に付随しているのか、色々な場合があると思います。君津市では、随分以前の市長選挙で何種類かの怪文書が、数回郵便受けに入れられていた事があるのです。ガリ版刷りの物や東京中央郵便局の消印の封書など色々ありましたが、誰かが作成した事は事実、でも立候補者が二人だけでないので、誰がとははっきり分からず、後味の悪さが残りました。黒い色の水のような出来事で、21世紀なのですから、このような系譜を受け継ぐ事がもうありませんようにと祈るばかりです。また、小学生の時に、鹿野山の大塚屋という所のおじいさんの88歳のお祝いに、近隣の町の小学校に黄色い傘を頂いた事があり、急に雨が降って来た時などその傘を借りて帰る事が出来た事は、以前にもお話ししましたね。あの黄色はとても懐かしい、心が温かくなるような色で、梅雨時になると思い出します。悪意のあるものと善意の物との歴然とした違い、とでもいえば良いのか、黒と黄色の象徴的な記憶です。

6月21日、鏡

突然何の脈絡もなく、古い鏡の事を思い出しました。それは鏡台のそばにあったもので、厚さがかなりあり、四角くて描かれている絵も彫られている図柄もない、木で出来た枠の中に納まっていました。持ち手までのフォルムも素朴で実用本位のようなかなり古い事しか分からないもの、そして使いやすそうな物でした。小さな子供だった私は使う事がなかったのでいつの物なのか誰のものなのかなどと聞いた事さえありませんでした。でも、何故か覚えていたのです。人間の記憶というものは、随分沢山自分の引き出しの中に入っているものなのだと驚いています。今回は唐突に思い出したという事になりますね。確か鏡の裏が朱肉のように赤かったような気がします。いくらか裏側が見えたのだとしたら、剝がれかかっていたのかも知れません。子供は親を映す鏡、などともいわれますが、鏡の中に左右だけが反対の、自分が今暮らしている世界と同じ世界があるのでは、などと思ったのは幾つの時だったのでしょうか。鏡には何となく人を引き付ける力があるのかも知れません。あの鏡はいつからあって、誰のどんな表情やその奥にある気持ちを、一体何回くらい正確に映して見せてくれたのでしょう。

6月16日、張り合いが

最近このページを更新するのに日にちがかかります。草を取っているからなのです。土の中に適度な水分があると草は季節を問わず映えてきます。丈が伸びる草の多い季節も、横に這うようにして広がって行く草もあります。雨の少ない時期でも草がない時はないのできりがありません。ですから、終わりのない作業という事になりますね。花が咲いたり実がなったりするという成果がなく、綺麗にしてもあまり評価される事がない我が家ですし、どこもやっと綺麗になったと喜んで振り返ってみると、一番初めに草を取った場所にはもう草が生え始めているという有様なので、あまり好きではないけれどもある程度は綺麗にしておきたいので草を取らないわけにも行かないのです。世間体というものも確かにあると思いますし、放って置くと雨の後など古典の中の、野分のまたの日、のようになって気になるものですから、一年中ある程度草が伸びると取るという横着なやり方で暮らす事になるのです。ご近所さんは高齢の方達がいつも綺麗にしていらっしゃいます。なかなか真似が出来ません。

6月10日、天気図も時代で

日本付近の天気図で、台風が東から西に動いて行くなどという事もあるのは、地球温暖化の影響なのだと思いますが、5月に早々と梅雨入りする地域の多い今年の天気図にも驚きました。梅雨前線が日本海まで押し上げられるのは梅雨末期とばかり思っていたのに5月にそういう天気図を見たからです。梅雨入り早々大雨が降った熊本県、日本列島はいつどこで大雨が降るのか用心しなければならない季節に、突然投げ込まれたようだと感じます。一方、台湾ではダムの貯水量が非常に少なくなっているそうですから、雨不足という事になりますね。両極端 です。フィリピン近海やインド洋の海水温が今年も高いのかも知れません。台風シーズンが思いやられます。ところで、4月に田村正和さんが亡くなられたというニュースにビックリしました。独特の雰囲気の俳優さんで存在感のある方でした。私は人間味あふれる父親役や教師役の印象が強く残っています。ご家族の事や暮らしぶりなどほとんど報道される事がなかったというのも今では珍しい事なのかも知れません。プライバシーの尊重は大切だと思いますので、仕事以外はそっとしておくのが良いように思います。また一人減ってしまった、寂しいという気持ちと、若かった芸能人が70代や80代にいつの間にかなっている事にも愕然とし、自分の年齢を思います。本当にあっという間、邯鄲の夢なのですねえ。何か静かな足音を残して淡々と去って逝かれたようで、余韻は長く残るのだろうなあと思います。余人をもって代えがたいお一人なのかも知れません。ご冥福をお祈り致します。

6月5日、踊るドクダミ踊る笹

東海地方まで5月中に梅雨入りしてしまいました。急いで玉ねぎと馬鈴薯を収穫して良かったと思ったのも束の間、それから二日ほどしたら足がだるいのです。もしやウイルスに感染したのではという不安が心の中に広がりました。あんなに気を付けていたのに何故、と思いましたが、熱もなく、ただ足がだるくて腕も疲れているなんて不思議だと思いましたがその内、野菜の収穫をしたから疲れたのだと気付いてホッとしました。十分注意していて感染した人はきっと何故感染したのか、これからどうなるのか、誰かにうつしてはいないだろうか、などと言う様々な思いで大きなショックを受けるのだろうな、とその気持ちの一端が分かったような気がしています。それからは現因が分かって少しずつ回復してきたので草取りをしています。草と言っても伸びたドクダミと、とても細く小さい笹が多いのです。笹は柔らかく、地面すれすれのところから葉が出ているものですから、大きな剪定鋏や鎌では切れず、花鋏位の小さな剪定鋏で一本ずつ切って行くというとても手間のかかる作業です。数時間で、一部の場所は綺麗になりましたが、当分、夢に出て来そうです。丈の短い笹と、背が高く白い花の咲いているドクダミが笑顔で一緒に踊っている夢、見たくありません。それでも、こうして擬人化してみるのもストレス解消法と言いますか、ちょっとした防衛機制のように思えます。人間は元気で生きて行きたいから知らないうちにこういう事もしているのでしょうね。ちょっと楽しくなりました。

5月30日、憎むのではなく許し合う

銃を構えていた人も誰かにやらされていたのかも知れないのだからお互いに許し合わなければいけないよ、ユーゴスラビアはかつて一つの国でしたがそれぞれ独立しました。独立戦争を苦労して生き抜いて来た人の言葉にハッとしました。現在のクロアチアドゥブロヴニクのまちでの事です。そのように思えるようになるには時間が必要です。そしてその人の中で熟成が進んだ旨みのようなものが人柄に滲み出ていました。咀嚼され身についた優しさと強さがこの人のその後の前向きな生き方につながったのだと思うのです。垣間見たひとところに、全人格が見えたように深く感じたテレビ番組の一瞬でした。

5月24日、様々

新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりましたが、高齢者の接種予約がなかなかスムーズには行かないようです。電話もインターネットもアクセスが集中しないような工夫はなかったのでしょうか。なかなかつながらない不安や焦燥感とワクチンそのものに対する不安の両方が、私にもあります。まだ高齢者ではありませんが、今回高齢者に近い年齢である事を改めて思いました。無理な事をしないようにするのも年齢や身体を自覚する事ですね。アメリカでは、お金はいくらでも出すから早くワクチン接種をして欲しいという電話が病院に多くかかって来たそうですが、日本でも優先される条件に当てはまらなくても自分が先にと、頭を使って行動する人が多々いるようで、人間は国が異なってもそう違わないのだなあと思いました。ワクチンをめぐる詐欺もあるとか。百年前の人達は一体何を思い、どういう日々を送っていたのでしょうか。そのようにあれこれ考えていると人間は進歩していないのだろうか、教育が普及しても本音というものは同じ、そんな気がしています。今のこの有様はこの先どのように記されて行くのか、どのように未来の人達に伝えられて行く事になるのでしょうか。右往左往したり言い訳したり、自分が先に安全に、そういう側面もあるのが人間だけれどもそれだけではない様でありたいと、今このコロナのある時代に生きている私は思っています。勿論ワクチンが普及し、やがてこの病気が世界中で終息して欲しいとも思っています。将来の人達には、是非今の混乱から余すことなく学んで他山の石にしてもらいたいものです。

5月18日、赤紫の玉ねぎ

赤紫の玉ねぎがよく育ちました。白い方は小さめ、馬鈴薯も白い玉ねぎもまだ収穫には早いのですが、今年は季節の進みが速いようなので思い切って12日と13日の午前中に収穫してしまいました。カラッと晴れた日に収穫して、数日干した方が長持ちします。去年はひどいものでした。肥料不足、ほとんど手をかけないで放置していたようなものでしたから、全く育たないのにトウが立ってしまったものもありました。気付いた時に引き抜いて食べる事は出来ますが、ウイルスが気になって放って置いた事が原因なのは分かっています。折角植えたのに惨憺たるもの、というのも残念ですから、今年は根を育てるリン酸分の多い肥料を購入し、去年よりもずっと多めに与えました。春分の日から玉ねぎの根っこは膨らみ始めるのだそうで、11月から5月か遅くとも6月の初めまで植えて置くという事はかなり長く時間がかかる事になります。馬鈴薯は2月の末頃植えて、玉ねぎと同じ頃収穫するので期間が短いと言えますね。人手もかかる事ですから、家で収穫したものも厳密にいえばタダではないという事になります。でも決して高額な費用をかけていない我が家でも、収穫したら風通しの良い所で保存すれば年内くらいは貯蔵出来て便利なものです。インドではウイルスに感染して亡くなった人を荼毘にふすのが間に合わないからという事で、あちこちで火が燃えているニュースの映像に気持ちが塞がり、押しつぶされそうになりますが、そこにまた新たな、強力な変異株が見つかったと聞きました。それでもなんとか無事に生き延びて行きたいと思いつつ、カレンダーを師走まで繰って見たりしている今日この頃です。夏野菜の苗を植えたけれど強風や台風も心配、それでも人間というものは置かれた環境の中で生きて行くのだなあと感じ、来し方行く末を思っています。

5月13日、集う、と不安

新型コロナウイルスの変異株が広がっている事に不安を感じない人は少ないのではないかと思うのですが、君津でも路上で飲酒をしている若い人達がいるそうです。唖然としました。どんなに長い期間でも、感染の危険がある間は密を避けないと、自分が感染するかも知れず、後遺症が残る事への危惧がついて回ります。人に感染を広げてしまったらその誰かの命にかかわるのだという事実も同じです。ワクチンの接種も、その後の体調やウイルスの変異も、皆未知なのです。辛抱をやめれば、また感染が拡大する、その時ウイルスの毒性が弱まるとは思えないのですが、一人は不安だから集まるのだろうかなどと、考えてしまいました。人間は助け合い支え合って生きているけれども、一人でいるからこそ考えられる事や出来る事もあると思います。一人の時間に今までを省みたりリフレッシュしたり、という事も出来るように感じているのですが。今、この先への不安を感じない人はいないだろうと思いながらも、一緒に辛抱して懸命でありたいとしみじみ思う日々が続いています。

5月9日、人数

新型コロナウイルスのワクチン接種に広い会場を用意するそうですね。そこに行くためには時間がかかる人も多いと思いますし、密にならない様な配慮も必要、遠い人は帰りに体調が悪くならないか心配、という事もあります。24時間体制でワクチンを接種などと言う新聞記事を見ると、アンドロイドか何かが摂取するのだろうかと不思議に感じます。オリンピック開催中に500人の看護師が必要と言われると、どこに待機している看護師さんがいるのかと思うのです。私には不可解な報道ばかり、今世界中で信頼できてほぼ安全なワクチンの接種が終わっている国はあるのでしょうか。全くワクチン接種の見込みが立たない国も多いと思います。初めにオリンピックありき、絶対予定通り開催しなくてはならない、という計画の到達点に帳尻を合わせようとしているように思えてなりません。今生きている人間の命より大事なものがあるのでしょうか。ワクチンの副反応やアナフィラキシーショックに対しての不安を払拭できるような説明がもっと欲しいと私は思っています。感染症の解明や対応策は科学である医学によってなされます。ウイルスは何者にも忖度する事はありませんから、特定の立場の人に都合の良いように動くものではなく、密を避け、マスクや手洗いをする、という事をしなければ無機質に人から人へと広がって行くばかりです。今、非常に釈然としない気持ちですので、私にはまるで梅雨の走りという季節に突入したかのように感じられる日本列島です。

5月4日、夏の前

初夏のような気温になったかと思うと、花冷えのように寒い日もありました。ミディカトレアは蕾を三つ付け、徐々に開花していて楽しみです。剪定が終わった家の生垣は、散髪を済ませて床屋から出てきた初夏を待つ少年のようです。夏野菜の苗が出回っているので植え始めました。毎晩聞こえる蛙の合唱もいつもの年と変わりありません。最近スマホでラジオを聴いて勉強しながら外仕事をしています。思いのほか集中出来て楽しいものです。ワクチン接種や変異株のニュースを聞く毎日、未知の病気がなかった時には今よりずっと心穏やかに過ごせていたのだと改めて思います。

4月29日、塩、食生活

昔、徳川家康の側室の一人が、一番美味しいものと一番まずい物が何かを問われた時に、どちらも塩でございます、と答えたそうです。入れすぎたり足りなかったりすると料理がまずくなり、丁度良い量の塩を入れたらとても美味しくなるのでそう答えたのでしょう。以前にもお話しましたね。ところで、世界のあらゆる所で食生活が大きく変化していると聞きます。アフリカでも塩分摂取量が増えているとの事です。肥満の人も増えているのは油分や糖質なども摂取量が増えているからでしょう。自然の物を調味料や油を沢山使わずに調理し、食べていたのは段々昔の事になって行くというのは、私達日本人も同じようなものだと思います。戦後の高度経済成長期に生まれ育った人達は、たんぱく質も油分や糖分も多く取る方が良い、と言いますか、やっと食べられるようになったので多くの人がそのようにして来たのではないでしょうか。欧米のような食生活に変化して来れば食卓に並ぶ物も変わって来ますね。そういう中でインスタント食品やスナック菓子が瞬く間に増え、使われる添加物も多くなったように感じます。それが皆悪い物だというわけではなく、忙しい生活の中で上手に取り入れる事は便利ですので、そのようになさっている方は多いでしょう。でも、私は原材料や添加物すべてを理解して商品を購入しているわけではないので、不安になる時もあるのです。ずっと昔にはなかったものを沢山使うようになった戦後という時代、その一時期に生まれ育った人は食生活の大きな変化があり、それが健康にどのような影響を与えているのか、今私もデータの中の一人になって行きつつあることを感じます。

4月24日、アンバランス

牡丹や藤が美しく咲きました。いつもと変わらず咲く花の強さと優しさに幾らかは癒やされますけれど、変異株のニュースに日々追い詰められて行くような気持ちになります。緊迫した世の中と思えるのですが、テレビには人出が多い盛り場の映像が映し出されて、奇妙というかあまりのアンバランスに私の頭は止まれないシーソーか弥次郎兵衛のようになります。割れたガラスのかけらがぬかるみに幾つも落ちている時、裸足で躊躇なくその中に入って行くのは危険です。皆も入って行くから自分が入ってもガラスを踏んで怪我をする事はないだろうなどとはよもや思わないでしょうに、ワクチン、特効薬、変異株はこのようなものではないかと考えるのですが。精神的な負担の増える毎日、重りが増えて行く分銅の秤が目に浮かんできます。

4月19日、感染症はあった

テレビの感染症についての番組を少し見ました。知っていたらもっと早く見たのに、と思うようなものでした。再放送があったら今度は初めから終わりまで見たいと思っています。それは、終戦の少し前からの旧満州での事です。ソ連軍の進行で避難してきた沢山の人達、収容所での生活はとても厳しいもので、床は剝がされ布団もない、食糧も決して十分ではなく、秋になれば凍り付きそうな寒さの中なのですから感染症が流行すれば瞬く間に広がって行きます。発疹チフスはシラミが媒介するのだそうですが、大流行したのです。戦後間もなくの頃は衛生状態が良くないと、シラミや南京虫の心配をしなくてはならなかったと聞いた事があります。DDTやBHCという薬剤はそのような時に必要だったのだと思います。沢山の方がこのような中で亡くなられた事はあまり知られていないように思います。感染を食い止めるための手立ては現状を詳しく知る事にあるので、その段階で感染し、命を落とした医療関係者も多かったそうです。手元に沢山のワクチンがあったら予防も迅速に出来たかもしれません。感染症は、自分が罹りたくない、だから皆が罹らないように予防する事や感染した人の治療に協力する事が大切なのですね。皆が治って感染が続かないように、断ち切るために自分の出来る事を一人ひとりがする事が不可欠だと感じました。社会全体の衛生状態や生活水準が一定に保たれる事も同じように大事ですね。それはこの新型コロナウイルスも同じだと思います。ですが、過ぎた事は時系列で記録され語られるのです。感染症が猛威を振るっているその真っただ中にいる人達にとっては不安で綱渡りをしているような毎日で、手探り状態です。まして、その時そこにいて経験した事を話してくれる人が誰もいなくなった後に、この尊い犠牲と終息へのプロセス両方を、どのようにして残し、警鐘を鳴らすという事が出来るのか、とても大切で、難しくもあると感じます。生きていたら、どんな人とどんな人生を歩んでいったか、家族にとっても亡くなった方にとっても衝撃や悲しみは尽きないでしょう。そのようにして多くの方が亡くなられたのですから、その命の重さは計り知れないものだと思うのです。私は、忘れたりなかった事には決して出来ない、そのように、未完のノンフィクションのページを広げたままのような状態になっている自分の気持ちに気付き、これは日常と非日常などではなく、感染症に覆われている今、いつ何が起こるのか分からないのが人間の日常であり、人生なのだと改めて思いました。

4月15日、半世紀

君津市誕生から今年で50年、あっという間だった気がします。子供だった自分が今の年齢になったのですから理屈では随分長い歳月だったという事になりますが、なんだか実感が湧きません。その前年に町が合併したのですが、大阪万博の年で、ラーメン一杯が80円でした。祖父母の子供の頃の話を聞くと、今では信じられないと思うような事が随分あったように思います。きっと今の子供達にとっても、50年前の話がそんな風に聞こえるのでしょうね。海の埋め立てに伴う様々な変化は、半農半漁の生活をものすごいスピードで変えて行きました。激動の中での小中学校生活、高校に入学してやっと落ち着いた毎日を実感出来るようになった事を思い出します。今年は高校も創立50年目なのです。コロナ禍ではありますが、今も頑張って働き、イキイキと暮らしている同級生の誰彼の消息を耳にすると自分の事のように嬉しくなります。でも、亡くなった人達もいて、それはとても残念で寂しい事です。後輩の皆さんにも、どのような世の中になって行くのかは分かりませんけれど、優しく、そして逞しくいばらの道を拓いていって欲しいものです。

4月10日、今年のお花見

このところ度々遊歩道を歩きました。今年も桜が咲きましたから。三月最後の週末には五分咲きくらいの所が多いので、あっという間に満開になりました。約5キロの遊歩道は川の上流の方が山に近くなるので寒いと感じます。ですが風は下流の、東京湾に近い所の方が強いので、桜がいつどの辺りで咲き始めるのか満開になるのはどの辺りが速いのかは一概に言えないですし、その年によっても微妙に違うようです。去年も今年も桜を見ながらウイルスが心配なのは同じです。写真を撮っていると、花が綺麗ですね、と知らない方に話しかけられ、来年も無事でこの桜を見たい、などと少しお話ししました。見ず知らずの方でも、このウイルスに翻弄されるようにしながら注意深く一年を生きて来た者同士、何となく無事だった事を喜び合いたいような、これからもお互い元気にこの困難を乗り越えて行きましょうという気持ちになりました。人と人は分かり合えるのなのですから、物理的には距離を置き心理的に寄り添いながら皆で生きて行きたいものですね。見ず知らずの人と打ち解けられるのにどうして戦争をするのでしょうか。ある特定の国の匿名の人達というと、確かな事は分からずイメージも漠然としたものになりがちです。特定の、知っている人個人を思い浮かべられたら、そのような知り合いがいたら、それがその国そのもので、戦争をしたくないと思うのではないでしょうか。でも、どこの国の誰でも自分と同じ人間で、希望を持って家族で幸せに暮らして行きたいと思っている事に変わりはないのですから、想像力を働かされて人を思いやる事が大事だという事に尽きるような気がするのです。歩きながらのお花見で人影もまばらでしたけれど桜は美しかったですし、こういう事を思うきっかけを下さる方とお目にかかる事が出来たのですから、冷たい風が吹いていましたけれど、暖かい甘酒を頂いたような心持ちになれて、思い出に残るお花見になりました。

4月4日、似ているようで

地下鉄サリン事件が起きたのは3月20日でした。今も後遺症に苦しんでいる方が多いと聞きました。ご本人にしか分からない症状は、会社内では理解してもらう事が難しいでしょうし、いつ完全に治るのか、サリンの被害は日本では経験のない事なので分からない事も多いと思います。私は学生時代日比谷線を利用していましたので、あの想像もつかない事が起こった時には愕然としました。これからも忘れる事はないと思います。ふと思いました。新型コロナウイルスに感染し、軽かった比較的若い方に重い後遺症がまだ残っていて、その人数も多い、という事に不安を感じていたのですが、地下鉄サリン事件と重なって来ます。どちらも兵器なのか、それはこのウイルスもそのような目的で作られていた途中で外に漏れたという事になるのか、そこまで考えてドキッとしました。もし万一そうならば、人間が一番悪いという事になりますね。このように思っているのは世界の中で私だけでしょうか。

3月28日、春の心模様

朝晩冷え込む日もありますが、春ですね。河津桜も咲き終わりましたし、我が家のライラックも新芽が大分目立つようになって来ました。そうなってやはり今年も花粉が多く飛び、外出時にはクシャミが出ないか心配です。お彼岸も過ぎ、いつもの春なのにどこか重苦しいのは、ウイルスの存在が心の中にあって片時も忘れる事が出来ないからです。染物や焼き物を見るのが好きなので、いつか見に行きたいと思っていましたがとても出来る状態ではありません。昔の良さが減ったとは思いますが、その代わりインターネットがあります。夢のように便利になった点もあるわけですね。いろいろと経験しながら生きて来て、人間はこれからも変化して行く世の中を自分たちで作りながら生きて行くのだなあと感じる出会いと別れの季節です。時代に乗せられ流されているという部分もあると思いますが、自分達が、今この瞬間も世の中の流れを作っているのだという不思議さ、年を重ねるごとに世の中のからくりのフィルターが剥がれて見えるようになったのか益々懐疑的になり、一方では感謝する事の増えて来た自分なのです。過ぎた歳月の出来事は鮮やかに心の中にあって自分を支えてくれるものでもありますね。今年の春はこれからどこへ私の心を誘ってくれるのでしょうか。

3月23日、次から次へと

2月、地震の次は嵐でした。三月も爆弾低気圧に驚かされました。お昼過ぎには晴れて来たのも束の間、大雨に強風、雷も加わって凄まじかったですね。夕方遅く、夕焼けと濃いグレーの雲が南西の空に不思議な天然の絵画を描いてくれ、魅せられてしまいました。九つ時の地震は流行り病に気をつけろというそうです。昔、祖母が親から言われたとか。口伝えの力を馬鹿に出来ないように思う事もあります。経験からだからかも知れません。ところで、間もなく年度が替わりますが、新年度も語学講座で学び、放送大学で古典も勉強しようと思います。自分の一つの目標と言いますか、道しるべにしたいのです。なるべく悪い事が起きないよう気をつけながら、祈りながら。

3月17日、遠赤外線で心豊かに

今日は祖父の命日です。46年経ちます。思い出は鮮やかでも、時間は流れて行きます。長い歳月があっという間だったように感じるのですから。愚痴や悪口を言った事のない人でした。鋭く物事の本質を洞察する一方、笑顔で人に接する人、私にとっては遠赤外線のように見守り、関わってくれた祖父から、目に見えない多くの物を貰い、自分の人格形成に影響を受けたのだと思います。甘い物が好きでしたけれど自分に甘くはなく、ストレス解消を上手にしながら、案外初冬の空気のようにピリッとした、そして自然体の人だったおじいちゃんを、昨日も会って話した人のように近くに感じます。今日は優しく穏やかな気持ちで過ごせるかも知れません。

3月11日、余震

2月13日夜の地震は大きくて長い横揺れでした。室内のプラ鉢がいつまでも揺れて、まるでトタン板に霰か砂利でも当たっているようなバラバラッという音が不気味でした。蕗の薹を沢山摘んで佃煮を作りましたが一気に真冬に引き戻されたように思いました。多分人生はほろ苦いけれど噛み締めると味わい深いものなのでしょうが、ほろ苦いのは春の山野草だけでもう十分と言いたい気持ちになります。震災から十年、余震も長びきます。行方不明者がまだまだ多い現実を改めて突きつけられた思いがします。被災なさった方にとっての十年は、長かったのか短かったのか、人によって置かれた状況も年齢も違いますが、多分言葉では言い尽くせない歳月であり、言葉にならない、あるいは言葉にしたくない事も含まれた複雑な思いを抱いていらっしゃるのでは、と思います。悲しみはどんなに歳月がたっても決して消える事はないものですから。非力な私にはこの十年何も出来ず、手を束ねて自分の暮らしというものの中でただ動き回っていたように思います。心の襞まで共感する事を大切にしたいと切に思いますが、難しい事でもあります。皆様は如何でしょうか。私はもどかしさを、しみじみ感じています。

3月3日、ほろ苦さと

草は季節を知っています。寒いと思って放っておいたら、カラスノエンドウやホトケノザが目立つようになって来ました。草取りというのは本当にきりがない仕事であまりやりがいを感じる事がありません。草を取り終わったら、最初に取った場所にはもう草が生えているのですからがっかりする事も多いのです。でも、どこのお宅でもお元気な高齢の方が草取りを常にしているから綺麗なのだと改めて思います。ありがとうと言われたら嬉しいでしょうね、きっと。家族に感謝の言葉はあまり言わないのでは、と思いますが言わなければ分からない事もあります。家にいる時間が増えると気付く事も多くなるかもしれないですね。誰もが助け合い補い合って生きているから成り立っている人間社会、などと思いつつ、庭の蕗の薹を収穫して佃煮を作りました。初物を食べると七十五日生き延びる、昔の人はよくそんな言を言っていました。七草粥に入れたセリは、根を植えておくと何度か収穫出来るので、今日も収穫して白滝さっと白滝と煮て、蕗の薹と共に早春を味わう事が出来ました。浮き立つというよりは、香りは良いけれどほろ苦く、人生そのもののような味がしました。寒くもあり楽しくもあるこの季節、探梅にはちょっと遅いでしょうか。でも散歩をして、季節の微妙な変化を感じて、ウイルスを暫し忘れられたら良いですね。

2月25日、今昔

隣町の駅から市役所へ行く通り、嘗ては賑やかな目抜き通りでした。コロナの影響でしょうか。一年近く前にはその道の歩道橋の辺りに寝起きしている人がいたそうです。海軍航空隊があり、空襲の恐れがあった為に付近の住民は強制疎開、だから建物を強制的に壊して昔にしては随分広い通りにしたというのがこの通りの歴史です。アクアラインを通って通勤出来るからこのまちに家を建てた横浜や東京の人達がいて、今も宅地開発が進んでいるまちの、これがもう一つの側面なのです。昔を知っている私にはとても重く悲しい現実です。やはり、感謝や謙虚な気持ちを皆で持って辛抱して、共存して行きたいと思います。

2月20日、内戦と感染症と

レバノンには隣国シリアから逃れてきた人達のキャンプがありますが、レバノンは難民条約を批准していないので地代を払わなければ住めず、コロナウイルスの蔓延が心配な今、難民に仕事はなく、どうする事も出来ない状態なのだそうです。兄弟に騙されて売られた女性達が国境付近で売春を強いられ、軟禁状態で暮らしています。絶望を通り越した眼差しをして感情を遠い昔に忘れてきたようにぽつりぽつりと話していた女性は若い筈なのに、もう何十年も生きてきた人のように私には思えました。内戦に苦しめられ感染症が追い打ちをかける、たまたま私達が日本に生まれたから今のこの日常を享受する事が出来るのですね。石鹸を使うたびに、そう思います。

2月15日、陶磁器のメッセージ

陶磁器の破片が見つかったので、その遺跡がいつの時代のどのような都市で、どんな暮らしをしていたのかを知る手掛かりになるというニュースを聞く事があります。もっと前の時代なら土器の破片が見つかる事もありますが、磁器は長く元の状態で残り、場所もあまり移動する事がないそうです。その磁器がどのような形をしていたのかを想像する事も出来ると思いますし、色々と解明されて行くのも楽しいだろうと思います。勿論その遺跡のまちや国が何故衰退していったのかも、やがて分かる事でしょう。シルクロードの、今は砂漠となっている場所に残る建物跡などは、今の私達が見ると、忽然と現れたように感じますが、ずっと昔に栄え、賑わっていたのですから歴史の不思議を感じます。それは、多分その時代にも人が生きて生活していたから、その人達の喜怒哀楽を思い、慈しみたい仲間だという風に感じるから、理屈での解明がなされても、私には不思議だと感じられるのでしょう。陶磁器の破片は昔の人達の人生をも考えさせてくれ、この遺跡の国やまちの推移を教訓として、人間がこれからの世の中を作っていって欲しいというメッセージを伝えてくれるものなのかも知れませんね。いずれにしても、興味は尽きません。

2月9日、塩梅

塩梅というのは加減という事ですから漬物の塩加減にも使える言葉ですね。明治生まれの人達まででしょうか。この辺りでは、お天気が良く風も強くない、暑くも寒くもない過ごしやすい日に、ご近所さんと道で会った時など、良い塩梅でございます、という挨拶を交わしていました。必ず、ございますという丁寧な言い方をしていました。いつの間にか使われなくなった言い方ですが、久しぶりに思い出しました。また、その世代の人達は新盆の家にお参りするために訪れた時には、こちら様では思いもかけない新盆で、物思いでございます、と言ったのだそうです。今では誰も言わなくなりました。何時から言われていたのか、誰が考えたのか分かりませんが、こういう言い方も良いものだと感じます。労わりや思いやりをあらわすのには、直接的な表現ではないものも多くありますけれど、それが他者とのつかず離れずというほど良い距離を保っての人とのつきあい方だったのだと思います。知恵ですね。言葉はいつも変化し続けていますが、残したい言い回しも結構あるもの、使われなくなった言葉は、たとえが現代では使われていないもので、説明しなければ分からないから、という場合もあります。百年後、世の中は一体どのように変わっているでしょうか。言葉も暮らしも、そしてウイルスも。突然未知のウイルスが流行するようになった今という時代に不安を抱えて生きている私達にとって、スペイン風邪の流行の真っただ中にいた百年前の事は一部の記録でしか知る事は出来ないでしょうが、その記録から大切なヒントが得られるのでは、と思います。是非読んでみたいと思っています。

2月3日、陸続きの国境

日本は四方を海に囲まれた島国だから何かが外から入って来るのを防ぐのは容易だ、と言えるものではありませんよね。鎖国をしていた時代ではないのですから、沢山の物や人がこの国を出入りしています。自給率が三十数パーセントなので食物の輸入は不可欠という事になりますし、貿易外交経済のあらゆることが絶え間なく動いている世界の中に、日本も存在し、飛行機での移動は人の動きをとても速くするのですから、陸続きの国境を持つ国と同じように、目に見えない感染症を水際で防ぐ事は難しい事だと思います。ですから、世界のどこかでその感染症が流行すればたちまち日本にも入ってくる事になるでしょう。私達も油断は禁物ですね。ウイルスに感情はなく、無機質で、人間の気持ちを斟酌する事もなければ、忖度する事もないのです。冬の海岸の映像を見ました。美しい海岸に白波が打ち寄せる光景は、豪快にも繊細にも見えます。波は砂浜近くに来ると、小さな魚でも取れそうな細かい目の真っ白な漁網が連なっているように見えます。そして浜に到達すると、静かに、穏やかに幾ばくかの砂を連れて、元来た場所へ帰って行くように引いて行きます。冬の浜の景色の美しさに目を奪われながら、陸続きの国境を持っていても持っていなくても、皆様々な難題を抱えているのだと、今更ながら思った寒中のひと日でした。

1月28日、擬態

動物の擬態というのは不思議だとずっと思っていました。本当の枯葉のように見えて動かないので、そこに虫がやって来ると食べてしまう、いくらじっとしていても、枯葉に似ていなかったら相手は警戒し、近づかないかも知れません。どうしてこんなことが出来るのかは、例えば枯葉に見えた方が都合がよい虫はその植物の遺伝子を一部持っているからなのだそうです。その遺伝子を媒介するのはウイルスだと聞いて驚きました。ウイルスが動物の進化に一役買っているのですね。また、擬態に引き寄せられるという事は見えるからですけれど、匂いや音でもありうるのでしょうか。気になります。知らない事や分からない事の多い私にはまだまだ学びたい事や知って驚く事が山のようにあると思うので、世の中に興味や関心が尽きません。

1月22日、緊急事態

年が明けてからもウイルス感染者数は大きく増え、連日その人数の多さと増え方に愕然としています。緊急事態宣言が出されましたが、この先どうなるのか、よほど気を引き締め、気をつけなければ、と思っています。病床のひっ迫については連日報道されていますが、受け止め方は人によってかなり違うのですね。この感染症を、インフルエンザのようにどこの病院でも検査や治療をするという扱いにすれば今の状態が緩和される、病床を持たないクリニックでも検査は出来る、若い人は命にかかわる確率は低いのだから、手洗いとマスク、密を避けるなどして今までのように動けばよく、そうすれば経済にも良い、このような意見があり、ラジオやテレビで聞いて唖然としました。特効薬のない病気で高齢者や基礎疾患のある人にとって特に危険であり、この社会の中に皆一緒に暮らしているのですから、全体の感染を減らす事が必要だと私は思っています。ウイルス感染者の検査や治療を行っていない病院も暇なわけではなく、感染した人の治療を行う事によって、感染していない人達の通常の医療が出来ない状態になっている病院の患者が、通常の医療をしている所にやって来ます。検査をすると言ってもどの場所で何時するのか、医師一人のところでそれはどうなのでしょうか。いつ終わりが来るのかは、結局特効薬次第なのですから、先の長い事になると思います。どこの病院でも入院や治療が出来る事になるとなれば、手術を受けた患者などのICUやNICUのある病院はどうするのか、全国通津浦々の病院でクラスターの発生するリスクが大きくなるのではないでしょうか。そのような事が起きたら、通常の患者、感染した患者をどこで誰が診るのか、と思うのです。若い人なら感染しても軽く済み、後遺症もないと断言できるのか、まだこの病気の横顔が見えて来ただけで全貌が分かっているわけではない、未知の部分の多いものなので甘く見るのは危険だと思います。皆が気をつけているのでインフルエンザなど他の感染症が例年と比べて流行していないのだからこのウイルスだけだったらそう神経質にならなくても、という意見もあるに至っては、人は一人ひとりこれほど違うものなのかと思わざるをえません。おそらく、もし今の状態が収まっても、感染の波は度々やって来ると言いますか、気を緩めて行動すると感染拡大は何度も起きるのではないでしょうか。人口が多く人が集まりやすい賑やかな所から地方へ、張り巡らされた毛細血管のように感染が広がって行く現実をひしひしと感じる毎日なのですから。どのような変異を繰り返すのかもまだ分からないのです。目に見えない新しいウイルスがある事を一瞬でも忘れてみたいと思うほどですが、やはり私は生きていたいらしく、いつも自他の為に出来うる限り気を付けて生活しています。お互いに物理的距離を取るのは共存して行く為であり、それが心理的に近づくという事になる時代はもうしばらく続きそうですね。

1月16日、はやり病

我が家の墓地には何基かの小さいお墓があります。いつかもお話ししましたが、江戸時代のこの子供達ははやり病で亡くなったのだと聞いています。いつ、どのような感染症で亡くなったのか、いくら房州石のお墓を見つめていても、もう分りません。書き記されていない事は、いずれ分からなくなるのですね。この中の誰かが無事に育っていたら今私はここにはいなかったのですから、巡りあわせというものの不思議を感じます。今だったら助かった可能性もある病気だったのかも知れず、新型コロナウイルスが猛威を振るっている今、この人達の短かった一生、親達や家族の悲しみがひしひしと伝わってきます。その中に、二人一緒のお墓があります。速秋童子と知幻童子、兄弟だったのかも知れません。私との縁の糸を正確に手繰って行く事は出来ませんが、子供のまま亡くなってしまった先祖が安らかであるように祈っています。

1月11日、青いインダス川

内戦のシリアからレバノンに逃れてテント生活をしている大勢の人達は、地代を支払わなければならないそうです。レバノンは難民条約を批准していないからで、新型コロナウイルスへの不安を抱えて仕事も失ったという人が多い、大変な状況なのだと知りました。心が暗く澱んだようになっていた時に、別のテレビ番組を見たのですけれど、青く澄むペシャワール近くのインダス川は、とても美しいものでした。かつてこの川の東の地域まで進むつもりだったというアレキサンダー大王の大軍、長い遠征であったので兵士達も心身共に疲れたのでしょう。西に向かってマケドニアに帰って行ったそうですが、彼らの目にインダスの青く澄んだ流れは一体どのように映ったのか、おそらくなにがしか心を揺さぶられたのではないでしょうか。現代のインダス川の美しさに引き込まれた私はそう思いました。道を行く男性達の色とりどりの帽子、ターバンの巻き方はその人の出身地を表すもの、お茶を楽しんでいる様子はまるで哲学している人のようでした。脈々と続く自分達の歴史や信仰する宗教を大切にしている、誇り高い人達なのだと感じました。広い地球の長い人類の歴史は、川ばかりではなく、大地にも海にも刻まれているのですね。地球の歴史は壮大な叙事詩で、その奥には数えきれないほどの人間の人生、その心模様が潜んでいます。テレビを見ている自分が今現在の日本にいる事すら忘れてしまうような一時でした。パキスタンにもアフガニスタンにも一日も早く平穏な日々をと祈らすにはいられない気持ちになった事を、忘れまいと思います。

1月6日、危機感の欠如

あちこちで議員の方達が忘年会なのか、多くの人とある程度の時間飲食をしていたというニュースが多く、驚いています。余程気をつけているのか、まさか自分は感染しないだろうと思っているのか、理由は分かりませんが危機感のない行動が皆に気の緩みを与えてしまうと、同じような行動をする人が増えるかもしれません。あれほどお医者様が病院の現状や今後の感染者数が増えるとどうなるのか、連日説明なさっているというのに、開いた口が塞がりません。誰の為でもない、自分たちの為に行動の制限が必要だと思ってそのように生活している人が多いのだとは思っていますが。まつりごとには、気の緩みも、一瞬の停滞も許されない事を肝に銘じて頂きたいものです。まさか新年会はなさらないでしょう。

1月2日、石鹸で手を洗う事が

今年はどんな年になるのでしょうか。世界の四割の人が石鹸で手を洗う事が出来ないという重い現実が2021年には何とか減って欲しい、少しでも早く皆が石鹸で手を洗えるようになって欲しいと思います。それは、私が石鹸で手を洗う事が出来るのは決して当たり前ではないという事でもありますよね。感謝したい事が増えてきます。勿論不安で一杯ではありますけれど。皆様はいかがでしょうか。ラニーニャ現象が続いた後の冬ですから、厳冬になるのでしょう。元日には今年も母の湯呑でお茶を飲んでみました。湯呑の温かさが母の体温のようで色々と思い出します。以前にもお話した事ですが、家族が旅立った時の悲しみは段々薄らいでくるのは不思議だけれどそれが日にち薬というものなのだろう、そうしてまた生き続けて行ける、とか、天安門事件のニュースを聞いて、世の中が変わろうとする時には何故若者の血が流されるのか、そのような事がなく変えて行けないものか、それから、高齢の人が昔を懐かしむ話をし、それを聞いた時に若い人がそこから何かを学ぶのは良いけれど思い出話の全てを信じて受け取るのは間違っている場合もある、過ぎた出来事は浄化されて話す人が多いのだから、とも言いました。戦前の教育を受け、男性なら若い戦死者の一番多い世代の人ですから、昔習った事と戦後の世の中の移り変わりや価値観には多分複雑な思いがあったのだろうと思います。葛藤と言っても良いものだったかも知れません。しかし、サイパン島の戦いの後日本は負けると思ったと話してくれました。サイパンから東京までは途中給油しないで飛行できる距離だから。空襲が激しくなるだろうな、そのように思ったそうです。ウイルスの感染拡大中という今までに経験した事のない年末年始はいわく言い難いものとなりました。花瓶の中の蝋梅の、清冽で甘く、品の良い香りだけがお正月がやって来た事を私に実感させてくれます。どうか自他ともに恙なく暮らせる年になりますように。

12月31日、バイアス

感染拡大が特に年末年始にどうなるのか不安で、今も勿論心配です。特効薬がないのに感染者が増える事に慣れている人がいるのには驚きました。マスコミのインタビューに答えている若い人の中にはこのような人が多く、身近に感染した人はいないと答えている人もいました。深刻そうでもなく、遠い世界の他人事のように思っているのだろうかと私には感じられました。いえ、遠くでなくともマスクをしていない人をここでも時折見かけますし、鼻をマスクに入れていない人もよく見かけます。大人の方に注意のしようがなく、茫然としてしまいます。説得力のある行動制限の呼びかけは社会心理学が有効なのかも知れません。心からの呼びかけで、論理的で具体的、分かりやすい、こういう呼びかけでないとなかなか難しいのだと思います。強制力がない中で先の事をどのように考えるのかは人によってかなり違います。今の生活を考え、どう行動するのか、という事に尽きるでしょうから。今、このウイルスが存在していなかった頃と同じように行動するという事は事実を理解し認めていない事になりますから偏りという意味のバイアスという言葉を思い出します。洋裁で使う言葉でもありますが、この場合はまっすぐではない斜めに切断したテープ状の布で、袖のないブラウスを作る時などにも必要です。今起きている事を正確に理解する事は、馴染みのない事ほど難しいものですから、一層深刻な状況に陥るとは思えないし思いたくない、このように思っている人が少なからずいる事も考えて発言する事が、政府や首長には不可欠だと思うのです。結局感染拡大を抑えるのは一人ひとりの自覚にかかっているという事だと思います。赤信号は皆で渡れば皆事故に遭う、そう思います。ウイルスには年末も年始もありません。ただ、無機質な存在で命を脅かし、まだ特効薬がないのが現実です。病院のスタッフの方々にとっても今年は大変な年の瀬、もし自分が病院に勤めているとしたら、と考えてみる事は誰にもできる事だと思うのです。皆様くれぐれもお身体大切になさって下さいね。

12月28日、鬼は心の中に

感染拡大している新型コロナウイルスが市中に蔓延したら気をつけて暮らしてきた人達も感染する確率が高くなるでしょうし、病床が逼迫となれば、迅速に適切な治療が受けられなくなるかも知れません。不要不急の外出をせずにいて、そういう事になったらやりきれないですね。ところで、鬼という言葉をよく聞いた2020年でした。鬼は悪い物なのだろうと思いますけれど、鬼がいるというより人間の心の中が一番難しいし、その人の考えや気持ちがどのような行動に結びつくのかによって鬼のようにもなると思うのです。生まれた時から優しい心を微塵も持っていなかった人はいないのではないでしょうか。その人の持って生まれた資質や傾向は遺伝という要素が大きいと思いますが、やはり環境で変わって行く部分もあります。社会に出てからの人との関わり方は家庭や学校の影響が大きく、人生はその応用問題では、と思っています。愛されて育ったという実感がその人の心をふっくらさせてその後の他者との関係の構築に良い影響を与える、そう思うと、鬼のような人と思われている人の気持ちを変えるのにはとても時間のかかる難しい事なのですね。初めから鬼のような人はいないという事は随分前に聞いた事があり、以前にもお話ししましたが、鬼のようにならなければ生きられなかった人間の悲しみがある、というその言葉を思い出しています。私も含めて、このウイルスに対して社会や人間はどのように思いその都度どのように行動するのか、その言動の中に鬼が潜んではいないか、考えさせられる年になりました。これからも、もし偶然、長い間合わなかった人に再開したら、お互いが元気で生きている事を心から喜び合いたいですね。

12月25日、雪雲がやって来ました

12月16日前後は寒かったですね。強い寒気が入って来たから、とは分かっていても、毎日雲一つない青空にはなりませんでした。何時間かは晴れるのですが、どんよりと曇って来るのです。16日もそうでした。夕方には南から黒い雲が広がって来てあっという間に暗くなり、その雲の後ろには白っぽく濁った薄いオレンジ色の雲が層のように現れて、とても興味深い空でした。後で衛星画像を見ると、日本海から入って来た寒気のごく一部が山梨県に届き、それが東京湾沿いの君津までやって来て雨を降らせたのです。滅多にない事なので驚きました。日本海の海水温が平年より2℃高いために、大量の雲が次から次に湧き、山沿いは大雪になった、やはり地球温暖化の影響のようです。ウイルスの感染拡大は予断を許さないもので、低温乾燥の冬にいる事の厳しさを今日もまたひしひしと感じています。

12月20日、洗い髪で転ぶ

洗い髪という名称の大根の料理、酢の物の事だったような気がするのですが、聞いた事があります。多分なますの大根の形状と長い髪を洗った時の解いた髪の様子が似ているからかも知れない、そう思って詳しく聞かずじまいになってしまい、残念です。ですが、江戸の吉原の辺り、とも聞いた覚えがあるので、暖かく晴れた日と思っていても日の暮れるのは思いのほか早く、日が落ちると寒くなる時期に、若い遊女の一人が髪を解いて洗い終わった後ろ姿が目に浮かびます。着飾っている時には気付かなかった薄い肩、もし結核になれば完治は難しく、大した治療も受けられず長生き出来ないかも知れない、何となく不安定で薄幸な女性のイメーなのです。亡くなっても手厚く弔われることもなく投げ込み寺に葬られた、そのような記録も残っているそうです。無論、皆不幸になったわけではなく、幸せに長生きした人も、逞しく生きた人もいたでしょうけれど。ある日の夕暮れに、書店から出てこういう事を考えながら歩いていました。そこは、街灯と街灯の間が空いたかなり暗い所だったのものですから、躓いてうつ伏せに転んでしまいました。あっという間の出来事で、何とか膝を擦りむいた程度で起き上がる事が出来ました。日中に玉ねぎ苗を植えたので疲れが残っていたのかも知れません。大怪我をしないで良かった、仰向けに滑って転んだのだったら頭を打っていたかも知れない、骨折をしなかったのだから本当に良かった、という気持ちになりました。プラスに考えるというよりとっさに感じるようになって久しいのです。年を重ねると物事の良い側面に目が行き、小さな事でも感謝できるようになって来たらしいですよ。老化はじわじわと、今まで出来た事が出来なくなって来るのですからともすれば滅入りがち、でも、良くない出来事が起きた時、良い側面にまず気付けば、喜びが自然に見いだされて幸せな気持ちになります。緩やかに老化して行くだろう自分のありのままを受け入れて、より注意深く生きて行けるような自己防衛はこのようにして自然に身について行くのではないでしょうか。生存欲求があって自己防衛本能が働く、人間は不思議なものですね。きっちりしすぎると人情の入る隙間がない、というアニメの中の主人公の言葉も思い出して家に帰って来ました。感染拡大の渦中に自分がいる厳しさや不安に変わりはないけれど、少し違う部屋を垣間見たような心地がしています。

12月15日、良い人に

人柄の良い人にはなかなかなれませんね。でも誰にも気づかいが出来て思いやりのある優しい人はいます。辛抱だけでは笑顔は長続きしません。自分の心に向き合って自分を知り相手の性格や置かれている状況を理解するように出来たら、人との関係が円滑に行くようになるのかも知れません。哲学のようでもあります。うわべだけでなく、芯からそう出来るようになるまでには葛藤もあるでしょうし、自然にプラス思考になれたら物事が暗く見えない、良いなあと思います。自然体でいられたら良さそう、でも自分の承認欲求が満たされていない状態では劣等感もあり、そういう自分に気付いて受け入れるのは簡単な事ではありません。修羅が広がる心を抱えて自分を統合して行くプロセスを経て、皆に慕われるような人になり、旅立って逝ったのだろう、高齢の方達を送る時はいつもそう思います。年々気付く事や考えさせられる事が多くなり、まだまだ未熟な私です。体感したように理解でき、納得出来るのはその人と同じ体験をしたからではなく、生きてきた歳月の長さで自然に分かるものなのですね。

12月11日、今生きている人を

ウイルスの感染がまた拡大していますね。このままでは気を付けて不要不急の外出をしないで生活している人達も感染する危険が高くなると思うのですが、旅行や飲食料金が安くなる、人を動かそうとする政策が続けられています。経済も確かに命に係わる事ですが、ともかく今ここに生きている人達の命を最優先にして欲しいものです。感染者が増え続ければ病院で迅速に適切な治療が受けられなくなって、助かる命も助からなくなるかも知れないのでまず感染の拡大を抑えなければ、と思いますし、病床を増やすという知事もいるようですけれど、医師や看護師という、病人に対応する人をコピーロボットのように増やせるものではありません。人の動きが活発であればあるほど、全国どこでもウイルスが増え、医療従事者のやり繰りがつかなくなります。まだ特効薬がないというとても重い現実から目を背ける事は出来ません。病院では細心の注意を払っての治療がずっと続いているのですから、働いている方々の心身の疲労はいかばかりかと思います。会議室と現場が乖離しているようで、非常にもどかしさを感じます。

12月7日、大根色々

大根は甘いのが当たり前、親戚の子供達はそう言います。売られている大根が今は九割がた青首大根ですから確かに甘いです。大根おろしにしたら美味しいですね。水分が少なめで沢庵に向いている練馬大根、白い根の部分が短く、ニンジンくらいの長さで葉が長めなので漬物に良い亀戸、とても辛く、短いネズミ大根は蕎麦の薬味にピッタリです。青首大根もおでんや漬物、味噌汁に合いますね。葉はシラスと一緒にふりかけにもなりますし、ビタミンが豊富だから風邪予防にもなるだろうと思います。でも、青首大根以外はスーパーでは段々見かけなくなって寂しいような気もします。食べた事がなければ味は伝わらない、昔はあった、で終わってしまう、食文化の一部が断絶してしまうようで残念です。伝承というのは何気ない日常の小さなことでもあるのですね。そのようにして、私達は今では江戸時代の人達の生活を漠然としか想像出来ません。日常使う道具やその名前の変遷を調べてみたら驚くような事があるかも知れませんね。

12月2日、幕末の山梔子

クチナシの木を剪定中に小さな実を見つけました。大きくなったら干して黄色い色をつける黄飯やきんとんに使えますね。和宮様のお付き女官宰相典侍庭田嗣子という人が都を立つ前に岩清水八幡宮に輿に乗ってお参りした時、身につけていた新しいクチナシ色の袴がとても見事だったとか。庭田家は御所での催しにはお神楽を仕る家だったそうです。都落ちという気持ちだったかも知れませんから、立派な衣装に心が浮き立つ事はなかっただろうと思います。重い責任と宮様を守ってと共に、という覚悟を新たにした参拝だったのだろうなあと思います。

11月26日、絶景を

紅葉の美しい時期には毎年お気に入りの絶景スポットに行くという方もいらっしゃるでしょうね。私は紅葉の美しい京都のあちこちを880円で見て来ました。旅行雑誌の写真が綺麗だったので買い求め、何度も本を開いて行った気分を味わっているのですが、想像力で結構楽しめます。今はウイルスの感染が拡大していてまだ特効薬やワクチンはないのですから、感染すると高齢者や病人にとって危険である事は周知の事実です。人が動けばウイルスは拡散されるという事もまぎれもない事実、必要で出かける方も最大限の注意を払っていらっしゃると思います。ウイルスは人について広がり、人から人に感染するのであって、自分で歩いてくるわけではありません。私は若くないですから感染するとどうなるか分からないし、他者にうつしたらその誰かに責任は持てませんし、何人に広がるのか分からない、それを考えると旅行は雑誌やテレビなどで十分だと思う今日この頃です。いずれワクチンや薬は出来るでしょうが、それはいつなのか安全性も考えるとまだ未定、安易な皮算用は出来ません。

11月21日、猫負傷

我が家のメス猫が怪我をしました。喉の毛が少し抜けていたので、ノミ取りの薬をつけているけれどノミがいて痒いのだろうかと思ったのですが、咬み傷だったので動物病院に連れて行きました。少しずつ回復しているので一安心です。おとなしく賢い、用心深い猫なのでこんな事は珍しい事です。喧嘩は嫌いで怖がりなのに気が強いので、逃げる時に後ろ足やしっぽを咬まれるのではなく、首を咬まれたのだと思います。取っ組み合ったのですね、きっと。敵に後ろは見せない、人間ならそういう性格だと思います。避妊手術をしても、子供を産み育てるメス猫の本能は持っているのでしょうし、捨てられてから苦労したのでしょう。生後一年近く経って突然外で暮らして行かなければならなくなったのですから、戸惑いながらも自分で自分を守って生きて来たのでしょう。でも人間不信にならないで、今では家で生まれた猫のように、猫も思っているような暮らしぶりです。長生きして欲しいものだと改めて思いました。動物病院でも、ソーシャルディスタンスをお互いに大切にしていましたよ。

11月16日、捻じ曲げられた座標軸

アメリカの大統領選挙は投開票が終わってどうなるのでしょうか。すんなりと決着がつくのか誰にも分からない事かも知れません。一人ひとりのアメリカ人次第だという気もします。破天荒なトランプ氏は、テレビでアメリカの有権者の様子を見ている限りでは多くの人をコントロールしている教祖のように見え、人間の心の中にある悪い部分を引き出し、憎悪を煽っているような、崖っぷちを歩いている危うさを感じます。政治は現実からの冷静な思考、公平公正さ、弱者への対応、このようなものに基づく、どのような未来へのビジョンがあるのかetc.だと思うのですが、私にはトランプ氏からそのようなものは何も伝わって来ません。アメリカの、世界の国々への影響力を考えると闇鍋状態に拍車がかからなければ良いけれど、と心配です。アメリカの民主主義の一面がこのようなものだったとは信じがたいのですけれど。アメリカの国民の間に走った亀裂は相当に深く深刻なもの、世界の秩序や最大公約数の常識はどうなるのでしょうね。随分前に、ドイツのハイスクールの少年が、ドイツを訪れ、広島に原爆が投下されて被爆した男性がその体験を話している時に、あなたはここでその話をするのはつらいでしょうね、と言った時の事が思い出されます。あの時私は胸を衝かれました。彼の目は労わりに満ちて澄んでいましたから。

11月10日、いつまでも見せてくれる後ろ姿

子供の頃は色々教えられたり時々叱られたりしたものです。もし小さい時に祖父母が亡くなっていたら多分優しかったという記憶ぐらいしか残らなかっただろうと思うのです。顔も段々ぼんやりとしたセピア色の記憶になって行ったかも知れません。ですが、思春期を経て私が大人になるまで一緒に暮らせたことで、今思えば大切な知恵や教訓だったのだと思う事や、直接聞く事によってどんな人生だったのかを垣間見る事が出来ました。亡くなってから幾十年も経っても、後ろ姿から学ぶことは多く、ある時は今この瞬間に共にいるように感じる事もあります。かかわって育ててくれた人は家族だけではないのですから、目上の方達や友人のありがたみをしみじみと感じています。まだ特効薬のないウイルスが存在している世の中に生きているという現実に、閉塞感のみになりがちですけれど、心の深い所まで見つめてホッコリふっくらと感じたり受け止めたりして行きたいですね。まるで、お前は何者で何を学び何を考え一体どのように生きて来たのか、そしてどこに行こうとしている人生なのかと、先人達から問われているような2020年です。

11月4日、いびつな地球

新型コロナウイルスに有効な手洗いは他の菌にも有効ですが、地球上で四割の人が石鹸で手を洗う事が出来ない、というニュースを時々思い出します。密を避ける事や手を洗う事が出来ず、マスクも不足している状況に置かれていたら、それは多分明日食べ物や安全にすら大きな不安を抱く生活だろうと思うのです。地域紛争は当事者にとって戦争です。お年寄りも子供も病気の人も巻き込まれます。そういう事を思うと、今の日本では安全でしょう。でも、ウイルスによってリストラや経営してきた店の閉店は生活に直結します。そのような人にとっては、旅行代金が安くなっても旅行に行くどころではなく、重い気持ちで、何とかして行こうと考え、動いていらっしゃる毎日だと思います。どちらかが幸せとは簡単に言えるものではありませんね。それでも、私は石鹸で手を洗う事の出来ない四割の人達に対して何とか出来ないものだろうかと思いを巡らせています。住む場所は勿論気候の影響を受けますし、人種も言葉も様々な人が今共存している地球はほぼ丸い筈なのに、私には人間が作り出した多くの矛盾によって、いびつな星に感じられます。何処を見回しても、人の上にも人の下にも人はいないと実感したいものです。アルメニアとアゼルバイジャンの紛争は一時的には収まるかも知れませんが波乱含みです。ナゴルノカラバフの山々はもう雪が積もっているのか、毎日あの山を見上げながら暮らしている人達にもこのウイルスの影響があるでしょうに、と思っています。

10月29日、アーカイブス

昭和41年のラジオ番組、早起き鳥の録音を聞きました。ラジオから聞こえてくるのは今話しているような声ばかりです。館山市で網をひく70代の男性、白浜の60代の海女さん達、家族の方が聞いていたらどんなにか懐かしく思った事でしょう。あの頃も今も時代はひと時も休むことなく動き、作られているという現実の重さに直面したように感じました。時代は私達一人ひとりが作っているのですから、自分でよく考え、流されないように生きて行く事の大切さと難しさが改めて私に迫って来た貴重な時間でした。

10月23日、言葉は生き物

言葉は時代によって変わるようですね。使い方や意味が変わるだけでなく、次々新しい言葉が生まれているのは、スマートフォンでのやり取りとも関係があるのでしょう。最近気づいたのですが、野菜のサクサクした歯ざわり、というよりも、歯ごたえという言い方を使う人が多くなりました。男女の言葉の違いもかなり少なくなってきました。でも全く同じにもならないだろうと思います。古典文学の中の言葉やその意味は今では大分変って来たのですし、平安時代の日本の都は京都だったわけですから、関東の言葉とはある程度違った言い方であったのでしょう。コンピューターで、平安時代や江戸時代の有名な人の声や言葉、抑揚も含めて再現する事が出来たらどんな風なのか一度聞いてみたい気がします。自分が生まれ育ってくる間に覚えた言葉やその使い方は歴史の中では短い時間という事になるのですから、これからどのように変化して行くのか、どのような言葉やその使い方が変わらないのかいささか興味があります。いずれにしても、相手の気持ちを推し量り、思いやりのこもったコミュニケーションを心掛けたいですね。

10月17日、帰って来ました

十月は金木犀の季節ですね。香りはあっという間に終わってしまいますが、今年も深まり行く秋の中に佇んで木犀は何を思っているのでしょうか。先日買い物に行こうと歩いていたら、再会しました。茶トラの猫と、です。去年の秋頃からある店の駐車場の辺りで見かけるようになり、そのうちキジトラの子猫もそこに来て茶トラ君と仲良く居るようになりました。人懐こくて何人かの人から餌を貰っていました。皆食べきりサイズのキャットフードを与え、その容器を持ち帰っているので散らかる事もないようでした。ところが、ある時少しずつ大きくなって来た子猫の姿が見えなくなり、その後茶トラ君もいなくなりました。何ヶ月ぶりかで帰って来たのにはびっくりしました。元気そうで相変わらず人懐こいので、思わず話しかけました。人間の言葉を話せたら何と答えてくれたのだろうと思います。あの子猫は貰われて行ったのかも知れないですが、成猫を連れて行って飼う人は少ないので、あの子猫を探してあちこち移動して暮らしていたのでしょうか。分かりませんが、捨てられなければ苦労する事もなくて良かっただろうに、と思います。寒くなると外は猫にとって過酷です。我が家には二匹の猫がいるのでこれ以上は責任を以て面倒を見る事が出来ず、そばに寄って来て嬉しそうな茶トラ君に胸が痛みます。マスクをするようになってからは外でも人と話す事が減りましたけれど、久しぶりに、無事な猫との再会を知らない女性と喜び合いました。その日は、金木犀の香りの余韻も残る良い日でした。

10月11日、時空を超えて過去へ

今年の中秋の名月、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。去年の今頃は台風15号の爪痕に呆然とし、被害家屋の多さと過去に例のない有様でしたので、すぐには修理出来ないでその後の台風の心配をしなければならない毎日を送っていました。今年も今後の台風の心配はあります。しかも新型コロナウイルスという途方もない手強いものが存在してしまったのですから、気を付けなくてはならない事が随分増えまたね。でも、それは今までは医学の進歩や、病院で治療を受けるのに困らない、という状態だったのですから随分恵まれていたとも言えると思います。平均寿命が今よりずっと短かった、例えば千年以上昔の人達は、人生や仕事を一体どのように考え、どのように喜怒哀楽を感じ、今自分が生きている世の中をどう受け止めて生きていたのでしょうか。本のページは、どこかでそうしようと思った時、遡って逆に読む事が出来ます。現実の世の中を古い昔に戻す事は出来ませんが、時々訪ねる事が出来たら、体感するから気付く事も多いのではないかと思うのです。こんな時代だからこそ行ってみたいものです。

10月4日、秋を感じる

一気に秋が深まった、毎年こんな風に感じるのが秋のお彼岸の頃です。今年もあんなに暑かったのに朝の気温が20℃以下になって来ました。そのせいか糠漬けのナスが良い色に漬かるようになりました。別に糠床の水分を変えたわけでもありません。秋ナスは水分が少ない事と関係があるのでしょうか。毎朝かき混ぜるとカラシの匂いがツーンと鼻をつきます。カラシや鷹の爪のほかにひね生姜、ゆで卵の殻、柚子など、その季節にあるものを糠床に入れると漬けた野菜が美味しくなりますが糠床は乳酸発酵が常時進んでいるものですから科学的な理由があるのでしょう。面白くなって来ました。色々実験してみたいと思いますけれど、八十数年受け継がれてきたものですので糠床がおかしくなるのも困ります。台風とウイルスの心配をしながらですが無事に皆で、生きて行きたいものです。

9月29日、宵待草の中

井の頭公園のすぐそばにある宵待草という喫茶店に入ったのは、大学卒業前後の事でした。もう40年近く前になります。そこはとても落ち着いた雰囲気の店で、夏だったものですからレモンの氷を注文しました。フラッペタイプの氷が多かったのですが、ここのは氷にレモンシロップがかけてあるものでした。昔からある懐かしい氷に久しぶりに出会って、レトロなガラスの器で頂いたそのレモンの氷はちょっと大人の味がしました。レモンの氷を注文した事は今までになかったのですが、その店の雰囲気で注文したように覚えています。最近、この店が2006年に閉店していた事を知りました。一度だけしか行かなかった事が悔やまれます。ずっと前からあったように感じたあの店は、私の学生時代に開店したそうです。井の頭公園は桜の時季は大変な混みようで入れず、残念な思いがあり、5月に訪れたらやはりとても人出が多くて散策と言っても一瞬も立ち止まれないほどで、都内の駅のラッシュ時のようでした。それでも、公園の池の中の噴水の白い水、水音も爽やかなせせらぎのようでしたし、柔らかい緑の紅葉が風にそよぎ、茶店で売られている金色の風車もくるくると回っている様はのどかな初夏、という、リフレッシュ出来る所でした。野外舞台もあって、月夜にピアノを奏でている人がいかにも似合いそうだと思いました。この公園にあの喫茶店はとてもよく似合うと言いますかまるで溶け込んでいるようで、大正ロマンを感じさせるというたとえもよく分かりました。ムーンライトソナタのメロディと公園の美しさと共に、耳に目に蘇って来る色褪せる事のない私の動画の1ページに、今日は久しぶりに入ったような心持ちになりました。恩師のお住まいや研究所がこの公園から割と近い所にあったのも懐かしく、先生や友人達もあの頃の姿でイキイキと動き出したような不思議な交流は、今必要な対人距離とは関係ないひと時でした。でも、先生はもう旅立たれ、友人達もそれぞれの場所でそれぞれの生活をしています。40年という歳月はあっという間だったように感じますが、重みのあるものだったとも言えるようです。思い出を分かち合えるのは同世代の人達であり、夫婦であるのですね。高齢になって配偶者に先立たれたら、あれこれ説明しなくても自分たちが生きて来た時代にすうっと入って行けて共感できる人が減ってしまう寂しさを感じるでしょう。ただ、孤独は寂しさだけでなく、自由が広がる事でもあるのかも知れないと、少しプラスに考えられたら良いのですけれど。混沌として、明日の事も分からない、漠然とした不安を感じながらの毎日なのにこんな事を考えました。

9月23日、記憶力

私の記憶力はどのくらいなのか、ふと考えました。随分昔の事でも鮮明に覚えている事とそうでもない事があります。忘れては困る事のみよく覚えている、というわけではなく、興味を持った事がその時々の自分の触覚に引っかかるらしいのです。それが誰かの名前だったり、どこかの地名だったり、様々です。ですから、自分が苦手な分野の記憶は随分少ないのだろうと思います。どのような出来事にどれほど、怒りや悲しみ、感動を覚えるのか、それはどれほどの感情でいつまで心に残るのか、心を揺さぶられたのは何故なのか、一概に共感したからとも言えないのではないかと思います。多分千差万別なのでしょう。自分の内側にこそ謎が多いようです。

9月17日、お米の味

先日お米を頂きました。普段お米の銘柄はあまり気にしていませんが、頂いたお米は噛みしめると懐かしい味がします。冷めても独特の甘みというか旨味があります。コーヒーや紅茶、烏龍茶にも種類がありますが、これほどお米によって味が違うとは思っていませんでした。ササニシキの系統のひとめぼれというお米だと分かりました。私にはこの系統が一番美味しいご飯になると感じられました。低温、日照不足、大雨など、稲を育てるのも大変な事です。食べられればどのお米でも、とも思っているのも事実です。急に暑くなった時には戸惑い、息苦しいほどだと感じましたけれど、草取りなどする事が沢山あるのはいつもと同じです。新型コロナウイルスの感染が拡大している事を実感するのは夕方以降君津市からのメールを受信した時で、その事に関係があるメールでは、と思ってドキッとします。マスクをしていない人が目につくようになってから感染者数も増えてきたように思います。やはり、お互いの命を守る為の暮らし方が、特効薬のない状態の期間は絶対に必要なのだと感じています。

9月11日、890ミリバール

高校生の時、日本列島全部が暴風域に入るという、中心気圧が890ミリバールの台風が太平洋に現われました。思わず母と顔を見合わせましたけれど、台風は東の海上へ大きくそれてホッとしました。でもこれからはあのような事が起こりやすくなり、大きな台風が接近、上陸しやすくなったという事なのでしょうか。温暖化の恐ろしさをまざまざと見せつけられるような事の多い、未知の時代に生きているのですね。足元のおぼつかなさに愕然とします。踏切の遮断機が突然なくなって、いきなり後ろから押されたような思いをする事になるなどとは想像した事もありませんでした。台風、ウイルス、地震、心配は尽きません。家を、鉄筋コンクリートで蚊帳のように覆う事は出来ないし、などと思いながら間もなく一年になる、去年の台風15号の事を思っています。今年はお互いに出来るだけ被害がないように祈るばかりです。

9月6日、殺虫剤色々

朝早くラジオのスイッチを入れたら殺虫剤メーカーの宣伝中でした。映像がないのでインパクトのある宣伝は難しいと思いますけれど、どうやら煙の出ない燻蒸剤の宣伝らしく、かなり手の込んだストーリーです。煙の出るタイプの物を使って火事と間違えられたその後、という事が聞いているうちに分かって来ました。この会社の人達の想像力に驚いたのは何度目でしょうか。久しぶりに渦巻の蚊取り線香に火を点け、台所に置いて料理をしましたが、蚊取り線香が気になってついあの渦巻きをじっと見てしまいました。あまりながめているとぐるぐる目が回りそうになりますね。私はへそ曲がりなのか、こういう昔ながらの物も好きです。今の世の中はぐるぐる目が回りそうな事ばかり、なるべく冷静になって振り回されないように暮らしたいものです。

9月1日、微妙な変化

暑さはまだ続きそうです。でも今日は少し気温が下がり、朝晩はいくらか湿度も低くなったように感じられます。午後二時を過ぎると夕方が近いと思うのも日が短くなって来たからでしょう。夜になると鈴虫の声、一体どこに住んでいるのか不思議です。昔居たという野兎やリス、蛍はきっと遠くへ引っ越していったのでしょう。この動物達にとって私たち人間は、ジャングル大帝の中の、森の動物の敵のような存在と思ったのかも知れないですね。いくらか秋めいて来たので、そろそろ集中してじっくり何かに取り組むのも良いなと思っています。

8月25日、漢方とおばあちゃんの知恵

とても暑いので毎日冷房を使っています。設定温度は28℃にしてあります。ところが、腕が冷たいと感じるようになりました。エアコンを止めると暑いのに、です。学生時代に祖母が言った言葉を思い出しました。暑いとついシャワーで済ませてしまうけれど、シャワーだけで過ごしていると、体が冷えたままで血の循環が悪くなるし疲れも取れないから、夜早めに湯舟につかって涼むようにした方が良いというような内容でした。入浴後に汗をかいても、べたつかずさらっとした汗なのだから気持ちが悪いものではないとも話してくれました。それで、外で仕事をした後はシャワーという事にし、夜は入浴して見ましたら、腕が冷たいというのが治りました。祖母の若かった頃はシャワーなどなかった筈なのに、漢方医のような事を教えてくれました。応急処置なども、昔の人の知恵や工夫が一杯ですね。大切に覚えておいて子供達にも伝えて行きたいと思います。

8月20日、お互いの命

6月の終わりごろから、スーパーなどの店内でマスクをしていない若い男性が目につくようになりました。大半の人は他人の咳やクシャミにも敏感に反応していますから余計に違和感があるのかも知れません。都内でウイルスに感染している人が増えていますが、私の住んでいる地域でも気が緩んだというか、まさか感染はしないだろう、自分は大丈夫、と思う若い人が増えて来たのでしょうか。元気な若い人なら感染しても軽く済むという保証はなく、気づかないうちに人にうつしてしまうかも知れませんし、うつった人が高齢者や病人、あるいは妊娠中の人や赤ちゃんという事もあると思います。その人達の命を脅かす事態になっても責任はとれないのだという事をもう一度考えて欲しいものです。仕事がどうなるのか心配だという人は強いストレスでしょう。そうでない人も普段の日常でない日々が続いているのですから閉塞感のようなものを感じていると思います。ですが、特効薬がなく、ワクチンもまだない間は辛抱出来る事は辛抱するしかないと思うのです。自分がどのように生きて行きたいのか、自分を見つめたり考えたりして、自分の芯をしっかり構築して行く事ができる期間かも知れませんね。これからも皆で生きて行くための辛抱は、明日はどのような事が起きるのか分からない戦争中の我慢とは違います。インターネットは瞬時につながる事が出来ますが物事はそうは行かない場合もあります。勿論戦争のない世の中にして行かなければならないけれど、例えば戦争中の小学校低学年の子供達の学童疎開、どんなに大変だったろうと思います。いつ戦争が終わって家に帰れるのか分からないですし、戦地の父親や空襲で母親を失うという事が数えきれないほどあったのですから。改めて、過去の時代に生きた人達の事や、その苦難から研究開発されて今享受している様々な物、それは今の自分達の生活では当たり前のようになっていますが、決して当たり前ではないのだという気持ちを忘れないで子供達にも伝えて行きたいですし、後の時代に生きている私達に身を以て教えてくれた人達への感謝の気持ちを噛みしめて日々暮らして行きたいと思っています。

8月15日、白い文鎮

今日八月十五日は終戦の日ですね。昨夜の俳優渡哲也さんの訃報に、また一人昭和を生きた人が旅立って逝ったと実感させられました。庭の花に水やりをしていると、いつも虫が多くて切ってしまおうかと迷っていた山梔子に一輪花が咲いていました。珍しく虫はいません。綺麗な白い花に渡さんの歌が重なります。早速切って精霊棚に供えました。この花はウイルスで心が落ち着かなかった今年の自分のありようを少し落ち着いて省みられるポイントになってくれるかも知れない、白い文鎮のようです。今日は押し麦とタカキビを沢山入れたご飯を炊きました。タカキビは中国東北地方で昔も栽培されていた高粱、健康の為にご飯を炊く時に混ぜる今という時代を、当時を生きて来た高齢の方達はきっと、贅沢な世の中になったものだ、と感じるでしょうね。

8月10日、梅雨が明けて

8月に入って漸く関東地方の梅雨が明けました。お母さんがビニールプールに水を入れ、お日様でその水を温かくして遊ぶ子供、楽しそうです。私が小さい頃は盥でした。でも夕方のお湯の行水です。湯舟とは違う盥というものに入るのは遊びの気分、オレンジ色の小さなプラスチックの如雨露にお湯を入れて盥の中にまくと、夕日にそのジョウロがキラリと光って、水はダイヤモンドの粒が後から後から転がり落ちてくるように幾色にも輝きます。生活の中の一場面ではあるけれど、非日常のような行水はとても楽しいひと時でした。普段の湯舟は子供にとっては結構深く、それは大人の世界に足を踏み入れるのにも似たものだったのだと思います。でも、いつも恐る恐る入ったのは、大抵お湯が熱かったからなのですが。夏の湯舟の中には天津桃の葉が入れられ、入浴剤とはまた違った天然の柔らかい匂いがしていました。台所から聞こえてくる糠漬けのキュウリを切る音は、料理の下ごしらえをしている時の忙しそうな音ではなく、ゆったりしていました。聞いているこちらも気忙しいように感じる絶え間のない包丁の音とは違うので、間もなく夕飯なのが分かるのです。蒸らしているご飯の匂いもしてきて、きつね色のおこげがないかしら、あったら醤油のお結びが食べたい、などと思ったのもつい昨日の事のような気がします。気が付けば大人になって数十年、大人の世界は奥が深いのか、上げ底なのか、今でもよく分かりません。小さな子供にとって大人はどんな存在に見えるのでしょうか。一点の曇りもない目をした大人がいたら会ってみたいと思う今日この頃です。

8月5日、自分と違う人

アメリカでは、以前から警察官に逮捕される時に亡くなった人が黒人だった場合に警察官が有罪にならない事が多いと感じていました。白人は優れていて黒人は劣っているという価値観が前提でこのような事が今も起きているという事なのでしょうか。皮膚の色が人間の優劣を決めるものではない事は理屈では皆分かっているのだと思います。子供の頃読んだ、醜いアヒルの子という絵本を思い出しました。兄弟たちと違う姿だった為に、皆から仲間外れにされたりいじめられたりしたけれどこの子はアヒルの子でなくて白鳥であった、大きくなって仲間たちの所へ飛んで行った、という話ですけれど、この子が他のアヒル達と少し違う姿をしたアヒルであったらどうだっただろうかと、子供心に思ったものです。自分達が普通で、色々な点が異なっていると仲間はずれにし、あの人よりは自分の方がマシだから幸せだ、持っているものは沢山あって不自由しないけれどもっと欲しい気持ちに際限がない、アヒルより私達人間にありがちなこういう心のありようにもっと向き合って行きたいですね。

7月31日、社会と接点がある

新型コロナウイルスに罹患したらその後どうなるのかという事について一年前のデータはありません。新しい病気なのですから。だから命が助かったとしても、後遺症の有無も、完治なのか寛解なのかも分かりません。やはり、薬が出来るまでは物理的な距離をとる事が心理的に手を携える事になるし、自他を守る事になるという私の考えに変わりはありません。高齢者や基礎疾患のある人も社会との接点があります。皆が病院に入院していたり介護施設に入所しているというわけではない事をどなたもご存知だと思います。市中に感染が広がり蔓延すれば危険です。検査と隔離の迅速な徹底を、と願います。事件は会議室じゃなく現場で起きている、というドラマの場面が頭をよぎります。

7月26日、インド洋でも

インド洋の東と西で海水温の差が大きくなった時に異常気象が起こるのだそうです。エルニーニョのようなもののですね。新聞でも報じられていました。インド洋ダイポールモード現象というもの、と初めて知りました。それが水害や干ばつをもたらしていたという事は、オーストラリアの山火事やアフリカでの大量のバッタの発生もこの現象の為なのですね。去年と同じように今年も海水温差の影響があり、日本の夏は雨の多い猛暑になりそう、と聞くと、台風の発生場所が西よりになりそうだという事が報じられていた事も思い出されて、私には日本に台風が深刻な影響を与える事がないよう祈る事くらいしか出来ません。異常気象の発生を知る、予測する、そのような事は大切であり、備える為には不可欠だと思いますが、ではどのようにしてこれ以上異常気象が頻繁に起こらないようにすればよいかを考え、行動する事が必要だと思うのです。地球温暖化は起きていないなどとはとても言えないと思うのです。

7月22日、あぶはち取らず

危機感があるからついまた同じ事をお話しする事になってしまい、申し訳ありません。色々な事が解除されてきました。感染者が増えるのは目に見えています。人が動かないと経済が停滞し、休業補償にお金がかかるとしても対策を講じなければ高齢者や病人は危険にさらされ、病院やスタッフも急に増やせる筈がありません。せめてPCR検査を増やして、不安がある人なら誰でも受けられるようにすべきだと思います。隔離は不可欠ではないでしょうか。普段は高齢者や病人に手厚くというけれど、今回は本当に高齢者や病人に優しいのかどうか。薬がなく、ウイルスが終息していないのだからお互いの為に外出を控えるのは当然だと思います。無症状感染者が増えれば感染者総数という分母が大きくなるので、一見致死率が下がったように見えますが、ウイルスが弱毒化したわけではないのだから危険因子を持っている人にとって危険である事には変わりありません。感染が拡大しているのにGO TOというのは時期尚早ではないでしょうか。ウイルスをばら撒く事になりかねません｡経済も命もあぶはち取らずになるような事があれば不安と混迷に拍車がかかるばかりです。

7月17日、PCR検査を増やして

新型コロナウイルスの感染者が増えていますね。東京だけでなく、通勤圏である南関東でもそうです。イベントなどの条件の緩和や人の往来が増えれば感染者はもっと増え、高齢者や病人も危険にさらされるだろうと心配です。感染者は若者に多く、無症状の人が多いという事は、人への感染を広げようと思っていないまま広げてしまう事につながるのでは、と思えるからです。自由な往来をするのなら、PCR検査を受けやすくするという事をしないと、今病床はひっ迫していないそうですが感染が広がったらどうなるのでしょうか。決して病院やスタッフが増えたわけではなく、特効薬はまだないのですから。経済の停滞や休業補償は痛手となるでしょうけれど、重症化し命を落とすかもしれない人達の事も守る姿勢を見せて欲しいものです。このようにしてインフルエンザA型のワクチンも作られてきたのだろうかと思うと、今まで当たり前のように接種を受けて来た私は、突然思いがけない深傷を負ったようなとても複雑な気持ちで過ごしています。

7月12日、高圧洗浄

新型コロナウイルスに感染する人がゼロになるのはなかなか難しいようですね。このウイルスで亡くなったどの方にもそれまでのその方の人生があり、人とのつながりがあった筈だと思うとこのウイルスの流行から見えた事や考えた事、というひとくくりにしてあれこれ箇条書きにするような事はとても出来ません。でも貧富の差が、命が助かるかどうかに大きな影響を与えた国があった事や、自分が不安で先の予測が出来ないので自粛していないように見える人が自分の近くに来る事を非常に恐れ、行き過ぎた言動が少なからずあったのは事実です。自分や家族を守ろうとする本能がこのような形であらわれたのでしょうね。普段は躾や学習によって思考が優先される事の多い他者とのかかわり方が今回は役に立たなかったのだと思います。人との距離を物理的には離れても心理的には近く、というのはなかなか難しいけれども少し冷静になってそのようにして行きたいですね。まるで人間の心や今の社会のありようとか矛盾が、高圧洗浄によってむき出しになり、向き合わざるをえなくなったかのように感じています。

7月6日、変異は異変

中国内陸部で、大きなカタツムリが見つかったそうです。アフリカのカタツムリなのでは、と聞きました。大人の手のひらサイズだそうです。アフリカからインドまで広がって来たという大きなバッタの大群に、穀物が食い荒らされている、とも聞きました。どちらも食用にはならないそうなのです。ウイルスに翻弄されているというのに、食糧不足になるかも知れないという心配もしなければならないのでしょうか。バッタは変異したのでは、という人もいて、巨大なバッタが何億匹もいる光景はとても想像が出来ないような不気味な現実です。ウイルスも変異を続けているそうですし、どうして滅多に起きないような事が立て続けに起こるのか不思議です。地球温暖化が何らかの影響を与えているような気がします。気候が大きく変わって予測がつきにくくなってしまった事が、人間だけではなくほかの動植物にも様々な影響を与えているのではないかと思うのは私ばかりではないかも知れません。オホーツク気団がなく、関東は強風と大雨の梅雨入りでしたので、混迷が深まります。

6月30日、子供はただ可愛がってやりさえすれば

保護者の虐待によって子供が亡くなるという事件が後を絶ちません。以前にもお話しした、次郎物語の中での次郎のお母さんの言葉、子供はただ可愛がってやりさえすれば良いのね、が、よみがえって来ます。あの本を毎朝先生が読んで下さったのは、私が小学校五年生の時でした。どんな時代になってもこれは変わらないと思います。児相や行政が適切なかかわり方をしたかどうかを検証する事は今後の為に確かに必要な事ですが、失われたかけがえのない命はもう決して帰って来ないという現実の重さに、言葉もありません。

6月24日、委縮している心

暑い日が多くなりました。何故だかよく分かりませんが、相変わらずスーパーは混み、パスタや納豆、ホットケーキミックスなどは品薄です。我が家では今年も梅雨入り前にジャガイモと玉ねぎの収穫が済んでホッとしています。でも何だか変です。丁度ビニールの囲いを外したばかりの植物のように気持ちが萎縮しているのです。ウイルスは終息したわけではないので、油断は出来ませんが、少し気持ちにゆとりが欲しいと感じます。スイッチが切り替えられない様で、なかなかのびのび出来ません。病み上がりのようだと感じています。非日常が日常として定着して行くというのは、東日本大震災が現実に起きてしまった時と同じよう、突然全く次元の違う世界に入れられてしまったようで、戸惑う事ばかりのあの頃とよく似ています。なんとも大変な時代に身を置いていると思いますが、それでも喜怒哀楽を感じながら人は生きているのですね。生きて行くというエネルギーはきっと計り知れない大きなものなのでしょう。学校がようやく始まり、家の前を通る小学生立ちの弾んだ声を聞きながら草取りをしていると、もう一度子供に戻りたくなります。あんなに魔法使いのように見えて羨ましかった大人になってみると、義務や責任が重く感じられる事もしばしばですから。毎朝仏壇に手を合わせて、祖父母と過ごしたころに気持ちはいつでも戻れるのに、過ぎて行った時間の長さと速さには唖然とします。ある程度の年齢にならないと気づかないのかも知れませんね。何をこのウイルスが現われる前に戻し、どこを何故どのように変えて生きて行くのか、子供達の声を聞きながらゆっくり考えてみたいと思います。

6月18日、朽葉色の

朽葉色の着物を着た女がお今か、ふとこんな言葉を思い出しました。これはある小説の中で、豊臣秀吉が側室の淀殿に言った言葉です。ある時淀殿が秀吉に手紙だったと思うのですが、息子の世話をしている侍女の一人について愚痴のような事を書き送ったのを、秀吉が覚えていて、その侍女を厳しく叱責しようとし、それに驚く淀殿という場面だったと思います。高齢になってから授かった息子を溺愛していた様子がうかがわれます。何故唐突にこの場面を思い出したのかよく分かりません。ただ、黄緑から夏木立の色へと変化して行く木々のとても美しい季節でありながら、特効薬のないウイルスと共に生きて行くしか選択の余地がない今、どのように行動して自分の健康を守って行くかという事が、頭の中に、カルピスの滓のようにいつもあるから、でしょうか。緑は、黄色に近い色から黄緑に、もっと濃い夏木立のような黒が入った色に、それからモスグリーンになり、茶系の色につながって行くようにクレヨンの箱の中で並べられ、実際そのように木の色は季節で変化して行きます。落葉樹の葉は、散ると茶系の色になり、カサカサと乾燥して風に舞って行きますね。では、朽葉色というのはそういう色なのでしょうか。今の感覚で考えると、お今さんはもし若い侍女であったとしたらかなり地味な色の着物を好んでいたという気がします。平安時代では朽葉色は茶系ではありますが、かなり赤みがかった色だったそうです。朽葉色の中にいるなどと思わず、少しずつ薬やワクチンの完成に近づいて行くのだと思って、このウイルスが存在するようになった自分の生活の場で生きて行くというのは、それなりの気構えが必要だという事でしょうね。人とは、ほど良い心理的距離で何とか新しい一歩を踏み出したいものです。

6月13日、疑問が一杯

新型コロナウイルスの全貌はなかなか分からないのでしょう。去年の今頃は誰もこんな事になるとは思ってもいなかったろうと思います。いつ、どこでどのような段階を経て人間が罹患し、人から人への感染が始まったのか、そのウイルスが今も変異し続けていると聞くので、今後どのようになるのか、全く私には分からない事ばかりです。これほど人間社会に大きな影響があるものなのだから、是非このウイルスのすべてを解き明かして欲しいと思っています。ワクチン開発のニュースを聞くたびに、特効薬は作らないのか、もし感染したら自分の力でワクチンが出来るまで生き残れという事なのだろうかとも思います。それにしても、いくら外国に比べて検査数が少ないとはいえ、ヨーロッパやアメリカと日本の、感染し亡くなった方の数がこれほど違うのも不思議ですね。靴を脱いで家に入るとか、シャワーより湯舟に漬かる、握手やハグする事があまりない、などと言う生活の習慣の違いというだけでは説明が出来ない何かがあるように思うのですが、それも知りたい事の一つです。感染の波は今後も確実に来ると思えるので、薬やワクチンがまだない今、やはり油断は出来ない病気です。段々とマスクを息苦しく感じる季節になって来ましたけれど、大事な相棒のマスクと、何とかうまく二人三脚をして暮らして行きたいものです。ところで、このウイルスの薬やワクチンが出来て落ち着いた後、数年先の事だと思いますが、その時振り返って一番気になるのは何でしょうか。自粛警察、これはずっと胸に引っかかって残りそうです。人間はいざとなると何を最優先に考えどういう言動をするのか、他者との関係や信頼とはどのような物でどれほどのものなのか、自分は一体どう反応し、どういう人間なのか、貧富の差が感染や生死を分けた国もある、このような事は私にとって決して喉元を容易には過ぎて行かない事になるだろうと思います。

6月8日、思い出と記憶

新型コロナウイルスに限らず、何とかその時期を通り過ぎて無事に生きて行けると、いつか記憶を伝える必要があると考える事があると思います。今はまだ先の事ですが、その時、記憶が現実の時系列の出来事と自分の身に起こった事、地域の中ではどうだったのか、そのような事実を覚えていて出来るだけ正確に伝えて欲しいですね。記憶は思い出となって浄化され、あの時の良かった一つの出来事を強調し、すべて、あれは良い時代だった、と脚色しないで伝える事の大切さと難しさを思っています。命の危険が伴う事は、戦争も、震災も、感染症も、決して良い事ではありませんよね。

6月4日、子供の疑問

肉食動物には表情があり変化するのに、草食動物には表情がないように見えるのはなぜか、この子供の疑問に私は驚きました。こんな事に気付いた事も考えた事もなかったからです。子供の視点はとても大切です。肉食動物は表情で感情を表すことによって相手を威嚇したり追い払う事にも役立ちますが、草食動物は逃げるので表情で相手の動物に感情を伝える必要はないからなのだそうです。自分の感情が表情に表れる事で得になる事があるかないかの違いだと、ラジオのやり取りから知りました。動植物の進化によって備わって来たものには意味があり、より生きて行きやすいようになって今があるというのは、普段私の触覚には引っかかって来なかったようです。大分鈍っているのだと思います。当たり前、と言い切れるような事があるとしたらそれは何故でどのような歴史の結果なのか、物事は安易に納得しない事も大切かも知れませんね。つじつまが合わなかったり、釈然とせず飲み込めず疑問に感じたら、急いで人に流されて行かない、呑み込みが良い事のどちらも大事で、ブレーキとアクセルを納得出来るように使いたいと思います。

5月30日、ウイルスは棘の多い給食

輪になって皆でフォークダンスをしている途中に、突然魔女の冷たい息を吹きかけられたように音楽も何もかも止まってしまった、この凍り付いたような状態がある時解ける事を切望しているとしても、何もかもが元に戻って、まるで何事もなかったかのように、日常生活が止まる前とそっくり同じに動きだす、という事は決してありません。経験して気づいた事や知った事があり、体感した感覚がある以上、もう知る前に戻ることは出来ないからです。用心深さや清潔にするよう心がける事は習慣のように身について行くだろうと思いますが、自分の日常や、人間とか社会がどうあるべきか、普通とか当たり前、永遠に続く変化のない日々というものはない、時間といういつも進んで行くものの中で暮らして行く事とは、等を考えながら、そう、丁度ご飯を食べる時に箸を持つように考えながら動くのでは、と思うのです。そうするといささか重い箸使いのようになりそうです。ですから多分考えながら慎重な行動をするのではないかと想像してしまいます。その時、先の見えない不安とどう向き合うか、自粛とはとか、他者にどう接するのか、このような事も振り返りたいですね。得たものを咀嚼すれば、それはその人の血や肉になって行くのでは、とも思います。随分刺の多い給食を食べている最中なのだなと感じます。失われた命、仕事と自分、家族や仲間、地域の中の自分、思いは尽きません。是非生きて、いつかあれは何だったのかと振り返りたいと思っています。振り返りたいと思うのは、私の中にこのウイルスと共に生きて行かなければならない事を受け入れる覚悟をし、今までとは幾らか違う日常生活をとにかく取り戻して進んで行きたいと、少し気持ちが落ち着いて来たからなのだと思います。現実を認め、受け入れるにはやはりそれなりの時間が必要だったのですね。魔法は解けつつあるようだと実感しました。次の波に警戒しながら。

5月26日、算数が難しい

マスクは今24時間体制で作られるようになっているそうですが、それなら普段の2倍から3倍の数が作られているのでしょう。それなのにほとんどドラッグストアーに入って来ないのはどうしてなのかよく分かりません。普段は常時販売されていたのに、です。今はそうでもなくなって来たようですが、病院や高齢者の施設に絶対に必要なのは当然ですが、まさか公平に流通していないという事はあるまい、ある所にはある、という事だったのか、色々考えるけれど釈然としません。下手な考え休むに似たり、ですね。マスクを利用した詐欺も多いそうで唖然とします。自分がこのウイルスに感染しないとは断言出来ないでしょうに何故そんな事を考えるのか不思議に思います。介護サービスが利用できる仕組みになったのは良いけれど人の多く集まる所を利用する事は、高齢者には感染のリスクがより命の危険に直結するのですから、これからどうあるべきか難しい問題ですね。休業も深刻な問題で、倒産や解雇が増えればウイルス収束後の生活をどうすれば、という事になりますから、迅速な手厚い補償が望まれますね。いっそ薬とワクチンが出来るまで、せめて食品にかかる消費税を撤廃したらどうでしょう。迅速なら強心剤になるのでは、と思います。赤字かどうかは無視できないですけれど、病院の統廃合ももう一度考えてからにした方が良いように思います。すぐに収益が上がらない教育や福祉はやはり息長く考えて大切にして行く一つの軸だとも思います。毎晩ボーッと新型コロナウイルスのニュースを聞いていてなかなか横になりません。よせば良いのにと自分でも思いますがつい気になってしまうのです。今朝もマスクをじっと眺めて色々思い出し、あれこれ考えてしまいました。こんな毎日なのですが、種を蒔いた南瓜はいつもの年と同じように芽が出てすくすくと育っています。その生命力にあやかりたい思いです。

5月22日、灯台下暗し

新型コロナウイルスの薬やワクチンの研究開発も各国で徐々に進んでいるようですね。日本でウイルスに結合し感染を抑える性質の抗体を、人工的に作り出す事に成功したというニュースに驚いています。アルパカの抗体から作られたと聞いたように思います。ヒトコブラクダが持っていたウイルスから起きたのがマーズだったのですから、同じラクダ科のアルパカの抗体からこのような物が出来るのは何だか不思議な気がします。毒を以て毒を制す、ではなく、灯台下暗しに近いと思いました。ウイルスの性質の片鱗から、段々見えて来る全貌、という方向に近づいて行っているのでしょうか。そうだと良いですね。明るいニュースに触れて皆で喜びたいものです。

5月18日、お遍路さん

司馬遼太郎さんの、街道を行く、の中に四国徳島の道も書かれています。そこで、お接待という言葉を知りました。お遍路さんが一休み出来るようにお茶を入れたりするという事を、道筋の人達がずっと昔からごく自然に行って来たのです。そしてお遍路さんに、お道を、と声をかけるのだそうです。次にお参りする寺への道に迷わないようにという事だけでなく、思い悩みここまでやって来た貴方の道をどうぞ見つけて歩いて行けますように、という意味も含まれていたのでしょう。控えめな優しい言葉をかけて見送るものですね。世界中が新型コロナウイルスで右往左往しながらなんとか乗り越えて行こうとしている今、物理的には人との距離を取っても、肩を寄せ合うように気持ちを寄り添わせ、手を携えて何とか乗り越えて行きたいものです。私達は試行錯誤しながら、どんな道をどのように辿り、人に対してどういう思いで、お道を、という言葉をかける事が出来るのでしょうか。

5月13日、後ろの正面だあれ

目が覚めたら突然灰色のクレヨンで濃淡をつけて塗りたくった画用紙の絵の中にいて、見慣れた光景がいつもとは全く違ったものになっていた、毎朝そんな風に感じます。三次元の空間から二次元の画用紙の中に移されて暮らし始めてから随分日が経ちました。今日もあれこれ思い出しています。私が小学一年生の時、母が入院した事がありました。そう長い間ではなかったのですがとても長く感じました。家族は大勢いて皆私を気遣ってくれていたとは思いますが、丁度かごめかごめをして遊んでいて、後ろの正面だあれ、と言った時に誰も後ろにいないような感覚とよく似ていたような毎日でした。真後ろに誰もいないで、大勢の人達が少しずつ真後ろからずれた所にいる、というのは、母と私の距離や母に理解され受け入れられているありようが私にとってはピッタリで心地よいと無意識に感じていたから、他の家族はそれとはちょっと違うという事だったのでしょう。その時父と一緒に母の入院している病院に、バスに乗って行ったある日曜日、帰りに父が山葡萄を取って手渡してくれ、口に入れたらとても酸っぱかった事も一緒に思い出します。母の入院は私にとって生酢のように酸っぱい味の思い出になっているのです。病院はまだ木造で畳の部分もあり、母が入院していたのは第3病棟16号室でした。その時母が入院した病院の先生に、私も高校時代に診て頂いた事があります。突き指をした時なのですが、気さくで優しい先生でした。今でも包帯を巻いて下さった時の笑顔を覚えています。私の心の引き出しの中に折り畳まれていたこの大切なセピア色の思い出は、一気にカラーとなりユーチューブの画像のように動きだしました。最近先生が亡くなられたという噂を近所の方から伺ったからです。もし、亡くなられたのでしたらご冥福をお祈りしたいと思います。こんなに鮮明に覚えているのに、人が旅立って逝くのはいつも突然でただただ残酷ですね。

5月10日、トウモロコシ

スーパーには家族連れが多く、おばあちゃんがレジに並び、両親と子供達も一緒に並ぶ場によく遭遇します。子供は走り親はレジ近くの商品をゆっくり見ている、普段ならさほど気にならない光景ですがこんな時なのでハラハラします。足元に目に見えない危険が忍び寄っている中ですので驚きます。根拠のない油断は禁物と思っています。今自分がむやみに動けば人に悪い影響を及ぼすのは丁度ぎっしり実の詰まったトウモロコシと同じ、一粒動かそうとすれば前後左右の粒にも影響が及ぶところがそのように感じられます。息抜きは終息してからで、それまでは皆で生きる為の辛抱をしなければ、と思います。戦争中の人達も明日が分からない不安を抱えて物が不足する中を生きて来たのですね。そのDNAを受けついで今自分達が生きている命のつながりを大切にしたいと思います。いつかもお話ししたのですけれど、人間は中継ぎで、地球の歴史という壮大なタペストリーのひと目のようです。でも、ひと目色が違うと全部が変わるのだからかけがえのない一人ひとりなのだと思います。強風の日に、夏野菜の苗を植えました。それにしても、激しい雷雨、地震、色々な事が追い打ちをかけるように起こる年ですね。

5月7日、食材が売られている有り難さ

我が家のライラックは去年と比べると沢山咲きそうです。紫色の蕾が良い香りですし、濃いピンクの牡丹や藤も咲きました。平成始めの頃と比べるとどの花も半月以上早く咲くようになりました。いつからなのか分かりませんけれど地球温暖化が加速しているのを目の当たりにしたようで、気温が上がり水温が上がったらまた台風も心配です。新型コロナウイルスはもういったん日本に入ってしまったのですから、薬やワクチンがまだない間は、たとえ感染する人数が減っても、油断すればまた感染は広がるという事になりかねないのですね。大正時代のスペイン風邪もそのようにして日本で三年の間に三回の流行があったそうです。これは、手洗いやマスク、三密は長い間避けなければ自他ともに危険だという事で、私も肝に銘じておきたいと思います。殆どの人がマスクをして歩いている春はどんなに綺麗な花が次々に咲いても味気なく、灰色の雲と霧に覆われているように感じ、気の重い毎日です。ですが、こんな時でもスーパーが開いているお蔭でなんとか暮らしていられます。衛生面に気を付けてテキパキ普段通りに働いている方々がいる事で命をつないで行ける、といつも思っています。床にテープを張って立ち位置の目安になるような配慮をしてくれた店もあります。他人の渡すお金を受け取り、いつも通りにこやか、というのは、仕事とはいえ私だったら出来るでしょうか。病院のスタッフの方々だけでなく、この方達もやはり最前戦にいるのだという事を、買い物に行く度にひしひしと感じ、感謝しています。

5月3日、ミント、アクアライン

毎日ウイルスに翻弄されているような気がします。誰かが、夢を見ていたのだろう、エイプリールフールだったのだよ、と言ったら私はきっと怒らずに喜ぶでしょう。時々こんな事を思います。何も手につかない状態でしたが、季節はどんどん進んで行くので庭の草取りをしました。ミントが元気に育っているので、摘んでミントティーにしてみました。スーッとして世界が少し変わります。遠出をしないストレス解消法は何かあると思います。普段気付かなかったところに目をやって気分転換して頂けたらと思います。君津にもアクアラインを通ってパチンコ店に来る人が多いそうです。住んでいる人間としては非常に困ります。車にウイルスが付着していない保証はありません。それがどこかで他人の命を奪う事になりかねない行動はやめて頂きたいものです。

4月28日、まさか、は油断

祖母は外国から船での観光客が多かった横浜中区で生まれ育ちました。明治の終わり頃生まれたのですから公衆衛生も、世の中の何もかもが今とは随分違っていたのだと思います。人の多く集まる都会は色々なばい菌があるから汚い､帰って来たら必ず手を洗ってから食べ物を触らなければいけない、よくそう言っていました。色々と思い出します。時代が変わっても、菌も戦争も自分で最悪の事態を予想し用心した行動をとる、自分だけが頼りなのだと体験から感じていたのかも知れません。発表を待っていては遅いと知っていたのだと思います。まさかと思う事が起きるのが世の中なんだよ、祖母はきっとそう教えたかったのです。それが生き抜くヒントだったのだと感じています。昔の人はこれだけ医学が進歩しているのだからとか、これだけ便利なものがあるのだからとか、そこにばかり頼ってはいませんでした。網の目のように張り巡らされた便利さは、脆弱な所もあると言うことを、愚かな私は普段忘れていたのですね。

4月24日、個になるという事

人間には承認欲求があり、言語非言語のコミュニケーションをして、他者を理解する事が出来るのですよね。交流を殆ど断つ事は人間の人間らしい部分を剥ぎ取られて行くようなものだと感じます。恐ろしいウイルスです。何とか辛抱して乗り越えて行きたいですね。いつか終息した時に人と関わるのが嬉しいと感じるか、不安が日常的になってしまったからおそるおそるなのか、分からないですね。1年か2年か分かりませんが、個の中に萎縮したまま閉じこもって生き抜く日々は相当な覚悟が必要だと思いますし、心に深傷を負うのだなとも思えます。とにもかくにも生き延びたいと思っています。私は世のため人のためにたいした役割も果たしているわけではなくても生きていたいのだと知りました。

4月20日、記録だけでは伝わらない事

牡丹やライラック、藤、皆蕾が目につくようになってきました。季節がグングン進んで行くのを感じますが、楽しいとか嬉しいとかあまり思えないですね。それでも、カボチャの種をビニールポットに蒔きました。種が大きいので巻くのが楽で、植え付けると弦が伸びていくらか草除けにもなるので、楽をしたい私は毎年種を蒔きます。収穫したカボチャは日持ちがするのも助かります。今でも、朝起きたらウイルスの話は夢だったという事にはならないのかな、外国の映画を見ているようだ、と思う時があります。ウイルスへの感染が広がっている真っ只中にいるという現実、戦争中の人達も先の見えない不安な毎日を生活の工夫をしながら生きて来たのでしょうね。例えば、あの時は停電が二日続いた、などと言う言い方をしますがそれは後からの言い方で、停電になった時には誰しもいつまで続くか分からない不安を抱えての生活になります。災害や戦争が記録からは伝わりにくい理由の一つはこれだったのですね。ですから、臨場感、緊迫感が伝わって来る口伝えは絶対に必要なのだと思います。いつか、ウイルスの感染が終息し、記録されて行くのだろうと思いますが、その時、このウイルスが現われる前と後では生活がどう変わったのか生き続けられた人達が伝えて行く事が大切なのだと強く思います。

4月16日、未知の日々と銅

幾つかの牡丹の蕾に気づきました。緊急事態という未知の次元に足を踏み入れたような不確かな明日を、毎日迎える事になりました。今日の武漢が明日の東京にならないという保証はないと思い、背筋が冷たくなるようなテレビの映像でしたから、2月からずっと不要な外出は控えていました。ですから日常生活がそう変わったわけではありません。まだ薬もワクチンもないという事は、油断すればいつでも感染は広がるのだと肝に銘じておかなければならないですね。外国に比べて厳しくない制限だという人もいますが、それだけ私達が熟慮し自分に厳しく有らねばならない、信用されている、という事になるのだと思います。何につけても、当たり前の普通の日常が送れる事はとても幸せな事だったのですよね。あれよあれよという間に自分の背丈より深い淵か何かに手を引っ張って連れて行かれるような気持ちというか感覚で、緊張して気が休まらないらしく疲れます。それで、老眼なのですが、本を少し読み始めました。本の世界に入っている時はのびのび呼吸が出来るようです。何となく重苦しい気持ちの毎日、と思っていたら銅を使った繊維シートが開発され、それがウイルスの不活性化を早めるという銅繊維シートが開発された、というニュースに驚き、希望もあると感じています。光が当たるとウイルスや菌を分解する事が出来るようなものを銅と共に使用しているのだと毎日新聞に掲載されていました。マスクの上に重ねれば殺菌効果が長く続くというこのような物を考え、作り出すという人達もいるのです。期待したいですね。

4月11日、脆弱な基礎

新型コロナウイルスは世界中で猛威を振るっていますが、野生動物や鳥などは感染しないのでしょうか。急にウイルスが変異したから人間が罹患するようになったのか、では今まではどうだったのか、私には分からない事ばかりです。文殊の知恵を出させたくないから人が集まらないようにしているのか、まるでウイルスが意思を持っているようです。でも本当は持っていないのになかなか付け入る隙がない恐ろしさを感じます。不要不急の外出をしないと良いとは思いますが、それでは不要不急とされた所で働いている人や経営している人の生活を早急に、どのようにするか決めて実行しなければなりませんね。海外からの観光客やサービス業などの第三次産業頼みの景気の一時的な良さは、基礎のない家に暮らしているようなものなのかも知れない、ふとそんな事を思いました。積木で出来たものをほとんど全部作り変えるようなわけには行かない産業構造、精密機械の発達は本当に人間を幸せにして来たのか、利便性とさまざまな危険は表裏一体なのだと思います。自転車操業という言葉が頭をよぎります。このような社会を突然、しかもどのようにしたら良いか考えながら、変えて行く事が大きな宿題だと思いますが、どこの国でも、どんな人にも難問ですね。ため息がでそうです。

4月6日、自由と責任

未知のウイルスが徐々に忍び寄って来るように感じます。君津は快速電車やアクアラインを使えば東京や神奈川への通勤が容易と言えます。都会へ近くなったという便利さは感染症へのリスクを伴うものだったとひしひしと感じています。今のところ、この付近でのウォーキングは人が多くないので大丈夫だろうと思いますがマスク不足で節約して使っているものですから、花粉の影響で喉がつらいのです。新型コロナウイルスが気になっているから猶更喉の調子が気になるのだと思います。熱もないのに。それにしても、生産されているはずのマスクが一枚も売られていない状態はいつまで続くのでしょうか。ドラッグストアーにはうがい薬まで在庫が非常に少なく、今必要としている人間が購入する事も難しい有様です。スーパーの米売り場にも、お一人様一点限りと書いた紙が貼られていました。特効薬がまだない病気だから不安なのは誰でも同じですが買っておく量や種類にも限度があるように思います。私も不安が募りますが、世の中の混乱に輪をかけないように、情報を精査するのも大切ですね。テレビのニュースの場面で、都内でマスクをせず、人の多い中で桜を見て楽しそうな若者の映像に唖然としました。若い人が感染しても決して重症化しないという保証はありません。自分の不用意な行動が他者に感染を広げ、誰かの命を奪ってしまう事になるという現実に向き合って欲しいものだと思いました。どのような自由にも必ず責任が伴うという事は中高校生にも分かる事なのでは、と思います。思想信条宗教などによって差別を受け、人権が侵害されているわけではなく、皆の命を守る為に自由の制限がされるのですから、この場合公共の福祉が優先されるべきだと思いますし、人間が大切にされているからこその制限ですね。協力して闘っている相手はウイルスです。不要不急の外出がどのような用事を指すのか説明して貰わないと分からないとは思えず、情けない気持ちになります。今まで当たり前のように享受してきた便利さが、急ぎすぎで、人間の際限のない欲だったように思えて来ます。感謝や協力、もはや譲り合いをしないと温暖化による変化の中でやって行けないのかも、と、時間があると考え、堂々巡りなのです。もっとも、今マスクが買えたらよその方に半分分けて差し上げる事が出来るかと言えば、一枚くらいしか分けられないだろうとも思うのです。私も欲が深い人間だなと思いますと、小さな自分を鏡に映し出した姿を見たようで、足が接着剤で床に張り付けられたように身動きの出来ない思いです。

3月30日、筋にこだわる

随分昔の事ですが、よく覚えています。それは親達と、法事であるお寺に行った時の事です。我が家の菩提寺ではないお寺でしたが、ご住職様の読経の間、私も神妙に正座し、いくらか下を向いておりました。そのうち人の気配がし、さっと入って来た小さい女の子が私の籠のような黄色いバッグを開け、上に入っていたハンカチを出して、その下に入っていたキャラメルを持ってまたさっと出て行ってしまったのです。私は声も出ないほど驚いたので、読経が終わってからも黙っていました。誰かに言うのが憚られたのは、多分この女の子は初めて会った子で、お寺の子だと思ったからでした。そのうちご住職様が気づかれて、お茶を運んで来てくれた奥様に厳しく注意するように、とおっしゃいました。奥様は私に謝って下さり、リンゴや蜜柑を下さったのですけれど、私は不満でした。別にキャラメルが食べたかったのでなく、あの最初から籠に入っていた物と、後から頂いた物は種類というより経緯が違う、まだ幼稚園にも行っていなかった私が、こういう筋が通らない事にこだわったのだと思います。品物の種類や金額でお茶を濁す事ではないのではないか、厄介な子供ですね。今もその性格は多分変わっていないでしょう。当時の写真と、今の自分の目が同じだから、なのです。

3月22日、観客

ウイルスの影響で観客なしでのスポーツの試合が行われるなどという事は今までにありませんでしたね。大相撲もそうです。久しぶりにテレビで観たのですが、人の声がよく響き、ガラーンとしているのに驚きました。今まで私は観客を見ていたのだろうかと思うほどで拍子抜けしたのですけれど、見ているうちに力士以外、行司とか呼び出しの人達の所作や動きの流れ、それに装束などに目が行くのも悪くない、と感じました。取り組みをその場で見ているような臨場感、それに弓取り式もゆっくり見る事が出来て懐かしくなりました。最近はこのように映す事が減ったように思っていましたから。相撲はスポーツで、観客が少ないと収益が上がらないので、というだけではない精神のようなものがあると感じました。神事、という人達が言いたいのはそういう事なのかも知れないという気がしています。土俵を作るのにも、怪我の無いようにという思いが込められているでしょうし、神への畏敬の念、祈りなど、形として今も残るものもあるのだと、最後まで見ていて思ったのです。意外と簡素なしつらえ、でもいつもは着飾った女性たちも多く、華やいだ雰囲気やどよめきなどで、土俵を一層盛り上げているのかも知れませんね。本来の姿を見せてもらったのも悪くないと思いましたが、このような理由で、と考えると複雑な気持ちになります。スーパーやドラッグストアーで、日用品や食材があまりあれもこれも売れてなくなるという事がないと良いけれど、と気になっています。我が家にはキャットフードなど猫の物もあれこれ必要ですから。納豆やヨーグルトを沢山購入した方達が、賞味期限が切れた頃大量に捨てる事がないように、と納豆やヨーグルトの為にも祈っています。震災後の計画停電中、可燃ごみの収集日にそのようにして捨てられていた多くの菓子パンを思い出すと今も胸が痛みます。

3月17日、スイスレマン湖

レマン湖はスイスモントルーの東端にあり、その静かな湖面はいくらかグレーの混じったブルーです。でもゆっくり走る列車の車窓からの風景は少しずつ変わり、はっきりした濃い水色に見えたかと思えばスカイブルーになり、周辺のスミレ色の山に溶け込んで行くような薄紫色に変わって行きます。久しぶりのスイスへの旅を楽しませてくれたテレビ番組でした。私はしばし新型肺炎を忘れたかったのでしょうね。不要不急の外出、その時間と、そこに身を置く事が人間の気持ちを和ませ、ストレス解消に役に立っているのだという事をしみじみ感じている毎日なのですから。

3月11日、本当に不足しているのは

東日本大震災から9年ですね。ご家族を亡くされた方、未だに行方が分からない方にとって、震災は決して過ぎた出来事ではないと思います。失われた命だけは取り戻すことが出来ないという残酷な現実を、今年も他人事とは思えず感じています。ところで、今年のこの時期はウイルスの感染拡大を防ぐために今学校が休校となっているという、事多い3月という気がしています。休校の決定が伝えられた頃からスーパーに異変が起き始めました。トイレットペーパーやティッシュ、免疫力アップと書かれたヨーグルトの一部や納豆などの棚がガラガラになっています。どうやら日本だけではないようですね。米不足になると言えば売り惜しんで高く売ろうとしたり、かつては原油の値上がりで紙類が不足するという噂でトイレットペーパーが一斉に買われ、店頭から消えた、という事もありました。店内のこの有様は私には奇異に感じられますから、買いません。手洗いや、特に室内に大勢の人が集まるような所に行かない、などは大切な事だと思いますが、不確かな情報に振り回されないようにしたいと思っています。ですが、必ずしも自分が罹患しないという保証もなく、やはり怖いとは思います。お腹の具合が良くないので先月検査を受け、結果を聞くために病院に行きました。本当は今病院に行くのは不安でしたけれど、行ってみると予約をした患者さん達が少し他の人と席を開けて座っており、全員がマスクを着けていました。静かにスムーズに診察を受ける事が出来て、調剤薬局で薬を頂いて帰りました。薬局は時間がかかりましたが、その場で待っている人が少ないので普段と変わらないと感じて、ひとまずホッとしました。けれど、ともかくも病院に行って来たのですから、二週間程はあまり人と接しないように、マスクを着け、向き合って話さないようにしようと思っています。中高校生にとっては友人との時間がとても大切だと思います。一緒にどこかに出かけたり食事をしたりしたい、お喋りもしたいでしょうけれど、命にかかわる感染症の終息の為に、時間をどう使うか今までと違った視点から考えて賢明に行動して欲しいものです。かつてなかった事が起きている世の中でどう生きて行くのか、本当に重い問題です。未知の病気と闘っていると言える今、このような事態を利用した詐欺も起こりやすいのでしょう。ウイルスに嘲笑われる人間になりたくありませんね。どのような医療や技術の進歩も、過去の尊い犠牲の上に努力が積み重ねられて成り立っているので、今ある優れたものを享受出来る事が決して当たり前ではなく、感謝して何とか無事に暮らして行きたいものだと思っています。皆様もどうぞお気をつけくださいませ。

3月6日、三日月

朝晩の気温が低い日もあり、そういう晩は星が瞬いていますから明日の朝は寒いのだろうと気が重くなります。風の強い日も多いですしカラッと晴れる日の少ない冬でした。雨はお湿り、湿度が上がって気温も上がってきたらこの未知のウイルスも少しは不活発になるのだろうか、などと神頼みのような思いで日々暮らしています。去年の台風15号、いえ、その前の東日本大震災から想像もつかない事が起きていますね。どう対応したらベストなのか、災難が降りかかって来てから半信半疑のまま考え、手探りで越えて行かなければならない険しい道、という風に感じます。綺麗な空に三日月を見るとピンと張った鋭い刃物のように見えて、令和は前途多難だなと思ってしまいます。前向きというのは言うは易し行うは難し、の今の自分が鏡に映し出されたような、晩でした。

3月1日、スポーツ

二．二六事件から84年後の2月は、協力し合って未知のウイルスに立ち向かわなければならない、という波乱の月になってしまいましたね。落ち着いてしっかりしなければ身を守れないと思っていますが、翻弄されているとも感じ、心が揺れています。ところで、スポーツは一定のルールに従って試合が行われます。チームで行うスポーツは、練習し仲間と協力して試合をしますが、試合が終わったら相手チームの選手達とも交流し、決していがみ合っているわけではありません。困った時にはごく自然に助け合える仲間と感じます。そのスポーツのルールを守って、互いの国が大きくても小さくても平等に対等に扱うから、という事が一つの要因ではないかと思うのです。一方、生きる支えになる心のよりどころでもあると思える宗教は、自分の信仰していない他の宗教と争う事も少なくありません。甲乙つける事は本来出来ないものだと思うのですが。信仰よりスポーツの方が平和だなあ、と思ってしまいました。人間は緊急事態であっても立場によって素直に助け合えないらしいと感じる事が多いですね。肺炎回復の薬の完成が待ち遠しいのと共に、今の利害だけではなく、地球と人間の未来を大切にしたいものだと感じています。

2月25日、スーパーで

新型肺炎から身を守るといってもなかなか難しいですね。相変わらず店頭にマスクは全くありません。スーパーで、例えば丸ごと一個のキャベツが安い時、買う前に持ってみる事は普段なら当たり前に大抵の人がしていますが、今は商品に触れる事にもためらいを感じます。朝あるスーパーに行った時、八百物の売り場の入口から入ったらかすかにハイターのにおいがしました。除菌に気を付けているのが分かり、食材を売る接客という仕事の苦労が垣間見え、感謝したいと思いました。互いの安全の為と言ってしまえばそうかもしれませんが、私には人間のそのような所に一筋の光明が見えたような気がするのです。お互いに無事でいたいものです。

2月25日、疑心暗鬼五里霧中

新型肺炎の感染者が少しずつ増えているというニュースに、この病気が自分の近くに忍び寄って来たように感じ、不安が大きくなっています。千葉県で感染者が確認された、症状の出る前は公共交通機関を利用していた、と言われても、それはJRなのか私鉄なのか、どの路線なのか全く分かりませんから不安が募ります。勿論個人のプライバシーを守る事は大切ですし、憶測や誹謗中傷はいけないと思うので、どこまで言うべきかはとても難しいですね。特効薬がまだないのですから、五里霧中で、だから疑心暗鬼になるのでしょう。人混みになるべく行かないというより家から外に出ない方が良い、でもそれでは生活出来ません。外には人の好奇心を満たすものがありますし、人間は他者とかかわらずに生きていけません。承認欲求というものも持っています。不安をどの程度感じているかという事も、人によって違うと思います。花粉が大量に飛散する時期になったけれどマスクはなかなか出回りません。風邪もインフルエンザも新型肺炎も花粉症も、似たような症状から始まるから困ったものです。満員電車に長時間乗らなければ通勤出来ない人は多いでしょうし、学校も入試の季節、今までの考え方ややり方、速度ではいけなくなっている事の象徴のような気がしています。積み重ねから導き出す事と発想を転換して柔軟に動く事の両方が早急に求められる時代になった事を強く感じます。三人寄れば文殊の知恵と言いますが、心配する事なく、三人で集まれるようになりたいですね。

2月21日、自然界と人間界

新型肺炎のニュースが夢だったら良いだろうなどと思いますが、夢どころか日に日に感染者が増えていますね。近くのどのスーパーにもマスクはなく、手洗い用の洗剤のような物も普段ほどはありません。それにしても、この肺炎は一体いつから始まっていたのでしょうか。人から人に感染していたから武漢で感染者が増え始めていたのではないか、野生動物が感染源だとしたら、市場で売っている人達が一番先に発症したのだろうか、など分からない事ばかりです。野生動物は菌を持っていても生きていられるのかという事も私には分かりませんが、もしかしたら自然界が汚染されているのだろうかなどと考えてしまいました。

2月15日、尋常と異常

寒中とは思えない暖かい日を不気味に感じていましたら、立春後を過ぎて－3℃以下の朝を迎えました。晴れの日も続きません。日によっては南関東でみぞれが降り、同じ日に大阪では20℃近くまで気温が上がってタンポポが咲き始めた、というニュースに、今年この先はどのような気候になるのかと唖然としてしまいます。去年秋の台風被害からまだ完全に回復してはいないのです。君津だけの事ですが、屋根にブルーシートがかかっている家が一軒もない地区などありません。気温に戸惑って暮らしている最中に時々地震が起きます。そのような21世紀に生きているという覚悟が必要なのですね。今度は新型肺炎です。戦々恐々としていると言っては言い過ぎでしょうか。この病気の全貌が分からないので、日に日に感染者や亡くなった方の数が増えているそのニュースの数字がどうしても気になります。今はどこの国でも鎖国をしているわけではなく、人や物の行き来も活発ですし、それで成り立っているともいえると思いますから、あっという間にこのような事になってしまったのかも知れません。高校生の頃読んだ、カミュのペストという小説を思い出すと慄然とします。何とか終息に向かって欲しいですし、特効薬が出来たら、とも思います。大正時代に大流行し、5000万人もの方が亡くなったスペイン風邪は、今でいうインフルエンザA型であったそうですから、薬が出来る為には研究があり、未知の病気とそれによる尊い犠牲の上に成り立っていて、私達はその結果得られたもののお陰で生きているという事なのですね。

2月9日、あなたの手に

テレビを見ていたら、外国人が日本にどういう目的で来日したのか、日本をどのように思ったか、などを聞く番組がいくつもありました。オリンピックが近づいているからなのでしょう。その中で、日本の大学院で学んでいる女性が、エジプトからお母さんを呼んで、一緒に都内のあちこちを訪ねる、というものがありました。風俗も習慣も違う遠い国には驚く事が一杯、という様子が見ているこちらにも伝わって来ました。この番組の中では、ハラルを考えてのメニューの店があったり、食事の説明に板前さんが外国語を使う店などもありました。こまやかな心遣いもおもてなしの一つだと思います。さて、エジプトからやってきたお母さんは、寿司を食べた後で、あなたの手に感謝します、こう言いました。イスラム教を信仰する人達は、出された食事が美味しかった時、こう言うのでしょうか。言葉も民族も宗教も異なるという垣根を越えて、人間は同じなのだと感じた瞬間でした。四国のかなり山の奥の地域の不思議な光景といいますか、風景も紹介されました。住む人が非常に少ない今、70代の女性が新聞紙を材料にして、とてもリアルな案山子を作っているのです。十数年の間に何百体もの案山子を作り、その案山子は、景色に溶け込んで今にも話しかけて来そうなのですから、驚きました。かつてどこの農村でも見慣れたような服装、様々な年齢の案山子の人々、バスを待っていたり、農作業をしていたりなのですが、勿論実際に動いてはいないというこの不思議な有様、人の多いのどかだけれど賑やかな暮らしを垣間見たようであり、もう戻れない、変貌した故郷の景色に感じるもの悲しさ、だからこその思い出が一杯詰まった自分のルーツへの懐かしさや愛しさのようなものを感じました。お陰様で癒され、殺伐としたニュースの多い世の中でも、気を取り直して自他に優しくありたいと、改めて思わせてくれた番組でした。

2月3日、豆

昨年11月に、ほんの少ししか栽培していない里芋を漸く掘りました。里芋の茎のずいきの酢味噌和えは、里芋の収穫シーズンの食べ物です。かわを剝いて干した芋がらもこの時に作ります。赤茶色の茎だけを使い、緑色のものは食べません。以前にもお話ししましたが、家では落花生を栽培していました。晩秋に落花生の木を抜き、鉄棒のような物を竹で作り、そこに実の点いた落花生の木を干し､乾燥させて、殻のついた実をもぎとります｡その殻を手で割り、中から実を取り出すという大変手間のかかる作業で埃だらけになるので、手伝わせて貰えなかったけれど、落花生を畑から抜き取った後の匂いはよく覚えています。JAの店の辺りの道を歩いていると、掘ったばかりの落花生の匂いがします。近くの畑で栽培している人がいるのでしょう。豆というと落花生ですね。煎っても美味しいしお正月には黒豆のように煮ると美味しくて後を引きます。今は時期外れですが、育ち過ぎてサヤが硬くなったサヤインゲンは、豆をサヤから出してその豆だけ煮ると小豆色でホクホクしてこれも美味しいです。今日は節分ですし、冬はきな粉も活躍しますから当分大豆の季節ですね。

1月27日、北の焼き物

他の地域を訪れる機会は度々ありませんので、旅先での人や物との出会いは大切な思い出になりますね。私は食べ物以外には、その土地の焼き物や織物を見るのが好きです。高価な物から素朴な普段使いの物まで皆素晴らしく、いつまで見ていても飽きません。北海道の焼き物もその一つです。広い所ですので、色々な地域に特徴のある窯元があり、訪ねてみたくなります。ですが、とても出来ないので集められ紹介されている作品からあれこれ想像するしかありません。作品は雄弁であり、物静かで謙虚でもあります。不思議な見え方をする事に気付き、見る人によって、その時の気持ちによって見え方が違うとか、聞こえ方が違うのはどのような芸術にも言える共通点なのだろうなあと思いました。どちらかというと普段使いできる焼き物が好きで、湯飲みやマグカップなどをいくつか買いました。価格がいくらなのかも大事でしたが、我が家に来てくれた縁のようなものを感じます。使いやすさを考え、作り手の内なる自己を表し、堅実にコツコツ作っている、そして思い描く作り手の夢をも含んだ、深くとても大きいもの、という気がします。どんな歴史がその焼き物にあるのか、壮大な宇宙にまで想像の広がる、物言わぬそして雄弁な、青や黒、白、緑の湯呑は、我が家の戸棚の中で今夜もゆっくりと眠りに就くのでしょう。いえ、もしかしたらいつも起きて人間の事を見ているのかも知れません。

1月20日、心太

ところてんを食べました。材料は天草ですから寒天と同じ、と言われても味は随分違います。このところてんは、磯の香りがして寒天より心持ち硬く引き締まった冷たさを感じました。磯の香が好みではない人にとっては寒天の方が良いかも知れませんが、私には昔懐かしいところてんに久しぶりに出会えた、心太という漢字を書くのだという事がピッタリする味、と感じた朝でした。感情と感覚、思考の循環が良くなったようですから何かひらめくと良いのですが、果たしてどんな一日になるのでしょうか。

1月13日、テレビで見た弓取り式

大相撲5月場所千秋楽の国技館にトランプ大統領が訪れましたね。升席に椅子というのは初めて見る光景でした。大相撲中継は小さい頃よく見たものですが、蔵前国技館の時代でした。でもいつの間にかほとんど見なくなりました。忙しい時間だからというのが主な理由です。どういうわけか分かりませんが弓取り式が好きで、弓取り式を見ないと相撲を見た気がしなかったのです。面白いとか珍しいとかいうのではなく、背筋を伸ばして見入っていたのはどうしてだったのでしょう。あの小さな箱の中の白黒の映像からもらった夢や希望、癒しはとても大きなもので、目を輝かせてテレビを見ていたあの頃を、久々に懐かしく思い出しました。

1月6日、二か所の冬景色から

宗谷本線の駅、抜海という所が紹介されていた番組を見たのは、冬の景色が映し出されたからです。暑い季節に見たら雪景色はさぞ涼しそうに見えるでしょうね。濃い灰色の空の彼方からうっすらと届く太陽の光、照らされているのは、カチカチに凍った雪と木造の駅舎です。真っ白い雪の外側が透明な氷で覆われているかのように輝いて見え、硬い葛饅頭のような透明感が全体から感じられて、まるで一枚の水彩画のような美しさでした。懐かしさを感じるのは、今この瞬間の景色は映ろうものだから名残り惜しくて、なのかも知れません。その後、スェーデンの南にあるまちを紹介する番組を見たのですが、日本のはるか北にあるバルト海の濃い青にはエネルギーが満ち、その中を船は滑るように進んで行きます。古い石造りの建物は重厚感があり、歴史を感じさせます。この海の色とこのまちの今を描くなら油絵がピッタリと感じ、こんな風に対比してみる事も面白いものだと思いました。地球の景色の共通点と相違点は、地域の気候や風土によるものでしょうし、それは刻まれてきた歴史や人間にも言える事なのでは、と思います。様々な価値観を持つ地球の国々の人間同士の共通点を縮小せず、大切に慈しみ合って共存して行きたいと思うのですが、それは難しい事なのでしょうか。何かというと自分の物差しと少しでも違うものを排除する、という方向に世界中が向かっている世の中であるような気がしています。

1月2日、初氷

おはようございます。今朝は雪が降ったように庭が霜で真っ白、猫に供えた水に初氷です。今年はどの地区にも、電車の車窓からも、ブルーシートが掛かっている屋根がある千葉県南部､まるで大怪我をしたまま年を越した人のような傷つき方です。同じ事ばかりですが、どうか恙なく過ごせますように。今年もよろしくお願い致します。

12月31日、あっちゃん

先日叔母が亡くなりました。叔母さんなどと呼んだことは一度もなく、名前から、あっちゃんと呼んでおりました。母の従姉妹で、結婚するまで我が家でずっと一緒に暮らしていたので、私が物心ついた時から当たり前に家にいた、年の離れた姉妹のような存在でした。私の大叔母は戦争中に夫が病死し空襲にもあって、大叔母と三人の子供達は戦後は祖母の嫁ぎ先である我が家で、子供達が就職や結婚で独立するまで一緒に暮らしていた、ということでしたので、今年1月に叔母の上の兄が亡くなった時にも私にとって悲しみと喪失感は大きいものだったのです。まさか1年に二人見送る事になるとは思いませんでした。叔母は私の母を姉のように慕い、母が亡くなってからも私の事を気にかけて色々と手伝ってくれ、ずっと行き来が続いておりました。兼業主婦で、退職後は家族の世話が生きがいだったのだと思います。子育て孫育てにまるで没頭しているよう、それが叔母の幸せだったのでしょう。嚥下が難しくなり、肺炎を起こすようになって体力が保たなかったのかも知れません。ですが、誰にとっても訃報は突然でした。このところ、私は夜中に目が覚めると眠れなくなっています。夜中というのは明かりを点けなければ真っ暗です。何の音も聞こえなければ、今日にいるのか、翌日にいる事になるのか分かりません。叔母は昨日から今日に時間が静かに進んで行くように、幽明の境を超えて行ったのだろうか、と思い、様々な思い出が次から次に浮かんでは消え浮かんでは消えします。まるで遠ざかって行く叔母のひそやかな足音のようです。老いて旅立って逝く事は私の行く道でもあります。生きてやがてこの世を去るという厳粛な移行というものを、身を以て示してくれた人、とも思います。皆悲しんでいますし、家族にとってもそうでしょうが、私にとって叔母は余人をもって代え難い人でありました。まだとても現実に気持ちがついて行けませんが、静かに冥福を祈りたいと思います。喪失の悲しみは徐々に深くなり、なかなか癒える事のない傷のようなものだとしみじみ思っています。喪失の悲しみは徐々に深くなり、なかなか癒える事のない傷のようなものだとしみじみ思っています。丁度白い紙の束にマッチを擦ってぽとっと落した時のようです。

12月24日、チクッと

あっという間に年賀状の季節になりました。今年は冷夏かと思っているうちに酷暑となり、9月と10月の台風、集中豪雨に呆然としているうちに一年が終わる、こんなことは初めてで来る年が思いやられます。皮膚科で背中の手術を受けた事も私にとっては大きなことでした。手術後すぐに帰宅出来る手術で、徐々に回復していますが、最初は時々チクッとする事があり、去年目の手術を受けた翌日に真横を見た時、やはりチクッとした事を思い出しました。ですが、この時の感覚は、丁度コサージュが入っている透明な入れ物のような物ごし、という風に感じたのです。直に触ったのではなく、ワンクッション置いたチクッとだったのです。でも今回は直に触ったような感覚でした。勿論触ったわけではありませんけれど、直接的と間接的のようなこの違いに驚きました。痛い、というときの痛みは本人にしか分からない場合がある、と改めて気付かされました。ですから、傾聴している時に相手の方の話を、簡単によく分かるという相槌は打てない事と同じなのだと思いました。自分の心の中の感情を言葉にして伝えるのはそう簡単な事ではありません。気付く事も伝える事も勇気がいる事ですし心のひだまで理解してもらえるように的確な言葉で伝えるのも決して簡単ではないですね。気付くことの多い日々です。

12月21日、自分の後ろ姿

先日手術を受けました。入院が必要な手術ではなく短時間だったのですが、やはり切るという事は大変な事なのですね。うつ伏せになっていて手足に力を入れてしまっていたようで、指先が冷たくなり一瞬不安になりましたし、見ていたくはないけれど見えない場所を切るというのも分からない事ばかりのように感じました。勿論検査や丁寧な説明をして下さったのですけれども。帰り道も家に帰ってからもどっと疲れが出ました。足が重く、何も考えられない、気持ちが落ち込み地に引き込まれそう、そういう風でした。段々良くなって普段通りになったのは一日か二日経ってからでした。お陰様で順調に回復していて、毎日消毒に通っています。普段と違う時間に普段と違う場所を歩いて病院に行くと、見えている景色も思う事もいつもと違って、それも悪くないなと思っています。自分がどのように生きているかを考えた時に決して出来ないのが、自分の後ろ姿を見る事です。それは、手術中でも自分の背中を見る事が出来ないのと同じです。この辺でもう一度、自分の後ろ姿を見る事は出来ないという事を再認識して生きて行くように、まるで誰かがこの手術を通して助言してくれたような気がします。

12月17日、ビリジアン

始めて絵の具を使ったのは小学校一年生の時でした。それまではクレヨンや色鉛筆を使っていました。まず、ビリジアンという色がとても綺麗だと思いました。緑系ですが、見慣れた緑色とはちょっと違います。引き込まれるようにと言いますか吸い込まれるようにと言いますか、とにかく不思議な魅力を持つ味わい深い趣のある色でした。ビリジアンは他の色と混ぜると色々な色が出来る色だからでしょうか。名前の響きも良い印象で、今の時代の言い方をすればお気に入りでした。なんの初めても歳月を経ると感動を忘れ、ありふれた現実になりがちですね。幾つもあるもう一度立ち返りたい初めてを数え始めるきっかけを作ってくれたビリジアンです。

12月12日、二人の女性

先日、国連難民高等弁務官であった緒方貞子さんが亡くなり、大きく取り上げられましたね。緒方さんの功績を聞きながら、私は先に亡くなったもう一人の女性の事が重なって来ました。学校の教科書に、花々と星々と、という文章が乗っており、執筆者は犬養道子さんでした。五.一五事件で暗殺された犬養毅首相のお孫さんで、戦後の昭和23年にアメリカに留学をした犬養さんに、あるアメリカ人の女性が、ここボストンのアメリカ人を見て、これがアメリカだとかアメリカ人だとか思わないで下さいね、と言った、という一文に惹かれました。比較的裕福な人達は心にゆとりがある、他者に対して優しく出来る、そのような側面があるけれど、そのような環境にいないアメリカ人もいる、アメリカには何の問題もなく、皆満足して仲良く暮らし、世界に開かれているというわけではない、というような事を言いたかったのではないかと思うのです。このアメリカ人女性の言葉を伝えてくれた事が心に残り、それから犬養さんの本を随分読みました。犬養さんの伯母様のお孫さんが緒方貞子さんだったのですね。犬養さんも緒方さんも広い視野と世界や地球の現在と将来を見ていたのだろうと思います。犬養さんも二年前に亡くなられ、時代が絶え間なく動いている事を感じ、ふと心もとないような思いになりました。

12月7日、思いを巡らす

茎茶は値が張らないし香りも良く美味しいです。ですが、飲み続けていると物足りない気がして来ました。複雑な味や香りの奥行がなく、飲み終わった後の満足感が今一つ、茎茶には申し訳ないけれどそう感じました。丁度鮭の中骨の水煮の缶詰に、骨だけしか入っていなかったら物足りないだろうというようなものです。あの缶詰の骨には身も付いていますよね。年末が近づいて来ると、スーパーにも海苔が目に付くようになります。この海苔も、青のりが混ざっているものの方がいくらか値段が安いし香りが良いという人も結構多い、と聞いた事がありますが、青のりの香りと黒い海苔の香りは違うもの、私にはそう感じられます。勿論安くて美味しいものが一番好きですけれど、昔の東京湾の海苔は柔らかく、早春に生海苔を口に入れると溶けてしまいそうだった、決してもうどこにも売っていないあの味が懐かしくなります。今年もカレンダーが後一枚となって、あれこれ浮かんで来て鼻や舌で感じる微妙な香りや味の違いに思いを巡らせています。ヨハネパウロ二世、マザーテレサもかつて来日なさいましたが、今度はフランシスコ法王が来日なさって、互いにどのような思いを抱きどんな記憶となって行くのでしょうか。特に何の宗教を信仰しているわけでもないのですが、宗教というものはきっと人の心を和ませたり自分の事を省みるよすがになるものなのかも知れませんね。私は、ダイアナ妃はマザーテレサに出会うために生まれて来たのだろうか、と、ダイアナ妃の歩いて来た道を思った事がありました。その時は、あのように若くして亡くなるとは想像もつきませんでした。

12月1日、河岸段丘との再会

川の中流域や下流域に階段状になって発達した地形が河岸段丘ですよね。ある日テレビを見ていたら、群馬県沼田市は関東地方の中でリンゴが沢山栽培されている地域だと紹介されていました。河岸段丘という言葉は、この沼田市を紹介する映像の中で、映し出された美しい町並みがこのような地形に出来て発展したとのナレーションの中で使われ、引っ掛かりました。小学生の時に習った言葉だった、と幾十年ぶりかで思い出したのでした。古い事やあまり使わない事は忘れてしまったとばかり思っていましたが、頭の中に残っているものなのですね。記憶という、記録されたものがどのように脳に残って行くものなのか、そのメカニズムは私にはよく分からないので、興味が尽きません。覚えていた事、思い出せた事どちらもが嬉しい、河岸段丘との再会です。

11月26日、教訓ですね

どういう訳か、毎年七五三の時季になると祖父母や母の言葉を思い出します。まるで引き出しから古い思い出の着物でも取り出すようなものかも知れないですね。人も物事もどの側面に焦点を当てて見るかによって見え方が違う、だから一面だけですべて見えたように思いこんで判断するのは良くない、祖父はそう言い、たとえ押し売りのような人でも、家に帰れば一家の主なのだから毅然として断る事が大切だからと言って、あまり失礼な言い方をしたりそういう態度を取るものではない、と祖母は言いました。どんな悲しい事でも過ぎてしまえば日にち薬で少しずつ悲しみが薄らぎ、生きて行けるものだ、どんな思い出も時間がたつと懐かしく感じる、けれどもそれは浄化されるからで、過去の時代の出来事がすべて良い事だったわけではないという事を心に留めておきなさい、いつも時代が動く時は若者の血が流されるのが辛い、母はそう言いました。何度も言うようですがとても大切な事を教えてくれたのだと思っています。

11月21日、晩秋にしては

11月は紅葉の季節、もう晩秋ですが、この辺りではまだ日中暖かい日が多いように思います。なかなか秋が深まらないから台風や大雨があちこちで起きたのでしょうね。それでも、玉ねぎの苗を植え始め、猫を予防接種に連れて行き、と去年とほぼ同じ事が出来るようになりました。今年は特に、普通が決して当たり前ではないのだと思うとありがたみもひとしおです。まだ花を咲かせているカンナを眺め、咲き始めた菊、束の間の金木犀の香りの中で、災害で大勢の方の命が失われた事を思うと言いようのない気持ちになります。

11月16日、心遣い

子供の頃、母は夕方暗くなってからお客様がお帰りになる時にはすぐに外灯を消してはいけない、室内ですぐに何人かで笑ってはいけない、お客様が自分の事を笑っていると思うととても失礼だから、と言っていたものです。電話も切り方に気を付けるようにと教えてくれました。こういう事は幾つになっても覚えているものですね。あの頃、我が家は茅葺屋根で竹釘を使った、江戸時代に建てられたものでした。家の外灯はお月さまのように真ん丸で、その下に曽祖父の名前の古い表札がありました。自分の舅姑よりも先に亡くなった、顔も知らない曽祖父が外灯と一緒に子孫を見守っていてくれたのでしょう。ほのぼのとするような温かい思い出です。台風の猛威に気持ちが疲れているせいで、心が元気に日常に戻れるようにこんな事を思い出したのでしょうか。何処でも、どのような時でも、誰もが再生復活を願う気持ちが心の奥にあって、それが人間の生きて行く原動力になる事を信じたいと思います。助け合って行きたいものですね。

11月10日、フクロウ

10月25日の集中豪雨の翌日でした。外は暗く静かでいつもと同じ、普段に戻れた、と思っていたら裏山の辺りでフクロウの鳴く声がしました。多分一羽なのでしょうけれど、何百年も前の山奥の村にいる忍者の修行に明け暮れている人間になったような不思議な感覚になりました。静寂も良いものですね。便利さと静寂は対極にあるようにも思いますが、深く考えたり物事を味わう事が出来るのは静寂があってこそだと思います。静かにゆっくりという事が、地球の中で動植物とこの先長く共存して行くためにとても大切なポイントではないかと感じました。

11月4日、火の玉のような線状降水帯

10月25日は朝8時過ぎから不安を感じる程の雨音で、千葉県に線状降水帯がかかりました。特にお昼過ぎのものは、まるで絵に描いた火の玉のような大きな円状で、長さも非常に長い、このような気象庁の雨雲の推移予想図を見て、今までに見た事のないその大きさに､途方もない事態に直面していると感じました。真っ暗になって景色は見えず白い雨に煙っている、以前なら集中豪雨と言いましたね。不安な天候の多い今年の秋はロシアンルーレットさながらです。3時半頃､漸く静かになり明るくなってきました。息を詰めていた者も愁眉を開く､というのはこんな場合をいうのでしょうか。暴風の次は大雨ですか、と天に嘆きたくなります。それでも、金木犀は咲き､日ごとに柿の葉脈が絹糸のように染め分けられて今年も季節は進んで行きます。暖かいので炬燵がなかなか出せず、猫が所在なげに見えますが、暴風や大雨をもう心配しなくて良いのかどうか分からないと思うと、炬燵でくつろいでいて大丈夫なのか油断は出来ないと思っているのが、炬燵を出さない一番の理由かも知れません。

10月30日、時代の不思議

10月22日の即位の礼正殿の儀はテレビでも放映されました。平成の時にも詳しく報道されたので儀式や装束についてなど、今回の説明を聞かなくてもよく覚えています。このような事に遭遇する事はもうこの先ないだろうと思っていたのですが、この度は平成の陛下が譲位なさったので予定も立てやすかったのでは、と思いますし、お元気でいらっしゃるので悲しみを伴う事がなく、おめでたいという事のみだったのではないかとも思います。令和がどのような時代であって欲しいかという希望を話す人は多いですが、大きな災害の爪痕の生々しい中での船出という事になりますね。水を治める者は国を治めるという言葉を思い出すほど、日本は平原ではなく、昔から水害に苦るしみ、様々な対応を積み重ね、努力して来たという事なのだと、改めて思いました。ところで、皇室の方々は政治にかかわる事はなく、政治的な発言もなさらないのは私達皆がよく知っています。どのような世の中になって行くのかは、政治や経済の政策や他国との外交等によってもたらされる結果に大きく左右されます。けれど、では時代を作っているのは選挙で議員を選ぶのは国民なのだから、それは一人ひとりの人間が時代を作っている、だから容易に時代が動くかというと、やはりそうではないようにも思います。テレビに映し出されている皇居近くの沿道の沢山の人達の姿から、動かしているのか動かされているのか、時代というものの巨大な重い歯車の片鱗が垣間見えたような不思議な10月22日でした。

10月23日、台風の痕

台風の爪痕、というにはまだあまりにも生々しく、被害の見えて来ない部分もある状態の台風19号です。元の暮らしに戻れるまでは終わってはいないと感じます。便利にと思って一生懸命開発されてきたものの中には、自然の猛威の前ではまた作り直さなければならないものが多く、残ったものは今では不便さや時間がかかると思えるもの、骨格の部分という気がします。まるで色とりどりのマーブルチョコレートのコーティングが剥げてしまったかのような。何年か前NHKでスパコンの予測で、東京に大きな台風が来た場合の水害についてシミュレーションが放映されたのを見た記憶があります。あれは将来､という話でしたが、こんなに早く起きてしまった事に言いようのない気持ちです。人間は助け合い補い合って、という事は不可欠なのですね。でも、今更不便な生活に戻る事は困難です。自然と共にゆっくり歩いて行くような暮らしでなく、あまりにも速く便利な世の中にしたように思え、誰が悪いというわけでもないけれどもう一刻の猶予もない所まで来ているのだと感じます。海水温も上空の大気の流れも、気圧配置も結局私達がこれほどまで変えてしまったのかと思うと、今は、立ちすくんでしまうような気持ちになっています。例えば、安全な飛行機も、ハザードマップも皆、過去の尊い犠牲からそれを繰り返さないように作られ改良されてきたものなのだという事を改めて重く受け止めたいと思います。

10月23日、台風19号

台風19号はこの前の台風より大きく、想像もつかないような強風と聞く度に不安でしたけれど、何とか被害もなく朝を迎える事が出来ました｡命拾いしたと思って感謝してこれから暮らして行きたいですが､喉元過ぎれば、とならないように出来るでしょうか｡午後2時過ぎから夜10時頃までがひどい風で、10時を過ぎたら暴れていた虎が赤ん坊の時育ててくれた人間に再会したように穏やかになって驚きました｡ここは川から遠く、裏にいくらか山はありますが、万一の時は母屋より山から離れている別棟に避難出来ます。風は15号の方が強かったように感じました。まるで空中の強風のトンネルの中に入れられているようで、とても地に足がついてはいない、そんな風でした。あの時は北側の瓦が浮いたり割れたりしました家が多かったですから。それでも、12日は家がバラバラになるのか、12日が命日になるのかなとも思いました。そう思ったら覚悟が決まってしまいました。55年前、10月10日は東京オリンピックの開会式でしたから、今頃は大多数の人がテレビで競技を観戦していたのだろうと思います。その時、10月にこのような大きな台風が日本に来る事を誰が想像したでしょうか。温暖化が二酸化炭素を吸収する海の温度を下がりにくくし、上空の大気の流れを変えてしまっているのですから、なるべく二酸化炭素を出さないように継続して行く事をしてなければもっと生きにくくなってしまうと深刻に考えています。

10月15日、心残りの

何年か前に亡くなった友人の夢を見ました。彼女は元気で他の友人や歩いている人達と一緒にいます。私はどうやらどこかで勉強しているらしいのです。彼女が、バラが咲いたら見に行こうというのですが、それはまだ先の事という季節らしいので、その頃この人はもうこの世にいないかも知れないのだからどのように返事をしようかと思った私は、物が言えなくなった、もう一人の友人の顔を見たら彼女は菊の柄の和服で、にこにこしていました。それでとても複雑な気持ちになった、という夢でしたけれど、あまりにもリアルでその日は夢ではなく現実だったのでは、と思いました。珍しい事です。言わなかった事や言えなかった事、出来なかった事やしなかった事は、心残りの出来事として、深く心に残りますね。いつの間にか忘れ、日常生活に戻って行ったようでも、感情は心に折りたたまれたまま入っていて、何年、あるいは何十年経っても時々クローズアップされてきます。思い出すタイミングと言いますかきっかけがあるのだと思います。なるべく後悔する事が少ないようにしたいものです。時間は巻き戻せないのですから。

10月10日、秋への道へ

10月になるとラジオやテレビの語学講座が新しいシリーズになります。幾つか聞いているのですが、試しにもっと色々聞こうと思い、テレビの講座も見る事にしました。もっとも、11月になったらその中でもっと絞って、という事になると思います。あまり色々な音が耳に入って来ると、どれがどこの国の言葉の動詞の活用なのか混ざってしまい、困った事もあります。別にどこかに旅するとか、用事があるとかいうわけでなく、多分好奇心から学んでみたいのだと思います。遠い国に住む人達が話している言葉を少しでも理解出来ればと思うと、ワクワクしながら学べますし、難しいと思った時は、この国に行けば小さな子供達さえ理解し話している言葉なのだと考えて学ぶのを諦めようとは、なかなか思えないのです。趣味のようなものなのかも知れません。テキストを買うので、細く長く止められないささやかな贅沢、と言ったところでしょうか。まだ台風シーズンが終わったわけではありませんし、ブルーシートのかかっている屋根の家が一軒もない地区はないと言っても過言ではありませんから、生々しいとも痛々しいとも感じます。でも、今年の秋もいつもの年と同じようにどんどん深まって行きます。ぼつぼつ金木犀の香りが漂ってくる、というラジオのお便り紹介のコーナーに、湿度は低くなっているけれどそのような季節にしては気温が高い日の多い日中に戸惑いを覚えます。秋なのだという実感が湧き難く、いつまでも小さい秋見つけた、という気持ちで木の実を拾いながら誘われるように山の奥へ奥へと入って行く子供になっているかのような自分、その後ろ姿に漸く気付いたような気持ちです。我が家では台風に対して備えが甘く、無防備だったのでしょうか。備えると言っても家がバラバラになるような強風にどう備えたら良いのか、難しい問題です。そういえば、那覇の中心街では鉄筋コンクリートの家が多いのが目立ちました。ところで、台風19号が近づいて来ると思うと、出来る事は限られているので、気が重くなります。皆様もどうぞ怪我などなさらないようお気を付け下さいませ。

10月5日、風の色

祖母は、秋になると風に実があるなどと言ったものです。朝晩涼しくなって、集くを聞きながらの風はより存在感があり、秋を実感させるものの一つではないかと思います。秋の色やにおいの割合がゆっくり増えて行くなどとは、子供の頃少しも気づきませんでした。いつの間にか涼しい風が吹いて、秋を感じるような時、涼風が立つ、と言いますし、それは男女の間の愛情が覚める事を秋風が立つというのとは、同じではありません。日本語は便利だとも、複雑で難しいものかも知れないとも思います。同じ気温でも、秋は涼しくなったと感じ、春は暖かくなったと感じますから、想像する風の色やにおいもきっと秋と春とでは違うのでしょうね。また、二百十日、二百二十日なども昔の人は随分気にしていました。片陰が出来る、祖母は、夏の午後に家の建物の片側に陰が出来る事をこのように言い、もうすぐ秋になるから縁側で和裁や繕い物が出来る、などと言っていた事も久しぶりに懐かしく思い出しました。災害がどうかこれ以上どこにも起きませんように。

9月30日、ご近所の

ご近所の方が亡くなりました。友人のお母さんなので、私が子供の頃からよく知っている方で顔を合わせる事も多く、叔母さんと呼んでいました。台風の直前にも気候が昔とはすっかり変わってしまったなどと話したばかりでしたので驚きました。病んでいても家で暮らし、ニコニコと笑顔で、寄って行って、と言って下さる、叔母さんと言ってもおばあちゃんだったのだと今改めて思っています。この方も同世代のご近所さんも、よく働いて来て、お元気な方は今もよく働いていらっしゃいます。役割があるのは良い事なのでしょう。台風のさ中でもその前後であっても、人は生まれたり亡くなったりして行くものなのですね。お通夜の晩に拝見したアルバムの中でも叔母さんはニコニコ嬉しそうでした。ご家族との旅行も良い思い出になったのでしょうし、幸せな毎日だったように私には思えました。お年を召して病んでからの方がよりニコニコとして、陽だまりの中にいるような笑顔の方でした。火葬場を出ると、強い菊の香りがしました。そこに生花はなかったので、叔母さんはこれで良いという事はないけれど、ありがとうと言って思い残す事なく旅立って逝かれたのだと思いました。ご冥福をお祈りしたいと思います。

9月26日、故郷は

災害の後の疲労には精神的なものが多分に含まれていると思います。夜が明けて、夢でも見ているのでは、と思う時もありますがすぐに現実に引き戻されます。被害が大きくなかったからでしょうけれど、数日間は修復に必要な物を探しにホームセンターに行く事が出来ませんでした。ホームセンターに行く事は、血の止まっていない自分の傷口を直視するに等しかったからだろうと思います。まるで、強力な接着剤で足が固定されてでもいるかのような、非日常の世界にいると感じます。聞きなれた地名、家族や友人達と訪れた場所、のどかで景色がよく、空気も食べ物も美味しい所、何か所も知っていますが、どこも大きな被害が出ていて、停電している地域、給水所などの地域名として情報が読み上げられ伝えられると、幾十ものガラスの破片が毎日胸に突き刺さってくるようです。深傷を負ったのは人間だけではなく、故郷そのものが、なのだという現実に、何も言えない気持ちでおります。厳しい現実の中ですが、日にち薬というものもある事を信じたいと祈るような思いです。

9月22日、悪質

13日以降何度も固定電話に着信履歴があり、心当たりのない番号でしたのでインターネットで調べてみると、某保険会社の番号でした。我が家はその会社の保険に入っていませんので、転ばぬ先の杖で入りませんかという勧誘なのでしょうか。まだ日常が戻って来ていないこの状況での営業だった可能性があると思うととても嫌な気持ちになりました。自分たちの実績の為に、まるで困っている他人を食い物にしているように思えました。屋根瓦に異常がある家に市役所から点検に来たとか、修理の話をする人達もいるから気を付けるように、という警察からのメールも来ました。このような心配もしなければならないという事は、良心や躾、教育、道徳などと言うものをきれいさっぱりどこかに捨てて来たような人もいるという事でしょう。油断も隙もない、戸締りもなお一層気を付けなくては、そう考えて行動せざるをえないのがなんとも情けない、と感じてしまいました。皆様もお気を付け下さい。でも、これを読む事の出来る方は停電から復旧したという方だけなのですね。

9月17日、これ以上雨や強風がありませんように

我が家は、見えづらかった高めの土手に近い母屋の北側の屋根瓦もかなり浮いています。見なければ良かったと思っています。いつ修理が出来るか分からないのに雨､でも少し落ち着いてきたら、お互いにご近所さんと進み具合が少々違うなどと焦りや苛立ちを感じるようになるのだろうかとも思います。南方向のまちの被害の大きさから思えば、あまり言えないと思って皆今の所辛抱しているのですが。直後より今の方が気持ちが上向かず、ボーッとしてエネルギーが出て来ない毎日、食事が美味しく感じられない、これが災害というものなのでしょうか。先が見えないので動きようがないからでしょうね。ご近所さんと話が出来るのが救い、お互いいくらか連帯感のようなものを感じます。また、情報がいかに必要かという事を痛感しています。大学時代の県外に住む友人が心配していたと言って電話をくれました。励みになります。友達はいつまでも友達、本当に良いものですね。事ある時に表れるというのは、非常時にこそその人の本質が見えるという事だと思います。ラジオなどで、何も出来ないけれど節電節水を心がけながら千葉県の復旧を祈っているというお便りに、心を寄せて共にいてくれるのだと感じ勇気づけられます。災害に強い町にします、などと三～四人が車で賑やかに通って行きました。人の神経を逆なでするだけで何の役にも立ちません。君津はまだ停電断水中の地域があり、非常事態。22日が市会議員選挙の投票日だから選挙運動を始めたので、不快です。今の状況や市民の気持ちとあまりにもかけ離れていますから。市会議員になろうというこの心もとない人達に、自分の家の事でやっとの私達は大きな不安を覚えます。ブルーシートや土嚢袋を買い、ランタンや水用ポリタンクなども注文しました。乾物を買いに行ったら、ラーメンやご飯、乾電池が飛ぶように売れていました。電力のお陰と言うか、電力に命を握られている生活なのだとしみじみ感じます。今はこれから雨が降らないよう風が吹かないよう祈るばかりです。こうなったらラジオの語学の勉強を休まず、自分自身の心理変化をじっくり見て行こうかなあ､負けずに、などと思っています。

9月13日、野分の後の停電

9月9日、台風15号が対岸の三浦半島を通過する前後の午前1時半頃から3時頃までの暴風は並大抵でなく、雨戸を閉めてあるのにガラス戸がもの凄い音を立て、一瞬家がグラッと揺れたような気がしました。そして2時頃停電になりました。それから電気の点かない状態が続く事になったのです。最初は携帯ラジオで、風の音を消すような勢いの外国の歌と音楽を聞いて気を紛らわせ、朝まで少し眠れば何とかなるだろうと楽観していたのですが、朝になってからの鉄塔の倒壊というニュースに、この停電がかなり深刻なものだと感じました。冷蔵庫の中の物が目に浮かび、持ち上がった屋根瓦が気が気ではなく、しかしじっとしているしかありません。固定電話は掛ける事が出来ず掛かってくる事もないですし、スマートフォンの充電状態が残り少なくなって来ると、電源を切っていました。しかも暑いのにエアコンが使えない、また、店は閉まっている状態で、あるもので何とか過ごしました。ガスが使えるので、お鍋でご飯を炊いたり缶詰を利用したりする事が出来ました。ただ、水は普段より大切に使いました。調味料や洗剤などは、使い切ってから買うのは嫌で多めにストックする性分なので今回は助かりました。ホームセンターで買っておいたソーラーライトがまるで一筋の光明のようでした。それから8月に菩提寺で頂いた団扇にも助けられました。こういう中でなぜ不安や焦り、取り残されているのでは、などと感じたかと言いますと、やはりいつまでこの非常事態が続くのかわからない事が一番大きな理由だったと思います。君津市の防災無線は必要な情報を、かなり良く伝えてくれたと思います。ただ、東京の都心の被害が大きくないと、ラジオで台風の被害の情報を伝えてはいるものの、イベントや楽しそうな内容の普段の番組が多いのが、取り残され不安を感じる原因だったように思いました。千葉県君津市の状況は、とか、停電の復旧に時間がかかっている被災地の様子は、などと言うリポーターの声に、ああそうか、ここは被災地なのだ、と一夜にして変わってしまったこの有様に、茫然としてしまいました。ホームページから確認できます、と言われると、思わず停電なんですけれど、と言いたくなってしまいました。でも、こんなに電化製品が家庭になかった昭和39年の東京オリンピック以前には、台風や大風の日は夕方になっても電気の点かない事が度々あり、ランプを点けて入浴したり、カーバイドの明かりで夕飯を食べたりしたものです。暗く静かな昔の夜を思い出し、綺麗な月を眺めていて、飛ぶように過ぎ去った歳月と世の中の激しい変わりよう、そして自分の年齢を思いました。困るので早く復旧して欲しいけれど昔に戻っただけではないか、そんな風に感じて慌てふためいてオロオロしている自分を、今という場所にしっかりピンで留めたというか、文鎮を上に乗せたかのような状態になれて落ち着きました。我が家のある地区の停電は9月 11日の朝には解消しておりました。不眠不休での復旧作業をしてくれた方達のおかげだと思っています。しかし停電が解消してホッとしたのも束の間、13日朝から断水になりました。浄水場の付近が停電しているからで、夜には水が出るようになりました。乳幼児や病気の方のいらっしゃるご家庭では今もどれほど大変か私にも分かります。夜、瓦が何枚か落ちた長屋門が月に照らされ、夜空と甍の波の共演が胸に染み入るようです。ですが、まだ停電中、断水中の方が大勢いらっしゃる事を思うと、先に電気も水も復旧して申し訳ないような身の置き所のない思いで暮らしています。まだまだ非日常、非常事態は終わってはいません。

9月7日、ハインリッヒの法則

ご存知の方も多いと思いますが、ハインリッヒの法則というものがあります。1つの重大な事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというのが、ハインリッヒの法則です。朝学校や会社に行く時に、気を付けてね、とよく言われますね。気を付ける事は当たり前、と思ってはいても、つい慣れすぎていい加減になってしまいがちという事があります。いつでもどんな事に対してでもありがちではないでしょうか。確かに、神様ではないのですから事故は絶対に起きる事はないとは言い切れませんけれど。あまりない事ですが、例えば、物を買おうと思って入った店が空いていて、互いに離れた場所にいる店員さん同士が声高に仕事とは関係のない事を話して笑っていたら、私はここの店に置いてある食べ物は大丈夫だろうか、と思ってしまいます。買ったものを食べる事が出来るのは余程相手を信用しているから出来るのですよね。店でも工場でも、つい、一事が万事、油断しているとその油断の積み重ねが原因で次に何が起きるか分からないと考え、感じてしまうからです。ですが、他者に対してばかりでなく、自分にも言える事ですから、暑いからと言ってボーッとばかりしていてはいけないな、と今年も自分を振り返る私です。月が美しく見える頃、毎年暑さを言い訳にして、し残した事が多い夏を振り返っているのです。

9月3日、ガラスの箱の中

台風の影響で気温が40℃以上に上がった地域の映像が、透明なガラス箱の中に入っていて風のない、ギラギラした油絵のように見え、そのガラスの箱の外から集中的に日に照らされているような途方もない暑さが伝わって来ました。とても温帯の日本の夏ではないように感じました。私達は今こういう環境の中に生きているのですね。逃げ場がない、そんな風に感じます。暑さの愚痴ばかりになってしまいました。もう暦の上では秋ですから少し気を引き締めて日々過ごそうと思います。

8月29日、夏休みの友

夏休みも終わってしまうとあっという間だったような気がしますね。こんなに暑いと健康に気を付ける事が最優先になるのではないでしょうか。帰省や旅行もお母さんにとってはなかなか大変です。昔は夏休みの友、という宿題がありましたが、結構分量が多くて嫌いでした。分野も様々でやりにくいものもありました。田舎版と都会版があるそうで、区画整理中のこの辺りは過渡期でどちらともいえない状況でしたから、田んぼの土を比べるなどという事は難しくて、田んぼのある遠くの親類の所へ行かないと手に入らないのに、という風でした。しかも宿題は夏休みの友だけではありませんでしたからなるべく早く終わらせてせめて8月下旬はのんびり過ごそうと思っていたものでした。今でもあの夏休みの友はあるのでしょうか。何十年も前の事ですので、思い出せば懐かしいと感じます。このようなものを懐かしいと感じても別に差し支えないと思いますが、過ぎた事でも浄化されない出来事はあるでしょうし、美化して伝えるのはあまり良くない事もあるのでは、と思います。

8月25日、読書

子供の頃から本を読むのが好きでしたから夏休みは絶好の機会でした。でも今は老眼になって来たので、読むよりもラジオなどの朗読や古典講読の番組を聞く事が増えました。奥の細道や枕草子も、学校で習ったのは子供と言ってよい頃でしたから、改めて聞いてみるとなかなか味わいのある、奥の深い作品だと思います。暑いので、その内朗読で奥の細道を旅してみたいと思っています。情景が浮かんで来て物語の場面にすうっと入って行けると、例えば同じ30分でもとても深くて濃い時間を過ごせたと感じます。考える事も勿論大切ですが、感情や感覚で納得する、心の活性化は、暑さを軽減してくれるように思えるのですから不思議ですね。思考の積み重ねの資料のどこかにさっと光がさすように閃くのは、感というよりも洞察なのではないか、などと思いました。

8月20日、遺骨の残る戦場

かつての戦場に、未だ還る事の出来ないご遺骨が数知れず存在しているという現実を、未消化のままにしてきたその後の社会と人間、そのように今年も深く感じさせられる8月です。便利な世の中になり快適、というわけではなく、逆にストレスが増えると、その直接の原因というわけでなくても他者を憎んだり、あるいは自分と違うと感じる人を排除しようとする事が世界中で増えているように思います。21世紀はもっと成熟した世の中になると思っていたのは私だけでしょうか。戦争に関しては、戦後生まれの私でさえ去る者は日々に疎しであってはならないと思います。伝えて行く事が何よりも大切、という思いが深まっている昨今です。

8月15日、今は、出来ない

何かをしようとして努力しても出来ないと、今は出来ない、という事を理解する事が大事だ、という話を聞きました。それは、ぼおっとしている時に聞いたものですから、そこだけ心に残りました。今は出来ないから今後も出来ないとは限らないし、工夫する余地があるともいえるでしょう。あるいは、とても無理だから出来ないと受け入れる事が必要、という場合もあると思います。特に人とのコミュニケーションでは、それぞれの考え方や感じ方が違うのだという事に気付く事があります。でも、その場合はどちらが正しいとも言い難いのではないでしょうか。育った家庭環境や時代も違えば価値観も人それぞれで、多様と言えると思うのです。ですから、あの人と自分の共感できる点と出来ない点があるのだという事を受け入れる事が大切だと思います。親しい人同士だとなかなか難しいですけれど、他者と共存し、助け合って生きて行くのに不可欠な事なのだと改めて考えました。自分だけが基準ではないと知っていながら、ついそのように思ってものを言いがちな私の日常なのです。大人同士、日常生活の中でもお互いに傾聴を心掛けたいものだと思いました。

8月10日、盆提灯

もうすぐ1月に亡くなった叔父の初めてのお盆です。1日に盆提灯を一対持って行ったのですが、どんなに美しい秋草が描かれていても何となく寂しいものに思えます。夕方には蜩の声を聞き、真夏のすぐ後ろに見え隠れする秋を、今年も早々と感じました。一時も留まっていない時間、季節、それは自然だけでなく、人間にとっても同じなのですね。翌日、亡くなった友人や先生の夢を見ました。お盆が近いと無意識に亡くなった方達の事を思い出すのでしょう。お墓掃除をしてあとはお盆を待つばかりです。暑くても、お墓掃除をすると清々しい気持ちになりますね。今年も無事に掃除が出来て感謝しています。

8月4日、夏の花たち

プランターに鳳仙花の種を蒔き、素焼きの鉢に白花夕顔の種を蒔いて三ヶ月ほど経ちました。すくすく育った鳳仙花は、赤やピンクなど色とりどりの花が咲き、とても美しいです。昔より大きく立派で花も八重咲きですから、園芸品種に改良してくれた人達がいるのでしょう。白花夕顔ももうすぐ咲きそうなので楽しみです。露草の水色も美しくて好きなのですが、花のわりに根っこは猛々しい植物です。近くのスーパーでは、今年も南側のガラス窓の上まで朝顔のツルが伸びて葉が育ち、花も咲き始めています。緑のカーテンは日陰を作ってくれるだけでなく、目も楽しませてくれますね。あまり長く梅雨寒が続いていたので、やっと夏を実感できた瞬間でした。冷夏は嫌だけれど高気圧の重ね着で酷暑になって欲しくもない、などと思っています。

7月30日、夏茗荷

長雨で気温が低いと良い事は一つもない、そう思っていました。西瓜も氷も、多分売れ行きがまだ去年より少ないのではないでしょうか。夏祭り、花火も晴れていて暑い時のものという気がします。でも、今年は夏茗荷が珍しく順調に育ち、今朝少し収穫できました。キュウリも数本収穫出来たので酢のものにしようと思います。去年は日照りで茗荷には可哀相な夏でしたから。この夏茗荷の苗は、昔祖母がご近所の方から頂いたそうで、実が秋茗荷より緑が濃い物ですが、夏茗荷と秋茗荷は多分同じものだろうと思います。今地上に出た所で花が咲いています｡花も一緒に食べられるので捨てる部分がありません。こういう所も嬉しいですね。

7月24日、不協和音

今年関東はどうやら冷夏のようだと思っていました。夏野菜の苗の生育は今一つですし収穫もはかばかしくありません。猫に暖房が必要な晩もあり、炬燵布団を洗濯して片付けた事を後悔する7月は珍しいです。ずっと前にもこんな夏があったのですが、その年は9月上旬に酷暑となり、毛虫が大量に発生しました。でも短い期間でしたから、その後太平洋高気圧の張り出しが弱いままだったのですね。今年ももしそうなると台風が心配です。そう思っていたら、来週には太平洋高気圧の勢力が強くなり、チベット高気圧も張り出して来るそうです。それは猛暑だった去年の夏と同じですからいきなり高温になるという事でしょうね。日本列島上空と言っても天気や気温が東西南北でかなり違いましたので、落ち着いてまとまっているように見えるけれども、何か世界中が一歩間違うとどうなるのか分からない今の世の中と合致している、などと思ってしまいました。不協和音が国の内外の水面下で聞こえてくるような令和元年、なのでしょうか。

7月18日、世界の通学

世界には色々な所があるのですね。標高5000mの高地から学校へ通う子､牧場の中を通り抜けて何時間もかけて学校へ通う子､物を売りながら大型車の走る車道を歩いて学校へ通う子､国や地域によって随分違います。ペルー､ルーマニア､フィリピン､テレビではこの3カ国が紹介されていました。学校への行き帰りがどんなに大変でも、子供達は目を輝かせて学校へ行きます。目標を持ち、一生懸命学んでいるのです。この子達の学校には、人を追い詰めるようないじめはないのでしょう。どこの国でも、子供達の将来を思って、生活が苦しい時代であっても、親達は子供を学校で学ばせようと努めて来たのだと思います。教育は機会均等となり、義務教育が受けられるようになって久しい日本では､学校に行きたくないと思う子が少なからずいるという現実と、困難をものともせず嬉々として学校に行く世界の子供達の映像に、何かとても複雑な思いがします。今日もまた、なかなか解けない宿題の入った重い箱を渡されたようなそんな気持ちになりました。

7月12日、大きな栗の木の下で

親戚の家の叔母さんが体調を崩し、家を離れています。若い時は明るくて、ある時日帰りで富士山に行って来たと言って、山梨の銘菓月の雫を買って来てくれた事があります。ザ・ピーナッツが大好きな叔母さんでした。海が近かったので小学生の時は夏休みには家から水着を着て行ってよく泳いでいたそうです。家族の世話も一生懸命でしたし、疲れたと言いながら、実はそのようにして人の世話をするのが生きがいだったのだろうと思います。ですが、今は少し休みたくなったのでしょうか。大きな栗の木の下で休み、人に世話をしてもらって、自分を叱咤激励する事を暫しやめている叔母さん、こういう所もあったのだと、改めて思いました。若く元気だった叔母さんが、車椅子に座って、見舞った私達が帰るのを見送ってくれた姿が目に残り、今も複雑な思いが胸に去来します。それにしても、自分が年を重ねるという事は、年の離れた兄や姉のようだった親戚、知人が、高齢になったと思う出来事に遭遇する事が増えて、老いて行く自他、と否応なく感じます。険しい道を歩いているのだなあとひしひしと感じる今日この頃です。重い宿題、あまり気が進まない未知との遭遇、とでも言ったら良いのでしょうか。

7月6日、雨の空港

G20が大阪で開催されました。これがもし東京での開催だったら、各国首脳を乗せた飛行機は羽田空港に到着したのだろうと思います。成田空港は東京まで遠い、内陸なので霧が出やすい、などという事をよく聞きます。でもそれは空港を作る前から分かっていた事でしょう。三里塚はそこに入植した人達によって開拓された地であり、空港を作る事に反対する人が多く、揉めました。よく説明し十分に話し合って空港建設を決めたのではないからだと報道されていました。反対という気持ちはあっても時間が経つにつれてやむを得ず引っ越して行った家もあり、地元は分断されたような状態になったのだろうと思います。お年寄りや十代の子供達も座り込みをしていた映像を、G20のニュースで思い出しました。若かった人達は、今もどこかでそれぞれの生活をしているでしょうね。私は飛行機や空港が好きですが、このことが溶けない氷のように心の中に居座っています。まるでアルプスの氷河のように。ですから、成田空港を発着する飛行機に今でも乗りたいとは思えないのです。今更そのような事を言っても何にもならないのですから、良い空港として使われて行く事が大事なのだという理屈は分かりますが、理屈通りにはならない気持ちなのです。ところで、G20では、こんなにインターネットが普及し様々な事に利用できるようになったのに、何故他国との争いは21世紀になってもなくならないのか、翻訳機能を持つアプリも登場したし動画もあるのですから、相手の置かれている状況や気持ちも生々しく伝わって来る筈なのに、などとも思いました。国内でも凶悪な事件が増えていますね。相手の身になる事は私達人間にとって難解な課題なのでしょうか。

6月30日、スズランの

近くのスーパーにトマトが沢山並んでいました。産地は近郊とは限りませんが、珍しく平取のトマトを見つけました。平取はスズランが沢山咲いて美しい所と聞いています。二風谷という所があってアイヌの人達が多い所であったとも聞いていたので、萱野茂さんの事を思い出しました。流通が良い時代に生きているのが当たり前のように思いがちですが、北海道は近いようで遠く、なかなか行く事が出来ません。今日はトマトのお陰でグッと近くに感じ、可憐なスズランの花がトマトの向こうに見えるようでした。蒸し暑い所に清々しい北海道の風が吹き抜けて行ったようで、思いがけないプレゼントを貰ったような気がしています。

6月24日、まくわうりの季節に

今年も梅の実が店頭に沢山並ぶ季節、ジメジメした梅雨です。夏野菜の手入れ等した後、縁側でボンヤリ休んでいたらメロンが食べたくなりました。昔、メロンは立派な箱に入ったとても高価な物でしたから重病人のお見舞いに持って行く時でもなければ買わないもの、と思っていました。プリンスメロンや、幾種類ものネットメロンがスーパーに並んでいる今とは大違いです。ですから、甘くないものの多いマクワウリをよく食べました。今はマクワウリを見かけなくなってしまったのでふと懐かしくなる時があります。瓜食めば子ども思ほゆ、という山上憶良の歌の瓜はマクワウリの事なのでしょうか。暑い日に冷やして食べると美味しいのですが、横井戸の水をためて使う水瓶に、スイカやトマトと違って、マクワウリだけは浸けておく事が出来ません。水に瓜の甘いにおいが移ってしまうと、お湯を沸かす時に使えないからなのです。マクワウリのにおいのするお茶は飲めませんから。今も当たり前に売られていればきっと特別なもののようには思わなかっただろうと思います。庭で遊んでいて二種類の寛永通宝を見つけたのも、丁度今頃の季節でした。私は小学生でした。銭形平次の投げ銭だ、と思いました。江戸時代の誰かが落としたのでしょう。子供だったのかも知れません。きっと一生懸命探しても見つからなかったのでしょうから、お母さんに叱られたかも知れませんね。このような些細な生活の痕跡からも、昔も人間が生きていたのだという事が生々しく感じられ、受け継がれて行く命というものをしみじみと感じます。何をどう伝えるのかよく考えながら生活の知恵や思い出として伝えて行きたいと思いますし、それが中継ぎの務めであるようにも思います。未来も人間が幸せに生きて行ってもらいたい、そう思っていますから。

6月18日、世界のまち

美しい庭の一部を挿し木にして分けてくれた､オーストラリアパースのおじいちゃまの言葉です。鉢植えの木を褒めた人との会話でした。人とのかかわり方を難しいと思う事もありますし､音楽や絵にも心が癒やされます｡ですが、人柄が偲ばれる言葉は尚更聴く人の心を満たしてくれますね。犯罪の少ない町だというのが分かるような気がします｡ ところで、中国の万里の長城の長さは、空からの映像で言葉もないほどです。昔作られたのですから驚きという言葉でしか表しようがありません。古今東西残されたものがあるのはほんの一部だけで、歴史は人間の生活の積み重ねです。現代は強固な壁がなくても相手と良好な関係を構築し、付き合って行こうとすれば出来るようになったのだと良いのですが、どうなのでしょうか。壁を作って隔てる事は時には排他的にもなり兼ねず、憎しみの生まれる元となる事もあると思います。パースのまちを見てそんな事を思いました。

6月13日、雑味

先日新聞で、高齢になった自分や配偶者の親と暮らす事についての、ある方の考えを読みました。それは、親と共に暮らす事になる事について、親を引き取るという言い方がされているけれどひっかかるというものでした。実は私もずっとそのように思っていました。何か上から目線のようなニュアンスがあり、タタキの中に残っている魚の小骨のようで飲み込み難いのです。呼び寄せるという言い方ですと、待たせていた弟妹の事のように感じます。私なら、一緒に暮らすことになった、というのが使いやすいですね。言葉は通じる事が一番大事ですが、同じ事を言うのに、ちょっとした言い方の違いで、相手に不快感を与える事や傷つける事があります。悪意がなくても、言い方や態度、声の調子で、内容の受け取り方は変わります。アクと言いますか雑味のように感じる言葉の遣い方は、結構あるのではないでしょうか。卵を料理に使うときは裏ごしすると滑らかになりますし、ケーキやクッキーを焼く時にはだまにならないように必ず小麦粉をふるいます。ひと手間は、食べる人の事を考えれば、喜ばせてあげたいので、ある程度ならば楽しみでもあるのでは、と思います。コミュニケーションも同じだとしみじみ感じる昨今なので、滑らかなプリンの舌触りのような会話を楽しみたいと思っています。

6月8日、痛ましい

自爆テロに似た事件を起こす人は承認欲求が満たされず､コミュニケーション能力にも問題があるのかも知れません｡勿論そのような人が皆、他者を巻き込んだ事件を起こすわけではありません。幸せそうな人や社会に適応している人に嫉妬や羨望などを抱いて､社会への復讐をしたつもりでしょうか｡ 屈折した怒りの奥にある感情は取り残されてきた悲しみなのでしょう。何の罪もない人に決して投影してはいけないはずの感情です。してはいけない事の確固とした線引きが出来ない人が増えているような気がします。今の時代の人間の良心は変化しているのか、それとも社会病理なのか、私にはよく分かりませんが痛ましい献花の映像を見る事が多くなりました。

6月2日、ヘリオトロープの花

新生姜、塩ラッキョウ、青梅などが店頭に並び、梅雨が近いのを感じます。ヘリオトロープの花も咲いています。香水に使われるだけあって柔らかくて余韻の残る良い香りです。小さな紫色の花がたくさん集まって咲いており、加湿と寒さに少し弱いように思います。ぼつぼつお中元のカタログも届くと思いますし、考える暇もなく季節が駆け足で進んで行くようです。2年程前から、ゴールデンウイーク後はPM2.5の影響か、喉に気を付けなくてはならないので、外出時にマスクが手放せない日が当分続きます。皆様はお元気でお過ごしでしょうか。年齢が高くなるにつれて増えるのはしわや白髪、とよく言いますがそれだけでなく、診察券も増えるようですね。ヘリオトロープの香のように、そういう人生に、というのはとても難しいです。

5月28日、令和のおばさん

以前にもお話ししたと思いますが、ある日の新聞にこんな事が載っていました。おじさんは司馬遼太郎の作品に惹かれおばさんは渡辺淳一の作品に惹かれる。中高年の男性は永井荷風の作品を好む、と。私は中高年の男性が好む本を読むのが好きなのだな、と思いました。おばさんなのに。久しぶりに漢語調のすっきりした名文に触れてみたくなりました。老眼になると本を読むのが大変ですが、たまには頭に良いものを入れて活性化させて欲しいという、頭からのメッセージに気付いたのかも知れません。暑くなってきたから床屋さんをして、と生垣が言うので、生垣の剪定をしました。さて今日はどんな一日になるのだろうかと思っていたら、川崎のスクールバスを待っていた子供達がさされる、というニュースが飛び込んで来ました。犯人が死亡、という事なので動機も何も分かりません。児童達は、いつもと変わらない一日が始まる、事件が起きる直前までそう思っていたのだと思います。また想像もつかない事が起こってしまいました。今はただ、亡くなられた方々のご冥福をお祈りするばかりです。

5月25日、戦争、罪

施設に入所している高齢の男性が大怪我をして亡くなり、施設の職員が暴行した疑いが強いというニュースに驚いたと同時に、他の施設でもあるのではないかという気がしています。一生懸命生き、高齢になって介助が必要になった時に尊厳がないように扱われて亡くなるなどという大変な事が時々起きているから警察が捜査し、ニュースとして伝えられるのでしょう。かつては想像もつかない事でした。私は動物であっても足蹴にする事は出来ません。また、国会議員が国後島で、島を取り返すには戦争しないと無理なのではないか、などと酔って発言したというニュースにも驚きました。どの党の国会議員であっても、私の子供時代の議員でそのような発言をした人はいなかったように思います。それは、戦争の痛みをよく知っていたからではないでしょうか。けれど、戦後生まれで平和な時代に生まれ育ったから戦争という言葉の重さや痛みが分からない、想像できない、という言い訳は出来ないと思います。記憶を伝える事の出来る、直接戦争を経験した方達はいずれいなくなります。その時に、事実をどのように伝えて行くかという問題に真剣に向き合わなければいつか同じ事が繰り返されるかも知れないと痛感させられたこの出来事が、私に覆いかぶさっているように感じます。たとえ幾日か戦争をした、という短い戦争であっても、憎しみの連鎖が始まり、深い溝は心に負った深傷となって、いつまでも残り、瘡蓋が幾度もはがされる事になると思います。戦争は人間を獣にする、私はそう思っています。望郷の念というものは故郷を離れて暮らす誰にもあるものでしょうが、近くて遠い、帰れない、日ロのはざまになってしまっている北方四島が故郷という方は高齢の方が多いのですから、この議員の言葉にいかほど傷つけられたか、察するに余りあります。戦争はバーチャルリアリティーではないから決してリセット出来ないという事は誰もが分かっているはずの事だとばかり思っておりました。

5月22日、応用する

庭の笹が増える季節になりました。丈が10㎝から20㎝くらいの笹には葉が沢山あって、とても切りにくいものなのです。小さな剪定鋏を使うのが一番きれいに切れますが、それは花鋏程の大きさで、とても手間がかかります。切るとあっという間に乾いて行きます。これでは固くてアルプスの少女ハイジの干し草のベッドには入れられないなあなどと思いながらの作業です。雨後の筍という言葉どおり、当分ニョキニョキと笹は出て来るでしょう。本当は根を掘ってしまわないといけないのですけれど、大変なので地上に出てきた部分だけを切っているので、笹は土の柔らかい方へとどんどん増えて行きます。困ったものです。ですが、ビニールポットに種を蒔いた南瓜が育って来たり、プランターのルッコラやレモンバームも確実に育っていますし、花も種から芽が出てきましたので、楽しみもあるのです。収穫出来るようになって気付いたのですが、朝はまだ赤い色が薄いと思っていた苺が夕方には真っ赤になっているのが当たり前というより、自分の目で見ていると不思議で面白いと感じられ、体感する事は大切だと思改めて思いました。他者とのコミュニケーションを一生続けながら生きて行く人間の人生も、学んだ事を元に応用問題を次々と出されて考え、実践して成長して行くみたいですね。

5月17日、チコちゃんと

飛行機の客室は砂漠位の湿度なので、長時間乗る時にはそれを踏まえて、とか、千代田区の昼間の人口は85万人、夜間は6万人である、とか、ラジオは色々な事を教えてくれます。オフィスが多い千代田区の昼夜の人口にはかなりの差がありますが、集合住宅に居住している人が多いのだろうと思います。考えるきっかけというか糸口になる情報はこのようにして自分のアンテナに引っかかって来ます。チコちゃんに叱られないようにアンテナの掃除を心掛けなくては。ところで、今年は十連休の方もあったようですが、私は木の床屋、草取り等、自然の中の暮らしの期間になりました。夏野菜を植えるのも毎年この時期です。同じ事が出来る幸せを感じますが、疲れるのと喜びが同時にやって来るとも感じています。実は猫が口の中を怪我してしまい、入院しました。かなりひどい怪我で、何故怪我をしたのかが不可解ですけれど、お蔭様で退院しました。ほかの猫が寂しそうでしたので、やはり仲間意識があるのでしょうね。

5月11日、生まれて初めての霰

5月4日はお昼頃から雷雨になりました。朝から灰色の雲が幾層にもなって連なり、波乱含みだとは思っていました。1時頃一瞬停電になり、その後は雷雨、しかも夕方4時過ぎからしばらくの間霰が降りました。一定時間降り続く霰を見たのは生まれて初めてです。この辺りは雷雨の少ない地域なのです。余程流入した寒気の温度が低かったのでしょう。しかも、かなり長い時間続き、静かになったのは7時頃ですから外はすっかり暗くなっていました。雲を押し流してくれる風が弱かったのかも知れませんが、あまり長い時間降り続けば災害が起きる可能性もありますね。令和に期待する気持ちは私にもありますが、元号が変わっても、2019年の、世界の中の日本なので、暮らしを取り巻く環境は変わるわけではないのも確かです。時代は、自分達が作って行く未知の明日に他ならない事を再認識させられた雷雨でした。

5月6日、心の栄養

今年も種蒔きの季節がやって来ました。本当はお彼岸頃から蒔けるそうですが、日によっての寒暖の差が大きいと感じるうちは失敗しそうでなかなか蒔く事が出来ません。先日、やっと南瓜とルッコラの種を蒔きました。春がまた一歩動いたような気がします。南瓜は直蒔きではないので、黒いビニールポットで、本葉四枚になるまで育ててから植えます。強風が一番困りますが、近年そういう日が、植え付けの頃に増えたように感じます。ご近所さんは長年の経験からあまりおろおろせずに、上手に栽培していて同じ時期に植えたとは思えないほど生育が違います。分からない事を色々と教えて頂いて助かっています。経験の積み重ねは貴重ですね。もう塩漬けのラッキョウが店頭に並んでいますし、歩いていて、夏ミカンの木のある所を通ったら、ミカンの花が咲いていないのにとても爽やかな香りがしました。夏のような余韻を頂き、この思わぬプレゼントを両手でそおっと抱えて帰って来ました。毎日一つずつ心が温かくなる事に出会った、と感じられるようになったら心が育つでしょうね。やったみたいと思っています。

5月1日、平成から令和へ

今年も夏野菜の苗を植えました。4月30日 までが平成、5月1日になると令和元年、生活が変わるわけではありませんが、天皇陛下の生前譲位が行われるという世の中に自分が遭遇するとは思った事もありませんでした。でも、明治以降というのは、歴史の中では短いものかも知れませんね。天変地異が起きたのでもうこれ以上悪い事が起きないようにという意味で、人心を一新する、そのような時に元号が変わったり、生前譲位する天皇もいらっしゃる事がそう珍しくなかった時代の方が長かったのでしょう。昭和天皇が崩御され、昭和64年は1月7日までだったのがつい昨日の事に感じられます。祖母が肺炎で入院し、毎日病院に通っていた時の事でした。昨日夕方、仏壇に供えてあった芍薬を取り替えました｡紅色に近い濃いピンクの手毬咲きの一輪のこの花は、幾らか萎れていたのですが、外の流し台に花瓶を置いた途端に花びらが何枚か自然に散りました｡無造作に、ではなく美しく行くべき場所に移動したかのようでした。平成が今日で終わるのだなあとしみじみ感じ､一抹の寂しさを感じています。蕾が膨らんできた遅咲きのレモン色の牡丹を一輪切って取り替えました｡令和という新しい時代を表す色でしょうか｡これから生まれてくる子供達は令和生まれ、自分が年を重ねて来た事を感じますし、体力は衰えて来ても生活の中から生まれ伝承されて来た文化や､過去の歴史を次世代に伝えて行く事の責任が重くなった事をひしひしと感じています。うかうかと年を取っていられません。

4月25日、さやえんどうの卵とじ

古い記憶は割と鮮明です。特に小学校入学前後の事件などのニュースは覚えています。第三者にとってはそういう事もあった、と思い出す時があるものだと思いますが、事件や事故は当事者にとっては一生忘れる事は出来ないでしょう。犯罪の被害の中で、命が失われた場合は、その事実を変える事が出来ないのですからとりわけ回復が難しいと思います。ご家族を事故で亡くした知人は仕事やボランティアで忙しく、イキイキとしているように見えましたが、頑張りすぎたのか病んで早くに亡くなりました。つらさから立ち直ったように見えたこの方の心の奥底に、早く亡くなった家族のもとに行きたい、という気持ちが潜んでいるのではないかと思ったのですが、言えませんでした。それを言ったところでどうにもならないと思うと言えない事がもどかしかく、半分くらい後悔しています。生きたいという気持ちの源は分かち合える存在があるからという部分があるからなのでしょうね。ご家族は事故で亡くなったのですから、誰かに悪意があったわけではありません。でも、その影響のあまりの大きさに言葉もなく、今もサヤエンドウが出回る季節になると、サヤエンドウの卵とじが好きだった彼女の優しい笑顔を思い出します。

4月19日、個の保存種の保存

個の保存、種の保存とは、負けない自分になり、自分を超える人間を育てる事、という話をラジオで聞き、心に残りました。自分に自信は持てないですし、自分を超える人間を育てるとかそのように教育する、そんな事はとても出来ないけれど、特に、自分を超える人間になるように育てる事は大事だと感じます。朝聞いた話なので、ハッとしてすっきり目が覚めました。教えられる事が多く、少しでも自分もそのようにしたいものだと思います。

4月13日、過ぎて行く時間の中では

4月になってすぐに寒の戻りのような気温になりました。咲き始めた桜が花冷えで長持ちしてくれましたが、私は風邪をひいてしまいました。花粉症になってから鼻や喉が冷たい空気に過敏になっているようです。家の中に閉じこもっていたいと思う日もありました。回復してホッとしましたが、ボーッとしていた時に、見るともなくテレビを見ていました。番組は途中から見ました。八丈島の隣の八丈小島は現在無人島ですが、昭和31年から41年まで、過疎や子供の教育、その時代にしては不便という事などで離島について島に住む人達の意見を聞き、よく話し合って離島する事となり、皆が島を離れて移住したのだそうです。島全体が家族のようだった島で、島を離れるにあたって、家を解体し、新しく住む土地に持って行ってその材木で家を建てる人が多かったので、現在この島には廃屋はあまりないと聞きました。元は島に住んでいた人達は、生まれ育った所なので不便だとは思わなかった、自然も人間関係も良い所だった、と話していました。故郷から離れなければ、というのはつらい決断だったと思います。少し違うけれども、原発事故で家に帰れない人の気持ちがきっとよく分かるでしょうね。深く心に残りそうです。もう一つ、名古屋のまちを紹介する番組も見ました。名古屋と言えば名古屋城があまりにも有名ですが、その西に駄菓子の店が何軒もあるそうです。昭和の経済成長期かその前にタイムスリップしたような街並みが何となく見知っている所のようで、懐かしく思えました。駄菓子が一つずつ袋に入っていない時代には不衛生だと言われた事もありましたが、親が首を縦に振らない事や物に、子供は魅力を感じます。心の中にある昔の思い出は、幾つになっても自由に取り出し、その世界に入って行く事が出来ます。まちが変わっても、郷愁を感じる故郷に、今は人が住んでいないというのは、また違う思いを持つのだろうと思います。炭鉱が閉山になった地域が似ています。私の住む地域も、若い人の多くが都会で進学就職、という時代になって来ました。数十年後は一体どのように変わっているのでしょうか。

4月7日、束の間の

世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし、という和歌、本当にその通りだと思う季節です。桜の時期はあっという間に過ぎてしまいます。花火と共にその美しい姿が束の間だからこそ一層愛され、名残り惜しいと沢山の人達が感じるのでしょう。過ぎて行く季節を惜しむ気持ちは、出会いと別れを繰り返しながらの人生の中で何度も味わうもので、年を重ねると、本の中に入って色々体験したように自分の今までを振り返る事が出来る、そのように生きられたら良いと思うのですが、なかなか理想には近づけない事を思い知る日々です。きっとまだ沢山の鱗が私の目には付いているのだと思います。それにしても、少しずつ咲いて行く桜が花曇りの空ときらめく川の水面に溶け込むようにすっとなじんで、生きて動いている水彩画のようだと毎年感じます。そのうち新緑が美しくなると道祖神に招かれるのでしょう。

4月1日、二人三脚で

歩いていて、今年はあちこちで土筆を見かけます。多い年と少ない年があるのでしょうか。ウォーキングは少しずつの日々の景色の変化や、川の音、空の色など五感を刺激してくれるものが沢山あって興味津々です。私にとって毎日の生活の中の楽しみの一つなのでしょうね。梅桃桜や緑が順に美しくなって行く季節は、まるで視野が広がって行くかのようですし、今年は親戚の結婚式を控えているので、これもまた嬉しい事の一つです。人生の交差点で立ち止まり、振り返った時、飛ぶように過ぎて行った時間に愕然とし、過去を愛おしく懐かしみたいような気持ちになる事があります。多分その時玉手箱を開けてしまったのですね。そういう時に二人三脚のように共に生きて来た伴侶とゆっくり向き合えるのは良いものだと思います。結婚はゴールではなく始まりですから、試行錯誤しながら自分とは違った、共に生きて行くもう一人の人間の価値観や気持ちを大切に、末永く幸せに生きて行って欲しいものです。高齢になった時、二人で一冊の重厚な本の最終章を生きているような人生でありますようにと祈っています。

3月28日、いたわりもの

自然の恵みを頂く時は少し残すもの、という事を私もしています。二月は蕗の薹が採れますので、毎年楽しみです。花のように見えるのに、摘んでしまっても蕗がなくなる事はありません。でも蜜柑や柚子などと同じように少し残すのが私の感謝のメッセージです。ところで、以前は、壊れやすいから大切に扱うものの事を、労わりものだから気を付けて扱うように、などと言われました。最近はあまり使わないようです。人間も生きていて感情を持った存在なので、自他共に労わりものだという事を忘れずかかわって行きたいですね。

3月24日、清やかに春を招く

暮れから長く風邪に苦しんだので、治ってからも寒い間は草取りをしませんでした。また風邪をひくといけないと思ったので。畑の草が伸びたのが気になり、二月下旬から取り始めてやっと終わり、その後馬鈴薯を植えたので、その内芽が出て来ると思います。沈丁花は出会いと別れの季節の香りがします。今年も慎ましく美しく咲き、散って行きました。

3月18日、ICUの音

病院の集中治療室は、いつも色々な音がしています。等間隔であったりそうでなかったり、安心できるようでもありますが、この先どういう状態になるのかという不安も感じます。人の命が終わろうとする時の機械の音、その後の平板な音、あの音はつらいですね。人間の最後までを克明に記録するのは酷だと思えるのですけれど、その機械によって状態を理解し治療することが出来るのだという事も事実です。右と左ほど違う思いがギュッと詰まった場所のように思えて来ます。思考や科学と、感情やよりどころ、あるいは信仰といったものは人間の中に常に混在するものなのだからそんな風に感じるのでしょうか。ICUには、病んでそこにいる人達とその人達を懸命に治療している医師や看護師がいるわけですが、ICUそのものが、まるでそのような思いに寄り添い意思を持って手助けしているように感じられます。24時間365日、決して眠らない大切な場所だと、改めて思いました。毎年今頃になるとこのような事が気になります。白梅の花が咲く頃は病んでいた高齢の方が旅立って逝かれる事が多いですし、祖父と母が亡くなった季節でもあるからだと思います。

3月11日、八年の歳月

以前父と母がちょっと議論のようなやり取りをしていた事があります。母が、今の子供はいじめがあったり、世の中も複雑で不透明だから、昔では考えられなかったようなストレスを抱えているのだろう、物が沢山ある時代だから豊かで幸せだと簡単には言えない、と言い、父は、暮らしの心配は昔のようにないし戦争の時代でもないので、生きて行くのに必要な物は基本的に整っているから幸せだ、そのようなやり取りで平行線でした。どちらも間違っていないと思いますが、今の時代の子供を見る視点が違うのですね。先日富津市に行く時に、高台までの距離と行き方を示した矢印の書かれた立て札を何枚もみました。市が設置したのでしょう。東日本大震災から、八年です。昨日の事のようだと感じるのにもう八年が過ぎたと感じるのか、随分前の出来事と感じるのかは、その人がどこでどのようにあの地震と津波に遭遇し、家族と自分の生活がどう変わったのかによると思います。心の復興はまだであると新聞に書いてありましたが、なじまない言い方、という風に感じました。町の復興と違って、心が傷ついたという事はかなり後になってから現れる症状と言いますか、様々な感情や感覚に悩まされる場合もあると思います。深傷は目に見えず、完治や解消はなかなか難しく、家族や親しい方を失った場合は猶更です。未だに行方不明の方が大勢いらっしゃる事を思うと、この重い現実に、大きな被害のなかった私でさえ圧倒され言葉が容易に出て来ません。ですから、映像であの震災を振り返るテレビの画面を直視するのが苦しくなる時もあります。今の子供の置かれている状況を考え、話し合う事が出来るのも、その子供達が生きているからこそなのです。改めて、亡くなられた方々それぞれの、決して誰ともピッタリ同じではないかけがえのない大切な人生があったのだ、それなのに、という事を思いました。あの地震の前に立ち戻る事が出来たら、前向きではないと言われるかも知れませんが、今切実にそう感じています。

3月6日、雪のある暮らし

雪の多い地域の方は早朝雪下ろしをするのが大変でしょうね。この辺りでは想像がつきませんけれど。ですが、ヨーロッパやロシア、それだけでなく、日本より緯度の高い所は沢山ありますから、雪対策は冬には欠かす事が出来ない当たり前の事として暮らしているのでしょう。それだけでなく、雪を楽しむとか雪があるからこそのイベントの開催などもして雪と共存しているのですね。暗く落ち込むのではなく、その環境を活用したりその環境に適応して生きて来た歴史があり、そこから生まれた文化もあるのだと思うと、人間の知恵や逞しさの奥行のようなものを感じます。視点を変える、突破口を見つける、そう言う事がどのような時にもとても大切だという事に改めて気付かされました。

2月28日、寒冷渦あれよあれよという間に

昨年の梅雨明けは6月29日、その後はあれよあれよという間に熱波に覆われた長い夏でした。今年は節分も過ぎて強い寒気が入り、8日の北海道は最高気温がマイナス10℃以下というニュースに驚きました。9日の朝6時には我が家の庭にもううっすらと雪が積もっているありさま、これは切り離された寒冷渦の影響だそうですから、やはり偏西風が蛇行しているのでしょうか。北極がはあッと息を吐いたような状態なのだろうと思うと、地球温暖化の影響は深刻ですね。またあれよあれよという間に寒波が断続的に雪をもたらすのだろうかと思ってもなすすべがありません。関東の雪は水分が多く湿っているので着雪と風が怖いです。停電になると困る事の多い、電気に支えられていると言いますか、依存している日常だと、改めて感じています。

2月23日、火種では

消費税が8％になった時、練り製品は、パックに入っている数が減ったり小さくなったりしました。消費税だけでなく本体も値上げとなったのでとても高くなったと感じ、おでんを作るのにため息が出たものです。また消費税が上がるらしく言葉がありません。人手不足なので外国の人達が日本に来て働く、その受け入れを緩和する事が決まりましたが詳細はまだ分からず、現在の技能実習生という立場で来日し働いている人達の低賃金や福利厚生なども含め、これからどうするのか、など問題は山積みと感じます。カジノが出来たら、これも未知です。水道の民営化も徐々に移行して行くのでしょうか。水は人間が生きて行くのに最も大切なものです。株式会社は利潤を追求しなければ立ち行かない存在、安全な水、災害時の復旧など、これも確たることは私には分かりません。どの政党が良いとか悪いとか、そのような事は、互いに世界の国々とかかわりあい、瞬時に情報が伝わる複雑な現代の状況では、簡単には言えません。ですから政治は誰がやっても難しいと思っています。私にはよく分からないのです。でも、もっと疲弊し、すさんだ世の中にならないだろうかととても心配です。節分ももう過ぎましたが、火種を抱えて年を越したような気持ちです。

2月17日、数字は正直

数字を具体的に示されると、今まで漠然としか分からなかった話が具体的になり理解しやすくなる事が多いですね。その数字が意図的にと言いますか、自分の提案に賛同して欲しくて聞いている人をうまく誘導しようと操作していたらその統計そのものが信頼出来ない事になります。数字には意思はありませんから、表れた結果から今後を考えるのが本来なのですが。誘導しようとしていたかどうかは分かりませんが、このような事が国の統計で起きていたとは思ってもいませんでした。何を信じたら良いのかを五感でとらえ考えて生きて行けるよう子供を育てるのが教育、なのでしょうか。景気が良いようにはとても思えなかった自分が間違っていたわけではないという事を、喜んで良いのかどうか分かりません。

2月11日、第三者委員会を設置し

第三者委員会を設置し、原因を究明して再発防止を徹底し、信頼回復に努めます、これは、何か不祥事や事件が起きた時の組織の会見の度に聞く言葉です。本当にそう思っているのだろうか、よほど自浄能力のない組織なのだな、と考えてしまうほど、この言葉が使い回されていると思う私は疑い深いのでしょうか。第三者委員会を設置した時点で肩の荷を下ろしたとはよもや思ってはいないでしょうが、このような事を感じたのは、野田市での、小学生が父親に暴力を振るわれて亡くなった事件の報道を聞いた事が原因だと思います。子供の必死の助けを求める訴えの書かれた用紙を、恫喝されたからと言って継続的に暴力を振るっていた父親本人に見せ、コピーして渡したと聞いて唖然としてしまいました。是非、再び起きないようにして頂きたいものですが、それでも、失われた命は決して戻ってくる事はありません。大人を信頼できず絶望して世を去ったのであろうと思うと、私も謝りたいようないたたまれない気持ちになります。

2月5日、危惧ですか

デザイナーベビーという言葉を知りました。遺伝子を操作する、ある特定の病気にかからないようにゲノム編集する、そのようにして中国で赤ちゃんが誕生した事を発表した学者が現われたというニュースの中で知りました。ヒトの遺伝子をそのように操作して、誕生した赤ちゃんやその子孫にどのような影響があるのかまだ全く分からないのですよね。遺伝子を操作する事の範囲や上限を設けてきちんと守らないと有無を言わせずその結果を後の世代に背負わせる事になると思うのです。背負わせると言えば、添加物の多いものを摂取したらどんな相乗効果があるのか、これもまだまだ分からない事なのだと思うと、スーパーに綺麗に並んでいる商品が何となく不気味に感じる昨今です。

1月30日、猫と人間

毎年、朝晩冷え込むようになると猫が、炬燵を出して、とでもいうようにすり寄って来ます。推定年齢14才の猫は1才過ぎたと思われる頃、子猫を二匹連れてこの辺りにやって来ました。子猫は生後二ヶ月から三ヶ月でした。ご近所に貰われて行って可愛がられ、今は我が家に落ち着いた猫の所に、孫が遊びにやっています。この居ついた猫は我が家が気に入ったようで家族になり、ゴッドマザーの風格です。綺麗な水色の目をした人懐こい猫で、家に女性が訪ねて来ると傍によって行きます。猫が好きでない人にはあまり近づかず様子を見ています。猫好きな方は喜びますけれど、本当はすり寄って自分の匂いを付け、ここは私の縄張りよ、と主張しているのかも知れません。メス猫は足元をしっかり固める性質の猫が多く、オス猫は好奇心旺盛で縄張りの見回りに余念がありません。サプライズがあるのはオス、安心して見ていられるのはメスです。避妊や去勢をしてもこの傾向は変わらないようですから、本能なのでしょう。イクメンは非常に少なく、母猫は数か月の間、一日中子猫と一緒にいて世話をしますから、どんなにやんちゃな猫でもお母さんの言う事は絶対で、逆らえません。人間と猫は違うようで似ており、似ているようで違います。この不思議な家族ですが、もう一匹若いメス猫がいます。二匹とも食べさせるだけでなく、避妊手術と毎年の予防接種も受けているので、この数が限界だと思っています。これからますます寒くなります。不憫ですから皆様どうか猫を捨てないで下さいね。

1月24日、叔父の思い出

旅立った叔父の思い出は沢山ありますが、一番昔の出来事は、私が三歳か四歳の頃の事で、サツマイモを当時の農協の支店前に出荷するために叔父が俵に入れたサツマイモをリヤカーに乗せて運ぶ時に私もついて行った、という事です。家のすぐ近くだったのでついて行ったら、叔父がそこにあったサツマイモを量るための分銅の秤で、私の体重を測ってくれました。その後、私が四歳の時、当時の八幡製鉄に入社し、福岡県に研修に行く叔父を、家族と一緒に青堀駅に見送りに行った時、人が大勢いて叔父が当分帰ってこない事を思って緊張と寂しさで足が震えた時の気持ちとあの感覚は、昨日の事のようによく覚えています。結婚後、叔母と二人で花火を見に行く時に私を連れて行ってくれ、帰りの暗い坂道で夜烏が鳴いていて怖かった事、帰って来たら大河ドラマの太閤記を家族皆が観ていた事、お祭りに連れて行って貰った時に、ライラックピンクの風船に水の入ったヨーヨーを買ってもらった事、ある日うちに来た叔父に、開けてみるよう言われた箱を開けたらエリーゼの為にという曲が流れて来て、バレリーナの人形がくるくると回って踊っていた事、そうオルゴールだったのです。これらは思い出の中のほんの僅かな出来事です。祭壇に叔父の好きだったコーヒーを供えて欲しくて、キリマンジャロの豆を挽いてもらって叔母に届けました。叔父の父親は早くに亡くなり、祖母の妹だった叔父達の母親は戦争中から戦後に、祖母の嫁ぎ先だった我が家で一緒に暮らすようになっていたので、大叔母はもう一人のおばあちゃん、叔父達は年の離れた兄弟姉妹のように私は思っていました。海苔の養殖やアサリの養殖をしていた、東京湾がまだ埋め立てられていない頃の事です。叔父達は就職し、結婚してから近くに独立して行ったので、今でも家族に近い感覚です。ですからお葬式というのはつらいものだと、また瘡蓋をはがしたような思いになったり、信じられない様な気持ちもあるのです。歩いていて、ヘルメットを被ってバイクに乗っている人とすれ違うと、いつ叔父が退院したのだろうとハッとする事もあります。自分の気持ちも揺れ動いている状態ですが、多分喪失感がじわじわと広がって行くのだろうと思います。叔父の魂は生まれる前にいた所に帰って行ったのかも知れないなどとも思っています。とても安らかな表情でしたから。

1月17日、ヘルメット

叔父が亡くなりました。ハラハラして年を越したのでお正月気分はあまり感じられませんでしたが、危篤状態という連絡を貰って私も急いで病院に行った日の夜旅立ちました。肺炎が良くなっても嚥下障害に苦しみほとんどものが食べられなくなって二ヶ月以上でしたから、体は楽になったのかも知れません。入院後、叔父の事を考えなかった日はありませんでした。夜７時過ぎに、庭の水仙を一輪切って花瓶に挿し、叔父の家に届けました。叔母と会う事が出来たのですが、玄関の棚の上には叔父が使っていたヘルメットがいつもと同じように乗っていました。前年の手術後にバイクを処分するまでの長い相棒でした。ヘルメットの色がメタリックで無機質とは感じられず、丸いフォルムに温かみを感じました。叔父の帰りを待っている片割れのようでもあり、落ち着いて冷静な温かい叔父の眼差しのようにも思われて不思議な気持ちになりました。皆を案じて見守っていてくれるようだと思った瞬間から、私にとって叔父の魂は生きて永遠に身近に居てくれる存在になったのだと思います。それはとても厳粛で温かいこころもちでいられる、そういうものなのですね。寂しさや悲しみももちろんありますが、感謝の気持ちでいっぱいです。今はただ、安らかにと祈るばかりです。

1月9日、札幌にもう一度

北海道縦断の番組を見て、随分前に行った札幌のまちの事を色々と思い出しました。一区画が広く、整然としていました。清冽な美しさが、私の心の波長に合ったような気がしました。紅葉もぼつぼつ終わりでしたが、深い黄色の銀杏の葉は散ってもそれはそれは美しく、今までに見た事もないようなものでした。便利な場所のホテルに宿泊しましたが、そのホテルの従業員の方々の接客が、群を抜いているように感じたのです。馴れ馴れしくなく、慇懃無礼でもない、立ち入らなくてもさりげない会話で客のニーズなどを把握してサービスしていたように思いました。こんな言葉では言い表しきれない温かみのあるものでしたから、また行きたいではなく、またここに戻って来たい、そんな気持ちになったのだと思います。道路を渡ると、ホテルの向かい側になにわ書房という書店があり、北海道新聞社から出されているノンフィクションの本を何冊か買い求めました。夕方になってもまだ十分明るい札幌で、毎日夕方になると、このホテルの前の書店で本の立ち読みをしたものです。ライラックもホワイトイルミネーションも、皆このホテルに泊まって見ました。旧館の中庭の木々の紅葉や雪の積もったナナカマドの実もよく覚えています。出来れば是非またいつか帰りたいもう一つの故郷の家、そんなホテルでした。これからも、残すところや変える所を考えながら、老舗の良さを受け継いでいって欲しいなあと思っています。札幌は、今頃雪まつりの準備が始まっているでしょうか。

1月6日、北海道縦断

函館から稚内に鉄道で行く、というテレビ番組を途中から観ました。秋の風景でした。旭川以北は列車に乗った事がないので、未知の風景です。原野のような所や、まるで森の中に分け入るような所もあります。列車はこの地の自然に誘われてでもいるかのように、何のためらいもなく滑るように進んで行きます。鉄道の敷設には大変な困難があっただろうと思うような箇所が多くあります。北海道だけでなく、全国各地の自然豊かな所に行く事が出来るのも鉄道あってこそだったのだろうと、いつも思っているのです。針葉樹も紅葉した木々もあり、澄んだ空に映えます。緑も水も澄んでいて翡翠が溶け込んでいるかのよう、空も濁りを知らないような色ですから、空気も綺麗なのでしょう。名寄の駅の外観は、ロシアの古い建築を思わせ、かつて本で読んで想像した戦前のサハリンの建物に似ている気がして、旧知の人と再会したような不思議な気持ちになりました。名寄から更に北の豊富で降り、歩いて行くとそこはサロベツ原野です。取材時が花の少ない季節だったのだと思いますが、このサロベツ原生花園の草が、やや赤みがかった黄金色にどこまでも続いている様が見事で、草紅葉とはこういうものなのだろうかと、引き込まれてしまいました。この大地と、鼠色の雲が点々と広がる中にも太陽の光がさしている空のコントラストは、自然以外の物には決して描けない、絶妙という言葉がぴったりでした。こういう綺麗な所を大切にしながら仲良くこの地球で生きて行きたいものだ、この夜の旅で、またこういう思いを深くしました。

1月3日、良かったを探して

年末年始は風邪をひいて治らず、大変でした。インフルエンザではなく、熱も出ませんでしたがやはりつらいので、なるべく無理をしないように過ごしています。12月半ばから少しずつ鼻や喉の調子が悪かったので耳鼻科に行き、27日に内科を受診し、そこで頂いた薬のお陰で回復中です。花粉症になってから冷たい空気に過敏になってしまいましたし、空気の乾燥も影響しますね。暖房している時は濡れタオルを干すなどして色々工夫しています。ついうっかり、とかこのくらいは大丈夫だろうなどと甘く考えてしまう事が重なると、いつもより自分の身体に悪い環境となってしまうのだと、痛感しました。手抜きや過信は、自分をカチカチ山の狸の泥舟に乗せてしまいます。ですが、今回年末でも病院がまだ休みでなかったので助かりました。年末に病院に行くなんて、と考えるより、開いていて良かったと思う方が気持ちが上向きになりますから、なるべくこのように受け止められるようにしたいものです。今年は、どのくらい良かった探しが出来るでしょうか。

12月30日、鏡餅

おせちの広告を見かけるのが昔より早くなったような気がします。秋は収穫の季節ですからお祭りや地域の運動会、文化祭もありますね。紅葉が美しいと感じるとそろそろ冬、毎年カレンダーを変えるのも間もなく、となります。四季の変化を深呼吸しながら味わいたいなどと思う昨今です。スローですね。年齢というものでしょうか。ところで、年末にスーパーに行くとある音楽が流れている事が多いのですが、それはどこの店でもほとんど同じ曲で、飾りましょったら飾りましょ、鏡餅、というこれだけの短いものなのです。活気のある店内で生鮮食品を選ぶのは楽しくもあるのですが、この短い歌が繰り返しずっと聞こえているものですから、店を出ても耳の中に残って、私の頭の中では暫くは鏡餅が躍っているようでこれはちょっと困った事です。寒さが厳しくなりました。災害の多い年でしたけれど、皆様お身体を大切になさってどうぞ良い年をお迎えください。

12月26日、べったら市と切り山椒

降りしきる雪の明るさ切山椒、冴ゆる夜の心の底にふるるもの、今朝水を使っていて久保田万太郎のこの句を思い出しました。晩秋になると、祖母がべったら市で売られているべったら漬けと切り山椒を自分の母親が好きだったと言い、曾祖母の話をしてくれたものです。代々江戸の商人だったという曾祖母の実家の子孫が今どこでどのように暮らしているのか知る由もありません。特別の理由もないけれど先祖の家のその後を知りたいと思う事があります。誰しも先祖は沢山いますよね。勿論悪事を企んでいるわけではないのですが、個人情報は教えてもらう事が出来ない時代です。そのようにする必要があるのは分かりますがちょっと残念です。江戸の庶民の暮らしがにおいたつような俳句に、会った事のない曾祖母の顔が見え隠れして、不思議な朝でした。お正月を前にして、すっきりとした江戸の粋に触れたようで、そういう先祖の暮らしを懐かしみたいような、余韻の残る温もりを貰いました。明治の若い知識人の日々が、まるで自分が東京の街中にいるように伝わってくる夏目漱石の文章も好きなのですけれど、久保田万太郎も良いな、と思いました。祖母は、朝顔に釣瓶採られてもらい水、という俳句が好きでした。

12月22日、鋭い痛み

札幌の爆発事故のニュース、驚きました。建物は跡形もない状態ですから凄まじい爆発だったのが分かります。亡くなった方がいない事が幸いですね。私は怖いので、使い切ったスプレー缶は庭の何もない所で、穴をあけて捨てるようにしています。それから、南青山に児童相談所を作るための説明会での様子、この報道にも驚きました。児童相談所は一時保護が必要な場合子供を保護しますが長くそこに住み矯正教育を受ける所ではないですし、私の家から遠くない地区にもあります。外装が大分古びているので、温かみのある色で綺麗に塗り替えられたら良いだろうに、と思っていた矢先でした。土地の価値が下がるというのは価格ではないもの、という事なのでしょう。生活レベルの高い所にそうでない人が入ってきたら暮らしにくいだろうとか、自警が必要になるのでは、というと犯罪が増えると思っているという事なのでしょうから分かりかねますが、児相についての説明が不十分なのかも知れないですし、人は千差万別なのだなあと改めて思いました。自分の今の日常を守るとか保つという事を考える時、他者とのかかわり方だけでなく、受け入れるのか否かさえ問題になる現代の一つの例という事なのでしょうか。この問題と直接かかわりはないけれど戦災孤児の保護を描いたドラマ鐘の鳴る丘の主題歌の一節、緑の丘の赤い屋根、こんがり帽子の時計台、あの歌詞とあのメロディが浮かんで来て、まるで割れたガラスのかけらが手のひらに突き刺さったような鋭い痛みを感じました。私にとって今年の漢字は驚かも知れません。良かった事も災害や事件事故なども皆驚く事ばかりでしたから。

12月18日、そうなんですね

食事は時代の影響を受けた暮らしが反映されたものなのでしょう。食育は、食事のバランスや食べる分量、マナーを教える事だと思いがちですが、それだけではなく、自分の信条や価値観も背後にあるのかも知れません。育った家庭の人間関係や自分が見て育った親の背中が、一緒に食事をしている相手にも感じ取れるものだと思います。ですから、今も変化しつつあるし、家庭によっても違うものなのでしょう。最近、昔はお香典の場合、お札を裏返しにして袋に入れたけれど調べてみると今は表を上にして入れるように昔とは逆になった、常識が変わったのだ、という話を聞きました。常識というのはそもそもあいまいなものとも言えます。しかし、何故昔の人はお札を裏返しにするようになったのかと考えてみると、人が亡くなるのは決して喜ばしい事ではなく起きてほしくない事で、このような事が続かないで欲しいという気持ち、それは亡くなった方を悼み遺族を労わる気持ちにもつながるのではないかと思うのです。ですから、今の時代に合わせなければならないとか、どちらかが間違っているとか言えないと思います。お葬式に頂いた春日饅頭は四個入り、亡くなった方は北枕に寝かせ着物は逆さに掛ける、水を先に入れてからお湯をその入れ物の中に入れ、亡くなった方の体を清める、つまり普段しないようなやり方が目立つのがお葬式という非日常の日の、物事のやり方の手順なのです。ですから、意味があるわけです。お葬式に限らず、慣習にはそれぞれの地域の特性に合わせた、合理的であり、願いや祈りのこもったやり方が確立され伝承されて来たのだと思います。伝える事をしないと食文化も行事も断絶します。今の時代に合わないと思ったら無理に昔のままに行わなくても、どのようなわけで出来た慣習や行事等がどういう風に行われてきたのか、それだけでも伝えたいと思っています。私は自分が次の世代に伝えて行く中継ぎという役割があると思っているものですから。何もその通りにする事を強要するものではなく、昔の人の知恵を知って先祖達の暮らしぶりに思いを馳せ、その心を偲ぶという事も大切に思うからなのです。どんなに家族の囲む食卓が変わっても、いつの時代も家族への愛情や信頼は決して変わらないものなのではないでしょうか。最近は、そうなんですね、という相槌をよく聞きますが、私には違和感があります。まるで相手の話す内容をあらかじめ知っていたように感じられる表現、と思うのも今の時代と私とのギャップなのかも知れません。

12月15日、食器

子供の頃、箸の持ち方や使い方、食事のマナーなどを教えられました。子供ですから食事の度に橋の持ち方を教えられ、いつの間にか自然に大人と同じように箸を持ってスムーズに使えるようになっていました。このように出来ると箸はとても便利です。幼稚園は給食ではなくお弁当でしたが、箸の使いにくそうな子はいませんでした。今、仕切りのあるお皿を店で見かける事が多いのですが、ワンプレートですと片付けも楽という利点があるので好評なのかも知れません。食事は楽しく、というのも大切で、いくら美味しそうな料理が並んでいても気まずく底冷えがするような雰囲気では美味しく感じません。でも、食事のマナーは身について行くものですから、大きくなってからでは変えるのは難しいというのも事実です。大皿に盛った料理を一人ひとりが自分の小皿に取ってから食べる事も、献立によってはありました。ところが大皿料理ですと、自分の食べる量は人数を考えて食べるようにしなければなりません。そのようにすると気を使って食べなければならなくなるので嫌だと思う若い人が増えている、このような話をラジオで聞きました。私は大変驚きました。さりげない気遣いは対人関係には欠かせないものですし、大人はごく自然にそのような事が出来るように育てられ身について来ているのが当たり前と思っていたからです。これも私の価値観、という事になりますね。大皿のおかずがこのような理由で負担ですと、会社での人間関係も配偶者の親達との日常の関わりも猶更大変なストレスになるのでは、と思います。それは私達世代より大きな負担と感じるのだろうと思います。良いとか悪いとかいう事ではなく、どんなに親しくても自分以外の人には少しは気を遣う、それが相手を大切にする事であり、良い人間関係につながり、結局自分を大切にする事になると思うのですが、いずれにしても時代はいつも少しずつ動いているのですね。

12月9日、生の下仁田ネギ

下仁田ネギは鍋物に入れるとすぐに柔らかくなってとても甘味が強いし、しかも太いネギですから、欲張って納豆にも入れようと思い、刻んでいました。ところが、普通のネギよりも涙がでるのです。口に入れてみたら非常に辛く、これは生で食べるのには向かない事が分かりましたから、刻んだネギはおみおつけに入れました。ところで、日産の会長逮捕のニュースに私も驚きました。50億円の収入を隠した、それがまず報道された内容ですが、大きな金額です。かつて経営の仕方を見直す時に、長年日産で働いて来たのに辞めざるをえなかった人や大きな影響を受けた零細な関連会社の人達は一体どんな気持ちでこのニュースを聞いているのでしょう。下仁田ネギなどより、人間社会の実際の有り様の方がずっと不可解です。それに比べたら生の下仁田ネギは甘いと言っても良いのでは、そんな気がした朝でした。

12月5日、ニチニチソウ

我が家の庭の側溝に、夏の初め頃植物の小さな芽が出てきました。このたった一本の双葉は、プランターからこぼれたニチニチソウだったのです。大きく育って、とても暑かった八月半ばにサーモンピンクの花が咲きました。いくら暑くても、台風の塩害で木や花が真っ黒になっても、ニチニチソウは動じることなく元気に咲き続け、今に至っています。目立たない花だと思っていたのに地味にコツコツ生きて花を咲かせ続けているこの花に、畏敬の念を抱きつつあります。そういう自分は一体どういう芯を持った人間なのでしょうか。

11月29日、寝た子を起こす

アメリカの中間選挙の結果についての予測や解説が新聞各紙に色々と書かれてありました。自国の利益はその国の国民の利益につながるでしょうから、そのような事を考えての政治はどこの国でも当然なのだと思いますが、トランプ大統領は度を超える事を度々言う人、と感じています。鎖国をしているのでなければ、他国との付き合いでした事は廻り巡って自国民にかえって来るのではないでしょうか。アメリカ国内の分断、という言葉も随分使われていますが、人や暮らしへの不満や、将来についての不安は普段も誰しもが心の中に少なからず持っているのでは、と思います。そのような負の感情が噴き出しているように思えて、寝た子を起こしたような気がするのです。一呼吸おいて考えてから発言し行動するのが常なのだけれどそうではなくなっているという風に感じます。魔が差すという言葉があります。魔というのは伝染する病原菌ではありません。その人の心の奥に潜んでいた暗い願望だと思います。それと似ているアメリカの今という風に見えます。トランプ大統領がそれを煽ってしまったのかも知れません。怒りは煽ると憎悪にもなりかねないものですから。秋刀魚を炭火で焼く時、団扇で風を送り過ぎると秋刀魚は外側が真っ黒に焦げて中は生焼けです。過ぎたるは及ばざるがごとし、の一例ですね。

11月23日、季節に敏感

玉ねぎの苗を少し植えました。梅雨前に収穫するのですが、春分の日を過ぎると土の中で膨らみ始めるそうですから昼夜の長さに敏感な作物ですね。随分遅くなりましたが10月末に大根とカラシ菜の種蒔きをしたので、もう冬の畑です。でも今年は暖かいので炬燵を出すのがいつもの年よりかなり遅かったですし、庭のカンナもいつまでも咲いてくれます。水仙が育ち、小菊も咲き始めました。この花が満開になる頃に、入院している叔父が退院出来ると良いなあと思っています。晩秋のキャンバスに触れて元気を貰えたら嬉しいですから。

11月16日、ありがとうは

子供がありがとうと言えない、挨拶が出来ない、いつの時代も子育て中のお母さんの悩みは尽きないですね。ラジオでこういう相談を聞いていてつくづくそう思いました。それと同時に自分が子供の頃の事も思い出しました。我が家は人の出入りが多かったものですから、自然にそういう環境に慣れて行きました。育つ環境に慣れ、無意識のうちにそこから学んで行く事は多く、それがその後の人生の基礎になって行きます。他者とのコミュニケーションは幾つになっても必要ですけれど、そう簡単なものではありませんね。子供の成長のタイプは様々ですから、その子のペースを理解しての躾やかかわりが大切だと思います。例えば、親の知り合いにお菓子を頂いた時、親はすぐにありがとうと言って欲しいと思うかも知れませんが、子供は思いがけず綺麗なお菓子を渡されて戸惑ったり、このおばさんのコートの襟元のブローチが綺麗だなあ、と思って見ていたからすぐにありがとうという言葉が出てこなかった、など、色々な理由があるでしょう。すぐにお礼や挨拶の言葉が出て来ないから挨拶やお礼の言えない子というわけではないと思います。私が小さい時、母と駅を出ようとした所で母の知り合いらしき人に出会い、その優しそうなおばさんがキオスクで大きな水筒型の入れ物に入っている金平糖を私に買ってくれました。ありがとうと言いはしたものの知らない人だったので戸惑いました。あの時、ただ反射的にありがとうと言っただけなのです。実は金平糖は綺麗だけれど甘いだけでそう好きではなかったし、お菓子や玩具を自分で目を輝かせて選ぶ事はあまりありませんでした。そう高価でない、家族からもらった玩具、母が作ってくれたおやつがあればそれ以上何も欲しいとは思わない子供でしたから、祖母に欲がない、と言われた事もあります。私だってありがとうと言いなさい、とあの時言われたらかえって身構えて言えなくなっていたかも知れません。ちょっと間をおいてその子の性格を理解したうえで優しく言葉を添えてあげる、せいぜいそのくらいで良いのではないでしょうか。あの金平糖をくれたおばさんは、お口開いてね、と言いながら生臭い生ワクチンをにこにこして私に飲ませた保健師さんだった事を、後で思い出したのでした。

11月9日、筥迫

昨日、雑誌で筥迫の写真を見つけました。七五三の衣装など話題に上る季節です。私も綺麗な筥迫は珍しく、そおっと手に取って眺めた時の重みや手触りがよみがえって来たような気がしました。あんまり綺麗で勿体ないもののように思え、玩具にするなどという事は考えもつきませんでした。数え年三歳の時の事はそうよく覚えてはいないので、ほとんどが七歳の七五三の時の記憶です。最近知ったのですが、筥迫の作り方を教える所があるそうでこれには驚きました。今の時代に筥迫は生活必需品ではありませんが、そこに込められた思いや、使われるようになった昔からの歴史などに触れてみたいような気もします。子供の時、普段遊ぶ時に筥迫を持って遊んでおけば良かったなあと、ちょっと後悔しています。

11月2日、マラソンの伴走者

堪忍袋の緒が切れると言いますが、堪忍袋の緒は破れたら縫い破れたら縫いして行くものだと祖母が言っていました。同じような布を足し、同じ色の糸で縫うといつか懐の深い人になれるのではないかと、手術して頂いて一つ気付きました。もう一つ、マラソンの伴走者のように人の話を聴くのは難しい、しみじみこう思いました。傾聴、共感をし、話している人が、自分が見えて来て、悩みの原因や解決法を自分で気付き納得して前に一歩踏み出すためには、聴き手は透明な鏡のようになる事が大切で、悩んでいる人の力を信じて向き合う事が大事、そう思ってきました。でも、向き合う事ばかりでは、マラソンの伴走者のように、寄り添ってくれないという不安や不満を感じさせてしまうかも知れない、私はいつの間にか鏡のようにならなければ、という事に偏っていたのです。入院、手術というのは生まれて初めての事でした。その不安や緊張は、お医者様を始め病院のスタッフの皆様のきめ細やかな対応のお陰で次第に解きほぐされて行きました。手術をして頂いてよくなった事へ感謝の気持ちと、最近の自分に足りなかったものに気付かせて頂いたという二つの思いで日々過ごしています。

10月26日、入院、手術

以前にちょっとお話ししましたが、二ヶ月ほど前に一晩入院して目の手術を受けました。手術前、病室の窓からは台風の影響で、きらきらと光る、白く背の高い積乱雲が足早に次々と通り過ぎて行くのが見えました。普段積乱雲は好きではありませんが、あの時は不思議と、雲がふわっとバリアーのようなものになって見守ってくれているように感じました。寄り添うように励ますように。その事が私には大きな力になりました。その後、手術中に、光の加減なのか綺麗な風景が見えました。突然目の前が開け、とても強い白い光が上から放射状に差して来て、その下に枝振りのよい松のような高く大きな木が枝を広げ、傘の開いた椎茸のような姿でその光を受けている、まわりは夏木立色に煌めく湖のようで、美しい、と感じました。私はすうっと下からエレベーターか何かで上がって来てそれを見ています。えっ、と思いました。雲海の上よりもっとずっと汚れていない、美しく厳かな今までに見た事のない、現実にはないような風景でした。何秒間だったのか短い間でした。あれは何だったのか、不思議な体験でした。退院前に、イラクから目の治療にやって来た綺麗な目をしたモハマド君の顔が目に浮かびました。治療を受ける事が出来なかった幾人のモハマド君がいることか。今の時代の日本にいるから一晩で無事退院できるような治療を受ける事が出来たのであり、このようにそれを享受出来るのは決して当たり前の事ではないと思います。もし今戦争をしていたら今日一日生き延びられるかどうかさえ分かりません。治療を受ける事が出来た事に感謝しています。

10月19日、自分の手

はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢっと手を見る、これは石川啄木の一握の砂の中に出てきますね。子供の頃祖母に聞いた事があります。ふっくらした小さな手の祖母でした。若い頃はもっときれいな手だったけれど働き続けて年をとったらすっかり老人の手になってしまった、と感慨深そうに火鉢にかざした自分の手をじいっと見ていました。ある時、結婚してから波風が立ったこともあるけれど、子育てを経た女性に孫が誕生し、産まれたばかりの赤ちゃんは久しぶりだったのでおそるおそる抱いた、その自分の手を見覚えのある手だなあと思ったそうです。それは昔自分が子供だった頃の、今は亡きお母さんの手にそっくりだった、そういう話も聞きました。自分の手には自分が生きて来た歴史が刻まれているのでしょうか。小学一年生になった頃だったか、健康診断と知能テストが行われました。生まれて初めての事ばかりが待ち受けているのが学校でしたけれど好奇心や不安などがあったかどうかよく覚えてはいません。自然に学校生活に順応して行ったものでした。あの時、知能テストの中に、菱形を書きなさいという問題があり、2Bの鉛筆で一生懸命書きました。いびつな菱形になったので何度か書き直したのですが、定規を使って書いたわけではないのでどうしてもいびつな菱形になってしまい、とても残念だったので今でも覚えています。あの時も、いえ、その前からこの手がずっと働いてくれているのだと改めて思い、自分の身体の一部だけれど相棒だと感じ、感謝しています。

10月12日、未知との遭遇

叔父が入院しました。肺炎で、長い入院にはならないとの事でひとまずホッとしました。この叔父の弟にあたる人と一緒に見舞いましたが、看護師さんの許可をもらったので剃刀で髭を剃ろうと言って、この弟が綺麗に剃ってあげたのです。病院の窓には白いレースのようなカーテンがかかっていてかすかに揺れていたものですから、私はぼんやりと霧がかかっているような気がして、このカーテンを開けたら叔父兄弟が若かった頃や、仲良く一緒に暮らしていた子供の頃に、記憶を手繰るようにして現実にも戻って行けるのではないか、と一瞬思いました。その頃の二人に戻してあげたい、こんな妙な事を考えてしまいました。心配だと普段より饒舌になる弟はいつになく静かで真剣な表情をしていました。様々な思いが胸に去来したのだろうと思います。この二人には、兄弟にしか分からない魂の触れ合いのようなものがあるのだろうとしみじみ思いました。元気な人の方が複雑な思いだったかも知れません。八十前後の年齢の二人の事を見ながら、色々と考えさせられました。私も年を重ねて行くのだけれど周りの親戚も友人も皆そうなのだという当たり前の事をいつか忘れていたようです。老いるという事は、日々未知との遭遇ですね。どのような日々になるのでしょうか。私は、試験の結果発表を待つ時のような不安も感じます。

10月5日、塩

塩は食べ物を美味しくしますが、量が多すぎたり少なすぎたりすると料理が不味くなります。加減が大切ですね。学生時代、台風の通り過ぎた翌日に電線が鳴っていた事があったのを思い出しました。この辺りでは、先日の台風24号はどちらかというと雨より強風が長時間続きました。雨で洗い流せなかったせいもあるのでしょうが、塩害はかなりひどいものでした。そういう事があるかも知れないと思い、小さいナスの実、赤紫蘇の葉も皆収穫して使い、秋桜も切って花瓶に挿してしまいました。でもそれは最悪の場合、という事で念の為くらいの気持ちだったのですが、いささか甘く見ていたようです。一晩でまさかこれほど真っ黒になってしまうとは。台風の威力に驚きました。真っ黒になったとはいえ、木ですから根が張っていて水分をかなり含んだ土からでも抜くのが大変でした。停電が長く続いた地域もありますし、出荷する予定だった露地栽培の野菜や果物の被害も多いのですから、我が家の野菜などはささいな事ですね。今年は台風の影響の多い年です。あんなに暑かった夏もいつの間にか過ぎ、朝晩ひんやりとする季節、月の美しい秋になったのですからもう台風も地震も治まって欲しいものです。風邪が流行っていますね。皆様もどうぞお気を付け下さい。

9月27日、秋のサヤインゲン

プランターに少し残しておいたサヤインゲンに実がなっていました。収穫して筋を取ろうとしたらサヤが硬いので、実を出し、煮てみました。栗のようにホクホクしていて美味しそうです。私も年を取るにつれてこのさやのようにみずみずしさが減って硬く筋っぽくなって行くのかも知れない、ふとそう思いました。今どのくらい頭が固くなっているのだろうと思うと、その分中身の美味しい豆になってぎゅっと詰まっていれば良いのだろうとも思えてきました。実は自信がなくていささか不安になりました。思い切って窓を開けると、さっと冷たい空気が入って来てよどんだ気持ちが新鮮に蘇るように感じました。その日、秋雨の降り続くどんよりとした空から、新しく新鮮なものを貰ったように感じました。

9月21日、その日以外の364日も

北海道の地震は、停電の規模と日数が深刻で、普段の生活の中でいかに電気を使う物が多く、それが当たり前になっている、それが今の私達の日常なのだという事を改めて思いました。台風通過の直後だったためか、あまりにも広範囲の土砂崩れの映像に言葉もありません。亡くなられた方お一人おひとりにそれぞれ歩んできた人生があっただろうと思うと痛ましい限りです。去る者は日日にうとしとはならないように、と自分に言い聞かせました。敬老の日や子供の日などに限らず高齢の方や子供の生活に、社会が目を向け大切にかかわって行く事が大事だ、などあれこれ思いました。

9月16日、交代

仏壇に供える花が段々秋の色になって来ました。吾亦紅の茶色やメキシカンセージの赤みを帯びた紫が良く似合います。カンナやラベンダーのようなはっきりした色、涼しげな青紫はまた来年ですね。猫も季節の変化を感じているのか、人間の膝に乗りたがるようになりました。あんなに暑かったのがまるで嘘のようです。穏やかに季節が移行して行くようにと切実に願っています。

9月9日、台風21号

こんな台風は初めてでした。4日夜はピューッという音がする突風のような強風で、随分広い強風域に驚きました。翌朝は雷雨で土砂降りでした。先日、二十数年働いてくれたエアコンを替えました。とうとう寿命で。我が家にやって来た初めてのエアコンで、とてもお世話になったし思い出が一杯です。ご近所の電気屋さんにお願いしたのでアフターサービスが良く、なにより安心です。このように思っていたら６日に北海道で大きな地震が起きました。息つく暇もない日本列島ですね。被害が出来るだけ少ないように祈るばかりです。先月下旬入院し、手術を受けたのですが、ようやく洗顔と洗髪が出来るようになりました。目の手術後は姿勢に制限があり、頭を下げるような姿勢は当分出来ません。スプレータイプのドライシャンプーは使い心地がよく、助かりました。どんどん便利なものが増えたり改良されたりして行くのを実感しました。

8月21日、裏ごししていました

体調に不安のある時に知人や友人に言われた事を後でふっと思い出しました。夜中に目が覚めた時に突然思い出し、不安が増したのです。相手に悪意はなく、大した事でもないような事が心に残ってしまったのは、体調に不安がある事と関係のある事だったからだと思います。不安を拭うように考えられる人はプラスに物事を受け止める事の出来る人で、私は不安材料が一つもないようにしようと思って裏ごしするように人の言葉も受け止めてしまっていたのでしょう。だから自分が置かれている状況で、マイナスに考えられる要因を減らしたい、そうすると滅多に完ぺきという事はないので、かえってストレスが増えてしまいそうですね。このような感じ方は生まれつきの部分も育つ環境の影響もあるのですから、急には変わりません。気づいた事は気づかないより良かった、まずはそう思います。マイナスに受け止めてもプラスに受け止めても、その後の結果が変わらない場合もあります。くよくよする事が多いのが私の一面なのですから、自分らしい所でもあり、生きづらさを感じて困るほどでなければ、何も100％変えようと思う事はないと思います。ありのままの今の自分に気づき、受け入れる事が生きづらさの軽減になるけれど、一番抵抗があって難しいのかも知れませんね。

8月15日、ハーブと横糸

夏になると考えなければならないのが仏壇の花です。お線香をあげたり明かりをつけたりするので仏壇の中は温度が上がります。室温も高いから花は日保ちがしない、だから少なくとも一日おきに取り替えたい、毎年そう思いながらなかなか出来ず、初夏に紅花を買ってドライフラワーにし、それを使うようにしていました。でも今年は庭のローズマリーやミント、レモンバーム、セージなどを切って供えました。目立たないけれど小さな花が咲きますし、それぞれの香りも爽やかで清々しいと思ったからです。これだと毎日のように取り替えられますからとても重宝しました。切りたての花は売られているものより新鮮で、どのハーブにしようかと毎朝考えるのも楽しみだったのです。工夫して良かったと思っています。お盆にミソハギやナス、キュウリ、ハスの葉か里芋の葉は必ず必要でしたが、今は発泡スチロールやボール紙を着色してそれらしく作られたお供え用の野菜や果物がさして珍しくもなく売られています。夏野菜や秋の初めに収穫するものを供えていたのは、昔の田舎ではどこの家にもそれがあったからでしょう。ですから、ご先祖様を迎える気持ちが大切で、時代によって変わるのも悪い事ではないと思います。結婚したばかりの人にとって自分の配偶者のご先祖様とは血がつながっていませんし、顔も性格もその家の歴史も知らないのですから、今一つ納得出来ないかも知れませんね。でも、そのご先祖様が一人も欠ける事なく生きて来たから今の自分の配偶者がここにこうして存在し、出会って結婚したのだと思うと不思議な縁を感じます。偶然というよりも必然だったのではと思えて来ませんか。縦の系譜は変えられなくても、自分が大人になってどんな家庭を築いてどう生きて行くかは、育った家庭の環境プラス自分がどう考えどう実践して行くかなのだと思います。縦糸に横糸をプラスしてどんな図を描くか、横糸を選んでどう彩るのかは自分次第、という気がします。

8月8日、未知の季節

台風が東から西に進む事があるなどと考えた事もありませんでした。蛇行した偏西風から切り離された寒冷渦というものと関係があるらしいですが、どう説明されてもやはり不思議で不気味だとしか思えません。夏祭り、綿あめ、海ホオズキ、金魚すくい、花火に蚊取り線香、盆踊りなど夏の思い出はいくらでも浮かんでくるのに、そういうものがはるか彼方に吹き飛ばされてしまったような今年の夏です。急に未知の季節に、好むと好まざるとにかかわらず足を踏み入れ、歩いているような気がします。それぞれの季節らしい自然現象というものは、自分の経験や学校で学んだ知識から考えてきましたけれど、それではこれから先の予測がつかなくなったのかも知れない、そう思うと底なしの真っ暗な穴の前に立っているようで言いようのない恐ろしさをひしひしと感じます。これからも太陽が東から昇って西に沈んで行くのでしょうか、と誰かに聞きたくなった私は自分の知識が乏しいのです。気象の事ではないそれ以外の事の場合、常識だと思っている事にとらわれすぎているのかも知れない、もう少し柔軟な発想が出来るようになりたい、そうしたら物の見え方が変わるだろう、などとも思いました。お墓掃除も済み、今日はまた近づいて来る台風を不安に感じながら、いつも通りの穏やかなお盆を迎えたい気持ちで一杯です。

8月1日、変わって行くまち

昭和39年10月に東京オリンピックは開催されました。東京オリンピックも、その後の札幌オリンピック、長野オリンピック、皆段々遠い過去になって行きます。オリンピック開催地では様々な準備がなされ、町は変わるのでしょう。長い間帰らなかった故郷が、ふと懐かしくなって訪れたら、オリンピック前の面影はなく、どこに住んでいたのかと思うほどの変貌に愕然とした、という話を聞いた事があります。故郷が、心の中にだけ残っている風景、という事を実感する気持ちは、どのようなものなのでしょうか。抱えている寂しさや切なさ、ほろ苦さや懐かしさは、どこにいったん下ろしたら良いのだろう、と考えてしまいました。私はここにしか住んだことがないので余計にそう思うのかも知れません。良いとか悪いとかいうのでなく、これが時間の流れの中で、人間がその都度選択し、変化させて来たのであり、これからも町に一日として僅かの変化もない、などという日は決してありはしないというのが現実です。人の人生よりはるかに長い歳月、時間はそのようにして過ぎて来たのでしょう。ふと立ち止まって過去を反芻し懐かしみたい人間の思いが取り残されたままになっているようで、昔々からの沢山の人のそういう思いを受け止め、慈しみたいようなそんな気持ちになりました。

7月25日、暑中お見舞い申し上げます

酷暑という言葉を聞くのもうんざり、今年はそういう夏ですね。それでも、7月半ばにヒグラシやミンミンゼミの声を聞きました。高気圧を着重ねながら季節は少しずつ秋へと移行して行くのでしょう。朝晩花や野菜に水やりをしていますが焼け石に水、に近いです。毎朝5時から笹刈りや草取りをするのも朝のうちしか出来ないからなのです。段々温帯でなくなって行くようで、北半球が熱を出している状態のようにも思えます。異常気象の源は地球温暖化、ひしひしとその恐ろしさを感じます。皆様くれぐれもお身体に気を付けてお過ごし下さいませ。

7月18日、理屈と感情の病院

サッカーのワールドカップ、高い視聴率だったそうです。大会直前までは、選手の顔ぶれに新鮮味がないなどというマスコミの反応でしたが、一つ勝ったら手のひらを返したようでしたね。出場した国の力の差は簡単に順位を付けられない、拮抗しているという事なのでしょう。実は少し前から、片方の手の甲が硬く晴れ、とても気になっていました。重い物を30分ほど持った直後にそうなり、ひと月近く迷って病院に行き、検査を受けて一安心、という状態になりました。反対側の手を庇ったのは、五十肩で１年半も苦しんだからだったのです。なるべく力を入れないようにしているうちに少し小さくなって来てはいましたが、インターネットで調べる事はしませんでした。インターネットは参考にはなると思いますが、参考にしかならないとも思うからです。原因が分からないからこそ病院に行く筈なのに、分からないから行くのが怖いのです。試験結果を聞きに行くような気持ちで病院に行くなどというのは、理屈ではおかしいのかも知れません。友人に同じ事を相談されたら多分理屈で答え、大丈夫よ、というと思います。でも、病院に行くのは原因が分かっていて深刻な病状ではないだろうと自分で納得している時でないと、誰が何と言ってくれてもなかなか行けない自分の姿が鏡に映っているのを見た、という気持ちになっています。それで、相手に共感しているつもりと、共感する事とは実は違うのだという事にも改めて気づかされました。病院のスタッフの方々は皆優しく接して下さり、これも不安で一杯の私には気持ちが軽く温かくなる事で感謝しています。私の一面は、用心深く疑い深い、臆病、皆当てはまります。思い切って病院に行った自分を褒めるのは自分に甘いでしょうか。でも今日は甘くしたいと思います。

7月11日、荒天に驚き、色々思っています

関東地方の梅雨明けが6月、停滞する梅雨前線が活発になり、北海道や主に西日本各地で未曾有の大雨が続き、テレビのニュースを見ていると夜に地震が起きるという目が回りそうな夏です。まだ夏は始まったばかりなのでこの後一体どうなるのでしょうか。オウム真理教で死刑が確定していた教祖を含む７人に刑が執行されたのもこの荒天のさなかでした。私は地下鉄日比谷線を通学に利用していたので、地下鉄サリン事件の起きた日の夜の、自衛隊の方達の除染の映像を今も鮮明に覚えています。秋葉原から埼玉方面へ通学していたので、サリンの入った袋がホームに出された小伝馬町はその秋葉原から一つ上りの駅という事に愕然としました。一人も人のいない夜の駅のホームは、霞が関方面への通勤客で立錐の余地もないくらいの朝の普段の日常と比べると、異様なものでした。とんでもない事が起きたという現実が生々しく伝わって来て大きな衝撃を受けました。山梨県内で工場のような建物が立ち、そこでサリンが作られていたなどと想像する事も出来ませんでした。明らかになるオウムの多くの犯罪に背筋が寒くなるような思いでした。原因があるからこのような人達が集まって教祖にコントロールされたのでしょうし、このような事がもう決して起きないように、とは思いますが、消しゴムで消してしまいたいような事件、という気持ちでもあります。亡くなられた方や今も後遺症で苦しんでいる方々がいらっしゃるという現実は重く厳しいものです。電車の中で人を殺める事件が起きてまだ日が浅い今という時代に、オウムの事件はつながるものだったのでしょうか。自分が大切にされないと感じて生きて来ると他者を大切に思えず、自分を粗末にしてしまいがち、心の空洞が求めるものは他者からのコントロール、そのような場合もあります。オウム事件をこのような言葉でひとくくりにすることは決して出来ませんが、何がしたくて何のためにどう生きて行くのかは、いつ誰にとっても大きな難しい課題ではないかと思います。一つひとつゆっくり手探りで、が私には合っているように思います。

7月4日、野菜の声

夏野菜の収穫がなかなか思うように行きません。気温が低いからかも知れません。雨が多すぎても少なすぎても、強風の日が多くても、生育に影響があるようです。露地栽培は自然次第だという事でしょうね。土作りも大切ですが、もともとのその土地の性質を変えてしまう事は出来ないので、その土で育ちやすい作物を栽培する法が楽なのだろうと思います。いつどのように、植えた苗にかかわったらベストなのか、体験しながら相手の声が聞こえるようになるのでしょう。ですから高齢の方はベテランです。最近、炭化鶏糞という物を見つけました。黒い粉状の肥料でにおいもありません。イモ類に良いようです。区画整理をし、住宅の多い地区なので、においには気を使う必要があります。ですからこの炭化鶏糞は使いやすくて助かっています。本来持っている力を信じて過保護にならないように、畑の野菜達の声を聴いてかかわり、美味しいナスやキュウリに出会いたいと思っています。

6月28日、賢い狸は帰れるでしょうか

久しぶりにバスに乗りました。用事があって隣のまちに行ったのですが、途中、山の中だった所を通りました。山の中といってもそこは広い住宅地で、店や病院などがあり、まちの一区画なのです。私が高校生だった頃、そこには友人が何人か住んでいましたので、山だったのはそれよりももっと前の事になります。山が切り開かれ建物が建ち、人が沢山住むようになると、時間が止まっていたように長い間変わらなかったその場所が動き出した、という風に感じられ、私はこのままずっと繁栄して行くと思っていたのだと思います。でもあれから40年以上経ち、友人達ももうそこには住んでいません。お互いに年を重ね、役割も変化して来ました。当然といえば当然ですね。それでもバスの中から見ると懐かしく、将来の夢や希望を語り合っていたあの時間が、木漏れ日のようにキラキラと今も輝いてこの場所に生きているような不思議な感覚になったのです。どうして、朝になりそれから一日が過ぎて夜になって、という事を繰り返しているうちに、人間だけでなくまちも変貌するのか、そんな事を疑問に思う事は理屈ではおかしい事なのですが気になってしまいました。何か素朴な疑問、といった感じです。もし、とても長生きの狸がいて、山から引っ越して幾十年ぶりかで故郷に戻って来たとしたらきっと迷子になってしまうのではないか、たとえどんなに賢い狸だったとしても。そう思うと私は賢い狸ほどの知恵を持ち合わせていないので、猶更混乱してしまった、このように思った一日でした。若い頃は忙しくしていて前のめりに歩いているように日々を過ごし、立ち止まって振り返る事は少なかったように思います。でも、ある日ある時の決断や選択が一生を大きく変えて行く事にもなるのですから、今この瞬間というものを、特に若い方に大切にして欲しいものです。一瞬の連続が人生なのですから。もっとも、私は後になってそれを実感している人間のひとりですけれど。

6月21日、起きてしまった事

新幹線の中での殺傷事件、五歳の女の子の虐待、死亡事件、どちらもまた私の想像し難いような事です。子供への虐待は後を絶たないですね。ノートに平仮名で書かれていた内容を新聞で読みました。報道の後、花も沢山手向けられていましたが、生きているうちにこの子のこの置かれている状況が分かったら何とか出来たかもしれない、と思った方が多いのだろうと思います。新幹線の車中の事件にしても、私がその場にいたとしてもどうする事も出来なかっただろうと思うのですけれど、二つの事件の前も後も自分がいつもと変わらない生活を送っている事が申し訳ないような、いたたまれない気持ちで毎日過ごしています。今はただご冥福をお祈りする事しか出来ない自分の不甲斐なさを痛感しています。

6月15日、忘れる事、許す事

ラジオで、あるお寺のご住職のお話をほんの少し聞きました。たまたまラジオのスイッチを入れた時にそういう番組を放送していたのです。私にはあまり信仰心というものはないだろうと思っていますし、特定の宗教を信じているわけでもありません。そもそもどのような宗教の内容もほとんど知りません。でも、この方のお話は聞けて良かったと思いました。天台宗の僧侶の方で、千日回峰行という大変過酷な行をなさった方だそうです。以前、別の僧侶の方のこの行を、ドキュメンタリー番組で見た事がありました。長く大変なこの行を終え、思う事や気づく事が多くあったのでしょう。それは悟りというものなのでしょうか。忘れる事や許す事が大切だという所のみ聞きましたが、それは理屈でなく、気持ちや感覚でも納得出来ないとなかなか難しいだろうと思います。こうしなければならないと考えて自分を納得させるのではなく、心からそう思えるからそうする、この違いは大きいですね。思考だけで決めると本当はそうしたくないのに、という気持ちがいつまでも心に残ります。このような思いが幾つも心の中にたまって行く事はストレスになりますよね。許すというのは他者ばかりでなく、自分という人間をも理解し、受け入れる事でもあるのだと思います。でも自分に甘くという事とも違います。自分を知る事、自分を受け入れる事、これはとりわけ難しいように感じます。自分の事だから完全に冷静になれないですし、盲点もあります。私に見えている私は一体自分の何パーセントなのか、と思いますし、自分の根っこは育った環境、親の躾や生き方から影響を受けて出来て来たものでしょうが、大人になったら少しも変わらないというものでもありません。日々変化している部分があるのだとも思います。ただ、念じるという言葉は、今という字と心という字から出来ており、今何をどう思いどうするのかが自分の明日につながって行く、という言葉を聞き、普段、今というその瞬間を大切にしているかどうかまたもや深く考えさせられました。

6月9日、漬ける

梅やラッキョウを漬ける季節です。私は手を抜こうと思って塩ラッキョウを買い求めたので、下漬けをせずにラッキョウを漬ける事が出来ました。生のラッキョウのにおいは強烈なので、漬けた容器は他の事には使えないからなのです。今年は杏の花が沢山咲いて綺麗だったのですが、実はほんの僅か、もしかしたらハクビシンやアライグマがやって来たのかも知れません。雛がいるのか、5月から烏が軒下に来て我が家の猫の為に汲んである水を飲もうとします。動物と人間の暮らしが近すぎて無遠慮に立ち入られているように思うのも、温暖化がじわじわと進んでいるからなのでしょう。考えさせられる事しきりです。

6月3日、干すと湿気が取れます

馬鈴薯と玉ねぎを収穫してホッとしています。毎年梅雨入り前に収穫するようにしているのですが、今年は梅雨の走りのような日が早くからありました。土の中があまり湿っていると芋類は腐りやすくなるのでこの時期は天気予報が気になります。玉ねぎは小さい物が多いですし馬鈴薯は量が少なかったのですが、ちゃんと食べられるものに育ってくれて感謝しています。収穫祭でもしたい気分です。私は初心者で下手なのでご近所さんに色々教えて頂きながら栽培していて毎年上手には出来ないのです。自然とうまく付き合いながら、というのが難しい理由の一つです。強風の日が多い今年は、植えた夏野菜にも影響しています。野菜や花の栽培は太陽の下で身体を動かす事になるので、ストレス解消になって清々しい気持ちになれます。お天気の良い日に、時々心も干すと湿気が取れて心地よいかも知れません。今日はキュウリ一本初収穫、糠漬けにしようと思います。

5月28日、王様の耳はロバの耳か

アメリカンフットボールの試合中に起きた危険な行為についてのニュースに唖然としています。でも、学生とかスポーツというものに限らず、事実を隠蔽しようとする事が増えているように思います。まるで内向きの閉鎖集団の中での洗脳とかマインドコントロールのようで背筋がぞっとします。王様の耳はロバの耳だという事を言ってはいけないと考えてしまうのか、それとも、そう見える自分がおかしいと思ってしまうのか、そのような危ういものを感じます。人の尊厳を無視するようにして他者をコントロールしようとする時、そこには人間の欲が潜んでいるのではないでしょうか。ムンクの絵の中の人のように叫びたい人が沢山いるのかも知れませんね。心の奥底にある感情を、思考で抑え続けると心が悲鳴を上げてしまいますから。私も大人として自戒し、推移を注視したいと思います。

5月23日、リンゴと蜂蜜　

5月17日のニュースで、西城秀樹さんが63歳で亡くなられたと聞いて愕然としました。63歳はまだ若いと思いますし突然でしたから驚いたのですが、私が子供の頃や若い頃に活躍していた方々が60代以上になっている事に改めて気づかされたからでもあるのです。私は特別ファンではありませんでしたが、祖母が、テレビでカレー粉の宣伝の度に西城さんが現われると言っていたのがついこの間のような気がします。脳梗塞を患い、リハビリをして、というその頑張っている姿に、きっと大勢の方が勇気や元気を貰った事でしょうね。ご冥福をお祈り致します。スクランブル交差点の信号が青になった時、自分が急ぎ足で一体どこに行こうとしているのか一瞬分からなくなった、そんな一種の迷子になってしまったように、時々思うのです。そう思うのは自分が年を重ねてからで、誰かが亡くなられた時です。長生きなさっていらっしゃる方はお元気で羨ましいとばかり思っていたけれど、それだけ多くの親しかった方を見送る辛さも味わっていらしたという事にもなるのですね。人生や人間というのは本当に奥が深いものです。まだ分からない事の方が多い自分なのだと改めて感じています。

5月18日、北海道　

北海道に何度か行った事があります。新千歳空港に近づくと、飛行機は徐々に高度を下げて行きます。黄葉のほぼ終わった木々、所々に雪も見え、その一区画の広さに驚いたと同時に、ケーキの上のウエハースやマジパンで作られた家が実在しているように感じたのです。それは新鮮な驚きでした。雪の降るのが当たり前の北海道の家は二階建てで、屋根の勾配も、雪が速く滑り落ちるように出来ていました。新千歳空港の地下から札幌行きの電車に乗ると、間もなく地上に出ます。その辺りには白樺によく似たダケカンバの木々が立ち並んでいて、まるでトナカイの足と見紛うようなそんな景色だった事などよく覚えています。旅は非日常の中に身を置く事が出来ます。でも、北海道では自由に動け、思っている事や感じた事も自由に表現出来ると感じたのは、単に旅先だったからではないように思います。さりげなく親切にして下さった方が何人もいらっしゃったのは北海道だけではなかったのに、北海道には、人に自分の価値観を押し付けないような雰囲気があったような気がします。割と頭の固い私に、自由にものを言って自由にふるまって良い、と背中を押してくれたような、丁度開放してもらったようだ、そう思えて、とても居心地が良かったのです。それでも、普段と特別変わった言動をしたわけではありませんでしたけれど。色々な所から沢山の人がやって来て開拓した所だからなのでしょうか。時々自分の心を開放すると、リフレッシュ出来て日常の様々な場が、今までとは随分違って見えてくる事もありますね。旅は私にとって貴重な時間だったようです。スーパーの北海道フェアを見たら、ちょっと今北海道に行く事は出来ないけれど北海道から絵手紙を貰ったようで、北海道のあれこれを楽しく思い出しました。

5月11日、ゆるゆると　

時々、想像もできない事件や事故のニュースに、トラヒゲ危機一髪、あのゲームのような世の中にいきているのでは、と感じる事があります。ところで、ゴールデンウイークにはゆっくり休んでリフレッシュ出来たという方、仕事が忙しく、休みではなかったという方、色々な方がいらっしゃると思います。心身の疲れが出る時期ですからどうぞお気を付け下さい。学生時代には、ゴールデンウイークはどこかに行きたいというより行くものだ、と思いながらあまり出かけることはありませんでした。混んでいるからです。何故出かけるものと思っていたのかは、多分旅行に行く人が多いというニュースや旅行会社のパンフレットなどにつられてだったのでしょう。最近は草取りや夏野菜の苗の植え付けをして過ごしています。出かけなくて残念だったと思わなくなりました。今年も、花をながめながらナスやキュウリの苗を買い求めて植えました。マイペース、と言いたいところですが、苗が店頭に沢山並んでいると、早く買わないと元気の良い苗から売れてしまうと困ると思いつい急いでしまうのです。やはり、知らずしらず世の中の他者のスピードに歩調を合わせているようです。

5月6日、子供の日とおじいちゃん

子供の日というと、鯉のぼり、菖蒲湯、藤、折った兜などを連想しますが、今年は連休前に藤が散ってしまったので拍子抜けしてしまいました。38年前の3月に亡くなった祖父は少年の心がある人だったといつかお話しした事がありますが、亡くなる4日前に具合が悪くなり、それでも起き上がって眼鏡をかけ、日経新聞を読もうとしました。毎朝そうしていましたから。考え方が柔軟な人でしたし、今がどういう時代でこれからどんな世の中になって行くのか、冷静に理解し、そして好奇心を持ってワクワク楽しみにしていたのだと思います。今この世の中に身を置いている事を体感するという事は、今自分が生きている事を実感する事なのですね。もっと元気で生きていて、これからの未知の世の中を体感したかったのだろうと思います。子供の日は何となく祖父の為の日のように感じられ、血圧が高かったとはいえ、私ももっと長生きして欲しかったとしみじみ思います。紫のまっすぐに伸びたアヤメに祖父の姿が重なるような、不思議で、懐かしい一日を過ごしました。

4月30日、深い言葉　

自分が思っているより浅いのが知恵、思っているより深いのが欲、このような言葉があるそうです。私ならこういう事に気づく事も簡潔に言う事も出来ません。自戒ばかりになりそうですが、たまには自分を褒めてやりたいとも思う今日この頃です。

4月23日、叔母を見舞って　

叔母の体調があまり良くないと聞き、見舞いました。私が子供だった頃の叔母は勿論若かったですし、私自身がそれから何十年も生きて来た事を、ついいつも忘れてかかわって来た身近な一人だったのだと改めて思いました。余程状態が悪いのかも、と覚悟して訪ねたのですが、思ったよりは体調が良いようでした。こうして時々、今の年齢や過ぎて来た時間、相手が自分より先に老いて行くのだというに気づく出来事が多くなって来ました。そのような事も受け入れて日々暮らして行く事が、生きて行くという事なのでしょう。一瞬たりともとどまる事はなく時は過ぎて行き、自分自身も心身ともに変化して行くのだ、そう思うと、芭蕉の、人生は旅、という言葉を思い出しました。少し寂しく、身の引き締まるような思いです。

4月18日、野菜の種蒔きをしました　

毎年桜の咲く頃から鴬がやって来ます。今年も笹鳴きを聞く事が出来ました。ピカピカの一年生を迎えたようで、毎朝、清々しくほほえましい気分になります。今年は少し早く夏野菜の種を蒔きました。黒いビニールのポットに蒔き、本葉4枚になったら植え付けます。キュウリ、カボチャなどの種ですが、目が出る頃の強風にはハラハラします。ご近所さんの真似をして里芋も植えましたが、これはなかなか難しいのでどうなるか分かりません。植物の生命力を信じて、その声を出来るだけ的確に聞いて行きたいものです。ホームセンターには立派に育ったナスやピーマン、トマトなどの苗が沢山並んでいますよ。

4月12日、言葉を使う　

私は短歌や俳句が好きです。きちんと学んだわけではないので、自分で作るのは難しいですが、詠んでみたいと思う時もあり、ふっと思いました。例えば、亡くなったお母さんの事を話す時に、母の写真が、というと、懐かしい過去のお母さんの思い出を話そうとしているのだろうと感じます。でも、写真の母が、というと写真の中のお母さんが写真から抜け出してイキイキとここに存在しているように感じた話し手がそこにいて、今お母さんが自分に語りかけている、その事について話そうとしているかのように感じられます。言葉の順序、助詞の使い方、皆大事な事なのですね。正確な情報を伝えるためには言葉が大切な役割を果たしますが、その他に言葉の使い方から感じる印象というものもありますから、話し手の人柄というか性格のようなものも垣間見えてきます。確かにどのような気持ちを持っているかは大事な事ですがその気持ちを伝えるのは行動だけではなく、まず言葉です。まだまだ勉強不足ですけれど、久しぶりに言葉を大切にしようと思いました。

4月9日、開店　

桜は駆け抜けるように満開になり、あっという間に散って、八重桜やツツジの季節になりました。何もかもが速い年ですね。我が家の鉢植えの久留米ツツジは満開になりましたし、牡丹の蕾がいつ開いてもおかしくない状態です。藤の花房も目に付くようになって驚いています。新しいスーパーが開店したので先日行って来ました。この店が我が家の一番近くのスーパーですし、昭和56年に忠実屋、その後にダイエーとなって、長い間店があったものですから、閉店後は不便でした。また便利になります。でも、ここは私が通った小学校の跡地なので、その変遷は感慨深い、というのが実感です。見渡す限り田んぼで、内房線の線路は遠くからでもよく見えました。教育は機会均等となって出来たこの学校は祖父の母校でもあります。十年後、二十年後に、この町も世の中も、一体どのようになっているのでしょうか。楽しみなような怖いような気がします。

4月6日、春の道　

東京で桜が満開になったというニュースを聞いたので、私も買い物に行く時に足を延ばして桜を見てきました。まだ満開ではなかったので、その後このウォーキングコースに何度も行きました。濃いピンク色の河津桜、ソメイヨシノ、早緑の葉桜へと季節が少しずつ移行して行くのは毎年の事ながら自分も自然と一緒に生きている事を実感できます。それもウォーキングの楽しみなのだろうと思います。さわやかな気分になれるのは当たり前なのではなく、日々何とか元気に暮らしていられるからです。若い方にはピンとこないかも知れません。そうやって昔から人間は生きて行ったのでしょう。毎日毎日、今日は未知ですし、明日も未知です。どのような心構えでどのように現実を受け止め、自分の心と折り合いをつけて生きて行くのか、意気地のない私にとっては、宿題を一杯背負って行くようなものなのかも知れないですね。

4月1日、巧言令色鮮し仁

日中私が家にいる日にかかってくる電話の内容は、ほとんどセールスです。お彼岸が近づいて来ると墓石、子供の年齢に応じて学習教材、成人式の振袖、震災後は太陽光発電など様々です。相手の電話番号から、インターネットでその会社を調べる事も出来る世の中なのですね。巧言令色鮮し仁、という高校時代の倫理社会の時間に教わった言葉を忘れるいとまがない昨今です。

3月27日、交錯する

お彼岸のお中日は寒い日でしたね。箱根にあんなに雪が積もるとは思いませんでした。この辺りは雨でしたが、夕方一時みぞれになりました。桜もさぞ寒かったでしょう。その後夢を見ました。電車に乗って隣町に行き、そこからバスに乗ってどこかで見たような細い道を行くと、商店や昔の店構えの食堂が立ち並んでいて、賑わっています。宅地造成中らしい山も見えます。現実にはない、知らない場所なのに何となく懐かしい所でした。そのうち家が沢山立ち並び、人も増えてもっと賑やかになるのだろうと思うと、失われて行くものがある事がとても勿体ないように感じました。たったこれだけの夢でしたが、日本のあちこちで、こんな風に様々な物が時代によって変化して来たのだろうと思います。何かを選ぶという事はそれ以外の物は選べない、という事なのでしょうか。自然や今までの町の良い部分を残しながら変えて行く事はきっと難しいのでしょうが、並立させる事も考える時期に来ているのでは、と思いました。お彼岸のお中日は彼の岸とこちら側が一番近くなる時、などと言いますから、こんな昔と今が交錯するような夢を見たのかも知れません。ところで、昼が夜より長くなると、玉ねぎがグングン育って行きます。こちらは現実ですよ。

3月22日、色とりどりの風船

古くからお付き合いのある方が色々な理由で減るのは寂しい事です。その中には亡くなった方もいらっしゃいます。どんなに悲しんでも、もっとこうしておけば良かった、とかこういえば良かったなどと悔やんでも、時間を巻き戻す事は出来ません。ですが、そのようにしてお付き合いして来た方々から教えられた事や学んだ事が沢山あるのだという事をふと思いました。風船に付けられて飛んで来た花の種が、今自分の手の中にあるのと同じような状態です。自分がその種をまいてうまく花を咲かせる事が出来れば良いのですが、時間が足りないなどという場合には、別の人に育ててもらうか、貰ってもらえば良いのかも知れません。今という時代から次の時代へ、中継ぎをしている、まるでバトンを受け渡しするリレーのようですね。次の世代の人が生きて行く事で、人間の命と一緒に様々な思いや知恵も受け継がれて行って欲しいものです。して頂いた事をいつか何かの形でその方にお返し出来なかったら、今度は自分が若い人に、その人に対して出来る事を丁度良いタイミングでしてあげる、そんな風にしてつなげて行きたいと思います。色とりどりの風船に、丹精して採れた花の種を入れた袋を結んで渡すように。美しい沢山の風船を受け取り、今まで私は生きて来たという事になるのだと思います。どれだけ大切に、適切に、それを生かしてきたのか反省する事が多いですけれど、やはりバトンは次の世代の人達に何とか渡して行きたい、それが互いに幸せに生きて行く事につながるでしょうし、昔の人達もきっと切に願っていた事に違いないと思うのです。

3月17日、桃の葉

毎年、年齢に関係なく、お雛様が店に並ぶと立ち止まって見てしまいます。雅やかだと感じるのですが、多分、男性と女性とではお雛様への思いや感じ方はかなり違うものなのでしょう。何十年も前、桃の節句には湯船に桃の葉を浮かべていました。良い香りで、窓の外の夕焼け空を飛んでいた飛行機は羽田空港に到着する便なのか、離陸して外国へと飛び立って行くのかなどと思うと、漠然とした将来への希望を感じたものです。本当は、外国へ行ってみたいという事と同時に、どうにかして自分が鳥のように空を飛べないだろうかという事も、真剣に考えていたのです。あの桃の葉の香りと共に今も深く心に残っています。裏庭にあった、天津桃という少し尖った形の、果肉が赤くて酸味の強いこの桃がとても好きでした。天津桃を最近見かける事はなくなりました。記憶の中にしか存在していないものがいつの間にか増えて行きます。祖父母や両親の思い出話の中に出て来た、私が見た事のない日用品や食べ物にも、いつか出会ってみたいものです。高齢の方も、思い出話をなさっている時はイキイキとし、特に女性は初めて子供を産んだ時の事をいつまでも鮮明に覚えていらっしゃるように思います。

3月11日、月日

震災から7年、あっという間だったのか長かったのか、どちらの側面もあるような気がして、よく分かりません。難しい事かも知れませんが、つらさを心にため込まないで口に出す事も、考えの整理ではなく、気持ちの整理につながります。被災なさった方々のお気持ちがどうか少しずつ楽になられますようお祈り申し上げます。震災がなかった事にはならないという現実に対して簡単に言える言葉はありません。忘れない、伝えて行く、と言えば、それは震災が過去になったようで今も行方の分からないご家族のいらっしゃる方のお気持ちを置き去りにしていると感じられ、本当になんとも言葉がないのです。厳しく重い現実だと思うのですが、震災で大変な思いをした子供達が成長し、卒業の季節に巣立って行く、綺麗な目と前向きな姿に、今年も私の方が励まされたような気持ちで3月11日を生きています。

3月7日、沈丁花

オリンピックはあっという間に駆け抜けて行ったような気がします。それに合わせるように冬も徐々に遠ざかって行きますね。春は出会いと別れの季節と言いますが、桜が咲く前に進級や卒業、進学、転勤などの季節となります。仲の良い友人と別のクラスになった事がとても悲しかったり、自分が友人達と別の高校に通う事になった事に呆然としたり、時代が変わってもそのような気持ちになる子供達は多いと思います。それは、丁度沈丁花の咲く季節です。秋の金木犀の甘い香りは柔らかく季節の終わりを告げ、物思いにふけったり、夜長の読書に人を誘うように感じられますが、沈丁花の香りは何かまっすぐで鮮烈という風にも思えます。若い時代の濁りのない他者とのかかわりの中での別れは、つらくてもその先の希望へつながって行くからでしょうか。純粋というのは大切だと思いますが、自分の価値観や感じ方だけが絶対というわけでない事も多いので、相手の気持ちも考えて振舞わないと、自分の価値観という物差しの使い方が原因で、意図したわけではないのに他者を傷つけてしまう場合もありますね。いまだに、人とのコミュニケーションは難しいと思う事があります。生まれつき持っている性質も躾や教育のように後天的に身についた事も、家庭により人により千差万別ですから終わりのない学びなのかも知れません。今年も道を歩いていると沈丁花の花の良い香りが漂っています。まるで追憶の世界に誘ってくれるかのようです。

3月3日、オリンピック

平昌オリンピックは気象条件が随分過酷な日もあったようですね。選手が気の毒だと思う場面が多々ありました。オリンピック開催中は暫し休戦、参加する事に意義がある、昔から言われてきた事です。ほかの事とはちょっと切り離して同じ条件の下、それぞれの種目の技を競うというと理想的だと思いがちですが、政治や外交との関係が色濃く表れるものなのだという事を今回感じさせられました。オリンピックが、物事が良い方向に動くポイントになればそれも良いのですが、政治は生きもの、外交も一瞬たりとも停滞している事のないもの、という現実を目の当たりにすると、一歩退いた所からオリンピックというものが見え、そういう自分が濁っているように思えてきました。選手達は、競技後に自然にお互いをたたえ合う姿が数多くみられ、心に残りました。いつどんな時でもこんな風に出来たら戦争はなくなるだろうにとも思いました。選手達が持っているものを、多分私は人生の中で落としたり忘れて来たり、気づかないうちに捨ててしまったりしたのだと思います。感動するのは素晴らしい成績を出したという事だけでなく、濁っていないからどの選手の競技をする姿も美しいのでしょうね。それにしても、夜競技の結果が分かってから見ました。自分の子供が出場しているかのような気がしてハラハラするからなのです。私はオリンピックの間、自分の心を洗濯機に入れ、グルグル回して洗っていたようです。このオリンピックが良い転換点になってもならなくても、移り変わって行く時代の中での竹の一つの節のようになって行くのでしょう。

2月25日、春を待つ季節

寒さの底にいると感じながらも、収穫したフキノトウ、沈丁花やロウバイの香りに、春の兆しを感じます。河津桜も早春の晴れた空によく似あいます。それに、少しずつ日が伸びていますね。この寒さを楽しむ事はちょっと難しいですけれど、近づいて来る春の足音を一つ、また一つと見つける楽しみがある季節なのだなあと思います。南房総の菜の花やストック、金魚草など、ぼつぼつ花屋の店先に並んでいますよ。春を待つ季節ですが、では自分の心にとって今はどんな季節なのでしょう。人と人が分かり合うという事は、百パーセント相手に共感出来て自分も心からそう思う事だとすれば、誰にとっても不可能なのではないかと思います。けれど、相手が自分とは違うという事を理解し尊重し共存して行く事がきっと大切なのでしょうね。難しいかも知れませんが、心も春を待つ準備が整って、となるように出来たら良いですね。

2月20日、ういろう

初めて外郎を食べたのは小学校高学年の頃だったと思います。出張で名古屋に行った叔父が買って来てくれたものでした。外郎が有名でよく召し上がる地域の方には失礼かも知れませんが、強烈な個性がないと感じたから美味しいと思ったのかも知れないのです。しっかりと自己主張をしていないけれど存在感がある和菓子との出会いは、心地良いものでした。ういろうと、信長、秀吉、家康、天下統一にまるでそれぞれの役割を果たすために生まれて来たようなこの三人の出身地はごく近いですね。進取の気性と地域には何か関係があるのでしょうか。今も自動車の生産など盛んですよね。外郎をお土産に持って行って、三人にあれこれ聞いてみたくなりました。

2月15日、雪が凍てつく世界

冬の最低気温の平均が-60℃、想像がつきませんね。ロシアのサハ共和国オイミャコンはシベリアのバイカル湖近くだそうで、冬以外は漁や農業をしているのだそうです。冬うっかり外に出ると凍死してしまうという、世界で一番寒い場所です。-71.2℃という記録にただ驚いています。でも写真だととても綺麗で魅力的です。カムチャツカもバイカル湖もとても美しくて惹かれます。空気が美味しくて星もキラキラ輝いているのだろうと思います。白夜と極夜があるのでしょうね。日本の夏は暑いので夏に行ってみたいと思いました。でも多分思うだけです。お金と時間、体調が理由です。花粉症になってから、鼻と喉が過敏になり、冷たい空気にすぐ反応します。湿度が上がった日、調子の悪い喉がいくらか楽になりました。人間も自然の中で生かされている動物なのだとしみじみ実感しました。

2月10日、ハンノキと思い出

ハンノキという木があります。この木の花粉症という方がいらっしゃるとは知りませんでした。小さい頃、我が家の山から木を切り、大八車という、木製の車輪に金物がぐるっと打ってある荷車に乗せ、運んできて自宅の庭で小さく切り、それを割って薪にしていました。炭と薪の時代、今とは随分違いますね。父が木を短く切っていた場所には木の粉が積もり、フカフカで、その時に切った木の匂いが満ちていました。特にオレンジ色のハンノキの切れ端は、私のお気に入りの遊び道具でした。でも、木が硬くないので薪としてはあまり良くないのだそうです。三角や四角の切れ端でどうやって遊んでいたのか、もうよく覚えてはいませんけれど、楽しいスポット、という場所でした。その傍には枯れた細い竹が何本も立てかけてあり、そこに沢山白っぽいフジツボがついているのも見慣れた光景でした。すだてをしていた頃使っていた物です。フジツボという名前を、それで知りました。空気が綺麗でのどかな田園風景、遠浅の海では海苔とアサリの養殖をしていました。春になると生海苔が必ずあって、海苔の酢のものの匂いは家中に満ち、もう冬ではない事に気づかせられるものの一つでした。確かに今より不便で、人間は骨のおれる生活をしていました。車を持っている人は非常に少なかったので、匿名の人がさっと通り過ぎて行く事は滅多にありませんでしたね。人間の生活圏と言いますか行動範囲も狭かったのです。ゲマインシャフト、ノンバーバルコミュニケーション、インフォーマル、という言い方がぴったりだったのだと思います。昔の小さな集落や部族などに似ています。決して形式ばらないし、同じ仕事をしているのですから互いの生活は似たようなもの、非言語で通じ合うよく知っている者同士が集まって暮らしていた集落というのは、暮らしやすかったように思います。経済成長期に入っていましたし、想像もできない事件が起きる心配はありませんでしたから。今の方が複雑、という気がします。仮想通貨が流失した、こういうニュースを聞く時代になって、本当に驚いています。

2月4日、厳寒

立春までようやくこぎつけた、と感じる今年、まだまだ厳しい寒さが続いています。寒中でしたので仕方がないとは思いますが、晴れても朝8時に氷点下などというのはこの辺りでは珍しい事です。今年は時々こんな気温になります。手袋をせずに10分も歩くと手が痛くなり、そのうち感覚がなくなりますね。耳の隠れる帽子でないと、その内耳たぶにしもやけが出来てしまいます。寒いのが原因なのか私の老化が原因なのか定かではないのですが、まさに厳寒です。マスクと眼鏡の両立が出来ない、とよく聞きます。十メートルを超す強風の日もあり、丈の高い物を植えてある植木鉢は気を付けないと転がってしまいます。秋口に初めて種を蒔いた、外側が紫色の大根、とても小さいのですが、なますにすると綺麗な桜色になるので、お昼前の霜が解けた頃収穫しました。水分は少なめの品種ですが、野菜の値段がとても高いので、助かります。一本三百円の大根、レタスもほぼ同じ値段等々、生産者の方も大変だろうなと思いながら、私も頭の痛い冬になっています。それでも、大雪が続いている時に降っているさなかにも雪下ろしをせざるを得ない地域の方を思うとあまり不満を言えないとも思っています。晴れて風の強い日は、アクアラインからさぞ綺麗な富士山が見える事でしょう。届いたばかりの造岩物質の標本を手に取って、あれを思いこれを思いしています。

1月31日、四年後の雪

今年は四年ぶりに雪が積もりました。春先まで油断は出来ませんね。断続的に寒気が入って来てとても寒いので、また雪が降る可能性は高いだろうと思います。1月22日の雪は夕方五時頃からでした。その三十分ほど前に雨がみぞれに変わり、一時間で庭は真っ白、風もありましたから着雪イコール停電するかも知れないと思いました。早めに家事を済ませるくらいの事しか出来ず、心配でした。幸い停電せず、翌朝にはかなり雪がとけていて被害もなくホッとしました。四年前の二月、雪の降る直前に行方が分からなくなったキジトラの猫の事を忘れた事はありません。子供の頃は雪というとワクワクして友達と喜び合って外で遊んだのに、この猫の事があるので今雪は私にとって辛い物となっているようです。でも、晴れても気温が低い日が続いています。強烈な寒気は北極からだそうですが、北極が深いため息をついているのでしょうか。

1月26日、反物質

物質と出合うと、光を放って消えてしまう不思議な性質を持つ反物質というものが、雷によって大量に作られているという事が、突き止められたそうです。反物質は、物質と電気的な性質が逆、宇宙誕生時には物質と同じ量あったけれどもその後ほとんどが消えた、などと言われても、私にはさっぱり分かりません。人工的に作ることが出来るそうですよ。新聞には自分の知らない世界の事が沢山書かれているように思います。年を重ねて感じるのは、私が知っている事よりも知らない事の方がはるかに多い、という事です。小さな自分を認めつつ、でも学んで卑下せず生きて行きたいものだ、と難しい事を思っています。

1月21日、手袋の片割れ

小学生の時でした。遠足で博物館に行き、ミュージアムショップで、造岩鉱物である石英、長石、雲母などの入った標本を見つけました。買いたいなと思った時集合時間になったのです。急いで買おうと思えば買えたと思いますがそのまま諦めてバスに乗る列に並びました。50年ほど前の事なのに時々思い出していました。先日、インターネットでもそういう物を販売している事を知り、高額でなかったので買う事にしました。まるでずうっと前に失くしたお気に入りの手袋が見つかったような気持ちです。手元に片方残っていると余計気になって諦めきれない、丁度そんな気持ちだったのです。ワクワクしていたら笑われてしまいましたけれど、こういう気持ちは幾つになっても失わないものなのですね。童心に帰って眺める事が出来そうで、届くのが楽しみです。

1月16日、歯の欠けた櫛

1月もどんどん過ぎて行きますね。それにしても、お正月らしさをあまり感じない今年の始まりでした。スーパーは毎年元日から開いていますし、いつでも何でも売っているように思います。それでも、華やぎ、年が改まったという区切りとかけじめは、一歩外に出て人が沢山集まる所に行くと必ず感じたものでした。ところが今年は、欠けて歯の少なくなった櫛で髪を梳かしたような感覚が残ったのはどうしてでしょう。お正月ってこんなものなのだろうか、という思いが残ったお正月は今までにはなかったので驚いています。

1月11日、本心が分からないので

先日パソコンを使おうとしたら、インターネットに接続できなくなりました。接続が不安定になっている状態でした。前日までは普段通りに使えたのですぐに連絡を取り、見に来て頂きました。外の線が痛んでいたようで、取り換えたのでひとまずは安心です。精密機械に情報を伝えてくれるものが風雨にさらされているのですから、過酷な環境なのでしょう。パソコンの調子が悪くなる事は滅多にないけれど、突然なので慌ててしまいます。パソコンの扱い方が悪かったのだろうか、といつもドキッとし、私のせいだったらどうしようと思ってしまいます。若い方には、理にかなっていないと笑われそうですね。パソコンは子供の時から身近にあったものではないので、便利すぎるのが怖いようです。実はその仕組みがよく分かっていないからこのように感じるのでしょう。付き合っていると違和感がなく、良い友達だけれど心の中が実はよく分からない人、進化を続ける機械は、このような友人との付き合いによく似ています。そんな風に感じるとパソコンが気を悪くするでしょうか。この時も、電話でサポートして頂きながらあれこれ操作している時に宅配の方がみえたり、滅多にかかってこない所から電話がかかって来たりと、重なりました。忙しくなった途端に玄関のベルが鳴る、電話が鳴る、そういう事は結構多いですね。不思議です。

1月6日、遥か彼方に冬晴れの空

澄んだ空気を切り裂くような鋭い烏の声に真っ青な空、朝起きるのに勇気がいる寒さです。でも、雪が間断なくなく降り続いている地域の方はもっともっと大変なのですよね。ところで、日本は島国なので周りは海ですが、だからといって鎖国をしているわけではなく、近隣の国との関係を考えなくてよいという事はありません。ですが、陸続きの国境を持つ国は多く、バルト三国もそうです。現在は独立していますが、隣国との関係を良好に維持して行くには世界の情勢に敏感でなくてはならず、私には想像も出来ないほど厳しいものなのだろうと思います。バルト三国はロシアの動静に常に関心を払っていなければならないでしょう。クリミア半島併合をどのような思いで見ていたのだろうかと思います。どこでも、仮に今は良好な関係であっても、国と国というものは多分これと同じなのだろうと思います。今隣国と緊張状態にある国々では、きっとクリスマスや年末年始の行事どころではない綱渡りのような毎日でしょう。今、この瞬間も、置かれている立場は一人ひとり違うのだという事を改めて思いました。日本と中国の間にも尖閣諸島の問題がありますが、映像で見る尖閣諸島周辺の海は青く澄んでいてとても美しいです。こんなに美しいのに謀略の海のようになっている事は悲しいですね。冬晴れの空は遥か彼方にあるのでしょうに、それがなかなか見えてこない重い現実にいつも圧倒されそうになります。

1月1日、変化を感じました

去年は年末に変化を感じました。年の瀬とか大晦日というと何となく慌ただしいような気がしますが、住宅街は至って静かでした。混雑しているスーパーに行っても、賑わいのようなものを感じませんでした。人が沢山いて物が売れているのですが、何かぱっと買ってさっと店を出て行く人が目につき、お正月を迎える華やぎとかゆったり楽しそうに、ではなくなごやかさを全く感じない、余韻が残らないと感じた光景は初めてでした。もっとも、年末と年始では店内に流れている音楽も違いますからそういう事もある程度影響しているのでしょう。今日は午前中にお寺にお年始に行って来ました。真っ白い一重咲きの水仙が二三本、まだ日の当たらない場所に清やかに咲いておりました。長い間御前様を支えてきた大黒さんの背筋を伸ばしたお姿に重なり、厳粛なものを感じて、写真を撮るのがはばかられましたので私の記憶の中に大切にしまっておきます。今年はどんな年になるのでしょうか。皆様今年もどうぞよろしくお願い致します。お風邪など召しませんように。

12月31日、心のかさぶた

学生時代お世話になった、二歳年上で研究室の助手だった女性のお父様がこの夏に亡くなられたそうです。ご兄弟は別の場所に暮らしていらっしゃるかも知れませんが、もうその住所に住む彼女のご家族はいなくなったのですね。まさか自分が一番後に残る事になるとは思わなかった、食事はご飯だけ炊いてお惣菜を買って来て食べる事が多く、いつになっても娘の部屋を片付ける気にはなれない、以前お父様からそうお聞きした事があります。お父様は皆がいる所へ旅立って逝かれたのでしょう。彼女のご両親に時候見舞を出す事は随分悩みました。私には書き添える近況というものがありますが、亡くなった娘さんにはこの世でのその後はないのですから、ご両親の心のかさぶたをはがす事になるのではないかと感じたからです。でも、今の自分に出来る事はこれだけでしたので続いていました。以前お話ししましたね。知っている人がまた一人いなくなって、自分がそれだけ年を取った事をひしひしと感じています。厳しい現実、寂しい限りです。今年は、友人が百歳近いお舅さんを看取った年でもありました。お舅さんが息子達と打ち解けて触れ合えて良かった、厳粛な気持ちで最後まで付き添った、そう言っていました。この事も以前にお話しした事がありますが、彼女は長く看護師として働いて来た人でした。私が存じ上げていて、今年旅立って逝かれた方々のご冥福を心からお祈りしたいと思います。それから、来年が皆様にとってどうぞ良い年でありますように。

12月25日、地球は老賢者

オレンジ、朱、深紅に変わって行ったドウダンツツジの紅葉も終わり、落ち葉が風に舞い、靴音が澄んだ空気の中で響くように感じられます。土の上に積もっている落ち葉を踏むと軽い音がします。カサカサッというこの音、ひそやかに見守り共にいるというメッセージのような優しい音に聞こえました。冷たくなった手のひらに、ぽんとカイロを乗せられたようなぬくもりが、優しい気持ちにしてくれる薬か何かのような今日の散策でした。そうですねえ、老賢者に出会ったみたいな気持ちです。地球は手品師老いたピエロ、という歌詞を思い出しました。

12月19日、退院

9月から入院していた叔父が退院しました。八十代なので手術室から戻って来るまで不安でした。長くICUでお世話になり、一般病棟に移って、ようやく家に帰ってきてホッとしています。私は家族ではないけれど近くに住んでいますし、子供の頃から叔父や叔母に随分可愛がってもらいましたので、出来る事をしようと思いました。出来る事は家族の気持ちを支える、用事があれば手伝う、、その程度の事を、考えながらほんの少ししただけだったように思います。ですがここでお話ししたものですから、叔父の退院は読んで下さった方々のお陰でもあるように感じられ、感謝しております。本当にありがとうございました。

12月14日、大きな先生のお姿

先日高校時代の先生からお便りを頂きました。私はいつも自分の、お世辞にも上手とは言えない字で書いた年賀状が恥ずかしいと思っていました。先生から毎年美しい花などの写真の年賀状を頂いていたからです。この先生が年賀状を今までのように作る事が体調を考えると難しくなったので、という内容のお便りでした。何か書きたいと思いながらなかなか言葉が見つかりませんでした。以前ヨーロッパにいらした時、初めて車椅子を使いましたとお便りに書かれていて、何とも言えない気持ちになりました。いつの間にか教えて下さった恩師を労わるような年齢になった、歳月が飛ぶように過ぎて行った現実が認め難く、しばし茫然としていました。私が覚えているのは四十年以上前の先生のお姿なのですから。いつも目をそらしたり誤魔化したりする事のない先生でした。学んだ事は教科書の勉強だけではなく、先生のそういうお姿そのものからだったのだ、これからも忘れまい、そう思っています。

12月7日、平年並み

秋が短い、と毎年感じます。いつまでも暑く、夏のような秋、と思っているうちに急に寒くなり、あっという間に秋が遠ざかって冬になっていたと今年も感じています。11月下旬にほんの少し植えてあった里芋を掘りました。台風で葉が縦に無残に裂けた里芋は、思った通り不作でした。去年は我が家にしては豊作でしたから残念ですが、露地栽培の物は天候に左右されるので仕方ないですね。植えたばかりの玉ねぎは無事に育つでしょうか。雨はほどほどに、からっと晴れた冬空が続いて欲しいと思っています。植物の為にも、平年並みという言葉が恋しい昨今の気候です。

12月1日、共通点相違点

時々外国のテレビ局の番組を観ます。ケーブルテレビはその点が便利です。中国や韓国などのニュース、時代劇、その時代のその国の暮らしや価値観を垣間見る事が出来て、日本との違いを感じたり、時代や場所が違っても平和に家族仲良く暮らして行きたい人間の思いは同じなのだと思ったり、興味は尽きません。日本も、北海道にはアイヌの人達が住み、アイヌの言葉があったのですよね。北海道や北方領土、サハリン、カムチャツカなど、日本でもロシアでもなかった時代、今でいうと少数民族の人達が暮らしていたのでしょう。広い国には広い国の良さがあるでしょうが、国が大きくても小さくても良い事ばかりではないのでしょうね。自分の考えを持ち、自分を大事にして生きて行く事は大切ですが、世界は広く、価値観も多様、色々な考えの人達と、今、この世の中で共存しているのだという事もまた確かなのだと改めて感じました。本当に自他を大切にして生きて行きたいですね。

11月23日、生きたい思い

日によって気温が随分違うという事を繰り返しながら秋が北から深まり段々と冬になって行くのを今年も感じています。停滞前線や台風の影響で我が家の畑は草がどんどん広がり、雑草の緑が目立つようになりました。でもなかなか草取りが出来ず、冬前の作業が遅れました。粘土質の畑なので、雨上がりはぬかるんでぐちゃぐちゃになり、足跡がついてしまうからなのです。そして乾いてくると今度はカチカチの状態になってしまうので大変です。ですが里芋の栽培にはむいているそうですよ。もっとも、台風で里芋の葉が幾筋にも裂けましたので今年の出来栄えは分かりません。それでも、やっと草取りを終え、耕して、玉ねぎを植えました。梅雨前に収穫する玉ねぎは、植える時は鉛筆よりも細く、それでいて芯の強い植物です。伸びて行く力を秘めている苗は人間の子供と似ていますね。親や家族に愛されてすくすくと成長して行く子供は、人間関係を試行錯誤しながら学んで行きます。傷つきやすい思春期には他者の目が気になりますし、人間関係に悩みながら人間は生きて行くのだなあと、年齢を重ねても思う今日この頃です。神奈川県で、自殺願望があったとされる複数の若い方達があのように亡くなり発見されるという、背筋も凍るようなニュースに愕然としています。今のつらい状況から何とか抜け出して生きたいという気持ちで、話を聴いてそれを受け止めてくれる人を求めていたのだろうにと思い、私はやりきれない気持ちになりました。自然災害ばかりでなく人間の起こす事件も、かつては想像もつかなかった事が頻繁に起きるようになりました。社会が病んでいるという側面もあるのでしょう。胸が詰まるような事件です。

11月16日、心にメモした言葉

名刀とは一度も実用されずそのみごとな鍛え肌を目にしただけで世がおさまるほどのものを言うのです。たとえ一人でもいい考えなら皆で大事にするのが民主主義のいいところ。新聞に毎日紹介される言葉は時代を経ても埋もれる事なくキラッと光っていてハッとしたり清々しかったり反省する事しきりです。躾は実を美しくするという事で、仕付け糸は仮に縫っておく目安なので、後でとれるように、そして、愛情を思って躾けられた子供本人が自分の人生を自分で本縫いして作って行くのだ、という内容の言葉はラジオで聞いたのですが、これも心に残りました。

11月8日、違和感

先日、原爆投下後の広島に救護の為に入った時、少年兵だった方達についてのテレビ番組を見ました。80代のこの方々のその後は、とても一言では語れないような人生だったのだと思いました。被爆が容易に認められなかったのだそうです。今でもその傾向がある事を知り、愕然としました。戦後故郷へ帰ってから、うつるのではないかと言われたり、結婚後は子供への遺伝の心配もあり、白血病や癌にかかって治療を継続という方が多く、それは、大変な思いをして現在の年齢になられたのだと思いました。しかも、救護に入った当時の広島の惨状は目に焼き付いており、救えなかった命に対してや、沢山のご遺体を荼毘に付すのだからそんなに丁寧には扱ってあげられなかった、このような様々な事に、申し訳ないという思いを今も抱いておいでなのです。人生の中で、広島でこの活動をした日々は短いものだったと言えるかもしれませんが、幅の狭い傷だから浅いと言えるものではなく、生涯癒える事のない深傷を負ったのですね。口を開くのもさぞかしつらい事だったと思います。子供や若い方、戦争の実態を聞いた事のない人達に是非見てもらいたい番組でした。戦争を経験した世代が少なくなる中、折に触れて学んでいかなければならないと改めて感じました。時間がどれだけ長く経ったからといって、その戦争の実態は甘いお菓子のようなものに変わって行く事は決してないのですから。水爆実験などと聞くと、言いようのない違和感を覚えます。

11月1日、しおり

女郎花や吾亦紅の花、秋刀魚を焼くにおいなどに秋を感じますが、秋の音というと、虫の音、秋祭りの笛や太鼓を練習する音などでしょうか。朝夕気温や湿度が下がるようになって来ると風鈴はちょっと侘しく感じます。生垣の刈り込みをしていてどんぐりを見つけました。音や匂い、色、秋があちこちから顔を出してきますね。でも今年は気温の変化が大きいので唐突に秋の真ん中に放りこまれたように感じます。そして、大きな台風に怖ろしい思いをした10月でした。人間界は何か不穏で不安を感じますけれど植物達は動じず、すっかり支度が整っていた事に驚いています。五感で季節を感じ取りながら人間も年齢を重ねて生きて行くのですね。記憶に残っている積み重ねられた秋が、一つひとつ綺麗なしおりになっていったらどんなに良いでしょう。

10月26日、ヤマアラシのジレンマ

ヤマアラのシジレンマという言葉をご存知の方も多いかも知れません。ヤマアラシ同士寒いからといって近づき、くっついてしまうと針が刺さって痛い、でも離れてしまうと寒いという事ですね。人とどれくらいの距離が互いに丁度良いのか、なかなか難しいところです。コミュニケーションが少ない、安心して話せる人がもっといたら、と思っても、近づきすぎて傷つけられたくない、そう思ってしまう事の多い時代のように思います。皆様はいかがでしょうか。一枚の紙を二つに折って重なった時のような、自分とぴったり同じ考えや気持ちの人はいないでしょう。ですから、自分で考え行動する自由があるという事と孤独とは表裏一体なのだと思え、せっかくだから両方とも大事にしながら、何とか人と心理的にも共存して行きたいものだ、などと思っています

10月20日、肩取って裾刺せ

肩取って裾刺せ、という言葉を思い出すと、秋がいつの間にか進んでいるのだと実感します。冬支度をしなさい、という意味ですよね。もっとも、このところ秋を通り越して冬になったような寒さで雨の日が続いていますが。祖母が、夜になってコオロギの声が聞こえるようになるとよく言っていたのですが、こういう言葉を時折思い出します。生活の知恵のような事が短い言葉で言い伝えられて来たのですね。大切にしたい事は伝えて行きたいと思います。亡くなった家族や友人、先生の事など明け方にふっと思い出す事があります。いつの間にか時間が流れ歳月は飛ぶように過ぎ去って行く、こんな事をしみじみ思うのも夜の長い秋だから、そして私が長く生きて生きたからかも知れません。澄んだ空気のような気持ちだけで学んでいた子供の頃より、ぼやけた色になって来た自分は、知識や知恵だけでなく、ちりあくたも大分身に着けて来たようで、ハッとし、愕然として朝を迎えました。

10月14日、病院に

病院に行って来ました。先日手術を受けた叔父は自力で呼吸し、起きていて思ったより元気そうでした。底力のある人とは思っていましたが、このところ気温の変化が大きいですから心配だという気持ちもあります。このまま回復してくれたら、と思います。ICUは24時間眠らない場所なのですね。色々な機械が正確に働き、体力や抵抗力の落ちた人達の生命力を緻密に見守って育て、もう一度静かに蘇生というか再生させてくれる、エネルギーに満ちた場所で看護師さん達はきびきびと爽やかに働いていました。冷静な温かさのようなものを感じました。行ってきて幾らかホッとしています。

10月10日、心が硬くなると

最近、テレビやラジオの番組をぼんやりと見聞きしている事があります。新しい考えや、発送の転換をすると、などという情報が役に立つと思っていたのですが、心のどこかに気になっている事があってそれにとらわれていると、思考と感情の触覚が鈍くなり、上の部分だけしか熱くなっていないお風呂のお湯状態になってしまっているのだと気づきました。頭の回転が鈍くなっているのですね。ミサイルとか核実験についてのニュースは重い現実だと感じているから、でしょう。どんどん硬く尖って、鋭い鉛筆のようになってしまったアメリカと北朝鮮の応酬が報じられない日はありません。戦後72年経ち、まさかミサイルが日本の上空を通過するというサイレンを聞く事になろうとは想像もしていなかったとお年寄りは思っているでしょうね。お彼岸におはぎを供えられても、もしかしたらご先祖様は心配で、味わうより喉につかえるような思いだったのではないでしょうか。戦争の時代を経験して来た我が家のご先祖様もきっと、もう決して戦争をしてはいけない、失うものはあっても得るものはない、そう思っている事でしょう。話し合う事が大切だとは皆分かっているのだと思いますが、きっかけは難しいのかも知れません。でも必要です。今、秋の収穫やお祭り、旅行などを紹介する番組が成り立つのも戦争をしていないからだと思います。平和な日常があれよあれよという間に黒い雲に覆われて行く事を望む人はいない筈ですのに。何度も戦う事を繰り返してきたのに、どうして争いが絶えないのか、分かりません。もう少し晴れやかな心で秋の澄んだ空を子供やお年寄りと一緒にながめたいものです。一つ気づいたのは、心が硬くなっていると良い知恵は浮かびません。私の場合、マイナスに物事をとらえ、自分が被害者だという風に思いがちになるようです。

10月5日、5本の指は

親類が入院し、検査の結果手術をするという連絡があって、先日私達身内の者も病院に行きました。以前から病院にかかってはいたのですが、突然の話に半信半疑のような思いでした。些細な事しか出来ないかも知れませんが、家族の人達に、その気持ちに沿って出来る事をして行こうと思います。手術の終わるのを待つ間、患者の弟にあたる人はいつになく饒舌でした。動揺していたのだと思います。妹にあたる人も何となく落ち着かず、連絡事項があまり耳に入っていないようでした。比較的高齢の兄弟姉妹は、今まで誰も欠ける事なくそれぞれの家庭を大切にしてコツコツと働いて来た人生でした。普段は頻繁に行き来していなくとも兄弟姉妹というものは親や配偶者とはまた違った思いを、お互いに対して持っているのですね。同じ親から生まれ、子供の頃から一緒に暮らしてきた歴史はかけがいのないものの一つなのだと感じました。昔祖母が、五本の指は決して外側には折れないものだ、と言っていました。身内はいざとなれば助け合う、仲の悪い兄弟でも絆があり、他人には分からない、だからその間に入る事が出来ない、そういう意味なのですが、この日、私もそのように思いました。血のつながりと、喜怒哀楽を共にして来た積み重ねのどちらも大事に心の引き出しに畳み込まれているから、いざという時には、という事なのでしょう。それは、並んで歩いて来た同志のような夫婦という関係とはまた違うものなのだと思います。ゆっくりで良いから是非元気になってもらいたいものです。私も随分可愛がってもらいましたから。足元を見ていない、とはよく言ったもので、その晩帰って来て我が家のコンクリートのある場所で躓き、転んで思い切り膝を打ってしまいました。とっさに、割れたら縁起が悪いような気がして百円のマグカップを落とすまいとしてだったのですから自分で呆れています。幸い大事には至らなかったのですけれど、私も少なからず動揺していた、という事でしょうね。これから気を付けようと思います。

9月30日、カビと発酵

28日は朝から大雨で緊迫した状態でした。怖いほどの雨音、次々と入ってくるメール、まさかこれほど荒れたお天気になるとは思ってもいませんでした。でも、回覧板で知った君津市から必要事項をメールで送信してもらう方法の説明が役に立って有り難いなと思っています。台風、大雨、火災などの情報は、防災無線が聞こえにくい時に助かります。ほとんどの自治体が、利用したい市民が、からメールを市のホームページに送っておいて必要な情報を送信してもらうという方法をとっているのでしょうか。デジタルが生活の中でどんどん増えて行きますね。雨のピークが過ぎ、ぼんやりしていると、濡れたままにしておくと物によってはカビが生えると思ってふとカビの事が気になりました。フランスのワインと言えばよく知られていますし、有名な産地が何か所もありますね。優れた芸術家のように繊細なもので、ブドウの出来具合ばかりでなく熟成されて行く環境の影響も大きく、一定の湿度の場所で変化して行くので古い物ほどワインの口のコルクにカビが生えている、でもそのカビは保存状態が悪いからではない、という話を聞きました。フランスでブドウの栽培の盛んな地域を訪ねた番組の中での事です。残念ながら私はアルコールが苦手なのですが、この繊細なワイン、色々な産地の、条件の違う中で熟成されたものを飲み比べたらきっと楽しいでしょう。カビは悪いものと思いがちですが、カマンベールチーズも白カビのチーズですね。そういえば、糠漬けも乳酸発酵を利用した漬物ですし、発酵イコール腐る事、とは言えません。生活の知恵は素晴らしいですね。詳しいメカニズムが解明されるずっと前から、作られて来たのでしょうね。

9月24日、昭和の梨は

秋は出回る果物の種類も多いですね。より甘くなった新しい品種のブドウなどが沢山売られています。昔は甘味のないまくわ瓜も多く、ネットメロンなどは高嶺の花でした。それでも冷やして食べると夏らしさを感じましたし、ピーマンの苦みやほうれん草の匂い、酸味が強く青臭いトマトなどが当たり前で、それがそれぞれの特徴のように思っていました。贅沢な事を言うようですが、本物、という言葉が当てはまる気がします。勿論、今の食べやすい物は美味しいです。改良を重ねて来た生産者の方には申し訳ないのですが、ふとない物ねだりをしたくなる時があるのです。懐かしいのは果物に付随した子供の頃の日々や、当時の世の中そのものなのかも知れませんね。梨は二十世紀が好きでしたが、秋になると皆で食べたのは今の豊水のような種類の物が多く、その頃は赤梨と言っていました。あの匂いや甘みと程よい酸味には昭和という時代を感じます。多分、むいてくれた祖母の手を思い出すからでしょう。器用だった祖母は、ふっくらとした温かい手をしていたのですが、小学校高学年になっていつの間にか私の手の方が大きくなって行き、祖母は感慨深げに喜んでくれました。秋は運動会の季節でしたけれど、走るのが遅かった私でも思い出すとやはり懐かしいのですから、時間は魔法のように良かった事だけが残る事も多く、浄化されたかのようです。色褪せる事のない思い出が、今の子供達にとっても、将来素晴らしいものであって欲しい、ミサイルや核兵器で緊迫しているように感じられる今、しみじみとそう思います。

9月17日、変化を感じ取る

気温や天気の変化になかなかついて行けないと思う事が増えました。最高気温33度の日の翌日が20度に満たない気温という日もありました。そうこうしているうちに今年も紫蘇ジュースが大分できました。その数を数えながら、いつの間にか夏が遠ざかって秋に移行して行く真っ只中にいる事を感じています。雨が続いていた頃、キュウリがなくなって困りました。烏が、人間が取り忘れたキュウリを見つけて皆食べてしまうのです。アクのある筈のナスまでつつかれました。こんな事は初めてです。余程食べ物が不足していたのでしょう。暑さが戻ってくるとようやく収まりましたけれど。気温の変化は乳酸発酵で漬かる糠漬けにも影響を与えるので、気温が低いと漬かるのが遅くなります。自分に必要な事を感じ取りながら身を守って行く、それが動物や植物にとって生きて行くための基本というか本能なのだと改めて感じました。ナスも段々水分が少なくなって、実のしまった秋ナスが実ってくれる事と思います。からし漬けを作ろうと、秋の深まるのを楽しみにしています。

9月11日、白花夕顔

白花夕顔は百合に似た芳香を放つ花で香りが強く、しかもその香りは複雑です。仄かな香りなのでは、と想像していたので去年初めて花が咲いた時は意外な気がしました。本当は実がなったらかんぴょうを作ってみたいと思って種を買ったのですがそれは別の物でした。夜目にもくっきりと白いその花の姿は胸に沁みるような不思議な魅力を持っており、印象の薄い香りでなかった事も嬉しい驚きでした。じっと見つめてしまう事もしばしばで、魅了されました。それで、今年も種を蒔き咲いた花を眺めています。控え目な印象の人が心の中に強さを秘めている事もありますし、思った事を何でも口に出す人が実は自信がなく不安を抱えているという場合もあります。その人がどのような人なのかという事はそう簡単には分かりません。もっとも、その人のある部分に焦点を当てて、性格の一端をとらえる事は可能ではありますが。だから人と付き合う事は難しく、なかなかエキスパートになれるものではありませんよね。人を理解し共感するというプロセスは楽しくもあり、苦痛でもあると、人間は思うのかも知れません。白花夕顔の花の姿や香りも、自分の目や鼻で体感して初めて分かった事です。勿論、この花の印象も人によって違うと思います。ですから、人間と花は似ているように感じます。朝顔も夏らしくて良いのですが、来年もまた白花夕顔の種を蒔いてみたいと思います。

9月4日、家族ですが

我が家の猫が先日急に食欲が落ち、尿量が少なくなったので動物病院に連れて行きました。膀胱炎と分かり、治療して頂きました。良くなってホッとしています。もう10才をとうに過ぎているので腎臓の具合が悪くなったのかと心配しました。猫は一日に二回から三回くらいしかトイレに行きません。家の場合トイレは砂箱です。猫は体が小さく、強い動物ではないので、砂を掘って用を足しその上に砂をかけて自分のにおいを消そうとします。家の中の砂箱でも同じようにするのは身を守る本能のようなものなのでしょう。病気や怪我、というときはハラハラと心配し早く治って欲しいと思うのは、自分の子供への気持ちと同じです。でも、猫はやはり人間ではなく、本能も寿命も人間とは違います。家族の一員であるけれど人間ではない猫という存在だと理解したうえで寄り添って暮らして行きたいと思っています。人間の子供も思春期前後になると、親とぴったり同じ感情や思考ではなく、独立した固有の存在だと感じる事が多くなります。猫からも教えられる事は多いですよ。

8月28日、テレビが病気に

この辺りは雷雨やにわか雨の少ない所です。市内でも、もっと東の東京湾から離れた地域ではこの辺りより多いようです。ですから、8月19日夕方から夜にかけての雷雨には驚きました。大した事はないのでは、と思いながらパソコンの電源を抜いて正解でした。この雷雨の影響か、テレビが映らなくなってJCOMに連絡して来て貰い、また観られるようになりました。それで、二日ほどテレビのない生活をしたのです。テレビもラジオもなかった昔と比べれば私達は普段随分便利な暮らしをしているのだと思います。昭和39年以前、台風シーズンにはよく停電したものですが、あの頃中学生や高校生だった人達は勉強しづらくて困っただろうなあと、ふと思いました。お盆に雨が降って寒い日があるという記憶に残りそうな8月でした。送り火を焚くのに困るほど雨が止まないのはまるで人間の人や自然との付き合い方に対して誰かが泣いているように感じてしまいました。便利さを享受している私は、何となく後ろめたい気持ちになりました。

8月21日、わくわく

大人になって久しいせいか、わくわくするという事が少なくなったように思います。小中学生、高校生は夏休みも残り少なくなりましたが、毎日どんな気持ちでどのように過ごしているのでしょう。勉強やスポーツを頑張っているお子さんも多いでしょうし、家族でのお出かけもあるでしょう。まだ経験した事が少ない方が、好奇心も旺盛で、色々な事にワクワクドキドキ出来るのだろうと思います。普段では出来ない楽しく充実した夏休みになって欲しいですね。秋が来る頃にはひと回り大きい人になっている、積み重ねるように、脱皮するように、人は大人になって行く、そういうものなのでしょうから。いつまでも子供のように疑問と希望を持ち、濁らない目を持った大人は、高齢の方の中にもいらっしゃって、私も教えられる事の多い毎日です。何か、大きな宿題を抱えたままこの年齢になってしまった気がします。

8月15日、戦後

またか、と思われるような事が多い私の夏です。今年もミツバチに刺されましたから。ヤブカラシが伸びて木に絡んでいるので、切ろうとして引っ張ったら蜂が現われ、腕を刺されてしまい、病院に行きました。それでも、8月になった途端に夕方ヒグラシの声を聞き、立秋の夜から鈴虫が鳴いています。虫達は小さな秋に敏感なのですね。ところで、40年近く前の新聞に紹介されていた言葉を、時折思い出します。戦後という言葉はない、次の戦争の戦前である、というものです。次の戦争を決して起こさないようにする英知と、他者の身にもなるという気持ちを大事にし、記憶と記録に刻まれている歴史を伝えて行きたいですね。戦争は失うものが計り知れないほど大きく、深いですし、憎しみの連鎖を生む空しいものだと思います。8月15日は終戦の日ですからあれこれ考えさせられます。

8月7日、毎年の事ですが

今年も風鈴や花火の季節です。ご近所さんの蚊取り線香の匂い、風鈴の音色、そういう物は懐かしいのと同時にお盆の準備をしなくては、と急かされているようにも感じます。暑くて雨も降るのですから草や木、笹などどんどん伸びます。夏野菜も育っている事だからと、畑の草取りをしながらしみじみ思うのは、先祖代々こういう風に暮らしてきたのだという事です。両親や祖父母ばかりでなくずっと前の時代の先祖に思いを馳せると、やはり汚くして放っておけないという気持ちになります。よそのお宅ではきっと違うのでしょうが、私などもしお嫁さんだったら、お父さん、大変だから畑は自分で綺麗にして、とか、除草剤をまいた方が楽だから畑をやめましょう、というだろうと思います。先祖を有り難いとか愛おしいと思うのは、自分のルーツだからなのだと思います。今ここに暮らしている自分と先祖との不思議な縁を感じます。私は結構身勝手な人間なのだと、今年も思いました。それから、君津にヒアリがいないよう祈っています。ヒアリのニュースはまるで青天の霹靂でした。

8月1日、運命共同体の地球

暑い日が続いています。大雨、地震、息つく暇もないようだと感じます。集中豪雨の後、自分だったら茫然として、どうしたら良いか考えたり前向きになるのにとても時間がかかるでしょう。でも福岡や大分の皆さんは日常を取り戻すべく、暮らしていらっしゃる、そうしなくてはならないとは言え、とてもつらい事だと思います。地方では、高齢の方が住み慣れた所で被害にあわれたという場合が多く、大雨にしても地震にしても、どうする事が今の私に出来るだろうと、いっそうつらく追い込まれた気持ちになります。故郷の懐かしい景色が一変してしまったのです。これが夢であったらどんなに良かったでしょうに。天災も事故や事件も多い世の中ですが、優しい気持ちを持って出来るだけ助け合いたい、人を故意に傷つけないで共存して行きたい、そう思います。今この瞬間に地球上に共に生きているという事は、大変な偶然のように感じます。運命共同体のこの星で関わり合い生活しているのだから、仲良く気持ちよく生きて行きたいものだと思うのは私ばかりではないでしょうけれど、そんな事を言うだけでは小さな子供の作文のようなものかも知れません。日々一つずつよく考えてやって行くしかないと思っています。身近な、小さなことから。

7月26日、お医者様

7月18日に、突然聖路加国際病院の日野原重明先生の訃報が飛び込んで来ました。105歳の先生でも突然と感じました。現役でいらした事、講演をなさっておいでになった事、地下鉄サリン事件の時多くの患者さんを受け入れた事、昭和45年3月のよど号ハイジャック事件の時、あの飛行機に乗っていらした事、などご存知の方も多いだろうと思います。ずっと死ぬ事はない、そういう風に思っていました。体調の悪い時もあったでしょう。年齢を重ねないと分からないその日によっての微妙な体調の変化を感じる事もあったのだろうなと思います。自然体で、ただ目に見えて存在している場所がすうっと移行しただけ、のように感じるのは先生のお人柄や生きる姿勢の故なのでしょうか。実は、子供の頃お世話になった小児科の先生が、体調を崩していらっしゃるけれど、出来る時には診療をしている、そう聞いていたのです。ところが数年前、知人との会話の中でその話が出た時、彼女が、あの先生はもう亡くなった、というのです。多分そうだろうとは思っていたのですが、私はいきなり後ろから背中を押されて、崖っぷちに押し出されてしまったような気持ちになりました。麻疹になった時も、おたふくかぜにかかった時も、鳩時計のあるあの病院に親に連れられて行った思い出があるものですから、突然のこの情報によって、心もとない精神状態になったのだと思います。情け容赦なく時間は過ぎて行くという現実を認めざるを得ない厳しい現実を突き付けられたとも感じたのは、良い思い出が沢山心の中にしまってあったからなのかも知れません。知人は単なる情報を伝えたつもり、勿論悪意などなく、事実を言ったまでなのです。でも、私は当分彼女に会うのが嫌になりました。勝手ですね。親友という訳ではないので、その後もこの話をした事はありません。日野原先生の訃報に、急に思い出しました。このお医者様も日野原先生も生きていて下さる事それだけで、そうですね、私には心地よいような安心できるようなそういう存在の方だったのです。また一人旅立って逝かれ、寂しいです。長い道を歩いていると、ある日突然、自分の前を歩いていた大きな存在が一人またひとりとかき消すように移行して行ってしまう、それが人生というものの一面なのですね。

7月20日、目から鱗

ナスやキュウリの美味しい季節です。我が家ではまだほんの少ししか収穫出来ませんが、豊作だと良いなあと思っています。ナスは4月頃植えて秋口で終わってしまうものではないと聞いてはいましたが、10月に栽培を始め、7月の今頃まで収穫し、出荷している方がある事は知りませんでした。ハウスで、温度を調節しながら、それによって変わる苗木の状態、肥料の与え方など工夫すると、水分が多く甘みがギュッと詰まった美味しいナスが実るのだそうです。ナスの苗木の声を的確に聞きながら育てているお父さんのようです。相手の状態や持っている本来の性質をよく見てその声を聞く事がポイントなのは、子育てと似ていますね。また、和紙作りをしている方のお話からも、教えられました。そういう物は出来ない、作れない、と、ベテランの方達がおっしゃるには出来ない理由がある、でも、そのような基本をしっかり学ぶとか、和紙を作り続けて来たのではないから、出来ない原因を知って、何とか今まで出来なかった事でも、和紙の良さを生かした物を作って行こうという気持ちになる事が多々あったそうです。固定観念は経験に基づくのだから決して全て否定する事など出来ないけれど、柔軟な発想の妨げになる事もあるのでしょう。もっとも、情熱だけでなく、論理的な積み重ねがあやふやでは何も出来ませんから、随分学ばれたのだろうと思います。伝統、と口で言うのは簡単ですが、時代の変化の中で、良い所を生かし、どう続けて行くのか、実はとても難しく、そしてやりがいのある事なのですね。私は頭が固いので、ただ驚嘆しながら聞いていたのですが、朝でしたから、とても良い刺激を耳に与えて頂き、すっきりと目が覚めました。このようにして活路を見出した古い良さと新しさを兼ね備えた物が、未来へと時代を作って行くのだと思いました。目から鱗が、二枚落ちたようです。

7月13日、雨後の筍

雨後の筍という言葉が ありますが、我が家は今まさにそういう状態です。と言っても筍ではなく、もっと細い、七夕に使うような笹がひと雨ごとにニョキニョキ出て来てあっという間に数えきれないほどになってしまいました。困るので切りました。当分はマメに、出たら切るという事の繰り返しです。三時間も四時間もかかって切りながら、この笹の中にかぐや姫がいるとしたら、何百人になるだろうかなどと今年も思って、思わず笑ってしまいました。梅雨の間紫陽花は色とりどりの花を咲かせ、イキイキとしていますし、恵みの雨とは思いますが、草は伸びるし傘をさしての外出は億劫だと感じる事もあります。小さい頃の、白と水色の蚊帳の中の蛍が美しかった事など、ふと思い出しました。蛍も野兎もリスも珍しくなかったそうですが、いつ何処へ行ってしまったのでしょう。自然が豊かで水や空気の綺麗な所へ引っ越したのだと思いますけれど、ウサギ追いしかの山、小鮒釣りしかの川は遠く、昔のままの風景が残っている所は、人間の生活圏が広くなった今では不便だという事になるようです。自然と共にという事は難しい選択をしなければならない事もあるのですね。

7月6日、東西

身体に痛い所があると、動きが限られて来るので、それもまたつらいものです。雨草の度に伸びる草、気になりますが今は目を瞑っています。そんな時、テレビの画面に驚き、吸い寄せられるようにしばらく見ていました。断崖絶壁が続く所を列車が走っているのです。それも方向など関係ないように、ただ断崖絶壁しかないような映し方で空も見えません。ここにどうやって線路を敷設したのだろうかと思ってこの不思議な場面を見ていました。暫くすると、このおそろしいほどの場所から、平原やトンネルのある普通の景色の中へと列車は走り、遠ざかって行きました。高原の避暑地へ行く列車だったようですけれど、乗っている人達の多くは東洋的でしかも彫りの深い顔立ちをしています。今までテレビで見たイタリアやフランス、スイス、ドイツ、北欧の国々とは随分違います。その後、インターシティの映像に変わり、終点はイスタンブールだとの説明に、この列車の車窓からの風景がギリシャだったのだと初めて分かりました。ギリシャ彫刻やオリンピック発祥の地なので月桂樹の木などが目に浮かんで来ました。このようにして少しずつ地域や住む人の特徴が変わって行くのを自分の目で見て、ここはヨーロッパの中で東に位置しており、東西をつなぐ所なのだと、当たり前の筈の事をしみじみ感じました。地球は丸いのだから定規でまっすぐな線を引くような事は出来ない、グラデーションがあって東西も南北も出会ったりつながったりしている事に、今更ながら目を見張る思いです。行ってみたい所が一つ増えました。それは難しいので、また今度テレビでギリシャを旅してみたいものです。

6月30日、牛乳びんのふた

最近病院のお世話になる事ばかりです。私にしては、春から働きすぎたのだと思います。六月になって間もなく腰の下の辺りを痛め、姿勢を変えるのが困難になりました。湿布をしてなるべく静かにおとなしくして暮らしていました。激痛という訳ではないのですがなかなか治らないので病院で見て頂きました。骨には異常がないと言われてホッとした次第です。こう言ってしまうとたいした事はなかったという事になるかも知れませんが、毎日不安でした。少しずつ痛みは良くなっていてひどくなってはいないのだから、という理屈では不安や心配はなくなる事がなく、気持ちも落ち込んでいました。自分の事となると、悪い方へ考えが行ってしまうと言いますか、感じ方がどうもマイナス方向になって行きやすいようです。牛乳がびんに入っていた子供の頃の給食をふと思い出しました。あの紙のふたは、濡らすと幾枚にもはがれます。幾重にも重なって出来ていたのでしょう。人間の心や性格も、いつどんな事が起きたらどのように感じたり反応したり、どのような判断に基づいてどう解決して行くのか、それは何かが起きた時に初めて気づく、そういう事もありますね。ですから、いくら身近な人でも、私はあの人を百パーセント知っている、とはなかなか言い難いものなのだなあと思いました。自分の事を知っているとか、性格を変えるとかいう事も、私にとってはとても難しいと改めて思いました。皆様もくれぐれも心身を酷使しないで下さいね。家族も心配するし困る、という前に自分が一番困りますから。

6月24日、涙もろいという事

高齢の方は、自分の事ではなく人の事で涙をこぼす事があります。私は若い頃、そういうお年寄りの事を涙もろくなったと感じていたものです。ですが、今は話を聞いていると、その人の苦労が十分察せられ、育つ時に苦労があって、それはこの人の親も大変だったのだとか、これからも頑張って努力してもやはり困難な出来事に遭遇する事があるだろう、などという事を思って傾聴し、身に沁みて共感するからなのだろうと思っています。損得でも駆け引きでもなく、人間の情愛というものなのではないでしょうか。ご自分の事で涙がこぼれる高齢の方の中には、苦労しても報われる事が多くなかった場合や、親しい人が思いがけず早く亡くなってしまったというつらい別れなど、振り返ってみて、心残りの出来事が思い出されて辛いという思いなど、色々な理由があるのでしょう。振り返る事は、夢や希望に満ちている若い時や子育てに忙しい時期にはなかなか出来ないですね。時間が飛ぶように過ぎて行きますから。ある程度の年齢になると、今までの経験から現在進行している出来事の結末の想像がつくようになります。そういう年齢になったら一日いちにちを丁寧に、後悔する事がなるべくないように暮らす事がベストなのでしょうが、それはなかなか難しい事でもあります。ですから、新しい発想、人が気づかなかった視点、そういうアイデアが湧いてくる人は良い意味で若いのだと思います。涙もろくなった高齢の方の涙は、掛け値なしで思いのこもった、心からの涙だと思うのです。

6月17日、風邪をひいたと思ったら

このところあまり体調がよくありません。風邪をひいたのだと思いました。朝晩と日中の気温差が大きいので気を付けていたつもりだったのですが、久しぶりにのどが痛くなりました。治るまでうがいをし、おとなしくしていたのですが今度は咳が出そうで喉が痒くなり、病院に行ってきました。アレルギーだと言われ、薬を頂いて服用しています。少しずつ良くなってきています。花粉飛散が収束時期に、ホッとしてマスクをせずに外に出たので、黄砂の影響かも知れません。黄砂にはPM2.5も付着しているでしょうから気を付けなくては、と思っていたのですがつい気を緩めてしまったのですね。喉が少し楽になったら目の痒みも気になり、こちらもアレルギーを治療する点眼薬を病院で頂き、使っています。学習出来ていないで繰り返す事が相変わらず多く、気の重い現実です。年齢を重ねて増えたものの一つは、私の場合病院の診察券です。毎日元気で過ごせるのは当たり前だと思いがちですが、感謝する事だなあと、改めて思いました。忙しくして、予定通りに物事がはかどっていたので、今度は少しゆっくりしようと思います。皆様もどうぞお気を付け下さい。

5月30日、収穫して思う事

イチゴ、ソラマメ、玉ねぎ、ジャガイモの収穫が終わり、種蒔きした夏野菜も今のところ無事育っています。晴れた日に自然に接して過ごしていると、心が和みます。世界中が平和でのどかな時間が流れているような錯覚に陥りますね。生きて行くという事は自分で食べる物を栽培する事から、かも知れませんが、インゲンの種はフランス産、気が付けば国産の野菜の種が売られているのを見た事が久しくないような気がします。

5月25日、後味が良いか悪いか

相剋の棘のみが心に重く沈むように堆積されて行く、親しい他者との諍いの後はこんな気持ちになるのではないでしょうか。夕暮れ時の寒風の中を歩いていて、時々すっと頬に剃刀か何かで切りつけられたような傷がつき、自分で日にちをかけて治して行く、まるでカマイタチに遭遇したみたいですね。嫁と姑もこういう関係になりがちなのかも知れません。筍の皮をむきながら、ふとそう思いました。手にぴったりの薄いゴム手袋をはめて握手をするような事も気遣いのうちなだと思います。でもいつかは素手で、と思いたいですが。正解はなく個別、生まれつきの好みなどが似ているといくらかは付き合いやすいのかも知れません。上司でも先輩でも配偶者の親や身内でも、行き違いや価値観の相違もあります。もし人を許す事が出来たら、相手を理解して、自分の心の中にもう一つ部屋が出来るようなもの、一回り大きい人間になれるのでは、それはありのままの自分を受け入れる事にもなれそうで、自分に優しくする事にもなります。人を許す事は自分を許す事だと思います。自然体で暮らせたら常にピリピリ緊張しているより楽だろうと思いますけれど、等身大の自分と向き合う事はなかなか難しく、一筋縄では行きませんね。少なくとも私にとっては一生の課題だと感じています。

5月20日、シリア砂漠

バクダッドからシリアに行く途中にシリア砂漠は果てしなく広がっています。でも、ユーフラテス川の周りには緑があります。どんよりとした薄いグレーの川に、高度を下げてカメラが近づいて行くと、川は徐々にスカイブルーに変わって行きます。昔々から人とラクダの長い隊列が西から東へ、東から西へと、日が上ってから沈むまで、歩き続けたのでしょう。砂漠に足跡は残りませんが、沢山の人とラクダの記憶が、この砂漠に確かに刻まれているような錯覚を覚えます。美しく厳しい砂漠の赤い夕陽が目に浮かぶようで、シルクロードの長さとその奥の深さに魅了されます。パルミラ洞窟もよく知られていますが、今決して平和とは言えないこの地には平穏無事は当たり前ではなくなって久しいのですね。三十数年前のテレビカメラに笑顔で写し出されている砂漠の民ベドウィン、この人達は今も元気で暮らしているでしょうか。一日も早く平和になり、安心して暮らせる日が来るよう祈らずにはいられません。何かとても複雑な気持ちで、胸が一杯になりました。

5月15日、ハーモニーと違和感

随分前ですが、航空機選定での金銭の授受があったかどうかという、ロッキード事件の国会での証人喚問をふと思い出しました。あの時、証人として出廷した人の、署名をするとき手が震えていた映像を鮮明に覚えているので、今回の国有地が格安で売却された件も、以前の耐震強度偽装の問題の時の証人喚問の時も、証人の人達がすらすらと署名をしたという事が対照的です。嘘をついていたから手が震えたとか、本当の事を言っているからすらすら署名した、などと簡単に判断する事など勿論出来ませんが、この違いは一体何なのでしょう。時代が変わった事を感じます。ところで、美味しいパンは生地も香りも良いのだろうと思います。ただ、あまり香りが強く、いつまでも鼻についていると、主張が強すぎるように感じられて、パンの材料の調和がどうなのかと思う事があります。例えば、黒豚の角煮を作る時に料理酒を使うと何となくバランスの悪い出来上がりになってしまい、焼酎とかちょっと良い日本酒を使った方が良かったと感じた事がありました。料理酒が豚肉に負けてしまって、バランスが悪い味に感じたのだと思うのです。パンの場合には、材料はそれぞれ良いのだけれどハーモニーがあまり良くない、と私が感じたのでしょう。材料のうちのどれかが突出して自己主張しているとか、それぞれの主張が強すぎるとか、そのように感じたのでまとまりが今一つ、と思ってしまったのかも知れません。このような感覚は人によって違いますし、まずいという事ではありません。好みの問題ですね。息の長い商品は、特別強烈な自己主張をせず、いつ食べてもさりげなく調和のとれた味で食べる人に角なく、丸く寄り添ってくれる、気持ちを和ませてくれる、そんな風に思いますし、私はそのような物が好みなのでしょう。寄り添ってくれるという事は食べる人を和ませてくれるわけですから、素直になって物事を受け止める、ストレスを軽減してくれる、まるでセルフカウンセリングの第一歩のようだと感じます。食べ物の力の大きさと、日々研究や努力を重ねて作って下さる方に感謝したいと思います。そういえば、帯も帯だけが目立つのではなく、着物と調和し着る人の気持ちを浮き立たせたり落ち着かせたりしてくれるもの、という気がします。

5月10日、森林浴

連休にゆっくりお休みになれたでしょうか。リフレッシュ出来なかったという方もいらっしゃると思いますが、どうする事で心身の疲れが取れて元気が出てくるかは、人によって違いますね。我が家のこの季節は木の剪定や草取りなどに忙しい、というのが毎年の事です。小さい子供がいないので出かける事はあまりなく、こう言う風に過ごす連休も悪くないですよ。電車や道路が混雑しているというニュースを聞くと、家にいたいと思ってしまう、というのも事実ですが。ぼつぼつ新茶の季節、季節の移り変わりを感じる事のひとつが、日ごとに増えて行く美しい緑です。山の中にいるわけではないのですが、森林浴という気分を、今年も働きながら楽しみたいと思います。

5月5日、出会いは皆大切に

今年も葉桜が美しい季節になりました。牡丹も咲いていますし、新緑の中のつつじも綺麗です。今年は緑の大麦の穂の色付きも楽しみにしています。時間に限りはないかも知れませんが、自分にとっての時間は有限ですね。でも、毎年次々と咲く花に見とれている間に季節は廻り、確実に自分にとっての時間が減って行くのだなどと、私はいちいち感じているわけではないのです。そんな事を実感するのはやはり怖いのでしょうから。一期一会の出会いを大切にしようとしみじみ思いながら、夏野菜の植え付け時期の、連休を迎えました。キュウリや南瓜の種、黒いビニールポットに蒔いて水やりしていますよ。

4月29日、見えない床下

5年に一度の白アリ防除消毒をしてもらいました。薬剤は昔と比べると効果が弱いので消毒の感覚が短くなったそうで、どこの業者さんでも同じです。床下に入る人はさぞ大変だろうと思います。薬剤のにおいではなく床下の埃や湿気のにおいが室内に残りますが、いつまでもという訳ではありません。白アリの被害がなく、ホッとしています。家を吊り上げられたら楽だろうに、といつも思います。この日は猫が床下に入らないよう注意しなければなりません。床下に潜んでいる不快な虫が、今年は多分出てってくれるでしょう。以前、蛇の抜け殻があったそうです。あまり同じ家の中に住みたくない相手ですが、見えないと平気なものですね。気づかない事が多すぎると安全に暮らせないのは、何も床下に限った事ではありません。沢山あるのだろうと思います。

4月24日、花粉症とリラックス

我が家では空豆の花が咲いています。それは良いのですが、花粉で毎晩くしゃみや喉の痛み、鼻づまり、そうでなければ目の痒みなど、相変わらずひどい状態です。勿論日中外に出る時はマスクをし、帽子も被っています。着いた花粉を払い落しやすい上着を着るようにもしていますが、あまり効果があるとは感じられませんし、花粉の飛散が多い年も少ない年も、私の場合はつらさに変わりはありません。毎年この時期になると酸素不足の金魚のようだと感じます。何の前触れもなく、ある年のある日から突然症状が出るようになるものなのですね。私は杉ではなく、ヒノキの花粉から始まりました。ひどい鼻風邪が、二月から五月の初旬くらいまで続いているようなもので、微熱が出る事や顔が痒くなる事もあります。外国ではどうなのでしょう。花粉症の方はご存知かと思いますが、日中よりも、むしろ外に出ているわけではない夜、副交感神経が優位になるリラックスした時間帯になると症状が出るようです。くつろいでいる時間を減らす方が良いのかも知れませんけれどそれではつらいですし、全く外に出ないわけにも行きません。早く花粉飛散シーズンが終わって欲しいものです。

4月19日、桜色々

雨の日にお花見に行きました。風も強かったのですが満開の花はまだ花吹雪とはならずとても綺麗でした。桜並木を眺めながら歩くと、毎年贅沢な旅行をしたような気分になります。ソメイヨシノには曇った空の色が似合うと感じます。花の桜色の濃淡を眺めながら空へ目をやると、真っ青よりも曇っている方がグラデーションのように自然に感じられ、桜が空にすうっと溶け込んで行く美しさもこの季節だけのものですね。寒い時期に咲く濃いピンクの河津桜は、冷たい空気に掃き清められたような青空に映えます。黄緑から黄色に変わる桜も珍しく、美しいですし、八重桜も豪華で美しいお姫様の風情、でも、どの桜も皆艶やかで風情がありますよね。咲いている期間が短い事が何だか惜しいと言いますか、勿体ないようです。万葉集には、花と言えば梅で桜を詠んだものは多くないそうですが、今では桜が日本の春の代表的な花になっていますから時代によって変わるのですね。外国の人にとって、桜はどんな花なのでしょうね。

4月14日、松葉ウニと母

以前にもお話ししましたが、女の子はアンミツが好き、リンゴの入ったサラダが好き、などという方が今でも多いですね。私はどちらもあまり好きではなく、ナマコや塩辛、フキノトウ、鮭の中骨の水煮などが好きな子供でした。遠足には必ず松葉ウニを持って行くという、おつまみのような物を好むちょっと変わった子供でしたが、お酒が好きな大人にはなりませんでしたから分らないものです。決して甘くなく、バリエーションがあって味わい深い松葉ウニは母と似ているような気がします。人とは仲良く、と教えられましたが、人は人、自分は自分なので、皆がこうだから合わせて同じようにするのではなく、よく考えて判断しなさいと教えられたのは小学校1年の時で、理屈だけではなく、足りなかったジグソーパズルの1ピースが見つかってピタッとおさまったようにパッと理解出来たので、よく覚えています。何歳の子供だからどう説明しないと分からない、などというのはあくまでも目安であって一人一人違うのですから、マニュアルはないですよね。私は食べ物の好み以外にも一風変わったところのある子だったのかも知れません。ですが、自分の事だからこそよくは分かりません。聴き上手な母に色々な事を話し、用意してくれたおやつを食べる、食卓に母の作った料理が並びそれを食べるのはあの頃当たり前のように思っていたものです。母は68歳で亡くなりましたが随分沢山話をしました。ニュースを聞いて議論した事もあります。ですからお母さんとあまり話さないという方の、何十年分も話し合って暮らしたのかも知れません。それでも、話をあまりしないからと言って母親の事を知らないとか分からないというものではないですし、沢山話をしたから母親の事がすべて分かっているというものでもないと思います。人間は身近で親しい人だからこそ気づけない事もあります。互いに一人の人間として育ち、生きているという事は別の根っこを持っている存在で、相手が自分ではないから自分と全く同じではなく、共感や同調出来ない時もある、でも理解して人それぞれだという事を認めて行くように出来たら、と思います。孤独な部分と自由で他者に縛られない部分が心の中にあるのだと思うと、一方を捨てる気にはなれません。学ぶ事は年齢を重ねても多く、柔軟さがもっと欲しいと思う私の毎日です。いずれにしても、思い込みは禁物ですね。

4月8日、雪月花では困ります

先日夏の服装の事などお話ししましたが、三月末にみぞれが降り、今は日によっての寒暖の差が大きい時期だと実感しています。雪月花とはならないで欲しいです。我が家では杏の淡いピンクの花がもう少し咲いていて欲しいと思っていたのに強風で散ってしまいましたし、折角花が咲いて来たというのに季節が逆戻り、という日があると、イチゴも心配です。家で食べる分を少し栽培しているだけでも気になるのですから、野菜や果物、お茶の栽培などなさっている方は細心の注意を払っていても、ご心配な事と思います。お天気や気温が穏やかに変化し、それぞれの季節へスムーズにバトンが渡る事で人間の暮らしが支えられているのですね。今日は雨の灌仏会、花に雨や風では桜が気の毒ですが、惜しいけれどそれも風情なのかも知れません。花吹雪、花筏と桜ならではの美しい移行を楽しみたいと思います。今年も、八重桜、牡丹、ツツジへと、艶やかに季節は地球の中の日本というキャンバスに思いのままの花を描き、初夏に木々を新緑に変えて行くのでしょう。

4月3日、春の海

先日南房総に行き、野島崎灯台にも足を延ばして、一足早い春景色に会って来ました。とりわけ海が綺麗でした。豪快な白波の下に、透明から次第にアクアマリン色へと変わりながら盛り上がって行くうねりを次々と見る事が出来て、魅了されました。岸に近い所など、1メートル位しか離れていない場所でもう微妙に色が違うのが神秘的です。海は繊細でもありますね。内湾になるほど銀色に光る海はとろっとした質感で、凪いでいる事を実感しました。新年度を迎え、進学や就職をした方、定年退職した方、色々な方がいらっしゃる事と思います。どなたにとっても、この春が充実した幸せな春になりますように。また、このままこの日の凪いだ海のように自然も人間も穏やかに平穏に暮らせるよう祈りたい気持ちになりました。

3月28日、見返り美人

暑い夏に姿の良い人とすれ違うとさっと涼しい風に吹かれたような心地よい余韻が残ります。綺麗な人という意味ではなく、涼しげな色合いの服装で姿勢もよく、場合によっては日傘を少し傾げてお互いに会釈をして、などという、コミュ二ケーションの糸がぱっとつながった時にそのように感じます。ですから別に夏以外の季節でもよいのです。その人のセンスや信条が垣間見え、多分その価値観が自分と似通っていると猶更好いこころもちになるのでしょう。ところで、今のご飯茶碗は丸みがある輪なり型の物が圧倒的に多く、昔は珍しくなかった朝顔型の物を滅多に見かけなくなりました。私はあの朝顔の形のご飯茶碗が、姿がすっきりとしていると感じるものですからとても残念です。たまに見かけると、毎日使う物で壊れる事のある物としては結構よいお値段で、ちょっと手が出ません。高価ではない漆器、木製のお椀などですと壊れませんから便利で我が家では使っています。見た目が美しくても実用的でないものはあまり好みません。高価でなく見返り美人のような、いいえ、こちらが振り返ってじっと見てしまうようなお茶碗に、是非出会いたいものです。

3月23日、植物にはある力

秋にルッコラの種を蒔いて、初めての事だからダメでもともと、と思っていたら順調に育ちました。収穫した物は生だけでなく茹でても美味しかったですが、やはり胡麻のような香りは生の時が一番です。寒くても春にさきがけて確実に育っている野菜や花の生命力と、季節を察知する能力に今年も驚嘆しています。人間である私には足りないところです。進歩というのはどのような事をそう呼ぶのか、進歩すると遠い将来に役に立って人間が幸せになれるのか、そんな事を考えるのも大事だと思います。でも難しい事でもあって、私など分からないまま流されているようにも思えます。幸せの定義も人により場所や時代により、違うものでしょうけれど、それでも負の遺産というのは出来るだけ避けたいですね。

3月17日、亀裂と動画の時代

イギリスのEU離脱やアメリカでのトランプ氏の大統領選挙当選、韓国の朴大統領罷免、森友学園の問題、まるで味が濃くボリュームのある主菜がどんどん並べられているようで、思考が追い付かず、とても消化出来ません。ただ、あちこちで同じ国に暮らす人達の間にひびが入ったような状態になっていると感じます。一旦亀裂が入るとそう簡単に以前のようにはならないでしょう。皆で良いと思う方向に持って行けるか大事な瀬戸際であり、熟慮するチャンス、とも言えるのかも知れないとは思います。また、歴史が今この瞬間にも作られているのだという事を改めて実感したのは、金正男氏が暗殺された事件についての報道でした。金氏の息子という男性の動画から、どんな活字や写真からよりも、現実を生々しく感じました。彼はまだ若いのになんとも複雑で難しい、危険な立場になったのですね。ただ、動画の与える影響が大きい事を思うと、作られた嘘がまことしやかに動画で世界中に広がっていったら恐ろしいので怪しげな事は頭から信じない方が良いかも知れない、よく見極めなくては、と思いました。金正男氏は、ディズニーランドに行きたいという理由で、家族で日本に、という事があって、あの時は驚きました。どのような人であったのか私には知る由もありません。丁重に御遺体は安置されているでしょうが、物ではなく亡くなった人間なのですから早く安らかに眠らせてあげたいものです。スギ花粉の大量飛散という中で外の仕事をしていたせいか、昨夜はクシャミが20回も出て頭がボンヤリし、ちょっと思考停止状態になってしまいました。

3月11日、震災の後

東日本大震災から6年、長かったのか短かったのか複雑な思いです。原発事故の影響で故郷を離れて暮らしている人の6割が傷つくような事を言われた事があるというアンケート結果に唖然としました。被害者に対して、保証金がもらえて良いとか、放射能で汚染されているなどという事を言う人の気持ちが、私には理解出来ません。心を閉ざし、つらい思いを話す事が出来なくなります。心の奥がずっしりと重く、もう一度被害にあったのと同じではないでしょうか。これでは、子供のいじめだけを問題視するわけには行きませんね。友人から頂いた美味しい紅茶を飲んだのですが、心に霧がかかったような釈然としない思いの朝です。今日は卯の花を煮ましたが、こんな気持ちなので彩りの綺麗な煮物を見てもやりきれない気持ちの方が強いのです。未だに行方不明の方が大勢いらっしゃるという現実も、この震災を一日たりとも忘れる事が出来ない理由の一つです。震災で被災した方々の心に一日も早く春が来て欲しいと思うばかりです。

3月7日、荒野を渡る風

春の入り口はお天気が荒れますね。気温も日によって差が大きいですし、寒冷前線が通過する日は風が強く、荒野を吹き抜けて行くようなその音に気が滅入ります。嵐が丘という小説に出てくる名前ヒースクリフを思い出したり、砂漠の砂嵐を連想したり、かなり長時間の荒天に、これも地球温暖化の影響なのかと考えたり、今年の二月はそんな日が多刈ったように思います。それでも、春が近づいているという事は草が伸びて来たという事で、また草取りに忙しくなります。ジャガイモを少し植えました。これは、大きくて収穫量が沢山だった年がまだなく、私にはなかなか難しい野菜です。ネコヤナギの穂がお天気の良い日は銀色に輝き、本当に猫の被毛のような手触りで、これも今の時期だけの物で我が家の庭にもあります。ネコヤナギやご近所の白梅、沈丁花の香りを楽しみながらマスクをして外の仕事をする事にしましょう。

3月3日、猫の春

今年も我が家では節分の後こけしの雛人形を飾りました。旧暦の3月3日まで飾っておこうと思います。ところで、今猫達は恋の季節、賑やかですよ。でも避妊手術をしたメスは追いかけられる事がないですし、お互いに関心がないようです。オス猫は縄張りというのか外へ出て行くのが好き、メスは子育てをするからなのか足元をしっかり固める堅実な性格、という猫が多いように感じます。去勢や避妊をしてもこの本能はどうやら残るようで、一見無防備で無邪気に甘えるオス猫達は成猫になっても変わりません。手堅くて安心なのはメスですが、どちらも自分のペースで暮らし、人間に懐いてはいるもののご主人様などとは一向に思っていない様子で、自然の中でのんびりと暮らしています。遊びに来る猫も定員のようなものがあるらしく、一定の数より我が家では増える事がありません。気の合う猫と会わない猫がいて、それは人間と同じです。危なっかしくてサプライズのある甘えん坊のオス猫、おとなしくて毎日コツコツと堅実に暮らしているメス猫、人によって好みは分かれるでしょうね。ただ、どんな猫でも一緒に暮らしていれば情が移ります。春にはあちこちで誕生するだろう子猫達が捨てられないよう祈るばかりです。

2月26日、影は切り離せない

自分が付き合うのが苦手な人はどのような人なのでしょう。それは、多分自分と考え方や感じ方が違いすぎて共感しづらい、あるいは自分で嫌だなあと思っていてなるべく人には見せないようにしている所がある人、つまり自分の欠点と思っている部分が鏡に映し出されているようで見るのがつらい、私などそういう場合が結構あるように思います。自分と反対の性格のように感じる人は、自分が選択しない方向や事柄を選ぶ人でしょうから、自分が選ばなかった生き方をしているのではないでしょうか。それは、気づかなかったけれど自分の心の深い所で羨ましいと感じている、そういう事もありますね。ですから、疎ましさを感じる理由は一つだけではないと思いますし、意識されている心の表層だけとは限りません。自分とタイプの違う人と付き合えるようになるのは簡単ではありませんが、そう出来たら自分の視野が広がり、ひと回り大きな人間になれると思うのです。望む事柄が多く、それを理解し受け止めてもらえなかったと思った時に嫌いになるという事、家族や親しい人に対してはありがちだと思います。親しいからこそ望む事も多く、憎む事にもつながるのだと感じますが、最近そのような事件が多いですね。助け合い譲り合い、知恵を出し合って暮らせたら諍いは随分少なくなるだろうなあ、などと思って毛利元就の三本の矢の話を思い出す事が増えました。自分が認めたくない物や否定したいものを切り捨てる事は自分の影を切り捨てる事になってしまいます。影は、人間にとって自分とは不可分なのですから本当はとても大切なのですよね。大事にするには、まず等身大の自分を否定せず受け入れ、自然体で人とかかわりたいのですが、難しい事でもあります。ありのままの自分に目をやる事から少しずつやって行きたいですね

2月20日、チョコレートの断面

バレンタインデーにチョコレートを贈るという事がいつから始まったのかよく分かりませんが、今ではすっかり定着しています。仲の良い女の子同士で贈り合う、自分に買うという人も珍しくないようです。節分の恵方巻も地域によっての事ではなく、今は全国的な節分の行事になりつつある、こんな事もあるのですね。ですが、チョコレートの原料であるカカオの生産地であるガーナなどの生産現場では多くの子供たちが働いているという現実があります。甘くて、ラッピングされた様々な味の、色とりどりのチョコレートを食べる事など出来ない子供達がいる事を、子供にも話して聞かせたいと思います。チョコレートの断面は現代社会の断面のようにも思え、その鋭さや、クローズアップされた陰の部分の色の濃さに圧倒されそうな思いです。

2月15日、帰宅

八か月近く行方の分からなかったオス猫が先日帰ってきました。怪我をしていたり痩せていたりという事もなく、元気で相変わらずのんびりとしています。よく鳴いて甘える猫なので随分賑やかになったような気がします。何故いなくなったのか、どこでどんな生活をしていたのか、分かりません。まるで一時間ほど前に出かけて今帰って来たようなケロッとした顔をしているのです。争いが嫌いで、強い猫がやって来ると逃げたり怒ったりせずにいつも黙って人間のそばによって来るおとなしい猫なのですが、私が思っていたより賢くて逞しいのかも知れません。考えてみれば、どんな生い立ちか、どうして我が家に居ついたのか知るすべもなく、この猫の事をよく理解出来ていなかったのです。分かっているつもり、知っているつもりの自分以外の人を、本当はよく分かっていない事もあるのだと思った次第です。それにしても、可愛いけれど猫は謎です。

2月10日、補償

夢をみました。夢は無意識といいますか、自分の深層を知る手がかりになります。例えば、電車に乗りたくて駅に急いでいるのになかなか前に進めないでイライラするという夢などは、たいてい日常生活の中でストレスが溜まっている時に見るのではないでしょうか。私の夢は、以前お世話になった方お二人が入院していて私がお見舞いにその病院に伺い、ご家族に頼まれて一緒に病室に物を運んだり片づけたりする、というものでした。お二人とも亡くなった方なのですが、お見舞いに伺う事が出来なくてとても申し訳なく思っていました。久しぶりにお二人にお目にかかって足りなかった酸素を十分吸ったような気分になりました。十五夜の月に比べ、三日月のようになっていたこの心残りの部分が解消されたような気持ちは、亡くなられた方に対して不謹慎な言い方かも知れませんが、何か開放感のようなものも感じているのです。罰など与えられる事でなくとも、申し訳ないという思いは、いつも心のどこかで深く自分を捉えていたのだと思います。何か、罪と罰という本を思い出してしまいました。夢の中でのお見舞いの後、やはりお見舞いに来ていたらしいおさげ髪の中学生くらいのお嬢さんに、自分の思っている事は遠慮ばかりせずに話したり行動したりする方が良い、そうしないと後悔するから、と言って病院を後にしました。とてもリアルな夢でした。年齢とともに頭が固くなってきた、常日頃自分の事をそう思っていたのですが、心の奥で、もっと柔軟になって自分を縛りすぎないように、そう望んでいたのかもしれません。今、という時間は永遠ではなくまさにこの瞬間だけで後は過ぎ去って行くものです。規範とか人を傷つけないように、という事を踏まえたうえでなるべく後悔の少ないような毎日にしたいと思いますが、それもなかなか難しいものですね。足りなくて悔いの残る部分をひとつ夢の中で補って朝を迎えました。

2月4日、外と内の鬼は

昨日は節分でした。我が家では今年も豆まきをしました。福岡の堅パン、干したスルメイカの足、もう鉋では削れないほど小さくなった鰹節、そういう固い物が好きでしたので、予め炒って売られている大豆は固くないのがちょっと残念です。中国の春節は随分賑やかなようですね。都会で働いているご両親の帰郷はどこの国の子供にとっても何より嬉しい事だろうと思います。節分、立春と言っても、この辺りでもまだ雪が降る事もあり、当分寒さが続きますが、日が長くなったことやフキノトウが顔を出し始めた事など、自然は確実に春に向かっています。鬼は外の鬼は何なのか、泣いた赤鬼、という話など、鬼にも心があり、良心がちゃんとあるので、人間とどう違って、豆をぶつけられるのだろうと、子供の頃不思議に感じた事はありますが深くは考えませんでした。災害、病気など避けたいですけれど、そういう物ではなく、自分の感情や価値観などを省みて時々洗濯をしないと、心の中の内なる鬼がいつの間にか大きくなってしまうのでは、この頃そんな風に思います。自分にも他者にも優しくありたいものです。

1月31日、非色という本

中学生の頃、有吉佐和子さんの本をよく読みました。今では絶版になっているものもあると思います。その中の一冊が、非色という小説でした。アメリカのトランプ大統領が、今の時代のある側面の象徴のように感じられ、この本の事を思い出したのだと思います。今の境遇に不満や不安があるから新しいものを求めた結果として彼が大統領に選ばれたのでしょうし、彼も肌の色が問題だなどと言っているのではありませんから、この小説とダイレクトに結びつくという訳ではありませんけれど。この小説の主人公の女性は、戦後日本に進駐して来たアメリカ海兵隊の黒人の兵士と出会い、愛し合って結婚します。親の反対を押し切っての結婚でした。仲良く幸せに日本で暮らしていたのですが、やがて生まれた女の子は父親に似ていました。朝鮮戦争が起こって彼は日本を離れます。その後アメリカに帰った彼から連絡が来て、紆余曲折はあったものの、彼女は子供を連れてアメリカに渡ります。しかし、アメリカで黒人の働ける職場は限られており、生活が厳しいので彼女も働くようになりました。その後も子供が生まれ、職場を何度か変えて行く中で彼女は様々な場面に遭遇し、色々と考えさせられます。非色とは、色に非ずと書きますが、肌の色や、どこの国からアメリカに移り住んだのか、などによって差別がある事を彼女は知りました。最後に、彼女は給料の高い所を探して勤めるという選び方をやめる事にしたのです。近所の、貧しいけれど気のいい黒人の主婦と話す彼女に、人と人との隔たりは垣根を作るから生まれるのだ、という事を教えてもらったようなこの場面が心に残っています。人は色々な理由をつけて、自分より劣っている人達がいるのだから自分の方がまだ良い、と優越感を持つ、そういう事はいつの時代でもどこの国でもあった事で、今でも人の心の中にあるのではないでしょうか。子供のいじめの源は大人社会の中に潜んでいる事を痛感しました。来し方を省み、未来を考えるために立ち止まる大事な時なのかも知れません。

1月27日、冬の星座

朝起きてラジオのスイッチを入れたら懐かしい曲が聞こえて来ました。冬の星座です。伴奏のピアノが一つひとつの星の瞬きのようで、良く晴れた晩に明日も冷え込みそうだと思って空を見上げた時のような気持ちになり、澄んだ美しい歌声に心が洗われるようでした。どの星も生きていて、そこには生命を持ったものが住んでいるという気がして、宇宙の広さと、過去も未来も長い時間星々が生きて存在して行くのだろうという事を思い、地球の中の人の存在は小さく、人間の一生は短いものだからこそお互いを大切にして行きたいものだと改めて思いました。今のような不透明で不確実、ともすれば不安になりがちな時代に、浮世離れしたような事を言うと思う方もいらっしゃると思いますが、多分、こういう時だからこそ、そのように思ったのでしょう。寒中だというのに、一鉢残しておいたシシトウの花が咲き、実が少しずつ育っている事に気づきました。ここにも生きている仲間を見つけたのが嬉しくなった朝でした。

1月24日、豆きんとん

11日の鏡開きには供えてあった餅を使いますが、今は買ってくるので、我が家ではお汁粉を作らなくなりました。子供の頃、母が乾燥していてひびが入った鏡餅を割って作ってくれる塩味の揚げ餅が好きでした。これは刃物を使って切ってはいけない、と教えられたものです。真ん中が固く、あまりサクサクしていない方があっさりとして、噛みしめると餅本来の味がした事を覚えています。季節というものを感じる行事が多かったのですね。必ず継承しなくてはならないものではないかも知れませんが、何時どのような事をしてきたのか伝える事は続けて行きたいなあと思っています。伝える事を止めてしまったら次の世代の人は過去に季節の伝統行事があった事を知らず、そこで断絶してしまうのですから。勿論、昔と同じように全部昔通りに行事をやらなくてはいけないというわけではなく、選択する事もやり方を変える事もその家庭の自由だと思います。今はスーパーのセールなどで、前倒しという売り方を見かける事が多いですが、前倒しと、季節感を味わいながらやがて来る季節にさきがけての行事とは、少しニュアンスが違うように感じます。我が家では11日を大分過ぎてから、今年はさらし餡と白花豆を買って祖父の好きだった豆きんとんを作り、墓前に供えました。

1月19日、お年玉

去年収穫した一番生りのエビス南瓜、大きくてしっかりしていたので一つ残しておきました。煮てみたらホクホクしてとても美味しいです。ビタミンA一杯のお年玉をもらったようで嬉しくて、感謝しています。どんな側面に焦点を当てるかで、受け止める気持ちも変わってきます。それによって気持ちはプラスにもマイナスにもなりますね。

1月14日、謝ると許す

ごめんなさい、と謝るのは大人にとっては勇気のいる事という場合がありますし、子供でもそうかも知れません。だから、ワシントンが桜の木を切った事を正直に言うとその正直さを褒められた話を子供に聞かせるのだと思います。でも、よく正直に言ったと褒められる時ばかりではなく、叱られた事の方が多いと思っている方、多いのではないでしょうか。私は最近謝る事は出来ても、許して下さい、と容易に言えなくなりました。謝ったら相手に下駄を預けてしまった状態になり、許すかどうかは相手次第です。反省して正直に謝っている人をそれ以上責められないとしても、重大な問題であると思ったら許せるかどうか、謝られた側は許すのが難しくて悩むかも知れません。それは、ごめんなさいといった後は謝った私の方は気持ちが軽くなって楽になり、相手の気持ちが重く苦しくなる場合もあるのだという事に気づいてしまった、という事です。許す事の出来る人は心が寛く、スケールの大きい人なのだろうなあと思う今日この頃です。

1月10日、平凡でも固有の自分

お正月はラジオの番組も普段と違います。毎年ラジオから聞こえてくる琴の音にお正月らしさを感じます。不足や不満がある時には、頑張って何とか出来るものは何とかしようと努力し、自分の力では変える事が出来ない事は、やりきれない気持ちが持続し、ストレスとなる、若い頃はそういう風でしたが、この頃年齢のせいばかりでなく、自然災害が多いと感じているものですから、無事に平凡に日々過ごせるのは決して当たり前ではなく、ありがたい事なのだとしみじみ感じるようになりました。関東大震災や戦争の時代を生きて来た祖母の様々な言葉を思い出します。もし先祖が一人でも違う人だったら今の私とは別の時代に生まれていたかも知れず、出会っていた人の幾人もが、今まで私が出会ってかかわって来た人とは違い、別の場所で暮らしていたのかも知れませんね。偶然の積み重ねのように見える様々な事は、もしかしたら必然であり、今の自分がこのようにして生きている事は目に見えない何かに生かされている事なのかも、と思う時があります。だからと言って特定の宗教を信仰しているわけではありません。誰も皆他のどんな人でもない固有の、一人しかいない自分なのですからそれだけで自己肯定感を持って、生きるという事を大切にして行きたいですね。どなたにも、自ら命を絶たないで生きていて欲しいといつも思っています。

1月6日、タカキビ

我が家ではご飯を炊く時によく雑穀を入れます。黒米、赤米、もち麦などその時によって色々です。タカキビという雑穀を見つけて買ってみました。白米が食べたい、甘い物は貴重だ、戦争中や戦後まもなくの頃はそういう風だった、健康の為に雑穀をわざわざ混ぜる今の時代を、お年寄りが、贅沢な世の中になったものだと感慨深げに話して下さいました。タカキビは中国大陸東北部でも沢山栽培されていた作物のコーリャンの事でした。中国に残留しそこで育てられて生きる事になった子供は多いけれども、長く生きられなかった子供達も大勢いるのですよね。戦争は人生を変えてしまいます。戦争が終わっても、国と国との間に、なかなか埋める事の出来ない日本海溝よりも深い溝がいつまでも横たわっている、そのような場合もあると思います。負った深傷が容易に癒える事のない戦争というものを思って、弾力のあるタカキビを噛みしめた今日の朝食でした。

1月1日、信号が

新聞に、小さいお子さんが横断歩道を渡っている時に歩行者信号の青が点滅し、ゆっくり赤になって行く様子を見て、渡り終わるまで赤にならなくて信号が優しいと言ったという投稿がありました。教えられたように思います。優しいのはあなたですよ、と言ってあげたくなりました。子供は大人より小さく、大人よりすべてにおいて未熟な存在というものではなく、独自なのだという言葉を思い出しました。子供が素直な物の感じ方や物を擬人化して大切に接する事が、自分にはずいぶん遠い昔の事になってしまっており、ぞんざいでもそれがいつの間にか普通と感じている事に気づきました。2017年が穏やかな年であって欲しいと願い、自他に優しくありたいと思っています。

12月31日、未だに

東日本大震災の行方不明者は196人、というニュースを聞きました。未だにそんなに大勢の方がご家族のもとに帰れないとは、現実の重さに胸を衝かれたように感じます。ご家族のお気持ちはいかばかりでしょう。また、突然の地震と津波が見慣れた景色や日常の生活を大きく変えてしまい、遠くへ避難した方達は震災で心に傷を負い、これからの暮らしへの不安を抱えてそこから前に踏み出そうという気持ちでの日々だったのだろうと察せられます。それなのに新しい環境で子供が温かく受け入れられるのでなく学校に行く事が出来なくなるほどつらい思いをしたご家庭が少なからずあるという現実に、限りなく心が重くなります。どなたにとっても2017年が穏やかで恙なく、温かい気持ちで過ごせますようお祈り申し上げます。

12月28日、お互いに

慰めるのでも、抱きかかえるのでもなく、互いに共有しえない闇の、その共有しえないという事の重さを共有していく事、新聞に載っていた心に残る言葉です。日常の中でそのようにして、人とかかわりあって行きたい、そう思いました。でも、普段の自分はそのように配慮が行き届き、人を大切にしていつも暮らしているわけではなく、後悔も反省も多いのです。それはやり直しがきくと思っているからだと思いますが、時間は無限にあるわけではありませんよね。

12月25日、桑の針箱

桑の木で作られた針箱は、今では数少ない物だと思います。針箱という言い方もあまりしなくなりました。お雛様の道具の中に立派な針箱がありますね。昔の人は新しい物を作るばかりでなく、繕い物も随分したのでは、と思います。お母さんやおばあちゃんが針仕事をする後ろ姿、というと縁側でとか夜なべ仕事だったという事を知らない人も増えているでしょう。でも、家族への愛情のこもった一針ひとはりだったと想像する事は出来ると思います。子供は、そうやって温かいものに包まれて育てて行きたいですね。傷ついた心や不安を感じている子供を温かく包むようにして。なぜ針仕事をする母親というものを思ったのかと言いますと、原発事故の影響で避難して来たお子さんに補償金が出ただろうとか、放射性物質で汚いなどという事を言ってのいじめがあるというニュースに驚いたからなのです。どうしてなのでしょうね。子供だけではないのかも知れませんし、表に出て来たのは氷山の一角かも知れないという気がします。自分がその立場であったら、という気持ちになる事はそんなに難しい事なのでしょうか。社会が病んでいるという部分もあるのかも知れませんが、今この瞬間も動いて歴史が作られている中で、どのように躾や教育をして言ったら良いのか、大きな課題を突き付けられたように思います。移り変わりの激しい今という時代は、何でもありの時代、他人を粗末に扱う事は自分をぞんざいに扱っている事にもなるのだという事を、親や大人達の後ろ姿を見て子供達が学習しているのです。まずは私も肝に銘じたいと思います。

12月21日、今年の漢字

今年の漢字は、金、だそうですね。私は、驚、色々と想像もつかない事の多い年だったと感じています。来年は出来るならば天災のない年で会って欲しいですし、人間の努力で防げる事は防ぎ、自他を思いやって出来る限り大切にして行きたいものです。晩秋から、存じ上げている方の訃報に接する事が多く、昔の事などあれやこれやと思い出しています。猫を予防接種に連れて行き、私もインフルエンザの予防接種を受けてきました。

12月16日、朝の時間

休日の早朝、ラジオでは宗教の番組が多い事を知りました。キリスト教、仏教のいくつかの宗派、聞いている方が多いのでしょう。つらい時の心の支えになったり、今日も心を新たにして頑張ろうという気持ちになる事が出来て、視点が変わって前向きになれる方やマイナスの出来事や気持ちをリセット出来るという方にとっては大切な時間なのだと思います。私は信仰している宗教があるわけではありませんが一度じっくり聞いてみたいと思います。早寝早起きは受験生や若い方には無理かも知れませんが、私は年と共に次第にそうなってきました。小鳥のさえずりに、フレッシュな朝だと思えると良いのですが、あっ、ヒヨドリが鳴いているからパンジーも野菜も皆食べられてしまうといけない、急いで起きなくては、などと思う事の多い冬の朝なのです。

12月11日、光る海と山並みと

マザー牧場に行って来ました。何十年ぶりでしょうか。近いところにはかえって行かないものなのかも知れません。遊ぶものも増え、ずいぶん変わっていました。動物は見るだけで気持ちが和むものですね。羊や山羊がとても可愛かったですよ。可愛い丸顔の子羊、連れて帰りたいと思いましたが、やっぱり家の猫たちの方が可愛いです。段々と留守番している猫の事が気になって、イルミネーションをいくらか見て早めに帰ってきました。まるでお母さんです。イルミネーションは青と緑が多くて派手過ぎず、綺麗でした。観覧車から見えた東京湾は光っていて美しく、いくらか紅葉した山並みは東山魁夷さんの残照そのまま、眼下に見える緑豊かで家が点在する集落は、そこに住んでみたいと思うほどのどかそうです。360度絶景、でした。マザー牧場は鹿野山だと思いこんでいましたが、あそこは鬼泪山だったのですね。ストレスが多くて疲れている時など、気持ちがほぐれると思います。大人も童心に帰って、というのも時には良いですし、山の上から景色を眺めると視野が広くなったような気がしてきます。暮れは何かとお忙しいでしょうけれど、お天気の良い日にいらしてみて下さいね。

12月6日、そら豆

11月に黒いビニールポットにソラマメの種を蒔きました。果たして芽が出るだろうかと気になっていたら、芽が出て育ち始めました。蒔いた豆の数からすると、発芽の確立は60％ほどでした。多分もう少し暖かい時期に蒔くものなのだと思いますが、どうしても育ててみたくなって種を買い求めたのです。おせちの中のお多福豆はどうやって作るのか、ずっと気になっていたので、種苗店でソラマメの前を素通り出来ませんでした。黒豆や小豆などの豆は乾物が売られていますから茹でてから煮ますが、乾物のソラマメはまだ見た事がありません。お多福豆もきっと乾物を茹でて煮たものなのでしょう。そうでないと中が柔らかいのに豆の形が保たれている出来上がりにはならないと思うのですから興味津々なのです。勿論今回蒔いた物は無事に成長してくれさえしたら良いと思っていますので、赤ちゃんを育てる事によく似た気持ちです。ソラマメの生命力と、私の適切なかかわり、何か責任重大ですけれど楽しみでもあります。月末に本葉4枚になったので地植えにしました。雨が多く、どんより曇っている日が多い事が気になります。

12月1日、緊迫した朝

11月22日朝福島県沖で地震が起き、津波警報が出されました。千葉県沿岸にも津波注意報が発表され、一日の始まりが緊迫したものになりました。遠く離れてはいますが、今回もニュージーランドでの地震の後に起きました。何らかの関係があるのかも知れません。被害が出ませんようにと祈りたい気持ちになりました。太陽の黒点が多い時と少ない時、地球にどんな影響を及ぼすのか、その理由、オーロラがいつもより緯度の低い地域で見られる、月は徐々に地球から遠くなって行く、どれ一つをとっても宇宙や自然の力の大きさや、人間にはまだまだ分からない事が多く、変える事が出来ないという事を思い、また、震災で未だに行方不明となったままの方々の、一人ひとりの命が重く尊い事を、改めて思いました。。

11月26日、保存する

種蒔きした大根が育って来ました。二度うろ抜いた後に、小松菜などの葉物野菜と違って大根の葉とはっきり分かるようになりました。青虫やバッタなどがいつまでも多い年です。里芋も全部掘って茶色い茎の皮をむき、茹でて冷凍にしておきました。このずいきは酢味噌和えになりますし、よく干したものを芋がらといいますが、煮ても食べられます。喉の奥まで痒くなるそうですから緑色の茎では出来ません。かぼちゃ、里芋、保存できる物の収穫も終わってひと雨ごとに深まって行く秋、もうすぐ冬です。結婚式場は忙しそうですよ。今年は少し読書もしようと思います。

11月21日、蕎麦は故郷に

160年前の先祖が灰や土を蕎麦の実に混ぜて残したというその種を蒔き、やがて実る、凄い事ですね。そういう番組に驚きました。飢饉を乗り越えてきたご先祖様の知恵は子孫への思いがこめられているのだと思います。蕎麦は、信州や東北だけでなく、日本のあちこちで随分昔から栽培されてきたのだと改めて思いました。北海道の幌加内、新得の蕎麦もよく知られています。私は蕎麦畑に咲く白い花を写真でしか見た事はありません。福島で見つかった、先祖の思いのこもった160年前の蕎麦の種は、他の場所で蒔かれ実って美味しい蕎麦になったそうですから、そこからまた種が取れるのでしょう。160年の間蕎麦の種は見事に生き続け、これからも子孫を増やして行くのですね。この蕎麦が、種を残した先祖からずっと代々暮らしてきた福島県大熊町に、いつか帰ってくる事が出来たらどんなに良いだろうと思うと切なくなります。ここは相馬焼きの故郷にも近い場所です。

11月16日、菊は聴いている

今年は小菊に蕾が沢山つき、少しずつ膨らんでいます。植物は秋の深まって行く気配に敏感なのですね。まるで五感で秋を感じ、満喫しているようです。菊は聴いている、という事なのでしょうか。良い花を咲かせるには良い音楽を聞かせる、という話を聞いた事があります。特別手入れをしていませんが、我が家の菊が綺麗な花を咲かせてくれるのを楽しみに待つ事にします。霜降もとうに過ぎ、季節が冬に向かっているのを実感するのは朝の冷え込みからです。ところで、糟糠の妻という言葉を滅多に聞く事がなくなったように思います。糠味噌をかき混ぜながらふとそんな事を思いました。

11月11日、実るほど

往復約10キロのウォーキング、慣れると結構楽しいものです。黄色く色付いてきた大きな蜜柑が目につきますし、柿も綺麗な柿色になって収穫期だなあと感じさせてくれます。自分が栽培しているのではないけれど何かホッとして心がゆったりしてきます。台風が多い年だったせいで一層実りをありがたく感じるのでしょう。田んぼの稲も黄金色、重そうに頭を垂れて満足気に見えました。今は無事に稲刈りが終わった後の景色の中を歩いていますが、実るほど頭を垂れる稲穂かな、という言葉を思い出します。立派な人は決して尊大ではない、そのようになるのは難しい事だけれど大切な事なのだと、祖母が教えてくれたのは私が小学生くらいの時の事だったと思います。深く考えずに聞いておりました。大切な事を教えてくれる人が決していつまでもそばにいてくれるものではない事に、うかつにも気が付いてはいなかったのですね。まだ実ってなどいませんが、謙虚でありたいと思う今日この頃です。

11月5日、秋のしっぽ

箱根駅伝に出場する大学も決まり、錦秋というより冬仕度に移行、というのが実感です。先日蒔いた大根やからし菜の芽が出て育ち始めています。カンナとコスモスの花が咲いている庭にはかろうじて夏が残っているようにも見えますが、夏野菜はもうどこの畑にもありません。歩いていてたまに畑がいくつか並んでいる所があると、家に帰ってきたようにホッとします。のどかで自然体でいられるスポットのように感じるのは昔から見慣れた、自分と不可分のような景色だからなのでしょう。どんな喧噪の中にも、のどかに見える所にも人の暮らしがあるのですから、喜怒哀楽もあれば悩みが生じる事もあります。夕暮れ時には明かりのともっている家の中で温かく暮らしたいですね。暖房も必要ですけれど、寒々とした心を抱えていると長い夜になりそうで、それはとてもつらい事ですから。秋のしっぽにつかまって秋を満喫しながら、冬への準備をして行こうと思っています。

10月31日、秋がマフラーを巻いて

新潟から北の日本海側、という言葉を、テレビやラジオの天気予報の時に聞く事が増えてきました。秋自身が、黄色やオレンジ色の複雑に混ざった色の毛糸で編んだマフラーを巻いて足早に進んで行くような気がします。あたりの景色を紅葉から冬色に染めて行く様子が一足先に見えるような気温の下がる朝は、心地よい一日の始まりでもあります。いまのところ、起きるのがつらいような冷え込みではありません。幾重にもマフラーを巻いた秋はもうすぐ冬にバトンタッチするのですね。色々と想像もつかないニュースの飛び込んでくる毎日ですが、今日も一日の始まりを恙なく迎える事が出来た事に感謝して動き出そうと思います。我が家では、人間より猫の朝食が先、が日課です。

10月26日、秋ナスの季節

錦秋という言葉がありますが、今年は台風が気になってなかなか秋を楽しむ気持ちにはなれませんでした。我が家でもいつもより遅い種蒔きの季節で、大根やからし菜、ワサビ菜などの種を蒔きました。観賞用の麦というものもあるそうで、珍しいので蒔いてみようと思います。プランターのルッコラは芽が出て来たので虫がつかないよう防虫ネットをかけました。その内年賀状が発売されるシーズンだなあと思いながら、金木犀の花が終わった畑でナスやシシトウを少しずつ収穫するのが日課でしたが気温が下がって来たので、そろそろ終わりです。水分が少なく実のしまったナスを今日は酢味噌和えの和え衣の味噌を少し増やして山椒の香りも付け、秋を頂きました。

10月21日、正直なヒラメ

人には善意の嘘というものもあると思います。ですが、価値観は人によって違いますから自分の考えが絶対とは言えません。かかわりながら共に生きて行くには他者の価値観も認めて行けるようでありたいと思っていますが、実際はなかなか難しいと感じる事が多いですね。ただ、人に何かをして差し上げた時に人の役に立てれば嬉しいけれど、それは自分がそうしたくてした事でもあるわけですから、例えば相手を癒してあげたとか私のお陰で相手が潤ったなどとは思えないのです。どうやら、そう言ったら傲慢だと思うのが私という人間のようです。絶対の物差しを持つ人はいないから日々試行錯誤しながら生きているのでは、と思っています。体の両面が茶褐色の珍しいヒラメが、山口県萩市の萩博物館で飼育展示されている、というニュースが新聞に載っていました。裏表のないヒラメをちょっと羨ましく思いますが、そうではないから人間の社会には深みがあり、それが魅力なのかも知れません。正直なヒラメさんは、こんな事を聴いたらどんな風に思うしょうね。

10月15日、あの頃は輝いていたのか

五十数年前、テレビは家庭内の娯楽の王様だったように思います。我が家にはまだ電話も冷蔵庫もありませんでした。東京オリンピックの頃から滅多に停電もなくなり、周りの景色はどんどん変わって行きました。開発され、どんな狭い道路も舗装されて人口も働く場所も増えた、こんな風に変わって行く速度は、今考えるととても速かったと思います。たぶん日本のあちこちでそのように変わって行ったのではないでしょうか。便利になるとそれが当たり前のような生活になりますし、便利になる前を知らない世代の方が圧倒的に多くなった事を今更ながら感じています。昔の人もこんな風に思いながら年齢を重ねて行ったのでしょうね。でも、年齢のせいばかりではないような気がするのです。懐かしさと同時に、緩やかに物事が変化していた頃の方が土台や骨格のしっかりした家のようで、地に足がついていたようだと感じ、安心感がありました。便利になったからといってこれでもう良いと満足するものではない、その分仕事が減ってゆったり生活出来るとも言えない事を実感しています。良いとか悪いとかいう事ではなく思うのは、人間には欲があるという事です。息つく暇もないほどの今年の台風に不安を感じながら、ひた走るのでなく、これからは立ち止まって歩調を緩めて行かないと、という気がします。白黒テレビでワクワクドキドキしながら大相撲中継を見ていたあの頃、頑張れば物事は誰にもきっと良くなると信じていたあの頃が遠いものになり、混沌とした世の中になるなどとは夢にも思いませんでした。複雑なグレーを帯びたグラデーションの川がよどんでいるようでいて、実は日々少しずつ流れている、そのようにして確実に時代は変わって行くのだという事と合わせて、その時代を作っているのは自分たちの筈なのに、意に反して流されているように感じるのは何故なのか、私がいくら考えても答えの出ない事の一つです。

10月11日、紫という色

肌寒く感じる日があるかと思えば蒸し暑いと思う日もあるのは多分季節の変わり目だからでしょう。初夏には藤色の花が爽やかに感じられ、夏には青みがかった紫が涼しげに見えましたが、そろそろ赤紫の深い色合いが暖かくて心地よさそうだと思う季節になりました。紫というのは不思議な色ですね。紫系の服は奇抜なようでいて季節感があり、センス良く着こなしている方も私の周りには割と多いです。最初に惹かれた洋服をパッと選ばないで迷ってあれこれ見てしまい、最初に惹かれた物に結局戻ってくる事もあり、着こなすなどという事はあまり考えずに価格とサイズで選ぶことが多いものですから、その人らしさが光るお洒落な身なりで颯爽と歩く人を見るのは気持ちが良いです。だから、畑仕事をしながら道行く人をちらっと見る事は色の妙味にいざなって貰ったようで楽しいひと時なのです。似合うというのはその人の持つ雰囲気とマッチしていることでもあるように思います。あまりジロジロ見ては失礼ですし、手を止めてばかりでははかどらないので、どのようにするのかがミソです。そんな事を思うものですから、雨が続くと五感の働きをちょっと遮られたような気持ちになって残念です。今年は初めて栽培した冬瓜が豊作でした。金木犀の香りが漂ってくる中、収穫しました。手のかからない冬瓜とのびのび自由に育って欲しいと思う私の波長が合ったのかも知れません。

10月6日、九寨江の風景

今まで私にとって中国四川省は、パンダの故郷という漠然としたイメージでした。確かにパンダが絶滅しないよう守られ自然の中で暮らしていますが、テレビに次から次へと映し出されるその地の自然に驚き、息を飲む思いで見ていました。多くの沼や湖は、濃いブルーや、南国のようなグリーンで、皆色が違うのです。長い時間をかけて削られた白い石灰岩に縁どられている、棚田のように見える幾つもの湖は、澄んだエメラルドグリーンで、太陽を浴び、微動だにしません。滝の水は絹糸のように流れ落ち、湖は青い絹織物のような光沢を放っています。魚はあまりいないのですが、静かで美しく、童話の絵本のページを開いた世界、という風です。観光客は黄緑色のバスに乗ってこの地を巡るのですが、バスが、保護色となって落ち着いた緑の木々の世界に吸い込まれて行くような錯覚を覚える不思議な光景でした。中国からは墨絵の世界に描かれた山や川を連想する事が多かったのですけれど、ここはとてもカラフルで、懐の深い人が笑みをたたえているように穏やか、そういう風情でした。近くにはチベット族の人達が暮らす村があります。地球は広く、歴史も価値観も異なる人達が暮らしているのだと改めて感じつつ、日本語を学んでいていつか日本にも行きたいと話しているこの村の若い娘さんの人懐こい笑顔に、人間は突き詰めて行くと同じ根っこを持っているようにも思え、お互いに大切にし合って仲良く暮らして行きたい、そうしみじみと思いました。

9月30日、お彼岸に温かいもの

秋風や心の中の幾山河、という高浜虚子の句の深さをしみじみと感じます。秋ですね。心の中の幾山河、と言えるのは振り返る事が出来るからで、震災や風水害で亡くなった方々はこの世の家族のもとでそのように省みる事はもう出来ません。残されたご家族にとっても、つらい現実をなかなか受け入れられず毎日を過ごしていらっしゃるのだろうと思うと、言葉もありません。突然連れ去られてしまったのですから。今年はお彼岸のお中日が土砂降りでお墓参り出来なかったので翌日お参りしました。以前にもお話ししましたが、勿体ない、とか命を頂くとか、箸の持ち方など教えてくれたのは母と祖母、新聞は会社によって同じ記事でも焦点のあて方が違う、価値観も様々と言ったのは祖父で、仕事以外に島崎藤村が好きでした。父は野菜作りや籠作りが上手で漢詩が好きでした。幼稚園に入る頃まで毎晩1時間位読み聞かせをしてくれたり、父の机で絵を描いたりして誰かしらが遊んでくれました。海苔の仕事は真冬の夜明け前、二時三時起きなので大変だったでしょうに、有り難かったと今頃感謝しています。月並みな言い方ですがもっと親孝行しておけば良かったと思っています。今日、ずっしりと重くて心のこもった新米を親類から頂きました。実りの秋にこれ以上の天災などないように祈りたいですね。秋景色が、どなたの心にも寄り添い、温かく癒してくれますように。

9月24日、つながらない

私の小さい頃の白黒テレビは一家に一台の高価な物でした。大人にとっても家で見られる大切な娯楽でもあり、ニュースを聞くだけでなく見る事が出来るのですから画期的、インパクトがあったのでしょう。アニメを見た記憶もありますが、そんな時、子供のおもちゃやお菓子の宣伝が多かったように思います。よく覚えていないのは、あれは見る物、近くには売っていない物、そう思っていたからなのです。綺麗な人形も大きなぬいぐるみも、東京のデパートに売っていて東京の子のおもちゃなのだと思っていたのです。うらやましいとは思いませんでしたし別に欲しいとも思いませんでした。家族の愛情のお陰なのか欲がない子だったのか、いいえ、多分テレビを通して見る世界と自分が暮らしている世界が別の次元のように感じられ、つながらないというか、結びつかない物だったのでしょう。テレビで宣伝している商品が近くの店でも売られ、日常生活にすぐに入ってくるようになったのは、スナック菓子が出回る前後からだったと思います。大人になって随分長い今、それは不思議な事でもありますが、あのころと比べるとはるかに多くの物が出回り、流通もスムーズで、次々新しい物が発売される世の中になったものだとしみじみ感じ、昔の人達にもう少し楽をさせてあげたかったと思います。ですが、この便利さが空恐ろしいと思う気持ちもあります。降り続く雨を見ながら色々と思い出しました。急に気温が下がったからなのでしょう、温めればすぐに食べられるおでんを目につくように並べているスーパーの中で、ふと心が迷子になったような気がしました。

9月18日、青い麦

麦秋の麦は黄金色で、麦畑が広がっている景色は独特です。でも、私は青い麦畑に惹かれます。寒さの残る早春に芽が出てまだ小さい時に麦踏みをすると、麦がよく育つというのも他の植物とは違いますね。折角出た芽を踏む方が良いとは誰が考えた事なのでしょう。この辺りは大麦の畑が多く、育って来た緑の穂が風に揺れると美しいけれど小さい頃はさして珍しくもなかったのです。今妙に懐かしく感じるのは、麦畑が近くになくなったからだけではなく、人間が成長する過程で言えば青い麦は少年や少女の様だったからなのでは、と思います。成長途中というのは脱皮する時期がこれから何度かある事でしょうから、元気でいきいきとし、悩む事や傷つく事があっても真っ直ぐにひたむきに夢や希望を持って日々過ごしている、そういう風に思うのです。挫折や諦めはその頃にはまだ考えられないのではないか、などとふと思いました。そして、生きているという事は決して逆戻り出来ない事でもあるから青い麦畑が懐かしくなるのかなあとも思いました。今この瞬間が、積み重ねられて歳月が流れ人生や歴史が作られて行くと思うと、一瞬の後には今は過去になるという当たり前な事が何だかおそろしいような気さえして来ます。後悔しないようにとか、勉強は毎日の積み重ねだ、と子供の頃先生や親に言われたけれどあれは本当だった、あの時にその事に気付いていれば良かった、こんな事を思うのは私だけでしょうか。

9月12日、次々と

新しい言葉を嫌でも覚えてしまいます。線上降水帯、爆弾低気圧、ゲリラ雷雨、寒冷渦、昔習って書いた天気図とは大分違う気がします。次々と近海で発生する台風が猛威を振るい、爪痕という言葉が憚られるような生々しい被害状況ですね。まるで日本列島の形が変わってしまったのではないかと思うような大雨に信じがたい思いでテレビやラジオのニュースを聴いています。台風シーズンはまだ当分続くのでしょうか。このところ、真っ白く光っている入道雲と濃い灰色の雲が青空に現れて喧嘩しているように見えるのが不気味でキツネの嫁入りのようなお天気でしたが、今度は秋雨前線の雨です。飛行機に乗って見た三陸沿岸の美しく地図通りの地形が震災によって大きく変化し、北の地が今度は大雨にみまわれた、この現実を抱えての秋の始まりです。家が全壊した、収穫目前の野菜などが水に浸かって収穫も出荷も出来ない、そういう時の絶望感はとてつもなく大きいと思います。でも、私は命が助かって欲しいし、やはり生きていて欲しい、何か自分に出来る事はないだろうか、そんな事をあれこれ考えています。

9月6日、槇の木と棕櫚の木

高校時代の先生に思いがけずお会いする事が出来ました。大学のゼミの同窓会の連絡も頂き、色々と思い出す事がありました。懐かしいという言葉を使えば、遠い思い出のようで実感が湧かず、やはりあのころの延長線上に今があるとしか言いようのない気持ちです。草刈りなどして少しは我が家も綺麗になりました。毎日外での仕事という方はさぞ大変でしょうね。家から四キロくらい離れている辺りに、槇の木と棕櫚の木のあるお宅が何軒かあって、子供の頃を思い出しました。棕櫚で作ったハエタタキがありましたし、槇の木の柔らかい葉も見慣れたものでしたが、今ではあまり見られなくなりました。ないものねだりに似た気持ちなのかも知れません。

8月31日、晩夏の夕顔

昨夜、静かになって鈴虫の声を聞いている時に今日が二百十日だと知りました。台風の被害が東北や北海道で出ています。命が一番大切です。でも農作物の被害は、農家にとっては大変な事ですね。最近、近くに住む友人のご主人が亡くなってご葬儀が終わりました。穏やかな方で、七月にお会いしたばかりでしたので驚きました。ご病気だったそうです。友人のご両親も肩を落とし、とても辛そうで、なんと言葉をかけたら良いのか戸惑ってしまいました。子供さんは社会人となって、特に心配事のあるお宅ではないでしょうが、友人にとってはなかなか受け入れられない現実、という気持ちでしょう。気丈に振る舞っていても感情が波のように大きく揺れ動いているのが分かり、私も辛くなりました。精進落としの席の遺影に、いつどなたの時でも思います。ああ、この席に生きて一緒にいられたら良かったのにと。何か役に立てればと思いますが、やはり日にち薬なのでしょうか。今年の秋を、ヒグラシや桔梗の蕾ではなく、友人のご主人の訃報からしみじみと感じています。いっきに秋が深まったように思え、夕暮れ時に咲いている神々しいような白い夕顔のほのかな香りに、友人ご夫婦が手を携えてご家族と生きて来た歳月が重なるような気がしています。友人のご主人は近所の人達にそっと別れを告げ、ご家族の幸せを祈りながら旅立って逝かれたのかも知れません。

8月26日、ミルク色のオリンピック

リオデジャネイロオリンピックをテレビで観戦したという方も多いかも知れません。私も夜時々見ていました。日本選手の活躍も素晴らしかったですし、公平公正の中で競い、認め合っての交流は爽やかで見習いたい美しいもの、という気がしている毎日でした。私にとって一番印象に残っている夏季五輪は中学生の時のミュンヘンオリンピックです。今回も選手へのインタビューを聞いていると冷静に試合が出来たという事、今まで並々ならぬ努力を重ねて来たことがうかがわれます。でも、どの方も声が若いのです。若いから出来た事も多いでしょうし、ピュアな心を持っている事もひしひしと感じます。私の子供より若い方もいるのですから。私は感動する心が少し薄れて来たようです。経験を重ね、色々な出来事を見聞きして来ると、悪い意味でも、なれてしまうのですね。どんなに美しいものでも、曇ったガラスに映したのでは、ありのままのものが見えたとは言えないと思うのです。ですが、年齢を重ねたから分かる事が日常の中ではあるのですから、何とも言えないようにも感じられ、ちょっと複雑な気分になっています。沢山の方の持つ、一人ひとりが違う多様な価値観を大切にして仲良く共存して行きたいと思うようになりました。感動が心の奥深くに刻まれるのではなく、表層に短い間刺激を与える、という風になって来たのと同時に。穏やかに、少し鈍った色の鏡を持つようになったのだと思います

8月21日、君津の古時計

我が家のトマトが漸く実りました。完熟のトマトファーストは、小さいけれど頭が尖っていて重く、旨味が凝縮、という味でした。これは何だろうと感じるようなバランスの良い甘みと酸味、昔ながらの青臭いにおい、久しぶりに霧がぱっと晴れた気がする美味しいトマトでした。でしたというのは、今のところ赤く色付いているのが他にはないからで、もしかしたらこの1個だけかも知れないからなのです。完熟の実を出荷というわけにはいかないのは確かにやむを得ない事だと思いますけれど驚きました。野菜に限らず、漬物も惣菜も忙しいとなかなか一から手作りという訳には行きません。昔は家事には手がかかり、たいていの物は母の手作りでした。今思えば、当たり前のように食べていた物が懐かしいだけでなく、自然の味の贅沢な物だったように感じます。本物の味に触れる機会を多くしたければ時間がかかりますし素材を選んで買うとお金もかかります。何だか綺麗に磨かれたガラス窓から外を見ているだけで手を触れる事が出来ない、と例えたくなるような事の多い食生活、という気がしてとても勿体なく思えてしまいます。大きな古時計の独り言のような内容になってしまいましたね。

8月16日、赤い靴と青い目の人形

立秋が暑さのピークだったのだろうかと思うほど、朝の気温に変化が感じられるようになりました。吾亦紅も咲いて、蝉も夏から秋に移り変わって行くのが名残惜しくて声を限りに鳴いているように感じられるのですから不思議です。まだまだ暑いのですが、一日の最高気温が35度には届かず、猛暑日ではない事がこんな風に感じる理由なのでしょう。でも、これがかつては普通の夏だったのですね。随分変わったものです。夏に外で仕事という方は大変です。熱を加えて作るという、セルロイドの人形を作っている会社の方も大変ですね。セルロイドの人形というと、起き上がり小法師やキューピーを思い出します。昔はどこの家にでも、子供のおもちゃとして、セルロイド人形があったのでは、と思いますが、今ではあまり見かけなくなりましたね。プラスチックや塩化ビニールで人形が作られるようになったからなのでしょうか。セルロイドというと、青い目の人形という歌で、青い目をしたお人形はアメリカ生まれのセルロイド、という歌詞を思い出したのですが、私は子供の頃、赤い靴という歌で、外国に行ってしまった赤い靴を履いていた女の子が青い目をした人形になって帰ってきたような気がして何かホッとした覚えがあります。青い目の人形が太平洋戦争中にどのように扱われたかご存知の方もいらっしゃると思います。アメリカから贈られて学校にあった人形は戦争中敵国の象徴のように竹槍で突いたり燃やしたりされた、そういう事が多くあったそうです。せっかく生きているのですから誰とも仲良く助け合い慈しみ合って生きて行きたいものですね。憎み合いたくはないですから。

8月15日、ミャンマーの蕎麦

蕎麦は冷涼な地に適した作物でアジアだけでなくカナダでも栽培され食べられていると昔教わりました。ミャンマーのかなり奥、少数民族の人達が住んでいる地域でも作られているのですね。蕎麦畑には、12月になると蕎麦の花が咲きます。蕎麦畑は辺り一面に広がっており、白い花が風に揺れる様子は毛足の長い絨毯を敷き詰めたように見えます。かつて、黄金の三角地帯と言われていたこの地ではケシの栽培が行われていました。20年程前からケシに代わって蕎麦作りが始められるようになったそうです。ミャンマー政府からの要請でケシ撲滅の為の支援という事で始まり、その後NPO法人を設立し、転作に適している蕎麦作りを指導したのは信州大学農学部の氏原博士で、大変な困難を乗り越えて現在までになったのだと初めて知りました。先生は亡くなられたけれどこれからも収入源となり、ケシと違って役に立つ良い作物である蕎麦を収穫できるよう指導して行きたいと話すミャンマーの方は、若い方ではありませんでした。氏原博士と共に様々な問題を乗り越え、頑張って来たお一人なのだと思います。博士の話をしながら節くれだった太い指で何度も涙を拭っていました。それは、日本人とミャンマー人が理解しあえたというよりも、人間と人間の心が触れ合い通じ合ったのだと私には感じられ、いつまでも心に残りそうです。誰もが生きている間はまだ道半ば、その自分の生きる姿を他者に見せているのですね。子供は親の背中を見て育つという言葉どおりです。自分の後ろ姿は決して自分には見えないという事が良いのか悪いのか、多分貧相な後姿の私にはよく分かりません。

8月9日、餅米

先月下旬の夏祭りの日に、祖父が好きだったのでお赤飯を作りました。餅米というとお彼岸のぼた餅を連想してしまいます。スリコギで完全に潰してしまうのを皆殺し、ご飯粒が残るように潰した物を半殺し、物騒な言い方をしますけれど、昔貧しかった頃は上手に作って美味しく食べさせたい、というだけではなく、労働力のひとりとして日頃色々辛抱しているお嫁さんがおおっぴらにこんな言葉を使える日でもあったのですね。どんな思いで炊き上がった餅米を潰したのかな、と思ってしまいました。庶民の暮らしが今とは随分違った頃、忙しく立ち働きながらも、ちょっとストレス解消になったのだったら良いなあと思います。家族の誰もが骨のおれる労働をしていた家が多かった時代のみんなの暮らしが偲ばれます。お母さんのぼた餅は美味しいねえ、孫が成長して行くのを見ながら、お姑さんはお嫁さんに少しずつ座を譲ってそんな言葉でお嫁さんを認め、一つの家族になって行ったのだろうか、ささげを茹でながらふとそんな事を思いました。

8月3日、待て暫しがきかない

ポケモンのゲームが世界中で驚くほどの人気、日本外国を問わず歩きながら前をよく見ないと危ないので周りに注意しながらゲームをして欲しいとの事ですが、そんなに多くの人が夢中になるのは今までのゲームとは違う何かがあるからなのだと思います。でも、現実を見ながら現実の道路を歩いているはずなのに、仮想現実の中に入ったままになるというのがどうもよく分かりません。一方、世界のあちこちでテロとも思うような事件が後を絶たず多くの人の命が失われている、とても奇妙な時代だと感じます。この社会から生み出されたものです。何かが間違っていると思うのですが、どうしたら良いのでしょうね。待て暫しのきかない人が増えているように感じます。自分の言動はよく考えてから、だと思うのですが、私も自分を省みる必要があります。過多な情報を精査せず流される事は危険だと考えさせられる事の多い時代になったと感じます。なんでも簡単に手に入ると大切にしなくなりがちですし、簡単に手に入るものは簡単に失われて行く事もあると思います。目に見えない人間同士のかかわり、すぐに答えの見つからない事、そういうものがとても大事だと思うようになったのは年齢を重ねて来たからかも知れませんし、世の中が目まぐるしく変化しているからなのかも知れません。梅雨空のようにどんよりとして始めも終わりも分からないこのありように漠然とした不安を感じます。

7月30日、子供と社会

朝、殺伐としたニュースがラジオから耳に飛び込んでくる事の多い毎日だなあと思いながら仏壇に手を合わせていると、供えてあった黄色いカンナの花が一輪ポトッと落ちました。カンナの涙のような気がしました。このところ、ラジオで夏休みこども科学電話相談という番組を聞く事があるのですが、疑問に思った事を真剣に、中にはまだあどけない声で聞いてくる子供に、感心したり気持ちが和んだりします。このまますくすく育って欲しい、どうか自他に優しい人になってね、そんな言葉をかけたくなると同時に、犯罪は社会を映す鏡なのだという事も重く心に残りました。以前、ヘルパー講座を受講し、実習に行った事があります。デイサービスのお迎えに伺った時に、施設の職員の方が私を実習性だと紹介してくれたのですが、デイサービスに行く若い方のお母さんが、よろしくお願い致します、とおっしゃって私に丁寧に頭を下げて下さった事が心に残っています。一日か二日しかいない実習生の私にそんなに丁寧に接したお母さんがどんなにお子さんを愛しているかしみじみ伝わって来て、挨拶を返す時に胸が一杯になりました。大変でも、つらい事があっても、いくつになっても、お母さんにとってあのお子さんは生きがい、今もきっとそうだと思います。誰かが、命を奪って良いものでは決してありません。ご本人もご家族も支えあって一生懸命生きているのですから。この実習で私が教えられた事はとても多かったです。施設での事件に驚き、衝撃を受けています。亡くなられた方々のご冥福をお祈りしたいと思います。

7月24日、ゲリラ雷雨でした

7月14日の夕方4時過ぎから空が次第に暗くなり、7時半前から雷雨になりました。集中豪雨というのは本当に雨も風も強く、周りが見えないくらいの勢いですね。昭和49年7月にもそういう事がありました。期末テストの日でしたのでよく覚えています。膝近くまで道路が冠水している場所もあり、学校にたどり着くまで大変でした。今回は断続的な降り方で、幸いこの辺りでは大きな被害もなくホッとしました。寒気と暖気が東京湾付近でぶつかったそうですから寒冷前線の通過の時のような状況になったのでしょう。海からはどんどんエネルギーが吸収され、強い雨を降らせるような積乱雲が次々と出来たなどという事は今までは滅多にない事でしたが、これからは分かりませんね。梅雨明け前からヒグラシが鳴き始め、蝉の声はまだあまり聞こえない、コスモスが咲いているのを見かける、今年はそんな風です。自然が少しずつ変わってきた事に人間がそう驚かなくなっているようで、それが怖いと思う、と友人と話しました。

7月18日、前のめりになって走る

温帯の日本も厳しい気候になったと感じますが、これは地球温暖化の影響なのでしょうね。それだけでも大変なのに、あちこちで人の命がいとも簡単に奪われる事が増えてきました。本当はいとも簡単にという言葉をこんな風に使いたくはありません。あまりにも痛ましく、私には想像のつかない事の連続です。地球や宇宙の歴史と比べれば人間の一生は短いものでしょう。だからこそ生きていることを大切にして助け合ったり、違う価値観を持つ人の事も認めて共に生きて行きたいものだと思っています。なんでも前のめりに駆け足で進んでいるようで、進歩とか便利、発達とは少し違うように思えてなりません。熟考して、もう少しゆっくりの方が良いのでは、と感じます。

7月12日、ストレスは文鎮

最近は文鎮の事をペーパーウエイトという方が多いようですね。その地域らしい素材や色、形なども色々とあって、お土産物としても売られています。習字の時間でなくても使う場合があり便利です。ストレスが全くないのは、習字の時間に文鎮を使わずに半紙を置いて文字を書くようなもの、という事をおっしゃる方もあります。自分でうまく気持ちを切り替え、解消する事を心掛ければ、ストレスはいつまでも心に蓄積されません。どの程度のストレスなら解消できるのかは、勿論人によって違います。ストレスの多い毎日ですが、自分のペースで無理なく上手に解消出来ると良いですね。

7月6日、かぐや姫

草刈りをしていて鎌で手をきってしまい、包帯のお世話になっています。指が一本使えないのは片方の手が使えないのと同じでとても不便だという事を実感しています。昨年暮れに笹の葉を食べる虫が広範囲で発生し、今年の春に育ち始めた柔らかい笹を鎌で刈るのは楽かもしれないなどと考えていたので、油断があったのでしょう。けがは少しずつ良くなっているのでホッとしましたけれど、笹が小さかったせいか、かぐや姫がいなくて残念でした。価値観の違いが大きすぎるとコミュニケーションは難しい、職場や家庭の中でそう感じる時があるのではないでしょうか。でも、自分とはかなり違う価値観を持ち、異なる性格の人を理解する事が出来ると、人間の幅が広がるといいますか、成長するのでは、と思います。物語ではありますが、かぐや姫は地球で暮らし、月に帰って行った事になります。異なる環境で異なる文化を持っている者同士の心にどんな橋を架けていったのだろうか、などと思いました。

6月30日、支えあっている

スカートに畳み込まれているひだの部分、メジャーで測ったウエストのサイズに指1本分のゆるみ入れて作る実際のウエスト、そういう物が大切だといつかお話しましたが、スカートだけでなく、美しくて着心地の良い洋服を作るための工夫は、日々の暮らしの中での人との関わり方や物事の捉え方にもヒントを与えてくれるもののように感じます。光の当たる部分が美しいのは陰になる部分があるからで、だから光の当たらない部分が必要、というのではなく、光がもし今自分に当たっているとしたら、それは当たっていない部分にいる大勢の人に見えない所で支えられているからでもあるという気がします。光の当たっていない所に人がいるのだ、といつから思うようになったのかは分かりませんが、光の当たっていない方へ目や気持ちが行く、と言いますか、そういう部分がとても気になる子供だったように思います。不要な人も、動物も自然もなく、当たり前に共存して行くのだと考える事は案外難しいものかも知れません。今に不満を持ち、より良いと思う方向にしようという努力は大切な事だと思います。同時に、今の良い点を享受出来るのは先人達のおかげだという感謝の気持ちも車の両輪の様に大切なのだと思うようになったのは年を重ねてからなのです。そのせいか、変化の速い現代の新しい機器に不慣れで、説明が不十分で分からないと感じる高齢の方の怒りの気持ちの奥にある焦りや寂しさを汲み取っての対応がもう一つ足りないように感じる今日この頃です。

6月24日、起業と巣立ち

起業するのは大変だと思います。目の付け所が良く、長く続けて行けるように、そう考え調査して始めてもすぐに収益が上がるようになるわけには行かないですから、辛抱や工夫も不可欠ですし、やはり準備に時間をかけ、意見を出し合う人達も大切だと思います。計画と実行後の手応えの差があるとしたら何故なのか、頭をフル回転させるにはかなりのエネルギーが必要です。そうまでして起業し、株式会社となり、大勢の人を雇って軌道に乗ったら、会社には大きな社会的責任が生じ、社員とほぼ同様にその家族の事も考えなければならないのではないのでしょうか。そこまでになったら、会社への責任はあっても、創業者は会社を私してはならないと思いますし、一人前になって社会に巣立って行った子から少しずつ距離を置いて見守るように、離れて行くのが良いように感じます。でも、せっかく苦労して育てたものが羽ばたいて行くのはやはりさびしいものではないかな、とも思います。羽ばたく瞬間から自分だけの所有物ではなくなるのですから、子育てを終えたお母さんの心に空洞が出来たような、空の巣症候群に似ていると感じました。まだ人生の修行が足りない自分を実感したひと時、では濃いコーヒーでも飲む事にします。

6月19日、季節の仕事

梅雨に入って、梅仕事の季節ですが、今年は頂いた山椒の実を佃煮に、杏はシロップとジャムに、うろ抜いた赤紫蘇ではジュースを作ってみました。スーパーには大きな梅が沢山売られていて、毎年梅干しを作ってみたいと思いながらまだ一度も作った事がありません。もしカビが生えたらどうしよう、勿体ない、そんな風に考えるとなかなか作れないのです。良くも悪くも自分がそういう性格傾向の人間だとしみじみ感じる季節です。ぼつぼつナスやキュウリが収穫出来ます。今年はいつもとは違う野菜も糠漬けにしてみたいです。富津市で栽培されているプリンスメロン、小さいうちに摘果した物醤油漬けなどの漬物に出来るそうですよ。引っ越していった友人も、梅雨ならではのプラス面を楽しんでいるでしょうか。

6月13日、里の母

初めて買ったパソコンが五月に壊れました。突然電源が入らなくなったのですが、途方にくれました。元気でよく働いてくれました。思考と感情を書き込んだものなので、まるで人間に対するような愛着を感じていたのだと思います。10日以上パソコンを使わない生活でした。外の空気をたくさん吸って庭や畑での仕事をしていました。その後新しいパソコンがやって来ました。ところで、毎年この季節にジョイフルで紅花を買って仏様に供えます。今年も黄色からオレンジ、赤へと色が徐々に変化し、とても綺麗です。山形を旅して最上川船下り、奥の細道へと足を延ばしたような心地がします。パソコンを買って懐が痛いけど旅行して来た気分にさせてもらえて感謝しています。みちのくへ行ったら結構お金もかかるでしょうから、パソコンと旅行、両方出来たようなものです。パソコンが最新バージョンに変わり、ホームページ関連これから大変です。まず外付けのハードディスクに入れてあったものをコピー貼りつけし、セキュリティソフト、プリンター、ホームページソフトの登録と申込みを済ませ、インターネット、メールとワードが使えるようになりました。ホームページ関連のソフトもようやく新しい物をインストールし、以前のバージョンのソフトで作ったファイルが使える事を確認出来てひとまずホッとしました。でもまだ若いお嫁さんのような気持ちで、前のパソコンが実家のお母さん、新しいパソコンが同居を始めたお姑さんのように感じます。お母さんはそうしなかった、こうだったのに、とちょっと里が恋しいです。でも、その内新しいパソコンと付き合って行くうちに私の気持ちも変わって行くのだろうと思います。新しく知り合った人との付き合いが始まる時に似ていますね。

5月19日、夏は来ぬ

ゴールデンウィークも過ぎてしまえばあっという間でした。ゆっくりお休みになれたでしょうか。今年は庭に植えた苺の苗が増え、沢山実りましたので、連休には苺を摘んでジャムを何度も作りました。朝まだあまり赤くなかった苺が夕方には随分赤くなっていて驚いたり、完熟と分かるのか、赤くなった実は烏が持って行くのを見たりと、初めて気付いた事が沢山ありました。きっと気付いていない事や知らない事がまだ一杯あるのだろうと思います。台所の窓を開けてジャムを似ていると、苺の煮える匂いだけではなく、庭の蜜柑や柚子の花の濃厚な匂いが漂って来て、夏は来ぬという歌を思い出しました。緑が段々濃くなって行くのを見ていると、少年少女が大人になって行くプロセスに似ていますね。あおい季節です。私はぐんと伸びた笹や生け垣の刈り込みに忙しく、晴れた日の日中は座ってお茶を飲む暇もありません。

5月14日、地球の咆哮

ブラジルとアルゼンチンの国境付近にイグアスの滝があります。水力発電のためのダムは、まるでオフホワイトの巨大な綿菓子がくるくるまわりながら作られているようで圧倒されます。水煙という言葉通りです。近くには、自然の恵みによって生かされ共存している動物達の住むジャングルもあります。エルニーニョ現象などによって、イグアス川の水量が増える事もあれば渇水の年もあるという影響を受けるこの滝、まるで地球の咆哮とでも例えたくなるようにスケールが大きく、人の手では制御出来ない事をまざまざと感じさせるその姿に圧倒されてしまいました。地球温暖化という現実と、滝の水量の大きな変化は恐ろしいほど符合するのですね。私も、日々排出する二酸化炭素をなるべく減らす努力をし続けなければ、という思いを新たにしました。イグアスの滝の番組を見た日に、134億光年離れた最も遠い銀河がNASAの望遠鏡によって発見されたというニュースを聞きました。どちらも今起きている現実でありながら途方もなく大きく、結びつかない事のような気がして、ため息が出そうです。地球と、他の星々の中で今どのような事が起きているにせよ、存在し、生き続ける営みは絶え間なく続いているのですね。

5月9日、怠け者のタヌキ

連休前後はホームセンターや種苗店に夏野菜の苗が沢山並びます。ゆっくり買おうと思っていても、遅くなると元気な苗が少なくなってしまうので今年も予定より早く買ってしまいました。ナス、シシトウ、カボチャなどの苗を地植えにし、トマトは大きな鉢に植えました。オクラやパセリ、インゲンの種も蒔いて一段落ですが、野菜の栽培は、強風の日も増え、大雨の日もありますから結構難しいので、ご近所のお年寄りのように立派な物が収穫出来るというわけではないのです。育てる楽しさは、植物の声に耳を傾けて手を掛け、相手に歩調を合わせる二人三脚のようなものだと思います。土作りから考えるのが良いのでしょうけれど、なかなか思うように行きません。トマトは去年鉢で沢山実ったので今年も、などと皮算用しているのですから私がまるでタヌキみたいですね。野菜作りも庭の草取りも、一年中暇を見つけてはコツコツやっているわけではなく、春になると始めるので、その姿を見てご近所さんは働き者だと言って下さるのですが、その期間だけ働く怠け者だと自分では思っています。どこのお宅に伺っても、ほとんどのお宅が庭に草一本ありません。本当の働き者の多い所に住んでいます。

5月4日、虫歯

虫歯の治療に通っています。指先の浅い切り傷、一本の虫歯、なってみれば気になります。何でもないとか普通だというのは幸せなのだという事は、何かあって初めて身にしみて感じる事ですね。歯科は予約をして行くので待合室に人が沢山いる事はなく、診察室内も白が基調で落ち着いた雰囲気です。窓から見える庭の花が少しずつ変化しているので春から段々初夏に向かっているのが分かりますが、とても静かで時間が止まっているように感じる時があります。八重桜にも、蕾の色がピンク系、紫に近い色などあり、咲いた花も黄緑から薄い黄色になるウコンという種類の物もあります。散り方も花びらが一枚ずつひらひらとではなく、花ごとポトッと落ちる物もあって本当に様々で、一重の桜とはまた違った趣きがあります。病院への行き帰りに立ち止って眺めるのも楽しいものでした。今は生まれたてのような緑が美しく、空気を集めて絞ったら柔らかい緑になりそうな中を歩いて病院に通っています。さて、歯は大切ですからもっと歯の磨き方に注意しなくてはと思っています。噛む事は脳に刺激を与える事になりますし、美味しく食べたいですよね。最近、離乳期の子供を持つ方達から、虫歯菌はうつるので子供専用の食器や箸、スプーンなどで与えるという事をよく聞きます。口の中には常在菌という物があり、抵抗力や免疫力が落ちるとその菌が悪さをする、だから固形物を摂取出来ない時の口腔ケアは猶更大事、と教えられた事があります。随分歯医者さんが増えたのでどのお医者様に行けばよいのか迷いました。選べる、というのも良い事ですね。

4月29日、子供に教えられました

熊本の地震の震源域は変化し、広がったので私も不安になったり、被害の大きさに気持ちの暗くなる重苦しい日々を送っていましたけれど、親戚の家に行って少し気持ちが変わりました。今年の秋に二歳になる男のお孫さんが、もう随分大きくなってしっかりしてきているのです。会話がある程度出来るのは言葉や意味が分かるからで、それは覚えている事が増えて来たからです。何時どんな時でも子供は少しずつ確実にすくすく成長して行く存在なのだという事実を改めて感じました。心もちゃんと育っています。今日は彼に教えられました。希望を持って堅実に頑張って行く大人の後ろ姿を僕は見ている、そう言われたような気がしました。気を取り直してなるべく前向きに、と軌道修正する大きな手掛かりといいますかきっかけになりました。避難していらっしゃるお子さんも、周りの方達がもう一度元気になれる源になって行く可能性を持つ存在なのでは、と思います。今日彼は私におやつを分けてくれました。その重みと暖かさを大切にしようと思います。十年位先には彼はきっと、覚えていないと言うでしょうけれど。スーパーには熊本産や福島産の野菜が沢山並んでいます。あまり予算はないけれど何か買って帰ろうと思います。

4月24日、自然は

大きな地震が起き、被害の様子が次々とテレビに映し出され、俄かには信じられないようなこと起きた、と認めざるを得ません。最初の地震が本震だと思い、震源域が拡大するとは想像もつきませんでした。私でも不安を感じますから、被災なさった方のお気持ちは如何ばかりかと思います。何とか地震が収束し少しでも早く落ち着いた普通の生活が出来るように祈るばかりです。亡くなられた方の人数がまだはっきり分からないのですよね。突然家や家族を失った方々の心に寄り添って行く事も、まず物が足りる様になったら不可欠ですね。自分がとても辛い状況にいる時、人の身になっての言動をする、というのは難しいものだと感じます。自分の事を省みると、落ち着いた状態で気持ちが安定している時に人の身になって考え行動する事が出来るのかも知れないと思います。ただ、とても辛い時には、普段だったらなんとも思わないような些細な事にも喜びを感じるという事もありました。関東は、17日は暴風となりましたが、こんな時でも牡丹が次々と咲きだし、植物にとっては去年と同じ春なのでしょう。人間にとっては重苦しい気持ちで、ただ綺麗だなあとは思えない気持ちですけれども。ビニールポットに夏野菜の種蒔きをしたり、苗を買って植える時期になり、年々増える強風の日が気になっています。でも地震の事を思うとこういう事を言うのが何となく憚られます。今はただ、早く地震が収束して被災された方が何とか日常の生活が取り戻せる事をお祈りする事しか出来ず心苦しく思う毎日です。

4月19日、桜湯

しきたりは時代により所によって違います。覚えるのが面倒で、そのようにしなければ支障があるわけでもないと思う時もありますが、よく考えられた決まり事のようにも感じます。結婚披露宴や葬儀の時など、忌み言葉というものがありますね。おめでたい時に不吉な事を言うのは折角招いてくれた人を祝福するのに相応しくないという事でしょうし、人が亡くなった時には、亡くなった方を悼み、ご家族を労わったり慰めたりするのには如何なものか、という言葉なのだと思います。勿論何処までがその範囲かという事は人によって捉え方が違うとは思いますけれど。毎年桜の咲く頃になると思い出すのが桜湯です。結婚式の日などに出されますね。塩漬けの八重桜の花にお湯を注ぐと良い香りがします。スーパーなどでも瓶詰の物が売られているのでそう珍しい物でもありません。私が大学を卒業したばかりの頃、親類の結婚披露宴に出席した事があり、忌み言葉は何となく知っていたのですがその時母から、今日はお茶という言葉は使わないように、と言われました。お茶を濁すという言葉は良い意味では使いませんし、ご破算にも通じるから桜茶ではなく桜湯というと教えられました。今では懐かしい母の思い出です。よそのお宅でご馳走になる時、あまり行儀の悪い食べ方をしないよう心掛けているのは母が笑われたら申し訳ないし可哀想だと思ってしまうからなのです。他所で物を食べる時は楽しく自然体で食べてはいますが、我が家の躾けの表れでもあろうから、と心の中でほんのちょっとまるで特命全権大使のような事を思ってマナーには気を付けています。別に人の事はお互い食事中などにそれほど気にはしないのに不思議なものですね。昔より複雑な時代、混沌としている、などと思う事の多い昨今ですが、温故知新という言葉を折に触れてなるほどと思うようになったのも自分が年を重ねたからだろうと思います。前しか見ていなかった頃、前だけしか見えていなかったから実感出来なかった、そういう事が沢山ある私です。これからは実感し咀嚼して色々取り入れて行きたいものです。学ぶ事はずっと続きますね。

4月14日、お花見

三月末から四月は、遊歩道を歩いていると桜並木が迎えてくれるようで、立ち止まってゆっくりとながめて、いつもより随分時間のかかるウォーキングになってしまいます。桜は咲き始めると満開まであっという間です。丁度その頃には雨や風の日があり、勿体ないと思いながら花吹雪を見て、葉桜の美しさ、八重桜の豪華さにまた目を奪われる、四月は毎年そのようにして初夏へ向かう月なのですね。花びらが散る音が聞こえそうな静かで穏やかな日、桜の木の下にいつまでも佇んでいる事が出来たらどんなに良いでしょうか。四季があるから桜も成長する事が出来ると分かっていても、ついそんな事を考えてしまう季節です。自他共に恙なく過ごしたいものです。ひさかたの光のどけき春の日にしづこころなく花の散るらむ、という百人一首の中の歌を思い出しました。

4月9日、春の変化

庭で土筆を見つけました。スギナは毎年沢山出て来て困るのですが、土筆を見つけたのは初めてです。早速袴を取っておひたしにしました。桜の蕾も膨らんでもうすぐ学校嬉しいな、と歌った卒園の日は半世紀以上も前になるのだと思うと、春は薄いコートを着て振り返る季節のようだと感じます。新しいコートを着て颯爽と前を向いて歩きだすのは若い人達、年齢を重ねると季節や人にまつわる思い出も増え、ちょっと振り返ってから歩き出します。薄いコートでは風が冷たい、などと思いながらの新しい春、梅、桃、杏、桜と咲いて、今年も花のリレーは素晴らしいですね。バトンの色は綺麗なグラデーションでしょうか。

4月4日、蒸しパン

黒糖蒸しパンは今も売られていますが、昔は大きい三角の、厚みのある物がありました。上にケシの実がついていて、時々おやつに食べた事をふっと思い出しました。胡麻よりも存在を主張しない大きさと風味が好きだったのですが、この蒸しパン、今では見かけなくなりました。そういえばブドウパンの中のブドウも今より硬めでしたね。やはり、育った頃の味が懐かしいもののようです。桜は咲き出すとあっという間に満開になりますが、蕾がピンク色になり、木全体に淡いピンクの霞がかかったようになって来る、花咲かじいさんが丁度桜の木に灰を振りかけたところかな、と思う頃になると、何故だか分かりませんが、ケシの実の着いた三角の黒糖蒸しパンと大叔母の事を思い出します。もう一人のおばあちゃんのように私を可愛がってくれ、よく遊んでくれました。ふんわりしてしっとりとしていたあの黒糖蒸しパン、自分で作っても昔売られていたものとは違うような気がするので、もう長い間作っていません。人に作って貰ったお弁当は、蓋を開けるまで中身が分からないから楽しみ、という気持ちと似通っているのかも知れません。自分で作った物には未知の部分がありませんから。

4月1日、瞼が

私は杉とヒノキの花粉症なので、毎年桜の咲く季節が楽しみであり、憂鬱でもあります。日中は外に出ない方が良いと分かっていてもそういうわけにも行かず、今年もマスクをしていますし、耳鼻科で頂いた薬を飲んでいます。ところが、鼻や喉が何とかなっていると今度は目の痒みがひどくて瞼が腫れ、眼科で点眼薬を頂いて来るというありさま、困ったものです。一番防御を怠っている箇所に症状は出るものらしいですね。人工衛星ひとみが破損し、故障したらしいというニュースに、温暖化が止まらず事件や事故、争いの絶えない地球を見ているのが辛くなってひとみが瞼を閉じたのでは、とふと思いました。私は花粉が辛いから首から上の調子が悪いだけですけれど。花粉の飛散量が多くても少なくても辛さはあまり変わりないので油断さえしなければ良い私よりひとみの方が重傷かも知れません。花粉症の方はどうぞお気を付けて、お大事になさって下さい。

3月26日、ほろ苦い菜の花

千葉県から引っ越す友人と引っ越してくる友人がいます。そういえば市役所市民課の窓口も混んでいました。もうすぐ年度替わりですから、引っ越す方にとっては慌ただしい季節ですね。さびしくなります。千葉県の花は菜の花です。花は綺麗ですが、菜の花のからし和えはピリッと辛くてほろ苦いですね。引っ越す友人との事を色々思い出して彼女から貰った鉢植えのサボテンを見ています。

3月21日、出会いと別れ

近くにあったダイエーが先月末に閉店しました。歴史のネジが巻かれ、また歯車が動いたように感じます。生鮮食品以外の商品が段々少なくなって行くのを見るのはさびしいものですね。商品を入れて陳列するのに使われていた木箱やざるも安く売られ、閉店直前なのだと実感したものです。忠実屋、Dマート、ダイエー、と移り変わって35年経ちました。この店は、レジの方々の対応が早くて正確なだけでなく、買い物客との非言語のコミュニケーションが良かったように感じます。何となく急かされているようなレジや、混んでいてもとてものんびりしているように見えるレジはなく、ほど良い接客の店で、安い物を探したり、重い物は近くで、と思ってよく行きました。混んでいるから急かされていると感じるのではなくて、店の方針、カラー、店員さん達の態度に表れる何か、そのようなものが原因なのだと気付きました。ここで知った事や学んだ事もきっと多かったと思います。この後ここがどうなるのか分かりませんが、出来れば皆が利用できる場所であって欲しいと思っています。ここは、明治になって初めて教育は機会均等となった時に小学校が出来て長い間学校でした。西側に温室、百葉箱、東側にはロクボクもありました。南は正門、北側で白ウサギを飼っていましたっけ。私が母に手を引かれて桜の咲いているこの学校の校門をくぐったのはもう51年も前の事になりますが、目を瞑れば克明に思い出す事が出来ますから、特別な思いのある場所なのです。あの頃はまさか学校がスーパーになるとは思いもしませんでした。

3月16日、三人寄れば

先日、友人二人と久しぶりに会いました。ゆっくり本音でおしゃべりして楽しい1日でした。一人の友人が引っ越すのを前にそういうひと時を持ち、色々と教えられる事や共通の思いもある事を知り、大切に覚えておきたい密度の濃い時間でした。若い時と視点が変わり、人や出来事の見え方が変わったり、改めて自分の内面を考えてみると、何歳になっても新鮮な納得やサプライズがあるようですね。エリクソンの発達課題という言葉を思い出しました。温かく気の置けない友人達は、春の南房総のよう、学生時代と根っこが少しも変わっていません。真冬の遠赤外線のような友人を持ったことに感謝しています。

3月11日、海は遠く

東日本大震災から時間はどんどん経過して行きます。最近、心の復興という言葉を耳にしますがそれは被災地域を復旧させる事より大変な事です。失ったものは人によって違いますし、特に高齢の方にとっての喪失の痛手は大きいものでしょう。悲しみや怒り、寂しさ、そういう言葉では言い表せない、深い痛みのようなお気持ちを抱え、日々暮らしていらっしゃるのでは、と思います。私の住む地域は一つ山を越すと東京湾でした。今は海を埋め立てて工場が立ち並んでいます。もし何か事故や災害が起きて非難しなくてはならないとなったらどうするだろうと考えると、未だ帰るめどが立たず、変貌してしまった故郷への思いが人ごととは思えません。先祖代々住み続けて来た地への思いは深く重いものだと思います。細いように見えても、深い傷はそう簡単には癒えないものです。心のケアのポイントは歳月と共に変わって行くと思いますし、寄り添う事は長く必要だとも思います。何とか元気になって頂きたいと願いつつ、何も出来ないもどかしさと申し訳なさを感じています。昔見た、白く曇った空と大勢の人がアサリを掘っていた遠浅の海を、今日は複雑な気持ちで思い出しました。3月は、震災でご家族を亡くしてから色々な事があり、様々な思いを持って成長して来た子供さん達の卒業の季節でもあります。心身共に成長した自分にどうか自信を持って巣立って行って下さいね。

3月7日、紙漉きと海苔

越前奉書紙は千年以上前から福井県で作られている和紙です。とても綺麗な水も、きっと昔と変わらないのでしょう。今も30軒ほどの家の人達によって守られ作り続けられているのだそうです。手漉き和紙の伝統は代々女性の仕事、冬の水はどんなにか冷たい事でしょう。紙漉きの光景は昔の海苔つけを思わせるもので、テレビを見ているうちにいつか冬の午前2時とか3時から起きて家族皆が忙しく働いていた頃を思い出し、紙漉きをしている女性が母の面影と重なりました。東京湾が近かった頃、私は小さな子供でした。懐かしいと感じる風景も含めて、もう決して実際には戻る事の出来ない時代を省みるスイッチは、自分で入れたり切ったり出来るという手応えを確かに感じました。失われていった様々な物や人や風景に育てられて来たのですから、これから出会う人や物にも、教えられて年を重ねて行くのでしょうね。

3月3日、梅の春

用事があって久しぶりに1時間以上電車に乗りました。蘇我駅で随分大勢の方が下りたのですが、若い女性の、春先らしい色合いの装いが目に付きました。コートなどは厚いようですけれど、色とりどりの黄緑や淡いピンクの春の花が一足早く駅のホームに咲いたようでした。ディズニーランドへ行くので電車を乗り換える人が多いのでしょう。そういえば毎年お雛様を節分後に飾ったあの何となくウキウキして華やいだ季節は梅の春、楽しそうな若い女性達にそんな事が重なりました。花や木からでなく、人から感じた早春もなかなか良いものだと思いました。たまには電車にも乗って見るものですね。

2月29日、雪の降る町を

2月25日の朝、屋根はうっすらと雪化粧していました。この冬初めてで、二．二六事件前夜は雪で、朝学校に行く時はかなり積もっていたと両親から聞いた事を思い出しました。それから八十年の歳月が流れたのですね。時々発情期の猫が鳴きながら庭を通り過ぎて行きます。一年で一番寒い時期が、猫にとっては大切な恋の季節のようです。八十年前の二月二十六日の朝も、大半の人はこんな風にいつもと変わらない一日が始まると思っていたのでしょう。まさか歴史に残る事が起きる長い一日になろうとは想像もつかなかったに違いありません。当時麻布近くに住んでいた親類が、三十年以上前に、物々しくてたとえ外出して良いと言われてもとても外に出られるような雰囲気ではなかった、そう話してくれました。どのような事も過ぎて行けば当時を体験した人がいつかは一人もいなくなるのは当たり前の事ですが、それは重大な事なのだと改めて感じました。

2月24日、川に来る鳥

小糸川の遊歩道を歩いていると、今年も水鳥が沢山来ていました。白い鳥が青い橋の欄干にびっしり止まっている事もあります。餌を啄んでいるのだと思いますが、その白い鳥の大群に驚いてなのか、鳥たちのルールなのか、この時ばかりは烏や雀、白鷺など一羽もいないのです。この白い鳥が何という鳥なのかずっと気になっていましたが、最近知人がユリカモメらしい、と教えてくれました。ユリカモメは都鳥ともいうのだと聞いて、昔学校で習った伊勢物語を思い出しました。名にし負わばいざ言問わむ都鳥我が思ふ人はありやなしやと、という歌は確か隅田川で、都で見慣れない白い鳥を見てその名前を知り、遠く離れた都が懐かしく思い出されたという場面だったと思います。関東近辺では昔から馴染のない鳥ではなかったのですね。海が埋め立てられる前の記憶は薄く、水辺にやって来る鳥にあまり興味もなかった事に気付きました。キジの鳴き声、蛙の声など、季節によって聞こえ、様々な生き物の大切な暮らしの場となっているのが川なのだと改めて思いました。どんなルールがあって、どういう風にコミュニケーションしているのか、ちょっと気になります。そう言えば、人見に妙見神社という神社があるのですが、そこは山の上なので、上ると近くばかりでなく、その先に広がる東京湾も一望でき、お正月には富士山の見えるスポットとして人気があるようです。ここも木々に囲まれた場所ですので、野生の動物達がいるかも知れません。七五三の時、幼稚園に通っていたのですが、母に手を引かれて難なく階段を上りました。でも、今では大変そうだと思えて、暫く行った事がありません。川も山の神社のあたりも自然の宝庫なのだと思います。

2月19日、サルの食卓

今年は申年です。そのせいではないでしょうが、新聞に、動物園で猿にバナナを与える事を止め、野菜中心の餌に変えたら健康状態が良くなったという記事が出ていました。猿にバナナ、とずっと思い込んでいたので驚きました。繊維質が少なく当分の多い物に偏っていてはいけなかったのでしょう。他の動物にも、そして人間にも言える事ですよね。バランスよく、食べ過ぎない、我が家でも工夫しています。油はカロリーが高いので、野菜等を炒める時は蒸し茹でにしてから香りづけ程度に少量の油を使う、野菜を多く摂るなどですけれど、猿とよく似ていますね。今年も気をつけて作り、美味しく頂きたいと思います。

2月14日、暮らし方

暮らし方は時代や地域によって、その家によって違いますから、親戚でも隣の家でも全く同じという事はありませんね。夫婦別姓が問題になっていますが、それも今の時代だからなのかも知れません。価値観の変化は何時の時代でもあるのだと思います。夫婦と子供で暮らし、二人とも外に出て働いているというお宅が多いですから、男性も家事や育児をするのが段々当たり前になって来たようです。昔の父親には想像もつかない事だったのだろうと思ったのですが、そうでもないのかも知れません。40数年前、この辺りは農家が多く、今で言う大家族でしたから、お年寄りにも家庭内での役割があり、それぞれが働いていました。ある日の事、友達の家で数人で遊んでいたら夕方になり、その家のおじいちゃまが手際よく箒で座敷を掃き、縁側の雑巾がけを始めました。この家ではそれがいつもの事だったのでしょう。外に出て働いている人とそのように分担していた事が、私にはもの珍しく、今でも覚えています。我が家には女手が多かったのでそういう光景を見た事がなかったものですから。共に暮らし、それぞれの役割を果たして子育てをし、お年寄りの世話をし、世代が変わって行くという在り方から変わって来てはいますが、信頼、絆、家族にとってそれは変わらないものなのだろうと思います。昔の事をお年寄りから直接聞いてのコミュニケーション、大切にしたいものだと思いました。

2月9日、光は徐々に

冬晴れがだんだん遠ざかって行き、お天気の周期変化という言葉を天気予報の中で聞く事が増えて来ました。寒くても春が次第に近づいて来る事を感じます。春のひざしには程遠いけれど、光は少しずつ変化しているようですね。亡くなった友人が、子供達に本の読み聞かせをする事を始め、これからも是非続けて行きたいと明るい声でとても嬉しそうに話してくれた事を、今日は心の引き出しから出して見たくなりました。光にかすかな春の兆しを感じたからだと思います。まるで長い間探していたたとえようもない座り心地の良い椅子にやっとたどり着いたかのようなそんな喜びようだったものですから、心の平安とはこういう事を言うのだろうかとしみじみ感じたものでした。点訳を学び、色々な本の点訳も始め、続けていた友人が病んで忽然と消えてしまったような気がして、途方もない大きな喪失感を感じた私は、一時スーパーに買い物に行った時など心の中で彼女に話しかけていて、自分でもハッとする、などという事がありました。春のひざしの中で、子供達に囲まれて楽しそうに本の読み聞かせをしているのに最もふさわしい人だったのかも知れません。1月から3月にかけて、私の家族や周りの親しかった人達の命日が続くので毎年ちょっと辛い時期でもあるのです。でも、ゆっくりそれぞれの人を思い出す時間が持てる事でもあるのですね。友人は、今頃早く親と別れて逝った子供さん達の魂に寄り添って本を読んであげているのかも知れません。それから、ヴァイオリンを習っていましたから季節の曲を演奏しながらご家族の幸せも祈っているのではないか、などと思いました。何時まで経っても追いつけない友人や母です。背中は見えても私は不十分な所が多く、自分の至らなさを感じる事の多い日々ですが、追いつけない家族や友人が多い事は劣等感が刺激されるというよりも、私には何だか誇らしい気がして感謝しています。

2月4日、ブータンにあるのは

ある人がブータンを訪ねる番組を見ました。数時間の草むしりで疲れた日の晩、何となくテレビのスイッチを入れたら、この番組に出会えたのです。海のない国ですし私達から見たら気候などの環境はかなり厳しいと思います。経済的にはそう豊かでなさそうな農村部でも子供達は親の手伝いをし、学校で学んでいます。ご近所さんは皆知り合いで大勢の家族が慈しみ合って暮らしている様子と、親しみを感じる民族衣装、何か昔の日本に通じるものを感じました。素朴で、ちょっと恥ずかしそうな古くからの友人のように温かな目のお母さんが、テレビ画面にアップで映し出されました。慎ましやかな人達は、まるで自分の姿を鏡に映してその時々の自分とじっくり向き合い、よく理解し、ありのままの自分を認め、受け入れて他者ともかかわりながら長い旅をしている旅人のように見えます。自分が今どんな時代に生きていてこれからどのような方向に何を大切にして生きて行くのが良いのか、そういう事を考えながら生きている人達、そう感じました。信仰と、先人達の築いて来た歴史をしっかり見据えて希望を持ち、澄んだ湖のような眼差しの人々が暮らす国、そんな不思議な国へ本当に行って来たような気がしています。ブータンの人達にも苦労はあり、悲しみや苦しみもあるのでしょうが、それでもきっと幸せなのだろうなあと感じる映像でした。

1月30日、回復力

朝7時過ぎに1時間ほど歩かなくてはならない所に用事があり、出かけました。広い公園は霜で真っ白で雪が積もっているかのようでした。流石に寒中らしい寒さです。この寒さは身にしみます。寒波の影響でやむをえないのでしょうが、野菜も大分高いですね。でも、手袋もせず友達と楽しそうに話しながら登校する小学生は寒くないのか、弾んでいるようです。私も子供の頃はそうでした。手袋をしなさい、と言われてしぶしぶ言う事を聞いていたあの頃、今ほど寒いとは感じませんでした。何があっても回復が早いしそれを当たり前だと思っていたから何十年も先を思い描き、夢が大きく膨らんでいったのでしょう。あの頃知らなかった事を学び、知恵がついたけれど体力は低下して来たようです。だからこそ気づける事や出来る事があるのでは、とも思っています。冷たい空気でおかしくなった喉を労りながらあれこれとあれこれと思いをめぐらせています。

1月26日、寒さの底

厳しい寒さの続く毎日で、雪が多い地域の方はさぞ大変だろうと思っていたら西日本でも大雪になりました。二ヵ月ほどたまっていた北極上空の寒気が世界のあちこちに勢いよく吐き出された、という事らしいですね。今年になってから痛ましい事故や驚くような事件が次々と起きていて、想像もつかない事の多い時代、という気がします。お正月といってもどこか殺伐とした空気が漂っているように感じました。良心、という言葉を改めて大切に噛みしめています。次々と流れ込む寒気、と思っていましたが、寒中なのですよね。それでも、遊歩道の紅葉したツツジの葉の美しさにいくらかホッとした気分になれました。人間社会と猫は違うのか、一番寒い時期が恋の季節らしく、普段見かけない猫達が鳴きながら庭を通って行きます。

1月21日、神社

先日地域の神社に行って来ました。昔は坂道を上りきって少し行くと、右側にありました。バス停に行くには必ずそこを通ったので、その頃の事の方が印象に残っているのですが、区画整理後40年以上経ち、家も増えました。大きく変わったのは神社、というよりまわりの光景です。場所や向きが何かぴったり一致しないと思っていたのですが、そこにいると懐かしい覚えのある場所、という気がして来て不思議な気持ちになりました。信仰して特別大切にして来たわけでもないのにそんな感覚になったのはどうしてでしょう。何か心の奥の方にインプットされている記憶とつながったのか、波長が合ったのか、などと考えてしまいました。お正月は初詣やお墓参りなど、神社やお寺に行く機会が多いですが、皆様は如何でしょうか。

1月16日、喜望峰から見た海

ケープタウンの先に広がる海を初めて見ました。といってもテレビの映像なのですが。荒涼とした山が見え、まるでの砂漠の国にいて、歩いて行くと行き着く先には荒々しい崖が待っていた、とでもいうような光景です。眼下にロイヤルブルーの海がぱっと広がり、沖へ行くほど色は濃くなって行くのですが、群青でも水色でもなく全部がロイヤルブルーのグラデーションなのです。それは明るさと暖かさを含んだ色で、澄んでいる筈なのに白が混ざっているように見える海です。何か、透けない和紙のような落ち着きのある、安心できるような色が不思議な魅力です。この沖を、様々な思いを抱いた人を乗せた沢山の船が通った事と思います。今も、これからも、それは変わらないのでしょうね。

1月10日、脳

新聞に、自分は幸せだと感じている人ほど、右脳の楔前部と呼ばれる部分の体積が大きい傾向にあるとする研究結果を、京都大の佐藤弥特定准教授らが発表した、と書いてありました。楔前部は認知や判断、記憶など、高度な機能をつかさどる連合野の一部で、楽しい、嬉しい、などの感情で血流量が増える事が分かっているそうです。私の脳はどうなのでしょう。ちょっと気になります。

1月5日、優位なのは

松尾芭蕉の笈の小文の中に、初雪や水仙の葉のたわむまで、という句があります。初雪はそれほど沢山積もらないだろうからそれをこのように表しているのでしょうね。写真や絵を見るようなのが描写といえますが、人間の感覚はどれが優位なのかその人によって違います。視覚なのか聴覚なのか、あるいは触運動覚なのかです。例えば、今朝は寒かったという事を言いたい時に、空には雲一つなく真っ青だった、という場合は視覚が優位であり、烏の声が鋭く響き渡った、という場合は聴覚優位、コートの裾が内側まで冷たく感じた、と言うと、それは触運動覚が優位なのです。ですから、記憶に残っている出来事の場面でも、例えば耳で聞いた音が印象に残り、記憶されているという事もあります。人それぞれですから、自分がどのタイプなのか考えてみるのも今まで気付かなかった自分のある部分の発見になりますね。そういえば、人間はある一部の地域に住む人達を除いて古今東西、過去の出来事を思い出してその場面を話す時に、目は左斜め上を見、未来の事について話す時は右斜め上を見ながら話すのだそうです。そのような事を研究した分野の本も売られていますが、神経言語プログラミングと言います。興味のある方は読んでみて下さいね。

1月1日、恙なく

今朝は冷え込みましたが、風もなく穏やかな晴天の元日です。我が家ではいつもの年と同じ事が出来る平凡なお正月で、ポインセチアが綺麗に色づき多肉植物の花も咲き始めました。何事もないから平凡なので、有り難い事なのだなあと思います。子供の頃ワクワクしたのは、年末年始の家の中がいつもと違って大きな行事の中にいたからでしょうね。大人は皆忙しかった筈です。今日もお仕事の方、入院中の方、去年親しい方が亡くなった方、色々な方がいらっしゃる事と思います。心身共にリフレッシュ出来る機会がどうぞありますように。住宅街はとても静かで、まるで誰も居ないようなのは小さな子供があまりいないからなのかも知れません。子育ては決して楽しみばかりではありませんが、子供は地域を元気にしてくれる潤滑油でもあるのですね。このまま恙なく一年を過ごしたいものです。

12月31日、どうぞ良いお年を

今年も今日で終わりです。早いですね。年末に君津で起きた事件に衝撃を受けています。勿論詳しい事など分かりませんが、歩いて行ける範囲で起きた出来事なのでまだ信じられないような気持ちです。でも、今特定の地域でこのような事件が起きるわけではなく、どこででも起きる可能性があるのでしょうが。こういう時代になるなどと誰も思わなかったのではないだろうかなどと考え、重い現実を抱えたまま年を越す事になりそうです。震災、そして水害で避難なさって元の生活に戻るめどの立たない方も多くいらっしゃる事と思います。どなたにとっても来年がどうぞ良い年になりますよう心よりお祈り申し上げます。お風邪など召しませんようお身体大切になさって下さいね。

12月30日、柘植の木に見えた商い

ヒノキやサワラは水に強い木なのでしょう。昔の浴槽はそういう木で作られていましたから。ヒノキ独特の香りは今でも入浴剤に使われていますね。では、火に強い木は、というと、以前よく櫛に使われていた柘植なのだそうです。江戸は火事の多い町で、木造建築の家が密集している地域ではさぞ大変だっただろうと思います。ある材木商の家に祭られている神様、お稲荷様だったかも知れませんが、その場所は柘植で作られていた、という話を本で読んだ事があります。材木商だから火事が起きればお金になる筈ですが、火事が起きず皆が無事に暮らせる事を祈っていたのだそうです。どのような仕事ぶりだったのかをも、垣間見たような心地です。ブラック企業という言葉がさほど珍しくなくなった昨今、大きな会社や、様々な企業の役員さん達には頭の痛い事が沢山ある事と思いますけれど、この江戸の昔のあきんどのような気持ちを是非持って、お仕事なさって頂きたいものだなあと思いました。かつての千人同心のまち八王子の駅に降り立って、ここにも、もしかしたらそのように伝わり続いて来た心が残っているのかもなどと思いました。

12月25日、チロちゃん

この冬は、病んでいる猫が出入り出来ないのだから炬燵は入れない覚悟でいましたが、雨の日に亡くなりました。19才でしたので人間ならば90才を超えている年齢です。身体の丈夫な猫ではなかったのですが姉妹の中で一番長生きしてくれました。水仙と水、一番好きな缶詰めを供えてありがとう、ごめんねと声をかけました。綺麗な姿でした。苦しかったでしょうけれど安らかな顔をして眠っているようでした。生まれた時からの事が次から次へと浮かんで来ます。私を頼り、とても愛してくれました。いつの間にか私の年を超えて私よりずっと立派に生ききったのだと思います。私でもう一度、子育てと高齢になった親の介護を心残りなくしてごらん、とでも言っているような気がしていました。老いて生きて行く姿、見せてくれたのですね。当分辛いだろうけど他の猫の世話もしなくては、とも思っています。猫達を見ていると、血がつながっていなくても命は受け継がれて行くのだと感じます。

12月20日、重厚な曲

蜜柑が色づき、大根の葉が育ち、柚子も黄色くなって師走も残り少なくなって来ました。大根を干し、白菜を漬けました。でも少量で、昔どこの家でも樽に沢山漬けていた頃のように干し大根が軒に吊るされている家はほとんど見かけなくなりました。高齢の人達の和装は珍しくなかった時代、乾いて埃が立つような道を歩く下駄の音がいつもより急いているようだったのも師走ならではだったのかも知れません。今の時代の師走らしい光景は何でしょう。イルミネーションもその一つなのでしょうか。こうしている間にも内戦状態の国で人の命が奪われていると思うとたまらない気持ちになります。段々と胸に溜まって行くものの増えて行く現代だなあと感じます。負ではなく、明るいものが積み重なって行ったら、音楽で例えると重厚な曲が出来て素晴らしいでしょうに。

12月15日、大根抱えて

大根の美味しい季節です。葉付の立派な大根が百円しない店があり、買って来ました。遠いので重かったけれど得した気分です。大根の匂いは柔らかく、割烹着をかけたちょっと年上のお母さんが台所仕事をしているのを思い起こさせるようで、蕪はツーンとした匂いでピリッとした味に新鮮味がありますから、小さい子供がいて仕事の帰りに保育園に子供を迎えに行くという、若く忙しいお母さん、そんな風に感じます。どちらも美味しいけれど、大根は暮れ、蕪は新春の香り、そう思いながらの大根を抱えての50分は結構楽しいものでした。 今は朝食のスタイルも多様でしょうが、足付きのまな板に菜切り包丁でトントントンとお味噌汁の実を刻むリズミカルな音は台所の朝の音だなあと感じます。明日のお味噌汁は大根の千六本、それともネギにしましょうか。

12月10日、葉っぱの舞

紅葉の次は落葉の季節ですね。落葉樹でなくても段々冬色に変わって来ました。落葉でたき火をしてサツマイモを焼くなどという光景も滅多に見られなくなりました。綺麗に紅葉した葉も散って茶色になりカサカサと風に舞って、掃除が大変とおっしゃる方もいらっしゃるでしょうけれど、次の春にその木の新芽が育つ為の腐葉土になって行く事にもなりますから、命をつなぐとか循環、という言葉が浮かびます。確か葉っぱのフレディという題の絵本がありましたよね。どんな役割を担って生き、どのような後姿を見せ、どれだけ役立って人生の終焉を迎えるのか、自分の事となると、自信がなく、なかなか難しくて分からない事が多いです。

12月5日、タータンの故郷はスコットランド

スコットランド伝統の格子柄タータンは日本でもスカートやマフラーなどによく使われていますよね。その家の身分など様々な要素がその格子柄にはあり、それを表しているのだそうです。日本の家紋に似たものですね。歴史があるのに時代遅れの古い物とは感じないのですが皆様は如何でしょうか。タータンの歴史が持つ重みは近づき難い物ではなく、違和感はありません。現代的で軽やかにも見え、不思議な魅力があります。タータンチェックのマフラーにはその人の歩いて来た人生や人柄が表れそうです。この冬、背筋を伸ばして使ってみたくなりました。

11月30日、ものは考えようなのかも

パソコンに問題が起きて対応中という日の夕方、突然ガスコンロの調子が悪くなりました。まるで誰かに物凄い意地悪をされているみたいで、ふと、何か悪い事をしてバチがあたったのだろうかと思いました。掃除をしながら話しかけてもガスコンロは反応しません。おだてたりお願いしたりしても無駄なのです。困っている時に何故、と思っていましたが、もしかしたら神様がオーブンや電子レンジを使って作る料理のレパートリーを広げるように仕向けてくれたのかも知れないという気がして、それも悪くない、やってみようと好奇心が湧いて来ました。すると、翌日ガスコンロの機嫌はすっかり直っていました。その翌日、パソコンは自然にもとに戻っていました。寒くなって来ましたね。お風邪など召しませんようお気を付け下さい。

11月26日、心配

寒鰆はDHAが多いそうです。まだ少し早いですけれど普段と違って半額になっていたので買って来ました。最近、玉ねぎをようやく植えましたので、雨が多すぎるようで心配です。ですが一番大きな心配は、19才の猫の体調です。春先から時々病院に通っているのですが、大分体調が悪いので毎日それとなく様子をみたり治療食を与えたりしています。肩で荒い呼吸をしていたら一刻を争う状態で、そのままにしておいたらその日1日持つかどうか、という事のようです。利尿剤が効かない時は、耐えられるかどうか分からなくても麻酔をかけて肺の水を抜かないと呼吸出来なくなるから迷う暇はないのだと思いますが、撫でると背中のあたりは薬のにおいがします。度々点滴の針を射しているからだと思うと複雑な気持ちです。家で生まれ育って来た子供のような存在だけれどお婆ちゃんなのです。朝起きた時、猫がどんな様子かと毎日はらはらして時間の経つのが遅いような、それでいて季節が足早に過ぎて行くようにも感じるのはこの猫の事があるからなのだと思います。そういう気持ちでいたところにパリでのテロ事件のニュースを聞き、目に見えない黒い物が次第に大きくなりながら心に深く突き刺さったような気がしました。

11月21日、生きたい力が芽を出す

大根と春菊、からし菜の種を蒔いたら芽が出て少しずつ育って来ました。ですがまだオクラは花を付けています。インドからやって来たと聞いたのですが、それにしては何時までも実ってくれます。今年は種を取ろうと思っていますがうまく取れるかどうか分かりません。種から育てるのは結構難しいものです。赤ちゃんから育てるようなものですから発芽温度など知らないとその植物にとって厳しい環境という事になり、可哀想です。今までにあまりうまく芽が出なかった花などもありますが、いくらかは芽が出て育ったのですから、それはその植物の持っている、生きて行こうとする力があるからなのかも知れません。逆境でないに越した事はありませんが、たとえ逆境であっても生きて行く力は、生き物にはある程度自然に備わっているように思います。それは、生きたいという思いは誰もが持つ本能だからではないかと思うのです。ストレスの多い生きづらい世の中であっても何とか希望を持ち、辛い思いをなさっている方も生きて欲しい、そう願っています。自他どちらの命もかけがえのない大切なものです。人を殺してみたくなったという理由での事件もさほど珍しくなく起きていますけれど、是非自他を大切にして頂きたいと思います。

11月16日、夢のような

先日動物病院に行った時、去年亡くなった友人によく似た方にお会いしてドキッとしました。しかも行方不明のままの我が家の猫にそっくりな猫を連れていらしたのです。我が家の猫の方がかなり大きいとはいえ、こんな偶然は生まれて初めてです。ずっと友人に会いたいと思っていたので神様が合わせて下さったのでしょうか。まるで雲の上をふわふわと歩いているような夢見心地の不思議な1日でした。

11月15日、動物病院にあるもの

我が家の庭に菊や吾亦紅、藤袴などに交じって黄色いカンナと朝顔が咲いています。夏と秋の同居が長い年のようです。違和感がないのは自然のなせる業だからでしょうか。春先から高齢の猫の体調がすぐれず、定期的に病院に通っています。昔だったら考えられない事でしたが、予防注射をしたり治療食があったり、人間とあまり変わりません。ですから昔より長寿の動物が増えたのでしょうね。病院に行くたびに沢山の方にお会いしますが、大抵挨拶を交わしたり譲り合ったりして和やかな雰囲気です。お互いに、お大事にと言って別れるちょっと特別の場所という気がします。殺伐とした事件の多く報道される毎日ですが、動物病院にはうるおいがあります。それは人と共存して行くために不可欠な潤滑油のような物だろうと感じています。

11月10日、イギリスにて

10月から11月半ばくらいまでは晴れていれば気温がさほど低くない日が多く、湿度も低いので爽やかです。爽やかな朝にミルクティーを飲んでいるとまるでイギリスにでもいるかのよう、我が家の庭には花の終わったラベンダーがあるからそんな気持ちになるのでしょう。来週はリンゴの収穫をしなくては、などと本気で考えてしまいそうで、自分で自分を笑った日は、深く悩んでいる事のない日です。大きな心配事や悩み事のない日が続いて欲しいものです。穏やかな気持ちで過ごせる日に十分幸せを感じるかというと、そのような人ばかりではありません。こんなに悪い事が起きない日が長く続いたのだから、その内大きな問題が起きるに違いないかえって不安だ、そのように思う人もいます。これは育った環境の影響も受けているからで、性格の形成には環境の影響が少なからずあるものなのですね。

11月4日、シシトウ

シシトウは唐辛子やピーマンの仲間なので好まない人もいるようです。我が家でも少し栽培していて、まだ白い花を付けています。実が生ってそのままにしておくと赤くなり少し硬くなります。店頭に並んでいるように大きくはなく形も不揃いです。収穫したシシトウを調理して食べた時に、際立って辛い物が混じっている事があるので不思議だと思っていましたら、辛いシシトウには種が少ないという事を新聞で知りました。ピーマンは種が少なくてもそのようにはならないのだそうです。味も香りも似てはいるけれど違い、辛み成分がないようです。今のピーマンは昔より苦くはなく、においもそれほど強くないように感じます。ホウレンソウ、ニンジンなども子供にとっては食べやすくなっているのかも知れません。人間は穏やかで人と上手に付き合える方がストレスは少ないと思うのですが、人は奥が深いですから、何か目に見える物を調べ他者と比較してもその人のすべてが分かるものではないですね。自他にとって、自分が種の少ないシシトウのように辛いのかどうか、自分の事だからこそ分かりづらいという事もあります。人とうまく付き合っていても自分には以外と厳しいという場合もあります。自分に厳しすぎると満足する事が少なく、他者に厳しすぎると人が離れて行く場合があります。ほどよいというのが良いけれどそれはなかなか難しく、自分で体感しながらという事になりますね。相手がどのようなタイプの人か理解するのは大切ですが、同じ人は二人といない事も事実ですから、ただ人をタイプごとに分類したら付き合い方が100％分かるというものでもない所がポイントなのではと思っています。

10月30日、贅肉がない

友人との再会があまりにも違和感のない、数日前に分かれた人との再会のようだった事が不思議でならず、誰でも皆そうなのだろうとも思えないのでどうしてか考えてみました。長い歳月が経過しているのですから、就職や結婚、出産、子育て色々な事があった筈です。配偶者の身内の方達、ご近所やPTAのお仲間との付き合い、家族が病気になったり家庭や職場で嫌な事が起きたり、きっと沢山の事があったと思います。そのような事を乗り越えて来た術と言いますか知恵も身に付いているだろうに、彼女達は昔と少しも変わらない本質を持っているように感じました。自分を省みて、前向きに自然体で歩いて来たのでしょう。各々が自分を映す鏡を持ち、必要に応じて向き合って来た、とでもいう風に思えるのです。心が埃だらけになれば洗い流してきたから、自分を保護する程度の皮下脂肪はあっても、贅肉がないと感じるのかも知れません。私自身は贅肉がかなりあると思いながらも、こういう友人に恵まれた事が誇らしく、心がほわっと温かくなりました。

10月26日、楽しいセット

紫蘇の実を300g収穫して半分を佃煮にし、残り半分を自家製醤油麹に漬けてみました。保存出来る物作りは何か冬支度のようです。醤油麹はこれでおしまいなのでまた作ってみようと思います。私が小学生の頃の母は、背中を向けて忙しく働きながら耳では私の話をちゃんと聴いていてくれました。手作りが苦にならず楽しく感じられるのはプロセスを楽しんでいるからなのですが、それは楽しかった母とのコミュニケーションの思い出が付随しているからなのでしょうね。

10月21日、屋根のないドーム

大学時代の友人と30数年ぶりに再会しました。別の友人と3人でアクアラインの海ほたるで食事をしてお茶を飲んだのですが、会った途端に気分は学生時代に戻って、楽しいひと時を過ごしました。あっという間に過ぎた3人での時間の余韻は暫く残りそうです。君津に住んでいながら海ほたるは初めてです。青い空と海、羽田空港を離陸する飛行機、次々と着陸する飛行機も見る事が出来ますし東京方面も見えます。透明なシルクオーガンジーで出来た丸いドームの中にいるように感じました。青く澄んだドーム型の屋根、屋根の下の部分はグレーがかった青と、淡く金色に近いオレンジに縁取られ、輝いているようで、太陽と海の共演のような美しいグラデーションにため息が出そうになりました。人の手で作られた物なのに、調和のとれた、まるで自然に見守られているような心の安らぐ小春日和の1日でした。時空を超えたらこんな気持ちになるのだろうかと思いながら、楽しかった日をそのまま箱に入れてしまっておいて、これから先時々そおっとその箱を開けてみたいものです。また会う日をワクワクドキドキ楽しみにしながら。良い1日でした。再会の機会が得られた事に感謝しています。

10月16日、玉ねぎと長ねぎ

食べ物は思い出という言葉を聞きました。食べた時楽しかったという事の積み重ねが大事だという事でしょう。美味しかったというのは、見た目やにおいも皆学習され記憶に残って行きますけれど、思い出の影響は確かに大きいですね。一日三食、子供達の心にも幸せな思い出となって残って行って欲しいものです。秋らしく朝晩と日中の気温差が大きくなって来ると、どちらも一年中使えるとはいうものの玉ねぎより長ネギが食べたくなって来るので、その瞬間秋の後ろに冬の影を実感します。種を蒔いたばかりの大根も芽を出し、そろそろ夏野菜は終わりです。水分の少ない秋ナスのからし漬け、お嫁さんもお好きでしょうか。

10月11日、疾病利得

草刈をしていてかぶれたので病院に行き、塗布役を頂いて使っていますので暑い時間帯にはあまり外に出られず、小学校1年生の春、麻疹で二週間休んだ時熱が出て辛かった事など思い出しました。ところで、特別の理由がないのに病院で処方雨された飲み薬や塗布薬をいつも途中でやめてしまう人は症状がなかなか完全に治りません。では何故、と考えると、小さい時に親が忙しかったり家族の関係がギクシャクしていたりして、病気になると自分に目が向けられ世話をして貰えた、もし家庭内にもめ事がある時にも一時休戦、そんな状態になって大事にして貰えた、つまり疾病利得があった、などという場合もあります。私などとにかく早く治りたくて薬を飲みますので、あまり疾病利得がなかったのでしょうね。

10月6日、クルーズはアジア

ミャンマーの小さな村々をオルケイラという船で廻るツアー、素朴でおおらかな人々と出会う事の出来る旅です。仏像、シャーマンのお神楽、はっきりした色が溢れている町、などが日本とは随分違います。落ち着いて美しい寺院のあるバガンは仏教の聖地だそうです。川に沈む太陽はすべてを黄金色に染め、そこに刷毛で描いたような濃い灰色の雲がこの景色を縁取っていたのが印象的でした。統一されるまでのずっと昔から今までの苦難の象徴のようでもあり、これから行く道の険しさを予感させるようでもあります。民主化はこれからのミャンマーにとって大切な課題なのですね。ビルマの竪琴を読んだのは小学生の時でした。美しいルビーのとれる国ミャンマーの子供達の笑顔は、未来に希望を十分感じさせるものでした。各地に出かけ地元の人達と触れあう事は相手を理解する第一歩になるのだと感じました。もの珍しさだけではなく、その地に暮らす人達の暮らしをずっしりと感じて忘れる事が出来ない経験になって行くのでしょう。この地球に共存しているのも何かのご縁だと思うとこの不思議な結び付きを大切にしたいとしみじみ思えて来ます。

10月2日、お彼岸も過ぎて

8月の交通事故の打撲は軽いものだろうと思っていましたが、気温や湿度が急激に変化すると症状が出ます。足が重いと感じたり引っ張られているような痛みや張りを感じます。本人にしか分からないですしお医者様からも1か月位はそのような事があると言われていましたので湿布をしてはいますが今のところ他にどうしようもありません。お彼岸も過ぎ、季節はすっかり秋になったと、吾亦紅の花や女郎花を見て思っていましたが、どこからともなく漂って来るは金木犀の香りにいっそう秋の深まりを感じます。落ち着いて安定した天候が今は何よりに感じますが、それは痛みがない足と同じように当たり前ではなく随分あり難い事だったのですね。

9月28日、姿見

小学校での暴力が増えていると新聞に出ていました。自分がされて嫌な事は人にもしない、こういう風に指導するだけでは難しい状態になっていると思いましたが、対人関係が未熟な年齢なのだとも言えると思います。人の身になる事は大人でも苦手という方もあるでしょう。でもやはり子供が以前とは確かに変化しているように私は感じます。子供は社会を映す鏡、その中で親に育てられ、学校にも通っているのですよね。政治経済外交、皆難しく、複雑な世の中だなあと思うのですが、子供はいずれ大人になって社会に出て働き、親にもなって行くのですから他者に自分の気持ちをどのように伝え、どう人の気持ちを汲むのか、コミュニケーション能力の構築の基本を日常の中から教えて行く事が大切だと思います。聴き上手になると子供は段々話しやすくなり、話し上手になって行きます。殺伐とした事件が増えている昨今、大人が子供にどのような後姿を見せているのか問われているように感じます。自分の後ろ姿はなかなか見えませんものね。

9月24日、寒かった夏

しわぶき一つ聞こえずこうべを垂れる人達と共に在ったのは蝉時雨だけ、そのようにして雑音の多い終戦を告げる放送は一斉に日本中に流れたのでしょうね。7月だというのに羽織が必要な肌寒い夏だったと母から聞いています。麦とトウモロコシのご飯を噛みしめながら、生々しい記憶を伝える人達が近い将来いなくなった時に如何にして子供達に戦争を伝えて行くのか、難しいギリギリの所に立っている事をひしひしと感じています。忘れない、伝える、他人事と思わない、繰り返さない事が亡くなった方達に報いるのだと思っています。8月15日も私にとって鎮魂と贖罪の日です。戦争は起きない事を祈るのではなく、決して起こさないように努力するものだと思うのです。里芋の葉に降りた露は、人間が世界のあちこちで今も戦争を止めない事への天の涙のような気がして暫し見つめてしまいました。

9月20日、享受

突風、豪雨、地震、阿蘇山の噴火、次から次へと続き、過激になったように思える自然は底知れないもの、地球温暖化のおそろしさを痛感しています。まだ完全に水が引くのが遅い地域もあり、豪雨の爪痕のむごさに言葉もありません。被災された方の事を思うと不謹慎かも知れませんが、野菜の値も上がっていますね。丹精込めて栽培して来た稲が氾濫した川の水に浸かってしまって、どんなお気持ちだろうと思います。田んぼは値が安いと聞いた事がありますが、洪水や干ばつが起こりやすくなっている事を思うと、主食の栽培をしている田んぼは大切ですね。甘く形の良い果物や綺麗な野菜が店に並んでいるのがいつの間にか当たり前になっていますが、改良を重ねて来た苦労の賜物だと思います。航空機の安全も、事故が起きる度にその原因を調査し、機体の改良を重ねて来たからで、それは尊い犠牲の上に成り立っているのだと言えるのではないでしょうか。感謝する事の多い日常、様々な物を享受していながら私は一体どの位世の中の役に立っているのだろうかと考えてしまいました。

9月16日、夕焼け

バックビルディング現象のおそろしさと不気味さを感じさせられた台風18号でした。線上降水帯という言葉を、覚えました。人間の知恵や力を過小評価するつもりはありませんが、人間の作った舗装道路も、災害が起きた時には自然の途方もない力を感じさせる物になって霞んでしまう、そういう風に思えてしまいます。だからこそ一瞬一瞬を大切にし、まわりの人たちと一緒に生きて行きたいとも思いました。栃木県や茨城県の被害の様子に、学生時代に毎日通った越谷の街の冠水の映像になす術もなく呆然として一日を過ごしました。被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。先日、君津駅で見た小学生の描いた夕焼けの絵に画用紙一杯に広がる複雑な色はまさに夕焼けそのもの、静止画というより夕暮れ時のもの悲しさ、明日への希望が画用紙から外とへもこぼれ出て踊っているような躍動感を感じました。静かに暮れて行く今日を子供のピュアな目と感情が捉え、それが素直に表れているようで、代表して貼られていたのは2枚でしたが、きっとどれも素晴らしい絵だったのでしょう。地球温暖化を食い止める努力をして、子供達に出来るだけマイナスな物を背負わせたくないですね。

9月12日、日常の中の

もう9月も3分の1が過ぎましたが、この辺りでは8月24日は盂蘭盆ならぬ裏盆と言います。無縁仏の供養と聞いた気がするのですが、昔は海で亡くなった人の供養も確かしていました。お盆は精霊棚を吊って帰って来た御精霊様に少し大きくなった所を見て頂くのだから家にいるものだ、こういう時に海に行くと海坊主が出て危険だから言語道断だと聞かされましたっけ。これは私ばかりでなくどこの家でも似たようなものでした。お盆には先祖とは別に無縁様にも一本必ずお線香をあげてお供え物も供えます。我が家の不動堂にお祀りしている戦没者の精霊の御位牌を精霊棚にお連れするのもいつもの事です。意外と仏教が生活の中にあったのだなあと今更ながら思います。歳月は過ぎてしまえばあっという間です。今年お経をあげて下さったのは先代の御前様のお孫さんでした。最も先代の御前様が毎月いらして下さっていた頃幼稚園にも行っていなかった私がこの年齢になったのですから。それにしても、人が集まる場所や賑やかな所が好きだったわけでもないのに何故近所の親戚と一緒にお迎え火や送り火をたく場所に毎年親について行ったのか私にもよく分かりません。

9月7日、良い塩梅

先月30日は20度をやっと超えた小雨の1日でした。このところ急に寒くなり、あんなに暑く晴れていた夏は何処へ行ってしまったのだろうと信じられないような気持ちです。 まるでいつもの年とは違っていた7月上旬が戻って来たかのようです。まだ烏の群れは畑の夏野菜などを狙っているようですが、我が家には烏の食べられるような物がもうありません。気温や日照は稲や野菜の生育に影響を与えるでしょから。生産者も消費者も気が重くなりますね。そう言えば、昔の人は良い塩梅でございます、と言う挨拶を交わしていました。丁度良い加減というのは梅干しの塩加減から来ているらしいですね。昔の人の言葉の使い方には相手への思いも込められていて、自他共に恙なく暮らしていられる事への感謝の気持ちが込められていたように感じます。ちょっと譲り合って、という暮らし方が今よりあったのではないでしょうか。それにしても、最近の天候は良い塩梅とはとても言えないようですね。

9月2日、キュウリと烏

お盆前までとても暑く雨も降りませんでしたから畑の野菜には朝夕水遣りをしていました。雨が降る前日に肥料も遣り、キュウリが息を吹き返したように元気になって実も付いたので楽しみにしていた矢先、烏に皆食べられてしまいました。その日は朝収穫しようかどうか迷った挙句夕方までそのまま置く事にしたので、ガッカリしました。烏もよほど餌がないのでしょうか。油断していたのですね、きっと。野生動物に野菜をかじられたのは、去年もお盆後だったのに私が学習していなかったのです。気を引き締めて日々過ごさなくては、と思います。

8月29日、怪我をしました

先日歩いていて交通事故に遭いました。と言っても打撲で済み、警察に連絡し、相手の人も誠実に対応してくれましたし、あまり普段と変わらない生活をしています。ただ、足が痛いのでウォーキングは暫く出来ません。家の中にいるのだから落ち着いてじっくり本でも読もうと思っても何か落ち着かず宙に浮いているような気持ちです。忙しく働くという事は元気だからそのように出来るのだと、健康のあり難さをしみじみ感じています。重苦しく毎日が過ぎて行くのは辛いものですね。悩みを抱えているクライエントさんはもっと重い気持ちで日々過ごしていらっしゃるのだと思います。大怪我でなかったせいか案外落ち着いていてどうしたら良いか手順が頭に浮かんだのは人間の防衛本能なのかも知れません。歩道を歩いていた時の事故でたいした事がなかったのにこんな嫌な気持ちになったので、犯罪の被害の回復には長い時間がかかるという事、分かるような気がします。起きなかった事には決してならないのですから。雨の日や早朝、夜など皆様もどうぞお気を付け下さいね。

8月22日、季節の色、季節の音

先月下旬に杏と甘味料を酢に付けたサワーが出来上がりました。塩漬けのラッキョウも梅酢の中で綺麗な赤紫に染まりました。毎日かき混ぜていると糠床も臭いと感じるようなにおいにはならず、ナスやキュウリが良い具合に漬かってくれます。トマトは決して甘味が強くはありませんがヘタのあたりまでトマト独特のにおいがして濃厚な味です。今年初めての里芋や、オクラ等もどうやら育っています。今日は朝顔の花と夕顔の花が咲きました。季節の色に囲まれて風鈴の音色を聞きながらの毎日、忙しくても田舎の暮らしは贅沢なものなのかも知れません。ただ都会と比べれば交通など不便ですし、8月7日には37.6℃名で気温が上がりましたから決して涼しくはありません。それでも立秋を過ぎてからは秋の気配が感じられるようになりました。秋になったらその後ろに段々冬が見え隠れして、という徐々に変わって行く四季、その中から生まれた文化があるのだなあと思います。

8月18日、記録の奥には

戦争や天災の被害の記録には沢山の数値が並んでいます。学校でテスト前にそういう物を暗記する事も多いでしょう。どのような記憶も、その出来事を経験した人はやがていなくなりますが、記録は残ります。もし、1000人の人が亡くなった、と記されていたとしたら、一人の人が生まれてから生きて来た何十年かの歳月がそこで絶たれてしまう事であり、家族や友人、親戚や知人との付き合いも勿論そこで終わってしまう事が、1000人の人に起こったという事になります。生きて来た年数を縦、まわりの人達とのつながりを横とたとえると、ある日突然どちらも何もなくなってゼロになってしまうのですね。数百年生きた太い木を抜いたら巨大な深い穴が残りますが、人がいなくなる事はもっと大きな事だと思うのです。衝撃や悲しみ、無念さは突然命を絶たれてしまった人の分だけあるわけですよね。ですから、戦争や天災で、焼失したり壊れてしまった家、まち、亡くなった人の数を覚え、思い出す時には、記録の奥から聞こえて来る亡くなった人達のやりきれない思いが生々しく伝わって来る事を、受け止めて行きたいと思います。それは、決してテストのために暗記する数字の羅列ではないのですから。命を絶たれてしまった人達は仮想現実の世界とは違ってもう再生する事が出来ない、という現実と、体験した出来事を、辛い思いが消える事がないのに語ってくれた人への感謝と労りの気持ちを、正確な記録を読む事と同時に胸に刻んで生きて行きたいと思います。最近思考だけでなく、感情や感覚をも伴って人の身になったらとても出来ないだろうと思う犯罪が増えているように感じるのですが、命はリセットもコピペも出来ない重いものだという事は、過去も現在も未来も不変の事ですね。

8月14日、にび色

鈍色は悲しみ事の時に着る和服の色ですから、人が亡くなった時に着る地味で暗い色というイメージしかありませんでした。平清盛が亡くなった時、宮中にあがっている娘徳子が弔問に訪れ、その時に鈍色の和服であったと記されているそうです。ある時、和服の事を書いた本の中に、この鈍色について取り上げた部分がありました。橡、つまりどんぐりのへた、あるいはビンロウジュの実を使って染めた色なのだそうです。濃い灰色、となっていましたが、そのようにして染めた布で仕立てた和服の写真を見ると、意外にきれいな色なのです。薄い茶色のようにも、緑や黄色ががっているようにも見えます。その日のお天気や季節によっても布の材質によっても微妙に違って見えるのではないかと思うような複雑な色合いです。亡き人を思い、ご遺族を労り支えようという弔問客の思いを、この植物由来の優しく複雑な、そして控えめで落ち着いた色がよく表しているように感じました。一目瞭然と言ったら言い過ぎでしょうか。何時誰が考えた色なのか分かりませんが、突然の訃報に、思いの半分も言葉にならない時、それを黙って補ってくれるような、物言う色と感じました。益々惹かれる色です。

8月10日、プールに入れられた目玉焼き

連日4時過ぎに起きて草取りや畑仕事をしていると太陽が昇って来ます。そのうちフライパンの中に入れられてでもいるような暑さとなり、3時間も経つと半熟の目玉焼きになってプールに入れられたらこういう風なのかも、と自分の事を思うのです。外の仕事はそこで終わりにし、はかどらない時は夕方残りをします。これはこの時期毎年同じなのですが、健康に気を付けながら家の内外を片付け終わるとやはりスッキリします。お墓掃除をしながら顔も知らない昔々の先祖がどんな人だったのだろうかと思いながら蝉やヒグラシの声を聞くのもいつもの事、空は秋めいているように感じます。立秋を迎え、暑さはひと息つきました。戦争が終わった日から70年後の8月15日を私はどのように迎えるのでしょうか。熱い日本列島に居ながら、未だに遺骨の収集もままならぬほどの広範囲だった戦場の陸や海に眠る多くの人の、人生を絶たれた悲しみや無念さを受け止める事が平和へつながって行くのだと思います。どんなに歳月を経ても決して細くはならない先人達との絆を、生涯大切にして行きたいと思います。

8月6日、ヒグラシの声

学生時代の恩師が亡くなられたという知らせに呆然としています。ご病気であって療養中とお聞きしていたのですが。一昨年の同窓会でお目にかかったのが最後になってしまいました。オーケストラからコンダクターが忽然と消えてしまったような、精神的支柱を失ったよう、そういう風に感じています。まだ実感が湧きませんが、心の中にぽっかりと大きな落とし穴位の深い穴が開いてしまったのだと思います。考えてみれば、私達が学生時代の頃の先生のお年を今の自分がとうに超えてしまっているのです。生きる事は、生まれ育って行く者を見守る楽しさだけではなく、親しくして頂いていた方々を見送る辛ささびしさが必ずついてまわる事を幾度も実感する事なのだとひしひしと感じています。今日は、今年まだミンミン蝉の声を聞いていないのにヒグラシの声を聞きました。一足早く秋を迎えたようなそんな気持ちの日になってしまい、涼を感じる筈の風鈴の音色も侘しく感じられます。先生のご冥福を心からお祈りしたいと思います。

8月1日、厳しい暑さです

7月26日は朝8時半に31℃近くまで気温が上がりほとんど風がありませんでした。お盆前で何かと忙しいのですが、帽子を被っても水分補給をしても外で長時間働く事はとても出来ません。息苦しいほどの暑さは台風が原因のフェーン現象のようなものだったのでしょう。この辺りでは無風という事は滅多にないので、もっと内陸部にお住まいの方はどんなに大変だろうとしみじみ思いました。それに、1日中外で働く仕事を毎日している方も沢山いらっしゃるのですね。それぞれの立場で自分の役割を果たしているとは言っても、やはり大変です。そういう方のお蔭で私の生活も何とか成り立っているのだと思います。どうかお身体大切になさってこの夏をお過ごし下さい。今年はまだミンミン蝉の声を聞いていません。地上で過ごすのは短い時間なのに気温の変化が大きいのですから蝉にも過酷なのでしょうね。昨年亡くなった友人にとって、初めて自分の霊が迎えられるというお盆がもうすぐです。私もお会いしたいと切実に思い、彼女がもうこの世にいない寂しさをしみじみ感じています。

7月28日、素の味

離乳食に濃い味付けはしませんから本来人は素材の味を美味しいと感じるのだと思います。例えば、私はただ千切りにしただけのキャベツにはキャベツの味がして美味しいと感じるのでソースや塩等を使わずに食べる事もあります。味覚の発達や変化をたどって見たらどのような事が分かるだろうかなどと考えました。いずれにしても食育は大切ですね。初めての子育て中のお母さんにエールを送ります。肩の力を抜いて頑張って下さいね。

7月23日、梅雨が明けました

20度あるかないかという日が続いた後、今度は突然30度を超える日がやって来て台風の心配もしなくては、という夏なのですから先が思いやられます。朝食後の早い時間に野菜の株元へ枯れた木の葉やもみ殻などを遣って暑さ対策をしたり草取りをしたりしています。赤くなって来た鉢植えのトマト、どうやらカラスが狙ってているようです。急な暑さについて行くのが大変なのは、人間ばかりではなく、植物も我が家の猫も同じなのではと思うほど日中はぐったりしています。風通しの良い、石で出来た外の流しの上が猫のお気に入りです。ひんやりして涼しいのでしょう。夏休みです。あれこれ計画を立てて楽しみにしている子、塾で勉強する子、部活動に忙しい子、夏の過ごし方は様々でしょう。元気で、心身共に一回り大きく成長出来る夏休みになったら良いですね。駅に貼られている子供達の絵の中に、魔女たちの朝の様子を描いた作品がありました。魔女も風景も表情豊かに、次第に夜から朝へと変わって行く様子に引き込まれてしまいました。楽しい絵でしたので心に残っています。

7月19日、二つの水

友人と書道教室に行って来ました。私は筆ペンで自分の名前を練習しましたが、友人は筆にたっぷり墨汁を含ませて隷書の練習、半紙に筆、というのは見るだけでも久しぶりの事でした。高校時代以来なのです。書道の担任だった先生に急にお会いしたくなりました。一緒に授業を受けた友人も全員元気で揃っているというわけではないのです。一気に時間が逆戻りしたような不思議な場所でした。この感覚は友人にもうまく説明する事は出来ません。雰囲気と言いますか、私の感覚なのですから。水を入れて墨を磨った事から、黒ではない水の事もふと思いました。プールが学校にまだなかった小学生の頃の事なのですが、プール貯金という物があり、多額ではないけれど毎月学校に決まった額を持って行きました。近くの海は埋め立てられ工場が出来ていましたから東京湾で泳いだ事はなく、プールの出来るのが楽しみだったものです。プールの記憶は塩素のにおいと中が水色だった事です。水が驚くほど綺麗に見えました。ところが、人口が増えて学校が分かれ、そのプールを使ったのは短い間でした。地区の父母の引率で夏休みに学校のプールに行った時にアンパンとオレンジジュースを渡され、皆で飲んだり食べたりしたのですが普段の何倍も美味しく感じられました。真夏の木陰で涼んだような心地良い一度だけの懐かしい思い出です。山を削って海を埋め立て、田畑のあった所には家が立ち並び、メダカの泳いでいた小川の面影もありません。あれはきっと農業用水路だったのでしょう。どんなに景色が変わっても、やはり見渡す限り緑の田んぼ、という景色の中にあった小学校に通った日々の思い出は色褪せることなく子供だった皆の心の何処かに残っているのだろうと思います。学校はその後移転し、新しくなった校舎と校庭にはまったく馴染みがありませんが、校章だけが懐かしく、それを見た時、行方不明だった古い友人に再開したような気持ちになりました。あのプールは、もうありません。

7月14日、アクアラインから見えた物

先日用事があったので久しぶりにアクアラインを通り、横浜に行って来ました。バスに乗って橋の部分に差し掛かると、今にも泣き出しそうな空とその空よりいくらか明るい砂のような色の凪いだ海が見えました。海を行く船は何かを積載しているようで、工場からの荷を運んで行くのかも知れません。バスや車は橋を渡って行くけれど海も船にとっては大切な海上交通路なのだと実感しました。東京湾をかき分けるようにして進んで行く船はどこに行くのでしょう。この船の着く港街にも人の暮らしがあるのですね。用事は恙なく済み、横浜駅の地下街に降りてみたのですが、以前とは随分変わって驚きました。何がどのように変わっても駅には人が電車から吐き出されるようにして集まり、そこからあちこちへ散って行きます。店にはひっきりなしに客が入り商品を買い求めて行きます。街は生きていて今この瞬間も呼吸し、明日に向かって少しずつその形を変えながら動いている力強さがある逞しいものだと感じました。仏様に供えようと思い、和菓子を1個買ったら綺麗な紙袋をビニールで包み、雨に濡れないようにしてくれました。曾祖母はこの店の切山椒が好きだったそうです。私が買ったのは別の和菓子でした。たった一つしか買わなかったのに、こういう心遣いは店の場所が変わっても、以前と少しも変わりません。老舗の商いの神髄を垣間見たような気がします。こういう御商売をなさる店は随分少なくなったように思いじます。客への変わらぬ心遣いは、爽やかにかおる山椒に重なります。もしまた行く事があったらほかの店ではなく、この店で買い物をしたいと思います。行き交う人も東京湾を航行している船も、明日への希望を持って日々過ごしているのでしょうか。対岸の母の故郷と私が住む地を結ぶ海は、今日は凪いでいても寡黙ではなく、私に饒舌だったように思います。帰りの雨が気にならないような落ち着いた気分にして貰ったものですから、まるで心のマッサージを受けて来たようです。

7月10日、トマトの色

今年も半年が過ぎてもう7月ですね。今月になってからほとんど毎日雨です。雨量も多く、気温は日中でも20度に届かない日もあるので寒いです。そのせいなのでしょうが、トマトが緑のままで色付きません。このままでは食べられるように育つのかどうか分かりません。夏野菜の育ちが遅く、この先もおぼつかないのは我が家だけではないのでしょう。野菜の値段は相変わらず高いです。梅雨明けの頃には暑中見舞いを出せるような夏らしさにやって来て欲しいものです。今日は久しぶりに晴れたので気温も上がるでしょう。台風が気になりながらも、ホッとしています。家の周りにはダンゴ虫が沢山いましたけれど今日は少し減ったようです。太陽はあり難いですね。こんなスッキリしない毎日だったからなのか、夕日が日本海を濃い杏色、ブロンズに近い色に染めて沈んで行くテレビの一瞬の映像に見とれてしまいました。柏崎の夕暮れの美しさは何時までも心に残りそうです。さて、洗濯物を干して風鈴を出す事にしましょう。

7月6日、驚きました

新幹線の事件、驚きました。私は新幹線の自由席は1号車の一番前が好きで以前利用していました。最ものぞみではそうではなかったのですが。用事があって高速バスに乗ったばかりなので何かあれば密室になると改めて感じます。多くの人の、謂わば人生の一部である時間を乗せた空間での出来事です。非常に危険ですし乗り合わせた人達への影響は計り知れません。決して許されない事だと思いますが、最後に乗り合わせた人に一言二言話しかけたのはよほど人恋しかったのでしょうか。どのような事情があったのか今はまだよく分かりませんけれど、険しい人生をこうして閉じたのが高齢者だと聞き、何ともやりきれない重苦しい気持ちになりました。考えてみれば今まで危険物を持ち込む事件が起きなかった事が驚くべき事なのかも知れないですね。最近の電車は普通電車でも窓が開きません。これも是非再考して頂きたいものです。

7月2日、夏目前

梅雨も後半、毎日のようにあちこちでにわか雨というにはあまりにも激しいお天気の変化に、今日は大丈夫だろうかと心配になります。ロシアンルーレットなどと言ったら不謹慎でしょうか。そんな事を思いながら、半夏生の今日、お天気がよくないのに風鈴を出しました。南部の澄んだ音色が蒸し暑さや肌寒さをすうっと消してくれそうです。ドラッグストアーには蚊取り線香が沢山並んでいました。

6月28日、ハーブ

赤紫蘇、青紫蘇、山椒もハーブと呼べると思いますが、それ以外に我が家にはミントとローズマリー、レモンバームが少々あります。レモンバームはサラダに使う事がありますし、夏はミント茶を飲むとスッキリします。でもあまり活用していないので勿体ないですね。むしろ紫蘇や山椒の方がなじみがあるからかよく使います。今ではホームセンターなどに沢山のハーブが並んでいますので栽培している方も多いのでしょう。初夏になると野菜や果物の苗も、多分1年中で一番多く出回っていますので、私のような初心者でも思わず手に取って眺めてしまいます。興味津々という人には栽培をはじめやすい季節だと思います。スッキリやリラックスなどの効果もあるのでもう少し料理に取り入れて見たいと思っています。バジルの種を蒔き、イタリアンパセリも植えたのでそろそろ収穫出来そうです。ラベンダーもポプリに良いですね。

6月24日、人の痛みを知る

子供の頃、わが身をつねって人の痛さを知れという言葉を覚えておくように、と祖母は度々私に言いました。今日その事をふっと思い出しました。随分前に沖縄に行った事、以前にもお話しましたが、沖縄国際大学で開催された心理学会に当日会員として参加しました。帰る前日にホテルのレストランの若い従業員の女性に、もうすぐ慰霊の日が来ますねと話しかけた時、彼女の私を見る目がまるで肉親を見るような目に変わったのは、彼女が戦争時の事を知っていて、本土からの観光客の心ない言動に幾度も傷つけられて来たからだろうと思いました。そんな気がしたからこそ話しかけずにはいられなかったのですが。またぜひお出で下さい、と観光スポットなど教えてくれましたが、私も本土から来た一人なのだと思うと顔をあげられないような申し訳ない気持ちになりました。今でも、つい先ほどの出来事のようにその時の雰囲気さえ蘇って来ます。私にとっては高価なレストランだったので、明日は帰るという日に思い切って一度だけ食事をした時の出来事でした。勿論これだけで人の痛みが十分分かったなどと言えるものではないと思っています。未だに、帰る人が皆亡くなって生活の痕跡の残る廃屋がある事もその時知りました。廃屋はいずれ朽ちても戦場となって大勢の人が亡くなった現実は決して朽ち果てる事はありません。戦争も、私が沖縄を訪れて経験した事も、その部分だけを切り取った一枚の絵ではなく、今にも未来にもつながっていると改めて感じ、重く受け止めています。私にとって毎年6月23日は鎮魂と贖罪の思いの日です。

6月20日、子育てを見守る

出来れば梅雨を楽しみたいなどと思ったけれど、季節感を大切にする暮らしは昔に近い生活をするという言い方も出来ますから、自分が自然と歩調を合わせる事でもありますね。杏が収穫出来たのでジャムを沢山作りました。ご近所さんとお付き合いがあるので差し上げようと思います。ちょっとした物々交換です。でも当分杏を使って何か作るという事、したくないと思うほど長時間色々作りました。そろそろ紫陽花の綺麗な遊歩道のウォーキングに出かけようと思います。遊歩道で時々小さなお子さんを連れたお母さんにお会いする事があります。皆さん、子供さんが他の人に迷惑をかけないように歩かせようと随分気を使っていらっしゃるようです。そんな時、子供さんに言葉をかけてあげるとお母さんはいくらかホッとしたように表情が和らぎます。そこからお母さんとのコミュニケーションが生まれる事も多いです。育って行く子供の好奇心や、大人が忘れてしまった発想、素直な気持ちの表現などに触れる事は私にとって楽しい事でもありますし、お母さんへの小さな子育て支援のようにも感じます。皆幸せに育って欲しいですね。

6月16日、好みの違い

緑豊かな田園風景が幼い頃の故郷では当たり前のものでした。今より不便ではあってもその中で生まれ育った子供にしてみれば初めからそういう環境だったのですから特別不便だなどと思わなかったのは私ばかりではないと思います。でも、便利で機能的なものや大型レジャー施設などが快適で楽しめる場所だから、そういう所の方が好み、という人が多いのです。自然が一杯という事は目新しい物が何もないと感じるようです。人は様々なのだとつくづく思います。別に自分が懐古趣味とばかりは言えないと思いますが、なかった物に憧れ、手が届く時代にそれを享受したいとはあまり思わないのです。それは知らない物に興味津々という普段の自分とは少し違いますね。身の丈に合っているのか、足元は大丈夫か、などとつい考えてしまう事とも関係があるのかも知れません。バランスの良くない立ち方なのか考えてみたいと思います。こうしてまた一つ考えてみたい事が出て来たのは楽しい事です。これも、遠野物語のような素晴らしい場所に誘ってくれた友人のおかげです。

6月12日、芒種

今年は6月6日が芒種だったそうです。ノギのある穀物の種を蒔く頃なので、麦や稲という事なのでしょうがこの辺りでは今はもっと早い時期に田植えも終わっています。ノギという言葉もあまり使わなくなったのは我が家でもご近所でもそういう作物を栽培していないからかも知れません。二十四節気の中の一つ、と聞いても、何でも昔より早くなっているのでピンと来ない事が多いように感じます。4月に植えた里芋の芽が、やっと出て来ました。これから育つ柔らかい田んぼの稲と紫陽花、里芋の葉に溜まった雨の雫、これ以外にも、梅雨は鬱陶しいだけではないと感じさせてくれる美しい物を探して、出来れば梅雨を楽しみたいと思います。日によっての気温差が大きいので気を付けていたのですが風邪を引いてしまいました。皆様もどうぞお気を付け下さい。

6月8日、楽しい糖衣錠

薬を飲んだ時懐かしい匂いがしました。白い糖衣錠の匂いは口紅の匂いに似ていました。何十年ぶりかで七五三を思い出し、口紅の匂いを覚えていた事に驚いています。春や秋に時々七五三の時の着物を着せてもらい、艶のない昔の赤い口紅をちょっとつけてもらうと非日常の気分になるから不思議です。ワクワクして楽しい時間を過ごしたものです。火鉢に炭、という暖房では寒いですし、汚れやすいのでたまにだったのですが、お化粧の最後に口紅をつけてもらった時はいつも、大人は毎日お化粧出来て楽しいだろうなあと羨ましくもありました。今ではすっかり忘れてしまったお化粧への好奇心や憧れ、あれはフレッシュな感情の原点のようなものだったのかも知れません。高齢な方でも女性ならきっと心の引き出しに大切にしまってある事なのではないでしょうか。着物を着て何時間か経つと窮屈になってまた洋服の日常に戻って行く、私はそんな子供でした。これは意外と忘れたと思っていたのに覚えている事があるのでは、と思いました。ところで、最近外国人が日本や日本人のよい点をほめるというテレビ番組が最近多いようですが何故でしょうね。

6月4日、実り

玉ねぎとジャガイモを収穫しました。初めて家で種を取ったオクラもビニールポットの中で育ち、定植しました。キュウリ、カボチャ、ナス、シシトウなど、無事に育って美味しい実を付けて欲しいものです。梅酒や梅干し作りの季節でもあるので、私も我が家の杏を使って色々作ってみたいと思います。もうすぐ梅雨ですが、雨に濡れた緑を楽しめるような穏やかな雨であるように願っています。30日の晩の大きな地震に眩暈がした方、いらっしゃるのではないでしょうか。地震、噴火と落ち着かない気持ちになりますが、実りを与えてくれるばかりでなく、これも自然というものなのですよね。

　

5月31日、二人三脚

今年の玉ねぎは小さい物が多く、中には薹の立っている物もあります。自然の声を聞きながら上手に野菜や果物を育てる事の難しさを感じています。成長過程苗の状態をその都度把握し、二人三脚のように、というのがなかなか出来ません。相手がよく見えているかどうかですので、何か子育てに似ているような気がします。とにかく、もうすぐ収穫出来そうなこの玉ねぎが育ってくれた事に感謝して料理を作りたいと思います。最近、毎日黒っぽい縦縞の猫がやって来て大きく育った蕗の下で昼寝をして行きます。まるでコロボックル様のよう、大人しいのでうちの猫とトラブルもなく、遊びに来るのは構わないのですが、もし迷子だったら早く家に帰してやりたいと思っています。動物病院にも聞いてみたのですが今のところこの猫を捜している人はいないようで不憫です。

5月27日、完璧にはほど遠い

完璧という言葉を聞くと、もう不足する点がない人や作品などの物を思い浮かべますが、付け加える物ではなく削る物が何もなくなった時に完璧は達せられるとサンテグジュペリが言ったそうだ、新聞にそのように紹介されていました。確かに美しい文章はくどいほどの説明がありません。簡潔で言葉が選ばれているから味わい深く心に残るのかも知れないですね。何かをした時に漏れ落ちがない事は、失敗ではなく成功したと言えるでしょうけれどそれすらおぼつかない事の多い自分を鏡に映して向き合った気持ちになりました。サンテグジュペリの言う完璧にはほど遠いので、まだまだ自分育て、自分磨きが不十分です。それは目指す目標がまた一つ見えて張り合いがある事のようにも思えるので不思議と敗北感はありません。奥行きのある心豊かな人間になれたら、厚い本のように思わぬ衝撃にも耐えられるのでは、とも思います。とても難しいのでまずこうして口に出して言ってみました。

5月23日、テレビは便利

地面に接した雲を霧と言いますが、それでは限りなく天に近いように感じられる南米の高地ではどう区別したら良いのでしょう。霧が、まるで綿あめを作っているように沸き立つ様は、南米の雲は皆ここで作られているのでは、と思うくらい迫力がありました。アンデスの山懐に抱かれたペルーの谷にある村、ここは3000メートルを越える所で、600年以上前から、なんと棚田があるのです。白いお金と言われた良質な塩がとれる塩田なのですから驚きますね。荒涼とした景色の、何もない場所などではなく、アルパカの毛を使った織物も作られ、そこにはずっと住み続けて来た人達の暮らしがあります。アルパカの毛を使った織物の赤い色は、糸をカイガラムシで染めるのだという事を初めて聞きました。世界は本当に広いです。ペルーはトウモロコシが食べられ、ジャガイモの故郷ですから、遠くて気候も歴史も言葉も異なりますが親近感が湧いて来ます。クスコ近くの村に住む人には日本の千葉県という所に住む私がこんな事を考えているなどとは考えもしないでしょう。瓶詰めで売られている岩塩はフラミンゴのようなピンク色、白くない塩も綺麗です。私は、うろ抜いて作ったおひたしを食べながらちょっと不思議な気持ちを味わいました。スペイン語が使われているの、言葉を覚えて是非話してみたいと思いました。このところラジオでスペイン語を勉強中なのです。

5月19日、消えたゴボウ

昨日、スーパーで買って来たゴボウが1本見当たらなくなりました。ビニール袋に入った、買ったたばかりの物なのです。そんなはずはないと思い、勿体ないとも思いました。台所だけでなく居間まで捜す事になるとは、何か無駄な時間の使い方のような気がしてイライラし、覚えていない自分に愕然とし、気持ちも暗くなって猶更記憶は曖昧になって行くばかりでした。ところが、今朝台所にあったのです。あんなに何度も見たはずの場所にあった事に何故気付かなかったのでしょう。年齢のせいもあると思いますが、いつものパターンに慣れているので、無意識にというか他の事を考えながら何となくいつもと違う事をすると思い出せない、後で思い出すのはいつものパターンの方、という事になりがちのように思います。そんな時は後で探した方が冷静に一歩ひいて見る事が出来ます。これはどんな事にも言えますよね。人間はいつもと同じ、という事が経験上安心するのかも知れないですね。自信は大切ですが、度が過ぎると頭が硬くなってしまいかねないとも思います。ちょっと台の上に横に置いたと思っていたゴボウは、実はその台に立てかけて縦に置いたという事を、見つけてから思い出しました。一晩行方の分からなかったゴボウをしまいながらあれこれ思い、妙に親近感の湧いて来たこのゴボウで何を作ろうか迷っています。何だか食べるのが惜しくなってしまいました。

5月14日、花から花へ

桜、牡丹、藤、ツツジなどの花が次々と咲き、もう芍薬の蕾も膨らんで来ました。綺麗な花が次々と咲くのでまるでよりどりみどり、勿体ないけれど目と心の栄養になったように感じます。この、蝶になったような楽しさをストックしておきたいものです。それにしても、5月に台風とは驚きました。昨日の朝、泥だらけになったナスやキュウリの苗に真水をそっとかけて泥を洗い流しました。何とか無事に育って欲しいです。連休中に外仕事は区切りがついたので、少しじっくり勉強したいと思っています。

5月10日、今度生まれて来ても

親戚がまた一人旅立って逝きました。まだそう高齢ではない事もあって、辛い気持ちです。明るくおおらかで気さくな叔母でした。結婚式の日、角隠しに打掛という花嫁姿を我が家に見せに来てくれた事がまるで昨日の事のように思い出されます。私が小学校一年生の時の事でした。若い時、患って手術を受け闘病生活を送ったのですが、家族の支えと叔母の体力、そして何よりもまだ小さい子供達の為に生きなければ、という思いが回復につながったのだと思います。何事もなく穏やかに過ごしていた時間はあっという間に過ぎ、あっけなく旅立って逝ってしまいました。家族が外で十分働いたり勉強したり出来るように支える主婦だった叔母は、子供の成長や夫の仕事に打ち込む姿を見て共に喜びを感じる事が自己実現だったのかも知れません。お母さんというのは、専業主婦であれ兼業主婦であれ、扇の要のような存在なのだとしみじみ感じます。ある友人のご主人が亡くなってからのお付き合いである私が、そのご主人の夢を見た事があります。顔も知らない筈なのに夢の中ではその方が友人のご主人だと分かりました。ご主人はニコニコしながら私に、もう一度結婚したいなあ、今度生まれて来ても家内と、そう言いました。御主人が私の友人である奥様に、言い残す事が出来なかった感謝の言葉だったのだろうと思い、友人にその夢の事を伝えました。叔母は、もう一度生まれて来ても同じ人と結婚して同じ子供を産み育てたい、今そう思っているでしょうか。病む苦しみから解き放たれた叔母がどうか安らかにと祈るばかりです。皆の心の中に、宝石箱の中の宝石よりも大切にしまわれ、何時までも生き続けて行くのですから、亡くなった人は逆にもう死なないとも言えるように思うのです。

5月6日、連休はゆっくり

ゴールデンウイークはどのようにお過ごしになったでしょうか。私は草取りに忙しく、夏野菜の植え付けや種蒔きに今年も追われる毎日でした。行楽地はどこも混んだようですが、我が家のように野菜の苗を植える人も多いようで、ホームセンターも随分混んでいました。八十八夜も過ぎ、美味しいお茶の季節になったのだと思うと、手を伸ばせば届く所まで夏がやって来た事を感じます。茶畑を渡る風も緑に染まっているのでしょうか。曾祖父の故郷は今もお茶の産地です。若葉の中を散策したり本を読んで過ごすのも悪くないですね。たまには雑踏の中を歩いてみたいようにも思いますが、皆様は如何でしょうか。人とのかかわりに疲れた方は自然と触れ合ってリフレッシュしたり、ゆっくりご自宅でお休みになれると良いですね。ゆっくりという言葉は何気なく使いますが、教科書のデジタル化が検討されるという時代に、何でももう少しゆっくり進めても良いのでは、と思います。大きく物事を変えてしまう流れを作ると乗り遅れまいとする、よくある事だと思うのです。ほかの選択の余地がないかどうか精査してからでないと、後で悔やんでも決して元には戻れない場合がありますよね。足元を見ずにあまり前のめりになって歩くと躓いて大怪我をするかも知れないのですから。視野を広く持ち、自分に聴きながら選択して自分のペースで、という事を心掛けたいと思いました。

5月2日、サプライズにつながる物

タケノコの美味しい季節です。もう召しあがったでしょうか。子供の頃、タケノコのかなり中のほうの皮の中に梅干しを入れて吸ったものです。皮は真っ赤になって綺麗でした。酸っぱいだけ、といってしまえばそれまでですが季節感がありました。こういう物や、スルメの足を焼いた物、カンナで削ってとても小さくなった鰹節を母に貰ってカリカリ噛んで食べた時の旨味、今では珍しい物になってしまいました。おやつだったわけではないけれど好きでした。段々思い出す事が増えるのはそれだけ長く生きて来たからでしょうし今に不満があったり将来に不安があったり、そういう事もあるのかも知れません。想像もつかない世の中の速い変化について行けるのかどうか分からないですし。でも、振り返って懐かしい出来事を思い出すのが後ろ向きだと一概には言えないように思います。楽しく幸せに過ごした事を思い出すと、自分の今までの人生にかかわってくれた人達に感謝の気持ちが湧いて来ますし、雪玉を作って、雪の中をコロコロ転がして大きくしたように、心を育てて貰った事を振り返る事で思わぬ気付きがある、それは自己肯定感につながると思うのです。自然と自信が持てるようになって前向きになるきっかけがきっとどこかにあると思います。リア王の中のコーデリアを、ふと思い出しました。口に苦かった物も優しくて甘かった物も、自分の未来への手掛かりになる薬という気がします。これからの歳月に好奇心が湧いて来てどんなサプライズがあるのだろうと思いながら日々生きて行きたいですね。

4月28日、微笑む三日月

赤やピンクの牡丹、藤、ツツジ皆一斉に咲き出しました。4月の寒さや荒天にとまどいながら、今年は爆弾低気圧と出会いたくないものだと思いました。嵐は植物にも人間にも過酷です。今野菜がとても高いですね。露地栽培は結局天候次第、気候が不順だと野菜が思うように育たちません。サヤエンドウなど4月の冷え込みの影響をかなり受けたようです。我が家でも夏野菜の植え付け準備をしました。野菜を作るのは私達人間というよりも土ですから大切に手を掛けようと思いながら、なかなか出来ません。それでも去年のように大きくて美味しい白皮カボチャが今年も実ってくれたらと期待しています。さて、君津駅の通路に、笑っている三日月を描いた子供の作品を見つけ、まあ るい心で暮らしたい、戦争がないよう祈るというより、起こさないようにして行くのは私達一人ひとりの人間にかかっているのだという事をひしひしと感じた次第です。

4月24日、一重から八重

お花見はソメイヨシノばかりでなく八重桜も綺麗ですね。若葉を待つ季節、純粋無垢なお姫様のような八重桜がニッコリ微笑んでいるように感じます。ウォーキングしながら眺めるだけなのですが、記憶に残る姿です。祖母は百人一首の中の、いにしへの奈良の都の八重桜今日九重匂いぬるかなという歌が好きでした。母は、村雨のつゆもまだひぬ槇の葉に霧たちのぼるあきの夕暮、という歌が好きな、淡い色の秋の草花を好む人でした。自分はと考えると、新古今和歌集が好きですけれど実は良く分かりません。自分の事だからこそ見えない部分が多い事に、改めて気付かされました。人生は楽しい事ばかりでなく、挫折や悲しみもある事を十分知っているようなソメイヨシノの束の間の美しさ、散って水面に浮かぶ大きな花筏の豪華さに魅せられた季節が終わって、どんな五月がやって来るのでしょうか。

4月20日、雪月花

桜の花が早く終わってなかったら、8日は花冷えの一日だったでしょうね。午前中に一時はみぞれが降ったので、雪月花という言葉を思い出しました。ついて行くのが大変だと感じる急激な気温の変化です。3月にジャガイモ、4月になって里芋を植えました。里芋は初めてなので、色々教えて頂きながらという事になりそうです。この辺りではお盆に仏様に生のナスを刻んで供えるのですが、そのお皿になるのが蓮の葉に似た里芋の葉なので、沢山育ってくれたら葉も使えるし芋も茎も美味しいと皮算用しています。きっと裏山で狸が笑っている事でしょう。雨の日が多い事もあり、花は見てもなかなか月を見る事が出来ませんでした。

4月16日、平和なトラ猫銀座

梅一輪いちりんほどの暖かさという句がありますが、そこから季節が移行して来ました。もう牡丹や藤の蕾が目に付きます。ところで、最近キジトラのオス猫を何匹も見かけます。我が家の庭だけでなくご近所の畑などでも見かけるのですが皆おとなしく散歩や昼寝をしています。そう広い範囲でもないのに正面からぶつかる事を避けてでもいるようでにさりげなくかわし、喧嘩をしません。オス猫には縄張り意識が強いというのは時と場合によるのかも知れませんね。この平和な光景に興味津々です。私達人間には何とも耳の痛い話です。

4月12日、さくらさくら

桜が満開、風の強い日が多いので花が可哀想だと思っていたら一足遅い花冷えでみぞれが降り、あっという間に終わってしまいました。花芯の色が咲き始めと散る前では違うなあと思いながら見ていたのですが、あまり桜をじっと見ていると花に酔ってしまいそうです。花吹雪の中を歩くというのは随分贅沢な事をしているように今年も感じました。中国からも日本の桜を見ようと沢山の方が訪れたそうですね。実は、我が家では先日から高齢の猫の体調がすぐれず心配でしたが、動物病院で薬を頂いて来て飲ませていると、美味しそうに柔らかいキャットフードを食べ、嬉しそうに窓のそばで日向ぼっこをしたりして何とか状態を保っています。人間ですと90歳台のおばあちゃんですから油断は出来ませんが、毎日をかけがえのない貴重な時間だと思って大切にして、心地良く過ごせるように寄り添って行きたいと思っています。

4月8日、詩吟朗詠

元二の安西に使いするを送る、という漢詩が心に残っています。私が高校一年の時、三年生を送る会で校長先生が詩吟の朗詠をなさったのですが、それがこの漢詩だったのです。西のかた陽関を出づれば故人なからん、という所だけ聞こえた、という状況でした。それは他の場所で作業をしていて体育館に遅れて入って行ったからで、その日は卒業して行く三年生がお客様でした。これから社会へ出て行く人達は、関を超えて知っている人の居ない所へ大切な勤めを果たしに行く人に無事を祈って励まし酒を勧める、というこの漢詩と似通った所があるからこの詩になさったのだと思います。檀上の先生のお声はよく通り、心を込めての朗詠だったのでしょうね。朝礼の時は壇上で生徒達の顔を見てその日話す事を決める、とおっしゃっていた先生でした。皆いつも静かに引き込まれるように聞いていました。毎年春になると、素晴らしい校長先生だったと懐かしく思い出しています。今日は、タンスの引き出しからそっと取り出す様にあの頃を思いました。学校にも社会にも新年度がやって来ましたね。決して甘くはないかも知れませんが、スタートした年が皆様にとってどうぞ良い年になりますように。

4月4日、目玉焼き

卵はお弁当のおかずの定番といわれて久しいですね。もっとも、今は店で色々なお弁当が売られているのでそれを買う人の方が多いかも知れません。卵アレルギーのお子さんも昔より増えているように感じます。卵アレルギーの方、こういう話題で申し訳ありません。卵料理は種類が多いですけれど、朝食に目玉焼きを食べる事はわりと多いのではないでしょうか。目玉焼きは黄身が半熟、白身はとろっとしている、そういう目玉焼きが好きな方が多いせいか、ファミレスなどでもそうですね。でも目玉焼きの焼き加減や使う調味料は人によって随分違います。半熟に塩胡椒という方ばかりでなく、醤油やソース、マヨネーズ、トマトケチャップなど好みは分かれます。卵は何とでも合い、自己主張していないようでいて個性を持った食べ物でもあるなあと思います。私は蓋をしてよく焼き、白身の縁がレース編みのようにカリカリになった目玉焼きに醤油、というのが好きです。黄身より白身が好きなので、一度白身だけの目玉焼きを作ってみたいと今も思っています。子供の頃は黄身が好きな子が多かったものですから、何となく肩身の狭い思いをした事も今は懐かしい思い出です。

3月31日、粗餐を差し上げる

目上の方からある集まりへのお誘い、という内容のお便りを頂きました。ご自宅に人を集めての催しという事なのです。その中に、粗餐を差し上げたいと書かれた所があり、私文書でこういう言葉は久しぶりでしたので、おかしな言い方かも知れませんが目がくぎ付けになりました。来て頂くのだからとへりくだった言い方、なさらない方が多いように思います。たとえ一椀のお粥を頂く集まりだったとしても、打てば響くように気持ちが通じ、温かい雰囲気に心が和む集まりになる事だろうと察せられて嬉しいお便りでした。勿論それはたとえで、一椀のお粥を出すから粗餐とおっしゃっているわけではありませんけれど。謙譲の言葉を使わない文書は、日時などの必要な事実を分かりやすく伝達するのが目的である、ツアーの募集や職場での文書ではむしろ普通でしょう。でも、そのような書き方では私的なお誘いの時は相手に対して、事実を伝達する役割を果たすのみの尊大で失礼な手紙になりかねませんよね。友人との電話やメールは話し言葉で気軽に、が良いところで随分違う物だなあと思います。私もこれを機にお便りを書く時にはこれで良いかどうかと精査して、要件に気持ちを添え、綺麗な日本語を使って心のこもった物にしてお送りしたいとしみじみ思いました。美しい桜の花びらが一枚、我が家に一足早くやって来たようなお便りに感謝しています。

3月27日、昨日と明日

小糸川の遊歩道は河津桜が今年も満開になり、ぼつぼつ葉も出て来ました。濃いピンクの花吹雪はソメイヨシノとはまた違った美しさがあるように感じます。毎日勿体ないほどの花が散って行くのを見ながら歩いているのは随分贅沢な事なのかも知れませんね。祖父が亡くなって35年、お彼岸には牡丹餅を供えたいと思いつつ、それは仏壇にだけ、という事にしました。お墓に、野生動物がエサを求めて頻繁にやって来るようになっては困るのでそうしましたが、気持ちが届かないようで残念です。人の一生の中で35年は長いかも知れませんが、過ぎてしまえば本当にあっという間ですね。地球の歴史の中では短い時間という事になると思います。35年後、私のまわりの人達はどうなっているのでしょう。平和にのびのびと幸せに暮らしていて欲しいものです。いずれにしても、様々な事の積み重ねが歴史を作って行くのですから、浦島さんが玉手箱を開けたような劇的な変化は自他共に起こらないですよね。今日という日を毎日大切にしているか自分に問えば、そうとは言えない所も多い自分に気付きます。つい、後ですれば良いとか、明日がある、そう思って他者との関係もぞんざいにしがちなところ、直したいと思います。

3月23日、人との会話で不完全燃焼

この人と話していると、こちらのいう事に相槌は打つけれどどこか上の空でまた自分の話の続きに戻してしまう、こういう事案外多いのではないでしょうか。多分相手の方は自分の話を聴いて欲しい気持ちが強いのでしょう。貴方が聴いてくれてストレス解消になっているのだと思います。でも貴方はそれでは不完全燃焼のような状態になり、後味が悪いかも知れません。ごく普通の日常会話は大抵言葉のキャッチボールですから。暫くよく聴いて、それから自分の話も出来ると良いですね。相手の方は、貴方が良い聴き手で口が堅いと安心もし、太鼓判を押してくれた、そうも言えます。そんな時は聴いていた自分をほめてあげて下さい。ですがストレスにならないようくれぐれも無理なさらないで出来る範囲で聞いてあげて下さいね。

3月19日、ところ変われば

日本人はコーヒーを七分目か八分目カップに注ぐけれどどうしてそんなに少ないのか、と日本にいる欧米の多くの国の人達は疑問に思うのだそうです。考えた事もなかったので、このテレビ番組に驚きました。こぼれると滲みになったり火傷をしたりするかもしれないからこぼれない程度の分量にする、そう答えていた日本人が多く、それが当たり前の事のように思っていたのは私も同じでした。どちらかというと、色の取り合わせを考えたり、詰め込まないで大きめの器に盛り付けた方が見た目も美味しそうだと思う日本人は多いのではないでしょうか。受け取り方は文化によって違うのですね。もう一つ興味深かったのは、日本人は美味しいと評判の店に長蛇の列が出来ていても長時間並んで待ち、そこで食事をする人が多いのは何故かという事でした。並んでいる時間が勿体ないし空いている店に入って見るのも好奇心が満たされると感じる外国人が多く、並んでいる日本人にマイクを向けると、人が大勢並んでいる所に自分も並ぶと安心するという人や、流行に遅れたくないという人も多かったので、取り残され不安のような物があるのかも知れないと感じました。そして、今の世の中では流行の移り変わりがとても速いですね。でも、昔から流行というのはそういうものだったのでしょうか。何か実体があるようでつかみどころがない様にも感じられ、芯はあるのでしょうけれど綿あめをつかんだ時のような不思議な、手応えをあまり感じない漠然としたもののように思います。これは社会心理学に含まれる領域でもありますね。

3月15日、花粉が降る

今年の花粉は強烈です。3月になってすぐ耳鼻科と眼科に行って来ました。点眼薬のお世話にもなっています。始まりは2月11日、これほどひどい年は珍しく、先が思いやられます。桧の花粉症になったのは20数年前、杉花粉は10年近く前からです。うっかりマスクを外すと酸素不足の金魚のように息苦しくなりますよ。最近、ドライノーズという言葉を聞きました。鼻の乾燥は空気の乾燥とかかわりがあるそうです。花粉症にまだなっていない方はこの鼻の乾燥に要注意のようです。さて、オス猫アスカの無事を祈って一年過ぎました。何をしてもまだ見つかりませんが、時折目撃情報を頂き、優しい方の多い事に感謝して気を取り直しています。皆様がどうか花粉症になりませんように。花粉症の方はどうぞお大事になさって下さいね。

3月11日、今日のリンゴ

震災から歳月は過ぎて行きます。でも、様々な思いを胸にその後一生懸命生きて来られた沢山の方の事を思うと、震災は決して遠くに過ぎ去った出来事とは思えません。命が助かった後にはその後の生活を考えなければならず、前向きになろうと頑張って来られた事と思います。生活が何とか落ち着いた時、失ったご家族を思うと胸にぽっかり穴が開いたように感じられるというお気持ちになる事があると思います。以前もお話ししましたが、写真の真ん中にマッチをポトリと落とすと徐々に燃え広がって行きます。写真の奥には思い出があるので空洞の奥行きは計り知れない、こういう事と似ているように思えるのです。希望があれば心の奥も元気になれるでしょう。その源は子供などの家族だと思います。故郷に帰れない現実、ご家族を失った方の喪失の悲しみ、苦しみは私には想像もつかないほどのものなのかも知れません。何とか元気を取り戻して毎日を送っているように見えても、心の奥深くに希望とは反対の気持ちを封じ込めているという場合もあります。マイナスの感情を外に出して吐き出す事を十分にする事が必要だと感じますが、それは難しいという状況の方もいらっしゃるでしょうね。心のケアも息の長い、その人その人の状況に応じた支援が必要だと思います。友人が東北から送ってくれた真っ赤な香りの良いリンゴは、私には子供の頃のリンゴ箱に一杯入った紅玉を食べた冬の懐かしい思い出につながりますが、震災で心に深傷を負ったままの方には胸をえぐられるような辛さを感じさせる物という事も十分あり得るのだ、と感じました。物言わぬリンゴは含みの多い存在で、師のように私の前にじっと座ってこちらを見ています。とても美味しそうですが、今日は胸が一杯で食べられそうにありません。

3月7日、旅

江戸時代、庶民の女性も旅をしたそうです。そうはいっても時間とお金にゆとりのある人でなければ、物見遊山は出来ません。元気な御隠居さんですと、親しい人何人かと出かけても家業に差し障りがなかったので、そういう立場の人達が伊勢参りや江戸見物に出かける事が段々盛んになって来た、という事だそうです。隠居といっても50過ぎくらいの年齢といいますから今とは随分違いますね。我が家でも江戸時代に出羽三山や伊勢へお参りに行った人がいると墓石に刻んでありますが、それは皆男性です。全行程を歩いて、という事になると無事に帰る事が出来ない場合も覚悟しての旅立ちだったのかも知れないと想像していましたが、私が思っていたより安全で安心出来る旅だったような気がします。江戸時代の女性は軽んじられていたようにばかり捉えがちでしたが、人それぞれ自分の人生を一生懸命生きて、意義や楽しみを見出し、案外たくましい一面も持ち合わせていたのかも知れません。何時の時代でもどこでも人間はそうやってそれぞれ暮らしている、今も昔も同じですね。

3月3日、事件

最近想像もつかない事件があちこちで起きています。凶悪な事件が私には理解出来ない理由で起きるのは何故か、事件を起こした人の詳しい心理や原因などそのメカニズムは分からないですし、個別の事件の原因がすべて同じだとは無論言えません。ただ、成長し独立した大人は人とのかかわりを持ちながらも個別に生活して行くというこの個人が、孤立していると感じる場合があるのかも知れないという気がします。個ではなく孤になってしまっている、人との心の交流が浅く希薄、という事がもしかしたら関係があるのではないでしょうか。承認欲求が満たされない不満が高じると屈折した思いをどこかで誰かにぶつけたくなり、そういう時には相手の身になる事は出来ないのかも知れませんね。歯止めがきかないという事を不気味と感じます。便利な世の中と孤独、何となくアンバランスで木枯らしの中の傾きすぎたシーソーのようです。今日は雛祭り、お雛様達が、折角飾ってくれるのなら年に一度だけ並ぶ私達が笑顔を見せられるような世の中にして欲しいと言っているような気がしました。

2月27日、ゲンゲが笑った

ふと、ゲンゲが笑ったような気がしました。ゲンゲとは富山など日本海でとれる魚です。大伯母は富山湾の近くに嫁ぎ、大伯父は海の仕事をしていたそうです。宅配便などない時代でしたから、よく魚を干し、干物を作って送ってくれたものです。ゲンゲ、白エビ、ホタルイカなどが懐かしい味として思い出されます。こちらからは干し蛤、海苔、落花生など家で作った物を送っていました。大伯母は祖母の姉で、とうに亡くなりました。夏休みには都内の大学に通っていた孫、私からは随分お兄さんに見える人がよく我が家に大伯母を連れて来てくれました。秋口までゆっくりして行く大伯母は優しくて焼きナスが大好きだった事も忘れられない思い出です。何故ゲンゲが笑ったように感じたかと言いますと、もうすぐ北陸新幹線が営業を開始するから、でしょう。とても仲の良い姉妹でしたので、新幹線に乗せてあげたかったとしみじみ思っている私に、多分日本海からゲンゲが笑いかけてくれたのでしょうね。

2月24日、病院

体調を崩して病院に行く時、気が重くなる事があります。元気が当たり前のようにいつの間にか思い込んでいるからかも知れません。外はこんなに晴れていて他の人はイキイキといつも通りの生活をしているのにどうして自分だけ、そんなお気持ちになった事のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。毎朝気分よく寝覚める事も、体調がよく、大きな悩みがないから出来る事ですね。それに、紛争地域では今日一日生き延びられるかどうかも分からないのです。風邪を引いて病院に行き、診察を受けて薬を貰って来る、しかもお大事にと言ってくれる、それは当たり前の事ではなく、ありがたい事なのだと、感謝の気持ちを忘れがちな自分を省みています。手厚くされるどころか人間として今の日本で言えば普通と思われるように扱われる事もなく、亡くなって行く人が地球上にはまだまだ沢山いるのですよね。水や電気、電車、皆先人達の知恵や研究、努力の積み重ねのおかげです。ですが、私は後の世の人達に何を残す事が出来るのか、と考えてしまいました。

2月21日、余寒

立春も過ぎたので余寒というのでしょうか。毎日寒いですね。寒くても植物は季節の微妙な変化に敏感なので聖護院大根やカラシ菜を収穫してしまいました。そろそろ薹が立って美味しくなくなってしまいますから。人間は何故生きるのか、どこから来て何処へ行くのか、難しいですけれど、今この瞬間が、次の瞬間には間違いなく過去になって行くその積み重ねが人生であり、歴史を作って行く事になる、畑を耕しながらふとそんな事を思いました。このところご近所で猫が喧嘩をしている声が聞こえます。ミケちゃんのチョコは僕が貰うんだから君はあっちに行って、とでも言っているのでしょうか。猫達には恋の季節です。

2月17日、春の野草

春の野草はほろ苦いなど癖の強い物が多いですね。菜の花はからし和えにする事が多いですが、子供にはあまり美味しくない物かも知れません。でも、子供は甘い味の物が好きと言い切る事も出来ないように感じます。私はほろ苦い物や酸っぱい物、塩辛などが好きな子供でしたから。それだけではなく、あんみつや果物入りのお惣菜は苦手で、お酒の好きな大人になるのでは、と言われていました。けれど、これもそうはなりませんでした。分からないものです。どのような味を好むようになるかは、親の料理や生まれつきの好みの傾向からの両方なのかも知れませんね。小さい頃はあまり濃い味付けや刺激物は避けた方が良いと思っていましたが、国によって違うのでしょう。ある時、中国四川省の就学前の男の子が唐辛子の入った真っ赤な火鍋という鍋物をご両親と一緒に食べている映像に驚きました。この男の子は、辛い、と中国語で言っていましたけれど段々慣れて行くのでしょう。ご両親はニコニコ笑っていました。料理には様々な味があり、しかも素材や調味料によって複雑で味わい深い物になるなどと子供の頃には想像した事もなく、まさしく未知の世界だったのです。育つ力は子供が本来持っているのだと思いますが、どのように育てて行くかは親や教師、社会が役割を果たして行く事でもあります。知識を得、思いやりの心を持った人に育てて行きたいですね。亡くなった方のご遺体の写真を見せての授業、という報道に唖然としました。今日は蕗の薹を佃煮にして少しほろ苦い春を味わいました。

2月13日、デジタルの涙

もう何年も前から、都会地方を問わず人の命が奪われるというニュースを聞かない日はなく、大変な世の中になったと感じますが、一体何時からなのでしょう。最近はインターネットを悪用した事件も増えていますね。パソコンもスマートフォンも機械ですから心や意思を持っていないけれど、持っている存在だとしたら、悲しく情けないと感じて時にはストライキを起こしたくなるのでは、などと考えてしまいました。あれこれ思っているうちに、蕗の薹が顔を出し、春の近い事を、今年も少しずつ植物や光から気付かされています。

2月11日、墨と習字

習字の時間は用意する事から始まり、片づけまでしてようやく終わる、これは小さい子も大人も同じです。最も今は片付ける時に筆はそのまま家に持って帰って家で洗うよう指導する学校が多いようですね。墨をすり、文字を書く事は集中しないとうまく出来ません。それは文字を上手に書くだけでなく、自分の心と向き合っている時間だとも言えるのではないでしょうか。作品は文字が上手かどうかというだけでなく、垣間見えた自分の心の中なのかも知れません。墨は墨汁を使うと手がそれほど汚れないと思いますが、墨をする時間が心の準備には大切だと思います。真っ直ぐにすっているつもりでも墨が曲がって行く時もありますし、墨は洋服にはねると洗ってもなかなか落ちません。小学1年の頃はエプロンを掛けて書いたものです。墨汁で書くと、せっかくの習字の時間なのに習字が半分しか分からないような気がして、勿体ないと感じてしまいます。作品を半紙に沢山書いたら上達するというだけの時間ではなく、書き上げるまでのプロセスが大切ですから、他の授業とは少し違うと思うのですが。時代によって方針やニーズも変化しているのかも知れないですね。こういう時代だからこそ、墨をする所から始めて頂きたい、などと考えてしまいました。

2月9日、ワーキングメモリー

ワーキングメモリーとは作業記憶という意味です。例えば一度に覚える事ができる英単語や数字の数を考えて見ると、私など20歳頃から30才頃と比べるとずいぶん減って来ている事に、嫌でも気付かされます。これはワーキングメモリーが減って来たという事でしょう。例えば、ある惣菜を作るのに必要な物を7品目声に出して言って見る、このような事がもう一度ワーキングメモリーを増やす訓練になると聞きました。古い事は妙によく覚えているのに、買い物に行って買うつもりの商品を一つ買い忘れる、最近は気が付くと時々そんな事があります。ですから、学んだ事を暗記して何日も忘れずにいる事も段々難しくなって行くのでしょう。こういう老化を出来るだけ食い止めたいと思っていますので、物の名をいくつか覚えておく必要がある時などなるべく声に出して言って見ようと思います。読んだり書いたりは、覚える事や振り返って色々な事を整理するのに役立つので、小学校で学んだ国語の基礎は一生使って行く大切な物、目に見えない自分のパートナーのようなものなのだと感じます。朝のラジオの語学講座も頭の体操になりますよ。

2月6日、砂の中の銀河

厳寒の日本列島、背筋も凍るような5時のニュース速報で目覚めた2月の始まりでした。私には亡くなられた方のご冥福をお祈りする事しか出来ません。砂漠の多い中東の国々は陸続きの国境を持ち油田があるがゆえの複雑な苦難の歴史と様々な民族の思いの交錯する地で、遥か彼方です。そこに身を置いた事のない私には何とも言葉がありません。今までは強権政治がかろうじて安定を保っていた、そういう事だったのでしょうか。ただ、このような事件を起こしている人イコール中東の人達だとは勿論思っていません。砂の中の銀河という言葉が歌の歌詞の中にありますが、誰もがかけがえのない人であり、銀河ではないでしょうか。友人が亡くなった時にも思いましたが、一人ひとりが、余人をもって代えがたい存在なのだと思うのです。何とか仲良く助け合って生きて行きたいものですが、21世紀は、自然ばかりでなく、色々と難しい問題が山積している事実を、今はただ重く感じています。まるで20世紀の陰の部分が突然アップでワッと迫って来たように感じられます。

2月3日、シャコバサボテンと強風

台風が高気圧にブロックされて遠ざかるのに時間がかかるのと同じ事が、冬でも起きるのですね。爆弾低気圧に地球温暖化のおそろしさをまざまざと見せつけられたように思いました。吹雪が続くと被害が心配ですし不安も感じる、停電が起きたら何より困りますね。これでは暖冬だと言われても首を傾げたくなります。強風でも室内でガラス越しにお日様にあたっているシャコバサボテンは、赤や白の花を付けていかにものびのびと過ごしているように見え、外の世界とは随分違います。人間が、真冬に外に出されてドアを閉められてしまったシャコバサボテンになったように感じられる今日この頃です。

2月1日、砂糖の中に

時々食品に異物が混入というニュースを聞きますが、しばらくの間それが続くのは何故でしょう。一つ取り上げられると次々出て来るけれど普段はそのような報道は全くありませんから不思議です。異物混入というと、私には忘れられない出来事があります。ある日ご近所で頂いた砂糖を使おうとビニール袋を開けた時中が何か異様で、よく見ると薄緑の小さな蜘蛛のような物が何十匹も動いていたのです。母に話すと、それは砂糖に付くダニだと言われ、仕方がないので捨てました。初めて見たものですからとても気味悪く感じ、三十数年後の今でもそのメーカーの砂糖を買う事が出来ません。下さった方や販売した店に問題があったわけではなく、袋詰めされる前に工場でダニの卵でも入ったのでしょう。そんなに衛生状態の悪い時代ではなかったのに、たまにはある事なのでしょうか。思い出しても釈然としない気持ちです。異物といっても色々あるものですね。できればもう経験したくありませんけれど。

1月29日、チョーク

チョークが減っていると報道されました。電子黒板の普及などで昔ながらのチョークを使う学校や塾が減少、少子化、などの影響だそうです。名札、アルコールランプ、ラインをひく消石灰、先割れスプーン、様々な理由で他の物に変わったりなくなったりしているとか、驚きました。黒板にチョークなら電気を使わず省エネなのになどと思いました。時代の変化の早さは身近な文房具がなくなると聞いて、一層感じます。変化して行く時代の真っ只中に身を置いているのですね。私達の歩いている道を振り返るとそこに歴史が刻まれて行く、昔から当たり前だったのでしょうが何気ない選択の結果が大きい事に責任も感じます。

1月27日、牛乳と豆乳

牛乳を煮立たせると表面に膜が出来ますが、その膜こそ栄養がある、カゼインというたんぱく質なのだ、昔こんな事を聞いた覚えがあります。でも、食感の良い物ではありません。豆乳は、温めて表面に出来た膜を引き上げる引上げ湯葉という物があります。これは一枚目だけに栄養があるという性質の物ではありませんね。牛乳と豆乳は作られた原料も過程も違います。けれども両方ともタンパク質だという点は同じです。人間も、どんなに親しい人でも自分とそっくり同じ考え方や感じ方の人はいません。生まれ育った環境も持って生まれたものも皆違いますから。他者に迷惑をかけたり不快感を与え傷つけるような言動でなければ、自分と異なる考えや気持ちも、認める事が大切だと思います。どちらかが間違っているというものではないでしょう。でも、そう考えるためには、その前に自分を否定されないで認められる経験が必要だと感じます。子供を褒めて育てる事は他者とのコミュニケーションが苦にならず共存して行く基礎なのかも知れませんね。それは生きづらさの軽減につながります。忙しい毎日、ついイライラしてきつく言わなくても良いのにきつく叱り過ぎてしまう事は誰にもありがちな事です。ちょっと時間をおいて自分を振り返って見る事が出来れば少しずつ変わって行けるのでは、と思います。自分にも子供にも愛情表現してあげて下さいね。

1月21日、春のひだまり、初夏の薫風のような友人

昨年、病んでいた友人が亡くなりました。12月から1月にかけてこんなに訃報の多い年は今までになく、茫然としています。若い頃は同世代の人が亡くなる事は滅多になく、たまにそういう事があっても多くの友人と一緒に、亡くなった方を悼む事が出来ましたし、自分も何時までも元気でいられるかどうか分からないなどとしみじみ思う事はなかったのです。年を重ねた今は、友人が一人この世からいなくなった悲しみを分かち合える人が少ない事もあってか、大変な深傷で、生きる事は新しい世の中に身を置き、育って行く子供達に希望を感じる反面、自分と長いお付き合いの親しい人達を見送る事でもあるのだと改めて感じています。温かく優しい友人は前向きで、人を褒めて育てる人だったのだと思います。迷っている時、優しくソフトに励まし、背中を押してくれる、春のひだまりのような、それでいて初夏の薫風のような爽やかな人でした。病んでいる時何もして差し上げられなかったものですから猶更木枯らしが身にしみます。白梅のように凛として紅梅のようにたおやか、いつも私の前を行く彼女は、師匠のような存在でもありました。大人として生きて行く基礎となる多くの事を教えてくれた大学のある場所であり、人生の折り返し点を過ぎたからこそ理解出来る事を、その後ろ姿で教えてくれた友人の住む場所でもあった越谷は私にとって益々大切な里になりました。今は信じられないような気持ちもあり、まだ咀嚼できませんが、お付き合いできた事に感謝し、友人のご冥福をお祈りしたいと思います。ご家族にとっても心の中にぽっかり穴が開いたような大きな痛手だろうと思いますけれど、これから少しずつ春の兆しが感じられる季節です。ご家族にとって温かい春になるよう祈らずにはいられません。沢山思い出話をして、悲しみを少しずつ外に出し日々の生活をなさって行くうちに、日にち薬で、辛さや悲しさは段々軽減されて行くでしょう。だからと言って、旅立って逝った人の思いや残された人達の中での亡き人との思い出は日を経ても豊かなものであり、決して消えるものではありませんね。

1月18日、サンダケ

サンダケという言葉を聞きました。新種のキノコかと思ったら、今だけ、金だけ、自分だけ、が良ければそれで良いという考えで行動しているという意味なのだそうです。そういう人が現代には多くなっているのかも知れません。しかも、それを当然と思い堂々と主張する所が以前と違う点のように感じます。それはうまく行けば時流に乗った生き方と言えるのでしょうが、過去も他者も未来もないという事はないのですからいつかどこかで躓く考え方という気がします。難しい事の多い世の中だと思う一方、子供は親の背中を見て育つと言う言葉を、二人三脚の片割れのように思い出しました。シイタケやマイタケは美味しいですが、サンダケは噛みしめると苦そうですね。

1月17日、慣れると

子供の頃、ご近所のお年寄りが接客のような仕事をしている人の中で、自分だったら誰にその仕事をして貰いたいかを数人で話しているのを聞いた事があります。皆、若い人の名前を挙げていましたので、自分の孫のような年齢の人から元気が貰えるからだろうと、その時は思っていました。ですが、今になって思い当たる事があります。若く不慣れな方は、仕事は少々遅くても丁寧です。ベテランの方の中には手際が良い代わりに、フレッシュマンにあるものが欠けているように感じられる方が多いのです。それは、初心、なのでしょうか。良い加減に仕事をしているとご本人は思っているかも知れませんが、私にはそれがいい加減に見えるのです。もしかしたら昔のお年寄りもそんな風に感じたのかも知れない、という気がして来ました。こんな所にも自分の年齢を感じます。

1月14日、 絆依存

絆依存という言葉をご存知でしょうか。スマートフォンを使っている方が多いですが、あるアプリをインストールすると、インストールしている人同士がメールや電話を無料で使える、このアプリがラインですね。気を付けて使わないと情報が漏れたり性犯罪に巻き込まれる恐れがあると言われていますが、いったん使い始めると便利なので、中高校生ではメールが来たらすぐに返事をしようとするあまり24時間手放せない人が多いようです。これを絆依存というそうです。女子高校生に特に多いようです。本来の絆の持つ意味とはかなり違いますね。仲間とつながっている為の手段なのだと思いますが、仲間外れにされたくないばかりに電源を切る事も出来ない、これでは一日中束縛されているような状態です。強迫観念とでも言ったら良いのでしょうか。いつの間にかアプリに操られているようだと私には感じられました。適度に上手に利用する事を子供達自身にも是非考えて欲しいものです。そうでないとラインの世界だけをすべてのように感じて生活する事になりかねません。それは随分息苦しいからもっと現実の世界に目を向けてそこから色々吸収して欲しいと思いますが、自分達でルールを作って依存しないよう安全に楽しむ使い方を考え、実行している子供達もいると聞いていくらかホッとしています。親子でこういう事を話す機会を是非持って欲しいですね。次々と出て来る便利な物には、よく考えて使わないと落とし穴があるのは、ラインだけではないように思います。

1月11日、 鯖の缶詰

子供の頃、お惣菜の一品に鯖の水煮缶詰が出されました。中骨は硬い物と知っていたので、これは缶詰だから骨もとても柔らかいので食べてごらん、と言われても信じられず、嘘だ、と思いました。大人は皆平気で食べているけれど騙されてはいけないと思ってなかなか箸をつける事が出来ませんでした。別に大人は子供に嘘をつくと思っていたわけではなかったのにあの時ばかりは用心深くなっていたのです。子供は一体何時から疑う事を覚えるのでしょうか。赤ちゃんのオムツを、ごくわずかしか汚れていないのに泣いたからと言って頻繁に取り換えていると、赤ちゃんはすぐ取り換えて貰えるので不快感を少しでも感じたらすぐに解消出来ると思います。そのためか、人をあまり疑わないように育つ、だから快が不快より少し多い位の方が良い、と教えられた事があります。勿論それだけでその後の子供の人生がすべて決まってしまうなどという事はありませんが、興味深い事だと思います。和紙を通した明かりのように母親の子育てを見守り援助してくれる存在はきっと子供にもよい影響を与えるのでしょうね。

1月8日、 電車の一両目

学生時代に早朝の電車に乗って通学していました。ある日、いつもより遅い6時過ぎの電車に乗ろうとした時、ホームに入ってきた電車の一番前の車両が随分空いている事に気付いて、座れると思って乗ったのです。乗ってみると、空いていたのは大きなかごに魚を入れて行商に行くお母さん達が大勢乗っていたからだった事がわかりました。生臭い車内でした。でも、せっかく座れたのだからそのままで終点まで行く事にしました。木更津や千葉方面にお得意さんがあり、毎日行くのだそうです。屈託のなさそうな笑顔で、一人のお母さんが大福餅を勧めてくれましたが、朝食を食べたばかりだったのでお断りしました。どこへ行くのか聞かれ、お仲間とのひと時やお得意さんとのやり取りが楽しみでもあるのだと話してくれました。あの時は思いがけない経験をして楽しかったと思いました。今考えて見ると、朝早くから重い物を持って、しかも傷まないように、というのは並大抵の事ではなかったと思うのです。楽しいだけの人生はありません。子育てをしながら一生懸命働いて苦労を乗り越えて来てのあの笑顔だったのだろうと思うと、人とは慈しみ合って生きて行きたい、教わる事が多いとしみじみ思います。沢山の人の人生のある日のある瞬間を乗せて電車は毎日決まった時刻に走っているのですね。乗り合わせて話をしたのはそれだけ御縁があったのだと思います。千葉から東京方面への電車の混雑はもの凄かったですが、皆マナーを守って乗っていたように思います。少し前に、秋葉原で大きなかごを背負ったおばあちゃまが下りるのを見かけました。千葉県か茨城県方面からなのでしょうが、かごには野菜や花が入っているようでした。季節の味と香りを毎朝運んで行くのを待たれているという事も生きがいになっているのでしょうね。

1月5日、 ヨルダン川に励まされる

ヨルダン川西岸のパレスチナから追われるようにして東岸にやって来た祖父が、世界中で一番低い、標高約マイナス300mの場所に広い畑を作り作物を育て、今ではナス畑が広がっている、そういう場所で農業をしている方を取り上げたテレビ番組を見ました。ここでは塩分濃度の高い死海の水からミネラルだけを取りだし、水に混ぜて肥料にするのだそうです。死海のホテルから車のタンクに、そのホテルで使う水を汲みにくる為か畑に使う井戸を今までより深く掘らないと水が出なくなるなど、自然や生活は世界中で変わりつつあると感じます。すぐそばを流れるヨルダン川、茶色く濁ったこの川の向こうにはイスラエルの国旗がはためいていて静かな中にも緊張感が漂っています。国境の彼方は荒涼としているようにも見えます。帰れない祖国への帰国を夢見て、決してこの地を離れず暮らす人々の目に争いはどのように写っているのでしょうか。最初の画面では停滞しているように見えたヨルダン川が、流れている事がはっきり分かる遠くからの次の映像に、対岸の争いも時が経過して行く間にいつか変化して欲しいと思いました。ただ、長い争いの中で亡くなった方も多いですから、相手に対するマイナスの感情やわだかまりは簡単に乗り越えられるものではないでしょうね。それでも、茶色いヨルダン川がきらめく太陽を水面に映し、少しずつ確かに流れて行く様に、希望が見えて来たようなそんな不思議な気持ちになりました。

1月3日、 元日のお茶

毎年元日には菩提寺にお年始に行きます。役員の方がお茶を出して下さるのですが、今年は小さく硬い雪が舞っている日にぴったりの、いつもより少し熱いお茶を出して下さいました。一口頂いてホッとし、同時にハッとしました。その日のお天気や気温に合わせてさりげなくお湯の温度を変える心遣いはもてなしの心ですよね。日常生活の中で相手の事を考えての小さな心遣いは案外多いのではないでしょうか。あんまり自然にしてくれるので、私など気付かず何気なくそういうものを受けている事がもっと沢山あるのかも知れないと思いました。普段自分でお茶を淹れる事が多いものですから、元日早々よその方にその日にピッタリの美味しいお茶を淹れて頂いて、外は寒くても気持ちはホッコリ、背筋をシャキッと伸ばしてもらった、そんな一日でした。私も心がけたいと思います。

1月2日、 大晦日の罪悪感

風のない冬のよく晴れた日は空が綺麗ですね。以前にもお話したと思いますが、魔女の宅急便の中に出て来た箒の柄をずっと上まで伸ばしていったら、真っ青なガラスのような空にガチッと突き当たって空が割れ、透明な青色の破片がキラキラと降って来るのでは、と思う事があります。大晦日はそういう日でした。年末年始は晴れた日が多いのですが、大晦日のこの晴天が嘘のような元日の空でした。朝から小雪が舞っているなどという事は殆ど経験のない事だったので、よほど強い寒気が入って来ているのだろうと感じました。晴れていた大晦日は例年通りおせち作りなどしましたが、これをしないと午後は暇になり、のんびり過ごす事が出来ます。それでは一生懸命働いている方達に申し訳ない様な妙な気持ちになって落ち着かない自分に気付いた時は驚きました。普段特別働き者でもないのに働かない事に罪悪感を持つとはビックリしたとしか言いようのない事だったのです。多分、育った時代や環境の影響なのでしょう。大晦日の母は座る暇もない位忙しく働きながら結構私と会話をしてくれました。手を止めず、相槌を打ちながら楽しそうに聴いてもらっていた事が私にとっては良い記憶になっているのだと思います。大勢の家族が集まってお正月の膳を囲むというのも昔は当たり前の事で、スムーズなコミュニケーションによって自然に伝統は受け継がれていったのでしょうね。でも、大勢で暮らす事はそれだけ気遣いが必要な場合も多く、気苦労も多かったのです。ご両親が忙しく外で働いていて家族の人数が少ないからこその長所もあると思います。何をどう受け止め、どのように自分を伸ばして行けるかは、難しいですけれど、自分達家族次第という事かも知れませんね。

1月1日、 お能

久しぶりにお能を観ました。と言ってもテレビでですが。舞台は簡素な設えと感じますし、大きな変わった動きはないけれど、人間の心の奥まで見えるようで、息詰まるような緊張感もありました。心の骨格まで見えるよう、とでも言ったら良いのでしょうか。ひと言で言えば感動したという事なのでしょうね。柔らかすぎない衣装も興味があるのですが、なんといっても能面に惹かれます。表情は見る人次第のような所があり、不思議な魅力があります。歴史と伝統の奥行きを改めて感じました。でも、なかなか生で観る事は出来ません。薪能を観たのは随分前の事になります。残念ですが私にとっては時間とお金が掛かるのがやはりネックなのです。それでもいつかまた生で観たいと思っています。今日は元旦、スイッチを切り替えて非日常から日常の世界に戻る事にしましょう。

12月31日、 霜の深い朝

毎朝冷え込みが厳しく、庭が霜で真っ白という日が増えていますね。朝8時を過ぎても霜はまだ日陰に残っています。日の出の頃、蕗の葉は触るとバリッと音がしそうに強張っていますが、そのうち白いのは縁だけになり、いつもの柔らかそうな葉に戻って行きます。雪の多い地域の方は、雪の降っている最中に除雪をしなくてはならないのですからどんなに大変な事でしょう。地域が違えば地形や気候、栽培されている農産物、食べ物の味付け、言葉、歴史、皆少しずつ違います。また、同じ地域であってもお隣の家と自分の家の生活や考え方は決して同じではないのですから、他の誰でもないその人らしさを皆持っているのはそれぞれ違う根っこを持って育てられて来たからなのですね。様々な価値観を持った人がいるわけですけれど、世界中のどこにどのように暮らしている人にも2014年は暮れて行きます。当たり前な事のようにも不思議な事のようにも思え、ただただ仲良く恙なく手を携えて暮らして行きたいものだなあと思います。このページを読んで下さった皆様にも来年が良い年になりますようお祈り申し上げます。

12月29日、 臨界を思った日々

震災時の原発事故に関する番組で、放射性物質が大量に放出された日時や詳しい原因とみられる幾つかの点について説明がなされていました。シミュレーション画像を見ると飛散の拡大は一目瞭然で、その現実の重さに言葉もありません。原発で事故、という報道は最初そんなに深刻なものという伝え方ではありませんでしたが私は臨界という言葉が頭をよぎりました。色もにおいもなく、停電している発電所の中では人間の手に余るのではないかと思われるものがここまで来るとしたらあっという間かも知れないから逃げる事は難しい、自分の命ももはやこれまでかと妙な覚悟をしたのが昨日の事のように思い出されます。最悪の場合などという事は決してないとは誰にも言えないのがおそろしいですね。この事故の後も今までと変わらず季節は廻り、まだいつ帰れるかもわからない多くの方達の故郷である原発近くの地にも春には桜が咲き、秋には柿が実っているのでしょう。植物達はメルトダウンとその後を体験し、生きているのですね。人間の言葉を話せたら、今何を語ってくれるのでしょうか。

12月27日、今年の南瓜は良い南瓜

今年も11月からクリスマスブーツやお飾り、お供えが売られ、12月に入ると真空パックの煮豆が普段より多く並び、そこにはお正月用品と書かれてありました。あまり急ぐと季節感がない様に感じますがここ何年もこういう風ですね。今回の衆議院選挙も解散後間もなく、予想される各党の獲得議席数が新聞やテレビで報道されていました。ふたを開けて見なければ分からない、という事ではいけないのでしょうか。むろん根拠のある事を報道しているのでしょうが、それを聞いて一層感心を持つ人ばかりではなく、投票に行くのを止めてしまう人もいるのではないかと選挙のたびに思います。まるで前倒しのように感じます。
ところで、我が家では今年、雪化粧南瓜が実った事が大きな収穫の一つです。種を蒔き、ポットから畑に定植したのですが発芽率100％だったので驚きました。美味しいけれど難しいと、半ば諦めていたものですから、実った数個の南瓜が貴重な物に思え、保存して置いた物を冬至に食べました。家庭菜園は、植物との会話でその状態に合わせた世話をするようなものだと思います。未知の遭遇だから楽しいのかも知れません。さて、来年は畑でどんな未知と出会う事が出来るでしょうか。知らない事、分からない事の多い私はとても楽しみです。

12月25日、あんぽ柿

柔らかいあんぽ柿が今年も出回っています。渋柿を硫黄で燻蒸して作るという方法が考え出されたから、あの柔らかさがあるのですね。震災後は放射性物質が検出されないか注意深く測定して作らなければならなくなったのは他の農産物や海産物と同じで、改めて原発事故の被害が甚大でしかも長く続いている事を思います。ですが、そのようにしてまたあんぽ柿が作られ店頭に並んでいるのが、まるで福島の方達からの温かいお便りのように感じられ、スーパーの売り場で何とも言えない深みのある色の柿を暫く見つめていました。祖父は柔らか目の干し柿が好きで、毎年お正月に食べていました。ニコニコといつも笑顔で優しかった祖父に、来年もお正月に供えたいと思います。

12月24日、グレーのコート

今年も秋が北からやって来て、気が付けばもう年末ですね。この季節になると、随分前にスーパーで売られていたグレーのコートを思い出します。体調がすぐれず入院していた母が退院してひと月ほど経ったある日、通院する母に付き添って病院に行った帰りにある駅の近くのスーパーに食材を買いに入り、衣料品の売り場を覗いた時に見たコートが品が良く着やすそうで、母も私も気に入ったのです。でもコートを買うための外出ではなく、何となく心が残ったものの、またいつか来る事もあるだろうからと思って買わずに帰りました。その後しばらくして母の体調は徐々に悪化して再入院しました。その頃このコートの事などすっかり忘れていましたが、亡くなる前に母が、あのコートがあなたに似合いそうだったと言い、私も思い出したのです。そのコートを見た時が、母と買い物に行った最後になってしまうなどとは勿論思ってもいない事でした。あれから20年以上経った今でも、冬に街を歩いていてコートが売られていると、あのコートを探してしまう事があります。似たコートを着ている人とすれ違った時などハッとする事もあります。ですがあのコートである筈はないのです。この先幾枚のコートを見ても、試着しても、そして買ったとしても、きっとあの時のコートに勝る物はないだろうと思います。買わなかったコートの思い出は、多分母と共通の物だったのでしょう。買っていたらまた違う気持ちになっていたと思います。あのコートは私には縁のなかった物なのか、それとも、手触りも知らないけれど何時までも母の思い出と共に心の引き出しに残っている縁の深い物なのか、最早分からないグレーのコートです。

12月22日、聴く耳

先日お話した耳の調子はまだ完全には元に戻りません。病院で治療中なので、随分良くなってきたと思っていましたら、ある日気圧が下がるにつれて片方だけ飛行機に乗った時のように詰まる感じになり、聞こえが悪くなりました。ですからお天気に左右されるという状態なのです。その後徐々に改善して来ましたが、気圧が下がる時にまだ普段のように自然に調節出来ないのかも知れないですね。人間の身体はどんな精密機械よりも精巧だと驚いています。症状が表れない病気の場合は別ですが、身体からのサインに気付くのが遅いと病気を悪化させて、治るのに時間がかかる事になってしまいます。冷静に適切な対処をする事に今回は欠けていたようです。大した事はないと思って放置していた為に鼻の炎症が耳に影響を与える状態になってしまったのですから。
ところで、回転寿司が大阪で誕生して50年ほど経つのだそうですよ。発想の転換といいますか、柔軟な発想がなければ誕生しなかったのだろうと思った時、私の耳は機能だけの問題だろうかという疑問を感じました。年齢と共に段々考えも柔軟ではなくなり、場合によっては人の意見に聴く耳を持たなくなっているのかも知れないから、その事に気付くチャンスだったのでは、と感じました。クライエントの方のお話をお聴きする時に比べて、自分の日常生活の中では頭が固くなり、新しい事への好奇心が薄れて来たのだとしたら精神的に老け込んだのかも、と気付きました。毎日をイキイキ楽しんで暮らせるから無味乾燥でない日々が送れるのでしょうし、それが毎日を大切にし、自分に優しくする事でもあると思います。ストレスと対峙してそれを如何にして軽減するか考え暮らして行く事が出来るよう、聞く耳をもう一度持って柔軟に生きて行きたいと、しみじみ考えさせられました。

12月19日、偏西風

中緯度を西から東に流れる偏西風が地球の大気をかき回し温度の調節がなされているのですね。この偏西風の蛇行が異常気象と関係があるらしいと新聞などから知っていましたが、もっとよく知りたくてテレビ番組を見ました。偏西風が南や北に大きく蛇行し、固定化されると大雪や干ばつなどが引き起こされる。赤道付近の暖かい大気は北に運ばれる。海流も循環している。偏西風の固定化の原因はインドネシア周辺の海水温が高くなると、この海の熱が偏西風の固定化を促すものとなるからだそうです。例えば今年の1月もそのようなメカニズムだったとの事です。海水温の上昇が原因なのですね。排出された二酸化炭素は海が一定量吸収し、海も暖まって行くという事なのでしょう。海面上昇によって海岸線も変わり、土地は侵食されて行く。インド洋ではそれが顕著でサイクロンも大型化している。豪雨が増え洪水が増えている。だから、人間が住みにくくなるというか住める場所が徐々に減って来ています。海水温が上昇すると海水がいつもより多く蒸発し、それによって暖められた大気は偏西風をいつもより北に押し上げ固定化が起こる。ここ10年ほど海面水温と気温の変化が停滞しているが深海の水温は上昇していてその後気温の上昇が起きるとの事、そうなると豪雨が増え、土砂災害が増える心配が生じ、大気の状態が不安定になると竜巻も起きやすくなる。海面水温と気温の変化が停滞しているのは、今地球温暖化が緩やかになったり止まっている訳ではなく深海に熱が吸収されたからなのでは、という事は、重大な事が日々進みつつあるのだと知って愕然としました。ですから二酸化炭素の排出量を減らす事が大事で、助け合う事は大切ですが、自分の身は自分で守る事をしなければという事なのですね。地球の素顔といってもまだその全貌は分かってはいないのでしょうが、これから先の事を考えるとおそろしくなって来ました。火山活動との関わりなどもあってもっと複雑でしょうし多くの物が緻密に関わりあって今が出来ているのですね。もっと詳しく知りたいと思いますし、二酸化炭素の排出量を減らす事がいかに大切かという事を改めて思いました。

　

12月17日、冬の畑

今年は秋の台風の影響で玉ねぎの苗がなかなか見つからず困っていましたが、ご近所から頂いたので植える事が出来てホッとしています。大根も育って来ましたし、カラシ菜も芽が出て来ました。粘土質の畑なので雨が降るとぬかるんで乾くとカチカチという状態、上手に付き合うのはなかなか難しいですよ。でも、そういう土質に合うのが里芋だと知りました。来年の春先に思い切って植えて見たいと考えています。里芋はジメジメと暑い季節を好み、赤芽芋と言われるものは大抵茎も食べられます。干して戻した芋がらはきんぴら風に煮て食べ、生のずいきは皮を剥いて茹で、酢味噌和えにするのが美味しいです。肥料は豚糞か鶏糞をかなり多くしないと芋が大きくならないようですから、焼いた物を使った方が臭いが強くなくて良いかも知れないですね。区画整理をして40数年経ちますから家も増えました。こういう場所で畑を続けるには農薬や有機肥料をむやみに、というわけには行きませんから本当は無理なのかも知れません。最も我が家ではほんの少ししか栽培してはいませんけれど。内房線の君津近辺は見渡す限り田んぼでしたから、道を間違えても聞く人もなく、迷子になりそうなところでした。今とは全然違います。便利になった筈なのに野生動物が住宅街に出没するなど思い描いていた事とは大分かけ離れたような世の中の変化です。後から振り返って見ないと分からない事があり、過去のやり直しが出来ない所は皆平等のようですね。庭が殺風景で寒々としているので、葉牡丹を植えようと思います。

12月14日、ぐんま名月

ぐんま名月というリンゴをご存知でしょうか。比較的新しい品種なのか、この辺りでは今まで見た事がありません。黄色みがかった薄い緑の表皮の上の部分が一部だけくっきりとした赤なのです。先日の早朝に見た大きな月を思い出し、ぼかしが入ったようなこのりんごのひときわ目立つ姿に惹かれました。年長の友人が亡くなったのは8年前の11月下旬でした。まるで今日は群馬から私に会いに来てくれたようなそんな気持ちになりました。棚には、甘くて美味しいりんご、と書いた大きな紙が貼られていました。親しかった方は皆、御命日の前後に私が気付くよう様々な方法でメッセージを送ってくれるように感じます。彼女のお墓にこのリンゴをお供え出来ないのがとても残念です。

12月12日、コッペパンに呼ばれました

中に餡などの入っていないコッペパンが、珍しくスーパーで売られていました。昔のコッペパンは皆そういう物でした。戦争が終わって地方都市も随分空襲で焼けたのでしょうね。お父さんが戦場で、都会に住むお母さんは空襲で亡くなり、疎開していた子供達だけが助かった、そういう方も多かったと思います。親類の家で育った人もいるでしょうが、戦争は終わってもまだ荒廃していてこれからという時に帰って来た子供にとって都会の暮らしは並大抵ではなかったでしょう。何とか無事に大人になった人もいれば、病気になったり、気持ちが荒んで、人への不信感が強くなったという人もいたと思います。そんな時代に食べられた物の一つが、何も入っていない、ちょっとゴソゴソしたコッペパンだったと聞いています。その時代苦労した子供達にとって、コッペパンはどのように記憶されているのでしょうか。混乱の時代を生き延びる事の出来なかった多くの命が、痛ましく、そういう事を忘れずに伝えて欲しい、とスーパーに並んでいたコッペパンに言われたような気がしました。

12月9日、戸口へは

今年もお歳暮の季節ですね。クリスマスプレゼントを贈る方も多いと思います。自分の家で使う物を買う時も人に贈る物を買う時も、商品の用途、値段、その商品が長持ちするのか、食品ならば美味しいかどうか、送料はいくらなのか、そういう事を考えて選ぶと思いますが、私にはもう一つ大切なポイントがあります。それは配達業者が何処かという事です。忙しい時期で多少の配達時間の遅れなどは仕方のない事だと思いますが、トラブルが起きた時の営業所の対応はその会社によってかなり違うと感じます。結局、どんなに良い品物を心を込めて選んだとしても、最後に持って来て戸口で手渡してくれるのは配達員さんなのです。その印象が悪かったり品物の取り扱いがぞんざいだと、場合によってはどこの店で何を買って贈ってもその思いが台なしになって後味の悪さが残ってしまうと感じます。随分昔の事ですが、きちんと梱包して瀬戸物を送って下さった方があったのですが、開けて見ると折角の品物が二つに割れていました。こういう時は弁償するとかしないとかいうお金の問題ではないと思ったものですからよく覚えています。私は、送って下さった方に割れていたとは言えませんでした。宅配会社の配達員の方達は朝早くから夜遅くまで働いていて大変だと思います。1人の人の配達区域や荷物の量には限度というものがあると思います。会社はそういう事も是非考えて頂きたいものです。また、商品を売る店や会社も適切に配達してくれる会社を選んで欲しい、この季節になるとついそんな事を考えてしまいます。

12月7日、菊

紅葉はあっという間に終わってしまいましたね。朝晩冷え込むようになりました。今朝は戸を開けたら庭が真っ白、初霜と初氷です。思わぬ大雪に見舞われた地域も多く、また厳しい冬がやって来たのですね。ところで、文化祭には毎年どこでも鉢植えの菊が沢山並び、その美しさと豪華さに圧倒されます。ご近所で菊を育てている方が多かった事もあり、子供の頃は見慣れている厚物が好きでした。ところが、気が付くといつの間にか管物を好むようになっていました。何故でしょうね。どちらの種類も、大きく育ててしかも暑い夏に葉を枯らさない様にするのは同じように大変だと思います。丹精込めた作品ですね。申し訳ないのですが、母が亡くなってしばらくの間菊の花と素麺は見るのも嫌でした。どちらも仏事にはつきものですから、母が亡くなった時の感情が蘇って来るのが辛かったのです。日にち薬という言葉のとおり、今では菊や素麺にマイナスの感情はありません。今年は、厚物管物だけでなく菊人形も久しぶりに観て来ました。落ち着いた菊の香りは、見とれていたあでやかな紅葉が間もなく終わり、厳しい冬に備えるという、気持ちの切り替えの前の一呼吸のように感じられます。色とりどりの秋を締めくくる菊の香、なかなか良いものですね。

12月4日、スタンプをためる

人にしてあげた事を数えるよりもして貰った事を数える方が楽しく幸せに暮らせる、という言葉を聞きました。確かにそうかも知れません。してあげた事を数えているうちに、その割には何もお返しをして貰っていないという不満を感じます。これだけ頑張って、あるいは我慢してあげているのにと思うとある時気持ちは爆発してしまいます。風船がパンッと割れるように切れてしまった経験がある方は多いのではないでしょうか。これを交流分析では、ゴールドスタンプをためこむと言います。また、いつもお前はダメな人間だと言い続けられた人は、いつの間にか自分が本当にダメな人間だと思い込んでしまいがちです。これは、グレースタンプをためこむ事なのです。職場での部下や後輩の指導、子育て、色々な場でありがちな事です。人にして貰った事を思うと感謝の気持ちがわいて来て、その後の対人関係もスムーズに行く源にもなるのでは、と思います。物事の捉え方で、心が寒くも温かくもなる事は結構多いような気がします。スーパーのポイントやスタンプと違って少しもお得でないゴールドスタンプやグレースタンプは自他共に幸せに暮らす為に、あまりためこまない方が良さそうですね。

12月1日、眠れる

睡眠時間がどのくらい必要かは年齢によっても違いますね。子供に比べて高齢の方の方がかなり睡眠時間が短いようです。夜は早く寝て昼間は太陽の光を浴びて体を動かすとよく眠れてすっきり目覚められるといいますが、ストレスがあるとなかなかそうも行きません。温かいミルクを飲む、入浴する、ハーブの香りが良い、色々な方法があるようですね。屈託のある時は暗い所に長くいると不安になり、気にかかっている事が猶更心配になる事もあります。睡眠は時間だけでなく、質も大切ですね。随分夜が長くなって来ました。皆様がぐっすり眠れて爽やかに目覚められますように。

11月29日、褒められると

大人に褒められたら子供はどんな気持ちになるでしょうか。自分の子供の頃を思い返してみると、嬉しい気持ちになった、そういう風に思い出しますが、驚いて怖いと感じる子供もいるようです。親から褒められる事に慣れていないから褒められる事が未知で戸惑うという場合もあるでしょうし、怖いと感じるのは親の気分の変化で後になったら叱られるかも知れないと感じての事ではないかと思われます。大人には裏表がある事を早くから気付くものなのですね。親の顔色を見て叱られないように振る舞い、そこからが社会性が身について行く最初の段階かも知れません。他者とかかわって生きて行く以上相手の気持ちは無視出来ません。でも、相手の反応ばかり気にしていると、その相手が自分の判断や選択の物差しになってしまい、本当の自分の考えや感情とかけ離れた言動になってしまう恐れもあります。また、褒められると良い所が伸びやすく、不具合な所は段々減って行きます。良い所は、子供でも自分の事でも、沢山ほめて伸ばして行って欲しい物ですね。

11月26日、支えた大黒柱

高倉健さんの訃報は本当に突然でした。私も何度か映画を見た事があります。長い間、大勢の方と細く長い交流があった事が報道されました。有名でファンが多いのは役柄になりきっての演技だけではなかったのですね。以前、映画館を出る時には自分が高倉健さんになったような気分、といった男性を何人か知っています。寡黙で不器用、信念を貫く、そういう印象が映像からは伝わって来ると感じていました。自己主張しなかったわけではないのに、謙譲の美徳という言葉が浮かんで来ます。光のあたらない人生を演じる事はそういう人を理解出来なければ難しいでしょう。人の気持ちへの配慮が出来るのは、人の身になる事が出来て、自分とは違う生き方であっても慈しむ気持ちが持て、退けてしまわないからではないでしょうか。まるで自分の人生を、人と手を携えながらも、山登りのように六根清浄六根清浄と、黙々と歩いて行った求道者のように感じられます。そういう風に最後まで生きる事はとても難しい事だと思います。だからこそ憧れる人も多かったのかも知れないという気がします。山登りと違って人生は自分が満足せずもっと高い所を目指せば、頂上はありません。日本のある時代の人達の精神的支柱、そういう存在だったのでしょう。市井に生きる人を演じ、陰にスポットライトをあてた人なのかも知れないとも思います。目に見えない大黒柱のようだった高倉健さんのご冥福をお祈りしたいと思います。大鵬親方逝き高倉健さん逝き、段々と寂しくなって行きます。私には、自分の生きて来た時代が良くも悪くも記憶の中で浄化されて行くようです。

11月23日、閏9月

171年ぶりの閏9月、11月5日が2度目の十三夜だったそうですね。晴れていたら綺麗な月が見られただろうと思いますが、曇っていて残念でした。皆様はご覧になったでしょうか。どの位の頻度で閏9月があるのか分かりませんけれど、171年なかったという事は生きている間にもうない事かも知れませんね。黒船が日本にやって来る前なのですから鎖国をしていた時代でしょう。それ以来初めてという事に遭遇するとは勿論思ってもいませんでした。その頃の人達の暮らしぶりを具体的に知る事が出来たら良いですね。同じ月を見ながら風流を愛でたのだろうと思うと、昔の人に親しみを感じます。

11月20日、遊びに来ました

去年の春から我が家には時々キジトラのオス猫がやって来ます。首輪をして大人しい猫で首輪には名札が付いており、人懐こいのです。きっとどこかのお宅の飼い猫なのでしょう。ペットらしき兎が何度かやって来た事もあります。本当にピョンピョン跳ねて瞬く間に姿が見えなくなったのには驚きました。多分家に帰って行ったのだと思います。動物病院に猫を予防接種に連れて行くといつも色々な動物の患者さんで一杯です。鳴いている動物達はどんな事を話しているのだろうかと思います。事情があるのでしょうがペットを捨てる人は後を絶ちません。家族同様の動物の命を大切にして欲しいですね。突然外で自分の力だけで生きて行けというのは可哀想です。朝晩寒くなって来ましたので、行方の分からないままの我が家の2才になるキジトラのオス猫アスカの事が案じられてなりません。

11月16日、男性と女性、かげ

このところ、お寺や神社を巡って御朱印を集める若い女性が増えて朱印帳が注目されているそうです。模型に興味がある、土木や建設で働きたい、理科系が好き、野球が好き、どれを取って見ても男女や老若は今やあまり関係ないようですね。色々と暮らし難い事もありますし、雇用機会均等法は、子供を持った女性が働くのには大変だという事があると思いますが、やはり昔よりは女性の生き方の選択の幅は広がったように感じます。決して棚ぼたではありませんから大切にして行きたいですね。
横浜に住んでいた方だったのでしょうか。以前新聞に短歌を投稿し、ホームレス歌人と名乗っていらした方は。便利で差別の少なくなった側面のある時代に、まるで突然かげの部分に光が当たったかのような気がして、この世の中は三次元の空間なのだと改めて気付かされた出来事でした。通称親不孝通りに、親もなく親にもなれず立ち尽くすという言葉に胸を衝かれましたからよく覚えています。母は横浜出身でした。母の知っている古き良き横浜と、この方の詠んだ横浜は随分違うものなのでしょう。時代が移り変わって行くという事はまるで幻燈でも見ている様なのですね。通り過ぎて行く人達が、カラーから段々と白黒に、そしてセピア色に変わって行きます。

11月14日、季節の時計は五感で

ご近所で菊の花を沢山頂きました。落ち着いた気分になる香りです。もの思う季節に咲いていた金木犀のほのかな甘い香りから、季節が一歩進んでいよいよ冬目前という気がします。菊の香で実感した季節の時計の動きです。その内紅葉という視覚から、晩秋を感じる時がやってきますね。それも楽しみです。聴覚で感じる季節の変化というと、鳥や虫の声、風の音などでしょうか。人間は様々な場面で五感がフル稼働して生きているのだと感じます。体調を整えて暮らす為にも自分を助け支えてくれるこういう物を大切にしたいですね。つい粗末にしてしまいがちなので、反省しています。

11月12日、心的外傷

PTSD、心的外傷後ストレス症候群という言葉をご存知の方も多いと思います。御嶽山が噴火した時あの山に登っていて何とか無事に帰る事が出来た方達にとって、その時の事は心の中でまだ決して遠い出来事ではないでしょう。噴火に偶然遭遇した事は、突然しかも長い時間、想像もしていなかった命にかかわるおそろしい状況におかれたという事ですし、一緒に登った人を助けられず自分が生還した事に罪悪感を持つ、そういう方も多いと思います。生死を分けた責任が決してどちらかにあるというものではありません。でも、そういう二重の苦しみを抱えて毎日を過ごすのは一層辛い事です。安心して話せる事を話し、適切な治療を受けるという事を是非して頂きたいと思います。また、噴火以前に火山性地震が観測されていたとはいえ、すぐに噴火につながるかどうかは分からず、入山の規制はなかったのですから、帰って来た方には、無事で良かったと声をかけてあげて欲しいものです。
かつて、戦場から生還した方が戦死した戦友のご家族の元を訪れるのは随分辛かったと思います。その時の事を伝えると、僅かに残っていた無事に帰って来るかも知れないという希望を奪ってしまう事であり、また、自分もその戦場にいた日々がついこの間まであったのですから猶更です。そして、自分だけが生きて帰って来て申し訳ないという気持ちになった方も多かったと聞いています。そういう思いを抱えて戦後の厳しい時代を生きて来た方もせめてこれからの日々を心安らかに過ごして頂きたいですね。

11月9日、人間の本質

御嶽山で、避難する途中に小学生の女の子に上着を貸してあげた若い男性がいた事をニュースで知りました。この男性も上着を貸してもらった女の子も亡くなったそうですね。とても残念です。この事を聞いて、他者の命を軽視する驚くような事件が多いけれども人間の本質は一体どういうものなのだろうと考えてしまいました。別に、善人と悪人という二通りの人が存在しているというわけではないと思います。どんな人にも心の闇もあれば人を思いやる気持ちもどこかにあると思うのです。人とのかかわりの中で対人関係とかコミュニケーションの仕方は身に付き、スキルアップされて行きますね。ただ、いざという時に他者に対してどのようなかかわりが出来るかは、コミュニケーションのスキルという問題ではないような気がします。心の中の、自分や他者に対しての気持ちはグラデーションがあるのかも知れません。その時によって感じたり行動する温度が違う、そう思えて来ました。人が違えば皆微妙に違うのでしょう。猛り狂ったような自然も、どのような悪意のある人間も、あの突然の困難な先の見えない状況の中で、御嶽山で上着を貸した人がいたという事実を覆す事は出来ません。キラッと光る、目に見えない物に触れた気がします。まだ行方の分からない方々のご家族の事を思うと山が静かになって欲しいですし、冬を飛び越して早く春になった欲しいとも思います。

11月6日、衣替えも済んで

カボチャの蔓が枯れて花ももう咲きそうもないので抜きました。畑を耕すと冬支度が出来て様変わりしました。秋は短く、夏から冬になるような変化を奇異に感じます。何種類かの葉物野菜の種蒔き、玉ねぎの植え付け、今年はそのくらいにしておこうと思います。家の中もぼつぼつ冬、猫が炬燵を出してほしそうなので、まだ早いと思いながら出したら大喜びです。ちゃんと自分の言いたい事を伝える事が出来るのですね。穏やかに晴れた日は行楽日和です。行事も多く、小さな子供達の楽しそうな声が聞こえて気持ちが和みます。カレンダーも残り少なくなりましたが、穏やかに毎日が過ぎて行って欲しいものです。気持ちが冬というのでは辛いですから。コミュニケーションは人と人ばかりではなく、動物や植物ともうまく取れると楽しいですね。相手の今の気持ちや状態を正確に把握しようとしていつも気付く事は、元気に成長する能力を、それぞれが持っているという事です。等身大の相手が見えるから信頼も築けるのかも知れないですね。

11月3日、あの手の温もり

今から20年以上前の事です。母の病状が悪化し、付き添っていた私は心身ともに疲れ、不安や焦りを感じていたせいか風邪を引いてしまいました。診察を受けようと病院の待合室にぼんやりと座っていたある晩、婦長さんが私のそばに立ち止り微笑んで手をそっと握ってくれました。そっとだけれど力強く、そしてとても温かい手でした。どんな言葉よりも雄弁で、その時の気持ちを汲み取って支えてくれたように感じた事を今も覚えていますしこれからも忘れる事はないでしょう。家族が病んで深刻な病状だと看病している側の心も疲れ、マイナスに物事を捉えたり考えたりしがちになりますから看護師さんはそういう事も含めてかかわるという仕事なのですね。
人が悲しんだり落ち込んだりしている時、何とか元気になって貰いたくて励ましたり慰めたりしがちです。でも、評価や分析、褒めるなどという事をされなくてもある程度は自分で分かっているものだと思うのです。悩んだり心配したりしても結果が変わらない時でも人はそうする事があります。看病している時のマイナスの感情は、病んでいる親しい人への愛情があるからこそで、共に過ごした日々の積み重ねの中で育って来た感情は、なかなか冷静になって理屈で割り切る事は難しいと思います。ただ黙って見守っていてくれたり、頷いて聴いてくれるだけで心の中を洗って綺麗にし、前向きになれるのに、そういう聴き方をして貰える事は少ないですね。その内、人に行っても無駄だと思って口を閉ざしてしまう事が多いのではないでしょうか。ツボをマッサージするような聴き方をしてかかわったら、心に負った深傷は氷が溶けるように徐々に回復して人間関係の再構築へつながって行けるかも知れません。それは長い時間かかる事でしょうが。例えば虐待を受けた、という場合もそうではないかと思います。生きていてくれたからこそ出会う事が出来てかかわれる、あなたの存在自体が無条件で大切だという愛情は、本当に大切だと思います。歩行のリハビリをしている人にとって、バーは必要な時につかまる物であり、一人で歩けるようになったらもう必要のない物です。バーが自分の存在を主張してついて歩く物ではありませんね。私はそういう人になりたいと思いつつ、ほど遠い人間です。

10月31日、つま先で立つ

つま先立ちしているという事はずっと背伸びして立っている事だから長くは続かない、そういう意味の言葉があるそうです。頑張る事は自分を成長させるので大切ですが、それとはちょっと意味の違う事ですね。適切な言葉に出来る人がこうして昔からいたのだなあと思う事、よくあります。そんな事を思っていた時に信仰の山として有名な御嶽山の噴火、驚いています。昔から御嶽山に行った方は百草丸をお土産に買って来てくれたものです。比較的静かな山だと思っていました。地球は生きていて今も変化の歴史を刻んでいるのですね。これ以上の被害がないよう祈るばかりです。亡くなられた方々やご家族の事を思うと胸が痛みます。山からまだ帰る事が出来ない方もいらっしゃるのですよね。山崎豊子さん原作の、中国残留孤児となった少年の成長を描いた小説の大地の子に、この少年が小さい時に、家族が畏敬の念を持って手を合わせていた山の事を彼は思い出し、その山が御嶽山であり、信濃富士と呼ばれている事を知る場面があった事を思い出しました。小説より困難な人生を送って来た残留孤児の方も沢山いらっしゃるでしょうし、慈しんで育てた方達もまた多くいらっしゃるのだと思います。

10月28日、錦秋に

カラシ菜の種を蒔きました。丁度その日に、冬の終わりに塩漬けにしたカラシ菜を刻んで冷凍にしておいた物を解凍したら色も香りも少しも変わっておらず、美味しく食べる事が出来、随分贅沢な物を食べたような気がします。
北の地方では紅葉の美しい季節ですね。標高の高い山はそろそろ冬になるでしょう。季節の野菜や果物が店先に並んでいます。福島や茨城が産地の物が多いものですから、震災と原発事故で故郷をやむなく離れて暮らしている方達の事を考えています。特に、高齢の方にとって今までとは全く違う環境で生活なさるのは大変な事だと思います。つい家の中にこもりがち、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。大都市の店先に並ぶ野菜や果物はきっと故郷からの手紙のように、そういう方達に雄弁に語りかけてくれるのでは、と感じます。つらく悲しい思いが消える事はないでしょう。でも、ついこの間までずっと暮らして来た懐かしい我が家周辺の生活の音や匂いまで、野菜や果物たちが運んで来てくれているかも知れないですね。室内にこもりがちの方も季節の移り変わる外の色々な物に触れて、元気を出して頂きたいなあと思います。

10月26日、ある日の東京湾

用事があり、東京湾に沿って電車で南下しました。富津岬の外側に行くと季節の景色が美しく、空も澄んでいます。雲が厚くなり雨が降り出すと、秋の東京湾は白い塗料を流したような色に変わりました。電車の窓越しに見ていた私は、ずっしりとした量感があって見ごたえのある、普段とは違う海も趣きがあって良いものだと思いました。天気の変化を眺めていると、電車で30分とか１時間の距離というのは遠いようにも感じます。短い旅が出来て思わぬ1ページが加わった日でした。窓の汚れを洗い流したようなすっきりした気分になれましたよ。安房の秋がゆっくりと心を癒し、温かい眼差しを注いでくれました。

10月23日、野分き

源氏物語の中で台風の事を野分きと書かれていますが、確かに丈のある草も台風の通り過ぎた後にはなぎ倒されたようになっていますね。台風18号と19号の通り過ぎた後、我が家の畑もナスとシシトウの葉が塩害で真っ黒になり、今年の夏野菜はほとんど終わってしまいましたが、オクラはまだ花を付け、緑色なので驚きました。秋ナスは水分が少ないので身が締まっていて夏のナスとはまた違った味わいでした。片付けながら、ごちそう様、真っ黒になって可哀想に、と思わず言ってしまいました。そろそろからし菜の種蒔きの季節、来月には玉ねぎを植えようと思っています。本当に目まぐるしく季節はめぐります。日によって最高気温が15度位違うというのは大変な事ですね。風邪を引いている小さいお子さんが多い様です。皆様もどうぞお身体大切になさって下さい。

10月20日、秋刀魚と北海道

秋刀魚の季節、七輪に網、炭火で、などという事はしなくなって久しいですが、焼くだけでなく、酢をたっぷり入れて甘辛く煮込んでもさっぱりして美味しいですね。魚に合うハーブや、トマトなども使うと美味しいと最近友人から聞きました。。煮込んだ秋刀魚は骨まで軟らかくて美味しいので北海道ではよく作る、と話して下さった方は私よりかなり年上の女性で、お若かった頃の暮らしを懐かしそうに話して下さいました。随分前に札幌から旭川に行く時に乗った電車の中で隣の座席に座っていた方でお名前も存じ上げませんが、この季節になるとこの方の事を思い出します。札幌、といえば、初めて訪れた時、駅に向かって歩いている時に小雨が降って来て、つい面倒なのでバッグに入れた傘を出さずに速足で歩いていると、見ず知らずの、私の母位の年齢の女性の方が、駅までですけど、とおっしゃってご自分の傘に私を入れて下さいました。今ではそれが私にとって思い出す北海道なのです。どんなに美しい景色より心に残る物を頂いたと思っています。

10月18日、その身になる

風邪を引いて長引き、片方の耳が聞こえにくくなったので先日病院に行って来ました。低い音が拡散して聞こえるというのは生まれて初めての事だったのですけれど、高齢で難聴の方は耳を塞いでいるわけには行きませんから、雑音が聞こえたりいつもと違って不快で聞き取りにくい話し声に、当事者にしか分からない辛い思いをなさっているのでしょうね。自分の耳にどのように聞こえようとも、常に音は耳に入って来る、という経験をして初めて少しだけですがお気持ちが理解出来るような気がします。聴覚の検査を、真空の箱の中のような場所で受けていると、自分が真空パックにされるエノキダケになって行くような妙な気分になりました。これも初めての体験です。

10月15日、田舎が痩せて行く

台風の発生数が少なかったけれど寒気の影響で考えられないような大雨が何度も降りました。ところが、10月になって大きな台風が次々発生し、不安です。万全の備えをというけれど、それはなかなか難しいですね。近々大型店が増えるそうです。君津ではありませんが比較的近い所に出来るそうで、我が家から歩いて行ける何店かのスーパーがどのように変わるのか気になります。近くの店がなくなったり品揃えが悪くなる事は不便なので、人の増えない所とはいえ困ります。これも格差だと感じます。田舎は車を使わないとどうしようもない事が多いですが、核家族が増えているのに、それでは高齢になったらどうやって暮せば良いのでしょう。昔は生活圏が今よりずっと狭かったように思いますが、個人商店がそれなりにありました。そういう店がかなり減ったかわりにスーパーが出来たのですから、スーパーが減ると昔より不便になる事になります。不便になれば人は増えずに減るのではないでしょうか。コンビニはあちこちにありますがそれで解決する問題でもありません。今までの事を邯鄲の夢にするわけには行かず、さて困ったものです。

10月11日、ぴったり

お気に入りという言葉がありますね。自分が気に入って長く使っている物が誰にでも一つや二つあるのではありませんか。手に馴染んで少々色褪せていても手放せない物は私にも幾つかありました。例えば6年間使ったランドセル、小さい時に着た水色のブラウス、母の手編みのセーターもそのひとつでした。とても姿が良くて軽い柿色のご飯茶碗を割ってしまった時は残念でしばし呆然としたほどです。
今は、細い三本爪の鍬がそうです。これは軽くて土を耕すのに疲れないので、去年の秋に見つけたすぐれ物なのです。使い終わると綺麗に掃除をし、油を吹き付けて大切にしています。古伊万里が好きだったという曾祖父だったら、掘り出し物だと言ったかも知れません。でも残念ながら古伊万里で残っている物はありません。蔵の屋根の手入れをしなかったので瀬戸物も漆器も昔の物は皆使えなくなってしまいましたから。触ると壊れてしまう事に気付いた時は勿体ないし残念でもあり、申し訳ない様な気持ちにもなったものです。それでも、祖父が蔵よりそのそばにあった竹藪を大切にしたかったのは、いつかもお話したように、関東大震災の直後に役に立ったのが竹藪だったからなので仕方のない事なのかも知れません。自分の家、自分の家族が、暮らしてかかわって行くのに一番ぴったり自分に合う存在なのではないかと思います。それが一番のお気に入り、という事でしょうか。家族が元気で仲良く暮らせる事はとても大事な事ですね。それは限りのある事なのでしょうから。

10月8日、描かれた校舎

学校の校舎を描いた子供達の絵を君津駅で見つけました。校舎ですから絵具はグレー系やベージュ系が多く使われていて、後は校庭の緑の木々、という目立たないようでいて学校に歴史を感じさせる味わい深い作品でした。校舎の絵の中にある時計の針はこの絵の中では決して進んで行く事がありません。でも、描いた人は成長してどんな人生を送るのでしょう。思い出になって行く小学生の今を記録したような絵は、記憶の中でいつかはセピア色になり、何かにつけて思い出す大切な宝物になって行くのかも知れない、などと思いました。今は当たり前の何でもない物のように思う事が、後になると貴重な物だったと感じる事は結構あるものですから。校舎を描いた子供達が恙なく母校を巣立って幸せに生きて行って欲しいものですね。

10月5日、下駄箱の中

下駄には色々な種類がありますね。私は時々下駄箱を開けて中を見るのが好きな子供でした。そこには柄の部分が綺麗な自然色の竹製の、淡い色の日傘もありました。雪の日などに履く爪かわの付いた下駄や、高下駄というのでしょうか、下駄の歯の高さのある足駄という物もありました。それから美しく目の揃った畳表の付いた畳付きの下駄、普段履いているところを見たことがないこういう下駄を見て、履いていただろう和服姿の祖母や母の若かりし頃があれこれ想像され、時の経つのも忘れてしまうのは楽しい事だったのです。もしかしたら、下駄を履いて自由に歩いているつもりの履き手を、下駄がいざなってくれているのかも知れません。厚い底の、ピンクと黒、銀色の混ざった母の草履は今も下駄箱の中にあります。
茅葺き屋根で厚い土壁の家は夏涼しく過ごしやすいもので、黒い帯戸という戸を外し、簾を掛けると部屋は夏の設え、風鈴の音色も加わって五感で涼しさを感じる暮らしで、気温が下がる事を即座に感じる今のようなものではなく、家事には手が掛かり、結構骨の折れるものだったと思います。ですが、アナログの暮らしは、想像したり物事をじっくり味わって余韻を楽しむようなもので、移り変わりの速い今の時代とはまた違う楽しさがありました。冬お湯を沸かすのも、炭をおこし箱火鉢に入れて鉄瓶で沸かすのですから時間が掛かりました。鉄瓶のお湯の沸く音を松風の音と言いましたね。高度経済成長の時代、バブルがはじける直前、そういう時に古い物を残すのは困難だったのかも知れません。先に希望があり、頑張れば堅実な夢に手の届くような時代に、皆何を欲しかったのでしょう。ブータンでは国民が今の暮らしの中でどう感じるかという幸福度という考え方があるそうですね。最近何となく分かるような気がします。

10月3日、秋から冬へ

まだ当分は台風シーズンですし、晴れると日中の気温が高いですね。ですが畑はぼつぼつ冬の準備です。ナスやオクラなどがまだ少々残っている畑に聖護院大根の種を蒔いたら幾日も経たずに芽が出て来ました。もうすぐ衣替えですから、植物は季節を肌で感じているようです。
ところで、我が家のシャム猫によく似た毛並みの猫が駅の近くにいます。あまりよく似ているので一瞬家の猫がついて来たのかと思ったほどです。オス猫なのに子猫と一緒に昼寝をしていました。猫のイクメンでしょうか。子守りをするオス猫は珍しいのでそっと頭を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らしてくれました。猫が好きな人間かどうか、猫は瞬時に見分けるようですね。猫に出会う度にそう感じます。どのような理由があるにせよ動物を虐待しようという気持ちにはなりませんし、とても出来ません。自分と同じ命なのですから。

10月1日、赤ちゃんは

知り合いの家に赤ちゃんが生まれるそうです。その家のお仏壇にはご先祖様が祭られています。旅立って逝った方達も赤ちゃんの生まれる日を待っているのではないかという気がします。亡くなっても人の思いというものは残っているように感じます。自分の子孫が赤ちゃんをあやす時、一緒にもう一度子育てをしているような気持ちになったり、母親に抱かれて心地よさそうにしている赤ちゃんとかつての自分を重ねていたり、もしかしたらそういう事が出来るのかも知れない、と思いました。新しい家族は、その家庭に希望をもたらしたり、家族の心を温かく一つにしてくれるフレッシュな潤滑油の役割を果たしてくれるのかも知れませんね。家族が増える事は、辛い事があった後などの心の再生につながって行く、マイナスな気持ちをプラスにしてくれる、子育ては大変でも、そういうものだと思うのです。

9月28日、人間の変化は

神戸市長田区は震災で多くの方の命が失われた所ですね。そこで小学生が誘拐され、命が奪われるとは、胸が塞がるような事件です。一番辛い思いをなさっているのはご家族ですし、地域の方々も大きな衝撃を受けた事と思います。想像も出来ないような事件が増えて来たように感じます。助け合う優しさがある反面、社会が劣化しているように思えてなりません。これ以上の事はダメという線引きと言いますかブレーキは、人が見ていようと見ていまいと自分がかけるもので、それが出来るのが大人だったと思うのです。社会の規範も良心も後天的に身につくもので今も昔も家庭や学校で教えている筈です。社会の在り方が犯罪と直接結びつく事はなくても、社会そのものの変化と関係があるのでしょうか。犯罪が社会を映す鏡だとすれば社会病理という側面があるのかも知れません。でも、何を言ったところで、亡くなったお子さんが帰って来ないのだという現実は、空っぽになった心に風が吹き抜けるようでやりきれない気持ちになりますね。

9月26日、水石

水石というものがある事は何となく知っていました。石を山や海に浮かぶ岩などに見立てて室内に置いて観賞するもので、元は中国から伝わったとの事、自然の石を探しに行くのが探石、太陽や雨などのあたる外に置いて自然に石を変化させて行く事を養石というそうです。石には宇宙のすべてがあるという言葉を聞きました。奥が深いですね。感性を育てないと水石を見てもピンと来ないかも知れません。盆景もどのようにして始められたのか、やはり中国から伝わったもののようです。展示されている作品を一度じっくり見てみたいと思います。小さなイワヒバは盆栽ですが、1年に2ミリしか育たないそうです。斑入りの葉が美しく、種類によって斑の入り方や色が微妙に違い、名前が絶妙です。水石についてのテレビ番組に、気候が年々変化しても芸術の秋がやって来た事を実感しています。

9月23日、知らない事

知らない事は沢山あります。というより、世の中の事で知っている事の方がはるかに少ない、といつも思います。例えばカッコウが何故他の鳥の巣に卵を産んで育ててもらう托卵をするのか、私には不思議ですが、代々生きて行くための知恵なのでしょう。自分の卵をおいてその巣に元々あった卵を外に出してしまうとは、あの爽やかな声からは想像もつきません。ところで、花オクラという野菜をご存知でしょうか。オクラは円錐形のクリーム色の花で、花の芯が臙脂色の綺麗な物とは知っていましたが、それによく似た花が咲く花オクラは、その花を食べる物だとは知りませんでした。写真を見るととても綺麗です。これもまた知らなかった事の一つです。食用菊もありますし、バラも食べられるように品種改良した物があるのですから、もっと以外な物が食べ物になって売られているのかも知れませんね。中国貴州省にある鎮遠という所は川のほとりで、かつて海運が盛んだったようです。桐油という物が沢山他の地域に運ばれていったと聞き、調べて見ると印刷や塗料に使う物だそうです。アブラギリという植物で、食用には出来ない物という事が分かりました。良い所ばかりの物ではないでしょうが、植物が原料という所が、今でも環境に優しいので日本でも販売されていたり使われていたりするようです。耐水性がある為に、番傘が水を弾くように塗られてもいたと聞くと、ずっと昔家にも、とっくに使わなくなった重そうな番傘が置いてあった事を思い出しました。海苔の養殖に使う網を編んで、柿渋を煮たてた大きな釜にその網を入れ、網がやはり長持ちするようにして使っていた事はうっすら覚えています。その頃は、人間と自然の歩調が今より合っていて変化のゆっくりとした時代だったのでしょう。

9月21日、渦中にいると

今年の夏の天候は地域によって随分違ったものでした。でもそれは振り返って見ての事ですね。渦中にいる時は今この状況の中でどうすれば良いか、と日々考えて行動するのが精一杯なのではないでしょうか。例えば今年という年も、今の時代も、後になって見ると気付く事や言える事があるのでしょう。自分が何かの問題に直面している時も同じような事が言えるのでは、と思います。冷静に見ている他の人の方が正確に状況を分かっている場合も多いので、話して見る事で解決の糸口が見つかるのは、心の問題でも同じだと思うのです。気持ちの整理はまず冷静にならないと難しいですから、自分の思っている事を話す事から始めて見るという方法が良いと思うのですが、多くの人がごく自然に親しい人に話していると思います。自分の事だからこそ今の自分の感情にとらわれてしまって分からない場合が多いかも知れませんね。子供を叱る時感情にまかせてではなく、十数えてから叱る、などという事もイライラしてカッとなりやすくなっている親にとっては良いという一例です。叱るのは誰の何の為かを考えるとそういう事も必要なのだと思います。

9月19日、パイナップル

パイナップルを栽培した事のある方、いらっしゃるでしょうか。今まで、日本の冬はパイナップルには寒くてとても無理だとばかり思っていました。ところが、冬に室内の日当たりの良い場所に鉢を置くと無事に育つという話を聞きました。パイナップルの果実の上の葉が固まっているような部分をクラウンというそうですが、それを酸性の土を入れた鉢に植えると4年ほどで実が生る、とテレビを見た友人から聞いて驚きました。そういえば今は観賞用のパイナップルもありますね。
昔はパイナップルやフィリピン産のバナナはとても高価な物でした。ドラゴンフルーツ、トケイソウ、オーストラリア原産の花など皆以前は見た事のない物でした。柚子胡椒は柚子と塩、トウガラシで作られている物という事も知らず、最近まで使った事もありませんでした。珍しい物がスーパーやホームセンターに次々と並ぶ事が珍しくないというのが、今という時代の一つの側面のように感じます。お菓子が大きく変わったのは、かっぱえびせんが発売された頃のように感じます。その後ポテトチップスやカールなど次々とスナック菓子という物が作られて今に至ると思いますが、スナック菓子もまた、今の若い人や子供にとって珍しい物ではありませんね。

9月16日、世相

昭和の初期、説教強盗というものがあったそうです。27歳の男性がその強盗だったそうですが、戸締りがしっかりしていないから強盗に入られるのだ、などとその家の住人に説教するのだとか、ラジオでそんなことを聞きました。そういえば確か子供の頃祖母がそんな話をしていた事を思い出しました。その人は戦後防犯に協力したそうです。この辺りにも、戦後の復興がまだとてもという時に、昔スリだったという老人が、防犯のためにその手口や用心のポイントなどを、今で言えば公民館のような所で地域の人達に話してくれたそうです。文楽が地方回りをしていた時代でもありました。時代によって違う事のもう一つは、、ずっと昔、草木染めは薬草を使っていたとの事、感謝の気持ちで染めていたのだろうと思っていましたが、そうではなく、祈りの気持ちだったという事も聞きました。遠い昔、戦後間もなく、現在、時代によって多くの事や物が変わって来たのでしょうが、現代は価値観が多様なように感じます。この今の世の中は、後になって見るとどんな時代という事になるのでしょう。世の中の移り変わりはその時代に流行した歌によくあらわれている、という事も聞きますね。

9月13日、普通の日常

病んでいる友人の事が気になっています。いつもと変わらない日常生活を送りながら自分に何が出来るのか考えているつもりだったのですが、心ここにあらずという状態だった事に気付きました。あれこれ考えているとつい寝不足になり、風邪の治りも悪くなって片方の耳の聞こえまで悪くなってしまいました。耳鼻科に行こうと思った矢先、眠い目をこすった為か麦粒腫になって眼科にも行く事になりました。幸い順調に回復しています。疲れて眩暈がしたのがダメ押しのような事になったものですから、首から上は散々です。普通にしているつもりでも無意識はちゃんと表れるのですね。まず自分の体調を整えないと何も出来ません。私がどうしたいかという事ではなく、友人が望む事が出来ればと思い、落ち着くまでもう少し様子を見てから考えようと思っています。そういう事を思いながら作った胡麻豆腐は不味くはありませんでしたけれど味が半分くらいしか感じられませんでした。それでも、遠方の友人なので、すぐにこの胡麻豆腐を持って行ける距離だったら良いのにと思いました。

9月9日、記憶の書き換え

光を使って、嫌な記憶を楽しい記憶に書き変える実験が成功したというニュースに驚いています。記憶は脳に残っている筈なのに、何故どのようにしてそんな事が出来るのか不思議ですし、そのような発想にも驚きました。マウスを使っての実験という段階だそうですが、将来人間にも可能なのでしょうか。ストレスの軽減につながる事になるかも知れないですね。私には未知の世界です。

9月7日、偶然の積み重ね

私の母は関東大震災の翌日が誕生日です。当時横浜にいた祖母が逃げる方向を誤ったら母は無事に生まれていなかったかも知れず、そうしたら今の私が存在する事もなかったわけですから、過去へ遡るほど、先祖の誰かのある日ある時の判断の積み重ねが子孫に大きな影響を与えるのだと改めて思いました。この偶然のような積み重ねがあって皆存在しているのですね。祖母は毎年8月31日になると最低限必要な物をまとめようとしました。いくら関東大震災と同じ日に地震が起きるとは限らないと理屈で分かっていても、気持ちは納得しない様でした。よほど恐ろしい記憶が心に残っていたのでしょう。祖父も、竹を切る事を嫌がりました。震災後、余震が続く日々に竹のある場所に家族で蚊帳を吊って寝たそうなので、やはりその時の事がずっと心に残っていたのだと思います。当時はテレビなどなかったですしすぐに新聞が配達される事も難しく、鉄道は不通になったそうですから猶更不安だったでしょう。近くの木造の小学校が土煙を上げて倒壊するのが隣の地区から見えた、と聞きました。今この地区にこの日の事を知っている方はほとんどいないのではないかと思います。亡くなった方が多いだけでなく、高齢の方でもこの地区に住んでいなかった方のほうが多いですから。もっと色々祖父母から聞いておけば良かったと思っています。正確な記憶をはして貰う事は記録と同じように大切ですね。直接聞くと、自分と先祖や過去とのつながりを生々しく感じます。

9月5日、今を生きる人々

アマゾン川支流地域に住むピダハンの人達、場所はブラジルなのですが、長い間外国の人とかかわらずに生きて来たのだそうです。彼らの言語には過去も未来もなく、ただ現在があるだけです。過去の事を後悔したり将来への不安を感じる事がなく、数を数える必要がないので、沢山あるとか、少し持っているなどという言い方で表す、口笛も言葉の約割を果たしている、それは21世紀にこの自分達と同じ地球上にそのような歴史や価値観を持っている人達が存在している事を少しも知らなかった私には大きな衝撃でした。地球温暖化の影響は地球上のどこにいても及ぶのだから狭い、と思っていた地球の広さや奥深さをしみじみ感じた瞬間でした。今の私にはちょっと想像する事が難しいように思う在り方です。接続詞を用いて文章を長くして行く事がない言語は、どうやって生まれ何故そのまま変わらずに現在に至っているのでしょうね。もっとも今では子供たちはポルトガル語を学び数を数える事もあるそうですが。あるのは今この時というものだけで後悔も不安もなかったら人間は幸せなのでしょうか。何かとても不思議です。でも、ピダハンの人達にはこういう事を考える私が理解しがたい不思議な人間なのかも知れません。

9月2日、風邪と深層

風邪を引いてしまいました。暑い時期の風邪は部屋を暖めて温かいものを摂って、というわけには行きません。花粉症になってから、急に気温が下がったり、冷房を使うと、鼻や喉の調子が悪くなることが多いものですから、今回も多分鼻や喉が過敏になっているので調子が悪いのだとばかり思っていました。思い込みとはおそろしいもので、寒気がして初めて気が付いた次第で、悪化するまで放っておいた事になります。確かに朝方等寒く感じますしコオロギの声も聞こえて来るようになりました。感覚を無視出来ないと感じました。この夏を思い返して見ると、ゲリラ雷雨、バックビルディング現象、どれもわりと新しい言葉です。何時何処で短時間に想像もつかないような大雨が降らないとも限らないのですから、台風が発生していなくても予測が難しい天候なのですね。何かいつもと違う事が起きる時、まさかそんな事が起こるはずがない、と頭で考えて否定しようとしても、気持ちは不安になる事があります。そんな時は万一に備える事が大切なのかも知れません。自分の無意識は，資料をもとに分析し判断する思考よりも、自分を守る為に本能的に敏感になっていると感じる時もありますから。当分大雨に気を付けなければならないでしょうが、皆様もどうぞ十分お気を付け下さい。

8月31日、ヒマワリの目

庭にヒマワリの種を蒔いて芽が出て来たのが梅雨時でした。2本だけですがぐんぐん育って2メートル近くになりました。大きな花を毎日見あげています。ウクライナの、航空機墜落現場は辺り一面ヒマワリ畑で、その中に子供さん達の持ち物だったらしいぬいぐるみや幸せそうな家族写真が散らばっていましたね。荷物は壊れずに人間だけが亡くなり、そこにヒマワリが沢山咲いているというのは、余計に酷い気がします。震災が起きるまで普通の生活を送っていた家々の庭にもそれ以前には真夏にヒマワリが咲いていたかも知れません。戦争や天災や事件、事故、様々な出来事を花が見て記憶しているわけではありませんが、あまり背の高いヒマワリなものですから、つい、何時でもどこまでも見渡してじっと立っているような気がしたのです。戦争はその時戦争をしている国の人の人生を変えるだけでなく、遠く離れた所に住む人にも様々な影響を及ぼし、次の世代にも親の受けた心の傷が影響を与える、そのように考えると、よくかき混ぜた納豆を一粒取ろうとすると後から沢山の納豆がつながって付いて来るように、限りのないものという側面があるように思います。人間の尊厳が守られる事がないのが戦争、という気がします。戦場がどのようなものなのかという事を体験した人の心に刻まれた事実を、仮想現実のようにリセットする事は決して出来ません。コピーペーストやリセットをする事が出来ないのは戦争ばかりではなく、他者をゲームの中でのように傷つける事も同じだという事も合わせて、子供達に教えて行きたいものです。こうしてあれこれ考えてみると、今、貴重な時間と空間の中に生きているのだと感じます。大切にしないと掌で救った水が指の間からこぼれ落ちる様に様々な物を失ってしまうかも知れませんね。

8月29日、紫蘇の秋

月遅れのお盆が終わるといつの間にか女郎花や吾亦紅が咲き始め、日が短くなったと感じます。もうすぐお彼岸です。日中の気温が高い日でも、野も山も空も秋らしくなって来ました。それにしても日によっての気温の変化が随分大きい事に戸惑っています。たまにはじっくり本を読んでみたいと思いますが、体を動かして何かしている事の方が好きになっている自分に驚いています。そういえば、小さい頃全然昼寝をしない子供だったと聞いた事があります。今赤紫蘇の葉を塩もみ洗いしていると良い香りがして、昔食べた与三郎巻きという羊羹を赤紫蘇で巻いた木更津名物だったお菓子を思い出しました。私は、梅干しに使う赤紫蘇の色と香りは何となく秋を連想させる物という気がします。失敗をおそれて迷っていたのですが、思い切って塩麹を作ってみようと思います。

8月27日、手作りのような風

夏が終わったような今日の気温です。暑かった夏、30度を超えた蒸し暑い日には水分補給が不可欠ですね。夕方になっても室内は熱い空気に満たされていて外の方が涼しいと感じました。エアコンや扇風機を使わないで過ごす事は出来ないので使いますが、自然の風と違って毎年硬く感じます。そよそよと吹く風は柔らかく感じますが、人工的な物は長い時間だと疲れる様な気がします。一人ひとりにぴったり合ったジグソーパズルのピースのような手作りの物と既製品の違いなのかも知れません。台風や前線の大雨があちこちで降り続き大きな被害が出ている今年の現実に言葉もありませんが、自然は本来は絶妙で貴重なのですよね。自然の風に、母が縫ってくれた浴衣の手触りを思い出します。

8月25日、語り部

終戦の年昭和20年8月は、蝉時雨と、肌寒い日もあるというそんな夏だった、そう話してくれた母は胡桃沢耕史さんの黒パン俘虜記の朗読を聞いていました。戦争が終わったら先生の言う事が変わり、教科書に墨を塗る事に納得の行かない気持ちになったと言った親類、急に今までと反対の事を教える事は出来ないと教壇を去った若い先生、戦中戦後を生きて来た人達は随分減ったのだろうと思います。物が不自由だった事、空襲の怖ろしさ、疎開の辛さ、何も話さなければ、後の世代の人達は何も知らないままになってしまいます。広島では、原爆の被害や惨状を語り伝える事を、若い世代の人達が経験した世代から聞いて、始めているそうです。戦争の時代に生き戦場に身を置いた人でなければ分からない事があるでしょう。戦争によって多くの人の人生が変わってしまうのですから、理屈だけで戦争を論じるは出来ません。辛く、忘れがたい事を伝えなければと、重い口を開いて語ってくれるのは言葉ですが、同時にそれはその方の人生そのものなのですね。広島の取り組みは今後への大切な手掛かりだと思います。

8月22日、描く

芸術的な事をする時には右脳を使います。普段は左脳を使う事が多いので、何か作品を作ったり絵を描いたりすると右脳が活性化され、ストレス解消につながります。でもそれだけでなく、楽しかった出来事を思い出して絵を描いている時には時空を超えてその絵の中にいた時のような気持ちになっているのではないでしょうか。ある方が若い女性を描いた絵を見て心が温かくなるようだと感じた事があります。多分モデルがあっての作品なのでしょうが、私にはこの方が自分が子供の頃のお母さんを描いたようにも感じました。もしかしたら記憶の中の、何か霧の向こうにいる様なお母さんとそこにいた少女の自分への懐かしい思いが彼女の心の中にはあったのかも知れないと感じさせられるような素敵な作品でした。夏休みの絵日記はうまく描けなくて好きではありませんでしたが、絵を描くという事はもっと奥の深い事だったのですね。楽しんで書いてみれば良かったと、ちょっと残念に思います。最近時々風景や静物を写生しています。

8月19日、夏の着物

毎日暑いですが、駅の近くを歩いていたら和服姿の女性を見かけました。淡い色の絽のようなお召し物に反対色の帯、帯と同系色の無地の日傘をさしているこの方とすれ違ったのですが、その瞬間、聞こえている蝉の声を含めて一枚の絵のように感じ、何とも涼しげに見えました。蝉の声だけがわずかに夏だという事を付け加えているような、その方の見事な着こなしでした。昔、あまり暑い時は帯の間にドライアイスを入れるのだと聞いた事がありますから、その方が暑くなかったわけではないと思います。でも見ている私は束の間ですけれど清々しい風が吹き抜けたように感じて気持ちがシャキッとしたものですから、和服の効果は絶大ですね。季節に合った材質や模様、どんな帯と合わせるかだけでなく、日傘などの小物との組み合わせも考えたお洒落という事になるのでしょう。その人の、優しげだとか個性的だとか、おきゃんな娘さん、などという、持っている雰囲気とマッチしているかどうかという事になると、やはり着物というのは着こなすものなのだと思いました。夏はお祭りや盆踊り、花火大会などに浴衣でお出かけの方も多いと思います。自分に似合う物、自分らしさをあらわせて着心地の良い物などをちょっと考えて気軽に楽しむには良い季節かも知れませんね。

8月18日、紫蘇の季節

赤紫蘇が育って来ましたので紫蘇ジュースを作り始めました。青紫蘇でも出来ますが赤紫蘇の方が色が綺麗ですから青紫蘇は豆腐などの薬味に使う事が多いです。赤紫蘇を入れて煮立って来るとお湯は赤紫色になり、紫蘇は緑色に変わります。これをどうしようかと考えていたのですが、細かく刻んで胡麻と塩を入れたふりかけを作りました。良い香りで美味しいですよ。今年は友人に苗を頂いた飛騨南瓜という物を初めて栽培し、大きな瓜のような緑色の南瓜が実りました。白っぽい緑の雪化粧南瓜、小さい坊ちゃん南瓜、それぞれ実を付けてくれました。雪化粧南瓜は種を蒔いて育てたのですが難しそうなので1個でも実が生ったのが夢のようで収穫が楽しみです。
それにしても、今まで見かける事のなかった野生動物がこの辺りに多く住んでいるのはどうしてなのでしょうね。野菜や果樹を育てるのに用心しなければならなくなりました。狸、穴熊、ハクビシンだけでなく、どうやらアライグマもいるらしいのです。もし飼われていたのだとしたら飼い主が捨てたという事なのでしょうか。生き物を飼えば最後まで面倒を見ないと動物も可哀想ですし他の人にとっても迷惑になります。シャム猫が流行った後にはシャム猫の、アメリカンショートヘアが流行った後にはアメリカンショートヘアの野良猫が多いのは人間が捨てるからなのでは、と思いますが、こういう事は後を絶ちません。我が家には首輪に鈴を付けたおとなしいトラ猫君がよく遊びに来ます。ご近所の猫の散歩コースの一部になっているのかも知れませんね。

8月17日、御前様の下駄

道に迷ったら歩いて来た道を引き返せば良いですね。でも、確かにその道で間違っていないと自信を持って言えるのはどの辺りまでなのか分からなくなってしまう事もあります。苦手な科目が何処から分からなくなったのか、職場の人間関係が難しくてどうしたら上手くやって行けるのか、家族の気持ちが通い合わなくなっているような気がする、こういう時は何処へ戻って見るのが良いのか戸惑います。時間は巻き戻せないし記憶は書き換えられない、という中で一度冷静になってどうしたいのかを考えて見る事が大切だと思います。
道というとある履物の事を思い出します。この辺りではお寺のご住職の事を御前様と呼んでいるのですが、50数年前、菩提寺の御前様が毎月お経をあげに来て下さっていました。大抵は夕方で、足袋を履いた御前様は下駄を脱いで家にお入りになります。その下駄は男物で、祖父の黒い鼻緒の桐の下駄とは違って薄い灰色の鼻緒でした。私はそれが珍しくて、何故灰色の鼻緒の下駄なのか、履き心地は普通の下駄と違って軽いような気がするけれどどうなのか、何処に売っているのか、などを御前様に聞いてみたくなってじっと下駄を見つめていました。お年を召して歴史に詳しい御前様に柔らかい色の鼻緒の下駄はピッタリでした。穴の開くほど下駄を見つめている私のそばに来た母は、綺麗に下駄を拭いて揃え、この下駄を悪戯しては駄目よ、と言いました。それで、下駄の事を御前様に聞き難くなってやめてしまいました。思い出すと何だか残念です。自分も履いてみたいようなあの不思議な魅力を持った下駄が妙に懐かしくなりました。御前様が亡くなられて30数年が経ち、私も50代、お寺は継承され昔と同じ場所にあります。外は蝉時雨が降るようでしたけれど今年もお盆にお経をあげて頂き、清々しい気持ちになりました。

8月14日、麹の奥

台風11号は、遠く離れた所でも大きな被害が出たのは先日の12号と同じでこの先が思いやられます。日本列島は幅が狭い、と思うような台風でした。被害の大きかった地域の方は暑い中で後片付けをしていらっしゃるでしょう。茫然としているわけに行かないとは言っても辛い事だと思います。我が家でも台風の時には水やお湯、ご飯などをいつもより多めに用意するようにしています。
さて、ご近所でゴーヤを頂きました。その時シロウリは塩麹と合うと聞いたので、台所にあった醤油麹を、乱切りにしたキュウリに入れてみたら旨味が加わってまろやかな味になりました。料理は好奇心と実験のような所がありますね。その内、醤油麹を作ってみたいと思っています。頂いたゴーヤは湯通しをしてサラダにしました。豆板醤を入れても美味しいですよ。このゴーヤは白とヒスイ色なので和えるととても綺麗です。
沖縄では琉球王朝の昔からゴーヤが食べられていたようですね。今年も間もなく終戦の日を迎えます。ゴーヤの苦みは旨味でもありますが、沖縄の方達にとって戦争はゴーヤの苦味などとは比べものにならぬほど苦く、咀嚼し難い、到底呑み込めるものではないだろうと思います。戦争でその方だけでなく、近い身内の方達も皆亡くなったという方は、直接自分達を知る子孫がいないという事になります。その方達がせめて我が家の精霊棚でひと休みして行って欲しいと思っています。あまりにも広かった戦場から未だに帰る事の出来ない多くの方々が異郷の地に眠っている事を、今年も思います。

8月11日、静かなお盆

油絵のようなヒマワリを見ながら今年もお墓掃除をして、お盆を迎えます。時代が変わってもお盆に先祖を迎えるやり方はこの辺りでは昔とそう変わらないように思います。毎年お盆の頃は台風の心配がありますが今年は帰省と台風が重なってしまいましたね。子供の頃祖母は、お盆は家にいてご先祖様に少し成長した所を見て貰おうね、と言ったものです。海に行くと土用波が来るから気を付けなければいけない、とも言っていました。台風の心配なのでしょうが、昔の人の経験からなのだと思います。恙なくお迎え火をたく事が出来るとご近所のお年寄りは互いに、静かな良いお盆でございます、と挨拶しあっていました。私が小さかった随分昔の事です。ですが、私は何となく優しげなこの言葉の響きが好きでした。立秋後の風に揺れるミソハギの花によく似合うようなこの感じは、一歩引いた所から子育てを援助したり、立ち入り過ぎないよう相手の気持ちを考えて上手にご近所付き合いをしていたパステルカラーのようなお年寄りそのものだったと感じられるからなのかも知れません。

8月9日、帰省

雪の降った2月はいつの間にか遠ざかり、学校は夏休みですね。8月のお盆に配偶者のご両親のもとへ帰省なさる方も多いと思います。お墓参りをして家族団らん、子供夫婦や去年より少し大きくなったお孫さんとの再会を、首を長くして待っているご両親が日本中に沢山いらっしゃるのでしょう。でも、遠くに住んでいてたまに訪れるご主人の実家というのは奥様にとっては気を使う所でもあります。世代が違えば生まれ育った環境が随分違いますから、楽しむより疲れると思って気の重い方もおいでになると思いますが、いつもと違う所で世代の違う親とのコミュニケーションから、心に何かを得られると良いですね。慣れるのは難しく、お客様というわけにも行かない部分があると思いますが、エプロンをかけて一緒に台所に立って思い出話を聞くのも過ぎてみれば貴重な体験です。子供一家が顔を見せてあげるのが何よりの親孝行なのかも知れません。ご夫婦どちらのご両親のもとへもおいでになれると良いでしょうね。ただ、嫁と姑の気持ちとか関係というのは複雑な所もありますので、きれいごとを言っている、と思われた方が多分いらっしゃると思います。有吉佐和子さんの、花岡青洲の妻という小説はそういう嫁姑の心理描写が巧みですから是非ご一読下さい。

8月6日、孤独の種類

人からはコントロールされる事がないのが、心の中です。人の心は色も形も目に見えるものではなく、傷ついた時のその度合いを外からうかがい知る事も出来ません。決して切る事も縫う事も出来ないものですね。勿論、今何を考えているのかとか、どんな気持ちなのかを他者が100％知る事は出来ません。ですから、それは自由という事でもあると思います。
一人でいる事がすぐに孤独につながるわけではありませんが、目標に向かって頑張ったのに思ったほど満足感や達成感が感じられない時、人から褒められたり認められたりしなかったから、などという事があるのかも知れません。人から認められるためだけに努力したのではなくてもそういう事はあるのではないでしょうか。喜びを分かち合える事は大切な事だと思います。家族と意見が合わず喧嘩をして腹を立て、一人ぼっちだと感じるのは温かい孤独で、喧嘩をする相手も文句を言われる事もないのは冷たい孤独だと言った人があります。今の時代はどのような孤独が多いのでしょうね。人間は他者とかかわらずには生きて行けないものだと思います。ですから、もしいつも無視されたり自分の言う事を否定されたりしていたら、自信を無くして自己否定傾向が強くなったり、他者に対して怒りを感じ、期待しなくなるという他者否定傾向が強くなるのではないかと思います。
都会の雑踏の中を歩く沢山の人達を見ていると活気があって何かが生み出されてくる賑やかな所、と感じますがその人達皆の心がいつも満たされているとは限らないのですね。心豊かに生きるというのは、なかなか難しいものです。母が生きていたら私の事を、まだまだ修行が足りない、と言うと思います。夏休みに、皆様にも心が温かくなりホッと出来るような交流があると良いですね。

8月4日、ほどよいという事

ほどよいとか、身の丈に合うようにという事は大事な事ですね。食べ物の味ばかりでなく、対人関係や自然との付き合い方にも言える事のような気がします。現状を打破したい気持ちが進歩や拡大を成功させて来た事を否定する事は出来ませんが、それは多分先人への感謝を忘れたり、周りとの調和を考えずに続けて行こうとすると難しいのでは、と思います。お互いにどのような事にも傍若無人にならないようにしたいものですね。雨の日にすれ違う時、互いに傘をちょっと傾けて相手に譲るなどという日常の中でのささやかな気遣いの積み重ねが出来る世の中が、人間の生きづらさを軽減する事につながって行くのかも知れません。

8月2日、自然の味

自分で育てた野菜や果物は収穫してすぐ食べるので新鮮です。育つプロセスを見ながら水や肥料を与えるので、収穫した物が余計に美味しく感じるのかも知れません。甘味と酸味のバランスの良いトマトは本物のトマトの匂いがします。自然や本物に触れる機会は田舎に住んでいても、いつの間にか少なくなっています。先日、よく干したシイタケを頂いたので水につけて戻し、他の野菜と一緒に煮物にしました。とても肉厚で大きいので食べるのが勿体ないようでした。今日は刻んで白和えに入れました。炊き込みご飯や炒め物に入れても美味しいですし、あまり立派なシイタケなので戻した物を丸ごとソテーしてみたいとも思っています。昔は、自然に囲まれた生活は不便で骨の折れる物でしたが、今では贅沢な暮らしだという人もいます。私はその中間ぐらいが丁度よいという気がします。我が家の今の暮らしはどうなのかちょっと考えて見たいと思います。

7月31日、ペット

22日に18才の猫サチが亡くなりました。三匹の姉妹で、目が大きく、母猫によく似た綺麗な三毛でした。神経質、立ち上がってガラス障子を前足で開ける、家族以外には懐かない、そういう猫でした。犬も猫も人間より早く旅立って逝きますから、ペットと暮らすのは看取る事でもあります。家族の一員と思って長い間一緒に暮らして来たので、心の中にぽっかり大きな穴が開いたような気持ちです。人間の場合、お葬式というのは休む暇もなく手続きなどに動き回らなければならず、精神的にも大変ですが、猫の場合何の手続きもいらないのでかえって気持ちのやり場がなくなります。キジトラ猫アスカの行方はまだ分からないので、サチと一緒に生まれたシャムネコのチロ、推定年齢10才位のやはりシャム猫のキミコの2匹になってしまいました。キミコは捨てられたらしい猫で、子猫を2匹連れていました。初めての子育てだったようですが、あばら骨がくっきり見えるほど痩せていました。今ではキミコの子供が貰われていった近くのお宅からキミコの孫猫が遊びにやって来ます。それにしても減るというのは淋しいですね。何となく、気持ちが内向きになっているようです。もっとこうしたら良かったのではないか、などと考えてしまうのは人間が亡くなった時と変わりありませんね。サチは幸せだったのかどうか私には分かりませんけれど冥福を祈りたいと思います。

7月29日、梅雨が明けたら

梅雨明けと同時に酷暑となりましたね。大雨は困りますが、遠雷のみでは夜になっても涼しくなりません。暗くなっても30℃以上あるのですから。真っ青な空、白い雲などという盛夏ですが、もうヒグラシの声を聞きました。庭には吾亦紅が育っていますし、真夏だからこそその後ろに秋が見え隠れしているように感じます。決して温暖とは言えない近年の日本の気候ですが、こんな風に微妙な季節の変化の兆候を見つける事が出来るのも、四季がある温帯だからでしょう。それもまた良いものだと思います。外に出る時の帽子や日傘、水分補給も大事ですが、台所では冷蔵庫が一生懸命働いていてくれ、火を使うとサウナのような蒸し暑さになります。皆様もくれぐれも熱中症にならないようお気を付け下さい。

7月27日、友人が病む

21日はこの地区の夏祭りでした。祖父の好きだったお赤飯を蒸かしましたが、遠方の友人が入院したと聞き、明るい気持ちになれませんでした。若い頃は病む友人もめったにいませんでしたし、私自身もそうでした。でも、年齢を重ねると色々な事に遭遇します。病む事は人ごととは思えませんし、友人の健康も気がかりです。ご両親の看病をしている方なのでお疲れなのだと思いますが、ゆっくり休んで早く良くなって頂きたいと思っています。子供の時からの友人ばかりではありませんが、どの友人も私の人生の中の温もりのある血の通った、その時代その時代の、しかも現在進行形のしおりのような大切な存在なのです。

7月25日、善と言う言葉

航空機墜落現場で、現場保存が不十分だと思うような映像に愕然としています。何もかもが粗略に扱われているように感じますし、亡くなった方々の持ち物を物色しているようだとは、羅生門さながらで、21世紀がどんな時代になるのか不気味です。豊かになった人達が多いけれど地球温暖化を食い止めなければ気候が異常になって益々住みにくくなるという時に、何か力で言い分を通す事が増えて来たように思います。これも今この瞬間の世の中の断面なのだと思うと、喉元に短刀を突き付けられたような気持ちになりました。
江戸時代にある人が、力すなわち善、と言ったそうです。力がなければどんなに世の人の為に善い事を行おうとしても実現できない、という意味だそうで、自分が重く用いられるようになった時には、相手のやり方を非難するよりも自分の考えをうまく伝えると、その考えが行政に取り入れられて多くの人の役に立つのではないか、というものでした。力などない私は互いをできるだけ尊重しあえるようであって欲しい、今回の事件で亡くなった方達が1日も早くご家族の元に帰れるよう祈るばかりです。

7月23日、命は愛おしい

ウクライナ東部でのマレーシア航空機墜落という事件に、かつて当時のソビエトのミサイルでの大韓航空機撃墜事件を思い出しました。日本時間の午前3時頃だったのでまだ暗い時間でした。誤ってソビエトの領空を飛行していたらしいのですがあの時も多くの命が失われ、大きな衝撃を受けました。今回、誰が何故どのようにして外国の民間機を墜落させたのかまだよく分かりませんが、訳も分からず一瞬にして命を奪われた人達が大勢いるという事実を覆す事は出来ません。ミサイルが使われたのではないかと言われていますが、ミサイルの鋭く尖った姿が研ぎ澄まされた爪のようで不気味に感じられます。墜落した飛行機の残骸の映像はボロボロに破れた薄い紙のように見えて無残としか言いようがありません。痛ましい事がまた引き起こされてしまいました。そういう事を考えながら垣根をチョキチョキ切っていると蝉の抜け殻があったので、そこだけそおっとしておきました。地上に出て来てからは短い命ですけれど精一杯この夏を生きて欲しいと思います。今日、この夏初めてミンミン蝉の声を聞きました。命は皆愛おしい、しみじみそう思います。

7月20日、おろし金

遺伝と環境、人間にとってどちらも大切なものだと思います。人の性格には環境の影響が多いと言われていますが、かと言って遺伝は全く無関係ではないでしょう。好みという事に関しては生まれた時から持っている傾向が大きくかかわっているようですね。ですから、子供の性格傾向によってどのように物事を教えたら良いのかは、かなり違うと思います。疲れていてつい子供に当たってしまう事もありがちですが、後でフォローするのは、大人には勇気のいる事かも知れません。子育ては、もう一度心にひっかかっている子供時代のある部分を振り返ってやり直せるチャンスです。ですから猶更エネルギーが必要なのでしょう。
大根と絹ごし豆腐を同じおろし金ですりおろしたら絹ごし豆腐は表面だけでなく、中までボロボロになって壊れてしまうかも知れません。でも、大根はそうではありませんよね。子供も、その子によっての心の傾向や耐性は違うのですから、絹ごし豆腐と大根のたとえになるような場合があると思います。下村湖人の次郎物語は有名な小説ですが、産後体調が思わしくなくて人に預けていた次郎が大きくなって親の元で暮らすようになっても母親にしばらくは懐かず、紆余曲折を経てようやく理解しあえるようになった後に、次郎の母親が次郎を育てたお浜に、子供はただ可愛がってやりさえすれば良いのね、と言った場面が心に残っています。この本の中に出て来るまるぼうろをアピタでみかけたので、こんな事をお話ししてみたくなったのかも知れません。

7月16日、台風と先生

台風8号の影響は至る所に及び、大きな被害が出ているので、夜半に最接近という気象情報に不安を感じて10日は気の重い一日でした。側溝の掃除を済ませ、植木鉢を片付けたりお湯を余分に用意したりなどしましたが幸い何事もなく静かな朝を迎え、ホッとしました。でも、被害の大きかった地域にお住まいの方の事を思うと良かったというのが憚られるような複雑な気持ちです。
そういう日の明け方、小学生の時の女性の担任の先生の思い出話を、同窓会の会場のような場所で懐かしく話している自分と聞いている皆、という夢を見ました。卒業後もずっと手紙のやり取りのお付き合いが続いていたのですが、数年前に亡くなられた先生で、驚きや悲しみは大きかったですし思い出す事もありますが、何故こんな日の明け方に夢を見たのかは分かりません。亡くなった方の事ばかり話していては久しぶりに集まった人達の気持ちが暗くなるのでは、という配慮を全くせずに、ただ懐かしい思い出を話している自分、というのも普段とは違うのですが、目覚めた時の、台風を心配していた現実とはかけ離れた夢の中にまだいるような気持ちはしばらく続きました。
先生が亡くなった事に対して十分に悲しみやマイナスの感情を出さずに封じ込めてしまっていたのかも知れません。嘆きの仕事、などと言いますが、困難な現実や忙しさの中で、向き合い方が中途半端になりがちな事や、辛い事を忘れたくて抑圧する事はありますよね。向き合う気持ちのゆとりが出来たから、こういう夢を見たのかも知れません。あたり一面田んぼだった学校で先生のピアノに合わせて校歌を歌った事など、遠くなった東京湾を見ると思い出します。いずれにしても、この方は私の大切な恩師です。

7月13日、太陽は

北風と太陽の話をご存じの方、多いと思います。相手を支配しようとして上から物を言う時、自分が正しいのだからそのやり方に従うのが良いという気持ちがあるので相手にしたら強引さやおしつけられたと感じ反発をする場合があります。あるいは自分を叱った相手の考えややり方が正しくて自分はダメなのだと劣等感を持つ事になるかも知れません。強くコントロールしようとする理由は、それが相手にとってベストな選択になるから、という場合も、親子ですと多いと思います。どんなタイミングでどういう言い方をすると良いのかその子の性格を考えて一呼吸おいて言う事が大切ですね。そうでないとせっかく良いアドバイスをしたのに反発心から全く違う事を選択し、子供自身が後悔する事になりかねません。
天災、働く若者にとっての社会の状況、事件や事故など、北風がこれでもかこれでもかと吹いているようで、葛藤やストレスが増えて心が重くなって行く原因は全て個人とも言えない気がします。
生きづらさを感じる事の多い社会の中で、他者を思いやる事が難しい場合もあるでしょう。それは自分がそのように大切に扱われたり認められたりする事が不十分だからかも知れません。それでも、人は人とかかわりながら生きて行くのですから、どこかで短時間でも良いので自分の心を休めてあげるゆとりが持てたら、と思います。今日の自分を褒める事は意外としないものだと思います。でも、自分に北風だけを送らないで温かい目で、ちょっと冷静になって見てあげて欲しいなあと思います。

7月9日、花色は変化する

紫陽花は種類の多い花ですね。日本紫陽花、西洋紫陽花、山紫陽花それぞれに新しい品種が増えています。雨がしとしと降っている時が一番美しく元気に見えます。遊歩道には紫陽花が多いので、つい立ち止まって写真を撮ってしまいます。そんな時友人と話していて、最近本を読む時間が減った事に気付きました。忙しく動き回って野菜や花とかかわっていると本を読む事の出来る夜には眠くなってしまい、たまに古典など読み返してはいるものの、全く読まない日も多くなっています。学生時代は通学に長時間掛かった事もあって、よく本を読んでいました。
今は知識を得る事よりどちらかというと得た知識を咀嚼し、その時に応じて上手に実践して行きたいと思っているのだと思います。何故かというと、そうする事が心残りが少なくて済む、つまり段々年を取って来た事を自覚しているからなのでしょうね。後悔する事ばかり増えて行くのが嫌な自分というのは、料理を作りながら、初めに使った調理器具などを洗って少しずつ片付けているという事に似ていますね。私は片付けが上手な人間ではないのですが、最近断捨離などという言葉をよく耳にします。人はその年齢に応じて、もしかしたら無意識に多かれ少なかれその人らしく片付けたり学んだりして、幸せに生きようとしているのではないでしょうか。その年齢によって変化する心模様は紫陽花の花色のようですね。

7月7日、父の日母の日

父の日や母の日が近づいて来ると、デパートや商店街はいつもより人出が多くなって活気があります。兄弟姉妹でプレゼントの品定めをしている姿をよく見かけます。リボンを掛けて貰ったプレゼントを大事そうに持っている小学生、家に帰って渡したらお父さんやお母さんはどんなに喜ぶでしょう。色々事情があって父親か母親だけと暮らしている子供にとっては辛い日だと思います。私などとっくに成人していても、母が亡くなってしばらくの間はついふらふらと母に似合いそうな物の置いてある婦人服の売り場に立ち寄ってしまい、買っても喜んで来てくれる母はもういなくなったのだと気付いて淋しさを感じたものです。
それでも、子供は自分の置かれた環境の中で現実を受け入れて大人が思っているより心も逞しく成長して行く事が出来るのだと思います。大人が思ってもいなかった事で傷ついている場合も勿論ありますけれど。親の、子供を思う気持ちはきっといつか通じるでしょうが、気持ちは言葉や態度に出さないと相手には伝わらない事もあります。どのようなタイミングで、どんな言い方をされたかという事は、案外子供は覚えているものです。自分の子供の事だから分かっている事が多いと思います。でも、近すぎる存在だから気付かない事もあります。目に見えない人間同士の距離感、愛情や信頼があるからこそ、ちょっと複雑に思える時もありますね。

7月4日、終わりの始まりは

挫折してからが人生だという言葉を新聞で見つけ、生と死は隔てられた別の世界への移行ではなく、水の流れが合流するような事なのだと思う、という言葉をラジオで聞きました。深く難しい言葉ですね。そう言えば、終わりの始まり、という言葉もあります。地球や人生も、始まったという事はいずれ終わりを迎える日があってその方向へ動き出した日だからそんな風にも言えるのでしょう。でもそれは諦めたり投げやりになって、というようなマイナスな捉え方をする事ではなくて終わりに向かっているという側面がある、その事実も否めない、という事なのだと思います。日々作られて行く歴史は活火山と同じ、今この瞬間もそれは続いていて、創っているのは百年足らずの寿命の私達人間一人ひとりなのだという事をひしひしと感じています。はきだめにえんどう豆咲き、泥池からハスの花が育つ、人皆に美しき種あり、明日何が咲くか、という文を読んだ事があります。様々な名言の意味を、今日は思い返しています。

7月1日、当たり前ではない元気で平凡な毎日

実は3月下旬に左腕に違和感があり、4月から病院で色々な検査を受けて来ました。脇の下のリンパ節が腫れたので完治しない病気かと覚悟しました。だからキジトラ猫アスカは巣立って行ったのかも知れないとも思い、今まで生かされてきた事に感謝したい素直な気持ちになっていました。未熟児でお医者様や親のおかげで育ち、先生や友人、親戚やご近所さん、皆のおかげでつつがなく平凡に穏やかな日々を送って来る事が出来たのは幸せな事だったのだと思うと胸が一杯になり、それは埃で汚れた紫陽花の葉に雨がかかって汚れが洗い流されたような清々しい不思議な気分でもあったのです。誰一人欠けていても今の私とは違う考えを持った別の人間だったのでしょう。今年の春は、毎日生きている事を精一杯感じられるように楽しく心地良く暮らしたい、来年の桜を見る事は出来ないかも知れない、とも思っていました。小さな事でも気にすると思っていたのにいざとなると案外呑気で慌てない自分を発見して驚きました。病院で検査の結果、悪い物ではないようだがまだ原因がはっきりしないので検査を続けて、継続して様子を見て行きましょうと言われました。腫れが少しひいている事もあり、ひとまずホッとしています。病院のスタッフの方々に大変温かく接して頂き、病院が近い場所にある事も幸運な事でした。平凡な毎日がどんなに貴重なものかしみじみ感じ、日々前向きに感謝の気持ちで生きていればいつかアスカにも会えるかも知れない、そんな風に思いました。墓地の掃除、生垣の剪定、野菜作り、時間を惜しむように、自分を励ましながらの毎日でした。自分に負けたくない、そんな気持ちで、夏野菜の苗を植えていたのかも知れません。その気持ちは持ち続けて行きたいと思っています。元気で大きな変化のない平凡な毎日を送れる事には限りがあり、時間も人との出会いやかかわりも、貴重な体験なのだという事を、つい忘れがちになっている事に改めて気付かされました。

6月29日、年輪に叡智を

一粒残っていた真っ赤なイチゴは甘味と酸味がほど良く、自然の味がしました。我が家のブルーベリーやラズベリー、鉢植えですが今 年も豊作のようです。まだ緑色なので甘くはありません。色付いて来たら甘い物を食べに夜やって来るハクビシンに気を付けなければなら ないのです。何時からタヌキやアナグマ、ハクビシンなどの野生動物が住みつくようになったのか、多分10年前後になるのでしょうけれど よくは分かりません。そんなに住みやすい環境とも思えないですし、時々交通事故も起きています。鉢植えのラベンダーの花はドライフラ ワーにしようと思っています。ラベンダーというと北海道の富良野を連想しますが今年の6月上旬の北海道は熱を出したように高温になっ ていましたし、暑かった西日本や東日本はところによって大雨となり、先の見えない空です。これから100年位先は一体どういう環境にな っているのかといつも思います。生まれたばかりの赤ちゃんが長生きすればそう遠い先とも言えません。ヒノキを調べると、過去2000年で 、降水量が激しく変動し、大雨と干ばつが数十年続く時期が約400年に一度の頻度で起きていた事が分かったそうです。百年後のヒノキに 、人類の苦しみでなく、叡智の結果が刻まれているようにしたいですね。

6月27日、めぐる季節の中で

薄紫の桔梗が咲き始めました。ヒマワリに似たルドベキアも満開になりました。毎年季節ごとに様々な花が咲き、良い香りが漂って来ます。多分ずっと前からそうだったのでしょうしこれからもそうでしょう。私が育って来た高度成長期も時代の中の一時期だったのですね。これからどんな世の中になるのか自分達次第とは言えない側面もありますが、私の祖父母世代の人達は震災や戦争を大人として体験し、便利な物が次々作り出されて店頭に並ぶ時代をどのように感じていたのでしょうか。怖いくらい便利で楽になったと言っていた祖母に、聞いてみたい気がします。
同世代の人達には共通の話題がありますから、そういう人が段々減って行くという事は分かり合える同志が減って行く事なのかも知れません。若い頃は老いる事がまだ遠い先の事ですから、お年寄りの気持ちを理屈で理解する事は出来ても、共感する事は難しいと思います。自分が若い頃と比べて体力や記憶力が落ちたと感じたり、回復力が遅くなっている事に気付くような年齢になると、老いるという領域に一歩足を踏み入れたように感じざるを得なくなり、高齢の方の気持ちに共感する事が自然に出来るようになるのではないでしょうか。そういう事が、介護ではとても必要な事のように思われます。伴侶を亡くされた悲しみは高齢の方にとって大きな痛手でしょう。高齢の方にとって、伴侶ではなくても同世代の人達は同じ時代を生きて来たのですから、同志が一人、またひとりと欠けて行くような淋しさを感じる事も多くなって行くと思います。人は自分の人生で老いるプロセスを一度だけ、初めて経験するのですから、誰にとっても自分のそういう変化は未知です。慰めるのは難しいけれどお気持ちを聴いて悲しみを外に出すお手伝いが少しでも出来たら、と思っています。

6月25日、ベトナムの旅

ベトナムのホーチミンからダナン、古都フエを通る1700キロの鉄道南北線の旅はテレビだとあっという間ですが、30時間かかる距離です。山や田んぼの緑が美しく、南シナ海は今緊張状態だとは思えないほど美しくのどかに見えました。活気があって賑やかな都会があり、戦争の傷痕の残る場所もあるベトナムは、日本と同じ米が主食で、今では生春巻きやフォーなど日本でもよく知られていますよね。
長い列車の旅はかつてNHK特派員報告という番組で戦争を伝えていた画面とはかけ離れているようですが、戦争によって多大な犠牲が払われ、生き残った人達の懸命な努力によって今の繁栄があるのだと思います。美しい海へ沢山の人達がボートピープルとなって出て行きました。離れ離れになった家族は戦後再会する事が出来たでしょうか。ベトナムの人達は争いのむごさや空しさをいやというほど知っていると思います。争った相手を憎んでもそこからは何も始まらない、繰り返さないようにする為には、歴史の事実をきちんと伝える事が大切、そう思っているのではないでしょうか。今に触れる事で、垣間見える過去へ思いを馳せた心に沁みる旅でした。沖縄での組織戦の終結前後はどのように悲惨であったか、そしてそれは何時まで続いたのか、慰霊の日前夜に見た番組でしたから、猶更深く心に残っているのだと思います。

6月22日、違うもの

キュウリと、インゲン400グラムを収穫しました。蕾と同じ小豆色の種を蒔いて1ヶ月半ほどです。取れ立てのインゲンは茹でるとすぐに柔らかくなりました。エンドウは春の、インゲンは夏の緑色で、食感もそれぞれの季節らしいですね。周りの景色がゆっくり黄緑になって行く季節のエンドウは甘く柔らかで、インゲンの歯触りには夏に向かって蓄えているエネルギーのような力強さを感じます。収穫は大雨の後でした。どんなに気を付けて水遣りをしても、しとしとと降る雨にはかないませんが、いきなりの大雨は恵みをもたらしてくれる量を超してしまっているので野菜達も戸惑っているのでは、と思います。畑も庭も1日で大きな水溜りが出来て靴跡が付くほどのぬかるみになってしまいましたから、自然の力は大きいなあと感じました。
南瓜にも花が付き始めましたが、雌雄別々に咲くので受粉しなければなりません。でも、不思議と雄花が多くて雌花と同じ日に咲かない事も多いのです。それでも真夏になると放っておいても実が生る事もあるのは、虫の活動が活発になって花粉を運んでくれるからでしょう。野菜の栽培をする自分を想像した事もなかったのに、好奇心が湧いて来て未知の世界に足を踏み入れたような楽しさがあります。父は畑仕事が生きがいのような晩年で、白菜などスーパーに並んでいる物より良い物を作って親類にお裾分けしていました。手伝ってみたいと思った事もなく、学生時代に実習に行った所の先生から、住宅街に暮らしていると休日には土いじりがしたくなるので菜園を借りて色々作っているのだけれど、あなたの年齢ではまだ土が恋しい気持ちは分からないでしょうね、と言われた事があります。確かにその通りでした。
自然と人間は切り離す事の出来ないパートナーなのでしょうね。そして、若い頃には速足で前のめりに歩いているように毎日暮らしている事が多いのかも知れません。年齢によっての感じ方の変化は、古今東西あったのだと思います。そうやって様々な根っこを持った人間が、自分とは違う人間と出会って生きて行くのも何だか楽しい事のように感じられ、出会った人達はきっと皆私の師匠なのだと思う今日この頃です。

6月20日、自分のいる場所

特定の宗教でも思想でもなく、自分の今いる場所とは何なのだろう、と考えてみました。どのような家庭に、どんな遺伝子を持って生まれ、親にどういう風に育てられるかで、その人の性格の基礎が出来て行くのだと思います。そこから巣立って自分で選択した人生を生きる時、この基礎で学習した事を取り入れるのか反面教師にしようとするのかは分かりませんが、その基礎に基づいて人生の節目での選択がなされて行くのでしょう。そのような様々な影響を受け、今ここに自分という人間がいるわけですから、選択の余地のない基礎を持ち、大人になって選択した場所で自分の生活を営んでいるという事になりますね。マイナスだったと思う事を否定したくても過去を変える事は出来ないので、そこから何を得てどう役立てて行くのかが大切だと思います。それが今いる場所で生きる事のように思います。別に困難から抜け出す努力をしないで流されるように消極的に生きる事ではないと思えるので、自分のいる場所で生きる事も悪くはないとこの頃思います。

6月18日、コンダクター

ラジオで、こんな話を聞きました。オーケストラを指揮する時に、高圧的に従わせるようにすると音が逃げて行く、でも自然体でよく音を聴くように指揮すると音が集まって来る、そういうお話でした。なるほどと思います。楽団員と指揮者との交流がどのように行われているかが演奏にあらわれる、それはコミュニケーションがうまく行っているかどうかという事になります。子育てや会社での部下とのかかわり方、子供の学校での他の親とのかかわり方などとも通じる所がありますね。このところ、驚くような犯罪や痛ましい事件の報道が多く、心の温まるようなニュースはないものかと思っていましたので、ラジオを通して人とのかかわり方のヒントをもらう事が出来て私の耳もとても喜んでいます。

6月16日、梅雨の晴れ間

大雨の後の晴れは思ったよりカラッとしていてしばらく続いて欲しい青空です。洗濯をしたり鉢の中で大きく育った花を庭に植え替えたりしました。鉢の中ではこれ以上無理と思うほど大きく元気に育った花も、庭に植えて見ると随分小さく見えます。自分を測る尺度も、どの範囲の何を基準にするかで、こういう風に違って来るのでしょう。誰とどんな点を比べるのか、その点以外の部分も勿論持っている事を忘れずに、井の中の蛙にならないで、そして、自分の劣っていると思う側面だけ見て落ち込まないよう、心のバランスを取って行きたいものですね。

6月15日、ケシの実

久しぶりに富津のイオンに行って見ました。歩いて45分位です。レモンポピーシードスコーンを売っている店でコーヒーを飲んだのですが、シードというとシルクロード、香辛料、と連想して、東西の食材は険しく長い道を通って運ばれ、流通して食卓に取り入れられて来たのですから人間には柔軟でたくましい所もあるのだと感じました。このスコーンは買いませんでしたけれど、ケシの実は以前から好きでした。蒸しパンの上に白いケシの実が付いていると芳ばしいし、胡麻より小さい粒なのでパンの邪魔をせず、味を引き立てているような気がします。ですが、今はケシの実が使われている商品が随分減りました。ケシの実は白い物ばかりでなく黒いままの物もある事は長い間知りませんでした。紫陽花が色づき始めた道をてくてく歩いていると、子供の頃親に連れられてよく買い物に行った大堀のまちは大きく変わったけれどどこか懐かしさを感じます。45分の道はタイムマシンのようで、その日の私には歩くくらいのスピードが丁度良いと感じました。車では気持ちがついて行けないほどの変わり様なのですから。

6月14日、杏色の杏

今日は洗濯日和ですが、雨が続いて外仕事が出来ない日の多い季節ですね。止み間にジャガイモを収穫し、杏をもいでジャムを作って見ました。ジャガイモは雨でドロドロになった土の中から顔をだし、茹でたらすぐに柔らかくなる水分の多い物になってしまいました。これでは保存は出来ません。早く掘れば良かったのに残念です。
熟した杏はまさに杏色、とても綺麗な夕焼けの色です。ほのかな香りはどこか控えめで浴衣の似合う清楚な美人のようですが、それでいてエネルギーが一杯詰まっていそうにも見えます。煮詰めて行くと果肉がとろっとして、やや黄色に近い薄い色になるのも見ていて楽しいです。雨の日はこうして保存食を作って過ごすのも悪くないと思いました。雨だから出来る事は、さがして見ると結構ある物です。物の傷みやすい季節に丁寧に手を掛けて夏に備えたり、一年分の梅干しやラッキョウを漬けるという事は、昔の人の知恵なのでしょう。こういう手仕事で作られた物に込められた家族の健康を思う気持ちも一緒に頂いて暮らしてきた事を改めて思いました。元気で夏を迎えたいですね。皆様もどうぞお身体にお気を付け下さい。

6月13日、花菖蒲

花菖蒲の蕾が開き始めました。雲居の雁という名の品種もあり、その名から源氏物語の登場人物雲居の雁がまるで実在の人物だったかのような錯覚を覚えます。風に揺れる花びらが、平安美人が香を焚きしめた十二単姿で歩いているような余韻が残る姿で、いつまでも見ていたいと思う風情のある花です。水辺に咲く花菖蒲は、優雅で艶やか、気品があって慎ましやかにも感じられ、紫陽花と並んで梅雨によく似合う不思議な魅力を持った花だと毎年思います。

6月11日、洗濯物を知る

梅雨時は洗濯物が乾き難く、かと言ってジメジメしているので洗濯物を減らす事も出来ません。乾き難い時には干す場所を工夫したり乾燥機を使ったり、カラッと晴れた日に比べて手間が掛かります。晴れた日は、洗濯物を干していると気分がすっきりする事がありますからこれもストレス解消に少しは役立っているのかも知れませね。洗濯機のなかった時代は大家族が多かった時代でもありますから、主婦にとって洗濯は時間のかかる重労働だったのだと思います。今はあちこちにコインランドリーがあるので随分大きな変化です。
祖母は洗濯の上手な人でした。毎日盥で固形石鹸を使っての洗濯でした。柔軟剤も漂白剤もないのに祖母が洗った物は汚れがすっかり落ちて綺麗でしたし、乾いた物が柔らかいのです。確かに洗濯をしている時の手の動きが他の人とは違って汚れた所に力を入れ過ぎず、ふわっと布を扱っている事に気付いた時は不思議な物を見つけたような気がしました。何となく、ぐずっている子供を上手にあやしているような、洗濯物の扱いがぞんざいでなく、どこか優しいのです。今では洗濯機を使う事がほとんどなので、忘れかけていた事なのですが、洗濯物とのコミュニケーションが取れていたように感じ、クライエントさんのお話をお聴きする時のカウンセラーのようだったから乾いた時の手触りがあんなに優しかったのだと思え、今日は祖母がとても懐かしくなりました。洗濯をする祖母が黙っていても伝わって来る事がこうしてあったのですから、雄弁だったとも思えるのです。

6月10日、死角

君津駅の通路に展示されている市内の小中学生の絵は時々貼りかえられていつ見ても新鮮です。子供の真っ直ぐな目や曇りのない気持ち、そういう物が一杯詰まったイキイキとした作品ばかりです。最近、パズルをつなげて作ったように描かれた家族の絵に出会いました 。笑顔の家族は人間だけではなくペットもいて、幸せそうで温かい雰囲気が伝わって来ました。
この絵を描いたお子さんと、世話が 不十分で亡くなり、白骨になって発見されたお子さん、どちらも同じ現代の日本での出来事です。働く環境が厳しい時代とはいえ、痛まし いニュースに胸の塞がるような気持ちです。我が家の周りは先祖代々三世代以上の同居という、今では珍しいような地域なので、ご近所が長 い間異変に気付かないなどという事はまずありません。でも、近所付き合いが全くなく、それぞれのご家庭の家族構成も生活時間も違えば、 すぐ近くのお宅で異変が起きても気付かない事もそう珍しい事ではないのでしょう。1日も学校に行く事もなく、亡くなってもずっとそ のままにしておかれたこの子の人生は一体何だったのでしょうか。驚くような痛ましい出来事を伝えるニュースに、大勢の方によって供え られた花や飲み物などの映像が映し出されました。その中のどれか一つでもこの子が生きている内にその手に渡る事があったらどんなに良かったかと思うと、本当に胸が痛みます。救えなかった命は、現代の死角に存在していたかのようで、これからは決して同じ事のない様に して行かなければならないですね。

6月7日、縦向き横向き

ビニール袋には開けやすいように矢印がある物が多いですね。でも、その矢印を手で切ると袋が縦に切れてしまう物がほとんどです。ですから削り節などハサミで袋を切らないとこぼれる事もあります。食料品などは何故縦に切れるようにしてあるのだろうといつも思います。そんな事を考えた事のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。買い物の帰りにスーパーのレジ袋が縦に裂けて困った事、ありますよ。
また、最近のガスレンジは少量の物を調理していると、鍋やフライパンが調理が終わらない内にかなり熱くなるので火が細くなり、消える事も不便に感じます。ガスレンジに網を乗せてお餅をこんがり焼く事はこれでは出来ません。オーブントースターで焼くと楽しみが半減してしまいます。とろ火で乾物を茹でるのも、時間が長くなるとガス漏れのように判断し、火が消えます。これもお節作りには不便です。ですから、安全ではあってもあまり料理を作らない人が考案したのでは、と思う事があります。今日は日常生活の中の小さな不満とも疑問ともつかない事を書いてしまいました。こんな些細な事は結構あるものですね。

6月4日、蚊帳

梅雨前に30度を超え光化学スモッグ注意報が発令されるというのはそうある事ではないように思います。5月末から6月初めにかけてのお天気はカラッとしていてまるで真夏のようでした。最近蚊帳が人気があるそうですね。何故でしょうか。昔は深緑や白と水色のグラデーションの蚊帳などがありました。蚊取り線香の匂いは夏の夕暮れ時の懐かしい匂いです。雷が鳴ると、蚊帳に入っていれば大丈夫、と言われたものです。私は蚊帳が好きではなく、雷は怖いので、ガラスかエボナイトの家で暮らしたいと思いました。蚊帳は蝿帳のようで閉塞感があり、蛍が中に入っていても息苦しい様な管理されているような、そういう風に感じて蚊帳の好きな友達が不思議でした。彼女にとって蚊帳の中は守られていて安心な空間だったのでしょう。私には自由を奪われる所のように感じられたのですから、反対ですね。今、彼女は蚊帳は面倒なので吊らなくて楽、と言いますし、私は蚊帳の中の時間をゆっくり楽しんでみたいと思うのです。面白いものですね。

6月2日、踊る長靴

去年お隣で頂いた10本のソラマメの苗、アブラムシが付きやすいので心配しましたが、沢山実を付けてくれました。親類や友人にお裾分けしたら残りはほんの少しになりました。でも、収穫の喜びを分かち合えたようで我が家ではいつもの年より美味しく感じました。玉ねぎや干しエビとかき揚げにしたり炒め物に入れても綺麗で美味しいです。アサリと筍、蕗などの煮物も季節感があって良いですね。鉢植えの山椒の新芽を煮魚に入れたり木の芽和えに使ったりと重宝しています。ナスやさやインゲンも小さい実を付けましたから梅雨が近い事を感じます。梅雨というと傘や長靴を連想してしまいます。最近スーパーではお洒落な長靴が多く、カラフルです。雨の日は傘ばかりでなく、失礼にならないように、人の足元にも目を向けて見たい気がします。通学時の子供の長靴は、足取りも軽く音符が踊っているように見えます。そんな風に学校での学びや対人関係が楽しい物であって欲しいですね。

6月2日、成長する力は

もみじの新芽は、雨に濡れると風情があって一層美しいと感じます。雨風の中でも植物はすくすくと成長して行く力を持っているのですね。我が家の玉ねぎ、去年の11月に植えた時は、とても細くて水不足だったものですから、葉先が枯れて心配でした。でも、無事に収穫出来るまでに育ってくれたので一昨日全部収穫しました。今年初めての真夏日、気付いたら30度を超えていた、という日に収穫するとは何というタイミングでしょう。ところで、ふっと考えるのは2月から行方の分からないままのキジトラ猫アスカの事、何とか無事に生きていてもらいたいものです。時折、もしやと思うような目撃情報を頂くのですが、残念ながらまだ再会する事が出来ません。大きくなって嬉しそうに庭や畑を駆け回っていました。とても人懐こく優しいおおらかなオス猫ですから、どこかの家で可愛がられている可能性もあると思います。何かにつけて思い出し、帰って来て欲しいと思うのはどうやら人間ばかりではなく、母親のようにアスカの面倒をよく見ていた猫も同じらしく何となく元気がありません。す。アスカの、持って生まれた能力や生きて行く力を信じ再会を願っています。

　　

6月1日、わらしべ長者

初夏には柑橘類が多く出回ります。もっとも、今は寒い季節からいよかんなど店頭に並んでいますね。夏ミカン、というと私はわらしべ長者の話を思い出します。持っていた物を欲しいという人にあげてお礼に別の物をもらい、次々と取り換えて行くこの話をご存じの方も多いと思います。喉が渇いているのに水がなくて困っている人に、その前にもらった物である夏みかんをあげて反物をもらう、という場面を思い出すものですから、私にとってこの季節はわらしべ長者の季節なのです。人から頂いた物を別の方に差し上げたり、この間頂き物をしたのでお礼に家で作った物をお裾分けするとご近所さんとの交流になると先日お話しましたが、別に物のやり取りでなくても何かをきっかけにした人との交流は、楽しいだけでなく、色々教えられる事も多いですし、視野が広がると感じます。年長の方の経験に基づくお話には説得力があります。経験の重さとでも言ったら良いのでしょうか。勿論、人の悪口のような噂話ではないコミュニケーションだからなのでしょう。こういうコミュニケーションから目には見えない物を頂く事は、わらしべ長者が段々高価な物をもらう事にも似ています。自由に、でも相手の気持ちも考えて思っている事を言う、それは一生の課題かも知れないと思っています。そういう時、謙虚である事も大切ですね。

5月31日、限りのない気付き

友人にも色々な性格の人がいますが、教えられる事がとても多いと感じます。ある友人と話していると、自分があれこれ思い迷って思い切りが悪く、なかなか新しい物を選択するという一歩が踏み出せない事に気付きます。彼女のように動き出せたらさぞ視野が広くなって合理的で快適な生活が送れるだろうと思う時があります。ですが、あれこれ迷っている時間は私にとっては自分が納得するのに必要なのでしょう。気が合うけれど自分とは性格の違う友人も良いものです。若い頃は、感謝して現状に満足していると進歩がない、前に進まないのは消極的、世の中の動きは速いのに、と思って焦っていたものです。その時はそうやって前に進もうとしている事が自分の原動力になっていたのだと思いますから別に悪いとは思いません。でも、今では、感謝も立ち止まって振り返る事も同じように大切だと感じます。年を取らなければ分からない事がある、という事を体感出来る事の素晴らしさ、あるのですね。こんな風に思う事はとても前向きな事なのかも知れません。

5月30日、手仕事

ベトナムには、人の顔を立体的に描き出したような精巧な刺繍があるそうです。植物を育てて糸を繰り、染めてその国ならではの織物を織る事は多分何処の国でもずっと昔から行われて来たのでしょう。機械を使わずに一枚の布にして着る物を作る、それは大変な手間の掛かる事でもありますね。今の時代、その技術を伝えて行く事は並大抵の事ではないと思います。手作りの物の色や風合いは良いけれど買うには高い、そのように思う事の多い現代です。家での繕い物、雑巾を縫う、そういう事も今の日本の家庭では随分少なくなったのだろうと思います。良い悪いという事ではなく価値観や暮らしが変わったからなのでしょう。新しい事を上手に適度に取り入れると便利ですが、段々ついて行くのが困難になり、葛藤するようになるかも知れません。それが、自分が年を取る事の一つの尺度になると感じます。ただ、先人達への感謝や温かい思いが根底にあるという事が、どのように技術が変わって行く時にも不可欠だと思えるので、古い事に目を向けるのを止め、すべて否定してしまっては進歩のないような気がします。

5月29日、喫茶

ペットボトル入りのお茶がコンビニやスーパーで沢山売られていますが、たまに喫茶店に入りたいと思う時があります。でも、喫茶店にはコーヒーや紅茶、ウーロン茶はあっても美味しい煎茶はありません。夏など水出し玉露も美味しいですね。不思議な事に日本茶の飲める店はほとんどないように思います。水も茶葉もお茶を入れる温度も考えるとなるとコストが掛かり過ぎるのでしょうか。そういう喫茶店のメニューがあったら良いと思うのは高齢の方ばかりではないと思います。和食が注目されていますが、日本茶を美味しく淹れてくれる店も是非増えて欲しいものです。もっとも、昔はお茶は自分の家で、という方が多かったですね。田舎では、漬物や佃煮も季節に応じて作っていましたからそういう物もそれぞれの家庭の味がありました。生まれて半世紀時間が流れるという事は、長いのだろうか短いのだろうかとふっと考えてしまいました。

5月27日、ゴミゼロ

段々梅雨の季節が近づいて来ました。連想するのは毒キノコ、皆様は如何でしょうか。今年の夏はエルニーニョの影響を受けそうですね。冷夏や台風、猛暑の心配をしなければならないのですから、農作物の収穫量も分からないというおぼつかなさ、困った事です。一番困るのは米が不作になる事でしょう。今穏やかに晴れていても明日は波乱含みという事が増えて来たように感じます。それでも、どうしたら良いか考えて様々な取り組みがなされていますし、毎年春と秋のゴミ掃除も、ゴミを減らしたり分別したりを考えて実行するきっかけになるのでは、と思います。自分が掃除をしてみてわかる事、多いですよね。

5月25日、船の旅

豪華客船でのクルーズがテレビで時々紹介されます。オランダのアムステルダムから9泊10日で大西洋沿いに南へ、そして地中海へ入りスペインのバルセロナまでというクルーズは、2200人の各国からの旅人を乗せて、空は濃い灰色の雲間から日が射し、遠くに青空も見える複雑な、ホワイトオパールが輝いているようなアムステルダムを出港して行きました。こんな旅を楽しむ人達もいるのかと驚くほど豪華な船なので、色々な国の沢山の町を見たり外国の人達と交流したらさぞ視野が広くなるだろうと思いました。でも、やはり別世界の事のように感じます。長年連れ添ったご夫婦や家族連れが多いようでした。人の生活は本当に様々ですね。
やがてイベリア半島に沿って船は進んで行くのですが、船の後ろには水色の油絵の具を流したような波が立ち、穏やかな天候です。様々な人生を歩んで来た人達が出会い共に過ごす10日間は、しばし立ち止まって自分が生きて来た過去を振り返る時間にもなりそうです。まるで自分の心を映す鏡のような地中海は、あくまでも美しく澄み重厚に見えます。いぶし銀の趣きとでも言ったら良いかも知れません。自分にはとても手が届かない世界を垣間見たわけですが、楽で楽しいだけという暮らしはないと思います。皆それぞれ悩みがあったり努力したりして、自分の場所で生きているのでしょうね。

5月24日、収穫時季のサプライズ

我が家の夏野菜の苗は順調に成長しているようです。今日はソラマメを少し収穫しました。玉ねぎも畑から抜いて食べ始めています。ご近所さんから、家にない野菜を頂いたり、家の野菜を親類や友人にお裾分けしたり、そういう交流も楽しいですし、珍しい料理法や漬物の事など色々と気軽に教えてもらえます。収穫の季節は思わぬ交流のきっかけにもなるようです。今風に言うと物を通してのサプライズ、でしょうか。

5月22日、3Dプリンター

3Dプリンターは何でも写し取って立体化出来る物で、医療にも役立つと聞いて大変驚きました。私にはその複雑な仕組みが全く分かり ません。でも、良い物もそうでない物もコピー出来るとなると、以前なら考えもつかなかったような物までコピーする人が現れるのでしょ うね。新しい物が作り出された時は何時でもそうだったのだと思います。物には意志も良心もないのですから、まさに使う人間次第、それ は私達人間がいつも試されているように感じます。ところで、静岡県で美しい殻を持つカタツムリの展示が始まったそうです。 見てみたいですが、この殻の中にはカタツムリの心も入っているのだろうか、などと考えてしまいました。

5月21日、湧水に生かされて

秋田鳥海山の麓は、どんなに気温の高い日でも水が枯れる事がありません。湧水はブナの森の栄養分をたっぷりと含んでいます。湧水 は日本海に達し、梅花藻を育て海を豊かにするので、日本海の岩牡蠣が夏に大きく育つのもその恵みのおかげです。山の岩肌に咲く高山植 物はブナの森からの雨雲からもたらされる雨によって育ち、花を咲かせます。杉を育てる為に多くのブナが伐採された時期もあったという 痕跡が今も森に残っているのが痛ましく感じられます。40年から50年程前の伐採によって湧水が減っているのでは、と考えている人達もい て、麓では今植林が行われています。長い間多くの命を育み、見守って来た命の源とも言えるこの湧水を、海で牡蠣漁をする人達や麓の田 んぼで稲を育てる人達も大切にしている様子が伝わって来る映像で、生かされていると言う言葉が印象に残りました。ブナの緑を映す澄ん だ綺麗な水は、心も潤し豊かにしてくれるようでした。
循環、連鎖、という言葉が浮かびます。産業の衰退で沿線の人口が減り、道 路が整備されて赤字になり、廃線となった各地の鉄道の跡を取り上げた番組を見て、どんなに乗客が減っても病院へ通院するお年寄りや高 校生の通学に欠かせなかった鉄道がなくなり、おそらくバスが利用出来るのでしょうけれど、敷設までの苦労を思うと理屈では割り切れな い勿体なさを感じて気持ちが重かったのです。そんな私の気持ちを少し明るい方向へ、鳥海山の湧水が動かしてくれたようです。テレビの スイッチを入れて良かった、とまるで私もこの湧水を飲んで蘇生したような気持ちになりました。

5月19日、絶妙なコミュニケーション

住宅街を歩いていると濃厚な香りが漂っています。蜜柑などの柑橘類やジャスミンが花盛りだからです。我が家のレモンやデコポンの 花もぼつぼつ咲き出して来ました。バラの季節でもありますね。遊歩道では枇杷の木に小さな実が生り、柿もヘタの部分がはっきりして来 ました。着実に時を刻む植物の成長は、自然との二人三脚のように感じられます。あうんの呼吸で相手の気持ちを汲み取り、こんな風に手 を携える事が出来たら良いですね。何気なく見ている季節の変化と自然との間には、私などにはとても真似の出来ない絶妙のコミュニケー ションが出来る絆があるかのようです。長い年月を経ての事なのでしょう。人間も決してあきらめず、コミュニケーション不足に陥らない ように暮らして行きたいものですね。

5月17日、体内時計

生物は体内に正確な時計を持っている、時計その物がなくても体のリズムは規則正しく時間を認識出来る、以前そういう本を読んだ事 があります。その体内時計は、時差がある長距離を比較的短い時間で移動すると正確ではなくなる、つまり飛行機で海外に行く場合などで しょう。特に西よりも東に移動する方が負担が大きいと聞きました。その体内時計を正確にするのは夜暗くなったら脳から分泌されるメラ トニンというホルモンで、朝起きて昼は明るい所で過ごし、夜は暗くして眠る事がこの物質を多く分泌させる事になるのだそうですよ。規 則正しい生活が体を守る効果があるという事なのでしょう。その内、体内時計が不正確で辛い場合の治療法が確立されるという事が期待出来そうですね。

5月15日、万華鏡

自分がどんな人間なのかはそう簡単に分かるものではありませんね。自分の事だから分からない点もあります.普段では考えられない事 が起こった時に自分でも驚くような言動をする、そういう事があるかも知れません。自分の心の奥深い所は意外と見えないものです。気付 くと辛い事には気付かない防衛が働くのも自然な事です。したくない事をしなければならない、納得出来ない事にも反対出来ない、対人関 係ではありがちです。でもそのような事が続くと、気持ちが納得できずストレスが溜まって行きます。何かのきっかけで自分がどういう性 格傾向の人間なのか、それは何故かが分かると気持ちも整理されて行きますよ。そこから少しずつ自分を変えて行く事はエネルギーが必要 ですが、生きづらさの軽減につながります。体質改善に似ていますね。
さて、皆様の心の中は今どのようになっているでしょうか。 自分の本質は、例えるとどういう色や形、大きさや奥行きを持っているのでしょうね。大きなスーパーボールのような物、小さな色とりど りのボールが集まったような物、それとも万華鏡の中みたいな心模様なのでしょうか。思うように行かない生きづらさを抱えて他者とのか かわりを苦手と思う方も、きっと豊かで複雑な美しい色合いの、深く味わい深い心をお持ちなのだろうと思います。ですからカウンセリン グでは、クライエントさんから教えられる事が多いと感じるのでしょう。

5月12日、外で食事

休日に親子で買い物に出かけて食事をして帰る、割と多い事だと思います。我が家の近くにファミレスがあるので、便利でしょうね、と友人に言われました。でも私はそこで食事をした事がないのです。我が家には小さい子供がいませんし、多分近すぎるからなのだと思います。何処かに出かけるという事は賑わっていて家から遠い場所と思っていた、それが私の価値観なのだと思います。確かに昔はめったに遊びに行かない生活でしたし、近くにスーパーも食事する店もなかったのでこういう価値観になったのでしょう。でも同世代の人達の田舎での暮らしは皆似たようなものでした。私の父はどんなに遅くなっても外でお昼を食べずに家に帰って来て食べましたし、駅なかでさっと食べられる店は苦手だという年長者もいます。育った時代の環境の影響は少なからず残っているのかも知れませんね。私は子供の頃、外での食事とデパートで物を買って貰う事や遊ぶ事はセットになっている、非日常だったのです。今の方が物が豊かになり便利になったし、購買力も格段に違うのだろうと改めて思いました。新しい物が次々と生まれ、様々な物が流行っては消えて行くそのスピードにはついて行けない程です。好奇心や便利な生活を求める気持ちと、世の中に取り残されたくない気持ちが、新しい物を求める時には働いているのかも知れませんね。便利さを追い求めたらきりがなく、かと言っていったん便利になったのに環境を考えて生活を少し昔に戻すのは多分難しい事なのでしょう。それでも、人間が身の丈に合った暮らしをする事が、子供達に出来るだけ負の遺産を残さない事につながるのだと思います。そう考えると、少し不便というのも悪くない気がします。便利な世の中になっても心に空虚感があり、他者との絆の不足を感じる事、ありますよね。

5月11日、縞木綿

テレビで木綿の縞の着物について紹介する番組がありました。縞の太さや色の取り合わせなど様々で、その土地によっても違います。縞の色が大胆に見えても仕立てあがると抑えた色合いの物、いかにも涼しげなざっくりとした風合いの物もあります。あるいは粋ですっきりしている直線なのに女性らしさを感じさせる物もあり、古風にも斬新にも見えるその不思議さに目を見張る思いです。以前見た会津木綿の太い紫や緑の濃淡の縞の反物は、ブラウスやエプロン、ベストなどにして着てみたいような物でしたし、紅花染め、米沢織り、茜染め紫紺染めなど東北の素晴らしい織物や染め物に触れる事が出来たのは幸運だったと思っています。いつの時代にも糸を紡いで染め、布を織る女性達の姿がそこにはあったのでしょう。古くからの伝統を大切にしながら夢を織物に託しての創意工夫も、あったのかも知れませんね。歴史を辿るのは自分が昔の人達と一緒に歩んでいる気がして、空気を切り取れば透明感のある緑のしずくが滴るような青葉の中を歩いてでもいるような清々しさを感じます。これも織物の歴史を垣間見る事が出来たお陰です。

5月10日、浪間を明るく

韓国の旅客船の事故は、救命胴衣を身に着けていた方が多かったそうですから海に飛び込んでいたらもっと多くの命が助かっただろうと思え、痛ましい限りです。事故、天災も勿論怖いですから同じような出来事を教訓にする事が大切でしょうけれど、戦争や紛争はどうしてなくならないのだろうと考えてしまいます。互いに多くの命が失われる事の辛さは十分分かっているでしょうに、人間はどこかでずっと繰り返してきたのですよね。必ず相手の方が悪い、と言います。戦いは若い命が失われ、家族は悲しみますし戦った相手の国や地域との間には長い間深い亀裂が残ります。命が助かった人達の心が負った深傷はそう簡単に癒えるものではありません。そういう事はいつの時代でも誰もが分かっている事の筈です。国境を決めて線引きをしてもそれが生き物のように変わる現実に圧倒され、ため息が出そうです。海の、ある場所を国境と決めても、まるで浪間に国益という物が見え隠れしているかのようで、法衣の下に着用している鎧が見える、そういう言葉を思い出しました。とても単純な言い方ですけれど、皆で何とか仲良くして行きたいと切実に思う今日この頃です。一人ひとりは家族と幸せに生きて行きたい普通の人間なのですから。国境を守っていた老人と若者は互いに隣国の兵士、でもある時二つの国が戦争をし、という小川未明の、のばらという物語が心に残っています。ご存じの方が多いと思いますが、まだ呼んだ事のない方は是非読んでみて下さいね。

5月9日、働き者

我が家のご近所さんは元気で働き者という方が多く、朝可燃ごみを出すのが6時半位ですと一番遅いという事になります。別にゴミを出す時間を競うわけではありませんが、つい早く出さなくては、と思っていた時期があります。朝早くから畑や庭を綺麗にしている方や早く出勤なさる方も多いので、何だか自分が大変な怠け者のように思う事があります。別に誰も何も言わないし特別怠けているわけでもないのですけれど、夏など日が出てから起きる自分は近所で一番寝坊しているように感じて、まるで強迫観念のようだと笑ってしまいました。冷静になれば皆何でもない事なのですよね。でも周りの方に刺激を受けてテキパキと動いて24時間の使い方をちょっと変えて見るのも悪くない気がします。無理せずにそれでいて人につられて行動するのも楽しく、私にとっては新しい発見や開拓のように思います。

5月8日、遥か彼方

500光年先に地球に似た惑星がある事が分かったそうです。餌をついばみにやって来る小鳥の声を聞きながら草刈りをしていて、遥か彼方の星に生物が住んでいるかも知れないと思うとそれは驚きですが、もしかしたらその星に住んでいる誰かも地球に住む生物はどんな心を持ちどんな生物なのだろうかと、私達人間に思いを馳せているかも知れない、姿は違っていてもまるで鏡を見ているような一致があるのだとしたら不思議だと思いました。でも、そんな事は知り様もない事です。分からない事はまだまだ沢山あるのですね。

5月7日、書いてみる

うまく説明出来なかった、嫌な思いをした、気まずい雰囲気になったけれどあの時どうしたら良かったか、そんな事があった日は、1日の終わりになっても魚の小骨が喉に刺さっているような気持ちのままですっきりしない、そういう事はないでしょうか。そのような時、その引っ掛かっている出来事をノートに書いて見ると気付かなかった自分の心の奥が見えて来たり、気持ちが整理されすっきりする場合があります。
怒りや悲しみで傷ついた自分の心の細部を虫眼鏡で見るように見たり、不快に感じた出来事を一歩離れた所からマクロに見てみる、この両方が、時間をおいて振り返る時には冷静に出来るからなのです。誰しも人とかかわりながら生きています。出来るだけ自分や相手の傾向が見えて来てスムーズにかかわれるようになると良いですね。振り返ってみる事がストレス解消につながって行くという一つの例です。
また、怒りや悲しみもすべて我慢してしまわないで安全で安心な場で出す事も、ストレスを溜め込まない方法の一つです。ストレスが溜まりやすい、コミュニケーションが苦手だ、と思っていらっしゃる方は、試してみて下さいね。

5月6日、時々ウサギになる

我が家でも、ナスやキュウリ、トマト、カボチャなどの夏野菜の苗を植えました。日々育っている玉ねぎやインゲン、ジャガイモやソラマメなどを見ると季節が動いている事を実感します。畑の入り口で道路沿いではない場所に、事故にでも遭ったのか狸が死んでいました。可哀想という気もしますが野生動物なので市役所に電話し、担当の部署の方に来て頂きました。それが夏野菜の植え付けのきっかけのようになって、量が多くないので1日でほとんど苗を植えてしまいました。私はコツコツ草取りや畑の手入れをしないで、ある時まとめてやるものですから結構大変なのです。ウサギとカメのウサギのように昼寝をするゆとりはないけれど、短期間だけ思いついたように一生懸命畑などの外仕事をするというのは、時々カメと競走したウサギになっているみたいですね。外の仕事は大変なので、寒かったりやる気になれない時は結構怠けている自分なのだと思います。

5月5日、スロベニア

カルスト台地で葡萄の栽培に適しているスロベニアの竪穴の洞窟で古代の人類が描いたと思われる壁画が見つかったそうです。7000年前の人の生活や当時の環境、コミュニケーションはどのようなものだったのか解き明かされる糸口になるのでしょう。今、この洞窟を発見し調査している人達は、古代人が歩き、呼吸し確かに生きて暮らしていた地に、長い年月を経て足を踏み入れ、その大地に立っている、そう考えると古代人との不思議なつながりと言いますか結び付きを感じます。長い間知られていなかった奥深い洞窟にも、現代の地上と同じように時が刻まれて来たのだと思うと、地球の歴史に、深いもう一つの世界があったような奥行きが感じられます。声が響く洞窟には、古代人の会話の余韻が残ってでもいそうだなと思いつつ、豆腐屋さんの移動販売車のラッパの音に、現代の日本の夕方という現実に戻って来た今日の私です。

5月3日、初夏へ

毎日草取りという季節になって、連休に出かける方をちょっと羨ましく思う事もあります。夏野菜の種蒔きや植え付けがご近所でも始まりました。畑仕事はおじいちゃまとおばあちゃまがなさるお宅が多いようです。今収穫したばかりというサヤエンドウを頂きました。茹でたら絹のような舌触りで美味しかったですよ。私も小さな玉ねぎを初収穫、辛いけれどとても甘い玉ねぎでした。今年も、気が付けば毎晩蛙の合唱が賑やかです。静かに時間が過ぎて行きますが、自分の家族の事ばかりではなく、痛ましいニュースのない日はありませんからいつも穏やかでのどかというわけには行きません。ストレスが全くない事が良いと一概には言えないようではありますけれど。この春進学したお子さん達は、新しい環境に慣れたでしょうか。そろそろ疲れが出て来るころかも知れません。連休中にリフレッシュ出来ると良いですね。少し休む事も時には大切です。

4月30日、リラ冷え

4月25日は作家三浦綾子さんのお誕生日だそうです。三浦さんは77歳で亡くなられた方ですが、キリスト教への信仰がとても深い方だった事がその作品からも感じられました。三浦さんの小説を読んだのは、母が亡くなって間もなくの頃でした。三浦さんの初めての小説氷点に引き込まれ、これが懸賞応募の初めての作品だという事に驚きました。心理描写の多い物で、何か作者から宿題を出されているように思った、今まで呼んだ事のない複雑な物だったのです。人間の臨死体験、人は一体何処から来て何処へ行くのか、そういう事がとても気になって何冊もの本を読みました。私は特別宗教を信仰しているわけではありませんが、それでも、母を失った悲しみの中で普通に生活しながら、喪失感が大きかったのだと思います。そのような時に人は宗教に安らぎや救いを求めるのかも知れませんね。人間は死んでしまったらそれで終わりとは、どうしても考えられませんでした。その時の混乱から気持を整理し、一歩踏み出すには、三浦さんの本がどうしても必要だったように思います。旭川に生まれ育ち、多くの作品を旭川で書き続けたそうです。晩秋の旭川のナナカマドの美しい紅葉を思い出し、初夏の白いライラックの香りが天翔けるような札幌の街を訪れた時の事も思い出しました。6月の北海道は、春と初夏が一遍にやって来たように清々しく、山躑躅のオレンジ色の花とパンジーが一緒に咲いて、ポプラの綿毛がふんわりと飛んでいました。今家の庭に紫のライラックが咲いています。4月25日は、我が家の2匹の猫の誕生日、2匹は家で生まれ育った姉妹で18才になりましたから、人間ですと80代後半以上という事になります。大分年を取りましたが、これからも出来るだけ幸せに生きて欲しいと思っています。朝晩冷え込むのでリラ冷えという言葉がふっと浮かびました。2月から行方が分からないキジトラ猫アスカはまだ見つかりません。巣立って行ったのだしても、是非再会したいです。

4月29日、地層

小学校高学年の頃、理科の時間に地層を見に行った事があります。君津のこの辺りは、北側の山を越えるとバスの走っている国道があり、その北は海でした。70メートル位の山には坂道があり、妃塚という古墳もありました。海で働くにはその坂道を行ったり来たりするという生活道路でした。坂を上ると平らになり、その先は下り坂、その下って行った所には幾重にもなった地層がはっきり見える場所があったのです。その時、人間がまだ住んでいないずっと昔は山の途中まで海だったと知りました。山の南側には集落があるわけですが、畑などが粘土なので、雨が降るとぬかるみ、晴れの日が続くとカチカチになります。ずっと昔はどんな所だったのでしょう。
シルクロードの、赤い地層が美しい映像を見たのですが、鉄分を多く含んだ所で、長い間空気に触れていた為にこのような不思議な褐色の地層が作られたのだそうです。長い時間かかって自然が作り出した光景ですね。南米の、フラミンゴがやって来る強い酸性の湖、トルコのカッパドキア、皆そうなのでしょう。分からない事を知りたいという思いが科学の進歩の根底にあり、それは人間の好奇心という事になりますよね。車で言うとこれがアクセルでしょうか。
今、夏目漱石の作品に注目が集まっていると聞きます。則天去私という言葉を教わったのは漱石の作品が取り上げられていた高校の国語の時間でした。明治の知的な青年の苦悩や生活を今読者がそこにいて生々しく感じられるように描写した漱石を素晴らしいと思いましたが、今あの漱石と、決して出来ませんが、一緒に地層をながめて話す事が出来たら私にとっては最高の贅沢だろうなあと思います。

4月27日、本物の味

先日、田の畔で収穫したばかりのセリを頂きました。茹でて切った瞬間に、野性味の強い新鮮な香りがしました。美味しかったですよ。かつては、田舎には自然が一杯でそれが当たり前の日常でしたけれど、山菜や野草、魚などをスーパーで買うようになって久しい事を改めて思いました。自然な物を食べるのは贅沢な事なのかも知れません。さて、今年は南瓜の種を蒔きました。無事に育つのはどれほどか分かりませんが楽しみです。種苗店やホームセンターに並ぶ夏野菜の苗の種類が随分増えて来ました。八重桜もこの辺りではそろそろ終わってツツジや牡丹、藤の花が咲いていますが、朝晩気温の低い日も多いので新茶の季節を前に茶畑などに霜の被害がないと良いですね。

4月23日、大きく見えた物

小学生の時に地域の子供会で行った海岸に40数年ぶりで行きました。たまたま近くを通ったので立ち寄ったのですが、今が海水浴シーズンでない事もあって、覚えている光景とは随分違うものでした。昔の方が海が綺麗だったように感じただけでなく、もっとずっと広かったような気がします。子供の頃行った時には人がとても多くて驚いた繁華街が、大人になって行くとそれ程でもなく感じられ、拍子抜けしてしまう事などありますよね。経験を積み重ねて視野が広くなる、自分の背も勿論高くなる、そういう事があるのでしょう。
でも、自分の知らない広く大きな世界が目の前に広がっていると思っていた頃は、可能性という物は無限だと感じていたかも知れず、夢や希望や好奇心で一杯だったのかも知れません。私が人生の折り返し点を過ぎ、出来る事の量や質が減り、選択の範囲も狭くなったのだろうと思います。だからこそ感じる事や出来る事もありますし、来し方を省みて行く末を考える事は大切な事だと思いますが、やはり、あの海岸が驚くほど広かったと思っていた頃を限りなく懐かしいと感じます。
いつも行かない所に行くと視点が変わって気付く事がありますね。非日常には、自然に意識と無意識の循環を良くしてストレスを解消し、生きづらさを軽減する効果があるような気がします。幸せに、そして、生きたい思いが人間の心の中にはあって、それが自分を成長させて行く源になっている、そんな風に思いました。

4月19日、コンビニ

コンビニエンスストアが初めて日本に出来て去年で40年経つそうです。品揃えや店舗数は驚くほど増えてコンビニにしかない食品も次々生まれていますね。コピーや現金の振り込みも出来ますし、弁当を買う人も多く、日曜日のブランチ頃の時間帯など、レジは行列が出来ています。今は配達もあると聞くと、昔個人商店のそれぞれの店がしていた事だったと思い出し、そういえばネットスーパーもあると改めて大きく変わった事に気づきました。子供達にとって、コンビニは手軽にお菓子などが買えるだけでなく、子供110番の家の役割も果たしていると感じます。店でおにぎりとお茶を買う、かつては考えられない事でした。これからどんな役割を期待され、どのように変わって行くのでしょう。コンビニも社会や時代の変化を映す物の一つなのですね。

4月17日、独楽

独楽は一定の速度を保って回っているから倒れない、しっかりとした軸があり、その軸がぶれないから、回っているのに動が静に見える、人もこれに似ているという風に曹洞宗では考えるのだそうです。含みのある話ですね。色々な事を考える時のヒントになりそうです。座禅をして見たくなりました。

4月13日、記憶に残る音

匂いは記憶に残る事が多いと以前お話ししましたが、音も記憶に残っている事が多いものです。例えば、嫌な出来事が起きた時に丁度ヘリコプターが飛んでいたとか、蛙が鳴いていたなどという事があると、小さい時の事で出来事そのものは忘れているけれどその時の音だけは覚えていて、その音を聞くと緊張するなどという事があります。
私は小さい時、夕方汽車が鉄橋を渡る時鳴らす汽笛が嫌だったようで、普段あまり泣かない赤ん坊だったのにその時はいつも泣いて困った、と母から聞いた事があります。ただ大きい音だったからだけなのかも知れませんが、興味があります。汽車が走っていた記憶はあまりなく、いつの間にか電車に変わっていましたが、大人になってからもイベントで走る汽車の汽笛はあまり好きにはなれません。巨大な力を持った物に圧倒されそうに感じ、創造より破壊、田舎より都会、過去より未来を考えてひた走っているような気がするらしい、と気付きました。古い物と新しい物の融合がそこにはなく、ひたすら前に進んで行く、そんな風に何故感じるのかはよく分かりません。でも、汽車に乗るのが嫌いというわけではないのです。汽笛の古い記憶はないけれど汽笛にマイナスのイメージがあるのは、自分の性格傾向と何等かの関係があるのでしょう。
皆様はどんな音を覚えていらっしゃるでしょうか。あなたの好きな音嫌いな音は、何かに付随して記憶に残っているものかも知れないですね。

4月9日、大きく見えるランドセル

久しぶりに草取りを始めました。雑草があんまり元気なのでため息が出そうです。つるなしさやいんげんの種を蒔く時に3月に植えたジャガイモの芽が出て来ていて、初夏に向かう季節のまっただ中にいる事を実感しています。緑がみずみずしく、八重桜の蕾も膨らんで来ましたね。ラジオの語学講座を聞いています。最初の1ヶ月はあまり難しくはなく、楽そうに思うのですが段々難しくなって来ます。その内お手上げにならなければ良いのですが、今年はどうでしょうか。
家の前の通学路を通る小学生の中にも、ランドセルが大きく見えるピカピカの1年生が何人か交じっています。誰も皆あんな小さい頃があったとは信じられないような気がします。6年経って卒業する頃には知識が驚くほど増え、心に奥行きが出来て他者とのコミュニケーション能力も段々身につき、対人感受性が高くなっている事と思います。幸せにすくすく成長して行って欲しいですね。

4月8日、春4月

相変わらず日によっての気温差が大きく、過激な変化だと感じます。雨が降っていなくても強風の日が増え、12号の植木鉢でも置き場所によっては倒れる事もあるので我が家のミモザアカシアはよくひっくり返り、可哀想です。もう藤や牡丹の蕾が膨らみ、まるで5月のようです。この20年位の間に、季節の移り変わりの速さは、今よく使われている、前倒しという言葉が当てはまるようになって来ました。行きつく果ては、と考えると不気味にも思えるのですが。
それでも、こういう文章を見つけました。4月は、また帰って来た。私たちと遊ぶため。4月は、肩に花籠を載せて来る。4月は、木陰へ、菫の花をまき散らす。4月は、森の清らかな小径に沿うて、 鈴蘭とアネモネをこぼして行く。 3月の風と4月の雨で5月の花が咲く、 最後の言葉は英国の諺だそうです。どれも新聞の中で取り上げられていた詩句ですが、良いなあと思いました。

4月6日、老いるプロセスへの好奇心

年齢を重ねて行くと何かを一生懸命する事よりも自分がどうあるかという事を考える、それは残された時間が限られている中でどうあろうとするのかという自分のあり方を考え、そこに目が行き、そして丁寧に生きて行く。思慮深く冷静に物事を行い、人との和を大切にして対人感受性も高く、人の役に立つ、集めるより与える人生、私にはまだまだ難しい難しい事です。老いるから分かる事があり、老いるプロセスへの好奇心が持てたら自分らしく生きられる、そういう渡辺和子さんのお話を伺いました。心に留めておきたい、美しく手ごたえのあるしおりを頂いたように感じています。渡辺さんは、二・二六事件で暗殺された渡辺錠太郎教育総監のお嬢さんさんで、修道女となり、ノートルダム清心学園理事長でいらっしゃる方です。執筆なさった本を読んだことのある方も多いのではないでしょうか。

4月4日、小さな旅

晴れた日に、久しぶりに内房線の下り電車に乗りました。海は南へ行くほど青さを増し、白波が目にしみるようです。ひねもす居たい、そんな気持ちになりました。淡いグレーから沖へ行くにつれて青に変わって行くグラデーションが絶妙です。濃厚な香りの八重咲きの水仙やソラマメの花、菜の花、桜などあちこちに咲いてなんとものどかで贅沢な眺め、各駅停車の小さな旅は田舎で生まれ育った私には波長が合うようです。上総湊駅では満開の菜の花と桜の中で電車の通過待ちをするという幸運に恵まれました。竹岡駅のホームの木々が風に揺れ、木漏れ日が子供時代に連れて行ってくれるようで心地良い時間でした。ハンモックがあったら昼寝をしたくなりましたよ。浜金谷の海は遠浅でないからか、とても澄んでいてぱっと視界が開けたように感じます。雪を頂いた富士山がいくらか霞んで見えました。鋸南町にある鋸山がかつての安房の国と上総の国を分けるのですが、暖かさと言いますか空気の柔らかさが違うように感じられ、半島南部の安房はやはり温暖です。富浦まで行くと南国のリゾート地のような空と太陽、同じ東京湾の近くと言っても少しずつ違います。東京湾が出来た時から季節や日によって海はその色を変えて来たのでしょう。見る人が五感で感じる壮大な絵巻物のようだとしみじみ思います。最初から最後まで見る事は誰にも出来ませんね。新年度を迎え新たな一歩を踏み出した方達には今日の今この瞬間がどのような記憶となって行くのでしょうか。私も陰ながら応援しています。

4月2日、日本列島

地殻についてのニュースで、大陸は安山岩、海底は玄武岩である事を聞いたのですが、伊豆諸島の海底の奥深くは安山岩なのだそうです。プレートが入り組んでいる所だからなのでしょうか。確か伊豆諸島はフィリピン海プレート上にあって関東平野は堆積平野なので比較的脆弱、と教えられたように思います。このニュースは日本列島の成り立ちを辿るヒントの一つになるのでしょうね。興味深く聞きました。

　　　　　　　　

3月31日、ご心配

最近、賞味期限の改ざんなどの問題が起きた時に、その会社が説明と謝罪の会見をする事があります。本当の事を公表する事は大切ですし、特に食材の問題ですと不特定多数の人の口に入る物、というわけなのですから、会見で明らかにする事は必要だと思います。ですが、そのような会見でよく使われる言葉に、ご迷惑とご心配をおかけして、という部分がありますね。私の記憶では、昭和50年代にはあまりこのような言い方はされていなかったと思います。平成、バブル、と時代が経つにつれて世の中の変化が非常に早くなっていると感じます。そのためかどうかは分かりませんが、言葉の使い方やイントネーション、アクセントなどもかなり変化して来ましたね。
かつては、私共の不手際のためにご迷惑をかけました、という意味の事が、謝罪会見では言われていました。心配をかけました、というのは、私共の事を心配して下さった、という場合に使われる言い方だったように思います。
ですから、ご苦労をおかけした、とも言われる事はありませんでした。それは、私にとって時代劇を想像してしまう事なのです。例えば、貧しい親子が裏長屋に住んでいて長患いの母親が、よそおう事も遊ぶ事もせず看病し働いている年頃の娘に、お絹や、苦労をかけてすまないねえ、などというと、娘が、そんな事良いのよおっかさん、と答える、そんな場面なのです。私を大切に思って私の為に苦労してくれているという事であり、私が迷惑をかけた事によってあなたが苦労しているという事とはニュアンスが違います。このような使われ方の変化に、興味は尽きません。いずれにしても、謝罪会見はその会社のカラーが出るようですね。

3月29日、孤独

孤独は山にあるのではなく町にある、という言葉を聞きました。沢山の人が行き交い一緒に働く仲間や友人もいる筈なのに一人ぼっちだと感じるととても寂しくて辛いですよね。新年度になって都会で暮らし始める若い方がそういう気持ちになる事も多いようです。今年も桜の後にそういう季節がめぐって来るでしょうけれど、何とか心に栄養を付けて自分が飛躍するチャンスに出来ると良いですね。

3月27日、コーヒーと私

久しぶりに叔母と美味しいコーヒーを飲みに行く約束をしました。学生時代は癖のないまろやかなブルーマウンテンが好きでした。高いので度々飲む事は出来なかったけれど夕空に虹を見るような希望に胸をふくらませていたあの頃の味だと思います。世の中を二次元のように捉えていた若い頃の自分だった、という事とも関連があるのかも知れません。その後、酸味とコクのあるキリマンジャロが好きになりました。現実に押し潰されそうな看病の毎日を必死に過ごしていた頃の事で、個性の強い存在感のある物を飲んでよりどころのない自分の存在を確認したかったのかも知れません。今日は今日の事をやるしかないという毎日で不安でもありました。今はマンデリンが美味しいと感じます。余韻が、品が良いように感じて気にいっています。これは何なのでしょうね。趣味や飲食の好みは、その時自分が置かれている状況の中で足りないものをそこに求めるとも言えるかも知れませんね。相補性とでも言ったら良いのでしょうか。それにしても、マンデリンのような余韻を残す人生は、到底私には無理です。結局一番よく買うのは詰め替え用の安いインスタントコーヒーです。もっともコーヒーはせいぜい1日1杯しか飲みませんが。
気が付けば河津桜もそろそろ終わり、牡丹の蕾がはっきりと見えます。もうじきソメイヨシノが咲いて今年も新年度の始まりですね。我が家でも去年植えたワケギを今日初収穫しました。少ししか植えなかったので後僅かしかないのが残念です。さて、今日はどんなコーヒータイムになるのでしょうか。

3月25日、海苔の季節

久しぶりにイチゴを食べました。イチゴというのは巻貝で、ツメタ貝の事です。茹でた物を、煮たりソテーしてよく食べた、私にとって懐かしい味です。東京湾が埋め立てられ、この地区から海が遠くなって50年以上経ちます。養殖した海苔を一番寒い季節に収穫し、板状にして天日干しし、その日の太陽が沈まない内に製品にするのは、今考えると重労働だったのだと思います。毎日2時か3時に起きて皆働いていました。早春に食べた生海苔の酢の物はとても良い香りで、口の中で溶けてしまいそうに柔らかかったものです。今の海苔とは全然違います。
でも、その味を知っている人も減ったでしょうし、40代以下の人は、海苔の養殖を見た事がないと思います。私も、この地区の遠浅の海でアサリを掘っている沢山の人を見た記憶が、うっすらと残っている程度です。それでも、覚えていますよ。ワタリガニやウゴ、アサリ、ハマグリ、皆一生分食べてしまったのかも知れませんね。ずうっと昔から海と共に暮らして来たわけですが、今小高い所から海の方向に見える物は工場の煙突からの煙です。坂道を上り、一山超えて海へ行って働いて来た歴史を残す物は資料館にのみある、これに似た事は日本全国どこにでもある事なのでしょうね。私にとって限りなく懐かしく、記録だけでなく記憶を伝えて行きたい事の一つです。

3月23日、バトン

リレーでは、バトンタッチがうまく行かないとかなりの時間のロスになりますしちゃんとバトンを渡さないと失格になる事もありますね。受け継ぐとか伝えて行く、という時に私はタイミングよく正確に受け取り、ちゃんとバトンを渡すように出来るか、強風やにわか雨の荒れたお天気の日に、仏壇にお線香をあげようとして考えてしまい、一瞬手が止まりましたよ。丁度お彼岸ですね。

3月20日、鬼ごっこ

鬼役の子供が目隠しをしてほかの子供達の事を捕まえる遊びがありますね。鬼さんこちら、手の鳴る方へ、などと言いながら鬼役の子がほかの子を捕まえやすいように手を叩き、捕まった子が今度は鬼になる遊びですが、もし、誰も近くに居なくて捕まえる事が出来なかったら困ります。皆何処へ行ったのだろうと思い、取り残されたように感じて戸惑ってしまうと思います。目隠しをしても安心して遊べるのは、近くに他の子供達が居て、捕まえる事が出来ると思っているからでしょう。
目隠しを取って見たら近くに誰も居なかった、という事はこの遊びではありえませんけれど、家族間では、そのようにより添って貰えないと感じたり、受け止めて貰えなかったりする場合があるのではないでしょうか。気持ちが寄り添っていてくれるのか、心が自分の方を向いて見守ってくれているのか、そういう事は、辛い時には気になるものです。家族はわかってくれる、という信頼や依存という気持ちは皆お互いに持っていますから。家庭や親しい人との場で心が和み、ありのままの自分を安心して出せる事が、明日に向けて前向きに頑張ろうという気持ちになれる源のようなものではないかと思います。絆は本当に大切ですね。

3月15日、この道は

我が家の前の道路は近くの小学校の通学路なので、毎朝登校時間は子供の声で賑やかです。この道は多分何百年も前からあったのだと思います。戦争中や戦後の物が不足していた頃は米やサツマイモの買い出しに来た人がまだ舗装されていなかったこの道を通ったそうですし、明治時代、江戸時代、それよりもっと前の時代にも私の先祖がご近所さんと話しながら歩いた道でもあるのでしょう。その時々に通った人の境遇や気持ち、どのような時代であったか、それは皆違いますが、道の場所や、どこからどこへ続いているのかは変わっていないと思えます。
これから先も、この道を色々な人が通るのでしょうから、それは昔と変わらない事ですね。自分の来し方を振り返るように時代を振り返る事も出来ます。過ぎて来た道のどんな点を大切に続けたり伝えたりして行くのか、改善して行くのか、立ち止まっての取捨選択はとても大切ですね。古い事はすべて悪いという事ではありません。でもそれが変わって来たのにはそれなりの理由があるという事もまた、間違っているとも言えません。
人生の分かれ道になるポイントは、その時にはそれほど重大な事だと思わず通り過ぎてしまう事もありがちではないでしょうか。今日は、人生と我が家の前の道が微妙に重なったり交錯したり、何か複雑に見えます。

3月11日、震災

今日で東日本大震災から3年が経ちます。あの日生まれたお子さんは3歳になったのですね。復旧復興とは、口で言うのは簡単ですが、実際にはとても難しい事なのだと感じています。心のケアは時間が経ってもこれで良いという状態にはならず、その時のその方の置かれている心の状況によって、どう寄り添うかが変わって来るのだと思います。希望が持てるかどうかが大きいでしょうね。君津の地に住む私でさえ、あの瞬間から物の見え方が変わったと感じるのですから被災なさった方にとっては今も生々しい出来事として記憶され、その続きの日々としての毎日を送っていらっしゃる事と思え、胸が痛みます。ボランティアに行く事も出来ないまま時間が過ぎ、どんな小さな事でも出来る事があればと思いつつ、店頭に並ぶ福島の野菜や果物を買う事位しか出来ないので、風化する事は決してありませんが、やはり心苦しく思う毎日です。癒す事の難しい喪失の悲しみや苦しみを心に持っての3年は長かったのか短かったのか、さぞ複雑なお気持ちでしょうね。でも、亡くなったご家族は、きっと生きている方達を見守っていらっしゃる事と思いますよ。

3月10日、舌で感じるもの

苦味、塩味、酸味、甘味は舌で感じますね。それ以外に、だしの味うま味も感じます。でも小さい頃は苦味を美味しいとは思えない事が多いように思いますし、うま味が分かりにくいという事もあるのではないでしょうか。成長に伴って美味しいと感じる味の幅が広がって苦手な食べ物が減って来るという事もあります。子供の時は甘いおやつが大好きだった人が大人になると、お酒の方が好きになる、そんな事も多いと思います。味覚も成長しているという事なのかも知れないですね。
今年は厳しい冬でしたから、心がゆっくりくつろいで癒され、何かお好きな物を召しあがった時のような、極上の春がやって来ると良いですね。ただ今ジャガイモを植える準備をしようと久しぶりに畑を耕しています。

3月8日、ネコさがしと対人感受性

我が家の猫アスカはまだ見つかりません。それで何軒かの商店に写真を載せて猫の特徴を書いたチラシを貼らせて頂けないかお聞きしました。勿論貼ると見つかり貼らないと見つからないという物ではありませんが、出来るだけの事をしようと思ったので伺ってお尋ねして見ました。店の対応は千差万別でした。貼る事を断られても、その店の決まりの中での事でしょうからそれはやむをえない事です。けれども、断り方には大きな差があり、驚きました。このような基準で断るけれど、何かあったらまたいつでもおっしゃって下さい、協力出来る事があるかも知れません、という店、貼る事は出来ないけれどせめて通勤時に気を付けて見ますから写真を下さい、という店、このように応対して下さった方には、お忙しい所伺ったのに御親切にして頂き、ありがとうございました、と私もお礼を申し上げました。貼りますよ、猫の特徴を詳しく教えて下さい、という店、この店に貼る事で見つかるとお客様との良い御縁が出来ますね、という店、これは店の大小や知り合いであるかどうかとは全く関係のない事でした。個人の物は貼れないので以前にもほかの方のお話を断りました、というだけの店、そこではどのような条件を満たした物なら貼るのか、などという説明はなく、商品を買いに来たのでない者へはぞんざいな応対をするのだな、と感じました。たまたま応対した方の対人感受性が低かったのかも知れません。でも制服を着て応対した以上その時はその方がその店そのものだと私には思え、これがこの店のスタンスなのだと思ったのです。これは大変参考になりました。キャットフードを売っているかどうかも関係のない事だというのも驚きの一つでした。相手の気持ちを推し量る事はこの場合そう難しい事だったとは思えないのですが、猫を捜す事で私の心に二通りの後味が残りました。それぞれの後味の間には深い溝が刻まれ、埋まる事はないでしょう。信頼とは、構築は難しく失われるのは簡単、目に見えない人の心の複雑さや難しさを改めて感じた次第です。

2月28日、キジトラ猫アスカの姿が見えません

7日の朝から大和田１丁目の我が家より猫が行方不明になりました。アスカは一昨年保護した全身キジトラのオス猫です。8日は雪でしたから心配したのですがさがしようもありません。動物病院や健康福祉センターにも行きましたが今の所手掛かりがない状態です。動物病院11件に写真を載せたチラシを貼って頂きファミリア新聞にも掲載して貰ってこのまましばらく様子を見ようと思います。雄猫は去勢手術をしても好奇心旺盛で若いと何日も帰らない事があるのは知っているのですが、事故に遭っていないか、帰ってくるだろうか等々考え始めるときりがなく落ち着きません。この辺りで動物の事故は聞いた事がなく、人懐こい猫ですが家族以外には身を守る為の警戒心も持ち合わせています。車が嫌いですが、見ると足がすくんで動けなくなるなどという事はなく、よけます。私が考えているより賢くて逞しいと良いのですが多分初めての雪だったしょうし、3度も雪が積もるという私にも経験のない2月なのです。ですからもうすっかり家族の一員であるアスカが心配です。そんな時、猫にとって外にはどんなリスクがあるのかというマイナス面や、帰って来るのを待つしかなく、帰って来るかどうか分からない、という理屈を話してくれた方もありましたが、危険がある事も、今何処にどうしているのかも分からないので心を痛めている気持ちはそういう理屈で動いたり変わったりするものでない事を改めて感じました。出来る事をしているのだから元気を出して待つように、という気持ちでのお話だったかも知れませんが、それは私の気持ちを崖っぷちに追いやるようだと感じてしまいました。猫の特徴を詳しく聞いて、心配ですね、帰って来ると良いですね、という言葉かけをしてくれた動物病院のスタッフの方と話した後は無事に帰って来る事を信じて待とうと前向きになれ、少し気持ちが明るくなったように思います。アスカという猫は我が家では大事な家族でも、他の人にとってはそのような存在ではないでしょう。価値が違うという事もあるのでしょうから人の言葉にあれこれ思いを巡らしても仕方ありませんね。カウンセリング以外の時でも、何かがあって、悲しみや不安、怒りなどのマイナスの感情に苦しんでいる人に対して、どのように向き合いかかわるのか、今回の事から学んだ気がします。体重5キロあって去勢済み、尾長で逆三角形の顔、風邪気味で鼻がグスグス、現在の体重は分かりません。足と体が長く、足は太い、人間に例えると背が高いとでも行ったら良いかも知れません。これが我が家の一才半のキジトラオスのアスカです。捨てられたのかも知れない猫でさがしても飼い主の方が分からなかったので、今日より明日の方が少しでも幸せになって欲しいと願ってアスカと名付けたのです。見かけた方はどうかメンタルヘルスサポート君津までご連絡ください。よろしくお願い致します。

2月22日、偏西風

今月特に関東で大雪が何度も降っていますが、黒潮の蛇行が南岸低気圧の発生と関係があり、周期的なものと考えられているけれど、偏西風の蛇行がその原因では、という話を聞きました。それは異常に暑い夏をもたらす物でもあるようですから、偏西風の蛇行と地球温暖化とは密接な関係なのかも知れませんね。ひしひしとその怖さを感じます。こんな天候の中、高校や大学の入試があちこちで行われていますが、受験背の皆さんが体調に気を付けて実力を発揮出来ますよう私も祈っています。

2月16日、春は名のみの

妙に暖かい節分の翌日から厳しい寒さが続き、8日の雪には驚きました。夕暮れ時から暫くは吹雪で、今にも停電になりそう、昔々の風の強い晩によく停電になった事を思い出しました。翌朝はご近所さんと一緒に自宅前の道路の雪かきをしましたが、房総半島に三度の雪とは、なんという事でしょう。もうこれくらいにして欲しいのですが。朝８時頃の気温が１℃に満たない様な日は、道路に出来た水溜りには氷が張っています。あまり寒いとガラス障子の近くには座れませんね。冷気が伝わって来るように感じます。
実は毎日のように掘った大根を食べています。調理法だけでなく、切り方を変えて食感の違いを楽しんでいます。そう大した物が作れるわけではありませんけれど大根百珍出来たら良いでしょうね。
ところで、我が家でも正月飾りを買うようになって久しいのですが、昔は家で作りました。神棚だけでなく台所やトイレ、水瓶などにも飾りました。日ごろお世話になっている所なのだから感謝の気持ちを込めていたのでしょう。心のよりどころ、というような深い信仰というわけではないけれどおおらかだったと感じます。排他的でない事も大事だと思いますから。穏やかでのどかを懐かしく思い出したのは、そんな春の陽だまりが恋しくなるような大量の雪と厳しい寒さが早く終わって欲しいからでしょうね。

2月11日、季節の行事

節分には大豆を食べますが、豆まきをするお宅が今では多くないかも知れませんね。節分に限らず、家族それぞれの帰宅時間や食事の時間が合わないという事もあります。我が家では季節の行事をするとメリハリが付くように感じ、割と取り入れている事が多いのです。余った大豆はピーナッツ味噌のようにしておくと箸休めになりますよ。節分が過ぎると、年越ししたのだからお雛様を飾っても良い、と言いますので、紙粘土の小さなお雛様を今年も飾り、蕗の薹を見つけたので早速頂きました。でも、節分後の寒さとたび重なる雪、こんな事は初めてです。

2月7日、冬野菜

2月はまだ寒く、この辺りでは節分を過ぎてからの方が雪が降りやすいのですが、時々暖かい日もあります。三寒四温という言葉を思い出し、野菜を収穫しました。今年の大根は水分が少なく硬めで、その内薹が立って来るのではと気になりましたし、カラシ菜もあまりいつまでも収穫しないと蕾が出来て花が咲いてしまいます。カラシ菜の蕾は食べられますし花も綺麗ですがそうなると根が張って抜くのに苦労するので、両方共収穫してしまいました。カラシ菜は3キロほど浅漬けにし、後は茹でて冷凍にしたのでしばらく食べられそうです。大根を折らないように掘るのは、そんなに太くなくてもなかなか難しい作業でした。そのまま使うだけでなく、少し干してみようと思います。冬は大根と葱が活躍しますね。鍋物やおでん、ふろふき大根、漬物など作る方も多いと思います。ご近所と調理した物をやり取りする事もあって、そういうコミュニケーションも楽しいですよ。同じ材料を使って同じ物を作っても味が同じではありませんし、知らない調理法を教えて頂く事も出来て、楽しい遊びの対象を見つけた時猫の髭がピクッと動くように、私のアンテナも動くのでしょう。気心の知れた人が多いので比較的自然体で生活出来ますし、改めて考えた事はありませんが、安心感や温かさもあって住みやすい所なのだろうと思います。

2月4日、笹野一刀彫

山形県米沢市の笹野一刀彫は雪の多い笹野地区の農家の副業、財政を建て直し、名君の誉れ高かった上杉鷹山が奨励したものだそうです。優しい表情をした高齢の男性が鷹の羽の大きさ厚さを皆同じになるように丁寧に美しく作って行きます。一本の小刀だけで鷹らしい表情と姿が出来上がって、命が吹き込まれたと感じます。その素晴らしい出来栄えに驚きと同時に、おたかぽっぽと呼ばれる鷹の愛らしさをも感じ、また、鷹山公への敬愛の思いが偲ばれ、心が温かくなるようです。冬には花を掘る職人さんもいて、彩飾された花の1枚1枚の花びらが柔らかくも見え、豪華で美しい物でした。魂と愛情が込められた笹野一刀彫には、ここに生きた先祖達の思いが今も作品の中に息づいて伝わっています。手を触れれば温もりを感じそうな味わい深い物でしたよ。武家の女性の内職だったという新庄の亀綾織、その他天童の将棋の駒、皆作られるようになった経緯があり、今日まで脈々と続いているこのような品はきっと各地にある事と思います。どれにも作った人の様々な思いが今も宿っていて、持ち主を見守っているような気がします。
折しも、三角縁神獣鏡を3Dコピーしたらどのような鏡なのかが再現されたというニュースに、以前はとても考えられない事だったので驚き、邪馬台国、卑弥呼という古代へ思いを馳せ、益々古い時代への興味は尽きません。

2月1日、バレンタインデー

松の内を過ぎてからスーパーには徐々に大豆マメや雛あられなどが並ぶようになって来ました。そんな中で、最近目につくのがチョコレートです。バレンタインデーのプレゼントにか、品定めをしている人を見かけます。色とりどりの包装紙に包まれリボンがかけられたチョコレートはまるで春の花が咲いているようです。
そんな時、花や野菜の苗を売っている店でオダマキが売られていました。青紫と赤紫のオダマキの花は風にたおやかに揺れ、風情があり可憐で存在感のあるものでした。会った事もない静御前を彷彿とさせるような、そういう花でした。多分山野草なのでしょう。チョコレートの装飾とは対照的な花だと感じましたが、世の中が大きく変わって行く最中に、義経を思って時代の流れに翻弄され、のちの世にその名を残す事になった静御前も現代の恋人達も、互いを思う気持ちに変わりはないのかも知れませんね。

1月28日、ロウソクの火

ケーキにはロウソクが付いている物が多いですね。勿論、火の取り扱いには十分気を付けなければなりませんけれど、最近手に持ってロウソクの火をしばらく見ていたら、とても不思議な気持ちになりました。ロウソクの科学という本を昔読んで、ロウソクの炎は上が一番温度が高い、という程度の知識しかないのですが、手に持っているロウソクの灯のエネルギーが、段々大きくなって近づき、熱くなってきたように感じました。まるで、持っているロウソクが自分の心の内側を垣間見るための扉になっているように感じられ、自分と対峙するロウソクとの息詰まるような密度の濃い時間でした。ロウソクが燃え尽きるかなり前に火を消したので、それはとても短い時間でしたけれど。小さな灯は、難しい事の多い時代に新しい年を迎えた私に温かい眼差しを向けてくれたようで、希望という言葉を思い出させてもくれ、素晴らしいプレゼントを貰ったような気がしています。

1月25日、子ぎつねコンコン

夏から秋にかけて、あちこちでオシロイバナを見かけました。昔と違って黄色い花もあり、カラフルですね。花が終わって出来た種をつぶすと粉状の物が出て来て白粉のような匂いがします。毎年この花が咲いているのを見ると、子ぎつねコンコン山の中、草の実潰してお化粧したり紅葉の簪柘植の櫛、というあの歌を思い出します。
ところで、この辺りは以前山だった所を切り開いて製鉄会社の高層社宅があるのですが、ここ何年か狸やアナグマ、ハクビシンが出没します。深い山ではないし、一体何時何処からやって来たのでしょう。毛の抜けた狸がいるそうですから場所が狭いのに個体数が増えすぎたのかも知れません。畑の作物や果樹、飼い犬などにも被害が出ていますので、絵本の中の狸が可愛い、というような話では済まなくなって来ています。夜行性なのでしょうに、5月頃になると夕方のまだ明るいうちに狸やアナグマの子供が庭に出て来る事もあります。人間と野生動物の住み分けが出来れば問題はないのですけれどなかなか難しいですね。ハクビシンは甘い物が好きで、渋柿は食べませんよ。

1月21日、ゴマの話

韓国でゴマを栽培している酪泉という所では、質の良いゴマが沢山とれるそうです。機械にかけられ絞られて行く油は赤茶色で、如何にもこくがありそうです。秋夕とは日本のお盆にあたるものだそうですが、ゴマ油は、先祖と、その時集まる親戚のための料理に使われるだけでなく、都会から帰省した子供達にも持たせて帰す故郷の味です。梅雨でも水はけの良い土だから香ばしく美味しいゴマがとれるのですね。帰省した子供達に故郷の味を持たせてやりたいのは、どこの国の親も同じです。冬の温泉より温かく、夏の避暑地よりも清々しい故郷の親や親しい人達との交流は、ひと休みして都会に戻って行く子供達の心にたっぷりと栄養を与えてくれる事でしょう。お母さん達が丹精して育てたゴマが絞られてまろやかな油となって行く韓国KBSの映像は、大寒の昨日、私の心を温かくしてくれました。

1月18日、水仙の花

寒に入って寒さがいちだんと厳しくなって来ました。日の出直前の庭の水仙はその白さが浮かび上がるように見え、花の輪郭が輝いているかのようです。また、夕暮れ前の山茶花の色は冴え冴えとして、今日一日をねぎらってくれているように感じます。普段立ち止まってじっと見ない物、いつもと違う時間にいつもの道を通る、そういう事は忙しいとなかなか出来ませんが、昨日そんな事をしてみました。見慣れているはずの花や草木、風景などが新鮮に見えて、その魅力に驚いています。
そして、こんなに寒いのに桜や藤の新芽が確実に育っているのを見ると植物には春の足音が聞こえている事を感じます。寒さの底は当分続くでしょうが、そのうち光が春を連れて来てくれるのを楽しみに冬の澄んだ空気の中を歩きたいと思います。一番寒い時が受験の季節ですね。あなたの、毎日一定の時間集中し継続して来た努力が実って春が来る事を祈っています。

1月15日、畑今昔

昔このあたりでは、大麦、サツマイモ、落花生などを作って出荷し、自分達の食べる野菜を栽培していました。区画整理後かなり畑が減り、新しい家が増えました。自分の家で食べるだけの野菜を栽培するように変わり、田んぼに囲まれシロツメクサが沢山咲いていた道は、舗装道路に変わりました。
そんな中で少しずつ季節の野菜を栽培している自分を想像した事もありませんでした。今年はジャガイモやサヤインゲンも育ててみたい、と楽しみです。土いじりは花や野菜を育てるプロセスや収穫という結果が楽しめるだけでなく、結構ストレス解消にもなると感じています。興味を持って出来る物がいくつもあれば、ストレス解消法がその数だけあるのかも知れません。お金や時間をあまりかけずに出来る事がこれからも私には幾つ見つけられるのか、これも楽しみのひとつです。

1月11日、お母さんは魔法使い

お子さんに子守歌を歌ってあげるお母さん、沢山いらっしゃると思います。我が家では私によく子守歌を歌ってくれたのは祖母でした。カラスの赤ちゃん何故泣くの、という歌を歌ってくれた事を特に懐かしく思い出します。最近ではこの歌を聞く事はあまりありませんね。
子供の性格や才能に早く気付く事はその子が自信を持ってのびのび成長して行ける事につながりますから良い事でしょう。でも、これといって得意な物がない子もいると思います。それでも人は一人ひとり皆違って、皆かけがえのない存在です。親が、幸せを願ってあれこれ言うのは子供を愛しているからなのだ、という事はある程度の年齢にならないとなかなか実感として分からないものだと思います。
あなたは私にとってかけがえのない存在だからとても大切で可愛いという気持ちは、子供の話を、寄り添う気持ちでじっくり聴いて良い所を褒めてあげる事で伝わって行きます。そのようなかかわりの積み重ねが子供に自信を持たせるのだと思います。子守唄もお母さんに話を聴いてもらった事も、子供が心地良さを感じ自己肯定感を持つ事につながって行くのですから、お母さんの言葉は、きっと魔法のような素晴らしい物なのでしょう。大人の勘違いで厳しく叱ってしまった時は後で謝る事も大切だと思います。いよいよ受験シーズンです。今日は蔵開きなので甘い物を食べてひと息つくのも良いかも知れません。受験するお子さんに、知識と共に心の奥深くに構築された、自分の存在を肯定し物事を前向きに考える力が備わっていると良いですね。

1月7日、七草粥

松の内も今日で終わり、お正月も過ぎてしまえばあっという間ですね。最近は生の物だけでなく、乾燥し細かくした七草も売られています。我が家では今年も七草粥を作りました。私の祖母の母親は明治初期の生まれなので、親達は江戸時代の人という事になります。幕末の江戸の町で商いをしていたそうです。曾祖母は七草を刻む時に、七草ナズナ、唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先に、と言いながトントンと包丁で叩いていた、と母から聞いた事を、毎年七日になると思い出します。江戸から明治に時代が変わったというのは後からだからあたりまえと言える事で、当時の江戸の庶民はどんな風に思って毎日を過ごしていたのでしょうね。
昔と違う包丁を使っても物を刻む音に変わりはありません。家族の無病息災を願い、今年も平穏無事に暮らせるように祈る気持ちもまた、古今東西変わらないものなのでしょうね。私にとって、今日は顔を知らない曾祖母に一番近づける日です。

1月5日、相馬焼

今から40年近く前、家には相馬焼の花瓶がありました。花瓶というより大きな壺のような形で、独特な色と模様の落ち着いた雰囲気の物でした。随分昔の物のようでしたが、ある日祖母が割ってしまい、残念だと言っていた事を時々思い出します。整った形が貴婦人のようでもあり、どこか親しみを感じる素朴な物でもあるような、そして馬の模様が動のようでもあり、不思議にも静のようにも感じる、他のどんな陶磁器とも異なる物だった事を覚えています。
花瓶が割れた時、私は馬が故郷に帰って行ったのだと思いました。でも、あの相馬焼の花瓶が作られた福島県浪江町が、原発事故の甚大な被害を受ける事になるなどとはその時は全く想像もつかない事だったのです。

1月3日、楽器

お正月は、ラジオなどでの楽器の演奏を家事をしながら楽しむ事が多く、ちょっと贅沢な気分に浸れます。特にヴァイオリンや三味線などの弦楽器は、心の琴線に触れるように感じる事があります。勿論人それぞれですし、私は打楽器も好きなのですが、とりわけ弦楽器は雄弁に語ってくれているような、そこから未来を思ったり過去を顧みたり、あるいは自分の内界の奥深くへ入って行くポイントになってくれたりしている、繊細で奥の深い複雑な物だと感じます。使われている糸の本数が少ないのに何故こんなにも幅のある音色が出せるのでしょう。弾く人の技術ばかりではなく、人間性も現れるのかも知れない、などと考えてしまいました。芸術は心を癒してくれる貴重な存在ですね。お正月だから普段と違うとは、時代のせいか大人だからなのかさほど感じませんが、それでも和洋それぞれの楽器の演奏から、心に栄養を貰ったような気がします。

1月1日、ザンスカール高地では

6年程前、西ヒマラヤのザンスカール高地で暮らす女性達を取り上げたフランスのテレビ番組を見た事は以前にもお話しした事があると思いますが、テンジンとパルキットという仲の良い二人の少女のうち一人は色々思い迷って結婚し、もう一人は、女性が親と花婿側の合意で嫁がなければならない事に疑問を感じ、他の道を選ぶ事を決意し、家を離れて出家し尼僧になるという内容の物でした。
外に出て働くという選択肢はここにはないのです。21世紀に生きる女性といっても、国により地域によって様々ですね。今では多くの国で女性は自分で結婚相手を選ぶ事が出来ますし、結婚して母親となった後も社会に出て働く人が多いのではないでしょうか。経済的な事だけでなく、家事や子育てだけではない自己実現を望む女性も多く、外で働く事で社会参加をする事は、忙しくても心地良い負荷なのかも知れません。女性が外に出て働く事が良いとか悪いとか、一概には言えないと思います。家事や育児を夫や家族が分担する事がまずは前提だと思いますが、それぞれの家庭で決める事なのでは、と思います。そのようなあり方は、ザンスカール高地に暮らすこの少女達にとっては想像もつかない生き方なのかも知れないですね。
ただ、日本では戦後男性だけでなく女性も同じように参政権があります。ですからどのような未来を望むのかという義務も責任も権利も、半分は成人女性にあるという事なのだと思います。
それにしても、美しい空と雪を頂いた険しい山々の国に生まれ育ったテンジンとパルキットは今どうしているのでしょう。幸せに生きて行って欲しいものです。関東平野の空は新年を迎えた今日も真っ青に晴れ渡っています。

12月31日、電車の遅れ

最近、人身事故の影響で電車が一時運転を見合わせるという事が多いように思います。随分前に地下鉄に乗っている時にそのような事があり、私の乗っていた電車は途中で運転打ち切りになりました。その時、電車には色々な用事で何処かに行く人達が乗っていたわけですから、迷惑に思う方もいらっしゃった事と思います。それも無理のない事でしょう。ですが私は、きっと、生まれて来て祝福されランドセルを背負って小学校に入学し、多くの人とかかわって大人になり、一生懸命生きて来た人が、こんなに暗い地下で自らの命を絶ってしまう事になるとは想像もしていなかったに違いないと思い、お気の毒でとても辛い気持ちになりました。
また、JRの電車と車が踏切で接触して車が大破した為に電車が二時間ほど遅れ、朝のラッシュ並みの混雑になった事もありました。でも、この時は車の不具合が原因で、運転していた人は車から離れて無事だったとの事、同じ電車の遅れでも、ホッとして、寒々とした気持ちにはなりませんでした。
このページを読んで下さっている方が何人いらっしゃるのかは分かりませんが、どなたもいつも良い事ばかりではないと思います。ブラック企業、圧迫面接などという言葉も使われる時代ですし、天災の恐ろしさを実感する事も多いですから命を絶つ方が多いというのは社会病理という側面もあると思います。でも、どうか無事に今年も年を越して頂きたいと心から願っております。

12月28日、年末です

庭の霜を見ると、冬景色という曲のメロディが浮かんで来ます。暑い夏の後にやって来た秋は今年もあっという間に過ぎてしまいましたね。それにしても、まだ11月位の気分なのにもう年末とは、1年がとても速く感じます。
ある年の大晦日に、早く家事が済んで炬燵に入ってテレビを見ていた時、とても落ち着かなくなりました。今頃忙しく働いている人も多いだろうに、と思うと私ももっと動いていたくなったのです。母は、毎年暮れになると白菜や大根を漬けたり柿を剥いて干したりしていました。餅つき、おせち作りなどで年末は特に忙しく、1日中座る暇もなく働いていました。ご近所でも皆似たようなものでしたから、私にとってはそれが年末という物だとインプットされているのでしょう。
無論、今の子供にとってもクリスマスやお正月のある冬休みは楽しいものだろうと思いますが、お飾りやお供え、おせちなどの用意をしない家もそう珍しくはないようです。段々と変わって来ているのですね。しばわんこの和の心、という本には季節の行事が分かりやすく説明されていました。自分が子供の頃には当たり前だった日常が今の時代には変わっているという事は、それだけ年をとったという事、きっと昔の人もそんな事を感じながら年齢を重ねて行ったのでしょうね。

12月24日、青い美瑛川

ひとりの老人が亡くなる事はひとつの図書館が無くなる事だという言葉がアフリカにあるそうです。なるほどと思います。
さて、北海道の美瑛川にいらした事があるでしょうか。硫黄が溶け込んだ上流の水、更にアルミニウムを含んだ十勝岳の黒い火山岩に、積もった雪が溶けて染みだした水が加わると、溶けた物が光の屈折を変え、濃い青色の川となるのだそうです。白金の青い池は溶け込んでいる鉱物の為に生き物が棲めないとの事、とても美しいのに意外です。澄んだ水に紺のインクを溶かしたような、群青の澄んだ川を見る事が出来るのは条件の整った上流の限られた4キロだけという、目を疑うように美しく贅沢なながめに魅了されました。あり得ない物を見たような素晴らしいテレビの映像でしたよ。知らない事も知らない物もまだまだ沢山あります。群青の余韻が強烈に残る中でむかえた師走、毎朝庭は霜で真っ白です。

12月21日、サンタクロース

毎年クリスマスが近づいて来ると、商店街のディスプレイやスーパーで流れている音楽もクリスマスを思わせるものが多いですね。サンタクロースが本当に存在していてプレゼントを持って来てくれるという事を、信じている大人はいないだろうと思います。でもそう信じている小さい子供はいるでしょう。私が子供だった頃など、クリスマスケーキは食べましたが、特にクリスマスの意味を考えたり聞いたりした事はありませんでした。家族が誰もキリスト教を信仰していない家ではそんなものでした。ただ、金や銀の紙を貼ったボール紙のブーツにお菓子が入っている物が沢山売られていて、1番小さい物を買って貰うのが好きでした。大きい物は靴にしては大きすぎるような気がしていました。それは、自分に合わない大きさの物を着せられるのが嫌、という感覚に似ていて、今思えば中のお菓子が食べたかったのではないちょっと変わったこだわりがあったようです。
何かと厳しさを感じる毎日、来年の事は想像もつきませんが、厳しさを感じる今だからこそ、クリスマスをきっかけにして目に見えない心という物をどのように取り扱うのか、人間の思い通りにはならないけれど与えてくれる物も沢山ある自然とどのように共存して行くのか、私も、出来る限りサンタクロースの存在を信じている子供のような気持ちになってまた新たに考えてみたいと思います。山の恵みを採りに行った時に昔から人間がして来た、恵みに感謝して根こそぎは採らないという事、本当に大切ですね。

　

12月19日、厳寒の師走

戦後生まれの人口はそれ以前に生まれた人よりはるかに多く、平成生まれの人も随分増えて来ましたね。成人して社会人となっている人もいずれ平成生まれの人の方が多くなって来ます。
そんな中で、八十代半ば以下の年齢の人は戦場を直接知らない、という事実に今更ながら愕然としました。子供達は早晩じかに聴く事が出来なくなるわけですから。記憶と記録をどう伝えて行くのかがとても大切な問題だと思います。戦場の真実を一番よく知っているのは亡くなった方達なのでしょう。立派なお墓には一片の遺骨もないというむごい現実を改めて突き付けられたように感じます。72年前の12月8日は、当時生きていた人達のその後の人生を大きく変えた太平洋戦争開戦の日ですから、こういう事を考えたのだと思います。

12月16日、同窓会

先月、高校の同窓会に出席しました。今年は同窓会の多い年です。先生方はお変わりなく、友人達との久方ぶりの再会は思わぬプレゼントを貰ったような気持ちになりました。でも、亡くなった人も何人かいて、歳月が経ったのだからそういう事もあると分かってはいても、時間が経つにつれてその友人の事を思い出し、知らずにいたので申し訳ないような気がし、落ち着いた雰囲気で達筆、品が良くて物事の本質を深く理解しているような人だった制服姿の彼女の顔がふっと浮かんで来るのです。まるで、小さな穴から漏れた水が段々地中の奥深くへ滲みこんで来るようです。辛い気持ちでどんよりと曇った幾日かを過ごしました。
震災、台風、事件、事故などでご家族を亡くされた方も、その後の生活をして行かなければなりませんが、希望を見出して、日々生きて行けるようになっても、亡くなったご家族への思いが薄らぐわけではないでしょう。心の何処かに残っている深い悲しみは、傷のようなものではないでしょうか。明日があるのは生きていればこそだと思うと、亡くなった子の年齢をその後もずっと数え続ける親の気持ちは如何ばかりかと、しみじみ思います。人が亡くなったという事実に直面した時、衝撃を受け混乱し、最初はなかなか受け入れられないですね。信じられないというのは、実は信じたくないという気持ちなのですから。
駆け抜けるように旅立って逝った友人は、今心安らかに、ご家族や私達を見守っていてくれるのかも知れません。あの同窓会の日、会場の入り口の扉は、どこでもドアになっていたように思います。お一人の先生の、皆さんは昔の自分に会う為に同窓会に来た、というお言葉が心に残っています。

12月12日、冬のナス

空気が乾燥して来たせいか、風邪気味です。皆様もどうぞお気を付け下さい。
家から4キロほどの、いつもとは違う場所に歩いて行った時の事、冬だというのにナスの花が咲いている畑があってびっくりしました。ナスは高温多湿の国では、1年だけの植物ではないそうです。幾つも咲いている紫色のナスの花が冷たい風に揺れているというのは何とも不思議な光景でした。何時まで実るのか興味があるので、時々通って見たいと思っています。ご近所で、柿を干してあるお宅がぼつぼつ目に付くようになって来ました。

12月8日、目に見える物と見えない物

全国各地に沢山のゆるキャラが生まれて、大変な人気ですね。君津市のマスコットキャラクターきみぴょんもその仲間です。もしこんな妖精のようなものが本当に存在していたら心が和むだろう、と思うのですが、まずそんな事はありえないですね。
ただ、大人には感じられない事象や存在が子供には見えたり感じたりする事もあるのではないかという気がします。想像力という物だけではなく、柔軟で真っ白な子供でないと、そんな事は非科学的だからあるはずがないという、学んで来た事をもとに考え、理屈に合わない事だからありえない、間違った認識だと思いがちです。何だか口当たりの良いようによく分からない物で味付けされた料理を食べている内にその味に慣らされてしまう事と似ている、と思えて来ました。常識やマナーは他者とかかわりながら生きて行くために、お互いに必要です。けれど、大人になるにつれて柔軟でなくなり忘れてしまう事もあるのではないかと感じます。
電車の車窓から黄葉した銀杏をぼんやりと眺めながらこんな事を考えていると、浦島太郎の玉手箱が浮かんで来ました。あの中には何が入っていたのでしょう。子供と大人の見える物見えない物についてのこの思いに特別な根拠はありませんが、今日買い求めたドイツパンのようにずっしりと重い手応えを感じています。

12月4日、玉ねぎと風雨

先月25日夜半の風雨は寒冷前線の通過によるものだそうですが、風は木が揺れる音ではなく風そのものが何もない真空の荒野を吹き抜けて行くような不気味な音をたてていて、まるで野生動物の咆哮のようでした。
不思議な事に、植えたばかりなのに葉先が黄色くなっていた玉ねぎが、翌朝元気になっているではありませんか。毎日水やりをしていたのですが水不足だったようです。330本ほどの苗の内何本が育つかは今のところ分かりませんけれどその後何とか無事に根付いたようです。今年は台風の影響で苗が細過ぎるのだそうです。
また一つ、じわじわ広がる地球温暖化の影響をひしひしと感じる出来事に遭遇しました。それでも、強風に負けない玉ねぎの生命力に驚き、エネルギーを貰えたような気がします。

11月30日、晩秋のインドネシア

君津市役所北側のドウダンツツジの植え込みが今年も真っ赤に染まりました。大道沢公園の紅葉もとても綺麗です。冬の入り口の自然は誰が絵筆をとって染めるのでしょう。
去年我が家にやって来たキジトラ猫のアスカも、どうにか無事に暑さ寒さを超えて元気に暮らしています。夏生まれのようですが、このところとても重くなりました。体の弱かった子供が育ってようやく小学校に入学したのでホッとした、というような安堵感に似た物を感じています。美しい紅葉をながめ、猫の成長を喜びながら暮らせるのも、天災の心配はあっても平和だからこそだと思います。
インドネシアでの、太平洋戦争で亡くなった方々の遺骨収集のニュースを聞きました。遺骨は、赤道直下のような地域では温度や湿度の影響なのでしょうが、DNAが壊れてしまっているため鑑定出来ないと聞きました。帰国しても自分の家には戻れず、千鳥ヶ淵の戦没者墓苑に眠る事になるのでしょう。シベリアに眠っている方達の場合はBNA鑑定が出来るのだそうです。でも、ツンドラの地に眠って68年近く経っているという事ですから、どちらの場合も戦争は残酷です。これは天災ではなく、人間が引き起こしたのですからその原因とそれによってもたらされた結果を胸に刻み、伝えて行く事が戦没者に対して出来るせめてもの事だと私は思います。紅葉の美しいうちに、是非帰国して見て頂きたい、そんな気持ちになりました。

11月27日、季節の中で

11月だというのに台風30号が発生し、フィリピンレイテ島とその周辺の島々に大きな被害が出たというニュースに驚きました。映像からは、残念ながら現実なのだという事がひしひしと伝わって来ますね。まるで東日本大震災の津波の被害に重なるように感じます。被害に遭われた方々が1日も早く落ち着いた生活に戻れるよう祈るような気持ちです。レイテ沖は太平洋戦争中の激戦の地だと聞きますから、さぞかし多くの方々が今も眠っていらっしゃる事でしょう。
この台風が発生する少し前にある外国のテレビ番組で、今世紀末には暴風圏内では風速80メートルから90メートルの台風がそう珍しくなく発生すると考えられると言っていたのですが、その一例が突然目の前に出現したかのようです。地球温暖化が如何に深刻な事なのか、あまりの被害の大きさに言葉もありません。もうじき師走だというのに、地球と人間の日常のアンバランス、ぱっくり開いた地球の深い傷口を垣間見たように感じます。
そういう中で、玉ねぎやセロリを植えたり、大根の土寄せをしたり、我が家の日常はいつもの年通りです。24日に、これがあんなに大きく育つのだろうかと思うほど細い玉ねぎの苗をそおっと労りながら植えました。

11月24日、柿色は

蜜柑や獅子柚子、柿などが綺麗に色付いて、晩秋だと感じています。四季の風景はそれぞれ美しいですね。遠く離れた外国の村で医療や教育に携わっている方も多いと聞きますが、そういう方達も今頃日本の秋を懐かしく思い出しているかも知れません。きっと、誰でも心の中に故郷の原風景という物があるのでしょうから。柿が色づいて来ると、この色を出す為に苦心をした柿右衛門さんの事が偲ばれます。晩秋の夕暮れのような色です。それだけでなく、柿は葉も少しずつ紅葉して行く様子が繊細で綺麗です。
年齢のせいか、母の作ってくれた料理の味がいつも自分の食べたい物の原点になっている気がします。前に進んで行く原動力は子供の頃の親とのかかわりが大きな役割を果たしているようでもあり、まるでぐるぐる回って元の場所に戻って来たようでもあると思うと、思わず笑ってしまいました。成長して来たのかどうか、昨日は、秋の柿色から思考が段々と迷路に入って行ったようなそんな日でした。

11月20日、善意の塊

9歳の猫を予防接種に連れて行きました。家にやって来て8年経つ、とても利口な猫です。診察中に、我が家の猫を連れて行くのに使っているバスケットの中に、いつの間にか病院の猫が入っていました。看護師さんが外に出したのですが、その後もよその猫に興味津々という風でした。生まれて数か月の雄だとの事、好奇心の塊なのでしょうし、他の猫に対しても警戒するより仲間に対する親しみの方が強いのだと思います。まだ単に学習不足なだけ、と思う方もいらっしゃるでしょうが、まるで世の中は善意で成り立っていると信じているようなこの猫が少々羨ましくなりました。幸せにすくすく育って欲しいものです。

11月16日、赤マンマ

庭の隅に赤マンマが咲いています。このところ雨の日が多いのでなかなか草取りが出来ないのですが、この草は子供の頃のままごと遊びを思い出す懐かしい物なのでしばらくそっとしておこうと思います。
ままごとをして遊んでいたのは随分前の事なので、その頃の自分と今の自分が同じ人間だというのが不思議な気がします。庭の花を摘んでままごとに使う事は花がかわいそうに思えてした事がありませんでしたが、小学生の夏の終わり頃、一度だけ鶏頭の花を摘んで水に入れ、絞って赤紫に染まったその水で遊んだ事があります。その時何故花を摘んだのかよく分からないのですが、水の色がとても綺麗でした。
いつもは軒下の台所用品を置く棚の南側で遊ぶ事が多かったのですが、その時は反対側に立って遊んでいました。反対側から見る笊や鍋、そして庭の様子もいつもとはまるで別の物のように見え、とても新鮮でした。視点を変えると見え方が変わって来るという事と似ているように思うのです。でも、なぜかそのようにして遊ぶ事を繰り返す事はしませんでした。ままごと遊びを思い出すと、夏ミカンの一房ひとふさのように見えるダリアの花が綺麗だった事と、澄んだ赤紫の水の色が今でも必ず浮かんで来る、いつもの自分とは違う自分に出会ったような思い出です。
お隣に回覧版を持って行った時、自分の家とは道路などの見え方が、位置が違うので少し違う事に気付きます。まして育った環境も価値観も人は皆違うのですから、人と自分も少しずつ違うのかも知れませんね。

11月13日、色々な嘘

このところ、売られている惣菜やレストランなどで出される料理に使われている食材が表記通りではない事が分かったという発表が多いですね。誤表示などと言われていますが、高級食材を使ってあるように表示し、実はそうではない物を使っていたのですから同じ値段で売られていた場合、誤表示という言い方は釈然としません。次々と明らかになっているようですが、後になればなるほど驚きや怒りは薄まって来る傾向があるのではないでしょうか。
我が家では、高級食材を使ったお惣菜を買った事はありません。近くにあまりそういう物を扱っている店がないですし、多分値段が高いだろうと思うからです。ですから、もし買って食べれば、流石に美味しいと感じてしまうでしょう。私には食べ慣れていない物の味の判別は出来ません。
ある時、手作りのお味噌を頂いたのですが、とても複雑で、如何にも多様な物が入っていてそれが熟成されて深い味になった、という事を感じさせる物で大変驚きました。これは調味料ではなく、おかずになります。音符が楽しそうに口の中で弾けているように思え、食べていると楽しくなって来ました。漬物や饅頭などにも手作りの物の良さを感じる事があります。手作りの物の多い時代に育ち、素朴で飽きない味に子供の頃から慣れているからかも知れません。今の時代は、半調理品も上手に取り入れれば勿論便利だとは思います。
嘘には人を元気にしたくて、などという善意の嘘もありますね。そういう嘘からは、色とりどりの大きなキャンディーが一杯詰まったガラス瓶を想像してしまいます。誤った表示をしていた事が分かったのでしたらぜひ自浄能力が機能するよう、風通しを良くして頂きたいものです。

11月9日、塩の道

オーストリアの町ザルツブルクとは塩の城という意味の地名なのだそうです。岩塩が採れるから豊かな所だったとは知りませんでした。今私が日常使っている塩とはかなり違う物なのでしょう。薄いピンク色の岩塩なども最近では売られていますね。高い山が多く冬には雪の積もる国、と思っていたので、塩の採掘や取り引きとは意外でした。
沢山の教会があり、モーツァルトを生んだ音楽の町でもあり、今も生家が残っています。モーツァルトは短い35年の生涯で、多くのゆったりと心を解放し癒される曲を残しました。鉄道沿線の町には長い歴史が刻まれた建物も多く残っていて博物館がよく似合う佇まいです。列車は深い緑の牧草地が広がるチロル地方を走り、インスブルックに到着しますが、ヨーロッパアルプスが高く白くそびえ立っているのが印象的でした。
フロイトは1955年に永世中立国となったオーストリアの出身であり、ユングは隣国スイスの出身です。それぞれが家庭や時代の影響を受けたのでしょう。ですが後の心理学、カウンセリングや精神分析に大きな足跡を残した2人が、地理的に近いこの地域の人であったという事を大変興味深く感じます。

11月5日、比喩

そろそろ七五三の時季になりましたね。電車の中でご両親と一緒の和服姿の女の子を見かけました。綺麗にお化粧して髪を結い、花柄の着物が良く似合っていて、いくらか緊張しているようでした。着物の色柄、帯、帯締め、帯揚げなども随分多様になったと思います。学生時代に電車で長距離の通学をした事など思い出している私と、これから学校で色々学び、いずれ社会に出て行くこの女の子とではまるで違いますね。出会ったと言っても、私の方は人生の折り返し点を過ぎたわけですから、マラソン中にすれ違った瞬間のようなものです。出会った事すら記憶に残らないでしょうが、幸せに成長して行ってもらいたいですね。
自分の感じた事を説明する時に、何かに例える事が多くなったのは多分学生時代からだと思います。自分の置かれた状況や気持ちを何かに例える事によって人に伝えたいし、より詳細に理解してもらいたい、きっとそう思って自分の気持ちを通訳するようになったのだと思います。他者とかかわりたいのは人間の本能のようなものでしょうから。

11月1日、仰げば尊し

久しぶりに大学時代のゼミの同窓会に出席しました。何人かの同級生に会う事が出来、全国各地から集まった先輩や後輩とも隔てなく色々話す事が出来ました。先生のお仕事への意欲は以前と変わらないようで、素晴らしい事です。私には気力が足りないのかも知れないとも感じました。何時までもお元気でいらして頂きたいものです。心が和み、何もおっしゃらなくても励まされたり慰められたりしたような気がする先生は大きな存在で、学んで来た事の原点のような気がします。何時まで経っても追いつけない先生に教えて頂けた事はとても幸せな事だと思います。
冬の越谷の、底冷えがする冷たく清冽な、ピンと張りつめた空気の中で学び、友人達と語り合ったその中にもう一度身を置いたような清々しくて身が引き締まるような感覚を感じましたし、心理や福祉の方面で中核となって働いている、集った方達が良い刺激になったように思います。出席する事が出来なかった方達と一緒に、先生のご健康とご多幸をお祈りしたいと思います。
夕暮れの吉祥寺の人混みの中を歩きながら、この瞬間にも地球という場所と私という人間の人生に時が刻まれて行く事を実感し、年を重ねて行く事で選択肢が少なくはなっても、自分の明日というキャンバスは白く、そこにどんな物が描かれどのような色に塗られて行くのかは自分次第なのだと、改めて思いました。タイムマシンで一気に時間を超え、また戻って来たようで少し目まぐるしく、そしてとても良い一日でした。

10月29日、心に出会う

断続的に雨が降る日に、大きくなった猫が一晩帰らず心配でした。猫も家族の一員なのですね。不安でしたが猫は翌朝元気で帰って来ました。大人になったからその日は外で過ごしたかったのでしょう。猫と人間が一緒に暮らせる時間は限られていますが、出会ったというめぐり合わせがあったようにいつかは別れて行く時が来ます。めぐり合った縁を大切に出来るだけ後悔する事のないように一緒に暮らして行きたいものです。自分の都合だけに合わせようとしたり、べったりしすぎる執着は、慈しむ事とはいくらか違うかもしれません。程よくかかわって、一緒に幸せに過ごさたら、と思います。ですが、猫の気持ちを理解して寄り添う事が出来るでしょうか。
さて、今年も、君津駅の通路の壁に貼られた文化祭のポスターが目に付く季節になって来ました。小中学生の描いた絵やポスター、そこに詩が添えられた物など、様々な作品が時々張り替えられ、新しい作品に出会うのがとても楽しみです。のびのびとした作品ばかりで、絵が今にも立体になって画用紙から出て行って動き出しそうに感じられます。作品に出会う事は描いた人の心に出会う事かも知れませんね。

10月25日、時間を超えて

台風で心がまだ硬直しているのに次の更に大きな台風が発生し、日本列島に近づき、はらはらしながら過ごしていました。久しぶりに親類の動静を聞いたのも、このような時でした。懐かしく、この人がずっと一生懸命研究に打ち込んで来た足跡を垣間見たような気持ちになりました。長い歳月という時間が横たわっているのが現実なのに、それを一気に超えたような不思議な思いがします。
ずっと以前に、大学時代にお世話になった明るくお元気な先生が定年退官なさった時のお写真を拝見し、先生の髪が大分白くなられた事にしみじみと歳月を感じた事があり、その事も同時に思い出しました。時代が人を乗せた舞台のように、大きく動いたように思い、寂しさと、自分がこういう事をして来た、と特に言える事もなく日々生きて来た事実を突き付けられたように思えてやりきれない気持ちになりました。今ではそれも懐かしい思い出です。
他の誰でもない自分という人間がここに生まれ、今こうして生きている事は奇跡のようなものだと感じますから、その事に感謝したいと思うようになりました。歳月は人のある部分を変化させます。それでも根本はそう変わらないその人らしさを持って人間は生きて行くのかも知れませんね。気持ちが明るくなって来つつある時に、スーパーで君津市のゆるキャラきみぴょんに会いました。可愛いピンクのきみぴょんの目は、何だか好奇心に満ちているようでしたよ。

10月21日、湖底の故郷

台風の大雨で川が氾濫しそうな時に避難勧告や避難指示が出され、公民館などにその地区の人達が避難している様子を伝えるニュース映像を見ていつも思うのが、世帯数が多いわりに人数が少ない、という事です。一世帯当たりの人数が少なく、どちらかというと高齢の方が多いように感じますが、地方から若い人や子供が減っているという事なのでしょうか。
第一次産業に携わっている人の後継ぎが育ちにくいのは、後を継いでもこの先立ち行くかどうかという不安が大きいからなのでは、と思います。それは自給率がもっと下がって行く事につながりますから、地球温暖化の影響で災害が増えているのに一体どうしたら良いのか、米作りをしていない我が家にとっても大きな問題なのです。確かに舗装道路だったら雨が降ってもぬかるみなどという物は関係なく、歩きやすいだろうと思っていて、その通りにはなりましたけれど。
かつて、都会の飲料水などの不足に備えて、川の上流にダムを作って来ました。ダム建設が決まると、地元の人達は他の地域に移り住み、故郷はダムの底に沈んでいったのです。それから何十年も経って日照りが続いた夏に、ダムの底に沈んだ分校がそのまま姿を現す、などという事がありますが、長い間ここに住んでいた人達は、そういう時どんな気持ちでしょう。いずれそこでの暮らしを経験した人はいなくなりますね。
豊かになりたい、便利な暮らしをしたい、それはずっと昔から誰もが思って来た事なのだろうと思います。でも、どのくらいの速度で何処までそうして良いのか考えるのは、とても難しい事なのですね。後になって見なければ分からない点も多いから慎重になる事が大切で、アクセルとブレーキ両方が車に必要、という事ととてもよく似ていると、専門知識を持たない私も思います。一人の力は小さく、将来を考えるといっても難しいけれど同時にその一人ひとりが集まって時代を作り歴史を作っている、という一見矛盾したような両面がある事を感じ、ますます簡単には答えが出ない事に気付きました。ポイントの切り替えを間違えたまま走っている列車の映像が目に浮かびます。秋の夜長に頭を使って脳を活性化させたら何か良い考えが浮かぶでしょうか。

10月17日、衣替え

大きな台風でしたね。何か大きい音のする工場の中に入れられていたように感じる風雨でしたが皆様如何がお過ごしでしょうか。報道で知る被害の大きさに、我が家が無事だった事を喜ぶ事が憚られます。この夏沢山実ってくれたオクラもとうとうおしまいになり14日に茹でて胡麻和えにして食べました。太い木のように育っていたので抜のが大変でした。この太い幹まで、折るとぬめりがある事に気付き、驚いています。種蒔きした大根の芽が出て少しずつ育っています。畑は衣替えも済んで冬の準備中という所なのですね。
こんな風に自分の思うように心の中もうまく整理が出来ると良いのですが、気持ちは頭で考えた理屈通りにはなかなか行かないものです。ゆっくり少しずつ、自分の心という引出しの中を見て、何故今のような状態になっているのか、ではどのようにしたいのかを考え、そこからやって行けたらと思います。少しエネルギーが必要ですが、皆様も時々心の引き出しを開けて見ては如何でしょう。思わぬ事に気付いて、それが何かのヒントになるかも知れませんよ。
ところで、台風で緊張しておやすみになれなかった方もいらっしゃると思います。どうぞお気を付けてお過ごし下さいね。

10月13日、音楽

テレビに映し出される映像が、私をあちこちに連れて行ってくれます。音楽に合わせてラテンダンスを踊るキューバの人々の表情は底抜けに明るいものでした。緯度が低いというよりも、太陽の近くに住んでいると言った方がぴったりだと感じます。キューバはヨーロッパやアフリカからやって来た人のとても多い国だそうですが、文化の融合、そこから生まれて来た新しい物、が今のこの国の文化を作りこれからを作って行くのでしょうね。ルンバはキューバの音楽ですが、歌っている人、踊っている人の表情の明るさの奥に、この国の歴史の厳しさや、苦しい時代を生きて来た人達の悲しみが聴こえてくる音楽でもあると感じ、驚きました。ですが、その悲しみは希望へとつながるものでもあったのだと思います。世の中は広く、人は様々で、人間の奥は計り知れないほど深いものだと感じました。
自分が確かに知っていると言える事はほんの少しなのだという気がします。幾つになっても学ぶ事は尽きませんね。

10月9日、蜻蛉の羽

厚さ0.3ミリの土佐和紙、仁淀川の流れる緑豊かな山里の職人さん達がこの和紙を透いて作る技術を伝えて来たのです。丈夫で、かげろうの羽とも呼ばれる薄さなので、古い公文書の修理にも使われているそうです。文字が書かれている部分が破れた時などにその上から貼っても文字がはっきり見えるからなのです。蜻蛉というのですからトンボの羽のような、歌舞伎で使われる透明感のある美しい傘にも似ているのでしょう。繊細で丈夫なこの和紙は、楮を蒸して皮を剥き作られます。紙漉きの工程は昔の海苔つけとよく似ています。このような薄い紙が何故作られ、どういう風に使われて来たのか、興味は尽きません。水の美しい静かな町に立ち上る、楮を蒸す煙は働く1日の始まりなのでしょうね。緊張感とのどかさを同時に感じ、日本の原風景を見たような朝の5分間でした。

10月5日、白いスポンジ

最近、幼稚園の送り迎えのバスの車体に、可愛い絵や楽しそうな絵が描かれているものが多いですね。汽車に見立てたような絵が描かれたバスも走っています。小さい子供は乗ってみたいと思うのではないでしょうか。私は幼稚園に1年通いましたが、入園前は自分の名前も数字も書く事が出来ませんでした。柱時計の鳴る音で、1から12までは数えられるという子供でした。それが、1年幼稚園に通ううちに、ひらがなの読み書きや数字も書けるようになったのですから、大変な進歩です。子供が物を次々覚える事の出来る量や速度は大人とは比べものにならないのですね。体の成長も心の成長も知識を得る事も、皆ぐんと伸びる、成長の目覚ましい時期があるように思います。人の性格が形成されて行く過程で、遺伝と環境の影響の割合ははっきりとは分かりませんが、やはりある一定の部分は、真っ白いスポンジが水を吸うように育って行くのではないでしょうか。子供の心が、白いキャンバスのように感じられます。そこにどんな色でどんな人生を描いて行くのでしょう。
人間の老化は少しずつです。ある時まで心身共に全く老いる事がなく、ある日突然高齢の自分になっていたらとても受け入れられないかも知れません。私も、気が付けば、必要な物を買いに行って別の安い物を買い、初めに必要だったものを買い忘れて帰って来る事のある年齢になっています。一度に覚えていられる事の数が減ったのだと感じます。皆様は如何でしょうか。

10月2日、猫と人間の何となく

去年の11月に我が家にやって来た雄のキジトラ猫は、この夏で多分1才くらいになったようです。甘えん坊で、ご近所で可愛がって下さるお宅もあり、暑かった夏も無事に越しました。波乱の1年だっただろうと思います。庭には色々な野良猫がやって来て、夏頃から追いかけられたり噛みつかれたりする事がとても多くなって来ました。もう子供ではないからという事と、たとえ相手が友好的な態度でそばに寄って来たとしても見た瞬間気に入らない相手だと感じると出会う度に追いかける場合がかなりあるのだそうです。その理由はよく分かりません。
人間はどうでしょう。好きになれない人や苦手な人がどのような性格傾向の人なのかが大きな要素だと思います。マイナスの感情を抱いてしまう相手は、自分が今までの経験で不快な思いをさせられた人と似通っている場合が多いのではないでしょうか。例えば、何時でも頭ごなしに叱った親と似たような態度で自分に接する勤務先の先輩、などという場合です。でも、実は仮に全く同じ環境で育ったとしてもぴったり同じ性格の人間になるわけではないのですから、先輩は自分の親とは思ったより相違点が多い人なのかも知れません。
他者とのスムーズな交流のための第一歩は、自分の、人とのかかわり方の原点を見つける、他者の良い所を見つけるという事なのではないでしょうか。二者関係から三者関係へ、子供の、人との交流は広がって行きます。コミュニケーションは生きて行くのに不可欠ですから、大人もそれを楽しめる場や相手が広がって行くと良いですね。

9月29日、今日という日は

秋は子供や孫の運動会が楽しみ、という方のお話しをよく聞きますが、運動会が嫌いな子、クラスでの合唱の練習が嫌だと思う子、マラソン大会が苦手な子、色々な子がいるでしょうね。
9月26日は台風の特異日だそうです。洞爺丸台風、狩野川台風、伊勢湾台風、皆大きな被害の出た台風です。ご家族を亡くされた方は、幾十年経ってもその日の事を忘れる事は出来ないでしょう。それは震災でも同じだと思います。まして、天災では行方不明になったままの方も多くいらっしゃるのですから、なかなか自分を納得させる事が出来ず、どんなに辛い事だろうと思います。
考えて見れば、誰も亡くなった人は居ないという日は一年を通じてないのですね。過去の出来事であってもかさぶたが出来た傷のようで、まだ心に引っかかっていて癒えてはいない深い傷を持ち、日々今を生きているという方、多いのかも知れません。特に家族を亡くした悲しみ、苦しみはそのようなものではないでしょうか。今日という日がどんな日かは、過去と現在両方が、その方にとってどういう日なのかという事なのだと思います。時間は同じ速度で未来に向かってのみ確実に進んで行きます。人は一人ひとり置かれている環境も育って来た家庭も思い出も、感じる事も価値観も違うのだと改めて思いました。

9月26日、秋の入り口

月の綺麗な季節ですね。十五夜の日、ウォーキングコースでススキを自転車に積んで帰るおばあちゃまをお見かけしました。よく晴れた日でしたので、お月見をした方は多いかも知れません。来月の十三夜のお月見は日本独特のものだそうですよ。
日中よく晴れると飛行機雲が弧を描いているのが美しい季節でもあります。見ていると、地球は丸いのだとしみじみ感じます。ホースで花の水遣りをしていたら虹が見え、これもとても綺麗でした。
さて、朝晩涼しくなって来たので大根の種蒔きをしました。うまく育って欲しいものですが、それには平年並みの気温や天候が不可欠だと思います。そうすれば季節外れの虫が異常に多く発生する事もありませんから。あまり甘くはなく、苦味や辛味のある大根にしました。それもまた楽しみです。
暑さ寒さも彼岸までと言いますから、北から順々に秋の色が濃くなって行くのでしょう。芸術、スポーツ、読書などで楽しんだり気持ちにゆとりが生まれたりしたら良いですね。清少納言は枕草子の中で、秋は夕暮れ、と言っていますけれど、ひんやりと涼しく、空気の澄んだ秋の夕暮れは本当に美しいです。今年も、美味しい物や美しい物の多い季節の入り口に立っています。

9月23日、タイムトンネル

珍しく館山に行く機会がありました。美術展を見て、戦争中に作られ、病院や格納庫として使われていたという壕も見て来ました。
美術展では特に牡丹を描いた作品が印象に残りました。白に近いピンクがかった牡丹が開いた絵は、白を使って、描かれた花に影を付けたり他の色をぼかす様に使う事で、牡丹の花びらの透明感をより感じる素晴らしい物でした。色の使い方の発想は多様なのですね。柔らかく繊細な花びらが開いて行く様子は、部分を描いて全体として1つの花になったのではなく全体を捉える事と部分を正確に描写する事の両方のバランスが取れているように感じ、絵が上手でない私には、何か応用のきくヒントを貰ったような気がします。
壕に入ったのですが、外は30度位だというのに気温が20度なく、ひんやりとしていました。中は確かにもの珍しいと言えば言えるかも知れませんが、私は好奇心よりも、戦争中のこの辺りは今日のようにのどかではなく、明日の事も分からない張りつめた気持ちで人が行き交っていたのだろうと思え、壕の中に当時の人達の思いが今も残っているような気がして冷たい水で顔を洗った瞬間のような気持ちになりました。あまりにも今私が生きている現実の世界とはギャップがあるのです。非日常の空間のように感じるこの場所は、当時は日常であったのですよね。
その後見た明るいグリーンのグラデーションが美しい海と、この壕の中とをつなぐ言葉がなかなか見つかりません。ものすごい勢いで垂直のタイムトンネル通り抜けた、といった感覚なのです。いずれにしても、実際に見なければ分からない事は案外多いのかも知れません。
お昼に老舗で食べたパンは、味に、長い間変えなかった物と人の求める物の変化をどのように感じ取り、工夫して歴史を刻んで来たのだろうかと言う私の思いがプラスされ、大きな体験をした1日をほどよく締めくくってくれたようです。ある日ある時店に立ち寄った人達は、ほんの一瞬この店の中で時間を共有したような、乗合馬車という意味のオムニバスサイコドラマにも似ています。瞬間という物を積み重ねてきた自信や誇りに、ほっと一息ついたような貴重な思い出になると思います。

9月20日、聴く

心理カウンセリングを受けたいので行って見よう、とためらわずに決める方はそう多くないかも知れません。病院ではないので症状を改善する薬を処方する事はありませんし、知らない人に自分の心の中を話す事は勇気のいる事だと思います。カウンセラーは勿論カウンセリングを学んでいますが、近くでカウンセラーが見つからず、続ける事が無理な時、悩んでいる人の話を少し聴いてくれる人がいたらどんなに気持ちが楽になるでしょう。
辛い心の中を話した時に、あいづちを打って、良い悪いと評価せずに熱心に聴いてくれると分かってもらえたと感じますし、気持ちが整理されたりすっきりしたりします。それでは自分はどうしたいのか、どうしようか、という事を具体的に考えて行く為には話す事を聴いてくれる人がいる、いう事が不可欠であるように思います。
辛い思いを抱えている相手が、時間はかかっても話す事で自分が見えて来てどうしたいのかという答えを出して行ける人だと信じているからあいづちを打ち、聴く側の尺度で評価せずに聴く事が出来るのです。ですから、もし身近に悩みを抱えている人があなたにそれを話したら是非そんな風に聴いてあげて欲しいと思います。ですが、あなたも決して無理をせずに出来る範囲でという事も大切です。そうでないと聴いた側の負担がとても大きくなる場合もありますから、お気を付け下さいね。

9月17日、牽引する

このところ朝晩涼しくなり、秋を感じます。ですが、昨日の台風の被害はまだ爪痕と言うには生々しく、テレビに映し出される光景に言葉もありません。私もようやく風雨が静かになったので野菜の葉に真水を掛けたり植木鉢を外に出したりしました。
ところで、7年後に東京で再びオリンピックが開催される事が決まりましたね。天災、原発、様々な問題に直面している状態が良い方向へ少しずつ向かって行くような努力とオリンピックへの準備が相乗効果となるように、と願います。
江戸時代に多くの庶民は寺子屋に通い、明治以降は、義務教育は機会均等となって今日に至っているのですよね。教育とはどこからどこまでの範囲を言うのかと考えると、これは無論人によって違うとは思いますが、これからも是非そうあって欲しいと思っています。どのような時代でも子供に希望を持って学び、生きて行って貰いたい、とは多くの大人達が思う事ではないでしょうか。難しいですが、小さな事でも、自分の出来る事をして行けたらと思います。

9月13日、陸続き

ジブラルタルはイベリア半島南東部にあります。スペインやポルトガル、モロッコから来た人達も住んでいるし、スペインから働きに来て夕方帰って行く人も多いという所ですが、16年間のスペインによる国境閉鎖があった事を初めて知りました。ここはイギリスの海外領土なのですね。
住んでいる人々は互いに相手の食文化や宗教なども認め、尊敬しあって付き合えるのがこの地の魅力だと語っていました。ジブラルタル人、と思っている人の多い地域のようです。いかめしい国境という雰囲気でないのが、島国に住む私には新鮮に感じます。蒸し暑さをしばし忘れさせてくれるように清々しく、モロッコの人達の飲むミントティーを私も一緒に頂いたような心地良さを感じました。
一方、ウクライナとドナウ川を挟んでいる国がルーマニアです。幾多の困難を越え今がある両国の人々にとって国境に横たわる川は深くはなく緩やかに流れ、そこに生きる人を隔てるものではない存在であって欲しいですね、これからも。
陸続きの国境が沢山あり、今までもこれからも人間は国境を越えてかかわり合い、生きて行くという現実の重さよりも、そこに暮らす人のたくましさ、他者への肯定感や知恵に明るいものを、テレビの映像から感じました。

9月10日、季節感

日中暑くても白いTシャツやノースリーブの洋服などが夕暮れ時には夏の忘れ物のように感じます。夏の間役立ってくれた物達に、ご苦労様、ゆっくり休んで下さい、と言いたくなります。過ぎて行くと思うと暑かった夏が名残惜しいように思えるから不思議ですね。ミニトマトとキュウリが終わったので苗木を抜き、畑を耕しました。多い時にはミニトマトなど毎日800グラムほど収穫出来ましたから、夏野菜を買わずに済み、随分助かりました。そのうち大根の種を蒔こうと思っています。薄暗くなった中で風に揺れている風鈴の音色が過ぎて行く夏を惜しんでいるようで、夜には鈴虫の合唱が聞こえます。そろそろ桔梗やリンドウの紫、熱いコーヒーと本が恋しくなって来ました。

9月7日、ラケット

ラケット感情と言う言葉を聞いた事のある方、いらっしゃるでしょうか。例えば、親が忙しかったり、家族の関係がギクシャクしていて子供の気持ちに寄り添うゆとりがない時、子供は怒りと言う感情を何かにつけ、親にぶつける、そんな子供の怒りの奥には、かかわって欲しいのにそうしてくれないから悲しい、と言う気持ちがあります。怒りは本物の感情ではなく、かかわって貰いたいためのラケット感情という事になります。怒りの奥にある感情の中核は、この場合悲しみなのですね。不安な時、泣きたい時などに、大丈夫だという事を強調して他者に対して優越感を感じるなどと言う事は、小さい時、そうすれば親が褒めてくれたからと言う場合が多いようです。親に認められ心地良く感じるようにかかわって欲しいというのが、小さな子供なのだと思います。
自分のラケット感情に、自分で気付く事が出来れば勿論良いのですが、思春期になっていうことを聞かない子供に困っている時など、ちょっと立ち止まって子供の気持ちを考えてみては如何でしょう。大きくなればなるほど心の中は複雑ですから、かなり屈折した感情を出す事が多くなりますが、家族だからこそ十分に自分を理解し受け止めて欲しい気持ちは誰の心の中にもきっとあるはずです。

9月3日、かまどの補修

田んぼは黄金色、実りの秋到来ですね。買い物がてら歩き、お米を7キロ買いました。重かったですよ。その後、私が小さい時、土と切った藁と何かを混ぜてかまどを丁寧に手際よく大人達が補修していた場面を思い出したのです。あれよあれよという間に綺麗なかまどになり、呼吸のあった連携プレーのように感じました。録画ならもう一度巻き戻して見て見たいような、という珍しい記憶です。
粘土遊びのように、私も濡れた色の土を触って見たいと思いながら、子供が割り込んだら手順が悪くなってしまいそうでただ見ているだけでした。いつか私も手伝いたいけれど今日はまだ駄目だから、と思ったのも覚えています。でもその後機会はありませんでしたので、ちょっと残念です。何故今頃久しぶりに思い出したのでしょうね。
以前友人が亡くなった時、ご家族の方が私よりずっと疲れていてお辛いのだから悲しいという自分の感情をあまり出しては負担を掛けてしまいそうでいけないと思い、悲しみを出す事を封印してしまった事があり、それが心にずっと残っていた事に気づき、悲しい時にはその感情を出す事が大事だと改めて思った、という事があった直後でした。その事に気づき、そこから再構築したい物があったのがかまど作りや、そのためには助け合う事も必要で、連携プレーのように助け合いながら一歩前に、と考えたのかも知れません。7年ほど経ってようやく、友人の亡くなった事は今でも悲しいけれど悲しみから一歩踏み出したくなったのだと思います。
喪失の悲しみは封印していつも通りの日常を送る努力をしがちですが、そうするとかえって心が元気になるのが遅れる事もある、今回私にとっては7年という歳月が必要だったのだ、という事なのですね。夢は無意識への王道という言葉通りだと感じます。雄弁で、意識している部分よりずっと奥行きがあるようですから、自分の見た夢を探って行くと自分の願望などに気づき、自己探求の手がかりになるかも知れませんね。

9月1日、日記を読む

女性達が長年書き綴って来た日記を読んで行く、という事をなさっている方達が、千葉県八千代市にいると聞きました。一緒にその活動をしている方が230人全国にいて、もう十数年になるのだそうです。
日記には書いた人の気持ちだけでなく、数十年前の物の値段や献立、自分の家族や社会の様々な出来事なども綴られているのでしょう。同じ時代を生きた人の共通する価値観というものがあるかも知れませんが、住む地域や家庭によって日記を書いた人が置かれていた状況も違いますから、例えば同じ出来事に遭遇したとしてもどう考えたり感じたりするかは千差万別なのだと思います。後で他の人が読むとは思わず書かれた物は、走り書きのような文字や達筆で読むのが難しい文章もきっとあるでしょう。
でも読んで行くにつれて、書いた人の人柄が感じ取れたり、その人が日記に書かれているその日にいきいきと生活していたのだという、確かに生きて生活していた息吹きのような物が感じられるかも知れません。一緒にそこに彼女といるように、過去を擬似体験したような感覚になる事もあると思います。戦争中や戦後の大変な生活が綴られている物が多いでしょうね。記録された事実から書いた人の置かれていた状況や気持ちが生々しく伝わって来て、自分の日常を省みる時など若かりし日の書き手が今の自分と平行している存在のように感じる事もありそうですね。急に、じっくり墨を摺り、真っ白い半紙に筆で文字を書くという自己表現をしてみたくなりました。

8月29日、子供の自分に出会う

先日荷物を片付けていたらアルバムが出て来ました。私が見た事のない物で、小さな写真が沢山貼られていました。昭和三十年代前半のセピア色の写真には若かりし頃の母や家族、猫も写っており、なんと生後数か月の自分に、生まれて初めて出会いました。男の子か女の子か分からないような赤ん坊でした。
ですが、生後一年四か月の雛祭りの日に撮られた写真の子の目をじっと見ていると、懐かしさを感じるのです。何処かで会ったような、と言う不思議な気持ち、まるで自分の片割れに出会ったような、ジグソーパズルの足りなかった部分が見つかったような、そんな気持ちになりました。あの子は今の私に似ていないようでも、やはり他の誰でもない自分自身なのだと感じ、点と点が初めてつながり、線になったように感じました。初めまして、というよりも、しばらくぶりだけれど元気にしていたのかな、と言いたくなりました。
今も私の感情や感覚の源になって生きている小さい頃の私の顔が見えた事はこの夏の嬉しい大きな出来事でした。

8月26日、秋の色が

立秋はとうに過ぎましたが、暑い日が多いですね。雨が1日降っても遊歩道の紫陽花の葉やヒマワリがいつもほど元気がないようです。大雨による水害、日照り続きで高温、地方によって様々ですね。私も朝夕野菜や花に水を遣っています。焼石に水かも知れないという気もしますが元気のない苗を見ると放っておけなくなるのです。過酷な気候でも稲は黄金色に実って来ましたし、スーパーの店頭には新物の秋刀魚が並んでいます。少しずつ日が短くなり、8月半ば頃から朝晩の風に涼しさを感じるようになって来ました。今年も段々秋の色が増えて来たように感じます。風鈴の音が妙に大きく感じられるのも秋の姿が見えて来たからなのかも知れませんね。夜になると虫達が音楽会を開いているように賑やかです。虫の音を聞きながら、平穏無事な実りの秋となって欲しいと思っています。

8月23日、涼しい家

昔の我が家は茅葺き屋根の家で基礎がなく、竹釘が使われていました。居間は十八畳と広く、畳と障子、襖の日本家屋なので厚い壁が夏でもひんやりと冷たく心地良かったものです。屋根の葺き替えが出来ない時代になり建て替えましたが、この家は関東大震災でも無事だったわけです。猛暑日の増えた今、ああいう家に住んだら節電にもなりますね。
でも、季節感のある暮らしが珍しくなかったという事はそれだけ不便だったという事でもあります。あまり暑いとタイムスリップしたくなります。何を得て何を失ったのか、何を優先するのが良いのか、それを考え判断するのはとても難しいと、何かにつけて思います。行動するところまで持って行く事が大切ですから、簡単な宿題というわけにはいかないですね。

8月20日、南極

地球の中心部から温められて出来た氷底湖が、南極大陸の凍った大地の下には三百数十もあるそうです。外の世界とは隔絶されており、光が届かないので光合成も出来ません。
でも、ここには数種類の微生物が生息していると聞き、とても驚いています。一体どのようにして生きる事が出来るのでしょう。そのメカニズムが分からない私には神秘的です。フジツボやエビの仲間が住んでいるとの事、暗く冷たい場所を好むならば、住む事が出来る栄養分があるのですね。敵も少なそうですし。
降り積もった雪が凍り、その氷河は重いので海に流れ出てやがて雲が出来、また雪が降るという循環が長い間続いて来たけれど、氷の流れ出る速度が8倍になっているという異変が確認されたそうです。地球温暖化とストレートに結びつくかどうかはまだ分かりませんが、近い内にどのような理由なのか解明されるかも知れません。
北極近海より南極付近の方が明るいように私が感じたのは、南は暖かい、と言う固定観念が自分の中にあるからでしょう。本当は、南半球では北向きの家の方が住みやすいでしょうが、北向きと言うと日当たりや風通しが悪いように感じてしまいます。北や南という言葉から何を連想するかが、私にとっては北半球でも南半球でも多分変わらないのでしょう。北極大陸という物が存在しない事も、北極近海が寒々としているように感じた一因かも知れません。猛暑日の多いこの夏は、氷を削る音が懐かしくなります。

8月17日、まあるいまり

年を取ると頑固になる、と言う人もいますし、丸くなる、と言う人もいます。半世紀以上生きて来た私は、自分が一体どういう人間になっているのか、実はよく分かりません。
ただ、長く生きている事は色々な出来事を経験する事ですから、その人なりの価値観が形成され強固なものになって行くだろうと思います。でも、後で考えてみると、他者の立場になって相手の気持ちを推し量る事も出来ますから、どのような見方をすれば良いのか、たった一つだけが正解ではないと思える事もありますよね。どのように受け止めるかで、マイナスに思っていた出来事が感謝したくなるような事に 変わるという場合もあります。
頑固か柔軟かは正反対のようでいて、実はそんなに違わないような気がします。小さい時、濃いピンク色のまりをついて遊びました。あのまりのようにぽんぽんと、まあるく弾むように年を取れたら良いだろうなあと思います。

8月14日、伝える記憶と記録

太平洋戦争が終わって今年の8月15日で68年になりますね。戦場や空襲、疎開、どれも今の私達の日常生活とは全く異なる当時の日常が確かにあったのです。ですが、その当時を体験した人が段々少なくなっているのもまた事実です。戦争は誰の人生にも影響を及ぼし、変えてしまうという事を心に刻んでおかなければ、と思いますが、ではどうしたら良いのだろう、と考えてしまいました。
戦争の記憶は今でも語りたくない、と思っている方もいらっしゃるでしょう。でもやはり経験した戦争中の日常を話して頂いて聴く事が大切だと思うのです。口伝えの力は大きいですね。それは、実際にあった事を経験した人が伝えてくれるからこその重さ、生々しさが聴き手に伝わって来る、と思えるからです。私の祖母は、地震が起きたらまず頭を保護し、建物が歪まない内に戸をあける事が大切だ、と子供だった私に言いました。関東大震災を経験したからではなく、祖母の母方の先祖の一人が商家に嫁ぎ、安政の地震の時に外に飛び出したために落ちて来た蔵の屋根瓦が頭に当たってその家でその人だけが亡くなった、と聞かされて来たからなのです。
記録に残して行かなければいけない内容は、亡くなった方の人数や焼けた家の数だけではなく、人の日常がどのように変わり、人生にどのような影響を受けたのかという事実だと思います。それは当時を生きた人の数だけあるのかも知れません。そのように具体的だからこそ、聴いた人の記憶に残って行くのではないでしょうか。ある日ある時、この戦争を体験した人が１人もいなくなる時が来るのは確実です。その時までに、事実を決して歪めずに残し伝えて行けるかと言うぎりぎりの岐路に立っていると思いますし、それが出来るかどうかが将来を左右するという側面があるようにも思います。これからの子供達が、亡くなった方達がどんなに生きたかったかその気持ちを推し量る事の出来る人間に育てて行きたいものですね。

8月11日、命と食べ物

この季節になると思い出すのが、高校の社会科の授業で習った食糧管理法違反事件です。食糧管理法を守るという事は闇米などを食べない事ですから、配給だけでは生きて行けなかった時代にそれは餓死する事を意味します。戦後の混乱期に、ある裁判官の方がこの法律を守って亡くなったのです。命をかけて言いたかった事を考えさせられました。
私は母から聞いた事を、この事と一緒にいつも思い出します。それは、太平洋戦争中にある町の警察署に用事があって行った時の事で、体育館のような所に案内され、用事が済んで帰ろうとした時、大きな鍋でお汁粉を作っているのに気が付いてとても驚いたそうです。小豆や砂糖は一体どこにあったのでしょう。闇で売ろうとしていた物を没収して作っているのでは、と思ったと母は言いました。それはこの日ここでだけの光景ではなかったのかも知れません。食べ物が足りないから闇で売買されていたわけで、何ともやりきれない光景、という気がします。誰もがお腹が空いていた時代だったのだと言っても、玄関開けたら二分でご飯、などと言う事が当たり前のように思って育った子供達には理解し難いでしょうね。母は時々すいとんを作りました。と言っても出汁や野菜、肉など色々入っている物でしたから物に不自由していた頃のすいとんとは大分違う物だったのだと思います。
そして、食糧管理法違反事件と一緒に思い出すもう一つの出来事が、青函連絡船洞爺丸の事故の時、ドイツ人宣教師の方が自分の救命胴衣を人に与え、亡くなった事です。皆同じ気持ちで、と言う事はなく、状況も全く違いますし、私は特定の宗教を信仰しているわけではありませんが、命は何とも引き換えに出来ない大切なものですからどちらも誰にでも出来る事ではないと思います。
子供達が希望を持って互いを大切にしながら生きて行ける未来にするにはと考えると、難しいですけれどなるべく負を残さないように一つひとつ考えて行動して行く事が大切な事のように思えます。棚ぼたの幸せという物はないように感じます。

8月8日、夏の後ろ

夏の風物詩というと、花火や風鈴、夏祭り、ラジオ体操などの耳で聞く物が、他の季節より多いように思います。青空や朝顔、ヒマワリ、スイカ、氷等は目に見える物ですが、これはどちらかと言うとパステルカラーではなく、はっきりとした濃い色の物が多いですね。夏だというのに我が家ではどういうわけか藤が咲き始めました。今年は大雨の被害が出ている地域がある一方、この辺りのように少雨の地域もあり、偏っていますから、心配です。この前もお話しましたが、少しずつ日が短くなっているせいか、夕方になると、盛夏だというのにその後ろに秋が見え隠れしているように感じます。
もうすぐ月遅れのお盆です。今年も、先祖との距離の近い月、と感じています。亡くなった人達とのコミュニケーションがスムーズに出来るような気がするのは、感覚や直観が働きやすい時期だからなのかも知れません。子供達は夏休みですし、大人も休みを取って帰省や旅行をする方が多いでしょうね。それぞれが忙しいご家庭でも、家族で一緒に過ごす機会が増えるのでは、と思います。心に残る夏休みになると良いですね。夏休みもなく一生懸命勉強している受験生の皆さん、どうぞ健康にも気を付けてお過ごし下さい。

8月5日、アンデス山脈

南北7500キロ、幅750キロというアンデス山脈は標高の高い山が連なり、厳しい環境です。赤道近くの山でさえ雪が積もっています。朝晩と日中の気温差が大きいのでこの環境に適応出来るように生き物達は独特な進化を遂げて来たのだそうです。湖でバレリーナのように歩くピンクの足の細い、赤い部分のあるフラミンゴは、フラミンゴ同士で語り合ってでもいるかのようです。コミュニケーションは上手くいっているようでした。
この辺りに住むインカの末裔の人達は、家畜をうまく利用して厳しい環境を生きて来ました。活火山が、生き物のように力強く生々しく見えますが、それは人間の都合とは全く関係なく呼吸している、そんな風に感じました。南米大陸最南端では氷河を見る事が出来ますが、長い山脈なので所によってかなり気候も異なるのでしょう。
映像で見ただけなのに、日本の対角線上に広がる光景に圧倒され息を飲む自分に、自分でも驚いてしまいました。インカ帝国の遺跡を訪れる事が出来たら一体どんな風に感じるのでしょうか。

8月2日、呼吸する

路地も舗装されていると雨の日に外に出るのに長靴がいりません。昔の田舎道はほとんど舗装されていなかったので晴れていると砂埃がひどく、バスはでこぼこ道なのでガタガタ揺れました。そもそもバス路線は少なかったのです。雨の日はぬかるみを歩くようなものでした。
でも、夏だというのに気圧配置が南高北低にならず、激変するお天気は偏西風が蛇行している為だと聞くと、舗装した道路やビルばかりでは自然が呼吸出来ないような気がします。何だか自分の思っている事を言うのを禁じられたストレスの多い人間と似ているようですね。

7月30日、法事

親戚の法事に伺い、色々と考えさせられました。ご両親が娘さんの供養をなさったのです。法事が終わると祭壇から仏壇に入るという区切りの法事でしたので、辛さ、悲しさ、受け入れがたい思いはむしろこれからの方が大きくなるのかも知れないと思いました。暑い日だったというのに、秋口の夕暮れ時にいるような言いようのない寂しさを私も感じました。
ですから、年若い息子さんが戦死した時、親がどんな思いでその後を生きたのか、その悲しみや辛さは私には計り知れません。遺骨どころか遺品すらないという方が多かったのでしょうから。激動の時代を、亡くなった子供の供養をし、心の中に決して消える事のない悲しみややりきれなさを抱えて大半の親御さんがもう旅立って逝かれたのだと思うと戦争は何時までも終わらないのだと感じます。
我が家の親戚も今年の秋の夜をさぞ長く感じるだろうと思います。亡くなった方の魂はいつも家族と共にいるのかも知れませんが、遺影は何時までも変わらず死者は年を取らない事も、別の時間軸を生きて行くような家族にとっては悲しい事なのかも知れませんね。虫の音がいくらかでも慰めになってくれるよう祈りたい気持ちです。喪失の悲しみには、日にち薬はなかなか効かないようです。

7月27日、夢と空調

毎年カビが生えやすい梅雨時にはそれぞれのお宅で除湿をしたり、晴れた日は窓を開けて風を通すなど色々と工夫なさっていらっしゃる事と思います。梅雨が明けて暑くなった所が多いと思いますが夜ぐっすりお休みになれるでしょうか。
体がとても疲れている時や、良い事があって嬉しく、これでホッとしたなどと言う時にはぐっすりお休みになれるかも知れません。でも、物事が思うように行かないでイライラしていたり、不安な事や心配事の解決のめどが立たない時などはなかなか寝付かれなかったり、眠りが浅く疲れが抜けないという事もあります。眠りが浅いと夢を見る事も多くなると思います。目覚めた途端に忘れてしまう夢もありますが、よく覚えている夢もあります。自分が頑張っているのにうまく行かない事がある時、急いでバス停に行こうとしても思うように進めずなかなかバス停に着かない、などと言う夢を見る事もありますが、言いたい事を言うわけには行かず不快感が残っている時に、夢の中で言いたい事が言えてすっきりした、こんな経験をなさった方も多いと思います。
このような時、夢がストレスを軽減しているわけで、人には自分のストレスを解消し心の安定を保とうというメカニズムが自然に働いていると言えると思います。心の空調と言う気がします。ストレスを感じやすい社会ですが、辛さを軽減するような夢が見られると少し楽になり、そこからまた新たなエネルギーが湧いて来る事につながります。寝苦しい夜に心が和み、栄養になるような夢が見られると良いですね。

7月24日、今川焼

雨が降ると天然のクーラーのように気温が下がりますね。種蒔きして育てた地這いキュウリが750ml入りの醤油のペットボトル位の大きさに成長したので収穫し、炒め物にし、芥子酢醤油で頂きました。早朝は涼しいので野菜に水遣りをしながら清々しい空気を吸って自分にゼンマイを巻き、テキパキと動き出すようにしている今日この頃です。ところで、21日は私の住んでいる地区のお祭りでした。花火や夏祭りのシーズンになりましたね。
お祭りの屋台、と言うと思い出す物があります。小学生の頃、隣町の駅の近くの食堂のメニューにあった1皿3個で100円だった今川焼です。勿論買って帰る事も出来ました。そこの女将さんはいつも和服に白い割烹着姿で忙しそうに立ち働いていたのが昨日の事のように目に浮かびます。その店はもうありませんし、その辺りは大きく変わりました。平日でも人でごった返していた通りでしたが随分店が減り、寂しく感じます。
その頃私は、餡の入っていない今川焼を１つ下さい、と行って見たくてたまりませんでした。尻尾まで餡の入っている鯛焼きではなく、餡の全く入っていない鯛焼きも食べてみたいと思っていました。そういう事は言えないまま大人になり、この年齢になりました。今でも屋台で売っている今川焼を見るととても気になります。何時か一度人の作った餡の入っていない今川焼を食べてみたいものです。

7月21日、山羊がいたら

毎日暑いので、日中自分が中華鍋の中で麻婆ナスにされているような気がします。でも今朝の気温は18度、東よりの風が吹いていました。雨があまり降らない庭は土が乾いていますけれど草は大きく伸び、横にも這って元気ですから当分早朝に取るつもりです。三食食べ放題のアルバイトに山羊に来てもらいたい、などと考えながらコツコツと草取りをしています。
田舎だからなのかお盆が近づいて来て何かと気忙しい毎日です。今年もそういう季節になったのですね。ミニカボチャ12個、スイカ2個等収穫しました。仏様に供えようと思います。残りの枚数の方が少なくなったカレンダー、今年が駆け抜けて行くようです。まだ当分暑いでしょうけれど、日がいくらか短くなりました。俳句の季語となっている、雲の峰、積乱雲を見ると後ろに秋が見え隠れしているように毎年感じます。今日は蝉や鳶が鳴いていますよ。暑さに慣れたと思っても、それだけ疲れてもいるのでしょうから熱中症に用心なさって下さいね。

7月18日、手書き

お中元の季節になりました。梅雨が明ければ暑中見舞いのハガキを出すという方も多いと思います。何かを送る時はついそのまま送ってしまう事が多いのですが、頂き物の包みを開けて一筆添えて下さった便箋に気付いた時、蒸し暑い日でも、そよそよと涼しい風が吹いている所でひと休みしている心地良さのような物を感じ、心が潤います。
電話もメールも便利で良いですが、そういう物にはない何かがあるのかも知れませんね。そう思う私が、アナログ向きの人間、と言うだけの事かも知れないですが、手書きの便箋の行間には書いて下さった方のその瞬間に込められた温かさが真空パックになって入っていて、開けた時にゆっくりと余韻が残るように伝わって来ます。贈り物に入っている心を頂くのですね。私も何かを送る時には、儀礼的にならないように一人一人の方を思い浮かべて選び、送りたいと思います。

7月15日、気になるひと言

実はちょっと気になっている事があります。先日ある店に買い物に行き、透明な袋に入っていて少し嵩張る商品を買いました。買い求めた他の商品は手持ちの袋に入れ、この商品にはレジで店のテープを張って貰い、もう１軒の店に行きました。2件目の店で必要な商品を持ってレジで支払いをしようとした時、店員さんが、私が持っていたテープの張ってある物を見て、お会計はお済みですか、と聞いたのです。
テープを張ってあるのでそのように言ってこの人に見せましたが、不快感が残りました。お会計はお済みですか、とはその店の商品を黙って持って行こうとしている事が歴然としている時にしか言わない言葉だと思ったので、もっと別の言い方があったのでは、と思いました。これでは私がこの店の物を盗ったと決めつけられたように感じましたし、この店員さんは他の店で購入した商品である事が分かると、ニコニコしながら謝ったものですから、私は謝られているようには感じませんでした。それにこの商品は2軒目の店には置いていない物でした。
ではなぜ黙っていたかと言いますと、多分言っても理解してもらえないのではないかと感じたからです。ニコニコして謝る人との意思の疎通は難しいと判断したのです。それだけではなく、この人の上司に言えば、今のような雇用情勢が厳しい時代に処遇に影響が出るかも知れない、もしそうなったら悪意ではなかったのだろうから気の毒なようにも思うし後味が悪い、そんな事も思いました。
たったこれだけの事にも自分の傾向が表れていると思うと好奇心が湧いて来ました。自分を知るチャンスですから。こうしてくよくよするのが私で、それはそれで良いのかも知れない、ともかくありのままの自分を受け入れよう、そんな風に思いました。今日は自分に優しくしたようです。これで、自分を知る楽しみはこれから先もずっと続くという事を実感し、いつの間にかこの出来事を楽しく感じている自分に気付きました。
でもやはり、接客が仕事の方はこれを他山の石として下さいね。

7月12日、ドライフルーツ

最近スーパーでドライフルーツをよく見かけます。マンゴーやパパイヤ、イチゴなどもあり、随分種類が増えました。平安時代には朝晩二食だったそうですね。平清盛は日宋貿易をしていたので中国のお菓子も手に入ったのだそうですが、庶民にとっては干した甘い果物はもしかしたら貴重なおやつだったのかも知れません。世界各地の物が並ぶスーパーなどきっと想像もつかなかったでしょう。色々な事が少しずつ変わりながら時代は今この瞬間も動いているのですね。暑いですが、お盆前の草取りを始めました。

7月9日、カビと換気

関東地方では梅雨明けしましたが、今年の梅雨も雨の降らない日が続いたり、かなりの大雨になったりしました。やはり段々地球温暖化の影響が大きくなっているのですね。1年を通じて、強風の日も増えました。畑に植え付けたズッキーニは強風で何本か折れてしまいました。まだ茎の細いオクラも心配です。家庭菜園ですらこうなのですから、露地栽培の野菜や果物を出荷している農家の方はさぞ大変でしょう。
昭和46年ごろから、真夏に日本の太平洋沖に、冷水塊が現れるようになって来て、この辺りでも夏の最高気温と冬の最低気温が徐々に高くなって来た事を思い出し、自然の変化と人間の便利な生活との関係のバランスを取る事の難しさと大切さを改めて感じています。難しくても、先送りしたり棚上げしたりせずに取り組まなければもっと困った事になる問題は多いのでは、と思います。
箪笥の引き出しに入れられる分量は決まっていて際限がないわけではありませんよね。精神的なストレスもこの事に似ていると思います。コンマ以下の些細な事でも溜まればストレスになります。カビの気になる季節ですけれど、心の換気はなるべくしたいですね。

7月6日、美しい人

今頃の雨を洗車雨というそうです。七夕に、彦星が織姫に会うために乗る牛車を洗う雨なのだという事ですが、あまり大雨になって欲しくないですね。
先日韓国のテレビ局が制作したドキュメンタリーを短時間見ました。終わりに近い所だけでしたが、それは田舎に住む70歳台半ばのおばあさんが3年ものの白菜のキムチを料理したり、子供が学校に通っていた頃のお弁当箱を今も台所で活用している日常を取材した番組でした。
おばあさんが食べていた、かまどの灰の中から出した黄色い焼き芋とそこに乗せた真っ赤なキムチが綺麗で印象に残りました。長年使いこんだ古い台所用品は手に馴染んで使いやすいと言い、嫁ぐ時に実家のお母さんに貰って持ってきたという漬物石も大切にしていてその石には光沢があり、イキイキして見えます。この人が使いこみ、大切にしてきた物は皆蘇ったと言いますか、新しい命を吹き込まれたように見え、慈しまれてきた台所用品の一つひとつが彼女によって育てられ共に生きて来たように感じられるのです。彼女の顔や手に刻まれたしわは一生懸命生きてきた証のように思え、風格さえ感じます。美しい人に出会ったと思いました。私は、田舎の家でこのお婆さんと話しながら一緒にご飯を食べてみたくなりました。私にはまだまだ足りない所や学ぶ事が多くあるのだと感じさせられる映像でした。こういうお年寄りはどこの国にも沢山いらっしゃると思いますが、長生きして頂きたい、そんな事を思いながら種から育てた野菜達に追肥をしました。

7月4日、コミュニケーション上手な糠味噌

今朝糠床に新しい糠を足しました。混ぜていると新しい糠と古い糠が違和感なく同じ手触りになって来ます。乳酸発酵が良い具合に進んでくれるでしょう。
こんな風に自然にスムーズに人とのコミュニケーションが出来たら、人間のストレスは軽減される、そういう気がしますが、自分の考えや気持ちを上手に伝える事と同じように今の相手の状態や気持ちを感じ取り理解して、それが自分と違う意見であってもそれはそれとして認める事が大切だと思います。私も、自分の価値観を大事にしながらも、それは誰に対しても絶対的な尺度ではない事をなるべく心の中にメモして置くようにしたいと思っています。乱暴に縫った洋服のように、何処かからほつれてしまいそうな他者とのかかわりになってはいないかを時々省みる事は返し縫いをするような物で、自分を大切にする事にもつながりますね。
先日はいくらか厚い物を洗濯したのですが、洋服が気持ちよさそうに風に翻っていました。洋服が自己主張しているようで、今年も、寒い間ご苦労様でした、ありがとう、と感謝の言葉をかけました。自分の心も時々洗濯や虫干しが必要なのかも知れません。難しいけれど窓ガラスの掃除をするように磨けたら良いでしょうね。

7月1日、茶色い匂い

朝晩肌寒い日がまだ続くのでしょうか。収穫したナスの糠漬けが良い色ですと美味しく感じます。見た目も大切なのですね。小さい頃、ナスの糠漬けが良い色に漬からなかった時、茶色い匂いがする、いつもの方が美味しい、と言って、家族皆が笑った事がありました。錆びた鉄のような色のナスはいつもと違う匂いがしたのでそんな風に言ったのでしょう。糠床に水分が多いとナスは良い色に漬からないようです。キュウリは反対ですから一緒に漬ける時は場所を分けるなどの工夫が必要ですね。さて、今日のナスの糠漬けは茶色い匂いがしてちょっとがっかりしています。漬ける工夫をまた考えたいと思います。明日は半夏生、梅雨も後半ですね。

6月28日、旅行とシンデレラ

最近、こけ女と言う言葉を聞きました。旅行に行きお土産にこけしを買い、家に帰って戸棚に沢山並べるのはお年寄りが多かったそうですが、今は高齢の方の買う物とは限らず、こけしを買って沢山家に飾る女性が増えているとの事、また新しい言葉が出来ましたね。
私も今ではひとり旅をする事はないのですが、以前は一人で出かけた事もありました。旅行に行く時ガイドブックなど読んであれこれ思いを巡らして楽しいのですが、帰りは何か違います。家がだんだん近づいて来ると非日常から日常の生活へ戻る事になるので、12時になった時のシンデレラの気持ちをちょっと味わったような不思議な気がします。ガラスの靴はどこかに片方落として来たのかも知れませんから、またいつか小さな旅をしてみたいと思っています。近い所でこけしをゆっくり見る事の出来る所も良いかも知れないですね

6月25日、慰霊の日

生きていると色々な出来事を経験し、心に残っている事も多くなります。昭和20年の初夏、地方都市でも空襲は昼も夜もなく頻繁になっていたと聞きました。ある夜、対岸の空が真っ赤になり、空襲は何処なのだろうかと大勢の人が案じて空をながめていた時、一人の若い軍人が母にこう言ったそうです。この戦争は負ける、私は飛行機で名古屋上空を通ったけれど一面の焼野原でぼんやり空を見上げている焼け出された人達に戦意など全く残っていなかった、それはもうどこの町でも同じだ、そう言われた母は戦前の教育を受け、まだ若かったという事もあり、大変驚いたそうです。当時このような事を口に出す事は憚られていたでしょうから。何か言おうとした時に、私は明日沖縄に飛行機を持って行きます、と言われ、何も言えなくなった、私はそう聞きました。
6月23日は沖縄の慰霊の日です。毎年この頃になると私はこの話を思い出します。見ず知らずのこの人の名前さえ分かりませんが、多分亡くなったのだろうと思います。無事に沖縄まで行く事が出来たのか、行く事が出来たとしても、それがどんな役割を担う事なのかおそらく十分分かっていたのでしょう。何が言いたかったのでしょうか。そして、どんな気持ちだったのでしょうね。昭和20年6月23日が過ぎても沖縄の人達にとって戦争が終わったわけではなく、その後どれほどの困難があったのかとても一言では言い表わす事は出来ないだろうと思います。
今でも、収集する事の出来ない遺骨がかけらのようにあちこちに残っています。海に陸に、戦争は生々しい傷口を見せているのだと、沖縄を訪れた時に思いました。梅雨空の糸満の道の両側に栽培されているサトウキビの葉が長い間そこで起きた出来事をつぶさに見て、フィルムのように記録しているようなそんな気がしたのですが、サトウキビがそんなに何十年も植えられたままになっているはずはありませんね。そこにはきっと沢山の方が亡くなっていたのでしょう。サトウキビどころか一切れの食べ物もなく、水を飲みに行くのも命がけと言う日々の連続だったに違いありません。沖縄国際大学のキャンパスに咲いていたひともとの白百合を見て胸が詰まり、足がくぎ付けになった瞬間のあの感覚が、昨日の事のようによみがえって来ます。
平和で毎日希望を持って幸せに生きられるようになりましたか、と私は犠牲となられた方々に問いかけられているような気がするのです。静かにご冥福をお祈りしたいと思います。

6月22日、シャドウ

自分の心の奥深くまで全て見える、と言う事はありません。自分の事だからこそ見えない盲点があります。気付かない事が自分のバランスを保って日常の生活をするために必要だから気付かないという場合は、防衛が働いているという事になりますね。ですから、自分がどのような人間なのかを考える時には、自他共に分かっている部分、人からどのように見えるのかと言う部分と、他の人は気付いていないけれど自分だけが知っている部分、自他共に分からない深い部分があるという4つの面を考える事になるのだと思います。
例えば、自分とは正反対の性格だと思う人に対してどのような感情を持つでしょうか。嫌悪感や反発を感じるかも知れませんし、羨ましく感じる事もあると思います。スイスの精神科医で心理学者であったユングは、自分が生きて来なかった側面をシャドウと呼んでいます。自分と正反対の性格はこれに通じる物と言えるので複雑な感情を抱くのでしょう。もし、自分と性格が正反対の人が自分の前から急に姿を消したら、私はきっと、自分が半身無くなった魚の開きのような寂しさや空虚感を感じるだろうと思います。
人間が心のバランスを保って生きる事は難しいものなのかも知れませんね。コツコツと努力し真面目で優しさも持っているけれど、生きづらさを感じる様な事があった時、今までと全く反対に生きたいという気持ちがふっと湧いて来るなどと言う事もあると思います。時にはそう言う風にある程度の幅を揺れ動き、それをどのように考え選択して実際に行動して行くかがまさにその人らしさを作っているのでしょう。嵐の海で船の舵取りをするような、弥次郎兵衛のバランスを取るような、そんな風にして自分を統合して生きているように思います。複雑で緻密でもあり、はかり知れない奥行きを持つ心を通わせながらお互いに生きているのが人間なのだと思うと、他者に肯定的な感情がゆっくりと湧いて来るようで、その感情を大切にしたいと思います。程よい距離を保ちながら必要に応じての交流が出来たら良いですね。

6月19日、披露宴を支える人

親戚の結婚披露宴に招かれ、お祝いに伺いました。新郎新婦が誠実な人である事、落ち着いたと言いますか、地に足の着いた新家庭のスタートとなる事など感じさせるほのぼのとした素晴らしい披露宴でした。私は新郎の親戚ですが、楚々としてとても美しい花嫁さんでしたよ。
この花嫁さんのお召し物の裾を持ち、歩きやすいように少し遠慮がちな笑顔で付き添っていた年輩の和服の女性は、式場のベテランの従業員の方でしょう。私は、以前そのような仕事をしていた方を存じ上げているのですが、その方は娘さんが嫁ぎ、お孫さんが生まれ、その仕事を退いた後に体調を崩して療養生活を送っていらっしゃいます。療養生活に入る少し前にお会いした時が、丁度今頃の南房総の枇杷の季節でした。その方の笑顔がどうしてもこの従業員の女性に重なり、しみじみとした披露宴だという事もあって切ないような気持ちになりました。新郎新婦のお幸せを願い、療養している方が幸せなお気持ちで過ごされる様にという事も合わせて祈りたいと思います。
金襴緞子の帯締めながら花嫁御寮はなぜ泣くのだろ、と言う花嫁人形という歌の歌詞を久しぶりに思い出しました。親に慈しまれての暮らしから巣立って行くのですから、明日からの事を思って泣くのではなく、昨日までの事を思って泣くのだというのが、この歌詞の意味なのでしょうね。
今月は親類のお葬式と結婚式両方がありました。逝く人があれば新しい人生の第1歩を踏み出す人もいて、本当に人は様々です。まるで、道路の右と左のバスの停留所で、上りのバスと下りのバスを待っていた人のようで、それぞれの行く方向は全く違うのだと感じました。そう思うと、人との出会いは奇跡のようなものですから大切にしたいですね。

6月16日辛さと幸せ

きゃら蕗を煮込みながら杏のジャムを作ってみました。山椒を入れて小女子の佃煮も作り、1日干しました。台所は季節の匂いで一杯です。朝からこんな事が出来るのも幸せの１つかも知れません。
辛さを知らないと本当の喜びは分からないのではないか、だから辛さを知らないと幸せが分からないかも知れない、と言う話を聞きました。ちょっと見方が変われば感謝する事は確かに増えます。冷静になってその出来事を振り返ってみる事はやはり大切ですね。自分の事、家族の事、職場での事、どれもないがしろに出来ず、大事にしたいからあれこれ思い悩むのですよね。誰しも心の成長力を持っているのだと信じ、今日も仕事をしています。幸せと言う字と辛いという字は、似ていますね。人の辛さは、幸せに通じる物であって欲しいですし、そう信じたいと思います。

6月13日、野菜を作る

仙台平野では、除塩作業が終わって3年ぶりに田植えという所があり、水の張られた田んぼの写真が新聞に掲載されていました。困難を乗り越え、決断をし、心身共に大変なご苦労をなさっての事と思います。この光景が復興への希望の道しるべになりますようにと、私も心から思います。
我が家ではズッキーニやキュウリの花が咲き、小さな実が付き始めました。インゲンやナスも少しずつ収穫出来るようになり、今度はプランターに二十日大根の種を蒔いて見ました。種蒔きして育てたキュウリの苗はまさに天塩にかけた、と感じ、無事に成長して欲しいと願っています。その植物について知り、タイミングよく必要な事をしてかかわると言う事が大切なのですね。花も野菜も子育ても相手を理解する事で良いかかわりが出来、成長できる能力を信じて見守るという点が似ているように感じます。周りの方々のアドバイスや見守り、今まで畑の土作りをどのようにして来たのか、どれもが大切で、野菜の栽培を通して学ぶ事は多く、感謝して収穫した物を頂きたいと思います。まだ双葉のオクラは、小さな子供と言ったところでしょうか。楽しみが1つ増えました。

6月10日、デパートと私

ファミリーレストランが初めて出来たのは昭和45年7月7日だそうです。子供の頃、時々家族とデパートに行き、最上階の食堂に入るのは楽しみな事でした。休日には度々外食するという時代ではなかったのです。ですからこのファミレス登場の記事にしみじみ歳月を感じました。
デパートは電車で1駅、屋上が小さな遊園地のようになっていました。夏にはその屋上で氷を飲みましたが、全員違う味の物を注文する家族でした。広く、それぞれの階に色々な売り場があり、特に婦人服地を扱う売り場はその季節らしい色柄の物が並んでいて、見ていてワクワクする場所だった事を覚えています。ゆるやかな階段の踊り場には豪華なフランス人形が飾られていて色鮮やかなドレスを着ていましたが、そういう物はここにしかなく、見ていてため息の出そうなお人形でした。1階には四角いデコレーションケーキや彩りの美しいお菓子、食材、惣菜などが並び、買う人を待っているように感じたものです。昭和45年当時デパートの食堂ではラーメン1杯70円でした。
デパートに特別に欲しい物はなく、ただ行くだけで十分楽しかったのは様々な色とその取り合わせ、売り場によって置いてある商品が異なり用途も異なる、と言う、行く度に、そして階段を上がる度に未知と出会う事だったからなのでしょう。明日デパートに行くという日は嬉しくてなかなか眠れませんでした。今、行く場所は違っても、子供はやはりそんな気持ちになるのではないでしょうか。
子供の自分にとってはあれぐらいで丁度良かった、身の丈に合っていたのだ、そんな風に思います。デパートの色々な売り場を覗く事は、自分の心の色々な部分に焦点を当てて見る事に似ています。それによって見え方が変わって来ますから。そしてトータルでどうなのかと言う事は、外に出てデパート全体を見る事に似ていると思います。どこに行った、何をした、という一つひとつの出来事とその時の気持ちが、沢山集まって一人ひとりの人生を作り価値観を作っているのですね。私はデパートのちょっと上等なソフトクリームが好きでしたが、人生はソフトクリームとは似ても似つかない、味わい深くほろ苦い、噛み応えのある物なのですね。

6月7日、ボランティア

スーパーに、切った西瓜が並んでいます。梅雨だというのにどの西瓜も美味しそうで、みずみずしく涼しげに感じます。その西瓜を見て、随分前の事を思い出しました。
30年近く前の初夏のある日、私は京王線に乗り、井の頭公園駅で降りました。降りた何人かの乗客の中に、小さいお子さんの乗る車いすを押しているお母さんがいました。改札口が今とは違って通りにくかったのだと思いますが、その時4人の大学生らしき男性がスッと近づいて行き、ごく自然に車椅子を少し持ち上げるのを手伝いました。当然の動作のようにまたすっと離れて行くその様子はボランティア精神そのもののようで、後に涼しい風がさっと吹き抜けたような清々しさが残りました。そのお母さんには思いがけない事だったようで大変喜んでいらっしゃいました。
人に手を貸すのはお互い様なのだから、と思っていたら恩着せがましい気持ちにはならないですし、自分への承認欲求というものでもないでしょう。阪神大震災よりずっと前からボランティアの芽は少しずつ育っていたのですね。電車の座席を人に譲った時などに緑の美しかった井の頭公園と共に思い出し、今日の私はあんな風な気持ちで行動出来ただろうか、とふっと考えています。あの4人の男性は今のような厳しい時代をどんなお父さんとして生きていらっしゃるのでしょうか。きっと根っこはそう変わってはいないのでしょうね。

6月4日、若い人を見送る

昨日、私よりずっと若い親戚の女性を見送りました。後にはご両親が残されました。肌寒い朝でしたので無常の風は時を選ばずと言う言葉そのもののようだとしみじみ思いました。告別の日の朝、ご自宅の庭の紫陽花は目に沁みるほど白く、道の辺の真紅の葵も何か身を乗り出すようにして咲いていました。旅立って逝く方と残されたご家族を慈愛に満ちたまなざしで見守っているように私には感じられました。
一生懸命学び、働いて、駆け抜けて行ったような彼女の人生でした。もう今生で再び会う事が出来ないと思うととても残念で複雑な気持ちです。何事も一生懸命努力し頑張って来た人生の行きつく先が若い年齢での死とは、やりきれない気持ちになります。旅立って逝った彼女のご冥福をお祈りするだけでなく、これから先は残されたご両親を気遣う気持ちを持ち続け、今までのようにお付き合いさせて頂きたいと思っています。
時間が経つにつれて、胸にぽっかり穴があいたような辛いお気持ちになる時があると思います。悲しみを抑圧し過ぎると心身のバランスを崩す事にもなりかねません。喪失の悲しみの時間や深さは一人ひとり違い、簡単に推し量る事の出来ないものです。マイナスの感情は溜め込まないで出す事も大切です。
ところで、カウンセラーが今の自分の気持ちをよく理解したうえでないとカウンセリングは難しくなります。今の私の気持ちのあり様もちょっと通常とは違います。人と人は向かい合った時に言葉だけではなく反応しあっていますから、何か特別に考えたり感じたりしている時には、カウンセラーの無意識の何かをクライエントさんが感じとり、話しにくくなったり、分かってくれていない、と感じるかも知れないという事にもなりかねません。とても難しいけれども、カウンセラーは出来るだけ自分の内界を冷静に、曇っていない鏡に映して知っている必要があるのですね。

6月1日、すっきり

今日はナス1個初収穫出来ました。根室で千島桜が咲き、西から梅雨に入って来た日本列島が地図で見るより大きく長く感じます。青梅が沢山出回っているので、梅と一緒に酢と甘味料を広口瓶に入れ、梅サワーを漬けました。梅干しやラッキョウ、梅ジュースなどを作る方も多いようです。酸味のある物は暑い夏に、体に良いだけでなく気分も何かすっきりとします。ストレス解消にも効果があると良いですね。夏野菜を糠漬けにし、酸味が出てきたら塩を抜いて刻んだ生姜を混ぜても美味しいので我が家では夏によく作りますし、ピクルスも美味しいです。まだ山椒の葉が柔らかいので、酢味噌などに使っています。関東地方も随分早く梅雨に入りましたが、せめて気分はすっきりと過ごせたら、と思います。

5月30日、果物

昔は店頭に並ぶ事のなかった外国が原産地の花や果物が今は沢山出回っていて、年々増えているようです。初めてエリンギを買ったのはもう随分前の事です。以前バナナやパイナップルが高価な物だった事も今ではまるで嘘のようです。私が中学生になるまでは、1ドルは360円でしたから変動相場制になった時、何故なのか良く分かりませんでした。輸入品の値段の変化はこの事とも大きな関係があるのでしょうね。ここ何年か、ドラゴンフルーツという名前を聞きます。サボテンの仲間の果実だそうですが、1度見てみたいと思っています。
果物は野菜ほど、ないと困る物ではありませんが、家族がくつろいでいる時の潤いや心の潤滑油になるような物、という気がします。目に見えなくても役に立っている物の1つなのですね。

5月27日、海と深層

富津市を南から北に移動する機会がありました。海の近くを通りましたが、場所によって浜の様子や見える景色も随分違います。富津岬から南へ離れるほど海が観光や漁業という生活に密着している存在のように感じられました。富津岬から東京湾を内側に入ると海を埋め立てて工場があり、海本来の姿とは全く違うので、海の近くという気がしません。磯の香りに、小学生の時にお世話になり、早くに旅立たれた先生の事を思い出しました。先生はその辺りの方でした。
風があったので、キラキラ銀色に光り、寄せては返す波が、イルカの群れが楽しそうに戯れているようで1日中見ていても飽きないのでは、と思ってしまいました。水はいつ見ても生きているようで、人間との深いかかわりを感じます。意志を持った物云わぬ存在とでも呼びたくなります。
自分の内側と向き合う時に防衛を緩めてくれる物の1つなのかも知れません。
雪を頂いた高い山が神に近い厳粛な庭のように感じられるのとは対象的で身近な海ですが、やはり自然の厳しさと荒々しさを示す事もあるという、見る角度によってその顔を変える大きく不思議な存在だと思えるのです。昔の人は海をどんな風に眺め、海のそばで暮らして来たのでしょう。
富津市の埋立記念館に入ったのも今回が初めての事でした。高度経済成長期に大きな変貌を遂げた故郷を改めて実感する所へ行くのは、懐かしさではなく、私にとって痛みのように感じるからなのです。故郷の景色は生活に密着したものであり、自分自身と不可分だからなのだと思います。でも、後世に伝えるためにはそれではいけませんね。私は、戦争や震災を語る事の辛さの一端を実感出来たような気がします。

5月24日、ドラマ

最近テレビドラマを見る事があまりありません。今より昔の方が、時代劇やホームドラマが数多く放映されていたように思います。大家族の日常を描いたドラマを家族で見ていました。でも、今は外国のドラマのファンも多いようですね。
たまにずっと昔のドラマの再放送を見ると懐かしいですし、流行の服装や家庭の料理、食事時の会話、部屋の家具などがその時代をよく表している事に気付きます。例えば、お味噌汁が濃いという事を、昭和50年代頃のドラマでは辛い、と言っていますが、今は、しょっぱいという方が多いですね。唐辛子を使った料理が食卓に上る事の少なかった時代には、塩辛いという事を辛いと言っていたからなのではないでしょうか。
江戸時代や明治時代の暮らしなどは想像する事しか出来ませんが、身なりばかりでなく、話す内容や話し方、所作などからその時代を感じさせる為には、ドラマを制作する人や演じる俳優さん達が時代背景をよく理解して演じる必要があります。学ぶだけでなく、感性も必要なのでしょう。遠い昔を垣間見たように感じさせてくれるドラマを沢山見て、私の心の引き出しにそれが一杯入っているのは嬉しい事です。それは、読み応えのある本を読んだ時の手応えのような物ととてもよく似ています。

5月21日、静謐

自分にとって、心が静かで落ち着いているのは年間どの位の日数や時間なのか、と言う事は勿論はっきりとは分かりません。最近忙しかったから何となく慌ただしくて気持ちが落ち着かなかったなどとは必ずしも言えないような気がします。現実の日常の忙しさだけが気持ちを落ち着かなくさせるものだとは限りません。心が静かで落ち着いている時は葛藤や焦り、怒りなどがない時なのかも知れませんね。
先日讃美歌を聴く機会があり、その時静謐と言う言葉が浮かんで来ました。真夏に、ひんやりと涼しく、綺麗な水が流れそよ風が吹いていて心地良い洞窟の中に、自分の心がすうっと入って行ったような不思議な気持ちになりました。それは、自分の本質のすぐそばまで行って向き合った、とでもいうような束の間の時間でした。簡単に分析出来ませんが、そう言う事があったという事を大切に覚えておきたいと思います。自己洞察の手掛かりの1つになりそうです。短かったけれど、余韻の残る密度の濃い時間でした。

5月18日、心の断層

今年もラッキョウを漬けました。そろそろ青梅が出回って来るでしょう。急に暑くなり、畑で作業できる時間が短くなり、時間帯も限られて来ました。こんな時道路工事をしている方達はさぞかし大変でしょう。以前にもお話した事なのですが、昔の人は会話の中でよく、おかげさまで、と言いました。何かその人にとって良い事があると、良かったですね、と言われますよね。その時そう答えていました。心に残るやり取りです。ありがとうやごめんなさい、おはようやさようならなどとはちょっと違うようで、あまり聞く事がなくなった言葉の1つではないかと思います。私も感謝の気持ちを込めて、もっと使ってみようと思います。
例えば原発事故で避難して来た方へのいわれのない差別、などと言う事は相手の立場になれば出来ない事です。様々な場で、相手の気持ちや立場を考えず自分の価値観のみが正しいと思ってものを言う事は人を傷つけ、自分をも粗末に扱う事になる、といつも思うのですが、現実にはそのような事が多い世の中だと感じます。とても残念です。自分と何かが違う時、相手に問題があり自分の価値観のみが正しい、という気持ちになりがちですと、人と自分を隔てる心の断層を作ってしまう事になるのではないでしょうか。
習字の時間に文字を書く時は、文字の大きさや配置を予め考えて筆に墨を適量含ませて書き始めます。よく考えずに不用意に始めると、半紙にぽたぽたと墨が垂れ、文字通り汚点になります。汚点は出来るだけ度々付けないようにしたいものですね。私も傲慢にならないようじっくり自分を省みたいと思います。

5月16日、外から見る

お父さんの仕事の都合でイギリスに住んでいる小学校4年生の女の子が、生活の様子を書いた作文を読む、という番組が放送されている時、丁度ラジオのスイッチを入れたのですが、とても感情がこもった表現力の豊かなその文章に感心しました。最初は言葉が分からず戸惑ったけれど友達が出来、日本の事を色々と聞かれて話すようになった事、原爆ドームの事、折り紙について話した事、友達の家族に、日本は美しい国だと聞いていると言われて嬉しかった事など、体験し感じた事を日本にいる私達に伝えてくれました。
皮膚の色や目の色、日本人の子供として生まれたから日本人、というだけでなく、私は外国に住んで日本が好きだと思うようになったので、日本が好きだから日本人、と言う考え方があっても良いのではないかと思いました、と綴ったその作文に、私は胸が熱くなりました。
外国で暮らすようになって初めて見えて来る自分の国、国への思い、外国の人達は日本をどのように思っているのかを日常生活の中で自然に知って行く、どれも私には出来なかった素晴らしい事だと思います。きっと彼女は、視点が変わり視野が広くなるという意味でも成長していつか日本に帰って来る事でしょうね。
でも、もう1つ、日本がこれからどのように国際社会の中で他国と手を携えて行くのかと言う事は、良くも悪くも島国ですからなかなか難しい事だと感じますし、私に何が出来るというわけでもありませんが、本当に自信を持って良い国だと言えるようにして行きたい、そんな風に思いました。小学生のお嬢さんに、今日は教えられました。

5月14日、さつき

初夏らしく柚子やレモンの花が咲きだしました。今年は沢山実が付くでしょう。初めて黒いビニールのポットに地這いキュウリの種を巻いたら芽が出て来ました。鉢植えのブルーベリーは青い実を付けました。畑に植えた夏野菜の苗も無事に育って欲しいものです。気が付けば小糸川の向こう岸の田植えも終わって後は成長を待つばかり、そろそろ麦秋でもあります。
この季節は何処へ行っても柑橘類の花の濃厚な匂いがしていて、自然のあらゆる物が、ゆっくりと夏を迎える準備をしているようですね。この数日、夕方庭に子狸らしきものが現れ、人間を恐れる風もなく山に入って行きます。こちらが観察されているような気がして、キツネの、手袋を買いに、という物語を思い出してしまいました。五月晴れから段々五月雨へとうつろう季節が、美しく貴重なものに感じられます。五月闇と言う言葉もありますが、梅雨の頃の夜の暗さにも季節を感じた昔の人の感性は素晴らしいですね。

5月12日、過去へ思いを馳せると

私は、過去の思い出から自分を省みて理解して行こうとする事が多いのですが、自分の事だけではなく、昔の人達の生活を思う事もあります。多分、親や祖父母が、自分の親達から口伝えに聞いた事を私に何度も話してくれたので、昔の人の生活という物が今とかなり違っていても、昔から今へ続いているという事が理屈だけでなく気持ちの上でも納得できるからなのだと思います。口伝えの力でしょう。昔の人が生きて生活していたのだという事が、話の端々から、生々しく伝わって来ますから。ですから、例えば江戸時代にもエレベーターに乗ってダイレクトにスッと入って行けそうな気がするのです。このように思えるのも先祖のおかげなのですね。どの人が欠けていても、今の私がここでこのように生きてはいなったと思うと、生きている事自体が、偶然というより必然であって、生かされていると思え、こんな小さな存在である私ですが、何か宇宙の神秘にさえ通じる物があるような気がして来ます。私達は昔の事を伝えられ、自分も伝えて行く懸け橋なのかも知れませんね。

5月9日、ユーラシアを東から西へ

ユーラシア大陸を東から西へ、映像で旅して来ました。シルクロードは長く、険しい山や息を飲むような美しい谷、不思議な川、風の音だけが聞こえる荒涼とした盆地などが幾つもある魅力的な道です。ユーラシア大陸の東と西を結び、東西のグラデーションの絶妙な道で叙事詩のように感じられます。
大陸をずうっと西へ行ったチェコプラハ城のステンドグラスの素晴らしさにはため息が出そうです。600年かけてつくられた城は重厚で、磨きこまれた建物に歴史が冷凍保存され、カメラが向けられた瞬間、魔法がとけたように閉じ込められていた当時の空気がイキイキと動きだす、そんな風でした。パリモンマルトルの丘から眺める夕暮れはセビア色で、ヨーロッパには人間が原点に立ち返ろうとする心が生まれ、育っているかのように思えて来ました。
それにしても、こんなにも厳しく困難な道を、交易や遠征など様々な目的で人間は絶えず歩いて来た事に驚嘆し、やはり、何故こうまでして歩いたのかという疑問を感じてしまいます。
この道は様々な民族が暮らす町や国を今もつないでいますが、戦いが起きて国が滅ぶ時、民族や宗教への迫害によって命を落としたり、辛い人生を生きなければならなくなった多くの人々の嘆きや悲しみを瞬きもせず見つめて来たのでしょう。国境線が変わり、離合集散が繰り返され科学技術は進歩し、人間はこれから何処へどんなプロセスをたどって歩いて行こうとしているのか、私にはよくわかりません。織りあげられた古いペルシャ絨毯にその答えを聞いてみたくなりました。司馬遼太郎さんの作品街道を行く、を少しずつ読んでみようと思います。

5月6日、給食

昭和と言う時代は長く、色々な出来事があったという事を、昭和の世相などを取り上げたテレビ番組を見て改めて感じました。戦争、戦後の貧しさ、東京オリンピック、高度経済成長、バブル期の政治や経済、事件、事故など、自分の知らなかった事もあれば、勿論体験して良く覚えている事もあります。
その中で印象に残った事の1つは、学校給食でした。40数年前の給食の主食はパンでした。私の小中学校時代、肉は鯨が多かったように思います。少しデコボコの食器や脱脂粉乳、今の給食とは大分違いますね。給食の揚げパンは、現在売られている揚げパンとは全く別の物だったように感じます。キメが荒く油が多いと感じる大きなパンで、子供達が先割れスプーンでパンを抑えながら包丁で切って食べたのです。このパンは滑るので切り分ける事は、小学1年生にはなかなか大変でした。残さないようにと言われ、何でも食べました。嫌いな物が多い子供にとってはあまり楽しい時間ではなかったかも知れません。でも、給食によって1日に必要なカロリーをバランス良く3分の1摂取する事が出来るような献立になっていたのだと思います。
私は、あまり好きではなかった献立だったとしても、もしもう1度あの頃の給食と同じ物がどこかにあったら懐かしく、食べてみたいと思うでしょう。思い出は浄化されたり、嫌だった出来事の、ある場面だけ強調されて心に残って いたりしますから。私の場合、食べ物の好き嫌いは食材その物や献立よりも、食感や味付けから感じる部分が多いように思います。どの程度煮込んだのか、調味料の濃さや、何種類かの調味料の加減など、です。
性格はすべて環境の影響を受けた後天的な事によってのみ形成されるのではないように感じるのは、食感の好みと性格には何か関係があるように思えるからなのです。食べる事はかなり早くから、後天的な事がそう影響を与えていない時期から始まり、兄弟姉妹でも好みが同じとは限らないのでそのように思うのですが、統計を取ったわけではなくあくまでも自分の場合に過ぎません。食べ物の好みと性格の関係を調べる事が出来たら何か参考になる事があるかも知れないと思います。
それにしても、人間はいつも、どんな時代であっても、自分の置かれた立場で涙ぐましい工夫や努力を重ねて一生懸命生きているのだと感じました。ところで、昨日は子供の日、柏餅や粽を召し上がったでしょうか。

5月3日、蛙の歌が

草取りが一段落したので夏野菜を植えようと思い、時間を作って外に出て畑を耕しその準備をしました。朝晩の気温が低いので保温を考えて、先日植えました。
ご近所で畑仕事をしているのはほとんどが80歳前後の方達です。昔から農業や漁業をして来た方は体の鍛え方が違うのでしょうね。私などよりずっと軽そうに鍬を使い、草取りをし、とてもお元気です。
かつてはこの辺りにもリスがいて木の実を食べにやって来たそうですが、共存し住み分けていた動物達は一体何時何処へいってしまったのだろうかと、不思議な気がします。山を削り海を埋め立てたのですから、もう出会う事は出来ないだろうと思うと残念なのですが、狸やアナグマ、ハクビシンなどが何処からかやって来て、夜になると果物や野菜を食べるようになりました。蛙の合唱が聞こえる夜は、動物達にとっては、人間に邪魔されない楽しいひと時なのでしょう。フンをされたりすると、あまり嬉しくはないのですが。
遊歩道の白いオオデマリの花が、目に沁みるように美しく感じられるのは段々紫陽花の似合う梅雨に向かっているからなのかも知れませんね。ご近所の方に教えて頂いて、自然を楽しみながら自分のペースで野菜を作る事が出来れば、と思います。

4月30日、早苗

相変わら朝晩と日中の寒暖の差が大きいですが、穀雨も過ぎてどこのお宅の庭も牡丹や躑躅の花盛りです。歩いていて、色とりどりの綺麗な花に思わず足が止まる事もあります。我が家の白藤も珍しく沢山咲きました。藤はマメ科なので豆に付く虫が多い事がちょっと困るのですが。
秋から冬に向かって行く頃は赤紫の花が美しく感じられ、春先には黄色い花にエネルギーを貰っているように思い、次第にピンクや赤などの花が先出して来て、藤色や白い色の花が清々しく感じられると初夏が目前なのですから人間の感覚という物は不思議ですね。
小糸川にも牛蛙や雉の声がし、田植えの季節でもあります。華奢なようで風雨に強い緑の早苗が育って行く田んぼを見る事が出来るのももうすぐです。今では北海道に水田が沢山あるのですから、稲の改良や、機械を使わずに稲を栽培し収穫して来た先人達の苦労と粘り強い努力が偲ばれます。食べる事は、時代を越え大勢の人の思いが込められ、手が掛かった物の命を頂く事なのだと改めて思いました。
丁度早苗の緑が美しく育つ頃に親類の結婚式があります。若くして旅立たれたお祖父ちゃまは結婚するお孫さんの顔を知りません。明るく闊達だったお祖父ちゃま、信仰心厚く温和だったお祖母ちゃま、お二人共働き者でした。きっと、恵みの雨の季節に新たな一歩を踏み出すお孫さんを温かく見守っていらっしゃる事でしょう。

4月28日、貴州の味

連休が始まりました。何処かに出かけて美味しい物を召し上がる予定の方や、家で手を掛けた料理をお子さんと作ってみようという方もいらっしゃるのではないでしょうか。楽しい連休をお過ごし下さい。連休だから忙しいという方、どうぞお身体に気を付けて、折を見てリフレッシュして下さいね。
テレビで見たのですが、中国貴州省では、料理に酸っぱさ、辛さ、モチモチ感が欠かせないのだそうです。餅はその昔皇帝が江南地方から移り住まわせた人達によってもたらされたのですが、携帯に便利です。アジア最大の滝黄果樹瀑布の水を利用した染め物藍染めが、昔からプイ族の人達によって作られて来ましたが、この水がアルカリ性なので酸性の物が好まれたのだそうです。辛い味は勿論唐辛子です。勾配が急で標高2800メートルもの高地に住むミャオ族の人々は塩を運ぶのが大変困難だったので、それを補う為に唐辛子の辛味が必要だったという事です。食は生活に根ざした知恵、深く長い食の歴史はどこの国にもあるのでしょう。医食道源という言葉もありますよね。

4月25日、波打ち際

桜や紅葉の木の並ぶ川沿いの公園、鳥が飛び緑の美しい山、どちらもリフレッシュ出来る素晴らしい景色です。先日そういう景色を見て来ました。車は歩く事と比べると瞬時に移動出来る乗り物ですね。いつも歩いているので、たまに車に乗るとそう感じます。
最後に海を見たのですが、風の強い曇りがちの日の海は青くはなく、薄いグレーでした。静かに寄せては返す波の、心をほぐし人間が自然体で居られるようにしてくれる強くて優しいリズムは、偉大な母親のようでした。こんなに近くで海を見たのは久しぶりだったのですが、その日は海の荒々しさをあまり感じませんでした。波打ち際の砂には小さな風紋が残っており、少しずつ変化しながら、今この瞬間も生きて変化している地球の営みを目の当たりにした、と言う気がします。地球の悠久の時の中のほんの一瞬、まるで地球の鼓動と私の波長がぴったり合ったような不思議なひと時でした。

4月22日、真実を知る難しさ

12人の優しい日本人、という映画を途中からテレビで見ました。ある女性が復縁を迫る夫を突飛ばしたらしい、そして夫は車にひかれて亡くなった、という状況で殺意の有無、正当防衛だったのでは、などという議論が12人の陪審員によってなされる様子を描いた作品です。
誰のどんな証言やどんな行動に焦点を当てて考え、判断するのかの議論はとても興味深いものでした。殺意を立証出来なければ、疑わしきは被告人の利益に、という事になります。人間は、自分が今までかかわって来た人と似通っていると思う誰かの言動に対して知らず知らず自分の今までかかわって来た特定の誰かに対する感情を投影している部分がある事を改めて感じさせられました。白紙で他者に向き合っていない場合が多いのでしょう。ちょっと焦点の当て方が違うと組み立てられて行く論理も結論も右と左ほど違うのです。それは、始めから目的を持って人の考えを暗にコントロールする事が可能だという事にもなるのですから、お互いに気を付けなければいけませんね。天秤のイメージが浮かんでは消えるような、今まで見た事のない見応えのある作品でした。

4月20日、新しい言葉

最近次々と新しい言葉が生まれています。女性の行動範囲が広くなったのか、鉄道マニアの女性を鉄子、飛行機マニアの女性を空美、と言うようになったのがほほえましいような気がしています。山ガールとか歴女と言う言葉も出来ましたね。そういう事は楽しいのですが、何でも次々と新しい物が出来、人の興味や関心があっという間に次の新しい物に移って行く変化の速さに驚いています。何かを追い求める事で取り残され感や空虚感を埋めようとしているのだろうかと感じてしまうほどです。こういう風ですと飲食店経営の方はメニューを考えるのも大変でしょうね。じっくり育てたり見守ったりするという事の継続が、これから先の時代への希望につながるように思うのですが。老舗という物が育ちにくい世の中なのかも知れませんね。

4月18日、早緑の並木道

八重桜が散り始め、ソメイヨシノが植えられた並木道は早緑になりました。葉桜はいかにも柔らかそうで、山笑う、という季節が近づいて来た事を感じます。丁度育って行く子供のようです。
子供の様々な言動を微笑ましく感じるようになったのは何時頃からなのか分かりませんが、自分がそれだけ長く生き、色々な経験に基づいて判断するようになったのでしょうね。1歩引いて少し冷静に見る事が出来るようになったという事なのだと思います。でもそれは、自分が人生の折り返し点も過ぎ、段々と老化して行く事でもあります。そういう自分のありのままを受け入れ、毎日を大切に生きて行くのは私にとってまさに未知の経験で難しくも感じます。
ある時読んだ本に書いてあった事を思い出しました。作者が登場人物に語らせていたのは、老いた事を残念だとは思うけれど、もしもう一度若くなれるとしても、老いたからこそ得られた知恵を失うのならもう一度若い頃に戻らなくて良い、と言う言葉でした。もう1冊の本の登場人物の言葉は、女性が家庭でも社会でも差別され低く扱われているというけれど、そうでなくなる為には、男性も、社会で一人ひとりが尊重され大切に扱われるようになる必要があると思う、今は男性もそのように扱われてはいない、というものでした。どちらの本の作者ももう亡くなられましたが、時代が変わっても頷ける言葉だと思います。皆様は如何でしょうか。早緑の桜並木を歩いていた私は、いつの間にか心の中の迷路に迷い込んで、行く道を探し始めていたような気がします。

4月16日、パンのミミ

沈丁花の清冽な香りに送られて卒業し、今年は八重桜に見守られて進学したり新社会人になられた方、多いと思います。季節の変わり目であり、環境も変わるのですから心身の健康に気を付けてお過ごし下さいね。
久しぶりに妙な事を思い出しました。食パン1本を3斤に切り分けると、両側のミミの部分が余ります。20年位前には、少し厚く切ったこのミミの部分だけ袋に入れた物が、スーパーで売られていました。安くて芳ばしいので買う事が多かったのですが、今では見かける事がなくなりました。何故でしょう。ミミはパン粉か何かに全部加工するようになったのでしょうか。不思議だと思いながら忘れ、ある時またふっと思い出すパンのミミです。復活してくれたら嬉しいのですが。

4月13日、春愁ではないのですが

気温や天気の変化が目まぐるしく、ついて行くのが大変ですが毎日少しずつ土いじりをしていると、ずっと昔の人は何を思って畑に野菜を作ったり花を育てたりしていたのだろうと考えてしまいます。同じ春でも世の中の動きや自分の置かれている立場は時代によって大きく変わり、ずっと昔から続くその延長線上の一点が今の私、と言う事になりますね。当たり前のような、でも不思議な巡り合わせのようなそんな気がしています。土いじりはストレス解消になり自然の中に溶け込んで過ごせる時間でもあります。
ふと、桜の季節だからなのか桜鯛と言う言葉が浮かんで来ました。50年近く前、結婚式やお葬式、法事などで折詰を頂くと、練りきりの材料のような物で作った物が色々と入っていました。白とピンクを使い、鱗もある鯛、羊羹、きんとん、結婚式なら鶴などが綺麗に並んでいたものです。皆甘いので私はあまり好きではありませんでした。打ち物や最中で作られたおひら、お葬式なら大きな饅頭、自分の家で作った、おぼろやシイタケの乗った握りずしなどの食べ物が他の引き出物と一緒に白いビニールの風呂敷に包まれていて、多分それは御馳走だったのでしょう。甘い物やごはんをお腹いっぱい食べる事の出来なかった時代を経て来たのですから。今ではそういう物を見る事はなくなりました。
ですが、畑を耕しながら、急激な気候の変化が当然のようになって来て、洪水や干ばつが世界のどこでも起きる可能性があるのだと思うと、自給率の低い事は大きな問題だと感じます。我が家でも米を作ってはいないのです。農業分野1つをとっても、TPPについて実は良くは分かりません。ただ、参加している国は農産物輸出国で資源もあるように思え、震災後も気の遠くなるような困難を1つずつ乗り越えて農業を再開した方達に、水を掛ける事になりはしないかと心配です。自給率がもっと低下したらどうなるのでしょう。
いくら春でも、何となくわびしく気持ちが塞ぐ春愁ではありませんよね。もっと切実です。

4月9日、真空の町

震災後、原発事故の影響で住んでいた人達が避難しほとんど誰も居なくなった町の映像が、2年前の桜の季節にテレビに映し出されました。歩道橋があり、そこに桜が咲いていましたが、多分それはその前の年と変わらない春の訪れだったのでしょう。違うのは人間がいないという事です。
何事もなかったように綺麗に咲いている桜を見て不思議な気持ちになりました。桜が美しい事、放射性物質の濃度が非常に高い状態だという事の両方が現実なのですが、それは私にとって右と左位違う事のように感じられ、咀嚼出来ない事でした。何があっても時間は連続し経過しているから桜の蕾が膨らんで咲いたのだという事が頭では分かっていてもこの、生活している人の居ない中で桜が咲いている光景が、時間が止まっているようで、切り取られた平面のような1枚の絵であり、その絵を距離をおいて見ている自分、という奇妙な錯覚を覚えたのです。
桜が咲いている光景が、真空の町を見ているように感じられ、涙も出ないほどの衝撃を受けました。自分自身がカラカラに乾いた雑巾になったような、とでも表現したら良いのでしょうか。震災で、私には到底想像もしていなかった事が次々起きているその真っ只中にいたからなのだと思います。広範囲に亘る人や家の甚大な被害の様子が次々テレビに映し出されて大きな衝撃を受けたと思っていた中で、実はこの真空のような街に咲いている桜から受けた衝撃が1番大きかったのかも知れません。今年もあの桜は咲いたでしょうか。
原発は収束には程遠く、帰れない故郷を思う大勢の人達の事が人ごととは思えませんが、私は春たけなわの房総半島に住み、美しい桜をながめて暮らしています。何の手助けも出来ない歯がゆさと後ろめたさを感じ、葛藤に、弥次郎兵衛のように心が揺れる今日この頃です。
外傷が完全に修復される事が困難なのは起きてしまった事の記憶は決してリセットする事が出来ないからなのですね。

4月7日、卯の花

蜘蛛の巣のような低気圧の影響で今日も強風です。どうぞお気を付け下さい。ところで卯の花とも言われているおから、今は猫のトイレ砂の原料にもなっている産業廃棄物なのだ、と初めて聞いた時には驚きました。安くておいしい食べ物だとしか考えていませんでしたから。
ネギやニンジン、コンニャク、シイタケなどを入れて煮る事が多いのですが、甘酢を水で割り、柚子をすりおろして入れ、そこにおからと火を通したニンジンを入れて煮ても彩りと香りが良いので時々作ります。山椒の季節には、甘酢に粉山椒をおからと一緒に入れて煮て山椒の新芽を飾ると爽やかな味になります。コンソメと黒こしょうを入れた煮汁で、セロリの新鮮な葉や玉ねぎと一緒に煮ると洋風の煮物になりますし、甘くせず、ラー油を少し入れ、醤油を薄めにしてシイタケやタケノコと一緒に煮ると中華風の煮物になります。おからのコロッケも簡単です。こんな風に同じ物が全く違う味になりますから、季節やその時の気分で変えてみるのも楽しいですよ。おからが何にでも合うのは強烈な自己主張をしない存在だからかも知れません。コミュニケーションが上手ですね。
今日は、先日蕗のとうで作って置いた蕗味噌で、茹でた蕪を和えて春を頂きました。からし菜の塩漬けや高菜の塩漬けを少し作った時、菜の花を沢山茹でた時などは、冷凍にして置くと保存にとても便利です。冷凍や解凍が簡単に出来るので活用法は色々あります。工夫の楽しさは好奇心を満たしてくれる想像と創造で、私にとってはそれが料理なのだと思います。そういえば、卯の花の匂う垣根にホトトギス早も来鳴きてと歌う、夏は来ぬ、と言う歌の季節が段々近づいて来ますね。

4月6日、前のめりに

3月の末から藤の蕾が大きく膨らんで来たのには驚きました。
長い間藤は5月の初めに咲く物と思っていましたが、ここ数年は4月に花が咲き、端午の節句の頃にはもう花が終わっている事がほとんどという風だったのです。お彼岸が終わったばかりなので、いくら桜が咲いていても、気温の低い日を花冷えとは到底言えず、まだ3月なのだから、と思っているうちに葉桜になってしまいました。
歩きながら1歩後退した時に似ているようでもありますが、季節の変化がある時突然速くなる事も多いので、遠足の時に前の人が一定の速度で歩かず立ち止まると、列の後ろの人ほど突然走らなくてはならなくなり、負担が大きくなるという状況にも似ているように思います。また、足元を見ず前のめりに走っているような危うさも感じ、戸惑っています。足元を見ないといつか転ぶのでは、と言う漠然とした不安を心の奥に抱えての新年度の始まり、という実感は年々強くなる気がします。
年齢が高くなると、昔の人は地味な色の洋服を着ていました。どのような身なりが年齢相応なのかという価値観は時代によって変わりますから、今は日常着の色など自由に選んで楽しむ事が出来ます。そういう事は良いと思うのですけれど、季節にも、その時期相応の顔があったと思うのです。今はその顔が大きく変化して来たのでしょうね。事あるごとに地球温暖化の影響を実感しています。

4月4日、思い出と香り

喜怒哀楽の様々な出来事のある場面を思い出し、話し合ってすぐにその時の事を理解してくれるのは親や兄弟姉妹でしょうね。その時そこに一緒にいたから事細かに説明しなくても思い出せるからです。強く印象に残っている出来事は人それぞれですが、それは主に視覚としてなのか、あるいは聴覚、味覚、触覚、嗅覚で感じた物のどの感覚がどれだけ強く印象に残っているのか、その人によって違いますね。
ですから、匂いというのも思い出の構成要素です。私が小学生の頃は、冬になると登校時に手袋をするように言われたものです。大人も子供もよくひびがきれたので毎晩ハンドクリームやワセリンなどを手に塗りました。私は使わなかったのですが、桃の香りの物もありました。今は手がひどく荒れる事はなくなりましたが、懐かしい思い出です。思い出は浄化されるという側面もあるのでしょう。
桃の香りの思い出は、夏にもつながって行きます。入浴時にはよく、庭にあった桃の木の葉を入れました。夕暮れ時の空と柔らかい桃の葉の香りが気持ちをリラックスさせてくれたのだと思います。太陽がギラギラとした、色で例えると原色のような夏のイメージを、桃の香りがパステルカラーに変えてくれた不思議なパレットのようです。嗅覚がメインの思い出の1つです。

4月1日、デジタルとアナログ

生垣の刈り込みしていて、オペラセビリアの理髪師をふっと思い出しました。その内夏野菜を植えてみたいと思い、畑も耕しました。鍬で耕すのはかなりの重労働ですよ。でも、段々綺麗になって行く畑に小鳥がやって来て餌を探しているのを見ると、楽しくなって来ました。
小鳥のさえずりと青い空と言うといかにものどかな田舎を連想なさるかも知れませんが、マスクをしていても花粉で鼻や喉は風邪を引いて熱が出た時のようになってしまいます。外に出る時人形のように首が外せたらどんなに良いだろうと、毎年この季節になると思います。
ずっと昔、この辺りでは大麦を栽培していましたので、小さかった私も寒い頃家族と一緒に麦踏みをした事があります。踏まれる事で丈夫な麦が育つというのは、畑仕事で疲れて来た私を元気づけてくれたようです。
こうしてパソコンでホームページを更新し、鍬で畑を耕すのは、デジタルと究極のアナログが混在する日常、と言う事になりますね。

3月30日、上り電車

久しぶりに上り電車に乗って船橋、千葉方面に用足しに出かけました。帰りにデパートの地下に寄ると、かなり混雑していて、綺麗なお菓子やパンなどが飛ぶように売れている様子に、まるで景気のよい時代のような錯覚を起こしてしまいそうです。
電車の中で近くの座席に座った若い女性が、一生懸命睫毛をカールしていました。この日この瞬間電車に乗り合わせた不思議な偶然で出会ったほとんどの方とはもう再び会う事がないでしょう。でも、地球上の沢山の方とはスクランブル交差点ですれ違うなどという事すらなく、共存しているというだけで、お互いの存在を知らないまま生きて行くのですね。そう思うと、睫毛をカールしていた女性と同じ電車に乗り合わせた偶然も何かの縁なのでしょう。電車の中で化粧をする事が良いかどうかよりも、出会った事が貴重な事に思えて、綺麗になりましたよ、良い1日を過ごして下さい、と声をかけたくなりました。
その後、混雑して来た総武線の電車の中で、おばあちゃまと出かける小さなお子さんに、高齢の男性が優しく声をかけ、子供さんやおばあちゃまとのやり取りが聞こえて来ると、電車の中の空気が柔らかく和んだように感じました。
お花見に出かける方の多い季節に、人間の善い部分に日が当たったような時を過ごさせて貰った余韻が、しばらく心に残りそうです。

3月27日、桜

君津でもソメイヨシノが咲いています。お天気の良い日に桜並木の続く道を歩いていると、ソメイヨシノほど沢山の日本人に愛されている花は少ないのでは、と感じます。すれ違う時に見ず知らずの人同士が、綺麗ですね、と声をかけ合って笑顔になるという光景を毎日見かけますから。まだ蕾がありますのですぐに満開にならないで欲しいです。鶯の声も今年初めて聞きました。
青空に桜の花は映えますが、霞がかかったような白っぽい空にも淡いピンクの花は似合うように感じます。桜並木はあちこちにありますが、梅、桃、桜の順に季節が定まって来ますね。葉桜も美しいです。まるで、梅、桃、桜それぞれが、素晴らしい衣装を身にまとったずっと昔の佳人のようです。
記憶に残る美しい桜並木を、今年も記録に残しました。こんな風に四季の移り変わりを実感出来るのは幸せな事だと思います。悲しい時や辛い時は花を見る気持ちのゆとりがないかも知れませんし、花が美しいからこそ自分の辛さが余計に身にしみる、と言う場合もあります。美しい物を心から素晴らしいと思って見る事が何時も出来ると良いですね。それは決して当たり前の事ではないのですから。いずれにしても、出会いと別れの季節に咲く花です。花冷えにどうぞお気を付け下さい。

3月24日、ヘアスタイル

春は新年度の始まりですし、暖かくなったので髪を短くしようとか、思い切ってヘアスタイルを変えてイメージチェンジしたい、という方もいらっしゃると思います。化粧や髪型は自分らしさを表わすものですが、流行というものもあります。自分がどのように見えるかはまず外側からと考えて色々工夫するのも楽しいですね。
昔、小さい女の子は前髪を額の上で短く切り、後ろは襟足の辺りで真っ直ぐに揃えたおかっぱにしている子が多かったのですが、この髪形だと家で親が髪を整えやすかったからなのかも知れません。
ところが、我が家では祖母が私の髪を切る時は、髪を少しずつピンで留めたりカミソリも使うという事をせずに鋏だけを使ったものですから、思うようには切りづらく、滑ります。それで、右が短いとか、左が曲がったとか言いながら、真っ直ぐに揃えようとすると、どんどん短くなって絵に出て来る河童のようになってしまうのです。
おしゃれに敏感な子ならきっと嫌だったでしょう。でも私は、短いほど当分切らなくて良いからさっぱりして良かったと思うという、今思えば少々変わった子だったのです。昔の町並みの写真など見ますと、日本中どこでもこういう髪型の女の子が多い時代があったのだと感じ、ふと懐かしくなりました。
私は今自分で切っています。相変わらずおしゃれではないようです。自分の外側と内側を表現して、存在を主張したり防衛したりしながら他者とかかわって人間は生きているのですね。

3月21日、草取り

菜の花やミモザアカシアの黄色と河津桜の濃いピンクが、いそいそと春を運んで来てくれたように感じていたのですが、いつの間にか淡いピンクの杏の花が満開になりました。線路沿いの雪柳の白い花も、枝垂れた細い枝にこぼれるように咲いていて、季節外れの雪を見るようで眩しく感じます。
日によっての気温差が大きく、強風の日も多いですが、大分暖かくなり、草が目立つようになって来ましたのでマスクをして草取りを続けています。お彼岸だと思うと、ホトケノザという草を引き抜くのがかわいそうのような気がします。季節によっては草取りをしていると、蝶やバッタ、小さくて尻尾が青い綺麗なトカゲや、イノシシのような形をした顔のモグラにばったり、という事もありますよ。草取りは、色々な生き物との出会いの時でもありますね。私にどんなコミュニケーションが出来るでしょうか。

3月18日、言葉

はっきりとは言わない、断定しないでいくらか曖昧な言い方をする事があります。この事を、先日のぼかし、という染め物から連想しました。
物の言い方がはっきりしていないとビジネスの場合は支障をきたす事もあります。そのような時にははっきりと言わないと相手に伝わらず、問題が起きてしまうかもしれないので、はっきりと話す必要があると思いますが、そういう場合でなければ、ぼかして相手に察してもらう、というのも日本語ではよくある事ではないでしょうか。相手の言葉から相手の気持ちを汲み取る事は、コミュニケーションには必要ですね。
それから、言葉よりも気持ちが大切だというのは間違ってはいないけれど、その気持ちは言葉や態度、声の調子で相手に伝わるものでもありますから、やはりどのように表現するかが、コミュニケーションの1つのポイントだと思うのです。
最近は敬語が随分変化してきたように感じます。主語が相手なのか自分なのかによって変わるという事をあまり考えずに使われている事が多いような気がします。
例えば、サンプルなどを配っている方の、もう頂きましたか、などという言葉の使い方に首を傾げてしまう事が多いですし、もう御用は承っておりますでしょうか、という意味だと思うのですが、大丈夫ですか、と言われると、私はそんなに急に顔色が悪くなったのだろうか、と混乱した事もあります。食べられますか、と言われると、食べる事が出来ますか、という風にも受け取れます。召し上がるという言葉を使った方が分かりやすいのでは、と思います。謙譲語を聞く事がほとんどなくなった事は特に大きな変化だと感じます。
このようにお話してみて、普段自分が如何に言葉の使われ方に不満を持っているのか、でも相手に悪意がなく、しかも相手も大人なのだからそれを言わないで済ませているので納得が行かず咀嚼出来ない、という事がよくわかりました。せっかく使われてきた美しい言葉はやはりこれからも使い続け、伝えて行きたいですね。

3月15日、色

ラジオで染色家の女性が話していらした事が心に残りました。
色を混ぜる時パレットにそれぞれの色を出して端から少しずつ混ぜて行くようにするのが良いけれど、そうせずにいきなり2つの色を混ぜると、色が死んでしまうと言われ、何となくわかるような気がしました。若い方で、白か黒が好きだという方が多いのに驚いたそうです。街に色が溢れているからかえってそういう風に思うのかも知れないけれど、本物の色は美しく、心に残る、というようなお話でした。
自然の命を頂き、物を染めるのだから畏敬の念や感謝が大切だというのは、食べ物とよく似ていますね。
ぼかしという染め方は日本の風景と関係があり、グラデーションの美しさを感じるという所にも頷けるものがありました。ただ、食べ物にしても染め物にしても、手の掛かっている本物は価値があるだけに高価で、手に入れる事が難しい場合も多いと思います。
同じ赤でも純粋な真紅の美しさもあれば、苦労して生きて来た人の人生を感じさせるようなえんじに近い赤もある、こんな風に話したこの女性の感性の豊かさを感じ、早朝でしたが、おかげでこの日はすっきりと目が覚めました。

　

3月13日、喪失の悲しみは

東日本大震災から2年が経ちました。津波から何とか逃れ、避難所にたどり着いてから今日までの日々を、被災した方々は長かったと感じていらっしゃるでしょうか。失った人や物は皆微妙に違うでしょう。生活のめどが立たないままではいけない、そう思って毎日必死で頑張っていらした方が多いのでは、と思います。
ですが、家族を失った方にとっては、どこにどのように希望を見出す事が出来るのかと考えると、それは随分過酷な事だと思います。心の辛さ悲しさに向き合わず、現実の生活を立て直す事に集中する毎日が続くと心や体のバランスが悪くなると言いますが、今まで経験した事もない出来事に遭遇したのですから、命が助かったその後は前を見つめ必死に頑張る必要があり、そうせざるを得なかったのですね。
心の中の悲しみと向き合っていては自分を保ったり建て直したり出来なくなるのではないかという危惧を感じた方もいらっしゃる事と思います。それだけ失ったものが大きいからです。気持ちの余裕などそう早く持てませんし、一段落と感じなければ振り返って何をどう考えれば良いのかまとまる事はなく、心から前向きになるのは難しい事でしょう。それでも、いつかどこかでマイナスの感情を出す事は大事な事ですし、そこから始まる事もあるように思います。
自分がその立場だったらと思うと多くの事はとても言えません。まだ復興には長い長い時間がかかるでしょうが、生活だけでなく心の再生が出来る日が何とか早く来ますようにと思わない日はありません。お互いに心の懸け橋になる力を、人は皆持っているようにも思うのです。

3月10日、三月十日という日

4年程前の3月10日に東京に用事があり、京葉線に乗って出かけました。ご存じのように京葉線は総武線よりもずっと海に近い所を通ります。その朝は晴れていて穏やかでしたが、都内に入ってから私は、昭和20年の今頃東京の下町は沢山の方が亡くなり、あらゆる物が燃えてしまい、物の燃えた臭いや、まだ何かが燻っている所もあったのだろうと思いました。19日夜半には対岸の千葉県から、東京方面の空が真っ赤に見えた事と思います。
電車を乗り換え、靖国通りを歩いて目的地に向かう途中も、何事もなく普段通りに車や人が通っているのが何となく不思議な光景のように思われて来ました。悪夢のような空襲の日に亡くなった多くの方の中には私の家族の知人もいたかも知れませんが、それすら分からないのです。
一日が平穏無事に過ぎるかどうかは戦争ばかりでなく、天災や事件事故が起きない事も大切な条件の1つですね。毎日が穏やかに過ぎて行くと感じられる事は当たり前ではないのだから、感謝したいと改めて思います。その日は優しかった亡き祖父の誕生日でもありますので、毎年複雑な気持ちになります。

3月8日、頭を柔軟に

宮城道夫さん作曲の筝曲春の海は、琴と尺八で演奏するものとばかり思っていましたが、曲をアレンジして他の楽器で演奏すると随分受ける印象が変わります。でも琴とヴァイオリンの合奏ですとかなり琴と尺八の合奏と似た感じに聞こえました。色々な春の海を楽しむ事が出来る事を知って驚いています。
曲の雰囲気や意味をよく理解して外国の曲をアレンジするのは、芸術に国境はなく、感動は洋の東西を問わず同じであるとは言っても、やはり難しいものなのでしょう。文化や芸術は歴史や風土から生まれて来るのですから、それを理屈だけでなく感情や感覚を伴って理解する事は大変な事だと思います。
茶の湯では、茶室にお客様をお招きする時に庭の落ち葉などの掃除をするけれど、綺麗に掃いた後、木を揺すって一二枚葉を落とす、そうすると風情のある庭を見て頂けるので、という話を聞いた事があります。そのような真髄に触れる事は、私など説明して頂かなくては到底分からない事でした。何処の国の文化も、奥の深い物なのですね。
日頃一面的な物の見方をしがちなのですが、少し頭を柔らかくしたいと思います。

3月5日、卒業の季節

関東地方では1日に春一番が吹き、奈良では東大寺二月堂のお水取りが始まったそうです。遅れていた河津桜が咲き始め、姿が美しく艶やかな紅梅や香りの濃厚な白梅も、遅咲きの品種を除いてほぼ満開になりました。いよいよ春がやって来ると感じますね。
我が家の、まだ生後1年経たないオス猫あすかが大きなオス猫に追いかけられる事が多くなっていたのですが、とうとう怪我をしました。かなりの深傷なので病院に連れて行きました。あすかは人間も猫も好きで、嬉しそうに近づいて行く猫なのですが、相手の猫にはそれが嫌だったのかも知れません。手厳しい洗礼を受け、猫社会に一人前の大人として認められたという事なのでしょう。
ところで、震災の被災地の公立高校で1日に卒業式が行われたそうです。震災の時は高校1年生だった子供達です。家族や身近な人、家を失った生徒さん達も多いと思います。辛い事、困難な事を乗り越えての卒業ですね。多くの学校が校舎も津波の被害を受け、言葉にならないほどの大変な状況だったのでしょう。そういう中で先生方は生徒の心に寄り添い、支えて卒業の日を迎える事が出来たのだと思います。これからも様々な出来事に遭遇するでしょうし、被災した故の悲しみは今も心に深く刻まれていると思いますが、想像もしなかった辛い出来事を皆で乗り越えて来た事をどうか大切にし、自信を持って生きて行って下さいね。あなたにはその力があるのですから。

3月3日、ランドセル

ランドセルも随分カラフルになりました。昔は男の子は黒、女の子は赤というのがほとんどでしたが、今は緑やピンクのランドセルを、スーパーやデパートで嬉しそうに親や祖父母と見ている子供も珍しくありませんね。ランドセルは多くの場合6年間使う物、と考えて選ぶのでしょうが色は子供の意見で、とすると子供にとってはもしかしたら初めての大きな選択という事になるのかも知れません。わくわくしながら選ぶ姿が目に浮かぶようです。
周りの同級になる子供達がどんな色のランドセルを買うのか気になるお母さんもいらっしゃると思います。ランドセルの色が皆と違うと仲間外れにされるのではないか、と心配してはいないでしょうか。ランドセルの色ばかりでなく、持ち物がすべてお揃いと決まっている学校でなければ、何もかも皆が同じ物を持っているわけではありませんから、その事ばかりを気になさらなくても大丈夫だと思います。人はひとりひとり物の考え方や感じ方が違い、それがその子らしさなのですから、良い所を褒め、好きなランドセルを選ばせてあげられたら良いですね。人に合わせる事も大切です。ただ、自分というものを持って自分の思っている事を人に伝えて行く事も同じ様に大切だと思います。自分の中身はうろではなく、皆一杯詰まっているのですから。学校は、価値観の違う人同士が認め合いかかわり合って行く事で社会は成り立っているという事をじっくり学んで行く所でもあると思います。
思っている事を上手に伝えるためには、親が聞き上手になる事が1つのポイントですね。忙しくて子供に背中を向けていても、耳で話を聞く事は出来ますから、そんな風にして心を寄り添わせてあげられたら良いですね。後でね、といった時はぜひ後で聞いてあげて下さい。

3月1日、植物の力

冬は大抵の多肉植物の水遣りを1か月に1度にしています。それで昨日久しぶりに水遣りをしたのですが、先月と微妙に違います。水の吸い方や葉の様子などに勢いがあり、春が来る事に気付いて動き出したように感じます。植物の生命力や敏感さに驚いています。
蕗のとうや菜の花を収穫出来ますし、店にはタラの芽やこごみなども並んでいますから、寒く長かった冬もトンネルの出口が近いのでしょう。雪の多かった地方の方ももう少しの辛抱ですね。
受験生の方、受験生のご家族の方、就職なさる方、今年の春がどうぞ良い春になりますように。震災の被災地の方々にとっては3月11日が近づいて来る事はお辛い事と思います。何も出来ず心苦しいのですが、どうか希望の持てる春になりますように。

2月27日、うどん

寒い時も暑い時も蕎麦やうどん、美味しいですね。神田のやぶ蕎麦の火事、少なからず衝撃を受けました。でも命を落とした方がなかった事は幸いです。
うどんは、関東にいても讃岐うどんを容易に食べる事が出来るようになりました。うどんというものはよく踏んで、空気を抜く事が大事なのだろうと思っていました。ところが、秋田の稲庭うどんは空気を生地に含ませ、中に気泡が残るようにする事であの独特の食感を出すのだそうです。きしめん、讃岐うどん、稲庭うどんどれも好きですが、稲庭うどんは安価ではなく、そう沢山出回っている物でもありません。繊細な味が光沢のある絹織物のように感じます。まさか空気を含ませて作る事であの食感が生まれるとは思ってもみませんでした。
こういう風に独自のうどんを作った人の発想に驚きました。新しい物は、今ある物を調べ、どういう物を作りたいのかを考えて、頭を柔軟にし、あきらめずに努力を積み重ねて行く事が大切なのですね。

2月24日、季節の変わり目

杉の花粉が飛ぶのはちょっと辛いのですが、今年も、梅が香にのっと日の出る山路かな、という松尾芭蕉の句を思い出す季節です。去年の2月に、食べた後の根を鉢に植えたセリが、また元気に伸びて来ました。まさかこんなに何度も収穫出来るとは思わなかったので、量は少なくてもとても嬉しいです。春野菜が店頭に並び始めたので、根三つ葉の根をきんぴらにしてみました。
ものが皆芽ぐむ季節なのだという事を、昨年11月に保護したキジトラ猫のあすかを見ていて感じます。沢山食べて大きくなり、大人びて来たようにも思います。人間の子供も動物も皆元気に伸び伸びと育って幸せであって欲しいです。お子さんの入学や進級ももうすぐですね。

2月22日、察する

空を飛びたいというのは昔から人間の願望だった、と聞いた事があります。私も子供の頃空を飛ぶ事が出来たら空からの眺めは素晴らしいだろうし、移動にも便利だから良いのに、と思った事があります。
昭和60年8月12日に、以前の事故後の修理の際、圧力隔壁の修理を適切に行わなかった為に飛行中に破損し垂直尾翼が破壊され、まるで尾翼がほとんどもぎ取られたような状態になった日航機が群馬県に墜落した事故がありました。大勢の方の命が失われた事故だったのでショックを受けました。乗り合わせていた乗客の方々は、異常が起きてから墜落までの30分程の間どんな思いをしていたかと胸が痛くなります。
この飛行機を外から見る事が出来ず何とか無事に着陸させようと運航乗務員は務めたけれど破損し失われたものがあまりにも大きく、墜落数分前、これはもうだめかもわからんね、どーんといこうや、というボイスレコーダーに残る音声の記録が公表された時、それが飛行機がどうなり、搭乗者がどうなるかを一番よく知っている人の言葉だけにその時の気持ちはいかばかりだったろうと、強い衝撃を受けました。責任、覚悟、とても一言では言い表せないものがあったでしょうしこの人達も勿論人間ですから家族への思いもあった事と思います。ですから尚更生々しく胸に迫って来たのでしょう。
また、イラクでジャーナリストの方が亡くなった時、インタビューに答える奥様の目に涙はありませんでした。それだからこその胸の内を思うと他人事とは思えないほど私も辛くなりました。人は喜怒哀楽の感情を必ずしも言葉にしてストレートに出すとは限りませんから。
人の気持ちを汲み取る、察すると言う事が自然に出来れば自分がされて嫌な事は、人は出来ないものですね。自分の考えや気持ちも分かりやすく、相手の状況やその場の状況を考えて適切に伝えるという事も同じように大切です。学ぶ事は尽きません。
亡くなった橋田さんや奥様が力を尽くされ、治療に来日したモハマド君の大きくて綺麗な目を思い出します。

2月20日、記憶の入り口

昨日は雨がみぞれになり、お昼頃から雪になりました。気温は0度をわずかに超えているという状態なので、厚着をして傘を差し、長靴を履いてウォーキングに出かけました。雪が傘に積もってかなり重くなったのには驚きました。雪は本当に音もなく降って来るのですね。
帰りにスーパーに入ったら、童謡うれしいひな祭りの曲が流れていて、子供の可愛い歌声を聞いていると、今年も子供の頃の雛祭りを思い出し、母が亡くなって何年かは、2月になると必ず何処のスーパーでも流れているこの曲が懐かしいから店の中にしばらく留まっていたいような、母が亡くなった現実に否応なく向き合わなければならないようで早く買い物を済ませて外に出てしまいたいような、とても複雑な気持ちになった事を思い出しました。
考えてみれば、小学校から大学卒業までの間、沢山の先生方にお世話になりましたが、その当時のほとんどの先生が今の自分より若い年齢でいらしたのです。亡くなられた先生もいらっしゃいますから、随分歳月が経ったのだと改めて思いました。色々と思い出すきっかけは今日の静かな雪でした。この雪で困る人もあれば喜ぶ子供もいますし、どんなに楽しい情景を歌った歌でも、そこから連想される思い出次第で感じ方は千差万別なのでしょうね。

2月18日、海と水仙が綺麗でした

どんよりと曇って寒い日に君津から下りの電車に乗り、東京湾に沿うように南下して行きました。上総湊を過ぎた辺りの海は空を映し、薄いグレーです。まわりをぼかした写真のようなこの海に、蜃気楼のように忽然と現れた対岸三浦半島は随分近くに見えました。こういう日の海も趣きがあります。
この日の午後、友人達と鋸南町に水仙を見に行きました。今年は寒いので水仙はかなり開花が遅れていて今が見頃です。斜面にも一面水仙や菜の花が咲き、ふくいくとした香りが早春を待つ二月のぴんと張った糸のような空気を和らげ、少しずつ春の空気に変えて行くようです。あたり一面水仙、というのは素晴らしく、手入れをして下さっている方々のおかげで、この非日常のような景色の中にひたる事が出来たのは幸せな事です。
佐久間ダムにも初めて行きました。静かだという事が逆に、水は生きている、と感じさせてくれる不思議な瞬間でした。束の間の水との対話は、哲学する事にも似ているようです。白梅やネコヤナギにもあちこちで出会いました。
不安や怒り、焦りなどマイナスの感情が蓄積するとストレスが多くなりますが、広く美しい景色をゆっくり眺めていると、些細な事の積み重ねである日常の中で、視点を変えたり冷静になって色々な事に向き合い、対処して行きたいものだと思えて来ます。悠久の宇宙の中の小さなひとりの人間の短い一生だと思う反面、だからこそ自他を大切にし丁寧にかかわって行きたいのだという事を再認識させてくれた小さな旅でした。

2月16日、小さな美術館

君津駅の通路の両側の壁には、市内の小中学生の描いた作品が貼られています。多分どこの駅にもあるのではないでしょうか。
今日も、ポスター、立体的に見える幾何学的な図形を組み合わせた絵、物語の中の場面を描いた絵、楽しかった出来事を描いた絵などが何枚も貼ってありました。その中には、自分の心の中を描いた作品もあり、イメージする事も難しいテーマと一生懸命取り組んだ跡が見えるようで、私は、濃淡の美しい動きのあるこの絵としばらく向き合っていました。どの絵もおそらく1つのクラスか学年全体で同じテーマを子供達それぞれが自分の思ったように描いた中の1つなのでしょうから、ここに貼られなかった作品も、それを描いた人1人にしか描けない素晴らしい物なのだろうと思います。絵は上手かどうかも大切でしょうが、写生でない場合は特に、どこに何をどのように描くのかは人によって違いますから、もっとたくさんの作品を見て見たくなりました。
どの絵も伸び伸びイキイキと描かれていて、動きやエネルギーを感じます。これから伸びて行く子供だからこその様々な物がそこにこもっているようで、元気を貰ったり、気持ちが和んだりする作品ばかりでした。ここはまるで小さな美術館のようです。画家の描いた良く知られている素晴らしい作品は、震災後、遠方への外出が減りなかなか見に行く事が出来ませんでしたので、子供達の作品から心に栄養を与えて貰った事をとても嬉しく思います。
固い木の椅子が置かれていた昔の君津駅、それからその前にあったキオスクで売っていた、大きな水筒の形の透明な容器に入った色とりどりの金平糖が綺麗だった事などふっと思い出しましたよ。

2月13日、達成感と満足感

毎朝日の出る前でも庭が霜で真っ白なのが分かります。軒下の水道は凍っていますが、霜が降りた方が葱は柔らかくなり美味しくなるといいますから、益々美味しくなってくる葱が食べられる、と思うと霜もそう悪い物ではないという気がして来ます。
よく言われる例えなのですが、喉が渇いた時に、コップで水を飲もうとしたらコップに半分の水があったとします。その時にコップ半分しか水がないと思い、がっかりして不満に思いながら飲むのと、コップに半分も水があって良かったと思ってその水を飲むのとでは随分違います。1杯の水から得られる満足感の違いのような物は、性格と関係のある事ですから、何時でもどんな時にでもありますね。物の感じ方は人それぞれです。満足感を得られないと、達成感も得にくくなりがちですが、だから努力をする事で、もっと良い結果を得る事につながる場合もあります。ですから、満足感や達成感がなかなか得られない性格の人が悪いという事ではありません。ただ、満足感や達成感を得られない事が多いとストレスを感じる事が多くなり、ストレスが溜まりやすいとも言えます。ご自分はどうなのか一度目を向けてみては如何でしょう。
人とのかかわりが苦手な方は、そんなところから自分を見つめて、ほど良い他者とのかかわり方、人とのコミュニケーションを考えて見るのも1つの方法ですね。

2月11日、新聞で垣間見たポーランド

新聞に投稿された文を読み、一筋の明るい光のような物を感じました。高齢のご夫婦がヨーロッパへ旅行にいらっしゃった時、ポーランドで奥様が肩からかけていたバッグを取られそうになり、気付いたご主人が奥様に覆いかぶさるようにして防いだので被害はなかったけれど、バッグの紐がナイフのような鋭利な刃物で切られていた、というものでした。その時、ポーランド人とおぼしき二人の老婦人がこのご夫婦に歩み寄り、何か祈るような仕草で物をおっしゃったそうです。このお二人の婦人の目に涙が一杯なのを見たご主人は、このような時言葉が通じなくても分かり合える事を感じ、言葉はいらないと思ったそうです。
帰国して、改めて行って良かったと思ったこのご夫婦にとってポーランドは良い印象の残る忘れる事の出来ない所になったのでしょうね。その思いを投稿して下さったので、私も読ませて頂く事が出来ました。
キュリー夫人がポーランドの人であるという事以外には、かつて物不足で肉などは買うために長い行列が出来、それでも内臓以外はなかなか買い求める事が困難だったという事と、大統領になる前の連帯の議長だったワレサ氏がノーベル平和賞の受賞を知ったのはキノコ狩りから帰って来てであった、という事位しか私は知りませんでした。
外国というのは、行った事がないとなかなか分からないものですね。今この瞬間を体験する事からしか得られない、つまり体感するから気付くというものが必ずあるからなのだと思います。
気候や風土、歴史や食べ物などが異なると考え方も異なる事が多く、その事がクローズアップされがちですが、根本へ辿って行くと人間はそう違わないものなのかも知れません。恙なく、仲良く幸せに暮らして行きたいという思いは同じなのでしょうから。
世の中が先のはっきりしない閉塞状態で年が明け、節分を過ぎても寒さが厳しい毎日ですが、こういう投書を読ませて頂いて、いつの間にか自分の物の見方がまた、一面的で堂々巡りし、視野の狭いものになっている事に気付きました。生まれた時から心の底まですべて悪いという人はいないのではないでしょうか。悪い事をして人を傷つけて良いとは思いませんが、人間が本来心の中に持っているかも知れない善良な所があまり見えず、人を傷つける言動をし、まるで鬼のような人だと言われている人は、もしかしたら鬼にならなければ生きて来られなかった悲しみや苦しみがあったのかも知れない、という気がします。この投書のおかげで、一足早く早春の日向に身を置いたような気持ちになりました。

2月9日、誰の椅子でしょう

小糸川の遊歩道には幾つかの椅子があります。赤いベンチや丸太で作ったような椅子は、散歩中にひと休みしたくなったら何時でも誰でも座れますから便利です。私は椅子を見ると写真を撮りたくなります。
椅子に座って体を休めるという事はそれだけでなく、立ち止まって考える時間が出来た事でもあると思います。ですから椅子は、心身に必要な存在という風に私の目に映るのでしょう。未知への好奇心が橋を渡らせてくれ、椅子が足元を見て前のめりに歩きすぎないようにセーブする事を思い出させてくれるのだと思います。椅子に目が行くのは足元を見る事を忘れてバランスの悪くなる自分への、自分からの警鐘なのかも知れませんね。

2月6日、乾物

沈丁花が咲き始め、梅の蕾も目立つようになって来ましたが、今年は寒さが厳しい影響で特に葉物野菜の値段が高く、我が家の台所は大変です。それで乾物を使う事がいつもより多くなっています。
水に浸けたり茹でたりちょっと手間が掛かりますが、干した物にはビタミンDが含まれていると思うと茹でてコトコト煮込むのも楽しくなりますし、手を掛けると出来上がった時に何となく達成感のような物も感じます。だからおせちを作るのが好きなのでしょう。好奇心を持って子供が楽しそうに泥団子を作っているような感覚で楽しんでいるのだと思います。
湿地からアムール川に溶け込み、400メートルの深さを流れ、オホーツク海に入り日本近海の太平洋までやって来るという鉄分、はるかな海へのその旅によって海は豊かなのだと聞くと、この自然の連鎖は鉄分の好奇心から始まったように思えて来て、子供に笑われそうです。
ところで、指導時の暴力にかかわる問題は火種が燻っていたのか、留まる所を知らない対岸の火事といった様相を呈して来ました。野焼きの後には美しく清潔な植物の新芽が必ず育ちます。この問題も是非そうあって欲しいと思います。

2月3日、春を呼ぶ光

この辺りで雪が積もる事はめったにないのですが、28日は明け方から降り出した粉雪が6時頃にはうっすらと積もっていて、墨絵の世界のようでした。日陰には30日になってもまだ雪が少し残っており、積もっている雪を手に取って見るとふわっと軽く、毎朝霜が降りているというのに今積もったばかりのような柔らかさで、まるで綿あめのようでしたよ。
風がそよそよと吹いている晴れた日の川の水面にさざ波が立ち、キラキラ輝いてゆっくりと流れて行く様は、とろっとして濃厚な水のようで、近づいて来る春が冬を押し流して行くようです。光と水の競演が目にも耳にも清々しく感じられ、日々の日の光が、春が段々近づいている事を告げているように思えます。
でも、2月はまだ雪が降る事もあるかも知れませんし、大分空気も乾燥しているようです。なるべく心身を冷やさないようにし、保湿もして春を待ちたいですね。今日は節分ですけれど豆まきをなさるでしょうか。

1月31日、帰宅

ご近所に家の猫の孫がいるのですが、そのお宅で怪我をした猫を昨年保護しました。首輪をしていたので飼い猫だと思い、飼い主を捜したそうなのですが見つかりませんでした。とても人懐こい猫でその家で可愛がられ大事にされていました。先日家の猫が体調を崩したので病院に連れて行って治療して頂き、帰ろうとした時に猫を捜しているという新しい張り紙に気付きました。顔が保護されている猫に似ているように感じたのですが、写真の猫の方がかなり小さく見え、首輪も違うように思いましたし人間の足で30分では行けない所で居なくなったようなので多分違うだろうと思いました。ただ、時期が一致します。
大抵は何時何処でどんな猫が居なくなり、見つけたら連絡して欲しいので、という事で連絡先が書いてある必要な情報のみの張り紙が多いのですが、この張り紙には家族同様な猫なので大変案じている、と書いてありました。もし間違ったら人騒がせなのでは、飼い主さんにもぬか喜びをさせてしまう、という気持ちがあったのに猫を保護しているお宅に伝えたのは、この一文があったからでした。心配して、夜物音がしたら猫が帰って来たのでは、とはっとして扉を開け、違うのでがっかりしてしまう、でも諦めきれない、そういう気持ちが私にも伝わって来ました。
その翌日、ご近所で保護されていた猫は、なんとその猫だった事が分かり、飼い主さんはとても喜んで猫を連れて帰ったそうです。私も驚きました。たまたま家の猫を病院に連れて行った事でメッセンジャーになれたのですね。本当に良かったです。
でも、その日はアルジェリアでの事件で被害に遭われた方々が帰国なさった日でもありました。命が助かった方達もどんなに辛い思いでいらっしゃる事でしょう。心に深傷を負っての帰国でしょうし、無言の帰国となってしまった方達もいらっしゃいます。私は、猫が無事で良かったと言おうとした口を塞がれたような思いになりました。猫と人間は違うというお叱りを受けるかも知れませんが、その家の人が家族のように思っているという点ではそうは違わないように感じます。
今回の事件だけでなく突然何かの事件に巻き込まきこまれた時のご家族の、ある日ある時突然遺族と呼ばれる信じ難い気持ち、混乱や悲しみ、憤りを思うと言葉もありません。現実を受け入れるには多くの時間が必要でしょう。助かった方の負った心の傷もそれは同じだと思います。
どのような思想や信条を持ち、どんな宗教を信仰するのも人それぞれで、良い悪いと評価する事は絶対的な尺度がない限り出来ないですし、自由であると思います。ですが、そこには自分と違う他者も尊重し共存するという前提が不可欠だと思います。陸続きの国境を持ち、過酷な自然の中にある国や、原油が産出されるからこそ長い間他国に支配されてきた国も多くあります。宗教をどのように解釈するかはそこから生まれて来たものなのかも知れません。それでも、自分と違う考えをすべて排除するというやり方は多くの人から長く支持されるものではないのではないでしょうか。自分がされて嫌な事は人にはしない、憎しみの連鎖からは何も生まれない、そのように思います。21世紀は、多くの複雑で困難な課題と向き合って歩んで行く世紀という側面もあるのですね。私に何が出来るのかまだまだ分かりませんが、もつれた糸は、解きほぐす糸口を何とか見つけたいものです。

1月28日、雛鳥の羽

過ぎて見れば短いのが冬休み、という気がしますが如何でしょうか。今はかなり多くのご家庭でお母さんが外に出て仕事をなさっていらっしゃいます。年中無休のスーパーが増えていますから、そういう所に勤めている方はお正月の方が忙しい、という場合もあるのでしょうね。
私が子供の頃我が家は大家族でしたから、いつも家に誰かしら家族がいました。小さい時はそれが当たり前だと思っていましたし、安心できる事でもあったのだと思います。学校から帰って来ておやつを食べながら話をするのも楽しかったのですが、小学校6年生位になると、たまには1人で留守番をしてみたいと思う時がありました。別に親や家族に隠したい物があるわけでも、家族のいない所でしたい事があるわけでもありませんでした。自分が生まれた時の事も詳しく知りたくて聞いたのもこの頃の事です。
自分のルーツを知りたい、1人の時間と空間が欲しい、という心理は思春期が近づいていたからだったのでしょう。雛鳥に飛ぶ為の羽が生えそろって行く最初のプロセスが、心の中にちょっと複雑な奥行きが出来て来る、前思春期という時期なのかも知れませんね。
そういう年頃のお子さん達の心は、どんな冬休みを過ごしたのでしょう。色々な行事を通して心も成長したのではないでしょうか。すっかり葉を落とした遊歩道の紅葉の新芽が、もう育ち始めていますよ。

1月25日、アルコールランプ

小学校低学年の頃、理科の実験をする時にはアルコールランプを使っていました。マッチで火をつけ、蓋をすると消える物でした。ところが人口が増え、児童数も増えたので新しい学校が出来、私の住んでいた地域は新しい学校の学区になりました。新しい学校では都市ガスが使えるようになり、理科の実験にガスバーナーを使うようになりました。慣れない内はそのバーナーの調節が難しく、ボッと大きな炎が出てしまう事が何度かあったのです。それを、とても怖い、ガスだからなおさら危ない物だ、と私は感じ、それから段々理科の実験が億劫になってしまったのです。学年が進むにつれて実験や観察は少なくなって行きましたけれど、一時期身近な事とかかわりの深い理科への興味や好奇心が薄れてしまったきっかけはこのガスの炎が原因のような気がします。
頭では理解出来、納得できる事でも、気持ちや感覚はその理屈について行けない事がありますが、私にとってこれはまさにそういう事だったのですね。そんな時には何故そんなに怖いと感じるのかその原因を手繰って行くとその原因に気付き、安心してバーナーを使う事が出来る糸口が見つけられたかも知れません。そのようにして自分の間違った思い込みに気付き、出来る所から少しずつ低いハードルを設定するようにし、それを越えて行くと最終的にガスバーナーに適切に点火出来るようになり怖くはなくなる、という事が可能になります。認知行動療法は簡単に言えばこれに似たやり方をするものなのです。得手不得手は誰にでもありますが苦手な事の原因を考えて行って、1つでも苦手意識から解放されると良いですね。それは生きづらさの軽減につながります。どんな気持ちで苦手な事に向き合えるかが変わるという事なのでしょうね。

1月22日、雪

今日は大雨でもなく雪にもならずホッとしています。14日は早朝から雨が降り出し、ウォーキング中にはみぞれに変わっていました。流石に歩いている人は少なく、私もかなり濡れてしまいましたが、思ったほど寒くは感じませんでした。お昼前から雪が降り出し、この辺りにしては珍しい事なので驚きました。空を見上げると、まるでぼたん雪のようでした。
雪の研究者として知られる中谷宇吉郎先生の、雪は天からの手紙、という言葉を思い出したのですが、雪の結晶や模様という暗号で書かれている手紙、と先生は表現されています。この初雪にはどんなメッセージが込められているのでしょう。きっと地球上の環境、地球を取り巻く大気の状況などが、分析研究を進めて行くと解明する事が出来るのでしょうね。それにしても何年ぶりかの舞っている雪はとても美しいものでした。
夕方から雨になったので積もる事はありませんでしたが、国道127号に近い辺りには翌日になってもまだ凍った雪がいくらか残っており、小糸川の遊歩道には誰かが作った雪だるまがありました。子供達がワクワクしながら寒さも忘れて作ったのかも知れませんね。20日は大寒でした。冷え込みがいっそう厳しくなっていますからお風邪など召しませんようにどうぞお気を付け下さい。

1月20日、昭和

大相撲の横綱だった大鵬関の突然の訃報に驚いています。72歳と聞いて、信じられないような気がします。私が小学校に入学する前にもう横綱だった大鵬関と柏戸関は大変な人気でした。千秋楽結びの一番に全勝の横綱同士の対戦、などという時には沢山の人達がテレビにかじりついていた時代だったのです。時々、強風で宵の口に停電になる事があり、それが千秋楽だったりすると残念に思ったものです。
大鵬関はとても強く、安定した横綱でした。ニュースでの久しぶりの現役時代の映像が懐かしかったのですが、実は私は柏戸関の方が好きでした。大鵬関は強すぎ、怪我の多かった柏戸関の敗れた時の土俵を割る瞬間が潔く感じられたからです。一口茄子のからし漬けというと今でも柏戸関が山形県の出身だった事を思い出します。
でも柏戸関は50代で亡くなり、大鵬さんも小さい頃の思い出には必ず登場して来る、懐かしい人です。あの頃は多分20代だったのでしょうね。白黒テレビでしたけれど、見応えのある横綱相撲を見せて貰って本当に素晴らしかったです。いつか大鵬さんが、コンディションを整えるのも実力の内だとおっしゃっていたのが印象に残っています。ご冥福をお祈りしたいと思います。
昭和が鮮やかによみがえってまた少し遠ざかって行きます。平成生まれの人が二十歳を過ぎた時代にいつの間にかなっていたのですね。今朝は霜で縁が白くなっている庭の榊の葉が、日に照らされてキラキラ輝いています。昨夜の訃報に寂しさを感じ、何か厳粛な気持ちになっています。

1月18日、僅差の人と競う時

テレビでスポーツを観戦していると、どんなスポーツの大会でも上位の選手はその日のコンディションが良ければ皆優勝しても不思議ではないと感じます。差はほとんどないように、素人の私には見えます。心配事があったりその日高熱を出したり、というコンディションの悪さがあれば実力が発揮出来ないかも知れません。
よく精神面の強さという事が言われますが、冷静に分析し不十分な点を改善して来たのだから今日は良い結果が出せるはずだ、と思えるかどうかが1つのポイントになるという事でしょう。それは意識を変える事ではなく、無意識を変える事だと思うのです。無意識は変えようと思ってもなかなか変わるものではありません。人の性格は様々ですからいちがいに言えませんが、やはり、自分がどのような努力をどれだけして来たかという事が重要だと思います。それは自分が一番良く知っている事です。ですから、不安な点が解消されていないと意識の上では大丈夫だと思おうとしても、人の9割を占めると言われている無意識が邪魔をしかねません。冷静に不十分な点を見つけ、克服する万全の努力をして来たという事実に裏打ちされて自信が持てるというメカニズムなのだと思います。
ただ、子供が成長して行く過程で、大きくなって来るにつれて学校の勉強などで苦手な科目がある場合は多いと思います。努力しても、大抵の人は得手不得手がありますから、何でもいつもパーフェクトで1番だというわけには行かなくなり、挫折を経験する事も大人になって行く途中での貴重な学びですね。
気持ちだけが空回りするのではなく、成功させたいとか優勝したいと心から望む気持ちが自然に湧いて来る事が一番、頑張って来た自分の背中を押してくれるのでしょう。その気持ちは、勝たなければならない、という意識ではなく、勝ちたいという心の奥深くからの気持ちだからなのです。ですから、他の誰でもない自分自身がそのように思う事が大切で、最終的には戦う相手は他者ではなく、自分と向き合い自分の状況を知る事から始まるのだと思います。
スポーツの大会ばかりでなく、いよいよセンター試験も始まります。受験生の皆さん、お身体大切になさって今まで頑張って来た自分を信じ、落ち着いて試験に臨んで下さいね。

1月16日、対岸の火事でなく

高校のバスケットボール部に所属する生徒が体罰を受け、自らの命を絶つという事件が報道されました。大変衝撃を受け、なかなか言葉にする事が出来ませんでした。
体罰、という報道でしたが、学校での体罰が禁止されているという事だけでなく、別に悪い事をしたわけでもないのに罰を与えたという認識に違和感を覚えます。私には暴力と思え、何か調教というやり方のようにさえ感じられます。
学校では勉強やスポーツを頑張り、良い結果を得る事も大事ですが、成長途上の子供の人格形成にそれが役立っていくという事が大切であり、教育に携わる先生方の大半はその事をよくご理解なさって日々子供達と接していらっしゃる事と思います。けれども、このような痛ましい事が起きてしまいました。子供達の人間としての尊厳を踏みにじらないで指導をして頂きたいものです。人間としての尊厳を損なう、という事はもはや指導ではないと思います。
もし、他にも同じような事をしている学校があるとすれば、一人の人間の命が失われたという重い出来事を考え、対岸の火事ではなく、どうか他山の石にして下さい。子供は社会を映す鏡であるという側面があるという事も、私ももう一度肝に銘じたいと思います。

1月15日、啄木鳥の巣

ある出来事のどの側面に焦点を当てるかで物の見え方が変わって来ますね。悩みや葛藤がある時に物の見え方が変わって来ると、感謝する事が増えて来ます。そして気持ちが柔らかくなり、楽になります。自分が少し冷静に見えて来ると気持ちにゆとりが出て来て人の身になる事も出来ますね。自分の心はそんな風にして段々と、自他と付き合うほど良いバランスが取れ、解放されて行くのではないでしょうか。
ところで、気持ちがどん底の辛い状態に陥った時、ある程度の所まで何かの拍子に急速な回復をする事があります。そういう時に気付きが多く得られるのは、自分自身と自然体で素直に向き合い何とか良い方向に向かって行くためには、と必死に考えるからなのでしょう。それは、生きて行きたいという人間の欲求があるからなのだと思います。
鳥は卵の中からコツコツとつついて雛が外に出て来るそうです。自分の心を時々コツコツとノックして扉を開けて見るのも良いですね。啄木鳥の巣を見つけてそんな事を思いました。皆様にとって今年が自他に優しい年になりますように。

1月13日、小正月

電車に乗って出かける機会があり、車窓から海を眺めていると、色々な事が頭に浮かんで来ました。冬晴れの竹岡付近の海はグリーンとブルーの複雑なグラデーションが美しく、寒さがゆっくり押し寄せて来る南西の海のようで、アクアラインから眺める、触れれば手の切れそうな鋭角的な群青色の海とは、同じ東京湾でも随分違います。午後は暖かな昼下がりから段々とろっとしたシャーベットになって行くようで、いかにも寒い夕暮れ時が近づいて来る事を示唆しているような色でした。
昔の女性は専業主婦であるかどうかにかかわらず、お正月もゆっくり出来ず忙しかったので、15日になるとやっと少し休める事から、15日は女正月とも言われるそうですが、私はこの日を前に暖かい房総の海の様々な横顔をゆっくりと見せて貰い、随分贅沢をさせて貰った気分です。あり難い、というのはこういう事を言うのでしょうね。

1月11日、曾祖母の着物

松の内もあっという間に過ぎ、お雛様の広告が入って来ました。もう春を待つ季節なのですね。広告のお雛様は素晴らしい衣装で、品の良い端正な顔立ちでしたのでしばらく見入ってしまいましたが、かなりのお値段です。もう自分のお雛様を飾る事はなくなりましたけれど一緒に飾られていたケース入りの藤娘の人形や、祖父が博多に行った折に買ってきてくれた裁縫をしている、藤色の着物に前掛けを掛けた博多人形の事などを今年も懐かしく思い出しました。
今日は蔵開きですね。昨年、箪笥の整理をしている時に曾祖母の着物を見つけました。それは、打掛でした。テレビドラマで高職の奥女中が来ているような豪華な物ではなく、ロイヤルブルーの地に赤や緑の刺繍が少しある、地味だけれど丁寧に縫われた物で、曾祖母が結婚式の日に着たと聞いていた物でした。裾にはまだ僅かにふき綿が残っていて、何となく曾祖母の体温が伝わって来るように感じられました。
明治初期生まれの曾祖父曾祖母の顔さえ知らないのですが、結婚式の日には、夜親戚の人達が紋付袴で祝いに来てくれたのだと思います。この打掛は、その日の曾祖母の気持ちや披露の席の様子、その日から妻となり母となってやがて老い、旅立って逝った曾祖母の人生を、結婚式の後ずっとこの家の箪笥の中で見て来たのでしょう。百何十年も前の打掛はもう何かに仕立て直す事の出来る状態ではありませんが、このままそっととっておきたいと思います。
もし曾祖母の結婚の日にタイムスリップする事が出来たなら、子孫の私には若き日の曾祖父と曾祖母が一対のお雛様のように見えるでしょうか。今年の雛祭りには遠い先祖へ思いを馳せて過ごしたいと思います。

1月9日、人の仕事

暮れに友人とテーマパークのクリスマスイルミネーションを見に行きました。広い場所なので分量も使われている色も多く、圧倒されました。初めてでしたので人の多い事にもびっくりしました。
その時、車の誘導や整理をしている人を何人か見かけました。皆厚着をしていましたが、かなり冷え込んでいたので仕事とはいえ大変だろうと、暖かい車の中にいた私は申し訳ないような気持ちになり、小学校1年生の時に読んだ学級文庫の中の薄い本の事を思い出しました。詳しい事は覚えていないのですが、その本は終バスの中の様子を描いた物でした。間もなく終点という所で運転手が、これで家に帰ってお風呂に入れる、というと女性の車掌が、お母さんが甘い豆を煮ておいてくれるのよ、というのです。それを聞いたただ1人の乗客が、仕事を終えて家に帰ってゆっくりくつろげるのは良いものですね、といい、3人のほんのちょっとした短い会話なのです。テーマパークで夜間働いていた人達はカイロを身に着けていたのかも知れませんが、今働いていてくれるから安心して当たり前のように車で入場出来るのだと感じて有り難いという気持ちになっていました。
私が小学1年生だった40数年前と時代は随分変わりました。ですが、ホームセンターで、ウインドブレーカーを着て屋外で花や野菜の苗を売っている店員さんに、寒いから風邪を引かないように気を付けて下さい、といいましたら、ぱっと彼女の顔が明るくなって、ありがとうございます、と答えてくれました。その後この店に行くと彼女は私に笑顔を見せてくれます。私も若い頃はそこまで考えませんでしたし、そういう事は言えなかったように思いますが。人はこういうやりとりが、どんな時代になっても大切なのかも知れない、と思いました。
今のように色々な意味で厳しい時代は、人間性が疎外される事も多く、それに慣れなければならないと思う事もしばしばではないでしょうか。そんな時代だからこそ人と人が互いを大切にし合って人間らしくかかわって行きたい、そう思いました。テーマパークに誘って貰ったおかげでセピア色の思い出がカラーになって動き出し、瞬いていたイルミネーションからメッセージを貰ったような気がします。

1月7日、ロシア周辺

1940年に当時のソビエトに併合された、綺麗な海と美しい砂の山、砂州が広がるリトアニアは、独立の為にバルト三国の人達が手をつないで500キロもの長い人間の鎖を作り、やがて1990年3月にソビエトから独立するに至ったのですが独立運動の途中命を落とした若者達をリトアニアの人々は今も悼んでいます。
何かが変わる時いつも若者の血が流されるという事が人間の歴史の現実なのですね。そういう痛ましい事なしに、という訳に何故行かないのでしょうか。
ところで、ロシアのカリーニングラードは地理的にはヨーロッパにあり、リトアニアやポーランドに隣接する飛び地です。ここに住む人はモスクワに行った事はなくても隣接する国に行った事はあるという人が多く、まさに隣人なのですね。多分地図を見ただけでは分からない様々な側面があるのでしょう。夏の映像でしたが、カリーニングラードの空は晴れ、明るく、お祭りの様子はとても楽しそうでした。
町の人達が国歌を歌う声が印象に残りました。それは、陸続きの国境を持つ地に生きる厳しさと、そこで共に生きて行く為の知恵があるのだという事を教えてくれる歌声のように感じられました。

1月5日、紅花

山形県最上地方で長い間栽培されている紅花は、花の黄色い部分が多く、赤い部分は僅かです。この花を摘んで紅の材料にするのですが、花を摘む時の、花の黄色い部分と赤い部分の割合がどのくらいが良いかの判断が難しいようです。黄色い部分が多過ぎると赤い色が出ないで黄色くなり、赤い部分が多過ぎると黒くなってしまうのだそうです。
摘んだ花をほぐし、水に浸して洗うと黄色は水に溶けやすいので流れ出て赤だけが残り、花は見事な赤になります。それを餅のように円形にして全国各地に出荷します。これを水に溶かし、赤色を吸いやすい麻に染み込ませそこから純度の高い紅色を取り出すというとても手のかかった作業をして紅が出来るのです。
雪深い北国で丹精して紅花を栽培し、紅色を取り出す技術は昔から伝えられて来ました。何かひそやかに息づいてきた命のともしびのような、慎ましく艶やかな色、という気がしてその鮮明な色が心に染み入るようでした。昔の人の生活や苦労が偲ばれて、以前山形で紅花で染められた反物を見た時の事が蘇って来ました。黄色、桜色、ショッキングピンク、オレンジ、朱、赤など様々な色の布はとても美しい物でした。紅花がモチーフのお菓子もありました。
酒田の商人が京都で買い求めた、紅花染めの衣装を着た雛人形があるそうですが、その衣装の色は長い年月を経てきっと味わいのある美しさを今も保っているのでしょうね。朝のテレビ番組の映像に、出来る事ならもう一度最上を訪ねてみたくなりました。今日は寒の入りですが、寒紅はとりわけ美しいそうですよ。

1月3日、蘇生

文楽をご覧になった経験のある方はそれほど多くはないかもしれません。私もテレビでしか見た事がないのですが、人間が動かしているとは思えないほどの人形の動きでした。
表情やちょっとした仕草もそう感じられ、不思議な事ですが、三味線と太夫、人形を遣う人達によって人形に命が吹き込まれ、感情を取り戻したかのように動き出すのです。以前、一の糸という小説を読んだ事を思い出しました。出演者は皆長い間修行をなさっていらした方達だと思います。どの役割を担う人が欠けても、これほど引き込まれる舞台にはならないでしょう。
私は少し弱って値引きされた植物を買い、植え替えて、元気に花が咲くのを楽しみに水遣りをするのですが、この時は元々花に育つ力があるのをタイミング良く少し助けたい、という気持ちなのです。蘇生の素晴らしさが自分を励ましてくれるのでしょうね。これも人形浄瑠璃を見た時の感動とちょっと似通っているように思います。母は人形浄瑠璃が好きでしたので色々と聞いてみたかったのですが、それが出来ず残念です。

1月 2日、強風

新しい年を迎えましたが、どんなお正月をお過ごしでしょうか。私はあまりお正月のような気がしません。年中無休の店も多く、年末から福袋が売られていますので初売りと言われても昨日の続きのように思ってしまいます。また、高齢の猫が年末に体調を崩し、動物病院で治療して頂いて、回復しましたが、若い頃と比べると食が細くなり、体も一回り小さくなっています。際限なく一緒に暮らす事は出来ない、一緒に居られる日が段々残り少なくなっているのだ、という事を実感しました。ですから、出来るだけ心地良く過ごさせてやりたいと改めて思いました。こういう事もお正月気分になれない理由の1つなのでしょう。それでもお雑煮やおせちを、琴の演奏を聞きながら食べるという贅沢をさせて貰いました。今日もウォーキングに行きましたが、10メートルを超す西よりの風が吹いていますので、帰りは向い風になり歩きにくい程でした。今年も色々な事と向き合って行く年になると思いますが、あまり強い向かい風にならず、平穏な年になって欲しいと願っています。

12月31日、ブロンズのような

過ぎて見れば、夏が長く秋はあっという間に深まり、突然のように冬がやって来たと感じる年でした。紅葉が橙から赤になって来た時は美しいと感じましたが、その後、赤が段々深くなり、いくらか紫に茶が混ざったような深みを増した色に変わると、晴れた日には照り輝いているようにさえ見えます。雨風に耐えて生き続けて来た命の輝きは古民家に置かれたブロンズの花瓶のようなどっしりとした存在感があって風格を感じます。
昭和29年9月26日、台風によって青函連絡船洞爺丸が沈没した時の予報を担当した予報官が後に話した事の内容が12月15日の新聞に掲載されていました。知識や経験が巨大な自然現象の前にはいかに小さいかを思い知った。決定的な瞬間の現象は我々の経験の向こう側にある。だからと言ってそこで起こった災害に責任がないと割り切るには、それはあまりにも大きな犠牲ではないか。そこには、そう書かれてありました。
恵みももたらしてくれる厳しい自然の中で生きて行く自分というものを考える時、自然の美しさをしみじみと感じながら、この言葉を改めて肝に銘じたい、そう思いました。震災で被災なさった方々にとって来年が心の回復にもつながる年になりますよう心よりお祈り申し上げます。

12月28日、お雑煮

12月もあと僅かになりました。1年はあっという間ですね。何事もなく無事に新年を迎えたいものです。
お正月のお雑煮は地方によって様々でしょう。君津も色々な所から人が集まっている所だと感じるのは、丸餅や焼きあごという物が売られているのを見た時です。焼きあごというのはトビウオを干して焼いた物です。お雑煮の出汁に、鰹節のように使われるのだそうですが、初めは驚きました。紅白のお供え、甘くしていない大福餅、日本は外国からみれば狭いかも知れませんが伝統食は地方によって随分違うようですね。
大豆の香り豊かな八丁味噌は、群雄割拠していた時代に苦労して生きやがて将軍となった質実剛健だったと言われる徳川家康の、いかにも故郷の味という気がして、江戸初期を垣間見る事の出来る入り口のようで、私はこの味噌の独特の味が好きです。財布と相談してたまに買っています。料理や味付けは自分が食べて育った物が好みの尺度になっている場合が多いのではないでしょうか。私にとっては、鰹節で出汁を取ったすまし汁に焼いた切り餅を入れたお雑煮が、まさに普通のお雑煮だったわけです。このあたりでは、具は大根と里芋です。千葉県では大きく分けて4種類のお雑煮があると言われていますが、今ではもっと多いかも知れませんね。
食べ物にかかわらず、普通はこうするべきだ、という時の普通という言葉は価値観が違うとすんなり納得出来ない場合もあると思います。コミュニケーションはこういう時にも人と人をつなぐ架け橋になりますね。橋を架ける事は理解や信頼の第一歩になると思います。私も、大切にして行きたいと思います。

12月25日、しおり

選挙の投票に行く事は一票の権利と義務の行使ですね。太平洋戦争以前は、女性に参政権がなかった事を思うととても貴重な一票です。
昔は、11月から12月上旬頃に、収穫した落花生の殻をむいていました。地中に豆が出来て育つのですから、木を抜いて干し、カラカラに乾いた豆をもぎ、今度は殻をむいて中から壊さないように豆を取り出すというとても手の掛かる作業です。子供だった私は手伝わせてもらえませんでした。埃だらけになるからなのです。手袋をしても手は荒れ、鼻にまで埃が入ってしまうのですから、値段が高くても何となく納得出来るような気がします。抜いたばかりの落花生の木の独特な匂いは今も懐かしく記憶に残っています。小さな豆でも大切に殻をむいて行くとそれなりの量になり、美味しい煮豆が作れます。塩茹でや、炒ったものも美味しいですよ。
ところで、嫁と姑のコミュニケーションは今も昔もなかなか難しい物なのかも知れませんね。世代が違い、育った環境が違うから価値観も違う、立場も違います。
ただ、人間同士なので、話し合ったり、相手の身になる事はある程度出来ます。本当の親子のようになる事は互いに望んだとしても努力と歳月が必要でしょう。相手とかなり距離を置いてかかわりたいと互いが思っているとすれば、この場合は親子のようにというのとは全く違いますね。一組ずつ微妙に違うと思います。相手の気持ちを察して相手の身になる、と口では言えますがこれはそう簡単な事ではありません。納得のいかない気持ちを、こう考えるべきだ、こう考えなければならない、と割り切ろうとしても、感情や感覚は思考で割り切る事は出来ないものです。心から納得出来て初めて抵抗なく行動する事が出来るのでしょう。ですから、どちらがどうすれば良いのかというマニュアルのような答えはないと思いますし、どちらが正しいとも言えないと思うのです。
ただ、同居している場合、お姑さんにとってお嫁さんは、この家庭での主婦の座を渡す人なのですね。少しでも楽をさせ庇いたいという気持ちとはちょっと違うのだと感じます。ある意味対等な存在なのではないでしょうか。
嫁姑になった時、一度省みて、これからはどうあろうとするのか自分の姿勢を考えて見るのも良いのでは、と思います。人生の先輩の後ろ姿は後輩が見ています。誰でも自分の後ろ姿を見る事は出来ません。そういう意味で、選挙も結婚も大切な節目のように感じます。私もしおりをはさんでゆっくり読み返してみたいと思います。
孤独な部分があるけれどだから心の奥深くは自由、でもわかって欲しかったり自分の存在を認めて欲しいとも思う複雑な存在が人間なのでしょう。複雑な色で織り上げられて行くひとりひとりの人生はどれもきっと同じ物の二つとない美しいタペストリーのようなのでしょうね。

12月23日、キジトラの猫

11月22日に我が家にやって来たキジトラの、生後７ヵ月くらいの雄猫は、そのまま住みつきました。動物病院で去勢手術をして頂き、寒い毎日を元気に過ごしています。子猫用のドライフードが大好きで体重も増え、人間で言えば中学生位でしょう。明日もう一度予防接種に連れて行くのが、この猫へのささやかなクリスマスプレゼントです。子犬のようについて歩くので、よほど可愛がられていたのでしょうね。大した事をしてやれず不憫ですが、あすかと名付けました。どうかこのまますくすく育って欲しいと願っています。

12月21日、柚子

短冊に切った大根をきんぴらにしました。唐辛子とよく合います。丸い聖護院大根を買った時には、その皮を厚く剥いてきんぴらにし、中の部分は大きく切り、コトコト煮て、すりおろした柚子の皮を添えると美味しいですし、湯豆腐や里芋の煮物にも柚子はよく合います。寒中のような寒さのおかげで漬物に使うばかりでない柚子の存在を今年も思い出しました。色々な物に合わせて楽しむ事が出来る柚子は冬を代表する物の一つだと感じます。今日は冬至なので柚子湯も良いですね。

12月18日、オーロラ

このところ庭が霜で真っ白という日が多いですし、氷も張っていますね。北半球では今年から70年位の間寒い、という周期に、南半球より一足早く入ったと新聞で読みました。そうなるとオーロラが見える事が少なくなるという事が、分かっているそうです。
オーロラは、太陽からの危険な粒子が地球の磁気圏に入って来た時に大気とぶつかり、発光する現象なので、美しく幻想的にも感じられるオーロラが地球の高緯度の地点で多く見られる事は、それだけ危険な粒子が多く降り注いでいるという事になるわけで、電力網や人工衛星などに大きなダメージを与えかねない怖い物という側面があるのですね。
宇宙の中の地球や、勿論そこに住む人間も、自然のメカニズムの中に存在していて、私達が分かっている事はまだほんの一部なのだと改めて感じました。
ですが、やはりオーロラを１度見てみたい気もします。実際に経験してみないと気付かない事や実感出来ない事を経験してみたい、という好奇心なのでしょう。好奇心は、時には自分にとって危険な物かも知れませんが、好奇心も科学を進歩させて来た1つの要因とも言えると思います。これから、何でも無尽蔵ではない地球で生きて行くのにどうすればベストなのかという選択は難しい、といつも感じます。1970年大阪万博の、人類の進歩と調和、という言葉を久しぶりに思い出しました。

12月15日、美しい傘

土砂降りでも雫の落ち方が美しい傘をさしている人を見かけました。雨に濡れないようにするのが傘の役割ですから、今まで丈夫な物が良い、とだけ思って買っていましたので、目から鱗が落ちたような気持ちになりました。今年は爆弾低気圧という言葉が印象に残った年でしたから、なおさら傘に見とれてしまったようです。
霜で庭が真っ白な朝、落葉樹の葉がかさっという音をたてて散って行きました。初めて気付いた静寂の中でのこの音もとても余韻の残る物でした。
適材適所でぴんと背筋を伸ばして働いているような傘に出会ったり、来年のためにごく自然に散って行く葉の音を聞いたり出来たのですから、今年も残り少なくなりましたけれど、まだまだ感動する事に出会えるかも知れないですね。楽しみです。

12月12日、西域の美女

楼欄はタクラマカン砂漠の東の端の都市、あるいは都市国家だったと考えられている遺跡ですが、この丘から発掘された棺に眠る若い女性は彫りが深く、美しい顔立ちでまつげが長く、今にも目を開きそうで、目がうろのように感じられない人でした。ですから、テレビを見ていた私は彼女がかつて確かに生きていた事を生々しく感じました。
この丘は北から移動して来たインドヨーロッパ語族の人達の住む緑豊かな場所の一部だったのだそうです。丘は赤く高い墓標が建てられ多くの死者が眠っている場所であり、今では砂漠となって春には凄まじい砂嵐が吹きすさぶ所です。
私は調査や研究によって解き明かされる古代の歴史を知りたいと思う一方、穏やかな眠りに就いている人達をそっとしておいてあげたい、そんな気持ちになりました。これが、シルクロードのシリーズ番組などを見る時にいつも感じる葛藤なのです。

12月11日、協調

随分寒くなって来ましたが、澄んだ空に菊の香が漂っています。
ところで、協調する、という事は子供でも大人でもある程度必要な事だと思いますが、それがうまく行かないと対人関係で苦労する事も多いですね。
子供は、人とのかかわり方をまだ学んでいる途中です。自分と、他の大勢の人の意見が異なる時、周りに合わせようとする事はよくある事だと思います。そうしないと阻害されるかも知れない、そしてその後も孤立するかも、と思ったり、自分の考えは間違っているのかも知れない、と自信がない場合などが大勢の人の意見に合わせる理由の1つなのではないでしょうか。子供のいじめを考える時の1つのポイントだと思います。勿論、大人は会社でそのようにせざるを得ない時もあるでしょうが。
ただ、納得できない意見に同調する事が多くなると自分の心の中では葛藤が生じて来てかなりのストレスになり、時には体調が悪くなる事もあります。どのようにして協調する事を大切にし、良い人間関係を保ちながら、自分の意見を相手に納得してもらえるように伝えるか、という事はコミュニケーション力と、冷静に自他を見てかかわる事がどの位出来るか、という事なのだと思います。
私にとっても一生学んで行く事だと思っています。真っ青な空が鏡のように思え、自分を映して見たくなりました。天災や経済状況などに不安や閉塞感を感じる事もありますが、私は今現に生きているのですから、大分長くなって来た夜に自分を否定せず、ゆっくり向き合って見るのも良いかも知れないと思っています。

12月8日、言葉を通して

ロシアウラジオストクの小学校では日本語を教えている所があり、子供達が熱心に勉強しているのを見て考えてしまいました。英語は世界の共通語でしょうが、日本では隣国の言葉を学校で学ぶという選択肢かほとんどありません。
言葉からは価値観や日常生活を知る事も出来ると思います。他者を理解するには言葉を知る事が大切だと思い、マスターする事や使う機会はないかも知れませんがラジオやテレビの語学番組を聴いて少し勉強してみようかと思います。
夜ラジオのダイヤルをゆっくり動かしていると外国語の放送や、ロシアや中国からの日本語放送が受信出来る時があります。雑音が入って、よく聞き取れない事が多いのですが、世界中が驚くようなニュースが飛び込んで来た時でも、国によってトップニュースは違いますし、解説の仕方も違います。あっという間に情報は世界を駆け巡る時代になりましたが、価値観は様々で、やはり世界は広いとも感じます。
外交というのは難しい、と感じる年でしたが、太平洋戦争開戦の日に私はこんな事を考えました。

12月6日、バラとの再会

少し前に、夏に行ったバラ園に再び友人と出かけました。日中は暖かくなり、綺麗な海の見える友人の家、山の中にあるイギリスのようバラ園、山から田んぼの沢山ある君津の里へ帰って来るという旅をしたような贅沢な1日でした。
何かが夏に行った時とは違うと感じたのですが、蝉時雨が聞こえないからで山の中は静かでした。おかげでバラの色と共に深まる秋の空気を吸って来る事が出来、埃を洗い流したような気分になりました。
家のシャコバサボテンにも小さな蕾が付きましたし、しみじみと冬の訪れを感じます。外側が紫色の大根が沢山店に並んでいたのでそれを買い求めて甘酢に漬け、綺麗なピンク色に漬かった大根を桜大根の曙漬けと名付けました。

12月5日、紅葉

冬支度はもうお済みでしょうか。師走にしてはまだお天気が定まらず、大根が干せません。そろそろ白菜を漬けようと思いますがちょっと高いのでそれも思案中です。何か、覚悟が出来ていないのに冬が来ておろおろしているような空模様ですね。
紅葉が名残を惜しむようにいっそう深みを増して輝いています。来年の木の成長に役立って行く命の循環のプロセスなのでしょう。今年あった辛かった事や悲しかった事が美しい紅葉を見る事で少しでも慰められますように。

12月2日、スカートの襞

今年は、フェルメールの真珠の耳飾りの少女の絵が来日し、レンブラントやフェルメールの作品に特徴的な光と影が話題になりました。影がある絵に描かれた人物は立体感があり、いっそうその存在を感じます。人間が心身に奥行きを持って存在している事をはっきりと感じ取れるからでしょうか。生きて行く手ごたえという物も、奥行きや陰影があるからこそ感じるような気がします。
人が何かを成功させ、光が当たるまでには長い歳月がかかるでしょうし、努力や才能がとても大切ですね。支える家族や沢山の人達の思いもあるのだろうと思います。成功したら、陰で支えたり見守ったりという自分の出来る事やすべき事をして長年支えて来た人達にとっても嬉しい事でしょう。人間は目に見えない多くの事や周りの人達と支え合って生きているのだ、と感じます。
襞スカートを作る時には、折り畳む襞の部分にかなりの布地が必要になります。折り畳まれた襞の内側の部分は外からは見えませんが、この部分が襞スカートの美しいシルエットを作るのですね。歴史の襞の中には多くの人達の人生が折り畳まれているのだと思います。
影と陰は違いますが、ふっとこんな事を思いました。いずれにしても、人の並々ならぬ努力が実って光が当たった時に、私もその方を改めて尊敬し、喜びたいと思います。

11月30日、晩秋の空

夕方の空に、短い飛行機雲が綺麗でした。サヨリが一匹すうっと泳いでいったようにキラキラとした雲を残し、飛行機は北西の空に遠ざかって行きました。家の蜜柑や獅子柚子が色付いて来たのを見ると、厳しい冬が間もなくやって来る事を感じます。
何から、今置かれている状況を実感するのかは、人それぞれですね。私は以前新幹線で名古屋に行った時、短時間電車に乗ってもう名古屋に着いた事が信じられないような気がしました。地下鉄に乗り換えても東京にいるような気がしていたのですが、その時日本語だけでなくポルトガル語でも車内アナウンスがあり、ブラジルから来て生活していらっしゃる方が多い場所に自分が短時間で移動して来て、今まさに名古屋いるのだという事を実感したのです。難しい時代ですが、これからやって来る新しい年に明るい希望を感じて暮らして行きたいものですね。

11月29日、軒下の猫

22日の朝、家の軒下に猫が来て鳴いていました。用事があって出かけ、午後に帰宅するとこの猫はまだ庭にいて、どうやら7か月位の子猫のようなのです。この尻尾の長いオスのトラ猫は人懐こくて全く警戒心がありません。家にも猫がいてこの猫を嫌がり、面倒を見てやる事が難しいので困っているのですが、捨てられたのか迷子なのかもわからないのです。朝晩寒くなって来たのに家の中に入れてやる事は出来ません。不憫で、夜中に外でこの猫が鳴いている声が聞こえると、何だか自分がとても冷たい人間に思えて来て少々疲れています。どうにもしてやれないのだから仕方がないというのは理屈で、可愛そうで胸が痛みます。葛藤ですね。
この猫がどこからどうしてやって来たのかはいくら考えてもわかりませんが、考えてやらなければならない事は、何とか生きて行けるようにという事ですよね。それで、動物病院に予防接種を受けに連れて行きました。
ところで、猫は人間がいじめないのに思い切り噛みつく事はありませんが、それは幼い時に母猫や兄弟たちと生活しながら自然に身に着く事なのだそうです。この学習が出来なかった猫は、じゃれて強く噛む事があります。かなり早く親や仲間と別れたという事なのでしょうね。手加減を知らず知らず学び、身に着けて行く、こうして猫は親に育てられて行くのでしょう。私達人間も教えられます。
それにしても、早く育った家に帰れると良いのですが、今のところ近くの動物病院には、迷子のトラ猫を探しているという人は来ていないそうです。

11月26日、着心地

子供の頃、寒くなったと感じる季節に、母が仕立ててくれたオリーブ色で絣の模様のネルの着物をよく着せられました。
肌触りが良くて暖かく軽い物で、とても着心地の良かったこの着物はその後寝間着になり、最後には雑巾になって働いてくれました。雑巾になった物を見た時には悲しくなった事を覚えています。ひと雨ごとに寒くなって行く季節に、風邪を引かないようにとひと針ひと針心を込めて縫ってくれたのでしょう。今では子供は夏に浴衣を着るほかには七五三くらいしか着物を着る事はないかも知れませんね。
浴衣を着た時の青磁色の兵児帯もずっしりとした量感と、やはり手触りの良い物だったのでその感覚を覚えています。子供の浴衣も仕立てた物が兵児帯と一緒に売られていますが、私の覚えている物とはまるで違います。時代によって変わるのでしょう。
着心地が良くて自分に合うと感じる物を着ると、安心したり気持ちが明るくなったりします。それは別に高価な物かどうかとは関係のない事です。気にいった洋服を洗濯するから着替えなさい、と言われ、嫌だなあと思ってしぶしぶ着替えた事のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
着心地の良い物は選ぶ事が出来ますが、居心地はお互いに作って行くものです。自分の居場所に安心して心地良く暮らせ、ストレスが軽減されたら、良いですね。

11月25日、歯磨き

このところ、親戚や近所のお年寄りが何人か亡くなられて寂しさを感じています。皆さん私にとっては、親世代の方達です。いつの間にか祖父母世代が居なくなって親世代の方が高齢になられたという事を実感する出来事でした。美しい紅葉が、旅立って逝かれた方達を優しく見送っているように感じます。
気が付けば私もチューブの中の歯磨き粉のように少しずつ出口の方向に向かっていて、大分前に来たという事なのですね。お通夜から帰って来た時など、マイナスになった気持ちを真空パックにして抱えたまま夜が更けて行きます。大根の美味しくなる季節は旅立って逝く方が毎年多いですね。
そういう事を考えていた私ですが、駅の通路に貼ってある小学生の、ランドセルの描かれた作品に目が行きました。6年生の作品なのか、今まで働いてくれたランドセルへの感謝の気持ちが綴られていました。子供の、物であるランドセルへの素直な感謝の気持ちを素晴らしいと思いますし、幾つになっても教えられる事は多いですね。間もなく冬がやって来ます。お風邪など召しませんようにお気を付け下さい。

11月23日、足元

夏に種が庭にこぼれて芽が出て来たマリーゴールドを鉢に植え替えた物が咲き出しました。濃い茶色のチョコレートコスモスは甘い香りです。最近、コンビニの駐車場で高い所に貼ってあった広告を見ながら歩いていて、車止めに躓き、うつ伏せに転んで膝を擦りむいてしまいました。また足元を見ないで歩いていたのです。
でも擦りむいて痛いのに何かホッとしています。腫れて痣になったのではストレスが内にこもり、外に出せないでいる状態と似ていますので、何かを外に出したように感じたのだと思います。許容出来る範囲を超えたストレスを感じていたのかも知れません。それも軽い怪我だったから言える事ですね。時々こういう事をするので、気を付けようと思います。

11月20日、コミュニケーション

こんな夢を見ました。年長の友人に、稲毛駅近くのビルの中でばったり会った、と言う夢なのですが、そこには和服姿の若い女性が数十人、私の友人と一緒に休息していました。友人が私に気付き、話しかけました。すると実に良いタイミングで、女性達はにこやかに挨拶をして帰って行きました。草履を履いていても人数が多いと足音がする事に私は驚きました。友人はこの女性達に茶の湯を教えており、出稽古に来たのだと言いました。彼女は、これからイルカを見に行きましょうと言い、着替えを持って来たので今日もイルカに乗る、と言うのです。私は驚いて言葉が出ない、と言う現実ではまず起こりえない事が起きた夢でした。
でも、目覚めてとても心地良かったので、考えてしまいました。それは、コミュニケーションについてでした。友人の誘い方は自然で押しつけがましくなく、私との心の距離がちょうど良いと感じるような誘い方やテンポでした。私に無理に合わせているようでもなさそうだったのです。
どんな言い方がちょうど良いのかは、誘う人誘われる人によって皆違います。私の持って生まれた物と、育つ環境の中で自然に身に付いた物の両方で私の性格は成り立っており、それが自分らしさと言う物なのでしょうから、例えば私の言い方が相手には何となく合わないとか、不快に感じる、という事もありますよね。自分と他者の感じ方や考え方すべてが鏡のようにぴったり同じという事はないのですから、コミュニケーションは私にとって一生学んで行く事なのでしょう。相手が違ったり、相手の置かれている状況がその時々で違ったりしますから、こう言えばパーフェクトだというマニュアルのような答えはないのだ、と改めて思いました。意味のある夢だったと、友人に感謝したくなりました。

11月19日、房総の海

16日に、浜金谷駅近くの美術館に行って来ました。美術館も素晴らしかったのですが、景色も勿体ないような素晴らしさでした。富士山が青空に映え、海は凪いでいました。
帰りに上りの電車に乗ると、竹岡のあたりからでしょうか、車窓から眺める海はいっそう穏やかで、群青が遠ざかって行き、淡いブルーの上に太陽が銀鱗を描いているような美しい色に変わりました。
海側の座席が混んでいる時は山側に座ると冬色の常緑樹にも日があたり、美しいのでどちらでも楽しめます。公平ですね。日中は海も空も美しく、夜はちりばめられたような沢山の星が瞬いている穏やかな1日でした。

11月18日、冬のトマト

昭和39年11月に祖父は体調を崩しました。血圧が高かったのですが、それまで気付かなかったのです。それからは家でお医者様の治療を受け、寒い季節でしたが少しずつ回復し、春になるとよく一緒に散歩に出かけました。
昭和40年の初め頃だったと思いますが、祖父がトマトを食べたいと言い出し、家族皆がトマトを捜したのですがなかなか見つからず、父が千葉で見つけて来た、という事がありました。その頃祖父は椎茸やレタス、海苔などを好んで食べていました。馬の心筋の成分から作られたという赤い注射を毎日して貰い、その薬が合った事も、速やかに回復した1つの要因でしょうし、治りたいという本人の気持ちや家族の看病も元気になれた理由で、それが丁度うまく噛み合ったのかも知れませんが、私にはあのトマトが回復する1つのきっかけだったように思えます。
今では1年中トマトは売られていますが、私は冬にトマトを見ると、祖父の生きようとする力を支えてくれた物に思えて来ます。考えてみれば、冬にトマトが栽培出来るようになるまでの苦労は並大抵のものではなかったでしょうね。

11月16日、助けるという事

2010年のハイチ地震の被害は大きく、ポルトープランスの多くの建物が倒壊しました。病院に入院していた生後2か月の赤ちゃんが助け出されましたが、ひどい怪我を頭にも負っていてそのままでは後幾日も生きられないという状態でしたので、イギリスの医師達によってロンドンの病院に搬送され入院する事になりました。手術後の経過も良好でしたが、まだ当分治療が必要で、このような場合に子供を預かって世話をする人達が面倒を見る事になりました。
一方で、この子の母親を捜し、見つかったお母さんはロンドンにやって来て、亡くなったと思っていた我が子との再会をとても喜びました。この子の他に3人の小さな子供を持ち、1人で育てている母親はずっとロンドンにいる事は出来ないのでいったんハイチに帰りました。
ところがそこはまだ復旧とは程遠く、衛生状態が悪く、病院では医療器具も不足したままでした。しかも母親はスラムに住んでいるので、まだ何年も治療や注意深い経過観察が必要な赤ちゃんを退院したからと言ってすぐに返すわけには行かない状態なのです。赤ちゃんだけでなく、この家族への支援も考えられ、続けられている、という事でした。
母親は今すぐ子供を連れ帰りたいでしょうが、この子のためにはそれは良くない事だと思い、赤ちゃんはまだロンドンで生活しています。とても辛いだろうけれどそれが子供を愛し、まず子供の幸せを考える親の今の決断なのですね。ですからこれからどのようにして行くかは課題の多い問題なのです。
助けるという事は、助けようという気持ちと行動がまず大切ですが、ではその後どうする事が良いのか、どうする事が助けた事なのか、それは簡単に答えの出ない難しい問題なのだと思います。長く、必要に応じて寄り添い、その度合いは段々少なくなって来るという事になるのかも知れませんね。
カウンセリングも似た所があります。カウンセラーが、評価、説教、提案などをして相談にいらした方に選択して頂くのではなく、悩んでいる方がご自分で納得のいく答えを出して頂けるような聴き方をするからです。放置する事ではなく自立を妨げないかかわりや援助は家族間でも大切ですね。いずれにしてもこの赤ちゃんが元気になり、幸せになって欲しいものです。

11月13日、冬を待つ下駄

駿河塗り下駄は、生漆で何度も桐下駄を乾かしては塗りを繰り返し、そしてとぎます。卵の殼を置いて模様を作る様子は螺鈿細工のようです。丹念に作られて、次第に黒い光沢のある華やかな下駄が出来上がると芸術品のように感じますが、下駄は履く物でもあります。
一足の下駄の左右がまるで、履いて歩いて、と言っているようです。足元のおしゃれは履いたら見えなくなる部分が多いのに、精巧で活き活きと描かれた模様は職人さん達の心意気ですね。その心意気が冷たい朝の空気の中に漂っているようで、乾燥した冬の道にはカラコロという下駄の音が似合うような気がします。 鼻緒も勿論丈夫で美しく、下駄を支え、履く人を待っているかのようで、映像の下駄はとても雄弁で楽しげでした。
朝の5分間の番組は、私にとって目の保養であり頭の体操にもなるとても貴重な瞬間です。

11月10日、十三夜

10月27日は十三夜だという事を、スーパーで兎に見立てた和菓子を見て気付きました。里芋などを備える十五夜の芋名月に対して十三夜は栗名月と言いますよね。秋は空気が澄んで月が綺麗です。
我が家では、今年の２月に買ったセリの根がとてもしっかり伸びていたので鉢に植えた事をお話ししましたが、3回収穫する事が出来ました。まだ元気なので施肥し、この先が楽しみです。鉢植えの銀木犀が咲き始め、金木犀よりも柔らかな香りが漂っています。銀木犀の花は白です。植物もそろそろ冬支度をしているのかも知れません。私もチューリップと百合を１鉢植えました。
穏やかなお天気で、ガーデニングをしているといかにものどかです。ですが、アフリカのサバンナで動物の保護のために働いている人がライオンに襲われて耳に大怪我を負い、病院で手当てを受けて奇跡的に一命を取り留めたという事が、以前にあったそうで、彼は生と死は本当に紙一重だと思った、とインタビューに答えていたその言葉を、花の水遣りをしながらふっと思い出しました。
先の事は分からない事がほとんどだからこそ今この瞬間を大切にして行こうという事を感じたからだと思います。私は平穏な日が当たり前、便利な事が当たり前のような気持ちになって、感謝を忘れがちになるのできっと時々色々な出来事を通して無意識に自分を振り返っているのですね。

11月8日、ハードルは徐々に

小糸川の遊歩道を歩いていると、細長くコスモスが植えられている所があります。そこでピンクや白などの色とりどりのコスモスに突然出会うと、まるでデパートの布地売り場で、季節に合ったプリント模様の洋服地が飾られているようで、雨の日でもぱっとあたりが明るくなったように感じます。
8月の下旬のウォーキング中に軽い熱中症になってから元に戻るまで大変でした。数日で、家の中での生活に不自由はなくなったのですが、暑い季節でしたので近くへの買い物位しか外に出る事が出来ませんでした。何となく体がふらふらするようで、軽い眩暈がなかなかおさまらなかったのです。
半月程経って遊歩道へ行ってみました。短い時間なら大丈夫だろうと思ったのですが、歩き始めると、この道のずっと先で具合が悪くなったのだから歩いていてまたそうなったらどうしよう、そんな気持ちになって不安を拭えず、30分しか歩く事が出来ませんでした。水分補給し、出来るだけ涼しい時間に家を出て来たのだしお茶の入ったペットボトルや携帯電話も持っているから、具合が悪くなった時とは違うのだ、と自分に言い聞かせてみても不安が消えないのは思考と感覚が一致していなかったのでしょう。怖いから嫌だというのが感覚の答えだったのですね。その道を歩いていて具合が悪くなった事が外傷になっていたのだと思います。
ですから、心と体両方の調子を整えるまでは短時間歩き、少しずつ増やして行くよう気長に待とうと思いました。10月の半ば頃からようやくいつもの調子を取り戻して２時間歩く事が出来るようになりました。自分を急き立てて、体は元に戻りつつあるのだから早く歩く時間や距離を元に戻さなくてはならない、そう出来る筈なのだから、というのは自分の感覚や感情を無視し、自分の体を粗末に扱う事につながります。人間が生きて行くために、感覚は危険や限界を敏感に感じ取り、教えてくれるのですから無視しては健康を損ねかねませんね。無理せず、別の道を短時間歩く事から始めて徐々に時間を延ばし、また元の道の景色を楽しんで歩けるようになり、ホッとしています。
毎朝空気の匂いや遠くの山の色、きっと何人もの方が植え、丹精して下さった季節の花をながめながら歩ける事に感謝し、楽しんでいます。私にとって、歩くことが出来ないという事がかなりのストレスになった事に実は驚いています。きっと歩くのがよほど好きなのでしょうね。

11月5日、外国語

スーパーに買い物に行ったらドイツ人らしき人達が大勢買い物をしていてちょっと驚きました。田舎なので、新日鉄に研修に来ている外国人を見かけるくらいなのですが。時代によって、アフリカや中国などからの人達をよく見かけました。
スーパーで買い物をしていた人達は、ピクニックに行くのかと思うほど沢山お菓子や果物などを楽しそうに買っていました。私はほんの少ししかドイツ語が分からないので話しかけられず残念でした。自分がもし外国のスーパーに行ったら、こういう風に買い物が出来るだろうかと考えてしまいました。若い男性が綺麗な金髪の女性にしきりに、ツヴァイ、と言っているので2000円以内の買い物と言う事だろうと思ったらそのようでした。でも何処から来たのですか、しか話せなくてはどうしようもないですね。
帰りに500円の砂子斑の美しいイワヒバの小さな盆栽を買いました。1年に2ミリ程成長する綺麗な物で、出会った、という気持ちで嬉しくなりました。二つの出会いがあった１日でした。

11月2日、広い世界

中国河北省秦皇島ではその気候を生かしてブドウが栽培され、ワインが作られています。万里の長城の東の果てであり、フランスボルドーと緯度が同じなのだそうです。透明感のある、ルビーのような色のワインでした。総延長8800キロを越える万里の長城 、と聞くとその長さと国の広さに圧倒されそうです。
また、パタゴニアはチリとアルゼンチンの境にある平原でアンデス山脈のフィッツロイ山は標高3375メートルと高く、天候や雪の状態が良くないとなかなか登れない高い技術を要する山です。強い偏西風の吹くこの辺りの木は傾いています。アイスブルーの氷河の崩れ落ちて行く様子はダイナミックで、その音が聞こえて来るようです。
南極は海も氷もアイスブルー、思ったより軽く明るいように見えます。ここは鯨やペンギンにとって日常生活の場なのですね。船が進み、南緯64度の海は波もありません。氷の大陸は泰然として、季節の微妙な変化を敏感に感じ取り、楽しんでいるかのようでした。ここは全てのものが行き着く果てのようでもあり、全てのものが始まりを待って再出発する地点のようでもあります。
秋は旅行シーズンです。気候や風土、言葉、歴史などの全く違う所への旅も楽しいでしょうし、お住まいの近くの秋を満喫するのも良いですね。これからは美しい紅葉も見られます。日常から離れていつもと違う１日を過ごせたらリフレッシュ出来そうですね。

10月30日、晩秋へ

金木犀の花もいつの間にか散って、鍋物に向く食材が出回っています。今年は9月が夏のようでしたので、秋が突然深まって来たような気がしますね。
大根の千六本と椎茸のお味噌汁を作りました。そういう物が美味しく感じられる季節になって、秋だけれど冬の足音が聞こえて来た様に感じます。もう霜降を過ぎたのですから。日中気温の高い日があってもひと雨ごとにその気温も下がり、間もなく晩秋だと思うと、今この瞬間の秋を大切に過ごしたいような気持になりました。こんな風にしていつも次の季節は近づいて来て、その顔を覗かせているのでしょうね。
こういう中で、私はベニカナメの剪定中に毛虫に刺されて手の甲がひどく腫れ、病院に行きました。庭木や生け垣の剪定をなさる方はどうぞお気を付け下さい。何時までも暑かったからなのか、今年は毛虫の活動期間がいつもより長いそうです。

10月28日、アケビ

アケビが果物だという事以外何も知りませんでしたが、藤色のような色があまり綺麗だったので買って来ました。ゼリー状の甘い所を食べ、あとはソテーしたらほろ苦くて珍味でした。
伊藤左千夫の小説野菊の墓の中で、民さんと山の畑に綿摘みに行き、帰りが遅くなったので叱られた政夫さんが、僕がアケビやエビヅルを取っていたから遅くなった、と説明している場面を思い出して買い求めたので、虫の声だけが聞こえるひんやりと冷たい夜の空気、でもしみじみとした情緒のある、隣の家とは離れている昔の田舎の農家の戸口の光景が浮かびました。叱られるだろうと覚悟して気持ちも足も重い、こんな事は私達の日常にもある事ですよね。

10月27日、秋を楽しむ

ススキやコスモスが綺麗です。気がつけば秋まっただ中ですね。大浦ゴボウという物を見つけたので買って来ました。普通のゴボウの半分位の長さで、木の根のように太く、1本で800グラムもあります。醤油麹も買ったので、いつもとは違う秋のお惣菜を作ってみようと思っています。
このところ雨や風が心配な日には植木鉢を軒下や室内に入れたり出したりしています。年々大きくなるガーデンシクラメンの球根、この冬はどんな花を見せてくれるのでしょうか。今年の冬はこれからなのですから、未知だとも言えます。
経験に基づきながら、日々、どんな未知と出会うのか好奇心やいくらかの不安を持って、そしてそんな事をあまり考えずにごく自然に暮らしているのですね。明日という扉を開けたらどんな未知と出会えるのでしょう。

10月24日、綺麗な月

今年の夏に、蛍を見た事があるかどうかと聞かれ、40数年前に見たのが最後と答えると、ここはあたり一面畑や田んぼだったので珍しくないものだったと、教えてくれた親類は感慨深げでした。そう言えば、家の横井戸の水をためる瓶の周りに小さな蟹がいたのも随分前の事です。こぼれている水が綺麗だったからでしょう。おおげさな言い方をすれば毎日蟹とも暮らしていたのです。蟹は茹でるから赤くなる事などその蟹を見て知ったようなものです。生きている蟹は赤くはありませんでしたから。
アサリの殻を剥き竹串に刺して縄を半円にした物に通し、竿に掛けてよく干してアサリ串を作る、茹でたり煮たりご飯や汁物に使う、かき揚げにする、そのようにしていつもアサリを食べていました。海苔は常時あり、生ですと良い香りでとても柔らかく、口の中で溶けるようだったのが今とは違う所です。あのアサリの殻を剥いて捨てた時の音、茹であがった匂い、アサリの殻の中に時々入っていた小さな小さな蟹の姿、それは蛍を見る事が出来た頃の事なのですが、昨日の事のように覚えています。今と比べると随分不便でしたがその頃はそういうものだと思っていました。風が強い晩にはよく停電にもなりました。
田舎では、自然が豊かだったというよりも、自然の中に保護色の存在のように溶け込んで私達は生活していたような気がします。ですから、開発によって便利になった事と引き換えに失われた自然を思うと自分が怪我でもしたような痛みを感じるのです。
河童がいても意志の疎通が出来た時代が確かにあったのかも知れない、という気がします。このところ月がとても綺麗なので、海や山の恵みが豊かだった頃の事をしみじみと思い出したのだろうと思います。

10月21日、アートセラピー

木犀の香りが漂い、秋の深まりを感じます。美術館を訪れるのにも良い季節ですね。私が中学生の時の文化祭で、ある先生が寄せ書きにお書きになった言葉をよく思い出します。生きる事は学ぶ事と言うその言葉は、大人になって色々な事に遭遇するたびにそのとおりだと感じるようになりました。
自分の人生、時代の変化、天災、新しい研究や開発、学問的な発見など子供の頃には想像もつかなかった事が起きています。これから数十年後の世の中がどうなっているのか私には分かりません。生きているから明日が来てその積み重ねが歳月、それはまさに日々身を持って学んでいると言う事ですね。読書をしたり、何かを考えるのにも良い季節を有意義に過ごせたら、と思います。
絵を描いたり、切り抜きで作品を作ると、ストレス解消につながりますし、自分と向き合ってみる事にもなります。アートセラピー講座を行っておりますのでお気軽にお電話下さい。あなたの作品はあなただけにしか作れません。自分らしい味のある作品が出来ると思いますよ。芸術の秋、どなたも芸術家だと私は思います。

10月18日、君津の散歩道

友人とお弁当を作って持ち寄り、馬登の、君津の散歩道という所を歩いて来ました。造園や緑化の仕事をしている会社がある山の上でとても見晴らしの良い所です。自然を壊さずほど良く手を入れ、高低差のある歩きやすい道が続いているので、緑と美味しい空気を満喫出来ます。
自分の家の近くや東京湾、アクアライン、富津岬などが見え、標高の高い所から見ると、東京や神奈川が随分近いように感じます。自分が住んでいる所の高さが基準になっている目線というのは、標高だけでなく何かにつけて視野狭く物事を判断しているという事が多いのかも知れない、自分の日常をそんな風に思いました。
満開の萩、柔らかい緑色の銀杏、梢を渡る風の音、葉脈が色づき始めた柿の葉など、人間の生活音の聞こえない静かな道をゆっくり歩いていると、人間も自然の一部のように感じられ、何か自分がコーヒーの中にすうっと音もなく溶け込んで行くクリープのような錯覚を起こしました。不思議ですね。同化、保護色、という言葉が頭に浮かびます。
もしかしたら自分の本質は、柔軟だけれども強靭で透明館のある壊れにくい緑色のシャボン玉に似た物で、真っ青で穏やかな空にぽっかり浮かんでゆっくり動いているのかも知れない、などと感じました。
もう1度スタート地点に立って何かを考えたい時に訪れると良い場所かも知れませんよ。

10月15日、お彼岸に

暑さ寒さも彼岸までという言葉、この秋はその通りでしたね。震災でご家族を亡くされた方、原発事故で避難していらっしゃる方、辛いお気持ちでお墓参りをなさった事と思います。
30年以上前に、穏やかで手先が器用、子供には自分も子供目線で関わり、可愛がってくれた大伯母を見送りに行った時の事を思い出しました。発車のベルが鳴って、特急白山の窓から手を振り、又来ます、と言った時大伯母は笑顔でした。それが大伯母との別れになりました。
お盆やお彼岸になると亡くなった家族や親しかった人達の事をよく思い出します。
随分前に読んだ本に郡上藩の事を書いた作品がありました。ご存じのように、郡上踊りは有名です。毎年お盆には全国から沢山の人が集まり、徹夜で踊るのだそうですね。幕末、郡上藩は朝廷方に従うべきか幕府方に付くべきか随分迷ったそうです。大藩ではないのでどちらが勝利をおさめても藩が取り潰されないようにと、少人数の藩士を会津に送り、彼らは戊辰戦争で戦いました。表向きは脱藩という事にし、戦いが終わって生き残り、国に帰って来た人達を牢に入れました。やがて赦されたのですが、そのやり方に失望し、国を去って行った人達もいたのです。私は毎年郡上踊りというとその事が頭に浮かびます。亡くなった人達の霊が存在するならば、今は誰を恨む事も憎む事もなく、身分の上下がなくなり自由に物が言える、水の綺麗な故郷のこの踊りの輪の中に入って、懐かしんでいるのかも知れない、そんな気がするのです。
仏様に供える牡丹餅を作りながら、今年のお彼岸もしばし亡くなった人達と共に過ごせたように思います。

10月12日、季節は廻る

晴れた日の日中は暑く感じる事もありますが、秋が急に深まり、実りの季節がやって来ました。茸や果物、魚など美味しい物が店先に並ぶようになるのも秋の楽しみの１つですね。昨日は南瓜を蒸して主食にしました。蒸しただけの南瓜は思ったよりずっと甘く美味しく感じました。
大きく育ったキュウリの皮を剥いて茹で、煮たり和え物にしたりとこの夏も楽しみましたが、朝夕涼しくなって来たら生で食べるようになりました。あまり暑いと生の野菜は食べにくい食感だったので、火を通した物の方がのど越しが良かったからなのだと思います。そういう事が気にならなくなって来たのは季節が確実に進んでいるからなのでしょう。
夕方になると秋刀魚を焼いている匂いがする事があり、秋刀魚が食卓に上る事がご近所でも多くなって来たようです。秋の深まりは、視覚や聴覚、味覚、嗅覚それから触覚という感覚を通して感じられるのですね。

何年か前に、美しい湖の四季を描いた油絵を見た事があります。若い頃は、春の淡い色や柔らかそうな草や木の新芽などが優しげに感じられ、素晴らしい絵、と思いましたが、その内に猛々しい夏の草や、絵全体に使われている濃いはっきりした色もエネルギーが漲っているようで心地良く感じたのです。今、秋の湖を描いた絵が目に浮かんで来て、紅葉や青空の、整ってこれ以上ない美しさも見事だと思います。もう少し歳月が経つと、もしかしたら雪の積もっている冬の湖の景色をとても美しいと感じるようになるのかも知れません。
湖の四季が描かれた4枚の絵それぞれにどのような感想を持つかは、自分の生きて来た歳月や遭遇して来た出来事、今の心の状態などと、密接な関係があった事に気付き、少し驚いています。もう1度それぞれの絵を見る事が出来ないのが残念ですが、自分の感覚や感情と対話したようで高原の空気を吸って来たような清々しい気分になりました。

10月9日、運動会

秋は運動会シーズンです。私は走るのが遅かったのですが、運動会というと万国旗を思い出します。万国旗が飾られた校庭は好きでした。
ブラジルの国旗が好きだったのですが、日本や他の国の国旗が嫌いだったわけではなく、ブラジルの国旗がとても立体的に感じられたからなのです。地球は円ではなく球だという事が、あの旗を見ると納得出来、水平線の向こうへの好奇心が湧いて来ました。
ですから、お子様ランチの旗がブラジルの旗だったらお子様ランチを好きになっていたかも知れません。お子様ランチが何となく甘口に感じられ、小学生の頃の私は酸味で味の幅が広がったように感じる酢豚の方が好きでした。好みと性格とは関係があって、随分早くから無意識に育っているものなのですね。

10月7日、日月潭

台北の南にある日月潭は、アッサム紅茶の栽培されている美しい場所です。早朝の湖とその後ろの山々は墨絵のように見えます。この湖の水を使って水力発電が行われています。
62歳で台湾にやって来た蒋介石がとても愛した所なのだそうです。この地で総統をつとめた蒋介石は日月潭をたびたび訪れて何を思ったのでしょうか。蒋介石の別荘は、今はコーヒーショップになっていますから、彼の歩いた警備の厳しかった散歩道を今誰でも歩き、その美しい景色を眺める事が出来ます。蒋介石と夫人の為に建てられた教会では何を祈ったのでしょうね。夫妻が敬虔なクリスチャンだった事を知りませんでした。母子家庭で育ち、大切に思っていたお母さんの墓に詣でる事が出来なくなったのですから何か故郷を彷彿とさせ、お母さんに近づく事が出来る景色だったのかも知れません。
蒋介石が亡くなって30数年、湖は静かに水を湛え、変わらぬ美しさで映像を見た人間をも惹き付けます。棚田があり、少数民族サオ族の人達が住んでいるのどかな静寂が人間の故郷の原風景のように思え、寛げるけれど哲学したい、そんな気持ちになりました。

10月4日、お菓子買って

スーパーのお菓子の売り場で男の子が泣いていました。買って欲しいお菓子の箱をつかんで離さず、お母さんに何とか買って貰おうと必死です。他のお客さんが様子を見ながら通っていると、お母さんはスタスタ出口の方へ歩いて行きましたが、後ろを振り返り、早く来るようにと強く言いました。子供は泣きながらお母さんの方へ走って行きました。
昔もよくそんな事がありました。あの子は泣いているうちにお菓子が欲しいからだけではない感情が湧いて来て、何故泣いているのか分からなくなっていたのかも知れません。
子供の頃の私はそれほど何かを買って欲しかった事がなく、またそう色々な物が手の届く所にない時代でもありました。でも何となく懐かしい光景で、あんな形で自己主張が出来る小さい子供に戻って、お菓子買って、玩具買って、と1度言ってみたいような気持になりました。
人間は家族や親しい人に対してだからこそ、分かって貰いたかったり、依存をしたりするのですから、思うようにいかないと悲しいとか悔しいとか思うのですね。そのようにして自分の思っている事の伝え方を学び、相手の気持ちを推し量ってうまくコミュニケーションをしようとします。何度も失敗し、試行錯誤して生きて行きます。次の世代もまたその次の世代も同じように。
そう思うと人間は何時までも同じ事を繰り返して愚かだという方もあるかも知れませんが、私はとても懐かしく、親しみ深く、愛おしいように思えます。これが、人と手を携えて生きて行きたいと思う理由の1つなのかも知れません。

10月1日、創造は右脳で

創造するという事をクリエイトと言いますね。物を作る事ですがこの時、想像して、つまり閃いたり思い描いたりして物を作っているという事なので、よく直観が働き、それをもとにして物を作っている事と言えるかも知れません。創造と想像はまるでセットになっているかのようですね。物を作っている時は右脳が働き、右脳の活性化につながります。
ストレスがある、思っている事をうまく言葉にできない、と言う時に絵を描いたり何か作品を作ったりすると、気持ちがすっきりする時もあります。日常生活では、思考が中心になって働いたり学んだりする事が多いからなのだと思います。
時間のない方は好きなカップでお茶を1杯ゆっくり飲んで窓の外の景色をながめる事でほっと一息つけるなどと言う事もありますね。こんな小さな事がストレスの軽減に役立っている一例です。今日１日頑張った自分を労わる事につながったり、頑張れなかった自分を責めないで少し心を休ませてあげてから、うまく行かなかった理由を考え、明日からどのようにして行くか考える時に１杯のお茶は実はセルフカウンセリングになっているのです。
例えば今日はとても暑いのでいつものお惣菜の材料や味付けをちょっと変えてみようと考えて食事の支度をするのと、あまり作りたくないけれど食べないわけには行かないので作る、と言うのでは同じ時間で作ったとしても、随分違うと思います。楽しんで、とか家族に喜んでもらいたいという気持ちで作る場合よりも作らなければならないから作るという時の方が疲れるかもしれません。
ずっと暑かったので、私も楽しまずに作っていた事が多いように思います。火を長時間使いさえしなければ良い、などといつの間にか考えていました。秋になったのですし、このスイッチを徐々に元に戻しました。暑いから怠けていただけでしょう、と叱られそうですね。

9月28日、レースのカーテン越しの百日紅

私が人の死を初めて意識したのは、小学校1年生の時でした。同級生の家のお年寄りが病気で亡くなり、近所の人達がお葬式の準備をしている時に、人は死んでしまうとお墓の中に入りもう決して今までの姿で戻って来る事はない、と感じたのです。死は、とても怖ろしいもので、コンクリートの壁や鉄の扉によって隔絶されてしまう、暗くマイナスな事だから触れたくない話題として、何となくタブーのように心の中で決めてしまったのだと思います。
勿論今でも人が亡くなる事が良い事だとは思えませんし、何か原因があって気持ちが落ち込み、命を絶つ人が増えている事に胸が痛みます。ただ、年齢によって死というものの受け止め方が変化してきたように思います。
20代の頃、事故などで自分と特別親しくしてはいなかった、年齢の近い方が亡くなった時には、お気の毒だと思っても、自分も明日無事でいられるかどうか分からない、と切実に感じて不安になるなどと言う事はありませんでした。ところが50歳近くなってからは同年代の方が亡くなると、自分も今は元気にしていても先の事は分からないのだから、来年の今頃はどうなっているのだろうなどと、ふっと考えるようになって来ました。気が付いてみると何時の間にか半世紀生きて来て、残りの歳月がかなり少なくなっている、それは、そうたいした事をして来たわけでもないのに、あっという間に歳月が過ぎてしまったように思え、竜宮城に居たのは束の間だったと思って玉手箱を開けた浦島太郎と似た気持ちなのかも知れません。
長い歳月には、何人もの恩師や友人知人が、旅立って逝きました。その都度寂しい事だと感じたり、信じられないと思ったり、それは色々でした。ただ、私の周りには、40代から60代位で亡くなった方が多いのです。この方達は皆さんとても仕事熱心で明るく真面目、自分の事より人の事、あるいは仕事を優先するような方達でした。ですから、とても惜しまれて旅立たれました。そのような方々だからこそ長生きして頂きたかったと思うのですが。どなたの笑顔も、ローズピンクと言いますか、ライラック色の百日紅のようだった事が思い出されます。真夏に元気に咲いてはいても、この色は次に秋が来る事を感じさせる色のように私には思えるのです。必要な時に良いタイミングで必要なだけ使うと料理の味をいっそう良くするスパイス、人間関係がうまく行く為の人と人を結んで理解出来るようにしてくれる心の通訳のようだった方もいらっしゃいました。
こういう方々は、年齢を重ねて来た私にとって、鉄の扉の向こう側に行ってしまったというよりも、今レースのカーテン越しにその後ろ姿が見え隠れする場所にいる人、と言うように感じられるようになりました。
すると、死は隔絶された世界、冷たく暗い、というおそれや不安が少しずつ軽減されて来たように思えて来ました。早く旅立ちたいとは思いませんが、いつか旅立つ時が来たら、親や親しかった懐かしい友人達が、どんな私であっても笑顔で迎えてくれるのではないだろうかと感じるようになって来たのです。人は長く生きるにつれて、このようにして死に対する気持ちが変わって行くものなのでしょうか。不思議ですが、自然なメカニズムのようにも思います。
いずれにしても、一瞬の積み重ねを大切にして、毎日一生懸命生きて行きたいものだと思います。どう旅立つかはどう生きたかの延長線上にあるという事も、ある程度言えるものなのかも知れませんね。

9月24日、重い真実

生きたくて生きようと思っても生きられなかったり、命を断とうと思っても命が助かって生きる事もある、戦争は人間を素のままの飾らない獣か鬼にする、皆そういう部分を持っているのだ、そういうぎりぎりの場所が戦場なのだ、どの言葉も太平洋戦争から生還し、戦後の混乱期を一生懸命生きて来て90歳前後になった男性達の重く貴重な言葉です。
そして誰もが、自分が無事に生還しこの年齢まで生きている事を思うと亡くなった人達に申し訳ない、そう話していました。心のケアをされる事などなく、その傷は生涯残るでしょう。戦争の傷の深さと大きさは、計り知れません。しかもその人1人だけでは済まないのです。
口を開き語ってくれた厳しい戦場の真実に、価値観の異なる人とのコミュニケーションは難しいけれど、戦争を繰り返してはいけないと改めて思いました。
昨年の震災の被災地には思想や宗教の異なる多くの国々の救助隊が入ってくれました。それは、余震が起きて大きな津波が来れば、自分の命が危険な事を知りながらだったのだという事を、今改めて思い返しています。

9月20日、邯鄲

カンタンという秋の虫がいるそうです。どんな声で鳴くのか知らないので興味があります。
小学生の時読んだ本を思い出しました。中国の邯鄲という所の宿に泊まった青年が、宿の主人から借りた不思議な枕をして眠っている間に、自分が立身出世をし、国を治める立場にまでなり、栄耀栄華を極めるという夢を見て、宿の主人に起こされるとそれは粟粥が煮える短い時間に見た夢だった事を知り、野心を持っていたけれど栄枯盛衰が空しく感じられたというような話だったと思います。
粟粥の煮える間の短い時間に自分の望むこれからの人生を夢で見た邯鄲は憑き物が落ちたような気持ちになったのかも知れませんね。

9月18日、秋

今年も段々秋らしくなって来ました。日が短くなり、朝晩は少し涼しくなって来たように感じます。鈴虫やコオロギの合唱や空の雲、それから糠漬けのキュウリが漬かるのも少し遅くなって来ました。思わぬ所で季節を感じる事があるのですね。秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる、という短歌を思い出しました。秋口はまだまだ暑いので、小さい秋は聴覚から、という所が他の季節と違うのかも知れません。私は熱中症の影響で暑さにまだ過敏になっています。感覚は自分が生きて行く為にとても重要な役割を果たしている事を実感し、もう少し頑張ろうと考えてそこからのサインを無視しがちな傾向を少しずつ変えて行きたいと思っています

9月15日、シベリアの川

ロシアシベリアのヤクーツクを流れるレナ川は、全長4400キロメートルの大河です。冬の間川は1.5メートルもの厚さに凍り、道路にもなるそうです。暖かくなると、氷が溶け、川の水が溢れて洪水になる事もあります。自然の力の大きさに驚くのが、この氷が溶ける大解氷です。
洪水の心配はあるけれど、年間降水量の少ない牧草地で暮らす人達にとっては牧草を育てる恵みの水なのです。川の幅が細くなっている辺りで被害が出やすいようです。この大解氷が短い夏を運んで来るわけですから、貴重です。水は恵みを与えてくれ、命の源ですが、水を治める者は国を治めると昔から言われて来たようにそれは大変な事なのですね。人間の思うようになかなか動いてくれないのが自然という物なのだと感じさせられる映像です。
大解氷の音は、硬い、ガラスがぶつかるような音で、大きく、ゆっくりと白く厚い氷が川の中から岸へ押し上げられます。川が生き物だと感じる瞬間でした。数メートルの高さまで氷の塊は積み上がっていました。押し出されなかった氷は上流から下流へと運ばれるようにして流れて行きます。モノクロの世界から水が流れ、花の咲く束の間の夏がやって来て大地も動植物も潤います。止まっていた何もかもが、魔法が解けたように動きだすのが、不思議に感じられます。
冬の終わりの川の水の旅を見ていると、地球は小さな星かも知れないけれどその中の世界は広く、深い奥行きを持ち、今この瞬間を生きているその鼓動がこの大解氷のような気がして来ました。暑く、晴れた日の日本で見る、季節の変わる瞬間のシベリアへの旅の余韻は、暫く心に残りそうです。

9月12日、蝉と電車

この夏、毎日蝉時雨を聞いていて去年の夏の事を思い出しました。総武線の下りの各駅停車の電車に乗った時の事なのですが、途中で蝉が車内に入ってしまい、空いていたせいか、蝉に気付いた人達が一斉に飛んでいる蝉の方に目をやりました。私もその1人でした。まさか都内でこんな事が起きるとは思ってもいませんでした。
蝉は次ぎの駅で降りる人が、自然にうまく外に出したので無事にひと駅の旅を終えて飛んで行きました。暑い日の日中乗り合わせた人達が、私には車内に入ってしまった蝉を気遣い、早く外に出してやりたいと思っているように感じられましたし、蝉が無事に外に出て飛んで行った事に、皆がほっとしているように見えました。少年だった頃、夏休みに蝉を取った事を思い出した男性もいらした事でしょう。
何か車内の空気が和み、風がさっと吹き抜けて涼しくなったように感じたひと時でした。殺伐としている都会というイメージとは随分違う束の間の出来事に、人間もまだまだ良い所がこうしてあるのだ、と嬉しくなりました。
ほのぼのとした気持ちになり、そして、不可欠だけれど自然で目立たない、タイミング良く必要な分量を入れる事が大切なスパイスのように、他者との円滑なコミュニケーションが出来たらどんなに良いだろうと思いました。

9月8日、熱中症

毎日夕方4時頃になると南向きの部屋の中が暑くなり、夜までそういう状態が続きます。9月だというのに困りますね。
実は先日軽い熱中症の状態になり、病院で点滴を受けました。前日の夕方とその朝に草取りをし、暑いので睡眠不足気味でしたがいつもよりかなり遅い時間にウォーキングに出かけ、帰り道、突然眩暈と動悸がして近くの病院に行きました。ペットボトルで2リットルも水分を補給したのにトイレに行きたくならなかったのですから脱水状態になっていたのでしょう。珍しく携帯電話を持たずに出て小銭しか持っていませんでしたが、初めての病院でとても親切にして頂き、落ち着きました。涼しくなるまで気をつけようとしみじみ思いました。
このところ湿度がいくらか下がって来たように感じ、日も短くなって来たので、つい暑さに慣れて甘く考えてしまっていたようです。無事だった事に感謝し、反省しています。その夜は秋の虫がいつもより静かなように感じました。

9月4日、カザフの人々

中国新疆ウイグル自治区にある、アルタイ山脈を望むカナス湖は神秘的な湖です。どこからともなく霧が湧くと墨絵のようで、晴れているとまわりの針葉樹を湖面に映した、グレーが混ざった青のグラデーションの美しい、油絵のような湖なのです。
アルタイ山脈の奥深く入って行くと、遊牧民族カザフ族の人達が住んでいます。民族衣装を着て楽器を奏で、おおらかに歌う人々の笑顔がちょっと遠慮がちなのは、撮影されている為ばかりではなさそうです。明るい笑顔を見ていると、ずっと昔からこのように暮らして来て、これからもこのように生きて行くのだろうと感じ、現在から未来への接点を見つけたような、過去からの時代のつながりが確かにある事を感じます。
広々とした所に可動式住居ゲルが並び、青空がやがて幾筋もの雲を茜色に染める夕焼けに変わりました。その澄んだ美しさが明日からの山羊と共に住居を移動する生活の大変さを感じさせますが、それを当たり前の事として、この地でこのように生きて来た人達なのでしょう。
はるかに見えるシルクロードは、さわやかな味と香りの胡椒がやって来た道ですね。この道の途中にモンゴルとの国境があり、ずっと昔にはなかった鉄条網がそこには作られています。これからの私達人間がどのように暮らして行くのかを鉄条網がじっと見ているような気がしました。

9月1日、時々休む

とても暑いので、毎朝2時間程のウォーキング以外あまり運動をしていません。先日、家の中で物に躓いて転んだ時に左膝の上を打ち、痣が出来てしまいました。大したことはなかったのですが少々痛いので、翌朝はウォーキングを休みました。
おかげで花や野菜の水やりがいつもよりゆっくり出来ました。暑くならないうちにテキパキ動くのも良いですが、たまにはゆとりを持った時間の使い方というのも良いですね。ナスが取れたので、早朝、皮をむいたナスをレンジで温め、生姜醤油で食べてみました。その日も暑かったのに、何だか1日中とても楽でした。私は、ポリエステルのズボンやTシャツを着て歩く事が多いのですが、綿の方が涼しいので、これからはなるべく綿にしようと思います。
1日休んだ為に気付けたのは、少し外側から、いつもと比べる事が出来たからなのですね。時々、こんな風にいつもと違う事をして見ると、もっと色々な気付きを得られるかも、と思いました。例えば、道を歩く時に、いつもとは反対側を歩いてみると、見える景色がほんの少し違うので、いつもの景色が新鮮に感じられたりします。色々な場面でそんな事をして見るのも良いかも知れません。
物の捉え方が柔軟になると楽になります。生きづらさの軽減のヒントは思わぬ所にあるものですね。

8月30日、古墳

富津市内には、いくつかの古墳があるので行ってみたいと思っています。
ロンドンオリンピックが開催されていたからなのでしょうが、この夏はイギリスの色々な場所を案内する番組が多かったような気がします。その番組の中の1つで古墳が紹介されていました。アイルランドニューグレンジの巨大古墳には冬至の日にだけ日が差し込むルーフボックスという窓のような物があります。自然崇拝をして来たケルトの人々はこの日太陽の光が石室を照らすようにこの古墳を作ったのですね。輪廻転生の考え方があったのだそうです。
人間は洋の東西を問わず共通点がある事を感じました。空と緑が美しく、歴史を感じさせるその場所に立って遠くまで眺めてみたくなりました。

8月28日、バラの国

友人とバラを見に行きました。行く途中、森の道の蝉時雨やヒグラシの声に、秋が入り混じって来た事を感じました。虫の音は、空気が綺麗だと余計に澄んで聞こえるようです。
山の中に忽然と現れたような庭で、真夏の太陽が照りつける中、白、クリーム色、濃いピンク、淡いオレンジなどのバラが可憐な花をつけ、ローズヒップや池の睡蓮なども見る事が出来ました。その場所は、まるでイギリスの小さなお城の庭にいるのでは、と感じるような所でした。そう遠くはないけれど知らなかったので、今まで1度も行った事がなかったのです。
非日常の世界でのんびりとお茶を頂いたのですが、友人を訪ねる途中には真っ青な海を見る事も出来、海から奥の細道を通ってイギリスへ、1日で行って来たような素晴らしい旅でした。勿論危険な事はしませんけれど、好奇心を持って未知への扉を開く楽しさは、幾つになっても感じるものなのですね。友人に色々と教えられて、生きる事は学ぶ事なのだと実感しています。

8月25日、お弁当

暑い季節のお弁当作りは大変ですね。おかずを作り、冷ましてから入れ、蓋をするので時間がかかります。バランスも考えますし、毎日同じ物というわけには行きません。
私が幼稚園の時のお弁当と高校生になってのお弁当には10年という歳月の開きがありますが、お弁当の中身は随分変わりました。卵焼き、赤いウインナーソーセージ、魚肉ソーセージのどれかが主菜と言う位で、後は佃煮とか紅ショウガ、梅干しなどを入れて来る子が多かった昭和39年頃のお弁当と、10年後のバランスや彩りの良い、何種類かのおかずの入ったお弁当がごく普通になったというその差は大きいですね。食生活がそれだけ変化したという事なのでしょう。
お弁当やおにぎり、ペットボトルのお茶が売られていたり、コンビニで温めて貰えるお弁当が珍しいと感じる人はいない時代が来る事など誰も想像もしていなかったと思います。良いとか悪いとか評価する事は出来ませんし、必要に応じて生活に取り入れられているのだと思いますが、変わったという事をしみじみ感じます。作るのは大変でも、子供にとって開けるのが楽しみなのが、親が作ってくれたお弁当、という事は今も変わらないかも知れませんね。

8月21日、雷雨

18日の朝7時頃ウォーキングに出かけました。積乱雲が気になりましたが、天気予報を聞き10時頃までは大丈夫だろうと考えていました。ところが、丁度折り返し地点を過ぎた辺りで雨が降り始め、あっという間に土砂降りになってしまいました。そのうち雷もなり出し、1時間ずぶ濡れになって歩く羽目になりました。
川に、側溝から水がものすごい勢いで流れ込み、前が見えなくなる程の雨が続いて、普段は緑の多いのどかな風景が一変しました。川筋は危ないと思い、別の道を歩いてようやく家に帰り着きましたが、道が１本違うだけで、冠水しそうな所とそうでない所がある事に気付きました。
帰り着くと、光ると同時に雷が鳴り出し、しばらくそういう状態が続きました。無事に帰って来る事が出来てほっとしています。気温も下がって随分涼しくなりました。蚊帳の中に入っていたいような１日でした。
房総半島の方向が真っ暗で積乱雲が幾つも見える、と朝ラジオで聞いていたのに、事実に基づいて判断せず、現実を甘く考えていたのですね。気を付けようと思います。

8月20日、美味しい水

先日友人が訪ねて来てくれたのですが、その時とても美味しい水を頂きました。スーパーやコンビニなどでペットボトル入りの癖のない水が売られていますが、湧水の美味しさは心も豊かにしてくれるようでした。
家でも、以前は水道の水より横井戸の水を飲んでいました。夏は冷たく冬は温かく感じる美味しい水でした。箱火鉢に炭火を熾し、鉄瓶で横井戸の水を沸かしたお湯で入れたお茶の味は格別です。でも今ではそれは贅沢な事で、残念ながら出来ません。鉄瓶を綺麗に磨いたり、炭を切ったり換気をしながら火を熾したり、いつも火鉢の中や外側を綺麗にしておくのは、手間のかかる事です。手間がかかるからと言ってお金がかからないわけではありません。手間がかかるという事は時間がかかるという事なのですから、主婦も家の外に出て働いている方の多い今では、手間を省く事も大切ですね。
それに、消えて行ったものを懐かしく感じるのは、変化の速い時代を生きているからでもあり、私がそれだけ年を取ったからでもあるのでしょう。きっと、昔の人もこんな風に自分が子供だった時代や若かった頃を懐かしんでいたのでしょうね。古い、と決めないでお年寄りの気持ちに寄り添って色々と教えて貰おうという姿勢、大切だと思います。でも、高齢の方の気持ちを感じ取り共感するのは、自分がいずれ老いて行くという事を実感出来ないで頭だけで考えていては難しいように思います。
祖母はよく勿体ない、と言いました。暖かい日など縁側で繕い物をしていた姿が目に浮かびます。豆絞りの手ぬぐいを何本も使って寝間着を作っていた事もあります。母も、布団側を縫い、打ち直しをして貰った綿を入れて布団を作ったり、セーターを編んだりしていて、それが私には見慣れた日常でした。
物静かで手早く家事をしていた母も、お盆にはうちに居て先祖と一緒に送り火で帰って行ったのでしょう。命の源の、美味しい水を頂いた事が、色々思い出したり考えたりするきっかけになりました。

8月16日、旅する大地

ヒマラヤ山脈は約7000万年前に、南半球から長い時間をかけてやって来たインド・オーストラリアプレートがユーラシアプレートに衝突してできた褶曲山脈ですね。エベレスト山頂から景色を眺めると、神々しい真っ青な空と雪を頂いた山々、高原が見えます。カメラで捉えたこの映像の美しさとプレートのはるか彼方からの旅、という長くスケールの大きい、地球の1つの出来事に思いを馳せると好奇心は尽きません。
猛暑に冷房は不可欠ですが、向きや強さを調節しても、エアコンの風は固く、自然の風の方が柔らかで心地よい、などと思う私には、一瞬暑さを忘れるように爽やかで、涼しそうな景色でした。

8月12日、海

お子さん達は夏休みですし、あちこちで夏祭りなどが行われています。海に出かけるのも楽しいですね。子供の頃、海の家でおでんを売っているのを不思議に思いましたが、磯の香りのする所でのおでんはなかなかおいしい物でした。

戦後間もなくサハリンから北海道へ引き上げて来る人達を乗せた船が、おそらく、当時のソ連の潜水艦らしき物に攻撃され、女性や子供、老人等多数の方が亡くなった、と言う事があるそうです。北海道新聞社の、慟哭の海、と言う本で読みました。
国が混乱している中では、すぐに捜索が行われる事もなく、水底に眠っている方も多いでしょう。戦争で亡くなり、遠くの海に眠っている方も大勢いらっしゃる事と思います。震災の行方不明者はいまだに二千数百人、セシウムを含んだ水も海に流れ込み、何処までもつながっているこの地球の海は、随分混沌としているような気がします。
忘れない事、伝える事、人ごとだと思わない事、人災は繰り返さない事、が様々な思いを残して亡くなった方々の魂を慰める事につながるのだと思います。今年もお盆や終戦の日が近づいて来ました。つかの間の輝きの美しい花火を、鎮魂の思いを持って眺めたいと思います。

8月11日、お墓掃除

お盆は短いけれど忙しいのでいっそう暑さを感じます。ところが、8日と9日は気温が少し下がり、風もあって随分楽でした。毎年、お墓掃除をすると清々しい気持ちになれます。
沢山のお墓を掃除しながら、1人１人がどんな人でどういう人生を送ったのだろうと思うと掃除をしている手が止まり、墓石に刻まれた先祖の里の親の名など見つめてしまいます。多分私の事を出来の悪い子孫だと思っているのでしょうね。
電車が走ったり家が増えたりしている様子をもし見ているとしたら、その変貌をどんな思いでながめて来たのだろうなどと考えるのも、扉を開けて振り返り、顔も知らない先祖とゆっくり向き合うようで、楽しいひと時です。今年のお盆は先祖のどのような思いを感じ取る事が出来るでしょうか。震災、原発事故のその後などあまり喜びそうな事は伝えてあげられないのが残念ですが、お盆にはキュウリの馬で早く来て、ナスの牛でゆっくり帰って貰いたいと思っています。

8月10日、アイルランド

豪華客船タイタニック号は、大きな造船所のあったアイルランドの町ベルファストで作られたのだそうです。この船がアメリカへ向かう途中氷山に衝突し、1500人もの人が犠牲となった事はよく知られています。
アイルランドは主食がじゃがいもで、当時は豊かではなく、アメリカへ渡ろうとしてこの船に乗り、亡くなった多くのアイルランド人は三等船室の乗客でした。希望を託したアメリカへ渡る事も出来ず、故郷の地へ帰る事も出来なかった人達はさぞ無念だったでしょう。
沈没から100年目の今年、ベルファストの町の大聖堂で亡くなった人達に、当時タイタニック号の中で歌われていた曲が演奏され、集まった人達がその歌を歌い、霊を慰めていました。この町の夜の明かりはオレンジ色で綺麗でしたが、まるで明かりの方が、かつての町の繁栄を懐かしみ、人恋しそうに人間を見つめているように感じられて情緒のある映像でした。対岸の町リバプールはビートルズであまりにも有名ですね。

8月8日、戸惑う自然

お天気や気温の変化が大きい年ですね。今年の夏祭りの日はどんより曇っていて随分涼しかったのですが、そういえば何年か前も土砂降りで涼しかった、という事がありました。こんな風ですと、何か毎日否応なくロシアンルーレットをしているようで気味悪さを感じます。大雨、大風、地震、どれも人間の力では何ともし難い事ばかりです。
いつも思うのは、人間や動物ばかりでなく、山や川、海などの自然が、地球温暖化による気候の異変に戸惑っているのでは、という事です。私に出来る事は、毎日の生活の中で二酸化炭素の排出量を減らす事だと思い、小さな事かも知れませんが努力しています。持病のある方やご高齢の方は日によって気温の変化が大きいですから、風邪や熱中症にお気を付け下さい。
こういう状態を案じながら不安も感じてのオリンピックは、私にとって初めてです。それでも、オリンピックは、毎日私に感動を与えてくれます。

8月6日、真夏の月

小学校1年生の夏、大叔母に連れられて祖父の従妹の家に行きました。祖父の従妹夫婦はとても優しく、楽しい1日でした。大きな木があって涼しい家の、奥の部屋には仏壇があり、白い軍服を着た若い男性の写真が飾ってありました。それを見た時、私は何だかはっとしました。家にも仏壇はありますから別に仏壇が珍しかったわけではないのですが、触れてはいけない場所、と感じたのです。サイパン島で戦死した長男の冥福を祈りながら戦後を生きて来た親の切ない思いが、仏壇と遺影を聖域のように私にも感じさせ伝わって来たのだと思います。
もう一人、祖父の従妹なのですが、沖縄で戦死しました。君津のこの辺りでは、大麦を栽培していたのですが、麦秋の風景が好きで、花を育てる事の好きな人だったそうです。
先日、東の空に大きいまん丸の月が出ているのを見た時、沖縄やサイパン島で、当時この人達もきっと同じ月を見ていたのだろう、その時どんな気持ちだったのかはわからないけれど、故郷や家族の事を思っていたに違いない、そう思いました。ただ普通に平凡な幸せを大切にして、生きたかっただけなのでしょうに。今の私の半分にも満たない年齢で2人共亡くなり、墓所に遺骨はありません。
8月は終戦の月だからなのかお盆の月だからなのか、何か戦争という事について考えさせられます。こういう事をお話しする事で、せめて亡くなった人達の霊が少しでも慰められれば、と思います。

8月3日、ミンミン蝉の鳴く頃

24日にこの夏初めてミンミン蝉の声を聞きました。ヒグラシの声や鰯雲に、これから8月になるというのに、もうその後ろに秋が見え隠れしていると感じ、四季に沿っての暮らしもなかなか良いものだと思いました。小糸川の南側の田んぼも稲穂が目立ち始めましたから、黄金色に実るのももう間もなくでしょう。
私が小学生の頃は、茅葺屋根で昔の厚い壁の家に住んでいたせいもあるのでしょうが、夏の最高気温は30度位の日が多かったものです。毎朝ラジオ体操に行き、東側の風通しの良い場所で、丸い卓袱台を出して夏休みの宿題をしていると、ミンミン蝉が大きな柘植の木の辺りで如何にも暑そうに鳴いていました。

月遅れのお盆には精霊棚にご先祖様が来ているのだから家にいなさい、などとよく言われました。先祖があるから今の自分がここにこうして存在している事を忘れずに先祖を大切にし敬うように、という事だったのでしょう。昔の生活すべてが今より良かったなどとは思いませんが、祖父母ともいつも一緒だった暮らしから、丸い卓袱台のような温かみと奥行のある心や、家族の心の多様な受け皿としての家庭というものを知らず知らず教えられ、与えられて来たように思います。

7月31日、映像の20世紀を見ました

映像の20世紀と言う番組の再放送を見ました。私が見たのは、世界のあちこちで様々な理由で紛争が起きた世紀でもあった、と言う部分でした。紛争の原因は場所によって異なりますが、痩せて泣いている子供、疲れ切っている老人、焦点が定まらないような目をした若者達、の長い列がどこまでも続き、突然追われる様にして生き延びられる場所を求め、果てしなく長い道を歩いて行く姿が、どんな紛争から逃れて行く難民となった人達にも共通でした。無事に逃れる事が出来なかった人も多いでしょう。
ある紛争から逃れて来た人達が歩いている道の脇の土手が、内戦状態だからなのだと思いますが、黒い炎をあげて真っ赤に燃えていました。私は、人間と言うものの、深くて大きな心の闇そのものを見たような気がしました。
21世紀はそうあって欲しくないと心から思い、では何をしたら良いかと考えると、これはとても難しいです。ただ、隣人とは仲良くしたい、相手の気持ちを考えて付き合う、と言う事がどんな時にも基本ではないかと感じました。

7月28日、夏休みと読書

このところ、オレンジ色の花模様のアームカバーをして朝夕草取りをしていました。草を取っていると、中学生の時に読んだ本の事を思い出しました。紀州の医師で麻酔薬を作った事で知られる華岡青洲の家の庭にある薬草畑で、青洲の妻が草取りをしているという場面です。
そこには曼陀羅華が植えてあり、強い毒性のある物なので触ったら必ず手を洗う必要がある事などを、青洲がまだ京都に遊学中に姑に望まれて嫁いで来た彼女に、姑が教える、という初めの方の場面なのです。この小説の中の姑は、確か水色の手甲を付けて草取りをしていたと思います。
ひどく草が伸びた我が家の庭とは随分違うのでしょうが、登場人物の様々な場面での会話や、読み応えのある心理描写などを思い出し、今その本の中にいるように感じられて来ました。暑い中での草取りが不思議とスムーズに進み、おかげでその日は助かりました。

この本は私が初めて読んだ文庫本で、それから小説やノンフィクションなどを読んで行くきっかけになった物なので印象に残っているのかも知れません。夏休みには読書感想文を書く、という宿題が今も多いようです。本を読む事は新しい世界の扉を開くような楽しみがあると、私は今でも思っています。漢字が難しくて読書は面倒だと思う事があるかも知れませんが、40年も経った今、こうして読んだ本の世界に自在に入って行けるのも楽しい事でしたよ。お子さんが、自分の視野を広げてくれ、心の糧となってくれる本と、この夏出会えると良いですね。そういう本はその人にとって一生の友達でしょう。
夏休みには勉強や読書だけでなく、おじいちゃまおばあちゃまと一緒に過ごしたり、ご両親と出かけたり、友達とプールに行ったり、普段出来ない事をするのも長い休みの良さだと思います。どのお子さんにとっても楽しく、得る物のある夏休みになると良いですね。

子供のいじめ、自殺のニュースに重い気持ちで始めた草取りでした。せめて事実に向き合い、今後どのように指導や見守りをすれば良いのか、是非真剣に考え、取り組んで欲しい、そうでないと、自ら命を絶った子を二度殺す事になる、そのような思いは勿論今も私の心の中にあります。

7月24日、汽車の記憶

ここ何年か、春の連休にSLが内房線を走るようになりました。最初は珍しくて、汽笛が聞こえて来た時に見に言ったのですが、機関車は綺麗なブルートレインを牽引していて、なんだか期待外れでした。
黒くて薄汚れていてどんな所でも走れそうな力強さを感じた、かつての汽車とは違う物でした。田畑ばかりの中を走っていた頃とは周りの景色もすっかり変り、家が建ち並んでいますし。大黒柱というイメージの父親ではなく、私が子供の頃に言われ始めたマイホームパパのように感じました。今の駄菓子が、衛生的で昔の駄菓子とは別物のように感じるのと良く似ています。
私はこういう物を通して、昔の故郷を懐かしみたかったのですね。大きく変貌して行く故郷を見続けて来た私には、君津はきっと変わり過ぎたように思えるのでしょう。変化して行く事の嬉しさや希望には悲しみや寂しさという影がより添っているのかも知れません。

7月21日、リセット出来ない事

去年の夏のある朝の事です。家からは遠い他の学区の小学生の通学路に何人かの親御さんが立って、子供達の道路の横断を見守っていました。その中の1人のおばあちゃまが、子供達が横に何列にもなって歩く事もあるのでご迷惑をおかけします。そういう時にはどうか注意をして下さい。おねがいします、とニコニコしながらおっしゃいました。さすがに子育ての先輩だと思うと同時に、お孫さんへの愛情が伝わって来てほのぼのとした気持ちになりました。こういう自分の周りの大勢の人の愛情に支えられて子供達は育ち、学校に通う年齢になったのですね。多分どのお子さんも。

ところで、私はパソコンをこわごわ触る事が多いのですが、どこかをクリックしたら今使っているファイルがおかしくなって元に戻せないのでは、と思ってしまうからなのです。ところが、パソコンは前の段階に戻せますね。リセット出来るので本当に便利です。
ですが、人の命はリセット出来ません。特に子供は発達途上なのですから人とのかかわりを通して対人関係を学んでいる最中です。いじめが原因で命を絶つという事が後を絶たない現実に胸が痛みます。いじめたという側もまだ子供ですから、今後の学校や家庭の適切なかかわりを望み、評価などは控えたいと思います。ただ、多くの生徒や父兄が今傷を負っているのだろうと感じています。
自分がされて嫌な事は人にしない、自他共に大切にする、と言う事はやはり基本だと思うのです。命は1つしかありません。互いに大切にしたいものだと思います。私はリセット出来る事にまだ慣れないアナログ人間ですが、仮想現実の世界ではリセット出来る事であっても、現実は違うのだという事、人間の尊厳は私も貴方も同じだという事、子供は大人社会を映す鏡だという事を、お互いに忘れないで生きて行きたいですね。

7月18日、自然の中で

九州北部で大雨が続きました。水嵩を増し、どこまでが川なのかわからないような、赤茶色い濁流が流れている川、土砂崩れが起きている山、と言うニュースの映像に不気味な怖ろしさを感じました。山や川も突然降り続いた大雨に、どうして良いかわからないのではないかと思うような映像でした。ここ君津でも、今年は大きな植木鉢が引っくり返るような風がとても多いと感じています。何時どこで起きてもおかしくない大風や大雨を考えると台風シーズンへの不安は拭えません。
たまたま最近のチェルノブイリの様子を伝える外国のテレビ局が制作した番組を見ました。人が避難し、誰も居なくなって久しい家々の窓ガラスは割れ、猫の親子が住みついていました。そこへクマやオオカミがやって来ます。食べ物を探していたクマは、人間が残して行ったジャムの瓶を見つけ、猫に気付かずに外へ瓶を持って行きました。猫の親子は新しい棲み処を求めて森を抜け、やがて遠く離れた人家を見つけ、人間と暮らすようになりました。猫が住んでいた家はオオカミの棲み処となったようです。
今この辺りは、野生動物の宝庫、と言った場所となっています。鳥や獣たちにとっては、森や小川も近くにあり、人間がいないので住むのに良いのかも知れませんね。ですが人間が遠い先まで帰って来て住む事の出来ない場所だという事は、目に見えない放射性物質の危険が依然として大きいからです。
最後に、人間に飼われるようになった猫ののんびりした映像とメルヘンの世界のような音楽が奇妙に思え、耳に残りました。背筋も凍るような光景と私の目には映り、何かあの川の濁流と重なって来て、焦燥感の様な物を強く感じました。

7月17日、道に迷った時

子供の時迷子になった事があるという方、いらっしゃると思います。人ごみで迷子にならないように、一生懸命大人の手を離すまいといつもより急いで歩いた事は、かなり古い四歳頃の記憶です。雑踏の中を人にぶつからないように気を付けて歩きました。
私が小学生だったある日、電車に乗るために母と君津駅に向かって歩いていました。ところが、途中でいつもの道がなくなっていたのです。見渡す限り田んぼだったその辺りの区画整理をしていたからでした。その日は工事が休みで何処にも人はいませんでした。私は母に、怖い、と言いました。すると母は笑いながら、今歩いて来た道を戻れば良いでしょ、と言い、二人で引き返して他の道を行きました。たったそれだけの事でしたけれど、よく覚えています。
もしかしたらあの時、途方にくれた時には元に戻ってみる事と冷静になる事が大切だという事を教えて貰ったのかも知れません。何時どんな事で困った時にも役立ちますね。縺れた糸をほぐして行く時の第一歩を学んだなどとはその時には少しも気づきませんでした。怖かったという感覚と、自分の来た道を戻れば良いという簡単な事だとわかってほっとしたという安堵感を覚えていただけなのですが、四十数年経ってやっと線がつながってまあるい輪になったような気がします。きっと無駄な事は何一つないのでしょうね、自分がそう思えば。大人になると、立ち止まったり退いたりする事は勇気のいる事、という場合も多いですね。

7月15日、紫蘇ジュース

赤紫蘇が出回る季節になりましたので、今年も紫蘇ジュースを作りました。塩もみ洗いした赤紫蘇と水を鍋に入れて煮出し、そこに酢と砂糖などを好みの量入れれば良いので簡単です。我が家では全体量の3パーセント位の酢を入れ、砂糖は入れません。氷や水で割って飲むと夏バテ予防になる、と聞いてから毎年作っています。赤紫蘇は、塩もみ洗いすると水が濁った色になります。このあくを出す事が大切なのは、梅干しに赤紫蘇を入れる時と同じですね。鍋が煮立って来ると、紫蘇の色がお湯の中に出てお湯が紫色になり、紫蘇の葉は緑色になります。
紫蘇の葉を取り出した所ヘ酢を入れると、鍋の中がさっと鮮やかな赤紫に変わります。綺麗で純粋な色です。でも、人間は純粋なだけでは対人関係がなかなかうまく行かない場合もありますね。相手によって、あるいは相手の状況によって対応の仕方を変える事がスムーズに出来る事を、対人感受性が高いと言います。子供は徐々にそれを学んでいる最中なのでしょう。自分の価値観を持つ事は大切ですが、だからと言ってそれがすべての人の絶対的な尺度になるというわけではありませんから、自分にも相手の人にも優しいかかわりを心掛けたい、といつも思います。
暑くなって来ましたので、夏バテや熱中症にお気を付け下さい。

7月13日、平和の日

ロシアの首相が北方領土を訪問したというニュースを聞きました。以前、小樽に行った時の事なのですが、標語と言ったら良いのでしょうか、こういう言葉が書いてありました。北方領土の還る日、平和の日、と言う言葉です。それを読んでここは北方領土にとても近い、北海道なのだと実感しました。私はいつも北方領土の事を考えていたわけではありませんでしたが、北海道には戦争が終わるまでそこに住んでいた人達が大勢いらっしゃるのですね。ですから、その標語の重さにはっとしました。今北方領土にはロシアの人達が家を持ち、働いて生活しています。
国境線が一度も変わる事のなかった国はないのではないか、と言う事と、そのような時国境が変わる事によって翻弄され、人生が変わるのはいつも普通の人達なのだ、と言う事を痛感しました。国境線が生きていて勝手に移動するわけではないので、それぞれの国に生きる人間同士が、如何に隣人と共に生きて行こうとするかなのだ、と改めて思います。
今、私がここにいてニュースをテレビで見ているこの瞬間に、他の国でもニュースが放映されていて、トップニュースは全く日本とは違う、解説も国によってかなり違う、と言う事が繰り返されて来ているのですね。そうして時間が過ぎ、これからも共通点と相違点のある人達が一緒に暮らして行くという事は難しいけれど、だからこそ、お互いにそれをプラスに捉えて成長して行ければ、と言う気もします。

7月11日、心の故郷

韓国慶尚北道の安東は、昔儒者が多く暮らしていた儒教文化の故郷で、古くからの建物が並び、この地の歴史と伝統に誇りを持って暮らしている人達がいます。今も時間がゆっくりと流れて行くようなのどかさ、大らかさをその人達から感じます。内陸部なので運ばれて来た鯖に塩を振って作る塩鯖が特産品の1つになったのだそうです。日本にも鯖街道がありますよね。
国によって随分違う点もありますが、何処か懐かしさを感じる郊外の風景でした。もしかしたら人が心の故郷に求めるものには共通点があるのかも知れない、という気がします。

7月10日、ガンジス川

先日、ある所で七夕の短冊を書きました。何十年ぶりの事でしょうか。何と書こうか迷った末に、心豊かに暮らせますように、と書きましたが、それはなかなか難しい事ですね。
天の川ではなく、ガンジス川の事を少しお話したいと思います。モンスーンによって山からガンジス川に運ばれて来たミネラルの多い土は、モンスーンの恵みでもあります。厚さ五キロも堆積している場所があるそうです。そこでは米が作られ、水田の虫を食べるアヒルも飼われています。美しく、心に残るガンジスの夕暮れの映像でした。ただ、とても広く天候の変化の激しさが、日本とはかなり違うようです。恐れられているコブラを崇めるようにして大切にしている人達もいます。ヒンズー教の動物崇拝が垣間見えますね。
私達よりずっと色々な事を知っているようにも思えるサルの思慮深そうな顔が印象的でした。開発によって行き場を失った野生の鳥などは人間の出したゴミを餌にしています。人間は川の恵みを与えられ、最後は灰となって川に帰って行きますが、母なる川の水は開発が進んだ今、美しいけれど限りなく不透明なようにも感じました。ここはお釈迦様の国、マザーテレサのいらした国でもあるのですね。

7月7日、光と影

フェルメール展が東京都美術館で開催されていますね。オランダの画家と言うとレンブラントを思い出しますが、絵に詳しいわけではありません。ただ、レンブラントは光と影をどのように表現しているかに特徴があるようですね。フェルメールは遠近法と青の色使いに特徴があるそうです。
光と影と言うのは、人の心の中にもそうした部分がありますし、今この瞬間がその人にとって光があたっているのか影になっているのか、という感じ方、考え方もあります。日の当たる所にいつもいる人、と他者が感じる人は成功している人で光の側、物事がうまく行かない事の多い人は影の側、という見方もあります。心の中の深い部分は文字通り光があたっていませんから、普段は自分でも気づいていない部分ですね。何か事件が起きた時など、心の闇、と言われる部分も心の影の部分なのでしょう。
考えてみると、光があたっている物の反対側は何時も影になっている、というのは当たり前のようですが、何か不思議な事のようにも感じられます。私が小学校に入学した時の校長先生は油絵がお上手で、校内に風景画が飾られていました。真珠の耳飾りの少女が、優しい校長先生を懐かしく思い出させてくれたようで、私はなおさら彼女に会ってみたくなりました。

7月5日、雨の季節

日本には春夏秋冬という季節があるので四季がはっきりしていると言いますが、梅雨も1つの季節のような気がします。雨の日が多いですし、気温があまり高くない日でも湿度が高く、なんとなくすっきりしませんから。梅干しや梅酒、ラッキョウなどを漬ける方は忙しくなる季節です。このところ、塩麹が人気があるようです。雨に濡れて元気なのは田んぼの稲や蛙、紫陽花、水辺の花菖蒲などですね。日本紫陽花や西洋紫陽花、柏葉紫陽花など、色も形も楽しめます。柏葉紫陽花の葉は晩秋には真っ赤に紅葉し、とても綺麗ですよ。

でも、雨の日でも長靴を履く事が少なくなったように思います。小さいお子さんですと、お母さんが車で学校に送って行く場合も多いようです。昔と違ってほとんど舗装道路だからでしょうが、道が悪いなどという言葉を聞かなくなりました。ぬかるみを歩くのに長靴は不可欠な存在でした。洗濯機の脱水の機能で洗濯物はよく絞る事が出来、乾燥も出来る洗濯機が多くなったので、これも梅雨時には助かります。こんな中で、雨の日に傘やぬかるみを楽しむという体験も悪くないと思います。7月になりました。梅雨もあと少しです。洗濯物は増えるでしょうけれど、雨の日にはお子さんと一緒に雨を楽しめたら良いですね、綺麗な傘をさして。

7月4日、かき混ぜる

夏野菜が美味しい季節になりましたので、糠床があると便利です。家では、祖母が80年近く前に四斗樽で糠漬を始めたのだそうですが、私が子供の頃、母が夏には１日に3度良くかき混ぜて茄子やキュウリを漬けていました。私もそれを見、食べて育ったので、あって当たり前のように思っていて、その大きな樽からもう少し小さい瓶に移し、夏は茄子やキュウリ、冬は大根やカブ、葉物野菜などを漬けて食べています。家にとっては、ずっと作っては足して来たウナギのたれといった存在でしょうか。
糠味噌は毎日全体をよくかき混ぜると味やにおいが良いので、おいしく食べるためにそのようにします。猛暑の時期には糠味噌をかき混ぜようとして手を入れるとあたたかくなっていて、今の糠床の状態を教えてくれます。ですから、私は素手でないと糠床とコミュニケーションがうまく出来ないように思います。かき混ぜて全体を同じような状態にする事、水分を取ったり塩を足したりを良いタイミングでする事、がおいしく食べるために必要な事だと思います。

私は、糠味噌をかき混ぜながら自分の事をつい考えてしまいます。自分が何をどのように考えているのか、という事に目を向けて行く事や、反射的に何かをイヤだと感じた時などは、何故そう感じるのかを考えて、自分の性格が形成されて来たメカニズムへ目を向ける、つまり自分を振り返って見つめてみるきっかけになります。
自分の考えや価値観は意識している事が多いですが、その奥の深い所にある感情をよく理解しているかどうかというと無意識の部分ですからそれほど理解しているとはいえない事が多いのではないかと思います。ある事に対して、こうしなければならない、と考えても自分の心の中の深い部分ではそうしたくない、と思い葛藤が生じてきた時などはなかなかどう行動するか決められないですよね。この時などは自分を見つめるチャンスでもあります。
すると、それがきっかけとなって意識と無意識の循環が良くなる事もあります。お風呂を沸かしている時、浴槽に張った水は上の部分から熱くなって来ますから、よくかき混ぜないと、丁度よい湯加減になったかどうかわかりません。以前にもお話ししましたように、心の中も同じだという気がします。ありのままの自分を責めたりせずまず向き合ってみる事が、一生付き合って行く自分に優しくする糸口になると思います。

7月1日、雨の日は

梅雨も残り半分という所に来ました。今年は時折大雨が降り、湿度が高く雨はしとしと降るという梅雨ではありませんし、ここでは、朝晩肌寒いと感じる日が多いので、梅雨という実感がわきません。
先日、小学生の描いた絵やポスターが沢山張られている所を通りました。その中に、雨の日は友達が来るので楽しい、という内容の文章が絵と共に書かれている作品がありました。紫陽花が描かれていましたので、紫陽花にはカタツムリやアマガエルなどがやって来る、つまり紫陽花の気持ちになって書いたのでしょう。
私は雨の日は濡れてしまうので外に出たくないとか、どんよりとしている空は昼間なのに暗いので早く晴れて欲しい、などと思う事が多いのです。ちょっと視点を変えてみる、と言う事が柔軟に出来る子供に比べて、自分の頭はかなり硬くなっていると言う事に気付きました。沢山の素晴らしい作品に出会えたおかげですね。

6月30日、クチナシ

クチナシの花が満開になりました。虫が付きやすい花なのであまり花瓶に挿す事がないのですが、台所に1輪飾ってみました。戸を開けるととても良い香りです。
信用できない、と思う事が1つあるとその人の言う事が全部疑わしく聞こえて来る事があります。それは相手の言葉をどう聞き、どう受け取るかです。その受け取り方はひととおりだけではない、聞いている人によって受け取り方は様々だと言う事ですよね。時間や場所などが伝えられた場合には聞いている人はそれを正確に聞き取ろうとしますからその限りではありませんが。
話し手についてどのような情報を、事実に基づいて持っているかが関係して来ますから、白紙で聞いているのではない場合も多いでしょう。あまり信用出来ないと感じると、その人の長所だと思っていた所も、別の見方をすれば短所になると感じる、そういう事もありますね。
何故こんな事を考えたかと言いますと、郵便受けに入っていた電気料金の値上げを了承して欲しいという、色々とその理由が掛かれている1枚の紙がその原因なのです。我が家では未だに郵便受けに入ったままです。釈然としないまま受け取る事に抵抗を感じる私は、別の立場や考え方の人から見たら、どうかと思う、と言う事になるのかも知れませんね。気温の低い日が多いので、どうぞ体調にお気を付け下さい。

6月27日、小さな柿

台風4号は凄まじい風でしたから、小糸川の遊歩道の桜並木は塩害で葉がほとんど黒くなってしまい、かなり太い木も2本ほど倒れかかっています。畑の作物や、ところによっては稲も茶色くなってしまいました。気温の低い日も多く、日々の気温や天気の変化が大きいので、どのようにしたら良いのだろうと考えあぐねていました。
でも、5月の蜜柑の花と同じ頃に花をつけた柿が、無事に育っているのを見つけました。もう小さな青い実がなっているのです。植物の底力と言いますか、季節に合わせて例年と同じように育っている姿に驚かされ、励まされたような気がします。今は野菜や稲、桜も諦めずに再生しようとしている最中なのかも知れませんね。

6月24日、補うという事

家族の中でもコミュニケーションがうまく行かない、という事がありますね。自分の気持ちがうまく伝わらない、真意を理解してもらえない、そのような時もありますが、時間をかけてわかってもらえる事が多いでしょう。
でも、家族の中の特定の人が苦手、という場合もあると思います。そんな時に互いに相手とギクシャクしている大人同士が、子供を通してかかわらざるを得なくなり、 協力出来るようになる、とか、動物を飼うようになったら共通の話題が増え動物に心が和み、笑顔も増えるなどという事もありますよね。

体の具合が悪い時に、自然に、いつもの状態に戻そう、よい状態を保とうとする力が働きますが、心も同じようにして今自分の心に不足しているものがあれば補い、良い状態にして保とうと、自分で自然にしている、つまり心にも恒常性というものがあるのだと思います。
家族が理解し合い、協力しあって行く事が難しい時に、子供や動物がその家族の修復に知らず知らず役立ってくれる事も、その家庭の潤滑油になって、うまく行かない家族同士の通訳をしてくれているように感じます。そういう視点からも、家族は1つの単位、という気がします。

6月21日、引き戸

我が家の台所の引き戸はかなりの年代物、と言って良いと思います。そろそろあちこちが傷んで来ました。2か月程前から急に重くなり、どうしても直りません。動かすのに一苦労です。軽やかに動く事が有り難いとつくづく感じました。
急にそうなってしまったので納得が行かず、そのまま使いながら様子を見ていたのですが、今日戸を閉めようとしたら突然以前のようにすうっと動き出しました。何故なのかわかりません。まるで、機嫌の悪かった人が、急に機嫌が良くなってニコニコしているようでもあり、私と引き戸の呼吸がぴったり合ったかのようでもあります。

人の機嫌が悪い時、気になって、自分が何かその人の気に障るような事をしたのだろうか、と思う事はないでしょうか。相手の気持ちを考えての会話は大切ですが、そういう時は慌てて何とかしようとせずに、様子を見てこちらが冷静になる事も必要ですね。案外、原因は全く別の事かも知れませんよ。

6月20日、風雨

梅雨の日本列島を台風が縦断して行きました。東北や北海道では今日も風雨に警戒しなければならない状況との事、仮設住宅にお住まいの方はさぞご心配でしょう。これ以上被害が出ない事を祈るばかりです。
こちらは、雨よりも大変な強風でした。今も風はまだ収まっていません。庭の植物に朝急いで水をかけたのですが、塩害で大分萎れてしまいました。千切れたような薄いねずみ色の大きな雲が幾つも浮かんでいる空を見ていると、自然の力は大きく、人間に出来る事は限られている、とつくづく思いました。今年はどんな夏がやって来るのでしょうか。
庭を片付けて、友人が送ってくれたエルミタージュ美術館展の本をじっくり眺めようと思います。思いがけず友人が琥珀の間の扉を開けて私を誘ってくれたようで、ページを繰って行くのが楽しみです。

6月19日、過去になる今

ポルトガル本土から1200キロも離れているサンミゲル島の真っ青な空に、ゴーギャンのタヒチの女という絵を思い出しました。この島の焼き物は、黒土で作られた素焼きの、素朴で精巧な、生活に密着したものです。ずっと昔の土器を見ているようで、味わい深い映像をそのままお見せ出来ないのがとても残念です。古代エジプトの暮らしが目に浮かんで来そうですね。土器が使われていた頃の生活はどんな風だったのでしょう。

でも、いつか今の私達の生活が未来の人達にとっては想像が難しい遠い昔の暮らしになって行くのかも知れません。少し前の暮らしが、三丁目の夕日に象徴されるように、少しずつ遠ざかって来た懐かしい心の故郷、と感じる世代の人達がいるように。日々生きて前に進む事は未来を切り開いて行くのと同時に、今から遠ざかり、今を過去にして行く事でもあるのですね。

6月15日、シーソー

このところ学生時代の友人に会う機会に恵まれ、先日も2人の友人とゆっくり過ごす事が出来ました。再会する前の晩、私は久しぶりに友人に会う事への期待と不安を感じていました。私は変わっただろうか、彼女は果たしてどうだろう、でも、人の性格はいわば根 っこのような物だからそんなにお互いに変わってはいないはずだ、などとシーソーのように気持ちが揺れ動く状態はこの時から始まっていたのです。子供のようにワクワクドキドキしていました。
翌日、緑と海の美しい友人の暮らすまちに出かけました。3人での 再会は大学卒業以来です。ソテツや棕櫚のあるまちは暖かく、まるで南の国に来たように感じました。電車や車ですとあっという間に着いて、もっと早く会う事も出来ただろうに、と思い、何となくためらっていた私の背中を押すようにして誘ってくれたもう1人の友人 に感謝したくなりました。
3人でいろいろ話していると違和感はなく、会う事のなかった歳月、それぞれに試行錯誤しながら一生懸命生きて来て積み重ねて来たものがあるのだという事が感じられ、長かったようにも、あっという間だったようにも思えて来ました 。歳月が私達を隔てる溝にはなってはいなかったのです。時間をすっと飛び越えての楽しいひと時は、気が付くと浦島太郎が竜宮城に居たように過ぎ、帰りに駅まで送って貰い、内房線の電車に揺られて帰って来ました。そういえば、1人の友人の家には亀がいるのです 。晴れていて夕日の美しい海を車窓から眺めていると、爽やかで力強い夏のように感じられたのですが、卒業の日に私とは別の駅で降りた友人が、私が乗っている電車を見送ってくれた時の事が思い出され、あの日から別の電車に乗って別の地で降り、暮らして来た3人が、少し時間はかかったけれど、また同じ駅に集ったように思えて来ました。
案ずるより産むが易し、という1日でした。あれこれ思いを巡らし、あちこちに気持ちが揺れ動くシーソーか弥次郎兵衛のようになって友人と再会した自分を思うと、苦笑したいような、ちょっと温かい気持ちになりました。自分に自信がないので、長い間ためらっていたのだと思います。でも、本当に楽しかったですよ。

6月14日、タイシルクの村

タイシルクは光沢が美しく、映像で見るだけでもその手触りがどんな風なのか伝わって来るようです。あたたかみのある質感、ずっしりとした量感は百年前の布からも伝わって来て、静かにその存在を主張しているようです。
染めた糸を洗うのも糸を紡ぐのも勿論機械ではなく、人の手での作業です。真っ赤に染め上げられた糸が１つのかたまりをほぐしたように干されてそよ風に揺れていると、糸達の美しい歌声が聞こえて来そうです。おばあさんが糸車をゆっくりと回しながら青い糸を紡いでいる光景は、この村では百年前から変わる事なく続いて来た日常なのでしょう。これからも、このようにしてまるで村の風景の一部のようにタイシルクは作られて行くのだろうと思います。近年、複雑な柄が好まれるようになって来たそうです。
機を織る手が機械のように正確に強弱を付けて力強く動かされ、織り手の人生を記録するように布となって行く様子を、初めて目の当たりにしました。美しい布は華奢に作られるのではないのですね。暑い国、仏教を信仰する人達、そこには様々な色があり、極彩色の世界です。複雑に絡むその色の美しさは、この国の歴史と自然そのもののようです。鮮やかではっきりした色柄なのにグラデーションを感じさせる物で、鉄琴か木琴を奏でたように余韻の残る、タイシルクの村でした。

以前タイ旅行のお土産にスカーフをくれた友人の面影が重なって来ました。今は亡き彼女は早くから織物の盛んだった北関東の人でした。笑顔の素敵だった彼女にどこか似ているようなタイシルクは、素朴な村の優しさも織り込まれているのでしょうね。遠い所ほど私達の暮らしとは何もかもが異なっているようでも日本から東アジア、その先の中央アジア、あるいは東南アジアなど東西南北様々な所へ少しずつ気候風土は変わっても続いて行くのですから皆つながっているとも言える、そう実感しました。今日はシルクロードに思いを馳せてウーロン茶を飲んでみようと思います。

6月12日、飛び出した色

源氏物語の登場人物が着ていた十二単などの着物の色柄を、草木染で忠実に再現した反物の映像を見ました。源氏物語の文章は難しいのですべてを読んだわけではありませんが、物語の中に出て来る色を想像するのではなく、実際に見る事が出来ると作中の登場人物の息づかいが聞こえて来そうで、視覚の効果は、文章を読む時に幅を持たせたり奥行きを与えたりしてくれるものだと、改めて感じました。また、聴覚にもそういう効果があるように思います。
こういう事を考えている時、ウグイスの声が爽やかに、ちょっと鋭く聞こえましたよ。

6月11日、梅雨

関東地方も梅雨入りしました。今年は今のところ気温の低い日が多いようです。早苗は雨に濡れ、風は田んぼを、毛足の長い絨毯を揺するようにして吹き抜けて行きます。
ところで、親は自分の子供には愛情がありますから冷静に見る事が出来ない時もあります。愛情があるから出来る事も勿論沢山ありますが。そういう意味でも地域の人達のサポートや見守る温かい目が必要ですし、大切だと思います。掛け値のない目で、そして、見下さないでかかわりたいですね。静かに降る雨は、何か母性的に感じられます。

6月10日、洗濯

洗濯物が多いと大変ですね。でもお天気が良いと洗濯をするのが楽しく感じられます。先日、炬燵用の毛布や布団を洗濯して干しました。面倒だと思っていたはずなのに、青空に翻っている洗濯物を見ると、洗濯物がまるで綺麗になって嬉しい、と踊っているようです。猫が大好きな炬燵は、冬の間よく働いてくれたので、思わずありがとう、と言ってしまいました。もう、子供が水遊びをしたくなる季節です。この洗濯は手洗いでしたので、私も水遊びをした気分です。

6月9日、ガスコンロ

ガスコンロが、長い間使っているうちに熱でおかしくなって来ました。だましだまし使っていたのですが、買い替えなければならなくなったと覚悟を決め、毎日本当によく働いてくれたコンロを最後に感謝しながら掃除しました。
家では私が若い頃はまだ七輪も使っていました。祖父母はそういう生活が好きだったようです。お節の豆を煮たりフライを揚げたりシュウマイを蒸かしたり魚を焼いたり、母の世代の主婦はこの辺りでは、若い頃は皆このようにして七輪やかまどを使って調理していたのだと思います。火力の調節はガスの方がずっと楽です。
私は母がとろ火で煮物をしながら胡麻和えの和え衣を作っている時、擂り鉢が動かないように押さえているのが好きでした。黒い胡麻の粒が細かくなり白砂糖が混じると、雪が降り始めた京都のお寺の庭のように綺麗だと思いました。でもそこへ醤油を入れるとぬかるみのような色になってしまいます。おいしくはなるけれど何となくがっかりしたものです。
強火を武火、とろ火を文火というのだそうですが、それを上手に調節して美味しい物を作るのは、必要である事と家族への愛情なのでしょうね。蜜柑の花の香りが、視覚と味覚を伴って記録された記憶を思い出させてくれたようです。古い事はこんなに鮮明に覚えているのに新しい事は覚えが悪いので、気付いた事や気になる事はなるべくメモするようにしています。ウォーキングも五感を刺激するので脳の活性化につながるような気がしますよ。

6月8日、北アフリカの瞳

北アフリカモロッコの、標高4000メートルを越すマグーン山近くに住むベルベル人が、ミントティーで遠来の客をもてなしている映像が映し出されました。外国のテレビ局が制作した番組です。砂漠の宝石と呼ばれるこの山は6月まで雪が残り、かなり険しい山のようです。7歳になると男の子は牧童となり、日々働いています。
地図にも載っていない人口百人ほどの村の、外国の言葉を知らない子供達は、外国人に話しかけられても黙って興味深そうに見つめるだけでしたが、その瞳は澄んでいて希望が宿っているようでした。初めて見た標高2500メートルに咲くアーモンドの花の姿よりも、印象に残る目でした。この子達の未来に負を出来るだけ残さないようにして手渡して行きたいですね。胸を衝かれるような目をした子供達の映像を早朝に見せて貰い、私の今日が始まりました。

6月6日、イチゴパフェとプロセス

私は、小学校低学年の頃イチゴパフェに憧れていました。デパートの食堂のガラスケースの中のイチゴパフェの見本はとても綺麗でおいしそうだったのでいつも迷いましたが、多分食事をしてからパフェを食べようとしても食べきれないだろうと思い、イチゴパフェを食べる事はありませんでした。食べたいと言って注文し、食べ切れなくて残しても親達は別に叱る事などなかったと思うのですが、何となく勿体ないような気がしていたのです。多分、食べきれないと色々な物が入っているのに、下の方の味がわからないので勿体ないと思っていたのでしょう。
それから随分歳月が経った今から数年前、思い切ってある店でイチゴパフェを食べてみました。中身は昔とそう変わっていませんでした。でも、私は拍子抜けしたような気分になったのです。確かに彩りも良くおいしかったのですけれど、あんなに味を想像し、期待し憧れていたわりにはふつうの味、という印象でしたから。

いつかは叶えたい、とかいつかは手に入れたい、と思っている時に感じる期待や幸せという物があるのだ、とその時思いました。パフェでなくても、夢や希望の実現に向かって、辛くても困難でも努力をしている時に、その夢や希望が叶った時の事を思い描く、それも幸せをその瞬間に感じている、と言えるのではないでしょうか。なかなか厳しい世の中ですけれど、様々な夢や希望を、プロセスを大切にして楽しみながらコツコツと努力して叶えて行けたら良いですね。

6月2日、ウサギ追いしかの山

先日、学生時代の友人を訪ねました。普段とは違う方向に行く電車に乗ると、山や田畑が多く、木々を渡る風も緑色に感じられ、時間の進み方が急にゆっくりとして来ました。着いた駅の駅舎は昔懐かしい雰囲気が漂っています。そんなに遠くはない所なのですが、今まで行く機会がなく、空気も海も綺麗な所で友人とおしゃべりしながら過ごす事が出来て夢を見ているようでした。
ずっと昔の女性達は、のんびりと出かけ、景色を眺めながら食事をしてゆっくり一日過ごす事など出来なかったのでしょうね。自分だけ贅沢をさせて貰ったような気がします。けれど、私がそういう時間を楽しく大切に過ごし、昔の人の苦労があって今があるという感謝の気持ちを忘れないでいれば良いのかも知れない、という気もします。でも昔の、忙しく働くばかりだった人達にこの日の私のような思いを一日でも良いからさせてあげたかったとしみじみ思いました。

私の住んでいる地区は開発され、大きく変貌しました。記憶に残っている東京湾の面影は、今は何処にもなく、海ははるか彼方に遠ざかってしまいました。私より６歳位年下の人は海の記憶もないでしょう。ですがずっと住み、生活して来た場所は、自分専用に作られた椅子のようにしっくりと私に合うようです。どんなに変わっても、ここが私にとっての故郷なのだと改めて感じました。
そう思うと、原発事故のためにいつ故郷に帰れるかわからない方々の苦しみは如何ばかりかとその心の傷の深さをつくづく思いました。寸断されたのは目に見える現実の生活だけではないのですから。特に高齢の方は、以前のような日常を取り戻したいと一日千秋の思いで待ち望んでいらっしゃるのでしょうね。福島第1原発4号機の映像に愕然とし、綱渡りのような日々だという事が少しも変わってはいないのだ、と思った直後の友人宅訪問でした。

6月1日、ゴーヤ

今年も緑のカーテンにゴーヤや朝顔を植えた方、沢山いらっしゃるでしょうね。太陽を遮るだけでなく、朝顔は綺麗な花を咲かせてくれますしゴーヤは食べられますから。私もずっと以前にヘチマを植えた事がありました。ヘチマ水が採れ、ヘチマそのものは台所で洗い物に使え、随分役立ちました。
実は、私がゴーヤを初めて食べたのは最近の事です。以前は見た事もない物でした。嫌いな食べ物はあまりないのですが、ゴーヤはとても苦いと聞いていましたので、出回るようになってもなかなか食べる勇気がなく、スーパーに並んでいても見るだけで結局は買わずに通り過ぎていました。ところが、ある日ご近所の方が、確かに苦いけれどあれは癖になる苦さだ、と話して下さったので、私は癖になる苦さというのがどんな苦さなのか知りたくなって買い求め、炒め物を作ったら思っていた程苦くはなく、おいしいと感じ、拍子抜けしてしまいました。どう言ったら食べたくなるかは、きっとその人の性格によって違うのでしょうね。子供が食べた事のない物を食べる時にも同じような事が言えるのでは、と思います。
ちょっと意味は違うのですが、昔から言われていたという言葉をふっと思い出しました。一方聞いていて沙汰するな、というのだそうです。私もなんらかの判断をする時にこの言葉を大切にしたいと思います。

5月29日、再会

先日、十数年連絡を取り合っていなかった学生時代の友人から電話を貰いました。卒業後も色々と話を聞いてくれていた友人でしたけれどなんとなく疎遠になっていたのです。千葉県内に引っ越して来たとの事でしたが、久々に聞く彼女の声は以前と少しも変わらず、私は荒天だという事を思わず忘れてしまいそうになるほど弾んだ気分になりました。友人と話しているといつの間にか気持ちは学生時代に戻っていました。その語再会したのですが、その前日は、遠足の前の日の子供のようにあれこれと考え、わくわくしてなかなか寝付かれませんでした。その気になれば、気持ちは何時でも洗濯してお日様に干せ、若い頃や子供の頃の部分を取り戻す事が出来るものなのですね。長く住んでいた所を離れて引っ越して来たというのに、初めての地の景色の素晴らしさを話してくれた前向きな彼女に脱帽です。

5月26日、戦後間もなくの出来事

太平洋戦争が終わった昭和20年か21年の事だと聞いています。アメリカ軍の飛行機が1機東京湾上でアクシデントに見舞われ、パイロットはパラシュートで脱出して無事、私の家の近くの当時の公会堂に保護され、警察署へ連絡したのでその兵士を車で迎えに来て帰って行った、という出来事があったのだそうです。
勿論、当時この辺りに外国人は居らず、かなり離れた地区の人達もぞろぞろと集まって来たのは好奇心というものだったのかも知れません。突然、相手の言葉が理解出来ない異国の人達に囲まれ、ジロジロと珍しそうに見つめられた若い兵士は、気味悪く思ったかも知れないですね。
田舎であっても戦争の影響のなかった家庭などなく、家族が戦死した家やまだ復員していない家族を待っている家など色々な家庭があったわけですし、国全体が貧しくもあった頃の事です。近くの店で誰かがパンと牛乳を買って来てこの異国の青年に渡し、筆談をしようとしました。そこへ迎えの車が来て、彼は何も食べずに帰って行ったそうです。

戦争が終わったばかりの半農半漁のこの地の田畑や空、集まった大勢の人達が、帰って行く彼の目にはどのように映ったのでしょうか。元気でその後帰国していればもう高齢で、お孫さんもいる事でしょう。時にはこの日の出来事を思い出す事があるでしょうか。
近所の人達は好奇心だけでなく、言葉の通じない所で心細いのではないかと案じ、お腹に入れる物を買って来て手渡したのだと思います。戦争が終わって日の浅い時にこのような対応をしたのですから、人と人は互いに相手を思いやったり助け合ったりして生きて行こうという気持ちを本来持っているのだと思います。人はかかわって見なければわからない事も多いですし、知らない所には行って見て初めて気付く事もあります。そのようにして少しずつ見聞を広め、自分と異なる価値観を持った人達とも交流して行くチャンスを大切に、他者を理解し、時々立ち止まっては自分を振り返り、歩いて行きたいですね。
沖縄の復帰40年という今、その現実の重さに触れ、私の心を様々な思いがよぎります。

5月22日、消息

有縁無縁の仏様にお線香をあげて冥福を祈る、と言いますが、毎年お盆になると私は、無縁の仏様は居らず、皆縁のある人、という気がして来ます。私の先祖といっても私には2人の親がいて、その親にも２人の親がいて、と数えて行くと先祖が一体何人いるのか見当もつきません。人類の祖先はどうやらアフリカ大陸に誕生して、そこから始まったらしいですね。
昨年母方の曾祖父の故郷埼玉を訪れる機会がありましたが、今も私と少し似た所のある人がここで毎日生活しているのかも知れないと思うとその地に親しみを感じ、会った事もない遠い親戚の幸せを祈りたいような不思議な気持になりました。曾祖母は江戸から東京になったばかりの所に生まれて育ち、祖母は横浜生まれ、祖父はこの君津に代々暮らす家に生まれ、そこが、今私が住んでいる場所です。

祖母も母も仏壇から水などを下げて外にこぼす時には、無縁様に差し上げます、と心の中で言いながらしなさい、とよく言いました。子供の時言われた事なので心に残っています。
あるテレビ番組の中で、太平洋戦争中に10代で、中国大陸で鉄道に勤めていた人がインタビューに答えていました。どのような事情や経緯があるのかわかりませんが、彼は、今はロシアの人と結婚してカムチャツカに家族で暮らしており、幸せそうでした。人間はどこでどう生きる事になるのか分からないものですと、さらっと言いました。雪が残っている季節に真っ青な空を見上げながら言った言葉の奥に、深い望郷の念が込められているように私には感じられ、人間のめぐり合わせの不思議と、1人の人の人生だけを考えてみてもそうなのだから、先祖をずっと辿って行くと果たしてどこに辿り着くのだろうかと思いました。
多くの先祖の家のその後の消息は知るすべもありません。会う事が出来たら嬉しいでしょうが、わからなくてもそれはそれで良いのかも知れません。どこかで一生懸命生きていて、ある時都会の雑踏の中で私とすれ違っていたり、電車の中で隣に座っているかも知れない、と思うと、外に出るのが楽しくなります。私はこれからも何がしかの縁のある人が幸せであって欲しいと願うでしょうし、亡くなった人達に、親達から教えて貰った言葉で仏壇から下げた水を差し上げ、冥福を祈るだろうと思います。

5月19日、記憶は感覚を伴って

携帯電話を持って今朝もウォーキングに出かけました。蜜柑の花が咲き始め、濃厚な香りが漂っています。遊歩道の花や緑がとてもいきいきしているので、パレットへ飛び出した絵の具が嬉しそうに景色を初夏の色に塗り替えているような気がします。今年は穏やかな梅雨や夏だと良いですね。
緑色の銀杏の葉、白いツツジ、オオデマリ、紅葉、棕櫚竹などの写真を撮って、記録する事の楽しさを味わいました。本当は川面を渡るやわらかな風の匂いや鳥の声なども記録したい程の穏やかな空でした。

以前にもこのページに書きましたが、記録はずっと後になって開くとその時の記憶が蘇って来ます。
まるでその瞬間を切り取ったように思い出す事もあります。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、触覚や味覚などで感じた物つまり感覚が記憶にはセットになっている事が多いと思います。感覚や感情を伴った、出来事の記録が記憶なのですね。楽しかった事や嬉しかった事は、自分を支えてくれる物にもなっています。
ですから辛かった出来事は思い出すのが辛いので心の奥に忘れたように封印しておこうというメカニズムが働くのでしょう。辛かった出来事に目を向けてみようという気持ちになった時に、自分のぺースで少しずつ見つめ、考えて行けば良いと思います。必要だと感じていない時に、いきなり傷口の瘡蓋を剥がすような事は無理な場合もあります。
自分で辛かった出来事に目を向けて行く事が出来るようになった時に、それを安心で安全な場で話すと、随分すっきりします。例えば、ある人に対するマイナスの感情を話してしまうとその人との楽しかった思い出がクローズアップされて来ます。嘆きの仕事をしてつらい思い出を1つずつ手放して行けたら良いですね。カウンセリングルームは安心で安全な場ですので、どうぞお気軽にお越し下さい。

5月16日、早苗

小糸川沿いの田んぼも水が張られ、田植えが終わりました。毎年梅雨時の早苗は雨の中で冴え冴えと美しく見えます。雨に塵や埃が洗い流されるからなのでしょう。風の吹く日には逆らわずに、折れる事なく揺れています。
静かに大地に根を張って生きる植物の知恵と力、進化して来た緻密さのようなものを感じ、その命を頂く事で人間は生きているという事のありがたさをも、育って行く稲から感じます。

今年も毎晩、蛙の合唱がどこからか聞こえて来るようになりました。童謡朧月夜の世界に入ったようですよ。五月晴れから五月雨に季節は移って行くのでしょうね。天候によって気温がかなり変化しますのでどうぞ健康にお気を付け下さい。

5月13日、ネコ

私が小さい時から家には猫がいつも何匹かいたので、毛が抜ける事も爪を研ぐ事も何となくそういうものだ、と思っていました。ただ、自分より寿命が短い猫は病気になったり元気がなくなったりして必ず死んでしまう時が来ます。動物病院が近くになく、猫を病院に連れて行く事などあまり考えられなかった時代でも、動物病院が沢山出来た今でもそれは変える事は出来ませんからつらいものです。
ですが、最近、家族のように暮らす事になった猫と永遠に一緒に生きる事は出来ないけれど、今この瞬間を大切にかかわって必要な世話をし自然に一緒に出来るだけ長く暮らせたら良い、そんな風に思います。勿論死んでしまったら悲しいですし、もっと何とかしてやれなかっただろうかなどと思って簡単に忘れたり諦めたりは出来ないでしょうが、縁があって出会い、共に暮らせる限られた日々を仲良く大切に過ごし、看取る事で、その猫に悔いなく生き切って貰いたいのです。
昔猫が病気になると、母は薬になりそうな物を煎じてやって面倒を見ましたし、猫が死んでしまって悲しんでいると祖母が、そんなに泣くと猫が天国に行けないからもう泣かないで冥福を祈ってやろうね、と言いました。

猫も人間も出会ったという事を大切にする事や、育てる事は相手の性格を理解してかかわる事なのだという事、自分のその時の気分やペースで引っ張らない事などとても似通っているように感じます。これを書いていると私も反省する事が沢山あり、色々と頭をよぎります。
母の日のプレゼントにカーネーションを買っている人が多いホームセンターに行き、母が亡くなった事をしみじみと感じていた私に、共に過ごした日々そのものが何時までも心に残っているでしょう、と母が猫を通して思い出させてくれたようです。母の日に母からプレゼントをもらったのですね。

5月9日、東京

家の牡丹も遅咲きの種類を残してあっという間に散ってしまいました。毎年この季節になると、牡丹散ってうち重なりぬ二三片、という与謝蕪村の句を思い出します。私には、白か淡いピンク色の牡丹の花びらが時折音もなく散って行く様のように感じられますが、それは人によって色々でしょう。

ところで、私が初めて東京に行ったのは小学生の時の秋のバスでの遠足ででした。何ヵ所かを見学した帰りに亀戸の辺りでそろそろ夕方という時刻になり、和服に割烹着、あるいはスカートとブラウスにエプロン、という主婦の方達が買い物籠を持って商店街の方に大勢歩いていました。都電が走っているのを見たのもこの時が初めてでした。歩いている人も都電も、まちに活気があるけれどどこかのんびりとしていてその中に自分がスッと入って行けそうな、決して冷たいとか忙しそう、無機質という雰囲気ではなく田舎と同じように人が生活している場なのだと実感したという記憶なのです。
今はその頃より東京の人口は増え、車も高層ビルもずっと多くなっているのでしょうが、学生時代に電車で東京を通っても、今用事があって出かけても、移り変わりの激しい東京と、あの遠足の時見た東京とが妙に重なって、懐かしさを感じる時もあります。変わったと言っても、必要に応じて少しずつ変わって来たというプロセスがあるのでしょう。環境の違う所で生まれ育った人同士も分かり合えるように思え、親近感を感じる事もあります。
他者を肯定し共存して行きたいという気持ちは、人との絆を育み育てて行く小さな小さな芽のように思え、その気持ちを心のどこかで育てて行けたら、それが絆というものにつながって行くのかも知れない、そんな事を思いました。
端午の節句に菖蒲湯に浸かって、その青臭さを、子供から大人になって行く途中の思春期に似ている、という風に感じたものですから、それで自分の感情や思考がどのように作られてきたのか、ちょっとそのルーツの一端を辿ってみたくなったのかも知れませんね。

5月8日、自然の猛威

6日は、このあたりは夕方短い時間のにわか雨と雷でしたが、北関東の竜巻の被害に驚きました。何か、生き物が翼を広げて低く飛び、人間に襲いかかって来た、というような信じ難いニュースの映像に、何時どこで起きても不思議ではなく、今まで経験のなかったような事も起きる自然災害に愕然としました。
海では地震による津波、空からは竜巻、激変する自然が牙をむいて私達の生活を寸断して行く事が増えています。地球温暖化の恐ろしさを改めて感じました。自然と共にどのように生活して行けば良いのか本当に難しいですが、小さな事でも出来る所から自覚してやって行く事が大切なのでしょうね。

5月7日、連休

連休中にテーマパークなど行楽地にお出かけになられた方も多いようですね。混んでいた事も過ぎてみればきっと楽しい思い出になる事と思います。ですが、学校での部活動や受験勉強を頑張っているので忙しくて出かける暇がなかったという方、ご両親のお仕事によっては休日の方が休みにくい、というお宅もあるでしょう。本当に様々ですね。お天気の良い日ばかりではありませんでしたが、私はほとんど毎日新緑の中を歩く事を楽しみました。紫陽花も育っていますし、つつじや紅葉の柔らかな緑の葉もぐんぐん伸びています。

気温が上がると人の体も代謝が良くなりますし、進級した子供も心身共に成長して行きます。連休明けには新しい環境にスムーズに馴染んで行けると良いですね。今年は事故が多いように感じます。連休後もお出かけにはどうぞお気を付けて。

5月4日、新茶のような

煎茶だけでなく、コーヒーや紅茶、ウーロン茶などいろいろな種類のお茶が手に入りますから、お好きな物を飲んでいらっしゃる事と思います。ですが、5月になると出回って来る新茶を私はとても美味しく感じます。緑の美しい季節に飲む新茶が美味しいのは、香りが良いだけでなく、まろやかな舌触りが絹のように感じられるという事もあるからだと思います。
極上のお茶を味わったような余韻が残るコミュニケーションは難しいですね。言葉のやり取りには態度がセットになっています。言葉や態度が何となく高圧的、上下目線になっている事はないでしょうか。そのように扱われる事が続くと、割り切ったつもりでもストレスが溜まる事もあるかも知れません。知らず知らずそのような言い方になっていると相手の方の反発や萎縮に繋がる場合もあります。仕事の厳しさをひしひしと感じる時代で、互いにゆとりのない気持ちになりがちですが、主張をする事と同時に相手の気持ちを察するという事をしているかどうか私も自分を省みて、これからの人とのコミュニケーションに役立てて行きたいと思います。今年は5月1日が八十八夜でしたね。

5月1日、老舗

最近、家から少し離れたある店に行きました。そこは創業百年近い老舗です。商品の質、ネーミングなどが何か自分と波長が合ったような気がして、ほっと出来るスポットを見つけ晴れ晴れとした気持ちになりました。商品を見ていると、初夏の山を渡る清々しい風や潮騒が聞こえて来るような錯覚を起こし、安いけれど喧噪と軽さを感じる、目まぐるしく変わる最近の店にはない、目に見えない物に裏打ちされているような気がして来ました。勿論、安い事は大きな魅力ですから、新しい他の店にもよく行きますし、それはそれで便利で助かっていますが。代々続いて来た老舗には何かがぎっしりと詰まっているように感じました。時代によって消費者のニーズは変わるので、変えて来た点とずっと変わらずに守り続けてきた物とのバランスが私の好みにあったのでしょう。バブル以前にはこういう店は随分あったように思います。今の時代には削ぎ落とされてしまった懐かしい何かを感じたのです。それぞれの時代を生きた店の人達の心意気が緑の美しいこの季節に匂い立つようで、昔の買い物客の日常までもが鮮やかに蘇って来るような心地になり、心の和むひと時でした。それはまるで読んでしまった本のページを逆に繰って行ったような時間でした。長い間忘れていたこういう雰囲気の場所を訪れる事が出来て、また一つ新たな扉を見つけて開いたように心楽しく感じました。この日は少し自分に優しくする事が出来たようです。年齢のせいで昔が懐かしいだけ、というわけでもなさそうです。

4月30日、法事

親戚の法事に行って来ました。ご住職の読経に、寡黙で誠実な働き者でどこか私の先祖に似た、亡くなった方の在りし日の姿を思い出していました。高齢で亡くなられたのですが、何歳なら旅立っても良いという年齢はないと思います。知っている人を見送るのは寂しいものですが、温かく和やかな雰囲気で集まった方達と過ごす事が出来たのは、亡くなった方とそのご家族のお人柄というものなのでしょう。昔の人は今では想像もつかない苦労をして家族のために生きて来たのだと思います。おかげ様で私にとっても良い1日でした。

4月27日、ナゴルノカラバフ

アルメニアはアゼルバイジャンと国境を接しています。ソ連時代に、アルメニア人が統治する地域だったナゴルノカラバフというこの山岳地帯がアゼルバイジャンに編入されたのです。以下の事は、インターネット等で調べた事ですが、多民族国家であるソビエトが民族意識などのために脆弱になる事を恐れ、民族の団結力を弱めようと、それまで共和国ごとに固まって住んでいた各民族を移住させるなどしました。この地もそうで、アルメニア人が多く住んでいたナゴルノカラバフの地をアゼルバイジャンとし、ここは自治州になっていました。アルメニア人はキリスト教徒であり、アゼルバイジャン人はイスラム教徒、というように宗教も違います。1988年に求めたナゴルノカラバフのアルメニアへの帰属は認められず、自治州を廃止され、1992年にナゴルのカラバフは独立を宣言、それからアルメニアとアゼルバイジャンの戦いが始まった、という経緯なのだそうです。ある日、今まで交流のあった近所の人同士が敵味方に分かれてしまったのですね。
故郷を離れ、難民となって暮らして来たアルメニア人のおばあさんが、危険ではあるけれども元の家の近くになんとか戻る事が出来るようになって、家族と共に帰って行く番組を見ました。ナゴルノカラバフの高く険しい山々がはるかに見え、おばあさんは帰って来た喜びを感じながらも、何故こんなことになってしまったのだろう、と目に涙を浮かべてつぶやいていました。きっとこの地に住む人達は、ご近所同士として互いに相手を尊重し助け合って暮らして来たのでしょう。その時から、私にとってナゴルノカラバフという地名は、忘れる事の出来ないものとなりました。

4月23日、春雷

そろそろ葉桜の美しい季節ですね。随分昔の事ですが、春の午後、坂道を歩いていると雷が鳴り出し、急いで用事を済ませて家に帰った、という事がありました。丁度その頃、私は家から南に行くと低い山々が連なっている見慣れた風景がとても気になっていました。あの山の向こうには何があるのだろう、そんな事ばかり考えていました。ある時、田畑や道路があり、家々が並ぶ町があり、その次の山の先にもやはり町があって最終的には海に出る、という当たり前の事を、航空写真でも見ているように実感したのです。閃いたように認識した、などというような事ではなく、子供の時に社会科で習って知っているはずの事が実は感覚としては理解出来ていなかったというわけで、私は愕然としました。まるで子供が画用紙に絵を描きクレヨンで色を塗ったように、風景を平面で捉えていたのですね。
そういう事に気付いた頃、外出中に雷鳴を聞いたのです。その時、青白い稲妻が、丈の長い草が生い茂っているどんよりとした薄暗い淵か沼のような場所にさっと射し込む光景が目に浮かびました。これは自分の心の中の深い部分なのだと感じました。私も人間なので、自他に対するマイナスの感情もかなりあるのだろう、それはむしろ人間として当然の事なのだから、自分を責めたりそういう自分を見てみないふりしたりする事はないのだ、気付いたらありのままの自分を受け入れてそこから考えて行けば良い、そんな風に思ったのです。人の心には奥行きがあり、自分では見えない陰影のようなものがある、二次元ではなく、三次元なのだ、自分も例外ではない、その事を実感し自然に受け入れた瞬間だったのだと思います。風景の見え方の変化とよく似ている出来事でしたので、鮮明に記憶しています。
視野が少し広がると物の考え方にもゆとりが出来、自分にばかりでなく人にも、相手の気持ちを察してかかわりやすくなり、自然体でいるという事にほんの少し近づけるように思うのです。八重桜の蕾が膨らんで来ましたので、休眠中のイワヒバにたっぷりと水を与え、気持ちよく目覚めさせてやりたいと思います。

4月19日、緑色の筆箱

満開の桜の下を歩き、勿体ない程の花吹雪の美しさに思わず時間の経つのを忘れてしまいました。つかの間だったような、充実したとても長い時間だったような不思議な気持ちです。非日常のような時間と空間だった気がします。花びらの絨毯が敷き詰められて行く中を歩くという、大変な贅沢をさせて貰いました。歩きながら思ったのは、やはり入学の季節ですので自分の子供時代の事でした。
小学校に入学する前に、叔父夫婦と出かけた時に文房具店で緑色の筆箱を買って貰いました。学校で必要な物の事など何も考えていなかった私はびっくりしました。随分のんびりした子供だったようです。女の子は赤やピンクの、キャラクターの絵の付いた筆箱を持っている子が大半でしたが、私はこのファスナーの付いたシンプルな緑色の筆箱がとても使いやすく機能的だったので、まるで自分のために作られたようでとても気に入って大切に使っていました。その頃の私には、人と比べるとか、同級生と同じ持ち物が良いという気持ちはなかったのだと思います。入学の時に買って貰ったロイヤルブルーの洋服、遠足のための淡いピンクのチェックのリュックサック、グリーンとローズピンクの絵柄の水筒、どれも流行の物ではなく、大人の目から見たら使いやすく、長持ちする物だったのでしょう。私はこういう一つ一つの物が、今でも、この先これほど気に入る物に出会う事はもうないだろうと思う位気に入っていました。
それは、今ほど物が豊かでなかった時代に、初めて買って貰った物だったからだけではないような気がします。買い与えてくれた家族の愛情や作った人の思いも一緒に頂いたようなそういう事だったのでは、と思います。そう考えると、無数の人の温かさに見守られて小学校に入学し、自然になじんで行けたような気がします。気付かない所で支え合って人は生きているのだという事をこんな風に実感する事があるとは考えた事もありませんでした。日々気づいたり学んだりしながらこれからも過ごして行きたい、そう思いました。

4月16日、牛乳瓶の輝き

子供の頃、将来何になりたかったでしょうか。私は教師や看護婦さんになりたい、などとその時々で思っていました。その頃は、大人は自由で何でも叶える事が出来る存在だとばかり思っていました。隣町の駅のそばの、バスターミナルの近くには商店街が あり、賑わっていました。その中に飲み物を販売している店があり、中高校生も牛乳などを買って飲んでいるのをよく見かけました。今とは違い、瓶に入った牛乳で、白い牛乳の他にコーヒー牛乳やフルーツ牛乳、リンゴジュースなどがあり、リンゴジュースもどういうわけか牛乳瓶に入っていました。私はフルーツ牛乳が好きでした。家の傍にはそういう物を売っている店がなかった頃の事です。
飲み終わって時間の経ったリンゴジュースの入っていた瓶の上の方は段々透明に近くなり、そこに日があたるとキラキラ輝き、とても綺麗でした。あの頃、子供だった私にはあの牛乳瓶に入っていたのは牛乳だけではなく、キラキラした夢や希望も一緒に入っていてそれをも飲んでいたような気がしではありません。色褪せた現実、と感じる事もあります。それでも、生きているという事は好奇心を持って日々学んでいるようでもあり、いつまでも何処かに、ほんの少し子供の頃に持っていた少年や少女の自由で真っ白な心を持っていたい、スキムミルクを飲みながらそんなことを思いました。

4月13日、スカートを作る時

お天気の良い日は初夏のように感じますね。柔らかな木々の緑が目に付き、山笑うという季節が近づいている事をしみじみと感じます。ところで、私は自分がどのように生きたいかという事を考えてみると、なかなか難しいという答えが返って来ました。それは思い描いていた夢や理想どおりにはなかなか行かない事が多いからですが、大きくなるにつれて自分が万能ではなく人には得手不得手があるという事に気付き、挫折を経験するのも大事な事ですね。挫折は、それではそこからどう考えどのようにするのかを学ぶ貴重な経験と言えると思います。大人になって日々の暮らしを保ち毎日を一生懸命送っていると、その日1日をその都度振り返るというゆとりがなくなっているような気がします。少し冷静になって今日の自分を時折振り返って自分の心に向き合ってみる事は、自分の先行きを考えたり今の気持ちを理解し受け止める事につながるのではないでしょうか。
スカートを作る時ウエストを採寸しますが、仮に65センチメートルのウエストの人はそれに指1本分の緩みをプラスしてスカートを作りますね。そうしないと入らないからです。時々今日の自分を振り返る事はこの指１本分の緩みのような物だと思うのです。天災や、経済の閉塞感を思いながらも、心に指１本分のゆとりを持っている事は自他を大切にする事につながって行くと思います。

　

4月10日、ガーデニング

ロシアで3万年前の氷河期のナデシコ科の植物の実の化石が永久凍土の中から見つかり、その花を咲かせる事に成功したというニュースに驚きましたが、私は花が好きで、以前は鉢でバラを育てていました。大輪のローズピンクやクリーム色のバラは香りも楽しめたのですが、うどんこ病の防除がどうしても出来なくなってしまいました。今は、私ではなく別の人がバラの苗を購入して毎年綺麗な花を咲かせてあげたらバラにとってその方が幸せだろうと思うようになって、バラではなく、季節の草花を植えたりサボテンや多肉植物を育てたりしています。サボテンも花が咲きますし、棘のほとんどない物やぐんぐん育って行く種類の物もあります。多肉植物は、季節によって水やりを加減すると、赤や黄色に紅葉して、とても綺麗です。出来るだけその植物に合った環境にして、育って行く様子を見ていると心が和みます。その植物の性質、例えば生育期と休眠期を知って、丁度良いタイミングで水やりなどしてかかわる事は、相手を理解して人とかかわる事や子育てにも通じると感じます。サボテンと多肉植物は、冬には水やりが1か月に１度位でよい物が多いですし、肥料もほとんどいらないので手が掛かりません。ミニサボテンやミニの多肉植物は広いスペースは必要ないですし、お忙しい方にも栽培しやすいと思います。価格も200円位からあります。メキシコに行って来た、という気分になれるかも知れませんよ。

4月7日、桜

いつもより寒さが長引いています。4月に霜注意報などという事は、この辺りではあまり聞いた事がありません。お茶を栽培している農家の方は心配でしょうね。北海道から流氷が離れ、東北にも早く桜が咲いて欲しい、と思います。君津でもソメイヨシノが五分咲きになりました。せめて穏やかにお花見が出来たら、と思うのは、震災以降、いつも何となく将来起きるであろう地震への不安があるのでこんな風に考えるのかも知れません。桜は咲いている期間が短く、あっという間に散ってしまうように感じますが、満開になり、花吹雪、花筏、葉桜、晩秋には紅葉と、その時々美しく、心も和ませてくれるようです。その都度1番美しい姿を短い間見せてくれるので惜しむ気持ちも強くなるのでしょう。その点が花火と似ていますね。花が咲く前にお弁当を広げてお花見をしている方達も見かけましたが、楽しく過ごし親睦を深めるのにちょうど良いのだと思います。お花見もコミュニケーションのきっかけになり、今まで気づかなかった他者の一面に気付く、という事もあるかも知れませんね。
いずれにしても、私は桜と巡り合うのがとても楽しみでしたし、その幸せを今年ほど感じた事はありません。母に手を引かれて桜の咲く中を、小学校に入学したのは今頃でした。小川にはメダカがいて、あちこちにシロツメクサが咲き、教室の前の花壇には赤、白、黄色のチューリップが咲いていました。百葉箱や温室が珍しかった事や冬のダルマストーブにはコークスが燃料だったという事等も今とは随分違います。途方もなく変わったようでもあり、生活は便利になったけれど人間の本質というものはそんなに変わっていないのかも知れない、焦点の当て方次第という気もします。

4月3日、時代と列車

時代は私達ひとりひとりが作っていると言えるかも知れません。でも、目に見えない時代というものが、列車のように多くの人達を乗せて走っている、そんな側面があるような気がします。どこからどこへ行くのか私達次第であるけれど、行き着く先はどこなのか、その舵取りもとても難しいですね。こんなはずではなかったという事も多いのではないでしょうか。私は覚えている事で、最後の経口でのワクチン接種の時に保健師さんは優しかったけれどスプーンに入れられた液体は生臭かった、という事がありました。こんな風に、思い描いていた事と実際が異なる場合もありますね。ただ、せっかく今という時代に一緒に生きているのですからお互いに程良い心の距離を保ちながら、助け合って行きたいですね。輪になって、手を伸ばせば届く距離にいて、必要な時には手を携える事が出来る、その頃合いは難しいけれどそうありたい、などと考えました。旅立ちの季節、出会いの季節でもあるこの春に、どうぞ人とのよいめぐり会いがありますように。

4月1日、橋を渡る

私達は日常生活の中で、必要に応じて外出します。橋を渡る必要があれば躊躇なく渡る事が出来る、私はそう思っていました。幾年も前のある日、買い物帰りに綺麗な花の咲いている川の向こう岸に行きたくなり、橋を渡ろうとしました。ところが、怖くて渡れなかったのです。そういう事は今までに1度もない事でしたから、愕然としました。風が強い日で、橋を渡っている最中に風に飛ばされて川に落ちたらどうしようという、考えたらまずありえない事が起きそうで、渡れなかったのです。私はそんなに体重が軽いわけではない、橋は頑丈だ、いくら自分に言い聞かせても、怖い、という気持ちは簡単に変わるものではありません。あの時の私は何か新しい事をしようと思っても、そのプロセスに不安を感じていたのでしょうね。つまり自信を無くしていたのだと思います。こんな状態のままでは嫌だ、と強く思いましたので、毎日の生活を、内向きにばかりならずに外に目を向け、足を向けるように、少しずつ変えてみました。その内に気が付いたら自然に橋を渡れるようになっていました。好奇心という物があった事も幸いしたのかも知れません。石橋を叩いて渡る、というように、適度な用心深さは確かに必要だと思います。でも、川の向こう岸に行きたいのに、安全を確認しても橋が渡れなくては困りますね。心の深い所に躊躇する思いがあり、その理由の不合理さを実感し、どうしても前に進みたい、という強い気持ちが自分の背中を押してくれたのだと思います。自分の生きづらさの軽減には自分自身を省みて気付きを得る事がとても有効で、その力は誰にでも備わっている成長力というものなのだ、という事を身を以て知ったのはこの時だったと思います。

3月30日、自然界

妙な例えですが、寒い冬、厚い雲に覆われている日に南側のガラス戸に背を向けて座っていると、背中がとても寒くて片面焼きのグリルで焼かれている火の当たっていない側の魚の片面にでもなったようです。ところで、東京湾の館山沖の海底にはアマモという植物があり、イカやボラなどが揺らめいているアマモに寄って来て卵を産んだり花を食べたりするのだそうです。海の中でも花が育っているのですね。また、オホーツク海は流氷によってプランクトンの多い海となるのでアザラシや鷲など多くの生き物が集まって来る、との事です。アムール川の水が大量に流れ込む事がオホーツク海が凍る一因なのでしょう。東京湾もオホーツク海の流氷も、そのメカニズムを教えて貰ってもやはり神秘的で、食物連鎖や命の循環という生きる厳しさもそれが自然なのだ、と改めて感じ、葉っぱのフレディという本を思い出しました。それにしても東京湾を漂うように泳ぐカミナリイカは気持ちよさそうでしたよ。

3月27日、遊歩道は春の色

お彼岸も過ぎ、3月も残り少なくなって来ました。小糸川の遊歩道も、満開の河津桜で濃いピンク色に染まっています。春は環境の変わる方の多い季節ですね。学校でのクラス替え、進学や就職、職場での転勤や転勤に伴う引っ越しなど様々ですが、誰もが新しい環境に慣れるまで、いつもより心もエネルギーを使います。少し時間がかかっても新しい環境に慣れて希望が持てると良いですね。山の木々がぼんやり霞んでいるような時、葉の縁と中の区別はつきますが、1枚1枚の葉っぱの中はよく見えません。人の心の中もこのようになかなかはっきりとは見えません。他者だけでなく、自分の心も全部わかっているとは言い難いものだと思います。変化したり成長したりしますからいつも同じではありませんよね。親しい友人との別れはつらいものですが、新しい環境で出会った人達に良い刺激を受けてお互いに成長して行けると良いでね。

私は昔祖母が、この年齢になると朝目が覚めて、今日も生きていられて朝が来たと感じる、と言っていた事を思い出しました。当時別にどこか具合が悪かったわけではない祖母でしたので、学生時代の私には、そういうものかな、としか思えず、よく理解出来ませんでした。今、残りの人生の方が少ない、という年齢になって、老いて行く焦りや寂しさ、不安、悲しみ、といった気持ちがあの当時の祖母にはあったのだろうと気付きました。老いて行く厳しさや寂しさは、高齢になるほど切実なのだろうと思います。若かった私には共感する事が難しかったのですね。家族や友人が亡くなった時に私は辛さばかり感じて、ありがとう、とは言えなかったように思います。気持ちに区切りがつかないと、なかなか言えないものなのかも知れませんね。ありがとうやごめんなさいを、心を込めて大切に使って行きたいと思います。

3月23日、スイスの列車の旅

スイスの氷河急行の旅の映像が素晴らしかったので、私が見たままを拙い文章ですがお伝えしたいと思います。氷河急行はツェルマットとサンモリッツ、もしくはダヴォス間を走る列車です。ツェルマットはマッターホルンへの玄関口で、ここへの旅でした。
人間の善という物を色で表わしたらこういう色なのでは、というような、とても美しい物が溶け込んだようなブルーグリーンの沿線の湖を見ながら列車はゆっくりと進みます。柔らかい緑の針葉樹が並び、子供の国に足を踏み入れたかのようです。高みへと登って行くにつれ、黄土色から茶色になる草や木、そして雪景色に変わり、変化に富んでいます。標高4000メートル近いアルプスの夜明けも美しく、白んで来た空に横に一筋水色の部分が見え、やがて真っ赤な太陽が辺りを照らし出します。氷河が至る所にあり、モスグリーンの湖には霧がかかり、ものうそうに白濁して見えます。車窓から眺める景色の素晴らしさは言葉ではとても表しきれません。雪や氷河や草原、1つ1つの湖も皆色が違います。黄色い紅葉の美しいこんもりとした木々に囲まれて、クリスマスケーキの上のウエハースの家のような可愛らしい家が点在しています。メルヘンの世界に足を踏み入れたかと思えば、雪も空も透明感のある水色に染まっている所もあります。車窓に風景が流れ去って行くのが、本当に惜しいようです。終点が近づいて来て、マッターホルンが車窓にその姿を現しました。一筋の滝が以外にも繊細に流れ落ちています。マッターホルンは黒い岩肌を雪の間から見せ、その美しい姿で今日も静かに佇んでいます。こんな天空のような所まで鉄道を敷くなんて、人間というものは素晴らしく、また不可解でもありますね。夕日が山の下に、帯がすっと消えるようにあたりを真っ赤にして沈んで行く時、下は黒、そして上は薄紫の壮大なグラデーションでした。

3月21日、白

立春から春分の日までの間に吹く強い南風を春一番というのですね。ですから今年の関東地方は春一番が吹かなかった、という事になるのだそうです。珍しいですね。暑さ寒さも彼岸まで、と言いますが、東北や北海道も早く雪が融けて暖かくなると良いですね。昨日、冬の山形の旅番組を見ました。酒田から眺めた日本海は雪景色ですが、群青が白の裏地のようにうっすらと見えており重ねの色目の風情です。最上川の雪景色は、シャーベットか何かのように川がどんよりとしていましたので、まるで墨絵の世界に迷い込んだような 心地になりました。蔵王の大きく成長した樹氷は吹雪の中なのに真っ白に照り輝いていました。様々な白の美しさを楽しんだ贅沢なひと時でした。

3月18日、病人の気持ち

病気が重く、入院していて意識ははっきりとしているけれど治療法はなく、病状は日に日に悪くなっている、しかも自分の病状をお医者様から聞いて知っている、という御病人を見舞うとしたら見舞う側にとってもそれはつらい事だと思います。奇跡が起きて欲しいと願わずにはいられませんね。つい、大丈夫よ、頑張って早く良くなってね、などと言いたくなりますが、それは自分の状態を知っている病人にとっては慰めにならない事もあるでしょう。今のつらさや苦しさ、怒りや悲しみなどをスポンジが水を吸い取るように受け止めて欲しい、そうすれば気持ちが少しは楽になる、そのように思っているのではないでしょうか。大切な人だからこそ、それは難しいかも知れません。でもだからこそ気持ちを楽にしてあげる事が出来たら、とも思います。
見舞う側として、向き合うのでなく、マラソンの伴走者のように横に寄り添うような目線といいますか、そういう気持ちでのコミュニケーションがポインだと思うのです。私の知人で、そのような病状の親類や知人を何度も見舞うという方がいらっしゃるのですが、勿論どんな内容のお話だったかを他者におっしゃる事はありません。この方にその都度色々な事を話す事で心残りを少なくして旅立って逝かれた方もおそら大勢いらっしゃると思います。相手の身になるというほんのちょっとした心遣いから始められたのかも知れません。心の奥行のある方なのでしょうね。それは簡単にできる事だとは思いませんが、私も心がけて行きたいと思います。周囲の方達から教えられる事がとても多いと感じています。

3月14日、祖父の思い出

昨日蕗のとうの佃煮を作ったので、1日中台所に早春の香りが漂っていました。もうすぐお彼岸ですから段々春らしくなって来るのでしょうね。今日は祖父の思い出をお話させて頂きたいと思います。私の祖父は、優しい人でした。でも、絵本を読んでもらったりおぶって貰ったりした事よりも、大勢で旅行に行った時は何紙か新聞を買うと同じニュースをそれぞれの新聞がどう扱っているかがわかって良いとか、吉良上野介という人は賄賂を貰うのが当たり前と思っている悪い人間だったように言われているけれど、善政を行い領民から慕われていたという記録があるそうだ、などと言う人だった事の方が記憶に残っています。
出来事やある人を見る時に、どの側面に焦点を当てるかによって見え方が違って来るという事を私に最初に教えてくれた人だったのかも知れません。考え方が柔軟で、少年のような好奇心を持っている人でした。リーダーになる事もあるけれど、リーダーとメンバーを繋ぐ役割を担う事もあったように覚えています。こんな人だった祖父が生きていたら、変化が激しく、ひどくもつれた綾取りの糸のように私が感じる今という時代を、どんな切り口から話してくれたでしょうか。祖父の好きだった島崎藤村の小説の舞台木曽路を、いつか旅してみたいと思っています。

3月10日、今年の春

3月11日の震災から1年が経とうとしています。大地震が何時か起きる、という漠然とした、けれども実感の薄いそれ以前の気持ちが随分昔の事のように感じられます。被災した多くの方々にとってこの１年は想像もしていなかった困難の連続でしたでしょうし、普通の生活に家族そろって戻る事のめどさえつかないという方も多くいらっしゃる事と思います。失われた様々なもの、帰れない故郷、いまだに行方の分からない方の数の多さにも言いようのない思いがして胸が重くなります。
霜の降りた寒い朝でした。私は、晴れてはいても空はぼんやりと白く、冷たい風が吹いていて川の水面にはキラキラとさざ波が立っていたあのわずか１５分後に、あんな大きな地震が起き、これほど大変な事になるなどとは想像もつきませんでした。原発から放出された放射性物質は陸や海を、今も計り知れないほど汚染しています。
ともすれば押し潰されそうになる気持ちを何とか前向きに変えて来たのは、家族への思いや、人と人とが手を携えて生きて行こうとする気持ちを持ち、それを信じて互いに一生懸命自分の日々を生きている、という事なのではないかと思います。これといった事の出来ない私ですが、決して震災が記憶の中で遠くなってはいませんし、被災された方の事を思わない日はありません。このホームページは、悩みや葛藤のある方のお気持ちが少しでも楽になれば、と心から願って折々に思った事なども書いておりますので、どなたでも傷ついて疲れた心がとても辛い時、どうぞこのページにお立ち寄り下さい。私がこの地に住んでいるという事は、地震という事だけを考えると薄氷を踏む思いの毎日、という気もしますが、この春が多くの方の心の再生にとっても足掛かりとなるように願い、希望を持ちたい、そう思っています。

3月6日、様々な、待つ

先日セリを買って来ておひたしにしたので根の部分を小さな鉢に植えたら、寒いのに芽が出て来ました。成長したら収穫出来ますね。楽しみです。野菜や果物の栽培も、犬や猫などのペットも、相手の性質やペースを考えて、待つ、という事がとても大切だと思います。
これは子育てにも通じるものですね。自分の都合の速度で引っ張ったりかかわったり、という事はありがちな事ですが、1歩引いて見ると少し冷静になれるので、とても危険な事をしようとしているのでなければ10数えてから叱る、という事なども有効だと思います。一瞬我に返る事が出来ますから。見守って待つ事は、今の自分がワンステップ成長する事にもなるので相手と自分両方の為になりますね。忙しくてなかなか理屈通りには行かない、と思っていらっしゃる方も多いでしょうが、まずは焦らずに、御自分のペースで試してみて下さい。雨水を過ぎて、昨日は啓蟄、虫達も春を待っているのかも知れませんね。

3月2日、ひな祭り

子供の頃3月3日に学校から帰って来ると、家の中に入った途端に椎茸の煮えた匂いと酢の匂いがしていたという事が記憶に残っていますが、雛祭りなので母が五目寿司を作ったからなのです。そういう思い出をお持ちの方も多いのではないでしょうか。節分を過ぎ、母や祖母がお雛様を飾ってくれるのを見ていると何となくわくわくしてうれしくなったものです。どうして3月3日は今でも祭日ではないのでしょうね。
この頃になると、野菜の和え物の和え衣が変化しますね。ゆず味噌、胡麻和え、梅肉和え、酢味噌和え、三杯酢や二杯酢、というように和え衣が段々と濃厚な物から酸味や辛味のある薄い物になる事は、暖かくなって私達の着る物が薄い物になって行くのと並行しているかのようです。菜の花のからし和え、ウグイスきな粉なども早春を感じさせる色ですね。食べ物といえば、3月最後の給食にはパンが出ない替わりにパン屋さんが作った、出来立てで少し小さめの、バタークリームを使ったホールケーキが出、それを食べないで箱を持って帰った小学生の頃の私達でした。

2月27日、土砂降りの日に

土砂降りの日に、私はどうしても出かけなければならない用事があって外出しました。帰って来るまでに傘をさしていてもずぶ濡れになってしまい、靴の中まで水が入りひどい状態でした。帰って来て着替え、入浴したり洗濯物を洗濯機に入れたりしたのですが、その時にすぐにお湯が沸いたり、洗濯物を洗ってくれたり乾燥もしてくれる家電製品を当たり前だと思えなくなりました。自分が日々大変な贅沢をしているような気がして来たのです。電気炊飯器はタイマーをセットしておけばご飯を時間通りに炊いてくれますからその間に他の家事が出来ます。お手伝いさんが何人もいるようだと思い、例えば江戸時代に亡くなった私の先祖に、せめて1日でもこういう生活をさせてあげたかった、という気持ちになりました。昔の人の苦労があり、様々な物が研究開発されて来たのですから感謝して使いたい、そう思いました。

2月23日、イチゴの季節

店頭にイチゴが沢山並ぶ季節になり、それを見て、めぐり合わせ、という事をふっと考えてしまいました。
明智光秀は、近衛家あるいは足利将軍家に命じられて織田信長を討ったようですからいじめられたから恨んで、などという単純なものではないでしょう。信長は本能寺で、自分を討とうとしているのが明智光秀だと知った時、是非もない、といったそうです。自分の命運が尽きたという事を瞬時に悟ったのでしょうが、まるで100年も生きた人のように感じます。深い言葉だと改めて思いました。琵琶湖の近くの安土城は斬新なお城だったそうですね。信長の正室濃姫はその後どのように生きたのでしょう。秀吉の時代になって、安土殿、と呼ばれ大切にされたそうですが。
濃姫と明智光秀は従妹同士で、光秀は家族や近江坂本の領民に慕われていた紳士だったとも言われていますが、信長を討った事で細川家に嫁いだ娘玉は、婚家によって一時丹後の味土野に幽閉され、それがキリスト教の信仰、洗礼へとつながり、ガラシャと呼ばれるようになった理由なのですから、大変な苦しみがあってそのほどは本人にしかわからないものなのでしょう。岐阜産のイチゴ濃姫は、物言いたげに見え、その姿がしばらく目の奥に残りました。

2月19日、極北の旅

ブラジルではリオのカーニバルが始まったようですが、今は暑い夏なのですね。最近、ゆっくりとしたクルージングの番組を見ました。夏の北極圏への旅です。デンマークの首都コペンハーゲンをクリスタルシンフォニーは出航し、ノルウェーの西海岸へ向かいます。フィヨルド海岸を白夜の北極圏へと向かうのです。最初の寄港地モルベは、街に美しい薔薇がたくさん咲いています。映像から真っ赤なバラの香りが漂って来るように感じます。船はさらに北上し、それにつれて気温が下がって行きます。この船はゆったりとしたスペースの船室が並び、設備や料理などが豪華で、まるでホテルそのものです。やがて夜の北極圏に入り、荒涼としたツンドラの大地が見えて来てこの大地へ上陸します。船からバスに乗り換えると、サーミの人々が放牧しているトナカイがバスの横を走っているという光景に驚きましたが、ここでは少しも珍しい事ではないようです。その後船に戻った人々を乗せて船は出航し北緯71度を越えてノールカップ沖を通過、北緯80度あたりを航行して行くと流氷があり、7月で季節は夏だという事を忘れてしまいそうになります。スピッツベルゲン島へ近づいて行く船から夜の闇を見る事はありません。そこは白夜なのです。反対に11月末から2か月程の間は、正午の前後数時間しか太陽を見る事が出来ない極夜となるのだそうです。ツンドラの大地が広がるスピッツベルゲン島の辺りは濃いグレーの空が沖に行くほどいくらか明るくなり、氷河だけが見えるシャーベットのようなどんよりとした色の海が広がっています。氷河の白が灯りのように輝いて見え、地球上にこのような所がある事が何とも不思議に思われます。まるで別世界のように思えますが、サバンナや熱帯雨林があり、このような極北もある事で、地球上はバランスが取れているという風にも感じました。今この瞬間も地球上のどこであっても同じように時を刻んでおり、そこに人々の生活があるのですね。1500メートル級の山が続く海岸線からは滝も一筋の白い糸のように見えます。このように夏の短い所にも勿論人は暮らしています。冬にはオーロラを見に観光客もやって来ます。クルーズも後半になり、緑の生い茂るベルゲンが見えて船は入港しますが、水平線に登ったり沈んだりする太陽を見るのは私にとっても久しぶりのような気がして来ました。やがて静かに極北への旅は終わり、私も夢見心地で冬の日本にいる、という現実に戻って来ました。

2月15日、奥の細道

陸羽東線、陸羽西線を旅する番組を見ました。宮城県の小牛田から古川、鳴子、山形県の新庄までが陸羽東線、新庄から山形県余目までが陸羽西線の旅という事になります。こけしの里、滝や紅葉の美しい峡谷、稲刈りの終わった田んぼ、最上川、どこも行ってみたくなるようなすばらしい景色でした。松尾芭蕉が歩いた奥の細道は、当時の面影が残っている所が多くあるのでは、と感じるような風景でしたので、すっかり引き込まれてしまいました。今頃はかなりの雪が積もっている事でしょう。あまりにも美しい景色と去年の震災が重なり、自分の見たままをお伝えする事がとても難しいと感じています。
ただ、この美しい自然はずっと昔からあって、その後の時代を生きた芭蕉も見、これからも少しずつ変化して行くその姿を私達に見せてくれるのですね。人間に美しい姿を見せて癒してくれ、共存しているからといって、人間の思い通りになるものではなく、太古の昔からそうだったように自然は自然の時計を持って厳然として存在し続けて行くのかも知れません。悠久の時には始まりや終わりがあるのでしょうか。自然の持つ、普段あまり気付かなかった側面に圧倒されたような気持ちになりました。

2月12日、時計の針と蕗のとう

お子さんの卒業式や入学式にお母さんがお召しになるフォーマルウェアの広告が入って来るようになり、春の準備が次第に整って行く季節である事を感じます。年度が替わる季節になると、私は時計の針が急に大きく動いたように感じる事があります。このようにして時間が過ぎ、時代は変わって行く、連続してはいるけれど、1つの時代が終わり次の時代へと確実に移って行く、という事をずっと繰り返して来たのでしょうね。時間は何時でも誰にでも平等なはずなのにこのように感じる事もあるのですね。
そういう時に感じる、寂寥とこれから先への好奇心の入り混じった気持ちは、ほろ苦くておいしい蕗のとうにどこか似ていると思いませんか。

2月9日、雪の日

被災地の冬が厳冬にならないと良い、と思っていましたが今年はそうではありませんね。そんな中で雪の思い出を書くのは申し訳ない気がしますが、どうぞお許しください。千葉県のこのあたりは雪の降る事が滅多にないものですから、雪の降った日の事はかなりよく覚えています。小学校1年と２年の２月にそれぞれ１日ずつ、雪が積もったために学校が休みになった事がありました。室内の障子がいつもより白く見えた事を今でも覚えています。障子の白さと雪の白さは異質でその対比も楽しかったのです。ガラス越しに雪の降っている様子を眺めていましたが、好奇心で一杯になり、庭に出てみると本当に静かで、雪が木の枝から落ちる音が時々聞こえるだけ、ゆっくりと雪が舞い降りて来るにつれて辺り一面墨絵の世界に塗り替えられて行くのが不思議でもあり、新鮮でもありました。そこには、まぶしいような白とシャーベット状になったグレーのような白がありました。歩くと、サクッ、サクッという音がしましたっけ。小学校１年の時が実際に雪の積もるのを見た最初だったものですから、何か非日常のような１日だった気がします。翌日登校して皆でカチカチに凍った校庭を長靴で滑って遊びましたが、同じ事はもうないですからあれは私にとって一生に1度の事だったのですね。雪の日のあの静けさを、人間が様々な不安を抱え、喧噪の中を気忙しく動き回っている今だからこそ思い出して自分というものと向き合い、他者との関わり方も見つめたい、と思ったのかも知れません。何かに追われるようだとか、取り残されたくない、と思っていらっしゃいませんか。友人から、忙しいという字は心を亡くすと書くと教えて貰い、はっとしました。この友人からは色々と教えられる事が多く、感謝していますが、特にこの言葉は心に残りました。

　　　　　　　　　　

2月6日、空

携帯のカメラで時々写真を撮るのですが、最近、一瞬で微妙に変化する空をとても美しいと感じています。寒くても晴れた日の空は真っ青で、澄んだガラスのようです。曇っている日、日の出は、雲が太陽に染まってオパールのように見えますし、日の入りの様子は幾層もの雲を複雑に染めた夕焼けが息を飲むほどきれいです。季節によっても雲は随分違います。暦の上では春になりましたので、今度は地上を見て蕗のとうを探してみたのですが、まだ1つも見つかりませんでした。袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つ今日の風やとくらむ、という紀貫之の歌を思い出しますね。スーパーにはせりやうどなどが並ぶ季節になって来ました。
私の母はこの季節に亡くなりました。間もなく梅が咲くという時でした。その夜は梅の蕾が夜空に白く浮かび上がっているように見え、底冷えのする晩でした。白梅ばかりでしたので、片化粧のようだとぼんやり思ったものです。今日は春の香りを探して来て母に供えようと思います。インフルエンザが猛威を振るっていますので皆様どうぞお気を付け下さい。

　　　　　　　　　　

2月2日、節分

もうすぐ節分ですね。年の数だけ豆を食べるなどと言いますがそうすると、私も食べる豆の数が随分多くなって来ました。大豆を炒っていて豆にゆっくり火が通って来ると、香ばしい濃厚な匂いがして来て、1つまた1つと脱皮するかのように皮が剥け、豆はポーンとはじけ飛びます。もうすぐ年度替わりなので、子供は1つ学年が上がりますね。ですから、この豆のように子供達もこの時期には、脱皮するように心も少しずつ成長して行く、という風に思え、節分が何か象徴的に感じられます。子供は夏休み明けに体が一回り大きくなった、とか身長が伸びた、などといいますけれど、知識を得、心もきっと一回り大きくなり、陰影が付いて来るといいますか、奥行きが出て来て複雑になり、だんだん大人になって行くのでしょうね。なんでも親に100パーセント話すわけではなくなり、無口になったりいらいらしたり、反抗したりするのは無事成長して来た証なのだと思います。どんな私でも受け止めて、という気持ちになる事もあると思います。成長して行くプロセスでは不安を感じる事もあり、親に見守っていて欲しい気持ちや子供扱いしないで欲しい気持ちが混ざっている、といった風なのでしょうね。私も通り過ぎて来た道です。

1月29日、自分と人は

苦手な人や嫌いな人はいないという方は、とても少ないと思います。自分と正反対な言動をする人に不快な気持ちを抱く事はないでしょうか。それは自分に出来ない言動、つまり生き方をしている人への羨望が無意識にある、という事も考えられます。そんな事はありえないと思う方もいらっしゃるでしょうが。私はこのように実感する事も多いので、自分と人は別の人間なのだから、考え方や感じ方が違う、それはむしろ当然で、どちらが上でも下でもなく色々な価値観を持った人がいる、と思うようになりました。当たり前な事かも知れませんが、学生時代などはなかなかそんな風には思えませんでした。考え方の違う人達とかかわりながら色々と教えられ、助け合って生きて行くという事は、利害関係があると難しいものです。でも、人間は１人１人違うけれど同じ人間同士で、同じ人間同士だけれど1人１人違うのだ、という当たり前の事を実感出来るといいますか、心から納得できると、嫌いな人が少し減って来るかも知れませんよ。自分も人も同じように尊重出来ると良いですね。生きづらさの軽減のためのキーワードでもあると思います。寒さの底にいて春の兆しに敏感になっている今日この頃の私です。

1月25日、メンタルスクリーン

20日は関東で雪の降った所が多いようですね。ここでは明け方みぞれが混じっていましたがその後は雨になりました。21日は大寒でしたので、小学校低学年の頃、マラソン大会があった事を思い出しました。当時給食の調理は学校内でした。マラソン大会の日のお昼には決まって白玉入りのお汁粉が出、独特の食感が、苦手でも頑張ってホッとしている私にとって何とも心地良く感じられたものでした。
今日、食事の支度をしていて手動の泡立て器の底に何となく目が行きました。糸でかがった色とりどりの模様が美しい工芸品の手毬の形に似ている、と思うと、また子供の頃への扉が開きました。4歳位の頃だったと思うのですが、お腹を押すと音のするママー人形という人形をよくおぶって遊んでいました。布で出来ていて大きな帽子を被り、エプロンを掛けていてお腹を押すと、ママー、と泣いているような音がする物で、まだ目が動く人形のない頃でした。人形の洋服が綻びると母が花模様の端切れで繕ってくれ、私はその人形に名前を付けてとても大切にしていました。
今日は、あの頃の自分になったような、それでいてあの頃の自分を今の自分が見ている、というような、2つの感覚を実感したものですから、楽しさや懐かしさが2倍になり、心に栄養が行きわたったような温かい気持ちになれました。あの頃の自分の映像が浮かんで来て、その時の気持ちを今ここで実感する事なく今の自分がその映像だけを見ているように感じる場合は、メンタルスクリーンを外側から見る、などといいますよ。

1月22日、動物

家には猫がいますので、予防接種や、元気がなく何も食べない時など動物病院に連れて行きますが、病院の入り口は透明なガラスの扉です。ここを開けるたびに、この1枚の扉の内側と外側の違いを感じます。猫が病気になっても人間のように健康保険はありませんから私にはあまり高額な治療は無理なのですが、飼い主から可愛がられ、家族と思われている動物と、事情はあるのでしょうけれど捨てられた動物とでは随分違う、と感じるのです。土砂降りの日に、動物を飼う事が出来ない事情を常々話してあったのに、子供が段ボールに入れられて公園に捨てられていた子犬や子猫を拾って来た時、皆さんはどうなさるでしょうか。私もかわいそうという気持ちと飼う事の出来ない現実を考えるとどうしたら良いか難しいとは思います。約束を守る、ダメな事はダメ、という事を教える事は躾として大切ですけれど、雨にぬれていた子犬や子猫がかわいそうで放って置けなかった子供の優しさも否定しないであげたいですね。動物アレルギーのような場合はやむを得ない、と思いますが。今すぐ元の場所に置いて来なさい、というのはちょっと酷のような気がします。優しさの芽を摘み取らずに一緒に考えられたら、と思います。

1月18日、夕暮れ

よく晴れた日は夕焼けがとても綺麗です。外にいて、家の中に入ろうとした時振り返ってもう1度夕空を見た瞬間、ずっと昔、何百年も前にも人が生きていて、今の私のように夕焼け空を振り返って見る、という事があったのだろうと気付きました。考えてみれば当たり前の事ですが、こんな風にしみじみと実感したのは初めてです。また、幼い頃の自分がこのようにして夕焼けの美しい空をじっと見ていたある日ある時まで、突然ゆっくりと逆戻りしてその頃の風景や、空気の澄んでいた事までも味わって現在に戻って来たような気持ちになりました。デコボコと段差のある手すりをどこまでも触っているような感覚で逆戻りしたという感じです。これはきっと私の心が時間を超えてすうっと旅をして来たのでしょう。
人間がずっとこの地に命を繋いで来たという事は、血の繋がりだけでなく、人間が存在しながら様々な物と共存し、知恵を働かせ、愛情を持って次の世代の人間に生きるという事のすべてをバトンタッチして来たと言えるのではないだろうか、などと久しぶりに考えてしまいました。それはきっと、温かくもあり厳しくもあり、ごく自然にというようであって、しかし重くもあるという風に、渡してくれたのでしょうか。

1月15日、春の足音

寒に入って一段と寒さが厳しくなって来ました。大寒の頃が寒さの底でしょうか。ですが、毎朝霜で真っ白になる庭に桜や藤、牡丹の新芽が育っています。植物には春の足音が聞こえているのかも知れませんね。入学試験を受ける方、風邪に気を付けて、努力を積み重ねて来た自分の力が出せる、というプラス思考で試験に臨んで下さい。そうすると実力が発揮出来ますよ。応援しています。

1月14日、お正月の旅

船箪笥という物をご存じでしょうか。引き出しに細工がしてある船箪笥は、元々船大工の遊び心で作られた物だったのだそうです。佐渡には今も、嵐で海に投げ出されても決して沈まないというこの船箪笥を置いてある店があります。とても頑丈で重そうなのに沈まないというのは不思議です。船箪笥に誘われて北前船の時代を訪ねてみたくなりました。佐渡は日本の古い文化がひっそりと今も息づいている所でもあるのですね。鉋の音や木の匂いが私にも感覚から伝わって来そうな気がします。削られた薄い木屑、行き交う人々、波の音、海の色、星の美しい夜空までもが目に浮かぶようです。お正月の旅を、テレビのおかげで楽しんだ気分です。皆様はどこかにお出かけになりましたか。

1月12日、防衛の実際

人間も必要に応じて、自己防衛を無意識にしている事がありますから、進化とは少し違いますが、やはり身を守って生きているのですね。例えば、とても辛い出来事を忘れる、という事などもその辛さに直面する事が耐え難い時に、自分を守る為に心の奥深くへその出来事を押し込める、つまり抑圧して心のバランスを保って行こうというメカニズムが働くからなのです。自分を知り、他者とスムーズなコミュニケーションを、と考えた時自分の心の深い所を見て行くとどのような人との関わりが何故苦手なのかに気付く手掛かりがつかめます。自分の心の中を全て知る事は出来ませんが、自分が受け止める事の出来る深さまでを自分のペースでゆっくり見て行けたら良いですね。それは一歩階段を上がって少し視野が広がったような状態になります。自分を知るのは自分だからこそ見えない部分もあるので、文字通り奥が深いですが生きづらさを感じた時には少し自分の心と向き会って今の自分を知り、心を解放する事が出来れば、と思います。そんな時にはお気軽にカウンセリングルームにお越し下さい。人には、自分を見つめ、成長して行く力が備わっており、様々な気付きを得、人間関係の再構築の新たな1歩を踏み出す事も、自分の心のあり様の再生かも知れません。
それでは、防衛機制の例をお話してみたいと思います。私が小学校1年生の時の担任の先生は、ベテランの女性の先生で字も絵も、オルガンを弾くのも上手で、今思えば、1人1人の子供達についてよく把握していらっしゃったと思います。学校にスムーズに溶け込み順応出来たのも先生のおかげだったと思い、感謝しています。ところが、この先生が翌年転勤なさったのです。雨の降りしきる中、花束を抱えた先生が校門を出、遠ざかって行かれたあの日の痛みのようなやり場のない悲しみ、心の中は本当に辛い思いで一杯になり、それはその後もしばらく残りました。2年生になり、新しい担任の先生に何の不満もなく一見楽しく学校生活を送っていたような私でしたが、前年担任だった先生のご住所を、忘れてしまったのです。多分そうでもしないとこれからの学校での毎日に適応して行けなくなるので、防衛機制が働いたのでしょう。ですから、私は今でももう1度あの先生にお会いしたいという気持ちがあります。小学生だった時の心残りの出来事なのでしょうね。

1月9日、進化と再生

アフリカのキリマンジャロ付近の植物は気温が下がると葉を閉じ、太陽が昇って気温が上がって来ると葉をゆっくりと開く物があります。マイナス5度位まで下がるという厳しい気温の変化に耐えられるように体の下の方の部分を自身の枯れた葉で覆い、閉じている緑の葉の上に水を溜め、その水が時間をかけて蒸発する事で、やはり気温の急激な変化に体がついて行けるように進化したこのような植物があるのですが、雪の降る冬がなく暖かい所では、植物が巨大化するという風に進化した物もある事を知りました。環境に順応し自分の身を守って生きる為の手立てが自然に備わって行くのは何か神秘的にさえ感じられました。私の家の鉢植えの柊は、去年の秋の台風の塩害でほとんどすべての葉を落としてしまい、木が枯れたのではないかと思っていたのですが、そのうちに次々新芽が出て来て今ではかなり元に戻りつつあります。これなど再生と言ったら良いのでしょね。良く晴れた1月5日の日の出の写真を撮りましたので、どうぞご覧下さい。

1月6日、感覚から記憶をたどる

カロリーゼロのラカントのキャンディーを食べました。甘いけれどひんやりと冷たく固いという所が砂糖とは正反対です。何か人工的な物、という感じがします。久しぶりにキャンディーを食べたら、キオスクのドロップを思い出しました。私の家から駅までは子供の足で30分位でしたが、昔は歩いて行くのが普通でした。あたり一面田んぼで家々が点在している、という風景が広がっていた事を覚えています。田んぼには餌を求めて白鷺が何羽も舞っていました。キオスクで売っていたのはドーナツ状の物で、ひと包みの中にイチゴやオレンジ、レモン、チョコレート、ミントなどの色とりどりのドロップがきれいに1列に並んでいました。高度経済成長の時代でしたのでドロップが珍しかったわけではありませんが、母と出かける事が少なかったのでよく覚えているのだと思います。空が真っ青でミンミン蝉の声が聞こえ、宿題のメドがついた夏休みに食べた物と、クラス替えがあるのだろうかとか担任の先生はどうなるのだろうか、などと思いながら小さな不安を感じてうす雲の広がっている空をぼんやりと眺めていた春休みに食べた物とでは同じドロップでも味が随分違うように感じました。絵具がきれいに並んでいるパレットのような色とりどりのドロップに、今とは随分違うあの時代が重なり、それからずっと続いて来た日々が今という時代に至っている事が不思議な事のように感じます。何か玉手箱を開けたらあっという間に子供だった私が今の年齢になったような気がしますので。
今日、ラカントのキャンディーを食べた事で色彩が印象に残っている記憶が蘇りましたが、記憶に残っている出来事の印象は、その時の自分の感情だけでなく、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という感覚のどれかが強く心に残っていてそれを思い出す事が出来ると、自分の心と向き合い見つめて行き、心残りの気持ちを整理して行く時にそれが心の扉を開けるドアノブの役割を果たしてくれる、と思うのです。また、例えば不快な気持ちになるといつも同じ匂いがする、という場合には、子供の頃のとても辛かったり悲しかったりした時にその場にあった物の強い匂いだけが記憶に残っているという事も考えられます。出来事その物はあまりにも辛かったので防衛機制が働き、覚えていないけれども、感覚、この場合は嗅覚の記憶は残っているわけで、そこを辿って行くと今の自分の葛藤との関係が見えて来る事もありますよ。音だけが記憶に残っている場合は、聴覚を辿って行く事がポイントになるでしょう。
私はこの日、スーパーのフリース売り場に行きたくなり、久しぶりで行ってみました。色とりどりのフリースは、パレットに絵具を出したように見えますからそういう気持ちになったのでしょうね。

1月3日、心の傷が見えますか

皆様はどのようにお正月をお過ごしでしょうか。お正月でも仕事をしていらっしゃる方、受験生、帰省してご両親と故郷でお雑煮を祝った方など様々でしょう。私はここ何年か初日の出を見るのが楽しみの1つです。朝早く起きて筝曲を聞きながら炊事をしていると昔の事を色々と思い出します。気が付けば半世紀以上生きているのです。あっという間なのか長く生きて来たのか、よくわからないのですが。ところで、今年は、母は文楽が好き、祖父母は歌舞伎が好きだった事をほのぼのとした気持ちで思い出しました。
思い出してほのぼのとした気持ちになったというのとはちょっとニュアンスが違います。母が亡くなった翌年のお正月など何を思い出しても悲しく、母が亡くなったという現実さえ認め難かった、と思います。毎日の暮らしの中でいつ何をどのような順番でしなければならないのかという事は優先順位があり、そのような手順に従って一見スムーズに毎日を過ごしていても、心に負った傷といいますか、悲しみにはちょっと瘡蓋が出来てその傷を一応塞いでいるだけ、といった状態で心のバランスは崩れていたのでしょう。心の傷の程度は、自分にさえわかりにくいものです。まして、人が外から見ても見えません。日にち薬、という言葉がありますが、時間が経つ事で気持ちが落ち着いてつらい現実を受け入れ前向きになって行ける場合も多いものです。私にとって母が亡くなったという事を受け入れるにはかなりの時間が必要でした。今、傷は抜糸も済んで大分目立たなくなった、と言ったところなのでしょう。ですから今をマイナスに感じているのでなく、今を受け入れ認めながら昔を思い出すと、アルバムは動画のように開くのですね。母が生きていた頃に比べて今は寂しいから昔が懐かしい、というのとは少し違うと思って、こんな風に表現したというわけなのです。
朝、箱火鉢のネコ板の上にお茶を飲み終わった皆の湯飲みが載っていた随分昔の光景をふっと思い出し、久しぶりに母の湯飲みでお茶を飲んでみました。そこに一緒に母がいるようでもあり、母がいない現実を文字どおり咀嚼し呑み込めた、という気もしています。
傷ついた心に目を向け、優しく扱って行く、という事が困難な時には、カウンセリングルームへどうぞお気軽にお越し下さい。カウンセラーはあなたの心の回復力を信じてお話をお聴きして行きます。あなたの成長力を信じ、カウンセラーが共感しお話をお聴きする事が、見えない傷の回復のための消毒や針、糸になって行きますよ。

1月2日、介護

毎日ご家族の介護をなさっている方もいらっしゃると思います。寒さの厳しい季節ですので、介護する方ご自身のお身体も大切になさって下さい。主介護者は心も疲れていてゆとりがない、という場合もあると思います。ご家族の協力が不可欠だと思いますが、気持ちを汲んで話を聴いてさしあげる事もストレスの軽減にとても役立ちますよ。理解され、支えられていると感じる事は心強いものですから。お加減が良くなくて介護されている側の方にも、自分で自分の事が出来ないもどかしさと、介護してくれている家族への遠慮や気兼ね、という様々な思いがある事と思います。その気持ちも汲み取ってさしあげて分かり合い、共に今年も暮らして行けたら良いですね。そのようなストレスの軽減に、カウンセリングもぜひ活用なさって下さいね。それから、遠く離れて暮らしていても電話や手紙、メールなどを送る事で介護している方、されている方にあなたのお気持ちはきっと伝わり、励みになりますよ。

1月1日、北風と太陽

新年を迎えました。今年もどうぞよろしくお願い致します。国境を武力で変更してはならない、これは冷戦後に言われるようになった言葉だそうです。人の心も似ているように思います。自分の心と向き合う時も、北風でなく太陽のように温かく接してあげると自然に自分が見え始めて来ますよ。今年は、自分で自分をゆっくり安心させてあげられると良いですね。また、他者に対しても同じではないか、と思います。晴れた日のもうすぐ空がオレンジから朱に変わる夕方、黄金色に染まった海の波は次第に黒く縁取られ、夜の色にその座を譲ろうとしています。そして今日の太陽は沈んで行く瞬間を迎えます。ずっと昔から繰り返されて来た静かで美しい光景ですね。人もその中に生まれ育まれて、他者とかかわりながら生きて行くのですから、互いを大切にし合って実りのある日々を過ごして行けたら、としみじみ思います。今年が皆様にとって良い年でありますように。

12月30日、年の瀬

もうすぐ今年も終わろうとしています。流れゆく大根の葉の早さかな、という句を思い出す季節ですね。冬の思い出は、私が子供の頃が今と連続しているけれど今とは随分違う時代だった、と感じる点がとても多いように思います。柴わんこの和の心、という本や番組をご存じでしょうか。昔の日本のしきたりや行事を紹介した作品ですが、あのような日常だったと思います。冬物の衣類を用意して貰いましたし、白菜を塩漬けにしたり、沢庵にする大根を干したり大掃除をしたりと、大人達はどこの家でもいつもより忙しく立ち働いていました。お飾りを作る、餅つきをする、お節料理を作る、と言った事をする親達を何となくワクワクしながら見ていました。冬のイメージは白です。大根やお餅が白い事に加えて、新たな年が始まるという事は新しい1ページを開くように思えるからなのだと思います。丁寧にきれいに作られたお飾りはお支度の整った花嫁さんのような物で、飾るともうお正月が来たようでした。餅つきが終わる頃、疲れて来るとちょっと雰囲気がザラッとしたものになる事もありました。そういう時の大根おろしを使ったからみ餅はいつもより辛く、舌にヒヤリと冷たく感じもしました。それでも、思い出すと懐かしいのですから不思議ですね。私も母を真似て毎年お節料理を作っていますが、いつまで経っても母にはかないません。今年も大根をほんの少し干しました。
除夜の鐘の鳴る頃、東京湾のどこかに停泊中の船なのでしょうが、汽笛が聞こると希望とか、家にいるのに旅情のようなものを感じます。
今年、ホームページを読んで下さって本当にありがとうございました。皆様どうぞ良いお年をお迎えください。

12月28日凍った桜、意識と無意識のはざまで

今年を表わす言葉は、絆、だそうですね。皆様にとってはどんな年だったのでしょうか。私も今年を振り返って見ました。毎年春には桜を眺めながら歩くのが楽しいと思うのですが、今年は震災から色々考える事が多く花を見ても心が和みませんでした。地震が起きる前と今とでは、何か違った時間を生きているような気がします。まるで、今まで読んでいた本がそこで終わり、全く違った分野の本を新しく開いたかのように感じられます。別の尺度がそこにあるような。
地震が起きた時、私は外を歩いていて、道路を横断しようと思い、左右を見る為に立ち止ったところでした。腰のあたりを後ろの方向へ大きな力で引っ張られる様に感じ、突然今まで経験した事のないようなめまいがしたと思って、その近くのお宅にお願いして救急車を呼んで頂かなくては、と考えたのですが、本能的に早く家に帰りたいとも思いました。その内、まわりの家々から人が出て来て話をする事が出来、大きな長い地震が起きている事にようやく気付いたのです。踏切は遮断機が下りたままでもう渡る事は出来ず、1番近い陸橋を渡って家に帰りました。
その夜テレビに映し出された光景は、広範囲でのあまりにも大きな被害なので、始めは自分の目と耳を疑いました。台所で茶碗を洗っている時、仙台で大勢の方のご遺体があるようだ、とラジオで聞き、戦争をしているわけでもないのに、という言葉が口をついて出て、涙がこぼれて来ました。信じられないような出来事に混乱と恐怖で止まったようになっていた感情が、今起こっている現実を認識し動き出した瞬間だったのだろうと思います。
言葉にならない驚きと痛ましさを感じ、その後も気になってテレビを見ていました。買い物に行くと品薄でしたし、燃料も不足していました。原発事故はあっという間に拡大し、今もはっきりとした収束の見通しが立っていないのは周知の事実です。私は被害のなかった地域の自分の家でテレビを見ているのがたまらなくなりました。今何も出来ない自分がもどかしくてならないけれど被災地に行く事は出来ず、行っても迷惑をかけるだけだという事はわかりました。計画停電というものも初めてで電力が無限のものではない事も実感しました。
余震も多いけれど、とにかく自分の日常を取り戻そうと考えました。じっとしていないでいつものように運動し始めると、地震の影響のめまいを感じる度合いが少なくなって来ました。ラベンダーの香りの入浴剤を使ったり、モーツアルトのCDを聞きながら家事をしたりもしました。ですが、それは私の思考に基づいた行動であり、自分で意識している部分でだけなのです。意識は氷山のわずかに見えている部分でしかなく、私の9割を占める感情や感覚は私にも実態がつかめていない未知の部分が多い、無意識なのです。余震や放射性物質への不安、先の見えない日々を生きている緊張感、それは非日常というものに思え、自分をリラックスさせ、日常へ戻すためには、感情や感覚の感じている不安や緊張が解けないとなかなか難しいという事なのだと思います。それに、自分が地震の起きる前とほとんど同じ日常生活を送る事は、行方不明の方が沢山いらっしゃるのですし、被災地の方々の不自由さを思うと申し訳ない気持ちになりました。原発の近くの方は、命にかかわるので家を離れなければならない、いつ帰れるのかわからずに先祖代々暮らして来た故郷を離れたわけですから、そのお気持ちはいかばかりかと思います。
そのような事を考えますと、戦後の社会の繁栄は、私達もその結果を享受し、確かに生活水準は向上したけれど、1人1人の人間の価値や尊厳というものを割り引いて来た、あるいは割り引かれて来たのではないか、という気がして来ます。この青い地球を次世代に引き継いで行く為には、自然と共存し、畏敬の念を持って、今この瞬間も、生きている地球とのコミュニケーションをとって行く事が大切だと感じます。しかし、それを改めて感じ、考えるきっかけというにはあまりにも犠牲が大き過ぎます。
突然、家や家族、町までも失い、命が助かったのだから亡くなった人の事を思えば、と思っても、時間が経つにつれて不安や焦燥感、後悔、怒りなどを感じるようにもなるでしょう。その心の中は似通っていても人によって微妙に違うでしょう。悲しみを外に出せないで現実の生活をなんとかして行こうと頑張っている方も多いと思います。けれども、悲しみはいつかどこかで、どのような形でも良いですから出す事が出来れば、と思うのです。そうでないと、心のバランスが崩れる事もありますから、とても心配です。親を失った子供は今朝学校に行く時送り出してくれたお母さんのいつもと同じ元気な顔が鮮明に残っているでしょうから余計に混乱したり認め難かったりもすると思います。根底に不安が大きくあると、体調が悪くなったりもします。元気そうに見えても心は傷を負っているのですね。つらい気持ちや悲しい思いを出せなかったら、出せないままの状態でいる子供をそのまま受け止め、寄り添ってあげる事がとても大切です。
このように様々な事を日々考えながら不安を抱えて来た私は、意識出来ている思考と、無意識である感情や感覚のはざまを行ったり来たりしているようでした。揺れ動いている私の心の中で、今年の桜は凍ったままの状態になっていたのでしょうね。
そんな中で、世界の多くの国の支援や、共にいる、というメッセージ、そして多くの日本人が痛みを分かち合い、一緒に頑張って行こうという思いを持っている事は、人間関係が希薄になっていると思っていた私に希望を与えてくれました。この事を大切にして行きたいと、年末になり、カウンセリングルームの中で今年を振り返って改めて思っています。被災された方が命が助かって良かったと思えるようなかかわりを、小さな事からでも息長くして行けたら、と思います。

12月25日、オリオンの星の瞬き

オリオン座の星々の瞬きに、私は明日の朝寒いだろうなあ、と見とれながらも感じています。数年前の晩秋に親しくしていた女性が亡くなり、そのお宅へ伺った事がありました。年齢が近く、私が尊敬しとてもお世話になっていた方なので、訃報にまさか、と思いました。否定したい気持ちだけれど本当の事だから知らせてくれたのだ、と心の奥で認めざるをえませんでした。
翌月、そのお宅へ伺った帰りに駅でベンチに座って電車を待っていた時、ほんの1、2分位だったと思うのですが、太陽が私を前方のやや高い所から真っ直ぐ照らしたのです。それはちょうどそういう時刻だったのでしょうが、師走だというのにとても暑く、そのエネルギーに驚きました。非科学的でしょうが、私は彼女が、私が来た事がわかって喜んでくれたのだ、そう思ったのです。その時から、彼女は何かを考えたり感じたりして行動する入れ物である体は消滅してしまったけれど、心というか魂のようなその人の本質その物は、決して死ぬ事はなく、ただ私の目に見えないだけで、永遠に存在しているのだ、という気がして来ました。そして、私が嬉しい時にはきっと一緒に喜んでくれる、そんな風に思え、それからはオリオン座の星の瞬きが彼女からの見守っているというメッセージのように感じられるようになったのです。
人の訃報は知らない人にとっては1つの情報でしかないけれど、親しかった人達にとっては大きな衝撃です。でも、その旅立って逝かれた方はその姿は確認出来なくても、思い出として、あるいは亡くなった方の心は、あなたがそのように思えばあなたのすぐそばで見守っていてくれる、存在しているのではないでしょうか。今年は東日本大震災でご家族や親しかった方を亡くされた方が多いでしょう。親しかった方を亡くされた、という方、亡くなった方の心はあなたのそばできっとあなたを見守っていてくれると思います。あなたのペースで少しずつ小さな灯のような希望を見つけ、生きて行く事が出来ますように祈り、そしてそういう力を、皆持っているのだという事を、私は信じたいと思います。

12月21日、年賀状

携帯電話やパソコンのメールで新年の挨拶をする方も多いと思います。早いですし、沢山の人と交流をするのも楽しいですね。今年ご家族を亡くされた方は、喪中なので新年の挨拶は遠慮させて頂きます、というお便りを今月の半ば頃までに投函なさる事と思いますが、そういうお便りを頂いて初めて、親しい方がご家族を亡くされた事を知った場合には、お悔やみの気持ちを何らかの方法で伝える事が多いでしょう。ですが、お便りを頂かなくてもその事を知っていて遠方に住んでいる場合もあると思います。
家族を亡くした直後は、悲しんでいる暇もないほどしなければならない事が多いけれども、法事などが済むと心にぽっかり穴があいたようになります。そのように家族が亡くなったという現実に否応なく向き合わなければならなくなり、しみじみと寂しさを感じて過ごしたその年が暮れ、元日に郵便受けを開けても年賀状が1枚も来ていない事が、寂しさのダメ押しのように感じる事があります。そんな時に、寒に入って頂いた寒中見舞いは嬉しいものなので、私もなるべくそのようにしています。私が頂いた寒中見舞いは水仙の描かれたとてもきれいな物でした。さりげなく気遣って下さっている文面で、灯がともったように心が温かくなりました。今年は、震災で助け合う人の和の大切さを実感した方が多いと思います。ご家族を亡くされた親しい方を思う気持ちを、年が明けて寒に入ったら寒中見舞いを送る事で表してみては如何でしょうか。

12月17日、自分の体からの声に耳を傾ける

地震や原発事故という今までにない災害が起き、先行き不透明な中で様々な不安を抱えたまま師走も残り少なくなって来たと感じていらっしゃる方が多のではないでしょうか。年末は何かと忙しくなりますが、くれぐれもお身体を大切になさって下さい。私は以前、怪我をする事が多かったように思います。それは、もう少し考えて行動すれば転ばないとか、よく見てから鋏を使えば手をひどく切らなくて済んだ、などという事なのです。また、何となく体調が普段より悪いと感じた時など、気のせいだと思って放って置いたために治りが悪くなった、という事もありました。怪我も体調不良もそれほど深刻な状態にならなかったとはいえ、焦って自分のペースを大切にしない、体からのサインを無視し放置していた、というわけです。何々すべきだ、何々しなければならない、という自分の考えと、何々したい、という自分の気持ちや感覚とのバランスを無理なく折り合うようにして行く事はとても大切だと思いますが、その前に自分の体からのサインも大事です。それは時には悲鳴かも知れません。もう少し、とか、たいした事はないだろう、などと頑張り過ぎない事も必要なのでは、と思います。入れ物である体が出来るだけ健康である事が考えたり感じたりした事を行動に移す時には不可欠です。頑張らざるを得ないかも知れません。でも少しだけ立ち止まって御自分の心身に優しくしてあげて下さいね。

12月13日、リバークルーズ

エジプトのナセル湖への船旅は、1800年代に作られた観光船で行く事が出来ます。穏やかで水量豊かなナイル川を、船は滑るように進みます。1000万人以上の人々が暮らすカイロの街には水煙草を吸っている人が沢山いる、という事が日本とはまるで違う所です。旅はルクソールから始まるのですが、船には古い豪華な家具調度が置かれています。歴史を刻んだ豪華な美しい椅子はどっしりと重く、精巧に作られていますが、それは光だけでなく歴史の襞の中にたたみ込まれ隠されてしまった様々な出来事や、この椅子に座った多くの人の人生の悲しみ、といった影の部分をも刻んで存在し、今日に至っているようで、そう感じると私はこの椅子に気圧されてしまいそうな気持になりました。歴史のある古い物を理解し、懐かしい物のようにいつも思えるとは限らないのですね。違和感を持つ事もありますし、自分の日常の一部に取り入れて暮らすには、歴史の影が重すぎて反発すら感じる事もある私は、ただ古いというだけでは好ましいとは感じられないようです。どこか緑の葡萄に似たオアシスのような遠いエジプトの川筋の町並みの映像を見ながら、そんな事を思いました。

12月10日、柿の木

今朝は冷え込みましたね。初霜、初氷でした。ところで、家の西側に柿の木があります。今頃になると、葉が赤く色付き少しずつ葉脈が染まって行く様子は、絹糸に繊細にグラデーションを付けるようにして染め上げて行くようで、赤くなった柿の実と共に夕日に映え、厳しい寒さがやって来る事を一瞬忘れるほど美しいですよ。きっと去って行く季節を名残惜しく思っているので、ガラス越しに見えるこの紅葉した柿の木をいっそう美しく感じるのだと思います。私は今が1番美しいという時期を少し過ぎた物、あるいは少し手前の物が好きだという事に気付きました。最盛期を過ぎた物には季節と共に去り行くその物を惜しみ、その余韻を、成長途中の物には希望を感じるのでしょう。寒くなって来ましたので、インフルエンザにお気を付け下さい。

12月7日、運転しながら何かをする

今年特に多いように感じるのが、運転しながら何かをしている人です。自転車を片手で運転しながら携帯にメールを入力しているとか、車を運転しながら片手で物入れの中の何かを探しているなどですが、このような時運転者は、交差点の信号を見ていなかったり、見ているつもりでも注意がそれています。またスーパーなどの駐車場で、片手で携帯電話を使いながら車を動かす人も時々見かけます。この場合も反応がワンテンポ遅れ、小さい子供さんを避ける時など見ていてヒヤッとする事があります。皆忙しいのかも知れませんが、師走になり人出が多くなります。気ぜわしい時期だからこそ、少しゆっくり、出来るだけ冷静に行動してみては如何でしょう。ちょっと位、とか、私は大丈夫、この前大丈夫だったのだから今度も大丈夫、というのは油断ではないでしょうか。道路は舗装されており、お年寄りや小さなお子さんも歩いているのですから。ところで、私が毎日歩いているコースは東京湾に注ぐ川の河口付近なので、西風が吹くと対岸の丹沢方面の山並みがくっきりと見え、冷たい風が吹く中を歩いて来た甲斐があったといつもしみじみ思いますが、これも生きていればこそなのですよね。お互いがお互いの為に気を付けあい一つしかない命を大切にして年を越したいですね。

12月５日、戦争の証言

太平洋戦争でご主人を亡くされた方や、戦場へ赴き帰られた方が、経験した事を語る番組を見ました。戦場を知る方々の中で若かった方が現在80代後半なのですから、だんだん戦場の真実を知り、話してくれる人が少なくなっているのだという現実を実感しました。心のケアなどという事とは程遠い歳月を生きて来た方が高齢になられ、重い口を開いて下さった内容は貴重であり、感謝しています。ご主人を亡くされた奥さんは80代後半から90代、あるいは100歳以上になっていらっしゃいます。混乱した、まさに激動の時代を子供を育て、生きて来たご苦労は如何ばかりであったかと思いますが、仏壇に祭られている戦死したご主人の遺影は、出征した当時の若いお姿なのです。死者は年を取らない、という事を改めて突き付けられたようで胸が塞がり、私にはいうべき言葉がないだけでなく、声も出ない思いでした。ほとんどの方が遺骨すら帰らなかったのですから。戦場となり、多数の民間人も犠牲になった多くの場所があります。もし今私が訪れたなら、死者の悲しみや様々な心残りの感情が、足元からひしひしと伝わって来るでしょう。番組の中で、フィリピンのルソン島でしょうか、夕暮れの空がオレンジから朱に変わる風もない穏やかな中に、椰子の木が立ち並んでいる美しい風景が映し出されましたが、私には空が泣いているように感じられました。

12月4日、12月8日は太平洋戦争が始まった日

8月15日は終戦の日なので、テレビなどでもその特集番組がありますが、12月8日は太平洋戦争が始まった日、という事はあまり言わないように思います。もうじきその日が来ますので記憶に残っている事をお伝えしたいと思います。それは私が小学校3年生位の時だったと思います。夏休みの午前中に宿題をしていると、祖母が隣の部屋でテレビの、今で言うワイドショーのような番組を見ており、戦争についての特集のようでした。ある女性が、戦争が終わる少し前に、出征していた御主人から、海軍の船が近くを通ると言われて、その日時頃に中国地方の住んでいた家の近くの海の見える高台に行き、船を見たのだそうです。その船に夫が乗っているのだろうと思ったそうですが、ご主人は戦死し、それが最後となってしまったのだという事を話していらっしゃいました。この方は、泣いたり、戦後の生活の苦労や、誰かを恨んでいる、などというそぶりを見せず、そういう事を一言も言いませんでした。今でも夫が帰って来るような気がする、と純真な少女のような声の調子で言ったのです。どこかで本当にそう思っているように私には聞こえましたから、それは私の心の奥深くに突き刺さり、心をえぐられた様な気がしました。戦争中の様々な辛い出来事は本で読んだり話を聞いたりしていましたが、本当に戦争はむごい物だ、と私がしみじみ感じたのはこの時が最初なのです。それが、私が戦争についての本を読んだりドキュメンタリーを見たりするきっかけとなりました。あの方はきっと苦労して、大きく価値観の変わった戦後を生きていらっしゃったのでしょう。今、お元気でお幸せに過ごしていらっしゃいますようにと祈っております。

12月2日、小さなアイヒマン

20年以上前の事なのですが、夜遅くテレビでドキュメンタリーを見ていた時に、小さなアイヒマン、という言葉を聞きました。アイヒマンとはナチスの親衛隊員でユダヤ人移住という職務、つまりユダヤ人を強制収容所に送る事に非常に忠実だったと言われている人物です。このドキュメンタリーの中で話していた男性は、イスラエルの特殊な任務についていた警察関係者だったようで、第二次大戦後ドイツからアルゼンチンに逃れ、家族と共に暮らしているアイヒマンを拘束し、アルゼンチンの国家行事に出席したイスラエル政府関係者が帰国する際に密かにその飛行機に乗せて連れ帰り、裁判を受けさせる役割を担った一人だったのです。
何となくテレビのスイッチを入れてぼんやりと眺めていた私は、歴史の中の大変な出来事が今語られていると気付き、すっかり目が覚めてしまいました。その後アイヒマンはイスラエルで裁きを受けたのだそうです。
アイヒマンを拘束する前に彼は家族と過ごすアイヒマンを垣間見て愕然としたと言いました。とても恐ろしい人間だと思っていたアイヒマンが、ごく普通の平凡な父親として子供と接している姿を見、長い間の想像とあまりにも違っていた事に衝撃を受けたのです。
番組の最後に彼は生まれ故郷を訪れます。消息のわからないままの家族もおり、おそらく強制収容所で亡くなったと思う、と話しながら歩く彼のそばを何人かの子供達が走り抜けて行きました。遊んでいるのでしょう。よく見ると、いじめている子といじめられている子がいます。すると彼は小さなアイヒマンはどこにでもいます、と言いました。そこでこの番組は終わりました。第二次大戦を生き延びて来たユダヤ人である彼の苦労は並大抵のものではなかったと思います。彼の穏やかな表情とさらっとした口調に、そのようにして生きて来たからこその深い思いが込もっているような気がしました。命の瀬戸際のような日々を生きて来たのでしょうから。
人間は誰でも小さなアイヒマンになりうる部分を持っており、そこを自分でどのように省み、考え、取り扱って行くのか、子育てをする時には、どのように子供が大きなアイヒマンにならないように関わって行くのかを、考えさせられました。何か大きな宿題を出されたような気持ちになったので、今も心に残っているのだと思います。私は今後を考えさせられたのですが、遠くを見つめていた彼の心には、母親や妹と過ごした懐かしい日々が鮮やかに蘇っていたのでしょうね。

11月28日、ほうじ茶

ほうじ茶はお好きですか。ペットボトルのほうじ茶もおいしいですが、私はバーゲンなどで買って少し古くなったお茶を、時々フライパンにアルミ箔を敷いて弱火で焙じたりもします。茶粥を作る時に使っても良いですし、身欠き鰊を茹でる時にも使えます。でも、それよりもお茶を焙じた芳ばしい香りが、翌日まで台所に残るのが何となく初冬のピリッと引き締まった空気と溶け合うようで好きなのです。冬の朝に冷たい水で顔を洗った時の爽快感に通じるものがあるようです。よろしかったらぜひ1度お試しくださいね。

11月27日、中国カシュガル

中国の新疆ウイグル自治区にある町カシュガルの市場がテレビに映し出され、様々な物を売っている人、品定めをしている人で、そこはごった返していました。楽器を奏でながら、文字を持たなかったウイグル族に伝わる魂の叫びのようでいて哲学のようにも思える歌を歌う男性からは、言葉のわからない私にも何か伝わって来る物がありました。他人の国で王となるな、自分の国でしもべたれ、という言葉があるそうです。苦難の歴史がしのばれますね。

11月27日、手作り

手作り、というと私は料理や編み物、裁縫などを想像しますが、皆様は如何でしょうか。今は主婦も勤めている方が多いですし、色々な物がスーパーなどで売られていますのでそれを上手に取り入れて生活する事は悪いとは思いません。上手に取り入れていらっしゃるお宅も多いと思いますし、私もすべて手作りという事はとても出来ません。でも、思い出すと懐かしいのは、母が作ってくれたお惣菜やセーター、麻の葉模様に縫ってくれた雑巾などです。初めて縫った雑巾が売られているのを見た時には驚きました。一針一針浴衣などを縫っていた時代とは大きく変わったという事なのでしょう。このようにして時代は動いて行くのですね。時間がある時には、外に出て働いているお母さん達もきっと子供さん達のためにいろいろと手造りしていらっしゃるのだろうと思います。高価な物でなくても親が作ってくれた物は世界中にたった1つしかない自分だけの物で、何となく心が温かくなるのは、作ってくれた親の愛情を感じているからなのかも知れませんね。目に見えない物を子供の心に残す事の積み重ねが子育てで、親も一緒に育って行くのだろうと思います。自分を省みるチャンス、ともいえますね。子供への無償の愛という物かも知れない、とも思います。母親が手をかけてくれる事が潤いを感じさせる生活につながっていたような気がします。ご存じの方も多いと思いますが、夏には大きなペットボトルに沸かしたお茶を入れ、あら熱が取れたら冷蔵庫で1日冷やすと、お茶の色や香りがそのまま封じ込められていて美味しいですよ。

11月23日、桜木の道

桜並木は花の咲いている春だけではなく、2月の初め頃も美しい、と毎年思います。それは、寒くても近づいてよく見ると新芽に気付きますし、桜のこげ茶色のはずの幹が、何となく淡いグレーの霞がかかったようなピンク色に見えるからなのです。寒さの底だからこそ、これからは暖かくなって行くのですよ、と桜から言われているような気がして、もう一息で春が来る、という希望が持て、気持ちを新たにする事が出来ます。
また、12月頃の桜の木は、葉が真っ赤に紅葉しており、湿った黒い土の上にその葉が点々と散っている様子は、まるで江戸小紋の反物でもゆっくりと広げて見せてくれているようです。江戸時代のベテランの番頭さんが、客が思わずひきつけられるような丁度よい速度で、にこにこしながら反物を広げて、まさに商いをしている場に来合わせたように私は感じるのですから不思議です。桜の精がいるのでしょうか。
東京の四ツ谷駅からイグナチオ教会、上智大学方向へ歩いている時に毎年そんな風に思います。この道では、木枯らしに吹き寄せられた木々の葉を、淡い灯のような街灯が、毎夜優しく照らしていました。

11月20日、根三つ葉

三つ葉は独特の香りがある野菜なので嫌いな方もいらっしゃると思いますが、私は小さい時から好きでした。
特に根三つ葉の根をきんぴらにした物が好きでした。私が4歳位の頃の多分初夏だったと思いますが、一緒に暮らしていた大叔母が地域の旅行で熱海に出かけるその朝、いつもと違う丸い卓袱台で、皆で朝ご飯を食べていた時のお惣菜の一品に、夕べの残りの根三つ葉のきんぴらがあったのです。大好きな大叔母が1日中留守にする事はめったになかったので、この、朝5時過ぎの早い朝食の事はよく覚えています。寂しく、少し心細い思いで、出かけて行く大叔母を見送りました。いつもより根三つ葉の香りが強く、気品があるような気がして、この香りに励まされて、1日過ごしたように思うのです。一瞬我に返って、また頑張れるように支えてくれた香りだったのかも知れません。何かというと、何故どうして、を母に問い、丁寧に答えて貰って喜んでいた私が珍しく口数の少ない1日だったそうですよ、この日は。大叔母は、さざれ石という綺麗なお菓子を沢山買って来てくれました。

11月16日、貴州の色

中国の貴州省、山深い秘境とも言えそうな所に住むプイ族は藍染をしています。伝統的な、シンボルのような
模様がかえって斬新に思われ、長い歴史のある事を感じます。黄果樹瀑布という滝を船で下って行くと、水が
あまりにも美しいので、白い水飛沫が藍瓶に吸い込まれて行くような錯覚にとらわれます。絶壁はまさに描か
れた墨絵を見るようです。洞窟があるのですが、洞窟の水はエメラルドグリーンと淡いグレーを混ぜたような
色で波もなく、静かです。こちらは油絵の中の景色を見るようです。冬は決して暖かくはないだろうという事
が映像から伝わって来ます。この絶壁を、命綱を使わずに登り降りする蜘蛛人と言われる人達がいますが、こ
の人達は食材となる岩燕の巣を取る仕事のためにそのように登り降りしているのだそうです。元々は、崖の上
に死者の棺を納めるために登るようになった、との事でした。
古くから伝わるという、聞き慣れない抑揚を持つ歌を吟じる男性の声を聞いていると、カルスト台地に生きる
この人達の暮らしは、現代社会の中で大きく変わりながらも守り続けている伝統があり、遠い昔の祖先と語り
合い、通じる言葉を今も持っている、そんな風に感じました。

11月13日、寄せ鍋のネギ

雨の日などは寒いので、寄せ鍋にでもしようかと思う事があります。私も白菜や水菜、ネギやきのこなどを入
れて作るのですが、最近自分がこのネギのように扱われていると感じる事が多いような気がします。
ビジネスには相手があり、商品や技術を提供して利益を得るわけですが、相手に高圧的な態度を取って不安を
感じさせ、考える暇を与えずに自分のビジネスのためにコントロールしようとする、あるいはやんわりと持ち
かけ、暗にコントロールしようとするというやり方があるようです。どちらも度が過ぎなければ別に良いので
しょうが、度が過ぎると相手は不快だと感じます。それはこの時、物や技術の売り手には、自信や誇り、相手
への誠意といった温かい気持ちが感じられないからだと思うのです。自分のコントロールで相手は自分の思う
ように反応するだろうという、相手をディスカウントし、寄せ鍋の具材の1つであるネギか何かのように扱っ
ていて、その事に気付いていないように思います。しかし、人には自己を防衛する本能もありますし、人間は
人を騙す事は出来ても自分を欺く事は出来ない、と思うのです。うまく人をコントロール出来そうだ、と思っ
た時のその人の言動には過信が見てとれます。鍋に入れるネギは多い方が良いという事がわからないわけでは
ありませんが、お互い同じ尊厳を持った人間だという事を、いくら不景気でももう少し大切にして行けたら、
と思います。震災で被災した方を思う気持ちを多くの人が持ち、自分に何が出来るかと真剣に考えたのは決し
て遠い昔の事ではありませんから。
それでも、自然は常に変化していますし、歴史は今この瞬間にも作られているのですから、生きているという
事はすごい事だと改めて思いました。今夜は本物のネギを使ったおいしい鍋にしようと思います。

11月10日、ブルーベリー

今年も、初夏から梅雨時にかけてブルーベリーを収穫しました。収穫、というと随分たくさんとれたようです
が、鉢植えですので実際には、1日10粒位ずつ、しばらくの間収穫する事が出来た、という事なのです。冷凍
庫にビニール袋を入れて置き、その中に毎朝収穫したブルーベリーを少しずつ入れて行きました。冷凍庫のド
アを開けてブルーベリーを入れていると、お頭、今日の収穫はこれだけです、と自分が報告しているようでま
るでアラビアンナイトの世界に迷い込んだような気持ちになり、その時は思わず笑ってしまいました。そのブ
ルーベリーの木が、今真っ赤に紅葉していてとてもきれいです。今度は、赤毛のアンの物語の舞台、カナダの
プリンスエドワード島にでもいるような気がして来ました。実を食べるだけでなく、ブルーベリーが1年に何
度も非日常の世界へ誘ってくれたおかげで、楽しかったですよ。

11月7日、初めての記憶

自分が覚えている事の中で1番古い出来事の記憶は何か、という事を考えてみました。多分、数え年3歳の七五
三の日に、着物を着て坂道を下るために1歩前に足を踏み出した瞬間に転んだ事か、祖父におぶさっていた寒
い日に、ここは日陰だから日向に走って行って欲しいと言ったら、祖父が笑いながら珍しく走った事の内のど
ちらかだと思うのです。最初の記憶は2、3歳の頃の事で、そこだけを覚えていて前後ははっきりしないものだ
と言います。転んだ記憶よりも、日向の方が暖かいから走って欲しいなどという事がもうわかるなんて、と大
人達が喜んだ事が最初の記憶であった方が嬉しいのですが、このプラスとマイナス程に違うどちらが最初の記
憶なのか、いくら思い出そうとしても思い出せません。
今思えば、転んだ時、もう1度やり直したいけれどリセット出来ない事がある事を知り、大げさに言えば失敗
して挫折しないようによく見極め、考えてから物事に取り組もうという決断をする1つのきっかけになったよ
うにさえ思います。大人の言葉で言えば口惜しいというその瞬間の感情も良く覚えています。
祖父におぶさっていた時の事は、どこを見ていても何を考えていても良い自由な時間を過ごしながら、会話の
キャッチボールを楽しんでいた居心地の良さを覚えています。
親達から聞いたから覚えているのではなく、自分自身の感覚として、どちらの出来事もはっきりと覚えてるの
ですが、このような記憶が私のその後の人生にどのような影響を与えたのか、とても興味があります。
皆さんは如何でしょうか。

11月3日、自転車

ウォーキング中に、自転車に乗る練習をしている小学生の女の子と教えているお父さんを見かけました。女の
子はお父さんに、手を離さずに後ろでちゃんと押さえていてね、と念を押すように、そして不安そうに言って
いたのですが、なんとなく微笑ましい親子でした。
私も子供の時、自転車に乗る練習をしたのですが、なかなかうまくバランスがとれず、何度も転んで足はあざ
だらけになり、自転車で自由にどこへでも行けるようになるのに幾日もかかった事を思い出しました。そんな
にまでして自転車に乗れるようになりたかったのは何故なのか、今考えてみるとよくわかりませが、未知への
好奇心があったのでしょう。乗れるようになってからは近所の友達と自転車を漕いであちこちへ行き、日が暮
れるまで遊んでいました。
私は、この女の子に、自転車に乗れるようになると、歩くより速いし、景色もいつもより高い所から見えるよ
うになってちょっと違って見えるかも知れないね、きっともうすぐ乗れるようになるから、と言ってあげたく
なりました。
自転車を後ろで押さえていて、だんだん上手に乗れるようになって来たらそっと手を離して見守っている、と
いう事は子育てに通じるものがあるような気がします。
地震や大きな台風など、先が見えない事が多くて今の世の中に不安や閉塞感を感じがちな私を、ほのぼのとし
た気持ちにさせてくれたお父さんと娘さんに感謝しています。

10月30日、奥羽山脈

裏磐梯にある五色沼はそれぞれ美しく、立つさざ波がその美しさを愛で、ハープを奏でているかのようです。
耳を澄ませば繊細なメロディが聞こえて来そうで、心が揺さぶられます。奥羽山脈の高い山々は、新緑も紅葉
も雪を頂いた冬の姿も、すりガラスを通して見るようで、謙虚で慎み深く自己主張をしているように感じま
す。こんなにも美しい所を故郷に持ち、先祖代々辛抱強く粘り強く、寡黙に困難や悲しみを乗り越えて生きて
来た東北の方々が遭遇した大震災を思うと、そのむごさに胸が痛みます。
今、山はまさに天然の綾錦です。どうぞこの光景がたとえわずかでも被災された方々の心の慰めとなりますよ
うに、とテレビに映し出された山々の姿を見て、祈るような気持ちになりました。

10月29日、 ウォーキングの効果

ウォーキングについてまた少しお話させて下さい。私が毎日2時間程ウォーキングしているのは健康のためで
すが、それだけではなく歩くのが好き、という事が続いている理由だと思います。今朝の遊歩道から見た川面
はとても美しい緑色で、まるでまわりの木々の緑が川に溶け出して入り混じっているかのようでした。その川
をシラサギが1羽、舟を漕ぐようにすうっと移動して行きました。朝食の時間なのでしょうか。
こうして毎朝見ていると、その日によって山や川、空などの見え方が違います。天候や季節、時刻、自分の気
分なども影響しているのでしょう。ですから、その日その瞬間だけしか見る事の出来ない風景と毎朝出会って
いるという気がします。美しさに癒される事もありますし、自分が今考えなければならない事や、心に引っか
かっている嫌な事などについて振り返る事の出来る時間でもあります。
そんな風にして五感を使いながら歩き、自分の心と向き合っていると、今まで見えていなかった自分のある側
面が見えて来たり、頭ではわかっているつもりだったけれどもう一つピンと来なかった事が、胸につかえてい
た物が取れたように納得出来た、などと感じる事もあります。そんな時は私の意識と無意識の循環が良くなっ
ているのでしょう。自分の考えている事は分かっているつもりでも、その奥にある気持ちに気付かない事もあ
りますから。私の物の見方や考え方の傾向に気付き、自分を振り返るきっかけに出来る時間であり、葛藤や混
乱の軽減にそれは役立っているのだろうと思うのです。
ウォーキングが好きなのはこのように自分にとってプラスになる事がある事と、今この瞬間だけの本当につか
の間の景色との出会いへの好奇心も大きな理由の一つだろうと思います。

10月25日、 インドに行って来ました

雨あがりのウォーキング中の事です。川は水嵩を増し、少し濁っていてゆっくり滑らかに流れていました。
まるで絹のようです。午後3時前に出かけたのですが、帰りには夕日が美しく、何かガンジス河の夕暮れの中
にでも迷い込んだような気がして、不思議な気持ちになり、遠藤周作著、深い河、を思い出しました。とても
贅沢な旅をして来たような気分になりました。何故川の流れがいつもと違って見えたのかはわかりませんが、
いつまでもそこに立ち止っていたいような、名残惜しい夕暮れでした

10月22日、グランドキャニオンと共に

グランドキャニオンの日没は、見渡す限りを息を飲むほど赤く染めて行きます。この峡谷は東京から琵琶湖ま
でほどもある巨大なもので、今この瞬間もこの地を削り取りながらコロラド川が流れて行く様子は、地球が生
きて呼吸しているのを目の当たりにする、といった感じです。地球は大きく広く、けれども沢山の人達が動植
物と共に生きて来て、これからも生き続けて行くたった1つの運命共同体なのですね。悠久の歴史の中では1人
の人間の一生は星の瞬きのように短く、小さい存在かも知れません。だからこそ1日1日を丁寧に、そして人と
の関わりを大切にして行きたいものだ、と思いはしますが、人間が便利に快適に生きて行くために研究開発さ
れた様々な物を使う事と、人の手を加えてはいない地球のあるがままの部分とが1つのこの星の中に存在して
いるわけですから、どう折り合いを付けて行くのかという事が、とても重要な事だと思います。私がこのよう
に思うのは、3月11日の地震、津波による原発事故がいつ収束するのかはっきりと見えてこない事がその理由
の1つです。自分が生活している場所の現在の放射性物質による汚染の状況が私にはわかりません。原発から
離れていても、子供や若い人でなくても心配です。この重く淀んだ不安を抱えて日々過ごして行かなければな
らないと感じるのは、たぶん私だけではないと思います。試行錯誤というよりも五里霧中と言った方が良いよ
うな状況だと感じます。立ち止まり、振り返って、これから私たちが何をどこまで追い求めたら、この先生き
続けて行くためにバランスが悪くならないのかを再考する岐路に今まさに立っているように思うのです。

10月18日、長江は行く

長江は、中国青海省のチベット高原が水源域で、全長6300キロメートルという長い川です。私は揚子江という
言い方で習いました。この川は東シナ海へ注ぐまで随分長い旅をしているのですね。青海省からチベット高
原、湖北省、江西省、そして上海市の東シナ海河口へと流れて行きます。
梅里雪山は、長江の上流にある、アイスブルーの氷河が存在し、とても姿の美しい山です。晴れた日の氷河
は、美しく輝いているようにも見えます。チベット族の人達が住む江東村は川幅が狭いのですが、そこを流れ
下った下流の雲南省には平原が広がっています。標高3300メートルとはとても思えないほど緑が多い所です。
シャングリラという所の真っ青な空に浮かぶ白い雲は、その向こうの山々へ色の濃淡を付けて広がって行きま
す。チベットの理想郷、という説明に思わず頷いていました。長江の水の色は、緑色で勢いの良い流れの所も
あれば、赤茶色でゆっくりとした流れの所もあります。人の手で流れを変化させた事によって洪水が起きやす
くなった所もあるそうです。
それは、様々な矛盾や課題をも含んでこの川が上流から下流へと、時代を超えて流れて行くという、地球上の
壮大な1つのドラマのようで、短い時間でしたが、とても見応えのある番組でした。

10月14日、縦軸と横軸

心の旅には色々な道があると思います。私は、自己の深層を知りたくて自分の心の奥へ入って行き、自己の中
核へ近づいてみるのが、縦軸を辿るように思え、風景などから懐かしさを感じ、過去へ思いを馳せる事は、横
軸に沿って過去へ旅をして自分の心に近づいて行く事のような気がします。
さて、名古屋の有松の町並みがテレビに映し出されましたが、昔から絞りで有名な所ですよね。どっしりとし
た構えの家の中に入ると、磨かれた柱などに光沢があります。それは磨き抜かれたこの町の技が、家霊に見守
られながらいぶし銀のような味わい深い鈍い光を今も放っているという、脈々と続く歴史の厚みのような物を
感じさせる光景でした。染め上げられて行く布は、華やかでもあり清楚にも感じられます。昔この作業をして
いた人達は、どのように暮らし、何を思っていたのだろうかと想像を巡らせてしまいました。
多くの人が行き交っている様が、この町そのものを試行錯誤しながら、今様々な色に染め分けて行く最中のよ
うに思われ、とても不思議な魅力を感じる美しい町でした。
今回、この映像にこのような余韻を感じるのは私にとって、さしずめ横軸の旅なのでしょうね。

10月14日、キンモクセイ

今年は梅雨入りが早く、夏は猛暑でしたし、速度の遅い大きな台風に怖い思いもしました。けれども、今外に
出るととても良い香りがします。あちこちの家でキンモクセイが咲いているからなのですね。いつの間にか季
節はすっかり秋です。これからは秋が深まって、紅葉の美しい季節がやって来るのでしょう。
数年前、キンモクセイの咲いている季節の、西の空の赤い三日月がとても印象的でした。まるで、三日月がキ
ンモクセイの香りに誘われて薄墨色の雲の間から顔を出したようで、とても別々に存在しているとは思えず、
互いに助け合ったり心を和ませている存在ででもあるかのようでした。コミュニケーションがうまく行ってい
る、という風で、私も心が和み、思わず見とれてしまいました。
キンモクセイは良い香りですが、咲いている期間が短いのが残念です。でも、散ったオレンジ色の花も、夕暮
れ時などまるで金色のように輝いて見え、散った様も美しい花だなあと思います。オレンジの小さい星が降る
ように香を残しつつ旅立って行くようだ、と毎年そんな風に感じます。カレンダーもだんだん残り少なくなっ
て来ますが、秋の澄んだ空気を吸って、また新たな気持ちでやって行こうと思います。皆様もどうぞお風邪な
ど召しませんように。

10月11日、出来る事はより添う事

今日は、しばらく前に私が見た夢の事をお話しさせて頂きたいと思います。その夢の中で、私は明かりのつか
ない部屋の中で窓の外を見ていました。外は雨が降っていて軒下にはもうすぐ小学校にあがる位の女の子が、
薄手のピンク色のパジャマを着て寒そうに雨宿りしているのですが、冬の夕暮れでかなり暗くなっています。
かわいそうだと思いますが、私のいる家の中は雨漏りがしており、明かりや暖房、水さえもないらしいので、
この女の子に食べ物やお茶を出してあげる事も出来ません。着せてあげられる洋服も貸してあげる事の出来る
傘もなく、気になっていてもどうする事も出来ないという状態のまま目が覚めました。目が覚めても夢ではな
く、現実のような気がして気になっていました。
次の日、また同じ夢を見ました。今度は、何もしてあげる事は出来ないけれど、私も外へ出てこの女の子と手
をつないで、寒いね、と言ってせめて軒下に一緒に立っていようと思ってそうしたのです。最初この子は驚い
たように私を見ましたが、私が手をつないで並んで立つと、にっこりと笑いました。私はこの子のつらさを半
分分け持ったように思いました。その瞬間、2人とも暖かくなったような気がしました。不思議な事に、この
子が感じている感覚が私には今自分が感じているかのように伝わって来るのです。私は、こんなに分かり合え
る人間同士は他にはいない、と思いました。この子とここで一緒に暮らそう、この子はもうすぐ1年生になっ
てランドセルを背負って元気に学校に行くだろう、今よりずっと明るい顔をして、と思っていました。つま
り、この子を育てたいと思うようになり、そうなると何もない家の中でもなんとかなるだろうと、楽観的に考
え始めていました。外は雨で暗いのですが、今度はもうすぐ朝だと感じていました。この子の手を引いて室内
に入ると、シューベルトの冬の旅の中の菩提樹、あの曲が聞こえて来ました。
目が覚めて、あの女の子は子供の頃の何かつらい事のあったある日の自分ではないかと思い、私にとってその
思い出を省みる事はまさに冬の旅だったのだ、と思いました。家という入れ物があっても、温めるための道具
がないという事は、自分の心を垣間見る事が出来てもその心の中にある感情とのコミュニケーションの手段が
わからなかった、という事ではないかと思うのです。それから、何も出来なくても寄り添って心を通わせたい
と決断し、勇気を以て1歩前に踏み出そうという私の背中を押してくれたのも自分だったのでは、と思ってい
ます。いずれにしても、とても印象に残る夢でしたし、夢の中で音楽があれほどはっきり聞こえるのも珍しい
事でした。普段は、忘れている曲だったのですから。
夢の中で、私は心の旅をして来たのでしょう。あの時、ほんの少し成長したのかも知れません。
内的成長は、生きていて意識のある限り出来る、理論的にはそういう事なのかも知れませんね。私はまだまだ
勉強不足です。

10月7日、夢

夜寝ていて夢を見る事がありますよね。目が覚めたら忘れてしまった夢もありますが、いつまでも覚えている
夢もあります。現実の生活の中で物事がうまく行っていない時に、夢の中でも思うように前に進めない夢を見
る事もあれば、夢の中で思い切り言いたい事を言った、などという事もあります。夢はストレス解消に役立っ
ている場合があるという事なのでしょう。
夢はその人の無意識を表わす、と言われています。私は自分の夢を理解するのが難しい事も多いのですが、自
分の事だからこそ気付きたくない部分もあって、そこを見ないようにしている事がある事もその理由の1つだ
と思います。今気付いて直面するにはまだとてもつらく、受け入れられないという時には防衛が働く事も必要
なのかも知れません。その人のペースで、徐々にその辺りを見て行ければ良いと思っています。
ゆっくり考えて行くと自分が気付いていない、自分の未知の部分を知る手がかりにもなる物なのだと思いま
す。最近夢の中で、とても意地悪い自分や、そんな私を非難する人、何故かわからないけれど私を信頼してく
れる子供などが出て来る夢を見て、今までとは違う事を感じました。それは、夢に登場して来た全く違う言動
をする主だった人達それぞれが、現実の私の様々な部分とか性格の一面を表わしている、と思ったのです。
また、現実の私とは全く違う性格の人を嫌悪するのは、実は自分の生きて来なかった生き方をしている人への
嫉妬や羨望が心の中に潜んでいるからではないか、とも思います。
夢は奥が深く、まだまだ分からない事が多いのですが、今年は、秋の夜長に読書や、室内で出来る事をしてリ
ラックスするのも良いけれど、少し早く寝て夢を見る事が出来たらそれも良いかも知れない、と思っていま
す。夢からどんな事がわかるのかという好奇心が満たされるからなのでしょう。
朝晩の空気がひんやりと感じられるようになって来ました。次第に深まって行く秋をどうぞ心地よくお過ごし
になれますように。

新幹線

東海道新幹線開業は1964年10月1日でしたね。東京新大阪間が４時間あるいは５時間しかかからない、当時の
大人たちは驚き、便利になったものだと話していました。
私はそのニュースを祖父母と3人で、築百数十年の茅葺屋根の家の茶の間で、青い瀬戸物の火鉢にあたりなが
ら白黒のテレビで見ていた事をとてもよく覚えています。祖父は新しい事に対してかなり好奇心のある人でし
たから、乗ってみたい、と思ったかも知れません。
あれから47年も経ち、今ではその頃の事を知らない人も沢山いるでしょう。懐かしいと感じるのは祖父母がも
ういないからかも知れませんし、便利になって世の中の動きがとても速く感じる今という時代には失われてし
まった何かが、あの頃にはあった、と感じているからかも知れません。私が年を取った、という事なのでしょ
うか。ですが、東日本大震災で多くの人が衝撃を受け、被災された方々のために何とか自分も出来る事を少し
でもしたいと思い、自分の日常を改めて考え始めた方もかなりいらっしゃるというようなニュースを新聞で読
む事もあります。人間はもしかしたら素の部分はそんなに変わってはいないのかも知れない、私がほんの一面
を大雑把に見ていたのだ、という気がして来ました。どの側面に焦点を当てて見るかによって見え方は随分違
うものだとしみじみ感じました。
新幹線は高速で私を懐かしい居間へ連れて行ってくれ、高速で現在にまた連れ帰ってくれたように思います。

意識と無意識

私は子供の頃から本を読むのが好きでした。小さい時は読み聞かせをしてもらったり、絵を描くなどして夜寝
る前に1時間程必ず遊んでから布団に入ったものです。本を読んでいると、自分が今その本の中にいるようで
想像の世界が広がって行くのがとても楽しかったのをよく覚えています。
祖母は、私が何か新しい事しようとすると心配し、危ない、と言っては止めようとしました。実行した時のマ
イナス面を強調されたように思い、不安になって実行しない事の多い子供でした。そんな私にとって、本の中
では登場人物と一緒に冒険も出来ました。
大人になってからは料理が好きになり、思いついて工夫したお惣菜を作ったり、手間をかけて食べ物を作る事
が楽しいと思うようになっていました。思いつく、という事は私にとって閃いたり想像したりする事であり、
思いついたように作る事は、創造する事だと思うのです。新しい事は未知なので危ないから実行してはいけな
い事だったのですが、料理を作る事によって、子供の頃に出来なかった創造を実行しているのでしょう。不十
分だった所を無意識に補っているのですね、きっと。
このようにして、喉が渇けば水が飲みたくなるように、心も自然に恒常性が維持されている、健康を保とうと
してバランスをとっている、のではないかと思うのです。子供の頃のつらかった事や悲しかった事などを思い
出し、今ここでその感情や感覚を感じ、話す事で、嘆きの仕事をしてつらい思い出を手放して行く事が出来ま
す。つらかった事や悲しかった事を感情を伴わずに出来事として話す、という事もありますが、あまりにもつ
らい体験だったので防衛が働いているのだとしたら、それも自分を守るためには必要な事なのだと思います。
私は、子供の頃の楽しかった事を思い出すと、感情や感覚がその時の自分になっているようにも思いますし、
今の、大人である自分が、楽しそうに過ごしている子供の自分を微笑んで見守っているようにも感じます。
思考という意識されている部分が、感情という無意識の部分のお母さんになって自分育てをもう1度している
ような気がするのです。皆さんは如何でしょうか。

自分と会話する

春と秋は過ごしやすいという点で似ている気がします。秋だと思うと、春に経験した事をお伝えしたくなりま
した。
その時私は買い物に行こうと思い、午後3時頃にいつもの道を歩いていました。ですが、まわりの景色が何と
なくいつもと違うような気がしたのです。高校生の頃に祖父とよく散歩した時の景色に、雰囲気がとてもよく
似ていました。お日様の傾き方や洗濯物を干してある家々の佇まいまでが一気にあの頃に戻ったかのように感
じたのです。とても不思議ですがのどかで人の視線が温かく優しいものに思われ、何故だろう、と思わず自分
に、声に出さずに聴いてみました。
すると、今まで忙しく、日々の生活を一生懸命に送る事を最優先せざるを得なかったのだから仕方がない、こ
の景色はあの頃と少しも変わってはいない、その事に気付けなくなっていたのは私の気持ちのありようが変わ
ったからだったのだけれど、いつか必ず自分の内面を素直に見つめ、気付いた事を受け入れる日が来る事を信
じていたから、感情は抑圧されていて辛いとは思わなかった、感情が私のお腹のあたりでそう答えてくれたよ
うに思いました。勿論、人の声が本当に聞こえたわけではありませんが。私の心の中の、自然な感情の部分が
そのように反応したのでしょう。これは私にとって、自己との和解、と言ったものだったのだと思います。
頭で考え、それに基づいて行動して来た事と、心の中でそれをどのように感じていたかという事の両方に目を
向けた事は、ありのままの自分と向き合う事、今まで見ようとしなかった自分の部分へも目を向ける事になっ
たのだと思います。セルフカウンセリングですよね。
自分の内面と向き合って評価せずに大切にし、人の気持ちも大切にするための第1歩を踏み出すとはこういう
事なのだ、とあの春の日に身を以て知ったような気がするのです。

台風

昨日は午後12時を過ぎてから風雨が強くなって来ました。外の空気は生暖かく、間断なく不気味な音がして、
戸障子のガタガタという音に家全体が揺さぶられているように感じました。自然の猛威、という言葉が頭をよ
ぎりました。天気予報という物を知る由もなかった時代の人達は、台風の時にはさぞ不安だった事でしょう。
そこから生まれた知恵があるにしても、今もやはり台風は避けようもなく、不安や、早く天候が回復して欲し
い、という願い等はそういう昔とあまり変わらないのかも知れませんね。
この台風は、東日本大震災の被害の大きかった地域の方向に進んでいくようでしたので、猶更心配になりまし
た。まだ台風シーズンは終わってはいません。皆様もどうぞお気を付け下さい。
私は、お弁当を作りお茶など用意して、テレビで台風情報を見ていました。その時点で出来る事はないけれ
ど、台風情報を見ているとお天気の変化がわかるだけでなく、各地にどのような影響が出ているのかが映像で
わかり、自分の住んでいる所だけが異常な状態なのではない、と思う事が出来るので、テレビを見ていたの
だと思います。大きな台風でしたので、落ち着いていたつもりでもやはり、怖いという気持ちがあったのでし
ょう。ただ、いつになく、今この状況を避けることが出来ないのだから目を逸らさないで自分がどのような状
況の中に身を置いているのか、という現実を実感しよう、と思った事は確かでした。
私は、怖い、という言葉をあまり言った事がありません。自然災害は別としても、怖い思いをすると、何故こ
ういう目にあわなければならないのか、という理不尽さへの怒りや反発心のような物が出て来るのです。本当
の感情をカモフラージュした物である、ラケット感情という物なのでしょう。怖いと言ってしまったら本当に
立ち上がれなくなりそうな自分を叱咤激励している事にもなっているのだとも思います。ですから、昨日は
自分の気持ちのその辺りを見つめ、怖いと感じている自分の気持ちと向き合うというか、より添ったという
か、そんな事をした1日でした。

海の色

台風12号は大きく、速度の遅い台風で、近畿地方を中心に大変な被害の出た事に驚き、被災された方々が1日
も早く日常の生活に戻る事が出来ますようにと、祈るばかりです。
このような時ですけれど、数年前のある日に、北海道の列車の車窓から景色を眺めた時の事をお話しさせて頂
きたいと思います。私が宿泊した札幌のホテルでは、ブライダルフェアが開催されていて大勢の人が訪れてい
ました。小樽方面へ行く列車の車窓から海が見えて来た時、その美しさと、東京湾との色の違いに驚きまし
た。東京湾アクアラインをお正月に通ると、普段より海はきれいで富士山が見え、風が強く群青の海には白波
が立っていて、手を触れればすっとその手が切れそうな鋭角的な色の海、と感じていたのですが、石狩湾から
日本海へ、というあたりの海の色は柔らかいグリーンで、沖に行くにつれて次第に濃い青に変わって見えまし
た。その日が穏やかに晴れていた事もあって、水面は太陽の光で銀のようにも金のようにもキラキラと輝いて
いました。でも、このグリーンや青は1色で冴えた色、というわけではないのです。どんなに輝いていてもそ
の中にグレーが混ざっている、つまりグレーが基調なのです。落ち着いた品の良い色で、夕日の似合う海、と
いう気がしました。
この色に布を染めて、花嫁さんのお色直しのドレスを立体裁断で作ったらどんなに素晴らしいだろうと思った
ものですから、今でもとても印象に残っています。
冬だからどんより曇っているグレーの空を映して、海もグレー１色にしか見えない、というわけではない事を
知りました。
また、初夏のにわか雨の後のこの海は、沖が草原のような落ち着いた緑色に見え、この向こうに大陸がありモ
ンゴルの草原があるのだという事が、何だか納得出来るような気がしたものです。いずれにしても、趣のある
海だと感じ、余韻の残る車窓からの風景でした。

テレビで見たシルクロード

中国、崑崙山脈は群青の空に真っ白な雲が浮かび、何もかもが止まっているかのように見えます。雪の残って
いる、線が太く荒々しい印象のこの風景は、止まっているように見えるからこそ、ここから何もかもが一斉に
動き出し、始まりそうにも思えるのです。
シルクロードを、交易のために人々が行き交っていたはるか昔に思いを馳せると、遺跡は当時とは違った静か
な日々を今この瞬間もひそやかに生き続けているように感じます。当時を生きた人達の息づかいが聞こえて来
るような映像でした。

キュウリと共に

最近の突然の雷雨、怖いです。以前は、車軸を流すような雨、と言いましたが今ではあまり言わないですね。
荷車が自動車に変わり、見た事のない人が多いからなのでしょうか。
ところで、今日も食べ物の事を少しお話しようと思います。キュウリは夏の野菜で体温を下げる効果があると
言われていますが、皆さんはどのようにして召し上がるでしょうか。生で召し上がる方が多いのでは、と思い
ますが、火を通してもなかなかおいしいですよ。家ではキュウリを少し栽培していますので、大きくなって黄
色みがかってしまう事があります。そんな時、青紫蘇とさっと茹でたキュウリの酢味噌和えや、八丁味噌を使
い、ちょっと甘くしたキュウリの味噌煮、舞茸やシメジなどのキノコとの炒め物、冬瓜のようにあんかけにす
る、その他お味噌汁に入れてもおいしいです。工夫したらもっと色々な物が出来るかも知れません。
キュウリをどの位の大きさに切るのか、どの位の柔らかさにするのかは人それぞれの好みで、これをどのよう
にするかがおいしいと感じるかどうかの1つのポイントになるのではないかと思います。
皮をむき、種を取り除くと、キュウリは普段と随分違った顔を見せてくれます。どの側面に焦点を当てるかで
見え方が変わって来る、という事は、なんだか人とキュウリが似ているような気がします。

3色パンの賞味期限

私は大叔母にもしょっちゅう遊んでもらっていましたが、もう1人のお祖母ちゃんのような存在でした。5歳位
の時一緒に買い物に行き、藤棚のある公園でブランコに乗りました。その公園の近くのパン屋さんで焼いてい
る3色パンを買って貰い、一緒に食べた時の事は今でもよく覚えています。子供の目線、子供のペースという
ものを大切にしてくれていたように思うこの大叔母と食べた3色パンのイチゴジャムの部分は宝石のようにき
れいで甘酸っぱく、それはそれは美味しかったですよ。今でもあの公園で大叔母と過ごした時の事を、まるで
昨日の事のように思い出します。私の思い出の中の３色パンに賞味期限はありません。

ある時、この大叔母があさりを掘りにいってしまい、寂しくてメソメソしていたら祖母が、探しに行こうとい
って海に連れて行ってくれました。海は広く、大叔母は見つかりませんでしたけれど、祖母と２人で１時間程
大きなあさりを小さい籠１杯掘って来ました。初夏のそよ風と磯の香り、途中の坂道でキラキラと輝いていた
木漏れ日、ニコニコしていた祖母と手をつないで、カラスの赤ちゃんなぜ泣くの、と一緒に歌いながら帰って
来たあの日は、厳しい所のある祖母が、心も私の歩幅で寄り添い、歩いてくれた日でもあったと思うのです。
きっと、祖母も楽しかったのではないでしょうか。

思い出は、過ぎてみればどのような事でも今の私にとっては懐かしいでしょうし、不思議と楽しかった部分が
クローズアップされて来ます。私が生きている限り色褪せず、賞味期限は切れないのでしょうね。
誰にでもそんな思い出があるのではありませんか。

ピーマンが変身しました

一昨日、鉢植えのピーマンをほんの少し収穫しました。黒っぽい緑ですが、果肉が厚くしっかりしているの
で、傷んでいるわけではなく取り忘れたから色が変わったのだろうと思って笊に入れて置き、昨日見たら真っ
赤になっていました。炒め物に使うつもりで刻み、何気なくその手で顔を触りました。そうしたら顔がムヒを
塗ったようにヒリヒリと痛く、熱くなり、しばらく治りませんでした。ピーマンを口に入れてみると、トウガ
ラシのように辛くなっていて、びっくりしました。それで思い出した事があります。
私が子供の頃、大伯母が時々遊びに来て私に折り紙でいろいろな物を折ってくれたり、遊びに連れて行ってく
れたりしました。私は何かして遊んでいる時にその遊びがうまく出来なくて失敗し、なぜうまく出来なかった
のか、どのようにしたらうまく出来るのかを考えてもう1度チャレンジする事がよくありました。そのように
してうまく出来なかったわけに気付くと大伯母は、これで１つ利口になりました、良かったねえ、と、にこに
こしながら優しく言ってくれたのを懐かしく思い出したのです。
このように言われると、1度で出来なかったのだから私はダメなのだ、と思わないのですね。ほめて育てると
自己肯定感が増して来るというのはこういう事なのだと思います。笊の中で赤くなったピーマンは辛くもなっ
ている事にこんな風にして気付いた私は、1つ利口になったのでしょうか。

大伯母とリフトに乗った時の宙に浮いた感じ、初めて高い所から景色を見る楽しさ、あれは大げさに言えば、
私が未知の世界にワクワクドキドキしながら思い切って足を踏み入れた最初の体験だったのかも知れません。

プラスに感じる

先日病院に言った時、外は暑いけれど病院の中は快適な温度でした。受付、検査室、診察室などいくつもの部
屋に入ったのですが、それぞれの部屋の向きは皆違います。日中でしたから、南向きの部屋の気温が1番高い
ように感じました。その時、ずっと気になっていた事の解決策が私の頭に浮かびました。実は梅雨頃から書き
始めたこのページの事なのです。人のブログを読むと、1番新しい日付の物がはじめに出て来ます。でも私
の、折々に思う事について書き続けているこのページは、上から順に書いて来たため、新しい事ほど下になっ
てしまっているのです。かなりスクロールしないと新しく書き足した部分が出て来ない事が気になっていまし
たが、この時、上の部分に書き足せばよいという、ごく当たり前の事に気が付いたのです。なんで今まで気が
付かなかったのだろうという思いと、今気付いたという事は、このまま気付かないよりどんなに良かった事
か、という2つの思いが心の中に同時にわいて来ました。後者がプラス思考だという事は良くお分かりですよ
ね。プラスに物事を感じたり考えたり出来る事によって、喜びが多くなったり大きくなったりしたら良いだろうなあとしみじみ思いました。

映像で見たノルウェー

台風や猛暑を実感した日本の夏からちょっと目を離してみました。 ソグネフィヨルドとは、ノルウェーの、氷
河により深く削り取られた全長204キロメートルの海岸線です。船で行くと人口130人の村ウンドレダールが
あります。この村は夏の間、山羊のチーズを作るなどして生計をたてています。牧草や木々の緑が美しく、海
は黒みがかった色をしています。氷河の近い場所の海は白濁した緑色です。8月には夏の花が咲き残り、秋の
花が咲き始めています。緑の夏木立に気持ちよさそうなそよ風が吹いていました。釧網本線の走る釧路湿原の
柔らかい緑の色と似ています。心がほっと和むような、涼しそうな優しい色調でしたよ。

オクラの花

今青果店ではオクラが売られていますが、あのオクラの花をご存じでしょうか。私は最近まで知りませんでし
た。ある日、道路を歩いていたらかなり高さのある作物が畑に植えてあり、大きな花が咲いていました。クリ
ーム色の花で真ん中が赤くなっており、葵の花のような形をしていました。これがオクラの花だったのです。
夏も終わろうという時期の夕暮れ時に見たオクラの花は風情があり、心に残るものでした。
赤なら真夏のエネルギーを感じたかも知れませんし、白なら秋らしさを感じたのでしょうが、クリーム色でし
たので、夏が秋に座を譲ろうという季節のうつろいの象徴のように見えたのです。
何か情景描写が気に入った小説の中にすうっと入っていって、その中を歩いているような心地がしました。
夜になって外に出ると、コオロギや鈴虫の合唱がよく聞こえ、まるで音楽会に招待されたような不思議な気持
ちになります。小さい秋に気付かされる事の多い今日この頃です。

名前を付ける

スーパーに買い物に行った時の事です。鮮魚売り場でカジキマグロの切り身が入ったパックを見たら、プライ
バシー、と書かれていたような気がして驚き、もう1度その場へ戻ってよく見たら、フライパン料理、と書い
てありました。フライパンで料理する事が出来るという意味なのでしょうね。何故こんな読み間違えをしたの
かよくわかりませんが、個人情報というものについてちょっと考えていたからかも知れません。
ところで、私は買い物に行くと、例えば皮のついていないタラの事を、スキンレスタラ、と書いてあるより
も、すきみタラ、と書いてある方がおいしそうだなどと思ってしまいます。どのように書いてあるかは店によ
って違いますが、中身に大きな違いはないのです。湯蛸より、蒸し蛸や、茹で蛸、と書かれている方が食べ物
として見る事が出来ます。可憐な名前ならば買いたくなるというものでもありません。なんとなくかわいそう
になってしまうからなのです。ネーミングというのは難しいですね。その商品名から受ける印象は人それぞれ
なので、私など人の付けた名前をあれこれ言っても自分ではよいアイデアはなかなか浮かびません。
私は、こんな風にして商品名から色々想像し、買うまでのプロセスを楽しんでいるのだろうと思います。結
局、その商品の値段が、買うかどうか決める時には1番重要なのですが。
食べ物だけではなく、新商品は開発と共に、どのような商品名にし、どんな風に宣伝するかもとても大切なの
だと改めて思いました。今夜は、秋刀魚にしようと思います。

食べるという事

猛暑が続いていましたが、前線の南下で関東地方はずいぶん涼しくなりました。天然のクーラーのようですが
このまま涼しくなるわけではなく、残暑の厳しい日もまだまだあるのでしょう。そうして少しずつ秋らしくな
って行くのでしょうね。
秋は収穫の季節で、おいしい物がたくさん出回ります。好き嫌いなくなんでも食べなさい、という事がありま
すが、小さい子供にとって、食べた事のない物の味は想像が出来ない事も多いと思います。未知の物を取り入
れるわけですからすんなり口に入れられない事もきっとあると思います。
食べ物の好みは人それぞれですが、自分の事を考えてみました。私は、例えば辛さなどの1つの味が際立った
物はあまり好きではありません。じっくり煮込んだ物の味の調和を楽しんで食べる方が好きなのです。漬物で
も、よく漬かって熟成された味を好む事に気付きました。まろやか、ハーモニーなどといった事を感じられる
事が、おいしい、と思う条件のようです。これは私がリーダーよりメンバーとして何かをする事の方が好き
で、光っている物より光沢のあまりない物が好き、お汁粉の甘さを引き立てる塩に価値を感じる事とも関係が
あるように思います。良いタイミングで適量入れるスパイスのようになる事はとても難しいとは思いますが、
きっとそういうあり方を無意識に望んでいるのだと思います。大変な課題に気付きました。
それから、物を食べる時には作ってくれた人にだけいうのではなく、動植物の命を頂いているので、頂きま
す、というのだと教わりましたが、大切な気持ちであり、大切な言葉ですね。

シャーベット

外出して冷房の効いた場所にいると、なんだか自分がシャリシャリ、シャリシャリとシャーベットになって行
くような気がします。寒いですよ。
シャーベットには思い出があります。小学生の時、母とお墓参りに行く途中でお供物を買う時に、わたしも喉
が渇いたので氷か何か買って貰おうとしたら、お店のおじさんが大きなぶどうのシャーベットを出して、これ
が良いですよ、と言い、それを買って貰ったのですが、食べきれなくて母に食べてもらいました。あれは高か
ったのかも知れません。埃っぽい田舎道を、水色の日傘でちょっと顔を隠しながらシャーベットを食べていた
母と小学生だった自分の姿を後ろから見ている気分です。ちょっと微笑ましいような気がします。
今朝歩いていると、赤トンボがとんでいました。あの赤トンボが私をあの頃に誘ったのでしょうか。

ホームページは塩釜焼き

皆さんは、携帯電話やパソコンの画面で素晴らしいホームページをたくさんご覧になっていらっしゃる事と思
います。私にとってはどんな物であっても作る事はとても大変でした。パソコン学校に行き、気が付くと教科
書の中の説明文の単語の意味からしてわからないのですから、果たして作れるのかどうか、先生はとても親切
丁寧に教えて下さるのですが不安で一杯でした。好奇心を持ってあちこちクリックする事が、パソコンを壊し
てしまうようで出来なかったのです。ですが、それでは一歩も前には進めません。そのうち少しずつ、そう怖
がらなくても大丈夫だと思えるようになりましたが、その間の葛藤は大変なものでした。

魚などを、塩で周りを固めて蒸し焼きにする塩釜焼きは、出来上がったら塩釜を外から壊し、中の物を取り出
して食べるのですが、私にとってのホームページ制作は、自分の固定観念を内側から打破する事が不可欠だっ
たので、まるで塩釜焼きのようだと思ったのです。現実の、人との関わりの中では、自他共に言ったり言われ
たりした事や行動をなかった事には出来ませんので、その都度、大切に関わって行く事が必要だと思います。
ですが、パソコンは失敗してもリセット出来る、という事を教えて貰い、実感しました。それでも、素晴らし
いデザインのホームページはとても作れません。そういう私のホームページを読んで下さって本当にありがと
うございます。

8月15日

今日は8月15日、終戦の日ですね。ある時母からこんな事を聞きました。今は物がたくさんあって便利だけれ
ど、戦争中はそうではなかったので燃料の炭を切った時には炭の粉にうどんのゆで汁を入れ、こねてたどん
のように丸くして干し、乾かしてこれも燃料にした、という話です。その時母は何気なく話したのであって、
私達は苦労したけれど今の若い人は楽だから恵まれていて不満はないでしょう、という言い方ではありません
でした。だから今も私の心に残り、母のその頃の様々な苦労を想像するのかも知れません。あなたは楽だけれ
ど私は大変だった、というニュアンスだったら若かった私はもしかしたら、時代が違う、という反発心だけで
この話を忘れていたかも知れないと思います。大切なことの伝え方は言葉そのものだけではなく、態度や声の
調子、どのように話したら相手が反発や萎縮をせずに正確に受け止めるかを考えて話す事が大切なのですね。

高校時代の国語の時間に、先生が新聞に掲載されている短歌を1首選んで来るようおっしゃった事がありまし
た。それから私は短歌に興味を持つようになりました。新聞に投稿されていたその短歌はお名前を覚えていま
せんが確か岡山在住の女性の方が詠まれたものだったと記憶しています。最後にここに紹介させて頂きたいと
思います。
従軍の看護婦の証なきままに君逝きませり闘病のはて

お子さんと過ごす夏休み

夏休みで子供と過ごす時間が多い、と言う方はお子さんとどのように関わりますか。
子供を叱る時、子供が強く反発を感じたり、萎縮してしまって自分の気持ちを親に言えなくなるような叱り方
をする事もあると思います。言いにくい事を話し始めたお子さんに問い詰める様な言い方を、気付かずにして
しまう事もありがちな事ではないでしょうか。親に関わって欲しくて親の注意を引くような事を繰り返す子も
います。子供の怒りの奥にある感情の中核が寂しさや悲しみである場合もあります。
些細な事を気にしなくても、と思われるかも知れませんが、その小さな1つ1つの瞬間の積み重ねが、子供の人
生の基礎をつくり、他者との関わり方をそこから学んで行くのですからとても大切だと私は思います。親がど
のように言ったかよりも、どのように親自身がしているのかと言う所から子供は学んで行く事も多いもので
す。子供との関わり方、というページと重複している所があり、申し訳ありません。親御さんにとってもお子
さんにとっても楽しい夏休みになると良いですね。

お盆

もうすぐ月遅れのお盆です。私の親類にも今年新盆のお宅がありますが、知っている人が段々少なくなって行
くのは寂しいものです。皆さんのお知り合いの中にも初めてのお盆を迎える方や、ご自身がご家族を亡くし新
盆、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。親しかった人を亡くした悲しみの度合いやつらさが深い
期間というのは、人によって皆違いますね。ですから、もし悲しんでいる方があなたにつらさや悲しさを話し
た時には、どうかじっくり聴いてあげて下さい。
つらさや悲しみ、悔いている事などを話す事で気持ちが少しずつ楽になったり整理されたりして、前向きにな
る元気が出てくるようになるでしょうから。その期間は本当に人によって様々です。もう1年も経ったので元
気になって欲しいと思っても、相手の方にとってはこんなにも長く寂しい思いをしているのに、まだ1年しか
経っていない、というお気持ちなのかも知れません。
あなたが親しかった方を亡くされた時、亡くなった方の事を話すのはタブーではありませんよ。楽しかった思
い出もたくさんある事でしょうから、思い出したり、話題にしたい時にはどうぞ話してあげて下さい。亡くな
った方にもあなたのお気持ちはきっと通じると思います。悲しみをフリーズし続けずに、よろしかったらカウ
ンセリングルームにもお越し下さいね。喪失の悲しみについてのページもどうぞご覧になってみて下さい。

立秋の黒パン

今年は8日が立秋、暑いけれど空には鰯雲、という事も多くなって来ました。季節は少しずつ秋色になって行
くのでしょう。
今日、お昼ご飯をキッチンで食べようとして窓の外を見ると白い雲がぽっかり浮かんでいました。私はふと、
アルプスには蝉がいるのだろうか、と思いました。その時フスマなどが入った黒いパンを食べていたので、ア
ルプスの少女ハイジが、友達の山羊飼いの少年ペーターのおばあさんに、フランクフルトから帰って来た時、
柔らかい白パンをあげた場面を思い出したからなのです。そう思うとまるで自分が、アルプスのハイジのおじ
いさんの家で黒パンを食べているような気がして来て楽しくなったから不思議です。こんな想像が食事をおい
しくしてくれました。想像しようとか、想像しなければならない、と考えるのではなく、自然に想像していた
のは気持ちがそうしたかったからなのでしょう。だからおいしく感じたり楽しくなったりしたのでしょうね。

友人との再会

わくわくしながら待っていた、高校時代の友人と卒業以来の再会をしました。彼女は福岡に住んでいるのです
が、千葉県に来る用事があり、私を訪ねてくれたのです。あっという間に高校生に戻り、楽しい時間もあっと
いう間に過ぎてしまいました。まるで魔法使いから素晴らしいひとときをプレゼントされたような不思議な気
持ちです。夢の余韻が心地良く残っているような、そんな気持ちなのです。こんな経験をしたことのある方も
いらっしゃるのではないでしょうか。別れ際に彼女が手を差し出してくれて握手をしました。柔らかく温かみ
のあるその手は、主婦であり母親である彼女が、人の命を預かる現場で長い間患者さんの心に寄り添ってしっ
かりと働き、生きて来たのだという事を私に感じさせてくれました。そういえば、明るくまじめで労力を惜し
まずコツコツと頑張る人でしたから、きっと少しも変わっていないのですね。今度は少し休んで自分に優しく
してあげて下さい、お疲れ様、と声をかけたくなりました。

黒い雨

以前に広島大学でのカウンセリング学会の大会に参加し、勉強させて頂いた時の事です。その頃、大学は赤十
字原爆病院の近くにありました。道路を横断しようと信号が青になるのを待っていると、赤十字原爆病院の古
くからあるほうの建物の外壁に、一筋の黒い雨のしみがくっきりと残っているのに気付きました。本やドキュ
メンタリーと言ったものから得た知識はある程度ありましたが、自分の目で見た現実からそれよりはるかに大
きく重い衝撃を私は受けました。実感した、という事でしょうか。長い歳月、ここに入院なさっている方々の
お気持ちは、はやく良くなって下さいとも、いつまでもお元気でとも、簡単にいえる事ではないからつらい、
という私の気持ちよりよほどつらくもあり、複雑でもあるのだろうとその時思ったのです。飲食店できれいな
冷たい水を出され、原爆が投下されて多くの人が川に水を求め、そして亡くなって行った事を思うと、せめて
この水を一口飲ませてあげたかったと思って胸が一杯になりました。実感する事は思考と感情、感覚というす
べてで理解するという事なのですね。亡くなった方々が安らかであるように祈ると同時にどんな小さな事から
でも平和を守って行く事を、私達1人1人がして行かなければ、と改めて思います。

寒天は更紗模様

関東は毎日蒸し暑いです。私は更紗模様の寒天を作ってみました。暑いのでせめて涼しげに見える物を作り、
目でも楽しんで食べようと思ったからなのです。作り方ですが、味や分量はお好みで良いと思います。ただ、
中に入れる物の色が美しく見えるよう、きゅうり、にんじん、しいたけ、黄色いパプリカを千切りにした物を
使いました。鰹節のだしに塩と薄口しょうゆで味をつけた物にこれらの野菜を入れてさっと煮ます。このだし
汁にあらかじめ寒天を煮溶かしておくので、型に流しいれて冷やすと、まるで更紗模様のようです。赤、黄、
緑、黒の調和、と感じさせるのは寒天が透明だからなのでしょう。この澄んだ色をじっと見ているとまるで人
の心の中を見ているような気がして来ました。

貴方の心の中は、どんなグラデーションになっているのでしょうか。

タコ焼き風味のコロッケ

夏本番ですね。蝉より先にヒグラシが鳴いて、気温の低い日は初秋のように感じたりしましたが。子供さん達
は夏休み、地域に子供の声が聞こえる時間が増えるのも良いものではないでしょうか。お母様は大変かもしれ
ませんが、夏休みが終わる頃にはお子さんが心も体も少し大きくなっている事に気づかれると思います。お忙
しいでしょうが子供と一緒に何かをするチャンスです。例えば、料理もその１つです。

私は、こんなお惣菜を考えてみました。じゃがいもをゆでてつぶし、みじん切りにした紅ショウガと、かつお
節、青のりの粉、ウスターソースを混ぜる。形を整えて、水で溶いた小麦粉にくぐらせ、パン粉をつけて、油
で揚げる、という、たこ焼き風味のコロッケです。タコは入れなくてもおいしいですよ。夏祭りや縁日の情景
が浮かんでくるような、まるで子供の頃に戻るスイッチを入れたような懐かしい匂いがします。

でもこれは私がそう感じるのであって、子供の頃の夏の思い出は人によって皆違います。楽しかった事よりつ
らかった事が心に残っているのであまり思い出したくない、という方もいらっしゃると思います。また、コロ
ッケは嫌い、という方もいらっしゃるでしょう。人は、1人1人本当に違うものだと思います。カウンセリング
は、そのように違う1人1人の方のお気持ちに寄り添う事を大切にしてお話を伺って参ります。良い悪いという
ような評価をすることは決してありません。コミュニケーションの講座もございますので、お気軽にカウンセ
リングルームにお越し下さいね。

暑中お見舞い申し上げます

暑くなったり寒く感じる日があったり、今年の夏は自然の力の大きさを感じます。皆様はどのようにお過ごし
でしょうか。 私は用事があり、埼玉の曾祖父の故郷へ初めて行って来ました。朝のラッシュ時でも節電のため
に時間を繰り上げて仕事をしている会社が随分あるためか、電車はそれほど込み合わず楽でした。そのせいか
も知れませんが、人への席のゆずり方や電車の中での他者への配慮が、数年前とは違っているように思いまし
た。何か雰囲気が柔らかいのです。自分の事のみ考え主張しているのではなく、心の奥行が表れている、憑き
物が落ちたように、と感じたのです。震災があり、人の物の見え方、感じ方などがもしかしたら少し変化した
のでしょうか。だとしても震災の被害はあまりにも大きく、その痛手はどのくらいなのか、いつ回復出来るの
かわからないほどの大変な物である事に変わりはありませんが。

曾祖父の故郷は緑が美しいさわやかな丘陵地帯でした。用事で関わった方々も親切でしたし、通りすがりの方
に道を聞かれたりして何人かの方と少し話したのですが、暑い日に、涼しい風が吹き抜けて行く、という気持
ちにさせてもらったような会話ばかりでした。こういう雰囲気の中に1日身を置かせて貰えた事に心から感謝
しています。駅に着いた時、そよ風がクチナシの香りを運んできました。私は早くに亡くなったと聞いてい
る、曾祖父のお母さんが、良く来た、と私を歓迎してくれたメッセージのような気がしました。今年初めての
ミンミンゼミの声も聞きましたし。夏の暑さには適度な水分や温度調節が不可欠ですし、冬は熱が出ても暖房
しない、というわけには行きませんが、互いに人への配慮を大切にして関わると、夏は心地よく、冬は心が少
し温かくなるように思います。帰って来たら、ユズリハが実を沢山付けていました。
皆様もどうぞ良い夏をお過ごし下さい。

思考

その場にとどまるためには走り続けなければならない、という言葉がある事を知りました。遺伝子を進化させ
る事が出来たので人間は地球上で生き残って来た、という事を言っているのだそうです。これが人類が絶滅せ
ずに繁栄している理由なのですね。46億年前に出来た地球には40億年前から生物が存在しており、ずっと後の
時期に出現して来たのが私達人間です。豊かに便利に暮らす事が人間の知恵により可能になりましたが、地球
環境を大きく変える事が将来の地球を住みにくい星にします。人間が様々な動植物とこれからも共存して行く
ためには、地球という運命共同体に共にいる、という事を改めて考え、早い、便利、沢山の物があって当たり
前、と思わないで将来を考えた知恵を出し合い、どこかで折り合いをつけて行かなくてはならないし、我慢が
必要な場合もあると思います。選択には葛藤が伴いますが、何を最優先させるのか、どこに焦点を当てるのか
がポイントになって来ますね。

梅雨入りが早く梅雨明けも早い、その後の異常な高温、大きな台風の接近、所によってそら恐ろしいほどの大
雨が降る、などという今年の震災以降の気象を、この言葉から考えてしまいました。大雨によって大きな被害
の出ている地域の方々は今どんなお気持ちでしょうか。一刻も速く雨が止み水が引く事を祈るばかりです。い
つもは自分の感じたことを多く書いていますが、今日は考えた事を書いてみました。

コロラド高原

アメリカ西部のコロラド高原は、日本の面積から九州を除いた程の広さがあり、その中にグランドキャニオン
はあるのですが、ここは数千万年前からのコロラド川の浸食によって、深い所では1800メートルもの深さの峡
谷になったのだそうです。晴れた空は黒に近い濃紺に見え、怖いくらい澄んでいます。緑のサボテン、赤く染
まる鉄分の多い岩山、まるで砂漠の国にいるようで、人間が歩いているのがとても小さく見えます。はるか遠
くの国なので、気候、風土、食べ物、言葉、色々な物が違います。でも、地球の今を生きている人間同士で
す。考え方や価値観に違いはあっても、助け合い理解しあって運命共同体であるこの地球上で互いに相手の存
在を認めて程良い距離を保ちながら助け合って生きて行きたいものだと、この地の満月を見てしみじみ思いま
した。日頃の私は人に対してまあるいでしょうか。テレビの映像から省みるチャンスを与えられ、感謝してい
ます。

薄紫の紫陽花

夕方、ヒマワリに夕日があたり、とてもきれいでした。すぐそばの大きな株の紫陽花は、今年はそろそろ花は
終わりのようでしたが、この薄紫の紫陽花が傾いて行く夕日の陰になっていました。これを見た瞬間、紺色の
スカートに半袖のブラウス、白い割烹着姿の母を見たような気がしました。昔の母にとてもよく似ていまし
た。日陰と日向は両方必要でどちらも相手を引き立て、支え合っている、という事がなんとなく納得出来たよ
うに思えます。この日は、風がなく、川の水面に木や草が映り、地上と水面が対称になってとても美しかった
ですよ。

五感

夕方住宅街を歩いていたら、蚊取り線香の匂いがして、子供の頃を思い出しました。蚊帳を知らない方も多い
のではないでしょうか。そういえば去年の夏このあたりを歩いていたら、桃の香りがしました。ご先祖にお供
えしてあるのか、帰省した家族と食べるための物なのか何かはわかりませんが、柔らかい桃の香りに何となく
ほっとしました。普段は一緒に過ごす時間がなくても亡くなった人達の思い出話などを久しぶりに桃を食べな
がら皆でゆっくりとし、話が尽きないという家族の団欒が想像され、何かほのぼのとした気持ちになったもの
です。命はこのようにして親から子へ受け継がれて行く、親の価値観を学び、親の気持ちも考えながら、など
と感じました。この時など、五感の内の嗅覚が働いたのでしょうね。台所で物を刻む音、ヒマワリの花の色、
外へ出ると五感は自然に働くので脳への刺激にもなっているのでは、と思います。どうやら私は外に出る事に
よって、自然に、感じた事から様々なことを思い出したり想像したりして、今の自分というものを知る手掛か
りを得、自分を評価せずに受け入れ理解して行こうとしているようです。物を食べてそれが咀嚼され、体の
中に取り入れられて栄養となり、役立って行くのと同じように心にもこんなプロセスが必要だったのですね。

良かった探し

あまりの暑さに網で焼かれている魚になったような気持ちです。ところで、私はウオーキングしているのです
が、夏は早朝2時間位君津市を流れる小糸川の遊歩道を歩いています。今朝歩いていて桜並木がトンネルのよ
うになっている所まで来ると、とても懐かしい気持ちになり、立ち止まってしばらく川を眺めていました。ず
っと以前に北海道に行った時の、ラワン蕗がたくさんあった列車の車窓から眺めた風景ととてもよく似ている
ような気がしたからなのです。少しも似ていない風景なのに不思議です。札幌から旭川に向かう途中にラワン
蕗や、たくさんの天然のクリスマスツリーのような大きな木がありました。家族の人間関係がギクシャクして
いる家、事情があって親と一緒に住めない家、様々な思いを抱えている人達がいるのだろう、車窓からはあか
りのともっている夕暮れの家々は楽しい家族の団欒が待っているようにしか見えないけれど、などと思ったも
のです。クリスマスイブの夜のほんの1時間ほどの間で良いから、心が寒い思いをしている人達をここへ連れ
てきて、この天然のクリスマスツリーを飾ってごちそうを食べたり楽しくおしゃべりをしたり歌を歌ったりし
て過ごさせてあげる魔法が使える人っていないものかなあ、寒い雪の日にそんな風に真剣に思ったのです。で
すが、もう一つ別の事も思い出しました。それは、以前にテレビで見た、ポリアンナという少女の物語です。
ポリアンナは早くに母親を亡くし、牧師だった父親に育てられていましたが、父親も亡くなったので母親の姉
である伯母に引き取られました。伯母は厳格な人なのですが、ポリアンナの明るくのびのびとして自然に振る
舞い、優しくもある性格に心が開かれ、2人共色々な事を経て幸せに暮らして行く、というお話でした。ポリ
アンナの明るさは父親から教わった、良かった探しをいつもしているからなのです。例えば、せっかく作っ
た料理を持って行って、嫌いだ、別の料理の方が良かった、と言われると、このお料理を嫌いだという事がわ
かって良かった、これからは好きな方のお料理を持ってくるわ、と本当にうれしそうに言うのです。プラスに
物事を考えられるのでしょう。私は、実は誰にでもプラスに物事を考える力があると思います。よく考え、自
分の気持ちが整理されて行くと多くの気付きをきっと、得る事が出来るだろうと思います。そのように思う
と、魔法をかけて貰わなくても自分で考え、選び取ったり、克服して行く力をつらくとも人は持っているもの
なのだという事を改めて感じ、長い間心のどこかに引っかかっていた物が、氷が融けて心地よく喉を通って行
くような、そんな気持ちになりました。

チベット

関東地方でも梅雨が明け、夏本番です。なるべく節電をと心がけています。とても暑いので、氷河のある地域
の事を少しお話してみたいと思います。
カイラス山付近の氷河を源流としてガンジス河の長い旅は始まります。近くに鳥葬場があるそうです。真夏に
も雪が降る事があり、僧が絶えず経を唱えている様子がテレビ画面に映し出されました。標高6656メートルの
カイラス山はチベット仏教の聖地で、中国のチベット自治区にあり、たくさんの人々の切なる祈りの場はまさ
に厳粛そのものです。かつて、テンジンとパルキットという二人の少女の、結婚か尼僧になるかしか選択肢の
ない地での人生の門出をフランスのテレビ局制作のドキュメンタリーで見た事を思い出しました。あれは、西
ヒマラヤのザンスカール高地だったと記憶しています。チューリッヒのユング研究所で学び、カウンセリング
もしていらした河合隼雄先生が、チベットの死者の書の事を書いていらっしゃいましたっけ。

映像で見た夕日

中国の、カザフ族の住む新疆ウイグル自治区は、カザフスタンに隣接しており、イリ河という河が流れていま
す。夕日の中に鉄橋が浮かび、あたりを染める黄金色は黎明という言葉そのもののようです。この、とうとう
と流れる河に沈む夕日を見に訪れる人が沢山います。最後は、まるで赤い魂が遊牧民を見つめながら沈んで行
くかのようでした。遠いシルクロードの壮大なドラマは太古の昔から繰り返されて来たのでしょう。ここに
は、大昔の事が文字で書き残されてはいない、という事が私には勿体なくもあり、なんとも清々しく感じられ
もするのです。心にしみる美しさでした。

ラズベリー

昨日、ラズベリーの収穫をしました。といっても鉢植えなので、ほんの少しです。あなたはラズベリーにどん
なイメージをお持ちでしょうか。私は長い間アイスクリームのソース、というイメージを持っていました。私
が子供だった頃、ラズベリーソースのかかったアイスクリームはとても高級品で、めったに近くで見ることな
どないものだったのです。一度だけ食べた時の、ラズベリーソースの甘酸っぱさと何とも言えない良い香りは
忘れる事が出来ませんでした。でも、あの頃は、ほろ苦い、切ない、しみじみ、物悲しい、といった感情は多
分わからなかったと思うのです。10歳くらいを前思春期といいますが、その頃から大人の世界がかいま見え、
複雑な心のグラデーションが、糸を染めるようにして少しずつ出来て行くのでしょう。ちょうど、節分に大豆
まめを炒っているとはじけてくるように子供も年々大人になって行くための脱皮をしているような気がしま
す。

夏がやって来ました

今年も暑くなって来ました。くれぐれも熱中症にご用心下さい。学校も夏休みが近づいて来ましたので、私の
心に残っている戦争と関わりのある事をお話してみたいと思います。だいぶ以前の事ですが、沖縄国際大学
でのカウンセリング学会の大会に参加させて頂いた事があります。色々と勉強になったその大会が終わった翌
日、多くの先生方と首里城、糸満へバスで行きました。梅雨時の糸満は静かで、畑のサトウキビのみが時を刻
んでいるようでした。ひめゆり平和祈念資料館に入った時の事です。そこには、亡くなった、女学生でひめゆ
り部隊だった方たちのモノクロの大きな1人1人のお写真がありました。皆きれいな目をしていて私をじっと見
つめ、あなたは私達の事をよく知っていますか、そして戦争を二度と起こさないために何をしていますか、と
言われたような気がしたのです。日頃、そのような事は特別何もしていない私はその場に足が釘付けになりま
した。。その晩、ホテルで食事をした時レストランの従業員の若い女性に、もうすぐ慰霊の日が来ますね、と
話しかけたのですが、その瞬間彼女の表情が変わりました。まるで肉親を見るような目で私を見たのです。ま
たぜひ観光に来て下さい、と彼女は言いました。ああ、この人は若いけれど戦争の時の事をよく知っているの
だ、と私は思いました。そして特別何が出来るのでもないけれど何か言わずにはいられなかった私の気持ちが
通じたのだ、とも思ったのです。帰りの飛行機に乗って、その飛行機が那覇空港を離陸した時、私は何だかほ
っとしました。やっと大きく呼吸が出来るようになった、という感じがしたのです。実は数日前、着いた時の
事なのですが、飛行機が高度を下げ、那覇空港への着陸態勢に入ろうという時、私は後ろからどんと背中を突
かれ、ここが激戦地となって多くの人が亡くなった場所だからよく見ておきなさい、と誰かに言われたような
気がしたのです。戦争の時の事は本やドキュメンタリーで少しは知っていましたから、沖縄の方たちにとって
は特にかつての本土の人達とはまた違った思いがあるだろうと思っていました。当時沖縄でどのような事があ
ったか詳しく知っているとはとても言えませんが。それで、帰りの飛行機の中で気が付きました。私は鎮魂の
思いを持ってここに来たつもりだったけれど、無意識に贖罪という気持ちも持っていた、だからのびのびと呼
吸する事が出来なかったのだという事に。
もうすぐ夏休みになりますから、夏期講習や自然の中で家族と楽しい時間を過ごす事も子供にとっては大切な
事だと思います。でもそれだけでなく、戦争の時の事を学び、その時代の人達の気持ちを考える事も大事な事
なのではないかと思います。高齢の方にとっては思い出すのもつらいかもしれませんが、出来る事なら戦争を
体験してきた世代の方のお話を伺う事もとても大切な事だと思うのです。

麦秋

テレビを見ての事なのですが、小麦畑が辺り一面に広がる北ドイツの麦秋は、油絵を見るような美しさで
す。青空に真っ白な雲が浮かび、自然が一杯なのにメタリックか鏡のような反射を感じます。私の感情を心
の鏡に映し出すための重要な役割を果たしてくれるのが、ありのままの自分に素直に向き合おうという気持
ちで、そうすると心の鏡に自分の内面が正確に映し出されて来ます。さて、自分の心に優しく向き合ってみま
しょう。等身大の自分が見えているでしょうか、この頃の私は。ハーメルン、ブレーメンなど童話を思い出す
懐かしい地名、いつか行けたら素晴らしいですね。ドイツの歌を口ずさみながら。あなたは自分が見えていま
すか。

安倍川餅、好きですか

安倍川餅は、ご存じのようにお餅にきな粉と砂糖をまぶした物ですが、お好きでしょうか。私には懐かしい物です。子供の頃、1月の末になるとおやつによく顔を出したのが安倍川餅でした。それは、その時期になると切り餅にカビが生えて来るからなのです。カビは取ってもなかなか取りきれるものではなく、きな粉でお化粧しても独特なにおいが残ってしまいます。もともとあまり甘い物が好きではないし、お餅も自分の家で搗いたのでかなり大きく切ってありましたが、カビはペニシリンになる、とか薬になるなどと言われ、食べていました。カビも青カビだけならまだ良いのですが、だんだん赤や黄色も入り混じって来て、なんとなく毒キノコの様にカラフルです。今のお母さん方には想像もつかないでしょうね。それなのに何十年も経つと懐かしい思い出になっているのですから不思議です。子供の頃の様々な出来事で印象に残っているのは、楽しかった事やうれしかった事、悲しかった事や悔しかった事などの、今思い出してもその時の感情が生々しくよみがえって来る事が多いと思います。どこに遊びに行った、何を買って貰った、何を食べた、という思い出は、その時誰と一緒でどのような気持ちで過ごしたか、という事と必ずセットになっています。誰とどのような気持ちで過ごせたかが、楽しかったのかどうかを左右するのではないでしょうか。親が、子供のその時々の発達の状態やペースに合わせて関わり見守ってくれたから懐かしい思い出になるのかもしれません。
そんな風に考えると、私のカビのにおいのする安倍川餅が懐かしいわけがわかって来ました。でも、これからはカビの生えた物は食べない方が良いでしょうね。

紫陽花色のアルバム

先日は小学校の運動会でした。通りかかった時校歌の前奏が聞こえ、懐かしかったので一緒に歌ってしまいま
した。私が5年生の時に近くに高層社宅が沢山出来、児童数は入学時の4倍位になっていました。新しい学校が
出来て私達はその学校に引っ越しました。入学した学校は場所も建物も変わり、だんだん遠ざかって行きまし
た。私はこの入学した学校がとても好きで、そこの運動会だったのです。校歌を歌うと、あっという間に1年
生に戻っていました。ひんやりとした砂場、そのそばの大きな木、水色の鉄棒、大きなヤカンに入った冷たく
ておいしい水、紅白の玉が飛び交った玉入れ、綱引きの綱の手触り、借り物競争で校長先生と手をつないで走
った事、皆、つい今しがたの事のようです。走るのが遅くてもこういう思い出がある事はうれしいものです
ね。紫陽花色のアルバムは、開いてみると生き生きとした人や物が一杯で、待っていたように一斉に動き出し
ました。魔法が解けたかのように。今日は、自分の心の奥を垣間見るためのドアを開けさせてくれたのが、校
歌だったようです。ドラえもんのどこでもドアのドアノブみたいですね。

梅雨空の散歩道

ウオーキングコースの遊歩道は、桜の木がどんよりとした空をパレットにして、緑を夏色に塗り替えているよ
うです。毎日自画像に取り組んでいる様子を見せて貰えるのはなんと贅沢なことでしょう。緑のトンネルには
赤いサクランボも実っています。道祖神に招かれたのか、19000歩歩いてしまいました。足に感謝して大切に
しなくては、と思います。ホームセンターで買った紅花が咲きました。

はるかなるモンゴル

日本から飛行機で5時間、国土の80パーセントが乾燥しているモンゴルでは、ゴビ砂漠からの砂嵐で日食のよ
うに真っ暗になる日が1年に90日以上という地域もあります。標高1500ｍ以下の所がない国なのです。砂嵐が
多いのは春で、西高東低の気圧配置の、等圧線が込み合っている時なのだそうです。寒冷前線が出来、通過す
る時にパラパラと雨が降って来て、やがて地平線の彼方から黒い砂嵐がやって来るのです。初め地平線は赤み
がかったセピア色に見えたのですが、近づいて来た砂嵐の凄まじさは大変なもので、思わず息を止めてしまい
ました。テレビだというのに、私が呼吸すると砂を吸い込んでしまいそうに思えたからなのです。遊牧民の可
動式住居ゲルは、こういう厳しい気象条件にも耐えられるように作られています。長い間の人間の知恵なので
すね。改めて、世界は広く、様々な所に様々な人達がずっと昔から、そしてこれからも住み続けて行くのだと
いう事を、理屈だけでなく、しみじみと実感しました。命と知恵が受け継がれて行くためには、自他への愛が不可欠ですね。

哲学者のようなネコ

ネコが今日も思索しています。別世界というのは、日常生活そのものを別の角度から素直な気持ちで見てみ
るだけなのかも知れない、と思います。お餅を乗せた網を下から見ると、という事ですよね。先日夜8時半頃
の庭に出てみると、不思議ですがとても明るいので、白夜というのはこんな風かな、と思い、見入ってしまい
ました。白い雲が多いけれど青空が所々に見え、風もなくてとても静かです。どこまでも歩いて行けそうな気
がします。凪いでいる海のようです。自分が波打ち際にいるのか、水底にいて海藻のようにゆらゆらと漂って
いるのか、よくわかりません。海は無意識を表わす、と言います。水に入って行く夢を見た時は、どのくらい
の深さまで入って行ったかで、無意識のどの程度の深さまで入って行ってそこが見えたか、という事になるの
です。例えば、大寒は寒さの底ですから、その後は寒くても春の兆しを折々に感じる事が出来ますよね、毎
年。人の気持ちもひどく落ち込んでどん底まで行ったら、後はバネのように急速な回復、という事も十分あり
えます。自他共にそうであったらと、願っています。

今日は雨です

北海道の列車、函館から西の江差へ着くと、日本海は赤みを帯びた黄金色に染まり、とろとろとゆったりした
存在で、まるで今も金の雫を集め続けている女神様の壺のようです。日高本線の行く広大な景色を想像してみ
て下さい。海はきらきらと銀色に輝き水平線が盛り上がっています。サラサラッという音が聞こえて来るよう
です。江差から眺める日本海が、なにもかも包み込んで受け入れてくれる母性的な海ならば、日高から眺める
太平洋は、冷静で遠くを見つめ、さらっとしていて父性的だという気がして来ました。さしずめ、日高の海は
銀の雫を送り出し、見守っている社会との接点、といったところでしょうか。5分間のハイビジョン映像がも
たらしてくれた貴重な想像と癒しでした。